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特開2022-147268良好なアルカリ水溶液溶解性を示す化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147268
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】良好なアルカリ水溶液溶解性を示す化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 8/36 20060101AFI20220929BHJP
   C08L 61/10 20060101ALI20220929BHJP
   C08K 5/1515 20060101ALI20220929BHJP
   C08K 5/092 20060101ALI20220929BHJP
   C08G 8/32 20060101ALI20220929BHJP
   G03F 7/027 20060101ALI20220929BHJP
   G03F 7/032 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C08G8/36
C08L61/10
C08K5/1515
C08K5/092
C08G8/32
G03F7/027 515
G03F7/032 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048440
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山腰 千巳
【テーマコード(参考)】
2H225
4J002
4J033
【Fターム(参考)】
2H225AC54
2H225AM70P
2H225AM92P
4J002CC041
4J002CC051
4J002EL026
4J002EL036
4J002EL137
4J002EW130
4J002FD147
4J002FD206
4J002GP03
4J033CA02
4J033CA12
4J033CB25
4J033CC08
4J033GA05
4J033HA28
4J033HB10
(57)【要約】
【課題】
レジスト組成物とした場合でも、良好なアルカリ水溶液溶解性を示す様に、単体として良好なアルカリ水溶液溶解性を示す化合物の製造方法である。
【解決手段】
フェノール樹脂(A)とエポキシ化合物(B)を反応させた後、酸無水物(C)を反応させて得られる化合物の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール樹脂(A)とエポキシ化合物(B)を反応させた後、酸無水物(C)を反応させて得られる化合物の製造方法。
【請求項2】
エポキシ化合物(B)が、n-ブチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレートより選ばれる化合物である請求項1に記載の化合物の製造方法。
【請求項3】
酸無水物(C)が、1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸、4-メチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物、無水マレイン酸、無水フタル酸より選ばれる請求項1または請求項2に記載の化合物の製造方法。
【請求項4】
フェノール樹脂(A)に対するエポキシ化合物(B)、酸無水物(C)の配合比が、フェノール樹脂(A)の水酸基と、エポキシ化合物(B)のエポキシ基と、酸無水物(C)の酸無水物基のモル比にて、フェノール樹脂(A)の水酸基に対して、エポキシ基が20~100%、フェノール樹脂(A)の水酸基に対して、酸無水物基が20~100%である請求項1~3、いずれかに記載の化合物の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4、いずれかに記載の製造方法を経て得られる化合物を用いて作製されるレジスト材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジスト組成物とした場合でも、良好なアルカリ水溶液溶解性を示す化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細加工技術として、感光性の材料にパターンを焼き付けるフォトリソグラフィーが確立されている。フォトリソグラフィーのキー材料と成るレジストは、ポジ型とネガ型があり、アルカリ水溶液洗浄後、露光部分が溶解するのがポジ型、露光部分が残るのがネガ型である。
ポジ型にせよ、ネガ型にせよ、露光部分か未露光部分がアルカリ水溶液に溶解する必要があり、アルカリ水溶液に溶解する材料として、フェノール樹脂がしばしば用いられる。
尚、レジスト材料にはエポキシ樹脂が添加してあり、溶解させなかった部分はポストキュアにてエポキシ樹脂とフェノール樹脂を反応させ、硬さを保証するのが一般的な方法である。
【0003】
特許文献1には、「ポジ型レジストとして、高解像度を有し、得られるレジストパターンの形状特性に優れ、かつ耐熱性および耐ドライエツチング性に優れたポジ型レジストとして良好に用いることのできる感放射線性樹脂組成物の原料として好適な、分子量分布の狭いノボラック樹脂を容易に得ることができる製造方法」とある。
この様に、レジスト材料中に、ノボラック樹脂であるフェノール樹脂を添加することは、しばしば行われる。しかしながら、特許文献1のフェノール樹脂のアルカリ水溶液に対する溶解性は、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2-222409
【特許文献2】特開2001-114853
【特許文献3】特開2008-112134
【特許文献4】特開2009-249607
【0005】
特許文献2は、アルカリ水溶液に対する溶解性を改善した公報であるが、更なる溶解性が求められていた。特許文献3は、特許文献2同様、アルカリ水溶液に対する溶解性を改善した公報であるが、アルカリ水溶液に対する溶解性は、改善の余地があった。特許文献4は、アルカリ水溶液に対する溶解性を改善しつつ、感光性を付与した公報であるが、アルカリ水溶液に対する溶解性は、改善の余地があった。
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
レジスト組成物とした場合でも、良好なアルカリ水溶液溶解性を示す様に、単体として良好なアルカリ水溶液溶解性を示す化合物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らが鋭意検討を行った結果、フェノール樹脂(A)とエポキシ化合物(B)を反応させた後、酸無水物(C)を反応させて得られる化合物の製造方法を見出した。
【発明の効果】
【0009】
本発明の化合物を用いたレジスト組成物は、良好なアルカリ水溶液溶解性を示すため、より微細な加工を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
フェノール樹脂(A)を得るためのフェノール類としては、例えばフェノール、クレゾール位置異性体、キシレノール位置異性体、ノニルフェノール位置異性体、ターシャリー-ブチルフェノール位置異性体、セカンダリー-ブチルフェノール位置異性体、ナフトール、ジヒドロキシベンゼン位置異性体、ジメチルヒドロキノン位置異性体等が挙げられる。尚、位置異性体とは、2官能基以上の芳香族化合物で、ある官能基が1位に付いているのに対し、別の官能基がベンゼン環の2位、3位、4位についている場合を指す。
より好適な材料としては、水酸基とメチル基がベンゼン環の1位と2位に付いているo-クレゾールが挙げられる。
【0011】
アルデヒド類としてはフェノール樹脂の製造に使用可能とされているアルデヒド類であれば使用可能である。
例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン(メタホルムアルデヒド)等を単独もしくは2種以上混合して使用することができる。より好適な材料としてはホルムアルデヒドが挙げられる。アルデヒド類の添加量はフェノール類の合計100質量部対して10~50質量部、より好適には15~45質量部である。
フェノール類とアルデヒド類とを反応させる際に用いる酸触媒としては、シュウ酸、酢酸亜鉛、ホウ酸、リン酸、硫酸、パラトルエンスルホン酸等の酸触媒等を単独もしくは2種以上混合して使用することができる。より好適な材料としては、シュウ酸が挙げられる。酸触媒の添加量としては、フェノール類の合計100質量部対して0.05~2質量部、より好適には0.1~1質量部である。
【0012】
反応条件としては、アルデヒド類とフェノール類と酸触媒を規定量添加して、反応温度を70~110℃、より好適には75~115℃の範囲で行うのが好ましい。反応時間としては、1~20時間、より好適には2~15時間である。
【0013】
フェノール樹脂(A)と反応させるエポキシ化合物(B)としては、エポキシ基を持つ化合物なら、どの様な化合物を用いることができ、2種以上を使用しても構わない。より好適な化合物としては、n-ブチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレートが挙げられる。
添加量としては、フェノール樹脂(A)の水酸基に対するエポキシ化合物(B)のエポキシ基の配合比が、フェノール樹脂(A)の水酸基と、エポキシ化合物(B)のエポキシ基のモル比にて、フェノール樹脂(A)の水酸基に対して、エポキシ基が20~100%、より好適には25~95%である。
【0014】
フェノール樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)の反応の際は、反応触媒を添加することができる。反応触媒としては、ホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のリン系化合物、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン等のアミン系化合物、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール等のイミダゾール系化合物を挙げることができる。より好適な材料はトリフェニルホスフィンである。添加量としては、フェノール類の合計100質量部対して0.05~10質量部、より好適には0.5~5質量部である。2種以上を併用しても構わない。
【0015】
フェノール樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)の反応の際は、溶剤を使用することができる。溶剤としては、酢酸エチル、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられる。より好適な材料はメチルエチルケトンである。添加量としては、フェノール類の合計100質量部対して10~90質量部、より好適には20~80質量部である。2種以上を併用しても構わない。
【0016】
フェノール樹脂(A)とエポキシ化合物(B)を反応させた後に、反応させる酸無水物(C)としては、酸無水物であればどの様な化合物でも良い。より好適な化合物としては、1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸、4-メチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物、無水マレイン酸、無水フタル酸等が挙げられる。
添加量としては、フェノール樹脂(A)の水酸基と、酸無水物(C)の酸無水物基のモル比にて、フェノール樹脂(A)の水酸基に対して、酸無水物基が20~100%、より好適には25~95%である。フェノール樹脂(A)とエポキシ化合物(B)を反応させた後に生成する水酸基に、酸無水物(C)を反応させるわけであるが、新たに生成した水酸基の全てに、酸無水物(C)を反応させなくとも良い。
【0017】
以下に、本発明について実施例、比較例および試験例等を挙げてより詳細に説明するが、具体例を示すものであって、特にこれらに限定するものではない。
【0018】
<フェノール樹脂A合成>
o-クレゾールを100g、37%-ホルムアルデヒド水溶液を60g、シュウ酸を0.5gセパラブルフラスコに秤取り、ふた、撹拌バネをセットした後、100℃にて5時間反応を行った後、系内を50mmHgに減圧し、内温180℃になるまで蒸留を行う事で未反応物の除去を行い、フェノール樹脂Aを得た。
【0019】
<フェノール樹脂B合成>
o-クレゾールを100g、37%-ホルムアルデヒド水溶液を95g、シュウ酸を0.5gセパラブルフラスコに秤取り、ふた、撹拌バネをセットした後、100℃にて12時間反応を行った後、系内を50mmHgに減圧し、内温180℃になるまで蒸留を行う事で未反応物の除去を行い、フェノール樹脂Bを得た。
【0020】
<実施例1の化合物の合成>
フェノール樹脂(A)として、フェノール樹脂Aを100g、n-ブチルグリシジルエーテルを44.1g、トリフェニルホスフィンを1g、メチルエチルケトンを50gセパラブルフラスコに秤取り、ふた、撹拌バネをセットした後、80℃にて2時間反応を行った。
次に、1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸を51.5g添加して、90℃にて12時間反応させて、実施例1の化合物を得た。
フェノール樹脂(A)の水酸基に対し、エポキシ化合物(B)の配合比および、フェノール樹脂(A)の水酸基に対し、酸無水物(C)の配合比は、40%、40%である。
【0021】
<実施例2~6、比較例1~3の化合物の合成>
実施例1の化合物の合成と同様の方法で、表1、表2に示した割合で、表3、表4に示した反応条件で、実施例2~6、比較例1~3の化合物を得た。
フェノール樹脂(A)の水酸基に対し、エポキシ化合物(B)の配合比および、フェノール樹脂(A)の水酸基に対し、酸無水物(C)の配合比は、表1、表2の上段に示している。
尚、実施例6は、エポキシ化合物(B)として、n-ブチルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレートの2種類を用いたが、フェノール樹脂(A)の水酸基に対し、n-ブチルグリシジルエーテルの配合比が20%、グリシジルメタクリレートの配合比が40%である。
比較例1、比較例2は、フェノール樹脂(A)とエポキシ化合物(B)を反応させないで、酸無水物(C)である1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸のみを反応させている。比較例3は、フェノール樹脂(A)と酸無水物(C)である1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸を先に反応させ、新たに生成したカルボン酸と、エポキシ化合物(B)であるグリシジルメタクリレートを反応させている。
【0022】
<酸無水物(C)の未反応分の測定>
実施例1~6、比較例1~3の化合物の酸無水物(C)の未反応分の測定を、GPCを用いて行った。測定条件は、下記の通りである。
GPCの重量平均分子量は、以下に示す装置を以下に示す条件で用いて測定し、ポリスチレン換算で算出した。
装置:ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーShodex GPC-101(昭和電工社製)
カラム:KF-801+KF-802(2本)+KF-803(いずれも商品名:昭和電工社製)
カラムの温度:40℃
試料:99.0質量%テトラヒドロフラン溶液
流量:1ml/min
溶離液:テトラヒドロフラン
検出器:RI検出器
酸無水物(C)の未反応分が多い場合、ポストキュアの時に酸無水物(C)が揮発して、炉を腐食させる、また、出来上がったデバイスに酸が悪影響をおよぼす場合もあるので、少ない方が良い。
従って、酸無水物(C)の未反応分が、3%未満は合格、3%以上は不合格である。比較例1、比較例2は、酸無水物(C)の未反応分が、3%以上で不合格となったので、次に示すアルカリ水溶液溶解性試験は行っていない。
【0023】
<実施例1のアルカリ水溶液溶解性試験>
クロムメッキ鋼板で有る日本製鉄社製、商品名:キャンスーパーを準備した。試験片のサイズは、200mm×300mm×0.3mm厚である。前項で作製した実施例1のフェノール樹脂溶液約5mlを、片方の短辺の略中心部に、約80mmの線状に塗布した。この塗布した液を、第一理化社製、No.26バーコーターを用い引き延ばした。120℃のオーブンに2時間投入し、溶剤を完全に揮発させた。この時の膜厚をミツトヨ社製マイクロメーターにて測定したところ10箇所の平均が23.1μmであった。
この試験片を、短辺は100mmでカットし、長辺は30mmピッチで切り出した。端の2枚は、フェノール樹脂が十分に付着していないので廃棄し、18枚を取り出した。
フェノール樹脂が付着している端部から40mmを計測し、40mmを超える範囲のフェノール樹脂は、アセトンを染み込ませた紙で拭き取り、フェノール樹脂の付着面積を30mm×40mmとした。
この試験片6枚を25℃に調温した0.05%水酸化カリウム水溶液に投入し、ハネ付き撹拌機にて85rpmで撹拌し、10分後に5枚、20分後に5枚取り出し、重量を測定し溶出率を算出した。
尚、溶出率は、溶剤揮発後のフェノール樹脂が付着した試験片重量と、溶出試験後の試験片重量と、試験終了後アセトンでクリーニングしたクロムメッキ鋼板を測定し、(フェノール樹脂が付着した試験片重量から溶出試験後の試験片重量)を減じて、(フェノール樹脂が付着した試験片重量からアセトンでクリーニングしたクロムメッキ鋼板を減じた値)で除した値を1から減じ、百分率で表した。結果を表5に示す。
【0024】
<実施例2~6、比較例3~5のアルカリ水溶液溶解性試験>
実施例1と同様の手順で、実施例2~6、比較例3の溶解性試験を行った。塗布量、膜厚、10分後、20分後の溶解率を表5、表6に示す。20分後の溶解率が、30%以上を合格、30%未満を不合格とした。尚、比較例4、比較例5はそれぞれ、フェノール樹脂(A)そのものであるフェノール樹脂Aとフェノール樹脂Bを用いて、アルカリ水溶液溶解性試験を行った。
【0025】
フェノール樹脂(A)とエポキシ化合物(B)を反応させた後、酸無水物(C)を反応させて得られる化合物の製造方法である実施例1~6は、酸無水物(C)の未反応分およびアルカリ水溶液溶解性試験、両方とも合格となった。
【0026】
フェノール樹脂(A)そのものを用いて、アルカリ水溶液溶解性試験を行った比較例4、比較例5は、アルカリ水溶液溶解性試験で不合格となった。
【0027】
フェノール樹脂(A)とエポキシ化合物(B)を反応させないで、フェノール樹脂(A)と酸無水物(C)を反応させた比較例1、比較例2は、酸無水物(C)の未反応分の測定にて不合格となった。
【0028】
フェノール樹脂(A)とエポキシ化合物(B)を反応させないで、先にフェノール樹脂(A)と酸無水物(C)を反応させ、その後にエポキシ化合物(B)を反応させた比較例3は、アルカリ水溶液溶解性試験が不合格となった。
アルカリ水溶液溶解性を向上させるためには、フェノール樹脂(A)とエポキシ化合物(B)を反応させた後、酸無水物(C)を反応させることが、重要であることが証明された。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【0032】
【表4】
【0033】
【表5】
【0034】
【表6】