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特開2022-147050イオン伝導度評価装置及びイオン伝導度評価方法並びに電解液設計装置
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  • 特開-イオン伝導度評価装置及びイオン伝導度評価方法並びに電解液設計装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147050
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】イオン伝導度評価装置及びイオン伝導度評価方法並びに電解液設計装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20220929BHJP
【FI】
H01M10/058
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048144
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬場 健
(72)【発明者】
【氏名】梶田 晴司
(72)【発明者】
【氏名】大庭 伸子
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029CJ30
(57)【要約】
【課題】電解液のイオン伝導度をより迅速に評価する。
【解決手段】粘性係数η、塩会合度α、イオンの濃度ciを、数式(1)に代入することによって電解液のイオン伝導度σを求めるイオン伝導度評価装置を用いる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性係数η、塩会合度α、イオンの濃度ciを、
【数1】
(ただし、A’、s、tはパラメータ)
に代入することによって電解液のイオン伝導度σを求めることを特徴とするイオン伝導度評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン伝導度評価装置であって、
数式(1)におけるf(α)は、塩会合度αが増加するにつれて減少する関数であって、塩会合度αが0のときに値が1となる関数であることを特徴とするイオン伝導度評価装置。
【請求項3】
請求項2に記載のイオン伝導度評価装置であって、
f(α)は、1-αであることを特徴とするイオン伝導度評価装置。
【請求項4】
請求項2に記載のイオン伝導度評価装置であって、
f(α)は、exp(-α)であることを特徴とするイオン伝導度評価装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のイオン伝導度評価装置であって、
式(1)におけるパラメータA’、s,tは、イオン伝導度σの実測値に対してフィッティングを行うことによって設定されることを特徴とするイオン伝導度評価装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のイオン伝導度評価装置において求められたイオン伝導度σに応じて電解液を設計する電解液設計装置。
【請求項7】
粘性係数η、塩会合度α、イオンの濃度ciを
【数2】
(ただし、A’、s、tはパラメータ)
に代入することによって電解液のイオン伝導度σを求めることを特徴とするイオン伝導度評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導度評価装置及びイオン伝導度評価方法並びに電解液設計装置に関する。
【背景技術】
【0002】
実験や観測が困難な超高圧や超高温などの極限状態において、また、実際に合成されていない仮想的な材料に対して物性値を予測することができるシミュレーションが計算機技術の発展に伴い活用されている。特に、分子動力学(Molecular Dynamics: MD)法は、ニュートンの運動方程式を数値的に解くことによって原子や分子の物理的な動きを模擬することができるため、拡散係数やイオン伝導度といった物性値を評価する手法として広く用いられている。MD法を用いて分子iの自己拡散係数Dを求める手法としては、Green-Kuboの方法又はEinsteinの方法が挙げられる。(非特許文献1)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Oleg Borodin and Grant D. Smith, The Journal of Physical Chemistry B 2009 113 (6), 1763-1776 DOI: 10.1021/jp809614h
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、分子動力学計算においてイオン伝導度を得ようとする場合、Green-Kuboの式又はEinsteinの式により自己拡散係数を算出する。Green-Kuboの式を用いる場合には速度相関関数がゼロに収束する程度まで、Einsteinの式を用いる場合には平均二乗変位と時間が比例するまで、長時間のサンプリングが必要である。したがって、シミュレーションにおける計算時間が長くなることが問題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの態様は、粘性係数η、塩会合度α、イオンの濃度ciを、
【数1】
(ただし、A’、s、tはパラメータ)
に代入することによって電解液のイオン伝導度σを求めることを特徴とするイオン伝導度評価装置である。
【0006】
ここで、数式(1)におけるf(α)は、塩会合度αが増加するにつれて減少する関数であって、塩会合度αが0のときに値が1となる関数であることが好適である。
【0007】
また、f(α)は、1-αであることが好適である。また、f(α)は、exp(-α)であることが好適である。
【0008】
また、式(1)におけるパラメータA’、s,tは、イオン伝導度σの実測値に対してフィッティングを行うことによって設定されることが好適である。
【0009】
本発明の別の態様は、上記イオン伝導度評価装置において求められたイオン伝導度σに応じて電解液を設計する電解液設計装置である。
【0010】
本発明の別の態様は、粘性係数η、塩会合度α、イオンの濃度ciを
【数2】
(ただし、A’、s、tはパラメータ)
に代入することによって電解液のイオン伝導度σを求めることを特徴とするイオン伝導度評価方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電解液のイオン伝導度をより迅速に評価することが可能になる。また、イオン伝導度に基づいて所望の電解液を設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態におけるイオン伝導度評価装置の構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態におけるイオン伝導度評価式のパラメータを求める方法を示すフローチャートである。
図3】本発明の実施の形態におけるイオン伝導度評価式のパラメータの例を示す図である。
図4】本発明の実施の形態におけるイオン伝導度評価方法を示すフローチャートである。
図5】有機電解液分子リストを示す図である。
図6】PC-LiPF電解液リストを示す図である。
図7】EC-1MLiPF系におけるLi-Pの動径分布関数g(r)を示す図である。
図8】本発明の実施の形態におけるイオン伝導度評価方法によって得られた予測値と実験値とを比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態におけるイオン伝導度評価装置100は、図1に示すように、処理部10、記憶部12、入力部14、出力部16及び通信部18を含んで構成される。処理部10は、CPU等の演算処理を行う手段を含む。処理部10は、記憶部12に記憶されているイオン伝導度評価プログラムを実行することによって、本実施の形態におけるイオン伝導度評価方法における機能を実現する。記憶部12は、半導体メモリやメモリカード等の記憶手段を含む。記憶部12は、処理部10とアクセス可能に接続され、イオン伝導度評価プログラム、その処理に必要な情報を記憶する。入力部14は、情報を入力する手段を含む。入力部14は、例えば、ユーザからの入力を受けるキーボード、タッチパネル、ボタン等を備える。出力部16は、ユーザから入力情報を受け付けるためのユーザインターフェース画面(UI)等のイオン伝導度評価装置100での処理結果を出力する手段を含む。出力部16は、例えば、ユーザに対して画像を呈示するディスプレイを備える。通信部18は、情報通信網102を介して、外部の情報処理装置との情報の通信を行うインターフェースを含んで構成される。通信部18による通信は有線及び無線を問わない。
【0014】
イオン伝導度評価装置100は、イオン伝導度評価プログラムを実行可能な情報処理装置であれば様々なものを適用できる。例えば、イオン伝導度評価装置100としては、据置型又は携帯型パーソナルコンピュータ(PC)、タブレット型コンピュータ等が使用できる。
【0015】
以下、本実施の形態におけるイオン伝導度評価方法について説明する。イオン伝導度評価方法は、イオン伝導度評価装置100において以下の処理を実行するイオン伝導度評価プログラムを実行することによって実現される。
【0016】
本実施の形態におけるイオン伝導度評価方法では、数式(3)で表されるイオン伝導度評価式を用いてイオン伝導度σを評価する。ここで、評価の対象となる電解液の粘性係数η、電解液中における塩会合度α、伝導するイオンの濃度cである。また、A’、s、tはそれぞれパラメータであり、イオン伝導度の実験値に対するフィッティングによって設定される。
【数3】
【0017】
ここで、関数f(α)は、塩会合度αが増加するにつれて減少する関数であって、塩会合度αが0のときに値が1となる関数である。例えば、関数f(α)は1-αやexp(-α)とすることができる。
【0018】
粘性係数ηは、実測値を用いてもよいし、既存(例えば特開2020-187577号公報に記載)の方法で分子動力学(MD)計算によって評価した値を用いてもよい。また、塩会合度α及びイオン濃度cは、分子動力学(MD)計算の解析から得ることができる。例えば、塩会合度αは、文献を参考にして、カチオンに対してアニオンが一定距離内に存在する確率を分子動力学(MD)計算から得られるトラジェクトリを解析した動径分布関数を用いて統計平均として求めることができる。また、イオン濃度cは、分子動力学(MD)計算で用いたイオン数とセル体積から体積モル濃度(mol/l)を算出することができる。
【0019】
[実施例]
図2は、数式(3)で表されるイオン伝導度評価式におけるパラメータA’、s、tを決定する方法を示すフローチャートである。
【0020】
ステップS10では、数式(3)における関数f(α)を設定した。関数f(α)は、入力部14を用いてユーザが設定することができる。上記のように、関数f(α)は塩会合度αが増加するにつれて減少する関数であって、塩会合度αが0のときに値が1となる関数とすればよい。
【0021】
ステップS12では、粘性とイオン伝導度との関係を示す実験データの収集を行った。実験データは、必要に応じて実験を行って収集してもよいし、予め準備されているデータベースから実験データを取得するようにしてもよい。
【0022】
ステップS14では、実験データに対して数式(3)をフィッティングさせてパラメータA’、s、tを決定した。ステップS10において関数f(α)が設定された数式(3)をステップS12において収集された実験データに対してフィッティングさせることによって数式(3)におけるパラメータA’、s、tを決定した。フィッティングには、例えば、最小二乗誤差法等を適用することができる。
【0023】
図3は、関数f(α)を1-α又はexp(-α)に設定して実験データに対して数式(3)のフィッティングを行って得られたパラメータA’、s、tの値の例を示す。実験データとしては、非特許文献Kondo, K. et al., “Conductivity and solvation of Li+ ions of LiPF6 in propylene carbonate solutions”, J. Phys. Chem. B 104, 5040-5044 (2000).又はLogan, E. R. et al., “A Study of the Physical Properties of Li-Ion Battery Electrolytes Containing Esters”, J. Electrochem. Soc. 165, A21-A30 (2018). doi:10.1149/2.0271802jesに記載のデータを用いた。
【0024】
図4は、数式(3)で表されるイオン伝導度評価式を用いてイオン伝導度を求める処理を示すフローチャートである。
【0025】
ステップS20では、電解液の成分及びシミュレーションに必要な温度の設定を行った。電解液の成分として、溶媒の種類・構造、塩の種類・構造・濃度が設定した。本ステップでの処理は、入力部14を用いてユーザが設定値を入力することによって実行することができる。また、通信部18を介して外部から設定値を取得するようにしてもよい。例えば、溶媒としてエチレンカーボネイト(EC)、エチルメチルカーボネイト(EMC)、酢酸メチル(MA)の3成分を10質量%刻みで混合した液とした。また、例えば、塩としてLiPFとした。
【0026】
ステップS22では、塩濃度cを決定する処理を行った。本ステップでの処理は、入力部14を用いてユーザが塩濃度cの設定値を入力することによって実行することができる。例えば、溶媒としてエチレンカーボネイト(EC)、エチルメチルカーボネイト(EMC)、酢酸メチル(MA)の3成分を10質量%刻みで混合した液とし、塩としてLiPFとした場合において、塩濃度cを0.5,1.0,1.5,2.0mol/kgとすることができる。
【0027】
ステップS24及びステップS26では、それぞれ粘性η及び塩会合度αを決定する処理が行われる。
【0028】
以下、まず実施例として適用した分子動力学(MD)シミュレーションについて説明する。分子動力学(MD)シミュレーションは、LAMMPSプログラム(version 5 Jun 2019:Plimpton, S., “Fast Parallel Algorithms for Short-Range Molecular Dynamics”, J. Comput. Phys. 117, 1-19 (1995), http://lammps.sandia.gov.)を用いて実施した。分子力場パラメータは、有機電解液分子及びオイル分子に対しては、GAFF(Wang, J. et al., “Development and testing of a general amber force field”, J. Comput. Chem. 25, 1157-1174 (2004). doi:10.1002/jcc.20035.)を適用し、電荷について有機電解液分子はRESP法(Bayly, C. I. et al., “A well-behaved electrostatic potential based method using charge restraints for deriving atomic charges: the RESP model”, J. Phys. Chem. 97, 10269-10280 (1993). doi:10.1021/j100142a004.)、オイル分子はAM1-BCC法(Jakalian, A. et al., “Fast, efficient generation of high-quality atomic charges. AM1-BCC model: I. Method”, J. Comput. Chem. 21, 132-146 (2000).)をAntechamberプログラム(Case, D. A. et al., “AMBER 2018”, University of California, San Francisco, 2018.)を用いてアサインした。なお、RESP電荷の算出には、Gaussian09プログラム(Frisch, M. J. et al., “Gaussian 09, Revision E.01”, Gaussian Inc. Wallingford CT.)によるHF/6-31G//B3LYP/6-31++G**レベルの結果を利用できる。Liに対してはJensenら(Jensen, K. P. and Jorgensen, W. L., “Halide, Ammonium, and Alkali Metal Ion Parameters for Modeling Aqueous Solutions”, J. Chem. Theory Comput. 2, 1499-1509 (2006).)によるパラメータを、PF6に対してはCanongia Lopesら(Canongia Lopes, J. N., Deschamps, J., and Padua, A. A. H., “Modeling Ionic Liquids Using a Systematic All-Atom Force Field”, J. Phys. Chem. B 108, 2038-2047 (2004).doi:10.1021/jp0362133.,Canongia Lopes, J. N., Deschamps, J., and Padua, A. A. H., “Modeling Ionic Liquids Using a Systematic All-Atom Force Field”, J. Phys. Chem. B 108, 11250-11250 (2004). (correction). doi:10.1021/jp0476996.)によるパラメータをそのまま用いた。
【0029】
初期構造には、Packmolプログラム(Martinez, L. et al., “PACKMOL: A package for building initial configurations for molecular dynamics simulations”, J. Comput. Chem. 30, 2157-2164 (2009). doi:10.1002/jcc. 21224.)を用いて、構成分子群をランダム配置で充填した立方セルを用いた。セルの大きさは、密度がオイル分子は約0.2g/cm、オイル分子以外は約1g/cmとなるように設定した。セル中の分子数は、フィッティングに用いた系において、オイル分子では80-130個、電解液分子では600個含まれるようにした。その後の評価計算では、リチウム塩が同濃度のときにセル内に同数含まれるよう、電解液構成に応じて決めた(電解液分子は538-756個、リチウム塩は0.5,1.0,1.5,2.0mのときそれぞれ28,56,84,112個)。
【0030】
分子動力学(MD)シミュレーションでは、まずエネルギー最小化後、時間刻み0.25fsにて初期構造緩和(NVE(粒子数、体積、エネルギーが一定)とNVT(粒子数、体積、温度が一定)アンサンブルを実施し、その後時間刻み1.0fs、1atm下でのNPTアンサンブルにて体積も緩和して平衡構造を作成した。得られた平衡構造から、本計算を時間刻み1.0fsのNVTアンサンブルにて行って解析に用いた。温度は、フィッティングでは実験値の測定条件に従った。すなわち、有機電解液分子(PC-LiPF含む)は25℃、オイル分子は40℃、EC-EMC(DMC)-MA系は10,20,30,40℃とした。評価での温度は、ケースに応じて設定した。長距離相互作用の計算にはPPPM法(精度パラメータは10-4)を用い、相互作用のカットオフ値は10Åとした。
【0031】
計算ステップ数については、フィッティングに用いた系では、初期構造緩和に50ps、平衡構造作成に2ns、本計算には4nsを5回繰り返し(計20ns)とした。評価計算は、初期構造緩和に0.75ps、平衡構造作成に590ps、本計算には200ps×5回(計1ns)とした。
【0032】
ただし、分子動力学(MD)シミュレーションの実行は上記例に限定されるものではない。数式(3)で表されるイオン伝導度評価式において必要とされる粘性及び塩会合度を求めることができる方法であればよい。
【0033】
ステップS24の粘性ηの計算は、特開2020-187577号公報に記載の方法に則って行うことができる。具体的には、図5及び図6に示すように、オイル分子12種に加えて、典型的な有機電解液43種、濃度が異なるPC-LiPF混合溶液9種を用いて粘性の実験値とのフィッティングを行って、粘性の評価に必要なパラメータを求めた。ここで、沸点Tbが必要となるが、有機電解液分子の沸点Tbは実験値が存在するのでそのまま使用した。一方、オイル分子及びPC-LiPF混合溶液についは沸点Tbは未知である。そこで、オイル分子については、Joback法による物性推算値を用いた。PC-LiPF混合溶液については、混合溶液の元になる単成分の有機電解液分子の沸点は既知であることから、いずれも理想液体であると仮定して、混合物のモル分率に基づいて数式(4)を用いて沸点Tb,mixedを算出した。ここで、Tb,iは分子iの単成分液体のときの沸点、χiはモル分率である。
【数4】
【0034】
ただし、LiPFの沸点は報告されていないので、沸点と融点が既知である他のリチウム塩の情報から融点と沸点の線形回帰からの予測値956Kを単成分沸点として使用した。
【0035】
せん断弾性定数については、分子動力学(MD)シミュレーションの結果を解析し、内部応力時間相関関数の短時間情報を採用した。具体的には、10fsの短時間相関値を用いた。
【0036】
ステップS26の塩会合度αの計算は、リチウム塩の会合度としてLiとPF の距離で判断した。PF はPを中心にFが6配位している八面体構造であるため、LiとPの原子間距離を用いることが簡単である。
【0037】
図7は、EC-1MLiPF系における分子動力学(MD)シミュレーションで得られた構造におけるLiとPの動径分布関数g(r)の例を示す。熱揺らぎがあるため明確ではないものの、距離rが3.6Å付近に第一ピークがあり、4.5~5Åにかけて極小値をとる。その後、距離rが離れるにつれ動径分布関数g(r)は緩やかに上昇し、図示しないが再びブロードなピークをとる。よって、LiとPF が近接(すなわち会合)しているとき、LiとPの原子間距離がこの第一ピーク内にあることを意味する。
【0038】
当該情報をもとに、会合しているLiPFを定量化する。具体的には、i番目のLiに対して最近接Pの距離ri(min)を求め、これが第一ピーク内にあれば、会合していると判定する処理を行う。すなわち、評価関数δiは、LiとPと距離rの閾値を4.2Åとして、距離ri(min)<4.2Åのときはδi=1、距離ri(min)≧4.2Åのときはδi=0とした。これを、数式(5)を用いて、系に含まれるすべてのリチウム数nLiで平均することで塩会合度αを得た。
【数5】
【0039】
ステップS28では、イオン伝導度を算出する処理が行われる。上記処理で求められたパラメータA’、s、t及び塩濃度c、粘性η、塩会合度αを数式(3)に代入することによって電解液のイオン伝導度を算出する。
【0040】
図8は、本実施の形態におけるイオン伝導度評価方法で求めたイオン伝導度の妥当性を評価するためEC-EMC-MA系の実験値(Logan, E. R. et al., “A Study of the Physical Properties of Li-Ion Battery Electrolytes Containing Esters”, J. Electrochem. Soc. 165, A21-A30 (2018). doi:10.1149/2.0271802jes)と比較した結果を示す。二乗平均平方根誤差(RMSE)は1.66mS/cm、平均絶対誤差率(MAPE)は12.1%であり、本実施の形態におけるイオン伝導度評価方法で求めたイオン伝導度は実験値と略一致していることが確認できた。
【0041】
以上のように、本実施の形態におけるイオン伝導度評価装置100及びそれを用いたイオン伝導度評価方法によれば、電解液におけるイオン伝導度をより迅速に評価することが可能になる。また、これによって、所望のイオン伝導度を有する電解液を容易に設計することが可能になる。
【符号の説明】
【0042】
10 処理部、12 記憶部、14 入力部、16 出力部、18 通信部、100 イオン伝導度評価装置、102 情報通信網。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8