(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147346
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】電極及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20220929BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220929BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20220929BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220929BHJP
H01G 11/26 20130101ALI20220929BHJP
H01G 11/24 20130101ALI20220929BHJP
H01G 11/56 20130101ALI20220929BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M10/0562
H01M10/052
H01G11/26
H01G11/24
H01G11/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048547
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山川 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】坂野 充
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA01
5E078AB01
5E078AB02
5E078AB03
5E078BA62
5E078BA71
5E078DA11
5H029AJ03
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AK06
5H029AK07
5H029AK08
5H029AL02
5H029AL06
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5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
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5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029AM12
5H029HJ03
5H029HJ04
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5H029HJ12
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
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5H050CA08
5H050CA09
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5H050CA14
5H050CA15
5H050CA16
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA13
5H050FA09
5H050HA03
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA09
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】高出力時の容量をより向上することができる新規な電極及び蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】本開示の電極は、蓄電デバイスに用いられる電極であって、電極には固体電解質と電極活物質とを含み、電極全体の固体電解質Aと電極活物質Bとの体積比A/Bが10/90以上25/75以下の範囲の組成を有し、体積比A/Bが25/75以上50/50以下の範囲にある第1相と、体積比A/Bが0/100以上16/84以下の範囲にある第2相と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスに用いられる電極であって、
前記電極には固体電解質と電極活物質とを含み、
電極全体の前記固体電解質Aと前記電極活物質Bとの体積比A/Bが10/90以上25/75以下の範囲の組成を有し、
前記固体電解質Aと前記電極活物質Bとの体積比A/Bが25/75以上50/50以下の範囲にある第1相と、
前記固体電解質Aと前記電極活物質Bとの体積比A/Bが0/100以上16/84以下の範囲にある第2相と、
を有する電極。
【請求項2】
前記第1相は、ドメインサイズが前記固体電解質及び前記電極活物質の粒子のうち大きい粒子の粒径d50の2倍以上であり、且つ前記電極の厚さの1/2以下の範囲である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記固体電解質の粒径d50が前記電極活物質の粒径d50を超えない範囲にある、請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
前記第1相及び前記第2相は、電極厚さ方向に直交する面内においてランダム又は二相交互に分散している構造を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の電極。
【請求項5】
(1)~(2)のいずれか1以上を満たす、請求項1~4のいずれか1項に記載の電極。
(1)前記第1相は、前記体積比A/Bが25/75を超え40/60以下の範囲である。
(2)前記第2相は、前記体積比A/Bが15/85以下の範囲である。
【請求項6】
(3)~(4)のいずれか1以上を満たす、請求項1~5のいずれか1項に記載の電極。
(3)前記第1相は、前記体積比A/Bが28/72を超える範囲である。
(4)前記第2相は、前記体積比A/Bが14/86未満の範囲である。
【請求項7】
(5)~(7)のいずれか1以上を満たす、請求項1~6のいずれか1項に記載の電極。
(5)前記電極全体の前記体積比A/Bが15/85以上の範囲の組成を有する。
(6)前記第1相は、ドメインサイズが10μm以上20μm以下の範囲である。
(7)空隙率が0体積%以上35体積%以下の範囲である。
【請求項8】
全固体二次電池である蓄電デバイスであって、
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しキャリアイオンを伝導する固体電解質層と、を備え、
前記正極及び前記負極のいずれか1以上が請求項1~7のいずれか1項に記載の電極である、蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、電極及び蓄電デバイスを開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓄電デバイスとしてのリチウム二次電池としては、活物質及びリチウムイオン伝導性固体電解質からなる負極材層と正極材層とを有し、活物質の固体電解質に対する混合比率を集電体からの距離に応じて連続的に減少させたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このリチウム二次電池は、リチウムイオン電池の高性能化/高容量化に必要な薄膜化/大型化を実現し得ると共に、極材層の活物質が固体電解質層側に移動するのを防止することができるとしている。また、リチウム二次電池としては、正極集電体に近い正極活物質の濃度が固体電解質層に近い正極活物質の濃度よりも高く、負極集電体に近い負極活物質の濃度が固体電解質層に近い負極活物質の濃度よりも高く、濃度の高低は連続的な勾配を有する全固体電極を有するものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。このリチウム二次電池では、全固体電池の出力特性を向上させることができるとしている。また、リチウム二次電池としては、正極体および負極体のうち少なくとも一方の電極体の電極活物質層は、電極活物質層の一部分に含まれる固体電解質材料の体積に対する電極活物質の局所含有体積比が、電極活物質層の厚み方向を固体電解質層界面側から集電体界面側へ近づけるほど大きくなる組成分布を有するものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。このリチウム二次電池では、拡散抵抗の低減およびレート特性の向上ができるとしている。また、リチウム二次電池としては、第1正極活物質と、第2正極活物質と、硫化物固体電解質とを有し、第2正極活物質の平均粒径に対する第1正極活物質の平均粒径の比率が、2.0以上4.3以下であることを特徴とする正極合材を有するものが提案されている(例えば、特許文献4参照)。このリチウム二次電池では、体積当たりのエネルギー密度が高い正極合材を提供することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-124028号公報
【特許文献2】特開2015-225855号公報
【特許文献3】特開2012-104270号公報
【特許文献4】特開2019-106286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1~4の蓄電デバイスでは、組成やその濃度などを調整して電池特性を向上しているが、高出力時(例えば2Cレート以上など)の容量を増大させることなどはまだ十分でなく、更なる改良が求められていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、高出力時の容量をより向上することができる電極及び蓄電デバイスを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、固体電解質と電極活物質とを所定の範囲で含有する電極において、固体電解質のリッチ相とプア相とを所定の範囲とすれば、高出力時の容量をより向上することができることを見いだし、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本開示の電極は、
蓄電デバイスに用いられる電極であって、
前記電極には固体電解質と電極活物質とを含み、
電極全体の前記固体電解質Aと前記電極活物質Bとの体積比A/Bが10/90以上25/75以下の範囲の組成を有し、
前記固体電解質Aと前記電極活物質Bとの体積比A/Bが25/75以上50/50以下の範囲にある第1相と、
前記固体電解質Aと前記電極活物質Bとの体積比A/Bが0/100以上16/84以下の範囲にある第2相と、
を有するものである。
【0008】
本開示の蓄電デバイスは、
全固体二次電池である蓄電デバイスであって、
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しキャリアイオンを伝導する固体電解質層と、を備え、
前記正極及び前記負極のいずれか1以上が上述する電極であるものである。
【発明の効果】
【0009】
本開示の電極及び蓄電デバイスでは、高出力時の容量をより向上することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、電極活物質と固体電解質とを含み、電極活物質が固体電解質に比して十分多い所定の体積比を有する場合、固体電解質の粒子間のつながり、即ちキャリアイオンの伝導パスの形成が阻害されることによって、電極内の有効イオン伝導率が著しく低下し、高出力時の容量低下を招くことがある。これに対して、本開示では、トータルの固体電解質の量はそのままに、固体電解質が多い第1相(リッチ相)と固体電解質が少ない第2相(プア相)の二つの相に分離することで、有効イオン伝導率の低下を抑制することができるものと推察される。また、このような構造を有すると、活物質比率に対する有効イオン伝導率の変化が線形でなくなり、二相の混合則から導かれる有効イオン伝導率が向上するためであると推察される。このように、本開示では、有効イオン伝導率の改善が高出力時の容量増大につながるものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図。
【
図2】固体電解質の量とLi伝導パスとの関係を示す説明図。
【
図3】第1相と第2相とによるイオン伝導率向上メカニズムのイメージ図。
【
図5】実測定と計算結果との充電時の正極電位の変化の関係図。
【
図6】二相分離型電極のバーチャル試作例の説明図。
【
図7】第1相のドメインサイズと有効イオン伝導率との関係図。
【
図8】3C充電時の充電容量率と正極電位との関係図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(蓄電デバイス用電極)
実施形態で説明する本開示の電極は、蓄電デバイスに用いられる。蓄電デバイスは、例えば、電気二重層キャパシタやハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタ、アルカリ金属二次電池、アルカリ金属イオン電池などとしてもよい。蓄電デバイスのキャリアイオンは、リチウムイオンやナトリウムイオン、カリウムイオンなどのアルカリ金属イオンやマグネシウムイオンやストロンチウムイオン、カルシウムイオンなどの第2族イオンなどが挙げられる。ここでは、説明の便宜のため、リチウムイオンをキャリアとするリチウム二次電池を蓄電デバイスの主たる一例として以下説明する。
【0012】
本開示の電極は、固体電解質と電極活物質とを含む。この電極は、固体電解質と電極活物質とを含む電極合材層と、電極合材層に隣接する集電体とを備えるものとしてもよい。また、電極は、正極活物質を含む正極としてもよいし、負極活物質を含む負極としてもよい。この電極は、電極全体の固体電解質Aと電極活物質Bとの体積比A/Bが10/90以上25/75以下の範囲の組成を有する。即ち、この電極は、固体電解質と電極活物質との全体が100体積%であるときに、固体電解質が10体積%以上25体積%以下の範囲であり、電極活物質が90体積%以下75体積%以上の範囲を満たす。この電極全体の体積比A/Bは、15/85以上の範囲の組成を有することが好ましい。体積比A/Bがこのような範囲にあるものとすれば、比較的電極活物質の量が大きいため、固体電解質の添加によって生じる電極の容量低下をより抑制することができる。この電極は、固体電解質が比較的多い第1相(電解質リッチ相)と固体電解質が比較的少ない第2相(電解質プア相)とを有する二相分離型構造を有している。
【0013】
第1相は、固体電解質Aと電極活物質Bとの体積比A/Bが25/75以上50/50以下の範囲にあることが好ましい。この第1相は、体積比A/Bが25/75を超え40/60以下の範囲であることがより好ましく、体積比A/Bが28/72を超える範囲であることが更に好ましい。また、第1相は、体積比A/Bが30/70以上の範囲であるものとしてもよいし、30/70を超える範囲としてもよい。即ち、第1相は、固体電解質と電極活物質との全体が100体積%であるときに、固体電解質が25体積%以上50体積%以下の範囲が好ましく、25体積%を超え40体積%以下の範囲がより好ましく、28体積%を超える範囲が更に好ましい。また、第1相は、固体電解質が30体積%以上としてもよいし、30体積%を超える範囲としてもよい。また、第1相は、電極活物質が75体積%以下50体積%以上の範囲が好ましく、75体積%未満40体積%以上の範囲がより好ましく、72体積%以下の範囲が更に好ましい。また、第1相は、電極活物質が70体積%以下としてもよいし、70体積%未満の範囲としてもよい。この電極は、このような第1相を含むものとすれば、電極内におけるイオン伝導性を確保しやすく、好ましい。
【0014】
第2相は、固体電解質Aと電極活物質Bとの体積比A/Bが0/100以上16/84以下の範囲にあることが好ましい。この第2相は、体積比A/Bが15/85以下の範囲であることがより好ましく、体積比A/Bが14/86未満の範囲であることが更に好ましい。また、第2相は、体積比A/Bが13/87以下の範囲であるものとしてもよいし、13/87未満の範囲としてもよい。即ち、第2相は、固体電解質と電極活物質との全体が100体積%であるときに、固体電解質が0体積%以上16体積%以下の範囲が好ましく、15体積%以下の範囲がより好ましく、14体積%未満の範囲が更に好ましい。また、第2相は、固体電解質が13体積%以下としてもよいし、13体積%未満の範囲としてもよい。また、第2相は、電極活物質が100体積%以下84体積%以上の範囲が好ましく、85体積%以上の範囲がより好ましく、86体積%を超える範囲が更に好ましい。また、第2相は、電極活物質が87体積%以上としてもよいし、87体積%を超える範囲としてもよい。この電極は、このような第2相を含むものとすれば、電極活物質の相対的な減少をより抑制し、電池容量を確保しやすく、好ましい。
【0015】
第1相は、ドメイン(液滴)サイズRが固体電解質及び電極活物質の粒子のうち大きい粒子の粒径d50の2倍以上であり、且つ電極の厚さTの1/2以下の範囲であることが好ましい(
図1参照)。第1相のドメインサイズRが粒径d50の2倍以上では、イオン伝導率のばらつきをより抑制することができ、好ましい。また、第1相のドメインサイズRが電極の厚さTに対して1/2以下では、1つの液滴サイズが大きすぎず、面内での反応ムラなどの発生をより抑制することができ、好ましい。第1相は、ドメインサイズが10μm以上20μm以下の範囲であるものとしてもよい。第1相のドメインサイズRは、例えば、電極の切断面を元素分析し、固体電解質の量が多い領域を求め、この領域の最大の長さとして規定することができる。
【0016】
固体電解質の粒径d50は、電極活物質の粒径d50を超えない範囲にあることが好ましい。固体電解質の粒径がこのような範囲であれば、電極活物質がキャリアイオンを吸蔵放出しやすく、好ましい。固体電解質の粒径d50は、例えば、0.1μm以上10μm以下の範囲としてもよい。電極活物質の粒径d50は、例えば、0.1μm以上20μm以下の範囲としてもよい。なお、固体電解質や電極活物質の粒径は、レーザー回折測定で求められたメディアン径とする。
【0017】
この電極において、第1相及び第2相は、電極厚さ方向に直交する面内においてランダム又は二相交互に分散している構造を有することが好ましい。また、第1相は、第2相中に分散している構造を有するものとしてもよい。この電極では、電極厚さ方向及び電極面方向の分布において、第1相のみによって構成される層や第2相のみによって構成される層は少ない方が好ましく、第1相及び第2相は混在していることが好ましい。また、この電極において、電極合材中に、固体電解質の含有量が多い領域(第1相)が固体電解質の含有量が少ない領域(第2相)中にまだら状に分散しているものとしてもよい。
【0018】
電極は、空隙率が0体積%以上35体積%以下の範囲であることが好ましい。空隙が少ないと、相対的に電極活物質の量などが多くなるため、容量やイオン伝導性の観点からは好ましい。また、空隙が大きいと充放電時に析出する金属などを収容することができ、耐久性の観点から好ましいことがある。この空隙率は、5体積%以上や10体積%以上としてもよいし、30体積%以下や20体積%以下としてもよい。
【0019】
この電極の厚さTは、特に限定されないが、蓄電デバイスの容量に応じて適宜設定するものとすればよい。例えば、電極の厚さTは、20μm以上や、50μm以上としてもよいし、500μm以下や300μm以下、200μm以下としてもよい。
【0020】
この電極は、電極活物質として正極活物質を含む正極としてもよい。この電極は、電極活物質と固体電解質とを含み、導電材や結着材などを含むものとしてもよい。この電極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn2O4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMncO2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV2O3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV2O5などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。あるいは、正極活物質は、キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどに用いられている炭素質材料としてもよい。炭素質材料としては、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素質材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。
【0021】
導電材は、電極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。正極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。
【0022】
また、この電極は、例えば、負極活物質と集電体とを密着させて形成したものとしてもよいし、負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質としては、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり支持塩としてリチウム塩を使用した場合に自己放電を抑え、且つ充電時における不可逆容量を少なくできるため、好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。負極活物質としては、このうち、炭素質材料が安全性の面から見て好ましい。また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。
【0023】
電極は、粒子状の固体電解質を含む。この固体電解質は、例えば、LiとLaとZrと少なくとも含むガーネット型酸化物の粒子としてもよい。この固体電解質は、基本組成がLi7.0+x-y(La3-x,Ax)(Zr2-y,Ty)O12であるものとしてもよい。但し、AはSr、Caのうち1種以上であり、TはNb、Taのうち1種以上であり、0<x≦1.0、0<y<0.75を満たすものである。あるいは、固体電解質は、基本組成(Li7-3z+x-yMz)(La3-xAx)(Zr2-yTy)O12や、(Li7-3z+x-yMz)(La3-xAx)(Y2-yTy)O12で表されるガーネット型酸化物であるものとしてもよい。但し、式中、元素MはAl,Gaのうち1以上、元素AはSr、Caのうち1以上、TはNb、Taのうち1以上であり、0≦z≦0.2、0≦x≦0.2、0≦y≦2であるものとしてもよい。また、この固体電解質は、Li3N、LISICONと呼ばれるLi14Zn(GeO4)4、硫化物のLi3.25Ge0.25P0.75S4、ペロブスカイト型のLa0.5Li0.5TiO3、(La2/3Li3x□1/3-2x)TiO3(□:原子空孔)、NASICON型と呼ばれるLiTi2(PO4)3、Li1.3M0.3Ti1.7(PO3)4(M=Sc,Al)などが挙げられる。また、ガラスセラミックスである80Li2S・20P2S5(mol%)組成のガラスから得られたLi7P3S11、さらに硫化物系で高い導電率を持つ物質であるLi10Ge2PS2なども挙げられる。ガラス系無機固体電解質ではLi2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-Li4SiO4、Li2S-P2S5、Li3PO4-Li4SiO4、Li3BO4-Li4SiO4、そしてSiO2、GeO2、B2O3、P2O5をガラス系物質としてLi2Oを網目修飾物質とするものなどが挙げられる。また、チオリシコン固体電解質としてLi2S-GeS2系、Li2S-GeS2-ZnS系、Li2S-Ga2S2系、Li2S-GeS2-Ga2S3系、Li2S-GeS2-P2S5系、Li2S-GeS2-SbS5系、Li2S-GeS2-Al2S3系、Li2S-SiS2系、Li2S-P2S5系、Li2S-Al2S3系、LiS-SiS2-Al2S3系、Li2S-SiS2-P2S5系などの固体電解質が挙げられる。
【0024】
(電極の製造方法)
電極の製造方法は、上述した電極を製造する方法であって、固体電解質を比較的リッチに含む第1相と、第1相に比して固体電解質が少ない第2相とを含む電極を作製する二相分離工程を含むものとしてもよい。この工程では、上述した固体電解質Aと電極活物質Bとの体積比A/Bの範囲になるように、原料を偏らせて配合するものとしてもよい。この工程では、第1相となる原料群を第2相に分散させたのち、圧力を付与して電極に成形するものとしてもよいし、個別に蓄積した第1相となる原料群と第2相となる原料群を電極基板上に同時に噴霧するものとしてもよい。また、電解質粒子として比較的粗粒な電極活物質粒子を一定量加えることで、電極内に電解質が疎なドメイン、つまりは第2相を形成することができるので、電極に用いる原料粉末の粒径を制御することでも本開示で狙いとする電極を製造することが可能である。
【0025】
(蓄電デバイス)
蓄電デバイスは、正極と、負極と、正極と負極との間に介在しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体とを備えるものとしてもよい。この蓄電デバイスにおいて、正極及び負極のいずれか1以上が上述した本開示の電極であるものとしてもよい。
【0026】
イオン伝導媒体は、キャリアイオンを伝導する電解液を含むものとしてもよい。この電解液は、例えば、非水系溶媒などが挙げられる。電解液の溶媒としては、例えば、非水電解液の溶媒などが挙げられる。この溶媒としては、例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。この電解液には、二次電池のキャリアであるイオンを含む支持塩を溶解したものとしてもよい。支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。
【0027】
この蓄電デバイスは、正極と負極との間にキャリアイオンを伝導する固体電解質層を介在する全固体二次電池としてもよい。正極と負極との間に介在する固体電解質層は、上述した固体電解質のうちいずれか1以上を用いることができる。また、固体電解質層に含まれる固体電解質は、電極に含まれる固体電解質と同じであってもよいし、異なっていてもよい。この固体電解質層には、固体電解質粒子の粒界にホウ素を含む物質が介在するものとしてもよい。この物質は、ホウ酸リチウムであることが好ましい。ホウ酸リチウムとしては、例えば、Li3BO3、Li2B4O7、LiBO2などが挙げられ、このうち、Li3BO3(LBO)がより好ましい。LBOは、固体電解質との反応性がより低いため好ましい。固体電解質層は、25℃でのイオン伝導度が1.0×10-4S/cm以上であるものとしてもよい。固体電解質層のイオン伝導度は、より高いことが好ましく、25℃での伝導度が1.0×10-4(S/cm)以上であることが好ましく、2.5×10-4S/cm以上であることがより好ましい。この伝導度は、1.0×10-2S/cm以下としてもよい。なお、電気伝導度はイオン伝導度を表す。
【0028】
図1は、蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図である。この蓄電デバイス10は、正極12と、負極15と、固体電解質層18とを有する。正極12は、正極活物質層13と、集電体14とを有する。負極15は、負極活物質層16と、集電体17とを有する。正極12及び負極15のうちいずれかは、上述した蓄電デバイス用の電極であり、第1相21と第2相22とを含む二相分離型構造を有しており、空孔23を含むものとしてもよい。第1相21は、電極活物質24と固体電解質25とを含み、比較的固体電解質25が多く含まれる電解質リッチ相である。この第1相21は、ドメイン(液滴)構造を有し第2相22の中の特定の領域として存在している。また、第2相22は、電極活物質24を含み、固体電解質25を含んでもよく、第1相21に比して固体電解質25が少なく含まれる電解質プア相である。この電極において、第1相21及び第2相22は、電極厚さ方向に直交する面内においてランダム又は二相交互に分散している構造を有する。また、第1相21は、第2相22中に分散している構造を有するものとしてもよい。
【0029】
以上詳述した電極及び蓄電デバイスでは、高出力時の容量をより向上することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。
図2は、固体電解質(SE)の量とLi伝導パスとの関係を示す説明図であり、
図2Aが電解質が多い場合、
図2Bが少ない電解質がランダムに存在する場合、
図2Cが少ない電解質で二相分離している場合である。
図3は、第1相と第2相とによる二相分離型構造のイオン伝導率向上メカニズムのイメージ図である。例えば、
図2Aに示すように、電極活物質と固体電解質とを含み、電解質が比較的多い場合は、イオン伝導パスが維持される。しかしながら、電解質は充放電容量に寄与しないため、より少ない方が望ましい。そして、
図2Bに示すように、電極活物質が固体電解質に比して十分多い体積比を有する場合、固体電解質の粒子間のつながり、即ちキャリアイオンの伝導パスの形成が阻害されることによって、電極内の有効イオン伝導率が著しく低下し、高出力時の容量低下を招くことがある。これに対して、本開示では、
図2Cに示すように、トータルの固体電解質の量は少ないままに、固体電解質が多い第1相(SEリッチ相)と固体電解質が少ない第2相(SEプア相)の二相に分離することで、有効イオン伝導率の低下を抑制することができるものと推察される。また、このような構造を有すると、
図3の点線に示すように、活物質比率に対する有効イオン伝導率の変化が線形でなくなり、二相の混合則から導かれる有効イオン伝導率が向上するためであると推察される。このように、本開示では、有効イオン伝導率の改善が高出力時の容量増大につながるものと推察される。
【0030】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例0031】
以下には、本開示の電極及び蓄電デバイスを具体的に検討した例を実施例として説明する。
【0032】
電極構造の探索をバーチャルに作成した3D構造を用いて行った。まず、電極探索を行うに先立って、計算機上に仮想的に作成した活物質粒子、電解質粒子および導電材から成る正極構造から実験の充電曲線を再現できるかを確認した。活物質・電解質粒度分布はレーザー回折による実験粒度分布測定結果を、空隙サイズはSEM像の空隙サイズ分布を再現するようにモデル化した。電極厚さTを50μm、電解質Aと活物質Bとの体積比A/Bを20/80とし、空隙率を33.5体積%に設定し、
図4に示す実構造を模したモデルを作成した。
図4は、電極実構造をモデル化したモデル図である。
図4において、白色が活物質粒子、淡灰色が固体電解質(SE)粒子、繊維状が導電材、黒色が残留空孔である。作成した正極モデルにおける各成分の配合比と実験配合比を表1にまとめた。
【0033】
【0034】
次に、活物質をNCM811(LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2)とし、充電シミュレーションに用いる材料物性パラメータ(主に活物質内Li拡散係数値)を設定した。充電シミュレーションは、非特許文献(Solid State Ionics 2020;344:115079)に開示されたプログラムを用いて行った。ここで、充電シミュレーションについて説明する。電極の有効イオン伝導率σeは、式(1)で表される。ここで、σmは材料固有の伝導率、θは伝導に寄与する材料の体積分率(%)である。τは屈曲度ファクターであり、伝導の始点と終点を直線で結んだ距離Lに対する実伝導距離L’を用いて、τ=(L’/L)2として定義される。電極構成材料と各材料の配合比が同じ電極、即ちσmとθとが同じ電極では、τ値を評価することで、有効イオン伝導率の相対比を求めることができる。τ値評価は、3D電極イメージに基づいた交流インピーダンス計算によって行われる。交流インピーダンス計算では、τ値を評価する相の伝導率に対する他相の伝導率を1/100倍程度に設定してτ値を評価する相に伝導電流が流れるようにした上で、低周波数側の実軸切片の抵抗値(すなわち総抵抗値)を材料固有の抵抗と比較することでτ値を求めることができる。シミュレーションに用いた主な係数は、活物質内Li拡散係数を2×10-9(cm2/s)とし、反応抵抗を80(Ωcm2)とした。
σe=((θ/100)/τ)×σm …式(1)
【0035】
充電条件は、残容量SOC=10%から0.1C、0.5C及び3Cで充電を開始するものとした。残容量SOC=100%は、206mAh/gに相当した。リチウム金属基準電位における電極電圧(V)と充電容量率△SOCとの関係を比較した。
図5は、実測定と計算結果との充電時の正極電位の変化の関係図である。
図5に示すように、本実施例で用いた充電シミュレーションは、0.1C~3Cの各充電条件で実験結果を再現していることが確認できた。 このように実験による実測値を定量的に再現できることを確認したモデルを用いて、種々の電極構造に対して有効イオン伝導率を評価した。また、高レート(3C=0.6mA/cm
2)での充電計算を行って性能を確認した。
【0036】
第1相及び第2相を有する二相分離型電極は、
図1のように示される。この構造は、(1)第1相および第2相内の活物質と電解質の体積比、(2)第1相のドメインサイズを規定することによって特定することができる。なお、第1相及び第2相の配合比は、体積比から導かれる。
【0037】
図6は、二相分離型電極のバーチャル試作例のイメージ図であり、
図6Aが固体電解質が比較的多く含まれる第1相(SEリッチ相)のドメイン(液滴)を含むモデルであり、
図6Bが活物質及び電解質の体積比が所定値になるように粒子を配置したモデルである。
図6に示した電極構造は、電極全体の電解質Aと活物質Bとの体積比A/Bを20/80、第1相内の電解質Aと活物質Bとの体積比A/Bを31/69、第2相内の電解質Aと活物質Bとの体積比A/Bを10/90とし、空隙率を10体積%、導電材を2体積%、活物質粒径を4μm、電解質粒径を2μmとしたモデルである。このように、3D構造をバーチャルに試作して、電極体の有効イオン伝導率から、上記(1)、(2)の最適範囲を求めた、次に、最適範囲内の構造と、活物質及び固体電解質がランダムに分散した従来構造とにおいて、3Cレートの高出力とした場合の充電容量の比較を行った。
【0038】
第1相と第2相とを加えた電極全体としての固体電解質Aと活物質Bとの体積比A/Bは20/80に設定した。また、第1相のドメインサイズは12μmに設定した。第1相と第2相の組成比を適宜変更し、そのイオン伝導率を求めた。電極全体に平均して固体電解質が存在する従来構造のイオン伝導度を1として各々求めた結果を規格化した。表2に、従来構造を1として規格化した場合の二相分離型電極のイオン伝導率の評価結果をまとめた。イオン伝導率が1.1以上を示すものが良好であり、1.3以上を示すものがより良好であり、1.5以上を示すものが更に良好であると評価した。表2に示すように、第1相は、固体電解質Aと電極活物質Bとの体積比A/Bが25/75以上50/50以下の範囲がよく、25/75を超え40/60以下の範囲が好ましく、28/72を超える範囲がより好ましく、30/70以上が更に好ましいと推察された。また、第2相は、体積比A/Bが0/100以上16/84以下の範囲がよく、15/85以下の範囲が好ましく、14/86未満の範囲がより好ましく、12/88未満としてもよいものと推察された。
【0039】
【0040】
図7は、第1相のドメインサイズ(μm)と有効イオン伝導率との関係図である。ここでは、組成が異なる3種の第1相及び第2相の条件で評価した。組成1~3は、電極全体の固体電解質Aと活物質Bとの体積比A/Bを20/80に設定した。また、組成1~3は、第2相(SEプア相)内の活物質比率が異なり、それぞれ85質量%、86質量%、90質量%とした。組成1~3の第1相(SEリッチ相)内の活物質比率はいずれも同じで69質量%に設定した。組成1~3において、ドメイン(液滴)サイズを8、12、16μmとして評価を行った。
図7に示すように、ドメインサイズが10μm未満のようにサイズが小さい場合は、イオン伝導率のばらつきが大きくなる傾向が認められた。用いた活物資粉末の粒径d50は5μmであったが、ドメインサイズが小さすぎると、含まれる粒子数が極端に減ることが要因と推察された。ドメインサイズRが電極の厚さTに対して1/2を超えるなど、1つの液滴サイズが大きすぎると、面内での反応ムラなどが生じ易くなると推察された。このため、ドメインサイズRは、電極厚さTの1/2以下の範囲であることが好ましいと推察された。また、ドメイン内に含まれる粒子数がより多い方がイオン伝導率のばらつきが低下すると考えられることから、ドメインサイズRは、活物質の粒子と固体電解質の粒子とのうち、より大きな粒子の粒径d50の2倍以上であることが好ましいと推察された。また、活物質や固体電解質の粒子の粒径は、数μm~10μm程度が好ましいことから、第1相のドメインサイズRは、10μm以上20μm以下の範囲が好ましいものと推察された。なお、活物質粒子がイオンを吸蔵放出することから、固体電解質の粒径d50は、電極活物質の粒径d50を超えない範囲にあることが好ましい。
【0041】
次に、二相分離型電極を正極としたリチウム二次電池と、従来構造のリチウム二次電池との充電容量について検討した。
図8は、3C充電時の充電容量率△SOC(%)と正極電位(V)との関係図である。この充電容量は、対極として金属Liを用いて評価した。充電容量の評価は、組成4~6の電極を用いた。ここでは、活物質比率を変更し、第1相を65質量%とし第2相を90質量%としたものを組成4、第1相を60質量%とし第2相を100質量%としたものを組成5、第1相と第2相とを含まず均一としたものを組成6とした。組成4~6は、電極全体の固体電解質Aと活物質Bとの体積比A/Bを20/80に設定した。上述した充電条件は、残容量SOC=10%から3Cで充電を開始するものとした。残容量SOC=100%は、206mAh/gに相当した。
図8に示すように、従来構造の電極に比して、二相分離型電極では、2割~4割の充電容量の増大が確認された。このように、二相分離型電極では、3Cという高レート充電において、容量をより高めることができることがわかった。
【0042】
なお、本開示の電極及び蓄電デバイスは上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
10 蓄電デバイス、12 正極、13 正極活物質層、14 集電体、15 負極、16 負極活物質層、17 集電体、18 固体電解質層、21 第1相、22 第2相、23 空隙、24 電極活物質、25 固体電解質、R ドメインサイズ、T 厚さ。