(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147875
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】溶湯処理用ガス噴流治具
(51)【国際特許分類】
C22B 9/05 20060101AFI20220929BHJP
B22D 1/00 20060101ALI20220929BHJP
B22D 21/04 20060101ALI20220929BHJP
C22B 21/06 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C22B9/05
B22D1/00 K
B22D1/00 P
B22D21/04 A
C22B21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049323
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】306017014
【氏名又は名称】地方独立行政法人 岩手県工業技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】100161355
【弁理士】
【氏名又は名称】野崎 俊剛
(72)【発明者】
【氏名】岩清水 康二
(72)【発明者】
【氏名】池 浩之
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001BA23
4K001EA03
4K001GB12
(57)【要約】
【課題】噴出された不活性ガスの気泡が結合することなく、アルミニウム合金溶湯中の水素ガスを効率よく除去するとともに、加工コストを低減することができる溶湯処理用ガス噴流治具を提供する。
【解決手段】溶湯処理用ガス噴流治具30は、溶解炉内のアルミニウム合金溶湯に不活性ガスを供給して水素ガスを除去するものであり、不活性ガスが供給されるガス供給管31と、溶解炉の底部に配置される治具本体40と、を備えている。治具本体40は、黒鉛で形成されるとともに不活性ガスを噴出する複数の噴出孔42が形成されている。噴出孔42は、噴出された不活性ガスの気泡同士が、アルミニウム合金溶湯中で別れた状態を保つ所定の孔径dと所定の間隔Lに形成されている。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解炉内のアルミニウム合金溶湯に不活性ガスを供給して水素ガスを除去する溶湯処理用ガス噴流治具において、
前記不活性ガスが供給されるガス供給管と、前記ガス供給管に接続され前記溶解炉の底部に配置される治具本体と、を備え、
前記治具本体は、黒鉛からなり、前記不活性ガスを噴出する複数の噴出孔が形成されるとともに前記噴出孔から噴出する前記不活性ガスの気泡の大きさが均一になるように内部に前記不活性ガスが広がる内部空間が形成され、
前記噴出孔は、前記噴出孔から噴出された前記不活性ガスの気泡が、隣り合う前記噴出孔から噴出された前記不活性ガスの気泡と前記アルミニウム合金溶湯中で別れた状態を保つ所定の孔径dと所定の間隔Lに形成されていることを特徴とする溶湯処理用ガス噴流治具。
【請求項2】
請求項1記載の溶湯処理用ガス噴流治具であって、
前記孔径dは、0.1mm以上、0.3mm以下であることを特徴とする溶湯処理用ガス噴流治具。
【請求項3】
請求項2記載の溶湯処理用ガス噴流治具であって、
前記孔径dと前記間隔Lとの関係は、指数関数expを用いて、
L>0.9655exp11.513d、であることを特徴とする溶湯処理用ガス噴流治具。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1記載の溶湯処理用ガス噴流治具であって、
前記噴出孔から噴出された不活性ガスの気泡の気泡径Xと、隣り合う前記気泡の間隔Yとの関係は、指数関数expを用いて、
Y>1.594exp0.602X、であることを特徴とする溶湯処理用ガス噴流治具。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1記載の溶湯処理用ガス噴流治具であって、
前記治具本体は、円柱状に形成されており、前記ガス供給管が接続されたベース部と、前記ベース部と別体に形成され前記ベース部の外周部に形成されたねじ部に螺合可能な蓋部とからなり、
前記蓋部の上面部に前記噴出孔が形成されていることを特徴とする溶湯処理用ガス噴流治具。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1記載の溶湯処理用ガス噴流治具であって、
前記治具本体の内部には、重りが設けられていることを特徴とする溶湯処理用ガス噴流治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金に代表される溶湯に不活性ガスを供給して水素ガスを除去する溶湯処理用ガス噴流治具に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は酸化傾向が強く、溶解すると大気中の酸素や水分と反応し、酸化物が生成される。このとき、水分の分解により水素ガスが発生し、水素ガスが溶湯内に吸収される。溶湯内に水素ガスが残存すると、冷却後の製品内に巣(孔)等のポロシティが発生し好ましくない。このため、溶湯内の水素ガスを除去する技術(脱ガス技術)が知られている。
【0003】
図1は一般的な溶湯内の水素ガスを除去する技術の一例であり、
図1(A)に示すように、バッチ式の溶解炉100にアルミニウム合金の溶湯101が入っている。溶解炉100の上部には撹拌及び不活性ガス吹き込み装置102が配置され、溶湯101内に不活性ガスを噴出するとともに溶湯101を撹拌する回転ノズル103が延ばされている。
【0004】
図1(B)に示すように、回転ノズル103に不活性ガスが流され、下部の噴出口から溶解炉100底部付近に不活性ガスが噴出される。回転ノズル103の下部には撹拌部材104が設けられており、回転ノズル103及び撹拌部材104が回転することで、不活性ガスの気泡105が細かくなり分散される。不活性ガスの気泡105は周辺の水素ガス106を吸収しつつ上昇し、水素ガス106とともに外部に放出される。
【0005】
しかし、回転ノズル103及び撹拌部材104が回転することで溶湯101の表面付近が波立つように動く。すると、
図1(C)に示すように、溶湯101の表面付近の水蒸気107が溶湯101に入り、再度、酸化物108や水素ガス106が溶湯101に巻き込まれる。この対策として、酸化物108や水素ガス106が再度、溶湯101に巻き込まれることを軽減する技術が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0006】
特許文献1の噴流旋回方式脱ガス装置は、アルミニウム溶解炉の底面から所定距離を隔てて噴流式ガスノズルが設置されている。噴流式ガスノズルは、渦巻状に形成され、渦巻状に沿って噴出孔が複数形成されている。この噴流式ガスノズルに不活性ガスである窒素ガスを供給し、溶湯中に窒素ガス気泡(不活性ガスの気泡)を形成してアルミニウム合金溶解炉内に対流を起こさせ、水素ガスを溶湯上部に浮上させて除去する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の噴流旋回方式脱ガス装置では、複数の噴出孔がアルミニウム溶解炉の底部の中心寄りに配置されており、噴出孔から噴出された窒素ガス気泡は、アルミニウム溶解炉の中心寄りを上昇し、上部で外側に流れ、周壁側で下方に向かって流れ、噴流式ガスノズルの下方に回り込み、再びアルミニウム溶解炉の中心寄りを上昇するように対流する。
【0009】
ここで、理想的な溶湯内の水素ガス除去の基本原理について
図2を参照して説明する。
図2(A)に示すように、溶湯101内に水素ガス106が含まれている。供給された不活性ガスの気泡105が溶湯101内を上昇する。
図2(B)に示すように、不活性ガスの気泡105に水素ガス106が吸収され、
図2(C)に示すように、水素ガス106を吸収した不活性ガスの気泡105がさらに上昇する。
図2(D)に示すように、溶湯101の液面上に不活性ガスの気泡105とともに水素ガス106が静かに大気中に放出される。
【0010】
ところで、不活性ガスの気泡は、できるだけ小さく分散させて溶湯中を上昇させ、途中の水素ガスにできるだけ接触させて水素ガスを不活性ガスの気泡に取り込むことが好ましい。隣り合う気泡が上昇中に結合すると、不活性ガスの気泡が大きくなり、気泡間の隙間も大きくなるため、不活性ガスの上昇中に取り残す水素ガスが多くなるからである。
【0011】
しかし、特許文献1の噴流旋回方式脱ガス装置では、窒素ガス気泡が溶湯内を対流するため、溶湯の液面が波立ち、酸化物や水素ガスが溶湯に巻き込まれる。また、窒素ガス気泡が対流することで窒素ガス気泡同士が結合し気泡が大きくなり、水素ガス除去の効率が低下する。また、特許文献1の噴流式ガスノズルは材質に言及がないものの渦巻状であることから、一般的には、金属製のノズルが溶湯に溶けないようにするためのコーティングが施されていたり、セラミックで形成されていたりするため、加工コストが高くなる。
【0012】
本発明は、以上の点に鑑み、噴出された不活性ガスの気泡が結合することなく、アルミニウム合金溶湯中の水素ガスを効率よく除去するとともに、加工コストを低減することができる溶湯処理用ガス噴流治具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
[1]上記目的を達成するため、本発明の溶湯処理用ガス噴流治具は、
溶解炉内のアルミニウム合金溶湯に不活性ガスを吹き込んで水素ガスを除去する溶湯処理用ガス噴流治具において、
前記不活性ガスが供給されるガス供給管と、前記ガス供給管に接続され前記溶解炉の底部に配置される治具本体と、を備え、
前記治具本体は、黒鉛からなり、前記不活性ガスを噴出する複数の噴出孔が形成されるとともに前記噴出孔から噴出する前記不活性ガスの気泡の大きさが均一になるように内部に前記不活性ガスが広がる内部空間が形成され、
前記噴出孔は、前記噴出孔から噴出された前記不活性ガスの気泡が、隣り合う前記噴出孔から噴出された前記不活性ガスの気泡と前記アルミニウム合金溶湯中で別れた状態を保つ所定の孔径dと所定の間隔Lに形成されていることを特徴とする。
【0014】
かかる構成によれば、溶湯処理用ガス噴流治具は、不活性ガスが供給されるガス供給管と、溶解炉の底部に配置される治具本体と、を備えている。治具本体は不活性ガスを噴出する複数の噴出孔が形成されるとともに噴出孔から噴出する不活性ガスの気泡の大きさが均一になるように内部に不活性ガスが広がる内部空間が形成されている。仮に、従来技術のように、渦巻状のガスノズルに沿って複数の噴出孔が形成されただけでは、不活性ガスの気泡が広い面で噴出されるが、気泡の上昇中に隣り合う噴出孔から噴出された気泡同士が結合して気泡が大きくなることもあり、気泡間の隙間が大きくなり、水素ガスの除去効率が低下する。この点、本発明では、噴出孔は、噴出孔から噴出された不活性ガスの気泡が、隣り合う噴出孔から噴出された不活性ガスの気泡とアルミニウム合金溶湯中で別れた状態を保つ所定の孔径dと所定の間隔Lに形成されているので、噴出された不活性ガスの気泡同士が結合することがなく、アルミニウム合金溶湯中の水素ガスを効率よく除去することができる。
【0015】
また、従来技術では、渦巻状の長いガスノズルであるため、ガスノズルの基端側から先端側に向かうにつれて一般的には管摩擦による流体の圧力損失が生じ、同じ大きさの孔径にしても基端側の噴出孔と先端側の噴出孔とでは噴出される不活性ガスの気泡の大きさが異なり、溶解炉の平面視全体でみると不活性ガスの噴出が不均一になり水素ガスの除去効率が低下する。この点、本発明では、噴出孔から噴出する不活性ガスの気泡の大きさが均一になるように内部に不活性ガスが広がる内部空間が形成されているので、管摩擦による圧力損失で位置により噴出される不活性ガスの大きさが不均一になることがなく、広い内部空間で不活性ガスが一旦広がりいずれの位置の噴出孔でも不活性ガス(流体)の圧力が均一になる。このため、いずれの噴出孔からも噴出される不活性ガスの気泡の大きさを等しくでき、溶解炉の平面視全体でみても水素ガスを効率よく除去することができる。
【0016】
さらに、治具本体は黒鉛で形成されるので、アルミニウム合金溶湯中でも溶けることがなく、金属製のノズルのように溶けないようにするコーティングを施す必要がない。また治具本体を黒鉛で形成すると切削加工のみで形成でき、セラミックのようにスラリーを所定の形に形成してから焼成や仕上げ加工というような複数の加工工程も必要がない。このため、本発明の溶湯処理用ガス噴流治具は、加工コストを低減することができる。
【0017】
[2]好ましくは、孔径dは、0.1mm以上、0.3mm以下である。
【0018】
かかる構成によれば、孔径dを0.1mmより小さくしようとすると加工が難しくなり、0.3mmより大きくすると噴出される不活性ガスの気泡が大きくなり水素ガスの除去効率が低下し始める。このため、孔径dは、0.1mm以上、0.3mm以下とすることで、加工コストを低減しつつ、アルミニウム合金溶湯中の水素ガスを効率よく除去することができる。
【0019】
[3]好ましくは、前記孔径dと前記間隔Lとの関係は、指数関数expを用いて、
L>0.9655exp11.513d、である。
【0020】
かかる構成によれば、孔径dと間隔Lとの関係は、指数関数expを用いて、L>0.9655exp11.513dとするので、隣り合う噴出孔から噴出された気泡同士が上昇中に最小限の隙間を保ち結合しないようにでき、水素ガスの除去効率を向上させることができる。
【0021】
[4]好ましくは、前記噴出孔から噴出された不活性ガスの気泡の気泡径Xと、隣り合う前記気泡の間隔Yとの関係は、指数関数expを用いて、
Y>1.594exp0.602X、である。
【0022】
かかる構成によれば、不活性ガスの気泡の気泡径Xと、隣り合う気泡の間隔Yとの関係は、指数関数expを用いて、Y>1.594exp0.602X、とするので、隣り合う噴出孔から噴出された気泡同士が上昇中に最小限の隙間を保ち結合しないようにでき、水素ガスの除去効率を向上させることができる。
【0023】
[5]好ましくは、前記治具本体は、円柱状に形成されており、前記ガス供給管が接続されたベース部と、前記ベース部と別体に形成され前記ベース部の外周部に形成されたねじ部に螺合可能な蓋部とからなり、
前記蓋部の上面部に前記噴出孔が形成されている。
【0024】
かかる構成によれば、治具本体は、ガス供給管が接続されたベース部と、ベース部と別体に形成されベース部の外周部に形成されたねじ部に螺合可能な蓋部とからなるので、蓋部を容易に交換することができる。ベース部は同じものを使用しつつ、溶解炉の大きさや形状に合わせて異なる大きさの蓋部のみを簡単に交換でき、低コストで様々な種類の溶解炉でアルミニウム合金溶湯中の水素ガスを効率よく除去することができる。
【0025】
[6]好ましくは、前記治具本体の内部には、重りが設けられている。
【0026】
かかる構成によれば、治具本体には、重りが設けられている。一般的に、アルミニウム合金溶湯中では、治具本体が浮かび易くなる。このため、従来技術では、噴流式ガスノズルが固定部材によって溶解炉の底に設置されている。この点、本発明では、治具本体に重りを設けるだけなので、従来技術のように溶解炉の底に固定部材を設置する必要もなく、治具本体のみの構成で治具本体の浮かび上がりを防止して溶解炉の底に配置することができる。また、治具本体の内部に重りを設けることで、重りに特別なコーティングも必要なく部品コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0027】
噴出された不活性ガスの気泡が結合することなく、アルミニウム合金溶湯中の水素ガスを効率よく除去するとともに、加工コストを低減することができる溶湯処理用ガス噴流治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】一般的な溶湯内の水素ガスを除去する技術を説明する図である。
【
図2】理想的な溶湯内の水素ガス除去の基本原理を説明する図である。
【
図3】噴出孔の孔径と気泡の円相当径の関係を説明する図である。
【
図5】隣り合う噴出孔から噴出された気泡のANSYS Fluentによる2次元定常流体解析を説明する図である。
【
図6】孔径と孔間隔の関係、及び、気泡径と気泡間隔の関係を説明する図である。
【
図7】所定の直径の気泡による脱ガス処理時間と水素量の関係を説明する図である。
【
図8】本発明の実施例に係る溶湯処理用ガス噴流治具の斜視図である。
【
図9】本発明の実施例及び別態様に係る溶湯処理用ガス噴流治具の断面図である。
【
図10】比較例と実施例の気泡浮上の作用を説明する図である。
【
図11】比較例と実施例の気泡浮上の状態を説明する図、及び比較例と実施例の凝固した試験片の断面図である。
【
図12】本発明に係る溶湯処理用ガス噴流治具の使用例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明を実施するための形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例0030】
まず、噴出孔の孔径と気泡の円相当径の関係を説明する。
図3を参照する。
図3(A)に示すように、試験ノズル10は角柱状に形成されており、その内部に不活性ガスである窒素を通す供給通路11が形成され、この供給通路11から試験ノズル10の上面まで噴出孔12が形成されている。噴出孔12の孔径(口径)dは、0.2mm、0.3mm、0.4mm、0.5mmのものを用意した。
【0031】
図3(B)に示すように、試験ノズル10を純水50a内に入れ、不活性ガスとして窒素ガスを、ガス量0.5L/minで供給通路11に吹き込み、高速度カメラで撮影した窒素ガスの気泡51を画像解析により円相当径(mm)を測定した。
【0032】
図3(C)に示すように、孔径0.2mmで気泡51の円相当径が2.1mm、孔径0.3mmで気泡51の円相当径が2.3mm、孔径0.4mmで気泡51の円相当径が3.6mm、孔径0.5mmで気泡51の円相当径が3.6mmとなった。
【0033】
次に孔径と孔間隔の関係、及び、気泡径と気泡間隔の関係について説明する。
図4を参照する。
図4(A)に示すように、試験ノズル20は角柱状に形成されており、その内部に不活性ガスである窒素を通す供給通路21が形成され、この供給通路21から試験ノズル20の上面まで噴出孔22が形成されている。噴出孔22の孔径(口径)dは0.2mmとし、隣り合う噴出孔22の中心間の間隔Lを、1mm、2mm、3mm、5mm、10mmの順に徐々に広げて噴出孔22を配置したものを用意した。
【0034】
図4(B)に示すように、試験ノズル20を純水50a内に入れ、不活性ガスとして窒素ガスを、ガス量0.2L/minで供給通路21に吹き込み、高速度カメラで撮影した窒素ガスの気泡51を画像解析により所定の噴出孔22から噴出された窒素ガスの気泡51が、隣り合う噴出孔22から噴出された窒素ガスの気泡51とアルミニウム合金溶湯50中で別れた状態を保つか(気泡51同士が結合しないか)、気泡51同士が結合するかを評価した。詳細は後述するが、隣り合う噴出孔22の間隔Lが狭いと噴出された窒素ガスが結合する傾向にあることが確認された。
【0035】
図5を参照する。
図5は隣り合う噴出孔から噴出された気泡のANSYS Fluentによる2次元定常流体解析の結果を示す。解析条件は、アルミニウム合金溶湯相当内で、窒素ガス相当の気泡の気泡径をXとし、隣り合う気泡の間隔をYとし、ガス量0.2L/min相当で噴出する条件とした。なお、図中、窒素ガス相当の気泡は、中央付近の左右の丸形状(上下に2つずつ表示)のものを示す。
【0036】
図5(A)は窒素ガス相当の気泡の気泡径Xを1mmとし、隣り合う気泡の間隔Yを1mmとしたものである。気泡の間隔Yが1mmであると、気泡間の圧力が低下し、気泡が結合した。
図5(B)は窒素ガス相当の気泡の気泡径Xを1mmとし、隣り合う気泡の間隔Yを3mmとしたものである。気泡の間隔Yが3mmであると、気泡間の圧力が低下せず、気泡同士が分かれた状態を保った(結合しなかった)。
【0037】
図5(C)は窒素ガス相当の気泡の気泡径Xを2mmとし、隣り合う気泡の間隔Yを3mmとしたものである。気泡の間隔Yが3mmであると、気泡間の圧力が低下し、気泡が結合した。
図5(D)は窒素ガス相当の気泡の気泡径Xを2mmとし、隣り合う気泡の間隔Yを5mmとしたものである。気泡の間隔Yが5mmであると、気泡間の圧力が低下せず、気泡同士が分かれた状態を保った(結合しなかった)。
【0038】
図5(E)は窒素ガス相当の気泡の気泡径Xを3mmとし、隣り合う気泡の間隔Yを5mmとしたものである。気泡の間隔Yが5mmであると、気泡間の圧力が低下し、気泡が結合した。
図5(F)は窒素ガスの気泡の気泡径Xを3mmとし、隣り合う気泡の間隔Yを10mmとしたものである。気泡の間隔Yが10mmであると、気泡間の圧力が低下せず、気泡同士が分かれた状態を保った(結合しなかった)。
【0039】
図6を参照する。
図6(A)は孔径と孔間隔の関係を示す図であり、横軸は噴出孔の孔径d(mm)であり、縦軸は隣り合う噴出孔の間隔L(mm)である。図中の曲線は、所定の孔径dの噴出孔から噴出された不活性ガスの気泡同士がアルミニウム合金溶湯中で別れた状態を保つ最小限の間隔L(気泡が結合しない最小限の間隔L)をいくつかプロットし、近似曲線としたものである。
【0040】
これにより、孔径dは、0.1mm以上、0.3mm以下で、孔径dと孔間隔Lとの関係は、指数関数expを用いて、L>0.9655exp11.513d、であることが好ましい。なお、相関係数の二乗である決定係数はR2=0.9993である。
【0041】
図6(B)は気泡径と気泡間隔を示す図であり、横軸は気泡径X(mm)であり、縦軸は隣り合う気泡の間隔Y(mm)である。図中の曲線は、所定の気泡径Xでの不活性ガスの気泡同士がアルミニウム合金溶湯中で別れた状態を保つ最小限の気泡間隔Y(気泡が結合しない最小限の間隔Y)をいくつかプロットし、近似曲線としたものである。
【0042】
これにより、噴出孔から噴出された不活性ガスの気泡の気泡径Xと噴出孔から噴出された不活性ガスの気泡間隔Yとの関係は、指数関数expを用いて、Y>1.594exp0.602X、であることが好ましい。なお、相関係数の二乗である決定係数はR2=0.9924である。
【0043】
次に参考として脱ガス処理時間と水素量の関係について説明する。
図7は、所定の直径の気泡による脱ガス処理時間と水素量の関係を示しており、横軸は処理時間(分)であり、縦軸は溶湯中の水素量(ml/100g)である。脱ガス処理前水素量は0.3ml/100g、溶湯質量は300kg、不活性ガス量は15L/min、不活性ガス気泡径2.0mm、と5.0mmである。
【0044】
脱ガス処理後の溶湯中水素濃度[%H]と、処理前の溶湯中水素濃度[%H]iの関係は、[%H]=[%H]i・exp(-KρAt/M)となる。なお、Kは質量移動係数、ρは溶湯の密度、Aは溶湯中の気泡の全表面積、tは処理時間、Mは溶湯質量とする。
【0045】
また、気泡上昇速度Vは、V=1.02・(rg)0.5であり、全表面積Aは、A=3Qh/rVである。なお、Qは不活性ガス量、hは溶湯表面までの高さ、rは気泡半径、Vは気泡上昇速度とする。
【0046】
図7から、気泡径が5mmよりも気泡径2mmの方が、溶湯中の水素量を短時間で減少させることができることが知見される。このことからも、不活性ガスは気泡径が小さい状態でアルミニウム合金溶湯内を隣り合う気泡と結合せずに上昇した方が、アルミニウム合金溶湯中の水素ガスを効率よく除去することができる。
【0047】
次に本発明の実施例に係る溶湯処理用ガス噴流治具30について説明する。
図8を参照する。
図8(A)に示すように、溶湯処理用ガス噴流治具30は、溶解炉60内のアルミニウム合金溶湯50に不活性ガス(不活性ガスの気泡)51を供給して水素ガス52を除去することに用いられる。溶湯処理用ガス噴流治具30は、不活性ガス51が供給されるガス供給管31と、ガス供給管31に接続され溶解炉60の底部61に配置される治具本体40と、を備えている。
【0048】
図8(A)、
図8(B)に示すように、ガス供給管31はいわゆるアルミナパイプであり、溶解炉60の形状に大きさに合わせて、ガス供給管31の形状が形成されている。ガス供給管31は、不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置(不図示)から延ばされている配管又はチューブに接続され溶解炉60の縁に掛けられる掛け留め部31aと、この掛け留め部31aに連続して溶解炉60の底部61まで延ばされている潜り部31bと、この潜り部31bに連続して底部61に沿って延ばされ治具本体40に継手31dを介して接続される底延長部31cと、を備えている。
【0049】
図8(B)、
図9(A)に示すように、治具本体40は、材質が黒鉛であり、不活性ガスを噴出する複数の噴出孔42が形成されている。治具本体40は、円柱状に形成されるとともに内部に不活性ガスが広がる内部空間43が形成され、ガス供給管31の継手31dが接続されたベース部41と、ベース部41と別体に形成されベース部41の外周部に形成されたねじ部44に螺合可能な蓋部45とからなる。円柱状に形成された治具本体40の外径は90mmであり、高さは25mmである。
【0050】
噴出孔42は、この噴出孔42から噴出された不活性ガスの気泡51が、隣り合う噴出孔42から噴出された不活性ガスの気泡51とアルミニウム合金溶湯50中で別れた状態を保つ(気泡51同士が結合しない)所定の孔径dと所定の間隔Lに形成されている。蓋部45は、その上面部46に孔径dを0.2mmとする噴出孔42が、間隔Lが5mmで25個形成されている。
【0051】
なお、実施例では、円柱状に形成された治具本体40の外径は90mmであり、高さは25mmとしたが、これに限定されず、溶解炉60(
図12参照)の形状や大きさに応じて、治具本体40の外径を120mm、140mm、200mm、それ以上にしてもよく、高さを20mm、30mm、40mm、それ以上にしてもよい。また、実施例では、治具本体40を円柱状とすることで、一般的なバッチ式の溶解炉(るつぼ)60の形状に合わせて溶解炉60の底部61全体を覆うようにしたが、これに限定されず、異なる溶解炉60の形状に合わせて、治具本体40はねじ部44に螺合できれば蓋部45の形状を矩形状などにしてもよい。
【0052】
また、実施例では、孔径dを0.2mmとする噴出孔42を、間隔Lを5mmとして25個形成したが、これに限定されず、噴出孔42の数は50個、100個、400個でもよい。また、噴出孔42の孔径dは、0.1mm以上、0.3mm以下で、孔径dと間隔Lとの関係は、間隔Lの空け過ぎによる水素ガスの除去効率の低下も考慮すると、指数関数expを用いて、0.9655exp11.513d+10>L>0.9655exp11.513d、であれば好ましい。さらには、水素ガスの除去効率は上記範囲より低下するが、気泡51がアルミニウム合金溶湯50中で結合しなければ、噴出孔42の孔径dを0.3mmより大きくし、間隔Lを(0.9655exp11.513d+10)mm以上としてもよい。
【0053】
また、噴出孔42から噴出された不活性ガスの気泡51の気泡径Xと噴出孔42から噴出された不活性ガスの気泡間隔Yとの関係は、気泡間隔Yの空け過ぎによる水素ガスの除去効率の低下も考慮すると、1.594exp0.602X+5>Y>1.594exp0.602X、とすることが好ましい。
【0054】
また、ベース部41には継手31dの接続部分から内部空間43まで連通する連通路47が形成されており、この連通路47に継手31dはねじ結合されている。これにより、異なる形状の溶解炉60に溶湯処理用ガス噴流治具30を配置する際、治具本体40はそのまま流用し、その溶解炉60の形状に合ったガス供給管31に容易に変更することができる。
【0055】
また、内部空間43は、いずれの噴出孔42から噴出する不活性ガスの気泡51の大きさが均一になるように、治具本体40の内部に形成されている。内部空間43は、連通路47から流れてきた不活性ガスが広がるように、連通路47の流路面積よりも大きい面積となるように形成されている。なお、治具本体40の平面視(連通路47の軸方向視)における内部空間43の面積が、連通路47の流路面積よりも大きければ大きさは問わないが、より好ましくは、治具本体40の平面視(連通路47の軸方向視)における内部空間43の面積が、連通路47の流路面積の10倍以上の大きさに形成されているとよい。また、治具本体40の平面視(連通路47の軸方向視)において、連通路47の出口は、内部空間43の中央部に配置されている。これにより、連通路47から不活性ガスが内部空間43の全ての位置に均一に広がり易くできる。
【0056】
次に実施例の別態様について説明する。なお、
図9(A)と同様の構成については符号を振って説明を省略する。
図9(B)に示すように、ベース部41には、外周部分にガス供給管31の継手31dがねじ結合されている。溶解炉60の形状によってはガス供給管31を治具本体40の下方に配管し難い場合があるが、ガス供給管31をベース部41の外周部分に接続することで配管し易くなる場合には好適である。
【0057】
また、治具本体40には、この内側であってベース部41の上部に凹部48が形成され、この凹部48に円環状の重り32が設けられている。凹部48を形成する周壁の外側にはねじ部49が形成されており、このねじ部49に重り32を覆うとともに中央部に不活性ガスを通す孔33が形成された中蓋34がねじ結合されている。アルミニウム合金溶湯50中では、黒鉛やセラミックス製の部品は浮かび易いため、従来技術では溶解炉の底部に固定部材を設置する必要があるが、この点、本発明の実施例では、治具本体40に重り32を設けて治具本体40が浮かぶことを防止するので、溶解炉に固定部材を設置することなく、治具本体40を溶解炉の底部に留まらせることができる。また、重り32は一般的な比重の大きい金属製のものであるが、アルミニウム合金溶湯50の中では溶け易くなるところ、黒鉛の治具本体の中に金属製の重り32を収納してあるので、特別なコーティングも必要なく部品コストを低減することができる。
【0058】
なお、実施例では、凹部48を形成する周壁の外側にねじ部49を形成したが、これに限定されず、凹部48の内周部分にねじ部49を形成して、このねじ部49にねじ結合するドーナツ状の円板を中蓋34としてもよい。
【0059】
次に比較例のアルミナパイプ110と実施例の溶湯処理用ガス噴流治具30の脱ガス実験と評価について説明する。
図10を参照する。
図10(A)は比較例のアルミナパイプ110の脱ガス状態を説明する図であり、るつぼ状の溶解炉60内のアルミニウム合金溶湯50中に外径6mm、内径4mmのアルミナパイプ110が入れられており、その先端部から不活性ガスを噴出している。気泡51の浮上速度が速く、不活性ガスの気泡51が大きいため、アルミニウム合金溶湯50が乱され易く、液面付近でスラグや水素ガス52の巻き込みが発生する。
【0060】
図10(B)は実施例の溶湯処理用ガス噴流治具30の脱ガス状態を説明する図であり、るつぼ状の溶解炉60内のアルミニウム合金溶湯50中に溶湯処理用ガス噴流治具30が入れられており、噴出孔42(
図9参照)から不活性ガスを噴出している。気泡51の浮上速度が遅く、不活性ガスの気泡51が小さいため、アルミニウム合金溶湯50が乱され難く、液面付近でスラグや水素ガス52の巻き込みが少ない。不活性ガス51の浮上速度が遅いため、脱ガス効果が向上する。
【0061】
図10(C)は気泡直径(mm)とガス浮上速度(mm/s)の関係を説明する図であり、気泡直径が小さいほどガス浮上速度が遅いことが分かる。また、純水よりもアルミニウム溶湯(アルミニウム合金溶湯)の方が、ガス浮上速度が速い。
【0062】
図11を参照する。
図11(A)は比較例のアルミナパイプ110から噴出された気泡を高速度カメラで撮影した画像であり、気泡の気泡径Xは20mm~35mmである。
図11(B)は実施例の溶湯処理用ガス噴流治具30から噴出された気泡を高速度カメラで撮影した画像であり、気泡の気泡径Xは2.0mm~2.4mmである。
【0063】
図11(C)は比較例の脱ガス処理後のアルミニウム合金溶湯50から採取した減圧凝固試験片断面であり、密度が2.52(g/cm
3)であり、K値(全ての破面に現れた介在物の総数を試験片の数で割った値)が4.0であり、ガス量が0.2(ml/100g)である。
図11(D)は実施例の脱ガス処理後のアルミニウム合金溶湯50から採取した減圧凝固試験片断面であり、密度が2.61(g/cm
3)であり、K値が1.8であり、ガス量が0.1(ml/100g)である。
【0064】
なお、上記の実験方法は、溶解材料としてアルミニウム合金AC4C材を5kg(返り材)、溶解温度を750℃(抵抗式電気炉)、脱ガス条件は不活性ガスとしてArガスを0.5L/min(鋳造の現場における300kg炉よりガス量を換算)、採取した試験片は減圧凝固試験片、Kモールド試験片、水素分析試験片とした。噴流方法と処理時間については、比較例のアルミナパイプと実施例の溶湯処理用ガス噴流治具それぞれにつき処理時間を10分とした。
【0065】
次に実施例に係る溶湯処理用ガス噴流治具30の作用について説明する。
図12を参照する。
図12(A)はバッチ式の溶解炉60であり、るつぼ状の溶解炉60の上部開口から溶湯処理用ガス噴流治具30をアルミニウム合金溶湯50内に入れ、溶解炉60の底部61に配置している。このように、本発明の実施例では治具本体40をガス供給管31で支持しているだけなので、従来技術のような大型の撹拌及び不活性ガス吹き込み装置102(
図1参照)を溶解炉60の上方に設置する必要がなく、簡単に溶湯処理用ガス噴流治具30を溶解炉60取り付けて、水素ガスを効率よく除去することができる。
【0066】
図12(B)は連続溶解保持式の溶解炉70であり、溶解炉70の窓71から溶湯処理用ガス噴流治具30をアルミニウム合金溶湯50内に入れ、溶解炉70の底部72に配置している。また、アルミニウム合金溶湯50の取り出し口73から溶湯処理用ガス噴流治具30をアルミニウム合金溶湯50内に入れ、溶解炉70の底部72に配置することもできる。仮に、従来技術のような大型の撹拌及び不活性ガス吹き込み装置102では、広いスペースが必要となる問題などから連続溶解保持式の溶解炉70には設置が困難である。この点、本発明の実施例では、少しの溶解炉70内に通じる治具本体40が入る小さなスペースがあれば、ガス供給管31に吊り下げるようにして溶解炉70の底部72に治具本体40を配置することができる。このため、連続溶解保持式の溶解炉70であっても、水素ガスを効率よく除去することができる。
【0067】
以上に述べた溶湯処理用ガス噴流治具30の作用、効果を説明する。
本発明の実施例は、溶湯処理用ガス噴流治具30は、不活性ガスが供給されるガス供給管31と、溶解炉60の底部61に配置される治具本体40と、を備えている。治具本体40は不活性ガスを噴出する複数の噴出孔42が形成されるとともに噴出孔から噴出する不活性ガスの気泡の大きさが均一になるように内部に不活性ガスが広がる内部空間が形成されている。仮に、従来技術のように、渦巻状のガスノズルに沿って複数の噴出孔が形成されただけでは、不活性ガスの気泡が広い面で噴出されるが、気泡の上昇中に隣り合う噴出孔から噴出された気泡同士が結合して気泡が大きくなることもあり、気泡間の隙間が大きくなり、水素ガスの除去効率が低下する。この点、本発明では、噴出孔42は、噴出孔42から噴出された不活性ガスの気泡51が、隣り合う噴出孔42から噴出された不活性ガスの気泡51とアルミニウム合金溶湯50中で別れた状態を保つ所定の孔径dと所定の間隔Lに形成されているので、噴出された不活性ガスの気泡51同士が結合することがなく、アルミニウム合金溶湯50中の水素ガスを効率よく除去することができる。
【0068】
さらに、本発明では、噴出孔42から噴出する不活性ガスの気泡の大きさが均一になるように内部に不活性ガスが広がる内部空間43が形成されているので、管摩擦による圧力損失で位置により噴出される不活性ガスの大きさが不均一になることがなく、広い内部空間43で不活性ガスが一旦広がりいずれの位置の噴出孔でも不活性ガス(流体)の圧力が均一になる。このため、いずれの噴出孔42からも噴出される不活性ガスの気泡51の大きさを等しくでき、溶解炉の平面視全体でみても水素ガスを効率よく除去することができる。
【0069】
さらに、本発明の実施例では、治具本体40は黒鉛で形成されるので、アルミニウム合金溶湯50中でも溶けることがなく、金属製のノズルのように溶けないようにするコーティングを施す必要がない。また治具本体40を黒鉛で形成すると切削加工のみで形成でき、セラミックのようにスラリーを所定の形に形成してから焼成や仕上げ加工というような複数の加工工程も必要がない。このため、本発明の溶湯処理用ガス噴流治具30は、加工コストを低減することができる。
【0070】
さらに、本発明の実施例では、孔径dは、0.1mm以上、0.3mm以下である。かかる構成によれば、孔径dを0.1mmより小さくしようとすると加工が難しくなり、0.3mmより大きくすると噴出される不活性ガスの気泡が大きくなり水素ガスの除去効率が低下し始める。このため、孔径dは、0.1mm以上、0.3mm以下とすることで、加工コストを低減しつつ、アルミニウム合金溶湯中の水素ガスを効率よく除去することができる。
【0071】
さらに、本発明の実施例では、孔径dと間隔Lとの関係は、指数関数expを用いて、L>0.9655exp11.513dとするので、隣り合う噴出孔42から噴出された気泡51同士が上昇中に最小限の隙間を保ち結合しないようにでき、水素ガスの除去効率を向上させることができる。
【0072】
さらに、本発明の実施例では、不活性ガスの気泡51の気泡径Xと、隣り合う気泡51の間隔Yとの関係は、指数関数expを用いて、Y>1.594exp0.602X、とするので、隣り合う噴出孔42から噴出された気泡51同士が上昇中に最小限の隙間を保ち結合しないようにでき、水素ガスの除去効率を向上させることができる。
【0073】
さらに、本発明の実施例では、治具本体40は、ガス供給管31が接続されたベース部41と、ベース部41と別体に形成されベース部41の外周部に形成されたねじ部44に螺合可能な蓋部45とからなるので、蓋部45を容易に交換することができる。ベース部41は同じものを使用しつつ、溶解炉60、70の大きさや形状に合わせて異なる大きさの蓋部45のみを簡単に交換でき、低コストで様々な種類の溶解炉60、70でアルミニウム合金溶湯50中の水素ガスを効率よく除去することができる。
【0074】
さらに、本発明の実施例では、治具本体40には、重り32が設けられている。一般的に、アルミニウム合金溶湯50中では、治具本体40が浮かび易くなる。このため、従来技術では、噴流式ガスノズルが固定部材によって溶解炉の底に設置されている。この点、本発明では、治具本体40に重り32を設けるだけなので、従来技術のように溶解炉の底に固定部材を設置する必要もなく、治具本体40のみの構成で治具本体40の浮かび上がりを防止して溶解炉60、70の底に配置することができる。
【0075】
尚、実施例では、治具本体40の複数の噴出孔42を、格子状に並ぶように配置したが、これに限定されず、噴出孔42から噴出された不活性ガスの気泡51が、隣り合う噴出孔42から噴出された不活性ガスの気泡51とアルミニウム合金溶湯50中で別れた状態を保つ所定の孔径dと所定の間隔Lに形成されていれば、列毎にずらして配置したり、放射状に配置したり、同心円状に複数の円環が外方に大きくなるように配置してもよく、噴出孔の配列や個数が異なってもよい。
【0076】
また、実施例では、不活性ガスを、窒素、又は、アルゴンとしたが、ヘリウムなど他の一般的なガスを用いてもよい。
【0077】
また、実施例では、重り32を円環状のものとしたが、これに限定されず、ブロック状でもよく、形状は問わない。さらには、実施例では重り32を治具本体40の中に収納したが、アルミニウム合金溶湯50の中でも溶けなければ、例えばコーティング等を施して治具本体40の外側に重り32を設けてもよい。
【0078】
即ち、本発明の作用及び効果を奏する限りにおいて、本発明は、実施例に限定されるものではない。