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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147182
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/19 20060101AFI20220929BHJP
   B62D 1/184 20060101ALI20220929BHJP
   B62D 1/187 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B62D1/19
B62D1/184
B62D1/187
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048328
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000144810
【氏名又は名称】株式会社山田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(72)【発明者】
【氏名】白石 善紀
【テーマコード(参考)】
3D030
【Fターム(参考)】
3D030DC16
3D030DC17
3D030DD18
3D030DD19
3D030DD26
3D030DD65
3D030DD74
3D030DE05
3D030DE22
3D030DE32
(57)【要約】
【課題】小型化及び低コスト化を図った上で、安定したコラプスストロークを実現できるステアリング装置を提供する。
【解決手段】本態様に係るステアリング装置において、ハンガブラケット23は、EA長孔34が形成されるとともに、インナコラム22の外周面に沿って前後方向に延びる取付板部31と、インナコラム22の外周面に対して離間する向きに取付板部31から延びるテレスコストッパ32b,32cと、を備えている。EA長孔34は、ボルト39が収容される収容部34aと、収容部34aの前方に位置して、二次衝突時において、ハンガブラケット23に対するボルト39の前方への移動を案内するガイド部34cと、収容部34a及びガイド部34c間において、収容部34a及びガイド部34cよりも幅広に形成されるとともに、二次衝突時にボルト39を収容部34aからガイド部34cに案内する遷移部34bと、を備えている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向に延びるとともに、前後方向に沿う第1軸線回りにステアリングシャフトを回転可能に支持するインナコラムと、
前記インナコラムが前後方向に移動可能に挿入されるアウタコラムと、
前記アウタコラムの内径を拡大又は縮小させることで、前記アウタコラムに対する前記インナコラムの移動を規制するロック状態、前記アウタコラムに対する前記インナコラムの移動を許容するロック解除状態に切り替えるロック機構と、
固定部材を介して前記インナコラムに取り付けられたハンガブラケットと、を備え、
前記ハンガブラケットは、
前後方向に延びるEA長孔が形成されるとともに、前記インナコラムの外周面に沿って前後方向に延びる取付板部と、
前記インナコラムの外周面に対して離間する向きに前記取付板部から延び、前記アウタコラムに設けられた係合部に係合することで、前記アウタコラムに対する前記ハンガブラケットの前後方向の移動を規制するテレスコストッパと、を備え、
前記EA長孔は、
前記固定部材が収容される収容部と、
前記収容部の前方に位置して、前記インナコラムに作用する前方への荷重が所定値以上である二次衝突時において、前記ハンガブラケットに対する前記固定部材の前方への移動を案内するガイド部と、
前記収容部及び前記ガイド部間において、前記収容部及び前記ガイド部よりも幅広に形成されるとともに、前記二次衝突時に前記固定部材を前記収容部から前記ガイド部に案内する遷移部と、を備え、
前記遷移部の内周縁には、前記荷重が所定値未満の場合に前記ハンガブラケットに対する前記固定部材の前方への移動を規制し、前記二次衝突時に前記固定部材によって変形させられることで前記ハンガブラケットに対する前記固定部材の移動を許容する変形部が形成され、
前記遷移部のうち前記変形部よりも前方に位置する部分には、前方に向かうに従い前記遷移部の幅が漸次狭くなるテーパ面が形成されているステアリング装置。
【請求項2】
前記遷移部には、前記二次衝突時に前記固定部材によって変形させられた前記変形部を受け入れる受入部が形成されている請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記EA長孔の内周縁は、前後方向に交差する交差方向で向かい合う第1対向縁及び第2対向縁を備え、
前記変形部は、前記第2対向縁から前記第1対向縁に向けて前記交差方向に突出し、
前記テーパ面は、前記第1対向縁において、前記変形部よりも前方に位置する部分に形成されている請求項1又は請求項2に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記EA長孔の内周縁は、前後方向に交差する交差方向で向かい合う第1対向縁及び第2対向縁を備え、
前記変形部は、前記第1対向縁及び前記第2対向縁から前記交差方向に向けて突出し、
前記テーパ面は、前記第1対向縁及び前記第2対向縁において、前記変形部よりも前方に位置する部分に形成されている請求項1又は請求項2に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアリング装置では、運転者の体格差や運転姿勢に応じてステアリングホイールの前後位置を調整するテレスコピック機能を備えたものがある。この種のステアリング装置は、ステアリングシャフトを回転可能に支持するインナコラムと、インナコラムを前後方向に移動可能に支持するアウタコラムと、を備えている。
【0003】
ステアリング装置では、二次衝突時において、所定の荷重がステアリングホイールに作用した場合に、インナコラムがアウタコラムに対して前方に移動する過程(コラプスストローク)で、二次衝突時に運転者に加わる衝撃荷重を緩和する構成が搭載されている。
【0004】
ここで、例えば下記特許文献1には、ステアリングコラムの左右両側に設けられたチルトプレートを介してステアリングコラムがブラケットに支持された構成が開示されている。具体的に、下記特許文献1の構成では、ブラケットから突出したチルトピンが、チルトプレートに形成された長孔内に保持されることで、ステアリングコラムが支持されている。
この構成によれば、コラプスストロークの際にチルトピンが長孔内を移動することで、ステアリングコラムの姿勢を安定させるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-338551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来技術にあっては、小型化や低コスト化を図った上で安定したコラプスストロークを実現させる点について未だ改善の余地があった。
【0007】
本開示は、小型化及び低コスト化を図った上で、安定したコラプスストロークを実現できるステアリング装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示は以下の態様を採用した。
本開示の一態様に係るステアリング装置は、前後方向に延びるとともに、前後方向に沿う第1軸線回りにステアリングシャフトを回転可能に支持するインナコラムと、前記インナコラムが前後方向に移動可能に挿入されるアウタコラムと、前記アウタコラムの内径を拡大又は縮小させることで、前記アウタコラムに対する前記インナコラムの移動を規制するロック状態、前記アウタコラムに対する前記インナコラムの移動を許容するロック解除状態に切り替えるロック機構と、固定部材を介して前記インナコラムに取り付けられたハンガブラケットと、を備え、前記ハンガブラケットは、前後方向に延びるEA長孔が形成されるとともに、前記インナコラムの外周面に沿って前後方向に延びる取付板部と、前記インナコラムの外周面に対して離間する向きに前記取付板部から延び、前記アウタコラムに設けられた係合部に係合することで、前記アウタコラムに対する前記ハンガブラケットの前後方向の移動を規制するテレスコストッパと、を備え、前記EA長孔は、前記固定部材が収容される収容部と、前記収容部の前方に位置して、前記インナコラムに作用する前方への荷重が所定値以上である二次衝突時において、前記ハンガブラケットに対する前記固定部材の前方への移動を案内するガイド部と、前記収容部及び前記ガイド部間において、前記収容部及び前記ガイド部よりも幅広に形成されるとともに、前記二次衝突時に前記固定部材を前記収容部から前記ガイド部に案内する遷移部と、を備え、前記遷移部の内周縁には、前記荷重が所定値未満の場合に前記ハンガブラケットに対する前記固定部材の前方への移動を規制し、前記二次衝突時に前記固定部材によって変形させられることで前記ハンガブラケットに対する前記固定部材の移動を許容する変形部が形成され、前記遷移部のうち前記変形部よりも前方に位置する部分には、前方に向かうに従い前記遷移部の幅が漸次狭くなるテーパ面が形成されている。
【0009】
本態様によれば、収容部とガイド部との間に幅広の遷移部を設けることで、二次衝突時において、固定部材が変形部に押し退けられた場合に、固定部材の左右方向への変位を許容できる。これにより、固定部材がEA長孔の側端縁に引っ掛かる等して、コラプスストロークが阻害されるのを抑制できる。
しかも、本態様において、遷移部は、前方に向かうに従い遷移部の幅が漸次狭くなるテーパ面を備えている構成とした。
この構成によれば、遷移部内に移動した固定部材がテーパ面上を摺動することで、前方に移動するに従い、左右方向の内側に向けて案内される。これにより、固定部材をガイド部内に導きやすくなる。固定部材がガイド部内に進入した後、固定部材はガイド部に沿って前方に向けてスムーズに移動する。これにより、安定したコラプスストロークを実現でき、所望の衝撃吸収性能を確保できる。
特に、本態様では、一つのハンガブラケットによって、二次衝突時におけるインナコラムの回転(固定部材の左右方向への移動)を抑制できる。そのため、ハンガブラケットを複数設ける場合やテレスコガイド部に連続してEA長孔を形成する場合等に比べて、小型化及び低コスト化を図ることができる。
【0010】
上記態様のステアリング装置において、前記遷移部には、前記二次衝突時に前記固定部材によって変形させられた前記変形部を受け入れる受入部が形成されていることが好ましい。
本態様によれば、二次衝突時において、変形後の変形部によって固定部材の前方移動が妨げられるのを抑制できる。これにより、安定したコラプスストロークを実現させることができる。
【0011】
上記態様のステアリング装置において、前記EA長孔の内周縁は、前後方向に交差する交差方向で向かい合う第1対向縁及び第2対向縁を備え、前記変形部は、前記第2対向縁から前記第1対向縁に向けて前記交差方向に突出し、前記テーパ面は、前記第1対向縁において、前記変形部よりも前方に位置する部分に形成されていることが好ましい。
本態様によれば、二次衝突時において、収容部から抜け出す固定部材の移動方向が第1対向縁側に規定し易くなる。
【0012】
上記態様のステアリング装置において、前記EA長孔の内周縁は、前後方向に交差する交差方向で向かい合う第1対向縁及び第2対向縁を備え、前記変形部は、前記第1対向縁及び前記第2対向縁から前記交差方向に向けて突出し、前記テーパ面は、前記第1対向縁及び前記第2対向縁において、前記変形部よりも前方に位置する部分に形成されていることが好ましい。
本態様によれば、第1対向縁及び第2対向縁からそれぞれ変形部が突出しているため、二次衝突時において固定部材が左右方向の一方側に向けて押し退けられるのを抑制できる。これにより、固定部材がEA長孔の側端縁に接触するのを抑制でき、安定したコラプスストロークを実現できる。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一態様によれば、小型化及び低コスト化を図った上で、安定したコラプスストロークを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態に係るステアリング装置の斜視図である。
図2図1のII-II線に沿う断面図である。
図3図1のIII-III線に沿う断面図である。
図4図2の要部拡大図である。
図5図1のV矢視図である。
図6】第1実施形態に係るステアリング装置において、二次衝突時の動作を説明するための説明図である。
図7】第1実施形態に係るステアリング装置において、二次衝突時の動作を説明するための説明図である。
図8】第2実施形態に係るステアリング装置において、図5に対応する底面図である。
図9】第2実施形態に係るステアリング装置において、二次衝突時の動作を説明するための説明図である。
図10】変形例に係るステアリング装置において、図5に対応する底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。
[ステアリング装置]
図1は、ステアリング装置1の斜視図である。
図1に示すように、ステアリング装置1は、車両に搭載されている。ステアリング装置1は、ステアリングホイール2の回転操作に伴って車輪の舵角を調整する。
【0016】
ステアリング装置1は、コラムユニット11と、ステアリングシャフト12と、ブラケット(フロントブラケット13及びリヤブラケット14)と、ロック機構15と、を備えている。コラムユニット11及びステアリングシャフト12は、それぞれ軸線(第1軸線)O1に沿って形成されている。したがって、以下の説明では、コラムユニット11及びステアリングシャフト12の軸線O1の延びる方向を単にシャフト軸方向といい、軸線O1に直交する方向をシャフト径方向といい、軸線O1回りの方向をシャフト周方向という場合がある。
【0017】
本実施形態のステアリング装置1は、軸線O1が前後方向に対して交差した状態で車両に搭載される。具体的に、ステアリング装置1の軸線O1は、後方に向かうに従い上方に延在している。但し、以下の説明では、便宜上、ステアリング装置1において、シャフト軸方向でステアリングホイール2に向かう方向を単に後方とし、ステアリングホイール2とは反対側に向かう方向を単に前方(矢印FR)とする。シャフト径方向のうち、ステアリング装置1が車両に取り付けられた状態での上下方向を単に上下方向(矢印UPが上方)とし、左右方向を単に左右方向とする。
【0018】
<コラムユニット11>
コラムユニット11は、アウタコラム21と、インナコラム22と、ハンガブラケット23と、を有している。
アウタコラム21は、ブラケット13,14を介して車体に取り付けられている。アウタコラム21は、保持筒部24と、締付部25と、を備えている。
【0019】
図2は、図1のII-II線に沿う断面図である。
図2に示すように、保持筒部24は、前後方向に沿って延びる筒状に形成されている。保持筒部24内における前端部には、前側軸受27が嵌合(圧入)されている。保持筒部24の後部において、シャフト周方向の一部(本実施形態では、アウタコラム21の下部)には、スリット28が形成されている。スリット28は、アウタコラム21をシャフト径方向に貫通するとともに、アウタコラム21の後端面で開放されている。
【0020】
図3は、図1のIII-III線に沿う断面図である。
図3に示すように、締付部25は、保持筒部24のうち、スリット28を間に挟んで左右方向で対向する位置からそれぞれ下方に延びている。各締付部25には、締付部25を左右方向に貫通する貫通孔29が形成されている。
【0021】
図2に示すように、インナコラム22は、前後方向に沿って延びる筒状に形成されている。インナコラム22の外径は、保持筒部24の内径よりも小さくなっている。インナコラム22は、保持筒部24内に後方から挿入されている。インナコラム22は、アウタコラム21に対して前後方向に移動可能に構成されている。インナコラム22内の後端部には、後側軸受30が嵌合(圧入)されている。
【0022】
図4は、図2の要部拡大図である。
図3図4に示すように、ハンガブラケット23は、インナコラム22の下部に下向きで固定されている。ハンガブラケット23は、例えば金属板に対してプレス加工を施すことで形成されている。ハンガブラケット23は、保持筒部24のスリット28を通して保持筒部24の外部に露出している。ハンガブラケット23は、前後方向から見た正面視で下方に開口するU字状に形成されている。
【0023】
ハンガブラケット23は、取付板部31と、取付板部31における左右方向の両端部から下方に延びるガイド壁32と、を備えている。
取付板部31は、上下方向を厚さ方向として、インナコラム22の外周面に沿って前後方向に延びている。取付板部31には、取付板部31を上下方向に貫通するEA(Energy Absorbing)長孔34が形成されている。EA長孔34は、前後方向に延びるスリット状に形成されている。なお、ガイド壁32は、取付板部31における左右方向の両端部に限らず、取付板部31のうちEA長孔34を避けた位置に少なくとも一つ設けられていればよい。EA長孔34の詳細な形状については後述する。
【0024】
ハンガブラケット23は、ボルト(固定部材)39によってインナコラム22に固定されている。ボルト39は、EA長孔34の後端部に対して下方から挿入され、インナコラム22に締結されている。これにより、ハンガブラケット23は、テレスコ動作の際にインナコラム22に対する前後方向の移動が規制されている(インナコラム22と一体に移動する。)。なお、本実施形態では、固定部材として、ボルト39がインナコラム22に直接締結された構成について説明したが、この構成に限られない。例えば、ボルト39がインナコラム22の内側に設けられたナットに螺着されることで、インナコラム22に締結されていてもよい。また、固定部材としては、ボルト39に代えてリベット等を用いてもよい。
【0025】
ガイド壁32は、取付板部31の全長に亘って形成されている。ガイド壁32は、テレスコガイド部32aと、テレスコストッパ32b,32cと、を備えている。
テレスコガイド部32aは、ガイド壁32における前後両端部を除く位置に形成されている。テレスコガイド部32aの下端縁は、前後方向に沿って直線状に形成されている。
【0026】
テレスコストッパ32b,32cは、ガイド壁32の前端部に位置する前側テレスコストッパ32b、及びガイド壁32の後端部に位置する後側テレスコストッパ32cである。前側テレスコストッパ32bは、テレスコ動作の際にアウタコラム21に対するインナコラム22の前方移動を規制する。後側テレスコストッパ32cは、テレスコ動作の際にアウタコラム21に対するインナコラム22の後方移動を規制する。テレスコストッパ32b,32cは、前後対称に形成されている。したがって、以下の説明では、前側テレスコストッパ32bを例にして説明する。但し、各テレスコストッパ32b,32cを非対称形状にしてもよい。
【0027】
前側テレスコストッパ32bは、テレスコガイド部32aに対して下方に突出している。前側テレスコストッパ32bは、下方に向かうに従い前後方向の幅が漸次縮小する台形状に形成されている。前側テレスコストッパ32bの後端縁には、保持部35及び逃げ部36が形成されている。
保持部35は、前側テレスコストッパ32bの下端部に位置している。保持部35は、左右方向から見た側面視において、前方に向けて突の円弧状に形成されている。保持部35の中心角は、180°未満に設定されている。
【0028】
逃げ部36は、前側テレスコストッパ32bの上端部において、保持部35に連なっている。逃げ部36は、側面視において前方に向けて突の円弧状に形成されている。逃げ部36は、保持部35における上端の接線方向に沿って延びる延長線L1に対して前方に窪んでいる。なお、逃げ部36は、延長線L1よりも前方に位置する構成であれば、円弧状に限られない。
【0029】
<ステアリングシャフト12>
図2に示すように、ステアリングシャフト12は、アウタシャフト37及びインナシャフト38を備えている。
アウタシャフト37は、前後方向に沿って延びる中空円筒状に形成されている。アウタシャフト37は、コラムユニット11内に挿入されている。アウタシャフト37の前端部は、アウタコラム21内で前側軸受27に圧入されている。これにより、アウタシャフト37は、軸線O1回りに回転可能にアウタコラム21に支持されている。アウタシャフト37の前端部(前側軸受27よりも前方に突出した部分)は、自在継手(不図示)等を介して例えばステアリングギヤボックス(不図示)等に連結される。
【0030】
インナシャフト38は、前後方向に延びている。インナシャフト38は、インナコラム22内に挿入されている。インナシャフト38の後端部は、インナコラム22内で後側軸受30に圧入されている。これにより、インナシャフト38は、軸線O1回りに回転可能にインナコラム22に支持されている。インナシャフト38のうち、インナコラム22よりも後方に突出した部分には、ステアリングホイール2(図1参照)が連結される。
【0031】
インナシャフト38の前端部は、インナコラム22内でアウタシャフト37に挿入されている。インナシャフト38は、アウタコラム21に対するインナコラム22の前後方向の移動に伴い、インナコラム22とともにアウタシャフト37に対して前後方向に移動可能に構成されている。
【0032】
本実施形態において、アウタシャフト37の内周面には、雌スプラインが形成されている。雌スプラインは、インナシャフト38の外周面に形成された雄スプラインに係合している。これにより、インナシャフト38は、アウタシャフト37に対する相対回転が規制された上で、アウタシャフト37に対して前後方向に移動する。但し、ステアリングシャフト12の伸縮構造や回転規制の構造は、適宜変更が可能である。なお、本実施形態では、アウタシャフト37がインナシャフト38に対して前方に配置された構成について説明したが、この構成のみに限らず、アウタシャフト37がインナシャフト38に対して後方に配置された構成であってもよい。
【0033】
<ブラケット13,14>
図1に示すように、フロントブラケット13は、ピボット軸40を介してアウタコラム21と車体との間を接続している。フロントブラケット13は、正面視で下方に開口するU字状に形成されている。フロントブラケット13は、アウタコラム21の後端部を上方及び左右方向の両側から取り囲んでいる。フロントブラケット13のうち、左右方向の両側に位置するフロント側壁13aは、ピボット軸40によってアウタコラム21に接続されている。これにより、アウタコラム21は、ピボット軸40の左右方向に延びる軸線O2回りに回動可能にフロントブラケット13に支持されている。
【0034】
リヤブラケット14は、ロック機構15を介してアウタコラム21と車体との間を接続している。リヤブラケット14は、正面視で下方に開口するU字状に形成されている。リヤブラケット14は、アウタコラム21の上方及び左右方向の両側を取り囲んでいる。
【0035】
リヤブラケット14は、コラムユニット11に対して左右両側に配置されたリヤ側壁14aを備えている。図3に示すように、リヤ側壁14aには、リヤ側壁14aを左右方向に貫通するチルトガイド孔14bが形成されている。チルトガイド孔14bは、上方に向かうに従い後方に向けて延びる長孔である。具体的に、チルトガイド孔14bは、後方に向けて凸の円弧状に形成されている。
【0036】
フロントブラケット13及びリヤブラケット14は、連結片100によって連結されている。連結片100は、左右方向を厚さ方向とし、前後方向に延びている。連結片100は、フロントブラケット13における右側のフロント側壁13a及びリヤブラケット14における右側のリヤ側壁14aとの間に架け渡されている。連結片100は、側壁13a,14aに固定されることで、リヤブラケット14に対するフロントブラケット13の移動(回転)を規制している。但し、連結片100は、必須の構成ではない。
【0037】
<ロック機構15>
図3に示すように、ロック機構15は、ロックボルト53と、操作レバー54と、締結カム55と、を備えている。
【0038】
ロックボルト53は、チルトガイド孔14b及び貫通孔29を通じて、各リヤ側壁14a及び締付部25を左右方向に貫通している。ロックボルト53は、テレスコ動作時において、インナコラム22等が前後動することで、テレスコガイド部32aに沿って前後動する。ロックボルト53は、チルト動作時において、チルトガイド孔14b内を上下動することで、コラムユニット11とともに上下動する。
【0039】
ロックボルト53の中央部(締付部25同士の間に位置する部分)には、カラー56が装着されている。カラー56は、ロックボルト53と同軸の筒状に形成されている。カラー56は、ロックボルト53よりも軟質な材料(例えば、ゴムや樹脂材料等の弾性変形可能な材料)により形成されている。図示の例において、カラー56の半径は、テレスコストッパ32b,32cの保持部35の曲率半径と同等になっている。図4に示すように、カラー56は、テレスコ動作時において、インナコラム22が最前端位置(コラムユニット11が最縮位置P1)にあるとき、前側テレスコストッパ32bの保持部35に後方から当接する。一方、カラー56は、テレスコ動作時において、インナコラム22が最後端位置(コラムユニット11が最伸位置P2)にあるとき、後側テレスコストッパ32cの保持部35に前方から当接する。すなわち、ロックボルト53は、カラー56を介してテレスコストッパ32b,32cに当接する。但し、ロック機構15は、ロックボルト53が直接テレスコストッパ32b,32cに当接する構成であってもよい。
【0040】
図1に示すように、ロックボルト53とリヤブラケット14との間には、付勢部材60が介在している。付勢部材60は、例えばコイルスプリングである。付勢部材60は、ロックボルト53における左側端部と左側のリヤ側壁14aとの間、及びロックボルト53における右側端部と右側のリヤ側壁14aとの間にそれぞれ介在している。付勢部材60は、ロックボルト53を介してコラムユニット11やステアリングシャフト12等を上方に向けて付勢している。これにより、ロック解除時にコラムユニット11が自重で下がることを抑制している。
【0041】
操作レバー54は、ロックボルト53における左側端部に連結されている。操作レバー54は、ロックボルト53とともに左右方向に沿う軸線回りに回動可能に構成されている。
【0042】
図3に示すように、締結カム55は、操作レバー54と、リヤブラケット14(リヤ側壁14a)と、の間に介在している。締結カム55は、操作レバー54の回動操作に伴い、左右方向の厚さが変化するように構成されている。ステアリング装置1では、締結カム55の厚さが変化することで、リヤ側壁14aを介して各締付部25が左右方向で互いに接近離間するように(スリット28の左右方向の幅(間隔)が拡縮するように)構成されている。具体的に、締結カム55の厚さが増加するように操作レバー54を回動操作することで、各締付部25同士が各リヤ側壁14aとともに接近して保持筒部24の内径が縮小する。これにより、保持筒部24によってインナコラム22が挟持され、アウタコラム21に対するインナコラム22の前後方向の移動が規制される(ロック状態)。一方、ロック状態において、締結カム55の厚さが減少するように操作レバー54を回動操作することで、締付部25同士が各リヤ側壁14aとともに離間して保持筒部24の内径が拡大する。これにより、保持筒部24によるインナコラム22の挟持が解除され、アウタコラム21に対するインナコラム22のシャフト軸方向への移動が許容される(ロック解除状態)。
【0043】
次に、上述したEA長孔34の詳細について説明する。図5は、図1のV矢視図である。
図5に示すように、EA長孔34は、収容部34aと、遷移部34bと、ガイド部34cと、が後方から前方に連なって前後方向に延びるスリット状に形成されている。
収容部34aは、EA長孔34の後端部を構成する。本実施形態において、収容部34aは、後方に向けて突の半円形状に形成されている。ステアリング装置1が定常状態にあるとき、収容部34a内には、ボルト39の軸部が収容されている。本実施形態において、「定常状態」とは、二次衝突時以外の状態であって、車両走行時や車両停止時、テレスコ動作時、チルト動作時等を含んでいる。
【0044】
遷移部34bは、収容部34aの前方に連なっている。遷移部34bは、二次衝突時において、ボルト39をガイド部34cまで案内する部分である。遷移部34bは、前方に向かうに従い左右方向の幅が拡大した後、さらに前方に向かうに従い左右方向の幅が縮小している。遷移部34bにおいて、左右方向の最大幅は、収容部34aにおける左右方向の最大幅よりも広くなっている。具体的に、遷移部34bにおいて、左右方向で向かい合う内周縁のうち、左側内周縁は第1対向縁110を形成している。遷移部34bにおいて、左右方向で向かい合う内周縁のうち、右側内周縁は第2対向縁111を形成している。
【0045】
第1対向縁110は、収容部34aに対して左側に窪んで形成されている。第1対向縁110は、第1外側延在部110aと、第1最外延在部110bと、第1内側延在部110cと、を備えている。
第1外側延在部110aは、収容部34aの前端から前方に向かうに従い漸次左側(左右方向の外側)に向けて傾斜して延びている。
第1最外延在部110bは、第1外側延在部110aの前端から前方に向けて直線状に延びている。
第1内側延在部(テーパ面)110cは、第1最外延在部110bの前端から前方に向かうに従い漸次右側に向けて傾斜して延びている。なお、第1内側延在部110cは、直線状であっても、曲線状であってもよい。
【0046】
図示の例において、第1外側延在部110a、第1最外延在部110b及び第1内側延在部110cの前後方向の寸法は、第1外側延在部110aが最も短く、第1内側延在部110cが最も長い。第1内側延在部110cにおける前後方向に対する角度は、第1外側延在部110aにおける前後方向に対する角度よりも小さい。なお、第1対向縁110は、少なくとも内側対向縁110cを備えていればよい。この場合、第1外側延在部110a及び第1内側延在部110c同士が連なっていてもよく、第1外側延在部110aは左右方向に直線状に延びていてもよい。
【0047】
第2対向縁111は、収容部34aに対して右側に窪んで形成されている。第2対向縁111は、第2外側延在部111aと、第2最外延在部111bと、第2内側延在部111cと、を備えている。
第2外側延在部111aは、収容部34aの前端から前方に向かうに従い漸次右側に向けて傾斜して延びている。第2外側延在部111aの前端は、第1外側延在部110aよりも前方に位置している。
【0048】
第2最外延在部111bは、第2外側延在部111aの前端から前方に向けて直線状に延びている。第2最外延在部111bの前端は、第1最外延在部110bよりも前方に位置している。図示の例において、第2最外延在部111bの前端は、第1内側延在部110cの前端と同等の位置に配置されている。
第2内側延在部111cは、第2最外延在部111bの前端から前方に向かうに従い漸次左側に向けて傾斜して延びている。
【0049】
ガイド部34cは、遷移部34bの前端から前方に向けて直線状に延びている。ガイド部34cは、二次衝突時において、ボルト39を前方に向けて案内する部分である。ガイド部34cのうち、左側内周縁は第1内側延在部110cに連なっている。ガイド部34cのうち、右側内周縁は第2内側延在部111cに連なっている。ガイド部34cは、収容部34aに対して前後方向に沿う同一直線上に配置されている。(正面視で収容部34aと重なり合っている)。図示の例において、ガイド部34cにおける左右方向の寸法は、収容部34aと同等になっている。但し、ガイド部34cは、少なくとも第1内側延在部110cと連なっていれば収容部34aに対して左右方向にずれて配置されていてもよい。
【0050】
第2外側延在部111aには、変形部120が設けられている。変形部120は、第2外側延在部111aから第1対向縁110(第1最外延在部110b)に向けて片持ちで延びている。変形部120の先端部は、収容部34aとガイド部34cとの中心同士を結ぶ仮想線L2上に位置し、収容部34aとガイド部34cとの間を遮っている。変形部120は、ステアリング装置1が定常状態にあるとき(ボルト39が収容部34a内に収容されているとき)、ボルト39に前方から近接又は当接している。変形部120は、ボルト39が後方から当接することで、ボルト39(インナコラム22)の前方移動を規制する。すなわち、テレスコ動作時において、インナコラム22及びハンガブラケット23は、ボルト39を介して一体で前後動する。なお、変形部120の先端と第1対向縁110(第1内側延在部110c)との最短距離は、取付板部31の板厚よりも広くなっていることが好ましい。
【0051】
変形部120は、二次衝突時にボルト39を介して作用する荷重によって塑性変形可能に構成されている。具体的に、変形部120は、基端部を支点にして前方に倒れるように屈曲変形する(図6,7参照)。第2対向縁111において、変形部120の前方に位置する部分(第2最外延在部111b及び第2内側延在部111cで囲まれた部分)は、変形部120が屈曲変形した際に変形部120を受け入れる受入部123を構成している。
【0052】
[作用]
次に、上述したステアリング装置1の作用を説明する。以下の説明では、テレスコ動作、チルト動作、及び二次衝突時の動作について主に説明する。
<テレスコ動作>
図1に示すように、テレスコ動作を行うには、まず操作レバー54を回動操作して、ステアリング装置1をロック解除状態とする。具体的には、図3に示すように、締結カム55の厚さが減少する方向(例えば、下方)に操作レバー54を回動操作する。すると、締付部25同士が各リヤ側壁14aとともに離間して保持筒部24の内径が拡大する。これにより、保持筒部24によるインナコラム22の挟持が解除される。
【0053】
ロック解除状態において、ステアリングホイール2を前方に押し込むことで、ステアリングホイール2がインナコラム22及びステアリングシャフト12とともに、アウタコラム21に対して前方に移動する。ロック解除状態において、ステアリングホイール2を後方に引き込むことで、ステアリングホイール2がインナコラム22及びステアリングシャフト12とともに、アウタコラム21に対して後方に移動する。これにより、ステアリングホイール2の前後位置を任意の位置に調整できる。
【0054】
テレスコ動作時において、ステアリングホイール2を介してインナコラム22からボルト39に伝わる荷重(所定値未満の荷重)は、二次衝突時においてボルト39に伝わる荷重(衝突荷重)よりも小さい。そのため、テレスコ動作時には、ボルト39から変形部120に伝わる荷重によっては、変形部120は変形しない。その結果、ボルト39は変形部120によって前方移動が規制され、収容部34a内に位置した状態を維持する。これにより、テレスコ動作時には、インナコラム22等の前後動に伴い、ハンガブラケット23がインナコラム22等と一体になって前後動する。なお、図4に示すように、コラムユニット11の最縮位置P1において、ロックボルト(係合部)53がカラー(係合部)56を介して前側テレスコストッパ32bに後方から当接することで、インナコラム22等の前方移動が規制される。一方、コラムユニット11の最伸位置P2において、ロックボルト53がカラー56を介して後側テレスコストッパ32cに前方から当接することで、インナコラム22等の後方移動が規制される。
【0055】
続いて、図3に示すように、ステアリングホイール2を所望の位置に調整した後、操作レバー54を回動操作して、ステアリング装置1をロック状態とする。具体的には、締結カム55の厚さが増加する方向(例えば、上方)に操作レバー54を回動する。すると、各締付部25同士が各リヤ側壁14aとともに接近して保持筒部24(スリット28)が縮小する。これにより、保持筒部24によってインナコラム22が挟持されるとともに、リヤ側壁14aによってアウタコラム21が挟持される。その結果、テレスコ動作が規制される。
【0056】
ところで、本実施形態のステアリング装置1では、テレスコストッパ32b,32cに逃げ部36が形成されていることから、最縮位置P1又は最伸位置P2において、カラー56がテレスコストッパ32b,32cの保持部35のみに当接する。これにより、最縮位置P1又は最伸位置P2において、テレスコストッパ32b,32cのうちカラー56と向かい合う面の全体にカラー56の外周面が当接する場合に比べ、テレスコストッパ32b,32cとカラー56との接触面積を削減できる。これにより、テレスコ動作時において、カラー56がテレスコストッパ32b,32cに当接する際のカラー56の引っ掛かりを抑制し、カラー56をテレスコストッパ32b,32cの所望の位置(保持部35)に安定して当接させることができる。しかも、コラムユニット11が最縮位置P1又は最伸位置P2に長期間維持されたとしても、カラー56とテレスコストッパ32b,32cとの貼り付きを抑制できる。これにより、長期に亘ってスムーズなテレスコ動作を実現できる。
【0057】
<チルト動作>
チルト動作を行うにあたり、ステアリングホイール2を上向きに調整するには、ロック解除状態において、ステアリングホイール2を上方に押し上げる。すると、ロックボルト53がチルトガイド孔14b内を上方に移動することで、ステアリングホイール2がコラムユニット11及びステアリングシャフト12とともに軸線O2回りで上方に移動する。
一方、ステアリングホイール2を下向きに調整するには、ロック解除状態において、ステアリングホイール2を下方に引き下げる。すると、チルトガイド孔14bに沿ってステアリングホイール2がコラムユニット11及びステアリングシャフト12とともに軸線O2回りで下方に移動する。これにより、ステアリングホイール2の角度を任意の位置に調整できる。なお、ステアリングホイール2の角度を調整後は、ステアリング装置1をロック状態とする。
【0058】
<二次衝突時>
次に、二次衝突時の動作について説明する。
二次衝突の際には、ステアリングホイール2に対して前方に向けた衝突荷重(所定値以上の荷重)が運転者から作用する。衝突荷重が作用した場合には、ステアリングホイール2がインナコラム22やハンガブラケット23、ステアリングシャフト12とともに、アウタコラム21に対して前方に移動する。具体的に、ステアリング装置1では、インナコラム22の外周面がアウタコラム21の内周面上を摺動しながら、インナコラム22等がアウタコラム21に対して前方に移動する。アウタコラム21とインナコラム22との間の摺動抵抗等により、二次衝突時に運転者に加わる衝撃荷重が緩和される。
【0059】
図6,7は、二次衝突時の動作を説明するための説明図である。
二次衝突時において、カラー56が後側テレスコストッパ32cに突き当たることで、アウタコラム21に対するハンガブラケット23の前方移動が規制される(最縮位置P1)。この状態で、さらにインナコラム22が前方に向けて押し込まれると、ボルト39の軸部によって変形部120が前方に押し込まれる。これにより、図6図7に示すように、変形部120が基端部を起点にして前方に倒れ込むように変形(塑性変形)する。変形部120が変形すると、ボルト39が収容部34aから抜け出す。これにより、インナコラム22等は、ボルト39がEA長孔34によって案内された状態で、アウタコラム21やハンガブラケット23に対して前方に移動する。その結果、コラプスストロークを大きくすることができ、アウタコラム21とインナコラム22との間に発生する摺動抵抗によって衝撃荷重を緩和できる。
【0060】
ところで、二次衝突時において、ボルト39によって変形部120が変形させられる際、ボルト39は変形部120から反力を受けること等により変形部120から押し退けられる方向に移動する可能性がある。図6の例において、ボルト39は、変形部120を変形させる過程において、前方に移動しながら、左側に移動する。これにより、ボルト39は、収容部34aから抜け出した後、第1対向縁110に向けて移動する。なお、ボルト39が左側に移動することで、インナコラム22は軸線O1回りに回転しながら、前方に移動する。
【0061】
第1対向縁110に向けて移動したボルト39は、第1外側延在部110a又は第1最外延在部110b上を摺動しながら前方に案内された後、第1内側延在部110cに差し掛かる。ボルト39は、第1内側延在部110c上を摺動することで、前方に移動するに従い、右側(左右方向の内側)に向けて案内される。その後、ボルト39は、図7に示すように、ガイド部34c内に進入した後、さらに前方に移動する。
【0062】
このように、本実施形態のステアリング装置1では、EA長孔34のうち、収容部34aとガイド部34cとの間に位置する遷移部34bに、前方に移動するに従い遷移部34bの幅を漸次狭くする内側延在部110cを備える構成とした。
この構成によれば、収容部34aとガイド部34cとの間に遷移部34bを設けることで、二次衝突時において、ボルト39が変形部120に押し退けられた場合に、ボルト39の左右方向への変位を許容できる。これにより、ボルト39がEA長孔34の側端縁に引っ掛かる等して、コラプスストロークが阻害されるのを抑制できる。
しかも、本実施形態では、遷移部34bは、前方に向かうに従い遷移部34bの幅が漸次狭くなる第1内側延在部110cを備えている構成とした。
この構成によれば、遷移部34b内に移動したボルト39が第1内側延在部110c上を摺動することで、前方に移動するに従い、左右方向の内側に向けて案内される。これにより、ボルト39をガイド部34c内に導きやすくなる。ボルト39がガイド部34c内に進入した後、ボルト39はガイド部34cに沿って前方に向けてスムーズに移動する。これにより、安定したコラプスストロークを実現でき、所望の衝撃吸収性能を確保できる。
特に、本実施形態では、一つのハンガブラケット23によって、二次衝突時におけるインナコラム22の回転(ボルト39の左右方向への移動)を抑制できる。そのため、ハンガブラケットを複数設ける場合やテレスコガイド部に連続してEA長孔を形成する場合等に比べて、小型化及び低コスト化を図ることができる。
【0063】
本実施形態では、遷移部34bにおいて、変形部120よりも前方に位置する部分には、二次衝突時にボルト39によって変形させられた変形部120を収容する受入部123が形成されている構成とした。
この構成によれば、二次衝突時において、変形後の変形部120によってボルト39の前方移動が妨げられるのを抑制できる。これにより、安定したコラプスストロークを実現させることができる。
【0064】
本実施形態では、第1内側延在部110cが第1対向縁110に形成され、変形部120が第2対向縁111から第1対向縁110に向けて突出する構成とした。
この構成によれば、二次衝突時において、収容部34aから抜け出すボルト39の移動方向が第1対向縁110側に規定し易くなる。
【0065】
(第2実施形態)
図8は、第2実施形態のステアリング装置1において、図5に対応する底面図である。
本実施形態では、対向縁201,202のそれぞれに変形部及びテーパ面を備えている点で上述した第1実施形態と相違している。本実施形態において、対向縁201,202は、左右対称に形成されている。したがって、以下の説明では、第1対向縁110を例にしてEA長孔34の詳細について説明する。
【0066】
図8に示すように、第1対向縁201は、外側延在部210、最外延在部211及び内側延在部212を備えている。
外側延在部210は、収容部34aの前端から前方に向かうに従い漸次左側(左右方向の外側)に向けて傾斜して延びている。
最外延在部211は、外側延在部210の前端から前方に向けて直線状に延びている。
【0067】
内側延在部(テーパ面)212は、最外延在部211の前端から前方に向かうに従い漸次右側(左右方向の内側)に向けて傾斜して延びている。したがって、遷移部34bのうち、対向縁201,202のうち内側延在部212同士が向かい合う部分は、前方に向かうに従い左右方向の幅が漸次狭くなっている。なお、内側延在部212の前後方向における寸法は、外側延在部210及び最外延在部211よりも長い。
【0068】
第1対向縁201の外側延在部210には、変形部220が形成されている。変形部220は、左右方向の内側(第2対向縁202側)に向かうに従い、前方に向けて片持ちで延びている。第1対向縁201において、変形部220に対して左右方向の外側から前方に至る部分(最外延在部211及び内側延在部212で囲まれた部分)は、変形部220が屈曲変形した際に変形部220を受け入れる受入部223を構成している。
第2対向縁202に形成された変形部221は、左右方向の内側(第1対向縁201側)に向かうに従い、前方に向けて延びている。第2対向縁202において、変形部220に対して左右方向の外側から前方に至る部分(最外延在部211及び内側延在部212で囲まれた部分)は、変形部221が屈曲変形した際に変形部221を受け入れる受入部224を構成している。
【0069】
各変形部220,221間の隙間は、収容部34aの前端部及びガイド部34cの後端部での幅に比べて狭い。これにより、変形部220,221は、ステアリング装置1が定常状態にあるとき、ボルト39が後方から当接することで、ボルト39の前方移動を規制する。
【0070】
本実施形態では、図9に示すように、二次衝突時において、変形部220、221は、ボルト39から作用する荷重によって前方に向けて倒れ込むように変形する。これにより、変形部220、221間の間隔が広がることで、ボルト39は、収容部34aから抜け出し、遷移部34b内に進入する。なお、変形部220が受入部223内に収容されるとともに、変形部221が受入部224内に収容される。
【0071】
遷移部34b内に進入したボルト39は、遷移部34b内を前方に移動する過程で、第1対向縁201又は第2対向縁202に接触する可能性がある。この場合において、ボルト39が、仮に最外延在部211に接触した場合には、最外延在部211上を摺動することで、前方に移動した後、内側延在部212上を摺動することで、前方に移動するに従い、左右方向の内側に向けて案内される。これにより、ボルト39は、ガイド部34c内に進入した後、さらに前方に移動する。
【0072】
本実施形態では、上述した第1実施形態と同様の作用効果を奏することに加え、以下の作用効果を奏する。
すなわち、本実施形態では、第1対向縁201及び第2対向縁202からそれぞれ変形部221が突出しているため、二次衝突時においてボルト39が左右方向の一方側に向けて押し退けられるのを抑制できる。これにより、ボルト39がEA長孔34の側端縁に接触するのを抑制でき、安定したコラプスストロークを実現できる。
【0073】
なお、図10に示すように、対向縁201、202の前後方向の長さや、内側延在部212の前後方向に対する角度は、適宜変更が可能である。
【0074】
以上、本開示の好ましい実施例を説明したが、本開示はこれら実施例に限定されることはない。本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は上述した説明によって限定されることはなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
例えば、上述した実施形態では、軸線O1がシャフト軸方向に交差している構成について説明していたが、この構成のみに限られない。軸線O1は、車両のシャフト軸方向に一致していてもよい。
上述した実施形態では、スリット28が拡大又は縮小することで、アウタコラム21(保持筒部24)が拡大又は縮小する構成について説明したが、この構成に限られない。
上述した実施形態では、本開示に係る係合部として、ロックボルト53がカラー56を介してテレスコストッパ32b,32cに当接する構成について説明したが、この構成に限られない。係合部は、ロックボルト53等とは別にアウタコラム21に形成してもよい。
【0075】
上述した実施形態では、ハンガブラケット23がインナコラム22に下向きに設けられた構成について説明したが、この構成のみに限られない。例えば、ハンガブラケット23はインナコラム22に対して上向きや横向きに設けられていてもよい。
上述した実施形態では、ステアリング装置1がテレスコ動作及びチルト動作が可能な構成について説明したが、この構成に限られない。ステアリング装置1は、二次衝突時において、インナコラム22がアウタコラム21に対して移動可能な構成であれば、テレスコ動作及びチルト動作は必須の構成ではない。
【0076】
上述した実施形態では、変形部が何れかの対向縁から片持ちで突出する構成について説明したが、この構成に限られない。変形部は、対向縁同士の間を架け渡す両持ち構造であってもよい。
【0077】
その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1:ステアリング装置
12:ステアリングシャフト
15:ロック機構
21:アウタコラム
22:インナコラム
23:ハンガブラケット
31:取付板部
32b:前側テレスコストッパ(テレスコストッパ)
32c:後側テレスコストッパ(テレスコストッパ)
34:EA長孔
34a:収容部
34b:遷移部
34c:ガイド部
39:ボルト(固定部材)
53:ロックボルト(係合部)
56:カラー(係合部)
110:第1対向縁
110c:第1内側延在部(テーパ面)
111:第2対向縁
120:変形部
123:受入部
201:第1対向縁
202:第2対向縁
212:内側延在部(テーパ面)
220:変形部
221:変形部
223:受入部
224:受入部
O1:軸線(第1軸線)
O2:軸線(第2軸線)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10