(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147532
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】ラムナン硫酸含有組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20220929BHJP
C08B 37/00 20060101ALI20220929BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220929BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20220929BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220929BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220929BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20220929BHJP
A61K 31/737 20060101ALI20220929BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20220929BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220929BHJP
A61K 36/05 20060101ALN20220929BHJP
A61K 35/748 20150101ALN20220929BHJP
【FI】
A23L33/10
C08B37/00 Q
A61P43/00 111
A61P7/02
A61P3/10
A61P9/00
A61P31/12
A61K31/737
A61K47/12
A61K47/02
A61K36/05
A61K35/748
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048811
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】304040441
【氏名又は名称】江南化工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108280
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 洋平
(72)【発明者】
【氏名】大谷 淨治
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 匡博
(72)【発明者】
【氏名】松田 孝一
(72)【発明者】
【氏名】内田 亮太
(72)【発明者】
【氏名】西村 訓弘
【テーマコード(参考)】
4B018
4C076
4C086
4C087
4C088
4C090
【Fターム(参考)】
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4C088ZC35
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4C090CA10
4C090DA09
4C090DA23
4C090DA27
(57)【要約】
【課題】 海藻類からラムナン硫酸含有組成物を効率よく得る方法等を提供すること。
【解決手段】 重量平均分子量が10,000~5,000,000、α-アミラーゼ阻害活性の50%阻害濃度(IC50)が0.9mg/mL~0.12mg/mL、血液凝固の2倍延長濃度(CT2)が280mg/mL~400mg/mLであるラムナン硫酸含有組成物によって達成される。このとき、酸の量が乾燥海藻類に対して0.6mg/g~1500mg/gであることが好ましい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が10,000~5,000,000、α-アミラーゼ阻害活性の50%阻害濃度(IC50)が0.9mg/mL~0.12mg/mL、血液凝固の2倍延長濃度(CT2)が280mg/mL~400mg/mLであるラムナン硫酸含有組成物。
【請求項2】
上記ラムナン硫酸含有組成物中に0.6mg/g~1500mg/gの酸が含有されている請求項1に記載のラムナン硫酸含有組成物。
【請求項3】
海藻類に水を乾燥重量の2倍量~50倍量加え、加熱処理することを特徴とするラムナン硫酸含有組成物の製造方法。
【請求項4】
前記海藻類は、ヒトエグサ、スジアオノリ、アナアオサ、リボンアオサ及びスピルリナからなる群から選択される少なくとも一つである請求項3に記載のラムナン硫酸含有組成物の製造方法。
【請求項5】
前記加熱処理は、60℃以上の温度において5分間以上を置く処理である請求項3または4に記載のラムナン硫酸含有組成物の製造方法。
【請求項6】
前記加熱処理は、オートクレーブ処理であり、105℃~135℃の温度において1分~30分の時間を置く処理である請求項3または4に記載のラムナン硫酸含有組成物の製造方法。
【請求項7】
前記加熱処理の際に、酸を添加しておく請求項3~6のいずれか一つに記載のラムナン硫酸含有組成物の製造方法。
【請求項8】
前記酸は、酢酸、塩酸、リンゴ酸、シュウ酸、クエン酸及びリン酸からなる群から選択される少なくとも一つである請求項3~7のいずれか一つに記載のラムナン硫酸含有組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラムナン硫酸含有組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラムナン硫酸は、海藻類(例えば、ヒトエグサ、スジアオノリ、アナアオサなどの緑藻類や、スピルリナなどの微細藻類など)に含まれる多糖類の一種であり、L-ラムノースと硫酸化L-ラムノースを主な構成糖とし、平均分子量は数万~数百万程度である。ラムナン硫酸に認められる生理活性として、血糖値上昇抑制効果、血管障害改善効果、抗ウイルス効果などが知られている(特許文献1)。
また、ラムナン硫酸を海藻類から効率的に製造する方法についての研究開発も行われている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-189563号公報
【特許文献2】特開2015-057982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、海藻類からラムナン硫酸を抽出する場合には、回収率が十分とは言えず、更なる研究の余地が残されていた。
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、海藻類からラムナン硫酸含有組成物を効率よく得る方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意検討の結果、海藻類に水を添加後、所定温度と時間で加熱処理すること、更にこのとき適当な酸を加えておくことにより、ラムナン硫酸の抽出率を向上できることを見出し、基本的には本発明を完成するに至った。
こうして、本発明に係るラムナン硫酸含有組成物は、重量平均分子量が10,000~5,000,000(好ましくは200,000~2,500,000)、α-アミラーゼ阻害活性の50%阻害濃度(IC50)が0.9mg/mL~0.12mg/mL、血液凝固の2倍延長濃度(CT2)が280mg/mL~400mg/mLである。
このとき、上記ラムナン硫酸含有組成物中に0.6mg/g~1500mg/gの酸が含有されていることが好ましい。本発明では、酸としては、各種のものを用いることができる。この中で特に、リンゴ酸24.11mg/g~89.94 mg/g,リン酸17.34mg/g~65.93mg/g,クエン酸12.78mg/g~105.26mg/g,酢酸11.05mg/g~607.03mg/g,塩酸2.70mg/g~6.78mg/g,シュウ酸0.71mg/g~16.55mg/g(いずれもラムナン硫酸含有組成物の重量あたり)であることが好ましい。
ラムナン硫酸含有組成物の一つである乾燥ヒトエグサ粉末の含水率は10~20%であり、上記は15%とし、後記した(式2)を用いて求めることができる。
また、ラムナン硫酸含有組成物中の酸の量を実際に測定するには、従来公知の中和滴定、液体クロマトグラフィー、質量分析などの分析方法を用いることができる。
【0006】
また、別の発明に係るラムナン硫酸含有組成物の製造方法は、海藻類に水を加え、加熱処理することを特徴とする。
このとき、添加する水の量としては、乾燥した海藻類の質量当たり、2倍量~50倍量(好ましくは5倍量~30倍量)を加える。水の添加量が少ないと十分な溶出が行われず、多すぎると加熱処理後の処理の手間が大きくなってしまう。このため、2倍量~50倍量(好ましくは5倍量~30倍量)の水を加えることが好ましい。
海藻類としては、ヒトエグサ、スジアオノリ、アナアオサ、リボンアオサ、スピルリナなどを用いることができる。海藻類については、そのまま或いは適当な大きさ(切断、粉砕など)として用いることができる。このとき、粗粉末の製法については、破砕した海藻類において、適当な間隔(例えば2mm×2mm)の網を通過し、それよりも小さな間隔(例えば1mm×1mm)の網を通過しない大きさのものとすることができる。また、微粉末としては、粉砕用ミル(例えば、回転通気式ボールミル)を用い、適当な粒子径(例えばメジアン径11μm、モード径14.27μm)とすることができる。
【0007】
加熱処理とは、60℃以上の温度において1分、好ましくは5分以上、更に好ましくは4時間以上を置く処理を意味する。このとき、90℃の場合には5分以上、好ましくは3時間以上であることが好ましい。また、加熱処理がオートクレーブ処理であることが好ましい。
オートクレーブ処理とは、海藻類を含む水性溶液を100℃以上において1気圧以上高圧下とした状態で所定の時間だけ置く処理を意味する。本発明においては、105℃~135℃の温度として、1分~30分、好ましくは5分~15分の時間を置く処理を施すことが好ましい。オートクレーブ処理時の温度が高いとラムナン硫酸の平均分子量が低下しすぎてしまう。このため、適当な温度で適当な時間だけの処理を行うことが好ましい。
【0008】
本発明において、加熱処理の際に、酸を添加しておくことが好ましい。
酸とは、水溶液中にプロトン(H+)を遊離する物質を意味する。本発明においては、有機酸、無機酸のいずれを用いても良い。無機酸としては、例えばハロゲン化水素とその溶液(塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸など)、ハロゲンオキソ酸(次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸など)、硫酸、フルオロスルホン酸、硝酸、リン酸、ホウ酸などが含まれる。有機酸としては、例えばカルボン酸(ギ酸、酢酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、クエン酸、オキサロ酢酸、ピルビン酸、イソクエン酸、リンゴ酸、グルコン酸、乳酸、酒石酸、アミノ酸)、スルホン酸、アスコルビン酸などが含まれる。
【0009】
加熱処理時の酸の濃度としては、0.06mg/mL~150mg/mL、好ましくは0.1mg/mL~50mg/mL、更に好ましくは0.5mg/mL~30mg/mL、さらに更に好ましくは1.0mg/mL~10mg/mLである。具体的には、リンゴ酸2.1mg/mL~8.4 mg/mL、リン酸1.5mg/mL~6.0mg/mL,クエン酸1.1mg/mL~10mg/mL, 酢酸0.95mg/mL~131.3mg/mL,塩酸0.23mg/mL~0.58mg/mL,シュウ酸0.06mg/mL~1.43mg/mLを用いることができる。
上記発明において、ラムナン硫酸の溶出率が20%以上であることが好ましく、30%以上であることが更に好ましい。但し、本発明の製造方法において、溶出率を上げすぎると、重量平均分子量が低下し過ぎてしまうので、適当な兼ね合いが必要となる。そのような目安として、例えば、溶出率が30%~55%、重量平均分子量が20万~250万を例示することができる。この範囲であれば、酵素活性(α-アミラーゼ阻害活性、血液凝固阻害活性)も十分に維持されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、海藻類からラムナン硫酸含有組成物を効率よく得る方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ヒトエグサ抽出物、ヒトエグサ微粉末、ヒトエグサ粗粉末からのラムナン硫酸の溶出率を示すグラフである。図中のバーは、標準偏差(S.D.)を示す(
図2~
図8、
図13、
図15~
図18についても同じ)。
【
図2】ヒトエグサ粗粉末及び微粉末にオートクレーブ処理を施したときのラムナン硫酸の溶出率を示すグラフである。
【
図3】ヒトエグサ粗粉末に各種オートクレーブ処理を施したときのラムナン硫酸の溶出率を示すグラフである。
【
図4】ヒトエグサ粗粉末に各種オートクレーブ処理を施したときに得られたラムナン硫酸の重量平均分子量を示すグラフである。
【
図5】ヒトエグサ粗粉末にクエン酸を加えてオートクレーブ処理(121℃、5分)したときの溶出率を示すグラフである。
【
図6】ヒトエグサ粗粉末にクエン酸を加えてオートクレーブ処理(121℃、5分)したときの重量平均分子量を示すグラフである。
【
図7】ヒトエグサ粗粉末にクエン酸を加えてオートクレーブ処理(110℃、5分)したときの溶出率を示すグラフである。
【
図8】ヒトエグサ粗粉末にクエン酸を加えてオートクレーブ処理(110℃、5分)したときの重量平均分子量を示すグラフである。
【
図9】ヒトエグサ粗粉末に各種の酸を加えてオートクレーブ処理(121℃、5分)したときの溶出率を示すグラフである。
【
図10】ヒトエグサ粗粉末に各種の酸を加えてオートクレーブ処理(121℃、5分)したときの重量平均分子量を示すグラフである。
【
図11】ヒトエグサ粗粉末にリンゴ酸またはリン酸を加えてオートクレーブ処理(121℃、5分)したときの溶出率を示すグラフである。
【
図12】ヒトエグサ粗粉末にリンゴ酸またはリン酸を加えてオートクレーブ処理(121℃、5分)したときの重量平均分子量を示すグラフである。
【
図13】ヒトエグサ粗粉末に水のみ又はクエン酸を加えて加熱処理したときの溶出率を示すグラフである。
【
図14】ヒトエグサ粗粉末に水のみ又はクエン酸を加えて加熱処理したときの溶出率を示すグラフである。
【
図15】リンゴ酸を加えてオートクレーブ処理(121℃、5分)して得られたラムナン硫酸(溶出物)のα-アミラーゼ活性の阻害率を示すグラフである。
【
図16】リンゴ酸を加えてオートクレーブ処理(121℃、5分)して得られたラムナン硫酸(溶出物)の血液凝固阻害活性を示すグラフである。
【
図17】マウス血糖値上昇に対するラムナン硫酸の効果を調べた結果を示すグラフである。
【
図18】マウス血糖値上昇に対するラムナン硫酸の効果を調べた結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。
<ラムナン硫酸の溶出率の測定>
1.試験方法
第十七改正日本薬局方に規定されている溶出試験法に基づく方法に従い、ラムナン硫酸の溶出率を測定した。
(1)試験液の調製
500mLのメスフラスコに1.0gのNaClと3.5mLのHClとを加え、純水で500mLにメスアップすることで人工胃液(pH1.2:試験液)を調製した。
(2)パドル法による溶出試験
パドル法の装置にセットした1L容器に500mLの試験液を入れ、37±0.5℃に保った。溶出率測定用の試料として0.5gの被験サンプル(ヒトエグサ抽出物、ヒトエグサ微粉末、ヒトエグサ粗粉末)を添加した。容器底部から25mmの位置に設置したパドルを50rpmで回転させた。
試験開始から15分、30分及び60分経過後、スポイトで20mLの試験液を採取し、溶出試験サンプルとした。試験液の採取位置は、液面とパドルの翼の上部の中間で、容器の内壁から10mm以上離れたところとした。
【0013】
(3)簡略化した溶出試験
上記「(2)パドル法による溶出試験」に代えて、次の簡略化溶出試験を用いた。この試験の結果、上記(2)において、60分経過後において得られる溶出結果と同等であることを確認した。
50mLチューブに0.1gのヒトエグサ試料(抽出物、粗粉末、または微粉末)と、20mLの人工胃液を加え、37℃にて1時間穏やかに撹拌しながらインキュベートしたものを溶出試験サンプルとした。抽出物は、ヒトエグサを熱水抽出し、残渣を除いた溶解物を乾燥させて得た。粗粉末は、破砕したヒトエグサ海藻類において、2mm×2mmの網を通過する一方、1mm×1mmの網を通過しない大きさのものとした。微粉末としては、回転通気式ボールミルを用い、メジアン径11μm、モード径14.27μmとしたものを用いた。
【0014】
(4)溶出試験サンプル中のラムナン硫酸(RS)の測定方法
溶出試験サンプルを冷水で速やかに室温まで下げ、1 M水酸化ナトリウムで中和した後、3500 rpmで30分遠心し、上清をナスフラスコに移してエバポレーターで濃縮し、濃縮サンプルを得た。上清を採取する際、必要に応じて茶こしを使った。
濃縮サンプルをろ過し、GPC(Gel Permeation Chromatography:ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いて、ラムナン硫酸の濃度および重量平均分子量を測定した。このとき、濃度標準として精製ラムナン硫酸を用い、分子量標準としてデキストラン(From Leuconostoc mesenteroides(Sigma))を用いた。
溶出率は、下記(式1)により計算した。
溶出率(%)=測定値(mg/mL)÷濃縮率×中和による希釈率÷ヒトエグササンプル量(mg)×20(mL)×100………(式1)
【0015】
2.試験結果
ヒトエグサ抽出物、ヒトエグサ微粉末、ヒトエグサ粗粉末の各性状におけるラムナン硫酸の胃内での溶出率の違いを明らかにするため、日本薬局方に基づく溶出試験を行った。
結果を表1及び
図1に示した。表1中の「±」は、標準偏差(S.D.)を示す(表2~表8についても同じ)。この結果から、ヒトエグサ粗粉末に比べると、ヒトエグサ微粉末の方が、約3.5倍程度はラムナン硫酸が溶出しやすいことが分かった。ヒトエグサ抽出物と比べ、ヒトエグサ微粉末の溶出率は約1/6、ヒトエグサ粗粉末の溶出率は約1/20であった。「(3)簡略化した溶出試験」を用いた場合にも、同様の結果が得られた。
【0016】
【0017】
<ヒトエグサをオートクレーブ処理したときの溶出率の変化>
1.試験方法
次に、ヒトエグササンプルをオートクレーブ処理することによって、溶出率が変化するか否かを調べた。ヒトエグササンプル(微粉末、粗粉末)を条件を変えてオートクレーブ処理した後、溶出試験を行った。
微粉末、粗粉末をそれぞれ0.1g秤量し、耐熱容器に入れ、オートクレーブ処理後、一晩乾燥させた。乾燥後、20mLの人工胃酸に添加し、1時間おだやかに撹拌した後、溶出サンプルを中和および濃縮後定量し、溶出率を求めた。
2.試験結果
図2及び表2には、微粉末をオートクレーブ処理(121℃、15分)することによって溶出率の変化を調べた結果を示した。未処理に比べると、オートクレーブ処理によって溶出率が2.9倍に上昇することが分かった。
【0018】
【0019】
図3には、粗粉末サンプルを用いて、オートクレーブ処理時の温度を90℃、105℃、121℃及び135℃、時間を5分、15分、30分と変化させたときの溶出率を示した。
表3には、粗粉末サンプルを用いて、オートクレーブ処理時の温度を90℃、105℃、121℃及び135℃としたときの溶出率と重量平均分子量の結果を示した(処理時間はいずれも15分とした)。
図4には、重量平均分子量の結果を示した。その結果、温度が高いほど溶出率が上昇することが分かった(特に121℃では溶出率が7.1倍に上昇した)。但し、135℃では、重量平均分子量は35万程度となり、未処理時の1/6.7まで大きく減少した。
【0020】
【0021】
表4には、粗粉末サンプルを用いて、オートクレーブ処理時の時間を5分、15分及び30分としたときの溶出率と重量平均分子量の結果を示した(処理温度はいずれも121℃とした)。その結果、処理時間が長いほど溶出率が上昇することが分かった(5分処理および30分処理では、未処理に比べると、それぞれ4.4倍と9倍となった)。但し、30分処理によって、重量平均分子量は126万となり、未処理時の半分程度まで低下した。
【0022】
【0023】
<ヒトエグサ粗粉末に酸を添加し、オートクレーブ処理したときの溶出率および重量平均分子量の変化>
1.試験方法
次に、酸を添加することで溶出率および分子量がどのように変化するかを検討した。
ヒトエグサ粗粉末を0.1g秤量し、1mLの水またはクエン酸水溶液を均等に濡れるように加え、オートクレーブ処理後、溶出試験を行った。
2.試験結果
図5,6及び表5には、クエン酸(1.1, 3.3及び10mg/mL)を加えてオートクレーブ処理(121℃、5分)したときの溶出率と重量平均分子量の変化を調べた結果を示した。クエン酸を加えてオートクレーブ処理することにより、比較的弱いオートクレーブの条件でもクエン酸の濃度の増加に伴い溶出率の向上が見られた。121℃でクエン酸10mg/mLの濃度では、未処理のもの(表3の未処理:5.4±1.3%)に比べると、11倍の上昇が見られた。また、クエン酸の濃度の増加に伴い、重量平均分子量の低下が見られた。
クエン酸を添加して得られた加熱処理サンプルを乾燥し、ラムナン硫酸含有組成物を得た。この組成物中のクエン酸量は、12.78mg/g~105.26 mg/gであった。
クエン酸量は、下記(式2)によって得た。なお、含水率は15%として計算した。
硫酸含有組成物中の酸量(mg/g)=酸添加量(mg)÷{ヒトエグサ粉末量(g)×(1-含水率)+酸添加量(g)}………(式2)
【0024】
【0025】
次に、高分子量を維持したまま、高い溶出率を得ることを目的として、オートクレーブ処理時の温度を110℃として、上記と同様にクエン酸濃度を変化させた。
図7,8及び表6には、クエン酸(1.1, 3.3及び10mg/mL)を加えてオートクレーブ処理(110℃、5分)することによって、溶出率と重量平均分子量の変化を調べた結果を示した。この条件では、高分子量を維持した状態で高溶出率を得られる条件は見あたらず、溶出率と重量平均分子量との間に密接な関係が存在することが分かった。水のみを加えた場合でも、未処理のもの(表3の未処理:5.4±1.3%)に比べると、6倍の上昇が見られた。これは水の添加によって加水分解が促された結果と考えられた。
【0026】
【0027】
<酸の種類による重量平均分子量の変化>
1.試験方法
次に、酸の種類を変更してオートクレーブ処理することによって、重量平均分子量の変化にどのように差が生じるかを検討するため、1価、2価、3価の代表的な酸を用いた試験を行った。酸としては、クエン酸に加えて、酢酸、塩酸、リンゴ酸、シュウ酸及びリン酸を利用した。酸を変更する以外は、上記<ヒトエグサ粗粉末にクエン酸を添加し、オートクレーブ処理したときの溶出率および重量平均分子量の変化>の方法に従って溶出試験を行った。試験時のpHは2.55で統一した。
2.試験結果
図9,10及び表7には、各酸を添加してオートクレーブ処理(121℃、5分)したときの溶出率と重量平均分子量の変化を調べた結果を示した。酸を変更すると、得られるラムナン硫酸の分子量が異なることが分かった。重量平均分子量は、酸の量の増加に従って、小さくなる傾向が認められた。
【0028】
【0029】
<酸の種類、量を変化させることによる分子量のコントロール>
1.試験方法
次に、酸による分子量のコントロールを行うことを目的として、分子量のコントロールを行いやすいリンゴ酸およびリン酸を使用して、濃度を変化させることで、得られたラムナン硫酸の重量平均分子量を調べた。リンゴ酸の濃度を2.1、4.2、8.4(mg/mL)、リン酸の濃度を1.5、2.25、3、4.5、6(mg/mL)と変化させ、オートクレーブ処理(121℃、5分)した後にラムナン硫酸の重量平均分子量を測定した。
2.試験結果
図11,12及び表8には、リンゴ酸およびリン酸の濃度を変化させてオートクレーブ処理したときの溶出率と重量平均分子量の変化を示した。添加した酸の量に応じて、安定した分子量のラムナン硫酸が得られ、分子量をコントロールできることが分かった。
【0030】
【0031】
<ヒトエグサを加熱処理したときの溶出率の変化>
1.試験方法
次に、ヒトエグササンプルを加熱処理することによって、溶出率が変化するか否かを調べた。ヒトエグササンプル(粗粉末)を条件を変えて加熱処理した後、溶出試験を行った。
粗粉末を0.1g秤量し、容器に入れ水またはクエン酸を添加し、インキュベーターで加熱処理後、一晩乾燥させた。乾燥後、20mLの人工胃液に添加し、37℃で1時間おだやかに撹拌した後、溶出サンプルを中和および濃縮後定量し、溶出率を求めた。
2.試験結果
図13及び
図14には、粗粉末を加熱処理(水のみ又はクエン酸(3.3mg/mL)添加の条件において、室温(25℃)、40℃、50℃、60℃、70℃及び90℃の各温度において、4時間又は24時間保持)することによって溶出率の変化を調べた結果を示した。未処理に比べると、加熱処理によって溶出率を増加させ、2倍以上まで上昇することが分かった。また、加熱処理時に酸を添加することで、更に溶出率が上昇することが分かった。
【0032】
次に、上記実施例で得られたラムナン硫酸の酵素阻害活性を血液凝固阻害試験(フィブリノゲン測定)とαアミラーゼ活性阻害試験により評価した。
<α-アミラーゼ活性阻害試験>
アミラーゼは膵液や唾液に含まれる消化酵素であり、デンプンを単糖類であるブドウ糖や二糖類であるマルトースおよびオリゴ糖に変換する酵素である。この酵素の活性を阻害することで糖質の吸収を遅延させ、食後の急激な血糖値上昇を抑制することが期待できる。そこで、溶出物を凍結乾燥させた試験サンプルの評価を行った。
1.試験方法
(1)試料調製
<酸の種類、量を変化させることによる分子量のコントロール>で得られた溶出試験サンプル10mgに精製水1mLを加え、2倍の段階希釈を行い、2.5mg/mL~0.126mg/mLの各試料を調製した。
【0033】
(2)試薬調製
α-アミラーゼ(EC 3.2.1.1,富士フィルム和光純薬)は、Activity=10U/μLとなるよう精製水に溶解したものを使用した。α-アミラーゼ測定キット(キッコーマンバイオケミファ)の酵素溶液と基質溶液を使用した。酵素溶液と基質溶液192μL中にα-アミラーゼ40U入るように調製した。
(3)吸光度の測定方法
試料40μLにα-アミラーゼ16μLを加え、室温で10分間反応させた後、氷上で1分間経過後、酵素溶液184μL、基質溶液200μLを加え撹拌したものを測定用試料とした。各測定用試料200μLを、96wellプレートの各wellに入れ、吸光度計(MULTISKAN GO Thermo SCIENTIFIC)で、400nmの吸光度を測定した。
(4)α-アミラーゼ活性阻害率の算出方法
時間と吸光度のグラフを作成し、反応開始と10分後の吸光度差を用いて、各濃度の試料の阻害率を求め、その検量線より50%阻害濃度IC50(mg/mL)を算出した。
【0034】
2.試験結果
水のみ、及びリンゴ酸2.1,4.2,8.4mg/mLを加えたラムナン硫酸にオートクレーブ処理を行い(121℃、5分)、溶出試験を行った。その後、サンプルを中和し、乾固させた。ラムノックス100をコントロールとしてアミラーセ阻害活性を測定した結果を
図15に示した。オートクレーブ処理したサンプルにαアミラーゼ阻害活性が認められた。
この結果から、オートクレーブ処理を行うことで酵素阻害活性を持つラムナン硫酸が溶出してくることが分かった。水のみでオートクレーブ処理したサンプルに比べると、リンゴ酸を添加してオートクレーブ処理することでアミラーゼ阻害活性が著しく向上した。但し、8.4mg/mLのリンゴ酸を加えた場合は、2.1または4.2mg/mLの場合に比べると酵素阻害活性に僅かな低下が見られた。このことから、酸を加えてオートクレーブ処理することでアミラーゼ阻害活性のあるラムナン硫酸の溶出を容易に行えること、但し、酸を加えすぎると反って活性が低下することが分かった。
【0035】
<血液凝固阻害試験>
トロンビン時間法(Clauss法)に基づいた試験を用いた。トロンビンはフィブリノゲンをフィブリンにする反応を触媒する酵素である。被験物質を血漿に加えることで溶出物のトロンビン活性阻害を評価することができる。
1.試験方法
(1)試料調製
<酸の種類、量を変化させることによる分子量のコントロール>で得られた溶出試験サンプル10mgに精製水1mLを加え、段階希釈にて5.0mg/mL、2.5mg/mL、1.0mg/mLの試料を調製した。
(2)試薬調製
a)正常コントロール血漿
デイド・サイトロール・レベル1(GCA-110A,SIEMENS))は、精製水1mLで溶解し、穏やかに撹拌し、室温で15分~20分静置した。
b)フィブリノゲン試液
マルチフィブリンU(GDU-200A,SIEMENS)は、カオリンサスペンジョン(GAK-300A,SIEMENS)2mLで溶解し、使用前には37℃,10分以上加温した。
【0036】
(3)フィブリノゲンの測定方法
半自動血液凝固測定装置(CA-104,sysmex)を使い、Fbgモードで測定を行った。キュベット(AG-405-069,SIEMENS)に、正常コントロール血漿50μLと試料5μLを注入し、直ちに検出部に設置した。試料を注入しないものをコントロールとした。
設定された60秒のインキュベート終了後、フィブリノゲン試液100μLを注入することで測定を開始し、フィブリンが析出して凝固するまでの時間を測定した。
(4)血液凝固阻害活性(2倍延長濃度)の算出方法
試料濃度と時間(秒)のグラフを作成し、検量線(y=ax+b)を作成した。その検量線のa値とb値より、コントロールの2倍時間に相当する試料濃度(2倍延長濃度:CT2)を算出した。
【0037】
2.試験結果
水のみ、及びリンゴ酸2.1,4.2,8.4mg/mLを加えたラムナン硫酸にオートクレーブ処理を行い(121℃、5分)、溶出試験を行った。その後、サンプルを中和し、乾固させた。ラムノックス100をコントロールとして血液凝固阻害活性を測定した結果を
図16に示した。オートクレーブをかけたサンプルに血液凝固阻害活性が認められた。
この結果から、オートクレーブ処理を行うことで得られたラムナン硫酸についても、従来と同様に酵素阻害活性を持つことが分かった。
水のみでオートクレーブ処理したサンプルに比べると、クエン酸を添加してオートクレーブ処理することで血液凝固阻害活性が著しく向上した。但し、8.4mg/mLのリンゴ酸を加えた場合には、2.1または4.2mg/mLの場合に比べると血液凝固阻害活性に僅かな低下が認められた。このことから、酸を加えてオートクレーブ処理することで血液凝固阻害活性のあるラムナン硫酸の溶出を容易に行えること、但し、酸を加えすぎると反って活性が低下することが分かった。
【0038】
<マウス経口デンプン負荷試験>
マウス経口デンプン負荷試験(OSTT試験)によって、ラムナン硫酸含有組成物が、血糖値上昇に与える影響を調べた。
1.試験方法
(1)材料調製
<酸の種類、量を変化させることによる分子量のコントロール>に記載の方法に準じて、クエン酸(1.1mg/mL、3.3mg/mL、10mg/mL)を用いることで、重量平均分子量が、170万、70万及び20万の被験物質を得た。
被験用サンプルとして、RS-1(酸なし、オートクレーブ処理(121℃、5分)サンプル)、RS-2(クエン酸1.1mg/mL、オートクレーブ処理(121℃、5分)サンプル、平均分子量170万)、RS-3(クエン酸3.3mg/mL、オートクレーブ処理(121℃、5分)サンプル、平均分子量70万)、RS-4(クエン酸10mg/mL、オートクレーブ処理(121℃、5分)サンプル、平均分子量20万)、及びRS-5(微粉末)を用いた。各サンプルを62.5mg/mLとなるように生理食塩水で溶解した。
デンプン(Starch)は5gあたり10mLの食塩水に加熱しながら溶解した(500mg/mL)。
(2)被験動物
ICRマウス(16週齢)を用いた。16時間絶食させたICRマウスの体重を測定後、2mg/g体重のデンプン及び0.25mg/g体重の各RSサンプルとなるように容積量を調整し、ゾンデを用いてマウスに経口投与した。コントロールには、デンプンのみを投与した(各群について、n=5のマウスを用いた)。
(3)血糖値の測定
マウスにデンプンとRSサンプルを経口投与し、30分経過した後に、血糖値を測定した。
【0039】
2.試験結果
図17及び
図18には、血糖値を測定した結果を示した。
図17には、実測値を、
図18には、各マウスにおいて実測値からデンプン投与前の空腹時血糖値を差し引いた変化を示した。この結果より、コントロールに比較すると、RS投与群は血糖値の上昇を抑制することが分かった。特に、RS-2(平均分子量170万)及びRS-5(微粉末)では、コントロールに比べて、有意な血糖値上昇抑制効果が認められた。
このように本実施形態によれば、海藻類からラムナン硫酸含有組成物を効率よく得る方法を提供できた。