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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147717
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/24 20060101AFI20220929BHJP
   E02F 9/20 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
E02F9/24 A
E02F9/20 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049094
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】土井 哲弘
(72)【発明者】
【氏名】津村 浩志
【テーマコード(参考)】
2D003
2D015
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB02
2D003AC06
2D003BA07
2D003BB04
2D003CA02
2D003CA10
2D003DA04
2D003DB01
2D003DB05
2D003FA02
2D015GA01
2D015GB03
(57)【要約】
【課題】バッテリの搭載個数を変更した場合であっても、車体の重量バランスの安定化を図り、安全に運転することができる建設機械を提供する。
【解決手段】車体2の後方にバッテリ11を搭載し、バッテリ11からの電力供給により車体2が駆動される建設機械1であって、建設機械1は、バッテリ11を複数搭載可能なバッテリ架台10と、バッテリ11が搭載されたバッテリ架台10の重量を検出する重量検出ユニット13と、重量検出ユニット13により検出された重量Wmと予め設定された基準値Wsとの差である重量差ΔWを算出し、重量差ΔWが所定の上限値Wuを超えるとき、車体2の起動を禁止するコントローラ16とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の後方にバッテリを搭載し、前記バッテリからの電力供給により前記車体が駆動される建設機械であって、
前記バッテリを複数搭載可能なバッテリ架台と、
前記バッテリが搭載された前記バッテリ架台の重量を検出する重量検出ユニットと、
前記重量検出ユニットにより検出された重量と予め設定された基準値との差である重量差を算出し、前記重量差が所定の上限値を超えるとき、前記車体の起動を禁止するコントローラと
を備えることを特徴とする建設機械。
【請求項2】
前記バッテリ架台は、前記車体の重量バランスを確保するためのカウンタウエイトが搭載されており、
前記重量検出ユニットは、前記バッテリ及び前記カウンタウエイトが搭載された前記バッテリ架台の重量を検出することを特徴とする請求項1に記載の建設機械。
【請求項3】
前記バッテリ架台は、前記バッテリおよび前記カウンタウエイトが複数搭載されていることを特徴とする請求項2に記載の建設機械。
【請求項4】
前記バッテリと前記カウンタウエイトとは、前記コントローラに通信可能に接続される通信装置が設けられており、
前記通信装置は、前記バッテリ又は前記カウンタウエイトの固有の識別情報がそれぞれ記憶されており、
前記コントローラは、前記通信装置から送信される前記識別情報に基づいて、前記バッテリ架台に搭載された前記バッテリ及び前記カウンタウエイトの有無を検出し、検出した前記バッテリ及び前記カウンタウエイトの有無に基づいて、前記車体の起動を禁止することを特徴とする、請求項2又は3に記載の建設機械。
【請求項5】
前記コントローラは、前記重量差が前記所定の上限値を超えている場合であっても、前記識別情報に基づいて、前記バッテリ架台に前記バッテリ及び前記カウンタウエイトの存在を検出した際には、前記車体の起動を許可することを特徴とする請求項4に記載の建設機械。
【請求項6】
個々の前記バッテリの重量と個々の前記カウンタウエイトの重量とはそれぞれ実質的に同一であることを特徴とする請求項2から5の何れか一項に記載の建設機械。
【請求項7】
前記車体の傾きを検出する傾き検出ユニットと、
前記傾き検出ユニットにより検出した前記車体の傾きに基づいて、前記重量検出ユニットが検出した重量を補正する重量補正手段と
を備えることを特徴とする請求項1から6の何れか一項に建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械に関し、特にバッテリを備えた電動式の建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バッテリを搭載した電動式の油圧ショベルなどの建設機械の普及が進んでいる。例えば油圧ショベルは、自走可能な下部走行体と、下部走行体の上に旋回可能に搭載される上部旋回体とから車体が構成されている。上部旋回体の前部には作業装置が取付けられている。上部旋回体の旋回フレームには、電動モータ及び油圧ポンプなどが支持され、電動モータにより油圧ポンプが駆動され、油圧ポンプから作動油が下部走行体の油圧モータや作業装置の油圧シリンダなどに圧送されてこれらを作動可能とする。
【0003】
上部旋回体の後部、換言すると、車体の後方にバッテリが搭載され、電動モータはバッテリからの電力供給により駆動される。そして、特許文献1は、バッテリが同様の位置に配置されるカウンタウエイトとしての機能も備えることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5781920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような建設機械において、バッテリは未だ高価であるため、建設機械を例えば一日中運転させるための電力を想定して多数のバッテリを搭載することは経済的ではない。そこで、作業現場の規模や作業量、或いは、ユーザの要望に応じて建設機械に必要な電力を想定し、必要電力に応じてバッテリの搭載個数を選択可能にすることが考えられる。
【0006】
しかし、前述したように、油圧ショベルなどの建設機械において、バッテリはカウンタウエイトとしての機能も有している。このため、バッテリの搭載個数が少ない場合、車体の転倒支点よりも後方の重量が減少し、運転時における建設機械の重量バランスが不安定になって建設機械の性能を十分に発揮できなくなり、場合によっては建設機械が転倒する危険性もある。
【0007】
そこで、バッテリの搭載個数が少ない場合には、カウンタウエイトを追加して搭載し、車体の安定化を図ることが考えられる。しかし、カウンタウエイトの追加を失念した場合には、車体の重量バランスが不安定な状態で建設機械を運転させてしまうおそれがある。また、カウンタウエイトを余分に追加した場合にも、車体の重量バランスが不安定となり、建設機械の運転に支障をきたすおそれがある。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、バッテリの搭載個数を変更した場合であっても、車体の重量バランスの安定化を図り、安全に運転することができる建設機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するべく、本発明の建設機械は、車体の後方にバッテリを搭載し、バッテリからの電力供給により車体が駆動される建設機械であって、バッテリを複数搭載可能なバッテリ架台と、バッテリが搭載されたバッテリ架台の重量を検出する重量検出ユニットと、重量検出ユニットにより検出された重量と予め設定された基準値との差である重量差を検出し、重量差が所定の上限値を超えるとき、車体の起動を禁止するコントローラとを備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明の建設機械によれば、バッテリの搭載個数を変更した場合であっても、車体の重量バランスの安定化を図った状態で、安全に運転することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る建設機械の一例として示す電動式の油圧ショベルの側面図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る油圧ショベルのバッテリ架台の重量監視システムの構成図である。
図3図2の車体コントローラが実行する起動禁止制御のフローチャートである。
図4図2においてバッテリ総重量が不足している場合の一例を示す図である。
図5図4においてバッテリ総重量の不足が解消した場合の一例を示す図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る油圧ショベルの重量及びID監視システムの構成図である。
図7図6の変形例に係る重量及びID監視システムの構成図である。
図8図6又は図7の場合に実行される起動禁止制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各実施形態に係る建設機械について図面を参照して説明する。
図1は、建設機械の一例として、電動式の油圧ショベル1の側面図を示す。油圧ショベル1の車体2は、自走可能なクローラ式の下部走行体3と、下部走行体3の上に旋回可能に搭載される上部旋回体4とから構成されている。上部旋回体4の前部には土砂の掘削作業等を行うためのスイング式の作業装置5が取付けられている。なお、図1で見て左側を車体2の前方とし、図1で見て右側を車体2の後方とする。
【0013】
上部旋回体4は、下部走行体3の車幅内で旋回可能に構成され、上部旋回体4の前部には、オペレータが搭乗するキャブ6が設置されている。上部旋回体4の旋回フレーム7には、電動モータ8、油圧ポンプ9、及びバッテリ架台10などが支持されている。バッテリ架台10にはバッテリ11が搭載され、バッテリ11からの電力供給により電動モータ8が駆動される。
【0014】
旋回フレーム7の前部には、作業装置5が左右に揺動可能に、且つ上下方向に俯仰動可能に取り付けられている。電動モータ8により油圧ポンプ9が駆動され、油圧ポンプ9から作動油が下部走行体3の油圧モータや作業装置5の油圧シリンダなどに圧送され、油圧モータ及び油圧シリンダは作動油の油圧により作動する。
【0015】
下部走行体3の前部の接地面には、油圧ショベル1の重心に基づいて、車体2が前方に転倒する場合の転倒支点Pが位置付けられている。バッテリ架台10は、上部旋回体4の後部、換言すると、車体2の少なくとも転倒支点Pよりも後方に配置され、複数(1~n個)のバッテリ11が搭載可能に構成されている。バッテリ架台10には後述するカウンタウエイト12も搭載可能である。
【0016】
そして、本実施形態では、バッテリ架台10の下側にロードセル(重量検出ユニット)13が設置されている。ロードセル13は、旋回フレーム7に支持されており、各バッテリ11が搭載された状態のバッテリ架台10の重量を検出する。
【0017】
<第1実施形態>
図2は、本発明の第1実施形態に係る油圧ショベル1のバッテリ架台10の重量を監視するための重量監視システムの構成図を示す。本システムは、ロードセル13、バッテリ11の上位コントローラ14、バッテリ11の通信装置15、及び車体コントローラ(コントローラ)16などを備えている。ロードセル13は、上位コントローラ14に電気的に接続されている。通信装置15は、各バッテリ11(バッテリ1~n)にそれぞれ内蔵され、各通信装置15は上位コントローラ14に電気的に接続されて上位コントローラ14に統括される。
【0018】
具体的には、図2に示すように、各通信装置15は上位コントローラ14に有線でシリアル接続される。なお、この接続は各通信装置15が上位コントローラ14に通信可能であれば良く、有線のシリアル接続に限らず、有線のパラレル接続であっても良いし、無線接続であっても良い。また、上位コントローラ14は、車体コントローラ16に電気的に接続されている。
【0019】
さらに、車体コントローラ16は、キースイッチ17、モニタ(報知ユニット)18、及びスピーカ(報知ユニット)19に電気的に接続されている。キースイッチ17は、キャブ6に設けられ、オペレータがキースイッチ17に油圧ショベル1のキーを差し込んでON側に回すことにより、油圧ショベル1を起動し、その運転を開始可能である。モニタ18及びスピーカ19は、例えばキャブ6に配置され、オペレータに視覚や聴覚により警報などを報知する。
【0020】
上位コントローラ14は、記憶部20を備え、記憶部20には、各バッテリ11が搭載された状態のバッテリ架台10の重量(バッテリ総重量)の予め設定された基準値Wsのデータが格納されている。基準値Wsは、油圧ショベル1の重量を含む仕様や転倒支点Pの位置に基づいて、運転時における油圧ショベル1の重量バランスの安定化を図りつつ、油圧ショベル1の性能を十分に発揮可能であり、ひいては油圧ショベル1の転倒を防止可能な値に設定される。
【0021】
通信装置15は、バッテリ11の電圧及び電流のデータを取得し、これらのデータを上位コントローラ14に送信する。また、通信装置15は、過電流の発生を阻止するヒューズなどの安全装置を備えている。車体コントローラ16は、演算部21及び制御部22を備え、キースイッチ17がON側に回されたとき、上位コントローラ14を介して、ロードセル13が検出する重量、すなわち、各バッテリ11が搭載された状態のバッテリ架台10の重量(バッテリ総重量)Wmを取得する。
【0022】
演算部21は、記憶部20に格納された基準値Wsを取得するとともに、ロードセル13により測定された重量Wmと基準値Wsととの差である重量差ΔWを算出する。そして、車体コントローラ16は、演算部21で算出した重量差ΔWに基づいて、制御部22において油圧ショベル1の運転開始を不可能とする、いわば車体2の起動禁止制御を実行する。
【0023】
図3は、車体2の起動禁止制御のフローチャートを示す。本制御が開始されると、先ず、ステップS1では、キースイッチ17がON側に回されたか否かを判定する。判定結果がYesであり、キースイッチ17がON側に回されたと判定されると、ステップS2に移行する。判定結果がNoである場合には、ステップS1の判定を再び行う。
【0024】
次に、ステップS2では、重量差ΔWが上限値Wuを超えるか否か、すなわちΔW>Wuが成立するか否かを判定する。上限値Wuは、運転時における油圧ショベル1の重量バランスが不安定になって油圧ショベル1の性能を十分に発揮できなくなり、場合によっては油圧ショベル1が転倒しかねないような値に設定される。
【0025】
具体的には、上限値Wuは、基準値Wsよりも重量Wmが小さくバッテリ総重量が不足し、油圧ショベル1が前方に転倒しかねない場合を想定した値に設定される。なお、基準値Wsよりも重量Wmが大きくバッテリ総重量が過大になり、油圧ショベル1が後方に転倒しかねない場合も想定される。この場合の転倒支点は転倒支点Pよりもさらに後方に位置付けられるが、油圧ショベル1が後方に転倒しかねない場合も考慮して上限値Wuを設定するのが好ましい。
【0026】
また、上限値Wuは、重量差ΔWに許容される所定範囲を想定した値に設定されている。これにより、測定値Wmに誤差が生じた場合や、車体2の転倒に至らないような許容される重量差ΔWが存在する場合であっても、ステップS2にて重量差ΔWが実質的に0か否かを適切に判定可能となる。
【0027】
ステップS2の判定結果がNoであり、ΔW>Wuが成立しない、すなわち、重量差ΔWが実質的に0であり、油圧ショベル1の性能が十分に発揮可能であると判定されると、ステップS3に移行する。一方、判定結果がYesであり、ΔW>Wuが成立する、すなわち、重量差ΔWが実質的に0ではなく、油圧ショベル1の性能が発揮できないと判定されると、ステップS4に移行する。
【0028】
図4は、図2においてバッテリ総重量が不足している場合の一例を示す。図4の場合には、バッテリ架台10にバッテリ11を1個だけ搭載する選択を行っているにもかかわらず、バッテリ架台10にバッテリ総重量の不足を解消するためのカウンタウエイト12の搭載を失念している。この場合、ステップS2の判定結果はNoとなる。
【0029】
ステップS3では、キースイッチ17がON側に回されたことに伴うキースタート信号、すなわち、油圧ショベル1の起動信号を受け付けることにより、ステップS5に移行して油圧ショベル1の運転開始を可能とし、本制御を終了する。一方、ステップS4では、キースイッチ17がON側に回されたことに伴うキースタート信号、すなわち、車体2の起動信号の受け付けを拒否し、車体2の起動を禁止し、油圧ショベル1の運転開始を不可能とし、ステップS6に移行する。
【0030】
ステップS6では、モニタ18及びスピーカ19の少なくとも一方により、重量差ΔWの値及び重量差ΔWの存在の少なくとも一方をオペレータに報知する。例えば、重量差ΔWが上限値Wuを超えており、油圧ショベル1の運転開始が不可能である旨をスピーカ19により音声で警告しつつ、モニタ18に重量差ΔWの値を表示し、ステップS7に移行する。
【0031】
ステップS7では、キースイッチ17がOFF側に回されたか否かを判定する。判定結果がNoであり、キースイッチ17がOFF側に回されていないと判定されると、ステップS6に戻り、キースイッチ17がOFF側に回されるまで、モニタ18及びスピーカ19の少なくとも一方による報知が継続して行われる。
【0032】
一方、判定結果がYesであり、キースイッチ17がOFF側に回されたと判定されると、ステップS1に戻り、キースイッチ17が再びON側に回されるまで待機する。この間、オペレータは、バッテリ架台10の重量(バッテリ総重量)の不足、或いは過大を解消するべく、バッテリ11或いはカウンタウエイト12を、バッテリ架台10に搭載、或いはバッテリ架台10から撤去する作業を行う。
【0033】
図5は、図4においてバッテリ総重量の不足が解消した場合の一例を示す。図5の場合には、バッテリ架台10にカウンタウエイト12を追加して搭載する作業を行った結果、重量差ΔWが上限値Wu以下となり、重量差ΔWが実質的に0となってバッテリ総重量の不足が解消されている。なお、バッテリ架台10に、カウンタウエイト12の代わりに、或いはカウンタウエイト12に加えて、複数のバッテリ11を追加搭載してバッテリ総重量の不足を解消しても良い。
【0034】
この後、キースイッチ17がON側に回されると、ステップS1から、ステップS2、S3、S5に順に移行し、車体2の起動禁止が解除され、油圧ショベル1の運転開始が可能となり、本制御が終了する。
【0035】
以上のように、本実施形態では、重量監視システムにより車体2の起動禁止制御を実行することにより、ロードセル13により検出したバッテリ総重量である重量Wmと基準値Wsとの差である重量差ΔWを算出し、重量差ΔWが所定の上限値Wuを超えるとき、油圧ショベル1の起動を禁止する。これにより、バッテリ11の搭載個数を変更した場合に、バッテリ11の実際の搭載個数が誤っており、バッテリ総重量が不足、或いは過大であるときには、キースイッチ17をON側に回しても、車体2の起動自体が不可能となる。
【0036】
また、バッテリ架台10には、車体2の重量バランスを確保するためのカウンタウエイト12を搭載可能であり、ロードセル13は、バッテリ11及びカウンタウエイト12が搭載されたバッテリ架台10の重量を検出する。これにより、バッテリ11の搭載個数を変更し、バッテリ11の他にカウンタウエイト12を搭載する場合、カウンタウエイト12の搭載を失念したり、或いは余分なカウンタウエイト12を搭載したとしても、車体2の起動自体が不可能となる。従って、バッテリ11の搭載個数を変更した場合であっても、車体2の重量バランスの安定化を確実に図った状態で車体2を起動することができ、油圧ショベル1の安全な運転を実現することができる。
【0037】
また、モニタ18、及びスピーカ19などの報知ユニットを備えることにより、重量差ΔW及びその存在の少なくとも一方をオペレータに報知することができる。従って、オペレータは、油圧ショベル1の起動が禁止された原因を認識可能となり、その原因を解消する作業に一早く着手することができる。
【0038】
<第2実施形態>
以下、図6から図8を参照して、本発明の第2実施形態に係る油圧ショベル1について説明する。なお、主として第1実施形態と異なる構成について説明し、第1実施形態と同様の構成については図面に同符号を付して説明を省略することがある。
【0039】
図6は、本発明の第2実施形態に係る車体2の重量及びID監視システムの構成図を示す。本実施形態では、第1実施形態で説明したバッテリ架台10の重量監視システムに加え、バッテリ11及びカウンタウエイト12のID監視システムを構築している。具体的には、バッテリ11に内蔵された通信装置15は、記憶部23を備え、記憶部23には、バッテリ11の固有の識別情報(ID)が記憶されている。
【0040】
例えば図6に示すように、各バッテリ11の番号1~nに対応するID1~nがそれぞれの記憶部23に記憶されている。また、上位コントローラ14の記憶部20には、搭載されるべき各バッテリ11のIDのデータが格納されている。そして、車体コントローラ16の演算部21は、上位コントローラ14の記憶部20に格納されたIDと、通信装置15から上位コントローラ14を介して送信される各バッテリ11のIDとを取得する。そして、これらのIDを比較して照合することにより、バッテリ架台10に搭載されたバッテリ11の有無を検出する。
【0041】
図7は、図6の変形例に係る重量及びID監視システムの構成図を示す。図7の場合、バッテリ架台10に、例えば1個のバッテリ11と、複数(1~n個)のカウンタウエイト12とが搭載され、各カウンタウエイト12(カウンタウエイト1~n)には、バッテリ11の場合と同様の通信装置15が内蔵されている。
【0042】
個々の通信装置15は、図6の場合と同様の記憶部23を備え、各カウンタウエイト12の番号1~nに対応するID1~nがそれぞれの記憶部23に記憶される。そして、車体コントローラ16の演算部21は、図6の場合と同様に、上位コントローラ14の記憶部20に格納されたIDと、通信装置15から上位コントローラ14を介して送信されるバッテリ11及び各カウンタウエイト12のIDとを取得し、これらのIDを比較して照合することにより、バッテリ架台10に搭載されたバッテリ11及びカウンタウエイト12の有無を検出する。
【0043】
図8は、図6又は図7の場合に実行される起動禁止制御のフローチャートを示す。本実施形態の場合には、図3に示した重量監視システムに基づく制御と併せて図8のID監視システムの制御が行われる。なお、図8のステップS14以外のステップS11~S13、S15~S18は、それぞれ図3のステップS1~S7と同じ構成となるため、主としてステップS14について説明する。
【0044】
本実施形態の場合、先ず、第1実施形態におけるステップS1、S2と同様のステップS11、S12の判定を行う。そして、ステップS12の判定結果がNoであり、ΔW>Wuが成立しない、すなわち、重量差ΔWが実質的に0であり、油圧ショベル1の性能が十分に発揮可能であると判定されると、ステップS13に移行する。一方、ステップS12の判定結果がYesであり、ΔW>Wuが成立する、すなわち、重量差ΔWが実質的に0ではなく、油圧ショベル1の性能が発揮できないと判定されると、ステップS14に移行する。
【0045】
ステップS14では、車体コントローラ16の制御部22において、演算部21のIDの照合結果に基づき、搭載予定のバッテリ11、カウンタウエイト12がバッテリ架台10に有るか否かを判定する。ステップS14の判定結果がYesであり、搭載予定のバッテリ11、カウンタウエイト12が全て有ると判定されると、ステップS13にてキースタート信号を受け付け、ステップS15に移行して油圧ショベル1の運転開始を可能とし、本制御を終了する。
【0046】
すなわち、車体コントローラ16は、重量差ΔWが上限値Wuを超えている場合であっても、IDに基づいてバッテリ架台10にバッテリ11及びカウンタウエイト12の存在を検出した際には、車体2の起動を許可する。一方、ステップS14の判定結果がNoであり、搭載予定のバッテリ11、カウンタウエイト12の何れかが無いと、或いは、搭載予定ではないバッテリ11、カウンタウエイト12が有ると判定されると、ステップS16に移行してキースタート信号の受け付けを拒否し、車体2の起動を禁止し、油圧ショベル1の運転開始を不可能とする。
【0047】
その後、ステップS17に移行してモニタ18及びスピーカ19で搭載予定のバッテリ11、カウンタウエイト12の何れかが無い旨を報知し、ステップS18に移行してキースイッチ17がOFF側に回されるまで、この報知が継続して行われる。ステップS18において、キースイッチ17がOFF側に回されたと判定されると、ステップS11に戻り、キースイッチ17が再びON側に回されるまで待機する。
【0048】
この間、オペレータは、バッテリ架台10に不足しているバッテリ11、カウンタウエイト12を搭載し、或いはバッテリ架台10から搭載予定ではないバッテリ11、カウンタウエイト12を撤去する作業を行う。この後、キースイッチ17がON側に回されると、ステップS11から、ステップS12、S13、S15に順に移行し、車体2の起動禁止が解除され、油圧ショベル1の運転開始が可能となり、本制御が終了する。
【0049】
以上のように、本実施形態では、第1実施形態の場合と同様に、重量監視システムにより車体2の起動禁止制御を実行することにより、バッテリ11の搭載個数を変更した場合であっても、車体2の重量バランスの安定化を図った状態で油圧ショベル1を起動することができ、油圧ショベル1の安全な運転を実現することができる。
【0050】
特に本実施形態では、車体2の起動禁止制御をID監視システムによっても実行する。具体的には、バッテリ11又はカウンタウエイト12のIDに基づいて、バッテリ架台10に搭載されたバッテリ11及びカウンタウエイト12の有無を検出し、検出したバッテリ11及びカウンタウエイト12の有無に基づいて、車体2の起動を禁止する。
【0051】
これにより、バッテリ11の搭載個数を変更した場合に、特定のバッテリ11及びカウンタウエイト12の実際の搭載の有無を確実に把握することができる。従って、バッテリ11及びカウンタウエイト12の実際の搭載個数は正しいものの、ロードセル13に何らかの荷重が一時的にかかることにより、バッテリ総重量が過大と誤検出され、重量監視システムの制御に引っ掛かる場合を排除可能である。すなわち、重量差ΔWが上限値Wuを超えている場合であっても、IDに基づいてバッテリ架台10にバッテリ11及びカウンタウエイト12の存在を検出した際には、車体2の起動を許可する場合がある。
【0052】
また、バッテリ11及びカウンタウエイト12の実際の搭載個数は不足しているものの、ロードセル13に何らかの荷重がかかることにより、バッテリ総重量が適正と誤検出され、重量監視システムの制御をすり抜ける場合を排除可能である。従って、起動禁止制御の精度をさらに向上することができるため、車体2の重量バランスの安定化をより一層確実に図った状態で車体2を起動することができ、油圧ショベル1の安全な運転をより確実に実現することができる。
【0053】
以上で本発明の各実施形態についての説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができるものである。例えば、上記各実施形態において、個々のバッテリ11の重量と個々のカウンタウエイト12の重量とをそれぞれ実質的に同一としても良い。この場合には、ロードセル13で測定したバッテリ総重量により、バッテリ11及びカウンタウエイト12の個数を一括で全て把握可能となるため、起動禁止制御の精度をさらに向上することができる。
【0054】
また、車体2に、車体2の傾きを検出する図示しない傾き検出ユニットを設け、傾き検出ユニットにより検出した車体2の傾きに基づいて、ロードセル13が検出した重量を車体2の傾きがないときの重量に補正する機能(重量補正手段)を車体コントローラ16の演算部21で行っても良い。これにより、傾斜地において車体2を起動させる場合であっても、ロードセル13でバッテリ総重量を精度よく測定可能となるため、起動禁止制御の精度をさらに向上することができる。
【0055】
また、前述した重量補正手段の機能をロードセル13に持たせても良いし、ロードセル13の代わりに他の重量測定方式の重量検出ユニットを用いることも可能である。さらに、前述した起動禁止制御は、油圧ショベル1に限らず、種々の電動式の建設機械に適用可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 油圧ショベル(建設機械)
2 車体
10 バッテリ架台
11 バッテリ
12 カウンタウエイト
13 ロードセル(重量検出ユニット)
15 通信装置
16 車体コントローラ(コントローラ)
18 モニタ(報知ユニット)
19 スピーカ(報知ユニット)
Wm 重量
Ws 基準値
ΔW 重量差
Wu 上限値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8