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  • 特開-補強構造、及び、補強方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147594
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】補強構造、及び、補強方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/20 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
B23K9/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048905
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】木村 和章
(72)【発明者】
【氏名】江村 勝
(57)【要約】
【課題】溶接による周囲への影響を簡易に抑制するとともに補強効果の向上を図る。
【解決手段】鋼材と、鋼材に添設され、厚さ方向に貫通する貫通孔を有する板材と、貫通孔において、鋼材にスタッド溶接された溶接部材と、を備え、溶接部材は、貫通孔の内周面に溶融金属を介して一体化しており、溶接部材の厚さは、板材の厚さ以下であるが、同様の溶接を繰り返すことで板厚のある部材でも貫通孔と溶接部材(及び棒材)の隙間をすべて埋める栓溶接を完成させることを特徴とする補強構造であり、溶融金属が貫通孔と溶接部材(及び棒材)の隙間を塞ぐことで、従来は補強が効力を発生するまでに隙間があることで発生していた構造上のロスが無くなり、大幅な構造上のメリットを生むことになる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材と、
前記鋼材に添設され、厚さ方向に貫通する貫通孔を有する板材と、
前記貫通孔において、前記鋼材にスタッド溶接された溶接部材と、
を備え、
前記溶接部材は、前記貫通孔の内周面に溶融金属を介して一体化しており、
前記溶接部材の厚さは、前記板材の厚さ以下である、
ことを特徴とする補強構造。
【請求項2】
請求項1に記載の補強構造であって、
前記溶接部材は、
前記鋼材にスタッド溶接された第一溶接部材と、
前記第一溶接部材にスタッド溶接された第二溶接部材と、
を有することを特徴とする補強構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の補強構造であって、
前記貫通孔の前記内周面には溝部が形成されており、
前記溝部に溶融金属が充填されている、
ことを特徴とする補強構造。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の補強構造であって、
前記貫通孔内の前記溶接部材にスタッド溶接された棒材を有し、
前記棒材と前記貫通孔の隙間に溶融金属が充填されている、
ことを特徴とする補強構造。
【請求項5】
請求項4に記載の補強構造であって、
前記棒材に螺合し、前記板材を前記鋼材に押し付ける締付材を有する、
ことを特徴とする補強構造。
【請求項6】
鋼材を板材で補強する補強方法であって、
前記板材の厚さ方向に貫通する貫通孔を前記板材に形成する貫通孔形成工程と、
前記貫通孔の形成された前記板材を前記鋼材に添設する板材添設工程と、
スタッド溶接部材を保持部材で保持しつつ、前記貫通孔に挿入してスタッド溶接する溶接工程と、
前記溶接工程の後、前記保持部材を除去する保持部材除去工程と、
を有し、
前記貫通孔の内周面に溶融金属を介して一体化し、厚さが前記板材の厚さ以下の溶接部材を形成する、
ことを特徴とする補強方法。
【請求項7】
請求項6に記載の補強方法であって、
前記溶接工程及び前記保持部材除去工程を複数回繰り返し実行し、
前記溶接部材には、前記鋼材に前記スタッド溶接部材がスタッド溶接された第一溶接部材と、前記第一溶接部材に前記スタッド溶接部材がスタッド溶接された第二溶接部材と、が含まれる、
ことを特徴とする補強方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の補強方法であって、
前記溶接工程では、前記貫通孔に筒状フェルールを挿入し、前記筒状フェルールに前記スタッド溶接部材及び前記保持部材を挿通させてスタッド溶接を行う、
ことを特徴とする補強方法。
【請求項9】
請求項8に記載の補強方法であって、
前記筒状フェルールは外周面に螺旋状の突出部を有し、
前記貫通穴の前記内周面には前記突出部に対応する溝部が設けられており、
前記溶接工程及び前記保持部材除去工程を複数回繰り返し実行し、
複数回の前記溶接工程では、それぞれ前記筒状フェルールの位置を異ならせており、
前記スタッド溶接による溶融金属を前記溝部にも充填させる、
ことを特徴とする補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強構造、及び、補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼構造物(鋼材)の補強を行う場合は、一般的に溶接作業が行われる。そして、かかる溶接作業は、例えば、特許文献1に開示されているような溶接装置により行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-68089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような溶接装置により溶接作業を行うと、火花、臭気、粉塵等が発生するので、火花による火事の発生、臭気による第三者等への異臭トラブル、粉塵による健康被害等を招くおそれがあった。また、養生を行う場合、かなり大がかりな養生が必要になり、補強を行うのに時間や手間がかかっていた。
【0005】
また、鋼構造物(鋼材)に棒材の先端を溶接し、補強板(板材)の挿通孔に棒材を挿通させることにより、補強板を取り付けて補強する場合、挿通孔は、製造誤差や取付誤差等を考慮して、棒材よりも広径に形成する必要がある。このため、挿通孔と棒材との間に間隙が生じるので、補強による効果が低下するおそれがあった。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、溶接による周囲への影響を簡易に抑制するとともに補強効果の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための主たる発明は、鋼材と、前記鋼材に添設され、厚さ方向に貫通する貫通孔を有する板材と、前記貫通孔において、前記鋼材にスタッド溶接された溶接部材と、を備え、前記溶接部材は、前記貫通孔の内周面に接触しており、前記溶接部材の厚さは、前記板材の厚さ以下である、ことを特徴とする補強構造である。
【0008】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、溶接による周囲への影響を簡易に抑制するとともに補強効果の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1A及び図1Bは、本実施形態の補強構造の概略説明図である。
図2】筒状フェルール30の斜視図である。
図3】スタッドピース100及び保持部材200の側面図である。
図4図4A図4Eは、本実施形態の補強構造を形成する補強方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書及び添付図面により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0012】
鋼材と、前記鋼材に添設され、厚さ方向に貫通する貫通孔を有する板材と、前記貫通孔において、前記鋼材にスタッド溶接された溶接部材と、を備え、前記溶接部材は、前記貫通孔の内周面に溶融金属を介して一体化しており、前記溶接部材の厚さは、前記板材の厚さ以下である、ことを特徴とする補強構造が明らかとなる。
【0013】
このような補強構造によれば、貫通孔内に板材の厚さ以下の溶接部材が形成される(換言すると貫通孔内でスタッド溶接が行われる)ことにより火花、臭気、粉塵等の拡散を抑制することができる。また、鋼材と板材と溶接部材とを隙間なく接合することができ、従来では補強の効力を発生するまでに隙間があることで発生していた構造上のロスが無くなり、大幅な構造上のメリットが生じる。よって、溶接による周囲への影響を簡易に抑制するとともに補強効果の向上を図ることができる。
【0014】
かかる補強構造であって、前記溶接部材は、前記鋼材にスタッド溶接された第一溶接部材と、前記第一溶接部材にスタッド溶接された第二溶接部材と、を有することが望ましい。
【0015】
このような補強構造によれば、スタッド溶接を繰り返すことで、板厚のある部材でも貫通孔との隙間をすべて埋める栓溶接を完成させることができる。
【0016】
かかる補強構造であって、前記貫通孔の前記内周面には溝部が形成されており、前記溝部に溶融金属が充填されていることが望ましい。
【0017】
このような補強構造によれば、より一体化を図ることができる。
【0018】
かかる補強構造であって、前記貫通孔内の前記溶接部材にスタッド溶接された棒材を有し、前記棒材と前記貫通孔の隙間に溶融金属が充填されている、ことが望ましい。
【0019】
このような補強構造によれば、板材と棒材を隙間なく一体化させることができる。
【0020】
かかる補強構造であって、前記棒材に螺合し、前記板材を前記鋼材に押し付ける締付材を有することが望ましい。
【0021】
このような補強構造によれば、鋼材と板材との一体化を図ることができる。
【0022】
また、鋼材を板材で補強する補強方法であって、前記板材の厚さ方向に貫通する貫通孔を前記板材に形成する貫通孔形成工程と、前記貫通孔の形成された前記板材を前記鋼材に添設する板材添設工程と、スタッド溶接部材を保持部材で保持しつつ、前記貫通孔に挿入してスタッド溶接する溶接工程と、前記溶接工程の後、前記保持部材を除去する保持部材除去工程と、を有し、前記貫通孔の内周面に溶融金属を介して一体化し、厚さが前記板材の厚さ以下の溶接部材を形成することを特徴とする補強方法が明らかとなる。
【0023】
このような補強方法によれば、溶接による周囲への影響を簡易に抑制するとともに補強効果の向上を図ることができる。
【0024】
かかる補強方法であって、前記溶接工程及び前記保持部材除去工程を複数回繰り返し実行し、前記溶接部材には、前記鋼材に前記スタッド溶接部材がスタッド溶接された第一溶接部材と、前記第一溶接部材に前記スタッド溶接部材がスタッド溶接された第二溶接部材と、が含まれていてもよい。
【0025】
このような補強方法によれば、スタッド溶接を複数回繰り返すことで、板厚のある部材でも貫通孔との隙間をすべて埋める栓溶接を完成させることができる。
【0026】
かかる補強方法であって、前記溶接工程では、前記貫通孔に筒状フェルールを挿入し、前記筒状フェルールに前記スタッド溶接部材及び前記保持部材を挿通させてスタッド溶接を行うことが望ましい。
【0027】
このような補強方法によれば、スタッド溶接の際に、火花、臭気、粉塵等の拡散をより抑制することができる。
【0028】
かかる補強方法であって、前記筒状フェルールは外周面に螺旋状の突出部を有し、前記貫通穴の前記内周面には前記突出部に対応する溝部が設けられており、前記溶接工程及び前記保持部材除去工程を複数回繰り返し実行し、複数回の前記溶接工程では、それぞれ前記筒状フェルールの位置を異ならせており、前記スタッド溶接による溶融金属を前記溝部にも充填させることが望ましい。
【0029】
このような補強方法によれば、より一体化を図ることができる。
【0030】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0031】
===本実施形態===
<補強構造について>
【0032】
図1A及び図1Bは、本実施形態の補強構造の概略説明図である。なお、図1Aは、補強構造の一例を示しており、図1Bは、図1Aにさらに部材を追加した図(最終形状)を示している。また、図1Aは断面図、図1Bは立面図である。
【0033】
図1A及び図1Bに示すように、本実施形態の補強構造は、鋼材2、補強板4、スタッドボルト10、ワッシャー12、ナット14、及び、溶接部材110を備えている。本実施形態において、鋼材2及び補強板4は、上下方向に垂直に配置されている。すなわち、鋼材2及び補強板4の厚さ方向は、上下方向に沿っている。以下の説明において、上下方向のことを厚さ方向ともいう。
【0034】
鋼材2は、建築物などを構成する鋼製部材(例えばH形鋼、鋼板など)であり、本実施形態における補強対象の部材である。
【0035】
補強板4(板材に相当)は、鋼材2を補強するための鋼製板材であり、上面が鋼材2の下面と接触するように、鋼材2に添設されている。図に示すように、本実施形態の補強板4の厚さは、鋼材2の厚さよりも大きい。また、補強板4には厚さ方向に貫通する貫通孔4aが形成されている。本実施形態の貫通孔4aは、内周面にネジ部4b(雌ネジ:溝部に相当)が螺旋状に形成されたボルト孔である。貫通孔4a(ボルト孔)のネジ部4bは、筒状フェルール30(後述)のネジ部30bと螺合可能に形成されている。
【0036】
スタッドボルト10(棒材に相当)は、先端(上端)がスタッド溶接可能に形成された部材(ボルト)であり、略円柱形状の軸部10aと、軸部10aの外周面に螺旋状に形成されたネジ部10b(雄ネジ)とを有している。本実施形態において、スタッドボルト10は、貫通孔4aに設けられた溶接部材110にスタッド溶接されている。なお、スタッド溶接とは、母材(鋼材など)にスタッド材(ボルト、ピン部材など)の先端を圧接した状態で、母材とスタッド材との間に電流を流して火花(アーク)を発生させることにより溶融させて接合する溶接方法である。
【0037】
ワッシャー12は、補強板4とナット14との間に介在されている。また、ワッシャー12にはスタッドボルト10が挿通されている。
【0038】
ナット14は、スタッドボルト10に螺合されることにより、ワッシャー12を介して、補強板4を鋼材2に押し付ける部材である。
【0039】
溶接部材110は、補強板4の貫通孔4aの内部において、後述するスタッドピース100がスタッド溶接されて形成された部位である。本実施形態の溶接部材110は、スタッドピース100に対応する溶接部材(第一溶接部材101,第二溶接部材102,第三溶接部材103)が、上下に3層重なって形成されている。このうち第一溶接部材101は、鋼材2にスタッド溶接されており、第二溶接部材102は、第一溶接部材101にスタッド溶接されている。また、第三溶接部材103は、第二溶接部材102にスタッド溶接されている。第一溶接部材101,第二溶接部材102,第三溶接部材103は、それぞれ、スタッドピース100と、スタッド溶接により生じた溶融金属Mを有している。
【0040】
また、溶接部材110(第一溶接部材101,第二溶接部材102,第三溶接部材103)は、貫通孔4aの内周面に溶融金属Mを介して一体化している。また、溶融金属Mは貫通孔4のネジ部4bにも充填されている。このように、貫通孔4a(補強板4)と、溶接部材110との間に隙間が無い(遊びがない)ので、鋼材2と補強板4と溶接部材110との一体化を図ることができ、補強の効果を高めることができる。
【0041】
また、溶接部材110の厚さは、補強板4の厚さ以下である。このため、後述する筒状フェルール30などを用いることにより、スタッド溶接の際に発生する、火花、臭気、粉塵等の拡散を抑制することができる。
【0042】
<溶接時に使用する部材について>
次に、本実施形態において、溶接時に使用する部材(筒状フェルール30、スタッドピース100、及び、保持部材200)について説明する。
【0043】
図2は、筒状フェルール30の斜視図である。
【0044】
筒状フェルール30は、略円筒形状のフェルールであり、耐熱性の磁器(例えばセラミック)で形成されている。筒状フェルール30は、スタッド溶接の際に発生する火花、臭気、粉塵等の拡散を抑制する機能などを有している。本実施形態の筒状フェルール30は、筒部30a、ネジ部30b、切り欠き部30cを有している。
【0045】
筒部30aは、筒状フェルール30の本体部分を形成する円筒形状の部位である。筒部30aの外径は、補強板4の貫通孔4aの径、及び、スタッドボルト10の径にほぼ等しく、筒部30aの内径は、スタッドピース100及び保持部材200を挿通可能な大きさである。
【0046】
ネジ部30b(突出部に相当)は、筒部30aの外周面に螺旋状に形成されたネジ(雄ネジ)である。ネジ部30bは、補強板4の貫通孔4aにおけるネジ部4b(雌ネジ)に螺合可能に形成されている。
【0047】
切り欠き部30cは、スタッド溶接の際のガス抜き用に形成された溝であり、上下方向に沿ってネジ部30bを貫いて設けられている。また、切り欠き部30cは、筒部30aの上端から下端に亘って連続しておらず、周方向の位置を異ならせて形成されている。これにより、スタッド溶接時においてガスを放出することが可能であり、また、溶融したスタッドピース100(第一溶接部材101など)の漏れを抑制できる。
【0048】
図3は、スタッドピース100及び保持部材200の側面図である。
【0049】
スタッドピース100は、スタッド溶接可能な円盤状の部材であり、保持部材200の先端に接続されている。なお、スタッドピース100の厚さは、補強板4の厚さより小さく、本実施形態では2cm程度である。また、スタッドピース100の径は、貫通孔4aの径よりも小さい。
【0050】
保持部材200は、スタッド溶接を行う際に、スタッドピース100を保持する部材であり、本実施形態では、スタッドピース100と同径の円柱形状(棒状)に設けられている。また、保持部材200は、スタッド溶接に必要な電気を通電可能な導体で形成されている。
【0051】
スタッドピース100と保持部材200は、切り離し(取り外し)可能に連結されている。例えば、ネジで螺合していてもよいし、負荷(回転トルク、引張力など)を与えることで連結部分が破断するようになっていてもよい。
【0052】
<補強方法について>
図4A図4Eは、本実施形態の補強構造を形成する補強方法の説明図である。
【0053】
まず、補強板4に厚さ方向に貫通する貫通孔4a、及び、貫通孔4aの内周面にネジ部4bを形成する(貫通孔形成工程に相当)。そして、鋼材2の下面に補強板4の上面が接触するように、補強板4を鋼材2に添設する(板材添設工程に相当)。
【0054】
次に、図4Aに示すように、筒状フェルール30(ネジ部30b)を補強板4の貫通孔4a(ネジ部4b)に螺合させ、筒状フェルール30の上端が鋼材2と所定間隔(例えばスタッドピース100の厚さ分)離間するように配置する。そして、スタッドピース100を、保持部材200で保持しつつ筒状フェルール30に挿通させて、鋼材2に当接させる。
【0055】
次に、図4Bに示すように、スタッドガン(不図示)などを用いて、スタッドピース100を鋼材2にスタッド溶接する(溶接工程に相当)。このスタッド溶接により、スタッドピース100の鋼材2との接触部分が溶融し(溶融金属Mとなり)、スタッドピース100と貫通孔4aとの隙間などに充填される。
【0056】
本実施系では、補強板4の貫通孔4aにスタッドピース100を挿入してスタッド溶接を行っており、スタッドピース100の厚さが補強板4の厚さ以下であるので、火花、臭気、粉塵等の拡散を簡易に抑制することができる。さらに、保持部材200と貫通孔4aとの隙間に筒状フェルール30を配置しているので、火花、臭気、粉塵等の拡散をより抑制することができる。
【0057】
また、筒状フェルール30に切り欠き部30cを設けていることにより、スタッド溶接の際にガスを放出することが可能である。また、切り欠き部30cは、筒状フェルール30の上端から下端まで連続していないので、溶融状態の溶融金属Mの漏れを抑制できる。
【0058】
スタッド溶接後(より具体的には溶融した溶融金属Mが冷却して固まった後)、保持部材200をスタッドピース100(第一溶接部材101)から取り外して除去する(保持部材除去工程に相当)。これにより、図4Cに示すように、スタッドピース100に基づいた第一溶接部材101が、鋼材2の表面(ここでは下面)及び補強板4の貫通孔4aの内周面に隙間なく設けられる。つまり、鋼材2と補強板4と第一溶接部材101が溶融金属Mを介して一体化して形成される。このように、各部材に隙間(遊び)がないため、従来では補強の効力を発生するまでに隙間があることで発生していた構造上のロスが無くなり、大幅な構造上のメリットが生じるので補強効果の向上を図ることができる。なお、図4Cでは、筒状フェルール30を取り外した状態を図示しているが、続けてスタッド溶接を行う場合には、筒状フェルール30は取り外さなくてもよい。
【0059】
次に、図4Dに示すように、筒状フェルール30を回転させて位置を下側にずらし、図4Bと同様に、筒状フェルール30にスタッドピース100、保持部材200を挿通させて、スタッドピース100を第一溶接部材101に当接させてスタッド溶接を行う。そして、スタッド溶接後、保持部材200を除去する。
【0060】
これにより、スタッドピース100に基づいた第二溶接部材102が、第一溶接部材101の層に重ねて形成される。この場合においても、補強板4の貫通孔4aにスタッドピース100を挿入してスタッド溶接を行っており、さらに保持部材200の周囲が筒状フェルール30で囲まれているので、火花、臭気、粉塵等の発生を抑制することができる。また、第二溶接部材102の層が、第一溶接部材101、及び、補強板4の貫通孔4aの内周面に隙間なく一体化して設けられる。さらに、貫通孔4aの溝部4bにも溶融金属Mが充填されるのでより一体化が図れる。これにより、補強効果の向上を図ることができる。
【0061】
以下、同様の作業(溶接工程、保持部材除去工程)を繰り返し実行し、スタッドピース100に基づく溶接部材を複数層(本実施形態では3層)に重ねた溶接部材110を形成する。このようにスタッド溶接を繰り返すことで、補強板4が板厚のある部材でも貫通孔4aとの隙間をすべて埋める栓溶接を完成させることができる。
【0062】
次に、筒状フェルール30を回転させて貫通孔4aから取り外し、図4Eに示すように、スタッドボルト10を貫通孔4aに挿入し、スタッド溶接を行う。これにより、スタッドボルト10の先端が溶接部材110(ここでは第三溶接部材103)に接合される。また、スタッド溶接による溶融金属Mがスタッドボルト10と貫通孔4aとの隙間に充填される。これにより、補強板4とスタッドボルト1を隙間なく一体化させることができる。
【0063】
その後、ワッシャー12をスタッドボルト10に挿通させ、さらに、ナット14をスタッドボルト10に螺合させて、ワッシャー12を介して、補強板4を鋼材2に押し付ける(図1B参照)。これにより、鋼材2と補強板4との一体化をさらに図ることができる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態の補強構造は、鋼材2と、鋼材2に添設され、厚さ方向に貫通する貫通孔4aを有する補強板4と、貫通孔4aにおいて、鋼材2にスタッド溶接された溶接部材110を備えている。また、溶接部材110は、貫通孔4aの内周面に溶融金属Mを介して一体化しており、溶接部材110の厚さは、補強板4の厚さ以下である。
【0065】
これにより、貫通孔4a内に補強板4の厚さ以下の溶接部材110が形成されている(換言すると貫通孔4a内でスタッド溶接が行われる)ため、火花、臭気、粉塵等の拡散を抑制することが可能である。また、鋼材2と補強板4と溶接部材110とを隙間なく接合することができ、従来では補強の効力を発生するまでに隙間があることで発生していた構造上のロスが無くなり、大幅な構造上のメリットが生じる。よって、溶接による周囲への影響を簡易に抑制するとともに補強効果の向上を図ることができる。
【0066】
また、溶接部材110は、鋼材2にスタッド溶接された第一溶接部材101と、第一溶接部材101にスタッド溶接された第二溶接部材102とを有している。
【0067】
これにより、スタッド溶接を複数回繰り返し実行することで、補強板4が板厚のある部材でも貫通孔4aとの隙間をすべて埋める栓溶接を完成させることができる。
【0068】
また、貫通孔4aの内周面にはネジ部4bが形成されており、ネジ部4bに溶融金属Mが充填されている。
【0069】
これにより、より一体化を図ることができる。
【0070】
また、貫通孔4a内の溶接部材110にスタッド溶接されたスタッドボルト10を有し、スタッドボルト10と貫通孔4aの隙間に溶融金属Mが充填されている。
【0071】
これにより、補強板4とスタッドボルト10を隙間なく一体化させることができる。
【0072】
また、スタッドボルト10に螺合し、補強板4を鋼材2に押し付けるナット14を有している。
【0073】
これにより、鋼材2と補強板4との一体化を図ることができる。
【0074】
また、本実施形態の補強方法は、鋼材2を補強板4で補強する補強方法であって、補強板4の厚さ方向に貫通する貫通孔4aを補強板4に形成する貫通孔形成工程と、貫通孔4aの形成された補強板4を鋼材2に添設する板材添設工程と、スタッドピース100を保持部材200で保持しつつ、貫通孔4aに挿入してスタッド溶接する溶接工程と、溶接工程の後、保持部材200を除去する保持部材除去工程とを有している。そして、貫通孔4aの内周面に溶融金属Mを介して一体化し、厚さが補強板4の厚さ以下の溶接部材110を形成している。
【0075】
これにより、貫通孔4a内でスタッドピース100のスタッド溶接を行うことにより、火花、臭気、粉塵等の拡散を抑制することができる。また、鋼材2と補強板4と溶接部材110とを隙間なく接合することができ、従来では補強の効力を発生するまでに隙間があることで発生していた構造上のロスが無くなり、大幅な構造上のメリットが生じる。よって、溶接による周囲への影響を簡易に抑制するとともに補強効果の向上を図ることができる。
【0076】
また、溶接工程及び保持部材除去工程を複数回繰り返し実行しており、溶接部材110には、鋼材2にスタッドピース100がスタッド溶接された第一溶接部材101と、第一溶接部材101にスタッドピース100がスタッド溶接された第二溶接部材102と、が含まれている。
【0077】
これにより、スタッド溶接を繰り返すことで、補強板4が板厚のある部材でも貫通孔4aとの隙間をすべて埋める栓溶接を完成させることができる。
【0078】
また、溶接工程では、貫通孔4aに筒状フェルール30を挿入し、筒状フェルール30にスタッドピース100及び保持部材200を挿通させてスタッド溶接を行なっている。
【0079】
これにより、スタッド溶接による、火花、臭気、粉塵等の拡散をより抑制することができる。
【0080】
また、筒状フェルール30は外周面に螺旋状のネジ部30bを有し、貫通穴4aの内周面にはネジ部30bに対応するネジ部4bが設けられている。そして、複数回のスタッド溶接では、それぞれ、筒状フェルール30を回転させることにより、筒状フェルール30の上下方向の位置をずらして(異ならせて)おり、スタッド溶接による溶融金属Mをネジ部4bにも充填させている。
【0081】
これにより、より一体化を図ることができる。
【0082】
===その他の実施形態について===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0083】
前述の実施形態では、鋼材2の下側に補強板4が設けられていたが、これには限られず、鋼材2の上側に補強板4が設けられていてもよい。この場合、下向きにスタッド溶接すればよい。また、鋼材2及び補強板4が上下方向(鉛直方向)に沿って設けられていてもよい。この場合、スタッド溶接を横(水平方向)に行えばよい。
【0084】
前述の実施形態では、溶接部材110として、第一溶接部材101,第二溶接部材102,第三溶接部材103を3層重ねて形成していたが、これには限られず、1層(例えば第一溶接部材101のみ)でもよいし、4層以上に重ねてもよい。スタッド溶接を繰り返し実行することで、補強板4が板厚のある部材でも貫通孔4aとの隙間をすべて埋める栓溶接を完成させることができる。
【0085】
前述の実施形態では、スタッドボルト10にワッシャー12を挿通させてナット14を螺合させていたが、ワッシャー12及びナット14は設けていなくてもよい。また、スタッドボルト10を設けていなくてもよい。
【符号の説明】
【0086】
2 鋼材
4 補強板(板材)
4a 貫通孔
4b ネジ部(溝部)
10 スタッドボルト(棒材)
10a 軸部
10b ネジ部
12 ワッシャー
14 ナット(締付材)
30 筒状フェルール
30a 筒部
30b ネジ部(突出部)
30c 切り欠き部
100 スタッドピース(スタッド溶接部材)
101 第一溶接部材
102 第二溶接部材
103 第三溶接部材
110 溶接部材
200 保持部材
M 溶融金属
図1
図2
図3
図4