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特開2022-147649非加熱加工食肉製品の製造方法、非加熱加工食肉製品、食品組成物、及び超高圧加工装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147649
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】非加熱加工食肉製品の製造方法、非加熱加工食肉製品、食品組成物、及び超高圧加工装置
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/00 20160101AFI20220929BHJP
   A23B 4/023 20060101ALI20220929BHJP
   A23B 4/03 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
A23L13/00 A
A23B4/023 A
A23B4/03 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048981
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】307015493
【氏名又は名称】株式会社超臨界技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】521122566
【氏名又は名称】合同会社MIC JAPAN
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐伯憲治
(72)【発明者】
【氏名】石橋有希
(72)【発明者】
【氏名】金慧卿
(72)【発明者】
【氏名】柴田由市
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC06
4B042AD01
4B042AD04
4B042AG02
4B042AG03
4B042AG07
4B042AG11
4B042AH01
4B042AK01
4B042AP06
4B042AP07
4B042AP17
4B042AP30
(57)【要約】
【課題】製造期間が大幅に短縮することで品質が高く衛生管理も容易で、歩留まりや時間も含めコストダウンができ、イタリアタイプの生ハムと同等以上の風味を有する非加熱加工食肉製品、及び、その製造方法を提供すること。
【解決手段】非加熱加工食肉製品の製造方法であって、
食肉と食塩又は食塩水とを接触させる塩入れ工程と
前記食肉から水分を除去する乾燥工程と
を含み、前記塩入れ工程と前記乾燥工程のうち、少なくとも1つの工程において、10MPa~400MPaの圧力で前記食肉を静水加圧する非加熱加工食肉製品の製造方法により、前記課題を解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非加熱加工食肉製品の製造方法であって、
食肉と食塩又は食塩水とを接触させる塩入れ工程と
前記食肉から水分を除去する乾燥工程と
を含み、
前記塩入れ工程と前記乾燥工程のうち、少なくとも1つの工程において、10MPa~400MPaの圧力で前記食肉を静水加圧する非加熱加工食肉製品の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程が、脱水シートを前記食肉に接触させて保持する工程である請求項1に記載の非加熱加工食肉製品の製造方法。
【請求項3】
前記静水加圧が、0℃~60℃の条件下で行われる、請求項1又は2に記載の非加熱加工食肉製品の製造方法。
【請求項4】
前記食肉の塩分を除去する塩抜き工程、及び/又は
前記食肉を静水加圧により高圧殺菌する高圧殺菌工程
をさらに含む、請求項1~3のいずれかに記載の非加熱加工食肉製品の製造方法。
【請求項5】
前記食肉が、豚肉、牛肉、鶏肉又は鯨肉である、請求項1~4のいずれかに記載の非加熱加工食肉製品の製造方法。
【請求項6】
食肉及び塩分を含む非加熱加工食肉製品であって、
塩分の濃度が、前記非加熱加工食肉製品基準で6質量%以下であり、
食塩以外の調味料、及び防腐剤を実質的に含まない、前記非加熱加工食肉製品。
【請求項7】
請求項6に記載の非加熱加工食肉製品を含む食品組成物。
【請求項8】
請求項1~6のいずれかに記載の非加熱加工食肉製品の製造方法に使用するための、超高圧加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静水加圧による非加熱加工食肉製品の製造方法に関する。本発明は、塩分の含有量が低く、且つ食塩以外の調味料及び防腐剤を実質的に含有しない非加熱加工食肉製品に関する。本発明は、前記非加熱加工食肉製品を含む食品組成物、及び前記製造方法を実施するための超高圧加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生ハムは、世界中で食されている加工済み食肉製品である。生ハムには、デンマークタイプ、ドイツタイプ、そしてイタリアタイプの3種類がある。ヨーロッパにおいて、広く好まれているのはイタリアタイプの生ハムである。近年、イタリアタイプの生ハムの日本への輸入が解禁された。それ以来、日本においても、イタリアタイプの生ハムの消費量が増加している。
イタリアタイプの生ハムを製造するためには、一般的に、食肉に塩分を添加し、その後、食肉の水分及び塩分を除去して乾燥させる必要がある。しかしながら、食肉に塩分を十分に浸透させるために、約3週間の間、食肉を塩漬けにする必要がある。また、乾燥に関しても、1年以上の期間を要する。
製造に要する期間を短くするため、そして、製造工程を簡略化するために、様々な試みがなされている。日本においても、種々タイプの生ハムが製造されているが、これらの生ハムには、各種添加剤が添加されている。例えば、特許文献1に記載の生ハムには、水分活性低減のために乳酸ナトリウムが添加されている。しかし、その結果本来のイタリアタイプの塩漬け生ハムとは異なる成分の生ハムとならざるを得ない。
特許文献2は、(1)塩漬調味料で原料肉を塩漬処理し、次いで(2)塩漬された肉を加圧しながら、熟成/乾燥を行う工程を含むことを特徴とする生ハム類の製造方法を開示する。しかし、この方法は、塩漬された原料肉を成型しリテーナーに充填し空気で3~20気圧で加圧する方法を提案しており、本発明の静水加圧の範囲とは合致しない。
特許文献3は、生の食肉に対し、0.1~0.5M(mol/l)濃度の重曹溶液中に30~60分間浸漬する重曹処理と、醤油及びみりんを中心とする浸漬用調味液中に浸漬する調味液処理と、100MPa~400MPaの圧力を加える高圧処理とを施す食肉の加工方法を開示する。しかしながら、この方法は、加熱調理の前処理としての食肉の加工方法であり、非加熱加工食品の製造方法としては適切ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59-017940号公報
【特許文献2】特開平11-266782号公報
【特許文献3】特開第2011-83228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、イタリアタイプの生ハムと同等以上の風味を有する非加熱加工食肉製品の製造方法に関して、食塩量の最適化をすると共に、製造期間の短縮など、製造工程を簡略化し、容易な製法により、非加熱加工食肉製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、近年、食品分野において世界中で活発に研究開発や商品化が進んでいる超高圧処理(High Pressure Processing)に注目し、イタリアタイプの生ハムと同等以上の風味を有する非加熱加工食肉製品の製造方法について、塩入れ、塩抜きおよび乾燥等から成る製造工程を鋭意検討した。その結果、塩入れ工程と乾燥工程との少なくとも1つの工程において、10MPa~400MPaの圧力で食肉を静水加圧することにより、製造工程を簡略化し、非加熱加工食肉製品の塩分量を最適化でき、そして余分な添加物の省略が可能となることを見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
具体的には、本発明は以下の通りである。
<1> 非加熱加工食肉製品の製造方法であって、
食肉と食塩又は食塩水とを接触させる塩入れ工程と
前記食肉から水分を除去する乾燥工程と
を含み、
前記塩入れ工程と前記乾燥工程のうち、少なくとも1つの工程において、10MPa~400MPaの圧力で前記食肉を静水加圧する非加熱加工食肉製品の製造方法。
<2> 前記乾燥工程が、脱水シートを前記食肉に接触させて保持する工程である<1>に記載の非加熱加工食肉製品の製造方法。
<3> 前記静水加圧が、0℃~60℃の条件下で行われる、<1>又は<2>に記載の非加熱加工食肉製品の製造方法。
<4> 前記食肉の塩分を除去する塩抜き工程、及び/又は
前記食肉を静水加圧により高圧殺菌する高圧殺菌工程
をさらに含む、<1>~<3>のいずれかに記載の非加熱加工食肉製品の製造方法。
<5> 前記食肉が、豚肉、牛肉、鶏肉又は鯨肉である、<1>~<4>のいずれかに記載の非加熱加工食肉製品の製造方法。
<6> 塩入れ工程と乾燥工程の両方が、10MPa~400MPaの圧力で前記食肉を静水加圧する工程である、<1>~<5>のいずれかに記載の非加熱加工食肉製品の製造方法。
<7> 静水加圧の圧力が、50MPa~200MPaである<1>~<6>のいずれかに記載の非加熱加工食肉製品の製造方法。
<8> 塩入れ工程が、湿式法である、<1>~<7>のいずれかに記載の非加熱加工食肉製品の製造方法。
<9> 塩入れ工程が、25℃~50℃の条件下で行われる、<1>~<8>のいずれかに記載の非加熱加工食肉製品の製造方法。
<10> 塩入れ工程において、塩分濃度が5質量%~70質量%相当の食塩水を用いる、<1>~<9>のいずれかに記載の非加熱加工食肉製品の製造方法。
<11> 乾燥工程において、食肉に含有される水分の量を減少させることにより、食肉の質量を原料肉基準で、75%~40%にする、<1>~<10>のいずれかに記載の非加熱加工食肉製品の製造方法。
<12> 高圧殺菌工程をさらに含み、高圧殺菌工程が、50~700MPaで行われる、<1>~<11>のいずれかに記載の非加熱加工食肉製品の製造方法。
<13> 高圧殺菌工程をさらに含み、高圧殺菌工程が、0℃~60℃で、1分~60分行われる、<1>~<12>のいずれかに記載の非加熱加工食肉製品の製造方法。
本発明は以下の態様も包含する。
<14> 食肉及び塩分を含む非加熱加工食肉製品であって、
塩分の濃度が、前記非加熱加工食肉製品基準で6質量%以下であり、
食塩以外の調味料、及び防腐剤を実質的に含まない、前記非加熱加工食肉製品。
<15> 塩分の濃度が、前記非加熱加工食肉製品基準で4質量%以下である<14>に記載の非加熱加工食肉製品。
<16> 食塩以外の調味料及び防腐剤の含量が、非加熱加工食肉製品基準で、0.1質量%以下である、<14>又は<15>に記載の非加熱加工食肉製品。
<17> 水分活性が、0.90未満である、<14>~<16>のいずれかに記載の非加熱加工食肉製品。
<18> <14>~<17>のいずれかに記載の非加熱加工食肉製品を含む食品組成物。
<19> <1>~<13>のいずれかに記載の非加熱加工食肉製品の製造方法に使用するための、超高圧加工装置。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、製造期間が大幅に短縮することで品質が高く衛生管理も容易で、歩留まりや時間も含めコストダウンができ、イタリアタイプの生ハムと同等以上の風味を有する非加熱加工食肉製品、及び、その製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
1.非加熱加工食肉製品の製造方法
(塩入れ工程)
本明細書において、「塩入れ工程」とは、食肉と食塩または食塩水とを常圧あるいは静水加圧下で接触させ、食肉中の塩分濃度を上昇させる工程である。本発明の非加熱加工食肉製品の製造方法では、塩入れ工程及び後述の乾燥工程のうちの少なくとも1つを10MPa~400MPaの圧力で行い、食肉を静水加圧する。この場合、圧力は、食肉中の塩分濃度を上昇させることができれば限定されることはないが、好ましくは30~300MPaであり、より好ましくは50MPa~200MPaである。400MPaを超えると、生肉のタンパク質が変性する可能性がある。なお、この10MPa~400MPaの高圧処理と併用して、10MPa未満の低圧塩入れ処理を行ってもよい。
本明細書において、「食塩」とは、主成分が塩化ナトリウムである、食用となる塩である。本明細書において「食塩」は、岩塩、及び天日塩等を含む。使用する食塩は、合成のものでも天然のものでもよい。
本明細書において、「静水加圧」とは、静水圧を使用して、対象物に対して全方向から均一に圧力をかけることを意味する。静水加圧をかけるためには、市販されている加圧装置を用いることができる。例えば、特開2007-68444号に開示されている食品処理装置、特開2010-187817号に開示されている高圧処理装置、又は株式会社東洋高圧製の超高圧加圧処理装置「まるごとエキス」の型番「TFS」もしくは「TFS6」を用いることができる。
【0008】
食肉と食塩とを接触させる方式は、乾式法と湿式法のいずれを使用してもよい。乾式法とは、固体、例えば粉状又は粒状の食塩と食肉とを接触させる方式である。湿式法とは、溶媒、好ましくは水に食塩を溶解させ、この溶液と食肉とを接触させる方式である。
【0009】
塩入れ工程における温度は、食肉中の塩分濃度を上昇させることができれば限定されることはないが、例えば0℃~60℃であり、好ましくは25℃~55℃であり、さらに好ましくは25℃~50℃である。
【0010】
塩入れ工程の期間は、食肉中の塩分濃度を上昇させることができれば限定されることはないが、乾式法の場合、例えば、1時間~72時間、好ましくは3時間~12時間である。乾式法の場合、食塩の添加量は、食肉中の塩分濃度を上昇させることができれば限定されることはないが、例えば、原料肉の質量基準で、等量~10分の1が推奨される。
塩入れ工程の期間は、湿式法の場合、例えば、2時間~7日間、好ましくは6時間~5日間、さらに好ましくは12時間~3日間である。湿式法の場合、食塩を含む溶液の食塩の濃度は、食肉中の塩分濃度を上昇させることができれば限定されることはないが、例えば、5質量%~70質量%、好ましくは15質量%~55質量%、さらに好ましくは25質量%~45質量%である。
【0011】
塩入れ工程においては、食塩以外の添加物、例えば、糖類(砂糖、ぶどう糖)、酸化防止剤(V.C.)、香辛料、ハーブ類、レモンなどの果汁、調味料(酒、みりん、しょうゆ、みそなど)、防腐剤(硝酸塩、亜硝酸塩など)、結着剤(リン酸塩など)を、添加しないことが好まれるが食塩以外の添加物を否定するものではない。
【0012】
塩入れ工程において、10MPa~400MPaで静水加圧を行うことにより、食塩の食肉への含浸を効率的に行うことができる。加えて、超高圧で食肉を処理することにより、低温殺菌効果も期待できる。
【0013】
(塩抜き工程)
本発明の非加熱加工食肉製品の製造方法では、塩入れ工程の後、塩抜き工程を含むことができる。本明細書において「塩抜き工程」とは、塩分を添加した食肉と水分とを接触させることにより、食肉の塩分含量を低下させる工程を意味する。塩抜き工程は、常圧で行ってもよく、塩入れ工程又は乾燥工程と同様に、10MPa~400MPaの圧力の静水加圧の処理と常圧の処理を併用して行ってもよい。このとき、静水加圧時の圧力は、10MPa~400MPa、好ましくは30MPa~300MPa、さらに好ましくは50MPa~200MPaが推奨される。
【0014】
塩抜きをするために、塩分を含まない水を使用してもよく、低濃度の食塩水(例えば、0.1~2質量%)を使用してもよい。塩抜き工程の温度及び期間は、食肉の塩分含量を低下させることができる限り特に限定されない。塩抜き工程の期間は、例えば、30分~24時間である。塩抜き工程を行う温度は、例えば、0℃~60℃が好ましく、0℃~50℃がさらに好ましい。
【0015】
従来の常圧での塩入れ工程では食塩の含浸が弱く、塩入れ工程において過剰な食塩を添加することで肉表面付近の塩分が極端に高くなるため、食塩を抜く工程が必要とされていた。本発明における塩入れ工程においては、10MPa~400MPで静水加圧を行うことで塩分の含侵を促進するため過剰な食塩を添加する必要はなく、また、乾燥工程において、10MPa~400MPaで静水加圧を行うことにより肉全体の塩分均一化を促進する。したがって、本発明の非加熱加工食肉製品の製造方法においては、塩抜き工程を省略することも可能である。しかしながら、本発明の非加熱加工食肉製品の製造方法において、塩抜き工程が含まれる実施形態を除外するものではない。
【0016】
(乾燥工程)
本明細書において、「乾燥工程」とは、食肉の水分含量を減少させる工程を意味する。本明細書においては、乾燥工程を、脱水・乾燥工程と表現することもある。食肉の水分含量を減少させる手段は、特に限定されることはなく、室内に静置するのみでもよく、又は水分を吸収するためのシートを食肉に接触させてもよい。本発明の非加熱加工食肉製品の製造方法では、前述の塩入れ工程及び乾燥工程のうちの少なくとも1つを10MPa~400MPaの圧力で行い、食肉を静水加圧する。
乾燥工程において、食肉を静水加圧する場合、圧力は、食肉中の水分含量を減少させることができれば限定されることはないが、好ましくは30MPa~300MPaであり、さらに好ましくは50MPa~200MPaである。400MPaを超えると、食肉中のタンパク質が変性する可能性がある。10MPa~400MPaの高圧処理と併用して、10MPa未満の低圧処理を行ってもよい。
乾燥工程において、静水加圧をかけるためには、市販されている加圧装置を用いることができる。例えば、特開2007-68444号に開示されている食品処理装置、特開2010-187817号に開示されている高圧処理装置、又は株式会社東洋高圧製の超高圧加圧処理装置「まるごとエキス」の型番「TFS」もしくは「TFS6」を用いることができる。
【0017】
乾燥工程においては、脱水シートを食肉に接触させて保持することが好ましい。また、脱水シートは複数枚を使用してもよく、適宜交換してもよい。脱水シートは、水分を吸収するものであれば特に限定されることはなく、周知のものを使用することができる。
【0018】
乾燥工程の温度は、食肉中の水分含量を減少させることができれば限定されることはないが、例えば0℃~60℃であり、好ましくは4℃~40℃である。
【0019】
乾燥工程では、食肉に含有される水分の量を減少させることにより、食肉の質量を原料肉基準で、例えば、75%~40%、好ましくは65%~50%に減少させる。
【0020】
乾燥工程において、10MPa~400MPaで静水加圧を行うことにより、食肉の内部に存在する水分が食肉の表面に染み出しやすくなり、食肉の乾燥を効果的に行うことができる。また、食肉に含まれる塩分のバラツキを抑え、均一化させることができる。従来の乾燥工程では、衛生管理が難しく、食肉の表面にカビが発生すると洗浄又はトリミングが必要になり、また、肉の一部でも腐敗すると塊ごと廃棄せざるを得ない場合もある。超高圧で食肉を処理することにより、低温殺菌効果が期待でき、このような手間を省略することができる。
本発明の非加熱加工食肉製品の製造方法では、食肉の表面に発生したカビを洗浄又はトリミングを用いて除去する工程を含むことができるが、含まないこともできる。
【0021】
本発明の非加熱加工食肉製品の製造方法は、乾燥工程の後に必要に応じて、以下のような工程を含むことができる。
・食肉を成型する工程
・食肉を適当な厚さにスライスする工程
【0022】
(高圧殺菌工程)
本発明の非加熱加工食肉製品の製造方法では、乾燥工程の後、静水加圧により高圧殺菌工程を含んでもよい。本明細書において「高圧殺菌工程」とは、乾燥した食肉を静水加圧することにより、腐敗の原因となる微生物数を減少させる工程を意味する。静水加圧をかけるためには、市販されている加圧装置を用いることができる。例えば、特開2007-68444号に開示されている食品処理装置、特開2010-187817号に開示されている高圧処理装置、又は株式会社東洋高圧製の超高圧加圧処理装置「まるごとエキス」の型番「TFS」もしくは「TFS6」を用いることができる。
高圧殺菌における圧力は、腐敗の原因となる微生物数を減少させることができれば限定されることはないが、例えば、10MPa以上、好ましくは50~700MPaである。
【0023】
高圧殺菌工程の期間は、腐敗の原因となる微生物数を減少させることができれば限定されることはないが、例えば0.5分~24時間、好ましくは1分~60分である。高圧殺菌工程の温度は、腐敗の原因となる微生物数を減少させることができれば限定されることはないが、例えば、0℃~60℃、好ましくは10℃~50℃で行うことができる。
【0024】
市販の生ハムを製造する際には、殺菌工程は省略されることが多い。イタリアで製造された生ハムは、一般的に塩分含量が高く(5~6%)、腐敗の原因となる微生物が繁殖しにくい。日本で製造された生ハムでは、塩分含量が低い(3%程度)ものが多いが、防腐剤を添加することにより、腐敗を防いでいる。本発明の非加熱加工食肉製品の製造方法では、塩入れ工程及び/又は乾燥工程において、10MPa~400MPaで静水加圧を行うことにより、製造工程中において、腐敗の原因となる微生物を減少させることができるとともに、塩入れ工程及び/又は乾燥工程の期間を短縮することができる。したがって、本発明の非加熱加工食肉製品の製造方法においても、高圧殺菌工程を省略することも可能である。しかしながら、本発明の非加熱加工食肉製品の製造方法において、高圧殺菌工程が含まれる実施形態を除外するものではない。
【0025】
本発明の非加熱加工食肉製品の製造方法は、高圧殺菌工程の後、必要に応じて、以下のような工程を含むことができる。
・真空パック又はガスパックなどにより、保存の効く包材を用いて出来上がった製品を包装する工程
・加工後の非加熱加工食肉製品を冷蔵保存(例えば、10℃以下)する工程
本発明の非加熱加工食肉製品の製造方法は、食肉をくん煙する工程を含まないが、品質又は風味付けの観点から、従来法で行われるくん煙工程の採用を否定するものではない。なお、本明細書において「くん煙」とは、サクラやブナなどの木材を高温に熱した時に出る煙を、非加熱加工食肉製品に当てて風味付けをすると同時に、煙に含まれる殺菌成分を食材に浸透させる食品加工技法を意味する。
【0026】
(非加熱加工食肉製品)
本明細書において、「非加熱加工食肉製品」とは、63℃以上の加熱をせずに食肉を塩漬け、塩抜き、くん煙又は乾燥させた食肉製品を意味する。
食肉の種類は、牛肉、豚肉、鯨肉、羊肉、鶏肉、鴨肉、兎肉、魚肉、及び馬肉などを含む。食肉は、好ましくは豚肉、牛肉、鶏肉、又は鯨肉である。牛肉は、仔牛の肉を含む。
本発明の非加熱加工食肉製品は、食塩以外の調味料、及び防腐剤を含むことができるが、風味及び品質を考慮して、実質的に含まないことが好ましい。「実質的に含まない」とは、それらの調味料及び防腐剤が、期待される効果を奏する量で非加熱加工食肉製品に含まれないことを意味し、例えば、食塩以外の調味料及び防腐剤が、非加熱加工食肉製品基準で、合計で、0.5質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.005質量%以下の量で非加熱加工食肉製品に含まれることを意味する。本発明の非加熱加工食肉製品は、食塩以外の調味料、及び防腐剤を全く含まないこともできる。
本発明において、非加熱加工食肉製品は、同様に、発色剤(例えば、亜硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム)、酸化防止剤(例えば、アスコルビン酸及びその塩)を含むことができるが、風味及び品質を考慮して、実質的に含まないことが好ましい。「実質的に含まない」の定義は上記と同様である。
非加熱加工食肉製品には、例えば、生ハム、生サラミ、生ベーコン、パルマハム、及びプロシュートが挙げられる。
【0027】
本発明の非加熱加工食肉製品は、塩分の濃度が、非加熱加工食肉製品基準で、例えば、6質量%以下、好ましくは4質量%以下であるがこれに限定されるものではない。
本発明の非加熱加工食肉製品は、水分活性(Aw)が、例えば、0.97未満、好ましくは0.95未満、より好ましくは0.90未満である。水分活性は、以下のように計算することができる。
Aw=P/Po=RH/100
P:一定温度下での食品中の水の蒸気圧
Po:一定温度下での純水の蒸気圧
RH:一定温度下で密閉空間に食品を置いたときの空間中の相対湿度
本発明の製造方法により製造される非加熱加工食肉製品は、水分活性の測定を食品衛生検査指針(2015)に基づき行うことができる。
【0028】
(非加熱加工食肉製品を含む食品組成物)
本発明の非加熱加工食肉製品は、様々な食品組成物に含まれることができる。食品組成物は、店頭で販売され、自宅や職場に持ち帰った後に食する食品組成物と、レストランなどで購入時に食する食品組成物のいずれも含む。食品組成物には、例えば、サラダ、マリネ、カナッペ、サンドウイッチ、パニーニ、トースト、パスタ、ハンバーガー、様々な食材を生ハムで巻いた生ハム巻き、トマト又はチーズ等と生ハムとを合わせたカプレーゼ等が挙げられる。
【0029】
(超高圧加工装置)
本発明の製造方法の塩入れ工程又は乾燥工程における食肉の静水加圧には、市販の超高圧加工装置を用いることができる。超高圧加工装置は、食肉に10MPa以上の圧力で静水加圧をできるものであれば特に限定されない。具体的には、特開2007-68444号に開示されている食品処理装置、特開2010-187817号に開示されている高圧処理装置、又は株式会社東洋高圧製の超高圧加圧処理装置「まるごとエキス」の型番「TFS」もしくは「TFS6」を用いることができる。
【実施例0030】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書において特に明示しない場合、%表示は質量%を示す。
≪実施例1≫
【0031】
豚モモ肉を原料として使用した。手順としては、塩入れ(湿式法)、脱水・乾燥、殺菌の順で工程を実施した。食塩としては天然塩を使用した。
原料調整:豚モモ肉の余分な脂肪及び筋を除去し直方体状に調整した。この肉塊を4℃で冷蔵し、解凍した。
塩入れ工程:天然塩195gと純水555gを混合した溶液に原料肉1500gを漬け込み、100MPa静水加圧で4日間保持した。
脱水・乾燥工程:塩入れ後の溶液を切り、脱水シートを原料肉に接触させて、100MPa静水加圧と常圧で計53日保持し、重量を原料肉の65%にした。
成型、スライス、袋詰工程:肉塊の厚みを8~9cmに成型し、スライサーでスライスした後、袋に入れて脱気包装した。
殺菌工程:スライス及び袋詰をした後、袋のまま600MPa静水加圧で3分間殺菌処理した。
官能評価:上記の通り、100MPa以上を含む静水加圧で2ヵ月程度の短期間で製造した生ハムと、従来の常圧下で1年以上かけて製造されたイタリアタイプの生ハムと、従来の常圧下で製造された日本流通のラックスハムについて、パネラー21名で試食して味の評価をした。結果を表1に示す。評価項目は「旨み」、「塩加減」、及び「総合評価」の3点で、1(悪い)から5(良い)の5段階評価で実施した。その結果、実施例1で製造した生ハムは味がイタリアタイプの生ハム同等もしくはそれ以上に美味しいとの評価だった。
【0032】
【表1】

≪実施例2≫
【0033】
豚モモ肉を原料として使用した。手順としては、塩入れ(乾式法)、塩抜き、脱水・乾燥、殺菌の順で工程を実施した。食塩としては合成塩を使用した。
原料調整:豚モモ肉の余分な脂肪及び筋を除去し直方体状に調整した。この肉塊を流水で解凍した。
塩入れ工程:合成塩170gを原料肉450gに擦り込み、半日間100MPa静水加圧で保持した後、さらに3日間常圧で保持した。
塩抜き工程:塩入れ時に出てきたドリップ液などを切った後、純水1000gに原料肉を漬け込み、超高圧加工装置を使用して、100MPa静水加圧で1時間保持した。
脱水・乾燥工程:塩抜き後の溶液を切り、脱水シートを原料肉に接触させて、室温100MPa静水加圧で14日保持して、重量を原料肉の62%にした。
殺菌工程:袋のまま600MPa静水加圧で3分間殺菌処理した。
官能評価:上記の通りに製造した生ハムについて、実施例1と同様にパネラー15名で試食して味の評価をすると、味がイタリアタイプの生ハムに近く美味しいとの結果だった。
≪実施例3≫
【0034】
豚モモ肉を原料として使用した。手順としては、塩入れ(湿式法)、塩抜き、脱水・乾燥の順で工程を実施した。食塩としては合成塩を使用した。添加剤として、亜硝酸Naを添加した。
原料調整:豚モモ肉の余分な脂肪及び筋を除去し直方体状に調整した。この肉塊を流水で半解凍した。
塩入れ工程:合成塩195g、純水555g、発色剤の亜硝酸ナトリウム0.1gを混合した溶液に原料肉1500gを漬け込み、100MPa静水加圧で2日間保持した。
塩抜き工程:塩入れ後の溶液を切り、純水750gに原料肉を漬け込み、300MPa静水加圧で2時間保持した。
脱水・乾燥工程:塩抜き後の溶液を切り、脱水シートを原料肉に接触させて、100MPa静水加圧と常圧で、計44日保持して重量を原料肉の64%にした。
成型、スライス、袋詰工程:肉塊の厚みを8~9cmに成型し、スライサーでスライスした後、袋に入れて脱気包装した。
官能評価:上記の通りに製造した生ハムについて、実施例1同様に、パネラー15名で試食して味の評価をすると、味がイタリアタイプの生ハムに近く美味しいとの結果だった。
≪実施例4≫
【0035】
仔牛サーロインを原料として使用した。手順としては、塩入れ(湿式法)、脱水・乾燥、殺菌の順で工程を実施した。食塩としては合成塩を使用した。
原料調整:仔牛サーロイン肉の余分な脂肪、筋を除去し直方体状に調整した。この肉塊を流水で半解凍した。
塩入れ工程:合成塩156gと純水444gを混合した溶液に原料肉1200gを漬け込み、100MPa静水加圧で2日保持した。
脱水・乾燥工程:塩入れ後の溶液を切り、脱水シートを原料肉に接触させて、100MPa静水加圧と常圧で、計36日保持して重量が原料肉の64%になった。
成型、スライス、袋詰工程:肉塊の厚みを5~6cmに成型し、スライサーでスライスした後、袋に入れて脱気包装した。
殺菌工程:スライス及び袋詰をした後、袋のまま600MPa静水加圧で3分間殺菌処理した。
官能評価:上記の通りに製造した生ハムについて、実施例1同様に、パネラー15名で試食して味の評価をすると、味は美味しいとの結果だった。
≪実施例5≫
【0036】
仔牛モモ肉を原料として使用した。手順としては、塩入れ(湿式法)、脱水・乾燥、殺菌の順で工程を実施した。食塩としては合成塩を使用した。
原料調整:仔牛モモ肉の余分な脂肪及び筋を除去し直方体状に調整した。この肉塊を流水で半解凍した。
塩入れ工程:合成塩195gと純水555gを混合した溶液に原料肉1500gを漬け込み、100MPa静水加圧で1日保持した。
脱水・乾燥工程:塩入れ後の溶液を切り、脱水シートを原料肉に接触させて、100MPa静水加圧と常圧で、計45日保持して重量を原料肉の65%にした。
成型、スライス、袋詰工程:肉塊の厚みを5~6cmに成型し、スライサーでスライスした後、袋に入れて脱気包装した。
殺菌工程:スライス及び袋詰をした後、袋のまま600MPa静水加圧で3分間殺菌処理した。
官能評価:上記の通りに製造した生ハムについて、実施例1同様に、パネラー15名で試食して味の評価をすると、味は美味しいとの結果だった。
≪比較例1:超高圧条件での塩入れ≫
【0037】
原料調整:豚モモ肉の余分な脂肪及び筋を除去し直方体状に調整した。この肉塊を流水で半解凍した。
塩入れ工程:合成塩195gと純水555gを混合した溶液に原料肉1500gを漬け込み、500MPa静水加圧で半日間保持した。その結果、肉のタンパク質が変性して加熱したように変色してしまい、生ハムの製造条件としては不適切と判断した。
≪比較例2:プレス加圧での脱水・乾燥≫
【0038】
脱水・乾燥工程:塩入れした原料肉の溶液を切り、一軸方向からのプレス加圧(5kgの重石)で1.5日静置した。経過を経ても脱水は99%に留まり、目的の脱水ができていなかった。更に重石を追加して(計14kgの重石)1.5日静置した。すると脱水は進んだものの旨味成分であるドリップ液も多量に出てしまった。また、肉塊も潰れて生ハムの製造条件として不適切と判断した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、製造期間が大幅に短縮することで品質が高く衛生管理も容易で、歩留まりや時間も含めコストダウンができ、イタリアタイプの生ハムと同等以上の風味を有する非加熱加工食肉製品、及び、その製造方法を提供することができる。