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特開2022-147194リチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池
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  • 特開-リチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池 図1
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  • 特開-リチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147194
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20220929BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220929BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048345
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169694
【弁理士】
【氏名又は名称】荻野 彰広
(72)【発明者】
【氏名】苅宿 洋
(72)【発明者】
【氏名】毛利 敬史
(72)【発明者】
【氏名】山下 保英
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 耕太郎
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA20
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050EA08
5H050EA10
5H050EA11
5H050EA23
5H050EA24
5H050FA10
5H050FA16
5H050HA05
5H050HA06
(57)【要約】
【課題】放熱性に優れるリチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【解決手段】このリチウムイオン二次電池用正極は、集電体と、前記集電体の少なくとも一面に接する正極活物質層とを備え、前記正極活物質層は、複数の正極活物質と複数の繊維状炭素とを含み、前記正極活物質層は、内部に複数の空孔を有し、前記複数の繊維状炭素の少なくとも一部は、互いに絡み合うことで炭素網を形成し、前記炭素網は、前記複数の空孔のうちのいずれかに臨む面に形成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、前記集電体の少なくとも一面に接する正極活物質層とを備え、
前記正極活物質層は、複数の正極活物質と複数の繊維状炭素とを含み、
前記正極活物質層は、内部に複数の空孔を有し、
前記複数の繊維状炭素の少なくとも一部は、互いに絡み合うことで炭素網を形成し、
前記炭素網は、前記複数の空孔のうちのいずれかに臨む面に形成されている、リチウムイオン二次電池用正極。
【請求項2】
前記複数の繊維状炭素の平均径は、0.3nm以上100nm以下である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項3】
前記複数の空孔の平均径は、0.5μm以上5μm以下である、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極を備える、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話、ノートパソコン等のモバイル機器やハイブリットカー等の動力源としても広く用いられている。
【0003】
近年、エネルギー密度が高く、出力特性に優れるリチウムイオン二次電池が求められている。例えば、特許文献1には、高出力条件下での充放電時における電池の内部抵抗の増加を抑制できるリチウムイオン二次電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-109636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、高出力条件での充放電は、出力時に大きな発熱を伴う。発熱は、様々な不具合の原因となりえる。
【0006】
本開示は上記問題に鑑みてなされたものであり、放熱性に優れるリチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、炭素繊維が折り重なってなる炭素網を正極活物質中の所定の位置に形成することで、高入出力時の発熱を抑制できることを見出した。すなわち、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0008】
(1)第1の態様にかかるリチウムイオン二次電池用正極は、集電体と、前記集電体の少なくとも一面に接する正極活物質層とを備え、前記正極活物質層は、複数の正極活物質と複数の繊維状炭素とを含み、前記正極活物質層は、内部に複数の空孔を有し、前記複数の繊維状炭素の少なくとも一部は、互いに絡み合うことで炭素網を形成し、前記炭素網は、前記複数の空孔のうちのいずれかに臨む面に形成されている。
【0009】
(2)上記態様にかかるリチウムイオン二次電池用正極において、前記複数の繊維状炭素の平均径は、0.3nm以上100nm以下であってもよい。
【0010】
(3)上記態様にかかるリチウムイオン二次電池用正極において、前記複数の空孔の平均径は、0.5μm以上5μm以下であってもよい。
【0011】
(4)第2の態様にかかるリチウムイオン二次電池は、上記態様にかかるリチウムイオン二次電池用正極を備える。
【発明の効果】
【0012】
上記態様に係るリチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池は、放熱性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態に係るリチウムイオン二次電池の模式図である。
図2】第1実施形態に係る正極活物質層の一部を走査型電子顕微鏡で撮影した図である。
図3】湿式法で作製した複合粉末を走査型電子顕微鏡で撮影した図である。
図4】メカノケミカル法で作製した複合粉末を走査型電子顕微鏡で撮影した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0015】
「リチウムイオン二次電池」
図1は、第1実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の模式図である。図1に示すリチウムイオン二次電池100は、発電素子40と外装体50と非水電解液(図示略)とを備える。外装体50は、発電素子40の周囲を被覆する。発電素子40は、接続された一対の端子60、62によって外部と接続される。非水電解液は、外装体50内に収容されている。
【0016】
(発電素子)
発電素子40は、正極20と負極30とセパレータ10とを備える。
【0017】
<正極>
正極20は、例えば、正極集電体22と正極活物質層24とを有する。正極活物質層24は、正極集電体22の少なくとも一面に接する。
【0018】
[正極集電体]
正極集電体22は、例えば、導電性の板材である。正極集電体22は、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレス等の金属薄板である。正極集電体22の平均厚みは、例えば、10μm以上30μm以下である。
【0019】
[正極活物質層]
正極活物質層24は、例えば、複数の正極活物質と複数の繊維状炭素とを含む。正極活物質層24は、この他に、導電助剤、バインダー、リチウム化合物等を有してもよい。また正極活物質層24の内部には、複数の空孔がある。空孔は、例えば、複数の正極活物質の間にある。
【0020】
正極活物質はそれぞれ、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、リチウムイオンとカウンターアニオンのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させることが可能な電極活物質を含む。
【0021】
正極活物質はそれぞれ、例えば、複合金属酸化物である。複合金属酸化物は、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)、リチウムマンガンスピネル(LiMn)、及び、一般式:LiNiCoMnの化合物(一般式中においてx+y+z+a=1、0≦x<1、0≦y<1、0≦z<1、0≦a<1、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Zn、Crより選ばれる1種類以上の元素)、リチウムバナジウム化合物(LiV)、オリビン型LiMPO(ただし、Mは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素又はVOを示す)、チタン酸リチウム(LiTi12)、LiNiCoAl(0.9<x+y+z<1.1)である。正極活物質は、有機物でもよい。例えば、正極活物質は、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセンでもよい。
【0022】
図2は、第1実施形態に係るリチウムイオン二次電池100の正極活物質層24の一部を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真である。
【0023】
図2に示すように、正極活物質層24内には複数の繊維状炭素1がある。複数の繊維状炭素1は、互いに絡み合っている。繊維状炭素1は、他の繊維状炭素1の間を架橋している。繊維状炭素1同士は、物理的に接触している。繊維状炭素1のそれぞれは、例えば、互いに交差している。
【0024】
繊維状炭素1は、正極活物質層24の導電助剤として機能する。導電助剤は、正極活物質間の電子伝導性を高める。本明細書において「繊維状」とは、その長さがその直径の50倍以上の物体を意味する。繊維状炭素1は、例えば、カーボンナノチューブである。カーボンナノチューブは、単層のものでも多層のものでもよい。
【0025】
繊維状炭素1の平均径は、例えば、0.3nm以上150nm以下であり、好ましくは0.3nm以上100nm以下であり、より好ましくは0.6nm以上100nm以下である。繊維状炭素1の径は、繊維状炭素1の長さ方向と直交する断面の径である。例えば、走査型電子顕微鏡で確認される任意の50個の繊維状炭素の厚さの平均が繊維状炭素の平均径である。正極活物質層24を作製前の繊維状炭素1を特定できる場合は、その繊維状炭素1を分析して評価する。
【0026】
繊維状炭素1の平均長さは、例えば、0.1μm以上100μm以下であり、好ましくは1μm以上30μm以下である。繊維状炭素1の平均長さは、走査型電子顕微鏡で測定される50本の平均値として求められる。正極活物質層24を作製前の繊維状炭素1を特定できる場合は、その繊維状炭素1を分析して評価する。
【0027】
正極活物質層24内に含まれる繊維状炭素1の多くは、例えば、束になっておらず、ばらばらに存在する。例えば、後述する空孔2が最低10個以上確認できる走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真において確認できる繊維状炭素1の50%以上は束になっていない。繊維状炭素1がつぶれずにそれぞれの外形が確認できる場合は、束になっていない状態であると判断する。
【0028】
複数の繊維状炭素1のうちの少なくとも一部は、互いに絡み合うことで炭素網を形成している。炭素網を構成する単位構造は、繊維状炭素1のそれぞれである。炭素網は、繊維状炭素1が網目構造を形成した状態である。
【0029】
また炭素網同士も複雑に絡み合っており、内部に空孔2を内包している。炭素網は、空孔2を取り囲む炭素骨格を形成している。炭素網は、例えば、籠状、巣状、外殻状に形成されている。炭素網に取り囲まれた部分には、複数の空孔2を形成されている。炭素網は、複数の空孔2のうちの少なくともいずれかに臨む面に形成されている。
【0030】
空孔2のそれぞれの平均径は、例えば、0.5μm以上10μm以下であり、好ましくは0.5μm以上8μm以下であり、より好ましくは1.0μm以上5μm以下である。空孔2の平均径は、走査型電子顕微鏡で撮影した写真において確認できる任意の空孔2の50個の平均径である。それぞれの空孔2の径は、断面画像における空孔2の長軸長さと短軸長さの平均である。
【0031】
バインダーは、活物質同士を結合する。バインダーは、公知のものを用いることができる。バインダーは、例えば、フッ素樹脂である。フッ素樹脂は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等である。
【0032】
上記の他に、バインダーは、例えば、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-HFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFMVE-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴムでもよい。またバインダーは、例えば、セルロース、スチレン・ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂等でもよい。
【0033】
導電助剤は、繊維状炭素以外に別途添加してもよい。導電助剤は、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボン粉末、カーボンナノチューブ、炭素材料、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属微粉、炭素材料及び金属微粉の混合物、ITO等の導電性酸化物である。導電助剤は、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等の炭素材料が好ましい。
【0034】
リチウム化合物は、例えば、炭素網を形成する際の支持体であり、完全に除去されずに残存したものである。リチウム化合物は、例えば、空孔を形成するために用いられる。リチウム化合物の多くは、充放電前に正極を洗浄することで除去されるが、一部が残差として残る場合がある。正極の洗浄は、例えば、リチウム化合物を溶解可能な溶媒で行われる。例えば、リチウム化合物が水酸化リチウム、炭酸リチウム、塩化リチウム等の場合は、過剰な水で洗浄することでリチウム化合物の多くが除去される。
【0035】
リチウム化合物は、例えば、フッ化リチウム(LiF)、シュウ酸リチウム(LiOOCCOOLi)、酢酸リチウム(CHCOLi)、硝酸リチウム(LiNO3)、酸化リチウム(LiO)、過酸化リチウム(Li)、炭化リチウム(CLi)、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)、塩化リチウム(LiCl)、ヨウ化リチウム(LiI)および窒化リチウム(LiN)からなる群から選ばれる少なくとも1種である。リチウム化合物は、これらの中でも、炭酸リチウム、水酸化リチウム、ヨウ化リチウムが好ましく、炭酸リチウムが特に好ましい。
【0036】
<負極>
負極30は、例えば、負極集電体32と負極活物質層34とを有する。負極活物質層34は、負極集電体32の少なくとも一面に形成されている。
【0037】
[負極集電体]
負極集電体32は、例えば、導電性の板材である。負極集電体32は、正極集電体22と同様のものを用いることができる。
【0038】
[負極活物質層]
負極活物質層34は、負極活物質を含む。また必要に応じて、導電助剤、バインダー、固体電解質を含んでもよい。
【0039】
負極活物質は、イオンを吸蔵・放出可能な化合物であればよく、公知のリチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質を使用できる。負極活物質は、例えば、金属リチウム、リチウム合金、イオンを吸蔵・放出可能な黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、カーボンナノチューブ、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温度焼成炭素等の炭素材料、アルミニウム、シリコン、スズ、ゲルマニウム等のリチウム等の金属と化合することのできる金属、SiO(0<x<2)、二酸化スズ等の酸化物を主体とする非晶質の化合物、チタン酸リチウム(LiTi12)等を含む粒子である。
【0040】
負極活物質層34は、シリコン、スズ、ゲルマニウムを含んでもよい。シリコン、スズ、ゲルマニウムは、単体元素として存在してもよいし、化合物として存在してもよい。化合物は、例えば、合金、酸化物等である。一例として、負極活物質がシリコンの場合、負極30はSi負極と呼ばれることがある。負極活物質は、例えば、シリコン、スズ、ゲルマニウムの単体又は化合物と炭素材との混合系でもよい。炭素材は、例えば天然黒鉛である。また負極活物質は、例えば、シリコン、スズ、ゲルマニウムの単体又は化合物の表面が炭素で被覆されたものでもよい。炭素材及び被覆された炭素は、負極活物質と導電助剤との間の導電性を高める。負極活物質層がシリコン、スズ、ゲルマニウムを含むと、リチウムイオン二次電池100の容量が大きくなる。
【0041】
負極活物質層34は、上述のように例えば、リチウムを含んでもよい。リチウムは、金属リチウムでもリチウム合金でもよい。負極活物質層34は、金属リチウム又はリチウム合金でもよい。リチウム合金は、例えば、Si、Sn、C、Pt、Ir、Ni、Cu、Ti、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Sb、Pb、In、Zn、Ba、Ra、Ge、Alからなる群から選択される1種以上の元素と、リチウムと、の合金である。一例として、負極活物質が金属リチウムの場合、負極30はLi負極と呼ばれることがある。負極活物質層34は、リチウムのシートでもよい。
【0042】
負極30は、作製時に負極活物質層34を有さずに、負極集電体32のみであってもよい。リチウムイオン二次電池100を充電すると、負極集電体32の表面に金属リチウムが析出する。金属リチウムはリチウムイオンが析出した単体のリチウムであり、金属リチウムは負極活物質層34として機能する。
【0043】
導電助剤及びバインダーは、正極20と同様のものを用いることができる。負極30におけるバインダーは、正極20に挙げたものの他に、例えば、セルロース、スチレン・ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂等でもよい。セルロースは、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)でもよい。
【0044】
<セパレータ>
セパレータ10は、正極20と負極30とに挟まれる。セパレータ10は、正極20と負極30とを隔離し、正極20と負極30との短絡を防ぐ。セパレータ10は、正極20及び負極30に沿って面内に広がる。リチウムイオンは、セパレータ10を通過できる。
【0045】
セパレータ10は、例えば、電気絶縁性の多孔質構造を有する。セパレータ10は、例えば、ポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィンからなるフィルムの単層体、積層体や上記樹脂の混合物の延伸膜、或いはセルロース、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種の構成材料からなる繊維不織布が挙げられる。セパレータ10は、例えば、固体電解質であってもよい。固体電解質は、例えば、高分子固体電解質、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質である。
【0046】
(端子)
端子60、62は、それぞれ正極20と負極30とに接続されている。正極20に接続された端子60は正極端子であり、負極30に接続された端子62は負極端子である。端子60、62は、外部との電気的接続を担う。端子60、62は、アルミニウム、ニッケル、銅等の導電材料から形成されている。接続方法は、溶接でもネジ止めでもよい。端子60、62は短絡を防ぐために、絶縁テープで保護することが好ましい。
【0047】
(外装体)
外装体50は、その内部に発電素子40及び非水電解液を密封する。外装体50は、非水電解液の外部への漏出や、外部からのリチウムイオン二次電池100内部への水分等の侵入等を抑止する。
【0048】
外装体50は、例えば図1に示すように、金属箔52と、金属箔52の各面に積層された樹脂層54と、を有する。外装体50は、金属箔52を高分子膜(樹脂層54)で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムである。
【0049】
金属箔52としては例えばアルミ箔を用いることができる。樹脂層54には、ポリプロピレン等の高分子膜を利用できる。樹脂層54を構成する材料は、内側と外側とで異なっていてもよい。例えば、外側の材料としては融点の高い高分子、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)等を用い、内側の高分子膜の材料としてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等を用いることができる。
【0050】
(非水電解液)
非水電解液は、外装体50内に封入され、発電素子40に含浸している。非水電解液は、例えば、非水溶媒と電解質とを有する。電解質は、非水溶媒に溶解している。
【0051】
非水溶媒は、例えば、環状カーボネートと、鎖状カーボネートと、を含有する。環状カーボネートは、電解質を溶媒和する。環状カーボネートは、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びブチレンカーボネートである。環状カーボネートは、プロピレンカーボネートを少なくとも含むことが好ましい。鎖状カーボネートは、環状カーボネートの粘性を低下させる。鎖状カーボネートは、例えば、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートである。非水溶媒は、その他、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、γ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン等を有してもよい。
【0052】
非水溶媒中の環状カーボネートと鎖状カーボネートの割合は体積にして1:9~1:1にすることが好ましい。
【0053】
電解液は、例えば、フルオロエチレンカーボネートとビニレンカーボネートとを含む。フルオロエチレンカーボネート及びビニレンカーボネートは、リチウム化合物の表面で電解液が分解することを阻害する。
【0054】
電解液におけるフルオロエチレンカーボネートの割合と、電解液におけるビニレンカーボネートの割合とは、0.001≦Y/X≦0.01を満たす。ここで、Xは、電解液におけるフルオロエチレンカーボネートの割合であり、Yは電解液におけるビニレンカーボネートの割合である。
【0055】
電解液におけるフルオロエチレンカーボネートの割合Xは、例えば、20wt%以下であり、5wt%以上20wt%以下であってもよい。電解液におけるビニレンカーボネートの割合Yは、例えば、0.05wt%以下であり、0.005wt%以上0.5wt%以下であってもよい。
【0056】
電解質は、例えば、リチウム塩である。電解質は、例えば、LiPF、LiClO、LiBF、LiCFSO、LiCFCFSO、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiN(CFCFSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiN(CFCFCO)、LiBOB等である。リチウム塩は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。電離度の観点から、電解質はLiPFを含むことが好ましい。
【0057】
「リチウムイオン二次電池の製造方法」
正極20は、正極集電体22の少なくとも一面に、ペースト状の正極スラリー(塗膜)を塗り、乾燥させることで得られる。正極集電体22は、市販品を用いることができる。
【0058】
正極スラリーの塗布方法は、特に制限はない。例えば、スリットダイコート法、ドクターブレード法を正極スラリーの塗布方法として用いることができる。
【0059】
正極スラリーを作製する際は、正極活物質とバインダーと複合粉末と溶媒とを混合する。複合粉末は、リチウム化合物の表面に繊維状炭素が纏わりつき、互いに絡み合ったものである。
【0060】
複合粉末は、例えば、湿式法で作製される。例えば、繊維状炭素が分散した分散液にリチウム化合物を浸漬することで、リチウム化合物の表面に繊維状炭素が付着する。繊維状炭素の付着性を向上するために、リチウム化合物の表面に樹脂層を形成してもよい。また繊維状炭素が分散した分散液をリチウム化合物に対してスプレーしてもよい。スプレーした分散液が乾燥することで、リチウム化合物の表面に繊維状炭素が付着する。
【0061】
湿式法は機械的なエネルギーを加えない。そのため、湿式法を用いると繊維状炭素がリチウム化合物の表面に纏わりつくように付着する。湿式法を用いると、せん断力、ずり応力等の機械的なエネルギーを用いた場合と比較して、繊維状炭素及びリチウム化合物に対するダメージが少ない。図3は、湿式法で作製した複合粉末を走査型電子顕微鏡で撮影した図である。図4は、メカノケミカル法で作製した複合粉末を走査型電子顕微鏡で撮影した図である。メカノケミカル法は、機械的なエネルギーを用いた複合化処理の一例である。
【0062】
図3に示すように湿式法で複合化された複合粉末は、リチウム化合物の表面に繊維状炭素が纏わりついている。リチウム化合物及び繊維状炭素は、製造過程で大きなダメージを受けておらず、製造前の状態を維持している。
【0063】
これに対し、図4に示すようにメカノケミカル法で複合化された複合粉末は、リチウム化合物の表面に繊維状炭素が纏わりつくようには複合化されていない。リチウム化合物の一部は、複合粉末の製造時の機械的なエネルギーにより破砕されている。また図4の左上に帯状の物質として確認できるように、繊維状炭素は機械的なエネルギーにより束になっている。
【0064】
複合粉末の平均粒径は、例えば、0.5μm以上10μm以下であり、好ましくは0.5μm以上8μm以下であり、より好ましくは1.0μm以上5μm以下である。複合粉末のリチウム化合物が分解することで空孔2が形成されるため、複合粉末の平均粒径は空孔2の平均径と略一致する。
【0065】
次いで、正極スラリーから溶媒を除去する。例えば、正極スラリーが塗布された正極集電体22を、80℃~150℃の雰囲気下で乾燥させればよい。このような手順で、正極集電体22上に正極活物質層24が形成された正極20が得られる。
【0066】
正極活物質層24が形成された正極は、必要に応じてロールプレス装置等によりプレス処理してもよい。ロールプレスの線圧は用いる材料によって異なるが、正極活物質層24の密度が所定の値となるように調整する。正極活物質層24の密度と線圧との関係は、正極活物質層24を構成する材料比率との関係を踏まえた事前検討により求められる。
【0067】
そして正極20を洗浄する。洗浄は、リチウム化合物を溶解可能な溶媒で行う。洗浄を行うと、複合粉末中のリチウム化合物の一部が除去される。「除去される」とは、完全に除去が完了しきることに限られず、少なくとも一部が除去されればよい。リチウム化合物が除去されると、リチウム化合物の表面に纏わりついていた炭素網が残る。リチウム化合物が存在していた場所には空孔2が形成される。リチウム化合物の少なくとも一部は分解せず残存し、リチウム化合物と繊維状炭素とが複合化された複合粉末の状態のままでもよい。
【0068】
次いで、負極30を作製する。負極30は、正極20と同様に作製できる。負極集電体32の少なくとも一面に、ペースト状の負極スラリーを塗る。負極スラリーは、負極活物質、バインダー、導電助剤及び溶媒を混合し、ペースト化したものである。負極スラリーを負極集電体32に塗布し、乾燥することで負極30が得られる。
【0069】
次いで、作製した正極20及び負極30の間にセパレータ10が位置するようにこれらを積層して、発電素子40を作製する。発電素子40が捲回体の場合は、正極20、負極30及びセパレータ10の一端側を軸として、これらを捲回する。
【0070】
次いで、発電素子40を外装体50に封入する。非水電解液は外装体50内に注入する。非水電解液を注入後に減圧、加熱等を行うことで、発電素子40内に非水電解液が含浸する。熱等を加えて外装体50を封止することで、リチウムイオン二次電池100が得られる。
【0071】
その後、作製されたリチウムイオン二次電池100をエージング(初回充放電)する。エージングを行うことにより、不良品を除くことができる。
【0072】
第1実施形態にかかるリチウムイオン二次電池100は、繊維状炭素からなる炭素網を有することで、正極活物質層24内に導電パスが確保される。炭素網は、高出力条件での充放電時に生じる発熱を逃がす。
【0073】
また炭素網の内部には空孔2が形成されている。空孔2は、正極活物質の膨張収縮に伴う応力を緩和する。第1実施形態にかかるリチウムイオン二次電池100は、正極活物質の体積変化に伴う応力の影響を受けにくく、正極活物質層24内のイオンパス及び導電パスを維持できる。その結果、第1実施形態にかかるリチウムイオン二次電池100は、サイクル特性に優れる。
【0074】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【実施例0075】
「実施例1」
<複合粉末の作製>
リチウム化合物としての80質量部のLiCOと、繊維状炭素としての20質量部のカーボンナノチューブ(CNT)とを準備した。リチウム化合物の平均粒径は1μmとした。カーボンナノチューブの平均径は0.6nmであり、平均長さは10μmであった。
【0076】
次いで、このリチウム化合物に対してカーボンナノチューブが分散した溶液をスプレーした。分散液を乾燥させることで、リチウム化合物の表面にカーボンナノチューブが付着した複合粉末を作製した。
【0077】
<正極の作製>
次いで複合粉末と正極活物質と導電助剤とバインダーとを混合し、正極合剤を作製した。正極活物質はコバルト酸リチウム(LiCoO)、導電助剤はカーボンブラック、バインダーはポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いた。正極活物質と複合粉末と導電助剤とバインダーは質量比で93:3:2:2とした。この正極合剤を、N-メチル-2-ピロリドンに分散させて正極スラリーを作製した(スラリー作製工程)。そして、厚さ15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の一面に、正極活物質の塗布量が9.0mg/cmとなるように、正極スラリーを塗布した(塗布工程)。塗布後、100℃で乾燥させて溶媒を除去し、得られた塗膜を圧延することにより、正極活物質層を得た。
【0078】
そして作製された正極を水で洗浄した。水は、リチウム化合物を十分溶解できる過剰な量を準備した。水で正極を洗浄することで、リチウム化合物であるLiCOが除去される。
【0079】
<負極の作製>
負極活物質と導電材とバインダーとを混合し、負極合材を作製した。負極活物質はシリコン、導電材はカーボンブラック、バインダーはカルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)とした。負極活物質と導電材とバインダーは質量比で90:5:5とした。この負極合剤を、蒸留水に分散させて負極スラリーを作製した。そして、厚さ10μmの銅箔の一面に、負極スラリーを塗布した。塗布後に、100℃で乾燥させ、溶媒を除去して負極活物質層を形成した。
【0080】
<セルの作製>
作製した負極と正極とを、所定の形状に打ち抜き、厚さ25μmのポリプロピレン製のセパレータを介して交互に積層し、負極9枚と正極8枚とを積層することで積層体を作製した。
【0081】
積層体を、アルミラミネートフィルムからなる外装体内に挿入して周囲の1箇所を除いてヒートシールすることにより開口部を形成した。外装体内には、非水電解液を注入した。非水電解液は、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DEC)が等量混合された溶媒に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)1.0mol/Lを溶解させた。さらに非水電解液には、5wt%のフルオロエチレンカーボネートと、0.01wt%のビニレンカーボネートとを添加した。そして、残りの1箇所を真空シール機によって減圧しながらヒートシールで密封した。
【0082】
<過充電試験>
作製したリチウムイオン二次電池に対して過充電試験を行い、リチウムイオン二次電池の最高到達温度を測定した。過充電試験は、室温、電池容量(SOC)が100%の電池を0.7Cの電流にて充電し、10Vで90分間保持した。温度は、端子に熱電対を貼り測定した。その結果、実施例1のリチウムイオン二次電池の最高到達温度は75℃であった。
【0083】
<分解評価>
また同条件で作製したリチウムイオン二次電池を分解し、正極活物質層を走査型電子顕微鏡で撮影した。その結果、正極活物質層内に繊維状炭素からなる炭素網が形成されていることを確認した。また炭素網によって囲まれた空間は空孔となっていることを確認した。空孔の平均径は、リチウム化合物の平均粒径と略同一の1μmであることを確認した。
【0084】
「実施例2」
実施例2は、複合粉末に用いるリチウム化合物の平均粒径を8μmとした点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同様として、過充電試験及び分解評価を行った。
【0085】
実施例2のリチウムイオン二次電池の最高到達温度は80℃であった。実施例2についても正極活物質層内に繊維状炭素からなる炭素網が形成されていることを確認し、炭素網によって囲まれた空孔の平均径が8μmであることを確認した。
【0086】
「実施例3」
実施例3は、複合粉末に用いるカーボンナノチューブの平均径を150μmとした点が実施例2と異なる。その他の条件は、実施例1と同様として、過充電試験及び分解評価を行った。
【0087】
実施例3のリチウムイオン二次電池の最高到達温度は82℃であった。実施例3についても正極活物質層内に繊維状炭素からなる炭素網が形成されていることを確認し、炭素網によって囲まれた空孔の平均径が8μmであることを確認した。
【0088】
「比較例1」
比較例1は、複合粉末を作製せずに、正極スラリーにカーボンナノチューブを直接添加した点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同様にして、過充電試験及び分解評価を行った。
【0089】
比較例1のリチウムイオン二次電池の最高到達温度は121℃であった。比較例1は、正極活物質内に繊維状炭素は確認されたが、炭素網は確認できなかった。また空孔は確認されたが、空孔の周囲に炭素網は形成されていなかった。空孔の平均径は1μmであった。
【0090】
「比較例2」
比較例2は、複合粉末を作製する際に、繊維状炭素の代わりにカーボンブラック(CB)を用いた点が実施例1と異なる。その他の条件は、実施例1と同様にして、過充電試験及び分解評価を行った。
【0091】
比較例2のリチウムイオン二次電池の最高到達温度は134℃であった。比較例2は、正極活物質内にカーボンブラックが折り重なってなる炭素膜が確認された。炭素膜は、空孔の周囲を囲んでいた。空孔の平均径は、リチウム化合物の平均粒径と略同一の1μmであることを確認した。
【0092】
「比較例3」
比較例3は、複合粉末を作製しなかった点、リチウム化合物の平均粒径を8μmとした点が比較例2と異なる。すなわち、正極スラリーにカーボンブラックを直接添加した。その他の条件は、実施例1と同様にして、過充電試験及び分解評価を行った。
【0093】
比較例3のリチウムイオン二次電池の最高到達温度は139℃であった。比較例3は、空孔が確認されたが、空孔の周囲に炭素網は形成されていなかった。空孔の平均径は8μmであった。
【0094】
以上、実施例1~3及び比較例1~3の結果を以下の表1にまとめた。
【0095】
【表1】
【符号の説明】
【0096】
1 繊維状炭素
2 空孔
10 セパレータ
20 正極
22 正極集電体
24 正極活物質層
30 負極
32 負極集電体
34 負極活物質層
40 発電素子
50 外装体
52 金属箔
54 樹脂層
60、62 端子
100 リチウムイオン二次電池
図1
図2
図3
図4