(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147220
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】地中連続壁の保護構造および地中連続壁の施工方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/20 20060101AFI20220929BHJP
E02D 5/18 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
E02D5/20 103
E02D5/18 103
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048375
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】眞野 英之
(72)【発明者】
【氏名】阿部 一茂
【テーマコード(参考)】
2D049
【Fターム(参考)】
2D049GB03
2D049GF02
2D049GF04
2D049GG08
(57)【要約】
【課題】継手部材挿入時には継手部材を保護部材と離れることなく挿入できるとともに、保護部材撤去時には保護部材を容易に撤去することができる地中連続壁の保護構造および地中連続壁の施工方法を提供する。
【解決手段】継手部材4の下端部分411には、第1突出部45が設けられ、保護部材6には、前溝部666(第1溝部)が形成され、第1突出部45は、前溝部666に上方から挿入されて、前溝部666に沿って上下方向に移動可能であるとともに、前溝部666の下端から下方に排出可能であり、前溝部666に挿入された状態では、前溝部666に対して後行エレメント3側から先行エレメント側に向かう方向の移動が拘束され、継手部材4は、地盤11に設置される際に、第1突出部45が前溝部666に上方から挿入されて前溝部666に沿って下降し、第1突出部45が保護部材6(前溝部666)よりも下方となる位置に設置される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先行して施工される先行エレメントと、前記先行エレメントの後に施工される後行エレメントと、が地盤に隣接して構築される地中連続壁の施工時に、前記先行エレメントにおける前記後行エレメント側の端部を保護する地中連続壁の保護構造において、
地盤の前記先行エレメントおよび前記後行エレメントの前記先行エレメント側の端部近傍が構築される領域を掘削した後に、前記後行エレメントの前記先行エレメント側の端部近傍が構築される領域に保護部材が仮設されてから前記先行エレメントが構築され、地盤の前記後行エレメントの前記先行エレメント側の端部近傍以外が構築される領域を掘削した後に、前記保護部材が撤去されてから前記後行エレメントが構築され、
前記先行エレメントは、
先行コンクリート部と、
前記先行コンクリート部の前記後行エレメント側の端部に配置され、前記先行コンクリート部における前記後行エレメント側の端部に沿って、高さ方向全体にわたって設けられる継手部材と、を有し、
前記継手部材の下端部分には、前記後行エレメント側に突出する第1突出部が設けられ、
前記保護部材には、前記先行エレメント側の面に上下方向全体にわたって延びる第1溝部が形成され、
前記第1突出部は、前記第1溝部に上方から挿入されて、前記第1溝部に沿って上下方向に移動可能であるとともに、前記第1溝部の下端から下方に排出可能であり、前記第1溝部に挿入された状態では、第1溝部に対して前記後行エレメント側から前記先行エレメント側に向かう方向の移動が拘束され、
前記継手部材は、地盤に設置される際に、前記第1突出部が前記第1溝部に上方から挿入されて前記第1溝部に沿って下降し、前記第1突出部が前記第1溝部よりも下方となる位置に設置される地中連続壁の保護構造。
【請求項2】
前記継手部材の下端部分よりも上側には、前記後行エレメント側に突出する第2突出部が設けられ、
前記保護部材には、前記先行エレメント側の面に上下方向全体にわたって延びる第2溝部が形成され、
前記第2突出部は、前記第2溝部に上方から挿入されて、前記第2溝部に沿って上下方向に移動可能であり、前記第2溝部に挿入された状態では、第2溝部に対して前記後行エレメント側から前記先行エレメント側に向かう方向の移動が許容され、
前記継手部材は、地盤に設置される際に、前記第2突出部が前記第2溝部に上方から挿入されて前記第1溝部に沿って下降し、前記第2突出部が前記第2溝部の下部と同じ高さとなる位置に設置される請求項1に記載の地中連続壁の保護構造。
【請求項3】
前記第1溝部と前記第2溝部とは同一の溝部であり、
前記第1突出部は、前記第2突出部よりも前記溝部の幅方向の寸法が大きく形成され、
前記溝部は、開口の幅寸法が前記第2突出部の幅寸法よりも大きく、前記第1突出部の幅寸法よりも小さい請求項2に記載の地中連続壁の保護構造。
【請求項4】
先行して施工される先行エレメントと、前記先行エレメントの後に施工される後行エレメントと、が地盤に隣接して構築され、
前記先行エレメントは、
先行コンクリート部と、
前記先行コンクリート部の前記後行エレメント側の端部に配置され、前記先行コンクリート部における前記後行エレメント側の端部に沿って、高さ方向全体にわたって設けられる継手部材と、を有する地中連続壁の施工方法において、
地盤の前記先行エレメントおよび前記後行エレメントの前記先行エレメント側の端部近傍が構築される領域である先行掘削部を掘削する先行掘削工程と、
前記先行掘削部における前記後行エレメントの前記先行エレメント側の端部近傍が構築される領域に保護部材を設置する保護部材設置工程と、
前記継手部材を前記先行掘削部に設置する継手部材設置工程と、
前記先行コンクリート部を構築する先行コンクリート部構築工程と、
地盤の前記後行エレメントの前記先行エレメント側の端部近傍以外が構築される領域である後行掘削部を掘削する後行掘削工程と、
前記保護部材を撤去する保護部材撤去工程と、
前記後行掘削部および前記保護部材が撤去された領域に後行エレメントを構築する後行エレメント構築工程と、を有し、
前記継手部材の下端部分には、前記後行エレメント側に突出する第1突出部が設けられ、
前記保護部材には、前記先行エレメント側の面に上下方向全体にわたって延びる第1溝部が形成され、
前記第1突出部は、前記第1溝部に上方から挿入されて、前記第1溝部に沿って上下方向に移動可能であるとともに、前記第1溝部の下端から下方に排出可能であり、前記第1溝部に挿入された状態では、第1溝部に対して前記後行エレメント側から前記先行エレメント側に向かう方向の移動が拘束され、
前記継手部材設置工程では、
前記第1突出部を前記第1溝部に上方から挿入して前記継手部材を前記第1溝部に沿って下降させ、前記第1突出部が前記第1溝部よりも下方となる位置に前記継手部材を設置する地中連続壁の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中連続壁の保護構造および地中連続壁の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート製の地中連続壁の施工方法として、地中に間隔をあけて先行エレメントを設け、先行して設けられた先行エレメントの間に後行エレメントを先行エレメントと連結させて設けて地中連続壁を構築する方法がある。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
先行エレメントと後行エレメントとの連結部は、多種提案されている。施工が簡易でかつエレメント間で鉛直荷重(せん断力)を伝達できるように、連結部に設けられる継手部材を波形鋼板によるシアキー形状とする地中連続壁が知られている。継手部材をシアキー形状とする地中連続壁の施工方法では、先行エレメントのコンクリート打設時の側圧を確実に地盤に伝えるため、および後行エレメントの地盤掘削時の継手部材の保護のために、継手部材の前側(後行エレメントと接続される側)に保護部材と呼ばれる鉄製の部材を設置している。
【0004】
継手部材は、保護部材が地盤の掘削された部分(掘削溝)に挿入された後に、引き続いて掘削溝に挿入される。継手部材の両側には、先行エレメントのコンクリートが後行エレメント側に漏れることを防止するためのシートが取り付けられている。このため、継手部材を掘削溝に挿入する際に、シートが掘削溝の壁部(溝壁)と接触し、その摩擦により、継手部材の深部(下端部分)では保護部材から離れる方向に移動してしまう可能性がある。
【0005】
これに対し、継手部材には、高さ方向全体にわたって保護部材側に突出する突出部を設け、保護部材には、高さ方向全体にわたって突出部を係止可能な溝部が形成されている。突出部が溝部に係止されることにより、継手部材が掘削溝に挿入されるときも挿入された後も継手部材が保護部材から離れることが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-342950号公報
【特許文献2】特開2010-242318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
地盤が軟弱であったり、先行エレメントの妻側の溝壁に凹凸があったりすると、先行エレメントのコンクリートの側圧により継手部材と保護部材が弓形に反る(撓む)ことがある。このため、保護部材を掘削溝から引き抜いて撤去する際に、突出部が保護部材の溝部の底部などに干渉し、突出部と保護部材との干渉が保護部材を引き抜く際の抵抗となる虞がある。
【0008】
そこで本発明は、継手部材挿入時には継手部材を保護部材と離れることなく挿入できるとともに、保護部材撤去時には保護部材を容易に撤去することができる地中連続壁の保護構造および地中連続壁の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る地中連続壁の保護構造は、先行して施工される先行エレメントと、前記先行エレメントの後に施工される後行エレメントと、が地盤に隣接して構築される地中連続壁の施工時に、前記先行エレメントにおける前記後行エレメント側の端部を保護する地中連続壁の保護構造において、地盤の前記先行エレメントおよび前記後行エレメントの前記先行エレメント側の端部近傍が構築される領域を掘削した後に、前記後行エレメントの前記先行エレメント側の端部近傍が構築される領域に保護部材が仮設されてから前記先行エレメントが構築され、地盤の前記後行エレメントの前記先行エレメント側の端部近傍以外が構築される領域を掘削した後に、前記保護部材が撤去されてから前記後行エレメントが構築され、前記先行エレメントは、先行コンクリート部と、前記先行コンクリート部の前記後行エレメント側の端部に配置され、前記先行コンクリート部における前記後行エレメント側の端部に沿って、高さ方向全体にわたって設けられる継手部材と、を有し、前記継手部材の下端部分には、前記後行エレメント側に突出する第1突出部が設けられ、前記保護部材には、前記先行エレメント側の面に上下方向全体にわたって延びる第1溝部が形成され、前記第1突出部は、前記第1溝部に上方から挿入されて、前記第1溝部に沿って上下方向に移動可能であるとともに、前記第1溝部の下端から下方に排出可能であり、前記第1溝部に挿入された状態では、第1溝部に対して前記後行エレメント側から前記先行エレメント側に向かう方向の移動が拘束され、前記継手部材は、地盤に設置される際に、前記第1突出部が前記第1溝部に上方から挿入されて前記第1溝部に沿って下降し、前記第1突出部が前記第1溝部よりも下方となる位置に設置される。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る地中連続壁の施工方法は、先行して施工される先行エレメントと、前記先行エレメントの後に施工される後行エレメントと、が地盤に隣接して構築され、前記先行エレメントは、先行コンクリート部と、前記先行コンクリート部の前記後行エレメント側の端部に配置され、前記先行コンクリート部における前記後行エレメント側の端部に沿って、高さ方向全体にわたって設けられる継手部材と、を有する地中連続壁の施工方法において、地盤の前記先行エレメントおよび前記後行エレメントの前記先行エレメント側の端部近傍が構築される領域である先行掘削部を掘削する先行掘削工程と、前記先行掘削部における前記後行エレメントの前記先行エレメント側の端部近傍が構築される領域に保護部材を設置する保護部材設置工程と、前記継手部材を前記先行掘削部に設置する継手部材設置工程と、前記先行コンクリート部を構築する先行コンクリート部構築工程と、地盤の前記後行エレメントの前記先行エレメント側の端部近傍以外が構築される領域である後行掘削部を掘削する後行掘削工程と、前記保護部材を撤去する保護部材撤去工程と、前記後行掘削部および前記保護部材が撤去された領域に後行エレメントを構築する後行エレメント構築工程と、を有し、前記継手部材の下端部分には、前記後行エレメント側に突出する第1突出部が設けられ、前記保護部材には、前記先行エレメント側の面に上下方向全体にわたって延びる第1溝部が形成され、前記第1突出部は、前記第1溝部に上方から挿入されて、前記第1溝部に沿って上下方向に移動可能であるとともに、前記第1溝部の下端から下方に排出可能であり、前記第1溝部に挿入された状態では、第1溝部に対して前記後行エレメント側から前記先行エレメント側に向かう方向の移動が拘束され、前記継手部材設置工程では、前記第1突出部を前記第1溝部に上方から挿入して前記継手部材を前記第1溝部に沿って下降させ、前記第1突出部が前記第1溝部よりも下方となる位置に前記継手部材を設置する。
【0011】
本発明では、第1突出部は、第1溝部に挿入された状態では、第1溝部に対して後行エレメント側から先行エレメント側に向かう方向の移動が拘束される。これにより、継手部材を地盤に設置する際に、第1突出部を第1溝部に挿入して第1溝部に沿って下降させることで、継手部材が保護部材から離れることが防止できるため、継手部材を容易に設置することができる。
【0012】
継手部材および保護部材は、初めは上下方向にまっすぐに延びる形状であっても、先行コンクリート部のコンクリートが打設されるとその側圧によって、上下方向の中間部が上端部および下端部よりも後行エレメントが構築される側に突出するように撓んだ状態となることが想定される。
先行コンクリート部のコンクリートが打設されるときは、後行エレメントが構築される領域が掘削されておらず、保護部材の後行エレメント側には地盤が存在するため、この地盤によって保護部材が先行エレメント側に押さえられている。これにより、保護部材は、撓んだ状態から元の形状に戻ろうとしても地盤に押さえられて撓んだ状態のままである。
【0013】
後行エレメントが構築される領域を掘削すると、保護部材の後行エレメント側は安定液が充填された状態となる。この状態では、保護部材を先行エレメント側に押さえる力がなくなるまたは弱くなるため、先行コンクリート部のコンクリートによって撓んだ状態から元の状態(まっすぐな状態)へ戻ろうとする。継手部材は、先行コンクリート部と接合されているため、元の形状には戻らず撓んだままである。このため、保護部材が元の状態に戻ると、保護部材の上下方向の中間部は継手部材と接触し、保護部材の上側部分および下側部分が、継手部材に対して後行エレメント側に離れることになる。
【0014】
本発明では、継手部材の第1突出部は、地盤に設置される際には第1溝部に沿って移動するが、地盤に設置される際には第1突出部が第1溝部よりも下方となる位置に設置される。これにより、地盤に設置された継手部材の第1突出部は、仮設された保護部材の第1溝部よりも下方に配置されるため、第1溝部に対して先行エレメント側に向かう方向の移動が拘束されない。すなわち、継手部材と保護部材とは互いに離れる方向に移動可能となる。このため、保護部材がまっすぐな形状に戻ろうとした際に、継手部材(第1突出部)と干渉することがなく、保護部材がまっすぐな形状に戻った後も保護部材と継手部材とは干渉しない。その結果、継手部材および保護部材がともに撓み、撓んだ保護部材のみが元の形状に戻ったとしても保護部材を容易に撤去することができる。
【0015】
また、本発明に係る地中連続壁の保護構造では、前記継手部材の下端部分よりも上側には、前記後行エレメント側に突出する第2突出部が設けられ、前記保護部材には、前記先行エレメント側の面に上下方向全体にわたって延びる第2溝部が形成され、前記第2突出部は、前記第2溝部に上方から挿入されて、前記第2溝部に沿って上下方向に移動可能であり、前記第2溝部に挿入された状態では、第2溝部に対して前記後行エレメント側から前記先行エレメント側に向かう方向の移動が許容され、前記継手部材は、地盤に設置される際に、前記第2突出部が前記第2溝部に上方から挿入されて前記第1溝部に沿って下降し、前記第2突出部が前記第2溝部の下部と同じ高さとなる位置に設置されてもよい。
【0016】
このような構成とすることにより、継手部材を地盤に設置する際に、第1突出部材よりも上側にある第2突出部を第2溝部に挿入して第2溝部に沿って下降させることで、継手部材が下方にガイドされるため、継手部材を容易に設置することができる。
第2突出部は、第2溝部に挿入された状態であっても後行エレメント側から先行エレメント側に向かう方向の移動が許容されている。これにより、上記のように継手部材および保護部材が先行コンクリート部のコンクリートの側圧によって撓んだ状態となり、後行エレメントが構築される領域が掘削されて保護部材のみが元の形状に戻ったとしても、第2突出部と第2溝部とが干渉することがない。これにより、継手部材および保護部材がともに撓み、撓んだ保護部材のみが元の形状に戻ったとしても保護部材を容易に撤去することができる。
【0017】
また、本発明に係る地中連続壁の保護構造では、前記第1溝部と前記第2溝部とは同一の溝部であり、前記第1突出部は、前記第2突出部よりも前記溝部の幅方向の寸法が大きく形成され、前記溝部は、開口の幅寸法が前記第2突出部の幅寸法よりも大きく、前記第1突出部の幅寸法よりも小さい。
【0018】
このような構成とすることにより、溝部に挿入された第1突出部は、後行エレメント側から先行エレメント側に向かう方向の移動が拘束され、溝部に挿入された第2突出部は、後行エレメント側から先行エレメント側に向かう方向の移動が許容される。第1溝部と第2溝部とを同一の溝部にできるとともに、第1突出部と第2突出部とを上下方向に連続して設けることができるため、継手部材や保護部材の形状の簡便化を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、継手部材挿入時には継手部材を保護部材と離れることなく挿入できるとともに、保護部材撤去時には保護部材を容易に撤去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1実施形態による地中連続壁の水平断面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態による継手部材、保護部材および継手部材設置工程を示す図である。
【
図4】
図3のB-B線断面図で上部側を省略した図である。
【
図5】本発明の第1実施形態による継手部材の下部側を示す図である。
【
図6】本発明の第1実施形態による継手部材の第1突出部および第2突出部の斜視図である。
【
図7】本発明の第1実施形態による先行コンクリート部構築工程を説明する図である。
【
図8】本発明の第1実施形態による後行掘削工程を説明する図である。
【
図10】本発明の第2実施形態による地中連続壁の保護構造および地中連続壁の施工方法の継手部材および保護部材を示す図である。
【
図11】本発明の第2実施形態による継手部材の下部側を示す図である。
【
図12】本発明の第2実施形態による継手部材の第1突出部および第2突出部の斜視図である。
【
図13】本発明の第1実施形態の変形例による継手部材の第1突出部および第2突出部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態による地中連続壁の保護構造および地中連続壁の施工方法について、
図1-
図9に基づいて説明する。
図1および
図2に示すように、本実施形態による地中連続壁1は、壁長さ方向に配列される複数の壁状のエレメント2、3を有している。複数のエレメント2、3は、いずれも地盤11(
図1参照)を掘削して構築されている。
壁長さ方向とは、地中連続壁1の壁面に沿った水平方向を示している。壁長さ方向に直交する水平方向を壁厚さ方向とし、壁長さ方向および壁厚さ方向に直交する上下方向(鉛直方向)を壁高さ方向とする。図では、壁長さ方向を矢印Xで示し、壁厚さ方向を矢印Yで示し、壁高さ方向を矢印Zで示している。
【0022】
地中連続壁1を構成する複数のエレメント2、3は、先行して施工される先行エレメント2と、先行エレメント2の後に施工される後行エレメント3とから構成され、先行エレメント2と後行エレメント3は、壁長さ方向に交互に配列されている。先行エレメント2には、壁長さ方向の端面に継手となる継手部材4が設けられている。先行エレメント2と後行エレメント3とは、先行エレメント2の継手部材4を介して接合されている。継手部材4の詳細については後述する。
【0023】
先行エレメント2と後行エレメント3とは、壁厚さ方向および壁高さ方向の寸法が同じ寸法に設定され、それぞれの壁芯を一致させるように配列されている。先行エレメント2と後行エレメント3とは、それぞれの壁長さ方向の端部を突き合わせるように配置されている。
以下の説明において、壁長さ方向のうち先行エレメント2に対して後行エレメント3が配置されている側を前側とし、後行エレメント3に対して先行エレメント2が配置されている側を後側とし、壁長さ方向を前後方向と表記することがある。また、壁高さ方向を上下方向と表記することがある。
【0024】
本実施形態による地中連続壁の施工方法では、まず、先行エレメント2、および後行エレメント3の壁長さ方向の端部近傍が構築される領域を先行して掘削する。そして、先行エレメント2を構築した後に、後行エレメント3が構築される領域の残りの領域(後行エレメント3の壁長さ方向の端部近傍以外が構築される領域)を掘削して後行エレメント3を構築する。先行して掘削される領域を先行掘削部12とし、先行エレメント2を構築した後に掘削される領域を後行掘削部13とする。先行掘削部12における後行エレメント3の壁長さ方向の端部近傍(先行エレメント2側の端部近傍)が構築される領域を前端領域14とする。
【0025】
図3に示すように、本実施形態による地中連続壁の施工方法では、先行エレメント2を構築する際に、先行掘削部12の前端領域14に保護部材6を仮設する。保護部材6は、先行エレメント2の継手部材4を後行エレメント3側から覆うように仮設される。先行エレメント2が構築され後行掘削部13の掘削が完了したら、保護部材6は撤去される。
保護部材6および地中連続壁の施工方法の詳細については、後述する。
【0026】
図1、
図2に示すように、先行エレメント2は、コンクリート23に鉄筋24が埋設されたRC造の壁状の先行コンクリート部21と、先行コンクリート部21の壁長さ方向の端部に設けられた継手部材4と、を有している。
【0027】
後行エレメント3は、コンクリート33に鉄筋34が埋設されたRC造の壁状の後行コンクリート部31を有している。
【0028】
図1-
図3に示すように、継手部材4は、波形鋼板41と、波形鋼板41の壁厚さ方向の両端部それぞれに取り付けられて後方に延びる一対の側部材42,43と、一対の側部材42,43の間に取り付けられて波形鋼板41の後側に重なって配置される強度付加部材44と、波形鋼板41の前側に取り付けられて前方に突出する第1突出部45(
図1、
図3参照)および第2突出部46と、を有している。
【0029】
波形鋼板41は、板面が壁長さ方向を向くように配置されている。本実施形態では、2つの波形鋼板41が壁厚さ方向に並んで配置され、2つの波形鋼板41の間に第1突出部45および第2突出部46が接合されている。以下では、2つの波形鋼板41を合わせて波形鋼板41とする。
波形鋼板41の壁高さ方向の寸法は、先行エレメント2の壁高さ方向の寸法よりも長く設定されている。
図2に示すように、波形鋼板41は、下端部41aが先行コンクリート部21の下端部21aよりも下方に位置し、上端部41bが先行コンクリート部21の上端部21bおよび後行コンクリート部31の上端部31bと略同じ高さに配置される。
【0030】
波形鋼板41における先行コンクリート部21の下端部21aよりも下方の部分を下端部分411とし、下端部分411よりも上側の部分を本体部分412とする。波形鋼板41の下端部分411は、先行コンクリート部21の下方に設けられる根固めモルタル16に挿入される。
波形鋼板41の壁厚さ方向の寸法は、先行エレメント2および後行エレメント3の壁厚さ方向の寸法よりも小さく設定されている。
【0031】
波形鋼板41は、板面が壁長さ方向を向くように配置された状態における壁長さ方向に沿った鉛直面による断面形状が波形となるように加工されている。すなわち、壁厚さ方向から見た形状が波形となっている、本実施形態の波形鋼板41の断面形状の波形は、台形が連なった台形波の形となっている。
【0032】
図3-
図5に示すように、第1突出部45および第2突出部46は、それぞれ断面形状がT字形状の形材で、壁高さ方向に延びる向きに配置される。第1突出部45は、第2突出部46の下側に配置されている。第1突出部45は、波形鋼板41の下端部分411に接合されている。第2突出部46は、波形鋼板41の本体部分412に接合されている。第1突出部45および第2突出部46は、それぞれ壁厚さ方向に並んだ2つの波形鋼板41の間に配置され、2つの波形鋼板41それぞれに接合されている。
本実施形態では、第1突出部45は、第2突出部46の下側に連続して設けられている。第1突出部45と第2突出部46とは、一体の部材であってもよいし、別の部材であってもよい。
【0033】
第1突出部45は、第1突出板部451と、第1先端板部452と、を有している。第1突出板部451と第1先端板部452は、いずれも平板状に形成され、断面形状のT字形を形成するように接合されている。
第1突出板部451は、板面が壁厚さ方向を向くように配置される。第1突出板部451は、後端部(先行コンクリート部21側の端部)が波形鋼板41に接合され、先端部(後行エレメント3側の端部)が波形鋼板41よりも前側(後行エレメント3側)に突出している。本実施形態では、第1突出板部451は、後端部が波形鋼板41よりも後方に突出し、L字形のアングル材とボルト・ナットで波形鋼板41に接合されている。
第1先端板部452は、板面が壁長さ方向を向くように配置され、壁厚さ方向の中央部(板幅の中央部)が第1突出板部451の前端部と接合されている。
【0034】
第2突出部46は、第2突出板部461と、第2先端板部462と、を有している。第2突出板部461と第2先端板部462は、いずれも平板状に形成され、断面形状のT字形を形成するように接合されている。
第2突出板部461は、板面が壁厚さ方向を向くように配置される。第2突出板部461は、後端部(先行コンクリート部21側の端部)が波形鋼板41に接合され、先端部(後行エレメント3側の端部)が波形鋼板41よりも前側(後行エレメント3側)に突出している。本実施形態では、第2突出板部461は、後端部が波形鋼板41よりも後方に突出し、L字形のアングル材とボルト・ナットで波形鋼板41に接合されている。
第2先端板部462は、板面が壁長さ方向を向くように配置され、壁厚さ方向の中央部(板幅の中央部)が第2突出板部461の前端部と接合されている。
【0035】
第1突出部45は、第2突出部46よりも前後方向(壁長さ方向)の寸法が大きく形成され、第2突出部46よりも前側に突出している。
本実施形態では、第1突出板部451が第2突出板部461よりも前後方向(壁長さ方向)の寸法が大きく形成され、第1先端板部452が第2先端板部462よりも前側に設置されている。
第1先端板部452と第2先端板部462とは、壁厚さ方向の寸法(板幅)が同じ値に設定されている。
【0036】
図1、
図3に示すように、一対の側部材42,43は、壁厚さ方向に対称となるように設けられている。
一対の側部材42,43は、それぞれ断面形状がL字形の長尺の型材で、壁高さ方向に延びる向きに配置されている。一対の側部材42,43は、波形鋼板41の壁高さ方向の長さ寸法と同じ長さ寸法に設定されている。
一対の側部材42,43の断面形状のL字形を構成する直交して接続される2つの片を前板部421,431および側板部422,432とする。
【0037】
一方の側部材42は、前板部421の板面が壁長さ方向を向く鉛直面となり、側板部422が前板部421の壁厚さ方向の他方側の端部(波形鋼板41側の端部)から後側に突出する向きに配置される。
他方の側部材43は、前板部431の板面が壁長さ方向を向く鉛直面となり、側板部432が前板部431の壁厚さ方向の一方側の端部(波形鋼板41側の端部)から後側に突出する向きに配置される。
【0038】
一対の側部材42,43それぞれの前板部421,431は、前面が波形鋼板41の前端部の位置と略同じ位置に配置されている。
一対の側部材42,43それぞれの側板部422,432は、波形鋼板41側の面が波形鋼板41の側部と当接し、波形鋼板41に接合されている。一対の側部材42,43それぞれの側板部422,432と波形鋼板41とは、例えば、L字形のアングル材とボルト・ナットを介して接合されている。
側板部422,432は、波形鋼板41の前後方向(壁長さ方向)の寸法よりも長く形成され、後端部が波形鋼板41の後端部よりも後側に配置されている。
波形鋼板41の壁厚さ方向の両端部は、一対の側部材42,43によって塞がれている。
【0039】
強度付加部材44は、断面形状がコの字形(C字形)の長尺の形材で、壁厚さ方向に延びる向きに配置されている。強度付加部材44は、壁高さ方向に間隔をあけて複数設けられている。
強度付加部材44は、その長さ方向の一方の端部(壁厚さ方向の一方の端部)が一方の側部材42の側板部422の後端部近傍に接合され、長さ方向の他方の端部(壁厚さ方向の他方の端部)が他方の側部材43の側板部432の後端部近傍に接合されている。
強度付加部材44は、先行エレメント2に設けられることで継手部の剛性および強度を増大させ、施工の際の吊り上げ時に必要となる剛性や強度を確保することができる。
【0040】
本実施形態の地中連続壁1では、波形鋼板41の本体部分412、一対の側部材42,43の前板部421,431の後側に、先行コンクリート部21のコンクリート23が打設され、前側に後行コンクリート部31のコンクリート33が打設される。
一対の側部材42,43の側板部422,432、強度付加部材44は、先行コンクリート部21に埋設される。波形鋼板41の下端部分411および第1突出部45は、先行エレメント2の下方の根固めモルタル16に埋設されている。波形鋼板41の本体部分412に接合された第2突出部46は、後行コンクリート部31に埋設される。
【0041】
先行コンクリート部21のコンクリート23および後行コンクリート部31のコンクリート33は、波形鋼板41の波形の凹部にも充填されている。先行コンクリート部21と、後行コンクリート部31とは、波形鋼板41を介して噛み合った形状となり、先行エレメント2と後行エレメント3との接合部分にシアキーが形成される。このため、先行エレメント2と後行エレメント3とは、互いに面内せん断力を伝達可能に構成されている。
【0042】
本実施形態では、一対の側部材42,43は、先行エレメント2のコンクリート23の打設時に、後行エレメント3側(前側)にコンクリート23が流出することを防止するシート部材51と、シート部材51が側部材42,43側に寄らず、先行掘削部12の側面に沿うように抑える棒状の押さえ部材52(スタッド等)と、が取り付けられている。
【0043】
図3および
図4に示すように、保護部材6は、先行エレメント2の前側(後行エレメント3側)に仮設される。保護部材6は、鋼板などを加工した鋼製の部材である。保護部材6は、箱状または筒状に形成されて上下方向(壁高さ方向)に延びる向きに設置される。保護部材6の内部には、安定液を流入することができる。保護部材6には、空気抜き用の孔が適宜設けられていてもよい。保護部材6は、先行掘削部12の前端領域14に仮設可能な形状である。
以下の保護部材6の説明では、保護部材6が先行エレメント2の前側に設置された姿勢であるものとする。
【0044】
図3に示すように、保護部材6は、前側(後行エレメント3側)に設けられる前板部61と、後側(先行エレメント2側)に設けられる後板部62と、壁厚さ方向の両端部それぞれに設けられる一対の側板部63,64と、前板部61と後板部62との間に設けられる複数の中板部65と、を有している。なお、保護部材6には、上側を塞ぐ板材が設けられていてもよい。
【0045】
前板部61は、平板状に形成され、板面が壁長さ方向を向く姿勢で、保護部材6の前面全体に設けられている。
【0046】
後板部62は、前板部61の後側に間隔をあけて配置されている。後板部62は、保護部材6の後面全体に設けられている。後板部62には、壁厚さ方向の中央部に、壁高さ方向に全体にわたって延び、後側に開口する溝部66が形成されている。
後板部62は、第1後板部621と、第2後板部622と、溝板部623と、を有している。
【0047】
第1後板部621は、平板状に形成され、板面が壁長さ方向を向く姿勢で、溝部66よりも壁厚さ方向の一方側に設けられる。第2後板部622は、平板状に形成され、板面が壁長さ方向を向く姿勢で、溝部66よりも壁厚さ方向の他方側に設けられる。
【0048】
溝板部623は、溝部66を形成している。溝板部623は、第1溝側板部661と、第2溝側板部662と、溝底板部663と、を有している。
第1溝側板部661および第2溝側板部662は、それぞれ同じ平板状に形成され、板面が壁厚さ方向を向く姿勢で配置される。第1溝側板部661は第2溝側板部662よりも壁厚さ方向の一方側に管区をあけて配置される。第1溝側板部661と第2溝側板部662とは、壁厚さ方向に対向している。
溝底板部663は、平板状に形成され板面が壁長さ方向を向く姿勢で第1溝側板部661および第2溝側板部662の前側に配置される。溝底板部663は、壁厚さ方向の一方側の縁部が第1溝側板部661の前縁部と接続され、壁厚さ方向の他方側の縁部が第2溝側板部662の前縁部と接続されている。
【0049】
溝板部623は、第1溝側板部661の後縁部が第1後板部621の壁厚さ方向の他方側の縁部と接続され、第2溝側板部662の後縁部が第2後板部622の壁厚さ方向の一方側の縁部と接続されている。
第1溝側板部661には、壁長さ方向の中間部に第2溝側板部662側(壁厚さ方向の他方側)に突出する第1リブ664が形成されている。第2溝側板部662には、壁長さ方向の中間部に第1溝側板部661側(壁厚さ方向の一方側)に突出する第2リブ665が形成されている。第1リブ664と第2リブ665とは、壁厚さ方向に対向し、それぞれの先端部は、離れている。
溝部66のうちの、第1リブ664および第2リブ665よりも前側の部分を前溝部666(第1溝部)とし、第1リブ664および第2リブ665よりも後側の部分を後溝部667とする。
【0050】
一方の側板部63は、前板部61の壁厚さ方向の一方側の縁部と、第1後板部621の壁厚さ方向の一方側の縁部と、を接続している。他方の側板部64は、前板部61の壁厚さ方向の他方側の縁部と、第2後板部622の壁厚さ方向の他方側の縁部と、を接続している。
【0051】
中板部65は、それぞれ平板状に形成され、板面が壁厚さ方向を向く姿勢で壁厚さ方向に間隔をあけて前板部61、後板部62および一対の側板部の間に配置されている。中板部65は、前縁部が前板部61と接続され、後縁部が後板部62と接続されている。中板部65は、保護部材6を主に壁長さ方向に補強するための補強リブとして設けられている。
【0052】
保護部材6は、壁高さ方向の寸法が波形鋼板41の本体部分412の壁高さ方向の寸法と同じ、または大きく設定され、壁厚さ方向の寸法が先行エレメント2の壁厚さ方向の寸法よりもやや小さく、継手部材4の壁厚さ方向の寸法と略同じ寸法に設定されている。
【0053】
図4に示すように、保護部材6は、先行掘削部12に配置されると、下端部6aが波形鋼板41の本体部分412の下端部(本体部分412と下端部分411との境界部413)が配置される位置と同じ高さに配置され、上端が波形鋼板41の上端が配置される位置と同じ高さ、または波形鋼板41の上端が配置される位置よりも上方に配置される。すなわち、保護部材6が架設された先行掘削部12に波形鋼板41が設置されると、波形鋼板41の下端部分411が保護部材6の下端部6aよりも下方に位置している。これにより、波形鋼板41の下端部分411に接合された第1突出部45も保護部材6の下端部6aよりも下方に位置している。波形鋼板41の本体部分412および第2突出部46は、保護部材6と同じ高さに配置される。
【0054】
保護部材6は、先行掘削部12に配置されると壁厚さ方向の両端面(一対の側板部63,64)が地盤11と隙間を介して配置されている。なお、保護部材6の壁厚さ方向の寸法は、先行掘削部12への挿入性を確保するため、先行エレメント2の壁厚さ方向の寸法よりもやや小さく(例えば、両側2cmずつ小さく)設定されていてもよい。
【0055】
次に、地中連続壁の施工方法について説明する。
まず、地盤11の先行掘削部12を掘削する先行掘削工程を行う。
先行掘削工程では、掘削された領域に安定液を注入しながら掘削を行う。
【0056】
続いて、先行掘削部12の前端領域14に保護部材6を設置する保護部材設置工程を行う。
【0057】
続いて、先行掘削部12に継手部材4を設置する継手部材設置工程を行う(
図3および
図4参照)。なお、
図3および
図4の符号「15」は安定液が注入されている領域を示している。根固めモルタル16(
図1参照)が打設される領域にも安定液が注入されている。
継手部材4は、波形鋼板41、一対の側部材42、43、強度付加部材44、第1突出部45および第2突出部46が予め接合された状態で先行掘削部12に設置される。また、一対の側部材42,43には、予めシート部材51および押さえ部材52を取り付けておき、シート部材51を先行掘削部12の側面に沿わせて配置する。
【0058】
継手部材設置工程では、保護部材6の溝部66に継手部材4の第1突出部45および第2突出部46を上方から挿入し、第1突出部45および第2突出部46を溝部66に沿って下方に移動させるようにして継手部材4を下降させ、先行掘削部12に設置する。
【0059】
第1突出部45を、第1突出板部451が第1リブ664と第2リブ665との間を通って前溝部666および後溝部667にわたり、第1先端板部452が第1リブ664および第2リブ665よりも前側の前溝部666に配置されるように溝部66に上方から挿入する。また、第2突出部46を、第2突出板部461および第2先端板部462が第1リブ664および第2リブ665よりも後側の後溝部667に配置されるように溝部66に上方から挿入する。
このように溝部66に挿入された第1突出部45および第2突出部46は、前溝部666および後溝部667に沿って下方に移動可能である。
【0060】
第1リブ664と第2リブ665との間隔は、第1突出板部451の厚さ寸法(壁厚さ方向の寸法)よりも大きく、第1先端板部452および第2先端板部462の幅寸法(壁厚さ方向の寸法)よりも小さく設定されている。これにより、前溝部666に挿入された第1先端板部452が後溝部667に入り込むことがなく、継手部材4が保護部材6から離れて後方に移動することがない。また、後溝部667に挿入された第2先端板部462が前溝部666に入り込むこともない。
【0061】
第1突出部45および第2突出部46を溝部66に挿入し、継手部材4を波形鋼板41の前端部、および一対の側部材42、43の前板部421,431の前面を保護部材6の後板部62と当接させながら保護部材6の溝部66に沿って下降させ、設置位置に配置する。継手部材4における波形鋼板41の下端部分411および第1突出部45を保護部材6よりも下方に配置し、先行コンクリート部21の下端部21aよりも下方の根固めモルタル16が打設される領域に挿入させる。保護部材6よりも下方に位置する第1突出部45は、溝部66の下方に排出された状態である。これにより、第1突出部45は、保護部材6の溝部66から外れて保護部材6の下方に配置され、保護部材6に係止されていない。すなわち、保護部材6と継手部材4とは、互いに係合されていない状態となる。
【0062】
続いて、先行エレメント2の先行コンクリート部21を構築する先行コンクリート部構築工程を行う。
先行コンクリート部構築工程では、まず、先行エレメント2の鉄筋24を設置する。先行エレメント2の鉄筋24は、予め組まれた鉄筋かごとする。
鉄筋24を設置したら、まず、先行掘削部12の底部に根固めモルタル16を打設する。
根固めモルタル16が固化し、流動しない状態になったら、根固めモルタル16の上方の先行掘削部12に先行エレメント2のコンクリート23を打設する。先行エレメント2の鉄筋24、一対の側部材42,43それぞれの側板部422,432、強度付加部材44をコンクリート23に埋設するとともに、波形鋼板41の後面の波形の凹部にもコンクリート23を充填し、硬化させる。
【0063】
先行エレメント2は、波形鋼板41の前端部、一対の側部材42,43の前板部421,431の前面が保護部材6の後面と接触しているため、先行エレメント2のコンクリート23の側圧を、保護部材6を介して地盤11に負担させることができる。また、押さえ部材52(スタッド)で先行掘削部12の側面に沿うように配置されたシート部材51、および側部材42,43の前面は、保護部材6の後面と当接しているため、先行エレメント2のコンクリート23が波形鋼板41の後行エレメント3側の凹部に漏れることを防止することができる。保護部材6が先行掘削部12の前端面121と当接しているため、先行エレメント2のコンクリート23が後行エレメント3側に漏れることを防止することができる。
【0064】
図7に示すように、継手部材4および保護部材6は、先行エレメント2のコンクリート23の側圧によって、壁高さ方向の中間部4c,6cが上端部および下端部4a,6aよりも前側(後行エレメント3が構築される側)に突出するように撓むことが想定される。本実施形態では、継手部材4および保護部材6が上記のように撓んだものとする。
【0065】
続いて、
図8に示すように、地盤11の後行エレメント3が構築される領域に後行掘削部13を掘削する後行掘削工程を行う。
後行掘削部13を掘削して、保護部材6の前面を露出させる。後行掘削工程では、保護部材6が設けられているため、掘削機が波形鋼板41と接触することが無く、後行掘削部13の掘削によって波形鋼板41が損傷することが無い。
【0066】
上述したように、保護部材6は、先行エレメント2のコンクリート23が打設されるとその側圧によって、上下方向の中間部が上端部および下端部よりも前側(後行エレメント3が構築される側)に突出するように撓んだ状態となる。後行掘削部13が掘削されて、保護部材6の前側に地盤11が無くなると保護部材6は、前側に変形可能となるため、撓んだ状態から元の状態の上下方向にまっすぐな状態に戻ろうとする。
先行エレメント2の継手部材4も撓んだ状態であるが、継手部材4は、先行コンクリート部21のコンクリート23と接合されているため、撓んだままの形状に維持される。このため、撓んだ状態の継手部材4とまっすぐに戻った保護部材6とは、それぞれの上端部と下端部4a,6aとが、高さ方向の中間部4c,6cよりも前後方向に離れることになる。
【0067】
上述しているように、継手部材4のうちの波形鋼板41の下端部分411および第1突出部45は、保護部材6よりも下方に配置されていることにより、第1突出部45と保護部材6とは互いに係合していない状態である。このため、保護部材6がまっすぐな形状に戻ったとしても、保護部材6と継手部材4とが干渉することがない。
【0068】
続いて、保護部材6を撤去する保護部材撤去工程を行う。
保護部材6を上方に移動させ、先行掘削部12から撤去し、に示すように、波形鋼板41の本体部分412の前面、一対の側部材42,43の前板部421,431の前面、第2突出部を露出させる。
上述しているように、保護部材6と継手部材4とが干渉していないため、保護部材6および継手部材4が変形したとしても、保護部材6を上方に移動させる際に、継手部材4に引っ掛かることがない。保護部材6には、全面もしくは部分的に摩擦や付着を小さくする材料をあらかじめ塗布もしくは貼付しておき、保護部材6の撤去を容易にすることもできる。
露出した波形鋼板41の本体部の前面、第2突出部46、一対の側部材42,42の前板部421,431の前面を洗浄し、波形鋼板41の前面についた土などを洗浄する。波形鋼板41の前面の洗浄は、高圧洗浄機などを用いて行う。
本実施形態では、先行エレメント2の第2突出部46を高圧洗浄機が上下に移動するためのガイドとして利用することができる。
【0069】
続いて、
図1、
図2に示す後行エレメント3の後行コンクリート部31を構築する後行コンクリート部構築工程を行う。
後行コンクリート部構築工程では、まず、後行エレメント3の鉄筋34を設置する。後行エレメント3の鉄筋34も予め組まれた鉄筋かごとする。
鉄筋34を設置したら、後行掘削部13に後行コンクリート部31のコンクリート33を打設し、後行エレメント3の鉄筋34をコンクリート33に埋設するとともに、波形鋼板41の前面の凹部にコンクリート33を充填する。第2突出部46もコンクリート33に埋設する。
後行エレメント3のコンクリート33を打設したら、コンクリート33を硬化させる。
【0070】
このようにすることで、継手部材4の後側に先行コンクリート部21が構築され、継手部材4の前側に後行コンクリート部31が構築される。先行コンクリート部21と、後行コンクリート部31とは、波形鋼板41を介して噛み合った形状となり、先行エレメント2と後行エレメント3との接合部分にシアキーが形成される。これにより、先行エレメント2と後行エレメント3とは、互いにせん断力を明確かつ確実に伝達可能となる。
【0071】
次に、上記の本実施形態による地中連続壁の保護構造および地中連続壁の施工方法の作用・効果について説明する。
上記の本実施形態による地中連続壁の保護構造および地中連続壁の施工方法では、第1突出部45は、前溝部666(第1溝部)に挿入された状態では、前溝部666に対して後行エレメント3側から先行エレメント2側に向かう方向の移動が拘束される。これにより、継手部材4を地盤11に設置する際に、第1突出部45を前溝部666に挿入して前溝部666に沿って下降させることで、継手部材4が保護部材6から離れることが防止できるため、継手部材4を容易に設置することができる。
【0072】
継手部材4および保護部材6は、初めは上下方向にまっすぐに延びる形状であっても、先行コンクリート部21のコンクリート23が打設されるとその側圧によって、上下方向の中間部が上端部および下端部よりも後行エレメント3が構築される側に突出するように撓んだ状態となることが想定される。
先行コンクリート部21のコンクリート23が打設されるときは、後行掘削部13が掘削されておらず、保護部材6の後行エレメント3側には地盤11が存在するため、この地盤11によって保護部材6が先行エレメント2側に押さえられている。これにより、保護部材6は、撓んだ状態から元の形状に戻ろうとしても地盤11に押さえられて撓んだ状態のままである。
【0073】
後行掘削部13を掘削すると、保護部材6の後行エレメント3側は、安定液が充填された状態となる。この状態では、保護部材6を先行エレメント2側に押さえる力がなくなるまたは弱くなるため、先行コンクリート部21のコンクリート23によって撓んだ状態から元の状態(まっすぐな状態)へ戻ろうとする。継手部材4は、先行コンクリート部21と接合されているため、元の形状には戻らず撓んだままである。このため、保護部材6が元の状態に戻ると、保護部材6の上下方向の中間部は継手部材4と接触し、保護部材6の上側部分および下側部分が、継手部材4に対して後行エレメント3側に離れることになる。
【0074】
本発明では、継手部材4の第1突出部45は、地盤11に設置される際には前溝部666に沿って移動するが、地盤11に設置される際には第1突出部45が前溝部666よりも下方となる位置に設置される。これにより、地盤11に設置された継手部材4の第1突出部45は、仮設された保護部材6の前溝部666よりも下方に配置されるため、前溝部666に対して先行エレメント2側に向かう方向の移動が拘束されない。すなわち、継手部材4と保護部材6とは互いに離れる方向に移動可能となる。このため、保護部材6がまっすぐな形状に戻ろうとした際に、継手部材4(第1突出部45)と干渉することがなく、保護部材6がまっすぐな形状に戻った後も保護部材6と継手部材4とは干渉しない。その結果、継手部材4および保護部材6がともに撓み、撓んだ保護部材6のみが元の形状に戻ったとしても保護部材6を容易に撤去することができる。
【0075】
また、本実施形態による地中連続壁の保護構造では、継手部材4の下端部分411よりも上側の本体部分412には、後行エレメント3側に突出する第2突出部46が設けられている。保護部材6には、先行エレメント2側の面に上下方向全体にわたって延びる後溝部667(第2溝部)が形成されている。第2突出部46は、後溝部667に上方から挿入されて、後溝部667に沿って上下方向に移動可能であり、後溝部667に挿入された状態では、後溝部667に対して後行エレメント3側から先行エレメント2側に向かう方向の移動が許容され、継手部材4は、地盤11に設置される際に、第2突出部46が後溝部667に上方から挿入されて前溝部666に沿って下降し、第2突出部46が後溝部667の下部と同じ高さとなる位置に設置される。
【0076】
このような構成とすることにより、継手部材4を地盤11に設置する際に、第1突出部45よりも上側にある第2突出部46を後溝部667に挿入して後溝部667に沿って下降させることで、継手部材4が下方にガイドされるため、継手部材4を容易に設置することができる。
第2突出部46は、後溝部667に挿入された状態であっても後行エレメント3側から先行エレメント2側に向かう方向の移動が許容されている。これにより、上記のように継手部材4および保護部材6が先行コンクリート部21のコンクリート23の側圧によって撓んだ状態となり、後行掘削部13が掘削されて保護部材6のみが元の形状に戻ったとしても、第2突出部46と後溝部667とが干渉することがない。これにより、継手部材4および保護部材6がともに撓み、撓んだ保護部材6のみが元の形状に戻ったとしても保護部材6を容易に撤去することができる。
【0077】
(第2実施形態)
次に、他の実施形態について、添付図面に基づいて説明するが、上述の第1実施形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第1実施形態と異なる構成について説明する。
図10-
図12に示すように、第2実施形態による地中連続壁の保護構造および地中連続壁の施工方法では、継手部材4の第2突出部46Bの形状が異なっている。
第2実施形態では、第2突出部46Bの波形鋼板41からの突出寸法が第1突出部45の波形鋼板41からの突出寸法と略同じ値に設定されている。第2突出部46Bの第2突出板部461Bは、第1突出部45Bの第1突出板部451Bと波形鋼板41からの突出寸法が同じで、第2先端板部462Bと第1先端板部452Bが上下に並んで配置されている。
第2先端板部462Bは、第1先端板部452Bよりも壁厚さ方向の寸法(板幅)が小さく設計されている。
【0078】
第1突出板部451Bおよび第2突出板部461Bは、いずれも第1リブ664と第2リブ665との間を通って前溝部666および後溝部667にわたって配置される。第1先端板部452Bおよび第2先端板部462Bは、後溝部667(第1溝部、第2溝部)に配置される。第1先端板部45B2の壁厚さ方向の寸法(板幅)は、第1リブ664と第2リブ665との間隔よりも大きく設定されている。第2先端板部462Bの壁厚さ方向の寸法(板幅)は、第1リブ664と第2リブ665との間隔よりも小さく設定されている。これにより、溝部66に挿入されている状態の第1突出部45Bは、溝部66から後側への移動が拘束される。これに対し、溝部66に挿入されている状態の第2突出部46は、溝部66から後側への移動が許容される。
【0079】
第2実施形態においても、継手部材4は、波形鋼板41の下端部分411および第1突出部45Bが保護部材6よりも下方に配置される。これにより、先行コンクリート部21のコンクリート23の側圧によって、継手部材4および保護部材6が撓んだ後に、保護部材6のみがまっすぐな形状に戻ったとしても、保護部材6を撤去する際に、保護部材6が第1突出部45Bと干渉することがない。
【0080】
上記の第2実施形態による地中連続壁の保護構造および地中連続壁の施工方法では、第1実施形態と同様の効果を奏する。
また、第1突出部45Bが挿入される第1溝部と第2突出部46Bが挿入される第2溝部とは同一の溝部である。第1突出部45Bは、第2突出部46Bよりも溝部66の幅方向の寸法が大きく形成され、溝部66の開口(第1リブ664と第2リブ665との間隔)の寸法が第2突出部46Bの幅寸法よりも大きく、第1突出部45Bの幅寸法よりも小さい。
このような構成とすることにより、溝部66に挿入された第1突出部45Bは、後行エレメント3側から先行エレメント2側に向かう方向の移動が拘束され、溝部66に挿入された第2突出部46は、後行エレメント3側から先行エレメント2側に向かう方向の移動が許容される。第1突出部45Bが挿入される第1溝部と第2突出部46Bが挿入される第2溝部とを同一の溝部にできるとともに、第1突出部45Bと第2突出部46Bとを上下方向に連続して設けることができるため、継手部材4や保護部材6の形状の簡便化を図ることができる。
【0081】
以上、本発明による地中連続壁の保護構造および地中連続壁の施工方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、第2突出部46,46Bは、波形鋼板41の本体部分412のみに設けられているが、
図13に示す継手部材4の第2突出部46Cのように、波形鋼板41の下端部分411(
図5、
図11参照)に接合される第1突出部45Cと同じ高さにも設けられて、第1突出部45Cと同様に、波形鋼板41の下端部分411に接合された部分463が保護部材6の下方に配置されていてもよい。
【0082】
また、上記の実施形態では、継手部材4には、波形鋼板41が設けられているが継手部材4の形状は上記以外であってもよい。
また、上記の実施形態では、第1突出部45および第2突出部46が継手部材4の壁厚さ方向の中央部に設けられ、溝部66が継手部材4の壁厚さ方向の中央部に設けられているが、突出部や溝部66が設けられる位置は適宜設定されてよい。
【符号の説明】
【0083】
1 地中連続壁
2 先行エレメント
3 後行エレメント
4 継手部材
6 保護部材
11 地盤
12 先行掘削部
13 後行掘削部
21 先行コンクリート部
45,45B 第1突出部
46,46B 第2突出部
66 溝部
411 下端部分
666 前溝部(第1溝部)
667 後溝部(第2溝部)