(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147272
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】クラフトリグニン含有フェノール樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 8/00 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
C08G8/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048445
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井上 諒
(72)【発明者】
【氏名】北村 丞
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 淳
(72)【発明者】
【氏名】北川 拓実
【テーマコード(参考)】
4J033
【Fターム(参考)】
4J033CA01
4J033CA02
4J033CA11
4J033CA12
4J033CA14
4J033CA16
4J033CA29
4J033CB01
4J033CB21
4J033CB22
4J033CC04
4J033CC06
4J033CC07
4J033CD03
4J033HB01
4J033HB02
(57)【要約】
【課題】
化粧板、合板等の含浸板のバインダとして使用され、環境問題に対応できるように天然物であるクラフトリグニン(K)を利用したフェノール樹脂を、安定的に製造できる方法を確立することである。
【解決手段】
クラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂の製造方法であって、製造各段階のいずれかにて、水と相溶する溶剤(S)を添加する製造方法であり、第一段階のフェノール類(P)と、アルデヒド類(F)を反応させる際には80℃未満の沸点の溶剤(s2)を使用しないことを特徴とするクラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂の製造方法であって、
製造各段階のいずれかにおいて、水と相溶する溶剤(S)を添加する製造方法であり、
第一段階のフェノール類(P)と、アルデヒド類(F)を反応させる際には80℃未満の沸点の溶剤(s2)を使用しないことを特徴とするクラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂の製造方法。
【請求項2】
フェノール類(P)100質量部に対し、クラフトリグニン(K)が1~250質量部である請求項1に記載のクラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂の製造方法。
【請求項3】
フェノール類(P)のモル数Pと、アルデヒド類(F)のモル数Fの比率が、F/P=0.5~3.0である、請求項1あるいは請求項2に記載のクラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂の製造方法。
【請求項4】
フェノール類(P)100質量部に対し、アルカリ金属、アルカリ土類金属、その他金属の水酸化物、アミン化合物から選択される触媒(C)を1~35質量部添加する請求項1~3いずれかに記載のクラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4いずれかに記載のクラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂の製造方法にて得られた、フェノール樹脂をバインダとして作製された化粧板、合板等の含浸板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧板、合板等の含浸板のバインダとして使用され、環境問題に対応できるように天然物であるクラフトリグニン(K)を利用したフェノール樹脂を、安定的に製造できる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、環境問題が重要な社会的な課題として国際社会に広く認識されている。このような中、化学分野では、天然物を利用した開発が盛んに行われている。
特許文献1は、有機媒体や樹脂等の疎水性媒体中において、より少ない機械力で改質セルロースを得る製造方法、及び易解繊性を有する改質セルロースを提供する公報である。
この様に、天然物として、生物学でいうところの木本系材料、草本系材料を利用した公報は、多数公開されている。
【0003】
セルロース以外の天然物としては、ポリ乳酸、ポリアミド、リグニン等が挙げられる。リグニンは、エポキシ樹脂成形体、フィルムの充填剤として検討されている。接着剤の分野では、リグニンはホットメルト接着剤の充填剤としての利用が検討されている。またリグニンは、高分子フェノール化合物であるので、フェノール樹脂系接着剤への利用が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-006628
【特許文献2】国際公開2016/098667
【特許文献3】国際公開2017/163163
【0005】
特許文献2は要約書に、「含浸板は、基材と、基材に含浸される樹脂組成物とを含み、樹脂組成物が、リグニンと、フェノール類と、アルデヒド類との反応生成物を含有する。」とあり、含浸板、積層板および樹脂組成物に関する公報である。化粧板、合板等の含浸板を作製するには改善の余地が有った。
特許文献3は、断熱材、積層板、配向性ストランドボード(OSB)等の加工木材製品などの製品用の樹脂の製造に特に有用な液体リグニン組成物に関する公報である。液体リグニン組成物を得る方法には改善の余地が有った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
化粧板、合板等の含浸板のバインダとして使用され、環境問題に対応できるように天然物であるクラフトリグニン(K)を利用したフェノール樹脂を、安定的に製造できる方法を確立することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らが鋭意検討を行った結果、クラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂の製造方法であって、製造各段階のいずれかにおいて、水と相溶する溶剤(S)を添加する製造方法であり、第一段階のフェノール類(P)と、アルデヒド類(F)を反応させる際には80℃未満の沸点の溶剤(s2)を使用しないことを特徴とするクラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂の製造方法を確立するに至った。
【発明の効果】
【0008】
化粧板、合板等の含浸板のバインダとして使用されるフェノール樹脂の製造方法を確立する事であって、クラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂を、安定的に製造できる方法を確立であるので、環境にやさしく、しかも性能面で優れた化粧板、合板等の含浸板を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本願発明の化粧板、合板等の含浸板のバインダとして使用されるクラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂の製造方法の一例を示す。
【0010】
本願のクラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂は、フェノール類(P)とアルデヒド類(F)をアルカリ触媒(C)の存在下反応させ、クラフトリグニン(K)および水と相溶する溶剤(S)を添加することによって得られる。
本発明において使用されるフェノール類(P)としては、例えばフェノール、クレゾール、キシレノール、ノニルフェノール、パラ-ターシャリー-ブチルフェノール、パラ-セカンダリー-ブチルフェノール、ナフトール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、ジメチルヒドロキノン、等が挙げられる。
化粧板、合板等の含浸板のバインダとして使用されるクラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂は、多段階合成を行うのが一般的で、フェノール類(P)は第一段階で添加するのが好ましい。
【0011】
アルデヒド類(F)としてはフェノール樹脂の製造に使用可能とされているアルデヒド類(F)であれば使用可能である。
例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン(メタホルムアルデヒド)などを単独もしくは2種以上混合して使用することができる。
上記アルデヒド類(F)の添加量は、アルデヒド類(F)のモル数F、をフェノール類(P)のモル数Pとすると、F/P=0.5~3.0モル、より好適には1.0~2.5モルの割合で用いるのが望ましい。
化粧板、合板等の含浸板のバインダとして使用されるフェノール樹脂は、多段階合成を行うのが一般的で、アルデヒド類(F)は第一段階で添加するのが好ましい。
【0012】
フェノール類(P)とアルデヒド類(F)とを反応させる際に用いるアルカリ金属、アルカリ土類金属、その他金属の水酸化物、アミン化合物から選択される触媒(C)としては、特に制限はなく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の塩基性触媒を適宜使用することができる。
アルカリ金属、アルカリ土類金属、その他金属の水酸化物、アミン化合物から選択される触媒(C)の添加量の添加量は、フェノール類(P)100質量部に対し1~35質量部、より好適には1.5~30質量部である。
本願のクラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂は、多段階合成を行うのが一般的で、アルカリ金属、アルカリ土類金属、その他金属の水酸化物、アミン化合物から選択される触媒(C)は、各段階で分割して投入することもできる。
【0013】
化粧板、合板等の含浸板のバインダとして使用されるフェノール樹脂のリグニンは、相溶性の観点から、クラフトリグニン(K)を使用することが望ましい。クラフトリグニン(K)とは、紙パルプ製造プロセスの化学パルプ化のパルプ廃液に含まれるリグニン成分を、アルカリ処理して得られる材料である。酸処理して得られる材料は、酸性リグニンと一般的に称される。
クラフトリグニン(K)の添加量は、フェノール類(P)100質量部に対し1~250質量部、より好適には2~200質量部である。
化粧板、合板等の含浸板のバインダとして使用されるフェノール樹脂は、多段階合成を行うのが一般的で、クラフトリグニン(K)は、どの段階でも添加することができ、分割投入することもできる。
クラフトリグニン(K)は、Stora Enso Oyj社より市販されている。
【0014】
本願の化粧板、合板等の含浸板のバインダとして使用されるクラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂は、クラフトリグニン(K)の溶解性を向上させるため、水と相溶する溶剤(S)が添加される。但し、第一段階のフェノール類(P)と、アルデヒド類(F)を反応させる際に、沸点が80℃未満の溶剤(s2)を使用すると、反応系中の温度が上昇せずに、フェノールの分子量が伸びないためか、化粧板、合板等の含浸板の性能が低下するので、添加しない方が良い。
沸点が80℃以上の水と相溶する溶剤(s1)としては、2-プロパノール、n-ブタノール等の炭素数3以上の炭化水素系アルコール類、エチレングリコール等のジオール類およびそのエーテル化合物、アセトニトリル、プロパンニトリル等のニトリル類が挙げられる。
沸点が80℃未満の水と相溶する溶剤(s2)としては、メタノール、エタノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン等の環状エーテル化合物、アセトン等のケトン類が挙げられる。
水と相溶する溶剤(S)の添加量としては、フェノール類(P)100質量部に対し5~350質量部、より好適には10~300質量部である。
尚、水と相溶する溶剤(S)とは、20℃における水への溶解性が、50g/L以上の溶剤のことを指す。
【0015】
「第一段階のフェノール類(P)と、アルデヒド類(F)を反応させる際」とは、反応を開始させた温度から、反応温度を変更するまでを指す。温度を変更しないでクラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂を作製することもできるが、その場合は全て第一段階ということに成る。
【0016】
本願の化粧板、合板等の含浸板のバインダとして使用されるクラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂は、第一段階のフェノール類(P)と、アルデヒド類(F)を反応させた後の段階は、未反応のホルムアルデヒドをトラップするため、フェノール類(P)よりもホルムアルデヒドとの反応が速い、尿素およびその誘導体、レゾルシンを添加することができる。これらの添加量としては、フェノール類(P)100質量部に対し0~40質量部、より好適には0~30質量部である。
【0017】
本願の化粧板、合板等の含浸板のバインダとして使用されるクラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂は、第一段階のフェノール類(P)と、アルデヒド類(F)を反応させる時に、その他天然物として、カシューシェルオイル、ロジン等を添加することもできる。
より好適な材料としてはカシューオイルで、その中でも蒸留、溶剤抽出などにより精製された精製カシュールオイルを用いる方が化粧板、合板等としての物性が安定しやすく好ましい。
精製カシューオイルの添加量は、フェノール類(P)100質量部に対し0~50質量部、より好適には0~40質量部である。精製カシューオイルの市販品としては、カシュー社製、製品名:CX-1000を挙げることができる。
【0018】
フェノール類(P)とアルデヒド類(F)とを反応させる方法には、特に制限はなく、例えばフェノール類(P)を全量とアルデヒド類(F)を全量、および規定量のアルカリ金属、アルカリ土類金属、その他金属の水酸化物、アミン化合物から選択される触媒(C)を一括で仕込み反応させる方法、またはフェノール類(P)を全量、規定量のアルカリ金属、アルカリ土類金属、その他金属の水酸化物、アミン化合物から選択される触媒(C)を仕込んだ後、所定の反応温度にてアルデヒド類(F)全量を添加する方法が挙げられる。
【0019】
第一段階のフェノール類(P)と、アルデヒド類(F)を反応させる際は、フェノール類(P)を全量とアルデヒド類(F)を全量、および規定量のアルカリ金属、アルカリ土類金属、その他金属の水酸化物、アミン化合物から選択される触媒(C)を添加した後、反応容器外部の設定温度を80~105℃、より好適には85~100℃の範囲で行うのが好ましい。前述の様に、沸点が80℃未満の溶剤を使用すると、反応系中の温度が上昇しきれないので、使用しない方がよい。
【0020】
第一段階のフェノール類(P)と、アルデヒド類(F)を反応させた後の段階は、追加のアルカリ金属、アルカリ土類金属、その他金属の水酸化物、アミン化合物から選択される触媒(C)、クラフトリグニン(K)、水と相溶する溶剤(S)を添加し、反応容器外部の設定温度を40~80℃、より好適に45~75℃にて反応を行うのがよい。
【0021】
化粧板、合板等の含浸板のバインダとして使用されるクラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂の製造方法は、2段階で製造されるのが一般的な製造方法である。
【0022】
<化粧板作製方法について>
化粧板に用いる繊維質基材としては、針葉樹、広葉樹の晒し、未晒しのクラフトパルプ、サルファイトパルプ、その他の木材パルプ等を単独若しくは混合して用い、抄紙されたものが挙げられる。また、無機繊維基材も使用が可能で、例えばガラス繊維、ロックウール、炭素繊維等の無機繊維からなる不織布、織布等が挙げられる。
化粧板は、
図1に示すように、化粧層とコア層からなる。コア層は、クラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂を、繊維質基材の坪量30~300g/m2のものを用い、特に100~250g/m2繊維質基材に含浸させ、100~140℃で1~10分間乾燥させたプリプレグが作製される。
化粧層に用いられる液は、アミノ-ホルムアルデヒド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を主成分とする樹脂液等がある。耐熱性、耐摩耗性の観点から、アミノ-ホルムアルデヒド樹脂を用いるのが望ましい。アミノ-ホルムアルデヒド樹脂を化粧板用の30~300g/m2の化粧紙に含浸させて、100~140℃で1~10分間乾燥させたプリプレグが作製される。
これらを重ね合わせ、平板プレス、連続プレス等のプレス機で熱圧成形することにより化粧板は得られる。
【0023】
<合板の作製方法について>
合板の5プライについて説明を行う。5枚の単板を繊維方向が1枚づつ直交するように貼り合わせて作製される。単板は上から順番に、フェイス/コア/センターコア/コア/バックと称されている。コアに、スプレッダー等にて、合板用接着剤の両面塗布が行われ、フェイス/コア/センターコア/コア/バックの順で重ねられる。それが複数組溜まると、それらを重ねて、室温におけるコールドプレスが数十分間行われる。その後、加圧、110~140℃にて数分間かけて接着される。
【0024】
以下に、本発明について実施例、比較例および試験例等を挙げてより詳細に説明するが、具体例を示すものであって、特にこれらに限定するものではない。
【0025】
【実施例0026】
<化粧板用バインダとして使用されるクラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂>
実施例1のフェノール樹脂の製造方法
フェノール100g、63%-クラフトリグニン水溶液を115g、37%-ホルムアルデヒド水溶液を138g、48%-水酸化ナトリウムを10g、2-プロパノール80gをセパラブルフラスコに秤取り、ふたと撹拌バネをセットして、マントルヒーターに設置した。マントルヒーターの設定温度を90℃に設定して、1時間撹拌を行った。二段階目として、70℃に冷却して、尿素5gを添加し、尿素を完全に溶解させた。
【0027】
実施例2~18、比較例1~4のフェノール樹脂の製造方法
表1、表2に示した割合で各材料を添加し、実施例1のフェノール樹脂の製造方法と同様の方法で、実施例2~18、比較例1~4のフェノール樹脂の製造を行った。尚、バニレックスNは、日本製紙社製の高純度部分脱スルホンリグニンスルホン酸ナトリウム、サンエキスP321は、日本製紙社製のリグニンスルホン酸マグネシウムである。
【0028】
含浸性
約300mm×300mm×0.3mm厚の坪量200g/m2繊維質基材をクラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂に浸漬し、含浸性の確認を行った。問題なく含浸紙に樹脂が浸透する場合を合格(:〇)、含浸紙に樹脂が浸透しない場合を不合格(:×)とした。結果を表4~6に示す。尚、合格したもののうち、120℃で2分間乾燥させたものは、コア層のプリプレグとなる。
【0029】
プレス時の染み出し
前記の要領にて作製したコア層プリプレグを4枚準備した。比較例3、比較例4は、含浸性で不合格と成ったので、コア層プリプレグは得られなかった。
これとは別に、アミノ-ホルムアルデヒド樹脂を約300mm×300mm×0.1mm厚の坪量120g/m2繊維質基材の化粧層用の化粧紙に含浸させて、120℃で2分間乾燥させた化粧層用のプリプレグを1枚準備した。
コア層プリプレグを4枚、化粧層用のプリプレグを1枚重ね合わせて、132℃、5.9MPa、60分間の条件で熱圧成形を行った場合、問題なく成型できた場合を合格(:〇)、端部から樹脂がはみ出した場合、化粧層表面まで樹脂が染み出した場合を不合格(:×)とした。結果を表3、表4に示す。
【0030】
耐煮沸試験
JIS K-6902に準じて、化粧板の段落0025の要領にて得られた化粧板の耐煮沸試験を行った。
重量変化率は、JIS K-6902およびJIS K-6903上は17%以下で合格と成っているが、本願では10%以下を合格、10%超過は不合格とした。
厚み変化率に関しては、JIS K-6902およびJIS K-6903上は19%以下で合格と成っているが、本願では15%以下を合格、15%超過は不合格とした。結果を表3、表4に示す。
【0031】
反り
成型直後、および24時間経過後の反りを測定した。化粧板を水平な面に置き、中心部と端部の高低差が10mm以内の場合を合格、10mm超過を不合格とした。尚反りは、化粧層側が盛り上がる場合と、化粧層側が凹む場合が有るが、表3、表4には絶対値を記入している。
【0032】
実施例1~18、比較例1~4のフェノール樹脂を用い、含浸性、プレス時の染み出し、耐煮沸試験、反り評価を行った。結果を表3、表4に示す。
【0033】
クラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂の製造方法であって、製造各段階のいずれかにおいて、水と相溶する溶剤(S)を添加する製造方法であり、第一段階のフェノール類(P)と、アルデヒド類(F)を反応させる際には80℃未満の沸点の溶剤(s2)を使用しないで製造を行った実施例1~18は、含浸性、プレス時の染み出し、耐煮沸試験、反り全て合格と成った。
【0034】
第一段階のフェノール類(P)と、アルデヒド類(F)を反応させる際に、80℃未満の沸点の溶剤(s2)であるメタノールを使用した比較例1は、耐煮沸試験の重量変化率、厚み変化率が不合格となった。クラフトリグニン(K)を使用していない比較例2は、24時間経過後の反りが不合格と成った。
高純度部分脱スルホンリグニンスルホン酸ナトリウムであるバニレックスNを使用した比較例3、リグニンスルホン酸マグネシウムであるサンエキスP321を使用した比較例4は、含浸性が不合格と成り、化粧板を作製できなかった。クラフトリグニン(K)ではなく、いわゆる酸性リグニンは、含浸性に劣ることが示された。
【0035】
<合板用バインダとして使用されるクラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂>
実施例19のフェノール樹脂の製造方法
フェノール100g、37%-ホルムアルデヒド水溶液を172.5g、48%-水酸化ナトリウムを50g、2-プロパノールを10g、水を65gセパラブルフラスコに秤取り、ふたと撹拌バネをセットして、マントルヒーターに設置した。マントルヒーターの設定温度を90℃に設定して、1時間撹拌を行った。次に、70℃に冷却して、63%-クラフトリグニン水溶液を35g添加し、クラフトリグニンが完全に溶解した時点を終点とした。
【0036】
実施例20~26、比較例5~6のフェノール樹脂の製造方法
表5に示した割合で各材料を添加し、実施例19のフェノール樹脂の製造方法と同様の方法で、実施例20~26、比較例5~6のフェノール樹脂の製造を行った。
【0037】
粘度
JIS-Z-8803に準じて、測定を行った。粘度計は、芝浦システム社製、単一円筒型回転粘度計、商品名:ビスメトロンVG-A1にて行った。また、測定条件として、No.2ローター、60rpm、60秒値、23±1℃にて測定し、当該測定値を粘度とした。適正粘度範囲は、150~350mPa・sである。
結果を表6に示す。尚、比較例5は、(※)示しているが、クラフトリグニンが溶解せず、粘度測定を行っていない。また、以下の試験も行っていない。
【0038】
pH測定
東亜ティーケーケー社製、製品名:HM-25Hを用い、pHを測定した。適正pH範囲は、10.5~12.5である。
結果を表6に示す。
【0039】
ゲル化時間
エレックス科学社製の自動ゲルタイマー、製品名:EX-790を用い、樹脂10g/ソーダ灰0.6gを予め混合、溶解させた後、試料5.0±0.1gを18mmφ×165mmの試験官に投入し、90℃におけるゲル化時間を測定した。ゲル化時間が10~22分は合格、この範囲外は不合格である。結果を表6に示す。
【0040】
不揮発分
口径65mm、底径55mm、深さ20mm、厚さ0.05mmのアルミパンに、試料約1.5gを秤量し、初期重量とした。予め105±1℃に調整した恒温層に、試料を載せたアルミパンを投入し、3時間後の乾燥重量を測定した。乾燥後重量を初期重量で除し、百分率で表した値を不揮発分とした。不揮発分が40~46%は合格、この範囲外は不合格である。結果を表6に示す。
【0041】
実施例19の組成物の作製
実施例19のフェノール樹脂を100g、水を22g、小麦粉を10g、炭酸カルシウムを23g、炭酸ナトリウムを5g、撹拌容器に秤取り、撹拌羽を装着した新東科学社製、商品名:スリーワンモーターBL600にて1~2時間撹拌を行い実施例19の組成物を得た。
【0042】
実施例20~26、比較例6の組成物の作製
実施例19の組成物の作製と同様の手順で、実施例20~26、比較例6の組成物を作製した。
【0043】
5プライ合板の作製方法
フェイス、センターコア、バックとして、1.7mm厚のカラマツを選定した。コアは、3.6mm厚の杉を選定した。フェイス/コア/センターコア/コア/バック、圧を掛けて貼り合わせた後の厚みが12mmとなる様にした。尚、これら材質の含水率は、6%以下で、各材質の面積は300mm×300mm、各材質の温度は23℃、作業環境は24℃である。
コアである杉材の両面に、0.044g/cm2となる様に実施例19~25、比較例5~6の組成物をそれぞれ塗布し、フェイス/コア/センターコア/コア/バックとなる様に重ね合わせた。0.8MPaにて20分間コールドプレスを行った。
次に、125℃に加熱した熱圧プレスに圧力が0.8MPa掛かる様に設定し、プレス時間270秒にて試験片を作製した。
尚、熱圧プレス機は、イツミ社製の垂直2段強圧プレス機、S2D-100を用いた。
【0044】
接着性試験
合板の日本農林規格の特類規格に則ってスチーミング繰返し試験を行った。試験片を室温の水中に2時間以上浸せきした後、130±3℃にて2時間スチーミングを行った。
次に、室温の流水中に1時間浸せきし、更に130±3℃にて2時間スチーミングを行った。
室温の水中に浸せきし、室温に戻ってから、ぬれたままの状態で接着力試験を行い、最大荷重及び木部破断率を測定し、せん断強さ及び平均木部破断率を算出した。この結果を基に、合格率を算出した。
判定基準は、合格率が90%以上が合格(:〇)、90%未満は不合格(:×)である。結果を表6に示す。
【0045】
クラフトリグニン(K)含有フェノール樹脂の製造方法であって、製造各段階のいずれかにおいて、水と相溶する溶剤(S)を添加する製造方法であり、第一段階のフェノール類(P)と、アルデヒド類(F)を反応させる際には80℃未満の沸点の溶剤(s2)を使用しないで製造を行った実施例19~26は、粘度、pH、ゲル化時間、不揮発分、接着性試験、全て合格と成った。
【0046】
水と相溶する溶剤(S)を使用していない比較例5は、クラフトリグニンが溶解せず、粘度測定すらも行わなかった。クラフトリグニン(K)を使用していない比較例6は、接着性試験が不合格と成った。
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】