(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147817
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】電気式ヒータ
(51)【国際特許分類】
H05B 3/06 20060101AFI20220929BHJP
H05B 3/10 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
H05B3/06 B
H05B3/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049233
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】599161580
【氏名又は名称】株式会社デンソートリム
(74)【代理人】
【識別番号】100096998
【弁理士】
【氏名又は名称】碓氷 裕彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 優希
(72)【発明者】
【氏名】新西 祥次
【テーマコード(参考)】
3K092
【Fターム(参考)】
3K092PP15
3K092QB30
3K092QC26
3K092RF17
3K092RF26
3K092SS20
3K092TT22
3K092VV02
3K092VV22
3K092VV26
3K092VV31
(57)【要約】
【課題】フレームによる押圧力の低下する部位を極力少なくする。
【解決手段】発熱素子を複数保持するプレート、放熱フィン、及び電極板をそれぞれ複数段積層してヒータ部を形成する。積層方向である第1方向の両側に、一対のフレームを配設し、積層方向と直交する第2方向の両側にフレームをヒータ部側に付勢するスプリングを配設する。スプリングに付勢されていない状態でのフレームの底部の形状を、第2方向の端部から中心に向けて、第1方向でヒータ部側に屈曲点が非介在で連続的に膨出する円弧形状とする。発熱素子と電極板との間、及び発熱素子と放熱フィンとの間を、充分な力で押圧できる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電を受けて発熱する平板状の発熱素子と、
この発熱素子を平板状の板面方向に複数保持するプレートと、
空気通路に配置され、前記発熱素子の熱を空気通路に伝熱する放熱フィンと、
前記発熱素子に給電する電極板とを有し、
前記プレート、前記放熱フィン、及び前記電極板をそれぞれ複数段積層してヒータ部を形成し、
このヒータ部の積層方向である第1方向の両側に、前記ヒータ部側が底部となりこの底部の両側が壁部となる断面コ字状(U字状)の一対のフレームを配設し、
前記ヒータ部の積層方向とは直交する方向である第2方向の両側に前記フレームを前記ヒータ部側に付勢するスプリングを配設し、
前記スプリングに付勢されていない状態での前記フレームの前記底部の形状を、前記第2方向の端部から中心に向けて、前記第1方向で前記ヒータ部側に屈曲点が非介在で連続的に膨出する円弧形状とした
ことを特徴とする電気式ヒータ。
【請求項2】
前記フレームは、前記第2方向の中心側の剛性の方が、前記第2方向の端部側の剛性より高い
ことを特徴とする請求項1に記載の電気式ヒータ。
【請求項3】
前記フレームは、前記壁部のうち前記第2方向の中心側に外側に膨出する膨出部を形成している
ことを特徴とする請求項2に記載の電気式ヒータ。
【請求項4】
前記フレームは、前記壁部の高さが前記第2方向の中心側の高さの方が前記第2方向の端部側の高さより高く形成している
ことを特徴とする請求項2に記載の電気式ヒータ。
【請求項5】
前記フレームは、前記壁部のうち前記第2方向の端部側に穴を形成している
ことを特徴とする請求項2に記載の電気式ヒータ。
【請求項6】
前記フレームは、前記底部のうち前記第2方向の中心側にリブを形成している
ことを特徴とする請求項2に記載の電気式ヒータ。
【請求項7】
前記スプリングに付勢されていない状態での前記フレームの前記底部の形状は、前記フレームの前記第2方向の長さをLと、前記フレームの前記端部と前記中心との前記第1方向の高さをhとしたとき
h=0.1+2.4/1000×(L-180)+A
の式で表される関係にあり、長さL、高さh、及びAの単位はミリメートルで、Aはモノづくりにおける公差を示してプラス、マイナス0.2ミリメートルであり、Lが230以下の場合のAはプラス0.2ミリメートルであるが、高さhの下限を0.02ミリメートルする
ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の電気式ヒータ。
【請求項8】
前記スプリングの内、片側のスプリングは前記フレームと一体に形成されている
ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の電気式ヒータ。
【請求項9】
前記フレームの底部は二重に形成され、そのうち前記ヒータ部側の底部の形状が、前記スプリングに付勢されていない状態で、前記第2方向の端部から中心に向けて、前記第1方向で前記ヒータ部側に屈曲点が非介在で連続的に膨出する円弧形状としている
ことを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の電気式ヒータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空気の加熱を行う電気式ヒータに関し、例えば、自動車の車室内暖気に用いて好適である。
【背景技術】
【0002】
電気式ヒータでは、ヒータ部の積層方向である第1方向の両側にフレームを配置し、このフレームをヒータ部側に押圧して、ヒータ部での発熱素子、放熱フィン、電極板を圧着させる構造が知られている。また、フレームをヒータ部側に押圧するのに、スプリングを用いることも知られている。
【0003】
特許文献1では、フレームのヒータ部側への押圧力を高めるために、フレームに屈曲点を形成することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
屈曲点を形成すれば、平板状のフレームより押圧力が高くなるように思われる。しかしながら、屈曲点の位置によっては、屈曲点を支点としたフレーム変形の結果、逆に押圧力が低下してしまう部位も生じることが認められた。特に、発熱素子と電極板との間や発熱素子と放熱フィンとの接続部位には、発熱素子への通電を確実にし、発熱素子からの熱の移動を適切にするために、充分な押圧力が求められる。このような部位で押圧力が低下したのでは、電気式ヒータの性能低下にもつながりかねない。
【0006】
本開示は上記点に鑑み、フレームによる押圧力の低下する部位を極力少なくすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1は、通電を受けて発熱する平板状の発熱素子と、この発熱素子を平板状の板面方向に複数保持するプレートと、空気通路に配置され、発熱素子の熱を空気通路に伝熱する放熱フィンと、発熱素子に給電する電極板とを有し、プレート、放熱フィン、及び電極板をそれぞれ複数段積層してヒータ部を形成している。
【0008】
また、本開示の第1は、ヒータ部の積層方向である第1方向の両側に、ヒータ部側が底部となりこの底部の両側が壁部となる断面コ字状(U字状)の一対のフレームを配設し、ヒータ部の積層方向とは直交する方向である第2方向の両側にフレームをヒータ部側に付勢するスプリングを配設している。
【0009】
そして、本開示の第1は、スプリングに付勢されていない状態でのフレームの底部の形状を、第2方向の端部から中心に向けて、第1方向でヒータ部側に屈曲点が非介在で連続的に膨出する円弧形状としている。ここで、円弧形状は必ずしも円形である必要は無く、楕円や放物線を含み、屈曲点が非介在で連続的に膨出している形状であればよい。
【0010】
このように、屈曲点が非介在で連続的に膨出する円弧形状としたため、フレームがスプリングによって付勢された状態でも、特別な屈曲点を支点としてフレームが変形することは避けることができる。そのため、本開示の第1によれば、発熱素子と電極板との間、及び発熱素子と放熱フィンとの間を、充分な押圧力を持って接続することができる。
【0011】
本開示の第2では、フレームの剛性を、第2方向の中心側の剛性の方が、第2方向の端部側の剛性より高くしている。フレームは第2方向の両側でスプリングに押圧されるので、第2方向の中心側は押圧力が端部側より低下しがちである。それを補うため、本開示の第2では、中心側の剛性を高めている。
【0012】
本開示の第3は、フレームの形状を、壁部のうち第2方向の中心側に外側に膨出する膨出部を形成する形状としている。膨出部を設けることで、フレームの中心側の剛性を高めることができる。
【0013】
本開示の第4は、フレームの形状を、壁部の高さが第2方向の中心側の高さの方が第2方向の端部側の高さより高くなるように形成している。壁部の高さを中心側で高くすることで、フレームの中心側の剛性を高めることができる。
【0014】
本開示の第5は、フレームの形状を、壁部のうち第2方向の端部側に穴を形成した形状としている。穴を形成することで、フレームの端部側の剛性を低くし、相対的に中心側の剛性を高めることができる。
【0015】
本開示の第6は、フレームの形状を、底部のうち第2方向の中心側にリブを形成する形状としている。リブを形成することで、フレームの中心側の剛性を高めることができる。
【0016】
本開示の第7は、スプリングに付勢されていない状態でのフレームの底部の形状は、フレームの第2方向の長さをLとし、フレームの端部と中心との第1方向の高さをhとしたとき
h=0.1+2.4/1000×(L-180)+A
の式で表される関係としている。この式における単位はミリメートルを用いている。また、Aはモノづくりにおける公差でプラス、マイナス0.2ミリメートルである。ただし、Lが230ミリメートル以下の場合の公差Aはプラス0.2ミリメートルとするが、高さhの下限を0.02ミリメートルは確保している。膨出の程度を最適な範囲に規定することで、発熱素子と電極板との間、及び発熱素子と放熱フィンとの間を適切な押圧力を持って接続することができる。
【0017】
本開示の第8は、スプリングの内、片側のスプリングはフレームと一体に形成されている。片側は接合されているので、スプリングは他方側のみの固定で済み、組付け工数を低減することができる。
【0018】
本開示の第9は、フレームの底部は二重に形成され、そのうちヒータ部側の底部の形状が、スプリングに付勢されていない状態で、第2方向の端部から中心に向けて、第1方向でヒータ部側に屈曲点が非介在で連続的に膨出する円弧形状としている。二重底としているので、断面コ字状(U字状)のフレームとヒータ部との間に、屈曲点が非介在で連続的に膨出する円弧形状のスペーサを介在させることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本開示の電気式ヒータの正面図である。
【
図3】
図3は、
図1の電気式ヒータの発熱素子部分を拡大した正面図である。
【
図4】
図4は、スプリングに付勢されていない状態での屈曲点を2つ有するフレームの底部の形状を示す正面図である。
【
図5】
図5は、屈曲点を3つ有するフレームの変形状態を説明する正面図である。
【
図6】
図6は、スプリングに付勢されていない状態での屈曲点を有さないフレームの底部の形状を示す正面図である。
【
図7】
図7は、屈曲点を有するフレームと屈曲点を有さないフレームの変形状態を説明する模式図である。
【
図8】
図8は、フレームの第1方向高さと第2方向長さを示す正面図である。
【
図9】
図9は、フレームの高さhと発熱素子の押圧力を受ける面積Aの割合との関係を示す図である。
【
図10】
図10は、フレームの第1方向高さと第2方向長さとの関係を示す図である。
【
図14】
図14は、本開示の更に他の変形例を示す正面図である。
【
図15】
図15は、本開示の更に他の変形例を示す正面図である。
【
図16】
図16は、発熱素子の他の配置例を示す正面図である。
【
図17】
図17は、本開示の更に他の変形例を示す正面図である。
【
図18】
図18は、本開示の更に他の変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の一例を図に基づいて説明する。
図1は、電気式ヒータ100の一例を示す正面図である。電気式ヒータ100は自動車用空調装置と共に用いられる。自動車用空調装置は、その暖房の熱源にエンジン冷却水を用いている。ただ、エンジンの始動直後では、エンジン冷却水が温まっていなく、暖房熱源が不足する。特に、自動車のハイブリッド化によりエンジンが小型化し、エンジンの稼働率が低下するとエンジン冷却水の熱量不足が顕著となる。
【0021】
電気式ヒータ100は、このような熱源不足を補うのに用いられる。自動車用空調装置のヒータコアの空気流れ下流に配置され、自動車用空調装置の送風ファンからの送られる空気の加熱を行う。
図2は、この電気式ヒータ100の構成部品を分解して示す正面図である。
【0022】
110はPCT素子等の発熱素子で、通電により発熱する。この発熱素子110は、長さ35ミリメートル、幅6.6ミリメートル、厚さ1.2ミリメートル程度の長方形形状で、ナイロン等の樹脂材料製のプレート120の保持部121内に保持されている。プレート120に肉厚は1ミリメートル程度で、発熱素子110の肉厚とほぼ同等で若干量小さく設定されている。そのため、プレート120の保持部121に発熱素子110が収納された状態では、発熱素子110の一方面111及び他方面112は確実に露出している。後述する電極板140との電気接続を確実に行うためである。
【0023】
図3において、発熱素子110の一方面111は放熱フィン130と接合している。放熱フィン130はマンガンを含むアルミニウム合金製で、多数回折り曲げ成形されたフィン部131と、このフィン部131を収納する枠部132からなる。フィン部131と枠部132とは一体ろう付けされている。この放熱フィン130は高さが10ミリメートル、幅が7ミリメートルで、長さは電気式ヒータ100に要求される能力に応じで異なる。後述するが、長さは180~280ミリメートル程度である。
【0024】
発熱素子110の他方面112にはアルミニウム合金製の電極板140が接しているので、上記の通り、電極板140と電気接続している。電極板140は放熱フィン130にも接しており、
図3において、放熱フィン130側の電極板140は正電極141である。また、発熱素子110の他方面112の電極板140は負電極142である。
【0025】
図1の例では、放熱フィン130は5層積層配置され、この放熱フィン130の間にプレート120(発熱素子110)が4層配置されている。電極板140は5層配置され、正電極141と負電極142とが交互に配置されている。このように、放熱フィン130、プレート120および電極板140が複数段積層されてヒータ部150が構成される。なお、配置の方向を、積層方向(
図1の上下方向)を第1方向とし、積層方向と直交する方向(
図1の左右方向)を第2方向とする。
【0026】
また、
図1の例では、プレート120のうち、図の一番上の第1プレート123には、発熱素子110が第2方向に等間隔離れて4カ所に配置されている。4つの発熱素子110を図の右から第1素子114、第2素子115、第3素子116、及び第4素子117とする。上から2番目の第2プレート124では、第1プレート123の第1素子114と第3素子116に対応する位置に、2つの発熱素子110を配置している。3番目の第3プレート125では、第2素子115と第4素子117に対応する位置に2つの発熱素子110を配置している。そして、第4プレート126は、第1プレート123と同様、等間隔離れて4つの発熱素子110を配置している。最下方の第5プレート127には、発熱素子110は配置されていない。
【0027】
そのため、ヒータ部150の全体としては、第1素子114、第2素子115、第3素子116、及び第4素子117は第1方向に3つ配置されることとなる。発熱素子110の配置はヒータ部150の第1方向、第2方向共にバランスが取れた配置としている。これにより、電気式ヒータ100を通過した空気は均質な温度となり、自動車用空調装置の温度制御に寄与している。ヒータ部150の第1方向の長さ、及び第2方向の長さは自動車用空調装置のダクトに応じて設定される。本開示では、第2方向の幅は200ミリメートル程度から300ミリメートル程度であり、第1方向の幅は50ミリメートル程度から100ミリメートル程度である。ここで、第1方向、第2方向共に個体のバラツキが無く一定であることが望ましいが、モノ作りの際の公差は許容せざるを得ない。特に、第1方向ではバラツキを完全に抑制することは困難である。また、ヒータ部150の厚さは8ミリメートル程度である。自動車用空調装置に搭載する上では、厚さも薄い方が好適であるが、要求される発熱量と搭載性とのバランスを取り、8ミリメートル程度としている。
【0028】
発熱素子110の発熱量の制御は、通電する正電極141の数を変えることで行う。最大の発熱量を得るときには、3つの正電極141の全てに通電する。この時、第1プレート123に配置された発熱素子110には、上方の第1正電極板145の正電極141からプラスの電圧が印加され、下方の放熱フィン130を介して負電極142の電極板140に接地される。第2プレート124に配置された発熱素子110には、中間の第2正電極板146の正電極141からプラスの電圧が印加され、上方の放熱フィン130を介して第1プレート123と共通の負電極142に接地される。
【0029】
また、第3プレート125に配置された発熱素子110には、中間の第2正電極板146の正電極141からプラスの電圧が印加され、下方の放熱フィン130を介して下方の負電極142に接地される。第4プレート126に配置された発熱素子110には、下方の第3正電極板147の正電極141からプラスの電圧が印加され、上方の放熱フィン130を介して第3プレート125と共通の負電極142に接地される。
【0030】
ヒータ部150の発熱量を減らすには、通電する電極板140の数を減少させればよい。最小熱量とする際は、第2正電極板146のみの通電とする。この際には、第2プレート124と第3プレート125に配置された発熱素子110が発熱する。この最小発熱の状態であっても、ヒータ部150の中で発熱素子110は第1方向、第2方向共にバランス良く配置されている。そのため、自動車用空調装置に搭載された際に、空気を均一に加熱することができる。
【0031】
ヒータ部150の第1方向の両側には、ヒータ部150を挟持するステンレス製のフレーム160が配置されている。このフレーム160の第2方向の長さは放熱フィン130と同等かやや長くなっている。また、フレーム160は底部161の両側から壁部162が伸びる断面コ字形状(U字形状)となっている(
図11ないし
図15図示)。底部161の幅はヒータ部150の厚さと同じく8ミリメートル程度であり、壁部162の高さは10ミリメートル程度である。また、フレーム160の厚さは1ミリメートル程度である。
【0032】
フレーム160の第2方向の両側には、スプリング170がそれぞれ配置されている。スプリング170は、直径が4ミリメートル程度のステンレス製棒材である。そして、スプリング170は、ヒータ部150の第2方向端部に沿う直線部171と、その直線部の第1方向両端に形成された屈曲部172と、フレーム160をヒータ部150側に押圧する押圧部173とを備えている。スプリング170は、屈曲部172によりバネ性を有し、50から190ニュートン程度の力でフレーム160をヒータ部150側(第1方向)に押圧している。なお、1対のスプリング170の押圧力は、左右で同じとなるように設定されているが、左右の押圧力に製造上のバラツキが生じることは許容せざるを得ない。また、
図1では示されていないが、スプリング170は、ポリブチレンテレフタレートPBT製のケースに収納されている。
【0033】
ヒータ部150の電極板140、放熱フィン130、プレート120との間、及びヒータ部150とフレーム160との間の接合は、専らこのスプリング170の押圧力によって維持されている。換言すれば、電極板140、放熱フィン130、プレート120、及びフレーム160との間は機械的組付けで、ろう付けや溶接等による固着はなされていない。ただ、本開示において固着しないことは要件ではなく、放熱フィン130やプレート120等を接着することは可能である。
【0034】
ここで、第1方向に複数積層された発熱素子110に対して充分な押圧力を加えるため、特許文献1に記載のように、フレーム160の底部161に屈曲点164を2つ形成して、フレーム160の第2方向の端部165をヒータ部150から引き離した形状とすることも考えられる。これは、スプリング170の押圧力を高める上で望ましいように思われる。ただ、屈曲点164を2点備える形状として、スプリング170によって押圧すると、
図4に示すように、屈曲点164を支点としてフレーム160が変形してしまう。その結果、フレーム160の第2方向中心側が浮き上がる形となり、中心側での押圧力が不足する。
【0035】
特許文献1では、屈曲点164を2点形成しているが、
図5に示すように、屈曲点164を3点とすることも考えられる。ただ、屈曲点164を3点以上に設定するとスプリング組付けた際に、屈曲点の一番低い2つの屈曲点164がフレーム160と接し、残りの屈曲点164については高さばらつきによって押圧力が低下する、もしくは押圧力が伝えれないこととなる。その為、3点以上の屈曲点164は設定する事ができず、複数の発熱素子110を配置するヒータ部150には対応不可となる。屈曲点164を1点とした例では、屈曲点164のみに押圧力が集中することとなり、これも望ましくない。
【0036】
本開示では、
図6に示すように、フレーム160の底部161の形状を、第2方向の端部165から中心に向けて、屈曲点164が非介在で連続的に膨出する円弧形状としている。ここで、円弧形状は厳密な円形を規定しているのではなく、楕円形状や放物線形状も含んでいる。重要な点は、屈曲点164が存在せず、端部165から連続してヒータ部150側に膨出する形状である点である。そのため、連続的に曲率が変化する膨出形状、滑らかな膨出形状、第1方向に膨らんだ形状、第2方向の中心側が膨らんだ形状等が円弧形状に含まれる。
【0037】
図4に示した屈曲点164を2点備えるフレーム160と、
図6に示す本開示の連続的に膨出するフレーム160との変形を
図7に示す。
図7の(a)は屈曲点164を2点備えるフレーム160の底部161の形状を示し、(b)は本開示の屈曲点164を備えないフレーム160の底部161の形状を示す。実線kはスプリング170の押圧力を受けていない状態での底部161の形状を示し、破線lは発熱素子110を保持するプレート120を4層積層したヒータ部150を適正荷重で押圧した状態の変形例を示す。
【0038】
底部161の変形によって、ヒータ部150側に充分な押圧力を加えることができない領域oは、屈曲点164の有無により異なる。本開示のように屈曲点164を存在させなければ(
図7(b))、屈曲点164を備える形状(
図7(b))に対して、押圧力が不十分となる領域oを狭くすることができる。
【0039】
プレート120の数を増やせば、スプリング170の押圧力をより高める必要がある。その場合、底部161の変形は、
図6の破線mで示すように、より大きくなる。ただ、破線mの例であっても、本開示のように屈曲点164を存在させなければ(
図7(b))、屈曲点164を備える形状(
図7(b))に対して、押圧力が不十分となる領域pは狭くなる。また、ヒータ部150の第1方向長さにバラツキがあったり、左右一対のスプリング170の押圧力に差があったりする場合でも、本開示のように屈曲点164を存在させない形状(
図7(b))の方が、屈曲点164を備える形状(
図7(b))より、押圧力が不十分となる領域pが狭くなる。このように、本開示のように屈曲点164を存在させない形状(
図7(b))は、ヒータ部150に必要な押圧力を提供しやすくなっている。
【0040】
本開示では、フレーム160の第2方向の長さLと、スプリング170の押圧力を受けていない上程での第1方向の高さh(
図8図示)との関係を調べている。具体的には、フレーム160にスプリング170の押圧力が掛り、発熱素子110が放熱フィン130及び電極板140により押圧された状態で、発熱素子110の内どれ位の面積が実際に放熱フィン130及び電極板140から押圧力を受けているのかを調べた。なお、第1方向の高さhとは、フレーム160の中央と端部165との距離である。
【0041】
図9で、横軸には第1方向の高さhを示し、縦軸には発熱素子110のうち、押圧力を受けている部分の面積Aの割合を示している。この押圧力を受けている部分とは、接触抵抗等の要素を無視できる押圧力として、70キロパスカル程度以上の押圧力を受けている部分を指している。実線は、発熱素子110のうち中央側に配置された、第2素子115、第3素子116での面積Aの割合を示し、破線は、第2方向の端部側に配置された第1素子114、及び第4素子117での面積Aの割合を示している。また、三角点の実線a及び破線wは、フレーム160(ヒータ部150)の第2方向の長さLが188ミリメートルの例を示し、丸点の実線b及び破線xは、フレーム160の第2方向の長さLが229ミリメートルの例を示し、四角点の実線c及び破線yは、フレーム160の第2方向の長さLが269ミリメートルの例を示し、ひし形の実線d及び破線xは、フレーム160の第2方向の長さLが296ミリメートルの例を示している。また、比較例である実線eは、
図4に示した屈曲点を2つ有するフレーム160で、長さLを229ミリメートルとした例の中央側に配置された、第2素子115、第3素子116での面積の割合を示し、点vは、第2方向の端部側に配置された第1素子114及び第4素子117での面積の割合を示している。
【0042】
図9の比較例に示すように、
図4の屈曲点を2つ有する形状では、中央側に配置された第2素子115、第3素子116では、3~5%程度の僅かな面積にしか押圧力を受けていない(実線e)。第2方向の端部側に配置された第1素子114及び第4素子117でも、押圧力を受ける面積の割合は8%未満である(点v)。それに対し、本開示のように屈曲点を備えず連続的に膨出する円弧形状とすれば、平均して50%程度は発熱素子110に押圧力が加わっている。
【0043】
また、
図9からは、中央側に配置された第2素子115、第3素子116では、第1方向の高さhを高くすれば、押圧力を受ける面積の割合が増加する傾向が認められる。ただ、第2方向の端部側に配置された第1素子114、及び第4素子117では、逆に、第1方向の高さhを高くすると押圧力を受ける面積の割合は減少する傾向が認められる。このことより、ヒータ部150全体としてみれば、第1方向の高さhには最もバランスの取れる高さがあることが分かる。
【0044】
バランスの取れる高さとして、フレーム160の第2方向の長さLが188ミリメートルの例では、実線aと破線wとの交点fに定めた。同様に、フレーム160の第2方向の長さLが229ミリメートルの例では実線bと破線xとの交点g、フレーム160の第2方向の長さLが269ミリメートルの例では実線cと破線yとの交点i、フレーム160の第2方向の長さLが296ミリメートルの例では実線dと破線zとの交点jを、それぞれバランスの取れる高さに定めた。
【0045】
図10は、横軸にフレーム160の第2方向の長さLをとり、縦軸に第1方向の高さhをとって、上記のバランスの取れる高さである交点f、交点g、交点i、及び交点jをプロットしている。この
図10より、フレーム160の第2方向の長さLと、第1方向の高さhとの間には、上記のバランスの取れる高さに関して、きれいな相関関係があることが確認できる。
図10のプロット点を直線に近似すれば、相関関係は以下の一次式となる。
【0046】
h=0.1+2.4/1000×(L-180)+A
上記式において、フレーム160の第2方向の長さLと、縦軸に第1方向の高さhの単位はミリメートルである。また、実際の製品を設計する場合には、上記の一次式に製造上の公差を考えて、プラスマイナスそれぞれ0.2ミリメートル程度の公差Aを許容している。ただし、Lが230ミリメートル以下の場合の公差Aはプラス0.2ミリメートルとするが、高さhの下限を0.02ミリメートルは確保する。
【0047】
本例では、フレーム160の第2方向長さLに拘わらず発熱素子110の第2方向長さを一定にしているため、この一次式が成立すると考えられる。即ち、フレーム160の第2方向長さLが短いと隣接する発熱素子110間の距離が短く、そのため、第1方向の高さhが短くても、充分な押圧力を発熱素子110に与えることができる。一方、フレーム160の第2方向長さLが長くなると隣接する発熱素子110間の距離もそれに応じて長くなり、隣接する発熱素子110間に押圧力が抜けてしまいやすくなる。そのため、発熱素子110に充分な押圧力を得るためには、第1方向の高さhを長くすることが求められる。
本開示では、上記一次式を踏まえて、フレーム160の第2方向の長さが180ミリメートルの場合、第1方向の膨出量を0.1ミリメートルとし、フレーム160の第2方向の長さが230ミリメートルの場合、第1方向の膨出量を0.2ミリメートルとしている。また、フレーム160の第2方向の長さが290ミリメートルの場合には、第1方向の膨出量を0.35ミリメートルとしている。
【0048】
本開示のように屈曲点164を存在させず、連続的に膨出する形状とすることは、以上の説明の通り、発熱素子110に押圧力が加わる面積Aの割合を高める上で望ましい。ただ、連続的に膨出する円弧形状としていても、スプリング170がフレーム160の第2方向の両端部165を押圧する結果、
図7に示すように、第2方向の中心側では押圧力の不足が懸念される。そこで、本開示では、この第2方向の中心側でのフレーム160の剛性を高めている。剛性を高めるには、種々の手段がある。
【0049】
図11及び
図12の例では、フレーム160の中心側に、外方に向けて膨出する膨出部166を形成している。膨出部166をフレーム160の壁部162に形成することで、壁部162の剛性を中心側で高めることができる。
【0050】
図13の例では、壁部162の高さを変えている。中心側の壁部162の高さを端部165側の高さより高くして、高壁部167を形成している。この高壁部167により、フレーム160の中心側の剛性を高めている。
【0051】
図14の例では、フレーム160の端部165側の壁部162に穴168を形成している。穴168によりフレーム160の端部165側の剛性を低め、フレーム160の中心側の剛性を相対的に高めている。
【0052】
図15の例では、フレーム160の中心側の底部161にリブ169を形成している。リブ169は底部161からヒータ部150とは反対方向に膨出形成されている。リブ169を設けることで、フレーム160の中心側の剛性を高めることができる。
【0053】
本開示では、フレーム160の形状を、屈曲点164を存在させず連続的に膨出する形状とすることと、中心側の剛性を高める形状とすることが相俟って、フレーム160からヒータ部150への押圧力を第2方向の全長に亘って所定圧以上に保持することができている。特に、本開示の電気式ヒータ100は、スプリング170の押圧力のみによって、発熱素子110と放熱フィン130や電極板140との接合を維持する構造であるため、ヒータ部150で第2方向の全長に亘って所定圧以上の押圧力が保持できることは、発熱素子110の性能を発揮する上で望ましい。
【0054】
なお、上述の例は、本開示の望ましい対応であるが、本開示は種々に変更可能である。上述の材料や大きさは一例であり、要求される性能等に応じて変更可能である。
【0055】
発熱素子110の数や配置も種々に変更可能である。
図1及び
図2の例では、第1プレート123と第4プレート126には、第1素子114、第2素子115、第3素子116、及び第4素子117の4つの発熱素子110を配置していた。これを、
図16に示すように、全てのプレート120に2つの発熱素子110を配置するようにしても良い。
図16の例では、第1プレート123には、第1素子114と第4素子117を配置している。同様に、第2プレート124には、第1素子114と第3素子116を配置し、第3プレート125には、第2素子115と第4素子117を配置し、第4プレート126には、第1素子114と第4素子117を配置している。第5プレート127に発熱素子110を配置しないのは、
図2の例と同じである。
【0056】
図16の例でも、ヒータ部150内での発熱素子110の位置は、第1方向第2方向共にバランスが取れている。また、
図16の例でも正電極141への通電を制御することで、ヒータ部150の発熱量がコントロールされる。最も省電力での運転は、第2正電極板146のみへの通電となる。この最小電力の運転時でも、第2プレート124に第1素子114と第3素子116が配置され、第3プレート125に第2素子115と第4素子117が配置されているので、発熱素子110の位置は、第1方向第2方向共にバランスが取れている。
【0057】
また、上述の例では、左右のスプリング170を同一形状としたが、一方側のスプリング170をフレーム160と一体に構成することも可能である。
図17の例では、左側のスプリング170がフレーム160と一体に形成された一体スプリング175としている。フレーム160へのスプリング170の取付は、右側のスプリング170でのみ行う。この例であっても、フレーム160の形状を、屈曲点164を存在させず連続的に膨出する形状とすることは可能である。また、フレーム160の形状を、中心側の剛性を高める形状とすることも可能である。
【0058】
更に、上述の例では、フレーム160の底部161は一重壁であったが、二重壁とすることも可能である。
図18の例では、第2底部1611を底部161とヒータ部150との間に介在させている。この第2底部1611の形状は、屈曲点164を存在させず連続的に膨出する形状としている。また、この第2底部1611を設けたとしても、フレーム160の形状を、中心側の剛性を高める形状とすることは可能である。
【符号の説明】
【0059】
100 電気式ヒータ
110 発熱素子
120 プレート
130 放熱フィン
140 電極板
150 ヒータ部
160 フレーム
170 スプリング