(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147094
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】難燃性布帛および繊維製品
(51)【国際特許分類】
D06M 15/643 20060101AFI20220929BHJP
D03D 15/513 20210101ALI20220929BHJP
D06M 13/395 20060101ALI20220929BHJP
A41D 31/08 20190101ALI20220929BHJP
D06M 101/36 20060101ALN20220929BHJP
【FI】
D06M15/643
D03D15/12 Z
D06M13/395
A41D31/08
D06M101:36
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048204
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】島田 博樹
【テーマコード(参考)】
4L033
4L048
【Fターム(参考)】
4L033AA08
4L033AB04
4L033AB05
4L033AC03
4L033AC05
4L033BA01
4L033BA69
4L033CA18
4L033CA50
4L033CA59
4L048AA25
4L048CA01
4L048CA03
4L048CA06
4L048CA08
4L048DA02
(57)【要約】
【課題】メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含み、極めて優れた難燃性を有し、環境に配慮した撥水性および引裂き強力にも優れた難燃性布帛および繊維製品を提供する。
【解決手段】メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛であって、炭化水素系化合物、シリコーン系化合物、ウレタン系化合物、アクリル系化合物、およびワックスからなる群から選択されるいずれかを含む撥水剤を含み、ISO15025:2000A法で規定される燃焼試験で残炎時間が2秒以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛であって、炭化水素系化合物、シリコーン系化合物、ウレタン系化合物、アクリル系化合物、およびワックスからなる群から選択されるいずれかを含む撥水剤を含み、かつISO15025:2000A法で規定される燃焼試験で残炎時間が2秒以下であることを特徴とする難燃性布帛。
【請求項2】
布帛にアルキルフルオロポリマーが含まれない、請求項1に記載の難燃性布帛。
【請求項3】
布帛にブロックイソシアネートが含まれる、請求項1または請求項2に記載の難燃性布帛。
【請求項4】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維が布帛質量対比50質量%以上含まれる、請求項1~3のいずれかに記載の難燃性布帛。
【請求項5】
JIS L 1092 スプレー法により測定した撥水度が4級以上である、請求項1~4のいずれかに記載の難燃性布帛。
【請求項6】
布帛の目付けが120~300g/m2 の範囲内である、請求項1~5のいずれかに記載の難燃性布帛。
【請求項7】
JIS L0217法に規定された洗濯(但し、JAFET標準配合洗剤を使用)を10回行った後において、JIS L 1092 スプレー法により測定した撥水度が3級以上である、請求項1~6のいずれかに記載の難燃性布帛。
【請求項8】
ISO17493に規定される180℃5分間の熱処理を行った際の熱収縮率が5%以下である、請求項1~7のいずれかに記載の難燃性布帛。
【請求項9】
前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維が、有機染料、有機顔料または無機顔料を含む、請求項1~8のいずれかに記載の難燃性布帛。
【請求項10】
JISL1096D法に規定される方法で測定した引裂強力が10N以上である、請求項1~9のいずれかに記載の難燃性布帛。
【請求項11】
引裂き強力が撥水剤除去後に下がる、請求項1~10のいずれかに記載の難燃性布帛。
【請求項12】
前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維において、残存溶媒量が0.1質量%以下である、請求項1~11のいずれかに記載の難燃性布帛。
【請求項13】
前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維において、結晶化度が15~50%の範囲内である、請求項1~12のいずれかに記載の難燃性布帛。
【請求項14】
請求項1~13のいずれかに記載された難燃性布帛を用いてなり、防護服、消防防火服、消防活動服、救助服、ワークウェア、警察制服、自衛隊衣服、および軍服からなる群より選択されるいずれかの繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含み、極めて優れた難燃性を有し、環境に配慮した撥水性および引裂き強力にも優れた難燃性布帛および繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、防護服、消防防火服、消防活動服、救助服、難燃ワークウェア、警察制服、自衛隊衣服、軍服などの用途で、難燃性を有する布帛が用いられている。
一方、近年では、難燃性だけでなく、環境に配慮した撥水性および引裂き強力にも優れた難燃性布帛が求められている。撥水性を有する布帛としては、これまで各種提案されているが、難燃性、環境に配慮した撥水性および引裂き強力の点でまだ満足とは言えなかった(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60-94645号公報
【特許文献2】特開昭61-70043号公報
【特許文献3】特開2017-145521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含み、極めて優れた難燃性を有し、環境に配慮した撥水性および引裂き強力にも優れた難燃性布帛および繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
かくして、本発明によれば「メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛であって、炭化水素系化合物、シリコーン系化合物、ウレタン系化合物、アクリル系化合物、およびワックスからなる群から選択されるいずれかを含む撥水剤を含み、かつISO15025:2000A法で規定される燃焼試験で残炎時間が2秒以下であることを特徴とする難燃性布帛。」が提供される。
【0006】
その際、布帛にアルキルフルオロポリマーが含まれないことが好ましい。また、布帛にブロックイソシアネートが含まれることが好ましい。また、メタ型全芳香族ポリアミド繊維が布帛質量対比50質量%以上含まれることが好ましい。また、前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維において、残存溶媒量が0.1質量%以下であることが好ましい。また、前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維において、結晶化度が15~50%の範囲内であることが好ましい。
【0007】
本発明の難燃性布帛において、JIS L 1092 スプレー法により測定した撥水度が4級以上であることが好ましい。また、布帛の目付けが120~300g/m2 の範囲内であることが好ましい。また、JIS L0217法に規定された洗濯(但し、JAFET標準配合洗剤を使用)を10回行った後において、JIS L 1092 スプレー法により測定した撥水度が3級以上であることが好ましい。また、引裂き強力が10N以上であることが好ましい。また、ISO5077に規定される方法で5回洗濯した後の収縮率が5%以下であることが好ましい。また、ISO17493に規定される180℃5分間の熱処理を行った際の熱収縮率が5%以下であることが好ましい。また、前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維が、有機染料、有機顔料または無機顔料を含むことが好ましい。
【0008】
また、本発明によれば、前記の難燃性布帛を用いてなり、防護服、消防防火服、消防活動服、救助服、ワークウェア、警察制服、自衛隊衣服、および軍服からなる群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含み、極めて優れた難燃性を有し、環境に配慮した撥水性および引裂き強力にも優れた難燃性布帛および繊維製品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。まず、本発明で用いるメタ型全芳香族ポリアミド繊維(メタ型アラミド繊維)とは、その繰返し単位の85モル%以上がm-フェニレンイソフタルアミドであるポリマーからなる繊維である。かかるメタ型全芳香族ポリアミドは、15モル%未満の範囲内で第3成分を含んだ共重合体であっても差しつかえない。
【0011】
このようなメタ型全芳香族ポリアミドは、従来から公知の界面重合法により製造することができ、そのポリマーの重合度としては、0.5g/100mlの濃度のN-メチル-2-ピロリドン溶液で測定した固有粘度(I.V.)が1.3~1.9dl/gの範囲のものが好ましく用いられる。
【0012】
上記メタ型全芳香族ポリアミドにはアルキルベンゼンスルホン酸オニウム塩が含有されていてもよい。アルキルベンゼンスルホン酸オニウム塩としては、ヘキシルベンゼンスルホン酸テトラブチルフォスフォニウム塩、ヘキシルベンゼンスルホン酸トリブチルベンジルフォスフォニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラフェニルフォスフォニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸トリブチルテトラデシルフォスフォニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルフォスフォニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸トリブチルベンジルアンモニウム塩等の化合物が好ましく例示される。なかでもドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルフォスフォニウム塩、またはドデシルベンゼンスルホン酸トリブチルベンジルアンモニウム塩は、入手しやすく、熱的安定性も良好なうえ、N-メチル-2-ピロリドンに対する溶解度も高いため特に好ましく例示される。
【0013】
上記アルキルベンゼンスルホン酸オニウム塩の含有割合は、十分な染色性の改良効果を得るために、ポリ-m-フェニレンイソフタルアミドに対して2.5モル%以上、好ましくは3.0~7.0モル%の範囲にあるものが好ましい。
【0014】
また、ポリ-m-フェニレンイソフタルアミドとアルキルベンゼンスルホン酸オニウム塩を混合する方法としては、溶媒中にポリ-m-フェニレンイソフタルアミドを混合、溶解し、それにアルキルベンゼンスルホン酸オニウム塩を溶媒に溶解する方法などが用いられそのいずれを用いてもよい。このようにして得られたドープは、従来から公知の方法により繊維に形成される。
【0015】
メタ型全芳香族ポリアミド繊維に用いるポリマーは、染着性や耐変褪色性を向上させる等目的で、下記の式(1)で示される反復構造単位を含む芳香族ポリアミド骨格中に、反復構造の主たる構成単位とは異なる芳香族ジアミン成分、または芳香族ジカルボン酸ハライド成分を、第3成分として芳香族ポリアミドの反復構造単位の全量に対し1~10mol%となるように共重合させることも可能である。
-(NH-Ar1-NH-CO-Ar1-CO)- ・・・式(1)
ここで、Ar1はメタ配位または平行軸方向以外に結合基を有する2価の芳香族基である。
【0016】
また、第3成分として共重合させることも可能であり、式(2)、(3)に示した芳香族ジアミンの具体例としては、例えば、p-フェニレンジアミン、クロロフェニレンジアミン、メチルフェニレンジアミン、アセチルフェニレンジアミン、アミノアニシジン、ベンジジン、ビス(アミノフェニル)エーテル、ビス(アミノフェニル)スルホン、ジアミノベンズアニリド、ジアミノアゾベンゼン等が挙げられる。式(4)、(5)に示すような芳香族ジカルボン酸ジクロライドの具体例としては、例えば、テレフタル酸クロライド、1,4-ナフタレンジカルボン酸クロライド、2,6-ナフタレンジカルボン酸クロライド、4,4’-ビフェニルジカルボン酸クロライド、5-クロルイソフタル酸クロライド、5-メトキシイソフタル酸クロライド、ビス(クロロカルボニルフェニル)エーテルなどが挙げられる。
【0017】
H2N-Ar2-NH2 ・・・式(2)
H2N-Ar2-Y-Ar2-NH2 ・・・式(3)
XOC-Ar3-COX ・・・式(4)
XOC-Ar3-Y-Ar3-COX ・・・式(5)
【0018】
ここで、Ar2はAr1とは異なる2価の芳香族基、Ar3はAr1とは異なる2価の芳香族基、Yは酸素原子、硫黄原子、アルキレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種の原子又は官能基であり、Xはハロゲン原子を表す。
【0019】
また、メタ型全芳香族ポリアミド繊維の結晶化度は、染料の吸尽性がよく、より少ない染料でまたは染色条件が弱くても狙いの色に調整し易いという点で、15~50%であることが好ましい。さらには、染料の表面偏在が起こり難く耐変褪色性も高い点および実用上必要な寸法安定性も確保できる点で15~25%であることがより好ましい。
【0020】
また、メタ型全芳香族ポリアミド繊維の残存溶媒量は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維の優れた難燃性能を損なわない点で、0.1質量%以下(好ましくは0.001~0.1質量%)であることが好ましい。
【0021】
前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維は以下の方法により製造することができ、特に後述する方法により、結晶化度や残存溶媒量を上記範囲とすることができる。
メタ型全芳香族ポリアミドポリマーの重合方法としては、特に限定する必要はなく、例えば特公昭35-14399号公報、米国特許第3360595号公報、特公昭47-10863号公報などに記載された溶液重合法、界面重合法を用いてもよい。
【0022】
紡糸溶液としては、とくに限定する必要はないが、上記溶液重合や界面重合などで得られた、芳香族コポリアミドポリマーを含むアミド系溶媒溶液を用いても良いし、上記重合溶液から該ポリマーを単離し、これをアミド系溶媒に溶解したものを用いても良い。
【0023】
ここで用いられるアミド系溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどを例示することができるが、とくにN,N-ジメチルアセトアミドが好ましい。
【0024】
上記の通り得られた共重合芳香族ポリアミドポリマー溶液は、さらにアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を含むことにより安定化され、より高濃度、低温での使用が可能となり好ましい。好ましくはアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩がポリマー溶液の全重
量に対して1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下である。
紡糸・凝固工程においては、上記で得られた紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を凝固液中に紡出して凝固させる。
【0025】
紡糸装置としては特に限定されるものではなく、従来公知の湿式紡糸装置を使用することができる。また、安定して湿式紡糸できるものであれば、紡糸口金の紡糸孔数、配列状態、孔形状等は特に制限する必要はなく、例えば、孔数が1000~30000個、紡糸孔径が0.05~0.2mmのスフ用の多ホール紡糸口金等を用いてもよい。
また、紡糸口金から紡出する際の紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)の温度は、20~90℃の範囲が適当である。
【0026】
繊維を得るために用いる凝固浴としては、実質的に無機塩を含まない、アミド系溶媒、好ましくはNMPの濃度が45~60質量%の水溶液を、浴液の温度10~50℃の範囲で用いる。アミド系溶媒(好ましくはNMP)の濃度が45質量%未満ではスキンが厚い構造となってしまい、洗浄工程における洗浄効率が低下し、繊維の残存溶媒量を低減させることが困難となる。一方、アミド系溶媒(好ましくはNMP)の濃度が60質量%を超える場合には、繊維内部に至るまで均一な凝固を行うことができず、このためやはり、繊維の残存溶媒量を低減させることが困難となる。なお、凝固浴中への繊維の浸漬時間は、0.1~30秒の範囲が適当である。
【0027】
引続き、アミド系溶媒、好ましくはNMPの濃度が45~60質量%の水溶液であり、浴液の温度を10~50℃の範囲とした可塑延伸浴中にて、3~4倍の延伸倍率で延伸を行う。延伸後、10~30℃のNMPの濃度が20~40質量%の水溶液、続いて50~70℃の温水浴を通して十分に洗浄を行う。
洗浄後の繊維は、温度270~290℃にて乾熱処理を施し、上記の結晶化度および残存溶媒量の範囲を満たすメタ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることができる。
【0028】
前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維において、繊維は、長繊維(マルチフィラメント)でもよいし短繊維でもよい。特に、他の繊維と混紡する上で繊維長25~200mmの短繊維が好ましい。また、単繊維繊度としては1~5dtexの範囲が好ましい。なお、前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維が、有機染料または有機顔料または無機顔料を含んでいてもよい。
【0029】
本発明において、布帛は前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維だけで構成されていてもよいが、さらにポリエステル繊維が含まれていることが好ましい。布帛にポリエステル繊維が含まれていると、後記のようなオキサゾリン基を有する架橋剤や、アクリル系樹脂および/またはウレタン系樹脂からなるバインダーのSP値(溶解パラメータ)がポリエステル繊維に近くポリエステル繊維に固着しやすいので、抗菌性の洗濯耐久性を向上させることができ好ましい。その際、布帛に含まれるポリエステル繊維の質量としては布帛質量対比2~20質量%の範囲内であることが好ましい。ポリエステル繊維の重量が該範囲よりも大きいと難燃性が低下するおそれがある。逆にポリエステル繊維の重量が該範囲よりも小さいと抗菌性の洗濯耐久性が低下するおそれがある。
【0030】
また、布帛にさらに、メタ型全芳香族ポリアミド繊維、パラ型全芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリベンズオキサゾール(PBO)繊維、ポリベンズイミダゾール(PBI)繊維、ポリベンズチアゾール(PBTZ)繊維、ポリイミド(PI)繊維、ポリスルホンアミド(PSA)繊維、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)繊維、ポリエーテルイミド(PEI)繊維、ポリアリレート(PAr)繊維、メラミン繊維、フェノール繊維、フッ素系繊維、ポリフェニレンスルフィド(PPS)繊維などの難燃繊維が含まれていることが好ましい。
その際、かかる難燃性繊維において限界酸素指数(LOI)が20以上であることが好ましい。
【0031】
また、布帛にさらに、セルロース繊維(好ましくは難燃レーヨン繊維)、ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、コットン繊維、獣毛繊維、ポリウレタン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、アセテート繊維、ポリカーボネート繊維などが含まれていると、吸水性、染色性、着用快適性などが付加され好ましい。
【0032】
また、導電繊維は、規格ISO11612にて必須であることが記載されており、難燃素材として、布帛での静電気を防ぐことは必要であることより、導電繊維が布帛に含まれていることが好ましい。
【0033】
ここで、これらの繊維は混紡されていることが好ましい。その際、メタ型全芳香族ポリアミド繊維の優れた耐熱性と難燃性を発揮させるために、まずメタ型全芳香族ポリアミド繊維が布帛質量対比50質量%以上であることが好ましい。
【0034】
本発明において、布帛の製造方法は特に限定するものではなく、公知のいかなる方法でも用いる可能である。例えば、上記繊維の紡績糸を混綿して紡績糸を得た後、単糸または双糸にてレピア織機などを用いて、綾織、平織などの組織に製織することが好ましい。
【0035】
本発明の難燃性布帛は、非フッ素系撥水剤として、炭化水素系化合物、シリコーン系化合物、ウレタン系化合物、アクリル系化合物、およびワックスからなる群から選択されるいずれかを含む撥水剤を含む。環境配慮の点で、また優れた引裂き強力を得る上で、アルキルフルオロポリマーなどのフッ素系撥水剤は含まないことが好ましい。必要に応じて、架橋剤(例えば、ブロックイソシアネートなど)、制電剤、メラミン樹脂、触媒を混合して撥水剤の濃度が3~15質量%程度の加工剤とし、ピックアップ率50~90%程度で、該加工剤を用いて織物の表面を処理することが好ましい。加工剤で織物の表面を処理する方法としては、パッド法、スプレー法などが例示される。なかでも、加工剤を織物内部まで浸透させる上でパッド法が好ましい。前記ピックアップ率とは、織物(加工剤付与前)重量に対する加工剤の質量割合(%)である。
【0036】
非フッ素系撥水剤として具体的には、炭化水素系化合物として、脂肪族系炭化水素、脂肪族カルボン酸、オレフィン、ポリアクリル酸エステルまたはポリメタクリル酸エステルなどを用いることができる。シリコーン系化合物として、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーンなどを用いることができる。市販されているものでは、炭化水素系化合物は、明成化学工業(株)製のメイシールドP-700や日華化学(株)製のNeoseedNR-158、NR-7080、ダイキン(株)製のUnidyneXF5001、XF5002などが好ましく例示される。シリコーン系化合物は、日華化学(株)製のNeoseedNR-8000、NR-8800などが好ましく例示される。
【0037】
本発明の難燃性布帛は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含み、かつ前記のような非フッ素系撥水剤を含むので、極めて優れた難燃性を有し、環境に配慮した撥水性および引裂き強力にも優れる。
【0038】
ここで、ISO15025:2000A法で規定される燃焼試験で残炎時間が2秒以下であることが重要である。残ジンは2.0秒以下が好ましい。また、JIS L 1092 スプレー法により測定した撥水度が4級以上であることが好ましい。また、布帛の目付けが120~300g/m2 の範囲内であることが好ましい。また、JIS L0217法に規定された洗濯(但し、JAFET標準配合洗剤を使用)を10回行った後において、JIS L 1092 スプレー法により測定した撥水度が3級以上であることが好ましい。
【0039】
また、経方向または緯方向の引裂き強力が10N以上(より好ましくは45~90N)であることが好ましい。また、引裂き強力が撥水剤除去後に下がることが好ましい。特に(撥水剤付与後布帛/撥水剤付与前)が1.1以上(より好ましくは1.1~1.5)であることが好ましい。なお、引裂き強力はJIS L1096D法に規定される方法で測定するものとする。また、測定方法は、例えば、撥水剤付与前の布帛を測定した後、撥水剤を付与し、撥水剤付与後の布帛を測定してもよいし、撥水剤付与後の布帛の引裂強力を測定したのち、布帛から撥水剤を除去して、撥水剤付与前とした布帛の引裂強力を測定してもよい。
【0040】
また、ISO5077に規定される方法で5回洗濯した後の収縮率(経と緯の平均)が5%以下であることが好ましい。また、ISO17493に規定される180℃5分間の熱処理を行った際の熱収縮率(経と緯の平均)が5%以下であることが好ましい。
【0041】
次に、本発明の繊維製品は前記の布帛を用いてなる、防護服、消防防火服、消防活動服、救助服、ワークウェア、警察制服、自衛隊衣服、および軍服からなる群より選択されるいずれかの繊維製品である。かかる繊維製品は前記の布帛を用いているので、極めて優れた難燃性を有し、環境に配慮した撥水性および引裂き強力にも優れる。
【実施例0042】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例中の各物性は下記の方法により測定したものである。
【0043】
(1)目付け
JIS L 1096 A法で規定される方法で測定した。
【0044】
(2)燃焼性
ISO15025:2000 A法で規定される方法で測定した。
【0045】
(3)撥水性
JIS L 1092 スプレー法により撥水度(級)を測定した。
【0046】
(4)乾熱収縮率
ISO17493に規定される180℃5分間の熱処理を行った際の熱収縮率を測定した。n数5で経と緯について測定し両者の平均をとった。
【0047】
(5)残存溶媒量
原繊維を約8.0g採取し、105℃で120分間乾燥させた後にデシケーター内で放冷し、繊維質量(M1)を秤量した。続いて、この繊維について、メタノール中で1.5時間、ソックスレー抽出器を用いて還流抽出を行い、繊維中に含まれるアミド系溶媒の抽出を行った。抽出を終えた繊維を取り出して、150℃で60分間真空乾燥させた後にデシケーター内で放冷し、繊維質量(M2)を秤量した。繊維中に残存する溶媒量(アミド系溶媒質量)は、得られるM1およびM2を用いて、下記式により算出した。
残存溶媒量(%)=[(M1-M2)/M1]×100
【0048】
(6)結晶化度
X線回折測定装置(リガク社製 RINT TTRIII)を用い、原繊維を約1mm径
の繊維束に引きそろえて繊維試料台に装着して回折プロファイルを測定した。測定条件は
、Cu-Kα線源(50kV、300mA)、走査角度範囲10~35°、連続測定0.1°幅計測、1°/分走査でおこなった。実測した回折プロファイルから空気散乱、非干渉性散乱を直線近似で補正して全散乱プロファイルを得た。次に、全散乱プロファイルから非晶質散乱プロファイルを差し引いて結晶散乱プロファイルを得た。結晶化度は、結晶散乱プロファイルの面積強度(結晶散乱強度)と全散乱プロファイルの面積強度(全散乱強度)から、次式により求めた。
結晶化度(%)=[結晶散乱強度/全散乱強度]×100
【0049】
(7)布帛の引裂き強力
JIS L1096D法で規定される方法で、撥水剤付与前と撥水剤付与後の布帛を測定した。経方向の引裂き強力をN数5で測定し平均値を引裂き強力とした。
【0050】
[メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造]
メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、次の方法で作製した。
特公昭47-10863号公報記載の方法に準じた界面重合法により製造した、固有粘度(I.V.)が1.9のポリメタフェニレンイソフタルアミド粉末20.0質量部を、-10℃に冷却したN-メチル-2-ピロリドン(NMP)80.0質量部中に懸濁させ、スラリー状にした。引き続き、懸濁液を60℃まで昇温して溶解させ、透明なポリマー溶液を得た。該ポリマー溶液に、ポリマー対比3.0質量%の2-[2H-ベンゾトリアゾール-2-イル]-4-6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール粉末(水への溶解度:0.01mg/L)およびリン系難燃剤を混合溶解させ、減圧脱法して紡糸液(紡糸ドープ)とした。
【0051】
[紡糸・凝固工程]
上記紡糸ドープを、孔径0.07mm、孔数500の紡糸口金から、浴温度30℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。凝固液の組成は、水/NMP=45/55(質量部)であり、凝固浴中に糸速7m/分で吐出して紡糸した。
【0052】
[可塑延伸浴延伸工程]
引き続き、温度40℃の水/NMP=45/55の組成の可塑延伸浴中にて、3.7倍の延伸倍率で延伸を行った。
【0053】
[洗浄工程]
延伸後、20℃の水/NMP=70/30の浴(浸漬長1.8m)、続いて20℃の水浴(浸漬長3.6m)で洗浄し、さらに60℃の温水浴(浸漬長5.4m)に通して十分に洗浄を行った。
【0054】
[乾熱処理工程]
洗浄後の繊維について、表面温度280℃の熱ローラーにて乾熱処理を施し、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。
【0055】
[原繊維の物性]
得られたメタ型全芳香族ポリアミド繊維の物性は、単繊維繊度1.7dtex、残存溶媒量0.08質量%、結晶化度は19%であった。得られた原繊維を用いて、捲縮加工、カットを行い、長さ51mmのステープルファイバー(原綿)を得た。
その他の繊維原綿は下記の物を用いた。
【0056】
[後加工]
毛焼、精練、撥水加工、ファイナルセットにて後加工を行った。撥水加工は以下の方法で行った。
【0057】
[撥水加工]
撥水剤50g/Lと架橋10g/Lをピックアップ率60%でパッド、ドライ(100℃、3分)、その後熱処理を170℃、2分行った。なお、撥水剤は、実施例1:シリコーン系撥水剤、実施例2:ウレタン系撥水剤、実施例3:炭化水素系撥水剤、比較例1:シリコーン系撥水剤、比較例2:ウレタン系撥水剤、比較例3:フッ素系撥水剤を使用した。
【0058】
[実施例1]
メタ型全芳香族ポリアミド繊維(MA)(長さ51mm)、導電糸(AS)(長さ51mm)、パラ型全芳香族ポリアミド繊維(PA)(長さ51mm)の各ステープルファイバーを、MA/AS/PA=93/2/5の質量比率で混紡した紡績糸40番手/双糸とし、織密度 経95本/25.4mm、緯60本/25.4mmで製織し、目付200g/m2の綾織物を得た。これを用いて、上記の方法で加工した。結果を表1に示す。
【0059】
[実施例2]
メタ型全芳香族ポリアミド繊維(MA)(長さ51mm)、難燃レーヨン繊維(FR)(長さ51mm)、導電糸(AS)(長さ51mm)、パラ型全芳香族ポリアミド繊維(PA)(長さ51mm)の各ステープルファイバーを、MA/FR/AS/PA=58/35/2/5の質量比率で混紡した紡績糸40番手/双糸とし、織密度 経95本/25.4mm、緯60本/25.4mmで製織し、目付200g/m2の綾織物を得た。これを用いて、上記の方法で加工した。結果を表1に示す。
【0060】
[実施例3]
メタ型全芳香族ポリアミド繊維(MA)(長さ51mm)、ポリエステル繊維(PET)(長さ51mm)、導電糸(AS)(長さ51mm)、パラ型全芳香族ポリアミド繊維(PA)(長さ51mm)の各ステープルファイバーを、MA/PET/AS/PA=83/10/2/5の質量比率で混紡した紡績糸40番手/双糸とし、織密度 経95本/25.4mm、緯60本/25.4mmで製織し、目付200g/m2の綾織物を得た。これを用いて、上記の方法で加工した。結果を表1に示す。
【0061】
[比較例1]
メタ型全芳香族ポリアミド繊維(MA)、コットン(CO)、パラ型全芳香族ポリアミド繊維(PA)からなるMA/CO/PA=85/10/5の比率で混紡した紡績糸40番手/双糸とし、織密度 経95本/25.4mm、緯60本/25.4mmで製織し、目付200g/m2の綾織物を得た。これを用いて、上記の方法で加工した。結果を表1に示す。
【0062】
[比較例2]
メタ型全芳香族ポリアミド繊維(MA)、難燃レーヨン繊維(FR)、コットン繊維(CO)、パラ型全芳香族ポリアミド繊維(PA)、導電糸(AS)からなるMA/FR/CO/PA/AS=35/35/23/5/2の質量比率で混紡した紡績糸40番手/双糸とし、織密度 経95本/25.4mm、緯60本/25.4mmで製織し、目付200g/m2の綾織物を得た。これを用いて、上記の方法で加工した。結果を表1に示す。
【0063】
[比較例3]
使用した撥水剤を変更すること以外は、実施例1と同様にした。使用した撥水剤は、アルキルフルオロポリマーを100g/L付与した。結果を表1に示す。
【0064】
本発明によれば、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含み、極めて優れた難燃性を有し、環境に配慮した撥水性および引裂き強力にも優れた難燃性布帛および繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。