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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147217
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】基板処理方法および基板処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
H01L21/304 651Z
H01L21/304 648G
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048372
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】墨 周武
【テーマコード(参考)】
5F157
【Fターム(参考)】
5F157AB02
5F157AB13
5F157AB33
5F157AC03
5F157AC15
5F157CE07
5F157CE10
5F157CE11
5F157CE56
5F157CE57
5F157CE65
5F157CE83
5F157CF42
5F157CF44
5F157DB32
5F157DB37
(57)【要約】
【課題】チャンバ内で超臨界状態の処理流体により基板を処理する技術において、処理後のチャンバ内の温度を適切に管理して、特に複数の基板を順番に処理する場合にも安定した処理効率を得ることのできる技術を提供する。
【解決手段】本発明に係る基板処理方法は、基板を収容したチャンバの内部空間に処理流体を導入し、超臨界状態の処理流体により基板を処理する超臨界処理工程と、処理流体を排出し内部空間を減圧する減圧工程と、基板をチャンバから搬出する搬出工程と、基板が搬出された後の内部空間に処理流体を導入して排出することにより、内部空間の温度を目標温度に調整する温度調整工程とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内で超臨界状態の処理流体により基板を処理する基板処理方法において、
前記基板を収容した前記チャンバの内部空間に前記処理流体を導入し、超臨界状態の前記処理流体により前記基板を処理する超臨界処理工程と、
前記処理流体を排出し前記内部空間を減圧する減圧工程と、
前記基板を前記チャンバから搬出する搬出工程と、
前記基板が搬出された後の前記内部空間に前記処理流体を導入して排出することにより、前記内部空間の温度を目標温度に調整する温度調整工程と
を備える、基板処理方法。
【請求項2】
前記温度調整工程では、大気圧よりも高圧に加圧された前記処理流体を前記内部空間で断熱膨張させることにより、前記チャンバのうち前記内部空間に面する壁面を冷却する、請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記温度調整工程では、前記処理流体を前記内部空間から排出する際の排出速度が、前記目標温度に基づき設定される、請求項2に記載の基板処理方法。
【請求項4】
前記温度調整工程では、前記処理流体を前記内部空間から排出する際の排出速度が、前記処理流体が導入される直前の前記内部空間の温度に基づき設定される、請求項2に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記内部空間に対する前記処理流体の導入および排出の変化態様を規定した給排レシピが予め複数設定されており、前記温度調整工程では、前記処理流体が導入される直前の前記内部空間の温度に基づいて選択された一の前記給排レシピに基づき、前記内部空間に対する前記処理流体の導入および排出が制御される、請求項2に記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記温度調整工程では、前記目標温度に応じて温度調整された前記処理流体を前記内部空間に導入する、請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項7】
前記内部空間の温度よりも低温の前記処理流体を導入して、前記チャンバのうち前記内部空間に面する壁面を冷却する、請求項6に記載の基板処理方法。
【請求項8】
前記温度調整工程の後に、新たな未処理基板を受け入れて前記超臨界処理工程を実行することで、複数の前記基板を順番に処理する、請求項1ないし7のいずれかに記載の基板処理方法。
【請求項9】
超臨界状態の処理流体により基板を処理する基板処理装置において、
前記基板を内部空間に収容可能なチャンバと、
前記チャンバの内部空間に前記処理流体を供給する流体供給部と、
前記内部空間から前記処理流体を排出する流体排出部と、
前記流体供給部および前記流体排出部を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、前記処理流体により処理された前記基板が搬出された後の前記内部空間に、前記処理流体を前記流体供給部から供給させて前記流体排出部に排出させることにより、前記内部空間の温度を目標温度に調整する温度調整処理を実行する、基板処理装置。
【請求項10】
前記チャンバの側面に、前記内部空間と連通し前記基板が通過可能な開口が設けられ、
前記開口を開閉する蓋部をさらに備え、
前記温度調整処理では、前記基板が搬出された後に前記蓋部により前記開口を閉塞した状態で前記処理流体を導入する、請求項9に記載の基板処理装置。
【請求項11】
前記基板を水平姿勢に支持し前記開口を介して前記内部空間に進入可能な支持トレイを備え、
前記温度調整処理は、前記支持トレイが前記内部空間に収容された状態で実行される、請求項10に記載の基板処理装置。
【請求項12】
前記支持トレイが前記蓋部に取り付けられている、請求項11に記載の基板処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チャンバ内で超臨界状態の処理流体により基板を処理する技術に関するものであり、特に基板を超臨界処理流体で処理した後のプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板、表示装置用ガラス基板等の各種基板の処理工程には、基板の表面を各種の処理流体によって処理するものが含まれる。処理流体として薬液やリンス液などの液体を用いる処理は従来から広く行われているが、近年では超臨界流体を用いた処理も実用化されている。特に、表面に微細パターンが形成された基板の処理においては、液体に比べて表面張力が低い超臨界流体はパターンの隙間の奥まで入り込むため効率よく処理を行うことが可能であり、また乾燥時において表面張力に起因するパターン倒壊の発生リスクを低減することができる。
【0003】
例えば特許文献1には、基板に付着した液体を超臨界流体によって置換し、基板の乾燥処理を行う基板処理装置が記載されている。より具体的には、特許文献1には、超臨界処理流体として二酸化炭素を、これにより置換される置換対象液としてIPA(Isopropyl alcohol;イソプロピルアルコール)を用いた場合の乾燥処理の流れが詳しく記載されている。すなわち、基板を収容したチャンバ内が処理流体で満たされ、チャンバ内が当該処理流体の臨界圧力および臨界温度を共に上回る状態を一定期間維持した後、チャンバ内が減圧されて一連の処理が終了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-081966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術では主として昇圧と降圧とを繰り返す圧力制御により超臨界状態の維持が図られているが、処理中の超臨界流体の温度および圧力については一定に維持されることがより好ましい。というのは、超臨界流体では、特に温度変化に伴う密度変化が非常に大きく、例えば液体の置換を目的とする処理においては処理流体の密度によって処理効率が大きく変化するからである。より詳しくは、超臨界処理流体は高濃度であるほど他の液体を多く取り込むことができるため液体の置換効率は高くなり、そして超臨界処理流体は温度が低いほど高濃度である。そのため、処理流体は、超臨界状態を維持することができる範囲においてできるだけ低温かつ一定であることが好ましい。
【0006】
処理流体の温度はチャンバに導入される際のチャンバ内温度によっても影響を受けるから、導入時のチャンバ内の温度についても一定かつ適正に保たれていることが求められる。しかしながら、上記従来技術ではこの点については考慮されておらず、処理中以外のタイミング、特に減圧プロセスにおいてチャンバ内温度は管理されていない。このため、特に複数の基板を順番に処理する場合においては、先の基板への処理によって高温となったチャンバ内に次の基板および処理流体が導入されることで、処理効率が低下したり、処理結果のばらつきが生じたりするおそれがある。
【0007】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、チャンバ内で超臨界状態の処理流体により基板を処理する技術において、処理後のチャンバ内の温度を適切に管理して、特に複数の基板を順番に処理する場合にも安定した処理効率を得ることのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の一の態様は、チャンバ内で超臨界状態の処理流体により基板を処理する基板処理方法であって、上記目的を達成するため、前記基板を収容した前記チャンバの内部空間に前記処理流体を導入し、超臨界状態の前記処理流体により前記基板を処理する超臨界処理工程と、前記処理流体を排出し前記内部空間を減圧する減圧工程と、前記基板を前記チャンバから搬出する搬出工程と、前記基板が搬出された後の前記内部空間に前記処理流体を導入して排出することにより、前記内部空間の温度を目標温度に調整する温度調整工程とを備えている。
【0009】
また、この発明の他の一の態様は、超臨界状態の処理流体により基板を処理する基板処理装置であって、上記目的を達成するため、前記基板を内部空間に収容可能なチャンバと、前記チャンバの内部空間に前記処理流体を供給する流体供給部と、前記内部空間から前記処理流体を排出する流体排出部と、前記流体供給部および前記流体排出部を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記処理流体により処理された前記基板が搬出された後の前記内部空間に、前記処理流体を前記流体供給部から供給させて前記流体排出部に排出させることにより、前記内部空間の温度を目標温度に調整する温度調整処理を実行する。
【0010】
ここでいう「内部空間の温度」は、当該空間において温度測定を行ったときに検出される温度を指す概念であるが、具体的にはチャンバのうちその内部空間に面する壁面の温度を指すものとする。このように考えてよい理由については後述する。
【0011】
超臨界状態の処理流体による基板処理ではチャンバ内部が高温となり、処理流体が排出された後であっても温度が十分に低下していないことがある。特に処理終了時におけるチャンバ内の温度管理が考慮されていない処理では、その温度も処理ごとに異なる場合がある。そうすると、複数の基板を順次チャンバ内に搬送して連続的に処理を行う場合に、初期温度の違いに起因する処理結果のばらつきが生じ得る。
【0012】
このことに鑑み、上記のように構成された発明では、処理流体により基板を処理した後のチャンバ内部空間に改めて処理流体を導入し、内部の温度を目標温度に調整する。このように、1つの基板に対する処理が終了した後の温度が管理されているため、引き続いて直ちに次の基板をチャンバに搬入して処理を行うことが可能である。これにより、複数の基板に対する処理のスループットを向上させることができる。
【0013】
また、各基板に対する処理における初期温度が安定しているため、処理結果も安定したものとすることが可能である。というのは、超臨界流体は温度に対する密度の変化が大きく、密度の違いによって処理効率にも大きな差が生じるからである。本発明では初期温度が安定することで、その後の処理における温度変化が処理ごとにばらつくことが抑えられ、安定した処理結果を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
上記のように、本発明では、基板に対する処理の終了後、チャンバ内の温度調整を目的として、改めて処理流体を導入し排出する。このため、次の基板が搬入される前のチャンバ内の温度を適切に管理することができ、特に複数の基板を順番に処理する場合にも、処理ごとの超臨界処理流体の温度ばらつきを抑制して、安定した処理効率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る基板処理装置の一実施形態の概略構成を示す図である。
図2】基板処理装置により実行される処理の概要を示すフローチャートである。
図3】超臨界処理における各部の動作を模式的に示す図である。
図4】温度調整処理を示すフローチャートである。
図5】温度調整処理における圧力および温度の変化を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明に係る基板処理装置の一実施形態の概略構成を示す図である。この基板処理装置1は、例えば半導体基板のような各種基板の表面を、超臨界流体を用いて処理するための装置であり、本発明に係る基板処理方法を実行するのに好適な装置構成を有するものである。以下の説明において方向を統一的に示すために、図1に示すようにXYZ直交座標系を設定する。ここで、XY平面は水平面であり、Z方向は鉛直方向を表す。より具体的には、(-Z)方向が鉛直下向きを表す。
【0017】
本実施形態における「基板」としては、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板などの各種基板を適用可能である。以下では主として円盤状の半導体ウエハの処理に用いられる基板処理装置を例に採って図面を参照して説明する。しかしながら、上に例示した各種の基板の処理にも同様に適用可能である。また基板の形状についても各種のものを適用可能である。
【0018】
基板処理装置1は、処理ユニット10、移載ユニット30、供給ユニット50および制御ユニット90を備えている。処理ユニット10は、超臨界乾燥処理の実行主体となるものである。移載ユニット30は、図示しない外部の搬送装置により搬送されてくる未処理基板Sを受け取って処理ユニット10に搬入し、また処理後の基板Sを処理ユニット10から外部の搬送装置に受け渡す。供給ユニット50は、処理に必要な化学物質、動力およびエネルギー等を、処理ユニット10および移載ユニット30に供給する。
【0019】
制御ユニット90は、これら装置の各部を制御して所定の処理を実現する。この目的のために、制御ユニット90は、CPU91、メモリ92、ストレージ93、およびインターフェース94などを備えている。CPU91は、各種の制御プログラムを実行する。メモリ92は、処理データを一時的に記憶する。ストレージ93は、CPU91が実行する制御プログラムを記憶する。インターフェース94は、ユーザや外部装置と情報交換を行う。後述する装置の動作は、CPU91が予めストレージ93に書き込まれた制御プログラムを実行し、装置各部に所定の動作を行わせることにより実現される。
【0020】
処理ユニット10は、台座11の上に処理チャンバ12が取り付けられた構造を有している。処理チャンバ12は、いくつかの金属ブロックの組み合わせにより構成され、その内部が空洞となって処理空間SPを構成している。処理対象の基板Sは処理空間SP内に搬入されて処理を受ける。処理チャンバ12の(-Y)側側面には、X方向に細長く延びるスリット状の開口121が形成されている。開口121を介して、処理空間SPと外部空間とが連通している。処理空間SPの断面形状は、開口121の開口形状と概ね同じである。すなわち、処理空間SPはX方向に長くZ方向に短い断面形状を有し、Y方向に延びる空洞である。
【0021】
処理チャンバ12の(-Y)側側面には、開口121を閉塞するように蓋部材13が設けられている。蓋部材13が処理チャンバ12の開口121を閉塞することにより、気密性の処理容器が構成される。これにより、内部の処理空間SPで基板Sに対する高圧下での処理が可能となる。蓋部材13の(+Y)側側面には平板状の支持トレイ15が水平姿勢で取り付けられている。支持トレイ15の上面151は、基板Sを載置可能な支持面となっている。蓋部材13は図示を省略する支持機構により、Y方向に水平移動自在に支持されている。
【0022】
蓋部材13は、供給ユニット50に設けられた進退機構53により、処理チャンバ12に対して進退移動可能となっている。具体的には、進退機構53は、例えばリニアモータ、直動ガイド、ボールねじ機構、ソレノイド、エアシリンダ等の直動機構を有している。このような直動機構が蓋部材13をY方向に移動させる。進退機構53は制御ユニット90からの制御指令に応じて動作する。
【0023】
蓋部材13が(-Y)方向に移動することにより処理チャンバ12から離間し、点線で示すように支持トレイ15が処理空間SPから開口121を介して外部へ引き出されると、支持トレイ15へのアクセスが可能となる。すなわち、支持トレイ15への基板Sの載置、および支持トレイ15に載置されている基板Sの取り出しが可能となる。一方、蓋部材13が(+Y)方向に移動することにより、支持トレイ15は処理空間SP内へ収容される。支持トレイ15に基板Sが載置されている場合、基板Sは支持トレイ15とともに処理空間SPに搬入される。
【0024】
蓋部材13が(+Y)方向に移動し開口121を塞ぐことにより、処理空間SPが密閉される。蓋部材13の(+Y)側側面と処理チャンバ12の(-Y)側側面との間にはシール部材122が設けられ、処理空間SPの気密状態が保持される。シール部材122は例えばゴム製である。また、図示しないロック機構により、蓋部材13は処理チャンバ12に対して固定される。このように、この実施形態では、蓋部材13は、開口121を閉塞して処理空間SPを密閉する閉塞状態(実線)と、開口121から大きく離間して基板Sの出し入れが可能となる離間状態(点線)との間で切り替えられる。
【0025】
処理空間SPの気密状態が確保された状態で、処理空間SP内で基板Sに対する処理が実行される。この実施形態では、供給ユニット50に設けられた流体供給部57から、処理流体として、超臨界処理に利用可能な物質の処理流体、例えば二酸化炭素が送出される。処理流体は、気体、液体または超臨界の状態で処理ユニット10に供給される。二酸化炭素は、比較的低温、低圧で超臨界状態となり、また基板処理に多用される有機溶剤をよく溶かす性質を有するという点で、超臨界乾燥処理に好適な化学物質である。二酸化炭素が超臨界状態となる臨界点は、気圧(臨界圧力)が7.38MPa、温度(臨界温度)が31.1℃である。
【0026】
処理流体は処理空間SPに充填され、処理空間SP内が適当な温度および圧力に到達すると、処理空間SPは超臨界状態の処理流体で満たされる。こうして基板Sが処理チャンバ12内で超臨界流体により処理される。供給ユニット50には流体回収部55が設けられており、処理後の流体は流体回収部55により回収される。流体供給部57および流体回収部55は、制御ユニット90により制御されている。
【0027】
処理空間SPは、支持トレイ15およびこれに支持される基板Sを受け入れ可能な形状および容積を有している。すなわち、処理空間SPは、水平方向には支持トレイ15の幅よりも広く、鉛直方向には支持トレイ15と基板Sとを合わせた高さよりも大きい概略矩形の断面形状と、支持トレイ15を受け入れ可能な奥行きとを有している。このように処理空間SPは支持トレイ15および基板Sを受け入れるだけの形状および容積を有している。ただし、支持トレイ15および基板Sと、処理空間SPの内壁面との間の隙間は僅かである。したがって、処理空間SPを充填するために必要な処理流体の量は比較的少なくて済む。
【0028】
支持トレイ15が処理空間SPに収容された状態では、処理空間SPは支持トレイ15の上方の空間と下方の空間とに大きく二分される。支持トレイ15に基板Sが載置されている場合には、処理空間SPは、基板Sの上面よりも上方の空間と、支持トレイ15の下面よりも下方の空間とに区分されることになる。
【0029】
流体供給部57は、基板Sの(+Y)側端部よりもさらに(+Y)側で、処理空間SPのうち基板Sよりも上方の空間と、支持トレイ15よりも下方の空間とのそれぞれに対して処理流体を供給する。一方、流体回収部55は、基板Sの(-Y)側端部よりもさらに(-Y)側で、処理空間SPのうち基板Sよりも上方の空間と、支持トレイ15よりも下方の空間とからそれぞれ処理流体を排出する。これにより、処理空間SP内では、基板Sの上方と支持トレイ15の下方とのそれぞれに、(+Y)側から(-Y)側に向かう処理流体の層流が形成されることになる。
【0030】
処理空間SPから流体回収部55に至る処理流体の排出経路となる配管には、処理空間SPから排出される処理流体の圧力および温度を検出する検出部173,174が設けられている。具体的には、処理空間SPのうち支持トレイ15よりも上方の空間に連通し、該空間から処理流体を排出する配管に第1の検出部173が、支持トレイ15よりも下方の空間に連通し、該空間から処理流体を排出する配管に第2の検出部174が、それぞれ設けられている。
【0031】
検出部173,174は処理空間SPの圧力および温度を検出するものであり、この意味においては処理空間SPの内部に設けられることが望ましい。特に温度については、処理空間SPに面するチャンバ内壁面の温度が検出できれば理想的である。しかしながら、処理流体のスムーズな流れを阻害したり、処理流体に対する汚染源となったりすることは避けなければならない。このため、簡易的な代替方法として、処理流体の流通方向において基板Sよりも下流側で処理空間SPに連通する処理流体の流路に、検出部173,174が設けられる。すなわち、この流路を流れる処理流体の圧力および温度の検出結果を、処理空間SPの圧力および温度と見なすこととする。
【0032】
この目的からは、処理空間SPから検出部173,174に至る処理流体の流路を構成する配管については圧力損失の小さいものであることが望ましい。また、処理流体の流れに影響を与えない限り、処理空間SPに直接臨むように検出部が配置されてももちろん構わない。
【0033】
制御ユニット90は、検出部173,174の出力に基づいて処理空間SP内の圧力および温度を特定し、その結果に基づき流体供給部57および流体回収部55を制御する。これにより、処理空間SPへの処理流体の供給および処理空間SPからの処理流体の排出が適切に管理され、処理空間SP内の圧力および温度が予め定められた処理レシピに応じて調整される。
【0034】
移載ユニット30は、外部の搬送装置と支持トレイ15との間における基板Sの受け渡しを担う。この目的のために、移載ユニット30は、本体31と、昇降部材33と、ベース部材35と、複数のリフトピン37とを備えている。昇降部材33はZ方向に延びる柱状の部材であり、図示しない支持機構により、本体31に対してZ方向に移動自在に支持されている。昇降部材33の上部には、略水平の上面を有するベース部材35が取り付けられている。ベース部材35の上面から上向きに、複数のリフトピン37が立設されている。リフトピン37の各々は、その上端部が基板Sの下面に当接することで基板Sを下方から水平姿勢に支持する。基板Sを水平姿勢で安定的に支持するために、上端部の高さが互いに等しい3以上のリフトピン37が設けられることが望ましい。
【0035】
昇降部材33は、供給ユニット50に設けられた昇降機構51により昇降移動可能となっている。具体的には、昇降機構51は、例えばリニアモータ、直動ガイド、ボールねじ機構、ソレノイド、エアシリンダ等の直動機構を有しており、このような直動機構が昇降部材33をZ方向に移動させる。昇降機構51は制御ユニット90からの制御指令に応じて動作する。
【0036】
昇降部材33の昇降によりベース部材35が上下動し、これと一体的に複数のリフトピン37が上下動する。これにより、移載ユニット30と支持トレイ15との間での基板Sの受け渡しが実現される。より具体的には、図1に点線で示すように、支持トレイ15がチャンバ外へ引き出された状態で基板Sが受け渡される。この目的のために、支持トレイ15にはリフトピン37を挿通させるための貫通孔152が設けられている。ベース部材35が上昇すると、リフトピン37の上端は貫通孔152を通して支持トレイ15の支持面151よりも上方に到達する。この状態で、外部の搬送装置により搬送されてくる基板Sが、リフトピン37に受け渡される。リフトピン37が下降することにより、基板Sはリフトピン37から支持トレイ15へ受け渡される。基板Sの搬出は、上記と逆の手順により行うことができる。
【0037】
図2はこの基板処理装置により実行される処理の概要を示すフローチャートである。この基板処理装置1は、超臨界乾燥処理、すなわち前工程において洗浄液により洗浄された基板Sを乾燥させる処理を実行する。具体的には以下の通りである。処理対象の基板Sは、基板処理システムを構成する他の基板処理装置で実行される前工程において、洗浄液により洗浄される。その後、例えばイソプロピルアルコール(IPA)などの有機溶剤による液膜が表面に形成された状態で、基板Sは基板処理装置1に搬送される。
【0038】
例えば基板Sの表面に微細パターンが形成されている場合、基板Sに残留付着している液体の表面張力によってパターンの倒壊が生じるおそれがある。また、不完全な乾燥によって基板Sの表面にウォーターマークが残留する場合がある。また、基板S表面が外気に触れることで酸化等の変質を生じる場合がある。このような問題を未然に回避するために、基板Sの表面(パターン形成面)を、液体または固体の表面層で覆った状態で搬送することがある。
【0039】
例えば洗浄液が水を主成分とするものである場合には、これより表面張力が低く、かつ基板に対する腐食性が低い液体、例えばIPAやアセトン等の有機溶剤により液膜を形成した状態で、搬送が実行される。すなわち、基板Sは、水平状態に支持され、かつその上面に液膜が形成された状態で、基板処理装置1に搬送されてくる。
【0040】
図示しない搬送装置により搬送されてきた基板Sは処理チャンバ12に収容される(ステップS101)。具体的には、基板Sは、パターン形成面を上面にして、しかも該上面が薄い液膜に覆われた状態で搬送されてくる。図1に点線で示すように、蓋部材13が(-Y)側へ移動し支持トレイ15が引き出された状態で、リフトピン37が上昇する。搬送装置は基板Sをリフトピン37へ受け渡す。リフトピン37が下降することで、基板Sは支持トレイ15に載置される。支持トレイ15および蓋部材13が一体的に(+Y)方向に移動すると、基板Sを支持する支持トレイ15が処理チャンバ12内の処理空間SPに収容されるとともに、開口121が蓋部材13により閉塞される。
【0041】
この状態で、処理流体としての二酸化炭素が、気相の状態で処理空間SPに導入される(ステップS102)。基板Sの搬入時に処理空間SPには外気が侵入するが、気相の処理流体を導入することで、これを置換することができる。さらに気相の処理流体を注入することで、処理チャンバ12内の圧力が上昇する。
【0042】
なお、処理流体の導入過程において、処理空間SPからの処理流体の排出は継続的に行われる。すなわち、流体供給部57により処理流体が導入されている間にも、流体回収部55による処理空間SPからの処理流体の排出が実行されている。これにより、処理に供された処理流体が処理空間SPに対流することなく排出され、処理流体中に取り込まれた残留液体などの不純物が基板Sに再付着することが防止される。
【0043】
処理流体の供給量が排出量よりも多ければ、処理空間SPにおける処理流体の密度が上昇しチャンバ内圧が上昇する。逆に、処理流体の供給量が排出量よりも少なければ、処理空間SPにおける処理流体の密度は低下しチャンバ内は減圧される。このような処理流体の処理チャンバ12への供給および処理チャンバ12からの排出については、予め作成された給排レシピに基づいて行われる。すなわち、制御ユニット90が給排レシピに基づき流体供給部57および流体回収部55を制御することによって、処理流体の供給・排出タイミングやその流量等が調整される。
【0044】
処理空間SP内で処理流体の圧力が上昇し臨界圧力を超過すると、処理流体はチャンバ内で超臨界状態となる。すなわち、処理空間SP内での相変化により、処理流体が気相から超臨界状態に遷移する。なお、超臨界状態の処理流体は外部から供給されてもよい。処理空間SPに超臨界流体が導入されることで、基板Sを覆うIPAなどの有機溶剤が超臨界流体により置換される。基板Sの表面から遊離した有機溶剤は処理流体に溶け込んだ状態で処理流体と共に処理チャンバ12から排出され、基板Sから除去される。すなわち、超臨界状態の処理流体は、基板Sに付着する有機溶剤を置換対象液としてこれを置換し、処理チャンバ12外へ排出する機能を有する。処理空間SPが超臨界状態の処理流体で満たされた状態を所定時間継続することで(ステップS103)、基板Sに付着していた置換対象液を完全に置換しチャンバ外へ排出することができる。
【0045】
処理チャンバ12内での超臨界流体による置換対象液の置換が終了すると(ステップS104)、処理空間SP内の処理流体を排出して基板Sを乾燥させる。具体的には、処理空間SPからの流体の排出量を増大させることで、超臨界状態の処理流体で満たされた処理チャンバ12内を減圧する(ステップS105)。
【0046】
減圧プロセスにおいて、処理流体の供給は停止されてもよく、また少量の処理流体が継続して供給される態様でもよい。処理空間SPが超臨界流体で満たされた状態から減圧されることで、処理流体は超臨界状態から相変化して気相となる。気化した処理流体を外部へ排出することで、基板Sは乾燥状態となる。このとき、急激な温度低下により固相および液相を生じることがないように、減圧速度が調整される。これにより、処理空間SP内の処理流体は、超臨界状態から直接気化して外部へ排出される。したがって、乾燥後の表面が露出した基板Sに気液界面が形成されることは回避される。
【0047】
このように、この実施形態の超臨界乾燥処理では、処理空間SPを超臨界状態の処理流体で満たした後、気相に相変化させて排出することにより、基板Sに付着する液体を効率よく置換し、基板Sへの残留を防止することができる。しかも、不純物の付着による基板の汚染やパターン倒壊等、気液界面の形成に起因して生じる問題を回避しつつ基板を乾燥させることができる。
【0048】
処理後の基板Sは後工程へ払い出される(ステップS106)。すなわち、蓋部材13が(-Y)方向へ移動することで支持トレイ15が処理チャンバ12から外部へ引き出され、移載ユニット30を介して外部の搬送装置へ基板Sが受け渡される。このとき、基板Sは乾燥した状態となっている。後工程の内容は任意である。次に処理すべき基板がなければ(ステップS107においてNO)、処理は終了する。他に処理対象基板がある場合には(ステップS107においてYES)、後述する温度調整処理(ステップS108)を実行した後、ステップS101に戻って新たな基板Sが受け入れられ、上記処理が繰り返される。
【0049】
1枚の基板Sに対する処理の終了後、引き続き次の基板Sの処理が行われる場合には、以下のようにすることでタクトタイムを短縮することができる。すなわち、支持トレイ15が引き出されて処理済みの基板Sが搬出された後、新たに未処理基板Sが載置されてから支持トレイ15を処理チャンバ12内に収容する。また、こうして蓋部材13の開閉回数を低減させることにより、外気の進入に起因する処理チャンバ12内の温度変化を抑制する効果も得られる。
【0050】
次に、ステップS108の温度調整処理について説明する。超臨界状態の流体は、温度に対する密度変化が大きい。具体的には、流体の温度が低いほど高密度であり、僅かに温度が上昇するだけで密度が大きく低下する。基板に残留付着する液体を超臨界処理流体により置換するという超臨界処理の目的に照らせば、より多くの液体を取り込むことのできる高密度の処理流体で処理を行うことが望ましい。
【0051】
しかしながら、処理後のチャンバ内は高温となっており、しかも、特に温度管理がなされていなければ温度は処理ごとに異なる場合がある。このような状態で新たな基板を受け入れて処理を行うと、導入される処理流体の温度が大きく変化して良好な処理結果を得られなかったり、基板ごとに処理品質が異なったりするという問題が生じ得る。
【0052】
この問題を解消するために、この実施形態では、1枚の基板に対する超臨界処理が終了した後、次に説明する温度調整処理を行うことでチャンバ内の温度を目標温度にしてから、新たな基板の受け入れを行う。
【0053】
図3は超臨界処理における各部の動作を模式的に示す図である。また、図4は温度調整処理を示すフローチャートである。1枚の基板に対する超臨界処理流体による処理が終了した時点(図2のステップS105)では、図3(a)に示すように、基板Sが支持トレイ15に支持された状態で処理空間SPに収容されている。ステップS106において、図3(b)に示すように、蓋部材13が(-Y)方向に移動して支持トレイ15が外部へ引き出され、例えば図示しない搬送ロボットのハンドHにより、基板Sは外部へ搬出される。
【0054】
基板の搬出後に行われる温度調整処理では、図3(c)に示すように、蓋部材13が閉じられ、これにより、基板Sを載置しない状態の支持トレイ15を収容した処理空間SPが閉塞される(ステップS201)。そして、図3(d)に示すように、所定の給排レシピに基づき、流体供給部57が処理空間SP内に処理流体を供給するとともに、流体回収部55が処理空間SPから処理流体を排出することで、処理空間SPを冷却する(ステップS204)。
【0055】
このときの処理流体は、処理チャンバ12を冷却しチャンバ内の温度を低下させる目的で導入される。なお、処理空間SPの温度とは、処理空間SP内に温度検出器を設置し計測を行ったときに検出されるものであるが、例えば処理空間SPに面するチャンバ内壁面の温度によってこれを代表的に表すことが可能である。処理チャンバ12は、高圧への耐性が求められるため、例えば肉厚の金属ブロックにより形成される。そのため熱容量が大きく、壁面からの輻射および伝導により、処理空間SP内で検出される温度も概ね壁面の温度に等しいと考えられるからである。
【0056】
しかしながら、処理対象となる基板の汚染源となり得ることから、処理空間SPに臨む形で温度検出器を配置することが難しい場合がある。この場合には、処理空間SPに連通する空間、特に処理流体の流通方向において基板Sよりも下流側の空間に温度検出器を設け、この空間を満たす流体の温度をもって、簡易的に処理空間SPの温度と見なすことができる。本実施形態の検出部173,174は、このような目的に合致するものである。
【0057】
処理流体を用いて処理空間SPの温度を目標温度に調整する方法において、最も簡単には、目標温度に基づき温度調整された処理流体を処理空間SPに供給することである。一般的には、高温になったチャンバを冷却すべく、チャンバ内より低温の処理流体を供給することになる。十分な量の処理流体を流通させることで、処理空間SPに面するチャンバ内壁面の温度を目標温度に近づけることが可能である。
【0058】
ただし、処理後のチャンバ内温度は必ずしも一定ではなく、またチャンバ内の冷却を目的として処理流体の温度を調節することも現実的とは言えない。そこで、この実施形態では、処理空間SPに加圧された処理流体を充満させた後、減圧する際の断熱膨張による温度低下を利用して処理チャンバ12の冷却を図っている。
【0059】
具体的には、チャンバ内温度を取得し(ステップS202)、その結果に基づき給排レシピを決定し(ステップS203)、決定された給排レシピに基づき処理空間SPに対する処理流体の供給(ステップS204)および排出(ステップS205)を制御することで、チャンバ内の温度調整を行う。
【0060】
処理空間SPに対する処理流体の供給量が排出量より多い供給過多の状態とすることにより、処理流体は処理空間SP内で加圧され圧縮されて温度が上昇する。一方、排出量が供給量より多い排出過多の状態では、処理空間SPが減圧される。このとき、排出速度が高ければ、処理空間SP内で処理流体が急速に膨張し、断熱膨張によって温度が低下する。このように処理空間SP内の処理流体の温度を急速に低下させることで、チャンバ内壁面を冷却することが可能である。
【0061】
図5は温度調整処理におけるチャンバ内の圧力および温度の変化を模式的に示す図である。基板Sが搬出された直後の時刻T0におけるチャンバ内の温度Teは処理ごとに種々の値を取り得るが、次の処理開始時の目標温度Ttよりも高温であるものとする。このときチャンバ内の圧力は大気圧Paである。
【0062】
時刻T1において処理流体の供給が開始される。このときの処理流体は気相、液相のいずれであってもよい。供給過多の状態で処理流体が導入されることで処理流体が圧縮され、チャンバ内の圧力および温度が上昇する。チャンバ内圧力が最大圧力Pmとなる状態を一定期間(時刻T2~T3)維持した後、排出過多の状態とすることでチャンバ内が減圧される。処理流体の断熱膨張により温度低下が生じ、これによりチャンバ内壁面も冷却される。チャンバ内温度が目標温度Ttに達するまで(時刻T4)減圧が行われる。最終的には、チャンバ内の圧力が大気圧Pa、温度が目標温度Ttとなった状態が実現される。
【0063】
なお、単にチャンバ内の温度を調整するための動作であるため、処理流体を超臨界状態とする必要はない。また、圧力を一定に維持する期間も短時間でよい。温度調整処理における処理チャンバ12の冷却は、処理チャンバ12全体を冷却しようとするものではなく、そのうち処理空間SPに面する壁面およびそれに隣接する部分を、後の処理で導入される処理流体の温度に影響を与えない程度に冷却することを目的とするものである。
【0064】
温度調整処理の開始時点でのチャンバ内温度Teは必ずしも一定ではない。このため、このときの温度Teによらず最終的な温度を目標温度Ttとするためには、処理流体の供給および排出を規定した給排レシピを、温度Teに応じて変更する必要がある。図4において例えば破線で示すように、昇圧時の最大圧力Pmを大きくするように給排レシピを変更すると、チャンバ内の温度上昇がより大きくなるので、例えば温度Teが比較的低い場合に有効である。減圧時の処理流体の排出速度を小さくして断熱膨張による温度低下を抑制するようにしても、同様の効果が得られる。
【0065】
また例えば、図4に点線で示すように、処理流体の排出速度を大きくすると、断熱膨張による温度低下がより顕著となり、処理チャンバ12の冷却効果が高くなる。このため、温度Teが比較的高い場合に有効である。昇圧時の供給量を少なくして温度上昇を抑えることによっても、同様の効果が得られる。
【0066】
このように、温度調整処理における給排レシピは、動作開始時のチャンバ内温度Teと最終的な目標温度Ttとに応じて変更されることが望ましい。この実施形態では、処理空間SPへの処理流体の供給速度および供給タイミングと、処理空間SPからの処理流体の排出速度および排出タイミングとを規定した給排レシピを予め複数用意しておき、動作開始時の温度取得結果に基づいてそれらの中から選択した給排レシピを実行することによって(ステップS202、S203)、動作開始時の温度Teが異なっていても、最終的なチャンバ内温度を目標温度Ttに維持することを可能としている。
【0067】
これらの給排レシピについては、基板Sを支持しない支持トレイ15を収容して閉塞された処理空間SPに処理流体を供給し排出する予備実験を、動作開始時の温度Teを種々に異ならせて行い、そのときのチャンバ内の温度変化を計測することで準備可能である。それらの中から、動作開始時の温度Teから目標温度Ttに変化させることができる給排レシピを選択すればよい。目標温度Ttを変更可能とする場合には、動作開始時の温度Teと目標温度Ttとの組み合わせに基づき、給排レシピが決定されればよい。
【0068】
こうしてチャンバ内が目標温度Ttに調整された状態で次の基板Sが受け入れられ、処理流体が導入されることで、処理開始時のチャンバ内温度が安定し、処理流体の温度変化に起因する密度の変化が抑えられ、安定した処理品質を得ることが可能となる。
【0069】
なお、超臨界処理時やその後の排出過程が、処理終了時のチャンバ内温度Teを一定とするように構成されている場合には、そのときの温度Teと目標温度Ttとで定まる単一の給排レシピにより温度調整処理を実行することが可能である。すなわちこの場合、ステップS202、S203を省くことができる。
【0070】
以上のように、この実施形態では、超臨界処理後にチャンバ内が高温となり、しかもその温度が一定でないことに鑑み、処理後のチャンバ内に改めて処理流体を供給しこれを排出することで、チャンバ内温度の適正化を図っている。これにより、本実施形態では、処理流体の密度が温度により大きく変化することに起因する置換効率の変動を抑え、複数の基板を安定した処理品質で処理することが可能である。
【0071】
温度調整処理は、基板Sを支持していない支持トレイ15を処理空間SPに収容し、蓋部材13が開口121を閉塞した状態で行われる。このため、供給される処理流体を効率よく温度調整に利用することが可能であり、また加圧を伴う処理も可能となっている。そして、処理空間SPに面するチャンバ内壁面だけでなく、支持トレイ15についても目標温度に調整することが可能である。
【0072】
以上説明したように、上記実施形態の基板処理装置1においては、処理チャンバ12が本発明の「チャンバ」として機能しており、開口121が本発明の「開口」に相当している。また処理空間SPが本発明の「内部空間」に相当している。また、支持トレイ15および蓋部材13が、本発明の「支持トレイ」および「蓋部」としてそれぞれ機能している。また、流体供給部57、流体回収部55および制御ユニット90が、それぞれ本発明の「流体供給部」、「流体排出部」および「制御部」として機能している。
【0073】
また、上記実施形態の基板処理方法(図2)においては、ステップS101~S104が本発明の「超臨界処理工程」に相当しており、ステップS105が本発明の「減圧工程」に、ステップS106が本発明の「搬出工程」に、またステップS108が本発明の「温度調整工程」に、それぞれ相当している。
【0074】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態では、予め用意された給排レシピから最適なものを選択して適用することで温度調整処理を実行している。これに代えて、例えば、温度調整処理中において、処理流体の温度検出結果に基づくフィードバック制御により、チャンバ内温度を目標温度Ttに至らせるようなリアルタイム制御が行われてもよい。
【0075】
また、上記実施形態の温度調整処理では、気相または液相で処理空間SPに導入された処理流体が超臨界状態へ遷移することは想定されていないが、例えば処理時間の短縮のために、超臨界状態に遷移させてから排出する態様であってもよい。このとき、処理空間SP内に基板Sは存在しないから、超臨界状態から液相への相変化が生じることも許容される。
【0076】
また、上記実施形態の説明では、複数の基板を順に処理する場合に最初の基板を処理する時の初期温度の制御については言及していない。しかしながら、処理の安定性を考えたとき、このときの初期温度も適正温度に維持されていることが望ましい。この目的のために、また外乱に起因する温度変化を抑制するために、基板処理装置1に温度安定化のための構成がさらに設けられてもよい。例えば、最初の基板に対する処理の前にも本実施形態の温度調整処理を行うことにより、チャンバ内温度の適正化が図られてもよい。また例えば処理チャンバ12の表面または内部にヒーターが設けられてもよい。また支持トレイ15がヒーターを内蔵するものであってもよい。
【0077】
また、上記実施形態の処理で使用される各種の化学物質は一部の例を示したものであり、上記した本発明の技術思想に合致するものであれば、これに代えて種々のものを使用することが可能である。
【0078】
以上、具体的な実施形態を例示して説明してきたように、本発明に係る基板処理方法において、例えば温度調整工程は、大気圧よりも高圧に加圧された処理流体を内部空間で断熱膨張させることにより、チャンバのうち内部空間に面する壁面を冷却するように構成することができる。断熱膨張による温度低下は減圧工程において必然的に生じる現象であるが、これを加味した減圧制御を行うことにより、チャンバ内の温度を目標温度にするために利用することができる。
【0079】
この場合、処理流体を内部空間から排出する際の排出速度については、例えば目標温度、または処理流体が導入される直前の内部空間の温度に基づき設定することができる。断熱膨張による冷却作用は、内部空間からの処理流体の排出速度により制御することが可能である。したがって、処理開始時の温度および最終的に到達すべき目標温度の少なくとも一方に基づき排出速度を設定するのが合理的である。
【0080】
より具体的には、例えば内部空間に対する処理流体の導入および排出の変化態様を規定した給排レシピが予め複数設定されており、温度調整工程では、処理流体が導入される直前の内部空間の温度に基づいて選択された一の給排レシピに基づき、内部空間に対する処理流体の導入および排出を制御することができる。このような構成によれば、温度調整前の処理空間の温度が一定していない場合でも、最終的には目標温度に調整することが可能である。
【0081】
他の方法として、温度調整工程では目標温度に応じて温度調整された処理流体を内部空間に導入することができる。より具体的には、内部空間の温度よりも低温の処理流体を導入して、チャンバのうち内部空間に面する壁面を冷却することができる。このように、断熱膨張による方法以外に、処理流体を熱輸送媒体として作用させて温度調整を行うことが可能である。
【0082】
また、温度調整工程の後に、新たな未処理基板を受け入れて超臨界処理工程を実行することで、複数の基板を順番に処理することが可能である。温度調整工程を実行することによりチャンバの内部空間の温度が目標温度に保たれるため、その後に実行される超臨界処理工程の処理品質を良好かつ安定に維持することができる。このように、本発明は、超臨界処理流体を用いて複数の基板を順番に処理する場合に特に顕著な効果を奏するものである。
【0083】
また、本発明に係る基板処理装置は、例えば、チャンバの側面に内部空間と連通し基板が通過可能な開口が設けられ、開口を開閉する蓋部をさらに備え、温度調整処理では、基板が搬出された後に蓋部により開口を閉塞した状態で処理流体を導入する構成とすることができる。このような構成によれば、開口を閉塞することで形成される閉空間に処理流体を導入することで、加圧を伴う処理が実行可能であり、処理流体を効率よく利用することができる。また処理空間内に基板が存在しないため、基板への影響に制約されることなく処理条件を決定することが可能である。
【0084】
また例えば、基板を水平姿勢に支持し開口を介して内部空間に進入可能な支持トレイがさらに設けられ、温度調整処理は、支持トレイが内部空間に収容された状態で実行されるようにすることができる。このような構成によれば、支持トレイについても同様の温度に調整することが可能である。
【0085】
この場合さらに、支持トレイが蓋部に取り付けられていてもよい。このような構成によれば、開口に対する蓋部の進退移動により、これと一体的に支持トレイを処理空間に対し出し入れすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0086】
この発明は、チャンバ内に導入した処理流体を用いて基板を処理する処理全般に適用することができる。例えば、半導体基板等の基板を超臨界流体によって1枚ずつ順番に処理する、枚葉式の基板処理に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 基板処理装置
12 処理チャンバ(チャンバ)
13 蓋部材(蓋部)
15 支持トレイ
55 流体回収部(流体排出部)
57 流体供給部
90 制御ユニット(制御部)
121 開口
173,174 検出部
S 基板
S102~S104 超臨界処理工程
S105 減圧工程
S106 搬出工程
S108 温度調整工程
SP 処理空間(内部空間)
図1
図2
図3
図4
図5