(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147588
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】R‐T‐B系磁石粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/00 20060101AFI20220929BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220929BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220929BHJP
B22F 9/16 20060101ALI20220929BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20220929BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B22F9/00 C
C22C38/00 303D
B22F1/00 Y
B22F9/16
H01F41/02 G
H01F1/057 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048896
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 卓
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB12
4K017BB13
4K017DA04
4K017FB11
4K018AA27
4K018AB04
4K018AB10
4K018BA14
4K018BA20
4K018BB04
4K018BD01
4K018KA45
4K018KA46
5E040AA04
5E040CA01
5E040NN06
5E062CC05
5E062CD04
5E062CG01
(57)【要約】
【課題】平均粒子径が小さく、且つ、粒度分布幅の狭い磁石粉末を製造する方法及び新規な磁石粉末を提供すること。
【解決手段】R‐T‐B系磁石粉末の製造方法は、希土類金属元素Rと、遷移金属元素Tと、硼素Bと、アルカリ金属元素のハロゲン化物、アルカリ土類金属元素のハロゲン化物及び希土類金属元素のハロゲン化物からなる群より選択される少なくとも一種の金属ハロゲン化物と、を含む組成物を、金属ハロゲン化物の融点以上の温度で加熱することでR‐T‐B系合金粉末を得る熱処理工程を備え、希土類金属元素Rが、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選択される少なくとも一種であり、遷移金属元素Tが、Fe、Ni、Co、Cr及びMnからなる群より選択される少なくとも一種である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類金属元素Rと、遷移金属元素Tと、硼素Bと、アルカリ金属元素のハロゲン化物、アルカリ土類金属元素のハロゲン化物及び希土類金属のハロゲン化物からなる群より選択される少なくとも一種の金属ハロゲン化物と、を含む組成物を、前記金属ハロゲン化物の融点以上の温度で加熱することでR‐T‐B系合金粉末を得る熱処理工程を備え、
前記希土類金属元素Rが、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記遷移金属元素Tが、Fe、Ni、Co、Cr及びMnからなる群より選択される少なくとも一種である、R‐T‐B系磁石粉末の製造方法。
【請求項2】
前記金属ハロゲン化物が溶解する洗浄液で前記R‐T‐B系合金粉末を洗浄する洗浄工程を更に備える、請求項1に記載のR‐T‐B系磁石粉末の製造方法。
【請求項3】
前記洗浄液が、ヒドロキシ基を有しない溶媒を含む、請求項2に記載のR‐T‐B系磁石粉末の製造方法。
【請求項4】
前記洗浄液が、ホルムアミド及びジメチルホルムアミドからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項2に記載のR‐T‐B系磁石粉末の製造方法。
【請求項5】
希土類金属元素R、遷移金属元素T、及び硼素Bを含み、
平均粒子径が、0.1以上1.0μm以下であり、
粒度分布幅(D90-D10)/D50が、0.85以下であり、
前記希土類金属元素Rが、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記遷移金属元素Tが、Fe、Ni、Co、Cr及びMnからなる群より選択される少なくとも一種である、R‐T‐B系磁石粉末。
(但し、D10、D50及びD90は、それぞれ、R‐T‐B系磁石粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)画像の画像解析に基づく面積基準の累積粒子径分布曲線における、累積頻度が10%となる粒子径、累積頻度が50%となる粒子径、及び累積頻度が90%となる粒子径である。)
【請求項6】
R2T14Bの単結晶粒子を含む、請求項5に記載のR‐T‐B系磁石粉末。
【請求項7】
円形度が、70%を超える、請求項5又は6に記載のR‐T‐B系磁石粉末。
【請求項8】
Caの含有量が、100質量ppm以下である、請求項5~7のいずれか一項に記載のR‐T‐B系磁石粉末。
【請求項9】
Clの含有量が、1質量ppm以上50000質量ppm以下である請求項5~8のいずれか一項に記載のR‐T‐B系磁石粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、R‐T‐B系磁石粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R‐T‐B系永久磁石のうち、Nd‐Fe‐B系焼結磁石は、優れた磁気特性を有することから、例えば、モータ、発電機又はアクチュエーターに搭載される。モータ等に使用されるNd‐Fe‐B系焼結磁石には、高温の環境下においても高い保磁力を有することが要求される。しかしながら、Nd‐Fe‐B系焼結磁石の保磁力は、温度の上昇に伴って減少する。Nd‐Fe‐B系永久磁石の高温での保磁力は、主相であるNd2Fe14B相を構成するNd元素の一部を、重希土類元素(Dy又はTb等)で置換することによって増加する。しかし、重希土類元素は高価であり、重希土類元素の価格及び供給量は不安定である。したがって、製造コスト及び経営上のリスクを低減するために、重希土類元素を用いることなくNd‐Fe‐B系永久磁石中の磁気特性を向上させることが望ましい。
【0003】
一般的に、焼結磁石において主相粒子の粒径が小さいほど、その磁気特性、特に、保磁力は向上し易いことはよく知られている。その主相粒子の粒径を減少させるためには、焼結磁石の原料である磁石粉末の平均粒子径を小さくする必要がある。従来、Nd‐Fe‐B合金粉末は、ストリップキャスト法によって製造された合金をアルゴンガス又は窒素ガスを用いたジェットミル粉砕することで製造されている。しかしながら、その粉砕限界により通常は平均粒子径1μm以下の磁石粉末を得ることはできない。
【0004】
特許文献1及び2には、ヘリウムガスを用いたジェットミル粉砕法による平均粒子径1.0μm以下の磁石粉末の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2017/022684号
【特許文献2】国際公開2014/142137号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び2に開示の方法により製造された磁石粉末は、粒度分布幅が広い。そのため、得られる焼結磁石における主相粒子の粒子径は、磁石粉末の粒子径のばらつきに起因した焼結後の異常粒成長により、粗大化したものとなる。
【0007】
本発明の一側面は、上記事情に鑑みてなされたものであり、平均粒子径が小さく、且つ、粒度分布幅の狭い磁石粉末を製造する方法及び新規な磁石粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、希土類金属元素Rと、遷移金属元素Tと、硼素Bと、アルカリ金属元素のハロゲン化物、アルカリ土類金属元素のハロゲン化物及び希土類金属のハロゲン化物からなる群より選択される少なくとも一種の金属ハロゲン化物と、を含む組成物を、金属ハロゲン化物の融点以上の温度で加熱することでR‐T‐B系合金粉末を得る熱処理工程を備え、
希土類金属元素Rが、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選択される少なくとも一種であり、
遷移金属元素Tが、Fe、Ni、Co、Cr及びMnからなる群より選択される少なくとも一種である、R‐T‐B系磁石粉末の製造方法である。
【0009】
一態様において、上記製造方法は、金属ハロゲン化物が溶解する洗浄液でR‐T‐B系合金粉末を洗浄する洗浄工程を更に備えていてもよい。
【0010】
一態様において、洗浄液が、ヒドロキシ基を有しない溶媒を含んでいてよい。
【0011】
一態様において、洗浄液が、ホルムアミド及びジメチルホルムアミドからなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてよい。
【0012】
本発明の他の一側面は、希土類金属元素R、遷移金属元素T、及び硼素Bを含み、
平均粒子径が、0.1以上1.0μm以下であり、
粒度分布幅(D90-D10)/D50が、0.85以下であり、
希土類金属元素Rが、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選択される少なくとも一種であり、
遷移金属元素Tが、Fe、Ni、Co、Cr及びMnからなる群より選択される少なくとも一種である、R‐T‐B系磁石粉末である。
(但し、D10、D50及びD90は、それぞれ、R‐T‐B系磁石粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)画像の画像解析に基づく面積基準の累積粒子径分布曲線における、累積頻度が10%となる粒子径、累積頻度が50%となる粒子径、及び累積頻度が90%となる粒子径である。)
【0013】
一態様において、上記磁石粉末は、R2T14Bの単結晶粒子を含んでいてもよい。
【0014】
一態様において、上記磁石粉末は、円形度が、70%を超えていてもよい。
【0015】
一態様において、上記磁石粉末は、Caの含有量が、100質量ppm以下であってよい。
【0016】
一態様において、上記磁石粉末は、Clの含有量が、1質量ppm以上50000質量ppm以下であってよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一側面によれば、平均粒子径が小さく、且つ、粒度分布幅の狭い磁石粉末を製造する方法及び新規な磁石粉末が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
[R‐T‐B系磁石粉末の製造方法]
以下、本実施形態に係るR‐T‐B系磁石粉末の製造方法(以下、単に「本実施形態に係る製造方法」ともいう)について説明する。
【0020】
本願明細書において、粉末とは、粒子の集合体を表す。
【0021】
(熱処理工程)
本実施形態に係る製造方法は、希土類金属元素Rと、遷移金属元素Tと、硼素Bと、アルカリ金属元素のハロゲン化物、アルカリ土類金属元素のハロゲン化物及び希土類金属のハロゲン化物からなる群より選択される少なくとも一種の金属ハロゲン化物(以下、単に「金属ハロゲン化物」ともいう)と、を含む組成物を、金属ハロゲン化物の融点以上の温度で加熱することでR‐T‐B系合金粉末を得る熱処理工程を備える。
【0022】
Rは、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選択される少なくとも一種である。
【0023】
Rは、金属単体又は合金であってよい。Rの形態としては、例えば、粉末、粒状及び塊(インゴット)が挙げられる。
【0024】
Tは、Fe、Ni、Co、Cr及びMnからなる群より選択される少なくとも一種である。
【0025】
Tは、金属単体、合金又は化合物であってよい。Tの形態としては、例えば、粉末、粒状及び塊(インゴット)が挙げられるが、得られる磁石粉末の平均粒子径が小さくなる傾向があることから、粉末が好ましく、特に平均粒子径が1μm以下の微粉末が好ましい。
【0026】
Bは、金属単体、合金又は化合物であってよい。Bの形態としては、例えば、粉末、粒状及び塊(インゴット)が挙げられる。
【0027】
金属ハロゲン化物としては、例えば、フッ化物、塩化物、臭化物及びヨウ化物が挙げられる。アルカリ金属元素のハロゲン化物としては、例えば、LiCl、KCl、NaCl、LiFが挙げられる。アルカリ土類金属元素のハロゲン化物としては、例えば、CaCl2、MgCl2、BaCl2、SrCl2等が挙げられる。希土類金属元素のハロゲン化物としては、例えば、NdCl3、SmCl3、CeCl3等が挙げられる。金属ハロゲン化物の形態としては、例えば、粉末が挙げられる。
【0028】
本実施形態に係る製造方法において、R及びTが、それぞれNd及びFeであると、Nd-Fe-B系合金粉末を製造することができる。
【0029】
本願明細書において、金属ハロゲン化物が混合物である場合、金属ハロゲン化物の融点以上の温度とは、状態図により示される混合物の共晶点以上の温度を意味する。
【0030】
熱処理する温度は、金属ハロゲン化物の融点以上の温度であれば特に制限されないが、例えば、300℃以上1200℃以下であってよい。
【0031】
熱処理する時間は、0.5時間以上6時間以下であってよい。
【0032】
熱処理する温度における金属ハロゲン化物の全量を基準としたRの濃度は、例えば、3.2mol/L以上、8.2mol/L以下であってよい。
【0033】
本実施形態に係る製造方法は、上述した熱処理工程以外の工程を備えていてもよく、備えていなくてもよい。本実施形態に係る製造方法が上述した熱処理工程以外の工程を備えていない場合、熱処理工程で得られた合金粉末を磁石粉末として用いることができる。
【0034】
(洗浄工程)
本実施形態に係る製造方法は、金属ハロゲン化物が溶解する洗浄液でR‐T‐B系合金粉末を洗浄する洗浄工程を更に備えていてもよい。
【0035】
洗浄工程における洗浄方法は、金属ハロゲン化物が除去される方法であれば特に制限されないが、例えば、R‐T‐B系合金粉末に洗浄液を加え、撹拌した後、デカンテーションする操作を繰り返す方法が挙げられる。
【0036】
洗浄液としては、金属ハロゲン化物が溶解する溶媒であれば特に制限されず、ヒドロキシ基を有する溶媒又はヒドロキシ基を有しない溶媒であってよい。洗浄液は、得られるR‐T‐B系合金粉末の酸化を抑制できることから、ヒドロキシ基を有しない溶媒であることが好ましい。ヒドロキシ基を有する溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール及びエチレングリコール等のグリコール系溶媒が挙げられる。ヒドロキシ基を有しない溶媒としては、例えば、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、アセトン、アセチルアセトン及びエチレンカーボネートが挙げられ、金属ハロゲン化物の溶解度が高く金属ハロゲン化物を効率的に除去できることから、ホルムアミド及びジメチルホルムアミドであることが好ましい。洗浄液は、1種の溶媒を単独で又は2種以上の溶媒を組み合わせて用いてもよい。洗浄液におけるヒドロキシ基を有しない溶媒の含有量は、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上又は100質量%であってもよい。
【0037】
(脱水素工程)
洗浄液としてヒドロキシ基を有する溶媒を用いる場合、R-T-B系合金粉末の結晶格子間に水素が侵入する場合がある。この場合、本実施形態に係る製造方法は、R-T-B系合金粉末を脱水素する脱水素工程を更に備えていてもよい。
【0038】
R-T-B系合金粉末を脱水素する方法としては、特に限定されないが、真空中又は不活性ガス雰囲気中でR-T-B系合金粉末を熱処理する方法等が挙げられる。
【0039】
脱水素工程における熱処理の温度は、150~250℃であってよい。熱処理の時間は、1~3時間であってよい。
【0040】
(乾燥工程)
本実施形態に係る製造方法は、洗浄工程を備える場合、R‐T‐B系合金粉末を乾燥することで、R‐T‐B系合金粉末から洗浄液を除去する乾燥工程を更に備えていてもよい。
【0041】
R‐T‐B系合金粉末を乾燥させる温度は、R‐T‐B系合金粉末の酸化を抑制できることから、常温(20℃)~200℃であることが好ましい。乾燥時の雰囲気は、例えば、アルゴン及び窒素等の不活性ガス、又は真空であってよい。
【0042】
(粉砕工程)
本実施形態に係る製造方法は、R‐T‐B系合金粉末を粉砕する粉砕工程を更に備えていてもよい。粉砕方法は、特に制限されないが、例えば、ジェットミル、乾式及び湿式のボールミル、振動ミル並びに媒体撹拌ミルを用いた粉砕が挙げられる。
【0043】
[作用効果]
上記実施形態に係る製造方法は、組成物を、金属ハロゲン化物の融点以上の温度で加熱する熱処理工程を備える。組成物に含まれるRと異なりBは、その電気陰性度の高さから、一般的に金属ハロゲン化物融体には溶解しづらいものと考えられる。しかしながら、組成物が、R及び金属ハロゲン化物と、Bとを組み合わせて含むことにより、Bを含む場合であっても組成物が金属ハロゲン化物融体に溶解することが本発明者らの検討で見出された。そして、組成物を、金属ハロゲン化物の融点以上の温度で加熱し金属ハロゲン化物融体に溶解したR及びBが、Tに拡散することで、従来よりも低温でR-T-B系合金が得られ、平均粒子径が小さく、且つ、粒度分布幅の狭い磁石粉末を製造することができる。
【0044】
[R‐T‐B系磁石粉末]
以下、本実施形態に係るR‐T‐B系磁石粉末(以下、単に「本実施形態に係る磁石粉末」ともいう)について説明する。
【0045】
本実施形態に係る磁石粉末は、希土類金属元素R、遷移金属元素T、及び硼素Bを含み、平均粒子径が、0.1以上1.0μm以下であり、粒度分布幅(D90-D10)/D50が、0.85以下であり、Rが、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選択される少なくとも一種であり、Tが、Fe、Ni、Co、Cr及びMnからなる群より選択される少なくとも一種である。
【0046】
本実施形態に係る磁石粉末の平均粒子径は、1.0μm以下であり、磁石特性の向上の観点から、0.8μm以下であることが好ましく、0.6μm以下であることがより好ましい。平均粒子径の測定方法は、後述する。
【0047】
本実施形態に係る磁石粉末の粒度分布幅(D90-D10)/D50は、0.85以下であり、磁石特性の向上の観点から、0.80以下であることが好ましく、0.75以下であることがより好ましい。粒度分布幅の測定方法は、後述する。
【0048】
本実施形態に係る磁石粉末の円形度は、磁石粉末を成形する際の流動性が向上することから、70%を超えることが好ましく、72%を超えることがより好ましい。円形度の測定方法は、後述する。
【0049】
本実施形態に係る磁石粉末の平均粒子径、粒度分布幅及び円形度は、以下のようにして測定される。すなわち、R‐T‐B系磁石粉末と、熱硬化性樹脂と、を体積比で等量程度となるように配合し混合物を得る。FIB(Focused Ion Beam:集束イオンビーム)用の試料台(ピンスタブ)上に得られた混合物を塗布し、真空脱泡した後にホットプレートを用いて120℃で1時間加熱し硬化させることで硬化物を得る。そして、硬化物の表面を研磨紙で乾式研磨する。硬化物の研磨は、まず、粗い研磨紙(#600)で粗研磨した後、粗さが中程度の研磨紙(#1200)でさらに研磨し、最終的に細かい研磨紙(#3000)で仕上げ研磨することによって行い、研磨面が鏡面となった測定用試料を得る。得られた測定用試料をSEM(Scanning Electron Microscope:走査電子顕微鏡)観察し、SEM画像を得る。観察倍率は、10000倍とする。SEM画像で確認できる磁石粉末の中から300個を無作為に選定する。選定した磁石粉末について、画像解析及び画像計測ソフトウェアを用いて磁石粉末の面積S並びに周囲長Lを測定する。そして、以下の式(1)~(3)でそれぞれ定義される粒子径D、粒度分布幅、及び円形度係数を算出する。但し、D10、D50及びD90は、それぞれ、300個の磁石粉末の面積基準の累積粒子径分布曲線における、累積頻度が10%となる粒子径、累積頻度が50%となる粒子径、及び累積頻度が90%となる粒子径である。そして、300個の磁石粉末の粒子径Dの面積基準の平均値を磁石粉末の平均粒子径とし、300個の磁石粉末の個数基準の円形度係数の平均値を磁石粉末の円形度とする。
【0050】
【数1】
粒径分布幅=(D
90-D
10)/D
50・・・式(2)
円形度係数=4πS/(L
2)・・・式(3)
【0051】
本実施形態に係る磁石粉末は、残留磁化が向上することから、R2T14Bの単結晶粒子を含むことが好ましい。本実施形態に係る磁石粉末がR2T14Bの単結晶粒子を含むことは、以下のようにして確認できる。すなわち、上述した磁石粉末の平均粒子径の測定と同様にして、研磨面が鏡面となった測定用試料を得る。集束イオンビーム加工により測定用試料を薄片化する。得られた薄片に対し、TEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)観察を行う。観察倍率は、50000倍とする。TEM観察の制限視野回折像が、スポット状であり、R2T14Bの結晶構造の特徴であるP42/mmmと一致した場合、磁石粉末はR2T14Bの単結晶粒子を有すると判断する。
【0052】
本願明細書において、単結晶粒子とは、その内部に結晶粒界を含まず、結晶方位が揃った粒子が、他の粒子と凝集していない孤立している粒子を表す。
【0053】
本実施形態に係る磁石粉末において、Caの含有量は、残留磁化が向上することから、100質量ppm以下、10質量ppm以下、1質量ppm、0.1質量ppm以下であることが好ましい。Caの含有量は、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy:発光分光分析法)を用いて測定できる。
【0054】
本実施形態に係る磁石粉末において、Clの含有量は、粉末の酸化を抑制できることから、1質量ppm以上50000質量ppm以下であることが好ましい。Clの含有量は、ICP-AESを用いて測定できる。
【0055】
本実施形態に係る磁石粉末において、Cの含有量は、得られる磁石の磁気特性が一層向上することから、1000質量ppm以下であることが好ましい。磁石粉末のCの含有量は、酸素気流中燃焼-赤外線吸収法により測定できる。
【0056】
本実施形態に係る磁石粉末は、上記実施形態に係るR‐T‐B系磁石粉末の製造方法により製造されてよい。
【0057】
本実施形態に係る磁石粉末の用途は、特に制限されないが、例えば、焼結磁石及びボンド磁石の製造に好適に用いることができる。
【実施例0058】
以下に、本開示を実施例に基づいて具体的に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0059】
<実施例1>
[鉄粉末の作製]
硝酸鉄101.8g、硝酸Ca14.9gを水819mLに溶解させ、水溶液を得た。得られた水溶液を撹拌しながら1mol水酸化カリウム水溶液441mlを水溶液に滴下し懸濁液を得た。懸濁液をろ過により回収し、洗浄した後、熱風乾燥オーブンで、空気中120℃で一晩乾燥させ、鉄酸化物粉末を作製した。Fe酸化物粉末を、水素気流中500℃で6時間還元し鉄粉末を作製した。
【0060】
[磁石粉末の作製]
(熱処理工程)
鉄粉末0.48gと、ネオジウム粉末0.60gと、塩化リチウム粉末2.07gと、ホウ素粉末0.10gと、を鉄製るつぼに入れ、Ar雰囲気中、800℃で3時間熱処理し、Nd-Fe-B系合金粉末を得た。
【0061】
(洗浄工程)
得られたNd-Fe-B系合金粉末を洗浄液として水で洗浄し、塩化リチウムを除去した。
【0062】
(真空乾燥工程)
塩化リチウムを除去したNd-Fe-B系合金粉末について、アセトンで水を置換した。次いで、Nd-Fe-B系合金粉末を常温(20℃)で真空乾燥し、磁石粉末を得た。
【0063】
[磁石粉末の平均粒子径、粒度分布幅及び円形度の測定]
得られたNd-Fe-B系磁石粉末と、熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)と、を体積比で等量程度となるように配合し、よく混合し、混合物を得た。FIB(Focused Ion Beam:集束イオンビーム)用の試料台(ピンスタブ)上に得られた混合物を塗布し、真空脱泡した。その後、ホットプレートを用いて120℃で1時間混合物を加熱することで硬化し、硬化物を得た。そして、硬化物の表面を研磨紙で乾式研磨した。硬化物の研磨は、まず、粗い研磨紙(#600)で粗研磨した後、粗さが中程度の研磨紙(#1200)でさらに研磨し、最終的に細かい研磨紙(#3000)で仕上げ研磨することによって行い、研磨面が鏡面となった測定用試料を得た。得られた測定用試料をSEM(Scanning Electron Microscope:走査電子顕微鏡)観察し、SEM画像を得た。観察倍率は、10000倍とした。
【0064】
次に、SEM画像で確認できる磁石粉末の中から300個を無作為に選定した。選定した磁石粉末について、画像解析及び画像計測ソフトウェアを用いて磁石粉末の面積S並びに周囲長Lを測定した。そして、以下の式(1)~(3)でそれぞれ定義される粒子径D、粒度分布幅、及び円形度係数を算出した。
【0065】
【数2】
粒径分布幅=(D
90-D
10)/D
50・・・式(2)
円形度係数=4πS/(L
2)・・・式(3)
【0066】
D10、D50及びD90は、それぞれ、300個の磁石粉末の面積基準の累積粒子径分布曲線における、累積頻度が10%となる粒子径、累積頻度が50%となる粒子径、及び累積頻度が90%となる粒子径である。そして、300個の磁石粉末の粒子径Dの面積基準の平均値を磁石粉末の平均粒子径とし、300個の磁石粉末の円形度係数の個数基準の平均値を磁石粉末の円形度とした。結果を表1に示した。
【0067】
[Nd2Fe14Bの単結晶粒子の有無の確認]
磁石粉末の平均粒子径、粒度分布幅及び円形度の測定と同様にして研磨面が鏡面となった測定用試料を得た。集束イオンビーム加工により測定用試料を薄片化した。得られた薄片をTEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)観察した。観察倍率は、50000倍とした。TEM観察の制限視野回折像が、スポット状であり、Nd2Fe14Bの結晶構造の特徴であるP42/mmmと一致した場合、磁石粉末はNd2Fe14Bの単結晶粒子を有すると判断した。結果を表1に示した。
【0068】
[Ca含有量の測定]
得られた磁石粉末についてICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy:発光分光分析法)を用いて、磁石粉末中のCaの含有量を測定した。結果を表1に示した。
【0069】
<実施例2~4、6>
水に代えて表1に示す洗浄液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして磁石粉末を得た。また、実施例1と同様にして磁石粉末の平均粒子径、粒度分布幅及び円形度の測定、Nd2Fe14Bの単結晶粒子の有無の確認並びにCa含有量の測定をした。結果を表1に示した。
【0070】
表1中、EGはエチレングリコール、FAはホルムアミド、DMFはジメチルホルムアミドを表す。
【0071】
<実施例5>
水に代えて表1に示す洗浄液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして磁石粉末を得た。また、実施例1と同様にして磁石粉末の平均粒子径、粒度分布幅及び円形度の測定、Nd2Fe14Bの単結晶粒子の有無の確認並びにCa含有量の測定をした。結果を表1に示した。
【0072】
[Cl含有量の測定]
得られた磁石粉末についてICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy:発光分光分析法)を用いて、磁石粉末中のClの含有量を測定した。Clの含有量は、12900質量ppmであった。
【0073】
[磁気特性の評価]
得られた磁石粉末の質量磁化及び保磁力をVSM(Vibrating Sample Magnetometer:振動試料型磁力計)を用いて以下のようにして評価した。すなわち、磁石粉末の磁化を、1592kA/m(20kOe)から-1592kA/m(-20kOe)の外部磁場をかけて測定し、得られた減磁曲線から各々の値を求めた。外部磁場20kOeにおける質量磁化(σ20kOe)は、102emu/gであった。保磁力は、1.1kOeであった。
【0074】