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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147998
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】タンパク質含有ゲル
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/256 20160101AFI20220929BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20220929BHJP
   A61K 35/20 20060101ALI20220929BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20220929BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20220929BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
A23L29/256
A61K9/06
A61K35/20
A61P3/02
A61K38/16
A61K47/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049508
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000118615
【氏名又は名称】伊那食品工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小島 正明
(72)【発明者】
【氏名】柴 克宏
【テーマコード(参考)】
4B041
4C076
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B041LC05
4B041LC06
4B041LD03
4B041LH10
4B041LK14
4C076AA09
4C076CC21
4C076CC40
4C076EE30P
4C084AA02
4C084BA44
4C084DC50
4C084MA52
4C084NA20
4C084ZC21
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB39
4C087MA52
4C087NA03
4C087ZC21
(57)【要約】
【課題】寒天をゲル化剤として使用したタンパク質含有ゲルを製造する場合において、寒天とタンパク質を含有する溶液を高温に保持した場合でも、pH3.5~8.0の広範囲においてタンパク質が凝集や沈殿などの変性を起こすことなく、均一にタンパク質が分散したタンパク質含有ゲル及び前記タンパク質含有ゲルに使用する寒天を提供することを目的とする。
【解決手段】重量平均分子量1万~30万の寒天をタンパク質が多く含まれる溶液のゲル化剤として使用することにより、溶液を高温で保持した場合でもタンパク質が凝集や沈殿を起こさず均一なゲルを作ることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともタンパク質と重量平均分子量1万~30万の寒天を含むことを特徴とするタンパク質含有ゲル。
【請求項2】
前記タンパク質が乳タンパクであることを特徴とする請求項1のタンパク質含有ゲル。
【請求項3】
タンパク質を1.0%以上含むことを特徴とする請求項1乃至請求項2のタンパク質含有ゲル。
【請求項4】
重量平均分子量1万~30万の寒天を0.05~5.0質量%含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3のタンパク質含有ゲル。
【請求項5】
少なくともタンパク質と、寒天をゲル化剤として含有するゲルにおいて、寒天の重量平均分子量1万~30万を使用することを特徴とするゲル中のタンパク質安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は寒天をゲル化剤として使用したタンパク質含有ゲルのタンパク質安定化に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質は5大栄養素として古くから重要な素材であることが知られている。タンパク質を多く含む素材としては、畜肉、魚肉、大豆などの豆類、穀類、乳、アサクサノリなどの海藻、昆虫、爬虫類、両生類などがある。通常これらは加熱などの調理を行い喫食される。
しかし、高齢化、疾病、嚥下障害等により喫食量が少なくなり、充分にタンパク質などの栄養を摂取できない状況が増えている。このような状況を改善するために、食品素材からタンパク質などの栄養素を抽出し、少量でも効率よく栄養素を摂取することが行われている。更には、抽出された栄養素を組み合わせて、総合栄養食(経腸栄養)として固形状又は液体状の食品や医薬品が開発されている。固形状又は液体状のものは摂食嚥下に支障がない場合には問題なく摂食することが可能であるが、嚥下に支障がある場合は誤嚥を誘発し、場合により誤嚥性肺炎を引き起こしてしまうケースがある。このような場合には液体状のゲル化剤を使用してゲル状にしたり、増粘剤を使用して粘性を付与したりすることで誤嚥を防ぐことが行われている(特許文献1)。
【0003】
タンパク質を多く含む経腸栄養液のゲル化剤としては、寒天、カラギーナン、ファーセレラン、ペクチン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タラガム、ジェランガム、ゼラチンなどが使用されている(特許文献2)。しかし、経腸栄養に含まれるタンパク質やミネラルはゲル化剤と反応しゲル強度が安定しないことや、タンパク質が凝集沈殿したり、乳化されていた油脂が乳化破壊し分離したりしてしまう問題がある。
【0004】
ゲル化剤の中でもカラギーナンやジェランガムを使用した場合は経腸栄養剤中のミネラル成分と反応し、ゲル強度が安定せず、離水が多く発生する。キサンタンガムとローカストビーンガムなどのガラクトマンナンやグルコマンナンをゲル化剤で使用すると粘度やゲル化温度が高くなりやすく、作業が非常に困難になる。ゼラチンを使用した場合、室温でゲルが溶解してしまうため用途が制限されてしまう。これに対し、寒天はミネラルとの反応性がほとんどなくゲルの物性が安定している。これに加え、60℃でもゲルが溶解しないため温かい状態での喫食も可能である。溶解時の粘度も低いため作業性も良好である。ただし、寒天を使用した場合、特にタンパク質含有溶液に寒天を溶解し、90℃などの高温に保持した場合、タンパク質含量が多いとタンパク質が凝集し、ひどい場合には沈殿を起こす問題がある。
【0005】
特許文献3には、乳と、寒天と、乳化剤を含有し、乳固形分が3~10質量%であり、乳脂肪分量が0.01~2質量%であり、さらにはpHが4.6以下に調整することにより、乳脂肪分の浮上、及び乳固形分の沈殿が抑制された乳性飲料が記載されている。しかし、ゲル化剤として寒天が使用されているものの、乳化剤と併用したり、pH4.6以下の酸性条件にしたりしなければ乳脂肪分の浮上、及び乳固形分の沈殿の抑制効果が無いことなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-88422
【特許文献2】特開2015-213464
【特許文献3】特開2010-77068
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、寒天をゲル化剤として使用したタンパク質含有ゲルを製造する場合において、寒天とタンパク質を含有する溶液を高温に保持した場合でも、pH3.5~8.0の広範囲においてタンパク質が凝集や沈殿などの変性を起こすことなく、均一にタンパク質が分散したタンパク質含有ゲル及び前記タンパク質含有ゲルに使用する寒天を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記従来技術の問題点に鑑み、創意研究を重ねたところ、重量平均分子量(MW)1万~30万の寒天をタンパク質が多く含まれる溶液のゲル化剤として使用することにより、溶液を高温で保持した場合でもタンパク質が凝集や沈殿を起こさず均一なゲルを作ることを見出した。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る重量平均分子量30万以下の寒天を使用すれば、タンパク質を含む溶液を高温に保持した場合でもタンパク質が凝集や沈殿することなく均一に分散した溶液となり、冷却することにより外観に優れた均一なゲルを作製することができる。これにより、タンパク質を多く含む経腸栄養剤などを均一にゲル化することができるため、高齢者用、嚥下困難者用、スポーツ用としてタンパク質含有ゼリーの安定した製造が可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る重量平均分子量30万以下の寒天について記載する。寒天は海藻であるテングサ、オゴノリなどから抽出される多糖類である。寒天の構造はガラクトースと3,6アンヒドロガラクトースがβ1,4結合した多糖類である。イオン基を持たずゲル化能に富むアガロースと、アガロースに硫酸基などのイオン基が付加したアガロペクチンから成る多糖類である。重量平均分子量(以後、単に分子量と記載する場合がある)は3万~100万程度である。一般には分子量が大きいものほどゲル強度が高く、高いゲル強度を必要とする用途に使用されている。分子量の小さいものはゲル強度が低く、低いゲル強度が必要とされる用途に使用されている。ゲル強度又は分子量の調整は、原料海藻の種類、抽出時のpH、抽出温度、抽出時間などによって調整される。
【0011】
本発明で使用される寒天は分子量1万~30万、好ましくは2万~25万、さらに好ましくは2万~20万のものが好ましい。これらの寒天を使用することによりタンパク質を含有する溶液を高温で保持した場合でも凝集や沈殿を起こすことなくタンパク質が均一に安定したゲルを作製することができる分子量が30万より大きいと、高温での保持中にタンパク質の凝集や沈殿がおきてしまう。1万より小さいと寒天のゲル化力が弱くゲルを形成することができない。分子量が1万以下の寒天を高濃度で使用しても食感が悪く商品としての価値が低いものになってしまう。
【0012】
タンパク質含有ゲルのタンパク質としては特に限定されないが、乳タンパクに含まれるカゼインに対して特に有効に作用する。乳中のカゼインはミセルを形成し、表面の静的電荷により反発しあい凝集しない。しかし様々な要因によりこの静的電荷による反発が阻害されると容易に凝集を起こす。また、酸やアルカリによりタンパク質の等電点による沈殿や変性による沈殿を起こす。本発明の効果はカゼインミセルなどの中性における凝集に有効である。その他の水溶性タンパク質素材としては、例えば、豆乳、分離大豆タンパク質やペプチドなどがある。
【0013】
近年、総合栄養食(経腸栄養)として固形状又は液体状の食品や医薬品が開発されている。経腸栄養は、乳タンパク、脂質、糖類、ビタミン、ミネラルが配合された高栄養食である。固形状又は液体状の経腸栄養は摂食嚥下に支障がない場合には問題なく摂食することが可能であるが、嚥下に支障がある場合は誤嚥を誘発し、場合により誤嚥性肺炎を引き起こしてしまうケースがある。このような場合にはゲル化剤を使用して液体状をゲル状にしたり、増粘剤を使用して粘性を付与したりして誤嚥を防いでいる。本発明の寒天は、このような液状の経腸栄養を凝集・沈殿することなくゲル化することができる。
【0014】
本発明の作用機序について説明する。本発明で使用される分子量1万~30万の寒天を使用することにより高タンパク質を含有する溶液を高温で保持した場合でも凝集や沈殿を起こすことなくタンパク質が均一に安定したゲルを作製することができる。牛乳中には約3.0~3.5%のタンパク質が含まれており、カゼインと乳清タンパク質に大別される。カゼインは全牛乳タンパク質の80%を占める乳タンパクの主成分であり、牛乳中では会合してコロイド状に分散している。このコロイド状カゼインは一般にはカゼインミセルと呼ばれ、球状の構造をしている。カゼインミセルの安定性は、カゼインミセルをコロイド粒子として取り扱うことで以下のように説明することができる。一般に、帯電したコロイド粒子の相互作用のエネルギーは引力としてのファンデルワールス力と電気二重層に由来する静電的反発力の和で表される。相互作用の全エネルギーと粒子間距離の関係を示すエネルギー曲線は最大値を持ち、その値が粒子の相互作用のエネルギー障壁を意味し、粒子表面の電荷量に依存している。カゼインミセルは、牛乳のpH(6.6)では全体として負に荷電している。この荷電がエネルギー障壁となりミセルの相互作用を抑え、安定性を保っている。つまり各ミセルは粒子表面の電気的反発により凝集がおこらないのである。
【0015】
このようにミセル粒子が反発しあい凝集がおきていない状態に、高分子(長鎖)の寒天分子がミセル粒子の間に入り込む。これは、ほとんど中性多糖である寒天分子がカゼインミセルの表面の電荷に関係なくミセル粒子の合間に入り込むことができるからでる。これにより、静電的な反発により凝集をしていなかったミセル粒子の間に寒天分子が入り込むことにより静電的反発が弱まり、分子間力等により凝集してしまうのである。本発明の寒天は分子量が小さいのでミセル粒子間に入り込んだとしても効果が断片的となり粒子間の反発を抑えることができない。以上の理由からゲル化剤として本発明の寒天を使用するとカゼインミセルの凝集・沈殿がおこらずに高タンパク質含有ゲルを作製できるのである。
【0016】
本発明の寒天は、タンパク質を含む溶液に対して有効であり凝集物のないゲルを作製することができるため、タンパク質を多く含有する高タンパク質溶液に対して特に有効である。本発明における高タンパク質溶液とは、溶液中にタンパク質を1.0%以上、さらには2.0%以上含む溶液を示す。また、液状の経腸栄養剤は効率的な栄養補給を目標にしているためタンパク質を3.0%以上と多く含むものが多いが、このような溶液に対しても本発明の寒天は有効である。
【0017】
本発明に係る寒天は分子量1万~30万、好ましくは2万~25万以下、さらに好ましくは2万~20万以下のものが好ましい。寒天の他の物性は寒天の範疇であれば何れでも良い。つまり、高タンパク質の凝集は寒天の分子量に支配される。分子量の調整方法は目的の分子量になれば何れでもよく、特に限定されない。海藻の原料、抽出温度、抽出pH、寒天の酸処理、加熱処理、酸化処理、微粉砕化など様々な方法が知られている。
【0018】
本発明に係る寒天の使用濃度は、目的とするゲル強度になるように使用すれば良く特に限定されるものではないが、最終のゲル重量に対して、0.05~5.0質量%が好ましく、0.1~3.0質量%がさらに好ましい。0.05%より少ないとゲル強度が弱すぎ、5.0%より多いとゲル強度が高すぎ食感が悪くなる傾向がある。
【0019】
寒天の重量平均分子量の測定方法は種々知られているが、本発明ではGPC法での分子量である。分子量マーカーとしてプルラン標準品(Shodex STANDARD Pullulan P-82)を使用して分子量を測定する。カラムはTOSOH TSK-GEL などを使用できる。
【0020】
本発明では本発明の効果を妨げない範囲で他の添加物を加えることができる。他の添加物としては、糖類、ペプチド、アミノ酸、脂質、多糖類、塩類、機能性成分等である。糖類としては、単糖(ブドウ糖、果糖、エリスリトール等)、2糖類(シュクロース、マルトース、ラクトース等)、オリゴ糖(イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖等)、デキストリンなどがある。ペプチドとしてはカゼインホスホペプチド、大豆由来ペプチド、畜肉魚肉由来ペプチドなどがある。アミノ酸は一般に知られたもので良い。脂質としては植物由来、動物由来のいずれでも構わず、MCTでも良い。脂質は乳化状態で使用することが好ましい。多糖類としては、カラギーナン、ファーセレラン、アルギン酸塩、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、カシアガム、タマリンドガム、ペクチン、サイリウムガム、ジェランガム、澱粉、キサンタンガム、サクシノグリカン、プルラン、アラビアガム等がある。塩類としてはナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、鉄塩などがある。機能性成分としては、ポリフェノール、ビタミン、糖タンパク等があるが以上にこだわるものではない。
【0021】
本発明においてタンパク質含有ゲルのpHは3.5~8.0と広範囲において効果を示す。よって酸乳の系でも中性乳の系でもどちらでも効果を示す。これは寒天が中性多糖類でありpHにより電荷が変化しにくいことに起因している。さらに、近年総合栄養食(経腸栄養)として固形状又は液体状の食品や医薬品が開発されている。経腸栄養は、乳タンパク、脂質、糖類、ビタミン、ミネラルが配合された高栄養食である。固形状又は液体状の経腸栄養は摂食嚥下に支障がない場合には問題なく摂食することが可能であるが、嚥下に支障がある場合は誤嚥を誘発し、場合により誤嚥性肺炎を引き起こしてしまうケースがある。このような場合にはゲル化剤を使用して液体状をゲル状にしたり、増粘剤を使用したりして粘性を付与して誤嚥を防いでいる。このような多種成分が含まれた系においても本発明の寒天を使用すればタンパク質や他の成分が凝集することなくゲル化することができる。
【0022】
タンパク質を含む溶液を本発明の範囲以外の寒天でゲル化させる場合において、タンパク質を含む寒天溶液を直ちにゲル化させる場合にはタンパク質の凝集や沈殿を起こすことなくゲル化することができる。これは凝集・沈殿を起こす前にゲル化させることができるためタンパク質が固定化できるためである。本発明は、タンパク質を含む寒天溶液をゲル化温度以上(ゾル状態)で保持する場合おいての効果である。例えば、各家庭で牛乳を寒天で固めて食する「牛乳かん」を作る場合では、作製する量が少量であるため、牛乳に寒天を溶解した溶液はすぐに冷え凝集物として沈殿する前に寒天がゲル化し均一な牛乳ゲルができる。これに対して、業務用製品のように多数の製品を作る場合には大量の溶液を溶解し作製する必要がある。この大量に作製された溶液は各容器に充填する間、凝固点よりかなり高い温度で保持しておかなくてはならない。この保持時間に凝集・沈殿がおきてしまうのである。本発明の寒天を使用することにより、この保持時間においてもタンパク質の凝集・沈殿を防ぐことができる。また、同じく業務用製品を作る場合においても、大量に作製した寒天溶液をゲル化する温度より少し高い温度(例えば凝固温度より5~10℃高い)に保持しておく条件では凝集沈殿が起きる時間を遅くすることができることから凝集沈殿がおこらないうちに作業することができる。しかしこの作業は寒天溶液の凝固点に近いため作業トラブル(充填途中のラインでゲル化してしまうなど)を起こしやすくなるため厳密な温度や作業管理が必要になる。さらに充填温度が低くなるため微生物汚染の原因にもなる。本発明の寒天を使用することにより溶液をより高温で保持することができるため、厳密な温度管理をしなくとも大量の寒天溶液を作製することができトラブルなく個別容器に充填することができる。
【実施例0023】
以下、本開示の実施例を具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。また、特に指定がない限り%は質量%を示している。
本実施例で使用した寒天を記載する。
寒天1:伊那寒天S-7を精製水に加え沸騰溶解後(5%濃度)、塩酸を加えpH3.0に調整し、90℃で撹拌下30分間放置した。これに水酸化ナトリウムを使用し、pH7.0に中和した後、90%アルコールに添加して寒天を析出させた。この沈殿物を回収後、乾燥して粉砕し寒天末とした。 重量平均分子量(MW:9500)
寒天2:伊那寒天S-7を精製水に加え沸騰溶解後(5%濃度)、塩酸を加えpH3.0に調整し、85℃で撹拌下30分間放置した。これに水酸化ナトリウムを使用し、pH7.0に中和した後、90%アルコールに添加して寒天を析出させた。この沈殿物を回収後、乾燥して粉砕し寒天末とした。 重量平均分子量(MW:15000)
寒天3:伊那寒天S-7を精製水に加え沸騰溶解後(5%濃度)、塩酸を加えpH3.0に調整し、80℃で撹拌下30分間放置した。これに水酸化ナトリウムを使用し、pH7.0に中和した後、90%アルコールに添加して寒天を析出させた。この沈殿物を回収後、乾燥して粉砕し寒天末とした。 重量平均分子量(MW:22000)
寒天4:伊那寒天S-7を精製水に加え沸騰溶解後(5%濃度)、塩酸を加えpH3.5に調整し、80℃で撹拌下30分間放置した。これに水酸化ナトリウムを使用し、pH7.0に中和した後、90%アルコールに添加して寒天を析出させた。この沈殿物を回収後、乾燥して粉砕し寒天末とした。 重量平均分子量(MW:120000)
寒天5:伊那寒天S-7を精製水に加え沸騰溶解後(5%濃度)、塩酸を加えpH3.8に調整し、80℃で撹拌下30分間放置した。これに水酸化ナトリウムを使用し、pH7.0に中和した後、90%アルコールに添加して寒天を析出させた。この沈殿物を回収後、乾燥して粉砕し寒天末とした。 重量平均分子量(MW:180000)
寒天6:伊那寒天M-10を精製水に加え沸騰溶解後(5%濃度)、塩酸を加えpH4.0に調整し、80℃で撹拌下30分間放置した。これに水酸化ナトリウムを使用し、pH7.0に中和した後、90%アルコールに添加して寒天を析出させた。この沈殿物を回収後、乾燥して粉砕し寒天末とした。 重量平均分子量(MW:230000)
寒天7:伊那寒天M-10を精製水に加え沸騰溶解後(5%濃度)、塩酸を加えpH4.3に調整し、80℃で撹拌下30分間放置した。これに水酸化ナトリウムを使用し、pH7.0に中和した後、90%アルコールに添加して寒天を析出させた。この沈殿物を回収後、乾燥して粉砕し寒天末とした。 重量平均分子量(MW:270000)
寒天8:伊那寒天大和を精製水に加え沸騰溶解後(5%濃度)、121℃で40分間加熱加圧処理した。この溶液を90%アルコールに添加して寒天を析出させた。この沈殿物を回収後、乾燥して粉砕し寒天末とした。 重量平均分子量(MW:200000)
寒天9:ウルトラ寒天イーナ(伊那食品工業) 重量平均分子量(MW:50000)
寒天10:ウルトラ寒天AX-30(伊那食品工業) 重量平均分子量(MW:70000)
寒天11:ウルトラ寒天BX-30(伊那食品工業) 重量平均分子量(MW:110000)
寒天12:ウルトラ寒天BX-100(伊那食品工業) 重量平均分子量(MW:210000)
寒天13:伊那寒天UP-37(伊那食品工業) 重量平均分子量(MW:270000)
寒天14:伊那寒天M-10(伊那食品工業) 重量平均分子量(MW:320000)
寒天15:伊那寒天大和(伊那食品工業) 重量平均分子量(MW:730000)
【0024】
使用したタンパク質素材
タンパク質1:脱脂粉乳(明治)
タンパク質2:全粉乳(四つ葉乳業)
タンパク質3:牛乳(市販の成分無調整)
タンパク質4:豆乳(市販の無調整豆乳)
タンパク質5:分離大豆タンパク質(スープロ710、デュポン)
【0025】
下記の試験系1~6により寒天を使用した時のタンパク質の凝集や沈殿、さらにゲル化の状態を調べた。
試験系1:精製水(最終量100%になるように添加)に寒天を1.0%添加し、沸騰溶解した。これに脱脂粉乳10%を添加し、90℃で1時間放置後、タンパク質の凝集、沈殿を調べた。凝集・沈殿の評価は以下の指標で行った。作製量500gとした。その後10℃に冷却しゲル化の状態を確認した。
A:沈殿や凝集が無く均一に溶解していて良好なゲルである。
B:Aに比べ極わずかに凝集があるが問題ない程度である。
C:沈殿や凝集が無く均一に溶解している。ゲル化は弱いが問題ない程度である。
D:ゲル化は問題ないが凝集沈殿があり不可である。
E:沈殿や凝集が無く均一に溶解している。ゲル化が弱くゲル状でないため不可である。

試験系2:精製水(最終量100%になるように添加)に寒天を1.0%添加し、沸騰溶解した。これに全粉乳13%を添加し、90℃で1時間放置後、タンパク質の凝集、沈殿を調べた。凝集・沈殿の評価は以下の指標で行った。作製量は500gとした。その後10℃に冷却しゲル化の状態を確認した。
A:沈殿や凝集が無く均一に溶解していて良好なゲルである。
B:Aに比べ極わずかに凝集があるが問題ない程度である。
C:沈殿や凝集が無く均一に溶解している。ゲル化は弱いが問題ない程度である。
D:ゲル化は問題ないが凝集沈殿があり不可である。
E:沈殿や凝集が無く均一に溶解している。ゲル化が弱くゲル状でないため不可である。

試験系3:精製水(最終量100%になるように添加)に寒天を0.5%添加し、沸騰溶解した。これにグラニュー糖20%、脱脂粉乳5%を添加し、90℃で1時間放置後、タンパク質の凝集、沈殿を調べた。凝集・沈殿の評価は以下の指標で行った。作製量は500gとした。その後10℃に冷却しゲル化の状態を確認した。
A:沈殿や凝集が無く均一に溶解していて良好なゲルである。
B:Aに比べ極わずかに凝集があるが問題ない程度である。
C:沈殿や凝集が無く均一に溶解している。ゲル化は弱いが問題ない程度である。
D:ゲル化は問題ないが凝集沈殿があり不可である。
E:沈殿や凝集が無く均一に溶解している。ゲル化が弱くゲル状でないため不可である。

試験系4:精製水(最終量100%になるように添加)に寒天を0.5%添加し、沸騰溶解した。これにグラニュー糖20%、全粉乳8%を添加し、90℃で1時間放置後、タンパク質の凝集、沈殿を調べた。凝集・沈殿の評価は以下の指標で行った。作製量は500gとした。その後10℃に冷却しゲル化の状態を確認した。
A:沈殿や凝集が無く均一に溶解していて良好なゲルである。
B:Aに比べ極わずかに凝集があるが問題ない程度である。
C:沈殿や凝集が無く均一に溶解している。ゲル化は弱いが問題ない程度である。
D:ゲル化は問題ないが凝集沈殿があり不可である。
E:沈殿や凝集が無く均一に溶解している。ゲル化が弱くゲル状でないため不可である。

試験系5:精製水(最終量100%になるように添加)に寒天を0.5%添加し、沸騰溶解した。これにグラニュー糖10%、牛乳50%を添加し、90℃で1時間放置後、タンパク質の凝集、沈殿を調べた。凝集・沈殿の評価は以下の指標で行った。作製量は500gとした。その後10℃に冷却しゲル化の状態を確認した。
A:沈殿や凝集が無く均一に溶解していて良好なゲルである。
B:Aに比べ極わずかに凝集があるが問題ない程度である。
C:沈殿や凝集が無く均一に溶解している。ゲル化は弱いが問題ない程度である。
D:ゲル化は問題ないが凝集沈殿があり不可である。
E:沈殿や凝集が無く均一に溶解している。ゲル化が弱くゲル状でないため不可である。

試験系6:精製水(最終量100%になるように添加)に寒天を0.5%添加し、沸騰溶解した。これにグラニュー糖10%、豆乳50%を添加し、90℃で1時間放置後、タンパク質の凝集、沈殿を調べた。凝集・沈殿の評価は以下の指標で行った。作製量は500gとした。その後10℃に冷却しゲル化の状態を確認した。
A:沈殿や凝集が無く均一に溶解していて良好なゲルである。
B:Aに比べ極わずかに凝集があるが問題ない程度である。
C:沈殿や凝集が無く均一に溶解している。ゲル化は弱いが問題ない程度である。
D:ゲル化は問題ないが凝集沈殿があり不可である。
E:沈殿や凝集が無く均一に溶解している。ゲル化が弱くゲル状でないため不可である。

試験系7:試験系1の脱脂粉乳を分離大豆タンパク質に変更した以外は試験系1と同様にしてタンパク質の凝集、沈殿を調べた。評価は試験系1と同様にして行った。
【0026】
実験例1
寒天1~15について試験系1~7により試験を行いタンパク質の凝集・沈殿を調べた。結果を表1に記載した。
【0027】
表1
【0028】
表1の結果から分子量1万~30万の寒天は、タンパク質を含む溶液を高温に保持した場合でもタンパク質が凝集や沈殿することなく均一に分散した溶液にとなり、冷却することにより外観に優れた均一なゲルを作製することができた。
【0029】
実験例2
経腸栄養剤であるラコールNF(乳カゼイン3.4g/100mL含有)を使用して寒天含有経腸栄養溶液を作製した。具体的には精製水20mLに寒天0.3gを加え沸騰溶解させた後、60℃に加温したラコール溶液80mLを加え、蓋つきのガラス容器に入れ、90℃で60分保持した。この溶液の凝集や沈殿を確認後、10℃に冷却しゲル化の状態を確認した。評価の基準は実験例1と同様とした。使用した寒天毎の結果を表2に記載した。
【0030】
表2
【0031】
表2の結果から分子量1万~30万の寒天は、ラコール溶液を高温に保持した場合でもタンパク質が凝集や沈殿することなく均一に分散した溶液にとなり、冷却することにより外観に優れた均一なゲルを作製することができた。
【0032】
実験例3
表3に示した配合にてタンパク質含有ゲルを作製した。具体的には水に寒天を入れ沸騰溶解した。この溶液を80℃に冷却した後、グラニュー糖、脱脂粉乳、クエン酸、クエン酸ナトリウムの混合した粉末を加え溶解した(作製量500g)。加えるクエン酸ナトリウムの量を変更することにより、最終溶液のpHを3.5、4.5、5.5、6.5、7.5、8.0に調整した溶液をそれぞれ作製した(6種類)。この溶液を90℃で1時間放置後、タンパク質の凝集、沈殿を調べた。その後10℃に冷却しゲルの状態を確認し、結果を表4に記載した。評価の指標は試験系1と同様とした。
【0033】
表3
【0034】
表4
【0035】
表4の結果から重量平均分子量1万~30万の寒天を使用すれば、pHが異なってもタンパク質を高温に保持した場合、タンパク質が凝集や沈殿することなく均一に分散した溶液にとなり、冷却することにより外観に優れた均一なゲルを作製することができた。
【0036】
実験例4
寒天4及び寒天14を使用して試験系1~7に準じた試験を行った。ただし、溶液を90℃で1時間放置するところを、60℃及び90℃で、保持時間を溶液調整直後、1分後、3分後、5分後、10分後、60分後、120分後、180分後とした以外は試験系1~7と同様にした。その結果試験系1~7いずれの場合においても、寒天14は60℃において180分後まで凝集や沈殿は無く、90℃においては180分後で若干の分離(乳化破壊による)が観察された。これに対し寒天14は60℃において5分後には凝集が観察され、90℃においては3分後に凝集が観察された。
【0037】
以上のように、重量平均分子量1万~30万以外の寒天を使用した場合は、溶液作製直後は凝集や沈殿は確認されなかったが、経時的に凝集沈殿が確認された。
【0038】
実験例5
寒天2、寒天3、寒天5、寒天6を使用して、試験系1に準じた試験を行った。ただし寒天の使用濃度を0.05%、0.1%。0.3%、1.0%、2.0%、3.0%、4.0%、5.0%とした以外は試験系1と同様にして評価を行い、結果を表5に記載した。
【0039】
表5
【0040】
表5に示したように各濃度において、問題になるような凝集や沈殿は確認されず良好なゲルが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の重量平均分子量30万以下の寒天を使用すれば、タンパク質を含む溶液を高温に保持した場合でもタンパク質が凝集や沈殿することなく均一に分散した溶液にとなり、冷却することにより外観に優れた均一なゲルを作製することができる。これにより、タンパク質を多く含む経腸栄養剤などの均一なゲル化が可能となり、高齢者用、嚥下困難者用、スポーツ用、などに付加価値のあるタンパク質含有ゼリーを供給することができる。