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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147557
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】離型フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20220929BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20220929BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20220929BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B32B27/00 L
B32B27/00 101
B32B7/06
B32B27/36
B28B1/30 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048852
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】羽田 正紀
【テーマコード(参考)】
4F100
4G052
【Fターム(参考)】
4F100AA08
4F100AH06B
4F100AK42A
4F100AK52B
4F100BA02
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CA18B
4F100DD07
4F100EH46B
4F100EJ67B
4F100GB41
4F100JK06
4F100JK15
4F100JL08B
4F100JL14B
4F100YY00B
4G052DA02
4G052DB01
(57)【要約】
【課題】 基材フィルムへの離型層の均一な塗布形成が可能であり、付着異物数を低減でき、被剥離層に対する剥離性にも優れた離型フィルムを提供する。
【解決手段】 基材フィルムと、水性コーティング組成物を反応及び固化させてなる離型層と、を有する離型フィルムであって、前記水性コーティング組成物は、水、反応性シリコーン、シランカップリング剤、白金系触媒、及び界面活性剤を含有し、前記離型層の表面ゼータ電位が-60~0mVである、離型フィルム。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと、水性コーティング組成物を反応及び固化させてなる離型層と、を有する離型フィルムであって、
前記水性コーティング組成物は、水、反応性シリコーン、シランカップリング剤、白金系触媒、及び界面活性剤を含有し、
前記離型層の表面ゼータ電位が-60~0mVである、離型フィルム。
【請求項2】
前記反応性シリコーンは、アルケニル基を有するシリコーン、及びSiH基を有するシリコーンを含む、請求項1に記載の離型フィルム。
【請求項3】
前記白金系触媒の含有量は、前記アルケニル基を含有するシリコーンの質量に対し、10~800ppmである、請求項2に記載の離型フィルム。
【請求項4】
前記シランカップリング剤は、アルケニル基を有するシランカップリング剤、及びエポキシ基を有するシランカップリング剤を含む、請求項1~3いずれか1項に記載の離型フィルム。
【請求項5】
前記界面活性剤が非イオン系界面活性剤であり、前記界面活性剤の含有量は前記離型層の全固形分質量に対し2~20質量%である、請求項1~4いずれか1項に記載の離型フィルム。
【請求項6】
前記基材フィルムがポリエステルフィルムであり、前記離型層が設けられていない側の表面の表面ゼータ電位が-40~-30mVである、請求項1~5いずれか1項に記載の離型フィルム。
【請求項7】
セラミックグリーンシートの成形に用いられるものである、請求項1~6いずれか1項に記載の離型フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材フィルムと離型層とを有する離型フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、離型フィルムは、粘着剤、接着剤、貼薬剤等よりなる粘着面を保護する目的で、或は硬化性樹脂を含む樹脂シートの支持体等として用いられてきた。また、近年、積層セラミックコンデンサー用グリーンシート(以下、「グリーンシート」という)の成形時のキャリアフィルムとして、特に需要が旺盛である。
【0003】
かかる離型フィルムとして、従来から、プラスチックフィルムの少なくとも片面にポリジメチルシロキサンの付加重合硬化物または縮重合硬化物よりなる離型層を設けたものが用いられている。これらの硬化物は、非粘着で離型効果に優れ、また熱安定性に優れるという利点を有するが、離型層の表面自由エネルギーが小さいため、塗布原料の濡れ性に乏しく、得られる樹脂層等(以下「被剥離層」という)に濡れ性不良に起因する塗工欠陥を発生させやすい。従って、被剥離層成形時の濡れ性と剥離性に優れた離型フィルムが求められている。
【0004】
このような課題に対して、特許文献1には、離型層表面の濡れ性を向上させる目的で、ヘキセニル基を有するオルガノポリシロキサンとSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンの付加反応により架橋した離型層を設けた離型フィルムが提案されている。しかし、基材に対する離型層の塗布均一性や密着性が改善されておらず、基材との間に中間層を設ける必要があった。
【0005】
また、基材に中間層を設けずに、離型層が均一に塗布・形成できる離型フィルムとして、特許文献2には、2種のトリアルコキシシランを含有する水性コーティング組成物を反応固化させて得られた離型層を有する離型フィルムが提案されている。
【0006】
また、反応性シリコーンの反応性を制御する技術として、特許文献3には、アルケニル基含有シリコーンの水分散体、SiH基で表されるSi原子と直接結合した水素原子を有するシリコーンの水分散体、架橋反応抑制剤および白金系触媒を含むコーティング組成物が硬化してなる離型層を設けた離型フィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-6213号公報
【特許文献2】特開2019-55567号公報
【特許文献3】特開2014-83697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、グリーンシートのように電子部品を構成する材料の薄膜化が要求されており、高い剥離性(軽剥離性)が要求されている。特に、最近ではグリーンシート等に対して、更なる薄膜化が検討されており、剥離時のグリーンシートの破損防止と回収率の向上が要求されている。また、グリーンシートの薄膜化に伴い、離型層由来の異物がこれまで以上に問題となり易く、グリーンシートへの転写を低減させることが求められている。
【0009】
このような課題に対して、本発明者等の検討によると、特許文献2又は特許文献3の技術では、未反応の官能基の残存量、触媒又は界面活性剤の種類や量によっては、離型層が表面電荷を帯びる場合があり、これにより離型層に付着した異物がグリーンシートに転写し得ることが判明した。つまり、グリーンシートの更なる薄膜化の要求に伴い、特許文献2又は特許文献3の技術について、離型層由来の異物の転写量を低減する観点から、更なる改善の余地があった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、かかる課題を解決すべく、基材フィルムへの離型層の均一な塗布形成が可能であり、付着異物数を低減でき、被剥離層に対する剥離性にも優れた離型フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、かかる課題を達成するために鋭意検討した結果、シランカップリング剤、白金系触媒、界面活性剤等を適量添加することにより、離型層の塗布形成の均一性や剥離性を良好に維持しながら、離型層の表面ゼータ電位を制御することができ、これを所定の範囲内に制御することで、付着異物数を低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は以下の内容を含むものである。
【0012】
[1] 基材フィルムと、水性コーティング組成物を反応及び固化させてなる離型層と、を有する離型フィルムであって、
前記水性コーティング組成物は、水、反応性シリコーン、シランカップリング剤、白金系触媒、及び界面活性剤を含有し、
前記離型層の表面ゼータ電位が-60~0mVである、離型フィルム。
【0013】
[2] 前記反応性シリコーンは、アルケニル基を有するシリコーン、及びSiH基を有するシリコーンを含む、[1]に記載の離型フィルム。
【0014】
[3] 前記白金系触媒の含有量は、前記アルケニル基を含有するシリコーンの質量に対し、10~800ppmである、[2]に記載の離型フィルム。
【0015】
[4] 前記シランカップリング剤は、アルケニル基を有するシランカップリング剤、及びエポキシ基を有するシランカップリング剤を含む、[1]~[3]いずれかに記載の離型フィルム。
【0016】
[5] 前記界面活性剤が非イオン系界面活性剤であり、前記界面活性剤の含有量は前記離型層の全固形分質量に対し2~20質量%である、[1]~[4]いずれかに記載の離型フィルム。
【0017】
[6] 前記基材フィルムがポリエステルフィルムであり、前記離型層が設けられていない側の表面の表面ゼータ電位が-40~-30mVである、[1]~[5]いずれかに記載の離型フィルム。
【0018】
[7] セラミックグリーンシートの成形に用いられるものである、[1]~[6]いずれかに記載の離型フィルム。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、基材フィルムへの離型層の均一な塗布形成が可能であり、付着異物数を低減でき、被剥離層に対する剥離性にも優れた離型フィルムを提供することができる。
【0020】
このような効果が得られる理由の詳細は明らかではないが、シランカップリング剤が基材フィルムへの離型層の密着性を高め、界面活性剤により水性コーティング組成物の基材フィルムへの塗布性と分散性を良好にできるため、基材フィルムへの離型層の均一な塗布形成が可能になると考えられる。このような成分の添加量と白金系触媒の添加量を調整することにより、未反応の官能基量等が変化することで、離型層の表面ゼータ電位を変化させることができ、これを所定の範囲内に制御することで、表面電荷を低減して付着異物数を低減できたと考えられる。また、同時に表面自由エネルギーなども適度に制御される結果、被剥離層に対する剥離性にも優れたものとなると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0022】
[離型フィルム]
本発明の離型フィルムは、基材フィルムと、水性コーティング組成物を反応及び固化させてなる離型層と、を有するものである。後に詳述するように、水性コーティング組成物には、相互に反応し得る反応性シリコーン、及びシランカップリング剤を含有するため、得られる高分子の構造の同定やそれに基づくクレームの特定は容易ではなく、非実際的な事情が存在する。このため、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの形式により、本発明の離型フィルムを特定した。
【0023】
[基材フィルム]
本発明における基材フィルムは、特に限定されないが、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリスチレントリアセチルセルロース、アクリル、ポリイミド等からなるシートあるいはフィルムを例示することができる。中でも、機械特性、耐熱性に優れ、またこれらの特性と価格とのバランスが良いという観点から、ポリエステルからなるフィルムが好ましい。以下、ポリエステルフィルムの場合を例にとって説明するが、他の樹脂フィルムを用いる場合でも、共重合成分、ブレンド成分、添加剤、フィルムの製法、積層構造等については、以下と同様である。
【0024】
ポリエステルフィルムとしては、公知のポリエステルフィルムが使用でき、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレンナフタレート等の公知のポリエステルが用いられる。中でも、ポリエチレンテレフタレートが力学的物性と成形性のバランスがよいので特に好ましい。
【0025】
上記の各ポリエステルは、ホモポリマーであっても、これらポリエステルのうちの1つを主たる成分とする共重合体であってもよく、またはブレンドしたものであってもよい。ここで「主たる成分」とは、ポリエステルの繰り返し構成単位のモル数を基準として80モル%以上である。また主たる成分の割合は、85モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。また、共重合成分またはブレンド成分はポリエステルの繰り返し構成単位のモル数を基準として20モル%以下であり、好ましくは15モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下である。
【0026】
ポリエステルフィルムには、本発明の課題を損なわない範囲内で、滑剤粒子、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤を含有してもよい。表面平坦性が求められる場合は、滑剤粒子は実質的に含有しないことが好ましい。
【0027】
ポリエステルの製造には公知の方法が用いられ、エステル化反応もしくはエステル交換反応により低重合度のポリエステルを得た後、重合触媒を用いて重合度を高める方法が挙げられる。
【0028】
また、ポリエステルフィルムも公知の方法で得ることができ、逐次延伸方法、同時二軸延伸方法のいずれの方法を用いてもよい。例えば、ポリエステルを溶融状態で押出機のダイからシート状に押し出す工程、得られたシート状物を冷却固化することで未延伸ポリエステルフィルムとする工程、そして得られた未延伸ポリエステルフィルムを製膜方向と幅方向に延伸することで製造できる。ポリエステルフィルムが積層構成である場合は、例えばA層用のポリエステルとB層用のポリエステルとを用意し、これらを溶融状態で積層してダイからシート状に共押出し、続いて上述の方法に従って製膜する方法が例示される。
【0029】
ポリエステルフィルムとしては、滑剤を含まないフィルムが表面平坦性の点で好ましいが、表面粗さ制御のため滑剤、例えば炭酸カルシウム、カオリン、シリカ、酸化チタン等の如き無機微粒子および/または触媒残渣の析出微粒子等を含有させたフィルムであってもよい。好ましくは、離型層を設ける側の表面に滑剤を含まない平滑層を有し、裏面側に表面粗さ制御のため滑剤を含む粗面層を有する基材フィルムを用いることができる。
【0030】
かかる構成によって、表面平滑性と滑り性とを両立できる。本発明において粒子を含まないとは、具体的にはポリエステルフィルムの質量を基準として粒子含有量が0.5質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以下、特に好ましくは0.005質量%以下であることを指す。
【0031】
基材フィルムの厚みとしては、特に制限がないが、キャリアフィルムとしての搬送性や強度とコスト等との観点から、10~250μmが好ましく、15~100μmが好ましく、20~50μmがより好ましい。
【0032】
本発明では、離型層が設けられていない側の表面の表面ゼータ電位についても、フィルム搬送時の異物付着が離型層に転写することを防止するなどの観点から、所定の範囲内であることが好ましく、使用する基材フィルムの表面ゼータ電位等によって、調整することができる。離型層が設けられていない側の表面の表面ゼータ電位としては、-50mV以上であることが好ましく、-40~-30mVであることがより好ましい。
【0033】
基材フィルムの表面ゼータ電位を低減させるために、基材フィルム中に帯電防止剤を添加したり、離型層とは反対側の面に帯電防止層を設けることも可能である。
【0034】
また、水性コーティング組成物を塗布する離型層形成面には、離型層との密着性を高めるために、表面処理をしたり、易接着層を設けることが可能である。表面処理としては、プラズマ処理、コロナ放電処理、紫外線処理、火炎処理及び電子線・放射線処理などが挙げられ、易接着層としては、基材フィルムと同じ樹脂を含有し、更に帯電防止剤、顔料、界面活性剤、潤滑剤、アンチブロッキング剤など、を含有する層が挙げられる。但し、本発明では、離型層に用いる水性コーティング組成物がシランカップリング剤を含有するため、易接着層等を設けなくても、離型層が基材フィルムに対して十分な密着性を有することができる。
【0035】
[離型層]
本発明における離型層は、水性コーティング組成物を反応及び固化させて得られるものである。水性コーティング組成物は、水、反応性シリコーン、シランカップリング剤、白金系触媒、及び界面活性剤を含有する。
【0036】
[反応性シリコーン]
反応性シリコーンとしては、シランカップリング剤と白金系触媒の存在下で硬化反応が生じるものであればよく、反応性官能基を側鎖、片末端、又は両末端に有する反応性シリコーンオイル、変性シリコーン、反応性シリコーンオリゴマーなどが挙げられる。
【0037】
反応性シリコーンは、ジメチルシロキサン等の構成単位により、優れた離型性を発現することができ、反応性官能基を有することで、架橋構造を形成したり、高分子量化が可能となる。反応性官能基としては、アルケニル基、SiH基、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、アルコール基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0038】
反応性シリコーンは、シランカップリング剤と白金系触媒の存在下で硬化反応が生じるものであれば1種のみを使用することも可能であるが、相互に反応する反応性官能基を有する2種以上の反応性シリコーンを用いることが好ましい。なかでも、良好な剥離性を発現しつつ、離型層の表面ゼータ電位を所定の範囲内に制御できる観点から、アルケニル基含有シリコーンとSiH基含有シリコーンとの組合せが好ましい。
【0039】
(アルケニル基含有シリコーン)
アルケニル基含有シリコーンとして、好ましくは数平均分子量が10000~30000のアルケニル基含有シリコーンを用いることができる。また、かかる数平均分子量は15000~25000であることが好ましい。これにより優れた離型性を備えながら、シリコーン凝集物の発生を抑制することができる。
【0040】
該アルケニル基含有シリコーンとして、下記の一般式(I)で示される構成単位を有するオルガノポリシロキサンが例示される。この構成単位と共に、他の構成単位として、下記の一般式(I)において、aが0かつbが2である構成単位を有するものが好ましい。
SiO(4-a-b)/2・・・(I)
(式(I)中、Rは炭素数2~8のアルケニル基、Rはアルキル基またはアリール基から選択される炭素数1~16の1価の飽和炭化水素基であり、aは1~3、bは0~2で、かつa+b≦3を満たす整数をそれぞれ表す)
該アルケニル基含有シリコーンは、直鎖状構造、分岐鎖状構造のいずれでもよく、また部分的に交差結合を有するもの、さらにこれらの混合物、のいずれであってもよい。Rで表される炭素数2~8のアルケニル基として、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基などが挙げられ、これらの中でも特にビニル基が好ましい。また、Rで表されるアルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基など、またアリール基として、フェニル基、トリル基などが挙げられる。中でも、Rの置換基の80モル%以上がメチル基であることが軽剥離性の点で好ましい。
【0041】
また、該アルケニル基含有シリコーン中の全ケイ素原子に対し、アルケニル基を有するケイ素原子が0.05~20モル%の範囲であることが、水性コーティング組成物の硬化速度およびポットライフの点から好ましい。本発明におけるアルケニル基含有シリコーンは、公知の方法で製造することができる。
【0042】
(SiH基含有シリコーン)
SiH基で表されるSi原子と直接結合した水素原子を有するシリコーン(以下、SiH基含有シリコーンと称することがある)として、下記の一般式(II)で示される構成単位を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンが例示される。この構成単位と共に、他の構成単位として、下記の一般式(II)において、dが0かつcが2である構成単位を有するものが好ましい。
SiO(4-c-d)/2・・・(II)
(式(II)中、Rはアルキル基またはアリール基から選択される炭素数1~16の1価の飽和炭化水素基であり、cは0~2、dは1~3で、かつc+d≦3を満たす整数をそれぞれ表す)
SiH基含有シリコーンは、直鎖状構造、分岐鎖状構造のいずれでもよい。また、Rで表されるアルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基など、またアリール基として、フェニル基、トリル基などが挙げられる。中でも、Rの置換基の50モル%以上がメチル基であることが軽剥離性の点で好ましい。
SiH基含有シリコーンは、硬化特性の観点から、シリコーン1分子中に少なくとも3個、好ましくは5個以上のケイ素原子に結合した水素原子を有することが好ましい。SiH基含有シリコーンは、公知の方法で製造することができる。
【0043】
(SiH基数とアルケニル基数との比率)
水性コーティング組成物中のSiH基数とアルケニル基数との比率(SiH基数/アルケニル基数)は、未反応の反応性官能基を低減して、離型層の表面ゼータ電位を所定の範囲内に制御する観点から、1.0~2.0の範囲が好ましい。
【0044】
(反応性シリコーン含有量)
水性コーティング組成物において、該組成物の固形分質量を基準としてアルケニル基含有シリコーン固形分とSiH基含有シリコーン固形分の合計量は70質量%以上であることが好ましく、より好ましい含有量は80~97質量%である。ここでシリコーン固形分とは水系溶媒を除いた量を指し、水性コーティング組成物の固形分質量は各添加剤の固形分の合計量を指す。該シリコーン固形分の合計量が下限以上であると、基材フィルム表面に対してシリコーンで被覆される面積が十分となり、剥離力が低減でき、剥離力の不均一化が生じ難くなる。
【0045】
[シランカップリング剤]
シランカップリング剤は、基材フィルムへの離型層の密着性を高めるために使用され、有機材料と化学結合し得る反応性基を有するアルコキシシラン化合物である。本発明では、アルケニル基を含有するシランカップリング剤Xと、その他の反応性官能基を有するシランカップリング剤Yとを組合せて使用することが好ましい。両者を組み合わせることで、離型層と基材フィルムとの密着性をより向上させることができる。
シランカップリング剤の含有量としては、基材フィルムへの離型層の密着性を高めつつ、離型層の表面ゼータ電位を所定の範囲内に制御する観点から、水性コーティング組成物に含まれるシリコーン固形分合計量に対する濃度として、0.3~33質量%が好ましく、0.5~30質量%がより好ましく、1~15質量%が更に好ましい。
【0046】
[シランカップリング剤X]
シランカップリング剤Xは、アルケニル基を含有するものであり、主として反応性シリコーンとの反応により密着性を向上させると考えられる。アルケニル基としては、ビニル、1-プロペニル、イソプロペニル、2-メチル-1-プロペニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル等の低級(特にC2~4)アルケニル基が挙げられるが、ビニル基が好ましい。
【0047】
また、シランカップリング剤Xとしては、アルコキシ基の数に応じて、モノアルコキシ型、ジアルコキシ型、トリアルコキシ型が存在するが、反応性の観点から、トリアルコキシ型のシランカップリング剤が好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられるが、反応性の観点から、メトキシ基が好ましい。
【0048】
[シランカップリング剤Y]
シランカップリング剤Yは、その他の反応性官能基を有するものであり、主として基材フィルムの表面との反応により密着性を向上させると考えられる。反応性官能基としては、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基が挙げられるが、ポリエステル等との反応性の観点から、エポキシ基、イソシアネート基が好ましい。反応性官能基は、スペーサ基を介してケイ素原子に結合していてもよく、スペーサ基としては、アルキレン基、オキシアルキレン基、アミノアルキレン基、アリーレン基、などが挙げられる。
【0049】
また、シランカップリング剤Yとしては、アルコキシ基の数に応じて、モノアルコキシ型、ジアルコキシ型、トリアルコキシ型が存在するが、反応性の観点から、トリアルコキシ型のシランカップリング剤が好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられるが、反応性の観点から、メトキシ基が好ましい。
【0050】
[シランカップリング剤のモル比]
シランカップリング剤XとYのモル比(X/Y)は、55/45~85/15であることが好ましく、60/40~80/20がより好ましく、65/35~75/25が更に好ましい。モル比が上記範囲内であると離型層の剥離性とゼータ電位のバランスが良好になるため、所望の濡れ性、剥離性と付着異物個数を達成し易くなる。
【0051】
[白金系触媒]
水性コーティング組成物には、反応性シリコーン等の反応を促進させるため、例えばアルケニル基含有シリコーンとSiH基含有シリコーンとを付加反応を促進させるために、白金系触媒が用いられる。
【0052】
白金系触媒としては公知のものが使用でき、例えば塩化白金や塩化白金酸が挙げられる。該白金系触媒はシリコーンへの分散性を考慮して1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン白金(0)錯体(Karstedt触媒)を用いてもよく、シリコーンを乳化させる際に同時に分散させることで均一分散性を確保することができる。
【0053】
白金系触媒量はアルケニル基含有シリコーンの質量に対する白金元素の質量が10~800ppmの範囲とすることが好ましい。このような範囲とすることで、シリコーンの硬化を十分に行うことができ、かつ、離型層の表面ゼータ電位を所定の範囲内に制御し易くなる。例えば、未反応のアルケニル基の存在は、ゼータ電位(および帯電量も)を増加させることがわかっており、白金触媒の添加量によって離型層の反応性(硬化性)を向上させつつ、狙いのゼータ電位とすることができる。また、シリコーン凝集物の発生を抑制することができ、表面性に優れた離型フィルムを得ることができる。かかる観点から、白金系触媒量は、好ましくは600ppm以下、より好ましくは500ppm以下、さらに好ましくは200ppm以下、特に好ましくは120ppm以下、最も好ましくは100ppm以下である。上記の観点から、好ましくは15ppm以上、より好ましくは20ppm以上、さらに好ましくは25ppm以上、特に好ましくは80ppm以上である。
【0054】
[界面活性剤]
離型層を設けるための水性コーティング組成物には、基材フィルムへの濡れを促進するために界面活性剤が添加される。かかる界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性等が挙げられ、これらの1種以上を用いることも可能である。但し、シリコーン成分の硬化反応の阻害や水性コーティング組成物の安定性の観点から、好ましくはノニオン系界面活性剤が用いられる。
【0055】
ノニオン系界面活性剤としては、乳化分散力や水分散体の安定性の観点から、HLB値が8~18の範囲のものが好ましい。ノニオン系界面活性剤としては、例えば、高級アルコール、ないし高級脂肪酸のアルキレンオキシド付加体、高級脂肪酸とアルコールとのアルキレンオキシド付加体のエステル体、アルカノールアミドのアルキレンオキシド付加体、ソルビタンエステルのアルキレンオキシド付加体、高級脂肪酸グリセリドのアルキレンオキシド付加体などのアルキレンオキシド付加型から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。ここで、HLB値はGriffinの計算式により算出される値である。
【0056】
アルキレンオキシドとして、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドが挙げられ、これらのうちの1種を用いても複数用いてもよい。複数用いる場合、ブロック、ランダムの付加形式を問わないが、HLB値が8~18の範囲であることが好ましく、10~15の範囲であることがさらに好ましい。これらのノニオン系界面活性剤の中でも、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル等が好ましく挙げられる。
【0057】
なお、アニオン系界面活性剤(陰イオン系)を添加すると、添加量の増加に伴いイオン濃度が大きくなり、ゼータ電位が大きくなる(マイナス方向)傾向がある。逆に、カチオン系界面活性剤(陽イオン系)はゼータ電位がプラス方向に作用させることができ、ゼータ電位の絶対値を低減するために使用することが可能である。
【0058】
界面活性剤の含有量としては、離型層の質量(全固形分質量)に対する界面活性剤の含有量として、0.1~20質量%が好ましく、2~15質量%がより好ましい。下限以上であると、水性コーティング組成物のフィルム基材への濡れ性が良好になり、均一な離型層を形成でき、離型性も良好になり、ゼータ電位も安定する。上限以下であると、界面活性剤自体の凝集が抑制され、均一な離型層を形成でき、適度な表面自由エネルギーにより離型性が良好になり、ゼータ電位も適度な値となる。
【0059】
[水系溶媒]
水性コーティング組成物に含まれる水系溶媒としては、水を含むものが用いられる。水系溶媒を用いることにより、フィルム製膜の工程中に有機溶剤で必要となる防爆設備および回収設備を用いることなく離型層を形成させることができる。
【0060】
(架橋反応抑制剤)
本発明において、室温における白金系触媒の活性を抑制するために、水性コーティング組成物に架橋反応抑制剤を含有することが好ましい。かかる架橋反応抑制剤は、好ましくはエチニル基を有する架橋反応抑制剤である。エチニル基を有する架橋反応抑制剤としては、エチニル基を有するものであれば特に限定されないが、本発明では水性コーティング組成物を採用しているため、水への溶解性と白金への配位能のバランスおよび沸点から、1-エチニルシクロヘキサノールを代表とするエチニル基と水酸基を有する架橋反応抑制剤を使用することが好ましい。
【0061】
該架橋反応抑制剤の含有量は、離型層の形成に用いられる塗布液質量に対して、好ましくは10ppm以上、より好ましくは50ppm以上である。これにより凝集物数が低減する傾向にある。また、架橋反応抑制剤の含有量は、シリコーンの硬化反応が抑制を好適に行なう観点から、好ましくは500ppm以下、より好ましくは400ppm以下、さらに好ましくは300ppm以下であり、150ppm以下であることが特に好ましく、100ppm以下が最も好ましい。
【0062】
(その他成分)
水性コーティング組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、例えば帯電防止剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、有機又は無機粒子、潤滑剤、ブロッキング防止剤等の他の添加剤を混合することができる。
【0063】
(シリコーン水分散体の作製)
水性コーティング組成物の原料となる各シリコーン水分散体を作製するにあたり、上述のシリコーン成分、水系溶媒および界面活性剤を用いて乳化させる方法が挙げられる。これら成分の乳化は公知の方法を用いることができ、例えば、予め作製したシリコーンと界面活性剤と、必要に応じてその他成分とを、ホモジナイザー、アジホモミキサー、ウルトラプラネタリーミキサー等の撹拌装置を用いて水系媒体中で機械的に乳化する方法が挙げられる。
【0064】
また、撹拌翼の大きさ、撹拌速度および撹拌時間を調整して水分散体の粒径を調整することができる。各シリコーン水分散体の分散粒子の平均粒径は200nm以下であることが好ましく、より好ましくは100~200nmである。
【0065】
[離型層の物性等]
本発明の離型フィルムは、流動電位法により測定した離型層の表面ゼータ電位が、(ポリスチレン)モニター粒子分散液に対して、-60~0mVであることを特徴とする。かかる表面ゼータ電位は、好ましくは、-55~0mV、より好ましくは-50~0mVである。ゼータ電位が、-60mVを超えた場合、フィルム製造中のテンター内や搬送中に浮遊するポリマー劣化物をはじめとする異物が付着しやすく、グリーンシート等の欠点が増加し易くなる。また、表面ゼータ電位が、0mVを超えてプラス電位となると、ロールフィルムとした場合に、離型層が設けられていない面と密着し易くなり、搬送中の振動に伴うフィルム同士の摩擦により帯電量が増加するため、取扱い性が悪化することがある。なお、一般的に、未処理のポリエステルフィルムのゼータ電位は-40~-30mVである。
表面ゼータ電位は、白金系触媒の添加量、シランカップリング剤の添加量、シランカップリング剤XとYのモル比、界面活性剤の種類や添加量を変えること等により制御することができる。ビニル基、SiH基、などの未反応基の量が多くなると、表面ゼータ電位の絶対値が大きくなる傾向がある。
【0066】
離型層の厚みは5nm~100nmが好ましく、より好ましくは5nm~80nmであり、更に好ましくは10nm~50nmである。離型層厚みが5nm以上であると基材フィルム表面を完全に被覆でき、剥離性が確保しやすくなる。また、離型層厚みが100nm以下であると離型フィルムをロールtoロール搬送での取扱性が良くなり、また、塗膜硬化に必要な熱量も大きくなりすぎない。
【0067】
離型層の表面自由エネルギーは、被剥離層の塗布原料に対する濡れ性、被剥離層の剥離性の観点から、10mN/m以上35mN/m以下であることが好ましく、15mN/m以上30mN/m以下であることがより好ましい。
【0068】
[用途]
本発明の離型フィルムは、粘着剤、接着剤、貼薬剤等よりなる粘着面を保護する目的、或は硬化性樹脂、例えばウレタン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の硬化反応性、形成性を保護する目的等で用いることができる。また、各種樹脂シートの支持体としても使用することができ、例えば積層セラミックコンデンサー用、セラミック多層配線基板用などのグリーンシート成形時のキャリアフィルム等として用いることができる。
【0069】
[離型フィルムの製造方法]
離型フィルムを製造する方法は、特に限定されないが、水性コーティング組成物を、基材フィルムの少なくとも片面に塗布し、次いで乾燥、反応、固化させることで、離型層を形成できる。
【0070】
塗布は、通常の塗布工程、すなわちポリエステルフィルムに、該フィルムの製造工程と切離して塗布する工程で行ってもよい。しかし、この工程では、芥、塵埃などを巻込み易いから、クリーンな雰囲気での塗工が望ましい。かかる観点よりポリエステルフィルム製造工程での塗工が好ましい。特に、この工程中で結晶配向が完了する前のポリエステルフィルムに水性コーティング組成物として塗布することが、ポリエステルフィルムとの密着性の観点から好ましい。
【0071】
ここで、結晶配向が完了する前のポリエステルフィルムとは、ポリエステルを熱溶融してそのままフィルム状となした未延伸フィルム、未延伸フィルムを縦方向(長手方向)または横方向(幅方向)の何れか一方に配向せしめた一軸延伸フィルム、さらには縦方向及び横方向の二方向に低倍率延伸配向せしめたフィルム(最終的に縦方向または横方向に再延伸せしめて配向結晶可を完了せしめる前の二軸延伸フィルム)等を含むものである。
【0072】
塗布方法としては、公知の任意の塗工法が適用できる。例えば、キスコート法、バースコート法、ダイコート法、リバースコート法、オフセットグラビアコート法、マイヤバーコート法、グラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法及びカーテンコート法などを単独又は組み合わせて適用するとよい。
【0073】
水性コーティング組成物を塗布された、結晶配向完了する前のポリエステルフィルムは、乾燥され、延伸、熱固定等の工程に導かれる。例えば水性コーティング組成物を塗布した縦一軸延伸ポリエステルフィルムは、テンターに導かれて横延伸及び熱固定される。この間、水性コーティング組成物は乾燥され反応及び固化(熱架橋)される。
【実施例0074】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性等の評価方法は以下の通りである。
【0075】
(1)数平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を測定し、ポリスチレン換算値として算出した。
【0076】
(2)離型層の厚み
離型フィルムを三角形の小片に切り出した後、コーティングにより、厚み2nmのPt(白金)層を離型層表面に形成した。得られたサンプルを多軸包埋カプセルに固定して、エポキシ樹脂を用いて包埋処理し、ミクロトームULTRACUT-Sを用いて、フィルムの面方向に垂直な方向にスライスして、厚さ50nmの超薄サンプルを得た。次いで、得られた超薄サンプルをグリッドに載台して、2%オスミウム酸により、60℃、2時間の条件で蒸気染色した。蒸気染色後の超薄サンプルを用いて、透過電子顕微鏡LEM-2000により、加速電圧100kvの条件でフィルム断面を観測し、離型層の厚みを測定した。測定は、任意の10点について実施し、それらの平均値を離型層の厚み(単位:nm)とした。
【0077】
(3)離型層の塗布均一性
離型フィルムをA4版に切り出し、離型層面を蛍光灯、ハロゲンライトを用いて目視で観察した際に凝集状塗布欠点の個数を比較し、以下の基準により評価した。
◎(Excellent):離型層表面1mに長径0.5mm以上の塗布欠陥が観察されない。
○(Good):離型層表面1mに長径1.0mm以上の塗布欠陥が観察されない。
△(Moderate):離型層表面1mに長径1.5mm以上の塗布欠陥が観察されない。
×(poor):離型層表面1mに長径2.0mm以上の塗布欠陥が1つ以上観察される。
【0078】
(4)表面自由エネルギー
23℃、65%RHの条件下で、24時間調湿したフィルムサンプルの離型層表面について、自動接触角測定装置(協和界面化学(株)社製)を使用して、水、ヨウ化メチレン、n-ヘキサデカンとの静的接触角を測定した。各液体試料についてそれぞれ5回ずつ測定を行い、その平均値をフィルムサンプルの接触角とし、各液体試料の表面張力および表面張力成分値(表1)を用いて、下記式(I)のFowkesの拡張式より離型層表面の表面自由エネルギーを算出した。
γ=γ +γ +γ h ・・・(1)
(上式中、γ は分散成分、γ は極性成分、γ は水素結合成分をそれぞれ表わす)
【0079】
【表1】
【0080】
(5)ゼータ電位の測定
離型フィルムの離型層の表面ゼータ電位は、マルバーン・パナリティカル社製ゼータサイザーナノZSを用いて、電気泳動法光散乱法により測定した。離型フィルムを付属する平板ゼータ電位測定用セルのサンプルホルダー(約4mm×5mm)のサイズに切り出し、離型層とは反対側の面をサンプルホルダーへ接着したものを測定試料とした。平板ゼータ電位測定用セルの中に、トレーサー粒子(標準粒子)としてゼータ電位をほぼ0mVに抑えたポリスチレンラテックス懸濁液を入れ、試料をセットしたサンプルホルダーを浸漬した。このトレーサー粒子に電場をかけ、試料表面の状態によって変化するトレーサー粒子の移動度から試料表面のゼータ電位を得た。測定条件は、水の温度:25℃、屈折率:1.3328、粘度:0.8878cP、誘電率:78.3とし、N=3の平均値をゼータ電位(mV)とした。
【0081】
離型フィルムの裏面側(離型層の反対側面)の表面ゼータ電位の測定については、裏面側が表面になるように試料をセットして、上記と同じ方法で表面ゼータ電位を測定した。
【0082】
(6)付着異物数の評価
50mm角サイズの離型フィルムを50枚積層し、真空吸引によってフィルム層間の空気を抜いた積層フィルムを測定サンプルとした。この積層フィルムの表面に観察される突起異物をカウントし、積層フィルム総面積から単位面積当たりに換算して算出した値を付着異物個数(個/100m)とした。該欠点数が0.1個/100m以上であるとMLCCチップを製造した際に電気特性不良率が高くなる。なお、主な付着異物の種類としては、PETオリゴマー、PET削れ物、ナイロン、セルロースであった。
◎(Excellent):付着異物個数が0.03個/100m未満
○(Good):付着異物個数が0.03個/100m以上、0.05個/100m未満
△(Moderate):付着異物個数が0.05個/100m以上、0.1個/100m未満
×(Poor):付着異物個数が0.1個/100m以上
(7)樹脂層の剥離強度の評価
作製した離型フィルムの離型層を形成した面上に、ポリビニルブチラール(積水化学工業(株)製、BM-2)をトルエンーエタノール7:3(質量比)混合液に溶解させた溶液を、アプリケータを用いて樹脂層の厚みが3.0μmとなるように塗布し、その後室温で20分間放置してから、70℃で乾燥させて、樹脂層を形成した。形成した樹脂層を粘着テープが貼られたSUS板へ貼り付け固定し、離型フィルムを剥離角度90度、剥離速度300mm/分、サンプル幅25mmで剥離し、その際の剥離抵抗を測定した。剥離強度が10g/25mmを超えると樹脂層の破断が発生する(樹脂層がSUS板側に残る)ため、実用上問題がある。
◎(Excellent):剥離強度が3g/25mm未満
○(Good):剥離強度が3g/25mm以上、7g/25mm未満
△(Moderate):剥離強度が7g/25mm以上、10g/25mm以下
×(Poor):剥離強度が10g/25mmを超える、もしくは樹脂層の破れが生じる。
【0083】
[実施例1]
粗面層として平均粒子径が0.7μmの炭酸カルシウム粒子0.1質量%を含むポリエチレンテレフタレート(η=0.64dl/g、Tg=78℃)と、平滑層として意図して粒子を含まないポリエチレンテレフタレート((η=0.64dl/g、Tg=78℃))とを溶融状態で粗面層/平滑層の2層に積層させ押出機のダイより押出し、常法により冷却ドラムで冷却して未延伸フィルムとし、次いで縦方向に80℃で3.6倍に延伸した後、後述する組成からなる水性コーティング組成物をフィルムの平滑層表面に、ロールコーターで均一に塗布した。なお、用いた水性コーティング組成物の塗布液は調製後4時間以内のものを用いた。次いで、この塗布フィルムを115℃で乾燥し、145℃で横方向に4.0倍に延伸し、更に230℃で約10秒間熱固定して、表1に示す離型層(厚み20nm)を有する二軸延伸ポリエステルフィルム(全体厚さ31μm、粗面層厚さ7μm、平滑層厚さ24μm)からなる離型フィルムを得た。この離型フィルムについて、前述の評価を行なった。その結果を表2に示す。
【0084】
水性コーティング組成物としては、各々下記に示す材料を用いて、アルケニル基含有シリコーン水分散体100質量部、SiH基含有シリコーン水分散体12質量部、白金系触媒をアルケニル基含有シリコーン量に対する質量で100ppm、架橋反応抑制剤150ppm、シランカップリング剤XとYを合計量でシリコーン固形分合計量に対して5質量%(モル比X:Y=65:35)で構成される水性コーティング組成物を用い、目標の塗布厚みとなるように塗布液の固形分濃度を水で希釈して調製し、塗布液を準備した。この水性コーティング組成物は、乳化装置(株式会社エヌ・ピー・ラボ製、装置名「ウルトラプラネタリーミキサー」)を用いて、エマルジョン粒径を平均粒径200nmの塗布液(シリコーンの固形分合計量90質量%)として調製した。
【0085】
<アルケニル基含有シリコーン水分散体>
容器内全体を攪拌できる乳化装置(株式会社エヌ・ピー・ラボ製、装置名「ウルトラプラネタリーミキサー」)を用いて、下式(1)で表されるアルケニル基を有するシリコーン(数平均分子量15000)98質量%、および界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王株式会社製、商品名「エマルゲン109P」)2質量%からなる原料を水媒体中で機械的に乳化させて、固形分20質量%のアルケニル基含有シリコーン水分散体を得た。また、乳化の際の撹拌速度と撹拌時間の調整によりエマルジョン粒径を平均粒径200nmに調整した。
【化1】
式(1)中、mは2であり、nは数平均分子量15000となるよう調整した。
【0086】
<SiH基含有シリコーン水分散体>
容器内全体を攪拌できる乳化装置(株式会社エヌ・ピー・ラボ製、装置名「ウルトラプラネタリーミキサー」)を用いて、下式(2)で表される水素基を有するシリコーン(数平均分子量:4500)98質量%、および界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王株式会社製、商品名「エマルゲン109P」)2質量%からなる原料を水媒体中で機械的に乳化させて、固形分10質量%のSiH基含有シリコーン水分散体を得た。また、乳化の際の撹拌速度と撹拌時間の調整によりエマルジョン粒径を平均粒径200nmに調整した。
【化2】
(式(2)中、o=30、p=35である)
<白金系触媒>
白金系触媒エマルジョン(信越化学工業株式会社製 商品名「CATPM-10A」)を表2の白金元素質量となるように調整した。
【0087】
<架橋反応抑制剤>
1-エチニルシクロヘキサノール(Alfa Lancaster社製)を使用した。
【0088】
<シランカップリング剤X>
ビニルトリメトキシシラン(信越化学工業社製;商品名「KBM-1003」)を使用した。
【0089】
<シランカップリング剤Y>
3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製;商品名「KBM-403」)を使用した。
【0090】
[実施例2~16]
実施例1において、水性コーティング組成物の組成を表2に示すものに代えたこと以外は、実施例1と全く同じ条件で離型フィルムを作製し、前述の評価を行なった。その結果を表2に示す。なお、アルケニル基含有シリコーンの数平均分子量は、式(1)中のnを変えることで調整した。
【0091】
[比較例1~2]
実施例1において、表2に示すように水性コーティング組成物中の白金系触媒の添加量を変えたこと以外は、実施例1と全く同じ条件で離型フィルムを作製し、前述の評価を行なった。その結果を表3に示す。
【0092】
[比較例3~4]
実施例1において、表2に示すように水性コーティング組成物中のシランカップリング剤の添加量を変えたこと以外は、実施例1と全く同じ条件で離型フィルムを作製し、前述の評価を行なった。その結果を表3に示す。
【0093】
[比較例5~6]
実施例1において、表2に示すように水性コーティング組成物中のシランカップリング剤XとYのモル比を変えたこと以外は、実施例1と全く同じ条件で離型フィルムを作製し、前述の評価を行なった。その結果を表3に示す。
【0094】
[比較例7~8]
実施例1において、表2に示すように水性コーティング組成物中の界面活性剤の添加量を変えたこと以外は、実施例1と全く同じ条件で離型フィルムを作製し、前述の評価を行なった。その結果を表3に示す。
【0095】
[比較例9]
実施例1において、表2に示すように水性コーティング組成物中に界面活性剤を添加しないこと以外は、実施例1と全く同じ条件で離型フィルムを作製し、前述の評価を行なった。その結果を表3に示す。
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
表2に示すように、実施例1~16では、シランカップリング剤、白金系触媒、界面活性剤等を適量添加することにより、塗工均一性や剥離性を良好に維持しながら、離型層の表面ゼータ電位を所定の範囲内に制御することで、付着異物数を低減できた。
【0099】
これに対して、表3に示すように、白金系触媒の添加量が少ない比較例1では、未反応基の増加により、表面ゼータ電位の絶対値が大きくなり、付着異物数の増加と剥離強度の増加が見られた。また、白金系触媒を過剰に添加した比較例2では、凝集状塗布欠点の増加により、表面ゼータ電位の絶対値が大きくなり、付着異物数の増加が見られた。
【0100】
また、シランカップリング剤の添加量が少ない比較例3では、凝集状塗布欠点の増加により、表面ゼータ電位の絶対値が大きくなり、付着異物数の増加が見られると共に、基材との密着性が低下して離型作用が不十分となった。表面ゼータ電位の絶対値が大きくなり、付着異物数の増加と剥離強度の増加が見られた。また、シランカップリング剤を過剰に添加した比較例4では、未反応基の増加により、表面ゼータ電位の絶対値と表面自由エネルギーが大きくなり、付着異物数の増加と剥離強度の増加が見られた。
【0101】
また、シランカップリング剤Xの添加量がより少ない比較例5では、表面ゼータ電位の絶対値がやや大きくなり、付着異物数の増加が見られると共に、基材との密着性が低下して離型作用が不十分となった。また、シランカップリング剤Xを過剰に添加した比較例6では、未反応基の増加により、表面ゼータ電位の絶対値が大きくなり、付着異物数の増加の増加が見られた。
【0102】
また、界面活性剤の添加量がより少ない比較例7、及び添加してない比較例9では、離型層が不均一になり、表面ゼータ電位の測定が困難(不安定)になり、付着異物数の増加が見られると共に、離型作用が不十分となった。また、界面活性剤を過剰に添加した比較例8では、離型層が不均一になり、表面ゼータ電位の測定が困難(不安定)になり、付着異物数の増加が見られると共に、離型作用が不十分となった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の離型フィルムは、基材フィルムへの離型層の均一な塗布形成が可能であり、付着異物数を低減でき、被剥離層に対する剥離性にも優れ、各種の用途に使用できるため、産業上の利用価値は極めて高い。