(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147331
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】微細藻類の色素産生促進方法、色素の製造方法、及び微細藻類用色素産生促進剤
(51)【国際特許分類】
C12P 23/00 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
C12P23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048524
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 豊嗣
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 雄希
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 仁
(72)【発明者】
【氏名】河合 隆一郎
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 和貴
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AH01
4B064CA08
4B064CD05
4B064CD12
4B064CE06
4B064CE10
4B064DA01
4B064DA10
4B064DA16
(57)【要約】
【課題】微細藻類における色素の産生を促進する新規な方法を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を微細藻類に投与する工程を有する、前記微細藻類における色素の産生を促進する方法。
【化1】
(式(1)中、R
1及びR
2は、各々独立に、水素原子、又は1価の炭化水素基を示し、前記炭化水素基は、ハロゲン原子等に置換されていてもよく、X
Cは、-COOH、又は-COO
-を示し、X
Nは、-NH
2、又は-NH
3
+を示し、nは0~10の整数を示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を微細藻類に投与する工程を有する、
前記微細藻類における色素の産生を促進する方法。
【化1】
(式(1)中、
R
1、及びR
2は、各々独立に、水素原子、又は1価の炭化水素基を示し、前記炭化水素基は、ハロゲン原子、-COOR
3、-CONR
3
2、-COR
3、-CN、-NO
2、-NHCOR
3、-OR
3、-SR
3、-OCOR
3、-SO
2R
3、及び-SO
2NR
3
2からなる群より選択される少なくとも1種の基に置換されていてもよく、R
3は、各々独立に、水素原子、又は1価の脂肪族炭化水素基を示し、
X
Cは、-COOH、又は-COO
-を示し、
X
Nは、-NH
2、又は-NH
3
+を示し、
nは0~10の整数を示す。)
【請求項2】
前記色素は、カロテン類である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記微細藻類は、ヘマトコッカス属(Haematococcus)、クラミドモナス属(Chlamydomonas)、クロロモナス属(Chloromonas)、ドナリエラ属(Dunaliella)、クラミドカプサ属(Chlamydocapsa)、スピルリナ属(Spirulina)、クロレラ属(Chlorella)、アルスロスピラ属(Arthrospira)、又はユーグレナ属(Euglena)に属する微細藻類からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法により色素の産生が促進された微細藻類から、前記色素を抽出する工程を有する、色素の製造方法。
【請求項5】
下記式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、
微細藻類用の色素産生促進剤。
【化2】
(式(1)中、
R
1、及びR
2は、各々独立に、水素原子、又は1価の炭化水素基を示し、前記炭化水素基は、ハロゲン原子、-COOR
3、-CONR
3
2、-COR
3、-CN、-NO
2、-NHCOR
3、-OR
3、-SR
3、-OCOR
3、-SO
2R
3、及び-SO
2NR
3
2からなる群より選択される少なくとも1種の基に置換されていてもよく、R
3は、各々独立に、水素原子、又は1価の脂肪族炭化水素基を示し、
X
Cは、-COOH、又は-COO
-を示し、
X
Nは、-NH
2、又は-NH
3
+を示し、
nは0~10の整数を示す。)
【請求項6】
前記色素は、カロテン類である、請求項5に記載の色素産生促進剤。
【請求項7】
前記微細藻類は、ヘマトコッカス属(Haematococcus)、クラミドモナス属(Chlamydomonas)、クロロモナス属(Chloromonas)、ドナリエラ属(Dunaliella)、クラミドカプサ属(Chlamydocapsa)、スピルリナ属(Spirulina)、クロレラ属(Chlorella)、アルスロスピラ属(Arthrospira)、又はユーグレナ属(Euglena)に属する微細藻類からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項5又は6に記載の色素産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細藻類の色素産生促進方法、色素の製造方法、及び微細藻類用色素産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化粧品、食料品、及び染料等の様々な分野で色素が利用されており、種々の色素の製造方法が提案されている。その中でも、化石燃料を用いない持続可能な方法として、微細藻類等の微生物を用いて色素を製造する方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、微細藻類から赤色色素を製造するに際し、微細藻類を定常期まで培養して充分に色素を蓄積した、生きた藻体に低分子のアンモニウム塩を作用させて色素を体外分泌させることを特徴とする赤色色素の生産方法が開示されている。特許文献1によれば、そのような方法において、色素を分離精製した後の微細藻類はダメージを受けていないので再び色素生産に用いることができるとしている。
【0004】
特許文献2は、微細藻類が生産する水溶性カロテノイド結合タンパク質を開示しており、特許文献2によれば、微細藻類にストレス、特に光ストレスを付与しながら培養すると、その微細藻類が水溶性カロテノイド結合タンパク質を生産するとしている。
【0005】
特許文献3には、トレボウクシア藻綱又はヨコワミドロ目に属する種に所定の光ストレスを付与する工程を含むカロテノイドの大量生産方法が開示されている。特許文献3によれば、それらの微細藻類に、特定の環境ストレスを付与すると、微細藻類の細胞内にカロテノイドが大量に蓄積されるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-252966号公報
【特許文献2】特開2014-131992号公報
【特許文献3】国際公開第2016/104487号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように微細藻類を用いて色素を製造する様々な方法が提案されているが、未だ、微細藻類を用いた色素の新規な製造方法が求められている。
【0008】
したがって、本発明は、微細藻類における色素の産生を促進する新規な方法、色素の新規な製造方法、及び新規な微細藻類用色素産生促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、特定の化合物、及びその塩が、微細藻類における色素の産生を促進することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
下記式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を微細藻類に投与する工程を有する、
前記微細藻類における色素の産生を促進する方法。
【化1】
(式(1)中、
R
1、及びR
2は、各々独立に、水素原子、又は1価の炭化水素基を示し、前記炭化水素基は、ハロゲン原子、-COOR
3、-CONR
3
2、-COR
3、-CN、-NO
2、-NHCOR
3、-OR
3、-SR
3、-OCOR
3、-SO
2R
3、及び-SO
2NR
3
2からなる群より選択される少なくとも1種の基に置換されていてもよく、R
3は、各々独立に、水素原子、又は1価の脂肪族炭化水素基を示し、
X
Cは、-COOH、又は-COO
-を示し、
X
Nは、-NH
2、又は-NH
3
+を示し、
nは0~10の整数を示す。)
[2]
前記色素は、カロテン類である、[1]に記載の方法。
[3]
前記微細藻類は、ヘマトコッカス属(Haematococcus)、クラミドモナス属(Chlamydomonas)、クロロモナス属(Chloromonas)、ドナリエラ属(Dunaliella)、クラミドカプサ属(Chlamydocapsa)、スピルリナ属(Spirulina)、クロレラ属(Chlorella)、アルスロスピラ属(Arthrospira)、又はユーグレナ属(Euglena)に属する微細藻類からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
[1]~[3]のいずれか1つに記載の方法により色素の産生が促進された微細藻類から、前記色素を抽出する工程を有する、色素の製造方法。
[5]
下記式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、
微細藻類用の色素産生促進剤。
【化2】
(式(1)中、
R
1、及びR
2は、各々独立に、水素原子、又は1価の炭化水素基を示し、前記炭化水素基は、ハロゲン原子、-COOR
3、-CONR
3
2、-COR
3、-CN、-NO
2、-NHCOR
3、-OR
3、-SR
3、-OCOR
3、-SO
2R
3、及び-SO
2NR
3
2からなる群より選択される少なくとも1種の基に置換されていてもよく、R
3は、各々独立に、水素原子、又は1価の脂肪族炭化水素基を示し、
X
Cは、-COOH、又は-COO
-を示し、
X
Nは、-NH
2、又は-NH
3
+を示し、
nは0~10の整数を示す。)
[6]
前記色素は、カロテン類である、[5]に記載の色素産生促進剤。
[7]
前記微細藻類は、ヘマトコッカス属(Haematococcus)、クラミドモナス属(Chlamydomonas)、クロロモナス属(Chloromonas)、ドナリエラ属(Dunaliella)、クラミドカプサ属(Chlamydocapsa)、スピルリナ属(Spirulina)、クロレラ属(Chlorella)、アルスロスピラ属(Arthrospira)、又はユーグレナ属(Euglena)に属する微細藻類からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[5]又は[6]に記載の色素産生促進剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微細藻類における色素の産生を促進する新規な方法、及び新規な色素産生促進剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0013】
[色素産生促進方法]
本実施形態の微細藻類における色素の産生を促進する方法は、下記式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を微細藻類に投与する工程を有する。
【0014】
【化3】
ここで、式(1)中、R
1及びR
2は、各々独立に、水素原子、又は1価の炭化水素基を示し、かかる炭化水素基は、ハロゲン原子、-COOR
3、-CONR
3
2、-COR
3、-CN、-NO
2、-NHCOR
3、-OR
3、-SR
3、-OCOR
3、-SO
2R
3、及び-SO
2NR
3
2からなる群より選択される少なくとも1種の基に置換されていてもよく、R
3は、各々独立に、水素原子、又は1価の脂肪族炭化水素基を示し、X
Cは、-COOH、又は-COO
-を示し、X
Nは、-NH
2、又は-NH
3
+を示し、nは0~10の整数を示す。
【0015】
本発明者らは、上記式(1)で表される化合物、及びその塩(以下、これらを総称して、「本化合物等」ともいう。)からなる群より選択される少なくとも1種を微細藻類に投与すると、その微細藻類内において、色素の産生が促進され、その結果、当該微細藻類における色素の含有量又は濃度が増加することを見出した。
上記の特許文献2及び3に記載のように、微細藻類に何らかのショックを与えると、その微細藻類において色素の産生が促進されることが報告されている。したがって、本発明者らは、本化合物等の投与により微細藻類に何らかのストレスが生じるため、微細藻類において色素の産生が促進されると推察している。より具体的には、本化合物等の投与が、微細藻類の活動フェーズを増殖期から定常期へ移行させること、及び/又は微細藻類の細胞増殖に使われていたエネルギーがカロテノイド産生に対して優先的に使われるようになることのトリガーになっていると考えられる。ただし、その要因は上記のものに限られない。
【0016】
本明細書中、「微細藻類における色素の産生を促進する」とは、通常では色素が検出されない微細藻類に検出可能な程度の濃度又は含有量の色素を産生させること、微細藻類における色素の濃度又は含有量を上昇させること、並びに、本実施形態の方法を適用しない場合と比較して微細藻類における色素の濃度又は含有量が特定の値に到達するまでの時間を短縮することの全てを包含する。
【0017】
(化合物)
上記式(1)中、R1、及びR2は、各々独立に、水素原子、又は1価の炭化水素基を示し、かかる炭化水素基は、ハロゲン原子、-COOR3、-CONR3
2、-COR3、-CN、-NO2、-NHCOR3、-OR3、-SR3、-OCOR3、-SO2R3、及び-SO2NR3
2からなる群より選択される少なくとも1種の基に置換されていてもよく、R3は、各々独立に、水素原子、又は1価の脂肪族炭化水素基を示し、XCは、-COOH、又は-COO-を示し、XNは、-NH2、又は-NH3
+を示す。
【0018】
XCは、-COOH、及び-COO-から、XNは、-NH2、及び-NH3
+から各々独立に選択される。XC、及びXNの好ましい組み合わせは、XCが-COOHであり、XNが-NH2である場合、及びXCが-COO-であり、XNが-NH3
+である場合である。XC、及びXNの好ましい態様は、本化合物等の存在する環境により異なり、特に環境のpHに依存する。
【0019】
R1、及びR2における1価の炭化水素基には、1価の脂肪族炭化水素基、1価の脂環式炭化水素基、及び1価の芳香族炭化水素基、並びに、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及び芳香族炭化水素基のうち少なくとも2種の基が単結合を介して結合した1価の基が含まれる。
【0020】
R1、及びR2における1価の脂肪族炭化水素基の炭素数としては、1以上20以下が好ましく、1以上10以下がより好ましく、1以上3以下が更に好ましい。1価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基、及びドデシル基のようなアルキル基;ビニル基、アリル基、及び1-ブテニル基のようなアルケニル基;並びに、エチニル基、及びプロピニル基のようなアルキニル基が挙げられる。
【0021】
R1、及びR2における1価の脂環式炭化水素基の炭素数としては、3以上15以下が好ましく、4以上10以下がより好ましく、5以上8以下が更に好ましい。1価の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、及びシクロオクチル基のようなシクロアルキル基;シクロペンテニル基、及びシクロへキセニル基のようなシクロアルケニル基;並びに、パーヒドロナフタレン-1-イル基、ノルボルニル基、アダマンチル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン-8-イル基、及びテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン-3-イル基のような橋かけ環式炭化水素基が挙げられる。
【0022】
R1、及びR2における1価の芳香族炭化水素基の炭素数としては、6以上14以下が好ましく、6以上10以下がより好ましい。1価の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、及びナフチル基が挙げられる。
【0023】
R1、及びR2における脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及び芳香族炭化水素基のうち少なくとも2種の基が単結合を介して結合した1価の基としては、上記の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、又は芳香族炭化水素基において、水素原子が上記の脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、及び芳香族炭化水素基の少なくとも1種に置換された基が挙げられる。すなわち、脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基とが結合した1価の基としては、水素原子が上記の1価の脂環式炭化水素基に置換された上記の1価の脂肪族炭化水素基、及び水素原子が上記の1価の脂肪族炭化水素基に置換された上記の1価の脂環式炭化水素基が挙げられる。水素原子が上記の1価の脂環式炭化水素基に置換された上記の1価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、及び2-シクロヘキシルエチル基のようなシクロアルキル置換アルキル基が挙げられる。脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが結合した基としては、水素原子が上記の1価の芳香族炭化水素基に置換された上記の1価の脂肪族炭化水素基であるアラルキル基、及び水素原子が上記の1価の脂肪族炭化水素基に置換された上記の1価の芳香族炭化水素基である脂肪族炭化水素置換アリール基が挙げられる。
【0024】
R1、及びR2における1価の炭化水素基としては、1価の脂肪族炭化水素基、及び1価の芳香族炭化水素基が好ましく、水素原子が1価の脂肪族炭化水素基に置換された1価の芳香族炭化水素基、及び水素原子が1価の脂肪族炭化水素基に置換された1価の脂環式炭化水素基も好ましい。その中でも、R1、及びR2における1価の炭化水素基としては、1価の脂肪族炭化水素基、及びアルキル置換アリール基(芳香族環の水素原子の1つ以上をアルキル基に置換したものから水素原子を1つ取り除いた1価の基)がより好ましい。
【0025】
R3における1価の脂肪族炭化水素基の炭素数としては、1以上20以下が好ましく、1以上10以下がより好ましく、1以上3以下が更に好ましい。R3における1価の脂肪族炭化水素基の例示は、R1、及びR2における1価の脂肪族炭化水素基として例示したものと同じである。
【0026】
R3における1価の脂肪族炭化水素基は、無置換であることが好ましいが、置換基を有していてもよい。そのような置換基としては、例えば、ハロゲン原子、カルボニル基、ヒドロキシ基、置換オキシ基(例えば、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数6~10のアリールオキシ基、炭素数7~16のアラルキルオキシ基、及び炭素数1~4のアシルオキシ基等)、カルボキシ基、置換オキシカルボニル基(例えば、炭素数1~4のアルコキシカルボニル基、炭素数6~10のアリールオキシカルボニル基、及び炭素数7~16のアラルキルオキシカルボニル基等)、置換又は無置換のカルバモイル基(例えば、カルバモイル、メチルカルバモイル等の炭素数1~4のアルキル置換カルバモイル、及びフェニルカルバモイル基等の炭素数6~10のアリール置換カルバモイル基)、シアノ基、ニトロ基、置換又は無置換のアミノ基(例えば、無置換のアミノ基;メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、及びジエチルアミノ基等の炭素数1~4のモノ又はジアルキルアミノ基;1-ピロリジニル、ピペリジノ、及びモルホリノ基等の5~8員の環状アミノ基;アセチルアミノ、プロピオニルアミノ、及びベンゾイルアミノ基等の炭素数1~10のアシルアミノ基;ベンゼンスルホニルアミノ、及びp-トルエンスルホニルアミノ基等のスルホニルアミノ基)、スルホ基、及び1価の複素環式基等が挙げられる。また、上記のヒドロキシ基やカルボキシ基は有機合成の分野で慣用の保護基で保護されていてもよい。
【0027】
R3における1価の脂肪族炭化水素基の置換基としての複素環式基に含まれる複素環には、芳香族性複素環及び非芳香族性複素環が含まれる。このような複素環としては、環を構成する原子に炭素原子と少なくとも1種のヘテロ原子(例えば、酸素原子、硫黄原子、及び窒素原子)を有する3~10員環、及びこれらの縮合環を挙げることができる。上記複素環は、好ましくは4~6員環である。複素環としては、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環(例えば、オキシラン環等の3員環;オキセタン環等の4員環;フラン環、テトラヒドロフラン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、及びγ-ブチロラクトン環等の5員環;4-オキソ-4H-ピラン環、テトラヒドロピラン環、及びモルホリン環等の6員環;ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、4-オキソ-4H-クロメン環、クロマン環、及びイソクロマン環等の縮合環;並びに、3-オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン-2-オン環、及び3-オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン-2-オン環等の橋かけ環)、ヘテロ原子として硫黄原子を含む複素環(例えば、チオフェン環、チアゾール環、イソチアゾール環、及びチアジアゾール環等の5員環;4-オキソ-4H-チオピラン環等の6員環;並びに、ベンゾチオフェン環等の縮合環等)、並びに、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環(例えば、ピロール環、ピロリジン環、ピラゾール環、イミダゾール環、及びトリアゾール環等の5員環;イソシアヌル環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペリジン環、及びピペラジン環等の6員環;並びに、インドール環、インドリン環、キノリン環、アクリジン環、ナフチリジン環、キナゾリン環、及びプリン環等の縮合環等)が挙げられる。なお、1価の複素環式基とは、上記の複素環から1個の水素原子を除いた基を意味する。
【0028】
R1、及びR2における1価の炭化水素基が、-COOR3、-CONR3
2、-COR3、-NHCOR3、-OR3、-SR3、-OCOR3、-SO2R3、及び-SO2NR3
2からなる群より選択される少なくとも1種の基に置換されている場合、R3が当該1価の炭化水素基と互いに結合することにより、環を形成していてもよい。
【0029】
R1、及びR2における1価の炭化水素基が置換基により置換されている場合、置換基としては、ハロゲン原子、-COOR3、-CONR3
2、-COR3、-NHCOR3、-OR3、及び-OCOR3が好ましく、-COOR3、-CONR3
2、及び-OR3がより好ましく、-COOR3が更に好ましく、-COOHが特に好ましい。
【0030】
R1、及びR2は、各々独立に、水素原子、及び上述した1価の炭化水素基から選択される。R1、及びR2の組み合わせは特に限定されないが、-OR1、及び-OR2の組み合わせとしては、下記の(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)又は(vi)の組み合わせが好ましい。特に、上記式(1)中、後述するnが0以上2以下の場合は、下記の(i)、(ii)、(iii)、(iv)又は(v)の組み合わせが好ましく、下記の(iii)又は(v)の組み合わせがより好ましい。nが3以上の場合は、下記の(vi)の組み合わせが好ましい。
【0031】
(i)-OR
4で表される基(R
4は置換基を有していてもよい1価の芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい1価の複素環式基を示す。)と下記式(i-1)で表される基との組み合わせ
【化4】
ここで、式(i-1)中、R
5、R
6、及びR
7は、各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよい1価の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい1価の芳香族炭化水素基、ハロゲン原子、-COOR
8、-CONR
8
2、-COR
8、-OCOR
8、-CF
3、-CN、-SR
8、-SOR
8、-SO
2R
8、-SO
2NR
8
2、及び-NO
2からなる群より選択される基を示す。R
8は、各々独立に、水素原子、アルキル基、及びアルケニル基からなる群より選択される基を示す。R
5、R
6、及びR
7から選択される2つの基は互いに結合して、環を形成していてもよい。
【0032】
R4、R5、R6、及びR7における1価の芳香族炭化水素基、1価の複素環式基、及び1価の脂肪族炭化水素基の例示は、R1、R2、又はR3において1価の芳香族炭化水素基、1価の複素環式基、及び1価の脂肪族炭化水素基として例示したものと同じである。また、R4、R5、R6、及びR7における1価の芳香族炭化水素基、1価の複素環式基、及び1価の脂肪族炭化水素基が有していてもよい置換基の例示は、R3において脂肪族炭化水素基が有していてもよい置換基として例示したものと同じである。R8におけるアルキル基、及びアルケニル基の例示は、R1、及びR2においてアルキル基、及びアルケニル基として例示したものと同じである。
【0033】
(ii)下記式(ii-1)で表される基と下記式(ii-2)で表される基との組み合わせ
【化5】
ここで、式(ii-1)中、R
9は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を示し、R
10は水素原子又は下記式(ii-1-1)で表される基である。
【化6】
ここで、式(ii-1-1)中、R
11は水素原子、メチル基、又はエチル基を示し、n1は0以上4以下の整数であり、n2は0又は1であり、n3は0以上4以下の整数である。n1、n2及びn3から選択される2以上は、同一であっても異なっていてもよい。X
1はアミド結合又はアルケニレン基を示し、X
2は-COOR
3、-CONR
3
2、-COR
3、-CN、-NO
2、-NHCOR
3、-OR
3、-SR
3、-OCOR
3、-SO
2R
3、及び-SO
2NR
3
2からなる群より選択される基を示す。ただし、R
3は上記と同義である。
【化7】
ここで、式(ii-2)中、Z
1は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、ハロゲン原子、-COOR
8、-CONR
8
2、-COR
8、-OCOR
8、-CF
3、-CN、-SR
8、-SOR
8、-SO
2R
8、-SO
2NR
8
2、及び-NO
2からなる群より選択される基を示す。ただし、R
8は上記と同義である。Z
2は水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、-COOR
3、-CONR
3
2、-COR
3、-CN、-NO
2、-NHCOR
3、-OR
3、-SR
3、-OCOR
3、-SO
2R
3、及び-SO
2NR
3
2からなる群より選択される基を示す。ただし、R
3は上記と同義である。Z
1とZ
2は互いに結合して、環を形成していてもよい。
【0034】
R9におけるアルキル基、及びアリール基の例示は、R1、及びR2においてアルキル基、及びアリール基として例示したものと同じであり、Z1、及びZ2におけるアルキル基、及びアルケニル基の例示は、R1、及びR2においてアルキル基、及びアルケニル基として例示したものと同じである。R9、及びZ2が有していてもよい置換基の例示は、R3において脂肪族炭化水素基が有していてもよい置換基として例示したものと同じである。
【0035】
X1におけるアルケニレン基としては、R1、及びR2においてアルケニル基として例示したものから、更に水素原子を1つ取り除いた2価の基が挙げられる。Z1におけるアルコキシ基、及びアルケニルオキシ基としては、R1、及びR2においてアルキル基、及びアルケニル基として例示したものに由来するアルコキシ基、及びアルケニルオキシ基が挙げられる。例えば、メチル基に由来するアルコキシ基とは、メトキシ基を意味し、ビニル基に由来するアルケニルオキシ基とは、ビニルオキシ基を意味する(以下同様。)。
【0036】
(iii)置換基を有していてもよいアルコキシ基と下記式(iii-1)、(iii-2)、(iii-3)及び(iii-4)(以下、「式(iii-1)~(iii-4)」と表記する。)で表される基から選択される基との組み合わせ(中でも、置換基を有していてもよいアルコキシ基と下記式(iii-1)で表される基との組み合わせが好ましい。)
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
ここで、式(iii-1)~(iii-4)中、Z
1、及びZ
2は上記と同義である。Z
1とZ
2は互いに結合して、環を形成していてもよい。式(iii-3)及び(iii-4)中、R
12は水素原子、メチル基、又はエチル基を示す。
【0037】
置換基を有していてもよいアルコキシ基としては、R1、及びR2においてアルキル基、及びアルケニル基として例示したものに由来するアルコキシ基、及びアルケニルオキシ基が挙げられる。また、かかるアルコキシ基が有していてもよい置換基の例示は、R3において脂肪族炭化水素基が有していてもよい置換基として例示したものと同じである。置換基を有していてもよいアルコキシ基は、好ましくは置換基を有していないものであり、アルコキシ基が置換されていない場合、好ましい炭素数は1~3である。すなわち、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、及びプロピルオキシ基が好ましい。
【0038】
式(iii-1)~(iii-4)中、Z1は水素原子、-COOR8、-CONR8
2-SO2R8、又は-SO2NR8
2であることが好ましく、水素原子、又は-COOR8であることがより好ましく、水素原子であることが更に好ましい。式(iii-1)~(iii-4)中、Z2は置換基を有していてもよい炭素数1~5のアルキル基であることが好ましく、置換基を有する炭素数1~5のアルキル基であることがより好ましい。この場合の置換基としては、ハロゲン原子、-COOR3、-CONR3
2、-COR3、-NHCOR3、-OR3、及び-OCOR3が好ましく、-COOR3、-CONR3
2、及び-OR3がより好ましく、-COOR3が更に好ましく、-COOHが特に好ましい。中でも、式(iii-1)~(iii-4)中、Z2は1つ又は2つの-COOHに置換されたメチル基、エチル基、又はプロピル基であると好ましい。
【0039】
(iv)-OR
1と-OR
2が、同一又は異なって、下記式(iv-1)で表される基である組み合わせ
【化12】
ここで、式(iv-1)中、Z
1、及びZ
2は上記と同義である。Z
1とZ
2は互いに結合して、環を形成していてもよい。
【0040】
(v)-OR1及び-OR2がいずれもヒドロキシ基である組み合わせ
【0041】
(vi)ヒドロキシ基と置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素オキシ基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基)との組み合わせ
【0042】
(vi)の組み合わせにおける脂肪族炭化水素オキシ基を構成する脂肪族炭化水素基の例示は、R1、及びR2において脂肪族炭化水素基として例示したものと同じである。
【0043】
R1、及びR2のより好ましい態様の一例としては、R1、及びR2が、各々独立に、水素原子、炭素数が1以上3以下の無置換のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、トリル基、及びカルボキシメチル基置換フェニル基である場合が挙げられる。R1、及びR2の更に好ましい例としては、各々独立に、水素原子、炭素数が1以上3以下の無置換のアルキル基、及びカルボキシメチル基置換フェニル基が挙げられる。上記のトリル基としては、o-トリル基、m-トリル基、及びp-トリル基のいずれも好ましいが、m-トリル基が一層好ましい。上記のカルボキシメチル基置換フェニル基としては、2-カルボキシメチルフェニル基、3-カルボキシメチルフェニル基、及び4-カルボキシメチルフェニル基のいずれも好ましいが、3-カルボキシメチルフェニル基が一層好ましい。
【0044】
R1とR2との組み合わせは、水素原子と水素原子との組み合わせであってもよく、水素原子と炭素数が1以上3以下の無置換のアルキル基との組み合わせであってもよく、炭素数が1以上3以下の無置換のアルキル基と炭素数が1以上3以下の無置換のアルキル基との組み合わせであってもよく、水素原子とカルボキシメチル基置換フェニル基との組み合わせであってもよく、炭素数が1以上3以下の無置換のアルキル基とカルボキシメチル基置換フェニル基との組み合わせであってもよく、カルボキシメチル基置換フェニル基とカルボキシメチル基置換フェニル基との組み合わせであってもよい。
【0045】
上記式(1)中、nは0以上10以下の整数を示す。nは、好ましくは1以上9以下であり、より好ましくは2以上8以下であり、更に好ましくは2以上6以下であり、更により好ましくは2以上4以下であり、特に好ましくは2である。
【0046】
上記式(1)で表される化合物の具体例としては、下記の式(2)、(3)、(4)、(5)、又は(6)で表される化合物(光学異性体を含む)、特に下記の式(4)、(5)、又は(6)で表される化合物(光学異性体を含む)が挙げられるが、これらに限定されない。また、下記式(2)、(3)、(4)、(5)、又は(6)で表される化合物は、いずれも、そのアミノ基及び/又はカルボキシ基がプロトン化されている態様であってもよく、脱プロトン化されている態様であってもよい。
【0047】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【0048】
上記式(1)で表される化合物は塩を形成していてもよい。上記式(1)で表される化合物の塩としては、例えば、ナトリウム塩、及びカリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩、及びバリウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニアとの塩;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、キノリン、ピペリジン、イミダゾール、ピコリン、ジメチルアミノピリジン、N,N-ジメチルアニリン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、ジエチルアミン、シクロヘキシルアミン、プロカイン、ジベンジルアミン、N-ベンジル-β-フェネチルアミン、1-エフェナミン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、及びN-メチル-D-グルカミン等の含窒素有機塩基との塩;リジン、アルギニン、及びオルニチン等の塩基性アミノ酸との塩;遷移金属塩;塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、及びホウ酸等の無機酸との塩;並びに、シュウ酸、酢酸、及びp-トルエンスルホン酸等の有機酸との塩等が挙げられる。
【0049】
上記式(1)で表される化合物は、従来公知の種々の方法により製造することができる。具体的な製造方法は、国際公開第2007/066705号、及び特開2017-100993号公報を参照することができる。
【0050】
式(1)で表される化合物の塩は、上記方法で得られた式(1)で表される化合物に、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、及び水酸化バリウム等の塩基性化合物;アンモニア;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、キノリン、ピペリジン、イミダゾール、ピコリン、ジメチルアミノピリジン、N,N-ジメチルアニリン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、ジエチルアミン、シクロヘキシルアミン、プロカイン、ジベンジルアミン、N-ベンジル-β-フェネチルアミン、1-エフェナミン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、及びN-メチル-D-グルカミン等の含窒素有機塩基;リジン、アルギニン、及びオルニチン等の塩基性アミノ酸;塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、及びホウ酸等の無機酸;並びに、シュウ酸、酢酸、及びp-トルエンスルホン酸等の有機酸等を反応させることにより製造することができる。
【0051】
(色素)
本実施形態の方法は、上記した本化合物等を微細藻類に投与することにより、微細藻類における色素の産生を促進する。
本実施形態における色素は、微細藻類が産生し得る色素であれば特に限定されず、例えば、天然色素である。色素が呈色する色は特に限定されず、例えば、赤色、青色、緑色、黄色、又は紫色であってもよく、これらを混合させた色であってもよい。本実施形態の色素は、好ましくは赤色又は黄色を呈するものである。色素の例としては、例えば、カロテノイド、フラボノイド、及びポルフィリン骨格を有する色素、並びにこれらの化合物とタンパク質との結合体等が挙げられる。本実施形態の色素は、好ましくはカロテノイド又はカロテノイドとタンパク質との結合体であり、より好ましくはカロテノイドである。カロテノイドと結合するタンパク質としては、例えば糖タンパク質が挙げられる。
【0052】
カロテノイドは、天然色素の一種であり、化学式C40H56を基本骨格とする、水不溶性のテトラテルペンの総称である。カロテノイドは、種々の色を呈し、例えば、茶色、赤色、橙赤色、橙色、橙黄色、黄色、淡黄色(レモン色)、黄緑色、又は萌葱色を呈する。
カロテノイドは、更に、分子中に酸素を含まないカロテン類と、分子中に酸素を含むキサントフィル類に大別される。カロテン類としては、例えば、リコペン、α-カロテン、β-カロテン、γ-カロテン、δ-カロテン、及びε-カロテンが挙げられる。キサントフィル類としては、例えば、アンテラキサンチン、フコキサンチン、カプサンチン、アスタキサンチン、カンタキサンチン、ビオラキサンチン、ゼアキサンチン、ルテイン、ネオキサンチン、及びβ-クロプトキサンチンが挙げられる。
【0053】
本実施形態の色素としては、カロテノイドの中でも、カロテン類がより好ましく、β-カロテンが更に好ましい。カロテン類は、可食な色素であり、食料品用色素として用いることができるだけでなく、人体に取り入れるとビタミン等の有用成分に分解されることが知られている。例えば、α-カロテン、β-カロテン、及びγ-カロテン等は、動物体内において、ビタミンA(レチノイド)に分解されることが知られており、特にβ-カロテンは、栄養摂取を補助するサプリメントとしても販売されている。
【0054】
(微細藻類の種類)
本実施形態の微細藻類における色素の産生を促進する方法を適用する微細藻類は、特に限定されず、種々の微細藻類に適用することができる。
本明細書において、「微細藻類」とは、藻類(酸素発生型光合成をする生物)の中でも、微生物に該当するものを意味し、この定義に該当する限り、真正細菌、真核単細胞生物、又は真核多細胞生物のいずれであってもよい。
【0055】
真正細菌である微細藻類としては、ラン藻(シアノバクテリア)類、すなわちシアノバクテリア門に属するものが挙げられる。より具体的には、スピルリナ属(Spirulina)、又はアルスロスピラ属(Arthrospira)に属するものが挙げられる。
真核生物である微細藻類としては、例えば、ヘマトコッカス属(Haematococcus)、クラミドモナス属(Chlamydomonas)、クロロモナス属(Chloromonas)、ドナリエラ属(Dunaliella)、クラミドカプサ属(Chlamydocapsa)、シゾキトリウム属(Schizochytrium)、スラウストキトリウム属(Thraustochytrium)、オドンテラ属(Odontella)、フェオダクチラム属(Phaeodactylum)、ナンノクロリス属(Nannochloris)、クリプテコディニウム属(Crypthecodinium)、モノダス属(Monodus)、ナンノクロロプシス属(Nannochloropsis)、イソクリシス属(Isochrysis)、シクロテラ属(Cyclotella)、ニッチア属(Nitzschia)、オーランチオキトリウム属(Aurantiochytrium)、セネデスムス属(Scenedesmus)、テトラセルミス属(Tetraselmis)、クロレラ属(Chlorella)、又はユーグレナ属(Euglena)に属するものが挙げられる。
【0056】
本実施形態の方法を適用する微細藻類としては、ヘマトコッカス属(Haematococcus)、クラミドモナス属(Chlamydomonas)、クロロモナス属(Chloromonas)、ドナリエラ属(Dunaliella)、クラミドカプサ属(Chlamydocapsa)、スピルリナ属(Spirulina)、クロレラ属(Chlorella)、アルスロスピラ属(Arthrospira)、又はユーグレナ属(Euglena)に属する微細藻類が好ましく、中でも、クロレラ属(Chlorella)、アルスロスピラ属(Arthrospira)、又はユーグレナ属(Euglena)に属する微細藻類が好ましい。
【0057】
本実施形態の方法を適用する微細藻類の好ましい種としては、アルスロスピラプラテンシス(Arthrospira platensis)、クロレラバルガリス(Chlorella vulgaris)、及びユーグレナグラシリス(euglena gracilis)が挙げられる。より多くの色素を製造する観点からは、通常色素を産生する微細藻類が好ましく、特に、通常β-カロテンを産生する微細藻類がより好ましい。なお、「通常色素を産生する」とは、本実施形態の方法を適用しない場合でも所定の培養条件において色素を産生することを意味する。
【0058】
本明細書に記載の微細藻類は、環境から単離することにより入手してもよいし、微細藻類を保存している機関から分譲により入手してもよい。本明細書に記載の微細藻類は、例えば、国立環境研究所微生物系統保存施設(NIESコレクション)から入手することができる。
【0059】
なお、本実施形態の方法を適用する微細藻類としては、天然の微細藻類に限定されず、変異体、又は形質転換された組換え微細藻類であってもよい。そのような組換え微細藻類としては、色素産生効率の増大に関与する遺伝子が導入されたものが挙げられる。簡便に微細藻類における色素産生促進を実現する観点からは、本実施形態の方法を適用する微細藻類としては、天然の微細藻類や微生物保存機関から入手したままの微細藻類が好ましい。
【0060】
(微細藻類の培養)
本実施形態の微細藻類における色素産生促進方法は、上記式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を微細藻類に投与する工程を有するが、当該工程の前又は後に、当該微細藻類を培養する工程を有していてもよい。本実施形態の微細藻類における色素産生促進方法は、微細藻類を培養しながら、本化合物等を投与する工程を有していてもよい。
【0061】
培養工程で用いる培地としては、用いる微細藻類の種類によって適宜従来公知の培地を選択すればよく、固体培地であってもよく、液体培地であってもよい。例えば、アルスロスピラ属微細藻類には実施例に記載のSOT培地を、クロレラ属微細藻類には実施例に記載のC培地を、ユーグレナ属微細藻類には実施例に記載のHUT培地を、それぞれ用いることが好ましい。
【0062】
培養条件についても、用いる微細藻類の種類によって適宜調整すればよい。
培養温度は、例えば、10℃以上40℃以下であってもよいが、好ましくは15℃以上30℃以下である。培養時間は、培養条件によって異なるが、通常1~30日間、あるいは3~70日間であり、連続培養などを用いる場合はさらに長期間の培養をしてもよい。培地のpHは、例えば、6以上8以下である。
【0063】
培養方法としては、特に限定されず、試験管振とう培養、ジャーファーメンテーション、及びタンク培養等が挙げられる。
【0064】
培養工程は、連続的又は断続的に、微細藻類に光を照射しながら行ってもよい。光照射の条件としては、例えば、20μmol photons/(m2・sec)以上60μmol photons/(m2・sec)以下の光強度、10時間/日以上18時間/日以下の条件であってもよい。
【0065】
(化合物の投与方法)
本実施形態の微細藻類における色素産生促進方法は、上記式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を微細藻類に投与する工程を有する。本化合物等の投与方法は、特に限定されないが、例えば、微細藻類が含まれる培地中に本化合物等を直接添加する方法、及び微細藻類が含まれる培地中に本化合物等を含む溶液を添加する方法が挙げられる。また、本化合物等を培地に添加後、培地を均一に撹拌してもよい。
【0066】
本化合物等を含む溶液を培地に添加する方法において、添加する溶液は、本化合物等及び溶媒(好ましくは水である。)以外に、微細藻類が接触及び/又は吸収することが許容可能なその他の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、培地に含まれる成分、及びpH調整剤(特に、水酸化ナトリウム等の塩基性のものが挙げられる。)等が挙げられる。
【0067】
添加する溶液中の上記式(1)で表される化合物、及びその塩の含有量の合計(以下、「本化合物等の含有量」という。)は特に限定されないが、溶液全体に対して、好ましくは0.05質量%以上10.0質量%以下であり、より好ましくは0.3質量%以上5.0質量%以下であり、更に好ましくは0.5質量%以上2.0質量%以下である。
【0068】
本化合物等の投与量としては、本化合物等を投与した後の培地中における本化合物等の含有量が0.01質量%以上5.0質量%以下になるような量であると好ましい。本化合物等を投与した後の培地中における本化合物等の含有量は、より好ましくは0.03質量%以上1.0質量%以下であり、更に好ましくは0.05質量%以上0.5質量%以下である。
【0069】
本化合物等の投与の間隔、及び投与する期間は、特に限定されない。投与の間隔は、1時間以下の間隔であってもよく、1日以下の間隔であってもよく、3日以下の間隔であってもよく、あるいは、1週間以下、1か月以下、2か月以下、又は3か月以下の間隔であってもよい。ただし、各投与においては、培地中における本化合物等の含有量が上記の範囲となるように、本化合物の投与量を適宜調整することが好ましい。
投与する期間は、1日以下であってもよく、3日以下であってもよく、1週間以下であってもよく、1か月以下であってもよく、1年以下であってもよいし、あるいは、1日以上であってもよく、3日以上であってもよく、1週間以上であってもよく、1か月以上であってもよい。
【0070】
本実施形態の微細藻類における色素産生促進方法は、本化合物等の含有量が0.01質量%以上5.0質量%以下、好ましくは0.03質量%以上1.0質量%以下、より好ましくは0.05質量%以上0.5質量%以下の範囲となるように調整された培地中において、3日以上70日以下の間、好ましくは5日以上60日以下の間、微細藻類を培養する工程を含む方法であってもよい。上記培養工程において、例えばユーグレナ属の微細藻類を培養する場合は、3日以上20日以下、又は5日以上14日以下の培養期間であってもよく、クロレラ属の微細藻類を培養する場合は、30日以上70日以下、又は40日以上60日以下の培養期間であってもよく、アルスロスピラ属の微細藻類を培養する場合は、15日以上50日以下、又は20日以上40日以下の培養期間であってもよい。
【0071】
[色素の製造方法]
本実施形態の色素の製造方法は、上記の本実施形態の色素産生促進方法により色素の産生が促進された微細藻類から、色素を抽出する工程を有する。
すなわち、本実施形態の色素の製造方法は、上記式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を微細藻類に投与する工程と、色素を産生した当該微細藻類から色素を抽出する工程とを有している。本実施形態の色素の製造方法は、本化合物等を投与する工程の前又は後であって、微細藻類から色素を抽出する工程の前に、微細藻類を培養する工程を有していてもよい。
【0072】
微細藻類から色素を抽出する方法としては、一般的に知られている任意の方法を用いることができる。例えば、微細藻類を含む培養液から微細藻類を遠心分離し、得られた微細藻類を破砕、フィルタリングすることにより色素を抽出することができる。あるいは、中和反応、濃縮操作、及び塩析操作等を組み合わせて抽出してもよい。微細藻類を破砕する方法としては、細胞破砕用ビーズを用いた破砕、激しい撹拌による破砕、超音波破砕、凍結融解法による破砕、及び浸透圧を利用した破砕等が挙げられる。
【0073】
本実施形態の色素の製造方法は、色素を微細藻類から抽出する工程の後に、色素を精製する工程を有していてもよい。色素の精製方法としては、クロマトグラフィーによる精製、蒸留による精製、及び溶解度の差を利用した精製等が挙げられる。
【0074】
(色素の用途)
微細藻類から抽出、単離された色素は、従来公知の分野で利用することができる。本実施形態の方法により得られる色素は、化学合成されたものではなく、生物に由来するものであるので、健康被害をもたらす不純物はほとんど含まれていない傾向にある。したがって、例えば、食料品用色素、化粧品色素、及び養殖魚の色付けに用いられる色素等として好適に用いることができる。
【0075】
得られた色素がカロテン類である場合、栄養摂取を補助するサプリメントとして用いることもできる。
【0076】
[微細藻類用色素産生促進剤]
本実施形態の微細藻類用の色素産生促進剤は、下記式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する。
【0077】
【化18】
ここで、式(1)中、R
1、及びR
2は、各々独立に、水素原子、又は1価の炭化水素基を示し、かかる炭化水素基は、ハロゲン原子、-COOR
3、-CONR
3
2、-COR
3、-CN、-NO
2、-NHCOR
3、-OR
3、-SR
3、-OCOR
3、-SO
2R
3、及び-SO
2NR
3
2からなる群より選択される少なくとも1種の基に置換されていてもよく、R
3は、各々独立に、水素原子、又は1価の脂肪族炭化水素基を示し、X
Cは、-COOH、又は-COO
-を示し、X
Nは、-NH
2、又は-NH
3
+を示し、nは0~10の整数を示す。
【0078】
式(1)中における、R1、及びR2の1価の炭化水素基、R3、XC、並びにXNの定義、例示、組み合わせ、及び好ましい態様は上述したものと同様である。また、式(1)で表される化合物の塩の例示についても、上述したものと同様である。
【0079】
本実施形態の色素産生促進剤の対象となる微細藻類、及び微細藻類の培養状態は、本実施形態の微細藻類における色素の産生を促進する方法を適用する微細藻類、及び微細藻類の培養状態として記載したものと同様である。
【0080】
本実施形態の色素産生促進剤の投与態様についても、本実施形態の微細藻類における色素の産生を促進する方法において記載したものと同様である。
【0081】
本実施形態の色素産生促進剤は、上記式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種のみからなるものであってもよく、上記式(1)で表される化合物、及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種以外の成分を含んでいてもよい。
【0082】
色素産生促進剤が含み得る成分としては、微細藻類が接触及び/又は吸収することが許容可能な成分であれば特に限定されず、溶媒、培地に含まれる成分、及びpH調整剤(特に、水酸化ナトリウム等の塩基性のものが挙げられる。)等が挙げられる。溶媒としては、特に限定されず、好ましくは水である。
【0083】
色素産生促進剤における、本化合物等の含有量は特に限定されないが、促進剤全体に対して、好ましくは0.05質量%以上10.0質量%以下であり、より好ましくは0.3質量%以上5.0質量%以下であり、更に好ましくは0.5質量%以上2.0質量%以下である。色素産生促進剤は、培地中における本化合物等の含有量が0.01質量%以上5.0質量%以下になるように、培地中に添加されることが好ましい。色素産生促進剤が添加された後の、培地中における本化合物等の含有量は、より好ましくは0.03質量%以上1.0質量%以下であり、更に好ましくは0.05質量%以上0.5質量%以下である。
【実施例0084】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0085】
[色素産生促進効果の評価]
(化合物)
式(1)で表される化合物として、下記式(4)で表される化合物(以下、「化合物(4)」という。)を準備した。
【化19】
【0086】
(色素の定量方法)
まず、以下の方法により、微細藻類から色素を抽出した。
微細藻類を含む培養液1mLを、24℃条件下、5000×gで5分間遠心機にかけた後、上清を800μL破棄した。残った溶液をピペット操作により懸濁させた後、所定の方法により微細藻類を破砕させた。得られた細胞破砕液を、24℃条件下、15000×gで3分間遠心機にかけた後、上清を採取し、0.22μmのフィルタでろ過することにより、色素抽出液を得た。なお、アルスロスピラプラテンシス(Arthrospira platensis)及びクロレラバルガリス(Chlorella vulgaris)の破砕方法としては、細胞破砕用ビーズを含むチューブに細胞の懸濁液を移して激しく撹拌した後、更にアセトンを800μL加えて激しく撹拌する方法を用いた。ユーグレナグラシリス(euglena gracilis)の破砕方法としては、細胞の懸濁液を含むチューブにアセトンを800μL加えて激しく撹拌する方法を用いた。
【0087】
次に、色素抽出液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析した。本実施例においては、色素としてβ-カロテンを定量した。以上のようにして、培養液1mL当たりの色素含有量を定量した。なお、HPLCの測定条件は以下のとおりである。
(HPLC条件)
送液ユニット :LC-20AD(島津製作所社製)
UV-VIS検出器 :SPD-20AV(島津製作所社製)
カラムオーブン :CTO-20A(島津製作所社製)
オートサンプラー :SIL-20A(島津製作所社製)
示差屈折率検出器 :RID-20AD(島津製作所社製)
システムコントローラ:CBM-20A(島津製作所社製)
カラム :Inertsil(登録商標) ODS-4(5μm、4.6×250mm、GL Sciences社製)
【0088】
(試験1)
以下のようにして、アルスロスピラプラテンシスにおける、化合物(4)の色素産生促進効果を評価した。なお、アルスロスピラプラテンシスとしては、国立環境研究所微生物系統保存施設から入手したNIES-39株を用いた。アルスロスピラプラテンシスを培養するための培地としては、組成が以下の表1のとおりである、国立環境研究所微生物系統保存施設から入手したSOT培地を用いた。
【0089】
【0090】
【0091】
まず、20℃条件下、40μmol photons/(m2・sec)の強度で連続的に14時間/日の光照射をしながら、細胞株をSOT培地で十分に培養することで培養液を準備した。また、色素産生促進剤として、濃度が1.0質量%になるようにSOT培地に化合物(4)を添加した溶液を調製した。色素産生促進剤には、pH調整剤として水酸化ナトリウム水溶液を添加し、化合物(4)の添加前後でpHが変化しないようにした。
【0092】
上記のようにして細胞株を培養した培養液を分注し、化合物(4)を含む上記の色素産生促進剤を添加して実施例サンプルを得た。色素産生促進剤の添加量は、実施例サンプル中の化合物(4)の濃度が0.1質量%になるように調整した。対照サンプルは、分注した培養液に、化合物(4)を含まない培地を、実施例サンプルの色素産生促進剤と同量添加することにより得た。20℃条件下、40μmol photons/(m2・sec)の強度で連続的に14時間/日の光照射をしながら、実施例サンプル及び対照サンプルを29日間培養した。
【0093】
培養後の実施例サンプル及び対照サンプルについて、細胞計算盤及びマイクロスコープを用いることで、培養液1mLに含まれる微細藻類の細胞面積を測定した。また、上記の方法により、培養液1mL当たりの色素含有量を定量した。また、培養液1mL当たりの色素含有量を培養液1mLに含まれる微細藻類の細胞面積で除することにより、細胞面積当たりの色素含有量を算出した。
【0094】
その結果、実施例サンプルでは、培養液1mL当たりの色素含有量が7.03μgであり、細胞面積当たりの色素含有量が2.19mg/m2であった。対照サンプルでは、培養液1mL当たりの色素含有量が2.61μgであり、細胞面積当たりの色素含有量が1.58mg/m2であった。したがって、アルスロスピラプラテンシスに化合物(4)を投与することにより、色素(β-カロテン)の細胞内濃度が約1.39倍に上昇したことがわかった。
【0095】
(試験2)
微細藻類として、アルスロスピラプラテンシスに代えてクロレラバルガリスを用い、培地としてSOT培地に代えてC培地を用いたこと以外は試験1と同様にして、クロレラバルガリスを含む実施例サンプルと対照サンプルを47日間培養した。なお、クロレラバルガリスとしては、国立環境研究所微生物系統保存施設から入手したNIES-227株を用いた。クロレラバルガリスを培養するための培地としては、組成が以下の表3のとおりである、国立環境研究所微生物系統保存施設から入手したC培地を用いた。
【0096】
【0097】
【0098】
培養後の実施例サンプル及び対照サンプルについて、細胞計算盤及びマイクロスコープを用いることで、培養液1mLに含まれる微細藻類の細胞数を測定した。また、上記の方法により、培養液1mL当たりの色素含有量を定量した。また、培養液1mL当たりの色素含有量を培養液1mLに含まれる微細藻類の細胞数で除することにより、1細胞当たりの色素含有量を算出した。
【0099】
その結果、実施例サンプルでは、培養液1mL当たりの色素含有量が0.48μgであり、1細胞当たりの色素含有量が22.3×10-9μgであった。対照サンプルでは、培養液1mL当たりの色素含有量が0.44μgであり、1細胞当たりの色素含有量が20.9×10-9μgであった。したがって、クロレラバルガリスに化合物(4)を投与することにより、色素(β-カロテン)の細胞内濃度が約1.07倍に上昇したことがわかった。
【0100】
(試験3)
微細藻類として、クロレラバルガリスに代えてユーグレナグラシリスを用い、培地としてC培地に代えてHUT培地を用いたこと以外は試験2と同様にして、ユーグレナグラシリスにおける、化合物(4)の色素産生促進効果を評価した。なお、ユーグレナグラシリスとしては、国立環境研究所微生物系統保存施設から入手したNIES-48株を用いた。ユーグレナグラシリスを培養するための培地としては、組成が以下の表5のとおりである、国立環境研究所微生物系統保存施設から入手したHUT培地を用いた。実施例サンプルの培養期間、すなわち化合物(4)を投与してから色素の定量をするまでの期間は、7日であった。
【0101】
【0102】
実施例サンプルでは、1細胞当たりの色素含有量が82.6×10-9μgであり、対照サンプルでは、1細胞当たりの色素含有量が67.2×10-9μgであった。したがって、ユーグレナグラシリスに化合物(4)を投与することにより、色素(β-カロテン)の細胞内濃度が約1.23倍に上昇したことがわかった。
本発明の方法は、微細藻類内における色素の産生を促進することができる。その結果、本発明の方法は、生物に由来する色素を簡便に製造することができ、例えば、食品業界、及び化粧品業界等の分野で産業上の利用可能性を有する。