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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147944
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】電動巻上げ装置
(51)【国際特許分類】
   B66D 5/20 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
B66D5/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049424
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000137878
【氏名又は名称】株式会社ミヤマエ
(74)【代理人】
【識別番号】100095647
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】宮前 昭宏
(57)【要約】
【課題】耐久性が高く、ドローンにも搭載可能な小型で軽量な電動巻上げ装置を提供する。
【解決手段】モータの動力を減速ギア機構・制動機構の順でドラムに伝達すると共に、モータの回転方向を正逆に切り替えることでドラムに巻回した吊り荷を昇降可能とした電動巻上げ装置において、制動機構は、モータと正逆に回転可能に接続されるネジ軸と、ネジ軸上にライニングを介してクラッチ板と摩擦板を交互に配列してなるクラッチと、ネジ軸のドラムとクラッチの間に螺合され、クラッチ側への締め込み時の推力によりクラッチを接続可能に押圧する押圧用ナット部を備える。ネジ軸はドラムの回転中心に挿通した支軸に押圧用ナット部が螺合する雄ネジ部を形成し、押圧用ナット部はドラムに対して一体回転可能に設け、モータの停止中、ドラム側の負荷トルクによって押圧用ナット部が締め込まれることでクラッチは吊り荷を一定高さに保持可能なブレーキ力を発揮する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの動力を減速ギア機構・制動機構の順でドラムに伝達すると共に、当該モータの回転方向を正逆に切り替えることで前記ドラムに巻回した吊り荷を昇降可能とした電動巻上げ装置において、前記制動機構は、前記減速ギア機構を介して前記モータと正逆に回転可能に接続されるネジ軸と、該ネジ軸上にライニングを介してクラッチ板と摩擦板を交互に配列してなるクラッチと、前記ネジ軸の前記ドラムと前記クラッチの間に前記クラッチ側に向かって締め込まれるように螺合され、当該締め込み時の推力により前記クラッチ板と前記摩擦板とを前記ライニングにより摩擦接合可能な押圧用ナット部を備え、前記ネジ軸は前記ドラムの回転中心に挿通した支軸に前記押圧用ナット部が螺合する雄ネジ部を形成してなると共に、前記押圧用ナット部は前記ドラムに対して一体回転可能に設けてなり、前記モータの停止中、前記吊り荷による前記ドラム側の負荷トルクによって前記押圧用ナット部が前記締め込み方向に回転することで前記クラッチは前記吊り荷を一定高さに保持可能なブレーキ力を発揮することを特徴とした電動巻上げ装置。
【請求項2】
クラッチは、複数組のクラッチ板・ライニング・摩擦板からなる多板クラッチで構成され、当該組数を変更可能とすることで吊り荷の重量に応じたブレーキ力を得る請求項1記載の電動巻上げ装置。
【請求項3】
ネジ軸上に押圧用ナット部と対峙してクラッチの受け部を備えると共に、この受け部はラチェットにより常時逆転を規制した請求項1または2記載の電動巻上げ装置。
【請求項4】
モータの停止時において、当該モータと減速ギア機構を合わせた回転抵抗として示される駆動系の静的摩擦トルクを、ドラム側の負荷トルクと釣り合うように設定した請求項1、2または3記載の電動巻上げ装置。
【請求項5】
モータの逆転駆動による吊り荷の降下中、ドラム側の負荷トルクが一定以下となったとき、押圧用ナット部は、前記クラッチから締め込みに対する反作用を受けて前記締め込みが緩まり、前記クラッチを切断する請求項1から4のうち何れか一項記載の電動巻上げ装置。
【請求項6】
減速ギア機構は、少なくとも一部を遊星歯車で構成した請求項1から5のうち何れか一項記載の電動巻上げ装置。
【請求項7】
請求項1から6のうち何れか一項に記載した電動巻上げ装置を搭載したことを特徴とするドローン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータの回転方向を正逆に切り替えることで吊り荷を昇降する電動巻上げ装置に係り、吊り荷によりドラムに作用する負荷トルクやモータの昇降トルクを送りネジ機構によってクラッチを操作するための推力に変換するメカニカルブレーキを備えたものに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、モータ1の回転方向を正逆に切り替えることで吊り荷を昇降する巻上げ機において、モータ1とドラム2の間にブレーキ機構4が設けられ、モータ1の駆動ギア31に噛合する従動ギア32と、ドラム2への出力軸21(ブレーキ機構の支軸)との回転速度差によってブレーキ力を発生させたりブレーキ力を解放させたりし得るようにしたメカニカルブレーキが開示されている(符号は特許文献1から引用。以下、「発明が解決しようとする課題」の項まで同じ)。
【0003】
この巻上げ機によれば、従動ギア32はドラム2側の出力軸21と送りネジ機構(ネジ機構41)を構成しており、モータ1を巻上げ方向に作動させれば、駆動ギア31を介して出力軸21が一定方向に回転することにより、従動ギア32がネジ推進によって摩擦板44・45を押圧する推力を得てブレーキ力が生じ、モータ等の駆動系の巻上げトルクによって吊り荷を巻き上げる。一方、モータ1を巻下げ側に作動させれば、今度は従動ギア32が摩擦板44・45から離間する方向に移動することによってブレーキ力が解放され、ドラム2が繰出し方向に回転することで吊り荷を降下させる。そして、この巻下げ動作中、出力軸21の回転速度、即ちドラム2の繰出し方向の回転速度が、従動ギア32の回転速度、即ちモータ1側の巻下げ方向の回転速度を上回れば、再び従動ギア32が摩擦板44・45を押圧する方向に移動してブレーキ力を発生させ、これにより吊り荷をモータの巻下げ速度で降下させるようになっている。なお、モータ1の停止中は、吊り荷の荷重によってドラム2に巻下げ方向の回転トルクが作用し、これによって出力軸21が回転することで、巻上げ動作時と同様に、従動ギア32が摩擦板44・45の押圧方向に移動してブレーキ力を発揮し、吊り荷を一定高さに保持する。このように、特許文献1のメカニカルブレーキは、摩擦板44・45と対峙する従動ギア32を出力軸21との送りネジ機構によって軸線方向に往復動させることで、機械的にブレーキ力を調整するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-5972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで特許文献1では、従動ギア32に対して、出力軸21と送りネジ機構(ネジ機構41)をなすための雌ネジと、駆動ギア31とモータの動力伝達機構(動力伝達歯車3)をなすための雄ネジ部の2つのネジを内外に設けている。これによって、従動ギア32が、動力伝達のための回転運動と、ブレーキ力を調整するための軸方向運動(直線運動)を同時に行うように構成されている。このため、従動ギア32が軸線方向に移動するときは、駆動ギア31との噛合部において、通常の摩擦力以外に、軸方向の摩擦力も生ずることになる。したがって、特許文献1の巻上げ機では、従動ギア32と駆動ギア31との噛合部が通常よりも早く摩耗するなど、装置の耐久性に影響する。
【0006】
また、特許文献1のものは、ドラム2の回転軸が出力軸21とは別の部材で構成されており、互いに平行して軸支されている。このため、ドラム2側においても出力軸21とドラム2を連結するための動力伝達歯車5が必要となり、モータ1側の動力伝達歯車3を含めると、装置の大型化は避けられない。この点、近年ではドローンを利用した荷物の配送サービスが実現しつつあり、その前提として、巻上げ機をドローンに搭載できる大きさや重さに抑えることが重要になる。
【0007】
本発明は上述した課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、耐久性が高く、ドローンにも搭載可能な小型で軽量な電動巻上げ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するために本発明では、モータの動力を減速ギア機構・制動機構の順でドラムに伝達すると共に、当該モータの回転方向を正逆に切り替えることで前記ドラムに巻回した吊り荷を昇降可能とした電動巻上げ装置において、前記制動機構は、前記減速ギア機構を介して前記モータと正逆に回転可能に接続されるネジ軸と、該ネジ軸上にライニングを介してクラッチ板と摩擦板を交互に配列してなるクラッチと、前記ネジ軸の前記ドラムと前記クラッチの間に前記クラッチ側に向かって締め込まれるように螺合され、当該締め込み時の推力により前記クラッチ板と前記摩擦板とを前記ライニングにより摩擦接合可能な押圧用ナット部を備え、前記ネジ軸は前記ドラムの回転中心に挿通した支軸に前記押圧用ナット部が螺合する雄ネジ部を形成してなると共に、前記押圧用ナット部は前記ドラムに対して一体回転可能に設けてなり、前記モータの停止中、前記吊り荷による前記ドラム側の負荷トルクによって前記押圧用ナット部が前記締め込み方向に回転することで前記クラッチは前記吊り荷を一定高さに保持可能なブレーキ力を発揮するという手段を用いた。
【0009】
当該手段によれば、モータやドラムの回転運動は何れも、ドラムの支軸をネジ軸とした送りネジ機構によって、押圧用ナット部が前記ネジ軸を左右にネジ推進してクラッチと接離する直線的な往復運動に変換される。こうした押圧用ナット部の往復運動中、クラッチを押圧する推力の有無によって、クラッチによるブレーキ力の有無が決定する。即ち、クラッチは、モータを巻上げ方向に回転させた場合は、これと連動して回転するネジ軸によって押圧用ナット部が締め込まれることで当該クラッチが接続され、モータと減速ギア機構の駆動系トルクをドラムに伝達するように作用するが、モータの停止中は、吊り荷による負荷トルクによってドラムが繰り出し方向に回転するのと連動して、このときも押圧用ナット部が締め込まれることで、吊り荷を一定高さに保持するブレーキ力を発揮し、いわゆるブレーキクラッチとして機能する。一方、モータを吊り荷の繰出し方向に回転させた場合は、ネジ軸が巻上げ時とは逆向きに回転することにより、押圧用ナット部がクラッチに対する締め込みとは反対の緩み方向に変位してブレーキ力が解除され、ドラムが自由回転可能な状態となることで、吊り荷自身の重量によって吊り荷が降下する。さらに、当該降下中にドラムの回転速度、即ち押圧用ナット部の降下方向の回転速度が、モータの繰出し方向の回転速度、即ちネジ軸の繰出し方向の回転速度を超えると、押圧用ナット部の降下方向の回転が優勢となって、当該押圧用ナット部が再び締め込まれ、その推力によってブレーキ力が回復する。したがって、結果として、モータの繰出し方向の回転トルクで吊り荷を降下させることができ、以後、押圧用ナット部とネジ軸との回転差に応じて、ブレーキ力の解除と回復を繰り返して、モータを停止するまで吊り荷を降下させることができる。
【0010】
こうした基本的な動作を行う中、本発明では、押圧用ナット部がモータや減速ギア機構といった駆動系と噛合関係にないため、ブレーキ力を発揮したり解放したりするときに、駆動系の噛合部に無理な力(摩擦)が作用しない。
【0011】
また、本発明では、ドラムの支軸によってネジ軸を構成し、しかも、この支軸上に制動機構を集約しているため、部品数の抑制や装置の小型化・軽量化が図れて合理的である。
【0012】
上記手段に付加する具体的手段としては、クラッチは、複数組のクラッチ板・ライニング・摩擦板からなる多板クラッチで構成され、当該組数を変更可能とすることで吊り荷の重量に応じたブレーキ力を得ることが好ましい。モータと減速ギア機構からなる駆動系が同じ構成(出力トルク)であれば、クラッチ側への締め込み時の押圧用ナット部の推力は一定となるため、多板クラッチの組数を変更するだけで、吊り荷の重量に見合ったブレーキ力が得られるからである。これは、モータの停止中に吊り荷を一定高さに保持するときに特に有効であり、例えば、3組の多板クラッチにより30kgの吊り荷を保持するブレーキ力が得られるとすれば、5組の多板クラッチでは50kgの吊り荷を保持することができるようになる。
【0013】
また、ネジ軸上に押圧用ナット部と対峙してクラッチの受け部を備えると共に、この受け部はラチェットにより常時逆転を規制するという手段では、押圧用ナット部が逆転により締め込まれたとしても、受け部はラチェットが効いてその方向には共回りせず、回転停止の状態で押圧用ナット部の推力を受圧する。したがって、モータの停止中、押圧用ナット部のクラッチ側への推力を前記受け部が受圧することで、クラッチを完全に摩擦接合状態として、吊り荷を一定高さに保持可能なブレーキ力を確実に得ることができる。また、モータを巻上げ方向に作動しているときも、受け部の逆回転規制によってドラムの降下方向の回転が規制され、吊り荷が落下するトラブルを防止することができる。
【0014】
さらに、モータの停止時において、当該モータと減速ギア機構を合わせた回転抵抗として示される駆動系の静的摩擦トルクを、ドラム側の負荷トルクと釣り合うように設定するという手段では、モータが電磁ブレーキ等のブレーキを備えていなくとも、モータの停止中、ドラムから吊り荷が繰り出されることなく、吊り荷を一定高さに保持可能なブレーキ力を維持させることができる。また、前記モータの停止中に、仮に、前記ドラム側に前記ブレーキ力を超過する荷重が作用したときは、前記静的摩擦トルクを超えて前記駆動系の逆転が許容される。したがって、超過荷重による巻上げ装置への衝撃等を緩和することができる。これは、例えば本装置をドローンに搭載して荷の配送システムを構築した場合に有効で、その配送中に吊り荷が木に引っかかったとしても、ドローンへの衝撃を緩和するのに役立つ。
【0015】
一方、モータの逆転駆動による吊り荷の降下中、ドラム側の負荷トルクが一定以下となったとき、押圧用ナット部は、前記クラッチから締め込みに対する反作用を受けて前記締め込みが緩まり、前記クラッチを切断するという手段では、吊り荷が着地するなどして負荷トルクが一定以下となれば、押圧用ナット部の緩みによりクラッチが切れた状態となる。そして、一度緩んだ押圧用ナット部はネジ軸と共転することになり、そのままモータを逆転し続けたとしても、クラッチが切れた状態が継続する。したがって、本発明では、吊り荷が着地からモータの停止が遅れたとしても、吊り荷の着地と同時にクラッチが切断されることでドラムからロープが繰り出されることがなくなり、バックラッシュ現象を防止することができる。
【0016】
さらに、減速ギア機構は、平歯車のみで構成することもできるが、少なくとも一部を遊星歯車で構成することが好ましい。必要なトルクを得ながら、減速ギア機構をより小型化・軽量化することができるからである。
【0017】
なお、本発明の電動巻上げ装置は、工場や倉庫、建設現場などの一般的な荷役に限らず、あらゆる荷役分野で利用することができる。また、本装置をドローンに搭載すれば、陸路が整備されていない僻地に対しても手軽に荷を配送することができるようになるなど、その可能性は無限となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、推力によってブレーキ力を得たり解放したりする押圧用ナット部が減速ギア機構と直結されないため、減速ギア機構を構成する各種ギアが通常以上に摩耗することがなく耐久性が高く、しかもネジ軸をドラムの支軸で構成すると共に、該支軸上に制動機構を統合しているため、小型で軽量な電動巻上げ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る電動巻上げ装置の全体斜視図
図2】同、フレームを除いた主要部の斜視図
図3】同、全体の断面図
図4】同、主要部の拡大断面図
図5】同、主要部を左側から見た分解斜視図
図6】同、主要部を右側から見た分解斜視図
図7】同、押圧用ナット部のラチェット機構を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施の形態を添付した図面に従って説明する。図1は本発明の一実施形態に係る電動巻上げ装置の全体斜視図であって、1はモータ、2はドラムである。ドラム2にはロープ3を巻掛けており(図面上、右側から見て左巻き)、その先端に吊り荷Wを固定している。4はレベルワンダーであって、ドラム2と連動して回転するトラバースカム5上を左右に往復動することで、ロープ3をドラム2に均一に巻掛けるものである。そして、端子6に接続したコントローラ(図示せず)によってモータ1の作動・停止、及び回転方向を正逆に切り替えることで、ドラム2を正逆に回転させて吊り荷Wを昇降したり、吊り荷Wを一定高さに保持したりする。
【0021】
本装置は、4枚の平行するプレート状のフレームF1~4間に、モータ1やドラム2を始め、減速ギア機構及び制動機構を組み付けている。このうち減速ギア機構は、図2・3に示すように、モータ1側から二組の遊星歯車7・8、平歯車からなる二つの伝達ギア9・10、伝達ギア9・10よりも大径な平歯車からなる出力ギア11によって構成されている。このうち最終の出力ギア11は、ドラム2の回転中心に挿通した支軸12の一端(図面上、右端)に一体的に固定している。なお、説明の便宜上、各ギア7~11の歯は図示を省略している。
【0022】
こうした減速ギア機構によってモータ1のトルクを増大したうえで、制動機構を介して、ドラム2に伝達するところ、本実施形態の制動機構は、ドラム2の支軸12をネジ軸とした送りネジ機構と、多板クラッチとで構成されている。
【0023】
このうち送りネジ機構は、図4によく示されるように、支軸12の片側一部に雄ネジ部12aを形成してネジ軸を構成すると共に、その雄ネジ部12aには押圧用ナット部13を螺合してなる。したがって、支軸12が回転すれば、押圧用ナット部13がネジ推進によって支軸12の回転方向に従った方向に支軸12上を左右に往復動する。また、支軸12の回転停止中(モータ1の停止中と同義)も、押圧用ナット部13はドラム2が吊り荷Wの荷重によって繰出し方向に回転するのと連動して回転し、支軸12をネジ推進する。
【0024】
制動機構の一構成を担う多板クラッチは、図4に示したように、ライニング15を介してクラッチ板14と摩擦板16を複数組、支軸12上に交互に配列してなる。このうちクラッチ板14は、図5・6に示すように、その外周2カ所に設けた凸起14aを受け部17の収容筒部に形成した切欠き17aに嵌合している。一方、摩擦板16は、その中心孔16aを押圧用ナット部13の軸基部13aと合致する角軸状として、押圧用ナット部13と共転可能としている。なお、この実施形態では、ライニング15を5枚とした多板クラッチとしているが、組数をより多くすることで、初期のブレーキ力を増大させることができる。
【0025】
そして、上記多板クラッチは、支軸12上で押圧用ナット部13と対峙する受け部17(の上記収容筒部)に収容している。受け部17は、図5・6に示したように、これを爪車とする第一のラチェット18を構成しており、受け部17に形成した歯17bに爪18aが噛合することによって、受け部17の逆転を常時規制している。したがって、押圧用ナット部13が吊り荷Wの繰出し方向に回転した場合でも受け部17は逆転しない。なお、爪18aは、図1に示したように、フレームF1・F2間に軸支したピン18bによって回動可能に枢支している。
【0026】
一方、送りネジ機構における押圧用ナット部13は、図5・6に示したように、これを爪車とする第二のラチェット19を構成している。第二のラチェット19における爪19aは、ドラム2の端面凹部2aに回転可能に枢支しており、板バネ19bによって、常時、押圧用ナット部13に形成した歯13bに噛合するように付勢している。そして、この第二のラチェット19は、図7に示したように、モータ1の正転駆動により押圧用ナット部13が吊り荷Wの巻上げ方向に回転(正転R1)するときに、その歯13bに爪19aが噛合するもので、ドラム2側から見ると、ドラム2が吊り荷Wによる負荷トルクで繰出し方向に回転(逆転R2)しようとするときに、爪19aが歯13bに噛合する。このため、ドラム2に吊り荷Wを巻回している限り、その負荷トルクによって爪19aが歯13bに噛合して、ドラム2と押圧用ナット部13が正逆に一体回転することになる。なお、この実施形態では、ドラム2を押圧用ナット部13側に弾性的に付勢しているため(図3のコイルスプリング20)、押圧用ナット部13が支軸12上を往復する間もドラム2が追従することで、第二ラチェット19の噛合が外れることがない。
【0027】
次に、この電動巻上げ装置の動作を図4にしたがって説明する。ここで各方向を整理しておくと、この実施形態では、ドラム2に対してロープ3を左巻きに巻掛けているので、これを基準として、以下の動作説明では、吊り荷Wを上昇させるためにロープ3を巻き上げる回転方向(左回り)を正転R1とし、吊り荷Wを降下させるためにロープ3を繰出す回転方向(右回り)を逆転R2とする。また、送りネジ機構における支軸12と押圧用ナット部13は左ネジ(逆ネジ)によって螺合しているものとして、押圧用ナット部13が相対的な正転R1によるネジ推進で支軸12上をクラッチ側に変位する締め込み方向(図面上、右方向)を順方向S1とし、反対に押圧用ナット部13がクラッチから離間する緩み方向を逆方向S2とする。
【0028】
今、モータ1の停止中にロープ3に吊り荷Wを固定(宙吊り)すると、その重量によってドラム2は逆転R2しようとする。ドラム2が逆転R2しようとすると、その逆転トルク(負荷トルク)は第二のラチェット19を介して押圧用ナット部13に伝達され、押圧用ナット部13が逆転R2する。押圧用ナット部13が逆転R2すると、押圧用ナット部13は回転停止状態にある支軸12を左ネジ作用によって順方向S1に変位し、クラッチを押圧するように締め込まれる。このとき押圧用ナット部13はドラム2の逆転R2トルクに見合った推力によってクラッチを押圧する。こうした押圧用ナット部13の推力により、クラッチにおけるクラッチ板14と摩擦板16がライニング15により摩擦接合してブレーキ力が得られる。この間、受け部17にもクラッチを介して押圧用ナット部13の逆転R2トルク(引いてはドラム2側の負荷トルク)が伝達されるが、受け部17は第一のラチェット18によって逆転R2が規制されているため、押圧用ナット部13だけが逆転R2することになり、設定されたブレーキ力が得られるまで押圧用ナット部13を確実に締め込むことができる。以降、ドラム2に吊り荷Wの荷重(負荷トルク)が作用している限り、上記推力に見合ったブレーキ力によって吊り荷Wを一定高さに保持し続けることができる。
【0029】
なお、この実施形態では、モータ1の停止中、モータ1と減速ギア機構を合わせた回転抵抗として示される駆動系の静的摩擦トルクを、静止状態にある吊り荷Wを含んだドラム2側の負荷トルクと釣り合うように設定している。このため、吊り荷Wが予定重量である限り、押圧用ナット部13の推力及びクラッチのブレーキ力は一定に維持され、吊り荷Wを上述のように一定高さで保持することができる。これに対して、ドラム2側に設定ブレーキ力を超える超過荷重が作用すれば駆動系の逆転が許容される。このように超過荷重によって駆動系が逆転R2することで、装置側への衝撃を緩和することができる。
【0030】
ここまで吊り荷Wを一定高さに保持することを重点に説明したが、これは特に、本装置をドローンに搭載した荷物の配送するシステムで有効だからである。つまり、ドローンを用いた配送システムでは、ドローンをホバリングさせた状態で吊り荷を固定すると共に、その場(定位置)で資材等を昇降する通常の荷役作業とは異なり、無人飛行による配送過程があり、この間、モータを停止した状態で吊り荷を確実に保持(宙吊り)する必要があるからである。また、配送中に外力(風圧や荷の引っかかり)でブレーキ力を超える超過荷重が生じた場合には、これを吸収する必要もある。そこで、本発明では、上述のように、駆動系の静的摩擦トルクをドラム側の負荷トルクを制動機構を介して釣り合うように設定することによって、こうした課題に対応しているのである。
【0031】
続いて、吊り荷Wの昇降動作を説明する。まず吊り荷Wを上昇させるには、モータ1を正転駆動する。モータ1の正転駆動力によって、二組の遊星歯車7・8、平歯車からなる二つの伝達ギア9・10を介して最終の出力ギア11が正転R1し、該出力ギア11と一体化された支軸12も正転R1する。支軸12が正転R1すると、押圧用ナット部13は左ネジの送りネジ作用によって支軸12上を順方向S1に変位する。ただし、吊り荷Wを宙吊りに固定した段階で、押圧用ナット部13は既に完全に締め込まれているため、支軸12と共転可能な状態にあり、モータ1の始動後、ほぼ時間差なく押圧用ナット部13が正転R1する。こうした押圧用ナット部13の正転R1トルクは第二のラチェット19を介してドラム2に伝達され、吊り荷Wを巻き上げるのである。この間、クラッチはクラッチ板14と摩擦板16がライニング15による完全な摩擦接合状態にあるため、確実に駆動系側の巻上げトルクによって吊り荷Wを巻き上げることができる。また、受け部17は第一のラチェット18によって逆転R2が規制されているから、吊り荷Wの上昇中に万一、ドラム2が逆転R2しようとしてもこれが規制され、モータ1等の駆動系が逆転R2することもなく、吊り荷Wの落下事故を防止することができる。
【0032】
なお、この巻上げ動作は、吊り荷Wの宙吊り状態から開始することが必須ではなく、吊り荷Wを地面においた状態で巻上げを開始することも当然可能である。この場合、押圧用ナット部13がクラッチ板16から離間して位置していたとしても(言い換えれば、押圧用ナット部13が緩まっており、ブレーキ力がゼロの状態であったとしても)、モータ1を正転駆動すれば、上述したのと同じ要領で吊り荷Wを巻き上げることができる。また、巻上げ途中でモータ1を停止した場合も、同じブレーキ力を得て、吊り荷Wを一定高さに保持することができる。
【0033】
一方、吊り荷Wを降下させるには、モータ1を逆転駆動する。モータ1を逆転駆動すれば、二組の遊星歯車7・8、平歯車からなる二つの伝達ギア9・10を介して最終の出力ギア11が逆転R2する。これにより出力ギア11と一体化された支軸12が逆転R2する。支軸12が逆転R2すると、今度は押圧用ナット部13が支軸12を逆方向S2に変位して締め込みが緩み、クラッチに対する推力を失う。このようにしてクラッチ板14と摩擦板16のライニング15に対する摩擦接合力も喪失され、ブレーキ力が解除される。その後、ドラム2は逆転R2方向にフリー回転可能な状態となり、吊り荷Wは自然落下によって降下する。
【0034】
ただし、吊り荷Wの降下速度はほぼ一定に保たれる。なぜなら、吊り荷Wの降下速度が駆動系の繰出し速度を超えようとすると、ドラム2の逆転R2の回転速度(押圧用ナット部13の逆転R2の回転速度と同義)が、支軸12の逆転R2の回転速度(駆動系の逆転R2の回転速度と同義)を上回ることになって、相対的に押圧用ナット部13の逆転R2が優勢となる。すると、みかけ上、押圧用ナット部13が当該速度差に見合った分だけ単独で逆転R2することになるので、支軸12を順方向S1に締め込まれ、クラッチに対する推力を得て、再びブレーキ力が回復する。したがって、モータ1の逆転駆動中は、駆動系の逆転R2速度によって吊り荷Wを降下させることができるのである。
【0035】
そして、最終段階では、吊り荷Wが着地したのを見計らってモータ1を停止することで一連の動作が完了する。ここで、モータ1を停止するタイミングが吊り荷Wの着地から遅れた場合、通常であれば、ドラム2からロープ3が必要以上に繰出されてバックラッシュ現象(釣りで言うところの糸ふけによるラインの絡まり)が起きる。しかし、本実施形態では、吊り荷Wが着地することでドラム2が無負荷となれば、その瞬間に、押圧用ナット部13が緩む。つまり、それまで押圧用ナット部13はドラム2側の負荷トルクによってクラッチ側に締め込まれているが、これと同時に、クラッチからは緩み方向の反作用を受けている。したがって、負荷トルクがゼロとなれば、クラッチからの反作用によって押圧用ナット部13が瞬時に緩むのである。このようにして押圧用ナット部13が緩むとクラッチのブレーキ力も解除され(クラッチが切れ)、以降、モータ1を逆転R2駆動し続けても、押圧用ナット部13は緩んだ状態のまま支軸12と共回りするだけで、クラッチが切れていることからモータ1の動力はドラム2には伝達されず、ドラム2からロープ3が繰り出されることもないため、バックラッシュ現象が起きることがない。さらに、ドラム2が無負荷となれば、第二のラチェット19の爪19aを歯19bに噛合させる逆転R2方向の成分がなくなるため、押圧用ナット部13だけが逆転R2方向に空転することになる。したがって、吊り荷Wの着地後、モータ1を停止するタイミングが遅れたとしても、吊り荷Wの着地と同時に押圧用ナット部13が空転することでドラム2の逆転R2が停止し、ロープ3が余分に繰り出されないことから、バックラッシュ現象を防止することができる。つまり、本実施形態では、吊り荷Wの降下中、ドラム2側の負荷トルクが一定以下となれば、押圧用ナット部13の緩みによるクラッチ切断と、第二のラチェット19の噛合解除の二つの手段によって、確実にバックラッシュ現象を防止しているのである。ただし、少なくとも一方の手段を採用すれば、バックラッシュ現象を防止することができる。
【0036】
以上、本実施形態の電動巻上げ装置によれば、制動機構(送りネジ機構とクラッチ)がドラム2の支軸12上に全て集約されているので、装置の小型化と軽量化に寄与する。また、クラッチのアクチュエータである送りネジ機構の押圧用ナット部13は、減速ギア機構における種々ギアと噛合関係にないため、ブレーキ力の解除・回復時に減速ギア機構の噛合部に無理な力がかからず、耐久性が高まる。
【0037】
なお、本発明は上記実施形態の構成に限定されない。その一つとして、上記実施形態では、送りネジ機構における押圧用ナット部13をドラム2と別の部材とし、第二のラチェット19によって一体回転可能としたが、これは上述したバックラッシュ現象を防止するのに寄与するのみであるため、第二のラチェット19を省略して、ドラム2と押圧用ナット部13を一体的に構成(一体成形)した場合でも、本発明の目的を達成することができる。
【0038】
また、減速ギア機構の一部を二組の遊星歯車7・8で構成したが、遊星歯車は一組であってもよく、また全てを平歯車によって減速ギア機構を構成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、一般的な荷役分野に限らず、ドローンに搭載することで、手軽且つ機動的に荷を空輸する配送サービスにも利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 モータ
2 ドラム
3 ロープ
4 レベルワインダー
5 トラバースカム
6 接続端子
7・8 遊星歯車
9・10 伝達ギア
11 出力ギア
12 支軸(ネジ軸)
12a 雄ネジ部
13 押圧用ナット部
14 クラッチ板
15 ライニング
16 摩擦板
17 受け部
18 第一のラチェット
19 第二のラチェット
W 吊り荷
F1~F4 フレーム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7