(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147581
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】測量システム
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
G01C15/00 103E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048886
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100098796
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 全
(74)【代理人】
【識別番号】100121647
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 和孝
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(72)【発明者】
【氏名】松本 昌絵
(57)【要約】
【課題】測定対象をより確実に追尾できる測量システムを提供すること。
【解決手段】測量システムは、測定対象と、測定装置本体3と、を備える。測定装置本体3は、測距光射出部25と、受光部26と、測距部42と、光軸偏向部35と、射出方向検出部38と、演算制御部28と、を有する。演算制御部28は、2次元スキャンの往路復路が交差する交点を有するスキャンパターンで2次元スキャンを制御し、2次元スキャン中に受光信号を検出する毎に測定対象の3次元データを更新し、3次元データを更新する毎に測定対象の基準点検出用および回転角度検出用の重み付けを交点からの距離に応じて生成し、重み付けを用いて計算された測定対象の基準点位置および回転角度に基づいて測定対象を追尾する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再帰反射体を有する測定対象と、
測距光を発し、前記再帰反射体からの反射測距光に基づき前記測定対象の測定を行う測定装置本体と、
を備えた測量システムであって、
前記測定装置本体は、
前記測距光を発する発光素子を有し、前記測距光を測距光軸上に射出する測距光射出部と、
前記反射測距光を受光し、受光信号を発生する受光素子を有する受光部と、
前記受光素子からの前記受光信号に基づき前記測定対象の測距を行う測距部と、
基準光軸を有し、前記測距光軸を前記基準光軸に対して偏向する光軸偏向部と、
前記測距光軸の前記基準光軸に対する偏角、偏角の方向を検出する射出方向検出部と、
前記光軸偏向部の偏向作用及び前記測距部の測距作用を制御する演算制御部と、
を有し、
前記光軸偏向部は、
前記基準光軸を中心として回転可能な一対の光学プリズムと、
前記光学プリズムを個々に独立して回転するモータと、
を有し、
前記演算制御部は、前記一対の光学プリズムの回転方向、回転速度、回転比の制御により前記光軸偏向部による偏向を制御し、前記測距光を前記測距光軸を略中心として2次元スキャンを実行するとともに前記2次元スキャンの往路復路が交差する交点を有するスキャンパターンで前記2次元スキャンを制御し、前記2次元スキャン中に前記受光信号を検出する毎に前記射出方向検出部による検出結果としての偏角データと前記測距部による検出結果としての測距データとに基づいた前記測定対象の3次元データを更新し、前記3次元データを更新する毎に前記測定対象の基準点検出用および回転角度検出用の重み付けを前記交点からの距離に応じて生成し、前記重み付けを用いて計算された前記測定対象の基準点位置および回転角度に基づいて前記測定対象を追尾することを特徴とする測量システム。
【請求項2】
前記演算制御部は、前記交点からの距離が近いほど値が大きくなるように前記基準点検出用の前記重み付けを生成することを特徴とする請求項1に記載の測量システム。
【請求項3】
前記演算制御部は、前記交点からの距離が遠いほど値が大きくなるように前記回転角度検出用の前記重み付けを生成することを特徴とする請求項1または2に記載の測量システム。
【請求項4】
前記演算制御部は、前記2次元スキャンにおける直交座標軸のうちの一方の座標軸で前記受光信号の強度分布を折り返した第1補正データと、前記直交座標軸のうちの他方の座標軸で前記受光信号の強度分布を折り返した第2補正データと、を前記測定対象の前記回転角検出用としてさらに生成し、前記交点からの距離に応じて生成した前記回転角度検出用の前記重み付けと、前記第1補正データおよび前記第2補正データの少なくともいずれかと、を用いて計算された前記回転角度に基づいて前記測定対象を追尾することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の測量システム。
【請求項5】
前記演算制御部は、前記一方の座標軸で前記受光信号の強度分布を折り返した後、前記一方の座標軸で折り返した前記強度分布のみを前記他方の座標軸を中心としてさらに反転させることにより前記第1補正データを生成し、前記他方の座標軸で前記受光信号の強度分布を折り返した後、前記他方の座標軸で折り返した前記強度分布のみを前記一方の座標軸を中心としてさらに反転させることより前記第2補正データを生成することを特徴とする請求項4に記載の測量システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、追尾機能を有する測量システムに関する。
【背景技術】
【0002】
追尾機能を有する測量システムとして、例えばトータルステーションがある。トータルステーションは、測距光学系を兼ねる高倍率の望遠鏡で測定対象を視準し、測定を実行し、更に望遠鏡を水平回転/鉛直回転させ、異なる測定対象を視準して、異なる測定対象毎に順次視準して測定を実行する。あるいは、トータルステーションは、測定対象の移動に追従して望遠鏡を水平回転/鉛直回転させ、測定対象を追尾しつつ、測定対象を視準して測定を実行する。
【0003】
ところが、測量システムが測定対象を追尾する場合において、測定対象の動きが速いときには、測量システムが測定対象の動きに追従できず、測定対象を見失うことがある。測量システムは、測定対象を一旦見失うと測定対象をサーチするが、測定対象を捉える迄に時間を要することがある。そのため、測定対象の動きが速いときに、測量システムが測定対象を追尾できないことが、測定の作業性低下の要因となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、測定対象をより確実に追尾できる測量システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題は、再帰反射体を有する測定対象と、測距光を発し、前記再帰反射体からの反射測距光に基づき前記測定対象の測定を行う測定装置本体と、を備えた測量システムであって、前記測定装置本体は、前記測距光を発する発光素子を有し、前記測距光を測距光軸上に射出する測距光射出部と、前記反射測距光を受光し、受光信号を発生する受光素子を有する受光部と、前記受光素子からの前記受光信号に基づき前記測定対象の測距を行う測距部と、基準光軸を有し、前記測距光軸を前記基準光軸に対して偏向する光軸偏向部と、前記測距光軸の前記基準光軸に対する偏角、偏角の方向を検出する射出方向検出部と、前記光軸偏向部の偏向作用及び前記測距部の測距作用を制御する演算制御部と、を有し、前記光軸偏向部は、前記基準光軸を中心として回転可能な一対の光学プリズムと、前記光学プリズムを個々に独立して回転するモータと、を有し、前記演算制御部は、前記一対の光学プリズムの回転方向、回転速度、回転比の制御により前記光軸偏向部による偏向を制御し、前記測距光を前記測距光軸を略中心として2次元スキャンを実行するとともに前記2次元スキャンの往路復路が交差する交点を有するスキャンパターンで前記2次元スキャンを制御し、前記2次元スキャン中に前記受光信号を検出する毎に前記射出方向検出部による検出結果としての偏角データと前記測距部による検出結果としての測距データとに基づいた前記測定対象の3次元データを更新し、前記3次元データを更新する毎に前記測定対象の基準点検出用および回転角度検出用の重み付けを前記交点からの距離に応じて生成し、前記重み付けを用いて計算された前記測定対象の基準点位置および回転角度に基づいて前記測定対象を追尾することを特徴とする本発明に係る測量システムにより解決される。
【0007】
本発明に係る測量システムによれば、演算制御部は、光軸偏向部による偏向を制御し、測距光を測距光軸を略中心として2次元スキャンを実行するとともに、2次元スキャンの往路復路が交差する交点を有するスキャンパターンで2次元スキャンを制御する。そして、演算制御部は、2次元スキャン中に受光信号を検出する毎に、射出方向検出部による検出結果としての偏角データと、測距部による検出結果としての測距データと、に基づいた測定対象の3次元データを更新する。このように、演算制御部は、2次元スキャン中に受光信号を検出する毎に3次元データを取得し更新するため、所定量の3次元データが蓄積されなくとも、高速で測定対象を追尾することができる。このとき、演算制御部は、3次元データを更新する毎に、測定対象の基準点検出用および回転角度検出用の重み付けをスキャンパターンの交点からの距離に応じて生成し、重み付けを用いて計算された測定対象の基準点位置および回転角度に基づいて測定対象を追尾する。そのため、演算制御部は、2次元スキャン中に受光信号を検出する毎に3次元データを取得し更新する場合であっても、演算処理に要する時間を短縮化し、高速で測定対象を追尾することができる。これにより、本発明に係る測量システムは、測定対象を見失うことを抑え、測定対象をより確実に追尾できる。
【0008】
本発明に係る測量システムにおいて、好ましくは、前記演算制御部は、前記交点からの距離が近いほど値が大きくなるように前記基準点検出用の前記重み付けを生成することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る測量システムによれば、演算制御部は、スキャンパターンの交点からの距離が近いほど値が大きくなるように測定対象の基準点検出用の重み付けを生成する。そのため、演算制御部は、測定対象の基準点をより高い精度で検出することができる。これにより、本発明に係る測量システムは、測定対象をより確実に追尾できる。
【0010】
本発明に係る測量システムにおいて、好ましくは、前記演算制御部は、前記交点からの距離が遠いほど値が大きくなるように前記回転角度検出用の前記重み付けを生成することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る測量システムによれば、演算制御部は、スキャンパターンの交点からの距離が遠いほど値が大きくなるように測定対象の回転角度検出用の重み付けを生成する。そのため、演算制御部は、測定対象の回転角度をより高い精度で検出することができる。これにより、本発明に係る測量システムは、測定対象をより確実に追尾できる。
【0012】
本発明に係る測量システムにおいて、好ましくは、前記演算制御部は、前記2次元スキャンにおける直交座標軸のうちの一方の座標軸で前記受光信号の強度分布を折り返した第1補正データと、前記直交座標軸のうちの他方の座標軸で前記受光信号の強度分布を折り返した第2補正データと、を前記測定対象の前記回転角検出用としてさらに生成し、前記交点からの距離に応じて生成した前記回転角度検出用の前記重み付けと、前記第1補正データおよび前記第2補正データの少なくともいずれかと、を用いて計算された前記回転角度に基づいて前記測定対象を追尾することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る測量システムによれば、演算制御部は、2次元スキャンにおける直交座標軸のうちの一方の座標軸で受光信号の強度分布を折り返した第1補正データを測定対象の回転角検出用としてさらに生成する。また、演算制御部は、2次元スキャンにおける直交座標軸のうちの他方の座標軸で受光信号の強度分布を折り返した第2補正データを測定対象の回転角検出用としてさらに生成する。そして、演算制御部は、スキャンパターンの交点からの距離に応じて生成した回転角度検出用の重み付けと、第1補正データおよび第2補正データの少なくともいずれかと、を用いて計算された測定対象の回転角度に基づいて測定対象を追尾する。そのため、演算制御部が測定対象の基準点検出用および回転角度検出用の重み付けをスキャンパターンの交点からの距離に応じて生成する場合であっても、受光信号の強度分布が互いに打ち消し合うことを抑えることができる。これにより、本発明に係る測量システムは、測定対象をより確実に追尾できる。
【0014】
本発明に係る測量システムにおいて、好ましくは、前記演算制御部は、前記一方の座標軸で前記受光信号の強度分布を折り返した後、前記一方の座標軸で折り返した前記強度分布のみを前記他方の座標軸を中心としてさらに反転させることにより前記第1補正データを生成し、前記他方の座標軸で前記受光信号の強度分布を折り返した後、前記他方の座標軸で折り返した前記強度分布のみを前記一方の座標軸を中心としてさらに反転させることより前記第2補正データを生成することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る測量システムによれば、演算制御部は、一方の座標軸で受光信号の強度分布を折り返した後、一方の座標軸で折り返した強度分布のみを他方の座標軸を中心としてさらに反転させることにより第1補正データを生成する。また、演算制御部は、他方の座標軸で受光信号の強度分布を折り返した後、他方の座標軸で折り返した強度分布のみを一方の座標軸を中心としてさらに反転させることより第2補正データを生成する。そのため、測定対象が鉛直方向および水平方向に延びていない場合、すなわち測定対象が鉛直方向および水平方向に対して傾斜している場合であっても、受光信号の強度分布が互いに打ち消し合うことを抑えることができる。これにより、本発明に係る測量システムは、測定対象をより確実に追尾できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、測定対象をより確実に追尾できる測量システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る測量システムの概略を表す斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る測量システムの測量装置本体を表す正面図である。
【
図3】本実施形態の測量装置本体の概略構成を表すブロック図である。
【
図4】本実施形態の光軸偏向部の作用を説明する模式図である。
【
図5】スキャンパターンの一例を例示する模式図である。
【
図6】スキャンパターンの他の一例を例示する模式図である。
【
図7】スキャンパターンとターゲット装置との関係を説明する模式図である。
【
図8】本実施形態の演算制御部の概略構成を表すブロック図である。
【
図9】受光素子からの受光信号の強度分布を折り返し反転させる第1具体例を表す模式図である。
【
図10】受光素子からの受光信号の強度分布を折り返し反転させる第2具体例を表す模式図である。
【
図11】受光素子からの受光信号の強度分布を折り返し反転させる第3具体例を表す模式図である。
【
図12】受光素子からの受光信号の強度分布を折り返し反転させる第4具体例を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して詳しく説明する。
なお、以下に説明する実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る測量システムの概略を表す斜視図である。
図2は、本実施形態に係る測量システムの測量装置本体を表す正面図である。
図3は、本実施形態の測量装置本体の概略構成を表すブロック図である。
【0020】
本実施形態に係る測量システム1は、主に支持装置としての三脚2、光波距離計としての測量装置本体3と、測量装置本体3が取付けられる設置台4と、測定点Pに設置されるターゲット装置5と、測量装置本体3を遠隔操作可能な端末機6と、を備える。
【0021】
端末機6は、表示機能、通信機能、演算処理機能を有する携帯可能な装置である。端末機6として、例えば、スマートホン、タブレット、ノートパソコン等が用いられる。端末機6は、測量装置本体3に測定に関する指示を送信し、測量装置本体3が取得した測定データ、画像データ等を受信し、データの保存、データの表示、データ処理等を実行する。
【0022】
設置台4は、三脚2の上端に取付けられる。測量装置本体3は、設置台4に設けられる。設置台4は、測量装置本体3を回転可能に支持する。
【0023】
ターゲット装置5は、断面が円の棒状の支持部材であるポール83と、ターゲットとしてポール83の途中に設けられた基準反射部84と、を有する。基準反射部84は、ポール83と同心の円形であり、基準反射部84の全周に再帰反射部材である反射シートが巻設されている。
【0024】
上下それぞれ部分的にポール83が露出する様、ポール83にも再帰反射部材である反射シートが全周を覆う様に、巻設されている。反射シートが巻設された部分は、上下に所定長さを有する線状反射部85を構成する。基準反射部84、線状反射部85は、それぞれ測距光を反射し、測量システム1の測定対象となっている。基準点(後述)を示すターゲットとしての基準反射部84に対して、線状反射部85は、測定対象の検出、更に基準反射部84の検出を容易にする補助反射部となっている。
【0025】
ポール83の下端は、測定点Pを指示できる様に尖端となっている。
【0026】
ターゲット装置5は、ポール83の下端から所定の位置に基準点を有する。ポール83には、基準反射部84が設けられ、基準反射部84の中心が基準点となっている。基準点とポール83の下端との間の距離は、既知となっている。
【0027】
線状反射部85と同様、基準反射部84の全周に反射シートが巻設されている。基準反射部84は、測距光のビーム径よりも大きい所定の厚み(軸心方向の長さ)で、且つ線状反射部85の直径に対して太くなっている。
【0028】
ここで、基準反射部84と線状反射部85と間の直径差は、測量装置本体3の測定精度に対応して決定される。この直径差は、測量装置本体3の測定精度(測定誤差)以上となっていればよい。即ち、基準反射部84と線状反射部85との測距結果に基づき基準反射部84と線状反射部85との判別ができればよい。又、線状反射部85の直径、測定状況、測量装置本体3の測定能力等に応じて、直径差が決定されることは言う迄もない。
【0029】
例えば、測定距離が最大200mとして、線状反射部85の直径は35mm、基準反射部84の直径は100mm、又基準反射部84の厚みは30mmに設定される。但し、線状反射部85の直径、基準反射部84の直径、基準反射部84の厚みは、これだけに限定されるわけではない。
【0030】
設置台4に水平方向に回転可能に托架部11が設けられている。托架部11の下面からは、水平回転軸12が突設されている。水平回転軸12は、軸受(図示せず)を介して設置台4に回転自在に嵌合している。托架部11は、水平回転軸12を中心に水平方向に回転自在となっている。
【0031】
又、水平回転軸12と設置台4との間には、水平角(水平回転軸12を中心とした回転方向の角度)を検出する水平角検出器13(例えばエンコーダ)が設けられている。水平角検出器13によって托架部11の設置台4に対する水平方向の相対回転角が検出される。
【0032】
設置台4には水平回転ギア14が水平回転軸12と同心に固定され、水平回転ギア14には水平ピニオンギア15が噛合している。托架部11には、水平モータ16が設けられ、水平モータ16の出力軸は下方に突出し、水平モータ16の出力軸に水平ピニオンギア15が固着されている。
【0033】
水平モータ16の駆動により、水平ピニオンギア15が回転し、水平ピニオンギア15が水平回転ギア14の回りを公転する。更に、托架部11と測量装置本体3とは一体であるので、水平モータ16によって、測量装置本体3が水平回転軸12を中心に水平方向に回転される。
【0034】
托架部11は凹部を有する凹形状であり、凹部に測量装置本体3が収納されている。測量装置本体3は、水平方向に延びる水平な軸心を有する鉛直回転軸17を介して托架部11に支持され、測量装置本体3は鉛直回転軸17を中心に鉛直方向に回転自在となっている。
【0035】
鉛直回転軸17の一端には、鉛直回転ギア18が固着され、鉛直回転ギア18にはピニオンギア19が噛合している。托架部11に鉛直モータ21が設けられ、鉛直モータ21の出力軸にピニオンギア19が固着されている。鉛直モータ21が駆動されることで、ピニオンギア19、鉛直回転ギア18、鉛直回転軸17を介して測量装置本体3が鉛直方向に回転される。
【0036】
又、鉛直回転軸17と托架部11との間には、鉛直角(鉛直回転軸17を中心とした回転方向の角度)を検出する鉛直角検出器22(例えばエンコーダ)が設けられている。鉛直角検出器22により、測量装置本体3の托架部11に対する鉛直方向の相対回転角が検出される。
【0037】
水平モータ16、鉛直モータ21、水平角検出器13、鉛直角検出器22は、演算制御部28(後述)に電気的に接続され、水平モータ16、鉛直モータ21は演算制御部28によって所要のタイミングで所要の回転量となる様にそれぞれ個別に駆動制御される。
【0038】
水平モータ16の回転量(即ち、托架部11の水平角)は、水平角検出器13によって検出される。鉛直モータ21の回転量(即ち、測量装置本体3の鉛直角)は、鉛直角検出器22によって検出される。
【0039】
水平角検出器13、鉛直角検出器22の検出結果は、それぞれ演算制御部28に入力される。尚、水平モータ16と鉛直モータ21とによって回転駆動部が構成される。又、水平角検出器13と鉛直角検出器22とにより、測量装置本体3の鉛直回転角及び水平回転角を検出する角度検出器、即ち方向角検出器が構成される。
【0040】
図3を参照して、測量装置本体3の概略構成を説明する。
【0041】
測量装置本体3は、測距光射出部25、受光部26、測距演算部27、演算制御部28、記憶部29、撮像制御部31、画像処理部32、通信部33、光軸偏向部35、姿勢検出器36、測定方向撮像部37、射出方向検出部38、モータドライバ39を有する。これらは、筐体41に収納され、一体化されている。尚、測距光射出部25、受光部26、測距演算部27、光軸偏向部35等は、光波距離計として機能する測距部42を構成する。
【0042】
測距光射出部25は、射出光軸44を有し、射出光軸44上に発光素子45、例えばレーザダイオード(LD)が設けられている。又、射出光軸44上に投光レンズ46が設けられている。更に、射出光軸44上に偏向光学部材としての第1反射鏡47が設けられている。第1反射鏡47で偏向された射出光軸44と、受光光軸51(後述)と、が交差する位置に偏向光学部材としての第2反射鏡48が配設される。射出光軸44は、第2反射鏡48によって受光光軸51と合致する様に偏向される。第1反射鏡47と第2反射鏡48とで射出光軸偏向部が構成される。
【0043】
測距演算部27としては、本装置に特化したCPU、或は汎用CPU等が用いられる。測距演算部27は発光素子45を駆動し、発光素子45はレーザ光線を発する。測距光射出部25は、発光素子45から発せられたレーザ光線を測距光49として射出する。尚、レーザ光線としては、連続光或はパルス光、或は断続変調光(即ち、バースト光)のいずれが用いられてもよい。
【0044】
受光部26について説明する。受光部26は、測定対象(即ち、基準反射部84、線状反射部85)から反射測距光52を受光する為の光学系と受光素子とを有する。受光部26は、受光光軸51を有し、受光光軸51には、第1反射鏡47、第2反射鏡48によって偏向された射出光軸44が合致する。尚、射出光軸44と受光光軸51とが合致した状態を測距光軸53とする。
【0045】
基準光軸O上に光軸偏向部35が配設される。光軸偏向部35は、光軸偏向部35を透過するレーザ光線をプリズムの光学作用で偏向する(後述)。光軸偏向部35の中心を透過する真直な光軸は、基準光軸Oとなっている。基準光軸Oは、光軸偏向部35によって偏向されなかった時の射出光軸44又は受光光軸51又は測距光軸53と合致する。
【0046】
反射測距光52が光軸偏向部35を透過し、受光部26に入射する。受光光軸51上に結像レンズ54が配設され、受光光軸51上に受光素子55、例えば、フォトダイオード(PD)、或はアバランシフォトダイオード(APD)が設けられている。
【0047】
結像レンズ54は、反射測距光52を受光素子55に結像する。受光素子55は、反射測距光52を受光し、受光信号を発生する。受光信号は、測距演算部27に入力され、測距演算部27は受光信号に基づき測距光の往復時間を演算し、往復時間と光速に基づき測定対象(即ち、基準反射部84、線状反射部85)迄の測距を行う。
【0048】
通信部33は、測定方向撮像部37で取得した画像データ、画像処理部32で処理された画像データ、測距部42が取得した測距データ等のデータを端末機6に送信し、又端末機6からは操作コマンド等のデータを受信する。
【0049】
記憶部29としては、HDD、半導体メモリ、メモリカード等の記憶媒体が用いられる。記憶部29には、撮像の制御プログラム、画像処理プログラム、測距プログラム、表示プログラム、通信プログラム、操作コマンド作成プログラム、姿勢検出器36からの姿勢検出結果に基づき測量装置本体3の傾斜角、傾斜方向を演算する傾斜角演算プログラム、測距を実行する為の測定プログラム、光軸偏向部35の偏向作動を制御する為の偏向制御プログラム、各種演算を実行する演算プログラム、測定対象をサーチする為のサーチングプログラム、測定対象を追尾する為の追尾プログラム等の各種プログラムが格納される。
【0050】
又、記憶部29には測距データ、測角データ、画像データ等の各種データが格納される。
【0051】
演算制御部28としては、本装置に特化したCPU、或は汎用CPU等が用いられる。演算制御部28は、測量装置本体3の作動状態に応じて、各種プログラムを展開、実行して測量装置本体3による測距光射出部25の制御、受光部26の制御、測距演算部27の制御、光軸偏向部35の制御、測定方向撮像部37の制御等を行い、測定対象のサーチ、追尾、測距を実行する。
【0052】
【0053】
光軸偏向部35は、一対の光学プリズム57,58から構成される。光学プリズム57,58は、それぞれ同径の円板形であり、第2反射鏡48によって偏向された測距光軸53(即ち、基準光軸O)上に測距光軸53と直交して同心に配置され、所定間隔で平行に配置されている。
【0054】
光学プリズム57,58はそれぞれ、平行に配置された3つの三角プリズムから構成されている。各三角プリズムは、光学ガラスにて成形され、更に、全て同一偏角の光学特性を有している。
【0055】
三角プリズムの幅、形状は全て同じでもよく、或は異なっていてもよい。中心に位置する三角プリズムの幅は、測距光49のビーム径よりも大きくなっており、測距光49は中央の三角プリズムのみを透過する様になっている。尚、周辺の三角プリズムについては、多数の小さい三角プリズムで構成してもよい。
【0056】
更に、中心の三角プリズムについては、光学ガラス製とし、周辺の三角プリズムについては、光学プラスチック製としてもよい。これは、光軸偏向部35から測定対象迄の距離は大きく、中央の三角プリズムの光学特性については精度が要求され、一方周辺の三角プリズムから受光素子55迄の距離は小さく、高精度の光学特性は必要ないという理由による。
【0057】
光軸偏向部35の中央部は、測距光49が透過し、射出される第1光軸偏向部である測距光偏向部となっている。光軸偏向部35の中央部を除く部分(周辺の三角プリズム)は、反射測距光52が透過し、入射する第2光軸偏向部である反射測距光偏向部となっている。
【0058】
光学プリズム57,58は、それぞれ基準光軸Oを中心に独立して個別に回転可能に配設されている。光学プリズム57,58は、回転方向、回転量、回転速度が独立して制御されることで、射出される測距光49の射出光軸44を任意の方向に偏向し、又受光される反射測距光52の受光光軸51を射出光軸44と平行に偏向する。
【0059】
又、測距光49を連続して照射しつつ、光学プリズム57,58の回転を連続的に制御し、透過する測距光49を連続的に偏向することで、測距光49を所定のパターンでスキャンさせることができる。又、スキャン経路(スキャン軌跡)に沿って測距データが取得される。
【0060】
光学プリズム57,58の外形形状は、それぞれ測距光軸53(基準光軸O)を中心とする円形であり、反射測距光52の広がりを考慮し、充分な光量を取得できる様、光学プリズム57,58の直径が設定されている。
【0061】
光学プリズム57の外周にはリングギア59が嵌設され、光学プリズム58の外周にはリングギア60が嵌設されている。
【0062】
リングギア59には駆動ギア61が噛合し、光学プリズム57はモータ63により駆動ギア61、リングギア59を介して回転される。同様に、リングギア60には駆動ギア62が噛合し、光学プリズム58はモータ64により、駆動ギア62、リングギア60を介して回転される。モータ63,64は、モータドライバ39に電気的に接続されている。
【0063】
モータ63,64は、回転角を検出できるもの、或は駆動入力値に対応した回転をするもの、例えばパルスモータが用いられる。或は、モータの回転量(回転角)を検出する回転角検出器、例えばエンコーダ等を用いてモータ63,64の回転量を検出してもよい。モータ63,64の回転量がそれぞれ検出され、モータドライバ39によりモータ63,64が個別に制御される。
【0064】
又、モータ63,64の回転量、即ち駆動ギア61,62の回転量を介して光学プリズム57,58の回転角が検出される。尚、エンコーダを直接リングギア59,60にそれぞれ取付け、エンコーダによりリングギア59,60の回転角を直接検出する様にしてもよい。
【0065】
駆動ギア61,62、モータ63,64は、測距光射出部25と干渉しない位置、例えばリングギア59,60の下側に設けられている。
【0066】
投光レンズ46、第1反射鏡47、第2反射鏡48、測距光偏向部等は、投光光学系を構成する。又、反射測距光偏向部、結像レンズ54等は、受光光学系を構成する。
【0067】
測距演算部27は、発光素子45を制御し、測距光49としてレーザ光線をパルス発光又はバースト発光(断続発光)させる。測距光49が中央の三角プリズム(測距光偏向部)により、測定対象に向う様、射出光軸44(即ち、測距光軸53)が偏向される。測距光軸53が、測定対象を視準した状態で測距が行われる。
【0068】
測定対象から反射された反射測距光52は、周辺の三角プリズム(即ち、反射測距光偏向部)を通って受光部26に入射し、更に反射測距光52は結像レンズ54により受光素子55に結像される。
【0069】
受光素子55は、受光信号を測距演算部27に送出し、測距演算部27は受光素子55からの受光信号に基づき、パルス光毎に測定点(測距光が照射された点)の測距を行い、測距データは記憶部29に格納される。
【0070】
射出方向検出部38は、モータ63,64に入力する駆動パルスをカウントすることで、モータ63,64の回転角を検出する。或は、エンコーダからの信号に基づき、モータ63,64の回転角を検出する。又、射出方向検出部38は、モータ63,64の回転角に基づき、光学プリズム57,58の回転位置を演算する。
【0071】
更に、射出方向検出部38は、光学プリズム57,58の屈折率と、光学プリズム57,58を一体とした時の回転位置、両光学プリズム57,58間の相対回転角と、に基づき、各パルス光毎の測距光49の基準光軸Oに対する偏角、射出方向をリアルタイムで演算する。演算結果(測角結果)は、測距結果に関連付けられて演算制御部28に入力される。尚、測距光49がバースト発光される場合は、断続測距光毎に測距が実行される。
【0072】
演算制御部28は、モータ63,64の回転方向、回転速度、モータ63,64間の回転比を制御することで、光学プリズム57,58の相対回転、全体回転を制御し、光軸偏向部35による偏向作用を制御する。又、演算制御部28は、測距光49の偏角、射出方向から、基準光軸Oに対する測定点の水平角、鉛直角を演算する。更に、演算制御部28は、測定点についての水平角、鉛直角を測距データに関連付けることで、測定点の3次元データを求めることができる。而して、測量装置本体3は、トータルステーションとして機能する。
【0073】
次に、姿勢検出器36について説明する。姿勢検出器36は、測量装置本体3の水平、又は鉛直に対する傾斜角を検出し、検出結果は演算制御部28に入力される。尚、姿勢検出器36としては、公知の姿勢検出器を使用することができる。
【0074】
姿勢検出器36について簡単に説明する。姿勢検出器36は、フレーム66を有している。フレーム66は、筐体41に固定され、或は構造部材に固定され、測量装置本体3と一体となっている。
【0075】
フレーム66にはジンバルを介してセンサブロック67が取付けられている。センサブロック67は、直交する2軸を中心に2方向にそれぞれ360°又は360゜以上回転自在となっている。
【0076】
センサブロック67には、第1傾斜センサ68、第2傾斜センサ69が取付けられている。第1傾斜センサ68は水平を高精度に検出するものであり、例えば水平液面に検出光を入射させ反射光の反射角度の変化で水平を検出する傾斜検出器、或は封入した気泡の位置変化で傾斜を検出する気泡管である。又、第2傾斜センサ69は傾斜変化を高応答性で検出するものであり、例えば加速度センサである。
【0077】
センサブロック67の、フレーム66に対する2軸についての各相対回転角は、エンコーダ70,71によってそれぞれ検出される。
【0078】
又、センサブロック67を回転させ、水平に維持するモータ(図示せず)が2軸に関してそれぞれ設けられている。モータは、第1傾斜センサ68、第2傾斜センサ69からの検出結果に基づき、センサブロック67を水平に維持する様に演算制御部28によって制御される。
【0079】
センサブロック67が傾斜していた場合(測量装置本体3が傾斜していた場合)、センサブロック67(水平)に対するフレーム66の各軸方向の相対回転角がエンコーダ70,71によってそれぞれ検出される。エンコーダ70,71の検出結果に基づき、測量装置本体3の2軸についての傾斜角、2軸の傾斜の合成によって傾斜方向が検出される。
【0080】
センサブロック67は、2軸について360°又は360゜以上回転自在であるので、姿勢検出器36がどの様な姿勢となろうとも、例えば姿勢検出器36の天地が逆になった場合でも、全方向での姿勢検出(水平に対する傾斜角、傾斜方向)が可能である。
【0081】
姿勢検出に於いて、高応答性を要求する場合は、第2傾斜センサ69の検出結果に基づき姿勢検出と姿勢制御が行われるが、第2傾斜センサ69は第1傾斜センサ68に比べ検出精度が悪いのが一般的である。
【0082】
姿勢検出器36では、高精度の第1傾斜センサ68と高応答性の第2傾斜センサ69を具備することで、第2傾斜センサ69の検出結果に基づき姿勢制御を行い、更に第1傾斜センサ68により高精度の姿勢検出を可能とする。
【0083】
第1傾斜センサ68の検出結果で、第2傾斜センサ69の検出結果を較正することができる。即ち、予め、第2傾斜センサ69の検出傾斜角と、第1傾斜センサ68による水平検出とエンコーダ70,71の検出結果に基づき求めた傾斜角との関係を取得しておけば、第2傾斜センサ69に検出された傾斜角の較正(キャリブレーション)をすることができ、第2傾斜センサ69による高応答性での姿勢検出の精度を向上させることができる。環境変化(温度等)の少ない状態では、傾斜検出は第2傾斜センサ69の検出結果と補正値で求めてもよい。
【0084】
演算制御部28は、傾斜の変動が大きい時、傾斜の変化が速い時は、第2傾斜センサ69からの信号に基づき、モータを制御する。又、演算制御部28は、傾斜の変動が小さい時、傾斜の変化が緩やかな時、即ち第1傾斜センサ68が追従可能な状態では、第1傾斜センサ68からの信号に基づき、モータを制御する。尚、常時、第2傾斜センサ69に検出された傾斜角を較正することで、第2傾斜センサ69からの検出結果に基づき姿勢検出器36による姿勢検出を行ってもよい。
【0085】
記憶部29には、第1傾斜センサ68の検出結果と第2傾斜センサ69の検出結果との比較結果を示す対比データが格納されている。第1傾斜センサ68からの信号に基づき、第2傾斜センサ69による検出結果を較正する。この較正により、第2傾斜センサ69による検出結果を第1傾斜センサ68の検出精度迄高めることができる。よって、姿勢検出器36による姿勢検出に於いて、高精度を維持しつつ高応答性を実現することができる。
【0086】
姿勢検出器36は、リアルタイムで測量装置本体3の姿勢を検出する。更に、測量装置本体3の姿勢がリアルタイムで検出できることから、姿勢検出器36が検出した結果に基づき測定値を補正することができる。従って、測量装置本体3を設置する際の整準は必要なくなる。
【0087】
測定方向撮像部37は、測量装置本体3の基準光軸Oと所定の関係の第1撮像光軸73と、第1撮像光軸73上に配置された撮像レンズ74及び撮像素子75と、を有している。測定方向撮像部37は、光学プリズム57,58による最大偏角θ/2(例えば±30°)と略等しい、例えば50°~60°の画角を有するカメラである。測定方向撮像部37は、静止画像、連続画像、動画像を取得可能である。
【0088】
第1撮像光軸73と射出光軸44及び基準光軸Oとの関係は既知であり、第1撮像光軸73と射出光軸44及び基準光軸Oとは平行であり、又各光軸間の距離は既知の値となっている。
【0089】
撮像制御部31は、測定方向撮像部37の撮像を制御する。撮像制御部31は、測定方向撮像部37が動画像、又は連続画像を撮像する場合に、動画像、又は連続画像を構成するフレーム画像を取得するタイミングと測量装置本体3でスキャンし測距するタイミングとの同期を取っている。演算制御部28は画像と測定データ(測距データ、測角データ)との関連付けも実行する。
【0090】
測定方向撮像部37の撮像素子75は、画素の集合体であるCCD、或はCMOSセンサであり、各画素は画像素子上での位置が特定できる様になっている。例えば、各画素は、第1撮像光軸73を原点とした座標系での画素座標を有し、画素座標によって画像素子上での位置が特定される。又、第1撮像光軸73と基準光軸Oとの関係が既知であるので、測距部42による測定位置と撮像素子75上での位置との相互関連付けが可能である。撮像素子75から出力される画像信号は画素座標の情報を含んでいる。画像信号は、撮像制御部31を介して画像処理部32に入力される。
【0091】
光軸偏向部35の偏向作用、スキャン作用について、
図3~
図6を参照して説明する。
図4は、本実施形態の光軸偏向部の作用を説明する模式図である。
図5は、スキャンパターンの一例を例示する模式図である。
図6は、スキャンパターンの他の一例を例示する模式図である。
【0092】
図3に示される、光学プリズム57,58の状態(光学プリズム57,58の方向が180゜異なる状態(相対回転角180゜の時))では、光学プリズム57,58の相互の光学作用が相殺され、偏角は0°となる。従って、光学プリズム57,58を経て射出され、受光されるレーザ光線の光軸(測距光軸53)は、基準光軸Oと合致する。
【0093】
又、
図3の状態から光学プリズム57,58のいずれか一方が他方に対して180゜回転した状態(プリズムの向きが同方向)では、最大の偏角(例えば、30°)が得られる。
【0094】
従って、光学プリズム57,58間の相対回転で、測距光軸53は、0゜~30゜の間で偏向され、光学プリズム57,58の一体回転で、偏向方向が偏向される。
【0095】
従って、光学プリズム57,58間の相対回転角、光学プリズム57,58の一体回転角を制御することで測距光軸53を任意の方向に偏向させることができる。即ち、測距光軸53を任意の方向の測定対象に視準させることができる。
【0096】
更に、測距光49を照射しつつ、光学プリズム57,58の相対回転、一体回転を実行することで任意の方向、パターンで測距光49を走査させることができる。
【0097】
例えば、
図4に示される様に、光学プリズム57,58間の相対回転角をθとし、測距光軸53は個々の光学プリズム57,58による偏向A、偏向Bとすると、実際の偏向76は合成偏向Cとなり、更に偏向角の大きさは相対回転角θに依って決定される。従って、光学プリズム57,58を等速で正逆同期回転させると、測距光軸53(測距光49)は合成偏向Cの方向で直線的に往復走査される。
【0098】
又、光学プリズム57、光学プリズム58の回転方向、回転速度、回転速度比を個々に制御することで、測距光49のスキャン軌跡を基準光軸Oを中心とした種々の2次元のスキャンパターンが得られる。
【0099】
例えば、光学プリズム57と光学プリズム58との回転比率を1:2とすることで、
図5に示される様な8の字状の2次元の閉ループスキャンパターン77が得られる。又、スキャンパターン77は往路79aと復路79bとが交差する交点78を有し、交点78がスキャンパターン77の中心であり、基準光軸Oに合致する。
【0100】
更に、一方の光学プリズム57を25回転、他方の光学プリズム58を逆方向に5回転することで、
図6に示される様な、花びら状の2次元の閉ループスキャンパターン81(花びらパターン81(内トロコイド曲線))が得られる。花びらパターン81も中心に交点82を有する。
【0101】
更に、測量装置本体3が固定された状態での、2次元のスキャンが可能な最大範囲は、光軸偏向部35の最大偏角範囲となる。
【0102】
次に、本実施形態に係る測量システム1の測定作用を説明する。
図7は、スキャンパターンとターゲット装置との関係を説明する模式図である。
【0103】
測定開始の準備として、測定方向撮像部37でターゲット装置5を捉える。測定方向撮像部37の画角は、50゜~60゜と広画角であるので、測量装置本体3の方向が概略、ターゲット装置5に向いていればよい。又、光軸偏向部35の最大偏角は、測定方向撮像部37の画角と同じ、或は略同じであるので、測定方向撮像部37がターゲット装置5を捉えることで、測量装置本体3によるサーチ可能な範囲にターゲット装置5を捉えたことになる。
【0104】
測定方向撮像部37がターゲット装置5を捉えた状態で、測量装置本体3による測定対象のサーチ、視準が実行される。この時、測量装置本体3は、固定状態である。
【0105】
続いて、光軸偏向部35の制御により、2次元のサーチスキャンが実行され、又、本実施形態の2次元のサーチスキャンでは、サーチ範囲が広い初期サーチスキャンと、測定対象を含む狭い範囲に限定された局所サーチスキャンと、が実行される。なお、2次元のサーチスキャンが実行されればよく、必ずしも初期サーチスキャンおよび局所サーチスキャンの両方が実行されなくともよい。本実施形態の説明では、初期サーチスキャンおよび局所サーチスキャンの両方が実行される場合を例に挙げる。
【0106】
以下の説明では、サーチスキャンのパターンとして、8の字形状のスキャンパターン77(
図5参照)が採用されている。なお、
図6に関して前述した花びら形状のスキャンパターン81がサーチスキャンのパターンとして採用されてもよい。
【0107】
先ず、ターゲット装置5を検出する為の初期サーチスキャンが実行される。サーチ開始時の初期サーチスキャンに於けるスキャンパターン77の形状は、
図7に見られる様に、水平方向に扁平な8の字状となっている。このとき、8の字形状のスキャンパターン77の回転速度すなわち1周分の速度は、例えば約10Hz~60Hz程度である。この回転速度の範囲は、後述する局所スキャンパターン77’においても同様である。
【0108】
線状反射部85は、鉛直方向に長くなっているので、スキャンパターン77を扁平にすることで、広範囲で高速なサーチが可能となる。又、初期サーチスキャンのスキャンパターン77の経路が、線状反射部85と交差すれば、線状反射部85からの反射測距光52が得られるので、スキャンはサーチ範囲全域を隙間なく行う必要はなく、
図7に示される様に、同一スキャンパターンを連続的に行うだけでよい。
【0109】
演算制御部28は、光軸偏向部35を制御して初期サーチスキャンを実行するが、スキャンパターン77の実行と共に、測距、測角も実行しているので、線状反射部85からの反射測距光52に基づき、スキャンパターンが線状反射部85を横切った時の偏向方向が検出され、更に線状反射部85迄の測距が実行される。従って、スキャンパターンが線状反射部85を横切った点の3次元座標が求められる。
【0110】
更に、演算制御部28は、スキャンパターンが線状反射部85を横切った点(以下、クロス点)の、基準光軸Oに対する水平偏角、偏向方向を演算する。クロス点とスキャンパターンの中心(
図7では交点78)と間の水平角が求められ、演算制御部28は、水平角が減少する方向にスキャンパターン77が移動する様に、光軸偏向部35を制御する。
【0111】
又、ターゲット装置5から複数の反射測距光52が得られる場合は、複数の反射測距光52で得られる受光信号に基づきそれぞれ測定し、得られる測距結果を平均し、平均値に基づき光軸偏向部35を制御する。
【0112】
スキャンパターン77の水平方向の移動と並行して、スキャンパターン77が基準反射部84を検出する様、スキャンパターン77の上下方向の移動も実行する。尚、スキャンパターン77を下方に移動するか、上方に移動するかの判断は、スキャンパターン77のどの位置が線状反射部85を横切ったかを検出することで行うことができる。
【0113】
演算制御部28は、スキャンパターン77により基準反射部84を検出する迄、交点78を線状反射部85に沿って移動させる。ここで、基準反射部84は、線状反射部85よりも径方向に出っ張っているので、測距結果の変化で基準反射部84を検出することができる。
図7は、演算制御部28がスキャンパターン77により基準反射部84を検出した状態を表している。
【0114】
スキャンパターン77により、基準反射部84を検出すると、スキャンパターン77を基準反射部84の中心位置を検出するのに適した局所スキャンパターン77’に変更する。局所スキャンパターン77’は、サーチ範囲が狭く、而も縦長の形状となっている。
【0115】
局所スキャンパターン77’の交点78が、基準反射部84の中心近傍となると、局所スキャンパターン77’が、基準反射部84のエッジを通過する。このエッジの通過点の測定結果によって、基準反射部84に対する交点78の位置が測定でき、交点78を基準反射部84の中心に合致させることができる。
【0116】
基準反射部84の中心に、交点78が合致すると、測距光軸53が基準反射部84の中心に視準され、基準反射部84の測定が実行される。更に、基準反射部84とポール83の下端との関係から、測定点Pの3次元座標が演算される。
【0117】
更に、局所スキャンパターン77’の実行で、局所スキャンパターン77’が線状反射部85を横切った際の上下の測定点の3次元座標が測定される。上下の測定点の3次元座標によって、ポール83の前後方向、左右方向の倒れ方向、及び倒れ角が測定できる。又、ポール83の倒れ方向、倒れ角、基準反射部84とポール83の下端との関係に基づき、測定点Pの測定結果を補正することができる。
【0118】
更に、ここで得られるポール83の倒れは、測距光軸53に対する倒れであり、測距光軸53自体は水平であるとは限らない。測距光軸53の基準光軸Oに対する傾斜角、傾斜方向は、射出方向検出部38によって測定できる。更に、基準光軸Oの水平に対する傾斜角、傾斜方向は、姿勢検出器36によって測定することができる。
【0119】
従って、ポール83の水平、又は鉛直に対する傾斜角、傾斜方向も測定できる。ポール83の水平、鉛直に対する傾斜角、傾斜方向に基づき測定結果を補正することで、ポール83の傾きに拘わらず、正確な測定点(ポール83の下端が指示する点)Pについて、距離、高低角、水平角を正確に測定することができる。
【0120】
従って、ターゲット装置5を直立して支持できない場所での測定、例えば壁の隅、天井の角等であっても、ポール83の下端(天井を測定する場合は上端)で測定点を指示できれば、正確な測定が実行できる。
【0121】
測定点Pの測定が終了すると、次に測定すべき測定点へターゲット装置5を移動する。
【0122】
ターゲット装置5を次の測定点に移動させる場合、測量装置本体3は、ターゲット装置5の移動中も局所スキャンパターン77’による局所スキャンを継続して実行し、基準反射部84の追尾を実行する。
【0123】
次に、基準反射部84の追尾について、
図8~
図12(c)を参照して詳しく説明する。
図8は、本実施形態の演算制御部の概略構成を表すブロック図である。
図9は、受光素子からの受光信号の強度分布を折り返し反転させる第1具体例を表す模式図である。
図10は、受光素子からの受光信号の強度分布を折り返し反転させる第2具体例を表す模式図である。
図11は、受光素子からの受光信号の強度分布を折り返し反転させる第3具体例を表す模式図である。
図12は、受光素子からの受光信号の強度分布を折り返し反転させる第4具体例を表す模式図である。
【0124】
図8に表したように、本実施形態の演算制御部28は、積算周期コントロールカウンタ281と、重み計算部282と、積算部283と、出力制限部284と、を有する。演算制御部28は、局所スキャンパターン77’の実行中に受光素子55からの受光信号を検出する毎に、射出方向検出部38による検出結果としての偏角データと、測距部42による検出結果としての測距データと、に基づいた測定対象(即ち、基準反射部84、線状反射部85)の3次元データを更新する。以下に、測量システム1の追尾作用の具体例を説明する。
【0125】
積算周期コントロールカウンタ281は、1周のスキャンパターン77’で取得可能なデータ数すなわち積算回数を、発光素子45の発光レート(Hz)およびスキャンパターン77’の回転速度(Hz)に基づいて設定する。また、積算周期コントロールカウンタ281は、積算回数に合わせて記憶部29のアドレスのカウントアップを実行する。
【0126】
重み計算部282は、重み計算部282は、3次元データを更新する毎に、測定対象の基準点検出用および回転角度検出用の重み付けを交点78からの距離に応じて生成する。具体的には、重み計算部282は、3次元データを更新する毎に、スキャンパターン77’の交点78からの距離が近いほど値が大きくなるように測定対象の基準点検出用の重み付けを生成する。また、重み計算部282は、3次元データを更新する毎に、スキャンパターン77’の交点78からの距離が遠いほど値が大きくなるように測定対象の回転角度検出用の重み付けを生成する。
【0127】
また、重み計算部282は、受光素子55からの受光信号の強度分布をスキャンパターン77’における直交座標軸で折り返し反転させた補正データを測定対象の回転角検出用としてさらに生成する。
【0128】
具体的には、測定対象が上下に所定長さを有する棒状の線状反射部85を有するため、
図9(a)、
図10(a)、
図11(a)および
図12(a)に表したように、受光信号の強度の強い部分851、852は、略上下に現れる。受光信号の強度の強い部分851、852は、局所スキャンパターン77’が線状反射部85を横切った際の反射強度の強い部分である。また、測定対象が線状反射部85の略中央部に設けられた基準反射部84を有するため、受光信号の強度の強い部分781は、上の部分851と下の部分852との間に現れる。受光信号の強度の強い部分781は、局所スキャンパターン77’が基準反射部84を横切った際の反射強度の強い部分である。
【0129】
このように、
図9(a)~
図12(c)では、受光素子55からの受光信号の強度を円の径(即ち、バブル)として表示している。そのため、受光信号の強度の強い部分781、851、852以外の実線で表した部分は、部分781、851、852と比較して、受光信号の強度の弱い部分である。
【0130】
ここで、前述したように、重み計算部282は、3次元データを更新する毎に、測定対象の基準点検出用および回転角度検出用の重み付けを交点78からの距離に応じて生成する。そのため、積算部283が測定対象の3次元データをそのまま積算すると、受光素子55からの受光信号の強度が互いに打ち消されることがある。例えば、積算部283が測定対象の3次元データをそのまま積算すると、受光信号の強度の強い上の部分851と、受光信号の強度の強い下の部分852と、が互いに打ち消されることがある。
【0131】
そこで、本実施形態の重み計算部282は、受光素子55からの受光信号の強度分布をスキャンパターン77’における直交座標軸で折り返し反転させた補正データを生成する。
【0132】
例えば、受光素子55からの受光信号の強度分布が
図9(a)に表した強度分布である場合において、重み計算部282は、
図9(a)に表した矢印A11のように、スキャンパターン77’における直交座標軸のうちのx軸よりも下側の強度分布をx軸で折り返す。本実施形態のx軸は、本発明の「一方の座標軸」の一例であり、交点78を通る横方向の軸である。重み計算部282がx軸よりも下側の強度分布をx軸で折り返したときの強度分布は、
図9(b)に表した通りである。なお、
図9(b)では、説明の便宜上、x軸で折り返された強度分布を破線で表している。
【0133】
続いて、
図9(b)に表した矢印A12のように、重み計算部282は、x軸で折り返した強度分布のみをy軸を中心としてさらに反転させる。本願明細書において「反転させる」とは、任意の軸を中心として180°だけ回転させることをいうものとする。本実施形態のy軸は、本発明の「他方の座標軸」の一例であり、交点78を通る縦方向の軸である。重み計算部282がx軸で折り返した強度分布のみをy軸を中心としてさらに反転させたときの強度分布は、
図9(c)に表した通りである。このようにして、重み計算部282は、測定対象の回転角検出用として第1補正データを生成する。この場合には、
図9(c)に表した実線の矢印のように、積算部283が測定対象の3次元データを積算しても、受光信号の強度の強い上の部分851と、受光信号の強度の強い下の部分852と、は互いに打ち消されない。これによれば、重み計算部282は、積算部283が測定対象の3次元データを積算するときに、受光信号の強度の強い上の部分851と、受光信号の強度の強い下の部分852と、が互いに打ち消されることを抑えることができる。
【0134】
また、例えば、受光素子55からの受光信号の強度分布が
図10(a)に表した強度分布である場合において、重み計算部282は、
図10(a)に表した矢印A21のように、y軸よりも左側の強度分布をy軸で折り返す。なお、
図10(a)に表した強度分布は、
図9(a)に表した強度分布と同じである。重み計算部282がy軸よりも左側の強度分布をy軸で折り返したときの強度分布は、
図10(b)に表した通りである。なお、
図10(b)では、説明の便宜上、y軸で折り返された強度分布を破線で表している。
【0135】
続いて、
図10(b)に表した矢印A22のように、重み計算部282は、y軸で折り返した強度分布のみをx軸を中心としてさらに反転させる。重み計算部282がy軸で折り返した強度分布のみをx軸を中心としてさらに反転させたときの強度分布は、
図10(c)に表した通りである。このようにして、重み計算部282は、測定対象の回転角検出用として第2補正データを生成する。この場合には、
図10(c)に表した破線の矢印のように、積算部283が測定対象の3次元データを積算すると、受光信号の強度の強い上の部分851と、受光信号の強度の強い下の部分852と、が互いに打ち消される。そのため、この場合には、重み計算部282は、第1補正データおよび第2補正データのうちの第1補正データを測定対象の回転角検出用として選択する。
【0136】
また、受光素子55からの受光信号の強度分布が
図11(a)に表した強度分布である場合において、重み計算部282は、
図11(a)に表した矢印A31のように、x軸よりも下側の強度分布をx軸で折り返す。重み計算部282がx軸よりも下側の強度分布をx軸で折り返したときの強度分布は、
図11(b)に表した通りである。なお、
図11(b)では、説明の便宜上、x軸で折り返された強度分布を破線で表している。
【0137】
続いて、
図11(b)に表した矢印A32のように、重み計算部282は、x軸で折り返した強度分布のみをy軸を中心としてさらに反転させる。重み計算部282がx軸で折り返した強度分布のみをy軸を中心としてさらに反転させたときの強度分布は、
図11(c)に表した通りである。このようにして、重み計算部282は、測定対象の回転角検出用として第1補正データを生成する。この場合には、
図11(c)に表した実線の矢印のように、積算部283が測定対象の3次元データを積算しても、受光信号の強度の強い上の部分851と、受光信号の強度の強い下の部分852と、は互いに打ち消されない。これによれば、重み計算部282は、積算部283が測定対象の3次元データを積算するときに、受光信号の強度の強い上の部分851と、受光信号の強度の強い下の部分852と、が互いに打ち消されることを抑えることができる。
【0138】
また、例えば、受光素子55からの受光信号の強度分布が
図12(a)に表した強度分布である場合において、重み計算部282は、
図12(a)に表した矢印A41のように、y軸よりも左側の強度分布をy軸で折り返す。なお、
図12(a)に表した強度分布は、
図11(a)に表した強度分布と同じである。重み計算部282がy軸よりも左側の強度分布をy軸で折り返したときの強度分布は、
図12(b)に表した通りである。なお、
図12(b)では、説明の便宜上、y軸で折り返された強度分布を破線で表している。
【0139】
続いて、
図12(b)に表した矢印A42のように、重み計算部282は、y軸で折り返した強度分布のみをx軸を中心としてさらに反転させる。重み計算部282がy軸で折り返した強度分布のみをx軸を中心としてさらに反転させたときの強度分布は、
図12(c)に表した通りである。このようにして、重み計算部282は、測定対象の回転角検出用として第2補正データを生成する。この場合には、
図12(c)に表した実線の矢印のように、積算部283が測定対象の3次元データを積算しても、受光信号の強度の強い上の部分851と、受光信号の強度の強い下の部分852と、は互いに打ち消されない。これによれば、重み計算部282は、積算部283が測定対象の3次元データを積算するときに、受光信号の強度の強い上の部分851と、受光信号の強度の強い下の部分852と、が互いに打ち消されることを抑えることができる。この場合には、重み計算部282は、第1補正データおよび第2補正データの少なくともいずれかを測定対象の回転角検出用として選択する。
【0140】
積算部283は、重み計算部282により生成された基準点検出用および回転角度検出用の重み付けを用いて、測定対象の基準点(即ち、基準反射部84の中心)位置および回転角度を計算する。また、積算部283は、重み計算部282により交点からの距離に応じて生成された回転角度検出用の重み付けと、重み計算部282により生成された第1補正データおよび第2補正データ(
図9(a)~
図12(c)参照)の少なくともいずれかと、を用いて測定対象の回転角度を計算する。
【0141】
また、積算部283は、局所スキャンパターン77’の実行中に受光素子55からの受光信号を検出する毎に、すなわち新規の3次元データを取得する毎に、一番古い3次元データを捨て、取得した新規の3次元データを積算して記憶部29に保存する。これにより、積算部283は、測定点の各点について必要な計算量および計算内容を簡略化し、演算処理に要する時間を短縮化することができる。そして、演算制御部28は、積算部283により計算された測定対象の基準点(即ち、基準反射部84の中心)位置および回転角度に基づいて基準反射部84の追尾を実行する。
【0142】
出力制限部284は、積算部283により計算された測定対象の基準点位置および回転角度の変化量や変化率が所定値よりも大きい場合には、変化量を制限する。例えば、出力制限部284は、積算部283により計算された測定対象の基準点位置の変化量が所定変化量よりも大きい場合には、スキャンエリア内における移動範囲を制限する。また、出力制限部284は、回転角度の変化率が所定値よりも大きい場合、あるいは、測定対象の基準点の重みと、測定対象の外周点の重みと、の差が所定値よりも大きい場合には、スキャンパターン77’の外周部分がターゲット装置5を捉えていないと判断する。そうすると、測量装置本体3は、前述したサーチを実行する。出力制限部284は、このような制限に関する制御を実行することにより、モータ63,64に対する余分な制御が実行されることを抑えることができる。
【0143】
本実施形態に係る測量システム1によれば、演算制御部28は、光軸偏向部35による偏向を制御し、測距光49を測距光軸53を略中心として2次元スキャンを実行するとともに、2次元スキャンの往路復路が交差する交点78、82を有するスキャンパターン77、77’、81で2次元スキャンを制御する。そして、演算制御部28は、2次元スキャン中に受光信号を検出する毎に、射出方向検出部38による検出結果としての偏角データと、測距部42による検出結果としての測距データと、に基づいた測定対象の3次元データを更新する。このように、演算制御部28は、2次元スキャン中に受光信号を検出する毎に3次元データを取得し更新するため、所定量の3次元データが蓄積されなくとも、高速で測定対象を追尾することができる。このとき、演算制御部28は、3次元データを更新する毎に、測定対象の基準点検出用および回転角度検出用の重み付けをスキャンパターン77、77’、81の交点78、82からの距離に応じて生成し、重み付けを用いて計算された測定対象の基準点位置および回転角度に基づいて測定対象を追尾する。そのため、演算制御部28は、2次元スキャン中に受光信号を検出する毎に3次元データを取得し更新する場合であっても、演算処理に要する時間を短縮化し、高速で測定対象を追尾することができる。これにより、本実施形態に係る測量システム1は、測定対象を見失うことを抑え、測定対象をより確実に追尾できる。
【0144】
また、演算制御部28は、スキャンパターン77、77’、81の交点78、82からの距離が近いほど値が大きくなるように測定対象の基準点検出用の重み付けを生成するため、測定対象の基準点をより高い精度で検出することができる。これにより、本実施形態に係る測量システム1は、測定対象をより確実に追尾できる。
【0145】
また、演算制御部28は、スキャンパターン77、77’、81の交点78、82からの距離が遠いほど値が大きくなるように測定対象の回転角度検出用の重み付けを生成するため、測定対象の回転角度をより高い精度で検出することができる。これにより、本実施形態に係る測量システム1は、測定対象をより確実に追尾できる。
【0146】
また、演算制御部28は、2次元スキャンにおける直交座標軸のうちの一方の座標軸(本実施形態ではx軸)で受光信号の強度分布を折り返した第1補正データを測定対象の回転角検出用としてさらに生成する。また、演算制御部28は、2次元スキャンにおける直交座標軸のうちの他方の座標軸(本実施形態ではy軸)で受光信号の強度分布を折り返した第2補正データを測定対象の回転角検出用としてさらに生成する。そして、演算制御部28は、スキャンパターン77、77’、81の交点78、82からの距離に応じて生成した回転角度検出用の重み付けと、第1補正データおよび第2補正データの少なくともいずれかと、を用いて計算された測定対象の回転角度に基づいて測定対象を追尾する。そのため、演算制御部28が測定対象の基準点検出用および回転角度検出用の重み付けをスキャンパターン77、77’、81の交点78、82からの距離に応じて生成する場合であっても、受光信号の強度分布が互いに打ち消し合うことを抑えることができる。これにより、本実施形態に係る測量システム1は、測定対象をより確実に追尾できる。
【0147】
また、演算制御部28は、一方の座標軸(本実施形態ではx軸)で受光信号の強度分布を折り返した後、一方の座標軸(本実施形態ではx軸)で折り返した強度分布のみを他方の座標軸(本実施形態ではy軸)を中心としてさらに反転させることにより第1補正データを生成する。また、演算制御部28は、他方の座標軸(本実施形態ではy軸)で受光信号の強度分布を折り返した後、他方の座標軸(本実施形態ではy軸)で折り返した強度分布のみを一方の座標軸(本実施形態ではx軸)を中心としてさらに反転させることより第2補正データを生成する。そのため、測定対象が鉛直方向および水平方向に延びていない場合(
図11(a)および
図12(a)参照)、すなわち測定対象が鉛直方向および水平方向に対して傾斜している場合であっても、受光信号の強度分布が互いに打ち消し合うことを抑えることができる。これにより、本実施形態に係る測量システム1は、測定対象をより確実に追尾できる。
【0148】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。上記実施形態の構成は、その一部を省略したり、上記とは異なるように任意に組み合わせたりすることができる。例えば、本実施形態では、測量装置本体3をトータルステーションとして使用したが、レーザスキャナとして使用してもよい。
【符号の説明】
【0149】
1:測量システム、 2:三脚、 3:測量装置本体、 4:設置台、 5:ターゲット装置、 6:端末機、 11:托架部、 12:水平回転軸、 13:水平角検出器、 14:水平回転ギア、 15:水平ピニオンギア、 16:水平モータ、 17:鉛直回転軸、 18:鉛直回転ギア、 19:ピニオンギア、 21:鉛直モータ、 22:鉛直角検出器、 25:測距光射出部、 26:受光部、 27:測距演算部、 28:演算制御部、 29:記憶部、 31:撮像制御部、 32:画像処理部、 33:通信部、 35:光軸偏向部、 36:姿勢検出器、 37:測定方向撮像部、 38:射出方向検出部、 39:モータドライバ、 41:筐体、 42:測距部、 44:射出光軸、 45:発光素子、 46:投光レンズ、 47:第1反射鏡、 48:第2反射鏡、 49:測距光、 51:受光光軸、 52:反射測距光、 53:測距光軸、 54:結像レンズ、 55:受光素子、 57、58:光学プリズム、 59、60:リングギア、 61、62:駆動ギア、 63、64:モータ、 66:フレーム、 67:センサブロック、 68:第1傾斜センサ、 69:第2傾斜センサ、 70、71:エンコーダ、 73:第1撮像光軸、 74:撮像レンズ、 75:撮像素子、 76:偏向、 77、77':スキャンパターン、 78:交点、 79a:往路、 79b:復路、 81:スキャンパターン、 82:交点、 83:ポール、 84:基準反射部、 85:線状反射部、 180:相対回転角、 281:積算周期コントロールカウンタ、 282:重み計算部、 283:積算部、 284:出力制限部、 781、851、852:部分、 A、B:偏向、 C:合成偏向、 O:基準光軸、 P:測定点