(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147190
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/134 20100101AFI20220929BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220929BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/62 Z
H01M4/38 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048339
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(72)【発明者】
【氏名】笹川 浩
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕司
(72)【発明者】
【氏名】松下 一樹
(72)【発明者】
【氏名】毛利 敬史
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050BA16
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA20
5H050CA21
5H050CB02
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA11
5H050EA28
5H050HA04
5H050HA07
5H050HA08
(57)【要約】
【課題】サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【解決手段】このリチウムイオン二次電池用負極は、集電体と、前記集電体の少なくとも一面に接する負極活物質層とを備え、前記負極活物質層は、負極活物質とバインダーとを有し、前記負極活物質は、Liと合金化可能な材料を含み、前記バインダーは、所定の共重合体を含有し、前記負極活物質層の前記集電体側と反対側の表面の比表面積は、7.0m
2/g以上16.0m
2/g以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、前記集電体の少なくとも一面に接する負極活物質層とを備え、
前記負極活物質層は、負極活物質とバインダーとを有し、
前記負極活物質は、Liと合金化可能な材料を含み、
前記バインダーは、下記式(1)で表されるユニットと下記式(2)で表されるユニットとの共重合体を含有し、
【化1】
【化2】
式(2)中、Rは水素又はメチル基であり、Mはアルカリ金属元素であり、
前記負極活物質層の前記集電体側と反対側の表面の比表面積は、7.0m
2/g以上16.0m
2/g以下である、リチウムイオン二次電池用負極。
【請求項2】
前記負極活物質層の密度は、0.4g/cm3以上1.4g/cm3以下である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項3】
前記負極活物質層の厚さは、10μm以上50μm以下である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用負極を備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話、ノートパソコン等のモバイル機器やハイブリットカー等の動力源としても広く用いられている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の容量は主に電極の活物質に依存する。負極活物質には、一般に黒鉛が利用されているが、より高容量な負極活物質が求められている。そのため、黒鉛の理論容量(372mAh/g)に比べてはるかに大きな理論容量をもつシリコン(Si)や酸化シリコン(SiOx)が注目されている。
【0004】
SiやSiOxは充電時に大きな体積膨張を伴う。リチウムイオンの導電経路は、負極活物質の体積膨張によって分断される場合がある。その結果、リチウムイオン二次電池のサイクル特性が低下するという課題がある。例えば、特許文献1には、バインダーに非架橋型ポリアクリル酸を用いることで、負極活物質層の強度が向上し、リチウムイオン二次電池の劣化率が低下することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
サイクル特性の更なる向上が求められている。
【0007】
本開示は上記問題に鑑みてなされたものであり、サイクル特性に優れるリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0009】
(1)第1の態様にかかるリチウムイオン二次電池用負極は、集電体と、前記集電体の少なくとも一面に接する負極活物質層とを備え、前記負極活物質層は、負極活物質とバインダーとを有し、前記負極活物質は、Liと合金化可能な材料を含み、前記バインダーは、下記式(1)で表されるユニットと下記式(2)で表されるユニットとの共重合体を含有し、式(2)中、Rは水素又はメチル基であり、Mはアルカリ金属元素であり、前記負極活物質層の前記集電体側と反対側の表面の比表面積は、7.0m2/g以上16.0m2/g以下である。
【0010】
【0011】
【0012】
(2)上記態様にかかるリチウムイオン二次電池用負極において、前記負極活物質層の密度は、0.4g/cm3以上1.4g/cm3以下であってもよい。
【0013】
(3)上記態様にかかるリチウムイオン二次電池用負極において、前記負極活物質層の厚さは、10μm以上50μm以下であってもよい。
【0014】
(4)第2の態様にかかるリチウムイオン二次電池は、上記態様にかかるリチウムイオン二次電池用負極を備える。
【発明の効果】
【0015】
上記態様に係るリチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池は、サイクル特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態に係るリチウムイオン二次電池の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0018】
「リチウムイオン二次電池」
図1は、第1実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の模式図である。
図1に示すリチウムイオン二次電池100は、発電素子40と外装体50と非水電解液(図示略)とを備える。外装体50は、発電素子40の周囲を被覆する。発電素子40は、接続された一対の端子60、62によって外部と接続される。非水電解液は、外装体50内に収容されている。
【0019】
(発電素子)
発電素子40は、正極20と負極30とセパレータ10とを備える。
【0020】
<正極>
正極20は、例えば、正極集電体22と正極活物質層24とを有する。正極活物質層24は、正極集電体22の少なくとも一面に接する。
【0021】
[正極集電体]
正極集電体22は、例えば、導電性の板材である。正極集電体22は、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレス等の金属薄板である。正極集電体22の平均厚みは、例えば、10μm以上30μm以下である。
【0022】
[正極活物質層]
正極活物質層24は、例えば、正極活物質を含む。正極活物質層24は、必要に応じて、導電助剤、バインダーを含んでもよい。
【0023】
正極活物質は、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、リチウムイオンとカウンターアニオンのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させることが可能な電極活物質を含む。
【0024】
正極活物質は、例えば、複合金属酸化物である。複合金属酸化物は、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、リチウムマンガンスピネル(LiMn2O4)、及び、一般式:LiNixCoyMnzMaO2の化合物(一般式中においてx+y+z+a=1、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1、0≦a<1、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Zn、Crより選ばれる1種類以上の元素)、リチウムバナジウム化合物(LiV2O5)、オリビン型LiMPO4(ただし、Mは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素又はVOを示す)、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)、LiNixCoyAlzO2(0.9<x+y+z<1.1)である。正極活物質は、有機物でもよい。例えば、正極活物質は、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセンでもよい。
【0025】
導電助剤は、正極活物質の間の電子伝導性を高める。導電助剤は、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボン粉末、カーボンナノチューブ、炭素材料、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属微粉、炭素材料及び金属微粉の混合物、ITO等の導電性酸化物である。導電助剤は、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の炭素材料が好ましい。
【0026】
バインダーは、活物質同士を結合する。バインダーは、公知のものを用いることができる。バインダーは、例えば、フッ素樹脂である。フッ素樹脂は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等である。
【0027】
上記の他に、バインダーは、例えば、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-HFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFMVE-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴムでもよい。またバインダーは、例えば、セルロース、スチレン・ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂等でもよい。
【0028】
<負極>
負極30は、例えば、負極集電体32と負極活物質層34とを有する。負極活物質層34は、負極集電体32の少なくとも一面に形成されている。
【0029】
[負極集電体]
負極集電体32は、例えば、導電性の板材である。負極集電体32は、正極集電体22と同様のものを用いることができる。
【0030】
[負極活物質層]
負極活物質層34は、負極活物質とバインダーとを含む。また必要に応じて、導電助剤を含んでもよい。
【0031】
負極活物質は、リチウムと化合することのできる材料を含む。リチウムと化合することができる材料は、例えば、シリコン、スズ、ゲルマニウムである。シリコン、スズ、ゲルマニウムは、単体元素として存在してもよいし、化合物として存在してもよい。化合物は、例えば、合金、酸化物等である。例えば、負極活物質は、Si、SiO2である。一例として、負極活物質がシリコンの場合、負極30はSi負極と呼ばれることがある。
【0032】
負極活物質は、例えば、シリコン、スズ、ゲルマニウムの単体又は化合物と炭素材との混合系でもよい。炭素材は、例えば天然黒鉛である。また負極活物質は、例えば、シリコン、スズ、ゲルマニウムの単体又は化合物の表面が炭素で被覆されたものでもよい。炭素材及び被覆された炭素は、負極活物質と導電助剤との間の導電性を高める。負極活物質層がシリコン、スズ、ゲルマニウムを含むと、リチウムイオン二次電池100の容量が大きくなる。
【0033】
導電助剤は、正極20と同様のものを用いることができる。負極活物質層34は、例えば、導電助剤を負極活物質層34全体の重量に対して5wt%以上15wt%以下含有することが好ましい。
【0034】
バインダーは、下記式(1)と下記式(2)との共重合体を含有する。
【0035】
【0036】
【0037】
上記の式(2)において、Rは水素又はメチル基であり、Mはアルカリ金属元素である。
【0038】
この共重合体を含むバインダーは、非水電解液の浸透性がよい。またこの共重合体を含むバインダーは、柔軟性に優れ、他の層との密着性にも優れる。そのため、この共重合体を含むバインダーは、負極活物質が充放電時に大きく体積膨張した場合でも、負極活物質層34からの負極活物質の脱離、負極活物質層34が負極集電体32から剥離することを抑制する。
【0039】
この共重合体は、例えば、ビニルエステルと、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとのうちの少なくとも一方との共重合体をケン化して得られる。ビニルエステルは、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等である。
【0040】
式(1)で表されるユニットは、ビニルアルコールの不飽和結合が開いた構造体である。式(2)で表されるユニットは、(メタ)アクリル酸の不飽和結合が開いた構造体である。(メタ)アクリル酸は、アクリル酸とメタアクリル酸の総称として用いている。共重合体は、ビニルアルコールと、(メタ)アクリル酸塩又は(メタ)アクリル酸のアルカリ金属中和物との共重合である。
【0041】
共重合体における式(1)で表されるユニットと式(2)で表されるユニットの存在比は、これらのユニットの合計を100mol%とした際に、式(1)で表されるユニットの割合が、5mol%以上が好ましく、50mol%以上がより好ましく、60mol%以上がさらに好ましい。また式(1)で表されるユニットの割合は、95mol%以下が好ましく、90mol%以上がより好ましい。
【0042】
負極活物質層34におけるこの共重合体の含有量は、例えば、2質量%以上であり、好ましくは5質量%以上である。負極活物質層34におけるこの共重合体の含有量は、例えば、15質量%以下であり、好ましくは10質量%以下である。
【0043】
バインダーは、上記共重合体以外に、その他の組成物を含んでもよい。その他の組成物は、例えば、上述の正極に用いられるバインダー、セルロース、スチレン・ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂等でもよい。セルロースは、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)等である。
【0044】
負極活物質層34は、負極集電体32に接する第1面と、第1面と反対側の第2面とを有する。負極活物質層34の第2面の比表面積は、7.0m2/g以上16.0m2/g以下である。比表面積は、BET法を用いて求められるBET比表面積である。
【0045】
負極活物質層34の第2面の比表面積が上記範囲であると、負極活物質層34の非水電解液の保液性が向上する。負極活物質の表面に十分な電解液が存在すると、負極活物質の表面における反応が均質化され、電解液と負極活物質との間における過剰な副反応を抑制される。その結果、不要な反応が低減され、負極活物質層34の過剰な体積膨張が抑制され、リチウムイオン二次電池100のサイクル特性が向上する。
【0046】
負極活物質層34の密度は、例えば、0.4g/cm3以上1.4g/cm3以下である。負極活物質層34内に適度な空間があると、この空間が負極活物質の体積膨張に対する緩衝材として機能する。
【0047】
負極活物質層34の厚さは、例えば、10μm以上50μm以下である。負極活物質層34の厚さが厚いと、負極活物質層34の体積膨張による影響が大きくなる。負極活物質層34が、上述の共重合体を含み、かつ、第2面の比表面積が上記の範囲内にあることで、負極活物質層34の厚みが厚い場合でも、リチウムイオン二次電池100のサイクル特性を維持できる。
【0048】
<セパレータ>
セパレータ10は、正極20と負極30とに挟まれる。セパレータ10は、正極20と負極30とを隔離し、正極20と負極30との短絡を防ぐ。セパレータ10は、正極20及び負極30に沿って面内に広がる。リチウムイオンは、セパレータ10を通過できる。
【0049】
セパレータ10は、例えば、電気絶縁性の多孔質構造を有する。セパレータ10は、例えば、ポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィンからなるフィルムの単層体、積層体や上記樹脂の混合物の延伸膜、或いはセルロース、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種の構成材料からなる繊維不織布が挙げられる。セパレータ10は、例えば、固体電解質であってもよい。固体電解質は、例えば、高分子固体電解質、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質である。
【0050】
(端子)
端子60、62は、それぞれ正極20と負極30とに接続されている。正極20に接続された端子60は正極端子であり、負極30に接続された端子62は負極端子である。端子60、62は、外部との電気的接続を担う。端子60、62は、アルミニウム、ニッケル、銅等の導電材料から形成されている。接続方法は、溶接でもネジ止めでもよい。端子60、62は短絡を防ぐために、絶縁テープで保護することが好ましい。
【0051】
(外装体)
外装体50は、その内部に発電素子40及び非水電解液を密封する。外装体50は、非水電解液の外部への漏出や、外部からのリチウムイオン二次電池100内部への水分等の侵入等を抑止する。
【0052】
外装体50は、例えば
図1に示すように、金属箔52と、金属箔52の各面に積層された樹脂層54と、を有する。外装体50は、金属箔52を高分子膜(樹脂層54)で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムである。
【0053】
金属箔52としては例えばアルミ箔を用いることができる。樹脂層54には、ポリプロピレン等の高分子膜を利用できる。樹脂層54を構成する材料は、内側と外側とで異なっていてもよい。例えば、外側の材料としては融点の高い高分子、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)等を用い、内側の高分子膜の材料としてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等を用いることができる。
【0054】
(非水電解液)
非水電解液は、外装体50内に封入され、発電素子40に含浸している。非水電解液は、例えば、非水溶媒と電解質とを有する。電解質は、非水溶媒に溶解している。
【0055】
非水溶媒は、例えば、環状カーボネートと、鎖状カーボネートと、を含有する。環状カーボネートは、電解質を溶媒和する。環状カーボネートは、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びブチレンカーボネートである。環状カーボネートは、プロピレンカーボネートを少なくとも含むことが好ましい。鎖状カーボネートは、環状カーボネートの粘性を低下させる。鎖状カーボネートは、例えば、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートである。非水溶媒は、その他、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、γ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン等を有してもよい。
【0056】
非水溶媒中の環状カーボネートと鎖状カーボネートの割合は体積にして1:9~1:1にすることが好ましい。
【0057】
電解質は、例えば、リチウム塩である。電解質は、例えば、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiCF3SO3、LiCF3CF2SO3、LiC(CF3SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiN(CF3CF2SO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)、LiN(CF3CF2CO)2、LiBOB等である。リチウム塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。電離度の観点から、電解質はLiPF6を含むことが好ましい。
【0058】
「リチウムイオン二次電池の製造方法」
正極20は、正極集電体22の少なくとも一面に、ペースト状の正極スラリー(塗膜)を塗り、乾燥させることで得られる。正極スラリーは、正極活物質、導電助剤、バインダー及び溶媒を混合して得られる。正極集電体22及び正極活物質は、市販品を用いることができる。
【0059】
正極スラリーの塗布方法は、特に制限はない。例えば、スリットダイコート法、ドクターブレード法を正極スラリーの塗布方法として用いることができる。
【0060】
次いで、正極スラリーから溶媒を除去する。例えば、正極スラリーが塗布された正極集電体22を、80℃~150℃の雰囲気下で乾燥させればよい。このような手順で、正極集電体22上に正極活物質層24が形成された正極20が得られる。
【0061】
正極活物質層24が形成された正極は、必要に応じてロールプレス装置等によりプレス処理してもよい。ロールプレスの線圧は用いる材料によって異なるが、正極活物質層24の密度が所定の値となるように調整する。正極活物質層24の密度と線圧との関係は、正極活物質層24を構成する材料比率との関係を踏まえた事前検討により求められる。
【0062】
次いで、負極30を作製する。負極30は、正極20と同様に作製できる。負極集電体32の少なくとも一面に、ペースト状の負極スラリーを塗る。負極スラリーは、負極活物質、バインダー、導電助剤及び溶媒を混合し、ペースト化したものである。負極スラリーを負極集電体32に塗布し、乾燥することで負極30が得られる。
【0063】
バインダーは、事前に上記の式(1)で表されるユニットと上記式(2)で表されるユニットとの共重合体を含むものを準備する。この共重合体は、上述の手順で作製できる。
【0064】
負極活物質層34の第2面の比表面積は、例えば、負極スラリーに混合する導電助剤の量を調整することで、所定の範囲内にできる。負極スラリー中に含まれる導電助剤の量が増えると、負極活物質層34の第2面の比表面積が高くなる傾向にある。
【0065】
また負極活物質層34の第2面の比表面積は、例えば、乾燥後の負極活物質層34の第2面に対して表面処理を施すことで調整してもよい。表面処理は、例えば、物理的な処理でも化学的な処理でもよい。物理的な処理は、例えば、サンドブラスト等である。科学的な処理は、例えば、エッチング等である。エッチングは、例えば、フッ酸・硝酸・酢酸の混合溶液、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム等で行うことができる。
【0066】
次いで、作製した正極20及び負極30の間にセパレータ10が位置するようにこれらを積層して、発電素子40を作製する。発電素子40が捲回体の場合は、正極20、負極30及びセパレータ10の一端側を軸として、これらを捲回する。
【0067】
最後に、発電素子40を外装体50に封入する。非水電解液は外装体50内に注入する。非水電解液を注入後に減圧、加熱等を行うことで、発電素子40内に非水電解液が含浸する。熱等を加えて外装体50を封止することで、リチウムイオン二次電池100が得られる。
【0068】
第1実施形態にかかるリチウムイオン二次電池100は、サイクル特性に優れる。第1実施形態にかかるリチウムイオン二次電池100は、負極活物質層34の保液性が高いことで不要な副反応が抑制され、負極活物質層34の体積膨張が抑制されているためと考えられる。負極活物質層34の保液性は、負極活物質層34が所定の共重合体を含むこと、及び、負極活物質層34の第2面が所定の比表面積を満たすことで、向上している。
【0069】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【実施例0070】
「実施例1」
厚さ10μmの銅箔の一面に、負極スラリーを塗布した。負極スラリーは、負極活物質と導電助剤とバインダーと溶媒とを混合して作製した。負極活物質は、シリコンを用いた。導電助剤は、アセチレンブラックを用いた。バインダーは上述の式(1)と式(2)との共重合体を用いた。共重合体における式(1)で表されるユニットと式(2)で表されるユニットとの割合は、40:60(モル比)とした。また式(2)中のRをHとし、MをLiとした。負極活物質、導電助剤、バインダーの質量比は、80:10:10とした。乾燥後の負極活物質層における負極活物質の担持量は、2mg/cm2とした。
【0071】
次いで、負極スラリーが塗布された銅箔を、100℃の乾燥炉内に搬送し、負極スラリーから溶媒を乾燥除去した。乾燥後の負極スラリーは、負極活物質層となる。そして、負極活物質層の表面に対してサンドブラストを行った。負極活物質層の表面の比表面積は、7.0m2/gであった。負極活物質層の密度は1.41g/cm3であり、負極活物質層の厚さは、9.0μmであった。
【0072】
また厚さ15μmのアルミニウム箔の一面に、正極スラリーを塗布した。正極スラリーは、正極活物質と導電助剤とバインダーと溶媒とを混合して作製した。
【0073】
正極活物質は、LixCoO2を用いた。導電助剤は、アセチレンブラックを用いた。バインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いた。正極活物質、導電助剤、バインダーの質量比は、90:5:5とした。乾燥後の正極活物質層における負極活物質の担持量は、20mg/cm2とした。正極スラリーから乾燥炉内で溶媒を除去し、正極を作製した。
【0074】
(評価用リチウムイオン二次電池の作製 フルセル)
作製した負極と正極とを、厚さ10μmのポリプロピレン製のセパレータを介して交互に積層し、負極6枚と正極5枚とを積層することで積層体を作製した。さらに、積層体の負極において、負極活物質層を設けていない銅箔の突起端部にニッケル製の負極リードを取り付けた。また積層体の正極においては、正極活物質層を設けていないアルミニウム箔の突起端部にアルミニウム製の正極リードを超音波溶接機によって取り付けた。
【0075】
そしてこの積層体を、ラミネートフィルムの外装体内に挿入して周囲の1箇所を除いてヒートシールすることにより閉口部を形成した。外装体内には、非水電解液を注入した。非水電解液は、フルオロエチレンカーボネート(FEC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比で1:9とした溶媒中に、リチウム塩として1.0M(mol/L)のLiPF6が添加したものとした。そして、残りの1箇所を真空シール機によって減圧しながらヒートシールで密封し、リチウムイオン二次電池(フルセル)を作製した。
【0076】
そしてリチウムイオン二次電池のサイクル特性を求めた。サイクル特性は、二次電池充放電試験装置(北斗電工株式会社製)を用いて行った。サイクル特性は、25℃の環境下で評価した。サイクル特性は、0.5Cで4.2Vまで定電流定電圧充電し、1Cで2.5Vまで定電流放電する充放電サイクルを50サイクル繰り返すことにより評価した。サイクル特性は、50サイクル時点での放電容量維持率で評価した。放電容量維持率は、初期(1回目)のサイクル目の放電容量を100%としたときの50サイクル目の放電容量である。
【0077】
またサイクル特性を評価後のリチウムイオン二次電池を分解し、負極の厚み変化を測定した。厚み変化割合は、(「50サイクル後の負極の厚み」-「初回充電前の負極の厚み」)/(「初回充電前の負極の厚み」)×100で求められる。
【0078】
「実施例2,3及び比較例1~3」
実施例2,3及び比較例1~3は、負極活物質層の表面の比表面積を変えた点が実施例1と異なる。負極活物質層の表面の比表面積は、サンドブラストの強度で調整した。
【0079】
実施例2は、負極活物質層の比表面積を14.5m2/gとした。
実施例3は、負極活物質層の比表面積を16.0m2/gとした。
比較例1は、負極活物質層の比表面積を6.5m2/gとした。
比較例2は、負極活物質層の比表面積を16.1m2/gとした。
比較例3は、負極活物質層の比表面積を6.9m2/gとした。
【0080】
実施例2,3及び比較例1~3についても、実施例1と同様に、サイクル特性及び負極の厚さ変化を測定した。その結果を表1にまとめた。
【0081】
「実施例4~11」
実施例4~11は、負極活物質層の表面の比表面積を13.1m2/gとし、負極活物質層の厚みを10.0μmに固定したうえで、負極活物質層の密度を変更した。その他の条件は、実施例1と同様にした。負極活物質層の密度は、乾燥後の負極スラリーに対するプレス圧を調整することで変更した。
【0082】
実施例4は、負極活物質層の密度を0.30g/cm3とした。
実施例5は、負極活物質層の密度を0.39g/cm3とした。
実施例6は、負極活物質層の密度を0.40g/cm3とした。
実施例7は、負極活物質層の密度を0.70g/cm3とした。
実施例8は、負極活物質層の密度を1.10g/cm3とした。
実施例9は、負極活物質層の密度を1.20g/cm3とした。
実施例10は、負極活物質層の密度を1.40g/cm3とした。
実施例11は、負極活物質層の密度を1.41g/cm3とした。
【0083】
実施例4~11についても、実施例1と同様に、サイクル特性及び負極の厚さ変化を測定した。その結果を表1にまとめた。
【0084】
「実施例12~18」
実施例12~18は、負極活物質層の表面の比表面積を12.4m2/gとし、負極活物質層の密度を1.20g/cm3に固定したうえで、負極活物質層の厚さを変更した。その他の条件は、実施例1と同様にした。
【0085】
実施例12は、負極活物質層の厚さを10.0μmとした。
実施例13は、負極活物質層の厚さを13.0μmとした。
実施例14は、負極活物質層の厚さを24.0μmとした。
実施例15は、負極活物質層の厚さを35.0μmとした。
実施例16は、負極活物質層の厚さを42.0μmとした。
実施例17は、負極活物質層の厚さを50.0μmとした。
実施例18は、負極活物質層の厚さを51.0μmとした。
【0086】
実施例12~18についても、実施例1と同様に、サイクル特性及び負極の厚さ変化を測定した。その結果を表1にまとめた。
【0087】
「実施例19~23」
実施例19~23は、負極活物質層の表面の比表面積を13.1m2/gに固定したうえで、負極活物質層の密度及び負極活物質層の厚さを変更した。その他の条件は、実施例1と同様にした。
【0088】
実施例19は、負極活物質層の密度を0.25g/cm3とし、負極活物質層の厚さを24.0μmとした。
実施例20は、負極活物質層の密度を1.45g/cm3とし、負極活物質層の厚さを35.0μmとした。
実施例21は、負極活物質層の密度を1.50g/cm3とし、負極活物質層の厚さを42.0μmとした。
実施例22は、負極活物質層の密度を1.42g/cm3とし、負極活物質層の厚さを50.0μmとした。
実施例23は、負極活物質層の密度を1.42g/cm3とし、負極活物質層の厚さを51.0μmとした。
【0089】
実施例19~23についても、実施例1と同様に、サイクル特性及び負極の厚さ変化を測定した。その結果を表1にまとめた。
【0090】
「比較例4~10」
比較例4~10は、負極活物質に用いるバインダーをポリアクリル酸(PAA)とし、負極活物質層の表面の比表面積を変更した。その他の条件は、実施例1と同様にした。
【0091】
比較例4は、負極活物質層の比表面積を6.9m2/gとした。
比較例5は、負極活物質層の比表面積を7.0m2/gとした。
比較例6は、負極活物質層の比表面積を11.2m2/gとした。
比較例7は、負極活物質層の比表面積を12.6m2/gとした。
比較例8は、負極活物質層の比表面積を14.5m2/gとした。
比較例9は、負極活物質層の比表面積を16.0m2/gとした。
比較例10は、負極活物質層の比表面積を16.1m2/gとした。
【0092】
比較例4~10についても、実施例1と同様に、サイクル特性及び負極の厚さ変化を測定した。その結果を表1にまとめた。
【0093】
「比較例11」
比較例11は、負極活物質に用いるバインダーをスチレン・ブタジエンゴム(SBR)とカルボキシメチルセルロース(CMC)とに変更した。その他の条件は、実施例1と同様にした。
【0094】
比較例11についても、実施例1と同様に、サイクル特性及び負極の厚さ変化を測定した。その結果を表1にまとめた。
【0095】
「比較例12」
比較例12は、負極活物質に用いるバインダーをポリビニルアルコール(PVA)に変更した。その他の条件は、実施例1と同様にした。
【0096】
比較例12についても、実施例1と同様に、サイクル特性及び負極の厚さ変化を測定した。その結果を表1にまとめた。
【0097】