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特開2022-147891内燃機関のクランク軸用の半割スラスト軸受および軸受装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147891
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】内燃機関のクランク軸用の半割スラスト軸受および軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 17/04 20060101AFI20220929BHJP
   F16C 9/02 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F16C17/04 Z
F16C9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049345
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 知弘
【テーマコード(参考)】
3J011
3J033
【Fターム(参考)】
3J011AA06
3J011AA20
3J011BA09
3J011BA13
3J011JA02
3J011KA03
3J011MA02
3J011NA01
3J011PA02
3J033AA02
3J033AA05
3J033GA01
3J033GA02
3J033GA05
(57)【要約】
【課題】運転時に異物の堆積および焼付が生じ難い内燃機関のクランク軸用半割スラスト軸受を提供すること。
【解決手段】本発明による半割スラスト軸受はFe合金製の裏金層と軸受合金層とから形成され、且つ摺動面と2つのスラストリリーフとを有する。各スラストリリーフ面は、裏金層が露出した周方向端面側の第1領域821と、軸受合金層が露出した第2領域822および第3領域823とを有し、また摺動面は第4領域812を有する。第1領域および第2領域からなる周方向端部領域800が規定される。第2領域の軸受合金層は、その断面に、軸受合金層の厚さが一定である等厚部と、内径側端面に隣接した、軸受合金層の厚さが等厚部よりも小さい減厚部を有し、また第3領域および第4領域の軸受合金層は、それらの断面に、軸受合金層の厚さが一定である等厚部と、内径側端面に隣接した、軸受合金層の厚さが等厚部よりも大きい増厚部または等厚部を有する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受けるための半円環形状の半割スラスト軸受であって、
前記半割スラスト軸受は、Fe合金製の裏金層と、前記裏金層の表面上に設けられた軸受合金層とを有し、前記軸受合金層は、前記軸線方向力を受ける摺動面を形成し、前記裏金層は、前記摺動面と平行な背面を形成し、
前記半割スラスト軸受は、その周方向両端面に隣接して形成された2つのスラストリリーフを有し、各スラストリリーフは、前記摺動面と前記周方向端面の間に延びる平坦なスラストリリーフ面を有し、それにより前記スラストリリーフにおいて、前記半割スラスト軸受の壁厚が摺動面側から周方向端面側に向かって薄くなっており、
各スラストリリーフ面は、前記裏金層が露出した表面からなる、前記周方向端面側の第1領域と、前記軸受合金層が露出した表面からなる第2領域および第3領域であって、前記第1領域に隣接した第2領域および前記摺動面に隣接した第3領域とを有し、また前記摺動面は、前記2つの第3領域の間の第4領域を有し、それにより前記第1領域および前記第2領域からなる周方向端部領域が規定され、
前記半割スラスト軸受の分割平面(HP)に垂直に測定した、前記分割平面から前記第2領域と前記第3領域の境界までの周方向端部領域長さ(L)が、前記半割スラスト軸受の内径側端面と外径側端面の間で一定であり、且つ前記内径側端面において、前記分割平面から前記半割スラスト軸受の周方向中央側へ向かって最小で10°且つ最大で35°の円周角度(θ1)に相当する長さであり、
前記第2領域における前記軸受合金層は、前記分割平面と平行ないずれの断面においても、前記半割スラスト軸受の径方向中央を含む範囲に、前記軸受合金層の厚さが一定である等厚部を有し、且つ前記内径側端面に隣接する範囲に、前記軸受合金層の厚さが前記等厚部よりも小さい減厚部を有し、また
前記第3領域における前記軸受合金層は、前記分割平面と平行ないずれの断面においても、前記半割スラスト軸受の径方向中央を含む範囲に、前記軸受合金層の厚さが一定である等厚部を有し、且つ前記内径側端面に隣接する範囲に、前記軸受合金層の厚さが前記等厚部よりも大きい増厚部または前記等厚部を有し、
前記第4領域における前記軸受合金層は、前記半割スラスト軸受の軸線を含むいずれの径方向断面においても、前記半割スラスト軸受の径方向中央を含む範囲に、前記軸受合金層の厚さが一定である等厚部を有し、且つ前記内径側端面に隣接する範囲に、前記軸受合金層の厚さが前記等厚部よりも大きい増厚部または前記等厚部を有する
ことを特徴とする半割スラスト軸受。
【請求項2】
前記第2領域および前記第3領域における前記軸受合金層は、前記分割平面と平行ないずれの断面においても、前記外径側端面に隣接する範囲に、前記軸受合金層の厚さが前記等厚部よりも大きい増厚部をさらに有することを特徴とする、請求項1に記載の半割スラスト軸受。
【請求項3】
前記分割平面に垂直に測定した、前記第2領域と前記第3領域の境界から前記第3領域と前記第4領域までの第3領域長さ(L3)が、前記内径側端面において、前記分割平面から前記第3領域と前記第4領域の境界までのスラストリリーフ長さ(LT)の5~25%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の半割スラスト軸受。
【請求項4】
前記分割平面に垂直に測定した、前記第1領域と前記第2領域の境界から前記第2領域と前記第3領域までの第2領域長さ(L2)が、前記内径側端面において、前記分割平面から前記第3領域と前記第4領域の境界までのスラストリリーフ長さ(LT)の10~40%であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか一項に記載の半割スラスト軸受。
【請求項5】
前記第4領域における前記軸受合金層は、前記半割スラスト軸受の軸線を含むいずれの径方向断面においても、前記外径側端面に隣接する範囲に、前記軸受合金層の厚さが前記等厚部よりも大きい増厚部をさらに有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか一項に記載の半割スラスト軸受。
【請求項6】
前記周方向端部領域の内径側端面の曲率中心が、前記第4領域の内径側端面の曲率中心とは異なる位置にあることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか一項に記載の半割スラスト軸受。
【請求項7】
クランク軸と、
前記クランク軸のジャーナル部を支承する一対の半割軸受であって、各半割軸受が、その周方向両端面に隣接して内周面側に形成された2つのクラッシュリリーフを有する一対の半割軸受と、
前記一対の半割軸受を保持する保持孔が貫通形成された軸受ハウジングと、
請求項1から6までのいずれか一項に記載の半割スラスト軸受であって、前記クランク軸の軸線方向力を受けるために、前記保持孔に隣接して前記軸受ハウジングの軸線方向端面に配置される少なくとも1つの半円環形状の半割スラスト軸受と
を有する、内燃機関のクランク軸用軸受装置において、
前記周方向端部領域長さ(L)が、前記半割軸受の軸線方向端部における前記クラッシュリリーフのクラッシュリリーフ長さより大きいことを特徴とする軸受装置。
【請求項8】
前記半割スラスト軸受の内径側端面における前記周方向端部領域長さ(L)は、前記半割軸受の軸線方向端部における前記クラッシュリリーフ長さの1.5倍以上であることを特徴とする請求項7に記載の軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受ける半割スラスト軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のクランク軸は、そのジャーナル部において、一対の半割軸受を円筒形状に組み合わせて構成される主軸受を介して、内燃機関のシリンダブロック下部に回転自在に支承される。
【0003】
一対の半割軸受のうちの一方又は両方が、クランク軸の軸線方向力を受ける半割スラスト軸受と組み合わせて用いられる。半割スラスト軸受は、半割軸受の軸線方向端面の一方又は両方に配設される。
【0004】
半割スラスト軸受は、クランク軸に生じる軸線方向力を受ける。すなわち、クラッチによってクランク軸と変速機とが接続される際等に、クランク軸に対して入力される軸線方向力を支承することを目的として配置されている。
【0005】
半割スラスト軸受の周方向両端近傍の摺動面側には、周方向端面へ向かって軸受部材の厚さが薄くなるようにスラストリリーフが形成されている。一般にスラストリリーフは、半割スラスト軸受の周方向端面から摺動面までの長さや周方向端面での深さが、径方向の位置によらずに一定になるよう形成される。スラストリリーフは、半割スラスト軸受を分割型軸受ハウジング内に組み付ける際の一対の半割スラスト軸受の端面同士の位置ずれを吸収するために形成される(特許文献1の図10参照)。
【0006】
内燃機関のクランク軸は、そのジャーナル部において、一対の半割軸受からなる主軸受を介して、内燃機関のシリンダブロック下部に支承される。このとき潤滑油は、シリンダブロック壁内のオイルギャラリーから主軸受の壁内の貫通口を通じて、主軸受の内周面に沿って形成された潤滑油溝内に送り込まれる。潤滑油はこのようにして主軸受の潤滑油溝内に供給され、その後半割スラスト軸受に供給される。なお、内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受けるスラスト軸受には、一般に、Fe合金製の裏金層の一方の表面にアルミニウム軸受合金又は銅軸受合金等の軸受合金製の摺動層を形成した積層構造体が用いられる。従来の半割スラスト軸受において、摺動層の厚さおよび裏金層の厚さは、半径方向でそれぞれ一定であるように設定されている。
【0007】
従来の(裏金層と摺動層を有する)半割スラスト軸受では、半割スラスト軸受の摺動面にクランク軸からの軸線方向力が入力される際に、半割スラスト軸受の摺動面のスラストリリーフに隣接した部分の半割スラスト軸受の内径側の端縁部が、クランク軸のスラストカラー面と局部的接触(片当たり)を起こす場合があった。その場合の局部的接触部付近の摺動層の疲労や焼付を防ぐため、スラスト軸受の摺動層の少なくとも内径側の端縁部において裏金層の表面と側面とを連続して覆い、その連続部分に円弧状部が設けられ、裏金層の少なくとも内径側の端縁部には、この端縁部の厚さが半径方向中央部分の厚さよりも薄くなるように薄肉部が形成され、且つ摺動層が、径方向中央部よりも薄肉部で厚くなるようにする提案がある(特許文献2の図4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11-201145号公報
【特許文献2】特開2014-177968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
半割スラスト軸受の摺動面へ供給される油は、主に主軸受(一対の半割軸受)のクラッシュリリーフ隙間(クラッシュリリーフ面とクランク軸のジャーナル部の表面との間の隙間)から漏れ出たものである。半割スラスト軸受は、このクラッシュリリーフ隙間から漏れ出た油がスラストリリーフおよびスラストリリーフに隣接する摺動面の部分の内径側端面上に流れ、次いで摺動面側へ送られるようになされている。
主軸受に供給される油に異物が混入している場合、異物は、主にクラッシュリリーフ隙間から油とともに排出され、したがって半割スラスト軸受のスラストリリーフおよびスラストリリーフに隣接する摺動面の部分の内径側端面に送られやすい。
半割スラスト軸受の摺動層(軸受合金)は、一般に、混入する異物を埋収する能力を有する。従来のスラスト軸受は、スラストリリーフおよびスラストリリーフに隣接する摺動面の部分の内径側端面において露出した摺動層(軸受合金)の表面に多量の異物が埋収および堆積されやすかった。
さらに、上述したように半割スラスト軸受のスラストリリーフに隣接した摺動面の部分の内径側の端縁部が、クランク軸のスラストカラー面と局部的接触(片当たり)を起こす場合、摺動層(軸受合金)の内径側端面において露出した摺動層(軸受合金)の表面に堆積した多量の異物が、同時に脱落してスラストリリーフの表面およびスラストリリーフに隣接する摺動面の部分に送られるので、これらの表面に焼付が起きやすかった。
【0010】
したがって本発明の目的は、運転時に局部的な異物の堆積が起き難く、且つ焼付が生じ難い内燃機関のクランク軸用半割スラスト軸受および軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の1つの観点によれば、内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受けるための半円環形状の半割スラスト軸受であって、
半割スラスト軸受は、Fe合金製の裏金層と、裏金層の表面上に設けられた軸受合金層とを有し、軸受合金層は、軸線方向力を受ける摺動面を形成し、裏金層は、摺動面と平行な背面を形成し、
半割スラスト軸受は、その周方向両端面に隣接して形成された2つのスラストリリーフを有し、各スラストリリーフは、摺動面と周方向端面の間に延びる平坦なスラストリリーフ面を有し、それによりスラストリリーフにおいて、半割スラスト軸受の壁厚が摺動面側から周方向端面側に向かって薄くなっており、
各スラストリリーフ面は、裏金層が露出した表面からなる、周方向端面側の第1領域と、軸受合金層が露出した表面からなる第2領域および第3領域であって、第1領域に隣接した第2領域および摺動面に隣接した第3領域とを有し、また摺動面は、2つの第3領域の間の第4領域を有し、それにより第1領域および第2領域からなる周方向端部領域が規定され、
半割スラスト軸受の分割平面(HP)に垂直に測定した、分割平面から第2領域と第3領域の境界までの周方向端部領域長さ(L)が、半割スラスト軸受の内径側端面と外径側端面の間で一定であり、且つ内径側端面において、分割平面から半割スラスト軸受の周方向中央側へ向かって最小で10°且つ最大で35°の円周角度(θ1)に相当する長さであり、
第2領域における軸受合金層は、分割平面と平行ないずれの断面においても、半割スラスト軸受の径方向中央を含む範囲に、軸受合金層の厚さが一定である等厚部を有し、且つ内径側端面に隣接する範囲に、軸受合金層の厚さが等厚部よりも小さい減厚部を有し、また
第3領域における軸受合金層は、分割平面と平行ないずれの断面においても、半割スラスト軸受の径方向中央を含む範囲に、軸受合金層の厚さが一定である等厚部を有し、且つ内径側端面に隣接する範囲に、軸受合金層の厚さが等厚部よりも大きい増厚部または等厚部を有し、
第4領域における軸受合金層は、半割スラスト軸受の軸線を含むいずれの径方向断面においても、半割スラスト軸受の径方向中央を含む範囲に、軸受合金層の厚さが一定である等厚部を有し、且つ内径側端面に隣接する範囲に、軸受合金層の厚さが等厚部よりも大きい増厚部または等厚部を有する、半割スラスト軸受が提供される。
【0012】
本発明の半割スラスト軸受の一実施形態では、第2領域および第3領域における軸受合金層は、分割平面と平行ないずれの断面においても、外径側端面に隣接する範囲に、軸受合金層の厚さが等厚部よりも大きい増厚部をさらに有していてもよい。
【0013】
本発明の半割スラスト軸受の一実施形態では、分割平面に垂直に測定した、第2領域と第3領域の境界から第3領域と第4領域までの第3領域長さ(L3)が、内径側端面において、分割平面から第3領域と第4領域の境界までのスラストリリーフ長さ(LT)の5~25%であってもよい。
【0014】
本発明の半割スラスト軸受の一実施形態では、分割平面に垂直に測定した、第1領域と第2領域の境界から第2領域と第3領域までの第2領域長さ(L2)が、内径側端面において、分割平面から第3領域と第4領域の境界までのスラストリリーフ長さ(LT)の10~40%であってもよい。
【0015】
本発明の半割スラスト軸受の一実施形態では、第4領域における軸受合金層は、半割スラスト軸受の軸線を含むいずれの径方向断面においても、外径側端面に隣接する範囲に、軸受合金層の厚さが等厚部よりも大きい増厚部をさらに有していてもよい。
【0016】
本発明の半割スラスト軸受の一実施形態では、周方向端部領域の内径側端面の曲率中心が、第4領域の内径側端面の曲率中心とは異なる位置にあってもよい。
【0017】
本発明の他の観点によれば、
クランク軸と、
クランク軸のジャーナル部を支承する一対の半割軸受であって、各半割軸受が、その周方向両端面に隣接して内周面側に形成された2つのクラッシュリリーフを有する一対の半割軸受と、
一対の半割軸受を保持する保持孔が貫通形成された軸受ハウジングと、
上述した本発明の1つの観点による半割スラスト軸受であって、クランク軸の軸線方向力を受けるために、保持孔に隣接して軸受ハウジングの軸線方向端面に配置される少なくとも1つの半円環形状の半割スラスト軸受と
を有する、内燃機関のクランク軸用軸受装置において、
周方向端部領域長さ(L)が、半割軸受の軸線方向端部におけるクラッシュリリーフのクラッシュリリーフ長さより大きい、軸受装置が提供される。
【0018】
本発明の軸受装置の一実施形態では、半割スラスト軸受の内径側端面における周方向端部領域長さ(L)は、半割軸受の軸線方向端部におけるクラッシュリリーフ長さの1.5倍以上であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明のクランク軸用の半割スラスト軸受および軸受装置は、内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受ける。そして上述したように、このクランク軸用の半割スラスト軸受では、スラストリリーフ面の内径側端面に異物を含む潤滑油が供給される。しかし本発明によれば、スラストリリーフ面の第2領域における軸受合金層が、半割スラスト軸受の分割平面と平行ないずれの断面においても、半割スラスト軸受の径方向中央を含む範囲に、軸受合金層の厚さが一定である等厚部を有し、且つ半割スラスト軸受の内径側端面に隣接する範囲に、軸受合金層の厚さが等厚部よりも小さい減厚部を有するので、第2領域の内径側端面に露出する軸受合金層の割合が小さい。このため、異物を含む潤滑油が供給される第2領域の内径側端面において軸受合金層の表面に大量の異物が堆積し難く、また同時に多量の異物が脱落してスラストリリーフ面に送られることがないため、焼付が起き難い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】軸受装置の分解斜視図である。
図2】軸受装置の正面図である。
図3】軸受装置の軸線方向断面図である。
図4】半割軸受の正面図である。
図5図4に示す半割軸受を径方向内側から見た底面図である。
図6】実施例1の半割スラスト軸受の正面図である。
図7】実施例1の半割スラスト軸受の周方向端部近傍の拡大正面図である。
図8】実施例1の半割スラスト軸受の周方向端部近傍を、内側(図7のY1矢視方向)から見た拡大側面図である。
図9図7のA-A断面図ある。
図10図7のB-B断面図ある。
図11図7のC-C断面図ある。
図12A】実施例の作用を説明するための半割軸受および半割スラスト軸受の正面図である。
図12B図12Aの半割軸受およびスラスト軸受を径方向内側から見た内面を示す図である。
図13】実施例2の半割スラスト軸受の周方向端部近傍の拡大正面図である。
図14図13のA1-A1断面図ある。
図15図13のB1-B1断面図ある。
図16図13のC1-C1断面図ある。
図17】実施例3の半割スラスト軸受の正面図である。
図18】別の実施形態の半割スラスト軸受の正面図である。
図19】別の実施形態の半割スラスト軸受の周方向端部近傍の側面図である。
図20】別の実施形態の半割スラスト軸受の周方向端部近傍の側面図である。
図21】別の実施形態の半割スラスト軸受の周方向端部近傍の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【実施例0022】
(軸受装置の全体構成)
まず、図1~3を用いて本発明の実施例1に係る軸受装置1の全体構成を説明する。図1~3に示すように、シリンダブロック2の下部に軸受キャップ3を取り付けて構成された軸受ハウジング4には、両側面間を貫通する円形孔である軸受孔(保持孔)5が形成されており、側面における軸受孔5の周縁には円環状凹部である受座6、6が形成されている。軸受孔5には、クランク軸のジャーナル部11を回転自在に支承する半割軸受7、7が円筒状に組み合わされて嵌合される。受座6、6には、クランク軸のスラストカラー12を介して軸線方向力f(図3参照)を受ける半割スラスト軸受8、8が円環状に組み合わされて嵌合される。
【0023】
図2~5に示すように、主軸受を構成する半割軸受7のうち、シリンダブロック2側(上側)の半割軸受7の内周面には潤滑油溝71が形成され、また潤滑油溝71内には外周面に貫通する貫通孔72が形成されている。なお、潤滑油溝71は、上下両方の半割軸受に形成することもできる。
【0024】
さらに、半割軸受7には、半割軸受7同士の当接面に隣接して、周方向両端部にクラッシュリリーフ73、73が形成されている。クラッシュリリーフ73は、半割軸受7の周方向端面に隣接する領域の壁厚が、周方向端面に向かって徐々に薄くなるように形成された壁厚減少領域である。クラッシュリリーフ73は、一対の半割軸受7、7を組み付けたときの突合せ面の位置ずれや変形を吸収することを企画して形成される。
【0025】
(半割スラスト軸受の構成)
次に、図2、3、6および7を用いて実施例1の半割スラスト軸受8の構成について説明する。
図2に示すように、本実施例の半割スラスト軸受8は、周方向中央を含む範囲に延び、軸線方向力fを受ける摺動面81(軸受面)と、周方向両端面83、83に隣接する領域に形成された2つのスラストリリーフ82、82とを有し、スラストリリーフ82は、平坦なスラストリリーフ面(平面)82Sを有している。摺動面81には、潤滑油の保油性を高めるために、両側のスラストリリーフ82、82の間に2つの油溝81a、81aが形成されている。
【0026】
スラストリリーフ82は、半割スラスト軸受8の壁厚が周方向端面83に向かって徐々に薄くなるように、周方向両端面83に隣接する摺動面81側の領域に、半割スラスト軸受8の径方向全長に亘って形成される壁厚減少領域である(図8も参照)。スラストリリーフ82は、半割スラスト軸受8を分割型の軸受ハウジング4内に組み付けた際に生じ得る、一対の半割スラスト軸受8、8の周方向端面83、83同士の位置ずれを緩和するために形成される。
【0027】
図6および7に示すように、本実施例のスラストリリーフ82は、半割スラスト軸受8の内径側端面8iと外径側端面8oの間で一定であるスラストリリーフ長さLTを有している。
スラストリリーフ82のスラストリリーフ面82Sは、半割スラスト軸受8の周方向端面83側に、裏金層84が露出した表面からなる第1領域821を有し、また周方向中央側に、第1領域821に隣接して、軸受合金層85が露出した表面からなる第2領域822および第3領域823を有している。第2領域822は、第1領域821に隣接し、第3領域823は、第2領域822および摺動面81に隣接している。第1領域821、第2領域822および第3領域823は同一平面内に延び、それにより平坦なスラストリリーフ面82Sを構成している。
半割スラスト軸受8の周方向端面83からのスラストリリーフ長さLTは、内径側端面8iにおいて、分割平面HPから半割スラスト軸受の周方向中央側へ向かって最小で15°且つ最大で40°の円周角度(θ)に相当する長さである。
第1領域821と第2領域822の境界から第2領域822と第3領域823の境界までの長さとして定義される第2領域822の第2領域長さL2は、半割スラスト軸受8の内径側端面8iにおいて、スラストリリーフ長さLTの10~40%(すなわちL2/LT=0.1~0.4)であることが好ましい。また、第3領域823の第3領域長さL3は、半割スラスト軸受8の内径側端面8iにおいて、スラストリリーフ長さLTの5~25%(L3/LT=0.05~0.25)であることが好ましい。
【0028】
ここで、スラストリリーフ82のスラストリリーフ長さLTとは、半割スラスト軸受8の中心軸線CP1を含む平面であって、一対の半割スラスト軸受を配置した場合の対称面となる平面(以下、分割平面HP)からスラストリリーフ面82Sと摺動面81の境界までの、分割平面HPに垂直に測定した長さとして定義される。本実施例では、周方向両端面83は分割平面HP内に位置しているため、内径側端面8iにおけるスラストリリーフ長さLTは、周方向端面83から、スラストリリーフ面82Sが摺動面81の内周縁と交わる点までの垂直方向の長さとして定義され得る。スラストリリーフ82の第2領域長さL2および第3領域長さL3もまた、分割平面HPに垂直方向に測定した長さとして定義されることが理解されよう。
【0029】
図8に示すように、半割スラスト軸受8のスラストリリーフ82は、周方向端面83において、半割スラスト軸受8の内径側端面8iと外径側端面8oとの間で一定である軸線方向深さRD1を有するように形成される。スラストリリーフ82の軸線方向の深さRD1は、0.1~1mmとすることができる。
【0030】
ここで、スラストリリーフ82の軸線方向深さとは、半割スラスト軸受8の摺動面81を含む平面からスラストリリーフ面82Sまでの軸線方向距離を意味する。換言すれば、スラストリリーフ82の軸線方向深さは、摺動面81をスラストリリーフ82上まで延長した仮想摺動面からスラストリリーフ面82Sまで垂直に測定した距離である。したがって半割スラスト軸受8の周方向端面83におけるスラストリリーフ82の軸線方向深さRD1は、摺動面81を延長した仮想摺動面から、スラストリリーフ面82Sと周方向端面83との交点までの距離として定義される。
【0031】
半割スラスト軸受8は、Fe合金製の裏金層84に薄い軸受合金層85を接着したバイメタルを用いて、半円環形状の平板として形成される。摺動面81を形成する軸受合金層85として、Cu軸受合金やAl軸受合金等を用いることができ、また裏金層84のFe合金として、鋼やステンレス鋼等を用いることができる。
【0032】
裏金層84は、摺動面81とは反対側に、摺動面81と平行な半割スラスト軸受8の背面84Sを形成する。
【0033】
図6および7に示すように、半割スラスト軸受8の摺動面81は、半割スラスト軸受8の周方向中央を含み且つそれぞれのスラストリリーフ面82Sの2つの第3領域823の間に延びる第4領域812を有する。
スラストリリーフ面82Sの第1領域821および第2領域822によって、半割スラスト軸受8の周方向のそれぞれの側に周方向端部領域800が構成される。周方向端部領域800は、分割平面HPに垂直に測定した、周方向端面83から第2領域821と第3領域823の境界までの長さである周方向端部領域長さLを有し、この周方向端部領域長さLは、半割スラスト軸受8の内径側端面8iと外径側端面8oの間で一定であり、且つ内径側端面8iにおいて、分割平面HPから半割スラスト軸受の周方向中央側へ向かって最小で10°且つ最大で35°の円周角度(θ1)に相当する長さである。
理解されるように、周方向端部領域長さLは、半割スラスト軸受8の内径側端面8iにおいて、スラストリリーフ長さLTよりも小さい。また好ましくは、周方向端部領域長さLは、半割スラスト軸受8の内径側端面8iにおいてスラストリリーフ長さLTの75~95%(L/LT=0.75~0.95)である。
【0034】
以下、図7~11を参照して、半割スラスト軸受8の裏金層84と軸受合金層85の配置について説明する。
図7のB-B断面を示す図10から理解されるように、第3領域823における軸受合金層85は、分割平面HPと平行な断面において、径方向の中央を含む範囲に延びる等厚部88であって、その軸線方向の厚さT2が一定である等厚部88のみを有する。なお、この断面において半割スラスト軸受8の軸線方向の厚さTbは一定である。
【0035】
また図7のA-A断面を示す図9から理解されるように、第2領域822における軸受合金層85は、分割平面HPと平行な断面において、径方向の中央を含む範囲に延びる等厚部88であって、その軸線方向の厚さT3が一定である等厚部88と、内径側端面8iに隣接した減厚部89であって、その軸線方向の厚さT4が等厚部88の厚さT3より小さい減厚部89を有している。減厚部89の厚さT4は、より詳細には、等厚部88から内径側端面8iに向かって連続して小さくなっている。なお、この断面においても半割スラスト軸受8の軸線方向の厚さTaは一定である。
【0036】
さらに、図7のC-C断面を示す図11から理解されるように、第4領域812における軸受合金層85は、半割スラスト軸受8の軸線を含む径方向断面において、その軸線方向の厚さT1が一定である等厚部88のみを有する。なお、軸受合金層85の等厚部88の厚さT1は、0.2~0.5mmであることが好ましい。第2領域822における減厚部89の、軸線方向に垂直な長さL5は0.2~1mmであることが好ましい。
【0037】
図8は、半割スラスト軸受8の周方向端部領域800の近傍を内径側(図7のY1矢視方向)から見た側面図である。
周方向端部領域800に描かれている点線は、等厚部88において軸受合金層85が裏金層84と接している面を表し、また換言すれば、軸受合金層84に減厚部89を形成しなかった場合の軸受合金層85と裏金層84との境界である。周方向端部領域800の内径側端面8iおける軸受合金層84の面積の割合は、減厚部89を形成しない場合に比べて小さくなっている。
周方向端部領域800のうち第2領域822における内径側端面8iでの軸受合金層85の減厚部89の厚さT4は、軸受合金層85の等厚部88の厚さT3の5%以上(25%以下)であることが好ましい。第2領域822における内径側端面8iでの軸受合金層85の減厚部89の厚さT4が、軸受合金層85の等厚部88の厚さT3の5%以上であることにより、半割軸スラスト軸受8の裏金層84とクランク軸のスラストカラー12の表面の直接接触が防がれる。
【0038】
なお、半割スラスト軸受8の軸受合金層85の摺動面81上にオーバーレイ層を形成してもよい。オーバーレイ層として、Sn、Sn合金、Bi、Bi合金、Pb、Pb合金等の金属や合金、或いは樹脂摺動材料を用いることができる。樹脂摺動材料は、樹脂バインダと固体潤滑剤とから形成される。樹脂バインダとしては公知の樹脂を用いることができるが、耐熱性の高いポリアミドイミド、ポリイミドおよびポリベンゾイミダゾールのうちの一種以上を用いることが好ましい。また、ポリアミドイミド、ポリイミドおよびポリベンゾイミダゾールのうちの一種以上からなる耐熱性の高い樹脂と、ポリアミド、エポキシおよびポリエーテルサルフォンのうちの一種以上からなる1~25体積%の樹脂とを混合した樹脂組成物や、ポリマーアロイ化した樹脂組成を樹脂バインダとして使用してもよい。固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、黒鉛、ポリテトラフルオロエチレン、窒化ホウ素等を用いることができる。樹脂摺動材料に対する固体潤滑剤の添加割合は、好ましくは20~80体積%である。また、樹脂摺動材料の耐摩耗性を高めるために、セラミックスや金属間化合物等の硬質粒子を樹脂摺動材料に対して0.1~10体積%含有させてもよい。
【0039】
このオーバーレイ層は、クランク軸の軸線方向力fを受ける軸受合金層85の摺動面81のみでなく、スラストリリーフ82のスラストリリーフ面82S、油溝81aの表面、半割スラスト軸受8の内径側端面8i、外径側端面8o、背面84S、周方向端面83等にも付与されてもよい。オーバーレイ層82bの厚さは0.5~20μmであり、望ましくは1~10μmである。
なお、本明細書において、摺動面81、スラストリリーフ面82S、内径側端面8i、外径側端面8o、背面84Sおよび周方向端面83は、オーバーレイ層82bを付与しなかった場合の表面として定義される。
【0040】
(作用)
次に、図2、3、12Aおよび12Bを用いて、本実施例のスラスト軸受10の作用を説明する。
軸受装置1において、オイルポンプ(図示せず)から加圧されて吐出された潤滑油は、シリンダブロック2の内部油路から半割軸受7の壁を貫通する貫通孔72を通り、半割軸受7の内周面の潤滑油溝71に供給される。潤滑油溝71内に供給された潤滑油には異物が混入していることがあり、この潤滑油は、一部は半割軸受7の内周面に供給され、一部はジャーナル部11の表面に設けたクランク軸の内部油路のための開口(図示せず)を通ってクランクピン側へ送られ、また他の一部は主軸受を構成する一対の半割軸受7、7のクラッシュリリーフ73の表面とクランク軸のジャーナル部11の表面との間の隙間を通って、半割軸受7、7の軸線方向両端から外部へ流出する。
【0041】
本実施例において、半割軸受7は半割スラスト軸受8と同心に配置され、且つ主軸受を構成する半割軸受7の周方向両端面を含む平面は、半割スラスト軸受8の周方向両端面を含む平面と一致しており、したがってクラッシュリリーフ73の位置とスラストリリーフ82の位置とが対応している。
【0042】
以下、本発明の作用について説明する。
半割軸受7のクラッシュリリーフ隙間から外部へ流出した直後の異物を含む潤滑油は、回転するクランク軸のジャーナル部11の表面に付随して周方向に流れているので、クランク軸の回転方向の前方側へ移動しようとする慣性力によって、図12Aおよび12Bに示すように(一方の半割スラスト軸受8の周方向端面83と他方の半割スラスト軸8の周方向端面83の突合せ部(当接部)の位置よりも、クランク軸の回転方向前方側へ向かって流れる(図12Aおよび12Bの破線矢印参照)。
【0043】
本実施例の半割スラスト軸受8は、第1領域821、第2領域822および第3領域823からなるスラストリリーフ面82Sと、第1領域821と第2領域822とからなる周方向端部領域800を有し、周方向端部領域800のうち第2領域822は、半割スラスト軸受8の分割平面HPと平行な断面に、径方向の中央部を含む範囲に延び且つ軸線方向の厚さT3が一定である等厚部88と、内径側端面8iに隣接した、軸線方向の厚さT4が等厚部88の厚さT3より小さい減厚部89とを有する。
したがって本発明の半割スラスト軸受8において、異物を含む潤滑油が流れてくる周方向端部領域800の内径側端面8iでは、異物を埋収しやすい軸受合金層85の割合が小さい(すなわち異物を埋収し難い裏金層84の割合が大きい)。このため周方向端部領域800の内径側端面8iにおける軸受合金層85の表面(側面)に大量の異物が堆積し難く、また堆積した大量の異物が軸受合金層85の表面(側面)から脱落してスラストリリーフ82に送られることがないため、これらのスラストリリーフ面82Sに焼付が起き難い。なお、周方向端部領域長さLは、内径側端面8iにおいて、分割平面HPから半割スラスト軸受の周方向中央側へ向かって最小で10°に相当する長さであるため、周方向端部領域800に隣接する第3領域821の内側端面8iでは、異物を含む潤滑油が送られ難くなる。
【0044】
内燃機関の運転時、特にクランク軸が高速回転する運転条件では、クランク軸に(軸線方向の)撓みが発生してクランク軸の振動が大きくなる。この大きな振動によって、半割スラスト軸受8の周方向中央に位置する第4領域812外径側端面8oに隣接する摺動面81の部分および内径側端面8iに隣接する摺動面81の部分、ならびにスラストリリーフ82の第3領域823の外径側端面8oに隣接するスラストリリーフ面82Sの部分および内径側端面8iに隣接するスラストリリーフ面82Sの部分が、クランク軸のスラストカラー12の面と局部的接触を繰り返し起こす場合がある。しかし、これらの部分の軸受合金層85は減厚部89を有していない(等厚部88を有している)ため、十分な厚さを有し、スラストカラー12の面との局部的接触による負荷は、軟質な軸受合金層85が弾性変形することで緩和されるようになっている。
【実施例0045】
以下、図13~16を用いて、軸受合金層85に関して実施例1とは異なる形態の第4領域812および周方向端部領域800を備える半割スラスト軸受8について説明する。なお、実施例1で説明した内容と同一又は均等な部分の説明については同一の符号を付して説明する。図13は、実施例2の半割スラスト軸受8の周方向端部近傍の拡大正面図であり、図14図13のA1-A1断面を示し、図15図13のB1-B1断面を示し、図16図13のC1-C1断面を示す。
【0046】
(構成)
まず、構成について説明する。本実施例の半割スラスト軸受8の構成は、上記断面における軸受合金層85の形状(厚さ)を除き実施例1と概ね同様である。
【0047】
具体的には、本実施例の半割スラスト軸受8のスラストリリーフ82の第3領域823における軸受合金層85は、分割平面HPと平行な断面に、径方向の中央部を含む範囲に延び且つ軸線方向の厚さT2が一定である等厚部88と、内径側端面8iに隣接した、軸線方向の厚さT5が等厚部88の厚さT2より大きい増厚部90と、さらに、外径側端面8oに隣接した、軸線方向の厚さT5が等厚部88の厚さT2より大きい増厚部90とを有する。軸受合金層85は、この増厚部90において、等厚部88と接する側から外径側端面8oに向かって連続して軸線方向の厚さが大きくなっている(図15参照)。
また周方向端部領域800の第2領域822における軸受合金層85は、分割平面HPと平行な断面に、径方向の中央部を含む範囲に延び且つ軸線方向の厚さT3が一定である等厚部88と、内径側端面8iに隣接した、軸線方向の厚さT4が等厚部88の厚さT3より小さい減厚部89と、さらに、外径側端面8oに隣接した、軸線方向の厚さT5が等厚部88の厚さT3より大きい増厚部90とを有する。軸受合金層85は、この増厚部90において、等厚部88と接する側から外径側端面8oに向かって連続しての厚さが大きくなっている(図14参照)。なお、外径側端面8oに隣接する第2領域822および第3領域823における増厚部90の、軸線方向に垂直な長さL6、および内径側端面8iに隣接する第3領域823における増厚部90の、軸線方向に垂直な長さL5’は、0.2~1mmであることが好ましい。
さらに、半割スラスト軸受8の周方向中央に位置する第4領域812における軸受合金層85は、半割スラスト軸受8の軸線を含む径方向断面において、径方向の中央部を含み且つ軸線方向の厚さT1が一定である等厚部88と、内径側端面8iに隣接した、軸線方向の厚さT6が等厚部88の厚さT1より大きい増厚部90と、外径側端面8oに隣接した、軸線方向の厚さT6が等厚部88より大きい増厚部90を有している。軸受合金層85は、これら増厚部90において、等厚部88と接する側から内径側端面8iおよび外径側端面8oにそれぞれ向かって連続して厚さが大きくなっている(図16参照)。なお、外径側端面8oに隣接する増厚部の長さL6、および内径側端面8iに隣接する増厚部の長さL5’は、径方向断面で0.2~1mmとすることが好ましい。
【0048】
実施例2の周方向端部領域800の第2領域822における軸受合金層85が内径側端面8iに隣接して減厚部89を備える構成は実施例1と同様であり、したがって実施例2は、実施例1と同様に異物の堆積を防ぐ作用効果を有する。
実施例2ではさらに、半割スラスト軸受8の第4領域812および第3領域823における軸受合金層85が、内径側端面8iおよび外径側端面8oにそれぞれ隣接する増厚部90、90を備え、周方向端部領域800の軸受合金層85は、外径側端面8oに隣接する増厚部90を備える。このためこの半割スラスト軸受8は、クランク軸に(軸線方向の)撓みが発生してクランク軸の振動が大きくなった際の内径側端面8iや外径側端面8oに隣接する摺動面81の部分やスラストリリーフ面82Sの部分と、スラストカラー12の面との局部的接触による負荷を緩和する効果に優れる。
なお、本実施例の半割スラスト軸受8の第4領域812および第3領域823における軸受合金層85は、内径側端面8iおよび外径側端面8oにそれぞれ隣接する増厚部90、90を備えるが、外径側端面8oに隣接する増厚部90のみ、または内径側端面8iに隣接する増厚部90のみを備えていてもよい(この場合、周方向端部領域800の外径側端面8oに隣接する増厚部90も備えない)。
【実施例0049】
以下、図17を用いて、実施例1とは異なる形態の周方向端部領域800の内径側端面8iを備える半割スラスト軸受8について説明する。なお、実施例1で説明した内容と同一又は均等な部分の説明については同一の符号を付して説明する。図17は、実施例3の半割スラスト軸受8の正面図である。
【0050】
(構成)
まず、構成について説明する。本実施例の半割スラスト軸受8の構成は、周方向端部領域800の内径側端面8iを除き実施例1と概ね同様である。
【0051】
具体的には、本実施例の半割スラスト軸受8の各周方向端部領域800の内径側端面8iの曲率中心CP2は、半割スラスト軸受8の周方向中央に位置する第4領域812の内径側端面8iの曲率中心(および外径側端面8oの曲率中心)CP1に対してずれている。
実施例3の周方向端部領域800の第2領域822における軸受合金層85が内径側端面8iに隣接して減厚部89を備える構成は実施例1と同様であり、したがって実施例3は、実施例1と同様に異物の堆積を防ぐ作用効果を有する。
【実施例0052】
次に、図2~8、12Aおよび12Bを用いて、本発明のスラスト軸受を備える軸受装置1について説明する。なお、上記実施例で説明した内容と同一又は均等な部分の説明については同一の符号を付して説明する。
また本実施例では、実施例1で説明した半割スラスト軸受8を備える軸受装置1について説明するが、これに限定されることなく、実施例2~3の半割スラスト軸受8を備える軸受装置1であっても以下と同様の作用効果を奏することに留意すべきである。
【0053】
図1~3に示すように、本実施例の軸受装置1は、シリンダブロック2と軸受キャップ3とを有する軸受ハウジング4と、クランク軸のジャーナル部11を回転自在に支承する2つの半割軸受7、7と、クランク軸のスラストカラー12を介して軸線方向力を受ける4つの半割スラスト軸受8とを有している。
【0054】
軸受ハウジング4を構成するシリンダブロック2および軸受キャップ3には、それらの接合箇所に、一対の半割軸受7、7を保持する保持孔としての軸受孔5が貫通形成されている。
各半割軸受7は、内周面の周方向両端部に隣接して形成されたクラッシュリリーフ73、73を備えている。またシリンダブロック2の側に配置される半割軸受7は、図4および5に示すように軸受の幅方向(軸線方向)の中央近傍で周方向に沿って形成された潤滑油溝71と、内周面側の潤滑油溝71から外周面に貫通する貫通孔72とを有している。
【0055】
一対の半割軸受7、7の軸線方向の各側には、一対の半割スラスト軸受8、8が配設される。各半割スラスト軸受8は半円環形状に形成されており、半割軸受7の外径と半割スラスト軸受8の外径とは略同心に配置される。また半割軸受7の周方向両端面を通る水平面と半割スラスト軸受8の周方向両端面を通る水平面(分割平面HP)とは一致するように、または略平行に配設される。
したがって、図2に示すように、半割軸受7のクラッシュリリーフ73と半割スラスト軸受8のスラストリリーフ82とは一対一で対応して位置している。
【0056】
実施例1で説明したように、各半割スラスト軸受8は、周方向の両側に周方向端部領域800を有している。
【0057】
本実施例の半割スラスト軸受8は半割軸受7に対して以下のような関係にある。
すなわち、本実施例の半割スラスト軸受8では、半割スラスト軸受8の内径側端面8iにおける周方向端部領域800の周方向端部領域長さLが、半割軸受7のクラッシュリリーフ73のクラッシュリリーフ長さCLよりも大きい。
ここで、クラッシュリリーフ長さCLとは、半割軸受7の周方向両端面74、74が下端面となるように水平面上に置いたとき、この水平面からクラッシュリリーフ73の上縁までの高さである(図4参照)。なお、半割軸受7の周方向端部の両側のクラッシュリリーフ73のクラッシュリリーフ長さは同じである。また本実施例とは異なり、半割軸受7のクラッシュリリーフ73のクラッシュリリーフ長さは、半割軸受7の軸線方向に変化していてもよい。
【0058】
以下、本実施例の作用について説明する。
図12Aおよび12Bに示すように、半割軸受7のクラッシュリリーフ隙間から外部へ流出した直後の潤滑油は、回転するクランク軸のジャーナル部の表面に付随して周方向に流れていたため、クランク軸11の回転方向の前方側へ移動しようとする慣性力によって、クラッシュリリーフ73の位置より、クランク軸の回転方向前方側へ向かって流れる(破線矢印)。
本実施例の軸受装置1の半割スラスト軸受8の内径側端面8iにおける周方向端部領域800の周方向端部領域長さLは、半割軸受7のクラッシュリリーフ73のクラッシュリリーフ長さCLよりも大きい。したがって半割軸受7のクラッシュリリーフ隙間から流出し、クラッシュリリーフ73の位置よりもクランク軸11の回転方向前方側へ向かって流れる(異物を含んだ)潤滑油は、周方向端部領域800の内径側端面8iへとまず向かうので、潤滑油に含まれる異物は、内径側端面8iにおいて軟質な軸受合金層85の表面に堆積し難い。
【0059】
半割軸受7のクラッシュリリーフ73の具体的な寸法として、乗用車用等の小型内燃機関のクランク軸(ジャーナル部の直径が30~100mm程度)の場合、例えばクラッシュリリーフ長さCLは3~7mmであり、また周方向端面74における、摺動面75をクラッシュリリーフ上まで延長した仮想延長面からのクラッシュリリーフ73の深さは0.01~0.1mmである。
【0060】
半割スラスト軸受8の内径側端面8iにおける周方向端部領域800の周方向端部領域長さLは、対応する位置にある半割軸受7のクラッシュリリーフのクラッシュリリーフ長さCLに関して、式:L≧1.5×CLを満たしていることが好ましい。
【0061】
以上、図面を参照して、本発明の実施例を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は本発明に含まれる。
【0062】
例えば図18に示すように、本発明は、位置決めおよび回転止めのために半径方向外側に突出する突出部8pを備える半割スラスト軸受8に適用することもできる。
また図19に示すように、この半割スラスト軸受8の円周方向長さは、実施例1に示す半割スラスト軸受8よりも所定の長さS1だけ短くてもよい。
【0063】
半割スラスト軸受8の摺動面81側の外形側縁部や内径側縁部に、周方向に亘って面取りを形成するもこともできる。なお、摺動面81側の外形側縁部や内径側縁部に面取りを形成した場合、軸受合金層85の増厚部90の厚さT6は、面取りを形成しなかった場合の摺動面81(軸受合金層85の表面)から測定した厚さとして定義される。
【0064】
また同様に、スラストリリーフ面82Sの外形側縁部や内径側縁部に、周方向に亘って面取りを形成するもこともできる。特に第2領域822の外形側縁部や内径側縁部に面取りを形成した場合、軸受合金層85の減厚部89および増厚部90の厚さの厚さT4、T5は、面取りを形成しなかった場合の第2領域822から測定した厚さとして定義される。
【0065】
さらに、図20に示すように、半割スラスト軸受8は、裏金層84の背面84S側に、周方向両端部83に隣接して、スラストトリリーフ82に似た形状の背面リリーフ92を有することができる。
【0066】
また誤組付け防止のため、図21に示すように一対の半割スラスト軸受8の2つの突合せ部のうち一方のみにおいて、それぞれの半割スラスト軸受8の周方向端面を傾斜端面83Aとして形成して突合せることもできる。この場合、傾斜端面83Aは、傾斜していない他方の突合せ部の周方向端面83を通る平面(分割平面HP)に対して所定の角度θ2だけ傾斜して形成されている。あるいは、傾斜端面83Aに代えて、それぞれの周方向端面を対応する凹凸形状といった他の形状とすることもできる。
しかし、いずれの場合も、スラストリリーフ長さLTは、半割スラスト軸受8の分割平面HPから、スラストリリーフ82の表面が摺動面81の内周縁と交わる点までの垂直方向の長さとして定義されることが当業者には理解されよう。同様に、周方向端部領域800の長さLは、半割スラスト軸受8の分割平面HPから、周方向端部領域800と第4領域812の境界までの垂直方向に測った長さとして定義される。
【0067】
また実施例4では、軸受装置1に半割スラスト軸受8を4つ使用しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、少なくとも1つの本発明による半割スラスト軸受8を使用することで所望の効果を得ることができる。また、本発明による半割スラスト軸受8と従来の半割スラスト軸受を対として円環形状のスラスト軸受として使用してもよい。さらに、本発明の軸受装置1において、半割スラスト軸受8は、クランク軸を回転自在に支承する半割軸受7の軸線方向の一方又は両方の端面に、半割軸受7と一体に形成されてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 軸受装置
4 軸受ハウジング
7 半割軸受
11 ジャーナル部
12 スラストカラー
71 潤滑油溝
72 貫通孔
73 クラッシュリリーフ
74 周方向端面
75 摺動面
CL クラッシュリリーフ長さ
8 半割スラスト軸受
81 摺動面
81a 油溝
82 スラストリリーフ
82S スラストリリーフ面
83 周方向端面
84 裏金層
84S 背面
85 軸受合金層
800 周方向端部領域
812 第4領域
821 第1領域
822 第2領域
823 第3領域
8i 内径側端面
8o 外径側端面
88 等厚部
89 減厚部
90 増厚部
RD1 周方向端面でのスラストリリーフの深さ
L 内径側端面での周方向端部領域の長さ
LT 内径側端面でのスラストリリーフの長さ
L2 内径側端面での第2領域の長さ
L3 内径側端面での第3領域の長さ
L5 減厚部の長さ
L5’ 増厚部の長さ
L6 増厚部の長さ
Ta 半割スラスト軸受の厚さ
T1 等厚部での軸受合金層の厚さ
T2 減厚部での軸受合金層の厚さ
T3 等厚部での軸受合金層の厚さ
T4 減厚部での軸受合金層の厚さ
T5 増厚部での軸受合金層の厚さ
T6 増厚部での軸受合金層の厚さ
HP 分割平面
CP1 曲率中心
CP2 曲率中心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21