(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147350
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】波形保持器の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/42 20060101AFI20220929BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20220929BHJP
B21D 53/12 20060101ALI20220929BHJP
C21D 1/06 20060101ALI20220929BHJP
C21D 9/40 20060101ALI20220929BHJP
C23C 8/32 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F16C33/42 A
F16C19/06
B21D53/12
C21D1/06 A
C21D9/40 A
C23C8/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048556
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 悠稀
【テーマコード(参考)】
3J701
4K028
4K042
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA21
3J701BA37
3J701BA45
3J701BA46
3J701DA02
3J701DA09
3J701DA20
3J701EA02
3J701FA31
4K028AA03
4K028AB01
4K028AC07
4K028AC08
4K042AA22
4K042BA02
4K042BA03
4K042BA04
4K042BA09
4K042CA15
4K042DA03
4K042DA06
4K042DC02
4K042DC03
4K042DC04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐久性及び信頼性に富む高品質の波形保持器を提供する。
【解決手段】一対の環状部材8と、一対の環状部材8を軸方向に重ね合わせた状態で結合した複数の締結部材(リベット9)とを備えた波形保持器7を製造するための方法であって、鋼板のプレス成形品からなる未焼入れの環状部材8に対して熱処理を施す熱処理工程を含む。この熱処理工程では、未焼入れの環状部材8に対して400~590℃の温度で軟窒化処理を施す一次熱処理と、軟窒化処理が施された環状部材8を180~200℃の温度で保持する二次熱処理と、を実行する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の環状部材と、該一対の環状部材を軸方向に重ね合わせた状態で結合した複数の締結部材と、を備え、各環状部材が、相手側と協働してボールを転動自在に保持するポケットを画成する半球状の膨出部と、相手側と軸方向で重ね合わされる平坦部とを周方向に交互に配した波形形状を有する玉軸受用の波形保持器を製造するための方法であって、
鋼板のプレス成形品からなる未焼入れの前記環状部材に対して熱処理を施す熱処理工程と、熱処理された一対の前記環状部材を前記締結部材で軸方向に結合する結合工程と、を含み、
前記熱処理工程では、未焼入れの前記環状部材に対して400~590℃の温度で軟窒化処理を施す一次熱処理と、軟窒化処理が施された前記環状部材を180~200℃の温度で保持する二次熱処理と、を実行することを特徴とする波形保持器の製造方法。
【請求項2】
前記締結部材は、一対の前記環状部材の一方及び他方の平坦部を貫通する軸部と、一対の前記環状部材のうちの一方と軸方向で係合する頭部とを一体に有するリベットであり、
前記結合工程では、前記軸部の自由端に、前記頭部との間で前記一方及び前記他方の平坦部を軸方向に挟持する加締め部を形成する加締め処理を実行する請求項1に記載の波形保持器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉軸受に組み込んで使用される波形保持器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のボールを介して相対回転する内輪及び外輪を備えた玉軸受において、複数のボールを保持するために内外輪間に配される保持器には、通常、玉軸受の軸方向に重ね合わされた一対の環状部材を、玉軸受の周方向に間隔を空けて配された複数の締結部材(例えばリベット)を用いて軸方向に結合したものが採用される。この保持器は、各環状部材が、相手側(結合相手の環状部材)と協働してボールを転動自在に保持するためのポケットを画成する半球状の膨出部と、締結部材により相手側と結合される平坦部とを周方向に交互に配した波形形状を有することから「波形保持器」と称されている。
【0003】
波形保持器を構成する環状部材には、SPCC等の加工性に富む鋼板(未焼入れの鋼板)にプレス加工を施すことで上記の波形形状に成形されたプレス成形品に、表面硬度を高めるための熱処理を施したものが好ましく採用される。上記の熱処理としては、例えば下記の特許文献1に記載されているように、環状部材に表面硬化層としての窒化層を形成する窒化処理(「軟窒化処理」を含む概念である)が好ましく採用される。窒化処理は、ワークを鋼の変態点よりも高温に加熱する必要がある浸炭焼入れ等の焼入れに比べると、処理時のワークの加熱温度が格段に低く、ワークの熱変形を抑制又は防止することができるので、処理後の仕上げ加工(形状修正作業)を省略することができる、という利点がある。なお、SPCC製のワークに軟窒化処理を施した場合、当該ワークの表面硬度はビッカース硬さ(HV)で400~500程度となる。
【0004】
特許文献1には、一対の環状部材のうちの一方の平坦部にリベットを圧入嵌合した状態で窒化処理を施すと共に、一対の環状部材のうちの他方に対して単体のまま窒化処理を施し、その後、一方の環状部材に予め圧入された(一方の環状部材と共に窒化処理が施された)リベットを加締めることにより一対の環状部材を結合する、という保持器の製造方法が記載されている。このような方法によれば、
・リベットに対する専用の窒化処理工程を省略することができる、
・リベットが予め圧入された上記一方の環状部材の取り扱い性を高めることができる、
・波形保持器の耐久性が高まる、などという利点がある、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、窒化処理によって表面硬度が高められた一対の環状部材が、同じく窒化処理によって表面硬度が高められたリベットを用いて軸方向に結合されるため、加締め時に保持器(環状部材)内に生成・蓄積される引張残留応力が大きくなり、例えば、大きな応力(例えばラジアル荷重)が繰り返し入力されるような過酷条件下で使用される玉軸受に特許文献1の保持器を採用した場合の保持器強度低下につながるおそれがある。
【0007】
上記の実情に鑑み、本発明は、表面硬度(耐摩耗性)及び疲労強度が高く、耐久性・信頼性に富む波形保持器を製造可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために創案された本発明は、一対の環状部材と、一対の環状部材を軸方向に重ね合わせた状態で結合した複数の締結部材とを備え、各環状部材が、相手側と協働してボールを転動自在に保持するポケットを画成する半球状の膨出部と、相手側と軸方向で重ね合わされる平坦部とを周方向に交互に配した波形形状を有する玉軸受用の波形保持器を製造するための方法であって、鋼板のプレス成形品からなる未焼入れの環状部材に対して熱処理を施す熱処理工程と、熱処理された一対の環状部材を締結部材で軸方向に結合する結合工程と、を含み、熱処理工程では、未焼入れの環状部材に対して400~590℃の温度で軟窒化処理を施す一次熱処理と、軟窒化処理が施された環状部材を180~200℃の温度で保持する二次熱処理と、を実行することを特徴とする。
【0009】
上記のように、プレス成形品からなる未焼入れの環状部材に対して熱処理を施す熱処理工程において、まず、未焼入れの環状部材に対して400~590℃の温度で軟窒化処理を施す一次熱処理を実行すると、環状部材の熱変形を防止しつつ、環状部材の表面に母材よりも高硬度の窒化層が形成されるので、表面硬度、ひいては耐摩耗性が高められた高精度の環状部材を得ることができる。続いて、軟窒化処理が施された環状部材を180~200℃の温度で保持する二次熱処理を実行すると、軟窒化処理が施された環状部材の形状精度及び表面硬度を維持しつつ、環状部材の母材の断面硬度を減じて環状部材の靱性を高めることができる。そのため、熱処理工程後の結合工程において、一対の環状部材を締結部材で軸方向に結合するのに伴って環状部材内に発生する引張残留応力を低減することができ、結果として波形保持器の疲労強度を高めることができる。
【0010】
この場合、窒化処理や焼入れ等の熱処理が施された高硬度・高強度の締結部材を用いて一対の環状部材を軸方向に結合しても、使用時(玉軸受の作動時)に波形保持器に繰り返し付与される応力に起因した波形保持器の早期破損を可及的に防止することができる。そのため、一対の環状部材を軸方向に結合する際、熱処理が施された高硬度・高強度の締結部材を問題無く使用することが可能となる。従って、信頼性及び耐久性に富む高品質の波形保持器を製造することができる。
【0011】
締結部材は、一対の環状部材の一方及び他方の平坦部を貫通する軸部と、一対の環状部材のうちの一方と軸方向で係合する頭部とを一体に有するリベットとすることができ、この場合、結合工程では、上記軸部の自由端に、頭部との間で一方及び他方の平坦部を軸方向に挟持する加締め部を形成する加締め処理が実行される。
【発明の効果】
【0012】
以上から、本発明によれば、表面硬度(耐摩耗性)及び疲労強度が高く、耐久性・信頼性に富む高品質の波形保持器を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】
図1に示す玉軸受用の波形保持器の概略斜視図である。
【
図3】波形保持器を
図1のA-A線で切断したときの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、玉軸受用の保持器(波形保持器)の製造方法に関するものであるが、本発明の理解を助けるために、玉軸受の一例を
図1に基づいて、また、玉軸受用の波形保持器の一例を
図2及び
図3に基づいて説明する。
【0015】
図1に示す玉軸受1は、外周面に内側軌道面4が形成された内輪2と、内側軌道面4と対向する外側軌道面5が内周面に形成された外輪3と、両軌道面4,5間に転動自在に配された複数のボール6と、内輪2と外輪3の間に配置され、複数のボール6を周方向に間隔を空けて保持する環状の波形保持器7と、内輪2と外輪3の間の環状空間に介在するグリース等の潤滑剤(図示省略)とを備える。この潤滑剤の外部漏洩及び環状空間への異物侵入を防止すべく、環状空間の軸方向一方側及び他方側の端部にはシール部材20,20が配置されている。
【0016】
図2及び
図3に示すように、波形保持器7は、軸方向に重ね合わされた(軸方向に対向配置された)一対の環状部材8,8と、周方向に間隔を空けて配置され、一対の環状部材8,8を軸方向に結合した締結部材としてのリベット9とを備える。
【0017】
各環状部材8は、相手側(結合相手の環状部材8)と協働してボール6を転動自在に保持するポケット7aを画成する半球状の膨出部10と、相手側と軸方向に重ね合わされる平坦部11とを周方向に交互に配した波形形状を有し、周方向に間隔を空けて配置された複数の平坦部11のそれぞれには、環状部材8の表裏両面に開口した貫通孔12が形成されている。
【0018】
上記の構成を有する環状部材8は、鋼板(未焼入れの鋼板)にプレス加工を施すことで所定形状(上記の波形形状)に成形されたプレス成形品を基材とし、このプレス成形品に熱処理を施すことで波形保持器7に必要とされる機械的強度や表面硬度等が確保されている。詳細は後述するが、ここでは、上記のプレス成形品(未焼入れの環状部材)に軟窒化処理を施す一次熱処理を実行した後、軟窒化処理が施された環状部材に焼鈍処理を施す二次熱処理を実行することにより、所望の機械的強度や表面硬度等が確保された環状部材8が得られている。そのため、詳細な図示は省略しているが、環状部材8の表面には軟窒化処理の実施に伴って形成された窒化層が設けられている。これにより、環状部材8の表面硬度は、環状部材8の母材(環状部材8のうち、窒化層が形成されていない部分)の硬度よりも高くなっている。具体的には、環状部材8の表面硬度は、ビッカース硬さ(HV)で400~500程度となり、環状部材8の母材の硬度は、HV150~200程度となっている。
【0019】
締結部材としてのリベット9は、軸方向に重ね合わされた一対の環状部材8の貫通孔12に挿通された軸部9aと、一方の環状部材8の平坦部11(の外表面)と軸方向で係合した頭部9bと、他方の環状部材8の平坦部11(の外表面)と軸方向で係合し、頭部9bとの間で両環状部材8の平坦部11を挟持した加締め部9cと、を一体に有する。図示は省略するが、使用前(部品単体)のリベット9は、軸部9a及び頭部9bのみからなり、加締め部9cは有さない。
【0020】
以上の構成を有する波形保持器7は、主に、環状部材8の基材であるプレス成形品を得る成形工程と、プレス成形品(未焼入れの環状部材8)に対して熱処理を施す熱処理工程と、熱処理が施された一対の環状部材8を締結部材9で結合する結合工程と、を順に経て製造される。以下、上記の各工程について説明する。
【0021】
[成形工程]
この成形工程では、環状部材8の形状に対応した型部を有するプレス金型を用いて未焼入れの鋼板にプレス加工を施すことにより、プレス成形品からなる環状部材8の基材(未焼入れの環状部材8)を得る。上記の鋼板としては、例えば、SPCCに代表される冷間圧延鋼板や、SPHDに代表される熱間圧延鋼板等、軟質で加工性に富むものが好ましく使用される。
【0022】
[熱処理工程]
この熱処理工程では、未焼入れの環状部材8に対して軟窒化処理を施す一次熱処理と、軟窒化処理が施された環状部材8に対して焼鈍処理を施す二次熱処理とが実行される。
【0023】
未焼入れの環状部材8に対して施す一次熱処理としての軟窒化処理には、例えば、窒化媒体としてのアンモニアガス(NH3ガス)及び吸熱型変性ガス(RXガス)が充満されるガス雰囲気下に置かれた環状部材8を400~590℃(400℃以上590℃以下)の温度で所定時間(例えば、1~3hr)加熱する、いわゆるガス軟窒化処理が選択される。この軟窒化処理を未焼入れの環状部材8に施すことにより、この環状部材8の表面には鉄と窒素の化合物からなる高硬度の窒化層(窒化膜)が形成される。軟窒化処理時における未焼入れの環状部材8の加熱温度を400℃以上590℃以下とするのは、加熱温度が400℃未満の場合には高品質の窒化層を得ることができず、加熱温度が590℃を超える場合には環状部材8が熱変形するおそれがあるからである。
【0024】
軟窒化処理で使用する窒化媒体は、上述したものの他にも、アンモニアガスとメタノール分解ガスの混合ガス、固形尿素(CO(NH2)2)の分解ガス、あるいは窒素ベース(N2+NH3+CO2+H2)のガスなどであっても良い。また、未焼入れの環状部材8に施す軟窒化処理は、塩浴軟窒化処理であっても構わない。但し、塩浴軟窒化処理は、塩浴に有害物質の一種であるシアンが含まれている関係上、汚染防止対策(公害対策)が必要になる。
【0025】
軟窒化処理が施された環状部材8に対しては、二次熱処理としての焼鈍処理が施される。この焼鈍処理は、例えば、酸素雰囲気に置かれた環状部材8を180~200℃の温度で所定時間(例えば、1~3hr)保持することにより行われる。これにより、環状部材8のうち、窒化層の形成領域を除く領域の断面硬度が軟化する。焼鈍処理の実施時における環状部材8の加熱温度を180℃以上200℃以下としたのは、加熱温度が180℃未満の場合には加締め時に生成・蓄積される引張残留応力が大きくなり、所望の機械的強度が得られないからであり、加熱温度が200℃を超える場合には表面硬度が低下するからである。
【0026】
[結合工程]
この結合工程では、上記の熱処理(軟窒化処理及び焼鈍処理)が施された熱処理済の環状部材8を軸方向に重ね合わせた後、これら一対の環状部材8を締結部材としてのリベット9を用いて軸方向に結合する作業が実行される。図示は省略するが、この結合作業は、軸方向に重ね合わされた一対の環状部材8の貫通孔12にリベット9の軸部9aを挿通した後、リベット9を軸方向両側から圧縮してリベット9の軸部9aの自由端(頭部9bとは反対側の端部)を押し潰し、頭部9bとの間で両環状部材8の平坦部11を軸方向に挟持する加締め部9cを形成することにより行われる。これにより、熱処理済の一対の環状部材8が軸方向に結合された、
図2に示す波形保持器7が得られる。
【0027】
以上で説明したように、本実施形態では、鋼板(未焼入れ鋼板)のプレス成形品からなる未焼入れの環状部材8に対して熱処理を施す熱処理工程において、まず、未焼入れの環状部材8に対して400~590℃の温度で軟窒化処理を施す一次熱処理が実行される。これにより、環状部材8の熱変形を防止しつつ、環状部材8の表面に環状部材8の母材よりも高硬度の窒化層が形成されるので、表面硬度、ひいては耐摩耗性が高められた高精度の環状部材8を得ることができる。
【0028】
本実施形態では、上記の一次熱処理(軟窒化処理)に続いて、軟窒化処理が施された環状部材8を180~200℃の温度で所定時間保持する二次熱処理(焼鈍処理)が実行される。これにより、環状部材8の形状精度及び表面硬度は維持しつつ、環状部材8の母材の断面硬度を減じて環状部材8の靭性を高めることができる。そのため、熱処理工程(二次熱処理)後の結合工程において、リベット9を用いて一対の環状部材8を軸方向に結合するのに伴って環状部材8内に発生する引張残留応力を低減することが可能となり、結果として波形保持器7の疲労強度を高めることができる。
【0029】
この場合、窒化処理や焼入れ等の熱処理が施された高硬度・高強度のリベット9を用いて一対の環状部材8を軸方向に結合しても、玉軸受1の作動時に波形保持器7に繰り返し付与される応力に起因した波形保持器7の早期破損を可及的に防止することができる。従って、一対の環状部材8を軸方向に結合するに際し、熱処理が施された高硬度・高強度のリベット9を問題無く使用することが可能となる。
【0030】
以上の作用効果が相俟って、本発明によれば、高精度で、耐摩耗性や疲労強度が高められた信頼性・耐久性に富む高品質の波形保持器7を製造することができる。
【0031】
本発明者は、上記の軟窒化処理が施された環状部材8に対して上記の焼鈍処理を施す場合と施さない場合とで、リベット9を締結するのに伴って環状部材8(波形保持器7)内に発生する残留応力にどの程度の差が生じるかを確認した。具体的には、波形保持器7のうち、リベット9の頭部9bが接した部位(一方の環状部材8の平坦部11)、及びリベット9の加締め部9cが接した部位(他方の環状部材8の平坦部11)の二箇所で残留応力を測定した。確認結果(N=8の平均値)は以下の通りである。
(1)焼鈍処理を実施した場合
・リベット9の頭部9bが接した部位の残留応力:354MPa
・リベット9の加締め部9cが接した部位の残留応力:341MPa
(2)焼鈍処理を実施しない場合
・リベット9の頭部9bが接した部位の残留応力:504MPa
・リベット9の加締め部9cが接した部位の残留応力:481MPa
【0032】
上記の確認結果からも明らかなように、軟窒化処理が施された環状部材8に対して180~200℃の温度で所定時間保持する焼鈍処理を施せば、この焼鈍処理を実施しない場合に比べて3割程度残留応力を低減することができる。従って、本発明は、耐摩耗性及び疲労強度に優れた波形保持器7を製造する上で有用であると言える。
【0033】
以上、本発明の一実施形態に係る波形保持器7の製造方法について説明したが、本発明の実施の形態はこれに限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜の変更を施すことができる。
【0034】
例えば、以上では、熱処理後の一対の環状部材8を軸方向に結合するための締結部材にリベット9を使用したが、締結部材は、ボルト部材と、ボルト部材の雄ねじ部に螺着される雌ねじ部を有するナット部材の組み合わせ品であっても良い。但し、リベット9であれば、いわゆるボルト-ナット固定によって一対の環状部材8を軸方向に結合する場合に比べ、簡便かつ迅速に一対の環状部材8を軸方向に結合することができるので、波形保持器7の生産効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0035】
1 玉軸受
6 ボール
7 波形保持器
7a ポケット
8 環状部材
9 リベット(締結部材)
10 半球状の膨出部
11 平坦部