(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147044
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】船舶用ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B63H 25/42 20060101AFI20220929BHJP
B63H 25/24 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B63H25/42 B
B63H25/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048133
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067356
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 容一郎
(72)【発明者】
【氏名】桐原 建一
(72)【発明者】
【氏名】菊地 典夫
(72)【発明者】
【氏名】安間 友輔
(72)【発明者】
【氏名】福士 恭平
(72)【発明者】
【氏名】小暮 章浩
(57)【要約】
【課題】操縦性を向上させた船舶用ステアリング装置を提供する。
【解決手段】船舶用ステアリング装置30は、舵取装置20に対して機械的に分離されたハンドル11と、前記ハンドル11の操舵角θを検出する操舵角検出部33と、前記ハンドル11に付加する反力トルクTrを発生する反力モータ31と、前記操舵角θと前記ハンドル11に求められる目標操舵トルクTsとの基本関係を関連付けた操舵特性マップに基づいて前記操舵角θに応じた前記反力トルクTrが得られるように前記反力モータ31を制御する反力制御部40とを備える。前記操舵特性マップは、前記操舵角θが零からの第1操舵領域A1に対し、前記操舵角θが前記第1操舵領域A1よりも大きい第2操舵領域A2では、前記操舵角θに対する前記目標操舵トルクTsの変化量が小さい特性を有している。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体に装着可能な船外機と、
前記船外機の舵取装置に対して機械的に分離されているとともに、前記舵取装置を電気的に操舵可能なハンドルと、
前記ハンドルの操舵角を検出する操舵角検出部と、
前記ハンドルに付加する反力トルクを発生する反力モータと、
前記操舵角と前記ハンドルに求められる目標操舵トルクとの、基本関係を関連付けた操舵特性マップを記憶する記憶部と、
前記操舵特性マップに基づき、前記操舵角に応じた前記反力トルクが得られるように、前記反力モータを駆動する駆動電流値を制御する反力制御部と、を備え、
前記操舵特性マップは、前記操舵角が零から予め設定された第1操舵領域に対し、前記操舵角が前記第1操舵領域よりも大きい第2操舵領域では、前記操舵角に対する前記目標操舵トルクの変化量が小さい特性を有している、船舶用ステアリング装置。
【請求項2】
前記船体の速度を検出する船速検出部を、更に備え、
前記操舵特性マップは、前記速度が高速であるほど、前記操舵角に対する前記目標操舵トルクが大きくなる特性を有している、請求項1に記載の船舶用ステアリング装置。
【請求項3】
前記反力モータから前記ハンドルへ付加された前記反力トルクを検出する反力トルク検出部を、更に備え、
前記反力制御部は、前記反力トルク検出部によって検出された前記反力トルクに基づいて、フィードバック制御を実行している、請求項1又は請求項2に記載の船舶用ステアリング装置。
【請求項4】
前記船体の挙動を判定する船体挙動判定部を、更に備え、
前記反力制御部は、前記船体挙動判定部によって判断された前記船体の挙動の変化に応じて、前記操舵角に対する前記目標操舵トルクの特性を補正するように、前記駆動電流値を補正している、請求項1~3のいずれか1項に記載の船舶用ステアリング装置。
【請求項5】
前記操舵特性マップは、前記操舵角が予め設定されている上限値に達したときに、前記目標操舵トルクを急増させる特性を有している、請求項1~4のいずれか1項に記載の船舶用ステアリング装置。
【請求項6】
前記操舵角に基づいて前記ハンドルの操舵方向を判定する操舵角方向判定部を、更に備え、
前記操舵特性マップは、前記操舵方向が切り増し操作方向である場合の、前記操舵角に対する前記目標操舵トルクの第1特性と、前記操舵方向が切り戻し操作方向である場合の、前記操舵角に対する前記目標操舵トルクの第2特性と、を有するとともに、前記第1特性よりも前記第2特性が小さくなるヒステリシスを有しており、
前記反力制御部は、前記操舵角方向判定部により判定された前記操舵方向に従って、前記第1特性または前記第2特性を選択し、前記選択した特性に基づき、前記操舵角に応じた前記反力トルクが得られるように、前記反力モータを駆動する駆動電流値を制御する、請求項1~5のいずれか1項に記載の船舶用ステアリング装置。
【請求項7】
前記ハンドルが把持された状態であるか否かを検出する把持検出部と、
前記ハンドルが把持された状態であることを前記把持検出部によって検出された条件下で、前記操舵角検出部によって検出された前記操舵角に基づいて、前記ハンドルを掴んだまま操舵をしない保舵状態であるか否かを判定する保舵状態判定部とを、更に備え、
前記反力制御部は、前記保舵状態判定部によって、前記保舵状態から非保舵状態へ切り替わったと判定された場合に、前記操舵特性マップのなかの前記第2特性を実行する、請求項6に記載の船舶用ステアリング装置。
【請求項8】
前記反力制御部は、前記把持検出部によって、前記ハンドルが把持された状態から把持されない状態に切り替わったことを検出された場合に、予め設定されている操舵角戻し速度によって前記ハンドルを中立位置へ復帰させるように、前記反力モータを駆動する駆動電流値を制御する、請求項7に記載の船舶用ステアリング装置。
【請求項9】
前記操船者が操舵する意思を判定する操舵意思判定部を、更に備え、
前記反力制御部は、
現時点の前記操舵角を維持する意思があると操舵意思判定部によって判定された場合には、現時点の前記操舵角を維持するように、前記反力モータを駆動する駆動電流値を制御するとともに、
前記操船者が自分自身で操舵する意思があると操舵意思判定部によって判定された場合には、前記反力モータによって現時点の前記操舵角を維持する駆動電流値の制御を解除する、請求項6に記載の船舶用ステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶用ステアリング装置には、電気アシスト油圧ステアリング技術が採用され始めている。しかしながら、電気アシスト油圧ステアリングには、操舵フィーリングや船体応答性の観点で改善の余地が残っている。そこで近年、運転席のハンドルと船外機の舵取装置とを機械的に分離した構成の、いわゆるステアバイワイヤ方式の船舶用ステアリング装置の開発が進められている。この種の船舶用ステアリング装置に関する従来技術として、例えば特許文献1に開示される技術がある。
【0003】
特許文献1に示される船舶用ステアリング装置では、運転席のハンドルは船外機の舵取装置から機械的に分離しているとともに、舵取装置を電気的に操舵可能である。つまり、ハンドルの操舵角に基づいて制御された電動モータによって、舵取装置の転舵力を発生させる。ハンドルには、操舵に応じた反力がハンドルモータ(反力モータ)から付加される。操船者は、ハンドル操作の手ごたえとして反力を感じながら操縦できる。このハンドルモータは、ハンドルを回して操舵した後、ハンドルを中立位置へ戻すための復帰モータとして機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ステアバイワイヤ方式を採用した場合に、反力モータからハンドルに単に反力を付加するだけでは、ハンドルと舵取装置とが機械的に連結されている従来のステアリング装置と比べて、操船者は操舵に違和感を覚えることがあり得る。例えば、船外機のプロペラの水掻き特性による、船体の応答性に左右差が発生しやすい。これまでよりも操縦性を向上させた船舶用ステアリング装置が求められている。
【0006】
本発明は、操縦性を向上させた船舶用ステアリング装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、鋭意検討の結果、操船者が船体の挙動を体で感じ取り、船体の状態を探りながら操舵する場合には、操船者がハンドルを操舵するときに、操舵角が小さい領域と操舵角が大きい領域とでは、操舵トルクが異なることに着目した。そして、ハンドルの操舵角と、ハンドルに求められる目標操舵トルクと、の関係を操舵特性マップによって関連付けることにより、もっと操縦性を向上させた船舶用ステアリング装置が得られることを知見した。本発明は、当該知見に基づいて完成させた。本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、ステアバイワイヤ方式の船において、操縦に違和感のない船用操舵装置を提供することを目的とする。
【0008】
以下、本開示について説明する。
本開示によれば、船体に装着可能な船外機と、前記船外機の舵取装置に対して機械的に分離されているとともに、前記舵取装置を電気的に操舵可能なハンドルと、前記ハンドルの操舵角を検出する操舵角検出部と、前記ハンドルに付加する反力トルクを発生する反力モータと、前記操舵角と前記ハンドルに求められる目標操舵トルクとの、基本関係を関連付けた操舵特性マップを記憶する記憶部と、前記操舵特性マップに基づき、前記操舵角に応じた前記反力トルクが得られるように、前記反力モータを駆動する駆動電流値を制御する反力制御部と、を備え、前記操舵特性マップは、前記操舵角が零から予め設定された第1操舵領域に対し、前記操舵角が前記第1操舵領域よりも大きい第2操舵領域では、前記操舵角に対する前記目標操舵トルクの変化量が小さい特性を有している、船舶用ステアリング装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、操縦性を向上させた船舶用ステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1による船舶用ステアリング装置を搭載した船体の平面模式図である。
【
図2】
図1に示される船舶用ステアリング装置の制御の内容を説明するブロック図である。
【
図3】
図2に示される記憶部に記憶されている操舵特性マップの概念図である。
【
図4】実施例2による船舶用ステアリング装置の制御の内容を説明するブロック図である。
【
図5】
図4に示される記憶部に記憶されている操舵特性マップの概念図である。
【
図6】実施例3による船舶用ステアリング装置の制御の内容を説明するブロック図である。
【
図7】実施例4による船舶用ステアリング装置の制御の内容を説明するブロック図である。
【
図8】実施例5による船舶用ステアリング装置の操舵特性マップの概念図である。
【
図9】実施例6による船舶用ステアリング装置の制御の内容を説明するブロック図である。
【
図10】
図9に示される記憶部に記憶されている操舵特性マップの概念図である。
【
図11】実施例7による船舶用ステアリング装置の制御の内容を説明するブロック図である。
【
図12】実施例8による船舶用ステアリング装置の制御の内容を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、添付図に示した形態は本発明の一例であり、本発明は当該形態に限定されない。説明中、左右とは船体の直進状態を基準として左右、前後とは船体の直進状態を基準として前後を指す。また、図中Frは前(進行方向)、Rrは後(進行方向に対して逆方向)、Liは左、Riは右を示している。
【0012】
<実施例1>
図1~
図3を参照しつつ、実施例1の船体10及びこの船体10に搭載された船舶用ステアリング装置30を説明する。
【0013】
図1に示されるように、船体10は、前部にハンドル11(操舵部材11)を備え、後部に船外機12を備えている。船外機12は、船外機本体13と、船外機本体13の下部に設けられたにプロペラ14と、このプロペラ14を駆動する動力源15とを備えている。この船外機12の前部は、船体10に垂直なスイベル軸16によって左右へ揺動可能に支持されているとともに、舵取装置20に連結されている。
【0014】
舵取装置20は、例えば、船体10の幅方向へ延びた固定軸21と、この固定軸21にボールねじ機構22を介して出力軸が連結された舵取り用モータ23と、この舵取り用モータ23と共に固定軸21に沿って移動可能な移動体24と、この移動体24に連結されたリンク機構25とを備える。このリンク機構25は、船外機本体13に連結されている。
【0015】
舵取り用モータ23の動力は、ボールねじ機構22を介して、固定軸21に沿う方向への移動体24の直線運動に変換される。この移動体24の直線運動は、リンク機構25を介して、スイベル軸16を中心とした船外機12の左右揺動運動に変換される。このようにして、舵取装置20は、舵取り用モータ23の動力によって船外機12の向きを変えることにより、転舵する。
【0016】
船舶用ステアリング装置30は、運転席のハンドル11と、船外機12の舵取装置20とを機械的に分離しているとともに、ハンドル11によって舵取装置20を電気的に操舵可能な構成の、いわゆるステアバイワイヤ方式を採用している。
【0017】
ハンドル11は、例えばステアリングホイールによって構成されるとともに、ステアリング軸11aを備えている。ステアリング軸11aには、ハンドル11に対して操舵反力(反力トルク)を付加する反力モータ31が連結されている。反力モータ31(図示せぬ各種のアクチュエータを含む)は、操船者が操舵するハンドル11の操舵力に抵抗する、反力トルクを発生することによって、操船者に操舵感を与える。この反力モータ31は、電動モータによって構成されている。
【0018】
ここで、「反力トルクTr」とは、ハンドル11に対して、その操舵方向とは逆方向のトルクのことである。上述のように、ハンドル11と舵取装置20とを機械的に分離しているので、ハンドル操作の手ごたえがない。これに対処するために、反力モータ31は、ハンドル11に対して、操船者の操舵方向とは逆方向のトルクを付与する。このため、操船者は、ハンドル操作の手ごたえとしてトルク(反力トルクTr)を感じながら操縦できる。反力トルクTrは、ハンドル11と舵取装置20とが機械的に結合されている場合に必要な、操舵トルクを勘案して設定される。
【0019】
ハンドル11の操舵情報は、制御部32に送られる。この操舵情報の1つは、操舵角検出部33によって検出された、ハンドル11の操舵角θである。
【0020】
制御部32は、マイクロコンピュータ等を含む電子制御ユニット(ECU)により構成されており、ハンドル11の操舵情報を含む各種の情報に基づいて、舵取り用モータ23を駆動制御する。さらに制御部32は、反力モータ31を駆動制御する反力制御部40を備えている。
【0021】
図2に示されるように、反力制御部40は、コンピュータが所定のプログラム処理を実行することによってソフトウエア的に実現される複数の機能処理部を有している。この反力制御部40は、操舵角検出部33によって検出された操舵角θに応じた目標反力トルクを算出する目標反力トルク演算部41と、目標反力トルク演算部41から出力された目標反力トルクに応じて反力モータ31に対する目標電流を決定する目標モ-タ電流演算部42と、目標モ-タ電流演算部42から出力された目標電流に応じて反力モータ31を例えばPWM制御によって駆動するモータ駆動部43とを備えている。
【0022】
このようにして駆動された反力モータ31は、ハンドル11に対して、その操舵方向とは逆方向の反力トルクTrを付与する動作をなす。
【0023】
反力制御部40は、操舵特性マップを記憶する記憶部44を備えている。なお、この記憶部44は、反力制御部40とは別に構成してもよい。
【0024】
図3も参照すると、操舵特性マップは、操舵角検出部33によって検出された操舵角θと、ハンドル11に求められる目標操舵トルクTsとの、基本関係を関連付けてマップ化したものである。この操舵特性マップの操舵特性は、ハンドル11の左操舵と右操舵の、どちらも同じ特性である。
【0025】
ここで、操船者によるハンドル11の操作について、次のように定義する。操船者がハンドル11の操舵角θを増す操作のことを、「切り増し操作」という。操船者がハンドル11の操舵角θを減らす操作、つまりハンドル11を中立方向へ戻す操作のことを、「切り戻し操作」という。
【0026】
図3に示されるように、操舵特性マップは、横軸を操舵角θとし縦軸を目標操舵トルクTsとして、操舵角θに対する目標操舵トルクTsを求める曲線Q1の特性(実線によって示される基本特性曲線Q1)を有している。
【0027】
この基本特性曲線Q1によれば、操舵角θが零のとき、つまりハンドル11が中立位置にあるときには、目標操舵トルクTsは一定値Ts1に予め設定されている。この一定値Ts1のことを「操舵トルク不感値Ts1」という。基本特性曲線Q1に操舵トルク不感値Ts1を設定しているので、中立位置(θ=0)に位置しているハンドル11を切り増し操作するには、操舵トルク不感値Ts1を超える操舵トルクTsを必要とする。ハンドル11の操舵方向の振らつきを規制することができるので、船体10の直進時に、確実に直進操舵している感覚を、操船者に与えることができる。ハンドル11の左操舵と右操舵の、どちらでも同じである。
【0028】
さらに、基本特性曲線Q1は、操舵トルク不感値Ts1から、操舵角θの増大に応じて目標操舵トルクTsが右肩上がりに増大する特性を有する。より詳しく述べると、基本特性曲線Q1は、操舵角θが零から予め設定された第1操舵領域A1に対し、操舵角θが第1操舵領域A1よりも大きい第2操舵領域A2では、操舵角θに対する目標操舵トルクTsの変化量が小さい特性を有している。
【0029】
つまり、第1操舵領域A1では、操舵角θの変化量に対して、目標操舵トルクTsの変化量が、第2操舵領域A2における変化量よりも大きい。第2操舵領域A2では、操舵角θの変化量に対して、目標操舵トルクTsの変化量が、第1操舵領域A1における変化量よりも小さい。第1操舵領域A1と第2操舵領域A2との境界(操舵角θが境界トルクθ1)付近では、操舵角θに対して目標操舵トルクTsが曲線的に変化する。
【0030】
次に、
図2及び
図3を参照しつつ、反力制御部40の作用を説明する。目標反力トルク演算部41は、操舵角検出部33によって検出された操舵角θと、
図3に示される操舵特性マップの特性に従って、目標反力トルクを求め、この目標反力トルクに応じた反力指示信号を、目標モ-タ電流演算部42に出力する。目標モ-タ電流演算部42は、目標反力トルク演算部41から出力された目標反力トルクに応じて、反力モータ31に対する目標電流を決定し、この目標電流に応じて反力モータ31に出力する電流を制御する。モータ駆動部43は、目標モ-タ電流演算部42から出力された電流制御信号に応じて、反力モータ31を駆動する。
【0031】
このように、反力制御部40は、操舵特性マップに基づき、操舵角θに応じた目標操舵トルクTsが得られるように、反力モータ31を駆動する駆動電流値を制御する。
【0032】
実施例1についてまとめると、次のとおりである。
図1~
図3に示されるように、船舶用ステアリング装置30は、船体10に装着可能な船外機12と、前記船外機12の舵取装置20に対して機械的に分離されているとともに、前記舵取装置20を電気的に操舵可能なハンドル11と、前記ハンドル11の操舵角θを検出する操舵角検出部33と、前記ハンドル11に付加する反力トルクTrを発生する反力モータ31と、前記操舵角θと前記ハンドル11に求められる目標操舵トルクTsとの、基本関係を関連付けた操舵特性マップを記憶する記憶部44と、前記操舵特性マップに基づき、前記操舵角θに応じた前記反力トルクTrが得られるように、前記反力モータ31を駆動する駆動電流値を制御する反力制御部44と、を備える。前記操舵特性マップは、前記操舵角θが零から予め設定された第1操舵領域A1に対し、前記操舵角θが前記第1操舵領域A1よりも大きい第2操舵領域A2では、前記操舵角θに対する前記目標操舵トルクTsの変化量が小さい特性を有している。
【0033】
このように、反力制御部44は、操舵角θと目標操舵トルクTsとを関連付けた操舵特性マップに基づいて、反力モータ31を制御する。つまり、ハンドル11の左操舵時と右操舵時とで、同じ操舵特性マップを用いる。これにより、左操舵時と右操舵時とで、同じ操舵フィーリングで舵取装置20を操舵することができる。操船者は、左右へのハンドル11の操作の手ごたえとして、左右同じような反力トルクTrを感じながら操縦できる。この結果、操縦に違和感のない、ステアバイワイヤ方式の船舶用ステアリング装置30を提供することができる。
【0034】
さらには、操舵特性マップにおいて、操舵角θに対する目標操舵トルクTsの変化量(勾配)の特性は、操舵角θが小さい第1操舵領域A1では大きく設定され、操舵角θが大きい第2操舵領域A2では小さくされている。
【0035】
一般に、操舵角θが小さい領域、すなわち船体10の特性として横方向の加速度(横加速度)、ヨーレート、船体10の傾斜量(傾き角)などの物理量が小さい状態では、操船者はハンドル11を弱く握り、手や腕に弱い力を入れた状態で操舵を行うことが多い。このため、ハンドル11の操舵角制御が難しく、船体10の挙動と相関の強い操舵トルク情報を用いて操舵を行う。
【0036】
これに対して実施例1では、ハンドル11を切り増し操作する場合に、ハンドル11の操舵角θに対する目標操舵トルクTsの変化量(勾配)が大きく、その変化をより操舵感覚として感じやすい第1操舵領域A1で操舵する。
【0037】
一方、操舵角θが大きい領域、すなわち船体10の特性として横方向の加速度(横加速度)、ヨーレート、船体10の傾斜量(傾き角)などの物理量が大きい状態では、操船者はハンドル11を強く握り、手や腕に強い力を入れた状態で操舵を行うことが多い。手の位置での操舵トルクの検出精度が下がるので、操舵角θの制御の精度が上がる。このため、操舵トルク特性が緩やかな方が、操舵角θを制御しやすいので、第2操舵領域A2で操舵をする。
【0038】
以上の関係から、
図3に示されるように、操縦性を確保した基本特性として、操舵角θが小さい第1操舵領域A1では、操舵角θに対する目標操舵トルクTsの変化量が大きい特性とし、操舵角θが大きい第2操舵領域A2では、操舵角θに対する目標操舵トルクTsの変化量が小さい特性としている。このように、操舵領域A1,A2によって目標操舵トルクTsの変化量を変えることによって、ハンドル11による操縦性を向上することができる。
【0039】
なお、操舵特性マップにおいて、第1操舵領域A1と第2操舵領域A2との境界点(境界トルクθ1)は、操船者がハンドル11を操舵する操舵性を考慮して最適な点に設定される。
【0040】
<実施例2>
図4~
図5を参照しつつ、実施例2の船舶用ステアリング装置130を説明する。実施例2の船舶用ステアリング装置130は、実施例1の構成に船速検出部131を加えたことを特徴とする。実施例1と同じ構成については説明を省略する。
【0041】
図4に示されるように、実施例2の船舶用ステアリング装置130は、前記船体10の速度Vr(船速Vr)を検出する船速検出部131を備えている。反力制御部140は、実施例1の反力制御部40(
図2参照)に対応している。反力制御部140の目標反力トルク演算部141は、操舵角θ及び船速Vrに応じた目標反力トルクを算出する。
図5に示される操舵特性マップは、速度Vr(船速Vr)が高速であるほど、操舵角θに対する前記目標操舵トルクTsが大きくなる特性を有している。
【0042】
例えば、
図5に示される前記操舵特性マップでは、予め設定された基準船速の場合の特性曲線として、実施例1の基本特性曲線Q1(
図3参照)を採用している。この基本特性曲線Q1を基準として、船速Vrが基準船速よりも低速の場合には想像線によって示される低速特性曲線Q2を設定するとともに、船速Vrが基準船速よりも高速の場合には破線によって示される高速特性曲線Q3を設定している。なお、船速Vrに応じた特性曲線はQ1,Q2,Q3の3つに限定されるものではなく、船速Vrに応じた特性曲線の数は4以上であってもよい。
【0043】
このように、操舵特性マップは、船体10の速度Vr(船速Vr)が高速であるほど、操舵角θに対する目標操舵トルクTsが大きくなる特性を有している。これにより、船速Vrに応じた反力トルクTrをハンドル11に付加することができるので、操船者が操縦する負担を軽減することができるとともに、船舶用ステアリング装置130の操縦性を、より向上することができる。その他の作用、効果については、上記実施例1と同じである。
【0044】
<実施例3>
図6を参照しつつ、実施例3の船舶用ステアリング装置230を説明する。実施例3の船舶用ステアリング装置230は、実施例1~2のいずれかの構成に、フィードバック制御を行うための反力トルク検出部231及び修正モータ電流演算部232を加えたことを特徴とする。ここでは、実施例2の構成に反力トルク検出部231及び修正モータ電流演算部232を加えた構成を例示し、実施例2と同じ構成については説明を省略する。
【0045】
図6に示されるように、反力トルク検出部231は、反力モータ31からハンドル11へ付加された反力トルクTrを検出する。反力制御部240は、実施例2の反力制御部140(
図4参照)に対応している。反力制御部240の修正モータ電流演算部232は、反力トルク検出部231によって検出された反力トルクTrに応じて修正電流を設定し、目標モ-タ電流演算部42の目標電流を修正する。この結果、フィードバック制御を行うことができる。
【0046】
このように、実施例3の船舶用ステアリング装置230は、反力モータ31からハンドル11へ付加された反力トルクTrを検出する反力トルク検出部231を備えている。反力制御部240は、反力トルク検出部231によって検出された反力トルクTrに基づいて、フィードバック制御を実行している。
【0047】
このため、例えば船舶用ステアリング装置230の環境(例えば気温)の変化や、船舶用ステアリング装置230の経年劣化による各部の機械的な摩擦力の変化が発生した場合であっても、安定した反力トルクTrをハンドル11に付加することができる。従って、船舶用ステアリング装置230の操縦性を、より向上することができる。その他の作用、効果については、上記実施例2と同じである。
【0048】
<実施例4>
図7を参照しつつ、実施例4の船舶用ステアリング装置330を説明する。実施例4の船舶用ステアリング装置330は、実施例1~3のいずれかの構成に、船体10の挙動に応じてモータ電流を補正するための各種の検出部351~353、船体挙動判定部354、反力トルク補正部355及び修正モータ電流演算部356を加えたことを特徴とする。ここでは、実施例3の構成に各種の検出部351~353、船体挙動判定部354、反力トルク補正部355及び修正モータ電流演算部356を加えた構成を例示し、実施例3と同じ構成については説明を省略する。
【0049】
船体挙動判定部354、反力トルク補正部355及び修正モータ電流演算部356は、反力制御部340に組み込まれている。反力制御部340は、実施例3の反力制御部240(
図6参照)に対応している。
【0050】
船体挙動判定部354は、船体10の挙動によって発生、変動する物理量の特性を、規範特性(船体10の運動方程式からの算出量や水面環境安定時の計測値)との比較演算によって、船体10の挙動を判断する。
【0051】
船体挙動判定部354が判定するための、船体10の挙動で発生、変動する物理量を検出する検出部としては、例えばヨーレート検出部351、横加速度検出部352及び船体傾斜量検出部353を挙げることができる。ヨーレート検出部351は、船体10の走行時に船体10の上下軸まわりに回転運動(ヨーイング)が変化する速度(ヨーレート)を検出する。横加速度検出部352は、船体10の旋回時に船体10にかかる横方向の加速度を検出する。船体傾斜量検出部353は、船体10の姿勢(傾き角)を検出する。
【0052】
船体10の挙動と関係するヨーレート、横方向の加速度、傾き角などの物理量に合わせて操舵トルク特性を変更することによって、船体10と操船者との締結が強固なハンドル11を介して、船体10の挙動を感じ取ることができる。
【0053】
反力トルク補正部355は、船体挙動判定部354が判定した船体10の挙動結果に基づいて、目標反力トルク演算部141から出力された目標反力トルクを補正する。修正モータ電流演算部356は、反力トルク補正部355から出力された補正値に応じて補正電流を決定し、目標モ-タ電流演算部42の目標電流を修正する。
【0054】
このように実施例4の船舶用ステアリング装置330は、船体10の挙動を判定する船体挙動判定部354を備えている。反力制御部340は、船体挙動判定部354によって判断された船体10の挙動の変化に応じて、操舵角θに対する目標操舵トルクTsの特性を補正するように、駆動電流値を補正している。
【0055】
例えば、反力制御部340は、船体挙動判定部354によって判定された船体10の挙動の変化が大きいほど、操舵角θに対する目標操舵トルクTsの値が大きくなるように補正する。このため、船体10の挙動に応じた操舵角θに対する目標操舵トルクTsの特性を変化させることができる。従って、船舶用ステアリング装置330の操縦性を、より向上することができる。その他の作用、効果については、上記実施例3と同じである。
【0056】
<実施例5>
図1~
図3及び
図8を参照しつつ、実施例5の船舶用ステアリング装置を説明する。実施例8の船舶用ステアリング装置は、実施例1の船舶用ステアリング装置30(
図2参照)の操舵特性マップ(
図3参照)の特性を、
図8に示される操舵特性マップの特性に一部を変更したことを特徴とする。以下、操舵特性マップの特性の変更点とそれに関連する内容のみを説明し、それ以外は実施例1と同じなので、説明を省略する。
【0057】
図8に示されるように、実施例5の前記操舵特性マップは、前記操舵角θが予め設定されている上限値θsに達したときに、前記目標操舵トルクTsを急増させる特性(例えば目標操舵トルクTsを無限大にする特性)を有している。
【0058】
操舵角θの上限値θsを設定することによって、これ以上、操船者がハンドル11を切り増し操作(操舵角θを増す操作)することを規制することができる。過大な切り増し操作を規制することによって、船体10の挙動が安定した範囲に収めることができる。その他の作用、効果については、上記実施例1と同じである。
【0059】
<実施例6>
図9~
図10を参照しつつ、実施例6の船舶用ステアリング装置430を説明する。実施例6の船舶用ステアリング装置430は、実施例1~5のいずれかの構成に、ヒステリシス特性を付与するための操舵角方向判定部441及びヒステリシス特性部442を加えたことを特徴とする。ここでは、実施例4の構成に操舵角方向判定部441及びヒステリシス特性部442を加えた構成を例示し、実施例4と同じ構成については説明を省略する。
【0060】
操舵角方向判定部441及びヒステリシス特性部442は、反力制御部440に組み込まれている。反力制御部440は、実施例4の反力制御部340(
図7参照)に対応している。
【0061】
操舵角方向判定部441は、操舵角検出部33によって検出された操舵角θに基づいて、ハンドル11の操舵方向を判定する。ヒステリシス特性部442は、操舵角方向判定部441によって、ハンドル11の操舵方向が切り戻し操作方向であると判定された場合に、
図10に示される操舵特性マップのなかの第2特性Q4(ヒステリシス特性)を実行するように演算する。
【0062】
図10に示されるように、操舵特性マップは、ハンドル11を切り増し操作した場合の目標操舵トルクの第1特性Q1と、ハンドル11を切り戻し操作した場合の目標操舵トルクの第2特性Q4と、を有している。第1特性Q1は、実施例1の基本特性曲線Q1(
図3参照)を採用している。第2特性Q4は、切り増し操舵から切り戻し操舵へ切り替わったときに、第1特性Q1よりも小さくなるヒステリシス特性である。第2特性Q4によれば、操舵角θが零のとき、つまりハンドル11が中立位置にあるときには、目標操舵トルクTsは零に設定されている。
【0063】
なお、操舵角方向判定部441によって、ハンドル11の操舵方向が切り戻し操作方向であると判定された場合に、反力制御部440の反力制御部440自体が、
図10に示される操舵特性マップのなかの第2特性Q4(ヒステリシス特性)を実行するように演算してもよい。その場合には、ヒステリシス特性部442は不要である。
【0064】
実施例6についてまとめると、次のとおりである。
図9に示されるように、実施例6の船舶用ステアリング装置430は、操舵角θに基づいてハンドル11の操舵方向を判定する操舵角方向判定部441を備えている。
図10に示されるように、実施例6の操舵特性マップは、操舵方向が切り増し操作方向である場合の、操舵角θに対する目標操舵トルクの第1特性Q1と、操舵方向が切り戻し操作方向である場合の、操舵角θに対する目標操舵トルクの第2特性Q4と、を有するとともに、第1特性Q1よりも第2特性Q4が小さくなるヒステリシスを有している。反力制御部440は、操舵角方向判定部441により判定された操舵方向に従って、第1特性Q1または第2特性Q4を選択し、選択した特性に基づき、操舵角θに応じた反力トルクTrが得られるように、反力モータ31を駆動する駆動電流値を制御する。
【0065】
このように、
図10に示される操舵特性マップは、ハンドル11の操舵方向に応じたヒステリシス特性を有している。ハンドル11の操舵方向が切り戻し操作方向(中立位置へ復帰させる操作方向)の場合には、操舵角θに対する目標操舵トルクTsのトルク特性が小さく、鈍感な勾配特性とする。外乱による船体10や操船者の揺れが生じても、舵の乱れを抑制し、操縦安定性を向上することができる。その他の作用、効果については、上記実施例1や実施例6と同じである。
【0066】
<実施例7>
図11を参照しつつ、実施例7の船舶用ステアリング装置530を説明する。実施例7の船舶用ステアリング装置530は、実施例1~6のいずれかの構成に、ハンドル11から手を放した場合にハンドル11を中立位置へ戻すための、把持検出部541、保舵状態判定部542及びハンドル戻し速度演算部543及びモータ電流加減算値演算部544を加えたことを特徴とする。ここでは、実施例6の構成に把持検出部541、保舵状態判定部542及びハンドル戻し速度演算部543及びモータ電流加減算値演算部544を加えた構成を例示し、実施例6と同じ構成については説明を省略する。
【0067】
保舵状態判定部542及びハンドル戻し速度演算部543及びモータ電流加減算値演算部544は、反力制御部540に組み込まれている。反力制御部540は、実施例4の反力制御部440(
図9参照)に対応している。
【0068】
把持検出部541は、操船者がハンドル11を掴んでいるかを検出する。例えばハンドル11に設けられている静電容量式センサによって構成される。
【0069】
保舵状態判定部542は、操船者がハンドル11を掴んだまま操舵をしない状態、いわゆる保舵状態であるか否かを判定する。例えば、操船者がハンドル11を握って、予め設定された操舵角θを保った状態の場合に、保舵状態判定部542は保舵状態であると判定する。この保舵状態判定部542は、例えば、把持検出部541の検出信号と、操舵角検出部33によって検出された操舵角θと、に基づいて保舵状態であるか否かを判定する。
【0070】
保舵状態判定部542によって、保舵状態と判定された場合には、目標反力トルク演算部41は、船体10の挙動に対して舵の乱れを抑制するように電流値を制御する。例えば、反力制御部540は、
図10に示される操舵特性マップのなかの第2特性Q4(ヒステリシス特性)を実行するように演算する。
【0071】
保舵状態判定部542によって、保舵状態から非保舵状態へ切り替わったと判定された場合には、ハンドル戻し速度演算部543は、予め設定されている操舵角戻し速度によってハンドル11を中立位置(θ=0)へ復帰させるように戻し速度を演算する。モータ電流加減算値演算部544は、ハンドル戻し速度演算部543からの戻し速度に応じて電流値を演算し、目標モ-タ電流演算部42から出力される目標電流を加減する。
【0072】
実施例7についてまとめると、次のとおりである。
図11に示されるように、実施例7の船舶用ステアリング装置530は、ハンドル11が把持された状態であるか否かを検出する把持検出部541と、ハンドル11が把持された状態であることを把持検出部541によって検出された条件下で、操舵角検出部33によって検出された操舵角θに基づいて、ハンドル11を掴んだまま操舵をしない保舵状態であるか否かを判定する保舵状態判定部542と、を備えている。反力制御部540は、保舵状態判定部542によって、保舵状態から非保舵状態へ切り替わったと判定された場合に、
図10に示される操舵特性マップのなかの、第2特性Q4を実行する。
【0073】
このため、船体10の挙動に対して舵の乱れを抑制するように電流値を制御することができる。外乱による船体10や操船者の揺れが生じても、舵の乱れを抑制し、操縦安定性を向上することができる。
【0074】
さらに、反力制御部540は、把持検出部541によって、ハンドル11が把持された状態から把持されない状態に切り替わったことを検出された場合に、予め設定されている操舵角戻し速度によってハンドル11を中立位置(θ=0)へ復帰させるように、反力モータ31を駆動する駆動電流値を制御する。
【0075】
操船者がハンドル11から手を離したときには、ハンドル11を適切な操舵角戻し速度によって中立位置へ復帰させることができる。このため、操縦安定性を向上することができるとともに、操船者の快適性を向上することができる。その他の作用、効果については、上記実施例6と同じである。
【0076】
<実施例8>
図12を参照しつつ、実施例8の船舶用ステアリング装置630を説明する。実施例8の船舶用ステアリング装置630は、実施例1~7のいずれかの構成に、操船者が操舵する意思を判定するための、保舵意思検出部641、操舵意思検出部642、操舵意思判定部643及び駆動電流切り替え部644を加えたことを特徴とする。ここでは、実施例7の構成に保舵意思検出部641、操舵意思検出部642、操舵意思判定部643及び駆動電流切り替え部644を加えた構成を例示し、実施例7と同じ構成については説明を省略する。
【0077】
操舵意思判定部643及び駆動電流切り替え部644は、反力制御部640に組み込まれている。反力制御部540は、実施例7の反力制御部540(
図11参照)に対応している。
【0078】
保舵意思検出部641は、操船者が現時点の操舵角θを維持する意思があるということを明示するときに、操作する。この保舵意思検出部641は、例えば、スイッチング機能を有している操作ボタンやタッチパネル、操船者が握る握力等を検出する把持センサによって構成される。
【0079】
操舵意思検出部642は、操船者が自分自身で操舵する意思があることを検出する。この操舵意思検出部642は、例えば、反力モータ31に内蔵されているトルク・アングル・センサ)によって構成される。トルク・アングル・センサは、反力モータ31のトルクや角度を検出する。
【0080】
操舵意思判定部643は、現時点の操舵角θを維持する意思があるか否かを判定する操舵角維持意志判定部645と、操船者が自分自身で操舵する意思があるか否かを判定する操舵開始意思判定部646と、を備える。
【0081】
操舵角維持意志判定部645(旋回保舵意思判定部645)は、保舵意思検出部641の検出信号に基づいて、現時点の操舵角θを維持する意思(保舵する意思)があるか否かを判定する。
【0082】
操舵開始意思判定部646は、操舵意思検出部642の検出信号に基づいて、操船者が自分自身で操舵する意思があるか否かを判定する。例えば、操舵開始意思判定部646は、駆動電流切り替え部644から保舵司令を発している状態で、反力モータ31に内蔵されているトルク・アングル・センサ642(操舵意思検出部642)の検出信号の変動が閾値を超えた場合に、操船者が自分自身で操舵する意思有りと判定する。
【0083】
操舵角維持意志判定部645によって、操船者が保舵する意思有りと判定された場合には、駆動電流切り替え部644は、現時点の操舵角θを維持するように、目標モ-タ電流演算部42に司令する(保舵司令)。その後、操舵開始意思判定部646によって、操船者が自分自身で操舵する意思有りと判定された場合には、駆動電流切り替え部644は、現時点の操舵角θを維持する司令を解除する(解除司令)。
【0084】
実施例8についてまとめると、次のとおりである。
図12に示されるように、実施例9の船舶用ステアリング装置630は、操船者が操舵する意思を判定する操舵意思判定部643を備えている。船舶用ステアリング装置630の反力制御部640は、現時点の操舵角θを維持する意思があると操舵意思判定部643によって判定された場合には、現時点の操舵角θを維持するように、反力モータ31を駆動する駆動電流値を制御するとともに、操船者が自分自身で操舵する意思があると操舵意思判定部643によって判定された場合には、反力モータ31によって現時点の操舵角θを維持する駆動電流値の制御を解除する。
【0085】
操船者の意思に応じて操舵角θを保持することによって、船外機12の転舵角を保持することができる。このため、従来の電気アシスト油圧ステアリング装置と同様の旋回時の手放し運転をすることが可能となる。しかも、操船者の操舵意思を判断して、通常の操舵を継続することができる。その他の作用、効果については、上記実施例7と同じである。
【0086】
なお、本発明の作用及び効果を奏する限りにおいて、本発明は、実施例に限定されるものではない。
例えば、船舶用ステアリング装置30,130,230,330,430,530,630は、船体10に複数の船外機12を搭載した場合を含む。
各実施例の船舶用ステアリング装置30,130,230,330,430,530,630は、任意の1つまたは複数の実施例同士を組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の船舶用ステアリング装置30,130,230,330,430,530,630は、小型の船体10に搭載された船外機12に好適である。
【符号の説明】
【0088】
10 船体
11 ハンドル
12 船外機
20 舵取装置
30,130,230,330,430,530,630 船舶用ステアリング装置
31 反力モータ
33 操舵角検出部
40,140,240,340,440,540,640 反力制御部
44 記憶部
131 船速検出部
231 反力トルク検出部
354 船体挙動判定部
355 反力トルク補正部
441 操舵角方向判定部
442 ヒステリシス特性部
541 把持検出部
542 保舵状態判定部
543 ハンドル戻し速度演算部
641 保舵意思検出部
642 操舵意思検出部
643 操舵意思判定部
A1 第1操舵領域
A2 第2操舵領域
Q1 基本特性曲線(第1特性)
Q4 第2特性
Tr 反力トルク
Ts 目標操舵トルク
Vr 船体の速度(船速)
θ 操舵角
θs 操舵角θの上限値