(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147371
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】光および熱供給装置
(51)【国際特許分類】
A61N 5/06 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
A61N5/06 Z
A61N5/06 A
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048581
(22)【出願日】2021-03-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-11-10
(71)【出願人】
【識別番号】521123068
【氏名又は名称】株式会社キベプランニング
(74)【代理人】
【識別番号】100071010
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 行造
(74)【代理人】
【識別番号】100118647
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 利昭
(74)【代理人】
【識別番号】100123892
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169993
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 千裕
(74)【代理人】
【識別番号】100173978
【弁理士】
【氏名又は名称】朴 志恩
(72)【発明者】
【氏名】木部 真知子
(72)【発明者】
【氏名】森 一美
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082PA01
4C082PC08
(57)【要約】
【課題】
構造が簡単で使い勝手が良く、適切に皮下を加温しつつ近赤外線の光を供給できる光および熱供給装置を提供すること。
【解決手段】
人体に接触した状態で固定可能な人体用光源ホルダーであって、人体と接触する側から窪んだ人体用空洞18が形成される、人体用光源ホルダー10と、人体用空洞に設置される人体用光源16と、温度制御用光源ホルダーであって、片側から温度制御用空洞28が形成された温度制御用光源ホルダー20と、温度制御用空洞に設置される、温度制御用光源26と、温度制御用光源ホルダーの温度制御用空洞の入口に設置される温度センサ50と、人体用光源および温度制御用光源に所定の電力を供給する電力源30と、温度センサで測定した温度に基づき、人体用光源および温度制御用光源に供給される電力を調整する制御装置40とを備える、光および熱供給装置1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体に接触した状態で固定可能な人体用光源ホルダーであって、人体と接触する側から窪んだ人体用空洞が形成される、人体用光源ホルダーと;
前記人体用空洞に設置される人体用光源と;
温度制御用光源ホルダーであって、片側から温度制御用空洞が形成された温度制御用光源ホルダーと;
前記温度制御用空洞に設置される、温度制御用光源と;
前記温度制御用光源ホルダーの前記温度制御用空洞の入口に設置される温度センサと;
前記人体用光源および前記温度制御用光源に所定の電力を供給する電力源と;
前記温度センサで測定した温度に基づき、前記人体用光源および前記温度制御用光源に供給される電力を調整する制御装置とを備える;
光および熱供給装置。
【請求項2】
前記温度制御用光源ホルダーは、前記人体用光源ホルダーと同材質で形成され;
前記人体用空洞と前記温度制御用空洞とは同一形状である;
請求項1に記載の光および熱供給装置。
【請求項3】
前記人体用光源と前記温度制御用光源とは同じ波長の光を放出する光源である;
請求項1または請求項2に記載の光および熱供給装置。
【請求項4】
前記同じ波長の光は、波長のピークが800nm~820nmである;
請求項3に記載の光および熱供給装置。
【請求項5】
前記人体用光源ホルダーは、シリコンゴムで形成され、交換可能である;
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の光および熱供給装置。
【請求項6】
前記人体用光源ホルダーを複数有し;
前記複数の人体用光源ホルダーはシートに固着されて、2次元的に配置される;
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の光および熱供給装置。
【請求項7】
前記複数の人体用光源ホルダーは、渦巻き状に配置される;
請求項6に記載の光および熱供給装置。
【請求項8】
前記複数の人体用光源ホルダーは、格子状に配置され;
同じ列の前記人体用光源ホルダーは、前記シートより曲げにくい連結体で接続される;
請求項6に記載の光および熱供給装置。
【請求項9】
前記人体用光源ホルダーには、複数の前記人体用空洞が形成され、各人体用空洞に前記人体用光源が設置される;
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の光および熱供給装置。
【請求項10】
前記人体用光源ホルダーを複数有し;
前記複数の人体用光源ホルダーは、ベルトに移動可能に取り付けられる;
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の光および熱供給装置。
【請求項11】
適温スイッチをさらに備え;
前記制御装置は、前記温度センサでの測定温度を前記適温スイッチが作動されたときの温度に維持するように、前記人体用光源および前記温度制御用光源に供給される電力を調整する;
請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の光および熱供給装置。
【請求項12】
設定温度を記憶するメモリをさらに備え;
前記制御装置は、前記温度センサでの測定温度を前記設定温度に維持するように、前記人体用光源および前記温度制御用光源に供給される電力を調整する;
請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の光および熱供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体に光を照射し、かつ、加温する光および熱供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
がん治療に際し、リンパ節切除やリンパ管断裂、放射線治療、タキサン系薬剤の使用等により、リンパ流路に閉塞や障害を生じ、リンパの流れが悪くなり、体液の貯留が生じ、長期貯留した状態をリンパ浮腫の発症という。リンパ浮腫はタンパク濃度の高い過剰体液が停留した状態であり、タンパクは保水力をさらに高める。また、リンパ浮腫発症の患肢は健肢(健常な脚)より体温が低い傾向にある。その理由は次のように考えられる。皮下の高内圧環境は血液循環にも悪影響を及ぼし、圧迫性阻血(虚血)を招く。持続した圧迫性阻血が細胞の変性、委縮、線維化を招く。これら産生エネルギの低下、圧迫性阻血等などが、血行不良の下地となり、患肢の体温低下の要因になる。
【0003】
現在、広く行われている治療法に圧迫療法がある。浮腫(過剰体液)軽減を目的に伸縮性のある弾性包帯を患肢に幾重にも(多層)巻きして40mmHg以上の強い外圧を作用させて、過剰体液の移動、または毛細血管へ水分の再吸収を促す。また、同じ圧迫目的の収縮性衣類(スリーブ、ストッキング)もある。他に、常時高い内圧に曝される患肢の上皮結合組織(皮膚)を保護するスキンケア、関節の可動維持及び筋肉のストレッチにより血行やリンパ流の維持を図ることもある。患者は毎日これらを組み合わせて行うことになる。過剰体液を減らしても、タンパク液は皮下に残り、すなわち、現状の治療は「対症療法」が主体であり、完治を目指す治療法は知られていない。リンパ浮腫を発症すると、完治が困難で、生涯にわたり自己管理を中心にして定期的治療を行う必要があり、患者の肉体的・精神的・経済的負担は大きい。
【0004】
浮腫による内圧の亢進は近在の細胞へ内圧ストレスを与え、生理学的メカニズムの規則性の変調、ヒトの恒常性維持機能の不安定化へと悪循環を生ずる。その防御には細胞への内圧ストレスを軽減するのがよく、細胞で産生するエネルギの増加を促す必要がある。そのためにはシトクロムCオキシダーゼを活性させることが有効である。シトクロムCオキシダーゼは、可視域の波長600nmから近赤外線の光の光受容体であることが知られ、光照射により賦活されることが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。また、近赤外線は皮下2~6mmの深達度があり、近赤外線の照射は、シトクロムCオキシダーゼの賦活に有効である。
【0005】
同時にその細胞を40℃程度に加温することにより血行を促して、動脈側では栄養素や酸素供給を、静脈側では体液の再吸収を促進することも有効である。すなわち、リンパ浮腫の寛解を目指すには、皮下を加温しつつ近赤外線の光を照射する治療が好ましい。
【0006】
一方、光照射を用いる治療装置も知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、ネオプレン(登録商標)で形成された装置本体に、波長の異なるLEDを層状に配置した装置が開示される。該装置では、異なる形状とされた装置本体を手、腕または足などの各治療部位ごとに装着することで、患部に光を照射する。また、該装置では、皮膚表面温度を測定するセンサを有し、プロセッサと共に装置本体に取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第US2005/0177093号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】櫛引、他「低出力レーザーの生体作用」日レ医誌、2014年、第34巻、第4号、384-393頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示された装置では、装着する部位毎に異なる装置本体が必要となる。また、装置本体にセンサやプロセッサが取り付けられており、装置が複雑でかつ大掛かりになる。さらに、センサは皮膚表面温度を計測するもので、治療の対象となる皮下での温度を計測するものではなく、皮下の加温が必ずしも適切に行えるものではない。
【0010】
そこで本発明は、構造が簡単で使い勝手が良く、適切に皮下を加温しつつ近赤外線の光を供給できる光および熱供給装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る光および熱供給装置1は、例えば
図1~3に示すように、人体に接触した状態で固定可能な人体用光源ホルダー10であって、人体と接触する側から窪んだ人体用空洞18が形成される、人体用光源ホルダー10と、人体用空洞18に設置される人体用光源16と、温度制御用光源ホルダー20であって、片側から温度制御用空洞28が形成された温度制御用光源ホルダー20と、温度制御用空洞28に設置される、温度制御用光源26と、温度制御用光源ホルダー20の温度制御用空洞28の入口に設置される温度センサ50と、人体用光源16および温度制御用光源26に所定の電力を供給する電力源30と、温度センサ50で測定した温度に基づき、人体用光源16および温度制御用光源26に供給される電力を調整する制御装置40とを備える。
【0012】
このように構成すると、人体用光源から人体に光を照射し、皮下を加温すると共に、温度センサで光源から照射される光のエネルギを計測して皮膚に与えるエネルギ、ひいては皮下の温度に基づき、供給する光のエネルギを調整できるので、構造が簡単で使い勝手が良く、適切に皮下を加温しつつ近赤外線の光を供給できる光および熱供給装置となる。
【0013】
本発明の第2の態様に係る光および熱供給装置1では、例えば
図3に示すように、温度制御用光源ホルダー20は、人体用光源ホルダー10と同材質で形成され、人体用空洞18と温度制御用空洞28とは同一形状である。このように構成すると、人体用光源ホルダーと温度制御用光源ホルダーから散逸する光が等しくなるので、温度センサで計測する光のエネルギが人体に供給される光エネルギと同等となる。
【0014】
本発明の第3の態様に係る光および熱供給装置1では、人体用光源16と温度制御用光源26とは同じ波長の光を放出する光源である。このように構成すると、人体用光源ホルダーと温度制御用光源ホルダーとが同じ波長の光を放出するので、温度センサで計測する光のエネルギが人体に供給される光エネルギと同等となる。
【0015】
本発明の第4の態様に係る光および熱供給装置1では、同じ波長の光は、波長のピークが800nm~820nmである。このように構成すると、800nm~820nmをピークとする波長の光を人体に照射するので、皮下2~6mmの深度、すなわち皮下にエネルギが到達し、シトクロムCオキシダーゼを活性させることができる。
【0016】
本発明の第5の態様に係る光および熱供給装置1では、例えば
図4に示すように、人体用光源ホルダー10は、シリコンゴムで形成され、交換可能である。このように構成すると、人体用光源ホルダーがシリコンゴムで形成されるので、皮膚が発汗しても吸収せず乾きやすく、消毒も容易であり、かつ、比重が比較的重く、装着時に患肢の複雑な形状になじみやすい。さらに、人体に接触する人体用光源ホルダーが交換可能であるので、衛生的である。
【0017】
本発明の第6の態様に係る光および熱供給装置1では、例えば
図4に示すように、人体用光源ホルダー10を複数有し、複数の人体用光源ホルダー10はシート60に固着されて、2次元的に配置される。このように構成すると、複数の人体用光源ホルダーがシートに固着されて、2次元的に配置されるので、広い範囲に光および熱を供給することができる。また、人体用光源ホルダーがシートに固着されるので、患肢の形状に沿って光および熱供給装置を装着しやすい。
【0018】
本発明の第7の態様に係る光および熱供給装置1では、例えば
図5に示すように、複数の人体用光源ホルダー10は、渦巻き状に配置される。このように構成すると、人体用光源ホルダーが渦巻き状に配置されるので、中心部に対応する位置に強い、その周囲に徐々に弱くなるに光および熱を供給でき、中心部をピークとして光および熱を供給できる。
【0019】
本発明の第8の態様に係る光および熱供給装置1では、例えば
図4に示すように、複数の人体用光源ホルダー10は、格子状に配置され、同じ列の人体用光源ホルダー10は、前記シートより曲げにくい連結体66で接続される。このように構成すると、連結体の長手方向と直交する方向に光および熱供給装置を巻き付けやすくなり、例えば、腕や脚に巻きやすくなる。さらに、人体用光源へ電力を供給するケーブルを連結体に沿わせることにより、ケーブルが保護され、また、使用中にケーブルが邪魔にならない。
【0020】
本発明の第9の態様に係る光および熱供給装置1では、例えば
図7に示すように、人体用光源ホルダー10には、複数の人体用空洞18が形成され、各人体用空洞18に人体用光源16が設置される。このように構成すると、複数の人体用光源ホルダーがシートに固着されて2次元的に配置されるので、所望の位置の皮下に光および熱を適切に供給でき、かつ、シートがたわむことで、複雑な人体の形状に沿って装着しやすい。
【0021】
本発明の第10の態様に係る光および熱供給装置1では、例えば
図6に示すように、人体用光源ホルダー10を複数有し、複数の人体用光源ホルダー10をベルト70に移動可能に取り付ける。このように構成すると、ベルトを巻くことで光および熱供給装置を人体に装着でき、また、複数の人体用光源ホルダーが移動可能であるので、所望の位置の皮下に光および熱を適切に供給できる。
【0022】
本発明の第11の態様に係る光および熱供給装置1では、例えば
図1に示すように、適温スイッチ46をさらに備え、制御装置40は、温度センサ50での測定温度を適温スイッチ46が作動されたときの温度に維持するように、人体用光源16および温度制御用光源26に供給される電力を調整する。このように構成すると、光および熱供給装置から照射される光は、使用者が快適となる温度を維持するように制御される。
【0023】
本発明の第12の態様に係る光および熱供給装置1では、例えば
図1に示すように、設定温度を記憶するメモリ48をさらに備え、制御装置40は、温度センサ50での測定温度を設定温度に維持するように、人体用光源16および温度制御用光源26に供給される電力を調整する。このように構成すると、光および熱供給装置から照射される光は、設定温度を維持するように制御される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、人体用光源から人体に光を照射し、皮下を加温すると共に、温度センサで光源から照射される光のエネルギを計測して皮膚に与えるエネルギ、ひいては皮下の温度に基づき、供給する光のエネルギを調整できるので、構造が簡単で使い勝手が良く、適切に皮下を加温しつつ近赤外線の光を供給できる光および熱供給装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施の形態としての光および熱供給装置を説明する構造図である。
【
図2】人体用光源ホルダーと人体用光源を説明する図で、(a)は断面図であり、(b)は皮膚側から見た平面図である。
【
図3】温度制御用光源ホルダー、温度制御用光源および温度センサを説明する断面図である。
【
図4】人体用光源ホルダーをシートに固定した例を示す図で、(a)は断面図、(b)は人体用光源の配置例を示す平面図である。
【
図5】人体用光源の別の配置例を示す平面図である。
【
図6】人体用光源ホルダーをベルトに取り付けた例を示す図で、(a)は平面図であり、(b)は断面図である。
【
図7】広がった人体用光源ホルダーに複数の人体用空洞が形成され、人体用光源が設置された例を示す断面図である。
【
図8】本発明による光および熱供給装置を用いて治療した結果を例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において、互いに同一または相当する装置には同一符号を付し、重複した説明は省略する。先ず
図1を参照して、光および熱供給装置1の全体的な構成を説明する。
【0027】
光および熱供給装置1は、人体に接触した状態で固定可能な人体用光源ホルダー10を有する。人体用光源ホルダー10は、後述するように、例えば、腕や脚などの人体に巻き付け固定可能である。人体用光源ホルダー10は、シリコンゴムで形成されると、皮膚から発汗しても汗を吸収することなく、乾きやすく、また、人体の複雑な形状に沿って人体用光源ホルダー10を装着するのに適度な重量となるので好ましい。しかし、シリコンゴムに限られず、例えば、クロロプレンゴムなどで形成してもよい。
【0028】
ここで、
図2を参照して、人体用光源ホルダー10に関して説明する。人体用光源ホルダー10には、人体と接触する側から窪んだ人体用空洞18が形成される。人体用空洞18は、その中に、人体用光源であるLED16を載置し固定するためのLED棚19が形成される。LED棚19に人体用光源16が載置され、LED16から人体に光を照射できるようにする。人体用空洞18は、人体用光源ホルダー10を貫通して形成されてもよい。人体用空洞18を人体用光源ホルダー10を貫通して形成することにより、人体用光源ホルダー10の背面(人体と接触するのとは反対側)から、LED16をLED棚19に載置しやすく、製造が容易になる。なお、人体用光源16は、LEDではなく、光ファイバその他、人体に光を照射できるものであればよい。人体用光源16は、後述するように、近赤外線の波長の光、好ましくは800nm~820nmをピークとする波長の光を発光する。
【0029】
人体用空洞18に設置される人体用光源16は、近赤外線の光を人体Pに照射する。典型的にはLEDであるが、光ケーブル、その他の光源であってもよい。近赤外線の光を人体に与えたときの効果については別に説明する。人体用光源16は、光および熱供給装置1が接する人体から所定の距離だけ離間した位置に配置される。所定の距離は、特に限定はされないが、例えば、3mm~5mmの範囲内であることが好ましい。人体の皮膚に近すぎると皮膚に接触してやけどを生ずる恐れがあり、また、離れすぎると光エネルギの伝達が悪くなったり、人体用光源ホルダー10が大きくなったりと不都合がある。
【0030】
図1に戻ると、光および熱供給装置1は、温度制御用光源ホルダー20を有する。温度制御用光源ホルダー20は、光および熱供給装置1を制御する制御ボックス42に収容すると、全体がコンパクトにまとまり使い勝手が良くなる。
【0031】
ここで、
図3を参照して、温度制御用光源ホルダー20に関して説明する。温度制御用光源ホルダー20は、人体用光源ホルダー10と同材質で形成されるのが好ましい。温度制御用光源ホルダー20には、温度制御用空洞28が形成され、温度制御用空洞28には温度制御用光源26が設置される。温度制御用空洞28は、人体用空洞18と同一形状で、同一寸法であるのが好ましい。また、温度制御用光源26は、人体用光源16と同一であることが好ましい。なおここでいう、「同一」とは、厳密な同一ではなく、例えば同一型番であったり、同一仕様あるいは同一図面に基づいて製造されたものであれば、同一であるし、経年変化等により違いを生じても同一である。
【0032】
温度制御用空洞28の温度制御用光源26と対向する入口に温度センサ50が設置される。温度センサ50は、サーミスタ、その他の公知の温度センサでよい。温度センサ50は、外面を黒くして、光エネルギの吸収を高めることが好ましい。また、温度センサ50で温度制御用空洞28の入口を覆うようにして、温度制御用空洞28から散逸しようとする、温度制御用光源26から生じた光エネルギの全てを吸収するようにする。すなわち、温度センサ50では、人体用光源16から人体に送られる光エネルギを測定することができる。
【0033】
再び
図1に戻ると、光および熱供給装置1は、人体用光源16および温度制御用光源26に電力を供給する電力源30を有する。電力源30は、バッテリであっても、家庭用電力から変換する変換器であってもよい。1つの人体用光源16と温度制御用光源26とには、同じ電力が供給される。よって、人体用光源16と温度制御用光源26とは同じ強さで発光する。
【0034】
光および熱供給装置1は、制御装置40を有する。制御装置40は、温度センサ50で測定した温度に基づき、人体用光源16および温度制御用光源26に供給される電力量を調整する。
【0035】
光および熱供給装置1は、適温スイッチ46を備える。人体用光源16からの照射により、光および熱供給装置1を装着しているユーザ(不図示)の皮下温度が適切な温度となったときに、ユーザあるいは光および熱供給装置1を操作する者(不図示)が適温スイッチ46を作動する。光および熱供給装置1を使用していて、皮下温度が適切な温度になったとは、皮下が適度に加温され、血行が促進されている状態である。典型的には40℃~42℃であるが、個人差はある。また、特にリンパ浮腫の患肢では、健肢より体温が低くなりがちで、例えば37℃という通常の温度に加温されても血行が促進され、皮下温度が適切な温度になることがある。例えば、毛細血管の血流を測定して血流が増加したときに適温スイッチ46を作動してもよいし、あるいは、光および熱供給装置1を装着しているユーザ(不図示)が皮下温度が加温され血行が促進されて、入浴時と同様に気持ちよく感じるときに適温スイッチ46を作動してもよい。そこで、制御装置40は、適温スイッチ46が作動された状態を維持するように、すなわち、温度センサ50で測定される温度を適温スイッチ46が作動されたときの温度と同じになるように、人体用光源16および温度制御用光源26に供給される電力量を調整する。電力量の調整は、サーモスタット44を備えて、サーモスタット44により人体用光源16および温度制御用光源26への電力供給をオンオフすればよい。あるいは、人体用光源16および温度制御用光源26に印加する電圧を調整してもよい。
【0036】
光および熱供給装置1は、メモリ48を備える。メモリ48には、光および熱供給装置1の装着者の皮下温度が適切となったときの温度センサ50で測定される温度が設定温度として記憶される。多数の装着者の皮下温度が適切となったときの平均値として設定温度は1つの値でもよいし、装着者ごとに異なる温度でもよいし、光および熱供給装置1の使用目的、例えばリンパ浮腫治療、運動不足による体のコリ、肌の美容等により異なった複数の温度としてもよい。制御装置40は、温度センサ50で測定される温度が設定温度と同じになるように、人体用光源16および温度制御用光源26に供給される電力量を調整する。
【0037】
このようにすることにより、温度センサ50で測定した温度に基づいて皮下温度を適切な温度、すなわち血行が促進されて快適な温度に保つことができる。特に、温度制御用光源ホルダー20と人体用光源ホルダー10とが、同材質で形成され、かつ、温度制御用空洞28と人体用空洞18とが同一形状・寸法であるので、温度制御用光源26から温度センサ50が受けるエネルギと、人体用光源16から皮膚が受けるエネルギとが同じとなり、温度センサ50での温度測定と装着者の皮下温度との整合性が高くなる。なお、表皮温度と皮下温度は一致しないので、人体から直接皮下温度を測定するのは大掛かりな装置や被検温者への負担が大きく、困難である。さらに、表皮の温度を測定する場合に比べ、温度センサ50で温度を測定すると、発汗の影響も受けず、人体に装着する装備を小さくできるなどの多くの利点が得られる。
【0038】
図1に示す光および熱供給装置1では、電力源30、制御装置40、サーモスタット44、適温スイッチ46、メモリ48は、制御ボックス42に収容される。さらに、温度制御用光源ホルダー20も、すなわち、温度センサ50も、制御ボックス42に収容される。このように構成すると、光および熱供給装置1は、人体用光源ホルダー10、あるいは、後述する人体用光源ホルダー10付きシート60若しくは人体用光源ホルダー10付きベルト70と、制御ボックス42で構築されることになり、ハンドリングしやすい。しかし、この構成に限定されることはない。また、適温スイッチ46とメモリ48の何れかだけを備えていてもよく、制御装置40、適温スイッチ46、メモリ48等は、パーソナルコンピュータ等の他の装置の一部であってもよい。また、サーモスタット44を備えていなくてもよい。
【0039】
続いて、
図4を参照して、人体用光源ホルダー10をシート60に固着する例を説明する。人体用光源ホルダー10は、人体側あるいは背面側のどちらでシート60に固着されてもよいが、
図4では、人体側で固着する例を示す。
図4(a)に示すように、複数の人体用光源ホルダー10をシート60に固着する。シート60には、複数の人体用光源ホルダー10の人体用空洞18に対応する箇所に穴62が形成され、人体用光源16から照射される光を遮らないようにされる。人体に接触する人体用光源ホルダー10を交換可能にしすると、衛生的であるので好ましい。その際には、シート60も交換してもよい。使用後に、あるいは、装着者ごとに人体用光源ホルダー10を交換して、常に清潔な状態で使用するためである。あるいは、シート60が皮膚に接触する部分に、交換可能な不織布または不織紙14を貼付してもよい。人体と接触する部分を交換可能として、使用後に、あるいは、装着者ごとに不織布または不織紙14を交換して、常に清潔な状態で使用するためである。
【0040】
図4(b)に、人体用光源ホルダー10、すなわち人体用光源16の配置例を示す。人体用光源16を格子状に配置すると、広い部分に均一に光を照射するのに適する。人体用光源16の間隔は、光および熱供給装置1の使用目的によっても変わるが、例えばリンパ浮腫の治療では、20~30mmとしてもよい。
【0041】
シート60は、伸縮性は小さいが、曲がりやすい素材、例えば、ポリ塩化ビニルなどで形成される。人体用光源ホルダー10が片側の面に所定の間隔を開けて固着され、人体用光源ホルダー10の人体用空洞18に対応する位置には、穴が形成される。また、人体用空洞18を複数列の直線状に配置してもよく、その際には、一列に並んだ人体用光源ホルダー10の背面側(人体に接触するのと反対側)をシート60より曲げにくい連結体66で接続してもよい。連結体66を用いることにより、連結体66の長手方向と直交する方向に人体用光源ホルダー10付きシート60を巻き付けやすくなり、例えば、腕や脚に巻きやすくなる。さらに、連結体66の内部にLED16用のケーブルを通すことにより、ケーブルが保護され、また、使用中にケーブルが邪魔にならない。連結体66は、容易に曲がらない剛性を有していればよく、その材質、形状等は、特に限定されない。たとえば、連結体66は塩化ビニル樹脂製板で形成してもよい。なお、複数の人体用光源16および連結体66を覆う保護カバー68を付けると、ケーブルを痛めることを防止出来て好ましい。人体用光源ホルダー10付きシート60は、人体に巻き付けた上から紐やバンドで固定する。
【0042】
図5に
図4とは異なる人体用光源16(人体用光源ホルダー10)の配置例を示す。人体用光源16は中心の人体用光源16-1から渦巻き状に広がって配置される。渦巻き状という場合、人体用光源16-1から1本の曲線が周囲を回りながら(
図5では反時計回り)徐々に中心から離れていく状態をいう。また、中心周りに一回りすると、中心から離れる距離が大きくなる。このように人体用光源16を配置すると、治療箇所等の光を強く照射したい部位を中心に人体用光源16を配置することで、中心で強く、その周囲で徐々に弱く光を照射することができる。さらに、人体用光源16が渦巻き状に広がっているので、人体用光源16へ電力を供給するケーブル(不図示)を渦巻き状に沿わせることにより、容易に1系列のケーブルで複数の人体用光源16に電力を供給でき、製造が容易になる。
【0043】
なお、人体用光源16を同心円状に配置してもよい。同心円状とする場合に、同心円の間隔を中心近くは狭くして、中心から離れると広くしてもよいし、等間隔としてもよい。人体用光源16を同心円状に配置することにより、周囲より中心で強く光を照射することができる。
【0044】
次に
図6を参照して、複数の人体用光源ホルダー10をベルト70に移動可能に取り付けた人体用光源ホルダー10付きベルト70について説明する。人体用光源ホルダー10にベルト70を通すためのスリット17を形成する。スリット17は、人体用光源16より背面側に形成することで、人体用光源16の光照射を妨げない。スリット17にベルト70を通すことで、人体用光源ホルダー10はベルト70に移動可能に取り付けられる。ベルト70に取り付ける人体用光源ホルダー10の数には制限はなく、用途に応じた数を取り付けてよい。
【0045】
ベルト70は、どのような材料で形成してもよいが、人体用光源ホルダー10を固定する強度があり、たわみやすく、比重が大きすぎない素材がよく、例えば、綿を編んだベルトでもよい。ベルト70を、例えば、腕や脚に巻き付けることにより、人体用光源ホルダー10を固定することができる。その際に、人体用光源ホルダー10がベルト70上で移動可能なので、所望の位置に強く光を照射するように移動させることができる。
【0046】
これまでの説明では、複数の人体用光源ホルダー10をシート60あるいはベルト70に固着して、人体に固定配置にするものとして説明したが、例えば
図7に示すように、人体用光源ホルダー10そのものが広がり、そこに複数の人体用空洞18が形成され、人体用光源16が設置されてもよい。この場合には、人体用空洞18を繋ぐ人体用光源ホルダー10の部分である人体用光源ホルダー本体12を例えばクロロプレンゴムで形成することにより、人体用光源ホルダー本体12がたわみ、複雑な形状の人体に沿って変形することができる。この場合、人体用空洞18の周囲の材料と人体用光源ホルダー本体12の材料とが同じであっても、異なっていても、すなわち異材を組み合わせて人体用光源ホルダー10を形成してもよい。
【0047】
あるいは、
図3に示す一列に並んだ人体用光源16を1つの人体用光源ホルダー10に設置してもよい。この場合には、人体用光源ホルダー10がたわむ必要がなく、また、人体用光源ホルダー10がたわまなければ連結体66を備える必要もない。
【0048】
次に、近赤外線の光を人体に照射したときの効果について説明する。人体用光源16から近赤外線の光を人体に照射すると、光エネルギは皮膚から2~6mmの深さの皮下に到達する。浅層の毛細リンパ管網が深度50μm近辺、深層のリンパ管が100~200μm近辺、その奥に少し太いリンパ管や血管が存在するので、いずれも近赤外線照射範囲に存在する。そして、近赤外線の光によりシトクロムCオキシダーゼが賦活される。シトクロムCオキシダーゼが賦活されることにより、細胞の産生するエネルギが増加し代謝が促進される。さらに例えば40~42℃という皮下の血行が良くなる温度に加温すれば、動脈側では栄養素や酸素供給を、静脈側では体液の再吸収が高まる。浮腫悪化要因の一つとされる長期内圧ストレスから生じる組織レベルの低体温、低酸素状態が改善に向かい、リンパ浮腫の根本的治療に効果を有する。
【0049】
なお、発明者らの経験によれば、近赤外線の中でも、波長800~820nmの光が、シトクロムCオキシダーゼの賦活に効果的である。そこで、800nm~820nmをピークとした波長分布を有する光を照射するのが好ましい。
【0050】
このように、本発明による光および熱供給装置1によれば、皮下に近赤外線の光を与え、かつ、血行を良くする温度に加温できるので、リンパ浮腫を治療することができる。さらに、皮下のシトクロムCオキシダーゼの賦活と血行の促進により、生理学的機能の回復や皮膚の若返り等の多くの効果も得られる。
【実施例0051】
以下、発明による光および熱供給装置をリンパ浮腫の患者に適用した実施例について説明する。使用条件は、下記の通りとした。
(光および熱供給装置)
6×6の36個の定格波長800nmのLEDを3cm間隔で格子状シートに配置した人体用光源ホルダー付きシート、足首には、12個の定格波長800nmのLEDを3cm間隔で等間隔に配置した人体用光源ホルダー付きベルトを用い、温度センサでの測定温度を40℃になるように制御した。
(1回ごとの使用条件)
近位リンパ節群(鼠径部)、近位強線維化部位(大腿部に生じた組織の線維化が集中した部位を中心に)、遠位リンパ節群(膝窩、足首)、遠位の強線維化部位(ふくらはぎ等)を20~25分、光照射した。
(使用頻度)
上記の光照射を週に2回、2020年7月27日~2021年2月9日まで行った。
【0052】
(使用による効果)
リンパ浮腫の患者は、過剰体液により下肢全体、特に左足がむくみ、組織の線維化が進み、膝・足首が曲がらないなどの症状が出ていた。上記の6月半程度の使用により、むくみが改善し、組織の線維化も緩和され、膝・足首も曲げられるようになった。鼠径部での左足の太さの計測結果(cm)を縦軸に、計測した日付を横軸として、
図8に示す。図からもむくみが顕著に軽減されたことが理解される。