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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146905
(43)【公開日】2022-10-05
(54)【発明の名称】絶縁転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/62 20060101AFI20220928BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20220928BHJP
   H02K 5/173 20060101ALI20220928BHJP
   H02K 5/16 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
F16C33/62
F16C19/06
H02K5/173 A
H02K5/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038662
(22)【出願日】2022-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2021046814
(32)【優先日】2021-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】西河 崇
(72)【発明者】
【氏名】稲野 紘一
【テーマコード(参考)】
3J701
5H605
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA14
3J701AA16
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA53
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA56
3J701BA69
3J701BA70
3J701DA11
3J701DA14
3J701EA03
3J701EA31
3J701EA43
3J701EA44
3J701EA49
3J701EA70
3J701EA76
3J701FA11
3J701FA41
3J701FA48
3J701GA24
3J701XE03
3J701XE30
5H605AA12
5H605CC04
5H605EB10
5H605EB16
(57)【要約】
【課題】外輪の外周面などに樹脂被膜を有する絶縁転がり軸受において、良好な成形性を確保しつつ、樹脂被膜の放熱性と機械的強度が両立された絶縁転がり軸受を提供する。
【解決手段】絶縁転がり軸受1は、内輪2および外輪3と、内輪2の外周面および外輪3の内周面に形成される軌道面と、軌道面間に介在する複数の玉4とを備え、外輪3の外周面3aに樹脂被膜6を有し、その樹脂被膜6は、少なくとも、ポリフェニレンサルファイド樹脂と、ガラス繊維と、熱伝導率が10W/m・K以上の無機系充填材と、熱可塑性エラストマーとを含む樹脂組成物からなる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪および外輪と、
前記内輪の外周面および前記外輪の内周面に形成される軌道面と、
前記軌道面間に介在する複数の転動体とを備え、
前記内輪の内周面および前記外輪の外周面から選ばれた少なくとも一つの周面に樹脂被膜を有する絶縁転がり軸受であって、
前記樹脂被膜は、少なくとも、ポリフェニレンサルファイド樹脂と、ガラス繊維と、熱伝導率が10W/m・K以上の無機系充填材と、熱可塑性エラストマーとを含む樹脂組成物からなることを特徴とする絶縁転がり軸受。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマーの含有量が、前記樹脂組成物全体に対して1質量%~10質量%であることを特徴とする請求項1記載の絶縁転がり軸受。
【請求項3】
前記ガラス繊維および前記無機系充填材の合計の含有量が、前記樹脂組成物全体に対して20質量%~70質量%であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の絶縁転がり軸受。
【請求項4】
前記無機系充填材が、炭化ケイ素、ベリリア、窒化ホウ素、窒化ケイ素、水酸化マグネシウム、アルミナ、および炭酸マグネシウムから選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の絶縁転がり軸受。
【請求項5】
前記樹脂被膜は、厚みが1mm以下の部分を有することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の絶縁転がり軸受。
【請求項6】
前記樹脂被膜における樹脂の流れ方向が、軌道輪の全周において、前記周面の軸方向の一方側から他方側に沿っていることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項記載の絶縁転がり軸受。
【請求項7】
前記絶縁転がり軸受において、前記樹脂被膜は、射出成形によって前記周面およびその両側の軸方向端面に形成される被膜であり、前記樹脂被膜における樹脂の流れ方向が、前記軌道輪の全周において、一方の軸方向端面から前記周面を介して他方の軸方向端面に沿っていることを特徴とする請求項6記載の絶縁転がり軸受。
【請求項8】
前記転がり軸受は、鉄道車両の主電動機の主軸を回転自在に支持する軸受であることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項記載の絶縁転がり軸受。
【請求項9】
前記転がり軸受は、回転翼および該回転翼を回転させるモータを有する駆動部を複数備え、前記回転翼の回転によって飛行する電動垂直離着陸機に搭載され、
前記駆動部における回転軸を支持する軸受であることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項記載の絶縁転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁転がり軸受に関し、特に、汎用モータ、発電機、鉄道車両の主電動機など、使用上、軸受内部に電流が流れるおそれがある構造の装置に用いられる絶縁転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鉄道車両の主電動機に用いられる転がり軸受において、転動体と外輪軌道面との間または内輪軌道面との間で放電が生じ、放電部分に電食を生じることがある。また、その他の発電機など、軸受内部を電流が流れるおそれがある構造の装置に用いられる軸受においても、同様に電食を生じることがある。
【0003】
このような電食を防止する手段として、従来、軸受の軌道輪の外表面に樹脂被膜を形成することが知られている。例えば、特許文献1では、ガラス繊維と、比抵抗が1×1010Ω・cm以上で且つ熱伝導率が10W/m・K以上の充填材とを含む樹脂組成物で形成した樹脂被膜を有する絶縁転がり軸受が提案されている。充填材は樹脂被膜の放熱性を改善するために用いられており、例えば、SiC(炭化ケイ素)、AlN(窒化アルミニウム)、BeO(べリリア)、BN(窒化ホウ素)、Al(アルミナ)などの粉末、繊維などが挙げられている。また、特許文献1には、ガラス繊維と充填材の合計の含有量は20質量%~60質量%であることが記載され、また充填材の含有量は10質量%~40質量%であることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、樹脂被膜に含まれるガラス繊維の直径を小さくして、同じ含有量とした場合のガラス繊維全体の長さを長くすることが記載されている。これにより、ガラス繊維と樹脂との接着性が向上し、樹脂被膜の機械的強度の低下を補えるとしている。一方、ガラス繊維の直径が5μm未満であると、衝撃強度などの機械的強度が低下するとともに、製造コストが高くなることから、ガラス繊維の直径は5μm~9μm(好ましくは6μm~8μm)とされている。
【0005】
また、特許文献3には、電食防止を目的として、転がり軸受の軌道輪に設けられる樹脂被膜の放熱性の向上と加工コストの低減を両立するため、樹脂被膜を形成する樹脂組成物は、合成樹脂、合成樹脂を強化する繊維材、および樹脂被膜の熱伝導率を向上させる六方晶窒化ホウ素(h-BN)を含むことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-218846号公報
【特許文献2】特開2005-140168号公報
【特許文献3】特開2020-63826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年では、人手不足の状況を受けて、多くの産業分野において工数削減が求められている。例えば、鉄道分野においてもメンテナンス工数などの削減に対する要求が強くなっている。鉄道車両の主要機器の一つである主電動機のメンテナンスインターバルは、転がり軸受のグリース潤滑寿命によるところが大きい。そのため、転がり軸受の昇温特性を改善することで、主電動機のメンテナンス頻度や工数の削減、信頼性の向上などが期待される。
【0008】
この点、上記特許文献1および特許文献3では、高熱伝導充填材を充填することにより、樹脂被膜の放熱性を改善しており、ひいては軸受の昇温特性の改善に繋がると考えられる。しかし、充填材を充填することで、樹脂材料の含有量が少なくなり、成形性を損なうおそれがある。また、上記特許文献2では、ガラス繊維の直径を小さくし、ガラス繊維全体の長さを長くすることで、機械的強度の低下を補うことが提案されているが、ペレット製造工程や射出成形工程でガラス繊維が折れやすくなると考えられる。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、外輪の外周面などに樹脂被膜を有する絶縁転がり軸受において、良好な成形性を確保しつつ、樹脂被膜の放熱性と機械的強度が両立された絶縁転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の絶縁転がり軸受は、内輪および外輪と、上記内輪の外周面および上記外輪の内周面に形成される軌道面と、上記軌道面間に介在する複数の転動体とを備え、上記内輪の内周面および上記外輪の外周面から選ばれた少なくとも一つの周面に樹脂被膜を有する絶縁転がり軸受であって、上記樹脂被膜は、少なくとも、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂と、ガラス繊維と、熱伝導率が10W/m・K以上の無機系充填材と、熱可塑性エラストマーとを含む樹脂組成物からなることを特徴とする。
【0011】
上記熱可塑性エラストマーの含有量が、上記樹脂組成物全体に対して1質量%~10質量%であることを特徴とする。
【0012】
上記ガラス繊維および上記無機系充填材の合計の含有量が、上記樹脂組成物全体に対して20質量%~70質量%であることを特徴とする。
【0013】
上記無機系充填材が、炭化ケイ素、ベリリア、窒化ホウ素、窒化ケイ素、水酸化マグネシウム、アルミナ、および炭酸マグネシウムから選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする。
【0014】
上記樹脂被膜は、厚みが1mm以下の部分を有することを特徴とする。
【0015】
上記樹脂被膜における樹脂の流れ方向が、軌道輪の全周において、上記周面の軸方向の一方側から他方側に沿っていることを特徴とする。
【0016】
上記絶縁転がり軸受において、上記樹脂被膜は、射出成形によって上記周面およびその両側の軸方向端面に形成される被膜であり、上記樹脂被膜における樹脂の流れ方向が、上記軌道輪の全周において、一方の軸方向端面から上記周面を介して他方の軸方向端面に沿っていることを特徴とする。
【0017】
上記転がり軸受は、鉄道車両の主電動機の主軸を回転自在に支持する軸受であることを特徴とする。
【0018】
上記転がり軸受は、回転翼および該回転翼を回転させるモータを有する駆動部を複数備え、上記回転翼の回転によって飛行する電動垂直離着陸機に搭載され、上記駆動部における回転軸を支持する軸受であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の絶縁転がり軸受は、内輪の内周面および外輪の外周面から選ばれた少なくとも一つの周面に樹脂被膜を有し、その樹脂被膜は、少なくとも、PPS樹脂と、ガラス繊維と、熱伝導率が10W/m・K以上の無機系充填材と、熱可塑性エラストマーとを含む樹脂組成物からなるので、電気絶縁性を有しながら、樹脂被膜の放熱性を改善でき、また上記無機系充填材(高熱伝導充填材)の添加に伴う成形性の低下を、熱可塑性エラストマーによって補うことができる。また、熱可塑性エラストマーによって、樹脂被膜の機械的特性、特に耐衝撃性も改善することができる。これにより、樹脂被膜を有する絶縁転がり軸受において、成形性を維持しつつ、樹脂被膜の放熱性と機械的強度を両立することができる。
【0020】
熱可塑性エラストマーの含有量が、樹脂組成物全体に対して1質量%~10質量%であるので、弾性率の低下を抑制しつつ、成形時の樹脂組成物の流動性や、樹脂被膜の耐衝撃性を改善できる。
【0021】
ガラス繊維および無機系充填材の合計の含有量が、樹脂組成物全体に対し20質量%~70質量%であるので、樹脂被膜の放熱性と機械的強度に一層優れる。
【0022】
樹脂被膜における樹脂の流れ方向が、軌道輪の全周において、上記周面の軸方向の一方側から他方側に沿っている、つまり、軌道輪の全周において樹脂の配向の方向性が所定の方向(軸方向の一方側から軸方向の他方側に向かう方向)に規定されている。この場合、当該樹脂被膜は、成形キャビティの全周にわたり溶融樹脂が同時に射出充填されることで形成されることになるので、ウェルド部が樹脂被膜に形成されない。その結果、樹脂被膜は、局所的に強度が低いところがなくなり、機械的強度が一層向上する。
【0023】
さらに、絶縁転がり軸受において、樹脂被膜は、射出成形によって周面およびその両側の軸方向端面に形成される被膜であり、樹脂被膜における樹脂の流れ方向が、軌道輪の全周において、一方の軸方向端面から上記周面を介して他方の軸方向端面に沿っているので、ウェルド部が樹脂被膜に形成されず、機械的強度が一層向上する。
【0024】
本発明の絶縁転がり軸受は、樹脂被膜の機械的強度を保ちつつ、放熱性が改善されているので、軸受の昇温特性を改善し、グリースの潤滑寿命の低下などを抑制できる。このため、鉄道車両の主電動機の主軸を回転自在に支持する軸受として好適に利用でき、鉄道車両用主電動機の信頼性の向上、メンテナンス工数やコストの削減に貢献できる。
【0025】
また、近年において開発が進められている電動垂直離着陸機では、モータが高容量化され電食の発生が懸念されるところ、本発明の絶縁転がり軸受は、上記特性を有する樹脂被膜を有しているので、駆動部における回転軸を支持する軸受として利用することで電食の発生を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の絶縁転がり軸受の一例を示す拡大断面図である。
図2図1の外輪にインサート成形する成形金型の要部断面図などである。
図3】本発明の絶縁転がり軸受の他の例を示す拡大断面図である。
図4】本発明の絶縁転がり軸受が適用される鉄道車両の台車の構成を示す図である。
図5】主電動機の構成を示す図である。
図6】固定側の転がり軸受周囲の構成を示す拡大図である。
図7】自由側の転がり軸受周囲の構成を示す拡大図である。
図8】本発明の絶縁転がり軸受が搭載される電動垂直離着陸機の斜視図である。
図9】電動垂直離着陸機の駆動部におけるモータの一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の絶縁転がり軸受の一例について、図1を用いて説明する。図1は深溝玉軸受の断面図である。絶縁転がり軸受1は、外周面に内輪軌道面を有する内輪2と内周面に外輪軌道面を有する外輪3とが同心に配置され、内輪軌道面と外輪軌道面との間に複数の玉(転動体)4が配置される。この玉4は、保持器5により保持される。
【0028】
内輪2、外輪3、および玉4には鉄系材料を用いることができる。鉄系材料としては、転がり軸受などに使用されるSUJ2などの軸受鋼、浸炭鋼、機械構造用炭素鋼、冷間圧延鋼、熱間圧延鋼などが挙げられる。
【0029】
図1において、外輪3の外周面3aおよび端面3b、3b’は樹脂被膜6で被覆されている。外輪3の外周面3aには円周溝が2列形成され、外輪3の両端面3b、3b’にはそれぞれ円周溝が形成されている。樹脂被膜6の一部は、これらの円周溝に埋没している。樹脂被膜6は、図2に示すように、外輪3に対して、後述する樹脂組成物をインサート成形することで形成され、外輪3の外周面3aおよびその両側の軸方向端面(端面3b、3b’)に形成されている。
【0030】
樹脂被膜6の厚み(円周溝の部分を除く、以下同じ)は特に限定されない。例えば、外輪3の外周面3aおよび端面3b、3b’に形成される部分において厚みが略一定になるように樹脂被膜6を形成してもよい。また、外輪3の外周面3aに形成される樹脂被膜6の厚みが、端面3b、3b’に形成される樹脂被膜6の厚みよりも薄くなるように樹脂被膜6を形成してもよい(図1参照)。
【0031】
本発明では、樹脂被膜6は、少なくとも、PPS樹脂と、ガラス繊維と、熱伝導率が10W/m・K以上の無機系充填材と、熱可塑性エラストマーとを含む樹脂組成物で構成される。以下には、この樹脂組成物について説明する。
【0032】
PPS樹脂は、ベンゼン環がパラの位置で、硫黄結合によって連結されたポリマー構造を持つ結晶性の熱可塑性樹脂である。PPS樹脂は、融点約280℃、熱伝導率約0.3W/m・Kを有し、耐熱性、寸法安定性、耐薬品性、難燃性に優れる所謂スーパーエンジニアリングプラスチックの一種である。
【0033】
PPS樹脂は、分子構造から架橋型、リニア型などがあるが、これらの分子構造や分子量に限定されることなく使用することができる。架橋型のPPS樹脂は、例えば、製造工程中に酸素存在下で熱処理を行ない、分子量を必要な水準に高めることで得られる。架橋型のPPS樹脂は、分子の一部がお互いに酸素を介して架橋された二次元または三次元の架橋構造を有する。一方、リニア型のPPS樹脂は、製造工程において熱処理がないために分子中に架橋構造は含まれず、分子は一次元の直鎖状とされている。
【0034】
PPS樹脂の含有量は、特に限定されないが、含有量が多い方が流動性において有利な反面、放熱性の低下を招きやすい。PPS樹脂の含有量は、樹脂組成物全体に対して、例えば20質量%~70質量%であり、29質量%~50質量%が好ましい。
【0035】
ガラス繊維は、SiO、B、Al、CaO、MgO、NaO、KO、Feなどを主成分とする無機ガラスから紡糸して得られる。一般に、無アルカリガラス(Eガラス)、含アルカリガラス(Cガラス、Aガラス)などを使用できる。
【0036】
ガラス繊維の平均繊維長は、特に限定されないが、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上が好ましい。平均繊維長が0.1mm未満であると、補強効果が小さくなり、耐摩耗性が低下するおそれがある。また、平均繊維長の上限値は、例えば1mm以下であり、0.8mm以下であってもよい。なお、本明細書における平均繊維長は数平均繊維長である。また、ガラス繊維の平均繊維径は、特に限定されないが、例えば5μm~20μmであり、好ましくは10μm~15μmである。平均繊維径は、本分野において通常使用される電子顕微鏡や原子間力顕微鏡などにより測定できる。平均繊維径は、上記測定に基づき数平均繊維径として算出できる。
【0037】
ガラス繊維の含有量は、特に限定されないが、含有量が多い方が機械的強度において有利な反面、流動性の低下を招きやすい。ガラス繊維の含有量は、樹脂組成物全体に対して、例えば10質量%~50質量%であり、10質量%~30質量%が好ましい。ガラス繊維の含有量が10質量%未満であると、機械的強度の向上効果が得られにくく、耐クリープ性などが低下するおそれがある。
【0038】
熱伝導率が10W/m・K以上の無機系充填材は、主に樹脂被膜の熱伝導性の改善のために配合される。また、その他の特性(電気絶縁性、耐水性、耐薬品性、耐熱性、硬度(相手攻撃性))や入手取得性などを考慮して、上記無機系充填材として、炭化ケイ素、ベリリア、窒化ホウ素、窒化ケイ素、水酸化マグネシウム、アルミナ、および炭酸マグネシウムから選ばれる少なくとも1種以上を用いることが好ましい。なお、これらの熱伝導率を下記の表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
上記無機系充填材の熱伝導率は15W/m・K以上が好ましい。また、上記無機系充填材として電気絶縁性が高いことが好ましい。例えば、比抵抗値が1010Ω・cm以上が好ましく、1012Ω・cm以上がより好ましい。
【0041】
上記無機系充填材の含有量は、特に限定されないが、含有量が多い方が放熱性において有利な反面、機械的強度や流動性の低下を招きやすい。上記無機系充填材の含有量は、樹脂組成物全体に対して、例えば10質量%~50質量%であり、30質量%~50質量%が好ましい。上記無機系充填材の含有量が10質量%未満であると、熱伝導性の効果が得られにくくなるおそれがある。
【0042】
上記樹脂組成物に用いる熱可塑性エラストマーは、特に限定されないが、ポリオレフィン系、ポリスチレン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系など、PPS樹脂よりも融点の低いものを用いることが成形性の改善の面で好ましい。熱可塑性エラストマーは、耐熱性、耐水性、耐薬品性、入手取得性などを考慮して、用いることができる。
【0043】
オレフィン系エラストマーは、耐熱性、電気絶縁性に優れている。オレフィン系エラストマーとしては、単純にゴム粒子を樹脂中に分散させたブレンド型、反応時にハードセグメントとソフトセグメントとを段階的に重合させたインプラント型、混合機でオレフィン樹脂と未加硫ゴムと加硫剤とを同時に反応させながら高温混練した動的架橋型などを用いることができる。
【0044】
ポリエステル系エラストマーは、耐水性、耐薬品性、耐熱性に優れている。ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントとして芳香族ポリエステル、ソフトセグメントとして脂肪族ポリエーテルまたは脂肪族ポリエステルからなるエステル-エーテル型またはエステル-エステル型のマルチブロック共重合体である。
【0045】
熱可塑性エラストマーの含有量が多くなると樹脂組成物の流動性や耐衝撃性が向上する一方、多くなりすぎると弾性率が低下する傾向がある。熱可塑性エラストマーの含有量は、樹脂組成物全体に対して、例えば0.5質量%~30質量%であり、好ましくは1質量%~20質量%であり、より好ましくは1質量%~10質量%である。
【0046】
なお、本発明の効果を阻害しない程度に、上記樹脂組成物に対して周知の樹脂用添加剤を配合してもよい。例えば、上記樹脂組成物に対して、熱伝導率が10W/m・K未満の無機系充填材(ガラス繊維を除く)を配合してもよい。
【0047】
上述した各材料の含有量は、成形性、機械特性などに基づいて設定できる。本発明に用いる樹脂組成物の特に好ましい形態は、樹脂組成物全体に対して、PPS樹脂を29質量%~50質量%、ガラス繊維および熱伝導率が10W/m・K以上の無機系充填材を合計で20質量%~70質量%(好ましくは40質量%~70質量%)、熱可塑性エラストマーを1質量%~10質量%含む。ガラス繊維と上記無機系充填材の合計量を規定することで、放熱性および機械的強度の両立を図りやすい。また、上記樹脂組成物は、ガラス繊維よりも上記無機系充填材を多く含み、かつ、樹脂組成物全体に対して、ガラス繊維を10質量%~30質量%、上記無機系充填材を30質量%~50質量%含むことが好ましい。さらに、上記ガラス繊維は、平均繊維長が200μm以上であり、かつ、平均繊維径が10μm~15μmであることがより好ましい。
【0048】
上記樹脂組成物を構成する各材料を、必要に応じて、ヘンシェルミキサー、ボールミキサー、リボンブレンダーなどにて混合した後、二軸混練押出し機などの溶融押出し機にて溶融混練し、成形用ペレットを得ることができる。該成形用ペレットを用いて、軌道輪(例えば外輪)に溶融樹脂を射出成形する。例えば、射出成形は300℃以上の温度で行われる。
【0049】
この射出成形について図2を用いて説明する。図2(a)は成形金型の要部断面図を示し、図2(b)は図2(a)の方法により得られた絶縁転がり軸受の説明図を示す。
【0050】
図2(a)において、成形金型は可動側型板7と固定側型板8とで構成されている。この成形金型の内部に軌道輪(図2では外輪3)を配置した状態で、可動側型板7に固定側型板8が衝合されて、キャビティCが形成される。キャビティCは、樹脂被膜6(図1参照)に対応する形状に形成される。具体的には、キャビティCは、外輪3の外周面3a側に形成されるキャビティと、外輪3の端面3b側、3b’側に形成されるキャビティとを有する。キャビティCは、ゲートGによってランナー9と連結されている。なお、図2(a)は一部断面図を示しているが、キャビティCは外輪3の形状に沿って、円環状に形成される。
【0051】
図2(a)において、ゲートGは、外輪3の端面3b側のキャビティに面して設けられている。ゲートGから溶融樹脂が注入されると、図2(b)の矢印(MD)で示すように、金型内を溶融樹脂が流れる。具体的には、溶融樹脂は、外輪3の端面3b側のキャビティから、外輪3の外周面3a側のキャビティを通って、外輪3の端面3b’側のキャビティへ導かれる。
【0052】
そして、溶融樹脂が充填された後、保圧を経て、一定時間冷却して樹脂が固化される。その後、型開きすることで外周面および両端面に樹脂被膜6が形成された外輪が得られる。この場合、樹脂被膜6の一方の軸方向端面には、ゲート痕10が形成される。
【0053】
図2(b)の絶縁転がり軸受1では、樹脂被膜6における樹脂の流れ方向(MD)が、外輪3の全周において、一方の軸方向端面から外周面を介して他方の軸方向端面に連続的に沿っている。この場合、外輪3に形成された樹脂被膜6の樹脂の流れ方向(MD)が、幅面から外周面を介して反対側の幅面まで一直線上であるともいえる。
【0054】
図2において、ゲート方式はディスクゲートである。ディスクゲートは、ピンゲート(円周上に分散している)とは異なり、円周上に連続している。そのため、溶融樹脂が、一方の軸方向端面から他方の軸方向端面に同じ方向に流れるため、強度の弱いウェルド部が形成されない。
【0055】
射出成形において、ゲートの位置は、特に限定されないが、樹脂被膜において、図2に示すような樹脂の流れ方向(MD)が形成されるようにゲートを設けることが好ましい。具体的なゲートの位置として、例えば、図2(a)に示すように、外輪3の端面3bの円周溝3dと対向する位置にゲートGを設けてもよい。
【0056】
また、図2(a)では、ゲートGが、そのゲートGから溶融樹脂が注入される方向がキャビティCの軸方向と一致するように設けられているが、これらの方向が異なるようにゲートを設けてもよい。例えば、ゲートGから溶融樹脂が注入される方向がキャビティCの軸方向に対して、所定角度傾斜するように、また直交するように設けてもよい。
【0057】
図2において、射出成形後、必要に応じて、樹脂被膜の外周面と幅面に研磨加工を施し、所望の寸法・精度に仕上げることで絶縁転がり軸受が得られる。
【0058】
樹脂被膜の厚みは特に限定されないが、厚みが薄すぎると樹脂被膜の成形が困難になりやすく、樹脂被膜の機械的強度が確保しにくくなる。また、絶縁転がり軸受として必要な絶縁抵抗値、耐電圧、静電容量などの電気的特性を確保しにくくなる。一方で、樹脂被膜の厚みが厚すぎると、軌道輪(例えば外輪)の放熱性が悪くなり、潤滑寿命に影響する可能性がある。また、ハウジングとの嵌合や、端面側の押えによる樹脂被膜のクリープ変形が大きくなるおそれがある。これらを考慮して、樹脂被膜の厚みは、例えば0.3mm~2mmの範囲内に設定され、好ましくは0.3mm~1.5mmの範囲に設定される。樹脂被膜は、厚みが1mm以内の部分を(例えば、図1の外輪3の外周面3aに形成される箇所に)有することが好ましい。
【0059】
本発明の絶縁転がり軸受の他の例について、図3を用いて説明する。図3は円筒ころ軸受の断面図である。絶縁転がり軸受11は、外周面に内輪軌道面を有する内輪12と内周面に外輪軌道面を有する外輪13とが同心に配置され、内輪軌道面と外輪軌道面との間に複数の円筒ころ14が配置される。この円筒ころ14は、保持器15により保持される。また、図3においても、外輪13の外周面13aおよび両端面13b、13bは樹脂被膜16で被覆されている。この樹脂被膜16は、上述の樹脂組成物によって形成される。また、樹脂被膜16の厚みも、上述の厚みなどを適用できる。射出成形の具体的な方法も、上述(図2など)の方法を適用できる。
【0060】
本発明の絶縁転がり軸受の構成は、上記図1図3の構成に限らない、例えば、本発明の絶縁転がり軸受は、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受、針状ころ軸受、スラスト円筒ころ軸受、スラスト円すいころ軸受、スラスト針状ころ軸受、スラスト自動調心ころ軸受などにも適用できる。
【0061】
上記図1図3の絶縁転がり軸受は、外輪の外周面および両端面に樹脂被膜が被覆された構成としたが、これに限らない。例えば、外輪の外周面のみに樹脂被膜が被覆された構成としてもよい。また、樹脂被膜が形成される軌道輪は外輪に限らず、内輪でもよい。この場合、内輪の少なくとも内周面に上述の樹脂被膜が形成される。
【0062】
次に、本発明の絶縁転がり軸受の適用例を説明する。図4図7には、鉄道車両の主電動機の主軸を回転自在に支持する軸受に適用した例を示す。
【0063】
まず、図4では、主電動機用主軸の支持構造を有する鉄道車両の台車の構成を説明する。図4は、この台車の構成を示す図である。図4に示すように、台車21は、鉄道車両に備えられる台車であって、台車本体22と、主電動機30と、カップリング24と、駆動装置25と、車軸26と、車輪27と、車軸軸受装置28とを備えている。主電動機30は、主電動機取付部22aにおいて台車本体22に支持されている。また、主電動機30の主軸23は、カップリング24を介して駆動装置25に接続されている。駆動装置25は、主軸23に固定された小歯車25aと、車軸26に固定された大歯車25bとを有し、小歯車25aと大歯車25bとは互いに噛み合うように配置されている。車軸26には、一対の車輪27が固定されており、その両端は車軸軸受装置28により台車本体22に対して支持されている。また、車軸軸受装置28は、台枠22bにおいて台車本体22に支持されている。
【0064】
図4を参照して、主電動機30による車輪27の動作について説明する。まず、主電動機30が動作することにより主軸23が回転する。このとき、主軸23の回転は、カップリング24を介して駆動装置25に伝達され、主軸23に固定された小歯車25aが回転する。この小歯車25aの回転により、小歯車25aと噛み合う大歯車25bが回転する。この大歯車25bに固定された車軸26が回転することにより、車軸26の両端に固定された車輪27が回転し、台車21が走行する。
【0065】
図5は、主電動機30の構成を示す図である。図5に示すように、主電動機30は、コイル32aを有するステータ32と、ステータ32に対向するように配置されたロータ33と、ステータ32およびロータ33を取り囲むように配置されたフレーム31とを主に備えている。ロータ33の中心部(回転軸)を含む部位には、主軸23が貫通するように固定されている。主電動機30において、まず、3相交流電流がステータ32のコイル32aに供給される。このとき、ロータ33の周りに回転磁界が形成され、この回転磁界によりロータ33に誘導電流が発生する。このように、ロータ33の周りに回転磁界が形成され、かつロータ33に誘導電流が発生することにより、ロータ33を回転軸周りに回転させるように働く電磁力が発生し、ロータ33が回転する。このロータ33の回転は、主軸23を介して外部に取り出される。
【0066】
主電動機30は、主軸23をその外周面23aに対向して配置される部材に対して軸周りに回転自在に支持する第1軸受装置40および第2軸受装置45をさらに備えている。第1軸受装置40は、主軸23の固定側を支持する第1の転がり軸受(深溝玉軸受)41を備えており、第2軸受装置45は、主軸23の自由側を支持する第2の転がり軸受(円筒ころ軸受)46を備えている。これらの転がり軸受は、主電動機30の主軸23およびロータ33を支持し、ロータ33の自重による荷重を受ける。第1の転がり軸受41、第2の転がり軸受46がそれぞれ本発明の絶縁転がり軸受である。なお、これらの転がり軸受を主電動機用軸受ともいう。
【0067】
図6は、第1軸受装置40の構成を示す拡大図である。図6に示すように、第1軸受装置40は、第1の転がり軸受41と、ハウジング42と、ストッパ43と、端蓋44と、油切り44aとを備えている。第1の転がり軸受41の内輪41aは、ストッパ43と油切り44aとにより挟まれ、内輪41aの内周面が主軸23の外周面23aに接触している。また、外輪41bの外周面が樹脂被膜41cを介してハウジング42に対して固定されている。例えば、内輪41aは主軸23としまりばめ、外輪側はハウジング42と中間ばめで使用される。また、外輪41bの両端面は樹脂被膜41cを介してハウジング部品(ハウジング42および端蓋44)により押えられ、軸方向に固定されている。
【0068】
また、図7は、第2軸受装置45の構成を示す拡大図である。第2軸受装置45の構成は、転がり軸受の形式が異なるものの、それ以外の構成は第1軸受装置40と同様である。
【0069】
図6において、第1の転がり軸受41は、内輪41aと外輪41bとの間の軸受空間がシール部材により閉じられない開放形軸受とされ、潤滑剤(潤滑油やグリース)がこの軸受空間に供給されることで、該潤滑剤が軌道面などに介在して潤滑がなされる。また、シール部材を設けて潤滑剤を封入する態様としてもよい。軸受回転時には、グリースなどは転動体と軌道面や保持器との摩擦、グリースの撹拌抵抗により発熱し、高温になる。なお、グリースなどには、通常、主電動機用軸受に用いられるものであれば特に制限なく用いることができる。
【0070】
一般に、主電動機用軸受は、鉄道車両の定期検査に合わせて、グリースの入れ替えや状態検査などのメンテナンスが行われる。主電動機用軸受のメンテナンス必要頻度は、主電動機ひいては鉄道車両のメンテナンス必要頻度の支配要因の一つである。また、主電動機用軸受のメンテナンス必要頻度は、グリースの潤滑寿命により支配される。グリースは、基油の酸化などにより劣化が進行するため、一般的にグリースの潤滑寿命は、軸受の温度が低い方が長くなる。そのため、主電動機のメンテナンス頻度を少なくし、メンテナンスコストを低減するためには、軸受温度の低減が必要である。また、主電動機用軸受には使用中に漏洩電圧が印加されることで電食による損傷が生じることがある。
【0071】
図4図7に示すように、本発明の絶縁転がり軸受を主電動機用軸受に適用することで、通電による電食を防止しつつ、高速回転により軸受の温度が上昇する場合であっても、その発熱をハウジング部品などを介して放出することができる。これにより、発熱によるグリースの劣化や潤滑不良に伴う軸受寿命の低下を防止でき、鉄道車両の信頼性向上やメンテナンスコストなどの削減に寄与できる。
【0072】
本発明の絶縁転がり軸受は、上述の主電動機用軸受以外にも、汎用モータ、発電機など他の用途にも適用できる。例えば、近年、自動車に代わる移動手段として注目されている空飛ぶクルマにも適用できる。空飛ぶクルマは、種々の社会的問題の解消に期待されており、地域内移動、地域間移動、観光・レジャー、救急医療、災害救助など、様々な場面での活用が期待されている。
【0073】
空飛ぶクルマとしては、垂直離着陸機(VTOL;Vertical Take-Off and Landing aircraft)が注目されている。垂直離着陸機は、空と離発着場を垂直に昇降できることから、滑走路が必要とならず、利便性に優れる。特に、近年ではCOの削減に向けた社会的要請などからバッテリとモータで飛行するタイプの電動垂直離着陸機(eVTOL)が開発の主流となっている。
【0074】
本発明の絶縁転がり軸受が搭載される電動垂直離着陸機について、図8に基づいて説明する。図8に示す電動垂直離着陸機51は、機体中央に位置する本体部52と、前後左右に配置された4つの駆動部53を有するマルチコプターである。駆動部53は、電動垂直離着陸機51の揚力および推進力を発生させる装置であり、駆動部53の駆動によって電動垂直離着陸機51が飛行する。電動垂直離着陸機51において駆動部53は複数あればよく、4つに限定されない。
【0075】
本体部52は乗員(例えば1~2名程度)が搭乗可能な居住空間を有している。この居住空間には、進行方向や高度などを決めるための操作系や、高度、速度、飛行位置などを示す計器類などが設けられている。本体部52からは4本のアーム52aがそれぞれ延び、各アーム52aの先端に駆動部53が設けられている。図8において、アーム52aには、回転翼54を保護するため、回転翼54の回転周囲を覆う円環部が一体に設けられている。また、本体部52の下部には、着陸時に機体を支えるスキッド52bが設けられている。
【0076】
駆動部53は、回転翼54と、該回転翼54を回転させるモータ55とを有する。駆動部53において、回転翼54はモータ55を挟んで軸方向両側に一対設けられている。各回転翼54は、径方向外側へ延びる2枚の羽根をそれぞれ有する。
【0077】
本体部52には、バッテリ(図示省略)および制御装置(図示省略)が設けられている。制御装置はフライトコントローラとも呼ばれる。電動垂直離着陸機51の制御は、制御装置によって、例えば以下のように実施される。制御装置が、現姿勢と目標姿勢の差から揚力を調整すべきモータ55に回転数変更の指令を出力する。その指令に基づいて、モータ55に備えられたアンプがバッテリからモータ55へ送る電力量を調整し、モータ55(および回転翼54)の回転数が変更される。また、モータ55の回転数の調整は、複数のモータ55に対して、同時に実施され、それによって機体の姿勢が決まる。
【0078】
図9は、駆動部におけるモータの一部断面図を示している。図9において、モータ55の回転軸57の一端側(図上側)には上述の回転翼が取り付けられ、他端側(図下側)にはロータが取り付けられる。ロータは、ハウジングに固定されたステータに対向配置され、該ステータに対して回転可能になっている。なお、モータ55は、アウターロータ型のブラシレスモータや、インナーロータ型のブラシレスモータの構成を採用できる。
【0079】
図9において、モータ55は、ハウジング(装置ハウジング)56と、ロータ(図示省略)と、ステータ(図示省略)と、アンプ(図示省略)と、2個の転がり軸受(深溝玉軸受)61、61とを備える。ハウジング56は外筒56aと内筒56bを有し、これらの間には冷却媒体流路56cが設けられている。この流路56cに冷却媒体を流すことにより、過度の温度上昇を防止できる。また、転がり軸受61、61は、内筒56b内で回転軸57を回転自在に支持している。図9において、転がり軸受61の外輪63の外周面および両端面に樹脂被膜64が形成されている。転がり軸受61が、本発明の絶縁転がり軸受に相当する。
【0080】
転がり軸受61において、外輪63および樹脂被膜64の外径形状は、ハウジング内周の嵌合部と略同一の形状であり、ハウジング56に対して、軸受ハウジングなどを介さずに直接嵌合されている。転がり軸受61および61の間には内輪間座58、外輪間座59が挿入され、予圧が印加されている。外輪間座59には、転がり軸受61、61の冷却および潤滑のために潤滑油を噴射するためのノズル部材60、60が設けられている。ノズル部材60は、外部の潤滑油供給装置(図示省略)から供給されるエアオイルを軸受空間に導く潤滑油流路を内部に有する。
【0081】
電動垂直離着陸機では、ドローンに比べて、モータが高容量化されることから、駆動電流が大きくなり、そのモータの回転軸に発生する電圧(軸電圧)が増大すると考えられる。それに伴って、電食の発生が懸念されるが、本発明の絶縁転がり軸受を適用することで、通電による電食を好適に防止できる。また、高速回転により軸受の温度が上昇する場合であっても、樹脂被膜が優れた熱伝導性を有することから、軸受の発熱をハウジングなどを介して放出することができる。その結果、軸受の異常の発生を抑制し、電動垂直離着陸機の安全な飛行などに繋がる。
【0082】
なお、駆動部における軸受構成は、図9の構成に限定されない。図9では、モータの回転軸と回転翼の回転軸とを同一の回転軸としたが、モータの回転軸と回転翼の回転軸とが伝達機構を介して接続された構成であってもよい。この場合、駆動部における回転軸を支持する転がり軸受は、モータの回転軸を支持する転がり軸受でもよく、回転翼の回転軸を支持する転がり軸受でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の絶縁転がり軸受において、樹脂被膜によって電気絶縁性を有しており、良好な成形性を確保しつつ、樹脂被膜の放熱性と機械的強度が両立されているので、軸受内部を電流が流れるような構造の装置に用いられる種々の転がり軸受に適用できる。特に、鉄道車両の主電動機用主軸の支持構造に用いる転がり軸受や、電動垂直離着陸機の駆動部における転がり軸受などに好適である。
【符号の説明】
【0084】
1 絶縁転がり軸受
2 内輪
3 外輪
4 玉(転動体)
5 保持器
6 樹脂被膜
7 可動側型板
8 固定側型板
9 ランナー
10 ゲート痕
11 絶縁転がり軸受
12 内輪
13 外輪
14 円筒ころ(転動体)
15 保持器
16 樹脂被膜
21 台車
22 台車本体
23 主軸
24 カップリング
25 駆動装置
26 車軸
27 車輪
28 車軸軸受装置
30 主電動機
31 フレーム
32 ステータ
33 ロータ
40 第1軸受装置
41 第1の転がり軸受
42 ハウジング
43 ストッパ
44 端蓋
45 第2軸受装置
46 第2の転がり軸受
47 ハウジング
48 ストッパ
49 端蓋
51 電動垂直離着陸機
52 本体部
53 駆動部
54 回転翼
55 モータ
56 ハウジング
57 回転軸
58 内輪間座
59 外輪間座
60 ノズル部材
61 転がり軸受
62 内輪
63 外輪
64 樹脂被膜
C キャビティ
G ゲート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9