(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148002
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】ゲル状経腸栄養食品
(51)【国際特許分類】
A61K 47/36 20060101AFI20220929BHJP
A23L 29/256 20160101ALI20220929BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20220929BHJP
A23L 33/10 20160101ALN20220929BHJP
【FI】
A61K47/36
A23L29/256
A61P3/02
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049512
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000118615
【氏名又は名称】伊那食品工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小島 正明
(72)【発明者】
【氏名】柴 克宏
【テーマコード(参考)】
4B018
4B041
4C076
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018MD33
4B018MD94
4B018ME14
4B018MF02
4B018MF14
4B041LC10
4B041LD01
4B041LH10
4B041LK01
4B041LK50
4C076AA09
4C076BB05
4C076BB29
4C076CC22
4C076CC40
4C076EE30P
4C076FF17
4C076FF36
4C076GG41
(57)【要約】
【課題】寒天をゲル化剤として使用した経腸栄養液含有ゲルを製造する場合において、寒天と経腸栄養液を含有する溶液を高温に保持した場合でも、タンパク質の凝集や沈殿、脂質の分離などの変性を起こすことのない均一なゲ状物質及び前記ゲル状物質に使用する寒天を提供することを目的とする。
【解決手段】 重量平均分子量0.5万~30万の寒天を経腸栄養液のゲル化剤として使用することにより、溶液を高温で保持した場合でもタンパク質の凝集や沈殿、脂質の分離を起こすことのない均一なゲル状物質を作ることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも経腸栄養液と重量平均分子量0.5万~30万の寒天を含むことを特徴とするゲル状物質。
【請求項2】
少なくとも経腸栄養液と重量平均分子量0.5万~30万の寒天を含むことを特徴とするゲル状物質の安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は寒天を使用した、成分分離のない安定した経腸栄養液ゲル化物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
経腸栄養液は体に必要な糖質、タンパク質、脂質、電解質、ビタミンおよび微量元素などを経腸的に投与するための液体で、その投与方法には栄養素を口から補給する「経口法」と、チューブを用いて投与する「経管栄養法」がある。タンパク質は大豆やエンドウ豆、乳、肉などから抽出された高タンパク品が使用される場合が多い。脂質は乳化剤等で乳化ミセルとなり安定化されており、通常の食用油から吸収されやすいMCTなど機能性の油脂が使用されている。経腸栄養液は少量で栄養が摂取できるため、年配者や術後などで充分に食事ができない場合など様々な場面で使用されている。しかし、このような機能的に優れた経腸栄養液であるが、加齢や術後などにより嚥下障害がある人が液状の経腸栄養液を摂取すると嚥下障害により液体が肺に流れ込み誤嚥性肺炎をおこす可能性が高くなる。このため嚥下に障害がある場合には、経腸栄養液を寒天や増粘剤でゲル化する半固形化栄養剤の使用が主流になっている。
【0003】
経腸栄養液のゲル化剤としては、寒天、カラギーナン、ファーセレラン、ペクチン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タラガム、ジェランガム、ゼラチンなどが使用されている(特許文献1)。
【0004】
しかし、ゲル化剤の中でもカラギーナンやジェランガムを使用した場合は経腸栄養剤中のミネラル成分と反応し、ゲル強度が安定せず、離水が多く発生する。キサンタンガムとローカストビーンガムなどのガラクトマンナンやグルコマンナンをゲル化剤で使用すると粘性が高いことやゲル化温度が高く、作業が非常に困難である。ゼラチンを使用した場合、室温でゲルが溶解してしまうため現実的でない。これに対し、寒天はミネラルとの反応性がほとんどなくゲルの物性が安定している。これに加え、60℃でもゲルが溶解しないため暖かい状態での喫食も可能である。溶解時の粘度も低いため作業性も良好である。ただし、寒天を使用した場合、経腸栄養剤に寒天を溶解し70℃などの高温に保持した場合、含有するタンパク質と反応し、タンパク質が凝集し、ひどい場合には沈殿を起こす問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、寒天をゲル化剤として使用してゲル化又は粘稠状の経腸栄養液を製造する場合において、寒天を含有する溶液を高温に保持した場合でも、pH3.5~8.0の広範囲においてタンパク質が凝集や沈殿、乳化破壊などの変性を起こすことなく、均一にタンパク質や乳化された脂質が分散した経腸栄養液ゲル物及び前記経腸栄養液ゲル化物に使用する寒天を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記従来技術の問題点に鑑み、創意研究を重ねたところ、重量平均分子量(MW)0.5万~30万の寒天をタンパク質が多く含まれる溶液のゲル化剤として使用することにより、溶液が高温で保持された場合でも経腸栄養液が凝集や沈殿、乳化破壊を起こさず均一なゲルや粘稠物を作ることを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る重量平均分子量0.5万~30万の寒天を使用すれば、寒天を含む経腸栄養液を高温に保持した場合でもタンパク質が凝集や沈殿、脂質が乳化破壊することなく均一に分散した溶液にとなり、冷却することにより外観に優れた均一なゲルや粘稠物を作製することができる。これにより、経腸栄養剤の均一なゲル化が可能となり、高齢者用、嚥下困難者用、経管投与用などの用途が可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る重量平均分子量0.5万~30万以下の寒天について記載する。寒天は海藻であるテングサ、オゴノリなどから抽出される多糖類である。寒天の構造はガラクトースと3,6アンヒドロガラクトースがβ1,4結合した多糖類である。イオン基を持たずゲル可能に富むアガロースと、アガロースに硫酸基などのイオン基が付加したアガロペクチンから成る多糖類である。一般的な寒天の重量平均分子量(以後、単に分子量と記載する場合がある)は3万~100万程度である。一般には分子量が大きいものほどゲル強度が高く、高いゲル強度を必要とする用途に使用されている。分子量の小さいものはゲル強度が低く、低いゲル強度が必要とされる用途に使用されている。ゲル強度又は分子量の調整は、原料海藻の種類、抽出時のpH、抽出温度、抽出時間などによって調整される。
【0010】
本発明で使用される寒天は分子量0.5万~30万、好ましくは2万~25万、さらに好ましくは2万~20万のものが好ましい。これらの寒天を使用することによりタンパク質を含有する溶液を高温で保持した場合でも凝集や沈殿を起こすことなくタンパク質が均一に安定したゲルを作製することができるなお、本発明におけるゲル化物とは通常のゲルに加え、粘稠状である状態も含めるものとする。分子量が30万より大きいと、高温での保持中にタンパク質の凝集や沈殿がおきてしまう。0.5万より小さいと寒天のゲル化力が弱くゲルを形成することや粘稠化することができない。分子量が0.5万以下の寒天を高濃度で使用しても食感が悪く商品としての価値が低いものになってしまう。
【0011】
経腸栄養液のタンパク質としては特に限定されないが大豆由来のタンパク質、エンドウ豆由来のタンパク質、その他の豆類由来のタンパク質、畜肉、魚肉由来のタンパク質、乳由来のタンパク質などがあるが乳タンパクに含まれるカゼインに対して特に有効に作用する。乳中のカゼインはミセルを形成し、表面の静的電荷により反発しあい凝集しない。しかし様々な要因によりこの静的電荷による反発が阻害されると容易に凝集を起こす。また、酸やアルカリによりタンパク質の等電点による沈殿や変性による沈殿を起こす。本発明の効果はカゼインミセルなどの中性における凝集に有効である。また本発明では蛋白加水分解物、ペプチドにも効果を有している。
【0012】
経腸栄養液に含まれる油脂としては、食用に使用できるものであれば特に限定されない。例えば、菜種油(キャノーラ油)、大豆油、コーン油、ひまわり油、ゴマ油、オリーブ油、魚油、固化していない動物由来の油等がある。またMCT、ジアシルグリセロールなどの機能性を有するものでも構わない。
【0013】
本発明の作用機序について説明する。本発明で使用される分子量0.5万~30万の寒天を使用することにより経腸栄養液を高温で保持した場合でも凝集や沈殿、乳化破壊を起こすことなくタンパク質や乳化された脂質が安定したゲルや粘稠物を作製することができる。一般的に経腸栄養液には約3~5%のタンパク質が含まれており、乳タンパク質であるカゼインは特に重要な蛋白質である。カゼインは牛乳中では会合してコロイド状に分散している。このコロイド状カゼインは一般にはカゼインミセルと呼ばれ、球状の構造をしている。カゼインミセルの安定性は、カゼインミセルをコロイド粒子として取り扱うものとすると、一般に、帯電したコロイド粒子の相互作用のエネルギーは引力としてのファンデルワールス力と電気二重層に由来する静電的反発力の和で表される。相互作用の全エネルギーと粒子間距離の関係を示すエネルギー曲線は最大値を持ち、その値が粒子の相互作用のエネルギー障壁を意味し、粒子表面の電荷量に依存している。カゼインミセルは、牛乳のpH(6.6)では全体として負に荷電している。この荷電がエネルギー障壁となりミセルの相互作用を抑え、安定性を保っている。つまり各ミセルは粒子表面の電気的反発により凝集がおこらないのである。
【0014】
このようにミセル粒子が反発しあい凝集がおきていない状態に、高分子(長鎖)の寒天分子がミセル粒子の間に入り込む。これはほとんど中性多糖である寒天分子はカゼインミセルの表面の電荷に関係なくミセル粒子の合間に入り込むことができるからである。これにより、静電的な反発により凝集をしていなかったミセル粒子が、寒天分子がミセル粒子間に入り込むことにより静電的反発が弱まり、分子間力等により凝集してしまうのである。本発明の寒天は分子量が小さいのでミセル粒子間に入り込んだとしても効果が断片的となり粒子間の反発を抑えることができない。以上の理由からゲル化剤として本発明の寒天を使用するとカゼインミセルの凝集・沈殿がおこらずに安定した経腸栄養のゲルや粘稠物を作製できるのである。
【0015】
本発明の寒天は、経腸栄養液に対して有効であり凝集物のないゲルや粘稠物を作製することができるが、特にタンパク質や脂質を多く含有する経腸栄養液に対して特に有効である。本発明における高タンパク質溶液とは、溶液中にタンパク質を1.0%以上、さらには2.0%以上含む溶液を示す。また、本発明における高脂質溶液とは溶液中に脂質を1.0%以上、さらには2.0%以上含む溶液を示す。
【0016】
経腸栄養液中には1~5%程度の脂質が含まれており、乳化剤等で乳化されミセルとして存在している。重量平均分子量0.5万~30万の寒天はミセル表面に吸着しにくく、ミセル表面の電荷や構造に影響を与えにくい。よって高温で保持された場合でも乳化ミセルが破壊されることなく安定した状態で存在することができる。
【0017】
本発明に係る寒天は分子量0.5万~30万、好ましくは2万~25万以下、さらに好ましくは2万~20万以下のものが好ましい。寒天の他の物性は寒天の範疇であれば何れでも良い。つまり、経腸栄養液の凝集や乳化破壊は寒天の分子量に支配される。分子量の調整方法は目的の分子量になれば何れでもよく、特に限定されない。海藻の原料、抽出温度、抽出pH、寒天の酸処理、加熱処理、酸化処理、微粉砕化など様々な方法が知られている。
【0018】
本発明に係る寒天の使用濃度は、目的とするゲル強度になるように使用すれば良く特に限定されるものではないが、最終のゲル重量に対して、0.05~5.0質量%が好ましく、0.1~3.0質量%がさらに好ましい。0.05%より少ないとゲル強度が弱すぎ、5.0%より多いとゲル強度が高すぎ食感が悪くなる傾向がある。
【0019】
寒天の重量分子量の測定方法は種々知られているが、本発明ではGPC法での分子量である。分子量マーカーとしてプルラン標準品(Codex STANDARD Pullulan P-82)を使用して分子量を測定する。カラムはTOSOH TSK-GEL などを使用できる。
【0020】
本発明では本発明の効果を妨げない範囲で他の添加物を経腸栄養液に加えることができる。他の添加物としては、糖類、ペプチド、アミノ酸、脂質、多糖類、塩類、機能性成分等である。糖類としては、単糖(ブドウ糖、果糖、エリスリトール等)、2糖類(シュクロース、マルトース、ラクトース等)、オリゴ糖(イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖等)、デキストリンなどがある。ペプチドとしてはカゼインホスホペプチド、大豆由来ペプチド、畜肉・魚肉由来ペプチドなどがある。アミノ酸は一般に知られたもので良い。脂質としては植物由来、動物由来のいずれでも構わず、MCTでも良い。脂質は乳化状態で使用することが好ましい。多糖類としては、カラギーナン、ファーセレラン、アルギン酸塩、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、カシアガム、タマリンドガム、ペクチン、サイリウムガム、ジェランガム、澱粉、加工澱粉、キサンタンガム、サクシノグリカン、プルラン、アラビアガム等がある。塩類としてはナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、鉄塩などがある。機能性成分としては、ポリフェノール、ビタミン、糖タンパク等があるが以上にこだわるものではない。
【0021】
本発明においては経腸栄養液のpHは3.5~8.0と広範囲において効果を示す。よって酸添加の系でも中性乳の系でもどちらでも効果を示す。これは寒天が中性多糖類でありpHにより電荷が変化しにくいことに起因している。経腸栄養にはタンパク、脂質、糖類、ビタミン、ミネラルが配合された高栄養食である。液体状や固形状の経腸栄養は摂食嚥下に問題ない場合には問題なく摂食することが可能であるが、嚥下に問題がある場合は誤嚥を誘発し、場合により誤嚥性肺炎を引き起こしてしまうケースがある。このような場合にはゲル化剤を使用して液体状をゲル状にしたり、増粘剤を使用して粘性を付与したりして誤嚥を防いでいる。このような多種成分が含まれた系においても本発明の寒天を使用すればタンパク質や他の成分が凝集することなくゲル化することができる。このため大量生産する場合において、大量に溶解した溶液を個包装している間、溶液は高温保持しなくてはならないがこの間に凝集沈殿、乳化破壊を起こすことなく保持できる。
【0022】
経腸栄養溶液を本発明の範囲以外の寒天でゲル化させる場合において、経腸栄養溶液を含む寒天溶液を直ちにゲル化させる場合においては、タンパク質の凝集や沈殿、乳化破壊を起こすことなくゲル化することができる。これは凝集・沈殿、乳化破壊を起こす前にゲル化させることができるためタンパク質、脂質が固定化できるためである。本発明は経腸栄養液を含む寒天溶液をゲル化温度以上(ゾル状態)で保持する場合おいての効果である。業務用製品のように多数の製品を作る場合には大量に溶液を溶解する必要がある。この大量に作製された溶液は各容器に充填する間、凝固点よりかなり高い温度で保持しておかなくてはならない。この保持時間に凝集・沈殿、乳化破壊がおきてしまうのである。本発明の寒天を使用することにより、この保持時間においてもタンパク質の凝集・沈殿、乳化破壊を防ぐことができる。また、業務用製品のように多数の製品を作る場合においても、大量に作製した寒天溶液をゲル化する温度より、少し高い温度(5~10℃)に保持しておく条件では凝集・沈殿、乳化破壊が起きる時間を遅くすることができる。しかし凝固点に近いため、充填途中のラインでゲル化してしまうなどの作業トラブルを起こしやすくなり、厳密な温度や作業管理が必要になる。さらに充填温度が低くなるため微生物汚染の原因にもなる。発明の寒天を使用することにより溶液の高温での保持ができるため、このような厳密な温度管理をしなくとも大量の寒天溶液を作製してトラブルなく個別容器に充填することができる。
【実施例0023】
以下、本開示の実施例を具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。また、特に指定がない限り%は質量%を示している。
本実施例で使用した寒天を記載する。
寒天1:伊那寒天S-7を精製水に加え沸騰溶解後(5%濃度)、塩酸を加えpH2.5に調整し、90℃で撹拌下30分間放置した。これに水酸化ナトリウムを使用し、pH7.0に中和した後、95%アルコールに添加して寒天を析出させた。この沈殿物を回収後、乾燥して粉砕し寒天末とした。 重量平均分子量(MW:3500)
寒天2:伊那寒天S-7を精製水に加え沸騰溶解後(5%濃度)、塩酸を加えpH2.8に調整し、90℃で撹拌下30分間放置した。これに水酸化ナトリウムを使用し、pH7.0に中和した後、95%アルコールに添加して寒天を析出させた。この沈殿物を回収後、乾燥して粉砕し寒天末とした。 重量平均分子量(MW:5500)
寒天3:伊那寒天S-7を精製水に加え沸騰溶解後(5%濃度)、塩酸を加えpH3.0に調整し、90℃で撹拌下30分間放置した。これに水酸化ナトリウムを使用し、pH7.0に中和した後、95%アルコールに添加して寒天を析出させた。この沈殿物を回収後、乾燥して粉砕し寒天末とした。 重量平均分子量(MW:9500)
寒天4:伊那寒天S-7を精製水に加え沸騰溶解後(5%濃度)、塩酸を加えpH3.0に調整し、85℃で撹拌下30分間放置した。これに水酸化ナトリウムを使用し、pH7.0に中和した後、90%アルコールに添加して寒天を析出させた。この沈殿物を回収後、乾燥して粉砕し寒天末とした。 重量平均分子量(MW:15000)
寒天5:伊那寒天S-7を精製水に加え沸騰溶解後(5%濃度)、塩酸を加えpH3.0に調整し、80℃で撹拌下30分間放置した。これに水酸化ナトリウムを使用し、pH7.0に中和した後、90%アルコールに添加して寒天を析出させた。この沈殿物を回収後、乾燥して粉砕し寒天末とした。 重量平均分子量(MW:22000)
寒天6:伊那寒天S-7を精製水に加え沸騰溶解後(5%濃度)、塩酸を加えpH3.5に調整し、80℃で撹拌下30分間放置した。これに水酸化ナトリウムを使用し、pH7.0に中和した後、90%アルコールに添加して寒天を析出させた。この沈殿物を回収後、乾燥して粉砕し寒天末とした。 重量平均分子量(MW:120000)
寒天7:伊那寒天S-7を精製水に加え沸騰溶解後(5%濃度)、塩酸を加えpH3.8に調整し、80℃で撹拌下30分間放置した。これに水酸化ナトリウムを使用し、pH7.0に中和した後、90%アルコールに添加して寒天を析出させた。この沈殿物を回収後、乾燥して粉砕し寒天末とした。 重量平均分子量(MW:180000)
寒天8:伊那寒天M-10を精製水に加え沸騰溶解後(5%濃度)、塩酸を加えpH4.0に調整し、80℃で撹拌下30分間放置した。これに水酸化ナトリウムを使用し、pH7.0に中和した後、90%アルコールに添加して寒天を析出させた。この沈殿物を回収後、乾燥して粉砕し寒天末とした。 重量平均分子量(MW:230000)
寒天9:伊那寒天M-10を精製水に加え沸騰溶解後(5%濃度)、塩酸を加えpH4.3に調整し、80℃で撹拌下30分間放置した。これに水酸化ナトリウムを使用し、pH7.0に中和した後、90%アルコールに添加して寒天を析出させた。この沈殿物を回収後、乾燥して粉砕し寒天末とした。 重量平均分子量(MW:270000)
寒天10:伊那寒天大和を精製水に加え沸騰溶解後(5%濃度)、121℃で40分間加熱加圧処理した。この溶液を90%アルコールに添加して寒天を析出させた。この沈殿物を回収後、乾燥して粉砕し寒天末とした。 重量平均分子量(MW:200000)
寒天11:ウルトラ寒天イーナ(伊那食品工業) 重量平均分子量(MW:50000)
寒天12:ウルトラ寒天AX-30(伊那食品工業) 重量平均分子量(MW:70000)
寒天13:ウルトラ寒天BX-30(伊那食品工業) 重量平均分子量(MW:110000)
寒天14:ウルトラ寒天BX-100(伊那食品工業) 重量平均分子量(MW:210000)
寒天15:伊那寒天UP-37(伊那食品工業) 重量平均分子量(MW:270000)
寒天16:伊那寒天M-10(伊那食品工業) 重量平均分子量(MW:320000)
寒天17:伊那寒天大和(伊那食品工業) 重量平均分子量(MW:730000)
【0024】
使用した経腸栄養液
経腸栄養液1:エンシェアリキッド(100mL中 タンパク質3.52g、脂質3.52g) アボット社製
経腸栄養液2:ラコールNF(100mL中 タンパク質4.38g、脂質2.23g) 大塚製薬工場社製
経腸栄養液3:CZHI(100mL中 タンパク質5.0g、脂質2.2g) クリニコ社製
経腸栄養液4:リカバリーアミノ(100mL中 タンパク質5.0g、脂質2.7g) ニュートリー社製
【0025】
下記の実験例により、寒天を使用した時の経腸栄養液の凝集や沈殿、乳化破壊について、さらにゲル化の状態について検証を行った。
実験例1:精製水100gに寒天を5.0g添加し、沸騰溶解した。これに60℃に加温した経腸栄養液400gを添加し、90℃で1時間放置後、タンパク質の凝集、沈殿、乳化破壊を調べた。その後10℃に冷却しゲル化の状態を確認し、結果を表1に記載した。凝集・沈殿、乳化破壊の評価は以下の指標で行った。
A:沈殿や凝集、乳化破壊が無く均一に溶解していて良好なゲルである。
B:Aに比べ極わずかに凝集があるが問題ない程度である。良好なゲルである。
B-:Bより極わずか凝集が確認されるが問題ない程度である。
C:沈殿や凝集、乳化破壊が無く均一に溶解している。ゲル化は弱いが問題ない粘稠状である。
D:ゲル化は問題ないが凝集沈殿、乳化破壊があり不可である。
E:沈殿や凝集、乳化破壊が無く均一に溶解している。ゲル状でないため不可である。
【0026】
【0027】
表1の結果から分子量0.5万~30万の寒天は、経腸栄養液を高温に保持した場合でもタンパク質が凝集や沈殿することなく均一に分散した溶液にとなり、冷却することにより外観に優れた均一なゲルを作製することができた。
【0028】
実験例2
寒天の使用濃度を0.5%にした以外は実験例1と同様に試験を行い、結果を表2に記載した。
【0029】
【0030】
表2の結果から分子量0.5万~30万の寒天は、経腸栄養液を高温に保持した場合でもタンパク質が凝集や沈殿することなく均一に分散した溶液にとなり、冷却することにより外観に優れた均一なゲルを作製することができた。
【0031】
実験例3
寒天の使用濃度を1.5%にした以外は実験例1と同様に試験を行い、結果を表3に記載した。
【0032】
【0033】
表3の結果から分子量0.5万~30万の寒天は、経腸栄養液を高温に保持した場合でもタンパク質が凝集や沈殿することなく均一に分散した溶液にとなり、冷却することにより外観に優れた均一なゲルを作製することができた。
【0034】
実験例4
寒天5及び寒天15を使用して実験例1に準じた試験を行った。ただし、溶液を90℃で1時間放置するところを、60℃及び90℃で、保持時間を溶液調整直後、1分後、3分後、5分後、10分後、60分後、120分後、180分後とした以外は実験例1と同様にした。その結果、寒天5は60℃及び90℃において180分後まで凝集や沈殿は無かった。これに対し寒天15は60℃において5分後には凝集が観察され、90℃においては3分後に凝集が観察された。
【0035】
以上のように、重量平均分子量0.5万~30万以外の寒天を使用した場合、溶液作製直後は凝集や沈殿は確認されなかったが、経時的に凝集沈殿が確認された。
本発明の重量平均分子量0.5万~30万の寒天を使用すれば、経腸栄養液を高温に保持した場合でもタンパク質が凝集や沈殿することなく均一に分散した溶液にとなり、冷却することにより外観に優れた均一なゲルを作製することができる。これにより、タンパク質や脂質、ビタミン、ミネラルを含む経腸栄養剤の均一なゲル化が可能となり、高齢者用、嚥下困難者用、スポーツ用、などに付加価値のある経腸栄養液含有ゼリーを工場生産レベルで供給することができる。