(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147514
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】プラスチックダンボール
(51)【国際特許分類】
B65D 65/00 20060101AFI20220929BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20220929BHJP
C08L 23/12 20060101ALI20220929BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B65D65/00 A
C08K3/26
C08L23/12
C08L27/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048788
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】592093958
【氏名又は名称】酒井化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592228228
【氏名又は名称】テン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110814
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】佐野 真也
(72)【発明者】
【氏名】岸本 彩加
(72)【発明者】
【氏名】岩本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】後藤 久徳
【テーマコード(参考)】
3E086
4J002
【Fターム(参考)】
3E086AB01
3E086AD02
3E086BA15
3E086BA35
3E086BB71
3E086BB85
3E086BB90
4J002BB121
4J002BD152
4J002DE236
4J002FD016
4J002GG01
(57)【要約】
【課題】 難燃性が高く、製造コストの低減と環境負荷の低減を両立させることができ、強度などの品質を低下させないプラスチックダンボールを提供する。
【解決手段】 プラスチック中に無機材料の粒子を分散混合したプラスチック板から形成されたプラスチックダンボールであって、 前記プラスチックがポリプロピレン(PP)で、前記無機材料が炭酸カルシウムで、前記プラスチック板における前記無機材料の含有割合が、前記プラスチックに対して30質量%以上60質量%未満としてある。プラスチック板における前記炭酸カルシウムの含有割合は50質量%~55質量%とするのが好ましい。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック中に無機材料の粒子を分散混合したプラスチック板から形成されたプラスチックダンボールであって、
前記プラスチックがポリプロピレン(PP)で、
前記無機材料が炭酸カルシウムで、
前記プラスチック板における前記炭酸カルシウムの含有割合が30質量%以上60質量%未満であること、
を特徴とするプラスチックダンボール。
【請求項2】
前記炭酸カルシウムの含有割合が50質量%~55質量%であることを特徴とする請求項1に記載のプラスチックダンボール。
【請求項3】
前記炭酸カルシウムの粒子の純度が90%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラスチックダンボール。
【請求項4】
前記炭酸カルシウムの粒子の平均粒径が15μm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のプラスチックダンボール。
【請求項5】
溶湯の溶融張力を調整するための添加剤を1~5質量%の含有割合で添加したことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のプラスチックダンボール。
【請求項6】
前記添加剤が、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレン系のものであることを特徴とする請求項5に記載のプラスチックダンボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種製品の梱包用の箱や仕切板、敷板などに利用されるプラスチックダンボールに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックダンボールは、上下一対のプラスチック板の間に複数のリブが形成され、これらのリブが上下一対のプラスチック板に連結、接着されて構成されている。リブ間には空間が形成され、プラスチックダンボール板全体として軽量となるように構成されている(例えば特許文献1参照)。
このようなプラスチックダンボールは腐食に強く、汚れた場合にも水などで洗浄可能であり軽量であるので各種製品の梱包用の箱や仕切板、敷板などに広く利用されている(例えば特許文献2参照)。
上記した従来のプラスチックダンボールは、主としてポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のプラスチックが使用されているが、これらのプラスチックをプラスチックダンボールの材料として使用した場合、使用後に廃棄する際の環境負荷が大きいという問題がある。
【0003】
そのため、プラスチック主剤に対しデンプンを配合したプラスチックダンボールが提案されている(特許文献3参照)。この文献に記載の技術では、天然由来材料であるデンプンを混合することでプラスチックの使用量を減らし、環境負荷を低減できるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-1434号公報
【特許文献2】特開2009-262943号公報
【特許文献3】特開2008-307688号公報(段落0025の記載参照)
【特許文献4】特許第3810982号公報
【特許文献5】特開昭60-179435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、プラスチック中におけるデンプンの分散相を微細化・均一化するには、界面において両者の親和性を向上させる相溶化剤を配合する必要があること(特許文献3の段落0025の記載参照)、プラスチックに混合するためのデンプンを生産・精製しなければならないことなどの理由から、プラスチックの使用量が減ってもプラスチックダンボールの製造コストが上昇するという問題がある。また、プラスチックに混合するためのデンプンを生産・精製する過程においてエネルギーが必要となり、プラスチックダンボールの生産過程の全体における環境負荷の低減率はそれほど大きくないという問題もある。
【0006】
なお、プラスチック中に古紙などの紙を混合したプラスチック板も提案されているが(例えば特許文献4参照)、このような混合物を含むプラスチック板は、成形品を押出成形等する際に金型内での流動抵抗が上昇するため、高い圧力を必要として成形機に多大な負荷を掛けたり、成形の時間が延びて成形コストが上昇したりするという問題があるほか、成形品が脆くなることによる品質の低下などの問題がある。さらに、プラスチック板から形成したプラスチックダンボールについても難燃性が高いことが望まれるが、デンプンや紙を含むプラスチックダンボールは燃えやすく、このような要求には応えられないという問題もある。
【0007】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたもので、天然由来の材料であって特段の生産・精製がほとんど不要で、混合することでプラスチックの使用量を減らし、実質的に製造コストの低減と環境負荷の低減が両立できること、プラスチックに混合しても成形圧力の上昇や成形機への負荷を高めることなく、プラスチックダンボールの強度などの品質を低下させないこと、難燃性が高いこと、という全ての条件を満たすことのできるプラスチックダンボールの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の発明者は鋭意検討を行った。検討の過程において、特許文献5の技術を参考とした。この文献では、プラスチック77~25重量%に、炭酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ又は水酸化アルミニウムなどの無機補強剤23~75重量%を添加した「プラスチック段ボール用組成物」が提案されている。この中で、特に炭酸カルシウムの粒子は安価で容易に入手でき、環境負荷の軽減にも好適である。しかし、特許文献5に示されている技術情報のみでは、いかに組み合わせても本願発明の課題を解決することはできなかった。そこで、本願発明の発明者は、プラスチックダンボールに用いられる種々のプラスチックと炭酸カルシウムの組み合わせとから、本発明の課題を解決できる組み合わせを種々検討し、本発明に想到した。
【0009】
具体的に請求項1に記載のプラスチックダンボールは、プラスチック中に無機材料の粒子を分散混合したプラスチック板から形成されたプラスチックダンボールであって、前記プラスチックがポリプロピレン(PP)で、前記無機材料が炭酸カルシウムで、前記プラスチック板における前記無機材料の含有割合が30質量%以上60質量%未満としてある。請求項2に記載するように、前記炭酸カルシウムの含有割合を50質量%~55質量%とするのが好適である。また、請求項3に記載するように、前記炭酸カルシウム粒子は、純度が90%以上のものを用いるのが好ましく、請求項4に記載するように、前記炭酸カルシウムの粒子の平均粒径は15μm以下であるのが好ましい。
【0010】
無機材料の含有割合が高くなると、溶湯の流動性が低下して成形圧力が高くなるため、溶湯の温度を高くしなければならない場合がある。しかし、例えばポリプロピレンのような熱可塑性プラスチックでは、溶湯の温度が高くなるほど垂れ下がりが顕著になる傾向がある。そのため、請求項5に記載するように、溶湯の溶融張力を調整するための添加剤を1~5質量%の含有割合で添加するとよい。このような添加剤としては、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレン系のものを用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のプラスチックダンボールの好適な実施形態を以下に詳細に説明する。
[プラスチック]
炭酸カルシウムなどの無機材料を混合することで、環境負荷を小さくしたり難燃性を向上させたりすることのできるプラスチックであって、プラスチックダンボールに用いられるプラスチックとしては、ポリオレフィン系プラスチック、ポリ塩化ビニル系プラスチック(PVC)、及びポリスチレン系プラスチック等を挙げることができる。
ポリオレフィン系プラスチックとしては、ポリエチレン系プラスチック及びポリプロピレン系プラスチック等を挙げることができ、これらを併用したものを用いられている。ポリエチレン系プラスチックとしては、例えば低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレン等が挙げられる。
本発明のプラスチックダンボールでは、剛性や耐熱性に優れるポリプロピレン系プラスチックを用いるものとし、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレンと少量のエチレン及び/又はα-オレフィン等のコモノマーとの共重合体、又はこれらに非晶性のエチレン・α-オレフィン共重合体が分散している重合体などを挙げることができる。
【0012】
[無機材料]
プラスチックダンボール以外の分野においては、プラスチックに無機材料を混合することが知られており、例えば「ストーンペーパー」として市販もされている。このようなプラスチックにおいて前記した無機材料は、シリカ、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸カリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、ドロマイト、ハイドロタルサイト、塩基性炭酸マグネシウム、酸化スズの水和物、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化マンガン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化コバルト、酸化ビスマス、酸化クロム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化ニッケル、酸化銅、酸化タングステン、アルミニウム、鉄、チタン、マンガン、亜鉛、モリブデン、コバルト、ビスマス、クロム、ニッケル、銅、タングステン、スズ、アンチモン、SUS、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、水和ガラス等が知られている。
【0013】
本発明のようなプラスチックダンボールにおいて、プラスチックとしてポリプロピレン系のものを用いた場合、押出成形時の溶湯の流動性、押出時の温度や圧力などの成形条件が従来のプラスチックダンボールの成形とあまり変わらず、従来のプラスチックダンボールと同等の品質(強度等)を維持することができ、かつ、コスト低減や環境負荷低減に寄与するものとしては、天然素材由来の炭酸カルシウムが好適である。ポリプロピレン系プラスチックに混合する炭酸カルシウムの粒子の純度は90%以上のものがあるのが好ましく、その平均粒径は15μm以下のものであるのが好ましい。
【0014】
[混合の割合]
本発明における炭酸カルシウムとプラスチックとの混合の割合は、プラスチック板における炭酸カルシウムの含有割合が30質量%以上60質量%未満となるようにするのが好ましい。プラスチック板に含有される無機材料の割合が30質量%未満であると、難燃性など無機材料混合の効果が不十分で、60質量%以上であると、プラスチック板の強度低下など品質が低下するなどの問題が生じる。好ましい含有割合は50~55質量%である。
【0015】
[添加剤]
添加剤としては、プラスチック板の難燃性を高め、プラスチックを高温で溶融させた時にも溶湯の粘性を一定以上に保つことができるとともに、廃棄燃焼時に溶けたプラスチックの垂れ落ちを抑制することができるものを選択するとよい。このような添加剤としては例えばアクリル変性ポリテトラフルオロエチレン系のものを用いることができる。アクリル変性ポリテトラフルオロエチレン系のもの添加剤としては、例えば三菱ケミカル株式会社が販売しているメタブレン(登録商標)シリーズのものを挙げることができる。メタブレンは、溶湯の溶融張力を向上させて垂れ下がりを抑制するという効果がある。特に 無機材料の含有割合を高くするほど、押出成形時の成形圧力が高くなるため溶湯の温度を上げて成形を行う必要があるが、前記溶融張力の温度依存性が高いポリプロピレンなどのプラスチックでは溶湯温度が高くなるほど垂れ下がりが顕著になる。そのため、このような熱可塑性樹脂にはメタブレンの添加が効果的である。また、無機材料の含有割合が高くなるとロールへの白粉の堆積が増える傾向にあるが、メタブレンは、このような白粉の堆積も抑制する効果がある。このような添加剤は、プラスチック板に対して1~5質量%の含有割合となるように添加するとよい。
【0016】
[実施例]
本発明の発明者は、以下の条件でプラスチックダンボールの材料となるプラスチック板の押出成形を行った。
プラスチック:ポリプロピレン(PP)
無機材料:炭酸カルシウム
添加剤:メタブレン(登録商標)A-3000
無機材料の含有の割合:プラスチック板における無機材料の含有割合が25質量%~70質量%となるように混合した。無機材料を混合する場合は、添加剤としてメタブレンを3質量%添加した。そして、5質量%刻みで溶湯の温度、流動性、押出成形時の成形圧力、メヤニ、ロールへの白粉の堆積度、難燃性、プラスチック板の強度について、検討を行った。その結果を以下の表1に示す。
【0017】
【0018】
各含有割合においては、炭酸カルシウムを混合しない従来のポリプロピレン製のプラスチックダンボール製造時の各条件などを基準としてある。すなわち、表1において炭酸カルシウムを混合しない場合(0質量%の場合)の溶湯の流動性、成形圧力、メヤニ、ロールへの白粉の堆積の程度、プラスチック板の強度の各々を「◎」、難燃性を「×」として、炭酸カルシウムを混合した場合の比較の基準としている。
上記の表1からわかるように、溶湯の温度と流動性、成形時の圧力は互いに連関性があり、炭酸カルシウム(無機材料)の含有割合が高くなるほど高い溶湯温度と成形圧力が必要となり、同じ溶湯温度では流動性が低下する傾向にある。炭酸カルシウムの含有割合は60質量%以下では運転に支障のない許容範囲であるが、60質量%を超えると、溶湯の温度を高くしても流動性が著しく悪くなり、高い成形圧力が必要となって、実用的な押出成形が困難になる(表1においては「△」及び「×」で示してある)。
【0019】
また、プラスチック板の強度も60質量%を超えたあたりから急速に低下する。さらに、「メヤニ」と称される金型へのプラスチックカスの付着や、ロールへの白粉の堆積も、無機材料の含有割合が高くなるほど多くなり、含有割合が55質量%を超えたあたりから運転への悪影響が目立つようになる。なお、ロールへの白粉の堆積は、メタブレンの添加割合を増やすことで抑制することが可能である。その一方で、炭酸カルシウムの含有割合が高くなるほど難燃性も高くなる。
以上の検討から、ポリプロピレン製のプラスチックダンボールの製造において本発明の効果を奏する炭酸カルシウムの好適な含有割合は、30質量%~60質量%の範囲であり、50質量%前後(45質量%~55質量%)が好ましく、50~55質量%の範囲内が最も好ましい。