IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人物質・材料研究機構の特許一覧

特開2022-147878コーティング用組成物、膜、及び、積層体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147878
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】コーティング用組成物、膜、及び、積層体
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20220929BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20220929BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20220929BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20220929BHJP
   C09D 133/02 20060101ALI20220929BHJP
   C09D 133/04 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/63
C09D7/20
C09D133/00
C09D133/02
C09D133/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049328
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】上山 祐史
(72)【発明者】
【氏名】玉手 亮多
(72)【発明者】
【氏名】上木 岳士
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG011
4J038CG141
4J038CG161
4J038CG171
4J038JA03
4J038JA09
4J038JA11
4J038JA17
4J038JA24
4J038JA30
4J038JA55
4J038JB11
4J038JB30
4J038JB32
4J038JC16
4J038JC17
4J038JC29
4J038JC38
4J038KA04
4J038KA06
4J038MA06
4J038MA14
4J038NA09
4J038NA11
4J038PA19
4J038PB05
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】 優れた強度と優れた自己修復性能とを併せ持った塗膜を形成可能なコーティング用組成物の提供。
【解決手段】 数平均分子量が5.0×10~1.0×10である高分子化合物と、イオン液体と、溶媒とを含み、前記イオン液体の含有量に対する、前記高分子化合物の含有量の質量基準の比が0.15以上、1.00未満である、コーティング用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が5.0×10~1.0×10である高分子化合物と、イオン液体と、溶媒とを含み、前記イオン液体の含有量に対する、前記高分子化合物の含有量の質量基準の比が0.15以上、1.00未満である、コーティング用組成物。
【請求項2】
前記数平均分子量が1.4×10以上である、請求項1に記載のコーティング用組成物。
【請求項3】
前記比が0.65以下である、請求項1又は2に記載のコーティング用組成物。
【請求項4】
前記高分子化合物がポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ(メタ)アクリルアミド、及び、ポリ(メタ)アクリロニトリルからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載のコーティング用組成物。
【請求項5】
前記高分子化合物がポリ(メタ)アクリル酸、又は、ポリ(メタ)アクリル酸エステルである、請求項4に記載のコーティング用組成物。
【請求項6】
前記高分子化合物がポリメタクリル酸、又は、ポリメタクリル酸エステルである、請求項4に記載のコーティング用組成物。
【請求項7】
前記イオン液体が、以下の式8で表されるイオン液体である、請求項1~6のいずれか1項に記載のコーティング用組成物。
【化1】

(式1中、R81、及び、R82はそれぞれ独立に、炭素数が1~10のアルキル基を表し、R83、及び、R84は、それぞれ独立に1価の有機基を表す)
【請求項8】
前記式8中のR83、及び、R84がそれぞれ独立に、パーフルオロアルキル基である、請求項7に記載のコーティング用組成物。
【請求項9】
前記式8中、R83、及び、R84がトリフルオロメチル基である、請求項8に記載のコーティング用組成物。
【請求項10】
前記溶媒が、ケトン系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒、及び、エーテル系溶媒からなる群より選択される少なくとも1種の溶媒である、請求項1~9のいずれか1項に記載のコーティング用組成物。
【請求項11】
前記溶媒が、アセトン、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、及び、テトラヒドロフランからなる群より選択される少なくとも1種の溶媒である、請求項10に記載のコーティング用組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載のコーティング用組成物により形成された、膜。
【請求項13】
基材と、前記基材上に形成された請求項12の膜とを有する、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング用組成物、膜、及び、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン液体を含む被覆層を有する複合フィルムが知られている。特許文献1には、「支持体と、表面被覆層とを有する複合フィルムであって、前記表面被覆層が、前記表面被覆層中の全固形分に対してイオン液体を0.05質量%~10質量%含有している、複合フィルム。」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-77786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の複合フィルムの表面被覆層は、自己修復性能が不十分で改善の余地があった。そこで本発明は優れた強度と優れた自己修復性能とを併せ持った塗膜を形成可能なコーティング用組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、膜、及び、積層体を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0006】
[1] 数平均分子量が5.0×10~1.0×10である高分子化合物と、イオン液体と、溶媒とを含み、上記イオン液体の含有量に対する、上記高分子化合物の含有量の質量基準の比が0.15以上、1.00未満である、コーティング用組成物。
[2] 数平均分子量が1.4×10以上である、[1]に記載のコーティング用組成物。
[3] 上記比が0.65以下である、[1]又は[2]に記載のコーティング用組成物。
[4] 上記高分子化合物がポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ(メタ)アクリルアミド、及び、ポリ(メタ)アクリロニトリルからなる群より選択される少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載のコーティング用組成物。
[5] 上記高分子化合物がポリ(メタ)アクリル酸、又は、ポリ(メタ)アクリル酸エステルである、[4]に記載のコーティング用組成物。
[6] 上記高分子化合物がポリメタクリル酸、又は、ポリメタクリル酸エステルである、[4]に記載のコーティング用組成物。
[7] 上記イオン液体が、後述する式8で表されるイオン液体である、[1]~[6]のいずれかに記載のコーティング用組成物。
[8] 後述する式8中のR83、及び、R84がそれぞれ独立に、パーフルオロアルキル基である、[7]に記載のコーティング用組成物。
[9] 後述する式8中、R83、及び、R84がトリフルオロメチル基である、[8]に記載のコーティング用組成物。
[10] 上記溶媒が、ケトン系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒、及び、エーテル系溶媒からなる群より選択される少なくとも1種の溶媒である、[1]~[9]のいずれかに記載のコーティング用組成物。
[11] 上記溶媒が、アセトン、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、及び、テトラヒドロフランからなる群より選択される少なくとも1種の溶媒である、[10]に記載のコーティング用組成物。
[12] [1]~[11]のいずれかに記載のコーティング用組成物により形成された、膜。
[13] 基材と、基材上に形成された[12]の膜とを有する、積層体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、優れた強度と優れた自己修復性能とを併せ持った塗膜を形成可能なコーティング用組成物が提供できる。また、本発明によれば、膜、及び、積層体も提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0009】
また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートの双方、又は、いずれかを表し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルの双方、又は、いずれかを表す。また、「(メタ)アクリロイル」はアクリロイル及びメタクロイルの双方、又は、いずれかを表す。
【0010】
[組成物]
本発明の実施形態に係る組成物は、数平均分子量が5.0×10~1.0×10である高分子化合物と、イオン液体と、溶媒とを含み、イオン液体の含有量に対する、高分子化合物の含有量の質量基準の比(高分子化合物/イオン液体、以下「P/I比」ともいう。)が0.15以上、1.00未満である、コーティング用組成物である。以下では、本発明の各成分について詳述する。
【0011】
<高分子化合物>
本コーティング用組成物は、数平均分子量が5.0×10~1.0×10である高分子化合物を含有する。高分子化合物の数平均分子量が5.0×10未満であると、得られる塗膜は強度が不十分となる。一方、1.0×10を超えると、取り扱い性が不十分となる。
【0012】
より優れた本発明の効果を有する塗膜が得られる観点では、高分子化合物の数平均分子量は9.0×10以上が好ましく、1.3×10以上がより好ましく、1.4×10以上が更に好ましい。
高分子化合物の数平均分子量が1.4×10以上だと、得られる塗膜はより優れた自己修復性能を有する。なお、高分子化合物の数平均分子量は、実施例に記載された方法により測定される値を意味する。
【0013】
高分子化合物の重合度は特に制限されないが、5,000以上が好ましく、9,000以上がより好ましく、14,000以上が更に好ましい。上限は特に制限されないが、100,000以下が好ましい。
【0014】
コーティング用組成物中における高分子化合物の含有量は、P/I比が0.15以上、1.00未満となるよう調整される。
上記P/I比が0.15未満であると、得られる塗膜の強度が不十分となる。一方、上記P/I比が1.00以上だと、自己修復性能が不十分となる。
P/I比が0.65以下であると、得られる塗膜はより優れた自己修復性能を有する。また、上記の比が0.40以上であると、得られる塗膜はより優れた本発明の効果を有する。
【0015】
本明細書において、P/I比は、後述するコーティング用組成物の製造方法に応じて、異なる方法で算出される。
高分子化合物とイオン液体と溶媒とを混合して、コーティング用組成物を調製する場合、その仕込み比をもとに、含有量が計算される。
イオン液体中でラジカル重合性化合物を重合させて高分子化合物を得て、溶媒を加えてコーティング用組成物を調製する場合、ラジカル重合性化合物の仕込み量に、ラジカル重合性化合物の転化率を掛けて、得られるイオンゲル(高分子化合物とイオン液体の複合物)における高分子化合物の含有量を算出したうえで、上記P/I比が算出される。
【0016】
コーティング用組成物の全体に対するイオン液体の含有量としては、P/I比が所定の範囲内となれば特に制限されず、例えば、組成物の全質量を100質量%としたとき、1~20質量%が好ましい。
なお、コーティング用組成物は、高分子化合物の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。コーティング用組成物が2種以上の高分子化合物を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0017】
高分子化合物としては、公知の高分子化合物が使用可能であるが、より優れた本発明の効果を有するコーティング用組成物が得られる観点では、ラジカル重合性化合物を重合させて得られる高分子化合物が好ましい。
【0018】
このようなラジカル重合性化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及び、クロトン酸等のカルボキシ基含有化合物、並びに、そのエステル類;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヘキシル(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、及び、N-メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド等のアミド系化合物;(メタ)アクリロニトリル等のシアノ(メタ)アクリレート系化合物;等が挙げられる。
【0019】
高分子化合物としては、より優れた本発明の効果を有するコーティング用組成物が得られる観点で、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ(メタ)アクリルアミド、及び、ポリ(メタ)アクリロニトリルからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、ポリ(メタ)アクリル酸、又は、ポリ(メタ)アクリル酸エステルがより好ましく、ポリメタクリル酸、又は、ポリメタクリル酸エステルが更に好ましい。
【0020】
<イオン液体>
本明細書において、イオン液体とは、カチオンとアニオンとの組合せにより形成される、大気圧下における融点が25℃以下である不揮発性の塩を意味する。
【0021】
イオン液体を構成するカチオンは、有機カチオン、及び、金属錯体カチオンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、有機カチオンを含有することが好ましく、有機カチオンからなることが好ましい。なお、本明細書において、有機カチオンとは、金属原子を含有せず、炭素原子を少なくとも1つ有するカチオンを意味する。
【0022】
有機カチオンとしては特に制限されないが、例えば、オニウム等が挙げられる。より具体的には、アンモニウムイオン(例えば、R )、イミニウムイオン(例えば、R C=N )、スルホニウムイオン(例えば、R )、オキソニウムイオン(例えば、R )、ホスホニウムイオン(代表構造:R )、及び、ヨードニウムイオン(例えば、R )等が挙げられる。
なお、上記各式中、Rはアルキル基、アリール基、及び、ヘテロ環基等の置換基を表す。Rは水素原子、又は、1価の置換基を表す。分子中の複数のR、分子中の複数のR、又は、分子中のRとRは、互いに結合して環を形成してもよい。また、分子中の2つのR、又は、2つのRが共同して二重結合の基(例えば、=O、=S、=NR)を形成してもよい。
【0023】
金属錯体カチオンとしては特に制限されないが、フェロセン系、コバルトセン系、ルテニウム系、並びに、リチウム、及び、ナトリウム等の高ルイス酸性をクラウンエーテル等の配位によって下げた溶媒和イオン等が挙げられる。
【0024】
カチオンの他の形態としては、アンモニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、オキサゾリウムイオン、オキサゾリニウムイオン、イミダゾリウムイオン、チアゾリウムイオン、及び、ホスホニウムイオン等が挙げられる。
【0025】
・アンモニウムイオン
アンモニウムイオンとしては、例えば、以下の式1で表されるカチオンが挙げられる。
【化2】
【0026】
式1中、Rはそれぞれ独立に水素原子、又は、一価の置換基を表し、複数あるRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。Rの一価の置換基としては特に制限されないが、例えば、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数1~15の置換又は無置換の炭化水素基が挙げられる。
【0027】
・ピロリジニウムイオン
ピロリジニウムイオンとしては、例えば、以下の式2で表されるカチオンが挙げられる。
【化3】
【0028】
式2中、Rはそれぞれ独立に水素原子、又は、一価の置換基を表し、複数あるRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。Rの一価の置換基としては特に制限されないが、例えば、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数1~15の置換又は無置換の炭化水素基が挙げられる。
【0029】
・ピペリジニウムイオン
ピペリジニウムイオンとしては、例えば、以下の式3で表されるカチオンが挙げられる。
【化4】
【0030】
式3中、Rはそれぞれ独立に水素原子、又は、一価の置換基を表し、複数あるRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。Rの一価の置換基としては特に制限されないが、例えば、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数1~15の置換又は無置換の炭化水素基が挙げられる。
【0031】
・ピリジニウムイオン
ピリジニウムイオンとしては、例えば、以下の式4で表されるカチオンが挙げられる。
【化5】
【0032】
式4中、Rはそれぞれ独立に水素原子、又は、一価の置換基を表し、複数あるRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。Rの一価の置換基としては特に制限されないが、例えば、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数1~15の置換又は無置換の炭化水素基が挙げられる。
【0033】
・イミダゾリウムイオン
イミダゾリウムイオンとしては、例えば、以下の式5で表されるカチオンが挙げられる。
【化6】
【0034】
式5中、Rはそれぞれ独立に水素原子、又は、一価の置換基を表し、複数あるRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。Rの一価の置換基としては特に制限されないが、例えば、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数1~15の置換又は無置換の炭化水素基が挙げられる。
【0035】
・ホスホニウムイオンとしては、例えば、以下の式6で表されるカチオンが挙げられる。
【化7】
【0036】
式6中、Rはそれぞれ独立に水素原子、又は、一価の置換基を表し、複数あるRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。Rの一価の置換基としては特に制限されないが、例えば、ヘテロ原子を含有してもよい炭素数1~15の置換又は無置換の炭化水素基が挙げられる。
【0037】
イオン液体を構成するアニオンとしては特に制限されず、公知のアニオンが使用できる。なかでも、アニオンとしては、ハロゲン原子を含有するアニオンが好ましい。ハロゲン原子としては特に制限されないが、フッ素、又は、臭素が好ましく、フッ素がより好ましい。
【0038】
ハロゲン原子を含有するアニオンとしては特に制限されないが、例えば、以下の式7で表されるアニオンが挙げられる。
【化8】
【0039】
式7中、Rはハロゲン化アルキル基を表し、フッ化アルキル基がより好ましい。複数あるRは同一でも異なってもよい。また、Rは互いに連結して環を形成してもよい。
【0040】
上記アニオンの具体例としては、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI)、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド(BETI)、N,N-ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド(NFSI)、及び、N,N-ヘキサフルオロプロパン-1,3-ジスルホニルイミド(cTFSI)等が挙げられる。
【0041】
イオン液体としては、より優れた本発明の効果を有するコーティング用組成物が得られる観点で以下の式8で表されるイオン液体が好ましい。
【0042】
【化9】
【0043】
式8中、R81、及び、R82はそれぞれ独立に、炭素数が1~10のアルキル基を表し、炭素数1~4のアルキル基がより好ましい。R81のアルキル基が有する炭素数と、R82が有する炭素数は同一でも異なってもよいが、異なることが好ましい。
【0044】
83、及び、R84は、それぞれ独立に1価の有機基を表し、同一でも異なってもよい。すなわち、アニオンの構造は、対称であっても、非対称であってもよい。
【0045】
1価の有機基としては、例えば、ヘテロ原子を有してもよい置換又は無置換の炭化水素基が好ましく、より優れた本発明の効果を有するイオンゲルが得られる点で、R83、及び、R84は、それぞれ独立に、ハロゲン化アルキル基であることが好ましく、パーフルオロアルキル基が好ましい。
なお、ハロゲン化アルキル基の炭素数は特に制限されないが、1~10個が好ましく、1~8個がより好ましく、1~6個が更に好ましい。
【0046】
パーフルオロアルキル基としては、-C、-C、-C、及び、-CFからなる群より選択される少なくとも1種の基が好ましく、得られる塗膜がより優れた自己修復性能を有する観点では、-CF(トリフルオロメチル基)がより好ましい。
【0047】
コーティング用組成物におけるイオン液体の含有量としては、P/I比が所定の範囲内となれば特に制限されないが、例えば、コーティング用組成物の全質量に対して、5~30質量%が好ましい。なお、コーティング用組成物は、イオン液体の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。コーティング用組成物が、2種以上のイオン液体を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0048】
<溶媒>
コーティング用組成物が含有する溶媒としては、高分子化合物、及び、イオン液体と相溶性が高いことが好ましい。溶媒としては、水、有機溶媒、及び、これらの混合物が挙げられる。コーティング用組成物がより優れた取り扱い性を有する観点では、溶媒としては有機溶媒が好ましい。
【0049】
溶媒としては例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、グリセリン、及び、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒;酢酸などの酸;アセトン、メチルエチルケトン、及び、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ホルムアミド、ジメチルアセトアミド、及び、N-メチルピロリドン等のアミド系溶媒;アセトニトリル、及び、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒;酢酸メチル、及び、酢酸エチル等のエステル系溶媒;ジメチルカーボネート、及び、ジエチルカーボネート等のカーボネート系溶媒;ベンゼン、トルエン、及び、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;クロロホルム、及び、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒;ジエチルエーテル、及び、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;グリコール系溶媒;アミン系溶媒;チオール系溶媒;等が挙げられる。
【0050】
この中でも、ケトン系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒、及び、エーテル系溶媒が好ましく、具体的には、アセトン、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、及び、テトラヒドロフラン等が好ましい。
【0051】
コーティング用組成物における溶媒の含有量としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有するコーティング用組成物が得られる点で、一般にコーティング用組成物の全質量に対して、10~90質量%が好ましい。なお、コーティング用組成物は、溶媒の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。コーティング用組成物が、2種以上の溶媒を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0052】
<その他の成分>
本コーティング用組成物は、上記の各成分を含有していれば、本発明の効果を奏する範囲内で他の成分を含有していてもよい。このような成分としては例えば、充填材、顔料、沈降防止剤、消泡剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、表面調整剤、粘度調整剤、レベリング剤、分散剤、及び、防腐剤等が挙げられる。
【0053】
[コーティング用組成物の製造方法]
コーティング用組成物の製造方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。例えば、高分子化合物を溶媒に溶解させて高分子化合物溶液を得て、イオン液体を溶媒で希釈してイオン液体希釈液を得て、高分子化合物溶液とイオン液体希釈液とを混合してコーティング用組成物を得る方法が挙げられる。
【0054】
高分子化合物の数平均分子量が高い場合でも、より短時間でより均一なコーティング用組成物が得られる観点では、以下の工程を有するコーティング用組成物の製造方法が好ましい。
【0055】
(コーティング用組成物の製造方法の好適形態)
・ラジカル重合性化合物(M)と、ラジカル重合開始剤(RI)と、イオン液体(I)とを含有し、ラジカル重合性化合物の含有量に対する、ラジカル重合開始剤の含有量の質量基準の比(ラジカル重合開始剤/ラジカル重合性化合物、以下、「RI/M比」ともいう。)が5×10-5~2×10-3であり、イオン液体の含有量に対する、ラジカル重合性化合物の含有量の質量基準の比(ラジカル重合性化合物/イオン液体、以下、「M/I比」ともいう。)が0.15以上、1.00未満である重合用組成物(プレゲル溶液)を調製する工程(重合用組成物調製工程)
・重合用組成物中で、ラジカル重合性化合物を重合させて、数平均分子量が500,000~10,000,000である高分子化合物を生成し、高分子化合物と、イオン液体とを含有するイオンゲルを得る工程(重合工程)
・イオンゲルに溶媒を添加して、コーティング用組成物を得る工程(溶解工程)
【0056】
上記製造方法によれば、イオン液体と高分子化合物とを含有する均一なイオンゲルがより短時間で合成でき、それを希釈して得られるコーティング用組成物もより優れた均一性を有し、かつ、製造に要する時間もより少なくて済む。
【0057】
一般に、数平均分子量が500,000(好ましくは900,000)以上の高分子化合物を得ようとしたとき、重合用組成物中におけるラジカル重合開始剤の含有量を低下させるだけでは、ラジカル重合性化合物(モノマー)の転化率が十分に上がらず、所望の高分子量の化合物は得られないと考えられてきた。
しかし、本発明者らの検討によれば、驚くべきことに、イオン液体中においては、RI/M比を5×10-5~2×10-3とすることによって、所望の分子量を有する高分子化合物とイオン液体とを含有する均一なイオンゲルを得られることを知見している。本製造方法は、上記知見をもとに完成されたものである。
【0058】
・重合用組成物調製工程
本製造方法に用いる重合用組成物は、ラジカル重合性化合物、ラジカル重合性化合物、及び、イオン液体を含有する。以下では、重合用組成物が含有する各成分について詳述する。
【0059】
(ラジカル重合性化合物)
ラジカル重合性化合物は、分子内に少なくとも1つのラジカル重合性基を有する化合物であって、分子内に1つのラジカル重合性基を有する化合物が好ましい。
【0060】
ラジカル重合性基としては、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、及び、アリル基等のエチレン性不飽和結合を有する基が挙げられる。なかでも、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0061】
ラジカル重合性化合物の分子量としては特に制限されないが、一般に50以上が好ましく、1000以下が好ましい。
【0062】
ラジカル重合性化合物としては、(メタ)アクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及び、クロトン酸等のカルボキシ基含有化合物、並びに、そのエステル類;(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヘキシル(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、及び、N-メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド等のアミド系化合物;(メタ)アクリロニトリル等のシアノ(メタ)アクリレート系化合物;等が挙げられある。
【0063】
ラジカル重合性化合物としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、及び、(メタ)アクリロニトリルからなる群より選択される少なくとも1種の化合物が好ましく、(メタ)アクリル酸、又は、(メタ)アクリル酸エステルがより好ましい。
【0064】
重合用組成物におけるラジカル重合性化合物の含有量は、RI/M比が、5×10-5~2×10-3となるよう調整される。RI/M比は、1×10-3未満が好ましく、5×10-4未満がより好ましく、3×10-4未満が更に好ましい。なお、上記の比は、有効数字1桁で丸めるものとする。
【0065】
RI/M比が5×10-5以上だとラジカル重合性化合物の転化率がより向上する。転化率が向上すると、得られるイオンゲル中にラジカル重合性化合物がより残留しにくく、コーティング用組成物を用いて形成される塗膜の表面に欠陥がより生じにくくなる。
一方、RI/M比が2×10-3以下だと、重合度がより高まり、得られる塗膜がより優れた強度を有する。
【0066】
なお、RI/M比が1×10-3未満であると、高分子化合物の数平均分子量が大きくなりやすい点で好ましく、5×10-4未満であると、高分子化合物の数平均分子量がより大きくなりやすい点で好ましい。
【0067】
なお、重合用組成物は、ラジカル重合性化合物の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。重合用組成物が、2種以上のラジカル重合性化合物を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0068】
(ラジカル重合開始剤)
重合用組成物が含有するラジカル重合開始剤としては、熱ラジカル重合開始剤、及び、光ラジカル重合開始剤が挙げられる。
【0069】
熱ラジカル重合開始剤としては、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジ-t-ブチルパーオキシド、クメンパーヒドロキシド、アセチルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、及び、ラウロイルパーオキシド等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル等のアゾ化合物;等が挙げられる。
【0070】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、及び、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0071】
重合用組成物におけるラジカル重合開始剤の含有量は、RI/M比が所定の範囲内となるよう調整されることが好ましく、重合用組成物中におけるラジカル重合性化合物の含有量とイオン液体の含有量の合計を100質量部とした場合、0.0001~3質量部が好ましい。
なお、重合用組成物は、ラジカル重合開始剤の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。重合用組成物が、2種以上のラジカル重合開始剤を含有する場合には、その合計含有量が上記数値範囲内であることが好ましい。
【0072】
(イオン液体)
重合用組成物が含有するイオン液体は、コーティング用組成物が含有するイオン液体となるため、コーティング用組成物の成分として説明したイオン液体と同様のイオン液体が使用でき、好適形態も同様である。
【0073】
重合用組成物におけるイオン液体の含有量は、M/I比が0.15以上、1.00未満となるよう調整される。M/I比が0.65以下であると、得られる塗膜はより優れた自己修復性を有する。また、M/I比が0.40以上であると、得られる塗膜はより優れた本発明の効果を有する。
【0074】
重合用組成物は各成分を混合することにより調製可能である。混合の方法、及び、順番は特に制限されないが、例えば、ラジカル重合性化合物とラジカル重合開始剤とを混合し、その後、イオン液体を混合する方法等が挙げられる。
【0075】
・重合工程
重合工程は、重合用組成物中で、ラジカル重合性化合物を重合させて、数平均分子量が500,000~10,000,000である高分子化合物を生成し、高分子化合物と、イオン液体とを含有するイオンゲルを得る工程である。
【0076】
組成物中でラジカル重合性化合物を重合させ、数平均分子量が500,000~10,000,000である高分子化合物を生成する方法としては特に制限されず、ラジカル重合開始剤の種類に応じて公知の方法を適宜選択すればよい。
例えば、組成物が熱ラジカル重合開始剤を含有する場合には、不活性ガス雰囲気下で、室温~130℃の温度で、1~72時間加熱すればよい。
【0077】
ラジカル重合性化合物の転化率(%)としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有するイオンゲルが得られる観点で、70%以上であることが好ましく、70%を超えることが好ましく、90%以上が更に好ましく、90%を超えることが特に好ましい。上限は、一般的に100%以下である。
【0078】
ラジカル重合によって得られる高分子化合物の数平均分子量は5.0×10~1.0×10である。より優れた本発明の効果を有するコーティング用組成物が得られる観点では、高分子化合物の数平均分子量は9.0×10以上が好ましく、1.3×10以上がより好ましく、1.4×10以上が更に好ましい。なお、高分子化合物の数平均分子量は、実施例に記載された方法により測定される値を意味する。
【0079】
高分子化合物の重合度は特に制限されないが、5,000以上が好ましく、9,000以上がより好ましく、14,000以上が更に好ましい。上限は特に制限されないが、100,000以下が好ましい。
【0080】
ラジカル重合性化合物を重合させると、高分子化合物が生成し、高分子化合物とイオン液体とを含有するイオンゲルが得られる。
本製造方法によれば、ラジカル重合性化合物と、ラジカル重合開始剤と、イオン液体とを含有する均一な重合用組成物中でラジカル重合性化合物を重合させるために、得られるイオンゲルは優れた均一性を有する。また、RI/M比を所定の範囲としたとことで、分子量と転化率という従来はトレードオフの関係にあると考えられてきた2つのパラメータを併せて向上させることができる。そのため、得られるイオンゲルは優れた均一性を有し、結果としてより優れた本発明の効果を有するコーティング用組成物が得られる。
【0081】
・溶解工程
得られたイオンゲルに添加される溶媒は、コーティング用組成物中に含有される溶媒と同様の溶媒が使用でき、好適形態も同様である。
イオンゲルを溶解させる方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。
【0082】
(コーティング用組成物の使用方法)
本コーティング用組成物は、基材と、基材上に形成された膜とを有する積層体の製造に使用できる。
【0083】
コーティング用組成物を用いて、基材上に(塗)膜を形成する方法としては特に制限されないが、グラビアコート法、リバースコート法、ダイコート法、ブレードコーター、ロールコーター、エアナイフコーター、スクリーンコーター、バーコーター、及び、カーテンコーター等の公知のコーティング方法を用いて、コーティング用組成物の層を形成し、必要に応じて加熱して乾燥させて膜を形成すればよい。
【0084】
加熱の方法としては特に制限されず、ヒートローラー、ラミネーター、ホッ
トスタンプ、電熱板、サーマルヘッド、レーザー、送風乾燥機、オーブン、ホットプレート、赤外線乾燥機、及び、加熱ドラム等により行なうことができる。
【0085】
加熱温度としては特に制限されないが、各成分、及び、基材の熱変性を抑制しやすい観点では、20~120℃が好ましく、20~80℃がより好ましい。
【0086】
塗膜の厚みとしては特に制限されず、用途に応じて適宜選択可能であり、例えば、0.1μm~3mmが好ましい。
【0087】
[積層体]
積層体は、基材と、すでに説明したコーティング用組成物を用いて基材上に形成された(塗)膜とを有する複合体である。
【0088】
基材の材質としては特に制限されず、金属、樹脂、及び、ガラス等が使用できるが、フレキシブル性や軽量化の観点から、ガラスエポキシ、ポリエステル、ポリイミド、熱硬化型ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリアラミド、及び、液晶ポリマー等をフィルム状に成形した樹脂フィルム;ガラスフィルム;紙;等が挙げられる。なかでも、取扱い性に優れる点で、樹脂フィルムが好ましい。
【0089】
樹脂フィルム中の材質は、フィルム状に成型できる樹脂であれば特に制限なく使用できるが、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン(BT)樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、液晶樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、アラミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルスルホン、トリアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、及び、ポリアセチレン等が好ましい。
【0090】
基材の形状としては、平面、拡散面、凹面、凸面等の各種のフィルム基材として求められる形状であれば、いずれの形状であってもよい。また、基材の厚みとしては、生産時の作業性や成型の観点から、10μm~5mmが好ましい。
【0091】
基材上に形成される膜についてはすでに説明したとおりであり、好適形態も同様である。
【0092】
(用途)
本発明の実施形態に係る積層体は、基材上に形成された塗膜が優れた自己修復性と、優れた強度とを併せ持つため、メンテナンスが容易な外壁材料等として活用できる。また、イオン液体に由来して、帯電防止機能を有しており、優れた自己修復性能と相まってより信頼性の高い帯電防止被膜付き基材としても利用可能である。
【0093】
また、本コーティング組成物は、自動車等のコーティング剤、携帯電話等の電子機器等の画面の保護膜形成用のコーティング剤、及び、タッチパネルやペン入力装置等の保護膜形成用のコーティング剤としても使用可能である。
【実施例0094】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0095】
[実施例1:コーティング用組成物の調製]
メタクリル酸メチル(MMA、関東化学製)を活性アルミナのショートカラムに通して重合禁止剤のヒドロキノンを取り除いて精製した。次に、5mLバイアル瓶にα,α′-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)粉末(0.1質量部)と精製したMMA(30質量部)を加えて完全に溶解させた。次に、得られた溶解液に、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([C2mIm][TFSI]、Iolitec製)の70質量部を加え、均一透明なプレゲル溶液(重合用組成物に該当する)を得た。
【0096】
次に、バイアル瓶の口をシリコーン製ダブルキャップで密閉し、シリンジ針を用いてアルゴンで10分間バブリングした。次に、80℃に加熱したオーブンにバブリング済みのバイアル瓶を入れ、攪拌せずに24時間加熱して、イオンゲルを得た。PMMAの分子量は、1,740,000、重合度は4,884であった。また、コンバージョン(転化率)は98%であった。
【0097】
得られたイオンゲル中におけるPMMA(ポリメチルメタクリレート、高分子化合物に該当する)の含有量は、プレゲル溶液中におけるMMAの含有量(30質量部)×0.98(転化率)によって29質量部と計算された。
その結果、イオンゲル中における高分子化合物の含有量/イオン液体の含有量の比は0.41と計算された。
【0098】
得られたイオンゲルを用い、塗膜強度を評価するための引張試験で用いるサンプル(膜)を作製した。具体的には、1mmのシリコーンスペーサーを用いてイオンゲルをホットプレスし、膜1を得た。
【0099】
この膜1は、溶媒を含まないこと以外はコーティング用組成物と成分は同一であり、コーティング用組成物を用いて得られる塗膜と同様の特性を有する膜である。以下では、上記の方法によって得られた膜の物性を、コーティング用組成物を用いて得られる塗膜の物性として評価した。
【0100】
なお、上記イオンゲルからコーティング用組成物が得られ、積層体も得られることを確認した。まず、得られたイオンゲルの含有量が20質量%となるようにアセトンを加え、イオンゲルを溶解させてコーティング用組成物1を調製した。
【0101】
次に、コーティング用組成物1を用いて積層体を製造した。ポリエチレンテレフタレート製基材(厚み250μm)に乾燥後の膜厚が10μmとなるよう、バーコーター(ASONE、2-9572-13)を用いてコーティング用組成物を塗工し、組成物層を得た。得られた組成物層を室温で自然乾燥させ、厚み10μmの塗膜(イオンゲルの膜)を有する積層体を製造した。
【0102】
[実施例2:膜2の調製]
ポリメタクリル酸メチル粉末(analytical standard、for GPC、数平均分子量1,680,000、30質量部)を10質量%になるようジクロロメタンに溶解し溶液を得た。次に、溶液を[CmIm][TFSI](70質量部)と混合し、コーティング用組成物2を得た。
【0103】
得られたコーティング用組成物2をガラスシャーレに流し込み、24時間室温で静置し、ジクロロメタンを揮発させ、さらに24時間120℃で真空乾燥し、塗膜を得た。塗膜は厚み1mmのシリコーンスペーサーを用いてホットプレスで厚みを調整した。
【0104】
実施例1、及び、実施例2の結果から、基材の種類に依らず、コーティング用組成物を用いて積層体を形成できることが明らかになった。以下の試験では、コーティング用組成物を用いて形成される塗膜の物性を評価するため、溶媒を含まないイオンゲルを調製し、それを膜状に加工して、評価試験に供した。
【0105】
[実施例3]
プレゲル溶液中におけるMMAの含有量を40質量部、イオン液体の含有量を60質量部としたことを除いては、実施例1と同様にしてイオンゲルを調製し、膜3を作製した。
転化率は99%であり、イオンゲル中におけるPMMAの含有量は40質量部で、高分子化合物/イオン液体の比は0.67だった。
[実施例4]
イオン液体を1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドに代えて、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドを用いたことを除いては実施例1と同様にして、イオンゲルを調製し、引張試験用の膜4を作製した。
転化率は100%であり、イオンゲル中におけるPMMAの含有量は30質量部で、高分子化合物/イオン液体の比は0.43だった。
【0106】
[実施例5]
MMAに代えてエチルメタクリレート(EMA)を用いたことを除いては実施例1と同様にして、イオンゲルを調製し、引張試験用の膜5を作製した。
転化率は99%であり、イオンゲル中にけるポリエチルメタクリレート(高分子化合物)の含有量は30質量部で、高分子化合物/イオン液体の比は0.43だった。
【0107】
[比較例1]
MMAの含有量に対するAIBNの含有量の質量基準の比を3×10-3としたことを除いては実施例1と同様にして、イオンゲルを調製し、引張試験用の膜C1を作製した。
イオンゲル中におけるPMMAの数平均分子量は489,000であり、重合度は4,884だった。転化率は100%であり、イオンゲル中にける高分子化合物の含有量は30質量部で、高分子化合物/イオン液体の比は0.43だった。
【0108】
[比較例2]
プレゲル溶液中のMMAの含有量を50質量部、イオン液体の含有量を50質量部としたことを除いては、実施例1と同様にして、イオンゲルを調製し、引張試験用の膜C2を作製した。
イオンゲル中におけるPMMAの数平均分子量は1,140,000であった。転化率は100%であり、イオンゲル中にけるPMMAの含有量は30質量部で、高分子化合物/イオン液体の比は0.43だった。
【0109】
[比較例3]
MMA、及び、二メタクリル酸エチレン(EGDMA)を、それぞれ活性アルミナのショートカラムに通して重合禁止剤を取り除いて精製した。次に、5mLのバイアル瓶にAIBN粉末と精製したMMA(30質量部)、及び、EGDMA(MMAに対して0.2モル%)を加え完全に溶解させた。
【0110】
次に、得られた溶解液に[CmIm][TFSI]を加え(70質量部)、均一透明なプレゲル溶液を得た。プレゲル溶液は、アルゴンで10分間バブリングした。バブリングしたプレゲル溶液を、厚み1mmのシリコーンスペーサーを二枚のガラス板ではさんだ型の中に流し込み、80℃に加熱したオーブンに入れ24時間加熱して、イオンゲルの膜C3を得た。
【0111】
得られたイオンゲルの数平均分子量は測定できなかった。プレゲル溶液が二メタクリル酸エチレンを含有しているため、イオンゲル中の高分子化合物は架橋構造を有しているためと考えられる。本明細書においては、このような架橋構造を有する高分子化合物の分子量は「無限大」と定義する。
【0112】
[コンバージョン(転化率)]
ラジカル重合性化合物のコンバージョン(単位:%、転化率)は以下の手順で測定した。なお、以下の説明は、ラジカル重合性化合物としてMMAを用いた場合について説明したものであるが、EMAを用いた場合も同様である。
【0113】
まず、イオンゲルをクロロホルム-d(ACROS ORGANICS社製、品番46402-0075)に完全に溶解させ、溶液を得た。次に、得られた溶液をNMR(Nuclear Magnetic Resonance)サンプルチューブに導入し、25℃においてNMR測定(JEOL,ECZ 400S)を行った。
得られたNMRスペクトルからイオンゲル中の残留モノマー(ラジカル重合性化合物)数とポリマーのMMAユニット数の比を算出し、以下の式によりコンバージョンを得た。
【0114】
【数1】
【0115】
[数平均分子量]
得られたイオンゲルの数平均分子量はGPCで測定した。測定手順の詳細は以下のとおりである。
【0116】
(前処理)
各イオンゲルを再沈殿精製した。具体的には、イオンゲルを1質量%になるようアセトンに溶解させた。次に、その溶液を多量のメタノール(体積比で20倍)に滴下し、ポリマー(高分子化合物)を沈殿させた。吸引濾過によりポリマー粉末を得た。
【0117】
同様の手順で再びアセトンに溶解、沈殿、濾過をし、得られたポリマー粉末を60℃で24時間真空乾燥した。次にポリマー粉末を0.1質量%になるよう溶離液(10mM LiBr/DMF)に溶解させ、0.45μmのシリンジフィルターを通してから測定に用いた。
【0118】
(GPC測定)
装置構成
・デガッサー/日本分光(DG-2080-53)
・ポンプ/日本分光(PU-2080)
・インターフェイスボックス/日本分光(LC-Net II/ADC)
・カラムオーブン/日本分光(CO-4060)
・RI検出器/日本分光(RI-4030)
・カラム/Shodex(登録商標) SB-806M HQを2本直結
・ガードカラム/Shodex(登録商標) SB-G 6B
【0119】
標準試料
・種類: ポリメチルメタクリレート(PMMA)
・メーカー: Shodex(登録商標)
・製品: STANDARD M-75
・分子量範囲: 2,870~965,000 (7点)
【0120】
測定条件
・カラム温度: 40℃
・流速: 1mL/min
・溶離相: 10mM LiBr/DMF
・検出: RI
【0121】
解析
標準試料7点に対して三次式の線形回帰(最小二乗法)により検量線を作成した。分子量が965,000を超えるものは、上記検量線を用いて外挿した。
【0122】
[引張試験、及び、自己修復性試験]
(試験片の作製)
イオンゲルの膜をダンベル型カッター(メーカー:株式会社ダンベル 型式:SDMP-1000-D 形状:JIS K-6251-7号)で打ち抜き、ダンベル型の試験片を得た。作成した試験片の試験部分の中心をカッターナイフで切断し、直ちに切断面を接触させ室温で6時間静置した。
【0123】
(引張試験条件)
引張試験は、試験片を材料試験機(SIMADZU製、AGS-X 100N)に取り付け、室温、10cm/minの速度で行った。
【0124】
(自己修復率の算出方法)
切断前の試験片、及び、切断後して修復した後の試験片について、破断エネルギー(応力-歪み曲線の積分値)をそれぞれ算出し、その比を百分率で表したものを自己修復率(%)とした。以下は算出方法の詳細である。
【0125】
引張試験より得られる応力εおよび歪みσはそれぞれ以下のとおり表される。
【0126】
【数2】
【0127】
ここでxは変位、Lは試験部位の長さ、g(x)は変位xにおける試験力、Aは試験部位の面積を表す。イオンゲルの破断エネルギーEは、σ、及び、εを用いて以下の式で表される。
【0128】
【数3】
【0129】
ここで、εは破断歪みを表す。以上から、イオンゲルの自己修復率は、切断せずに測定したイオンゲルの破断エネルギーEf,original、及び、修復後のイオンゲルの破断エネルギーEf,healedを用いて以下の式で算出される。
【0130】
【数4】
【0131】
表1は、各実施例、及び、比較例のプレゲル溶液の組成である。なお、実施例2のコーティング用組成物はPMMAとイオン液体と溶媒とを混合して作製したため、いずれも「-」と表示されている。「調製方法の概要」欄の、「PMMAから作製」とは上記作製方法を表している。
一方、「in situ重合」とあるのは、いずれもプレゲル溶液を用いて作製されたことを表している。
【0132】
また、表1中、架橋剤の欄に「-」とあるのは、架橋剤を用いなかったことを表している。なお、EGDMAの含有量は、ラジカル重合性化合物の含有量に対するモル%である。
【0133】
【表1】
【0134】
表2は、表1のプレゲル溶液から作製したイオンゲルの組成を表している。転化率の欄の数値は、「in situ重合」でイオンゲルを作製した場合のラジカル重合性化合物の転化率を表している。実施例2の「-」は、製造方法が異なるためにデータが無いことを表し、比較例3の「-」は、測定できなかったことを表している。
【0135】
【表2】
【0136】
表3は、各膜の引張試験の結果(破断応力と自己修復率)を表している。比較例3の自己修復率が「-」とあるのは、切断した試験片が接合しなかったため、試験ができなかったことを表しており、自己修復性が全くなかったことを表している。
【0137】
【表3】
【0138】
表1~表3の結果から、数平均分子量が5.0×10~1.0×10である高分子化合物と、イオン液体と、溶媒とを含み、イオン液体の含有量に対する、高分子化合物の含有量の質量基準の比が0.15以上、1.00未満である、コーティング用組成物を用いて得られる膜1~膜5は優れた強度と、優れた自己修復性能を有していることがわかった。
【0139】
一方、数平均分子量が5.0×10未満である膜C1は、自己修復性能は有しているののの、強度が不十分だった。
また、イオン液体の含有量に対する、高分子化合物の含有量の質量基準の比が1.00である膜C2は、一定程度の強度を有しているものの、自己修復性能が不十分だった。
また、高分子化合物の分子量が測定できなかった膜C3は、一定程度の強度を有しているものの、自己修復性能がまったくなかった。
【0140】
また、高分子化合物の数平均分子量が1.4×10以上である膜1は、膜2と比較して、より優れた自己修復性能を有していた。
【0141】
また、イオン液体の含有量に対する、高分子化合物の含有量の質量基準の比が0.65以下である膜1は、膜3と比較して、より優れた自己修復性能を有していた。
【0142】
また、イオン液体が、式8で表され、式8のR83、及び、R84がトリフルオロメチル基である膜1は、膜4と比較して、より優れた自己修復性能を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明の実施形態に係る積層体は、基材上に形成された塗膜が優れた自己修復性と、優れた強度とを併せ持つため、メンテナンスが容易な外壁材料等として活用できる。また、イオン液体に由来して、帯電防止機能を有しており、優れた自己修復性能と相まってより信頼性の高い帯電防止被膜付き基材としても利用可能である。