(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022014788
(43)【公開日】2022-01-20
(54)【発明の名称】ヘッドライト、及びこれに用いられる光源部材
(51)【国際特許分類】
F21S 41/176 20180101AFI20220113BHJP
F21S 41/16 20180101ALI20220113BHJP
F21S 41/141 20180101ALI20220113BHJP
F21S 41/32 20180101ALI20220113BHJP
F21V 5/00 20180101ALI20220113BHJP
F21V 5/10 20180101ALI20220113BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20220113BHJP
F21Y 115/30 20160101ALN20220113BHJP
F21W 102/00 20180101ALN20220113BHJP
【FI】
F21S41/176
F21S41/16
F21S41/141
F21S41/32
F21V5/00 610
F21V5/10
F21V5/00 320
F21Y115:10
F21Y115:30
F21W102:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020117337
(22)【出願日】2020-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】591075467
【氏名又は名称】冨士色素株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】311007545
【氏名又は名称】GSアライアンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩林 弘久
(72)【発明者】
【氏名】森 良平
(57)【要約】 (修正有)
【課題】波長変換部材の耐光性や耐熱性が高く、変換光の取り出し効率が良好であり、発光効率の高いヘッドライト及びこれに用いられる光源部材を提供する。
【解決手段】ヘッドライト1は、励起光L1を出射する光源2部と励起光L1を変換光L2に波長変換する波長変換部材3とを備える。波長変換部材3は、シリカを主成分とする固体ガラスと、前記固体ガラス中に分散した量子ドットと、を含有する。また、ヘッドライト1は、変換光L2をヘッドライト1の外部に出射する凹面状の反射鏡4を備える。光源部2は、反射鏡4により反射される変換光L2と被らない位置に配置される。波長変換部材3は、前記固体ガラス中に励起光L1を入射する入射面S1及び変換光L2を出射する出射面S2を有する蛍光体31と、蛍光体31の一部を覆って、入射面S1から入射した励起光L1を反射する反射層32とを備え、反射鏡4の焦点領域に配置される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光を出射する光源部と、
前記励起光を変換光に波長変換する波長変換部材と、を備え、
前記波長変換部材は、シリカを主成分とする固体ガラスと、前記固体ガラス中に分散した量子ドットと、を含有する、ヘッドライト。
【請求項2】
前記変換光を前記ヘッドライトの外部に出射する凹面状の反射鏡を備え、
前記光源部は、前記反射鏡により反射される前記変換光と被らない位置に配置され、
前記波長変換部材は、
前記固体ガラス中に前記励起光を入射する入射面及び前記変換光を出射する出射面を有する蛍光体と、
前記蛍光体の一部を覆って、前記入射面から入射した前記励起光を反射する反射層と、を備え、
前記反射鏡の焦点領域に配置される、請求項1に記載のヘッドライト。
【請求項3】
前記蛍光体は、波長500nmにおける屈折率が1.45~1.80である、請求項2に記載のヘッドライト。
【請求項4】
前記蛍光体は、長手方向の長さが3mm以上で且つ長手方向に垂直な断面の断面積が25mm2以上の円柱又は多角柱である、請求項2又は3に記載のヘッドライト。
【請求項5】
前記波長変換部材は、前記蛍光体を覆い、前記入射面から前記励起光を入射する入射窓及び前記出射面から前記変換光を出射する出射窓を有する反射層を備える、請求項4に記載のヘッドライト。
【請求項6】
前記入射窓は、開口面積が0.07~2mm2である、請求項5に記載のヘッドライト。
【請求項7】
前記出射窓は、前記蛍光体の長手方向の幅が1~2mmであり、前記蛍光体の長手方向の外周面の全周に渡って開口している、請求項5又は6に記載のヘッドライト。
【請求項8】
前記出射窓は、前記入射窓から前記蛍光体の長手方向の長さの2/3以上離れている、請求項5~7のいずれか1項に記載のヘッドライト。
【請求項9】
前記入射面は、前記蛍光体の長手方向の一端面である、請求項4~8のいずれか1項に記載のヘッドライト。
【請求項10】
前記入射面は、前記蛍光体の長手方向の外周面の一部である、請求項4~8のいずれか1項に記載のヘッドライト。
【請求項11】
前記入射面は、前記蛍光体の長手方向の外周面の一部であり、
前記入射窓は、前記蛍光体の長手方向の両端面のうち一方から3mm以内に配置される、請求項5~8のいずれか1項に記載のヘッドライト。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載のヘッドライトの前記光源部と前記波長変換部材とを備える光源部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドライト、及びこれに用いられる光源部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヘッドライトとして、励起光を出射する光源部と、励起光を変換光に波長変換する波長変換部材と、励起光を反射して波長変換部材に入射させ且つ変換光をヘッドライトの外部に出射する凹面状の反射鏡と、を備える、ヘッドライトが知られている(例えば、特許文献1)。そして、特許文献1では、光源部は、反射鏡により反射される変換光と被る位置に配置されており、波長変換部材としては蛍光体粉体が結着材料で結着したものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように、蛍光体粉体が結着材料で結着した波長変換部材を使用すると、粉体表面において励起光の散乱が生じ易くなり、変換光の取り出し効率が低下し、また、結着材料の種類によっては、耐光性や耐熱性が不十分となる場合があった。また、光源部が反射鏡により反射される変換光と被る位置に配置されたものでは、変換光の一部が光源部によって遮られ、ヘッドライトの発光効率が悪化するという問題があった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、波長変換部材の耐光性や耐熱性が高く、変換光の取り出し効率が良好であり、発光効率の高いヘッドライト、及びこれに用いられる光源部材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ヘッドライトは、励起光を出射する光源部と、前記励起光を変換光に波長変換する波長変換部材と、を備え、前記波長変換部材は、シリカを主成分とする固体ガラスと、前記固体ガラス中に分散した量子ドットと、を含有する。
【0007】
斯かる構成によれば、波長変換部材の固体ガラス中に分散した量子ドットに励起光を当てることにより、変換光を取り出すことができる。これにより、励起光の散乱が生じにくく、変換光の取り出し効率が高くなり、耐光性や耐熱性が良好になる。
【0008】
また、ヘッドライトは、前記変換光を前記ヘッドライトの外部に出射する凹面状の反射鏡を備え、前記光源部は、前記反射鏡により反射される前記変換光と被らない位置に配置され、前記波長変換部材は、前記固体ガラス中に前記励起光を入射する入射面及び前記変換光を出射する出射面を有する蛍光体と、前記蛍光体の一部を覆って、前記入射面から入射した前記励起光を反射する反射層と、を備え、前記反射鏡の焦点領域に配置される。
【0009】
斯かる構成によれば、反射鏡により反射される変換光と被らない位置から出射された励起光を、波長変換部材で変換光に波長変換し、反射鏡で反射させることにより、ヘッドライトの外部に変換光を出射することができる。これにより、反射鏡で反射された変換光が光源部に遮られることなく外部に出射されるので、ヘッドライトの発光効率を高くすることができる。
【0010】
また、ヘッドライトにおいて、前記蛍光体は、波長500nmにおける屈折率が1.45~1.80であることが好ましい。特に、蛍光体の波長500nmにおける屈折率が小さいほど、従来の蛍光体と比較して、空気との界面での反射をより小さくできるため好ましい。
【0011】
また、ヘッドライトにおいて、前記蛍光体は、長手方向の長さが3mm以上で且つ長手方向に垂直な断面の断面積が25mm2以上の円柱又は多角柱である、という構成でもよい。
【0012】
また、ヘッドライトにおいて、前記波長変換部材は、前記蛍光体を覆い、前記入射面から前記励起光を入射する入射窓及び前記出射面から前記変換光を出射する出射窓を有する反射層を備える、という構成でもよい。斯かる構成によれば、例えば、励起光を波長変換部材の中で反射させることにより、出射窓からの変換光の取り出し効率を高くすることができる。また、入射窓から入射する励起光が、出射窓から直接出射されにくい構造となるため、出射窓から出射された光にレーザー光(コヒーレント光)が混じりにくくなるという利点がある。
【0013】
また、ヘッドライトにおいて、前記入射窓は、開口面積が1~2mm2である、という構成でもよい。斯かる構成によれば、例えば、出射窓から出射される変換光の取り出し効率を高くすることや変換光の出射方向をコントロールすることができる。
【0014】
また、ヘッドライトにおいて、前記出射窓は、前記蛍光体の長手方向の幅が1~2mmであり、前記蛍光体の長手方向の外周面の全周に渡って開口している、という構成でもよい。斯かる構成によれば、例えば、出射窓から出射される変換光の取り出し効率を高くすることや変換光の出射方向をコントロールすることができる。
【0015】
また、ヘッドライトにおいて、前記出射窓は、前記入射窓から前記蛍光体の長手方向の長さの2/3以上離れている、という構成でもよい。斯かる構成によれば、例えば、入射窓から入射した励起光が出射窓から出射することを抑えることができる。
【0016】
また、ヘッドライトにおいて、前記入射面は、前記蛍光体の長手方向の一端面である、という構成でもよい。斯かる構成によれば、例えば、蛍光体の個体ガラスの中を流れる励起光の距離を確保することができ、個体ガラス中に分布する量子ドットと励起光とが衝突して変換光となる確率(変換光の取り出し効率)を高めることができる。
【0017】
また、ヘッドライトにおいて、前記入射面は、前記蛍光体の長手方向の外周面の一部である、という構成でもよい。斯かる構成によれば、例えば、光源部をヘッドライトの上側に配置することができるので、ヘッドライトの後側に光源部を配置するスペースがない場合に有効である。
【0018】
また、ヘッドライトにおいて、前記入射面は、前記蛍光体の長手方向の外周面の一部であり、前記入射窓は、前記蛍光体の長手方向の両端面のうち一方から3mm以内に配置される、という構成でもよい。斯かる構成によれば、例えば、変換光の取り出し効率を高めることができる。
【0019】
なお、光源部材は、前記光源部と前記波長変換部材とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るヘッドライトの概要図である。
【
図2】
図2は、同実施形態に係る波長変換部材の後面図及び正面図である。
【
図3】
図3は、グラフェン量子ドットを用いて得られた実施例1の蛍光体の蛍光スペクトルの結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、シリコン量子ドットを用いて得られた実施例3の蛍光体の蛍光スペクトルの結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、ペロブスカイト型量子ドットを用いて得られた実施例6の蛍光体の蛍光スペクトルの結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、他の実施形態に係るヘッドライトの概要図である。
【
図7】
図7は、他の実施形態に係るヘッドライトの概要図である。
【
図8】
図8は、他の実施形態に係る波長変換部材の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のヘッドライトにおける一実施形態について、
図1~
図5を参照しながら説明する。なお、各図(
図6~
図8も同様)において、図面の寸法比と実際の寸法比とは、必ずしも一致しておらず、また、各図面の間での寸法比も、必ずしも一致していない。
【0022】
<本発明のヘッドライト>
図1に示すように、ヘッドライト1は、励起光L1を出射する光源部2と、励起光L1を変換光L2に変換する波長変換部材3と、を備えていればよく、本実施形態では、更に変換光L2をヘッドライト1の外部(前方)に出射する凹面状の反射鏡4を備える例を示す。そして、ヘッドライト1は、例えば、自動車や電車などの車体に取り付けられる。
【0023】
[光源部]
光源部2は、励起光L1を出射する光源ユニット21と、励起光L1を波長変換部材3まで導く導光ユニット(不図示、省略可)と、を備える。そして、光源部2は、例えば、波長変換部材3の後方に配置され、自動車などの車体に取り付けられる。斯かる構成によれば、反射鏡4により反射される変換光L2と被らない位置に光源部2が配置され、反射鏡4で反射された変換光L2が光源部2に遮られることなく外部(前方)に出射されるので、ヘッドライト1の発光効率を高くすることができる。
【0024】
光源ユニット21としては、例えば、レーザダイオードや発光ダイオードなどを単体、複数又は組み合わせて用いることができる。導光ユニットは、光ファイバの他、レンズやミラーなどの光学系の組み合わせから成るものが例示される。光源ユニット21としてレーザダイオードを用いた場合、励起光L1を波長変換部材3に直接又は光ファイバを介して入射することができる。
【0025】
[反射鏡]
反射鏡4は、放物線をその対称軸を中心に回転させた曲面から成る形状であり、例えば、自動車などの車体に取り付けられる。斯かる形状によれば、波長変換部材3から出射された変換光L2を反射鏡4で反射させることにより、ヘッドライト1の前方から外部に変換光L2を出射することができる。また、反射鏡4の形状により、変換光L2の出射方向をコントロールすることができ、眩惑などを防止することができる。しかし、斯かる形状に限定されず、反射鏡4は、例えば、楕円曲線、双曲線又は他の非線形曲線をその対称軸を中心に回転させた曲面から成る形状であってもよい。
図1における反射鏡4は、断面を示している。
【0026】
また、反射鏡4は、例えば、波長変換部材3を嵌め込んで保持する貫通孔41を備える。貫通孔41は、例えば、反射鏡4の頂点に配置される。
【0027】
[波長変換部材]
波長変換部材3は、反射鏡4の焦点近傍に配置される。そして、波長変換部材3は、例えば、貫通孔41に嵌め込まれ、波長変換部材3の長手方向が反射鏡4の光軸と平行に保持される。しかし、斯かる構成に限定されず、波長変換部材3は、例えば、車体から延びる保持体に保持される、という構成であってもよい。なお、「光軸」とは、反射鏡4の中心(頂点)と焦点とを通る直線を意味する。
【0028】
また、本実施形態の波長変換部材3は、
図1及び
図2に示すように、励起光L1を変換光L2に変換する蛍光体31と、蛍光体31を覆い、励起光L1及び変換光L2を反射する反射層32と、を備える。
図2(a)は、波長変換部材3の後面図であり、
図2(b)は波長変換部材3の正面図である。
【0029】
蛍光体31は、シリカを主成分とする固体ガラスと、固体ガラス中に分散した量子ドットとを含有する。斯かる構成によれば、固体ガラス中に分散した量子ドットに励起光L1を当てることにより、変換光L2を取り出すことができる。これにより、励起光L1の散乱が生じにくく、変換光L2の取り出し効率が高くなり、蛍光体31の耐光性や耐熱性が良好になる。
【0030】
また、蛍光体31は、例えば、円柱や多角柱など長手方向に垂直な断面が一定形状であるものの他、円錐台、四角錐台など長手方向に垂直な断面が規則的に変化するもの、紡錘状、断面が円形から三日月形に変化する形状など、長手方向に垂直な断面が不規則に変化するものなどいずれでもよい。
【0031】
蛍光体31の形状としては、円柱、四角柱、六角柱が好ましい。蛍光体31の形状が円柱の場合、長手方向に垂直な断面(以下、垂直断面)が円形状であるので、励起光L1及び変換光L2を反射層32で均等に反射することができる。そして、蛍光体31の形状が円柱以外の場合は、反射鏡4との組み合わせで励起光L1のロスを抑えて、変換光L2の出射方向の配光を設計することができる。特に、垂直断面が自由曲面の場合、変換光L2の出射方向の配光を設計することができる。さらに、垂直断面の形状によっては、複数の励起光L1や変換光L2を束ねることができるので、ヘッドライト1から出射される変換光L2の色を変更することができる。特に、複数の励起光L1や変換光L2を束ねる場合、蛍光体31の形状が六角柱(垂直断面が六角形)であることが好ましい。
【0032】
蛍光体31の長手方向の長さX1は、3mm以上であり、変換光L2の取り出し効率を高める観点から、7mm以上が好ましく、10mm以上がより好ましい。また、蛍光体31の長手方向に垂直な断面の面積は、25mm2以上であり、変換光L2の取り出し効率を高める観点から、20mm2以上が好ましく、12mm2以上がより好ましい。
【0033】
蛍光体31は、波長500nmにおける屈折率が1.45~1.80であることが好ましく、1.45~1.70であることがより好ましく、1.45~1.60であることが更に好ましい。屈折率が大きくなると蛍光体31の表面での光の散乱が大きくなり、蛍光体31の中に励起光L1が入りづらくなるためである(例えば、従来の蛍光体(YAG)の波長500nmにおける屈折率は1.83)。例えば、蛍光体31表面での光の散乱を防止する反射防止膜(ARコート)を施した場合、膜総数が増え高価になり、蛍光体31から出射される変換光L2が、反射防止膜によって出射しづらくなる。
【0034】
また、蛍光体31は、固体ガラス中に励起光L1を入射する入射面S1と、変換光L2を出射する出射面S2と、を備える。入射面S1は、例えば、蛍光体31の後側の端面に配置され、出射面S2は、蛍光体31の外周面に配置される。斯かる構成によれば、例えば、蛍光体31の個体ガラス中を流れる励起光L1の距離を確保することができ、個体ガラス中に分布する量子ドットと励起光L1とが衝突して変換光L2となる確率(変換光L2の取り出し効率)を高めることができる。また、励起光L1を入射面S1に対し、垂直に入射させることにより、入射面S1での励起光L1の反射を最小とすることができる。
【0035】
反射層32は、アルミ、銀などの金属膜、誘電体多層膜などが挙げられる。反射層32の厚みは、その材質にもよるが、150~1000nm程度である。そして、反射層32は、蒸着、スパッタリング、CVD、メッキ、コーティングなどで、形成することができる。反射層32の形成に先立って、蛍光体31の表面を研磨して平坦化することが好ましい。反射層32を形成する際、後述する入射窓321及び出射窓322には、マスク材を設けておくことや、加工後に端面を研磨することが好ましい。
【0036】
反射層32は、蛍光体31を覆い、入射面S1から固体ガラス中に励起光L1を入射する入射窓321と、出射面S2から変換光L2を出射する出射窓322と、を備える。即ち、入射窓321及び出射窓322は、蛍光体31において反射層32が形成されていない反射層32の開口部である。
【0037】
入射窓321の形状は、後方視において、例えば、円形状、三角形状や四角形状などの多角形状、細長形状などのいずれの形状であってもよい。入射窓321の形状としては、円形状が好ましい。
【0038】
入射窓321の開口面積は、2mm2以下であることが好ましく、変換光L2の取り出し効率を高くすることや変換光L2の出射方向をコントロールする観点から、0.07~1mm2がより好ましい。本実施形態において、入射窓321の開口位置は、入射面S1の中央である必要はなく、上下、左右などに変位させることができる。例えば、入射窓321の上側の反射層の面積が大きく、下側の反射層の面積が小さくなるように入射窓321を配置した場合、出射窓322の上側から出射される変換光L2の光量を抑えることができ、対向車への防眩対策となる。また、例えば、入射窓321の左右側の反射層の面積を変化させることによっても、出射窓322から出射される変換光L2の左右側の光量を変化させることができる。
【0039】
出射窓322は、蛍光体31の外周面の全周に渡って開口した形状であり、例えば、連続的な開口、不連続的な開口、蛍光体31の外周面と交わる平面に沿った開口などいずれの形状であってもよい。出射窓322の形状としては、蛍光体31の外周面と垂直に交わる平面に沿った連続的な開口であることが好ましい。
【0040】
出射窓322の幅X2は、3mm以下であることが好ましく、変換光L2の取り出し効率を高くすることや変換光L2の出射方向をコントロールする観点から、1~2mmであることがより好ましい。そして、出射窓322の幅X2は、蛍光体31の外周面の全周に渡って均一又は不均一のいずれであってもよい。例えば、出射窓322の上側の幅X2を小さくし、下側の幅X2を大きくした場合、出射窓322の上側から出射される変換光L2の光量を抑えることができ、対向車への防眩対策となる。また、例えば、出射窓322の左右側の幅X2を変化させることによっても、出射窓322から出射される変換光L2の左右側の光量を変化させることができる。
【0041】
出射窓322の配置距離X3は、入射窓321の中心から蛍光体31の長さX1の2/3以上離れていることが好ましい。これにより、例えば、入射窓321から入射した励起光L1が出射窓322から出射されることを抑えることができ、光源ユニット21がレーザダイオードであった場合、励起光L1(レーザ光)が人の目に入ることを防止することができる。出射窓322の配置距離X3は、入射窓321の中心から出射窓322の中心までの距離を示す。
【0042】
光源ユニット21がレーザダイオードと発光ダイオードの組み合わせの場合、出射窓322に励起光反射膜(不図示)を設けられていてもよい。励起光反射膜としては、低屈折率側がSiO2、Al2O3などであり、高屈折率側がTiO2、Ta2O5、Nb2O5などである誘電体多層膜であって、変換光L2を透過させつつ励起光L1を反射または、減衰させるように各層の光学膜厚が設計されたものなどでもよい。
【0043】
光源ユニット21がレーザダイオードのみの場合は、出射窓322に励起光反射膜を設けなくてもよい。斯かる場合、励起光L1及び変換光L2が波長変換部材3の中で多重反射され、出射窓322から出射される光がインコーヒレント光となる。
【0044】
<蛍光体の材料>
蛍光体31は、シリカを主成分とする固体ガラスと、固体ガラス中に分散した量子ドットとを含有するものである。本発明において「シリカを主成分とする」とは、ガラスの金属成分中のSi元素の含有量が、60モル%以上である場合を指し、好ましくは80モル%以上であり、より好ましくは90~100モル%である。
【0045】
(固体ガラス)
シリカを主成分とする固体ガラスとしては、シリカガラスであることが好ましい。シリカガラスには、他の金属成分として、Al、Ca、Cu、Fe、Na、K、Li、Mg、Mn、Tiを含有していてもよい。但し、これらの金属成分の含有量は、金属成分中に20モル%以下が好ましく、好ましくは10モル%以下であり、より好ましくは0~5モル%である。
【0046】
シリカガラスは、天然の石英粉を溶融した溶融石英ガラスと、液体原料から合成した合成シリカガラスに大別でき、いずれも使用可能であるが、合成シリカガラスであることが好ましい。合成シリカガラスはその製造方法により、気相合成法、液相合成法に分類できる。溶融石英ガラスは電気溶融石英ガラスと火炎溶融石英ガラスに分類される。前者は、OH含有量が少なく、後者はOH量が比較的多いのが特徴である。いずれも、耐熱性に優れ、比較的廉価である。
【0047】
気相合成法には、直接法、スート法、プラズマ法などがある。直接法は、四塩化ケイ素(SiCl4)を酸水素火炎中で加水分解し、直接堆積・ガラス化することによりシリカガラスを合成する方法である。このタイプのシリカガラスは、OH基を500~1500ppm程度含む。光学的に均質なものを比較的容易に合成することができ、紫外線耐性にも優れている。したがって、紫外線用光学材料として使用される。
【0048】
スート法では最初にシリカの微粒子を生成して多孔質体を形成する。次に適当な雰囲気中での熱処理により、OH量を制御する。最後に、高温で透明ガラス化する。この合成方法は、複数の工程からなっているため、性状を制御しやすい。プラズマ法は、スート法よりも古くから無水のシリカガラスの合成法として用いられてきた。
【0049】
液相中で合成する方法として、ゾル-ゲル法がある。これは、金属アルコキシドの重縮合により、シリカの多孔質体を合成したのち、乾燥、焼結ガラス化する方法である。また、低温でのシリカガラス薄膜の生成方法として、液相析出(LPD)法がある。
【0050】
本発明では、金属アルコキシドの加水分解と重縮合(ゾル-ゲル法)により得られるシリカガラスが好適に使用することができる。ゾル-ゲル法を行なう際に、多塩基酸を添加することが、クラックや欠けの防止の観点から好ましい。このため、本発明における固体ガラスには、多塩基酸及び/又はその残基成分を含有することが好ましい。
【0051】
(量子ドット)
量子ドットは、量子化学、量子力学に従う独特な光学特性を持つナノスケールの粒子のことを指し、粒子サイズによって光学特性を調節することが可能であるため、粒径に依存した特徴的な発光特性を持つ。本発明では、変換光の発光波長に応じて、炭素系量子ドット、シリコン量子ドット、ペロブスカイト型量子ドットなどを使用することができる。また、これらから選択した複数の量子ドットを用いて、各々の含有量を調整することで、所望の発光波長を得ることができる。
【0052】
(炭素系量子ドット)
炭素系量子ドットは、炭素原子間のπ結合に起因して、粒径に依存した発光特性を有するものである。炭素系量子ドットとしては、グラフェン構造を有するグラフェン量子ドット、グラフェン構造を有しないカーボン量子ドット、これらを化学修飾した量子ドット等が挙げられるが、量子収率の観点からグラフェン量子ドット又は化学修飾したグラフェン量子ドットが好ましい。
【0053】
これらの炭素系量子ドットは、シグマ-アルドリッチ社、冨士色素株式会社、GSアライアンス株式会社、フナコシ株式会社、キシダ化学株式会社などから、市販されており、これらを何れも使用することができる。
【0054】
炭素系量子ドットの含有量は、蛍光特性における適度な波長シフトを得ることと、適度な発光出力を得ることの観点から、蛍光体組成物中に0.0001~10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.001~5質量%であり、更に好ましくは0.01~1質量%である。
【0055】
(グラフェン量子ドット)
グラフェン量子ドットとしては、非官能化グラフェン量子ドット、官能化グラフェン量子ドット、原初の(pristine)グラフェン量子ドット、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0056】
官能化グラフェン量子ドットは1つ以上の官能基で官能化されていてもよい。官能基には、酸素基、カルボキシル基、カルボニル基、非晶質炭素、ヒドロキシル基、アルキル基、アリール基、エステル、アミン、アミド、ポリマー、ポリ(プロピレンオキシド)、およびこれらの組み合わせが含まれる。
【0057】
また、グラフェン量子ドットには、1つ以上のアルキル基で官能化されている官能化グラフェン量子ドットが含まれる。アルキル基には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、およびこれらの組み合わせが含まれる。幾つかの態様において、アルキル基にはオクチル基(例えば、オクチルアミン)が含まれる。
【0058】
また、グラフェン量子ドットは、1種以上のポリマー先駆物質で官能化することができる。例えば、グラフェン量子ドットは1種以上のモノマー(例えば、ビニルモノマー)で官能化することができる。
【0059】
グラフェン量子ドットは、重合するポリマー先駆物質で官能化することにより、ポリマー官能化グラフェン量子ドットを形成することができる。例えば、重合するビニルモノマーで端部を官能化することにより、端部官能化ポリビニルの付加物を形成することができる。
【0060】
グラフェン量子ドットは、1種以上の親水性官能基で官能化されている官能化グラフェン量子ドットを含む。親水性官能基には、カルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(アクリル酸)、およびこれらの組み合わせが含まれる。
【0061】
グラフェン量子ドットは、1種以上の疎水性官能基で官能化されている官能化グラフェン量子ドットを含む。疎水性官能基には、アルキル基、アリール基、およびこれらの組み合わせが含まれる。疎水性官能基には1種以上のアルキルアミドまたはアリールアミドが含まれる。
【0062】
グラフェン量子ドットは端部官能化グラフェン量子ドットを含む。端部官能化グラフェン量子ドットには、前述した1種以上の疎水性官能基が含まれる。端部官能化グラフェン量子ドットには、前述したような1種以上の疎水性官能基が含まれる。端部官能化グラフェン量子ドットには、やはり前述したような1種以上の親水性官能基が含まれる。端部官能化グラフェン量子ドットには、それらの端部上にある1種以上の酸素の付加物が含まれる。端部官能化グラフェン量子ドットには、それらの端部上にある1種以上の非晶質炭素の付加物が含まれる。
【0063】
グラフェン量子ドットは、アルキルアミドまたはアリールアミドなどの1種以上のアルキル基またはアリール基で端部が官能化されている。アルキル基またはアリール基を用いるグラフェン量子ドットの端部官能化は、グラフェン量子ドットの端部におけるアルキルアミドまたはアリールアミドのカルボン酸との反応によって行われる。
【0064】
グラフェン量子ドットには原初の(pristine)グラフェン量子ドットが含まれる。原初のグラフェン量子ドットは、合成後に未処理のままのグラフェン量子ドットを含む。原初のグラフェン量子ドットは、合成後にいかなる追加の表面変性も行われていないグラフェン量子ドットを含む。
【0065】
グラフェン量子ドットは様々な発生源から得ることができる。例えば、グラフェン量子ドットには、石炭由来のグラフェン量子ドット、コークス由来のグラフェン量子ドット、およびこれらの組み合わせが含まれる。グラフェン量子ドットにはコークス由来のグラフェン量子ドットが含まれる。グラフェン量子ドットには石炭由来のグラフェン量子ドットが含まれる。石炭には、(これらに限定はされないが)無煙炭、瀝青炭、亜瀝青炭、変性瀝青炭、アスファルテン、アスファルト、泥炭、亜炭、ボイラー用炭、石化油(petrified oil)、カーボンブラック、活性炭、およびこれらの組み合わせが含まれる。炭素源は瀝青炭である。炭素には瀝青炭が含まれる。
【0066】
グラフェン量子ドットは様々な直径を有することができる。例えば、グラフェン量子ドットは約1nmから約100nmまでの範囲の直径を有することが好ましく、約1nmから約50nmまでの範囲の直径を有することがより好ましく、約1nmから約20nmまでの範囲の直径を有することが更に好ましい。
【0067】
グラフェン量子ドットはまた、様々な構造を有することもできる。例えば、グラフェン量子ドットは結晶質の構造を有していてもよく、例えば結晶質の六方晶構造を有する。グラフェン量子ドットは単層又は複層を有していてもよく、例えばグラフェン量子ドットはおよそ2つの層からおよそ4つの層までを有する。
【0068】
グラフェン量子ドットは、様々な量子収率を有することもできる。グラフェン量子ドットは約30~80%までの範囲の量子収率を有することが好ましい。また、グラフェン量子ドットの水分散体における蛍光特性は、励起光300nm~420nmの少なくとも何れかの波長に対して、発光波長が380nm~650nmであることが好ましい。
【0069】
グラフェン量子ドットは粉末の形態であってもよく、ペレットの形態であってもよい。グラフェン量子ドットは液体状態であってもよく、分散液、溶液、溶融した状態であってもよい。
【0070】
グラフェン量子ドットを形成するために、様々な方法を利用することができる。例えば、グラフェン量子ドットを形成する工程は、炭素源を酸化剤に曝し、その結果としてグラフェン量子ドットを形成することを含むことができる。炭素源には、石炭、コークス、およびこれらの組み合わせが含まれる。
【0071】
酸化剤には酸が含まれ、酸には、硫酸、硝酸、リン酸、次亜リン酸、発煙硫酸、塩化水素酸、オレウム、クロロスルホン酸、およびこれらの組み合わせが含まれる。また、酸化剤には、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、次亜リン酸、硝酸、硫酸、過酸化水素、およびこれらの組み合わせが含まれる。好ましい酸化剤は過マンガン酸カリウム、硫酸および次亜リン酸の混合物である。
【0072】
酸化剤の存在下で炭素源を音波処理することによって炭素源は酸化剤に曝される。酸化剤の存在下で炭素源を加熱することが含まれる。加熱は少なくとも約100℃の温度において行われる。
【0073】
グラフェン量子ドットを形成するさらなる方法の使用も想定することができる。例えば、グラフェン量子ドットを形成するさらなる方法は、国際特許出願であるPCT/US2014/036604号に開示されている。グラフェン量子ドットを製造するさらなる適当な方法は、次の参考文献にも開示されている:ACS Appl. Mater. Interfaces 2015、 7、 7041-7048;および、Nature Commun. 2013、 4:2943、 1-6。
【0074】
(カーボン量子ドット)
カーボン量子ドットは、グラフェンのような環状構造を持っていない量子ドットである。pH値によってグラフェン量子ドットより影響を受け易く、発光強度、ピーク位置が変化する性質を有する。
【0075】
カーボン量子ドットは、様々な直径を有することができる。例えば、カーボン量子ドットは約1nmから約100nmまでの範囲の直径を有することが好ましく、約1nmから約50nmまでの範囲の直径を有することがより好ましく、約1nmから約30nmまでの範囲の直径を有することが更に好ましい。
【0076】
カーボン量子ドットはまた、様々な量子収率を有することもできる。カーボン量子ドットは約20~50%までの範囲の量子収率を有することが好ましい。また、カーボン量子ドットの水分散体における蛍光特性は、励起光300nm~420nmの少なくとも何れかの波長に対して、発光波長が380nm~600nmであることが好ましい
【0077】
カーボン量子ドットの製造方法は、グラフェン量子ドットの製造方法と大差はなく、使用原料や製造条件がグラフェン構造を形成し易いか否かの違いのみである。
【0078】
従って、両者を含む炭素系量子ドットは、例えば、炭素ターゲットをレーザーアブレーション(laserablation)後、化学処理を実施して製造する手法(特表2012-501863号公報)や蝋燭の煤から製造する手法(H. Liu、 et al.、Angew. Chem.Int. Ed. 2007、 46、6473-6475.)、グラファイト酸化物を化学処理して製造する手法(G. Eda、 et al.、 Adv. Mater.2010、 22、 505-509.)、グラファイト酸化物を前駆体とする化学反応から製造する手法(特開2012-136566号公報)、フラーレンの転換反応から製造する手法(J. Lu、 et al.、Nature Nanotech.2011、 6、247-252.)、更に、炭素繊維や活性炭など、より安価な炭素原料を化学処理して製造する手法(J. Peng、 et al.、 Nano Lett. 2012、 12、 844-849.、Z.A. Qiao、 ChemCommun. 2010、 46、8812-8814.、Y. Dong、et al.、 Chem. Mater.2010、 22、 5895-5899.)で製造することも可能である。
【0079】
なお、これらの手法は、大別してトップダウン(top-down)の手法であるが、有機前駆体分子のポリマー化から炭素量子ドットを製造するボトムアップ(bottom-up)の手法(G. A. Ozin、 et al.、J. Mater. Chem.、 2012、 22、 1265-1269.)でも製造可能である。
【0080】
また、炭素材と過酸化水素とを混合し、過酸化水素により炭素を分解反応させ、炭素量子ドット生成液を調製する工程と、炭素量子ドット生成液中の炭素量子ドットと過酸化水素を分離して分解反応を停止させ、炭素量子ドットを取得する工程と、を含む炭素量子ドットの製造方法(特開2014-133685号公報)で製造することも可能である。
【0081】
(炭素系量子ドットの波長変換特性)
炭素系量子ドットを用い場合の波長変換特性(蛍光特性)としては、汎用性の高い蛍光材料とする観点から、励起光300nm~470nmの少なくとも何れかの波長に対して、発光波長(ピーク波長)が400nm~750nmであることが好ましく、発光波長が450nm~650nmであることがより好ましく、発光波長が500nm~600nmであることが更に好ましい。このような発光波長は、単結晶YAG・Ceとほぼ同じ領域の発光となる。
【0082】
また、発光ピーク波長を中心とした発光の半値幅が40nm~100nmであることが好ましく、発光波長が400nm~700nmであることがより好ましく、発光波長が420nm~750nmであることが更に好ましい。
【0083】
なお、このような蛍光特性を得る観点から、原料となる炭素系量子ドットの水分散体における蛍光特性としては、励起光300nm~420nmの少なくとも何れかの波長に対して、発光波長(ピーク波長)が380nm~600nmであることが好ましく、発光波長が400nm~550nmであることがより好ましく、発光波長が420nm~500nmであることが更に好ましい。
【0084】
また、蛍光体組成物の量子収率(発光効率)は、25%以上が好ましく、さらに50%以上がより好ましく、特に70~80%が好ましい。
【0085】
(シリコン量子ドット)
半導体はナノ粒子化すると、量子サイズ効果(閉じ込め効果)によりバンド構造が変化し、粒径に応じた色の蛍光を示す。シリコン量子ドットは、代表的なIV族半導体の量子ドットである。
【0086】
シリコン量子ドットの合成法の代表的なものとして、シリコンウェハーのエッチングが挙げられる。フッ化水素酸(HF)を用いた電解エッチングによりバルクのシリコンを微細化することで、ナノ粒子を得ることができる。このとき、得られる粒子の粒径は、エッチング時間などで制御することが可能である。比較的多い量の粒子を生成できるボトムアップ的な合成法としては、シラン(SiH4)の熱分解による粒子合成が知られている。シランの熱分解によってSi原子が生成され、これが過飽和となり、核発生・成長することで粒子が生成される。このとき生成される粒子はサイズが比較的大きいため、その後フッ化水素酸(HF)/硝酸(HNO3)の混合液によって粒子をエッチングすることで、量子サイズ効果が現れる領域まで粒径を小さくしている。
【0087】
エッチングの過程を経ずに一段階でシングルナノメートルの粒子を合成する方法として、プラズマCVD法を用いた合成方法も知られている。前駆体である四臭化ケイ素(SiBr4)をRFプラズマ場で分解してSi原子を生成し、これを反応器内で核発生・成長させることで、ナノ粒子を生成させることができる。
【0088】
シリコン量子ドットは、GSアライアンス株式会社、シグマ-アルドリッチ社などから市販されており、それらを使用することが可能である。市販されているシリコン量子ドットは、サイズが数Åから10nm以下の大きさであり、量子収率は約20~30%である。
【0089】
シリコン量子ドットは、粒子径に応じた発光波長とすることができ、本発明では、緑色~黄色を得るための波長変換部材、又は赤色を得るための波長変換部材の両者に使用することができる。
【0090】
シリコン量子ドットを固体ガラス中に分散させた蛍光体では、青色レーザダイオードの励起光である400nm~470nmの波長に対して、赤色光を発光させる場合、発光波長(ピーク波長)が610nm~640nmであることが好ましく、発光波長が620nm~640nmであることがより好ましい。また、緑色~黄色の光を発光させる場合、発光波長(ピーク波長)が520nm~560nmであることが好ましく、発光波長が530nm~550nmであることがより好ましい。
【0091】
(ペロブスカイト型量子ドット)
ペロブスカイト型量子ドットは、ペロブスカイト結晶構造を有するものである。一般的にペロブスカイト結晶構造は、イオンA、イオンBおよびイオンXを用いたABX3の組成式で表され、8つの頂点にイオンAが、6つの面の中心にイオンXが、格子の中心部分にイオンBが存在し、イオンBがイオンAより比較的小さいため、イオンBが動きやすいことに起因して正負の電荷の重心が分かれた状態になることができる。ペロブスカイト型量子ドットにおいて、イオンXはハロゲン原子(好ましくは、F、Cl、Br、I)であることが好ましく、イオンAはCsであることが好ましく、イオンBはPbであることが好ましい。
【0092】
ペロブスカイト型量子ドットは、一般式(1):CsPbYaZb(上記一般式(1)中、YおよびZはそれぞれ独立して、F、Cl、BrまたはIを表し、aおよびbはそれぞれ独立して、0以上3以下の実数を表し、a+b=3である。)であることが好ましい。また、CH3NH3PbX3(X=Cl、Br、I)の組成であるものも使用できる。
【0093】
ペロブスカイト型量子ドットは、赤色光を発光するペロブスカイト型量子ドットから選択される少なくとも1種の量子ドットを含むことが好ましい。量子ドットなどの発光用ナノ結晶の発光色は、量子ドットの粒子径と発光用ナノ結晶が有するエネルギーギャップとに依存するため、使用するペロブスカイト型量子ドットの種類とその粒子径を調整することにより発光色を選択することができる。
【0094】
市販されているペロブスカイト型量子ドットは、ペロブスカイト型化合物をナノ結晶化したものであり、CH3NH3PbX3、CsPbX3(X=Cl、Br、I)が代表的な組成である。また、量子収率は約50~80%であり、半値幅は約18nm~39nmである。
【0095】
ペロブスカイト型量子ドットを固体ガラス中に分散させた蛍光体では、青色レーザダイオードの励起光である400nm~470nmの波長に対して、赤色光を発光させる場合、発光波長(ピーク波長)が610nm~650nmであることが好ましく、発光波長が615nm~635nmであることがより好ましい。
【0096】
[蛍光体の製造方法]
蛍光体は、固体ガラスの合成時に量子ドットを分散させる方法、又は合成等によって得られた固体ガラスを微粉砕した後に、粉砕物中に量子ドットを分散させ固化させる方法などにより得ることができる。
【0097】
後者の方法では、固体ガラスを平均粒径100nm~5000nmに微粉砕したものを使用することができ、量子ドットを分散させた混合物を、常法により適当な温度と圧力で固化することができる。
【0098】
本発明では、量子ドットの均一分散性、光学特性などの観点から、合成時に量子ドットを分散させる方法が好ましく、金属アルコキシドの加水分解と重縮合(ゾル-ゲル法)によりシリカガラスを合成する際に、量子ドットを分散させる製造方法を用いることがより好ましい。以下、この製造方法について詳述する。
【0099】
<ゾル-ゲル法による製造方法>
ゾル-ゲル法による製造方法は、シリカを主成分とする固体ガラスの前駆体と、その前駆体中に分散した量子ドットとを含有する分散液を得る分散工程と、前記前駆体をゾル-ゲル反応により固化させて、固体ガラスとその固体ガラス中に分散した量子ドットとを含有する蛍光体組成物を得る反応工程と、を含むものである。
【0100】
(分散工程)
分散工程は、シリカを主成分とする固体ガラスの前駆体と、その前駆体中に分散した量子ドットとを含有する分散液を得るものである。量子ドットの分散は、固体ガラスの前駆体の各成分とともに混合・撹拌すればよい。攪拌にはスターラー、攪拌羽根などを用いることができる。
【0101】
量子ドットは、前述したものを使用できるが、水分散体を使用することが好ましい。水分散体における量子ドットの濃度は、分散性、固形化時の粒子収率の観点より、質量基準で0.01ppm~10ppmであることが好ましく、0.5ppm~5ppmであることがより好ましい。
【0102】
量子ドットの含有量は、蛍光特性における適度な波長シフトを得ることと、適度な発光出力を得ることの観点から、蛍光体組成物中に0.0001~10質量%になるように添加することが好ましく、より好ましくは0.001~5質量%であり、更に好ましくは0.01~1質量%である。
【0103】
固体ガラスの前駆体は、好ましくは、金属アルコキシド、アルコール、水、および酸触媒を含有する。金属アルコキシドとして、アルコキシシランのみを使用することも可能である。本発明では、得られる蛍光体のクラックや欠けの防止の観点から、分散工程で、多塩基酸を添加することが好ましい。
【0104】
金属アルコキシドとしては、テトラアルコキシシラン(Si(OR)4)が使用され、テトラアルコキシジルコニウム(Zr(OR)4)、テトラアルコキシチタン(Ti(OR)4)、トリアルコキシアルミニウム(Al(OR)3)等が任意の成分として例示される。
【0105】
上記のROはアルコキシ基であり、好ましくは、C1-4のアルコキシ基である。具体的には、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラエトキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、テトラブトキシジルコニウム、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、トリエトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリブトキシアルミニウム等が例示される。金属アルコキシドは、これらのうち、一種又は二種以上を用いることができる。金属アルコキシドとしてテトラアルコキシシランを用いるのが好ましく、テトラエトキシシランがより好ましい。二種以上を混合する場合は、テトラエトキシシランを主成分(例えば、80モル%以上)とするのが好ましい。
【0106】
なお、本発明においては、原料として金属アルコキシドを用いることが好ましいが、必要に応じて一般式:
Xm-Si(OR’)4-m
(式中、Xは、アミノアルキル基、メルカプトアルキル基等、R’はC1-3のアルキル基、m=1、2又は3を示す)
で表されるオルガノアルコキシシランを添加しても良い。オルガノアルコキシシランとしては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(APS)、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPS)等が挙げられる。通常、金属アルコキシドとオルガノアルコキシシランのモル比は、100:0~90:10程度であればよい。
【0107】
用いるアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のC1-4のアルコールが挙げられる。使用する金属アルコキシドのアルコキシドに対応するアルコールを用いることが好ましい。例えば、金属アルコキシドとしてテトラエトキシシランを用いる場合、アルコールとしてエタノールが用いられる。
【0108】
用いる酸触媒としては、塩酸、酢酸、硝酸等が挙げられる。酸の使用量は触媒量でよい。ゾル-ゲル法において酸を用いるのは、酸条件下では金属アルコキシドの加水分解は速いが続く脱水反応が遅いためである。なお、塩基を用いる場合には、金属アルコキシドの加水分解は遅いが続く脱水反応が速いため、ゲル化が急速に進行してしまう。
【0109】
金属アルコキシド(オルガノアルコキシシランを含む場合は、オルガノアルコキシシランと金属アルコキシドの合計)、アルコール、及び水の配合量は、1:0.1~2:0.5~8程度のモル比であればよく、1:0.3~1:1~4程度のモル比であることが好ましい。酸は上述したように触媒量でよい。
【0110】
多塩基酸としては、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、酒石酸、グルタミン酸、セバシン酸、ヘキサフルオロケイ酸などが挙げられる。この多塩基酸は、水和物として添加することも可能である。
【0111】
多塩基酸の添加量としては、得られる蛍光体組成物中(固形分中)に0.00001~0.1質量%となるように添加することが好ましく、0.0001~0.05質量%がより好ましく、0.001~0.01質量%が更に好ましい。
【0112】
多塩基酸の添加により、得られる蛍光体のクラックや欠けを抑制できる理由の詳細は不明であるが、-SiO結合に対するキレート効果や、OH基との反応による官能基の不活性化などによる、ゲル構造の変性などが考えられる。
【0113】
上記各成分を混合する順序としては、最初に金属アルコキシドとアルコールを混合して完全に混和した後、水と量子ドット、多塩基酸を添加して混合することが好ましい。その後に、酸触媒を添加して、ゾル-ゲル反応を開始させることが好ましい。
【0114】
各成分の混合は、通常、15~80℃程度で5分~1時間程度撹拌すればよい。混合時の温度は、金属アルコキシドの種類等に応じて適宜選択できる。なお、テトラアルコキシシランを主成分とする二種以上の金属アルコキシドを混合する場合は、テトラアルコキシシランにアルコール、水及び触媒量の酸を加えて得られる加水分解溶液に、他の金属アルコキシドのアルコール溶液を滴下すればよい。
【0115】
(反応工程)
反応工程は前駆体をゾル-ゲル反応により固化させて、固体ガラスとその固体ガラス中に分散した量子ドットとを含有する蛍光体組成物を得るものである。この反応は所望の内面形状を有する型内で行なうことも可能である。
【0116】
ゾル-ゲル反応は、常温で行なうことも可能であるが、反応を促進する上で、加熱条件下で行なうのが好ましい。加熱温度としては、25℃~60℃が好ましく30℃~50℃がより好ましい。また、加熱条件を2段階以上に変化させて、段階的に昇温させることも可能である。
【0117】
反応時間としては、常温の場合、3日~7日程度が好ましく、加熱条件下の場合、反応温度にもよるが、12時間~36時間程度が好ましい。より高温で、より長時間の反応を行なうことで、硬度及び比重がより大きい蛍光体を得ることができる。
【0118】
また、生成するアルコールや水分を除去しながら、ゾル-ゲル反応を行なってもよい。
【0119】
また、金属アルコキシドの加水分解溶液に対して、pHを5.5~8.5に調製する工程を有していてもよい。上記の加水分解溶液は、酸触媒により液性が酸性にあるため、アルカリ(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)水溶液を用いてpHを5.5~8.5に調製すると、ゾル状の加水分解溶液の脱水縮合反応が促進されることになる。
【0120】
本発明における蛍光体は、所望の内面形状を有する型内でゾル-ゲル反応を行なうことで、製造することができる。なお、蛍光体は、型内で成形物を得た後、これを加工したものでもよい。また、インサート成形により、他の部材と一体的に形成したものでもよい。
【実施例0121】
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例等における評価項目は下記のようにして測定を行った。
【0122】
(1)蛍光スペクトルの測定
液体の試料については、測定用セルを使用し、蛍光体については、長手方向に沿った外周面にはアルミニウムからなる反射層を蒸着により設けた測定用試料を作成し、蛍光分光光度計(RF-5300PC、島津製作所製)を用いて蛍光スペクトルを測定した。このとき、各試料について、まず励起光による発光強度が最大になる励起光波長をスキャンして決定し、次いで決定した波長の励起光を用いて、試料の蛍光スペクトルを測定した。
【0123】
(2)密度の測定
実施例1等と同様に作製した円板状の蛍光体を用いて、その体積(3.1cm3)を水中投下して溢れた水の体積から求め、測定した蛍光体の質量(6g)を体積で除して求めた。
【0124】
(3)量子収率
実施例1と同様にして製造した、0.01重量%のグラフェン量子ドットを分散させた蛍光体生成物を短冊状に切断し試料ホルダーに並べ、浜松ホトニクス社製のQuantaurus-QY絶対PL量子収率測定装置C11347を用いて測定を行ったところ、励起波長445nmの時58%の量子粒率を得た。
【0125】
<水分散体>(グラフェン量子ドット)
グラフェン量子ドットの水分散体(GSアライアンス株式会社製、グラフェン量子ドット、量子収率70%)について、前述した方法により励起光波長370nmで蛍光スペクトルを測定した。その結果、この水分散体の発光のピーク波長は445nmであり、半値幅は75nmであった。
【0126】
<メタノール分散体>(シリコン量子ドット、赤色)
シリコン量子ドットのメタノール分散体(GSアライアンス株式会社製、シリコン量子ドット、量子収率40%)について、前述した方法により励起光波長420nmで蛍光スペクトルを測定した。その結果、このメタノール分散体の発光のピーク波長は625nmであり、半値幅は60nmであった。
【0127】
<水分散体>(ペロブスカイト型量子ドット)
ペロブスカイト型量子ドットの有機系分散体(GSアライアンス株式会社製、ペロブスカイト型量子ドット、組成式CsPbX3(X=Cl,Br,I)、量子収率60%)について、前述した方法により励起光波長460nmで蛍光スペクトルを測定した。その結果、この有機系分散体の発光のピーク波長は625nmであり、半値幅は40nmであった。この有機系分散体を用いて、溶剤を置換することで、原料として使用する水分散体を得た。
【0128】
<実施例1>(グラフェン量子ドット2質量%)
Si(OC2H5)4(TEOS):エタノール(C2H5OH):水(H2O)のモル比が2:1:4の比率となるように、TEOSをポリプロピレンビーカーにテフロン(登録商標)製メスピペットを用いて秤量し、メスピペットを用いて秤量したエタノールを加え、室温(25℃)にてスターラーで撹拌し、完全に混和した後、グラフェン量子ドットの水分散体を水のモル比が4になるよう(量子ドット濃度は蛍光体中2質量%)と水とを加え(合計の水の比率を4とした)、さらに室温(25℃)で撹拌した。このとき、TEOS1モル(208.37g)に対して0.8mgのクエン酸水和物(C6H8O7・H2O)を加えた。この溶液に酸触媒である1M硝酸水溶液(HNO2)を20ml添加し、ゲル化が開始するまで撹拌した。その後、底面が円形の容器に流し込み、室温(25℃)で60日間放置して、反応と乾燥を生じさせて、棒状(長さ20mm、直径5mmの円柱)の蛍光体を製造した。その際、エタノールの除去を適宜行なった。この蛍光体は、グラフェン量子ドットが均一に分散したものであり、クラック、欠けなどは存在しないものであった。
【0129】
この蛍光体について、前述した方法により励起光波長460nmで蛍光スペクトルを測定した結果を
図3に示した。発光のピーク波長は540nmであり、半値幅は75nmであった。このように、使用したグラフェン量子ドットの水分散体の蛍光特性と比較して、100nm近い波長シフトが見られた。また、この蛍光体を200℃の大気炉中に24時間放置し、加熱前後の発光強度の比較を行ったところ、発光強度の変化がないことが確認できた。つまり、十分な耐熱性があることが確認できた。
【0130】
<実施例2>(グラフェン量子ドット0.1質量%)
実施例1において、グラフェン量子ドットの濃度を2質量%とする代わりに、蛍光体中に0.1質量%となるようにグラフェン量子ドットの水分散体を混合したこと以外は、実施例1と同じ条件で同じ形状の蛍光体を製造した。この蛍光体はグラフェン量子ドットが均一に分散したものであり、クラック、欠けなどは存在しないものであった。
【0131】
この蛍光体について、前述した方法により励起光波長445nmで蛍光スペクトルを測定した結果、発光のピーク波長は515nmであり、半値幅は80nmであった。このように、使用したグラフェン量子ドットの水分散体の蛍光特性と比較して、50nm以上の波長シフトが見られた。また、実施例1との対比より、グラフェン量子ドットの濃度変化により、波長シフト量が変化することが分かった。
【0132】
<実施例3>(シリコン量子ドット、赤色)
実施例1において、グラフェン量子ドットの水分散体を用いる代わりに、シリコン量子ドットのメタノール分散体をメタノールのモル比が2になるよう(量子ドット濃度は蛍光体中0.5質量%)用いたこと以外は、実施例1と同じ条件で同じ形状の蛍光体を製造した。つまり、Si(OC2H5)4(TEOS):エタノール(C2H5OH):水(H2O):メタノールのモル比が2:1:4:2の比率となるように、原料を使用した。この蛍光体はシリコン量子ドットが均一に分散したものであり、クラック、欠けなどは存在しないものであった。
【0133】
この蛍光体について、前述した方法により励起光波長420nmで蛍光スペクトルを測定した結果を
図4に示した。発光のピーク波長は625nmであり、半値幅は60nmであった。
【0134】
<実施例4>(200℃加熱)
実施例1において、室温(25℃)で60日間放置する代わりに、加熱装置中で70℃14日加熱した後、200℃で20時間加熱したこと以外は、実施例1と同じ条件で同じ形状の蛍光体を製造した。この蛍光体はグラフェン量子ドットが均一に分散したものであり、クラック、欠けなどは存在しないものであった。
【0135】
この蛍光体について、前述した方法により励起光波長445nmで蛍光スペクトルを測定した結果、実施例1と同じ蛍光特性を示すことが分かった。また、実施例1の蛍光体が密度2.0g/cm3であるのに対して、得られた蛍光体の密度は1.8g/cm3であった。
【0136】
<実施例5>(クエン酸添加なし)
実施例1において、クエン酸水和物(C6H8O7・H2O)を加えないこと以外は、実施例1と同じ条件で蛍光体を製造した。このとき、実施例1と同じ形状にすると、クラックが生じ易くなるため、原料の混合後に少量の混合物を用いて(組成は同じ)、厚さ5mmの薄膜状の蛍光体を作成した。この蛍光体はグラフェン量子ドットが均一に分散したものであり、クラック、欠けなどは存在しないものであった。
【0137】
この蛍光体について、前述した方法により励起光波長445nmで蛍光スペクトルを測定した結果、実施例1と同じ蛍光特性を示すことが分かった。また、実施例1の蛍光体が密度2.0g/cm3であるのに対して、得られた蛍光体の密度は1.8g/cm3であった。
【0138】
<実施例6>(ペロブスカイト型量子ドット)
実施例1において、グラフェン量子ドットの水分散体を用いる代わりに、ペロブスカイト型量子ドットの水分散体を水のモル比が同じになるよう用いたこと以外は、実施例1と同じ条件で同じ形状の蛍光体を製造した。この蛍光体はシリコン量子ドットが均一に分散したものであり、クラック、欠けなどは存在しないものであった。
【0139】
この蛍光体について、前述した方法により励起光波長460nmで蛍光スペクトルを測定した結果を
図5に示した。発光のピーク波長は630nmであり、半値幅は30nmであった。
【0140】
<ヘッドライトの他の実施形態>
(1)先の実施形態では、
図1に示すような入射面S1を蛍光体31の後側に配置する例を示したが、
図6に示すように、入射面S1を蛍光体31の前側に配置することも可能である。斯かる場合、光源部2は、波長変換部材3の前方で且つ反射鏡4により反射される変換光L2と被らない位置に配置される。そして、光源部2及び波長変換部材3は、ヘッドライト1のカバー(不図示)又は車体(不図示)に取り付けられた保持体(不図示)によって保持される。斯かる構成によれば、光源部2及び波長変換部材3をヘッドライト1の中に配置することができるので、例えば、ヘッドライト1の小型化が可能である。
【0141】
(2)先の実施形態では、
図1に示すような入射面S1を蛍光体31の後側に配置する例を示したが、
図7に示すように、入射面S1を蛍光体31の外周面の上側に配置することも可能である。斯かる場合、光源部2は、波長変換部材3及び反射鏡4の上方に配置され、反射鏡4は、励起光L1を波長変換部材3に入射するための入射孔42を備える。斯かる構成によれば、光源部2をヘッドライト1の上側に配置することができるので、例えば、ヘッドライト1の後側に光源部2を配置するスペースがない場合に有効である。なお、光源部2を波長変換部材3及び反射鏡4の下方、左方、右方に配置する場合も同様である。
【0142】
また、斯かる場合、
図8に示すように、入射窓321の配置距離X4は、変換光L2の取り出し効率を高める観点から、3mm以内が好ましい。これにより、例えば、入射窓321から入射した励起光L1が出射窓322から出射することを防止することができ、光源ユニット21がレーザダイオードであった場合、励起光L1(レーザ光)が人の目に入ることを防止することができる。入射窓321の配置距離X4は、入射窓321の中心から蛍光体31の両端面のうち一方(出射窓322から遠い端面)までの距離である。
【0143】
(3)先の実施形態では、
図1に示すように反射鏡4を備えるヘッドライト1の例を示したが、反射鏡4を備えないヘッドライト1とすることも可能である。斯かる場合、蛍光体31、入射窓321、出射窓322の形状などで変換光L2の出射方向をコントロールする必要がある。斯かる構成によれば、例えば、既に市場に出回っている車両などに搭載されたHID・ハロゲンランプなどを、本実施形態に係るヘッドライト1に置き換えることが容易である。
【0144】
また、以上で説明した光源部2と波長変換部材3とからなる本発明における光源部材と、任意の反射鏡などの部材と、を用いて、ヘッドライト、その他の照明装置を構成することも可能である。
【0145】
なお、ヘッドライト1は、上記した実施形態の構成に限定されるものではなく、また、上記した作用効果に限定されるものではない。また、ヘッドライト1は、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。