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特開2022-146955地震動波形の推定方法、地震動の予測システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022146955
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】地震動波形の推定方法、地震動の予測システム
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/00 20060101AFI20220929BHJP
   G01V 1/28 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
G01V1/00 E
G01V1/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048001
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】西本 昌
(72)【発明者】
【氏名】内山 泰生
(72)【発明者】
【氏名】欄木 龍大
(72)【発明者】
【氏名】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】石川 義幸
(72)【発明者】
【氏名】青木 雅嗣
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA03
2G105BB01
2G105EE01
2G105GG06
2G105MM03
2G105NN02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】地震動波形の推定方法及び地震動の予測システムを提供する。
【解決手段】観測地震動波形Wsに続いて到達する将来の地震動波形Wfをリアルタイムに推定する地震動波形の推定方法であって、地震計で観測地震動波形を観測する工程と、観測地震動波形Wsのうち、直近の複数の周期分の波形データから、周期dTp1、dTq1を算出し、波形データ上において、振幅の複数の極大値P1~P3または複数の極小値Q1~Q3となる点間を結ぶ多項式F1、F2を算出する工程と、周期dTp1、dTq1を基に、振幅が極大値P4~P6または極小値Q4~Q6となる将来の時刻Tp4~Tp6、Tq4~Tq6を予測し、多項式F1、F2に、将来の時刻Tp4~Tp6、Tq4~Tq6を適用して、将来の時刻Tp4~Tp6、Tq4~Tq6における振幅xp4~xp6、xq4~xq6を推定する、将来の地震動波形の推定工程と、を備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測した地震動波形である観測地震動波形を基に、当該観測地震動波形に続いて到達する将来の地震動波形をリアルタイムに推定する地震動波形の推定方法であって、
地震計で前記観測地震動波形を観測する工程と、
前記観測地震動波形のうち、直近の複数の周期分の波形データから、周期を算出し、前記波形データ上において、振幅の複数の極大値または複数の極小値となる点間を結ぶ多項式を算出する工程と、
前記周期を基に、前記振幅が極大値または極小値となる将来の時刻を予測し、前記多項式に、前記将来の時刻を適用して、前記将来の時刻における振幅を推定する、将来の地震動波形の推定工程と、
を備えることを特徴とする、将来の地震動波形をリアルタイムに推定する地震動波形の推定方法。
【請求項2】
前記将来の地震動波形の推定工程では、
前記観測地震動波形での前記複数の極大値または前記複数の極小値の中の、最も新しい極大値または極小値に相当する時刻に、前記周期を加算して、前記将来の時刻として第1将来時刻を算出し、
前記多項式に、前記第1将来時刻を適用して、前記第1将来時刻における第1将来振幅を推定し、
前記最も新しい極大値または極小値となる振幅に対する前記第1将来振幅の増加率である振幅増加率を計算し、当該振幅増加率が増加率閾値を上回る場合には、前記最も新しい極大値または極小値となる振幅と前記増加率閾値を基に算出した値を、推定された前記第1将来振幅に替えて、前記第1将来振幅として使用する
ことを特徴とする請求項1に記載の地震動波形の推定方法。
【請求項3】
地震動波形をリアルタイムに推定する地震動の予測システムであって、
地震計と、
前記地震計で観測した地震動波形を基に、請求項1または2に記載される地震動波形の推定方法によって、続いて到達する将来の地震動波形を推定する演算処理部と、
前記将来の地震動波形を表示する表示部と、
を備えることを特徴とする地震動の予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震動波形の推定方法、地震動の予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地震が発生した際に、地震動が到達する前に、地震応答波形を推定することが望まれている。
例えば特許文献1には、予め、複数の地震発生予測地域に対する予測地域と想定点との間の地震観測点と、想定点との間の地震動の伝達関数を求めておき、地震発生時に検知された震源位置に係るリアルタイム地震情報から震源位置に最も近い震動発生予測地域に対する伝達関数を抽出し、次いで地震発生時に観測点で得られた地震動波形をリアルタイムに取得して、伝達関数に基づいて、地震の地震動が想定点に到達する前に、想定点における地震応答波形をリアルタイムに推定する構成が開示されている。
特許文献1に開示されたような構成では、地震動波形を取得する観測点と、想定点とが離れている。このため、観測点で取得した地震動波形を用いて、想定点における地震応答波形をリアルタイムに推定するには、観測点と想定点との間で、データ通信を行うためのネットワークや、観測点、想定点の双方でデータを送受信するための通信器等が必要である。その結果、構成が複雑となり、地震によってネットワークにおける通信に支障が生じた場合には、地震応答波形の推定を行うことができなくなってしまう。
【0003】
また、特許文献2には、複数の想定震源位置とマグニチュードとの組み合わせを含む地震条件に基づいて計算した想定位置における最大応答値を含む想定地震動データを、予めデータベースに格納しておき、地震発生時に検知された震源位置およびマグニチュードの情報を含むリアルタイム地震情報を受信した場合、受信したリアルタイム地震情報と、データベース中のリアルタイム地震情報に対応する地震条件とを比較することで、最も近似する地震条件を用いた想定地震動データを出力する構成が開示されている。
特許文献2に開示されたような構成では、地震発生時に検知された震源位置およびマグニチュードの情報を含むリアルタイム地震情報を外部から受信する必要がある。このため、データ通信を行うためのネットワークや、リアルタイム地震情報を発信する側と受信する側とのそれぞれでデータを送受信するための通信器等が必要である。その結果、特許文献1の場合と同様に、構成が複雑となり、地震によってネットワークにおける通信に支障が生じた場合には、地震応答波形の推定を行うことができなくなってしまう。
【0004】
また、特許文献3には、ある値の時間変化を表わす波形データに、波形データの所定区間に含まれている所定周期の振幅および位相を求め、所定周期の変化に応じて変わる振幅が最大あるいは極大となるところの所定周期と振幅および位相を持った正弦波形を加え合わせて複合正弦波形を得るとともに、所定区間以後のある値の時間変化を、複合正弦波形、もしくは直流成分と複合正弦波形の和で成る波形、もしくは直線成分と複合正弦波形の和で成る波形によって与える構成が開示されている。
特許文献3に開示されたような構成では、波形データが、地震動のように振幅に変化がある場合、十分な精度を得ることができないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4385948号公報
【特許文献2】特許第4506625号公報
【特許文献3】特開平5-197742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、地震動波形を観測した際に、当該地震動波形に続いて到達する将来の地震動波形を精度よく推定可能で、かつ複雑な構成を必要とせずに実現可能な、地震動波形の推定方法及び地震動の予測システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定の予測地点における将来の地震動波形の推定方法として、複数の地震計や通信ネットワークを使用した地震観測データを使用するのではなく、観測地震動波形のうち、直近の複数の周期分の波形データから、振幅の極大値、または極小値を結ぶ多項式を同定し、その多項式に、将来の時刻を適用することで、将来の振幅が算定され、将来の地震動波形が推定可能な点に着眼して、本発明に至った。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の地震動波形の推定方法は、観測した地震動波形である観測地震動波形を基に、当該観測地震動波形に続いて到達する将来の地震動波形をリアルタイムに推定する地震動波形の推定方法であって、地震計で前記観測地震動波形を観測する工程と、前記観測地震動波形のうち、直近の複数の周期分の波形データから、周期を算出し、前記波形データ上において、振幅の複数の極大値または複数の極小値となる点間を結ぶ多項式を算出する工程と、前記周期を基に、前記振幅が極大値または極小値となる将来の時刻を予測し、前記多項式に、前記将来の時刻を適用して、前記将来の時刻における振幅を推定する、将来の地震動波形の推定工程と、を備えることを特徴とする。
このような構成によれば、観測された地震動波形のうち、直近の複数の周期分の波形データに基づいて、振幅の極大値または極小値となる点間を結ぶ多項式を算出し、周期を基に、振幅が極大値または極小値となる将来の時刻を予測し、多項式に、将来の時刻を適用することで、将来の時刻における振幅を推定することができる。これにより、地震発生時に他の地点等の外部と通信を行うことなく、将来の地震動波形を精度よく推定することができる。したがって、地震動波形を観測した際に、当該地震動波形に続いて到達する将来の地震動波形を精度よく推定可能で、かつ複雑な構成を必要とせずに実現可能な、地震動波形の推定方法を提供することができる。
【0008】
本発明の一態様においては、本発明の地震動波形の推定方法は、前記将来の地震動波形の推定工程では、前記観測地震動波形での前記複数の極大値または前記複数の極小値の中の、最も新しい極大値または極小値に相当する時刻に、前記周期を加算して、前記将来の時刻として第1将来時刻を算出し、前記多項式に、前記第1将来時刻を適用して、前記第1将来時刻における第1将来振幅を推定し、前記最も新しい極大値または極小値となる振幅に対する前記第1将来振幅の増加率である振幅増加率を計算し、当該振幅増加率が増加率閾値を上回る場合には、前記最も新しい極大値または極小値となる振幅と前記増加率閾値を基に算出した値を、推定された前記第1将来振幅に替えて、前記第1将来振幅として使用する。
このような構成によれば、観測地震動波形での振幅の極大値、または極小値を算出した後、最も新しい極大値または極小値に相当する時刻に、周期を加算することで、第1将来時刻を算出し、多項式に、第1将来時刻を適用することで、第1将来時刻における第1将来振幅を推定する。そして、観測地震動波形で最も新しい極大値または極小値となる振幅に対する第1将来振幅の増加率である振幅増加率が、増加率閾値を上回る場合、最も新しい極大値または極小値となる振幅と増加率閾値を基に算出した値を、推定された第1将来振幅に替えて、第1将来振幅として使用する。このようにして、極大値や極小値が、過去の観測地震動の波形性状より明らかに異なる(増大する振幅の割合が閾値を上回る)場合は、将来の振幅を調整することで、将来の地震動波形の推定精度を高めることができる。
【0009】
本発明の一態様においては、本発明の地震動の予測システムは、地震動波形をリアルタイムに推定する地震動の予測システムであって、地震計と、前記地震計で観測した地震動波形を基に、上記したような地震動波形の推定方法によって、続いて到達する将来の地震動波形を推定する演算処理部と、前記将来の地震動波形を表示する表示部と、を備えることを特徴とする
このような構成によれば、地震計が設置された特定点で観測した地震動波形に基づいて、特定点における将来の地震動波形を推定することで、大掛かりな地震動の観測機器などは使用することなく、将来の地震動波形がリアルタイムに推定可能な、地震動の予測システムを実現することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、地震動波形を観測した際に、当該地震動波形に続いて到達する将来の地震動波形を精度よく推定可能で、かつ複雑な構成を必要とせずに実現可能な、地震動波形の推定方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る地震動の予測システムを備えたアクティブ制振建物の構成を示す図である。
図2】地震動の予測システムの機能構成を示すブロック図である。
図3】地震動の予測システムにおける、地震動波形の推定方法の流れを示すフローチャートである。
図4】地震計から取得した観測地震動波形の一例を示す図である。
図5】将来の極大値、極小値の予測を示す説明図である。
図6図5とは異なる場合における、将来の極大値、極小値の予測を示す説明図である。
図7】シミュレーションの結果を示すグラフである。
図8】本発明の実施形態に係る地震動の予測システムを備えたアクティブ制振建物の他の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明による地震動波形の推定方法、地震動の予測システムを実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
本発明の実施形態に係る地震動の予測システムを備えたアクティブ制振建物の構成を示す図を図1に示す。
(アクティブ制振建物)
図1に示されるように、アクティブ制振建物10は、建物本体20と、アクチュエータ30と、アクティブマスダンパー31と、地震動の予測システム40と、を主に備えている。
建物本体20は、地盤G上に構築された基礎部25上に支持されている。建物本体20は、上下方向に複数の階層21を有している。建物本体20は、基礎部25上に設けられている。ここで、建物本体20は、階層数や、構造(鉄筋コンクリート造、鉄骨造、鉄筋鉄骨コンクリート造、地下階の有無等)について何ら限定するものではない。基礎部25は、地盤G上に設けられた基礎スラブ26を有している。本実施形態においては、建物本体20は、基礎スラブ26は地表よりも低い位置に設けられて、地下ピットが形成されている。
本実施形態においては、アクティブマスダンパー31は、建物本体20の屋上階に設けられている。アクティブマスダンパー31は、屋上階ではなく、より下層の、中間階に設けられても構わない。屋上階には、鉛直方向に延在するように壁面20aが設けられている。アクチュエータ30は、建物本体20の壁面20aと、アクティブマスダンパー31との間に、水平方向に伸縮可能に設けられている。アクチュエータ30は、後述する地震動の予測システム40の予測処理装置41によって予測される将来の地震動を基に、制御力を算出し、アクティブマスダンパー31に水平方向の力を印加する。
【0013】
(地震動の予測システム)
地震動の予測システム40は、建物本体20が設置されている地点で地震動波形を観測する。地震動の予測システム40は、観測した地震動波形である観測地震動波形を基に、観測地震動波形に続いて到達する将来の地震動波形をリアルタイムに推定する。地震動の予測システム40は、推定した将来の地震動波形に基づいて、建物本体20に生じると予測される将来の地震動を打ち消すような制御力を算出し、アクチュエータ30を作動させる。
図2は、地震動の予測システムの機能構成を示すブロック図である。
図1図2に示すように、地震動の予測システム40は、地震計50と、予測処理装置41と、を備えている。
地震計50は、建物本体20が設置されている地点に設置されている。地震計50は、例えば、基礎部25の基礎スラブ26上に設置されている。地震計50は、地震計50が設置された地点(観測地)で、地震発生時における地震動波形(以下、これを観測地地震動波形と称する)を観測する。つまり、地震計50は、基礎スラブ26上、すなわち地下ピットに設置されて、その地点における地震動波形を観測する。地震動の予測システム40は、例えば建物本体20が地下ピットを有さない場合には、地上階に、例えば1階に設けられてもよい。本実施形態においては、地震動波形は加速度波形である。地震計50は、観測した観測地震動波形の波形データを、予測処理装置41に送信する。地震計50は、地震が発生した場合、予め設定された所定の時間間隔毎に、観測した観測地震動波形の波形データを、予測処理装置41に順次送信する。
【0014】
予測処理装置41は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータ装置からなる。図2に示すように、予測処理装置41は、データ受信部42と、演算処理部43と、アクチュエータ制御部44と、表示部45と、を機能的に備えている。
データ受信部42は、有線又は無線による通信によって、地震計50から送信される観測地震動波形の波形データを受信する。
演算処理部43は、データ受信部42で受信した波形データに基づき、所定の演算処理を実行する。演算処理部43は、後に詳述するように、観測地震動波形のうち、直近の複数の周期分の波形データから周期を算出する。演算処理部43は、波形データ上において、振幅の複数の極大値または複数の極小値となる点間を結ぶ多項式を算出する。演算処理部43は、算出された周期を基に、振幅が極大値または極小値となる将来の時刻を予測する。演算処理部43は、算出した多項式に、予測した将来の時刻を適用して、将来の時刻における振幅を推定する。演算処理部43は、将来の時刻における振幅を基に、将来の地震動波形を生成する。
アクチュエータ制御部44は、演算処理部43による演算により予測された、振幅が極大値または極小値となる将来の時刻と、将来の時刻における振幅とに基づいて、アクチュエータ30を作動させるように制御する。具体的には、アクチュエータ制御部44は、将来の地震動波形を基に、将来の時刻の各々で当該時刻において想定される振幅の地震動を打ち消すような制御力を算出し、アクチュエータ30を作動させる指令を生成する。例えば、アクチュエータ制御部44は、振幅が極大値または極小値となる将来の時刻に、最適レギュレータ法等に拠って最適制御力を算出し、アクチュエータ30を作動させる指令を生成する。アクチュエータ制御部44は、生成した指令を、有線又は無線による通信によって、アクチュエータ30に送信する。
表示部45は、モニタ画面を備えたモニタ装置等からなる。表示部45は、演算処理部で推定した振幅が極大値または極小値となる将来の時刻と、将来の時刻における振幅とに基づいて、将来の地震動波形を表示する。
【0015】
(地震動波形の推定方法)
図3は、上記地震動の予測システム40における、地震動波形の推定方法の流れを示すフローチャートである。
地震動の予測システム40で、建物本体20が設置されている地点における地震動波形の推定を行うには、まず、地震発生時に、地震計50で観測地震動波形を観測する(工程S10)。地震計50は、地震発生時における観測地地震動波形を観測する。地震計50は、観測した観測地震動波形の波形データを、予測処理装置41に送信する。
予測処理装置41では、地震計50から送信される波形データに基づき、以下のようにして、観測地震動波形に続いて到達する将来の地震動波形をリアルタイムに推定する(工程S20)。
【0016】
予測処理装置41のデータ受信部42では、地震計50から送信される観測地震動波形の波形データを取得(受信)する(工程S201)。
図4は、地震計から取得した観測地震動波形Wsの一例を示す図である。
予測処理装置41の演算処理部43では、データ受信部42で取得した観測地震動波形Wsの波形データに基づき、所定の演算処理を実行する。演算処理部43では、まず、直近の複数の周期の波形データから、振幅の複数の極大値、及び極小値を抽出する(工程S202)。
本実施形態では、演算処理部43は、図4に示すように、波形データに3以上の極大値P1~P3、及び3以上の極小値Q1~Q3が含まれている場合に、極大値P、及び極小値Qの抽出を行う。演算処理部43は、波形データにおいて、直近の3つの極大値P1、P2、P3、及び直近の3つの極小値Q1、Q2、Q3を抽出する。演算処理部43は、抽出された極大値P1、P2、P3、及び極小値Q1、Q2、Q3のそれぞれについて、その時刻Tp1、Tp2、Tp3、Tq1、Tq2、Tq3、及び観測地震動波形Wsの振幅xp1、xp2、xp3、xq1、xq2、xq3を取得する。
【0017】
次いで、演算処理部43は、波形データ上において、振幅の複数の極大値P、複数の極小値Qとなる点間を結ぶ多項式を算出する(工程S203)。本実施形態では、多項式として、振幅の複数の極大値Pとなる点間を結ぶ2次関数と、複数の極小値Qとなる点間を結ぶ2次関数を算出する。
具体的には、演算処理部43は、抽出した直近の3つの極大値P1、P2、P3となる点を通る2次関数F1、及び直近の3つの極小値Q1、Q2、Q3となる点を通る2次関数F2をそれぞれ求める。2次関数F1、F2は、それぞれ、直近の3つの極大値P、極小値Qとなる点のうち、最も過去の極値P1、Q1を原点とした座標系において、原点を通過するものとして立式される。すなわち、波形データの座標系を、横軸が時間、縦軸が加速度の全体座標系Gとすると、2次関数F1、F2は、全体座標系G内の点P1、Q1を原点とした、横軸が時間、縦軸が加速度の局所座標系L内の関数として表される。ここで、図4、及び続く図5において、局所座標系Lとしては、点P1を原点とした、2次間数F1に対応するもののみが図示されている。
以降の説明においては、ただ単に極大値P(P1~P6)と記載した場合には、全体座標系Gあるいは局所座標系L上における、極大値となる点P(P1~P6)のことを指す。同様に、単に極小値Q(Q1~Q6)と記載した場合には、全体座標系Gあるいは局所座標系L上における、極小値となる点Q(Q1~Q6)のことを指す。
【0018】
例えば、点P1を原点とした局所座標系Lにおける2次関数F1は、次式(1)により表すことができる。
F1=ax+bx …(1)
ここで、この2次関数F1は、直近の3つの極大値P1、P2、P3を通るため、上式(1)におけるa、bは、次式(2)を解くことにより求められる。
【数1】
本実施形態においては、波形データの極大値を通る多項式F1を、上式(1)のように、局所座標系L上の原点を通過する2次関数として表現している。この2次関数の形状を特定するには、式(1)中の特定すべき定数a、bが2つであるため、式(2)として示されるように、極大値P1に対する他の少なくとも2つの極大値P2、P3の各々の相対位置を用いて、1次式による連立方程式を2つ立式し、これを解く必要がある。すなわち、多項式F1を2次関数として表現するために、本実施形態においては、3つの極大値P1、P2、P3の座標が必要となる。
【0019】
同様に、点Q1を原点とした局所座標系Lにおける2次関数F2は、次式(3)により表すことができる。
F2=cx+dx …(3)
ここで、この2次関数F2は、直近の3つの極小値Q1、Q2、Q3を通るため、上式(3)におけるc、dは、次式(4)を解くことにより求められる。
【数2】
【0020】
次いで、演算処理部43は、波形データから、直近の2つの極大値P2、P3の時間間隔を、極大値の周期dTp1(=Tp3-Tp2)として算出する。また、演算処理部43は、波形データから、直近の2つの極小値Q2、Q3の時間間隔を、極小値側の周期dTq1(=Tq3-Tq2)として算出する(工程S204)。
図5は、将来の極大値、極小値の予測値を示す図である。
続いて、演算処理部43は、算出された周期を基に、振幅が極大値、極小値となる将来の時刻を予測する(工程S205)。これには、演算処理部43は、将来、極大値、極小値となる時刻の時間間隔が、算出された周期dTp1、dTq1と等しいとして、将来の極大値、極小値となる時刻を予測する。より具体的には、演算処理部43は、次式(5)、(6)に示すように、観測地震動波形Wsから抽出された複数の極大値P1~P3、複数の極小値Q1~Q3の中の、最も新しい極大値P3に相当する時刻Tp3と、最も新しい極小値Q3に相当する時刻Tq3の各々に、周期dTp1、dTq1をそれぞれ加算して、図5に示すように、将来の時刻として第1将来時刻Tp4、Tq4を算出する。
Tp4=Tp3+dTp1 …(5)
Tq4=Tq3+dTq1 …(6)
演算処理部43は、次式(7)、(8)に示すように、第1将来時刻Tp4、Tq4の各々に周期dTp1、dTq1をそれぞれ更に加算して、将来の時刻として第2将来時刻Tp5、Tq5を算出する。
Tp5=Tp4+dTp1 …(7)
Tq5=Tq4+dTq1 …(8)
更に、演算処理部43は、次式(9)、(10)に示すように、第2将来時刻Tp5、Tq5の各々に周期dTp1、dTq1をそれぞれ更に加算して、将来の時刻として第3将来時刻Tp6、Tq6を算出する。
Tp6=Tp5+dTp1 …(9)
Tq6=Tq5+dTq1 …(10)
【0021】
次いで、演算処理部43は、工程S203で算出した2次関数F1、F2に、工程S205で予測した将来の時刻(第1~第3将来時刻)Tp4~Tp6、Tq4~Tq6をそれぞれ適用して、将来の時刻Tp4~Tp6、Tq4~Tq6のそれぞれにおける、将来の極大値P4~P6、極小値Q4~Q6での振幅(将来の時刻における振幅)xp4~xp6、xq4~xq6を算出する。つまり、演算処理部43は、将来の極大値P4~P6、極小値Q4~Q6が、周期dTp1、dTq1ごとに、2次関数F1、F2で表される曲線上にあるとして、将来の極大値P4~P6、極小値Q4~Q6の振幅xp4~xp6、xq4~xq6を推定する(工程S206)。
より具体的には、例えば極大値に関しては、演算処理部43はまず、全体座標系Gにおける第1将来時刻Tp4を、局所座標系Lにおける時刻(Tp4-Tp1)に変換し、これを式(1)として説明した2次関数F1に代入して、値xp’を求める。この値xp’は、局所座標系L内における振幅の値であるため、全体座標系Gにおける値に変換するために、局所座標系Lの原点座標である値xp1を加算し、これを第1将来時刻Tp4における振幅である第1将来振幅xp4(=xp’+xp1)とする。
演算処理部43は、同様に、第2将来時刻Tp5における振幅である第2将来振幅xp5と、第3将来時刻Tp6における振幅である第3将来振幅xp6を計算する。
【0022】
極小値に関しても同様に、演算処理部43は、全体座標系Gにおける第1将来時刻Tq4を、局所座標系Lにおける時刻(Tq4-Tq1)に変換し、これを式(3)として説明した2次関数F2に代入して、値xq’を求める。この値xq’は、局所座標系L内における振幅の値であるため、全体座標系Gにおける値に変換するために、局所座標系Lの原点座標である値xq1を加算し、これを第1将来時刻Tq4における振幅である第1将来振幅xq4(=xq’+xq1)とする。
演算処理部43は、同様に、第2将来時刻Tq5における振幅である第2将来振幅xq5と、第3将来時刻Tq6における振幅である第3将来振幅xq6を計算する。
このようにして、演算処理部43は、全体座標系G上での、将来の極大値P4~P6、極小値Q4~Q6の振幅を推定する。
【0023】
この後、演算処理部43は、工程S206で推定した将来の極大値P4~P6、極小値Q4~Q6の振幅xp4~xp6、xq4~xq6について、その各々の直前の極大値P3~P5、極小値Q3~Q5の振幅xp3~xp5、xq3~xq5からの増加率が、予め設定した増加率閾値以下であるか否かを確認し、その結果に応じて、上記のように計算した振幅xp4~xp6、xq4~xq6の値を調整する(工程S207、S208)。
具体的には、演算処理部43は、まず、次式(11)、(12)により、観測地震動波形Wsから抽出された複数の極大値P1~P3、複数の極小値Q1~Q3の中の、最も新しい極大値P3、極小値Q3となる振幅xp3、xq3に対する、第1将来振幅xp4、xq4の増加率である振幅増加率を計算し、振幅増加率が増加率閾値α以下であるか否かを確認する(工程S207)。
(xp4-xp3)/xp3≦α …(11)
(xq4-xq3)/xq3≦α …(12)
ここで、増加率閾値αは、例えば、建物本体2が設置されている地点周辺で、過去に観測された地震記録の分析に基づいて設定することができる。
また、増加率閾値αは、過去の観測地震動波形に対して、本発明による地震動波形の推定方法で算定される予測波とを比較検証した結果、概ね、αが0.2程度、より具体的には0.18以上0.22以下の範囲内の値として設定すると、どのような観測点においても比較的好ましい精度となることが確認された。
【0024】
工程S207における確認の結果、図6に示すように、算出した振幅増加率が増加率閾値αを上回る場合、将来の振幅の値を調整する(工程S208)。
具体的には、式(11)、(12)で、左辺としてあらわされる振幅増加率が、増加率閾値αを上回った場合、次式(13)、(14)のように、観測地震動波形Wsから抽出された複数の極大値P1~P3、複数の極小値Q1~Q3の中の、最も新しい極大値P3、極小値Q3となる振幅xp3、xq3と増加率閾値αを基に、暫定値xp4’、xq4’を算出し、工程S206で推定された第1将来振幅xp4、xq4に替えて、算出されたこれらの暫定値xp4’、xq4’を、調整後の第1将来振幅xp4、xq4として使用する。
xp4’=xp3+α×xp3 …(13)
xq4’=xq3+α×xq3 …(14)
工程S207における確認の結果、算出した振幅増加率が増加率閾値αを上回らない場合には、工程S206で推定された第1将来振幅xp4、xq4が、そのまま第1将来振幅xp4、xq4として使用される。
【0025】
次に、演算処理部43は、次式(15)、(16)により、第1将来振幅xp4、xq4に対する第2将来振幅xp5、xq5の増加率である振幅増加率を計算し、振幅増加率が増加率閾値αを上回るか否かを確認する(工程S207)。
(xp5-xp4)/xp4≦α …(15)
(xq5-xq4)/xq4≦α …(16)
ここで、第1将来振幅xp4、xq4としては、第1将来振幅xp4、xq4が式(13)、(14)により調整された場合においては、調整後の第1将来振幅xp4、xq4が使用される。
その結果、式(15)、(16)で、左辺としてあらわされる振幅増加率が、増加率閾値αを上回った場合、次式(17)、(18)のように、第1将来振幅xp4、xq4と増加率閾値αを基に暫定値xp5’、xq5’を算出し、工程S206で推定された第2将来振幅xp5、xq5に替えて、算出されたこれらの暫定値xp5’、xq5’を、調整後の第2将来振幅xp5、xq5として使用する(工程S208)。
xp5’=xp4+α×xp4 …(17)
xq5’=xq5+α×xq4 …(18)
工程S207における確認の結果、算出した振幅増加率が増加率閾値αを上回らない場合には、工程S206で推定された第2将来振幅xp5、xq5が、そのまま第2将来振幅xp5、xq5として使用される。
【0026】
更に、演算処理部43は、次式(19)、(20)により、第2将来振幅xp5、xq5に対する第3将来振幅xp6、xq6の増加率である振幅増加率を計算し、振幅増加率が増加率閾値αを上回るか否かを確認する(工程S207)。
(xp6-xp5)/xp5≦α …(19)
(xq6-xq5)/xq5≦α …(20)
ここで、第2将来振幅xp5、xq5としては、第2将来振幅xp5、xq5が式(17)、(18)により調整された場合においては、調整後の第2将来振幅xp5、xq5が使用される。
その結果、式(19)、(20)で、左辺としてあらわされる振幅増加率が、増加率閾値αを上回った場合、次式(21)、(22)のように、第2将来振幅xp5、xq5と増加率閾値αを基に暫定値xp6’、xq6’を算出し、工程S206で推定された第3将来振幅xp6、xq6に替えて、算出されたこれらの暫定値xp6’、xq6’を、調整後の第3将来振幅xp6、xq6として使用する(工程S208)。
xp6’=xp5+α×xp5 …(21)
xq6’=xq5+α×xq5 …(22)
工程S207における確認の結果、算出した振幅増加率が増加率閾値αを上回らない場合には、工程S206で推定された第3将来振幅xp6、xq6が、そのまま第3将来振幅xp6、xq6として使用される。
【0027】
工程S209では、演算処理部43は、上記のようにして推定した将来の極大値P4~P6、極小値Q4~Q6の振幅xp4~xp6、xq4~xq6の間を、cos関数により補間し、時刻歴波形を生成する。生成された時刻歴波形の波形データは、将来の地震動波形Wfとして、表示部45、及びアクチュエータ30に出力される(工程S210)。表示部45では、出力された将来の地震動波形Wfをモニタ画面に表示する。
上記したような一連の予測処理装置41における、将来の地震動波形をリアルタイムに推定するための処理は、地震動が終了するまで、予め設定された所定の微少時間毎に繰り返し実行される。これにより、将来の地震動波形Wfが、時間の経過と共に順次更新されていく。
【0028】
また、工程S210で、アクチュエータ制御部44は、演算処理部43から出力された将来の地震動波形Wfの波形データに基づいて、アクチュエータ30を作動させるための指令を出力する。例えば、上記のようにして地震動の予測システム40で推定された将来の地震動波形Wfに基づいて、最適レギュレータ法等に拠って最適制御力を算出し、アクチュエータ30を作動させる指令を生成し、アクチュエータ30を駆動する(工程S30)。
【0029】
(シミュレーション例)
上記に説明した地震動波形の推定方法を用いて、東北地方太平洋沖地震時に実際に観測された地震動波形について、地震発生直後から将来の地震動波形Wfを3波長先まで推定するシミュレーションを行った。図7は、その推定により得られた予測波W1と、実際に観測された観測波W2とを示すものである。
その結果、図7に示すように、上記に説明した地震動波形の推定方法によって得られた予測波W1は、観測波W2に近似していることが確認された。
【0030】
(作用効果)
上述したような地震動波形の推定方法によれば、観測した地震動波形である観測地震動波形Wsを基に、観測地震動波形Wsに続いて到達する将来の地震動波形Wfをリアルタイムに推定する地震動波形の推定方法であって、地震計50で観測地震動波形を観測する工程S10と、観測地震動波形Wsのうち、直近の複数の周期分の波形データから、周期dTp1、dTq1を算出し、波形データ上において、振幅xp1~xp3、xq1~xq3の複数の極大値P1~P3または複数の極小値Q1~Q3となる点間を結ぶ多項式F1、F2を算出する工程S20、S202、S203と、周期dTp1、dTq1を基に、振幅が極大値P4~P6または極小値Q4~Q6となる将来の時刻Tp4~Tp6、Tq4~Tq6を予測し、多項式F1、F2に、将来の時刻Tp4~Tp6、Tq4~Tq6を適用して、将来の時刻Tp4~Tp6、Tq4~Tq6における振幅xp4~xp6、xq4~xq6を推定する、将来の地震動波形の推定工程S20、S204、S205、S206と、を備える。
このような構成によれば、観測された地震動波形のうち、直近の複数の周期分の波形データに基づいて、振幅の極大値P1~P3または極小値Q1~Q3となる点間を結ぶ多項式F1、F2を算出し、周期dTp1、dTq1を基に、振幅が極大値P4~P6または極小値Q4~Q6となる将来の時刻Tp4~Tp6、Tq4~Tq6を予測し、多項式F1、F2に、将来の時刻Tp4~Tp6、Tq4~Tq6を適用することで、将来の時刻Tp4~Tp6、Tq4~Tq6における振幅xp4~xp6、xq4~xq6を推定することができる。これにより、地震発生時に他の地点等の外部と通信を行うことなく、将来の地震動波形Wfを精度よく推定することができる。したがって、地震動波形を観測した際に、地震動波形に続いて到達する将来の地震動波形Wfを精度よく推定可能で、かつ複雑な構成を必要とせずに実現可能な、地震動波形の推定方法を提供することができる。
【0031】
特に、上記のような地震動波形の推定方法を用いた場合においては、将来の地震動波形Wfを精度よく推定可能であるため、アクティブ制振建物10のアクチュエータ30への入力が精度の高いものとなる。したがって、効率的にアクティブ制振建物10の応答を低減可能である。
【0032】
また、将来の地震動波形の推定工程S20、S205、S206、S207、S208では、観測地震動波形Wsでの複数の極大値P1~P3または複数の極小値Q1~Q3の中の、最も新しい極大値P3または極小値Q3に相当する時刻Tp3、Tq3に、周期dTp1、dTq1を加算して、将来の時刻として第1将来時刻Tp4、Tq4を算出し、多項式F1、F2に、第1将来時刻Tp4、Tq4を適用して、第1将来時刻Tp4、Tq4における第1将来振幅xp4、xq4を推定し、最も新しい極大値P3または極小値Q3となる振幅xp3、xq3に対する第1将来振幅xp4、xq4の増加率である振幅増加率を計算し、振幅増加率が増加率閾値αを上回る場合には、最も新しい極大値P3または極小値Q3となる振幅xp3、xq3と増加率閾値αを基に算出した値xp4’xq4’を、推定された第1将来振幅xp4、xq4に替えて、第1将来振幅xp4、xq4として使用する。
このような構成によれば、観測地震動波形Wsでの振幅の極大値P1~P3、または極小値Q1~Q3を算出した後、最も新しい極大値P3または極小値Q3に相当する時刻Tp3、Tq3に、周期dTp1、dTq1を加算することで、第1将来時刻Tp4、Tq4を算出し、多項式F1、F2に、第1将来時刻Tp4、Tq4を適用することで、第1将来時刻Tp4、Tq4における第1将来振幅xp4、xq4を推定する。そして、観測地震動波形Wsで最も新しい極大値P3または極小値Q3となる振幅xp3、xq3に対する第1将来振幅xp4、xq4の増加率である振幅増加率が、増加率閾値を上回る場合、最も新しい極大値P3または極小値Q3となる振幅xp3、xq3と増加率閾値αを基に算出した値xp4’xq4’を、推定された第1将来振幅xp4、xq4に替えて、第1将来振幅xp4、xq4として使用する。このようにして、推定された極大値P4や極小値Q4が、過去の観測地震動の波形性状より明らかに異なる(増大する振幅の割合が閾値を上回る)場合は、将来の振幅を調整することで、将来の地震動波形Wfの推定精度を高めることができる。
【0033】
また、将来の地震動波形の推定工程S20、S205、S206、S207、S208では、第1将来時刻Tp4、Tq4に周期dTp1、dTq1を更に加算して第2将来時刻Tp5、Tq5を算出し、多項式F1、F2に、第2将来時刻Tp5、Tq5を適用して、第2将来時刻Tp5、Tq5における第2将来振幅xp5、xq5を推定し、第1将来振幅xp4、xq4に対する第2将来振幅xp5、xq5の増加率である振幅増加率を計算し、振幅増加率が増加率閾値αを上回る場合には、第1将来振幅xp4、xq4と増加率閾値αを基に算出した値を、推定された第2将来振幅xp5、xq5に替えて、第2将来振幅xp5、xq5として使用する。
このような構成によれば、極大値P5や極小値Q5が、過去の観測地震動の波形性状より明らかに異なる(増大する振幅の割合が閾値を上回る)場合は、将来の振幅を調整することで、将来の地震動波形Wfの推定精度を高めることができる。
【0034】
上述したような地震動の予測システム40は、地震動波形をリアルタイムに推定する地震動の予測システム40であって、地震計50と、地震計50で観測した地震動波形を基に、上記したような地震動波形の推定方法によって、続いて到達する将来の地震動波形Wfを推定する演算処理部43と、将来の地震動波形Wfを表示する表示部45と、を備える。
このような構成によれば、地震計50が設置された特定点で観測した地震動波形に基づいて、特定点における将来の地震動波形Wfを推定することで、大掛かりな地震動の観測機器などは使用することなく、将来の地震動波形Wfがリアルタイムに推定可能な、地震動の予測システム40を実現することができる。
【0035】
(実施形態の変形例)
なお、本発明の地震動波形の推定方法、地震動の予測システムは、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、振幅の極大値、及び極小値の双方を用いて、将来の地震動波形Wfを推定するようにしたが、十分な精度が得られるようであれば、振幅の極大値を用いて導出される多項式F1のみから、将来の地震動波形Wfの全体形状を推定するようにしてもよい。また、極小値を用いて導出される多項式F2のみから、将来の地震動波形Wfの全体形状を推定するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、将来の地震動波形Wfを推定するための多項式として、2次関数F1、F2を用いたが、これに限られない。十分な精度が得られるようであれば、1次関数を用いてもよい。あるいは、将来の地震動波形Wfをリアルタイムで推定するという趣旨を損なわない範囲において、より大きな次数の多項式を用いるようにしてもよい。例えば、直近の4点の極値を用いて、多項式として3次関数F1=ax+bx+cxを特定してもよいし、直近の5点の極値を用いて、多項式として4次関数を特定してもよい。ただし、地震動波形として加速度波形を用いる場合においては、地震動波形の極値を通る関数は、2次関数に沿うような形状となりがちである一方で、3次関数や4次関数に沿うような形状となることは想定しにくく、したがって、多項式は2次関数とするのが最も好適であると考えられる。
【0036】
また、上記実施形態のアクティブ制振建物10においては、アクチュエータ30は、屋上階に設けられたアクティブマスダンパー31に対して設けられたが、これに限られない。
図8に、上記実施形態のアクティブ制振建物の変形例を示す。
図8に示されるアクティブ制振建物10Aにおいては、建物本体20Aは、基礎部25上に、免震装置23を介して支持されている。基礎部25は、地盤G上に設けられた基礎スラブ26と、基礎スラブ26の外周部から上方に立ち上がる基礎周壁27と、を有している。
アクチュエータ30Aは、建物本体20Aの基部20bと、基礎周壁27との間に設けられている。アクチュエータ30Aは、基部20bと基礎周壁27との間で、水平方向に伸縮可能に設けられている。
このような構成において、上記実施形態において図3の工程S210においては、アクチュエータ制御部44は、演算処理部43から出力された将来の地震動波形Wfの波形データに基づいて、アクチュエータ30Aを作動させるための指令を出力する。これにより、アクチュエータ30Aは、上記のようにして地震動の予測システム40で推定された将来の地震動波形Wfに基づいて、将来の時刻の各々で当該時刻において想定される振幅の地振動を打ち消すように、地震動と反対向きの力を発生するよう、アクチュエータ30Aを作動させる指令を生成する。例えば、アクチュエータ30Aは、振幅が極大値P4~P6、または極小値Q4~Q6となる将来の時刻Tp4~Tp6、Tq4~Tq6に、振幅xp4~xp6、xq4~xq6の地震動を打ち消すよう、地震動と反対向きの力を発生する(工程S30)。
【0037】
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0038】
10、10A アクティブ制振建物 Q3 最も新しい極小値
40 地震動の予測システム Wf 将来の地震動波形
41 予測処理装置 Ws 観測地震動波形
43 演算処理部 dTp1、dTq1 周期
45 表示部 α 増加率閾値
50 地震計 Tp3 最も新しい極大値に相当する時刻
F1、F2 多項式 Tq3 最も新しい極小値に相当する時刻
P、P1~P6 極大値 Tp4、Tq4 第1将来時刻(将来の時刻)
P3 最も新しい極大値 Tp5、Tq5 第2将来時刻(将来の時刻)
Q、Q1~Q6 極小値 Tp6、Tq6 第3将来時刻(将来の時刻)
xp1~xp3、xq1~xq3 観測地震動波形の振幅
xp3 最も新しい極大値となる振幅
xq3 最も新しい極小値となる振幅
xp4、xq4 第1将来振幅(将来の時刻における振幅)
xp5、xq5 第2将来振幅(将来の時刻における振幅)
xp6、xq6 第3将来振幅(将来の時刻における振幅)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8