(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147974
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】熱加工用トーチ、および、熱加工システム
(51)【国際特許分類】
B23K 9/10 20060101AFI20220929BHJP
B23K 10/00 20060101ALI20220929BHJP
B23K 9/29 20060101ALN20220929BHJP
【FI】
B23K9/10 Z
B23K10/00 502C
B23K9/29 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049469
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】高田 主税
【テーマコード(参考)】
4E001
4E082
【Fターム(参考)】
4E001NA07
4E082AA04
4E082EA02
4E082EB08
(57)【要約】
【課題】小型軽量で安価であり、かつ、電力供給のオンオフ以外の操作も可能な熱加工用トーチおよび熱加工システムを提供する。
【解決手段】溶接トーチ3において、トート本体(トーチボディ37、ハンドル38)と、ハンドル38に取り付けられ、かつ、作業者によって押圧操作されるトーチスイッチ31とを備えた。トーチスイッチ31は、押圧力に応じて、3種類以上の操作信号を出力可能であるスイッチ32を備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トート本体と、
トーチ本体に取り付けられ、かつ、作業者によって押圧操作されるトーチスイッチと、
を備え、
前記トーチスイッチは、押圧力に応じて、3種類以上の操作信号を出力可能である多段階スイッチを備えている、
熱加工用トーチ。
【請求項2】
前記多段階スイッチは、第1段階まで押圧された場合に第1操作信号を出力し、前記第1段階よりさらに押圧力が必要な第2段階まで押圧された場合に第2操作信号を出力する、
請求項1に記載の熱加工用トーチ。
【請求項3】
請求項2に記載の熱加工用トーチと、
前記熱加工用トーチが出力した前記操作信号を入力される電源装置と、
を備え、
前記電源装置は、前記熱加工用トーチから前記第2操作信号を入力された場合は、前記熱加工用トーチに電力を供給する、
熱加工システム。
【請求項4】
前記電源装置は、前記熱加工用トーチから前記第1操作信号を入力された場合は、熱加工処理において稼働されるいずれかの操作に基づく作業を行わせる、
請求項3に記載の熱加工システム。
【請求項5】
前記熱加工用トーチに溶接ワイヤを送給するための送給モータと、
ガスボンベから前記熱加工用トーチにシールドガスを放出するための電磁弁と、
をさらに備え、
前記電源装置は、
インチングを行うかガスチェックを行うかを切り替える切替部を備え、
前記熱加工用トーチから前記第1操作信号を入力された場合は、前記切替部の状態に応じて、前記インチングのために前記送給モータに前記溶接ワイヤを送給させるか、または、前記ガスチェックのために前記電磁弁に前記シールドガスを放出させる、
請求項4に記載の熱加工システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱加工に用いられる熱加工用トーチ、および、熱加工システムに関する。
【背景技術】
【0002】
アークなどの熱を利用して溶接や切断などの熱加工を行うための熱加工システムがある。熱加工システムは、トーチと、トーチに電力を供給する電源装置とを備えている。トーチは、作業者が操作するトーチスイッチを備えている。たとえば溶接システムの場合、作業者によってトーチスイッチが押圧されると、電源装置がトーチに電力を供給する。これにより、トーチの先端と被加工物との間にアークが発生して、溶接が行われる。また、トーチスイッチの押圧が解除されると、電源装置が電力の供給を停止する。これにより、溶接が停止される。特許文献1には、溶接トーチの一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トーチにおいて、余分な機能を設けていない小型軽量で安価なトーチの需要がある。このようなトーチには、トーチスイッチ以外の操作手段が設けられていないので、インチングやガスチェックを行う場合、作業者は、電源装置に設けられた操作手段、または、電源装置に接続されたリモコンの操作手段を操作する必要がある。したがって、作業者は、電源装置まで移動するか、リモコンを準備する必要がある。
【0005】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、小型軽量で安価であり、かつ、溶接作業のオンオフ以外の操作も可能な熱加工用トーチおよび熱加工システムを提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0007】
本発明の第1の側面によって提供される熱加工用トーチは、トート本体と、トーチ本体に取り付けられ、かつ、作業者によって押圧操作されるトーチスイッチとを備え、前記トーチスイッチは、押圧力に応じて、3種類以上の操作信号を出力可能である多段階スイッチを備えている。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記多段階スイッチは、第1段階まで押圧された場合に第1操作信号を出力し、前記第1段階よりさらに押圧力が必要な第2段階まで押圧された場合に第2操作信号を出力する。
【0009】
本発明の第2の側面によって提供される熱加工システムは、本発明の第1の側面によって提供される熱加工用トーチと、前記熱加工用トーチが出力した前記操作信号を入力される電源装置とを備え、前記電源装置は、前記熱加工用トーチから前記第2操作信号を入力された場合は、前記熱加工用トーチに電力を供給する。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記電源装置は、前記熱加工用トーチから前記第1操作信号を入力された場合は、熱加工処理において稼働されるいずれかの操作に基づく作業を行わせる。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記熱加工用トーチに溶接ワイヤを送給するための送給モータと、ガスボンベから前記熱加工用トーチにシールドガスを放出するための電磁弁とをさらに備え、前記電源装置は、インチングを行うかガスチェックを行うかを切り替える切替部を備え、前記熱加工用トーチから前記第1操作信号を入力された場合は、前記切替部の状態に応じて、前記インチングのために前記送給モータに前記溶接ワイヤを送給させるか、または、前記ガスチェックのために前記電磁弁に前記シールドガスを放出させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、トーチスイッチが多段階スイッチを備えているので、熱加工用トーチは、他の操作手段を設けることなく、3種類以上の操作信号を出力できる。したがって、本発明に係る熱加工用トーチは、小型軽量で安価であり、かつ、溶接作業のオンオフ以外の操作も可能である。
【0013】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態に係る溶接トーチを備えた溶接システムの全体構成を示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係る溶接トーチの一例を示す図であり、(a)は外観図であり、(b)はトーチスイッチを説明するための断面図である。
【
図3】(a)はスイッチの動作原理を説明するための概略図であり、(b)はスイッチの変形例の動作原理を説明するための概略図である。
【
図4】スイッチの変形例の動作原理を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、本発明を溶接トーチ(溶接システム)に適用した場合を例として、図面を参照して具体的に説明する。
【0016】
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態に係る溶接トーチを備えた溶接システムA1を説明するための図であり、溶接システムA1の全体構成を示すブロック図である。
【0017】
図1に示すように、溶接システムA1は、溶接電源装置1、ワイヤ送給装置2、溶接トーチ3、トーチケーブル39、パワーケーブル41,42、信号線5、ガスボンベ6、およびガス配管7を備えている。本実施形態においては、溶接システムA1が本発明の「熱加工システム」に相当し、溶接トーチ3が本発明の「熱加工用トーチ」に相当する。また、溶接電源装置1が本発明の「電源装置」に相当する。
【0018】
溶接電源装置1の一方の出力端子aは、パワーケーブル41を介して、溶接トーチ3に接続されている。ワイヤ送給装置2は、溶接ワイヤを溶接トーチ3に送り出して、溶接ワイヤの先端を溶接トーチ3の先端から突出させる。溶接トーチ3の先端に配置されているコンタクトチップにおいて、パワーケーブル41と溶接ワイヤとは電気的に接続されている。溶接電源装置1の他方の出力端子bは、パワーケーブル42を介して、被加工物Wに接続される。溶接電源装置1は、溶接トーチ3の先端から突出する溶接ワイヤの先端と、被加工物Wとの間にアークを発生させ、アークに電力を供給する。溶接システムA1は、当該アークの熱で被加工物Wの溶接を行う。溶接システムA1は、溶接時にシールドガスを用いる。ガスボンベ6のシールドガスは、溶接電源装置1およびワイヤ送給装置2を通るように設けられているガス配管7によって、溶接トーチ3の先端に供給される。
【0019】
溶接電源装置1は、アーク溶接のための電力を溶接トーチ3に供給するものである。また、溶接電源装置1は、ワイヤ送給装置2を制御する。溶接電源装置1は、機能構成として、電源部11、送給モータ制御部12、電磁弁制御部13、信号入力部14、操作部15、および制御部16を備えている。
【0020】
電源部11は、電力系統Pから入力される三相交流電力をアーク溶接に適した電力に変換して出力する。送給モータ制御部12は、制御部16からの指令に応じて、ワイヤ送給装置2の送給モータ21(後述)を制御する。電磁弁制御部13は、制御部16からの指令に応じて、ワイヤ送給装置2のガス電磁弁24(後述)を制御する。
【0021】
信号入力部14は、信号線5を介して溶接トーチ3から入力される操作信号を、制御部16に出力する。本実施形態では、信号入力部14は、信号線5に所定の電圧を印加し、信号線5に流れる電流を検出する。信号入力部14は、検出した電流信号を制御部16に出力する。本実施形態では、信号入力部14は、電流が流れていない状態と、これとは別に2種類のレベルの電流を検出する。つまり、信号入力部14には、信号線5を介して溶接トーチ3から、3種類の操作信号が入力される。以下では、低いレベルの電流である操作信号を「第1操作信号」とし、高いレベルの電流である操作信号を「第2操作信号」とする。
【0022】
操作部15は、図示しない操作手段を備え、当該操作手段の操作に応じた操作信号を制御部16に出力する。制御部16は、操作部15および信号入力部14から入力される操作信号に応じて、電源部11、送給モータ制御部12、および電磁弁制御部13に指令を出力する。制御部16は、信号入力部14から第1操作信号を入力された場合と、第2操作信号を入力された場合とで異なる制御を行う。
【0023】
ワイヤ送給装置2は、溶接ワイヤを溶接トーチ3に送り出すものである。溶接ワイヤは、トーチケーブル39および溶接トーチ3の内部に設けられているライナの内部を通って、溶接トーチ3の先端に導かれる。ワイヤ送給装置2は、送給モータ21、送給ローラ22、ワイヤリール23、およびガス電磁弁24を備えている。送給モータ21は、送給モータ制御部12によって制御され、送給ローラ22を回転させる。送給ローラ22は、回転することで、ワイヤリール23に巻回された溶接ワイヤを送給する。ガス電磁弁24は、ワイヤ送給装置2の内部で、ガス配管7に設けられている。ガス電磁弁24は、電磁弁制御部13によって開閉を制御され、開放時に、ガスボンベ6から溶接トーチ3にシールドガスを放出する。なお、ガス電磁弁24は、ワイヤ送給装置2以外(例えば溶接電源装置1)に設けられてもよい。
【0024】
ワイヤ送給装置2と溶接トーチ3とは、トーチケーブル39によって接続されている。トーチケーブル39は、溶接トーチ3の基端に接続されたケーブルであり、ケーブル内部にパワーケーブル41、信号線5、ガス配管7、およびライナが配置されている。
【0025】
溶接トーチ3は、作業者によって把持されて、溶接を行うためのものである。溶接トーチ3は、溶接電源装置1から供給される溶接電力により、被加工物Wの溶接を行う。
【0026】
図2は、溶接トーチ3の一例を示す図である。同図(a)は、溶接トーチ3の外観図である。同図(b)は、トーチスイッチを説明するための断面図である。溶接トーチ3は、
図2(a)に示すように、トーチボディ37、ノズル371、ハンドル38、および、トーチスイッチ31を備えている。
【0027】
トーチボディ37は、金属製の筒状の部材であり、内部に、溶接ワイヤが挿通されたライナ、パワーケーブル41、信号線5、およびガス配管7が配置されている。トーチボディ37の先端には、ノズル371が取り付けられている。トーチボディ37は、作業者が被加工物Wに対してノズル371を向けやすいように、湾曲部分を有している。ハンドル38は、作業者が把持するための部位であり、トーチボディ37の基端部を保持するように設けられている。作業者は、このハンドル38を把持して、溶接作業を行う。ハンドル38には、トーチスイッチ31が配置されている。トーチボディ37およびハンドル38を合わせたものが、本発明の「トーチ本体」に相当する。
【0028】
トーチスイッチ31は、溶接の開始/停止操作を受け付けるための操作手段であり、ハンドル38を把持した作業者が、人差し指で押圧操作しやすい位置に配置されている。トーチスイッチ31のオン操作(押圧)により、操作信号(第2操作信号)が溶接電源装置1に出力される。溶接電源装置1は、オン操作による操作信号(第2操作信号)が入力されると、溶接電力の出力を行う。トーチスイッチ31のオン操作が解除されると、溶接電源装置1は、操作信号(第2操作信号)が入力されなくなり、溶接電力の出力を停止する。つまり、溶接電源装置1は、トーチスイッチ31がオン操作されている間だけ、溶接トーチ3に溶接電力を供給する。溶接トーチ3は、溶接電力が供給されている間だけ、溶接を行うことができる。本実施形態では、トーチスイッチ31は、溶接電力の出力のための第2操作信号とは別に、他の機能を行わせるための第1操作信号を出力できる。
【0029】
トーチスイッチ31は、
図2(b)に示すように、スイッチ32、スイッチカバー33、バネ34、および取付部35を備えている。
【0030】
取付部35は、トーチスイッチ31をハンドル38に取り付けるための部材である。取付部35は、ハンドル38に固定されている。
【0031】
スイッチカバー33は、ハンドル38との間でスイッチ32を覆っており、作業者による押圧操作をスイッチ32に伝達する。スイッチカバー33は、一方の端部(
図2(b)においては左端部)において、取付部35の固定軸351の周りで回動可能に取り付けられており、バネ34によって、他方の端部(
図2(b)においては右端部)が
図2の下方に向かって常時付勢されている。これにより、作業者による押圧操作がないときは、バネ34によってスイッチカバー33の他方の端部が下方に移動し、スイッチ32への押圧操作の伝達が解除される。スイッチカバー33の内側には突出部331が配置されている。突出部331は、スイッチ32の操作レバー321(後述)に接している。作業者がスイッチカバー33の他方の端部を上方に移動させるように押圧操作すると、突出部331が操作レバー321の先端部を上方に移動させるように押圧する。
【0032】
スイッチ32は、取付部35に固定されており、操作レバー321、プランジャー322、および固定軸323を備えている。操作レバー321は、基端部において、固定軸323の周りで回動可能に取り付けられている。操作レバー321は、先端部がスイッチカバー33の突出部331によって上方に移動されることで、プランジャー322を押圧する。作業者がスイッチカバー33の押圧操作を行うことで、スイッチ32のプランジャー322が押圧される。スイッチ32は、押圧操作の押圧力に応じた操作信号を、信号線5を介して、溶接電源装置1に出力する。本実施形態では、スイッチ32は、2段階の押し込みスイッチであり、操作されていない状態を示す操作信号(以下では、「無操作信号」と記載する場合がある)と、これとは別に2種類の操作信号を出力する。本実施形態では、スイッチ32は、2個の接点を有する可変抵抗を備えている。可変抵抗は、押圧力に応じたプランジャー322の移動距離によって接点が切り替わって、抵抗値が切り替わる。スイッチ32は、信号線5から所定の電圧が印加されているので、可変抵抗の抵抗値に応じた電流を出力する。
【0033】
図3(a)は、スイッチ32の動作原理を説明するための概略図である。スイッチ32のプランジャー322が押圧されていない場合、信号線5の先端に設けられた接点51は、可変抵抗のいずれの接点にも接続していない。この場合、信号線5には電流が流れないので、溶接電源装置1には無操作信号が出力される。プランジャー322が第1段階まで押圧された場合、
図3(a)において破線で示すように、接点51は、可変抵抗の接点P1に接続する。この場合、可変抵抗の抵抗値は高い抵抗値(R1+R2)になり、信号線5に低いレベルの電流が流れるので、溶接電源装置1に第1操作信号が出力される。プランジャー322が、第1段階よりさらに押圧力が必要な第2段階まで押圧された場合、
図3(a)において一点鎖線で示すように、接点51は、可変抵抗の接点P2に接続する。この場合、可変抵抗の抵抗値は低い抵抗値(R1)になり、信号線5に高いレベルの電流が流れるので、溶接電源装置1に第2操作信号が出力される。
【0034】
なお、スイッチ32の構成は上述したものに限定されない。また、溶接トーチ3の外観は上述したものに限定されない。例えば、トーチボディ37またはハンドル38の形状は限定されない。また、トーチスイッチ31の配置場所や形状は限定されない。
【0035】
次に、トーチスイッチ31の操作に対する溶接電源装置1の制御について説明する。
【0036】
作業者は、溶接作業を行う場合、トーチスイッチ31を強く押圧する。これにより、スイッチ32のプランジャー322が第2段階まで押圧されて、スイッチ32は、溶接電源装置1に第2操作信号を出力する。溶接電源装置1の制御部16は、第2操作信号を入力された場合、溶接のための制御を行う。具体的には、まず、制御部16は、電磁弁制御部13に、開放指令を出力する。開放指令を入力された電磁弁制御部13は、ガス電磁弁24を開放させて、ガスボンベ6から溶接トーチ3に、シールドガスを放出させる。次に、制御部16は、送給モータ制御部12に送給指令を出力し、電源部11に出力指令を出力する。送給指令を入力された送給モータ制御部12は、送給モータ21を回転させて、ワイヤリール23から溶接トーチ3に溶接ワイヤを送給させる。出力指令を入力された電源部11は、溶接トーチ3に溶接電力を供給する。これにより、溶接トーチ3と被加工物W との間にアークが発生して、アーク溶接が開始される。
【0037】
作業者がトーチスイッチ31の押圧を解除した場合、スイッチ32のプランジャー322の押圧が解除されて、スイッチ32は、溶接電源装置1に第2操作信号の出力を停止する(無操作信号が出力された状態)。これにより、溶接電源装置1の制御部16は、溶接を停止する。具体的には、まず、制御部16は、送給モータ制御部12に送給停止指令を出力し、電源部11に停止指令を出力する。送給停止指令を入力された送給モータ制御部12は、送給モータ21の回転を停止させて、溶接ワイヤの送給を停止させる。停止指令を入力された電源部11は、溶接電力の供給を停止する。これにより、アーク溶接が停止される。また、制御部16は、電磁弁制御部13に、開放停止指令を出力する。開放停止指令を入力された電磁弁制御部13は、ガス電磁弁24を閉鎖させて、シールドガスの放出を停止させる。このように、トーチスイッチ31が強く押圧されている間(スイッチ32のプランジャー322が第2段階まで押圧されている間)だけ、溶接が行われる。なお、制御部16による各指令の出力の順番およびタイミングは限定されない。
【0038】
本実施形態では、作業者は、トーチスイッチ31を弱く押圧することで、溶接開始とは異なる操作を行うことができる。作業者がトーチスイッチ31を弱く押圧すると、スイッチ32のプランジャー322が第1段階まで押圧されて、スイッチ32は、溶接電源装置1に第1操作信号を出力する。溶接電源装置1の制御部16は、第1操作信号を入力された場合、溶接のための制御とは異なる、あらかじめ設定された作業のための制御を行う。第1操作信号を入力されたときの作業として、例えば、インチングおよびガスチェックなどが設定されている。制御部16は、切替部161を備えている。切替部161は、操作部15から入力される操作信号に応じて、第1操作信号が入力されたときの作業を、インチングおよびガスチェックのいずれかに設定する。作業者は、操作部15の操作手段(例えば切り替えスイッチ)を操作することで、第1操作信号が入力されたときの作業を切り替えることができる。
【0039】
切替部161によってインチングが設定されている場合、制御部16は、第1操作信号を入力されたときに、インチングのための制御を行う。具体的には、制御部16は、送給モータ制御部12に送給指令を出力する。送給指令を入力された送給モータ制御部12は、送給モータ21を回転させて、ワイヤリール23から溶接トーチ3に、溶接ワイヤを送給させる。作業者がトーチスイッチ31の押圧を解除した場合、スイッチ32は、溶接電源装置1に第1操作信号の出力を停止する(無操作信号が出力された状態)。これにより、溶接電源装置1の制御部16は、送給モータ制御部12に送給停止指令を出力する。送給停止指令を入力された送給モータ制御部12は、送給モータ21の回転を停止させて、溶接ワイヤの送給を停止させる。このように、トーチスイッチ31が弱く押圧されている間(スイッチ32のプランジャー322が第1段階まで押圧されている間)だけ溶接ワイヤが送給され、作業者は、インチングを行うことができる。
【0040】
切替部161によってガスチェックが設定されている場合、制御部16は、第1操作信号を入力されたときに、ガスチェックのための制御を行う。具体的には、制御部16は、電磁弁制御部13に開放指令を出力する。開放指令を入力された電磁弁制御部13は、ガス電磁弁24を開放させて、ガスボンベ6から溶接トーチ3に、シールドガスを放出させる。作業者がトーチスイッチ31の押圧を解除した場合、スイッチ32は、溶接電源装置1に第1操作信号の出力を停止する(無操作信号が出力された状態)。これにより、溶接電源装置1の制御部16は、電磁弁制御部13に開放停止指令を出力する。開放停止指令を入力された電磁弁制御部13は、ガス電磁弁24を閉鎖させて、シールドガスの放出を停止させる。このように、トーチスイッチ31が弱く押圧されている間(スイッチ32のプランジャー322が第1段階まで押圧されている間)だけ、溶接トーチ3からシールドガスが放出され、作業者は、ガスチェックを行うことができる。
【0041】
なお、第1操作信号を入力されたときの作業として、インチングおよびガスチェックの一方のみが設定されてもよい。この場合、制御部16は、切替部161を備えなくてもよい。また、第1操作信号を入力されたときの作業は、インチングおよびガスチェックに限定されず、溶接処理において稼働されるいずれかの操作に基づく作業であればよい。溶接トーチ3が水冷式のトーチであった場合、溶接システムA1は、冷却水を循環させるチラーをさらに備えている。チラーは、溶接処理時に稼働して、冷却水を溶接トーチ3に循環させる。この場合、第1操作信号を入力されたときの作業として、チラーの起動が設定されてもよい。つまり、制御部16は、第1操作信号を入力されたときに、チラーに起動指令を出力して、チラーを起動させてもよい。また、第1操作信号を入力されたときの作業として、チラーの起動チェックが設定されてもよい。
【0042】
次に、溶接トーチ3および溶接システムA1の作用効果について説明する。
【0043】
本実施形態によると、溶接トーチ3のトーチスイッチ31は、スイッチ32を備えている。スイッチ32は、2段階の押し込みスイッチであり、無操作信号とは別に、押圧操作の押圧力に応じた2種類の操作信号を出力できる。したがって、溶接トーチ3は、トーチスイッチ31以外の操作手段を備えることなく、3種類の操作信号(無操作信号、第1操作信号、および第2操作信号)を出力できる。溶接トーチ3は、トーチスイッチ31以外の操作手段がさらに設けられた溶接トーチと比較して、小型軽量化が可能であり、また、製造コストを抑制可能である。また、溶接トーチ3は、トーチスイッチ31だけで、無操作信号とは別に2種類の操作信号を出力できるので、溶接作業のオンオフ以外の操作も可能である。したがって、溶接作業のオンオフ以外の操作のために、溶接電源装置1の操作手段を操作する必要がなく、リモコンを準備する必要がない。
【0044】
また、本実施形態によると、制御部16は、切替部161を備えている。切替部161は、第1操作信号が入力されたときの作業を、インチングおよびガスチェックのいずれかに設定する。したがって、作業者は、トーチスイッチ31の操作によって第1操作信号を出力した場合に行われる作業を選択することができる。
【0045】
また、本実施形態によると、スイッチ32は、可変抵抗を備え、信号入力部14から所定の電圧を印加されることで、可変抵抗の抵抗値に応じた電流を出力する。信号入力部14は、スイッチ32から入力される電流に応じた操作信号を制御部16に出力する。これにより、トーチスイッチ31は、押圧力に応じた操作信号を溶接電源装置1に出力できる。
【0046】
また、本実施形態によると、スイッチ32は、プランジャー322が第1段階まで押圧された場合に第1操作信号を出力し、第1段階よりさらに押圧力が必要な第2段階まで押圧された場合に第2操作信号を出力する。これにより、トーチスイッチ31は、押圧力に応じて、2種類の操作信号を出力できる。
【0047】
また、本実施形態によると、溶接電源装置1は、トーチスイッチ31から第2操作信号を入力された場合に溶接電力を出力して溶接を行い、溶接トーチ3から第1操作信号を入力された場合に溶接以外の作業を行う。したがって、作業者は、トーチスイッチ31の操作によって、溶接を行うことができるし、溶接以外の作業も行うことができる。
【0048】
なお、本実施形態においては、溶接電源装置1の制御部16がスイッチ32からの操作信号に応じて制御を行う場合について説明したが、これに限られない。例えば、ワイヤ送給装置2が制御部を備えて、スイッチ32からの操作信号に応じて制御を行ってもよい。また、溶接システムA1がさらに制御装置を備え、当該制御装置がスイッチ32からの操作信号に応じて制御を行ってもよい。
【0049】
また、本実施形態においては、スイッチ32が、2個の接点を有する可変抵抗を備えている場合について説明したが、これに限られない。スイッチ32は、プランジャー322の移動距離によって抵抗値が連続的に変化する可変抵抗を備えてもよい(
図3(b)参照)。この場合、押圧力に応じて抵抗値が連続的に変化するので、信号線5に流れる電流も連続的に変化する。信号入力部14は、検出した電流が閾値以上であるか未満であるかで、2種類の操作信号を判定すればよい。
【0050】
また、スイッチ32が備える可変抵抗は限定されない。例えば、
図4に示すように、板状の抵抗体91と、弾性変形可能な導電性材料(例えば導電性シリコンゴム)からなる導電体92とを備え、導電体92と抵抗体91との接触面積に応じて抵抗値が変化する可変抵抗であってもよい。スイッチ32のプランジャー322が押圧されていない場合、
図4(a)に示すように、導電体92が抵抗体91から離れている。この場合、可変抵抗の抵抗値は抵抗体91の抵抗値そのままであり、信号線5には比較的低いレベルの電流が流れる。プランジャー322が第1段階まで押圧された場合、
図4(b)に示すように、導電体92の一部が抵抗体91に接触する。この場合、電流の一部が導電体92を迂回して流れるので、可変抵抗の抵抗値は抵抗体91の抵抗値より小さくなり、信号線5には
図4(a)の場合より高いレベルの電流が流れる。プランジャー322が第2段階まで押圧された場合、
図4(c)に示すように、導電体92と抵抗体91との接触面積が、
図4(b)の場合より大きくなる。この場合、より多くの電流が導電体92を迂回して流れるので、可変抵抗の抵抗値は
図4(b)の場合よりさらに小さくなり、信号線5には
図4(b)の場合より高いレベルの電流が流れる。このように、
図4に示す可変抵抗においても、押圧力に応じた電流を出力できる。スイッチ32が備える可変抵抗は、押圧力によって抵抗値が変化するものであればよい。
【0051】
また、本実施形態においては、スイッチ32が可変抵抗を備え、信号入力部14が信号線5を介してスイッチ32の可変抵抗に所定の電圧を印加して、信号線5に流れる電流を検出することで操作信号を検出する場合について説明したが、これに限られない。スイッチ32は、押圧状態に応じて異なる操作信号を出力可能であればよい。
【0052】
また、本実施形態においては、スイッチ32が3種類の操作信号(無操作信号、第1操作信号、および第2操作信号)を出力する場合について説明したが、これに限られない。スイッチ32は、4種類以上の操作信号を出力してもよい。この場合、溶接電源装置1は、入力される操作信号ごとに異なる作業を設定できる。例えば、スイッチ32が4種類の操作信号を出力できる場合、溶接電源装置1は、第1操作信号が入力された場合にインチングを行い、第2操作信号が入力された場合にガスチェックを行い、第3操作信号が入力された場合に溶接を行うように設定できる。この場合、作業者は、トーチスイッチ31の操作だけで、インチング、ガスチェック、および溶接の3種類の作業を行うことができる。
【0053】
また、本実施形態においては、溶接システムA1が、溶接時にシールドガスが供給され、ワイヤ送給装置2によって溶接ワイヤが送給される例えばMIG(MAG)溶接などを行う場合について説明したが、これに限られない。例えば、溶接システムA1は、溶接ワイヤが用いられないTIG溶接などを行ってもよい。この場合、溶接システムA1は、ワイヤ送給装置2を備えていない。一方、溶接システムA1は、本溶接を開始させるために高周波電圧を印加する高周波電源を備えている。この場合、第1操作信号を入力されたときの作業として、高周波電源の起動チェックが設定されてもよい。つまり、制御部16は、第1操作信号を入力されたときに、高周波電源に起動指令を出力してもよい。これにより、作業者は、高周波電源が正しく起動して高周波電圧を印加できるかをチェックできる。また、溶接システムA1は、プラズマ溶接を行ってもよい。この場合、溶接システムA1は、シールドガスの他に、プラズマガスおよびセンターガスの供給を行う。この場合、第1操作信号を入力されたときの作業として、いずれのガスチェックが設定されてもよい。また、切替部161が、いずれのガスのガスチェックを行うかを切り替えてもよい。
【0054】
また、本実施形態においては、本発明を溶接トーチ(溶接システム)に適用した場合について説明したが、これに限られない。例えば、先端に発生させたアークによって被加工物Wを切断するアーク切断トーチ(アーク切断システム)や、被加工物Wに溝彫りを行うアークガウジングトーチ(アークガウジングシステム)などにおいても、本発明を適用することができる。また、アークによる熱加工に限定されず、ガス溶接や抵抗溶接などの熱加工を行う熱加工用トーチ(熱加工システム)においても、本発明を適用することができる。例えば抵抗溶接システムは、溶接処理時に被加工物Wを挟んで固定する固定装置を備えている。当該固定装置は、溶接電流を流す前に、油圧による加圧によって被加工物Wを挟んで固定する。この場合、第1操作信号を入力されたときの作業として、油圧の電磁弁の起動チェックが設定されてもよい。つまり、制御部16は、第1操作信号を入力されたときに、固定装置の電磁弁を開放させてもよい。これにより、作業者は、固定装置が正しく起動するかをチェックできる。
【0055】
本発明に係る熱加工用トーチ、および、熱加工システムは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る熱加工用トーチ、および、熱加工システムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0056】
A1:溶接システム(熱加工システム)、1:溶接電源装置、161:切替部、2:ワイヤ送給装置、21:送給モータ、24:ガス電磁弁、3:溶接トーチ(熱加工用トーチ)、31:トーチスイッチ、32:スイッチ(多段階スイッチ)、37:トーチボディ(トーチ本体)、38:ハンドル(トーチ本体)、6:ガスボンベ