(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147232
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】固体燃料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C10L 5/48 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
C10L5/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048395
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武藤 恭宗
(72)【発明者】
【氏名】竹本 智典
(72)【発明者】
【氏名】吉川 知久
(72)【発明者】
【氏名】福田 誠司
【テーマコード(参考)】
4H015
【Fターム(参考)】
4H015AA01
4H015AA17
4H015AB01
4H015BA01
4H015BA08
4H015BA09
4H015BA11
4H015BB02
4H015BB03
4H015BB10
4H015CA03
4H015CB01
(57)【要約】
【課題】炉内での廃プラスチックの融着を抑制し、安定して効率よく製造可能な固体燃料の製造方法を提供すること。
【解決手段】廃プラスチックに含まれる水分を蒸発させる第1の工程と、第1の工程後の廃プラスチックを、水蒸気の存在下で加熱して脆化させる第2の工程とを含む、固体燃料の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃プラスチックに含まれる水分を蒸発させる第1の工程と、
第1の工程後の廃プラスチックを、水蒸気の存在下で加熱して脆化させる第2の工程と
を含む、固体燃料の製造方法。
【請求項2】
前記第2の工程で使用する水蒸気が前記第1の工程で発生した水蒸気を含む、請求項1に記載の固体燃料の製造方法。
【請求項3】
前記第1の工程及び前記第2の工程を低酸素雰囲気で行う、請求項1又は2に記載の固体燃料の製造方法。
【請求項4】
前記第1の工程において、廃プラスチックを30℃以上200℃以下の温度に加熱して水分を蒸発させる、請求項1~3のいずれか1項に記載の固体燃料の製造方法。
【請求項5】
前記第2の工程の加熱温度が300℃以上650℃以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の固体燃料の製造方法。
【請求項6】
前記第1の工程の処理時間が5分以上30分以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の固体燃料の製造方法。
【請求項7】
前記第2の工程の処理時間が30分以上120分以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の固体燃料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体燃料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業廃棄物や一般廃棄物として廃棄される廃プラスチックは、従来単純焼却や埋立処分されていた。しかし、二酸化炭素排出量削減及び資源の有効活用の観点から、廃プラスチック中の有機成分を回収し、固体燃料として再利用することが検討されている。このような固体燃料は、通常廃プラスチックを石炭とともに加熱炉で加熱して廃プラスチックの熱分解を促進し、廃プラスチックの表面や内部に空隙を発生させて脆化し強度を低下させることによって製造されている。しかし、廃プラスチックは加熱により融解するため、融解した樹脂同士が融着する現象が起こる。これに伴い、融着した樹脂は粒子径が増大することで粒子内部への熱伝達が不良となり、粒子内部に未分解の樹脂が多く残存する。その結果、加熱処理後において炉外への廃プラスチックの排出が阻害され、また排出できたとしても、その後の破砕、選別時に樹脂と金属との単体分離が困難になるだけでなく、大きな粒子が破砕機に投入されることによる負荷の上昇により、機器の破損やメンテナンスの頻発を招くことになるため、ランニングコストの面でも問題がある。
【0003】
そこで、炉内での廃プラスチックの融着を抑制する技術が検討されている。例えば、熱可塑性プラスチックに対して石炭を粉砕して得られた微粉炭を所定の比率で混合した混合物を加熱することで、熱可塑性プラスチックの融解物の表面に微粉炭が付着し、熱可塑性プラスチック融解物の炉内での融着を抑制できることが報告されている(特許文献1)。また、塩素含有プラスチックとカルシウム化合物とを一定の量比で混合した混合物を、非酸化雰囲気中で500℃以上900℃以下という比較的高温度で加熱することで、塩素含有プラスチックが融着した塊状物やタールの生成を抑制するとともに、ダイオキシンの発生も抑制できるとの報告もある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-68769号公報
【特許文献2】特開2019-123771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のように融着防止のために廃プラスチックと異なる材料の混合を行った場合には、廃プラスチックの処理量以上に設備規模を大きく設計する必要がある。
また、特許文献2のようにカルシウム化合物を混合した場合には、加熱後の固形燃料中にカルシウム化合物が取り込まれることで灰分が増加し、固形燃料中の発熱量が低下することで、固体燃料の品位を損なうことが確認されている。いずれの場合も、前処理が煩雑であり、温度制御が難しくなると共に灰分が増加するという問題がある。
本発明の課題は、炉内での廃プラスチックの融着を抑制し、安定して効率よく製造可能な固体燃料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、廃プラスチックを脆化させる目的で加熱処理する際に、廃プラスチックが炉内で融着する要因について究明すべく検討したところ、廃プラスチックが常温から熱分解温度まで昇温される過程で、樹脂の融点以上、熱分解温度未満の領域(以下、「融着温度領域」ともいう。)において、融解した樹脂同士が融着する現象が起こるとの知見を得た。そして、かかる知見に基づき検討した結果、廃プラスチックを脆化させる目的で加熱する前に、廃プラスチックに含まれる水分を蒸発させて昇温速度低下に寄与する水の蒸発による潜熱を事前に取り除いたうえで、水蒸気の存在下にて加熱することで、外部からの熱伝達と過熱蒸気による熱伝達の両面によって廃プラスチックが速やかに昇温され融着温度領域での滞留時間が短縮されるため、廃プラスチックの脆化が促進されるとともに、廃プラスチックの融着、それに伴う粒子径の増大を抑制できることを見出した。更に、本発明者らは、製造された固体燃料から出力されるエネルギー量が、廃プラスチックの水分蒸発及び加熱工程で投入されたエネルギー量を超えるため、廃プラスチックの熱量を固体燃料に固定化する方法として極めて有効であることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔7〕を提供するものである。
〔1〕廃プラスチックに含まれる水分を蒸発させる第1の工程と、
第1の工程後の廃プラスチックを、水蒸気の存在下で加熱して脆化させる第2の工程と
を含む、固体燃料の製造方法。
〔2〕前記第2の工程で使用する水蒸気が前記第1の工程で発生した水蒸気を含む、前記〔1〕に記載の固形燃料の製造方法。
〔3〕前記第1の工程及び前記第2の工程を低酸素雰囲気で行う、前記〔1〕又は〔2〕記載の固形燃料の製造方法。
〔4〕前記第1の工程において、廃プラスチックを30℃以上200℃以下の温度に加熱して水分を蒸発させる、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一に記載の固形燃料の製造方法。
〔5〕前記第2の工程の加熱温度が300℃以上650℃以下である、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一に記載の固形燃料の製造方法。
〔6〕前記第1の工程の処理時間が5分以上30分以下である、前記〔1〕~〔5〕のいずれか一に記載の固形燃料の製造方法。
〔7〕前記第2の工程の処理時間が30分以上120分以下である、前記〔1〕~〔6〕のいずれか一に記載の固形燃料の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、炉内での廃プラスチックの融着を抑制し、安定して効率よく固体燃料を製造することができる。また、本発明の固体燃料の製造方法は、エネルギー収支比が高いため、廃プラスチックの熱量を固体燃料に固定化するための方法として極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】本発明の製造方法に適用可能な加熱炉の一例を示す断面図である。
【
図3】本発明の製造方法に適用可能な他の加熱炉を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の固体燃料の製造方法について説明する。
本発明の固体燃料の製造方法の一例を
図1に示す。
本発明の固体燃料の製造方法は、
図1に示されるように、先ず、廃プラスチックに含まれる水分を蒸発させる第1の工程を行う。
【0011】
廃プラスチックとしては、プラスチックを含む廃棄物であれば特に限定されないが、例えば、使用済みのプラスチック製品や、工場等でのプラスチックの製造・加工時に生じる屑や不良品等を使用することができる。このような廃プラスチックには、通常ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ガラス繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチック等のプラスチックが含まれているが、土砂、金属、ガラス、紙、木くず等のプラスチック以外の異物が含まれていても構わない。
廃プラスチックの具体例としては、例えば、シュレッダーダスト、建築廃プラスチック、農業廃プラスチック、漁業廃プラスチック、海洋廃プラスチックを挙げることができる。ここで、本明細書において「シュレッダーダスト」とは、工業用シュレッダーで産業廃棄物又は一般廃棄物を破砕し、金属を回収した後に廃棄される破片の混合物をいう。廃棄物としては、例えば、廃自動車、廃家電、自動販売機、OA機器、家具、建具が挙げられる。なお、廃プラスチックは、2以上を混合しても構わない。
【0012】
廃プラスチックは、廃プラスチックの脆化促進、融着抑制の観点から、粒度調整や異物除去を目的に、破砕や、篩選別、風力選別、磁力選別、渦電流選別及び比重選別から選択される1以上の物理選別に供したものでもよい。
【0013】
廃プラスチックの破砕は、破砕機を使用することができる。破砕機としては、例えば、ジョークラッシャー、インパクトクラッシャー、ハンマークラッシャー、ロールクラッシャー、ロータリークラッシャーが挙げられる。破砕機には、粒度調整を目的に所望の篩目のスクリーンを装着することが可能であり、スクリーンを装着しない場合には、固定歯、回転歯、内壁等を所望のクリアランスに調整してもよい。また、振動篩、回転式篩等の篩選別機を使用することが可能であり、所望の篩目を装着すればよい。なお、他の物理選別については後記において説明する。
【0014】
廃プラスチック破砕物の粒子径は、廃プラスチックの脆化促進、融着抑制の観点から、150mm以下が好ましく、50mm以下がより好ましく、30mm以下が更に好ましい。なお、廃プラスチック破砕物の粒子径の下限値は特に限定されない。
【0015】
本工程においては、廃プラスチックに含まれる水分を完全に蒸発させることを必ずしも要さず、後述する第2の工程において廃プラスチックを脆化させるのに十分な量を蒸発させればよい。
本工程後の廃プラスチック中の水分含量は、通常10質量%以下であり、好ましくは7質量%以下であり、更に好ましくは5質量%以下である。なお、本明細書において「水分含量」は、JIS Z7302-3 に準拠して測定するものとする。
【0016】
廃プラスチックに含まれる水分を蒸発させる方法としては、廃プラスチックを、例えば、凍結乾燥する方法、熱風を吹き付けて乾燥する方法、乾燥機内で乾燥する方法、加熱炉内で加熱する方法を挙げることができる。中でも、生産効率の観点から、廃プラスチックを加熱炉内で加熱する方法が好ましい。加熱炉内で加熱する場合、減圧下で行っても構わない。
【0017】
加熱炉としては、廃プラスチックを収容し、かつ所望の温度に設定できれば特に限定されないが、例えば、固定炉、ストーカー炉、ロータリーキルン炉、流動床炉、堅型炉、多段炉を挙げることができる。また、加熱炉の形状は特に限定されず、例えば、筒状、横断面矩形状等の適宜の形状を取り得る。なお、加熱炉内には、廃プラスチックの供給口から排出口に向かって廃プラスチックを搬送するためのコンベヤを装着してもよい。
【0018】
廃プラスチックを加熱炉内で加熱する場合、加熱炉内に加熱源を設置し、加熱源から廃プラスチックに熱を伝達させて水分を蒸発させればよい。
加熱源としては所望の温度に制御できれば特に限定されないが、例えば、燃焼バーナー、熱風ヒーター、電気ヒーターを挙げることができる。
【0019】
加熱炉内の温度は、加熱炉内の温度を廃プラスチックから水分が蒸発し、かつ廃プラスチックに含まれる樹脂の融着が起こらない温度に保持すればよい。
具体的には、加熱温度は、廃プラスチックから水分の蒸発を促進しつつ、かつ熱可塑性樹脂の液状化を防止する観点から、30℃以上200℃以下が好ましく、40℃以上170℃以下がより好ましく、50℃以上150℃以下が更に好ましい。
加熱時間は、廃プラスチックの粒度及び水分含有量に応じて適宜設定可能であるが、通常5分以上30分以下である。
【0020】
加熱炉内の雰囲気は、廃プラスチックに含まれる樹脂やセルロース等から構成される動植物由来の繊維の熱量を加熱後の固体燃料に固定化し、かつ加熱処理後の破砕や粉砕、物理選別を容易とする点で、低酸素雰囲気とすることが好ましい。ここで、本明細書において「低酸素雰囲気」とは、大気中よりも酸素濃度が低い雰囲気をいう。低酸素雰囲気での連続的な加熱や、エネルギー収支比の増大を踏まえると、外熱式ロータリーキルン炉を用いた低酸素雰囲気下での加熱処理が好ましい。
【0021】
低酸素雰囲気は、不活性ガス、本工程で発生する水蒸気、及び後述する第2の工程において発生するガス成分(H2O、CO2、低級炭化水素等の可燃性ガス等)から選択される1以上で加熱炉内を充満させればよい。不活性ガスとしては、例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素を挙げることができる。また、雰囲気の低酸素化に水蒸気を利用する際、廃プラスチックの含水量が少なく、自身から発生する水蒸気量が充分に得られない場合には、予め蒸気発生設備を付帯させ、これより加熱炉内に直接水蒸気を導入してもよい。蒸気発生設備は公知のものであれば特に方式を指定しないが、例えば、加熱炉にて発生した熱量を利用した廃熱ボイラーでの発生蒸気や、蒸気発電機から排出される蒸気、セメント製造工程における間接水冷によって回収される水蒸気等を利用することが可能である。
【0022】
本工程において廃プラスチックから発生した水蒸気は、次の第2の工程で用いても、回収してもよい。
【0023】
次に、
図1に示されるように、第1の工程後の廃プラスチックを、水蒸気の存在下で加熱して脆化させる第2の工程を行う。これにより、水分が減少した廃プラスチック表面が速やかに昇温するとともに、飽和水蒸気が過熱蒸気へと変化し、廃プラスチックには外部(例えば、加熱源)からの熱伝達に加え、過熱蒸気のもつ熱が対流伝熱によって加えられるため、廃プラスチックに含まれる樹脂の熱分解による脆化が促進されるとともに、樹脂同士の融着、それに伴う粒子径の増大を抑制することができる。
【0024】
本工程においては、加熱炉内に加熱源を設置し、加熱源から廃プラスチックに熱を伝達させて脆化させればよい。
加熱炉としては、廃プラスチックを収容し、かつ所望の温度に設定できれば、加熱方式及び形状等は特に限定されず、例えば、第1の工程と同様のものを挙げることができる。
加熱源としては所望の温度に制御できれば特に限定されず、例えば、第1の工程と同様のものを使用することができる。
【0025】
本工程で使用する水蒸気は、第1の工程で廃プラスチックから発生した水蒸気を含むことが好ましい。第1の工程で発生した水蒸気を加熱炉内に供給し、廃プラスチックとともに加熱することで、飽和水蒸気を過熱蒸気とすることができ、過熱蒸気の持つ高い熱容量及び高い熱伝達により廃プラスチックへの加熱が効率よく達成される。なお、廃プラスチックの含水量が少なく、水蒸気量が充分に得られない場合には、上記において説明したように、予め蒸気発生設備を付帯させて追加の水蒸気を供給してもよい。
加熱炉内の雰囲気中の水蒸気量は、好ましくは30体積%以上であり、より好ましくは35体積%以上であり、更に好ましくは40体積%以上であり、上限値は特に限定されない。
【0026】
加熱炉内の雰囲気は、上記において説明した第1の工程と同様、廃プラスチックに含まれる樹脂やセルロース等から構成される動植物由来の繊維の熱量を加熱後の固体燃料に固定化し、かつ加熱処理後の破砕や粉砕、物理選別を容易とする点で、低酸素雰囲気とすることが好ましい。また、低酸素雰囲気は、水蒸気に加え、不活性ガス、及び後述する第2の工程において発生するガス成分(H2O、CO2、低級炭化水素等の可燃性ガス等)から選択される1以上で加熱炉内を充満させればよい。不活性ガスとしては、上記と同様のものを挙げることができる。
【0027】
本工程での加熱温度は、樹脂の熱分解速度を適切に保ち、樹脂の低分子化による機械強度低下を惹起させつつ、固体燃料品位を保持する観点から、300℃以上が好ましく、320℃以上がより好ましく、350℃以上が更に好ましく、また廃プラスチックに含まれる金属アルミニウムの溶融抑制の観点から、650℃以下が好ましく、630℃以下が更に好ましい。
本工程での加熱時間は、廃プラスチックの粒度により適宜設定可能であるが、通常30分以上120分以下である。
【0028】
本工程に適用可能な加熱炉の一例を
図2、3に示す。なお、
図2、3において、同一の要素には同一の符号を付してあり、図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
図2に示される加熱炉10は、廃プラスチックの供給口から排出口に向かって、第1の工程及び第2の工程を連続的に行うことが可能であり、1つの工程に対応して1つの加熱源が設置されている。
図2に示される加熱炉10としては、例えば、ロータリーキルンのような連続炉を挙げることができる。
また、
図3に示される加熱炉20は、廃プラスチックの供給口から排出口に向かって、1つの加熱源を有する独立した加熱炉が2つ連結され、廃プラスチックの供給口側の加熱炉で第1の工程を行い、廃プラスチックの排出口側の加熱炉で第2の工程を行う。
このように、
図2に示す加熱炉は、各工程に対応した加熱温度に加熱源を制御して温度の勾配を調整することで、各工程において廃プラスチックへ最良の熱伝達が行われる。また、
図3に示す加熱炉は、独立した加熱炉ごとに各工程に対応した加熱温度に加熱源を制御し温度の勾配を調整することで、各工程において廃プラスチックへ最良の熱伝達が行われる。
【0029】
本工程においては、1つの加熱炉内で第1の工程と第2の工程を行っても、2つの加熱炉内で第1の工程と第2の工程をそれぞれ行ってもよく、それぞれの工程に適した処理条件を満たすように連続的に加熱すればよい。後者の場合、第1の工程及び第2の工程に対応する加熱炉を、それぞれ2以上設けても構わない。中でも、低酸素雰囲気での連続的な加熱と、第1の工程で得られる水蒸気及び第1の工程後の廃プラスチックの輸送が容易である点、さらに製造される固形燃料中の熱量を多く残存させ、廃プラスチックの有する固体燃料としての価値を最大限活用する点を踏まえると、外熱式ロータリーキルン炉を用いて低酸素雰囲気下で第1の工程と第2の工程を連続的に実施することが好ましい。
【0030】
次に、
図1に示されるように、第2の工程により脆化した廃プラスチックを冷却する冷却工程を行うことができる。例えば、廃プラスチック脆化物を加熱炉からスクリューコンベヤで間接式ロータリークーラーや冷却スクリューコンベヤに搬送し冷却すればよい。
冷却工程は、冷却中における樹脂同士の融着抑制の観点から、廃プラスチック脆化物を撹拌してもよい。また、空気の存在下で廃プラスチック脆化物を冷却すると着火、燃焼することがあるため、不活性ガス雰囲気下で冷却してもよい。不活性ガスとしては、上記と同様のものを挙げることができる。なお、攪拌下及び不活性ガス雰囲気下における冷却は、単独で又は組み合わせて行うことができる。
【0031】
次に、冷却した廃プラスチック脆化物は、破砕工程、粉砕工程及び物理選別工程から選択される1以上に供することができる。
図1に示される製造方法においては、冷却した廃プラスチック脆化物を、破砕工程、風力選別工程、篩選別工程及び比重選別工程の順に供するものである。
【0032】
破砕工程及び粉砕工程は、廃プラスチック脆化物を固体燃料としての利用に適した粒子径に調整する工程である。破砕工程は、破砕機を使用することができる。破砕機としては、上記において説明した破砕機を適宜選択することが可能であるが、ハンマークラッシャー、インパクトミル等の衝撃型の破砕機が好ましい。なお、破砕工程は、同種又は異種の破砕機を組み合わせて2回以上行うことができる。
また、粉砕工程は、粉砕機を使用することができる。粉砕機は、公知の粉砕機を適宜選択すればよいが、中でも、ボールミル、ローラーミルが好ましい。なお、破砕工程及び粉砕工程は、いずれか一方を行っても、両者を行ってもよい。
【0033】
物理選別工程としては特に限定されないが、例えば、風力選別工程、篩選別工程、比重選別工程、磁力選別工程、渦電流選別工程、ソーター選別(光学、電磁誘導、透過X線、蛍光X線等)を挙げることができる。物理選別は、2以上組み合わせて行うことが可能であり、その場合、各工程の順序は適宜選択できる。
図1に示される固体燃料の製造方法においては、風力選別工程、篩選別工程、比重選別工程の順に行う。なお、選別条件は、所望の固体燃料を回収できるように、選別方法により適宜設定すればよい。以下、主な物理選別工程について説明する。
【0034】
風力選別工程は、公知の風力選別機を用いることが可能であり、特に限定されないが、例えば、ジグザグ式、内部循環式を挙げることができる。
風力選別において、例えば、内部循環式を用いた場合、ファンにより下から上方向に空気の流れを作ると、廃プラスチック破砕物の重量物は空気の流れに逆らって下方向に移動し、他方軽量物は空気の流れに乗って上方向に移動する。このようにして廃プラスチック脆化物は、重量物と軽量物とに選別され、軽量物が固体燃料として回収される。この場合、重産物に金属やガラス等の不燃物が主体になるように、風力選別の風速を設定することが好ましい。例えば、風速は、5m/s以上が好ましく、7.5m/s以上がより好ましく、10m/s以上が更に好ましい。なお、風力の上限値は廃プラスチックの種類により適宜設定可能であるが、通常30m/s以下であり、好ましくは25m/s以下である。
【0035】
篩選別工程は、例えば、振動式、面内運動式、回転式、固定式等の篩選別機を使用することができる。篩目は、5~30mmが好ましく、5~20mmがより好ましく、5~10mmが更に好ましい。
篩選別では、篩上物と篩下物とに選別し、通常粒度調整された篩下物を回収する。
【0036】
比重選別工程は、公知の比重選別機を用いることが可能であり、乾式及び湿式のいずれでも構わないが、乾式のテーブル式比重選別機が好ましく、エアテーブルが更に好ましい。
比重選別において、例えば、エアテーブルを用いた場合、振動式テーブルの上面に供給された廃プラスチック脆化物は、振動式テーブルを通過する空気流によって振動式テーブルの上面から浮上した状態となり、振動式テーブルの傾斜方向に付与された振動により、比重の大きい重産物が下層に、比重の小さい軽産物が上層に移動し、下層の重産物は振動式テーブルの上面から摩擦力と振動力とを受けて斜め上方へ移動し、上層の軽産物は振動式テーブルの上面から摩擦力と振動力とを受けずに斜め下方へ押し流される。そして、振動式テーブルから重産物と軽産物が別々に排出され、軽産物が固体燃料として回収され、重産物が非鉄・鉄鋼原料として回収される。
【0037】
磁力選別工程は、公知の磁力選別機を用いることが可能であり、例えば、ドラム式、プーリー式及び吊下げ式のいずれでもよく、特に限定されない。
磁力選別では、例えば、高磁力の磁場が存在するマグネットドラムと、マグネットドラムに巻き回されたベルトコンベヤ(移動式ベルト)と、ベルトコンベヤのベルト面上に試料を供給するフィーダとを有する磁力選別装置を用いて、磁着物と非磁着物に選別し、非磁着物が固体燃料として回収され、磁着物が鉄鋼原料として回収される。
磁力選別機の表面磁束密度は、磁着物除去の観点から、700~10000ガウスが好ましく、1000~7500ガウスがより好ましく、1500~5000ガウスが更に好ましい。
【0038】
渦電流選別機は、公知の渦電流選別機を用いることが可能であり、特に限定されないが、例えば、回転磁石式、直行ベルトコンベヤ式、回転円筒式を挙げることができる。
渦電流選別においては、例えば、コンベヤベルトの先端側に設けられた回転磁石体の移動磁界の電磁誘導作用を受けて内部に生じる誘導電流と移動磁界との相互作用によって、コンベヤベルトの先端側に搬送された廃プラスチック脆化物に回転磁石体の回転方向に推力を与え、コンベヤベルトの表面からこの推力と導電性物質に作用する重力との合成力の方向に導電性物質を飛び出させて除去し、非導電物質が固体燃料として回収される。
回転磁石体の回転数は、導電性物質除去の観点から、1500rpm以上が好ましく、3000rpm以上がより好ましく、4500rpm以上が更に好ましい。
【0039】
以上説明したとおり、本発明の固体燃料の製造方法は、炉内での廃プラスチックの融着を抑制に有効であるから、廃プラスチックの融着防止方法としても有用である。即ち、廃プラスチックに含まれる水分を蒸発させる第1の工程と、第1の工程後の廃プラスチックを、水蒸気の存在下で加熱して脆化させる第2の工程とを含む廃プラスチックの融着防止方法を提供することができる。なお、本発明の廃プラスチックの融着防止方法は、上記と同様の構成を採用することができる。
また、本発明の固体燃料の製造方法は、後掲の実施例に示されるように、製造された固体燃料から出力されるエネルギー量が高く、しかも当該出力エネルギー量が、第1の工程及び第2の工程で投入されたエネルギー量よりも高いため、廃プラスチックの熱量を固体燃料に固定化する方法として極めて有効である。
【実施例0040】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0041】
1.熱量残存率の算出
原料と第2の工程後の原料の総発熱量をJIS Z 7302-2に準拠して測定し、原料の投入質量及び第2の工程後の原料の回収質量と、原料及び第2の工程後の原料の発熱量から、下記式(1)にて算出した。
【0042】
熱量残存率(%)= A×B÷C×D×100 (1)
【0043】
〔式中、Aは第2の工程後の原料の回収質量(kg/h)を示し、Bは第2の工程後の原料の総発熱量(kJ/kg)を示し、Cは原料の投入質量を示し、Dは原料の総発熱量(kJ/kg)を示す。〕
【0044】
2.20mm篩通過質量百分率
冷却工程後の原料をJIS Z 8801適合篩にて篩い分けして篩目20mmを通過した質量を測定し、第2の工程後の原料の質量に対する百分率を下記式(2)にて算出した。
【0045】
20mm篩通過質量百分率(%)= E÷F×100 (2)
【0046】
〔式中、Eは篩目20mmを通過した冷却工程後の原料の質量(kg)を示し、Fは第2の工程後の原料の質量(kg)を示す。〕
【0047】
3.エネルギー収支比
得られた固体燃料の単位時間当たりの発熱量(MJ/h)と、第1の工程及び第2の工程で投入した燃料の単位時間当たりの発熱量(MJ/h)より、下記式(3)にてエネルギー収支比を算出した。
【0048】
エネルギー収支比=G÷H×100 (3)
【0049】
〔式中、Gは得られた固体燃料の単位時間当たりの発熱量(MJ/h)を示し、Hは第1の工程及び第2の工程で投入した燃料の単位時間当たりの発熱量(MJ/h)を示す。〕
【0050】
実施例1~6及び比較例1~4
廃プラスチックとして電化製品・家具等を解体・破砕して回収されたシュレッダーダストを用い、これを篩目30mmの篩で篩選別した篩下を原料として使用した。
加熱炉として外熱式ロータリーキルンを使用し、
図2に示すように加熱炉内に加熱源としてバーナーを2基設置した。
そして、
図1に示すフローチャートにしたがって固体燃料を製造した。具体的には、以下のとおりである。
表1に示す温度に加熱された加熱炉内に、原料を1000kg/hの速度で50t程度供給し、原料に含まれる水分を蒸発させ、その水蒸気の存在下で水分除去後の原料を加熱して脆化させた。なお、水分蒸発後の原料の水分含量は、5質量%であった。第2の工程後に回収した原料の単位時間当たりの質量(kg)を測定し、第2の工程後に回収した原料の発熱量(kJ/kg)、第1の工程及び第2の工程で投入した燃料の単位時間当たりの発熱量(MJ/h)を算出した。
次いで、加熱炉から搬出された第2の工程後の原料を窒素雰囲気下にて間接式ロータリークーラー、冷却スクリューコンベヤにて冷却した。そして、冷却工程後の原料について、樹脂の融着及び団粒化の有無を評価するため、篩目20mmの篩い分けし、篩目20mmを通過した質量(kg)を測定した。
次いで、冷却工程後の原料をハンマークラッシャーで破砕した。なお、ハンマークラッシャーには、開口径8mmのスクリーンを装着して篩下を採取した。
次いで、篩下について、風力選別機により、破砕によって細粒化された樹脂分を含む軽量物と、破砕により細粒化されない金属を含む重量物とに分離し、軽量物を固体燃料として回収した。
次いで、風力選別機で回収した重量物を篩目10mmの篩で篩分けし、篩下を比重選別機によって鉄及び非鉄金属が濃縮された重産物と、風力選別により回収されなかった樹脂分が濃縮された軽産物とに分離し、重量物を非鉄・鉄鋼原料として回収し、軽量物を固体燃料として回収した。
そして、風力選別工程と比重選別工程で回収した固体燃料を混合して固体燃料の質量を測定し、固体燃料の燃料価値を評価するために、得られた固体燃料の単位時間当たりの発熱量(MJ/h)を算出した。さらに、回収された固体燃料の回収量と発熱量、及び第1の工程及び第2の工程で消費した燃料使用量から、固体燃料の回収に係るエネルギー収支比を算出し評価した。その結果を表1に示す。
【0051】
【0052】
表1から、次のことがわかる。
(1)熱量残存率
熱量残存率は、風力選別工程と比重選別工程で回収された固体燃料について、原料が有する熱量の内、固体燃料に固定化された熱量を指標に固体燃料の燃料価値を評価するものであるが、本実施例で製造された固体燃料は、燃料価値を充分有する。
(2)20mm篩通過質量百分率
20mm篩通過質量百分率は、第2の工程における廃プラスチックの融着、それに伴う粒子径の増大の有無を、20mm篩を通過した質量を指標に評価するものであるが、実施例の原料はほとんど篩を通過することから、第2の工程における樹脂同士の融着、それに伴う粒子径の増大が十分抑制されていることがわかる。
(3)エネルギー収支比
得られた固体燃料から出力される単位時間当たりの発熱量と、第1の工程及び第2の工程で投入した燃料の単位時間当たりの発熱量を指標にエネルギー収支比を評価するものであるが、本実施例のエネルギー収支比は極めて高いことから、コスト的に有利に固体燃料を製造できることがわかる。
したがって、本発明方法は、加熱による廃プラスチックの融着、これに伴う団粒化を抑制できるため、安定して効率よく廃プラスチック中の熱量を最大限活用した固体燃料を製造することができる。さらに、本発明方法は、加熱時の燃料使用を大幅に削減可能で、エネルギー収支比が高いことから、環境への二酸化炭素負荷が低い固体燃料の製造方法として有用である。