(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147930
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】浸水阻止システム
(51)【国際特許分類】
E04H 9/14 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
E04H9/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049405
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】720010833
【氏名又は名称】村上 欣永
(72)【発明者】
【氏名】村上 欣永
【テーマコード(参考)】
2E139
【Fターム(参考)】
2E139AA07
2E139AB16
2E139AC19
(57)【要約】
【課題】浸水阻止システムにおいて、設備及び又は物品収容室に気体供給装置を置くことなく簡易なシステムで信頼性が高く点検が容易で安価なシステムを提供する。
【解決手段】設備及び又は物品収容室より高所に設置した空気圧縮装置と空気圧縮装置から設備及び又は物品収容室に圧縮空気を送気するための圧縮空気送気配管と設備及び又は物品収容室の気密化を図るための気密化部材と設備及び又は物品収容室の外部床面低所に設けた枡内に位置した水位計センサー部とを具備し、水害時に該水位計センサー部は接水を感知すると信号が発生し、この信号により空気圧縮装置を起動し、これにより圧縮空気送気配管を通じて空気圧縮装置から設備及び又は物品収容室に圧縮空気を送気し、気密化部材を取り付けた設備及び又は物品収容室内の気圧を設備及び又は物品収容室外の浸水により生ずる水圧よりも高くすることにより設備及び又は物品収容室の浸水を阻止する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸水阻止する対象である設備及び又は物品収容室より高所に設置した空気圧縮装置と、該空気圧縮装置から該設備及び又は物品収容室に圧縮空気を送気するための圧縮空気送気配管と、該設備及び又は物品収容室の気密化を図るための気密化部材と、該設備及び又は物品収容室の外部床面低所に設けた枡内に位置した水位計センサー部とを具備し、水害時に該水位計センサー部は接水を感知すると信号を発生し、この信号により該空気圧縮装置を起動し、これにより該圧縮空気送気配管を通じて該空気圧縮装置から該設備及び又は物品収容室に圧縮空気を送気し、該気密化部材を取り付けた該設備及び又は物品収容室内の気圧を該設備及び又は物品収容室外の浸水により生ずる水圧よりも高くすることにより設備及び又は物品収容室の浸水を阻止することを特徴とする浸水阻止システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水害の浸水阻止システムに関する。詳しくは、設備及び又は物品収容室等の浸水阻止システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年地震による津波や地球温暖化による降雨量の増大での水害が多く発生しており、都市部では建造物の浸水による設備の機能停止、収容物品の被害等が社会問題化している。
【0003】
この問題を解決するため、信頼度が高く、安価で簡便な浸水対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、略箱状の天蓋部で機器と気体供給装置を覆い、浸水危険に際し気体供給装置から天蓋部内部に気体放出し、天蓋部外からの浸水を防ぐ構造である。しかしこの構造では気体供給装置のボンベやタンクの容量以下しか気体放出できず、この容量が払底すると水害防止機能が停止してしまうという気体供給に限界があるという課題を有している。
【0006】
また特許文献1では浸水時の水位の変動上下限で発信される信号で警報発信とタイマー始動を行い、所定経時後天蓋部内に配置された気体供給制御弁を開放するという複雑な制御機構となっている。このような浸水の実態に合わせた複雑な制御を行うことは設置場所での事前テストの困難さやシステムの複雑さに起因する故障確率の増加というシステム上の課題を有している。
【0007】
加えて特許文献1の水害を防止する対象機器は1基ではなく、電気関連設備だけでも受変電装置、分電盤、遮断機、給水ポンプ、排水ポンプ、消火ポンプ等の設置場所が異なる機器がある。これらを個々に覆うような天蓋部を設置するには狭い空間で一品一様で現地製作せざるを得ず、足場等の養生や煩雑な施工段取り、さらに困難な姿勢での溶接等が要求される。天蓋部の溶接後の密閉を確認するための放射線検査、水密実証検査等の品質検査は前記一品一様な天蓋部の構造のため実施はほぼ不可能である。このためこの天蓋部構造に起因し水害防止構造全体の信頼度が低くなるという天蓋製作上の課題を有する。更に現地製作は工程が長期化し水害防止構造製作費用が高額になる課題も有している。
【0008】
さらに特許文献1は水害防止構造の正常機能発揮検証を行うことが困難である。なぜならば、災害防止用非常設備は建設設置時に試運転して正常機能を検証するだけでなく、その後も高頻度に正常機能発揮を点検検証して非常時に備える簡易な点検検証方策が必須要件だが、水位変化を想定した特許文献1
図3のような機能確認を高頻度で行うことは非常に困難である。このため非常時信頼度を欠くという定期点検上の課題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係る浸水阻止システムは浸水阻止する対象である設備及び又は物品収容室より高所に設置した空気圧縮装置と、該空気圧縮装置から該設備及び又は物品収容室に圧縮空気を送気するための圧縮空気送気配管と、該設備及び又は物品収容室の気密化を図るための気密化部材と、該設備及び又は物品収容室の外部床面低所に設けた枡内に位置した水位計センサー部とを具備し、水害時に該水位計センサー部は接水を感知すると信号を発生し、この信号により該空気圧縮装置を起動し、これにより該圧縮空気送気配管を通じて該空気圧縮装置から該設備及び又は物品収容室に圧縮空気を送気し、該気密化部材を取り付けた該設備及び又は物品収容室内の気圧を該設備及び又は物品収容室外の浸水により生ずる水圧よりも高くすることにより該設備及び又は物品収容室の浸水を阻止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明浸水阻止システムは無限にある大気を空気圧縮装置で圧縮し設備及び又は物品収容室に送気して浸水を阻止するシステムであるから永続的に浸水阻止でき、特許文献1における気体供給装置のボンベやタンクの供給気体が払底すると水害防止機能が停止してしまうという前記課題を解決している。
【0011】
また、本発明の浸水阻止システムは前記設備及び又は物品収容室の外部床面に設けた枡内に位置した水位計センサー部の接水感知信号で空気圧縮装置を起動するシステムになっているため複雑な制御は必要とせず、システムの建設設置時および定期点検時のテストの困難さやシステムの複雑さに起因する故障確率の増加という前記課題を解決している。
【0012】
加えて本発明の浸水阻止システムは無限にある大気を空気圧縮装置で圧縮し設備及び又は物品収容室に送気して浸水を阻止するシステムであるから水密性に対し過度な信頼性は要求されないため、信頼性に関する課題や構造製作費用が高額になるという前記課題を解決している。
【0013】
さらに本発明の浸水阻止システムは水位計センサー部が接水することで空気圧縮装置を起動し圧縮空気送気配管を通じて設備及び又は物品収容室に圧縮空気を送気し、前記設備及び又は物品収容室内の気圧を前記設備及び又は物品収容室外の浸水により生ずる水圧よりも高くし浸水を阻止する構成なので、水位計センサー部を接水させるだけで建設設置時および点検検証時にシステム全体の検証が容易に行え、前記検査困難性により非常時において信頼性が欠けるとした前記課題を解決している。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【発明を実施するための形態】
【実施例0015】
図1に本発明に係る浸水防止システムの一実施例を示す。
図1に示すように空気圧縮装置1は建造物屋上4の階段室5の近傍に設置され、地下階床面7上に配設された電気室、ポンプ室、非常用備品保管室等の設備及び又は物品収容室3の外部の地下階床面7の低所に設けた枡9内に配設した水位計センサー部8が流入水に接水すると発する信号を水位計信号用ケーブル23を介し空気圧縮装置1に伝達することにより空気圧縮装置1を起動し、空気圧縮装置1より送出される圧縮空気を圧縮空気送気配管2を介して設備及び又は物品収容室3に分岐送気することで設備及び又は物品収容室3内の気圧を、設備及び又は物品収容室3に浸水する水圧より高くすることで浸水を阻止するシステムになっている。なお枡9内に滞留する水は水害が治まり設備及び又は物品収容室3に浸水のおそれが解消された時点で掻き出し、これにより水位計センサー部8の接水が解除され水位計センサー部8からの信号が停止することにより空気圧縮装置1が停止し設備及び又は物品収容室3への圧縮空気の送気は停止するシステムとなっている。
【0016】
空気圧縮装置1の設置場所としては
図1の建造物屋上4に限らず、集中豪雨、津波等で水没しない設置高さであれば、階段踊り場6や符号を付していない各階共用廊下、エレベーターホール、ベランダ等の空間であってもよい。
【0017】
空気圧縮装置1の駆動用電源は当該建造物の地下階が水没しても停電することのない構成となっており、例えば電力会社から当該建造物に給電する母線から直接分岐供給する方法や空気圧縮装置内1に発電設備を具備する構成であっても構わない。
【0018】
図2には設備及び又は物品収容室3と設備及び又は物品収容室3内に収容された設備及び又は物品15とこれら周辺に関する本発明に係る浸水阻止システムの一実施例の断面を示す。設備及び又は物品収容室3は地上階と地下階を仕切る建造物階層仕切りスラブ10の下面である地下階天井面12と垂直方向形成壁13と地下階床面7で囲まれており、形成壁13には
図2の引き出し線で結んだ円B内に詳細図示した貫通孔14を設け、地下階天井面12に沿わせて敷設した圧縮空気送気配管2の端部を挿入する。また
図2の引き出し線で結んだ円C内には設備及び又は物品15のための配線コンジット20を通している既設貫通孔14を詳細図示した。
【0019】
次に設備及び又は物品収容室3各所の気密化について説明する。ここでの気密化は完全密閉を意味するものではなく、設備及び又は物品収容室3内が室外より高圧になった際には、各部気密化部材から若干の圧縮空気が漏洩することを許容するものである。また後述説明で気密化部材として耐圧ゴムパッキン、パテ等の詰め物の使用を例に記載しているが、それに限定するものではない。
【0020】
具体的気密化は、
図2の引き出し線で結んだ円A内に詳細図示しているように形成壁13に囲われた設備及び又は物品収容室3の出入り口ドア16とドア枠17の間の周囲に気密化部材の耐圧ゴムパッキン18を付設し、室内高圧空気の大量流出を防止する。
【0021】
また、
図2の引き出し線で結んだ円B内に詳細図示している形成壁13に設けた圧縮空気送気配管2を挿入する貫通孔14と、
図2の引き出し線で結んだ円C内に詳細図示している設備及び又は物品収容室3の形成壁13にある既設貫通孔14に気密化部材のパテ等の詰め物19で圧縮空気送気配管2や配線コンジット20等配管の間隙をコーキングする。
【0022】
さらに、設備及び又は物品収容室3に換気吹き出し口があれば、換気用ブロアーダクト11からの換気吹き出し口に気密化を図る部材として
図2の引き出し線で結んだ円D内に詳細図示した逆流防止ダンパー21(逆止弁)を取り付け、空気圧縮装置1が稼働し設備及び又は物品収容室3内が換気吹き出し圧よりも高圧になると、その圧力差で逆流防止ダンパー21は自動閉止され、換気用ブロアーダクト11に圧縮空気が逆流し大量流失することを防止する。
【0023】
図1及び
図2に示す水位計センサー部8の設置位置は設備及び又は物品収容室3の外部床面の低所に設けた枡9に限らず、建造物内に浸水が予想されることを水位計センサー部8が接水を感知しうる場所であれば、図示しない建造物地上階床面上、建造物周辺地盤面上等に設けた枡9であってもよい。なお、多くのマンションやテナントビルなどの床面には、排水を考慮し1点に集水するよう僅かな傾斜がついていて低所に枡9が既設で在る場合には、これを利用することで枡9の新設を要するものではない。
【0024】
水位計センサー部8の作動用電源は、空気圧縮装置1の電源同様に当該建造物の地下階が水没しても停電することのない電源とし、電力会社から当該建造物に給電する母線から直接分岐供給しても構わない。
【0025】
設備及び又は物品収容室3内に気圧検出用センサー22を設け、その信号を警備員室等に取り付けた図示していない表示器(メーター)に送信し、設備及び又は物品収容室3内の気圧を確認できるようにし、空気圧縮装置1の吐出空気圧制御にも利用することもできる。
【0026】
設備及び又は物品収容室3内の気圧が地下階床面の水没時水圧より高ければ浸水は阻止できる。具体的には、
図1と
図2に示す地下階の床面がおおよそ建造物地盤面下10mとし、建造物周辺地盤冠水水位を建造物地盤面上1mと想定すると、地下階の床面に働く水頭圧は11mAqとなり0.11MPaである。空気圧縮装置1に出口圧0.7MPa、吐出量6.9m
3/分の性能を有する市販空気圧縮装置を用いれば、配管送気抵抗を参入しても、設備及び又は物品収容室3内は浸水阻止に必要な0.11MPaをはるかに上回る気圧に昇圧できる。因みに空気圧縮装置1を地上100mの屋上に設置し1・1/2インチ径配管で設備及び又は物品収容室3まで、10か所程度の曲がりと5か所程度の分岐があっても、配管送気抵抗は0.1MPaに満たない値である。
【0027】
設備及び又は物品収容室3の寸法を長さ6m幅3m高さ2.5m容積45m3と想定し、これが4室あると総容積は180m3となる。前記市販空気圧縮装置の吐出量6.9m3/分では26分程で、設備及び又は物品収容室3全てが前記市販空気圧縮装置出口圧から配管圧力損失0.1MPaを減じた0.6MPa程度に到達する。設備及び又は物品収容室3内浸水阻止に必要な気圧は0.11MPaであるから26分より相当に短い時間で設備及び又は物品収容室3内浸水阻止作用は開始される。
【0028】
本発明の浸水阻止システムを構成する装置や工事の概算費用を掲げると、空気圧縮装置200万円、工事費込み送気配管100万円、水位計1万円、気圧計1万円、気密化工事費100万円、電気配線工事費50万円、その他雑費を含め総額500万円以下である。この金額は特許文献1の想定金額や重要設備の移設想定金額に比べ、はるかに安価であることは当該事業者には容易に判定できる。マンションやテナントビルなどで浸水防止工事費用が安価であることは多数の居住者の合意が得やすく、非常用浸水防止対策には重要な要素である。
次に本発明の実施例2の浸水阻止システムについて説明する。本実施例2の浸水防止システムは地階を有する大型建造物ではなく、地上にある小型の店舗や一般住宅を対象にしたものである。基本的な構造は前記実施例1と同じであるが、浸水防止対象を設備及び又は物品収容室が店舗や住宅に変更されたものとなる。この実施例2の浸水防止システムでは店舗や住宅の地上階よりも高い2階のベランダ等に安価で購入できるベビコン(小型空気圧縮器)を設置し、ベビコンの圧縮空気出口配管を店舗や住宅屋内に敷設接続し、窓枠・出入り口ドア・換気口等の建屋開口部の気密化をビニール短冊部材で行い、水害予報を起点に手動でベビコンを起動させる安価で容易な屋内浸水阻止システムとなっている。