(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147988
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】ろ過装置およびろ過処理方法
(51)【国際特許分類】
B01D 24/02 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
B01D23/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049488
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000197746
【氏名又は名称】株式会社石垣
(72)【発明者】
【氏名】氏家 秀隆
【テーマコード(参考)】
4D116
【Fターム(参考)】
4D116BA06
4D116BA07
4D116DD01
4D116FF02A
4D116FF03A
4D116KK01
4D116QA24D
4D116QC04A
4D116QC06
4D116QC08A
4D116QC23B
4D116QC36
4D116UU14
4D116VV07
(57)【要約】
【課題】
ろ過槽内に供給された沈降性の粒状繊維ろ材を段階的に圧密することで深層ろ過に適したろ材層を形成可能なろ過装置及びろ過処理方法を提供する。
【解決手段】 周面にろ材層7と連通する通孔8を有し、底部に排水口4aを有するろ過槽2と、ろ過槽2外周に周設し、下部に排水口4bを有するジャケット9と、を備えるもので、ろ材層7の下方を圧密する第一圧密工程と、ろ材層7の上方を圧密する第二圧密工程と、を実施した後ろ過処理工程を開始することで、通孔8及び各排水口4a、4bから圧密水を排出してろ材層7全体を圧密できるもので、深層ろ過に適したろ材層を形成することができる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろ過処理工程の前段で沈降性の粒状繊維ろ材(6)を圧密するろ過処理方法において、
ろ材層(7)の下方を圧密する第一圧密工程と、
ろ材層(7)の上方を圧密する第二圧密工程と、を実施した後、
ろ過処理工程を開始する
ことを特徴とするろ過処理方法。
【請求項2】
前記第一圧密工程は、
ろ過槽(2)に所定水位まで圧密水を貯留した後、
ろ過槽(2)底部の排水口(4a)から排水する
ことを特徴とする請求項1に記載のろ過処理方法。
【請求項3】
前記第二圧密工程は、
ろ過槽(2)に所定水位まで圧密水を貯留した後、
ろ過槽(2)に周設した通孔(8)から排水する
ことを特徴とした請求項1または請求項2に記載のろ過処理方法。
【請求項4】
前記第一圧密工程および第二圧密工程を複数回繰り返す
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のろ過処理方法。
【請求項5】
沈降性の粒状繊維ろ材(6)を圧密形成したろ材層(7)に、
上方から下方へ被処理液を通過させてろ過処理を行うろ過装置において、
周面にろ材層(7)と連通する通孔(8)を有し、底部に排水口(4a)を有するろ過槽(2)と、
ろ過槽(2)外周に周設し、下部に排水口(4b)を有するジャケット(9)と、
を備える
ことを特徴とするろ過装置。
【請求項6】
前記通孔(8)は、
圧密後のろ材層(7)の中間高さに設ける
ことを特徴とする請求項5に記載のろ過装置。
【請求項7】
前記通孔(8)は、
圧密後のろ材層(7)下端から30%~80%の高さに設ける
ことを特徴とする請求項5に記載のろ過装置。
【請求項8】
前記ろ過槽(2)は、
下方をテーパー状に形成する
ことを特徴とする請求項5~7のいずれか1項に記載のろ過装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒状繊維ろ材を用いて被処理液のろ過を行う下向流式ろ過装置に関し、ろ過処理工程前段でろ材層を圧密させ、効率よくろ過を行うろ過装置およびろ過処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、沈降性の粒状繊維ろ材を内部に充填したろ過装置の上部から被処理液を供給して、被処理液中の夾雑物を除去するろ過処理方法が知られている。このろ過処理方法において、ろ過槽内に形成されたろ材層の空隙率が高い場合、被処理液はろ材間を通過しやすくなり、被処理液中の夾雑物がろ材層で十分に捕捉されない。そのため、ろ過処理工程の前段でろ材層を圧密して層内の空隙率を低くし、ろ過能力を高める必要があった。
【0003】
特許文献1には、濾過工程の前段で濾過装置に供給した洗浄用水を濾過装置底部より排水させて濾層を濾過装置下部に圧縮させる技術が開示されている。
【0004】
また、濾過処理工程の初期段階で濾過槽底部から取り出した循環水を被処理水供給領域に循環供給させながら、濾材層を濾過槽下部に圧縮させる技術が特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-234309号公報
【特許文献2】特許第3058635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のろ過処理方法では、ろ過装置内に積層された粒状繊維ろ材同士が十分に密着していないため、ろ材層の空隙率が高くなっている。これに伴い、上部より供給された被処理液に微小な粒子の割合が多く含まれていた場合には、含有する夾雑物がろ材層で十分に捕捉されないまま下部より排出されるため、ろ過精度を高めることができなかった。
【0007】
特許文献1の技術を用いて濾層を濾過装置下部に圧縮し、空隙率を低くすることはできるが、形成された濾層の上部は洗浄用水を装置底部より排水させる際に受ける水流の影響が弱いため、十分に圧密されず、空隙率が高くなっている。これにより、被処理液は空隙率の高い濾層上部をすり抜けて濾層下部で集中的にろ過されるため、濾層全体を有効活用できない。
【0008】
一方、特許文献2の技術は、濾過処理開始後も継続して濾過槽に循環水を循環させることで濾過層上部も十分に圧密されるが、槽の下部より排水させているため、濾過層下部は水流による影響を大きく受けて過圧密状態となる。循環水は、被処理水に混合して通水させているため、被処理水の処理量に対して濾材層の圧力上昇が早い、という課題がある。
【0009】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたもので、粒状繊維ろ材を使用したろ過装置を用いてろ過処理を行う場合に生じる従来の課題をすべて解決し、且つ高精度のろ過処理を長時間安定して行うことができるろ過装置及びろ過処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るろ過装置は、沈降性の粒状繊維ろ材を圧密形成したろ材層に、上方から下方へ被処理液を通過させてろ過処理を行うろ過装置において、周面にろ材層と連通する通孔を有し、底部に排水口を有するろ過槽と、ろ過槽外周に周設し、下部に排水口を有するジャケットと、を備えることで、通孔及び各排水口から圧密水を排出してろ材層全体を効率よく圧密できるため、深層ろ過に適したろ材層を形成できる。
【0011】
本発明に係るろ過処理方法は、ろ過処理工程の前段で沈降性の粒状繊維ろ材を圧密するろ過処理方法において、ろ材層の下方を圧密する第一圧密工程と、ろ材層の上方を圧密する第二圧密工程と、を実施した後、ろ過処理工程を開始するものであり、第一圧密工程では、ろ過槽内に貯留した圧密水をろ過槽底部より排水してろ材をろ過槽底部に圧密させることで形成されたろ材層下部の圧密度を高めることができる。この時、ろ材層上部の圧密度は低いため、第二圧密工程でろ過槽に周設した通孔から圧密水を排水してろ材を圧密することで、ろ材層上部の圧密度も高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のろ過装置およびろ過処理方法は、ろ過処理工程の前段で第一圧密工程及び第二圧密工程を行うことで、上部を含めたろ材層全体を圧密できる。深層ろ過に適したろ材層を形成することで、ろ過処理開始直後から清澄な処理液を得ることができるとともに安定したろ過処理を行うことが可能となり、長期間のろ過処理においても目詰まりが発生し難く、ろ過精度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】同じく、第一圧密工程の貯水時の概略図である。
【
図3】同じく、第一圧密工程の排水時の概略図である。
【
図4】同じく、第二圧密工程の排水時の概略図である。
【
図5】同じく、第一圧密工程と第二圧密工程を同時に行う際の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るろ過装置を図面に基づき詳述すると、
図1は下向流式のろ過装置の縦断面図である。ろ過装置1は、ろ過槽2の上部に供給口3とろ過槽2の底部に排水口4aを連結してある。排水口4aには、弁V1が介装された排水管10aを接続する。ろ過槽2内には、ろ過槽2の底部から所定の高さに配設したスクリーン5の上側に、ろ材6を充填してろ材層7を形成してある。ろ材6は沈降性の粒状繊維ろ材であって、球状や柱状等、形を限定しない。必要に応じてろ過槽2の下方の面積を漸減させてテーパ状に形成してもよい。
【0015】
ろ過槽2の外周には、ろ過槽2内に貯留した圧密水を排水する通孔8を周設するとともに、通孔8から排出された圧密水を集水するジャケット9を備えている。ジャケット9の下部に設けた排水口4bには弁V2が介装された排水管10bを接続する。なお、各弁V1、V2を複合させることでろ過槽2やジャケット9内の貯留・排水を自在に調整できる。
【0016】
通孔8は、ろ材6がろ過槽2内から流出しない大きさの孔径で形成している。通孔8の形状は、例えば、多角形状、円形状、十字形状などとすることができる。大小異なる孔径の通孔8を組み合わせて配置してもよい。また、通孔8をろ過槽2を構成する筒材に直接形成してもよく、網状、格子状、スリット状などの通孔8を有するスクリーンを張設してもよい。通孔8はろ過槽2の周面に略均一または等間隔を有して配置し、ろ過槽2の周面から均一に排水可能な構成としており、ろ材層7を均一に圧密できる。この時、通孔の高さは圧密後のろ材層の中間高さに設けてもよいが、圧密後のろ材層の下端から30~80%の高さに設けると、ろ材層の上部をより効果的に圧密可能である。なお、通孔8から排水される圧密水の流速がろ過槽2の周面上で異なるとろ材層は均一に圧密されないため、ジャケット9は、通孔8からの排水を妨げないように集水容積を十分確保しておくことが好ましい。
【実施例0017】
<第一圧密工程>
本発明の実施例を図面に基づき詳述すると、
図2は、本発明に係る第一圧密工程の貯水時の概略図であって、弁V1及び弁V2を閉止してあり、ろ過槽2内に圧密水を貯留した状態である。本発明の実施例では、ろ過処理工程の前段で、それぞれの排水口4a、4bに介装する弁V1,V2を閉止し、圧密水を供給口3よりろ過槽2内へ供給し、所定水位に達するまで貯留する。この時、通孔8から圧密水がジャケット9へ流出するが、弁V2を閉じて排水口4bを閉止しているため、圧密水はジャケット9内で満水状態となり、通孔8から圧密水が流出することはない。なお、貯留する水位はろ材や被処理液に応じて適宜調整する。
【0018】
図3は、本発明に係る第一圧密工程の排水時の概略図であって、弁V1を開いて排水口4aより圧密水を排水している状態である。圧密水を排水させる際に生じる水圧によって、ろ材層7はろ過槽2の底部へ押し流されてスクリーン5の上側で圧密される。この時、ジャケット9内は満水状態であるため、通孔8からろ過槽2外へ圧密水が排水されることはない。圧密水が排水されて適当な水位まで下降した時、弁V1を閉じて排水口4aを閉止する。この時の水位は、ろ材層7の上部であって、ろ材層に空気が混入しない高さである。上記水位に到達したかどうかの判断材料としては、水位計を用いたり、排水時間や圧力基準値をあらかじめ設定する等、特に限定しない。第一圧密工程では、排水初期段階はろ過槽2の底部方向へ流れる圧密水の通水速度が大きく、動圧によってろ材層7の下部から順次圧密される。排水中期から末期段階にかけては既に圧密されたろ材層7下部が圧密水の通水抵抗となり、動圧が低下する。従って、ろ材層7の下層は十分に圧密できているが、中層から上層では圧密度が不十分な状態である。ろ材層7の上部を圧密するため第二圧密工程(
図2、4)を行う。
【0019】
<第二圧密工程>
第二圧密工程時の圧密水の貯留方法は、
図2に記載の第一圧密工程の貯留時と同様の方法を用いる。この時の貯留水位は、第一圧密工程の条件や通孔高さ等に応じて適宜調整する。
【0020】
図4は、本発明に係る第二圧密工程の排水時の概略図であって、弁V2を開いて排水口4bを開放し、通孔8を介してジャケット9から圧密水を排水している状態である。排水される圧密水の水圧によって、通孔8より上部のろ材層7が圧密される。排水終了時は弁V2を閉じて排水口4bを閉止する。この時の圧密水の水位は第一圧密工程の時と同様に、ろ材層7全体が没水する所定の水位にて制御する。第二圧密工程では、ろ材層7の中層付近から圧密水の排水を行うため、主にろ材層7の上部を圧密できる。通孔8からジャケット9を通じて排水するため、ジャケット9の貯留水から通孔8に背圧が発生しないようジャケット9の容積や排水口4bの口径を調整する。
【0021】
ろ材層7は、第一圧密工程及び第二圧密工程を行うことにより、ろ材層7の下部が最も圧密され、上部に向かうにつれ圧密度が低下するように形成されるとともに、ろ材層7全体の圧密度も高まるため、深層ろ過に適した状態となる。
【0022】
なお、上記第一圧密工程および第二圧密工程を複数回繰り返し行ってもよい。圧密工程を繰り返すことでろ材層7全体の圧密度が高くなりろ過精度が向上するため、ろ材や被処理液に応じて圧密回数を適宜調節する。
【0023】
また、上記圧密工程において、ろ過処理工程直前の圧密工程では、第一圧密工程と第二圧密工程を同時に行ってもよい。具体的には、圧密水を
図2のように貯留した後、
図5に示すように、排水口4、排水管10を同時に開放して排水を行う。
【0024】
上記圧密工程終了後、
図6に示すように供給口3から被処理液を供給してろ過処理工程を開始する。この時、弁V2を閉じた状態で弁V1を開いて排水口4aを開放することで、処理液は排水口4aからのみ排出される。なお、排水口4bを閉鎖してジャケット9内に圧密水を満水状態で保持しているため、被処理液が通孔8から流出するおそれがない。
【0025】
ろ過処理工程終了後、供給口3からの被処理液の供給を止め、洗浄水を排水口4aからろ過槽2内に供給してろ材洗浄を行う。ろ材洗浄を終了して再度圧密工程を行う際には、ろ材洗浄時にろ過槽2内に貯留した洗浄水をそのまま圧密水として利用し、上記圧密工程における
図2の状態に移行することができる。
【0026】
なお、本発明でろ材層を圧密させるための調整水として用いる圧密水は、新たに用意してもよいが、上記した洗浄水やろ過処理時に回収した処理液を用いる等、特に限定しない。
本発明によれば、被処理液の性状や処理条件に応じてろ材層の圧密度を最適化できるので、表層ろ過になりやすい凝集ろ過や公濁度水、あるいはプール等の高清澄度が要求される特殊な用途にもろ材層全体を有効に利用できるものである。