(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148010
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】回転機械用摺動部品、該回転機械用摺動部品を備える回転機械、回転機械及び該回転機械用摺動部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/12 20060101AFI20220929BHJP
C21D 1/06 20060101ALI20220929BHJP
C23C 8/26 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F16C33/12 Z
C21D1/06 A
C23C8/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049520
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤原 亮太
(72)【発明者】
【氏名】窪 忠雄
(72)【発明者】
【氏名】前田 晃生
(72)【発明者】
【氏名】宮長 裕二
(72)【発明者】
【氏名】井上 亮
(72)【発明者】
【氏名】山下 哲央
【テーマコード(参考)】
3J011
4K028
【Fターム(参考)】
3J011AA06
3J011AA20
3J011BA02
3J011CA01
3J011DA01
3J011DA02
3J011KA02
3J011MA03
3J011PA02
3J011QA03
3J011QA04
3J011SE02
4K028AA02
4K028AB01
(57)【要約】
【課題】回転機械に形成される摺動面の端部で表面処理層が剥離するのを抑制することで、表面処理層の寿命を向上させること。
【解決手段】回転機械の固定側または回転側のいずれか一方に支持される回転機械用摺動部品であって、回転機械の固定側または回転側のいずれか他方に支持される他方側部品に対向して配置される対向面と、対向面の少なくとも一部に形成され他方側部品に対して摺動するように構成された摺動面と、摺動面に対して表面処理が施されることで形成された表面処理層と、を備え、摺動面の端部には、前記表面処理が施されていない母材が露出する母材露出部が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械の固定側または回転側のいずれか一方に支持される回転機械用摺動部品であって、
前記回転機械の前記固定側または前記回転側のいずれか他方に支持される他方側部品に対向して配置される対向面と、
前記対向面の少なくとも一部に形成され前記他方側部品に対して摺動するように構成された摺動面と、
前記摺動面に対して表面処理が施されることで形成された表面処理層と、を備え、
前記摺動面の端部には、前記表面処理が施されていない母材が露出する母材露出部が形成されている回転機械用摺動部品。
【請求項2】
前記母材露出部は、前記母材の一部が切削された切削面からなる請求項1に記載の回転機械用摺動部品。
【請求項3】
回転機械の固定側または回転側のいずれか一方に支持される回転機械用摺動部品であって、
前記回転機械の前記固定側または前記回転側のいずれか他方に支持される他方側部品に対向して配置される対向面と、
前記対向面の少なくとも一部に形成され前記他方側部品に対して摺動するように構成された摺動面と、
前記摺動面の全体に亘って表面処理が施されることで形成された表面処理層と、を備え、
前記摺動面は、面取り処理が施されることで形成された端部を含む回転機械用摺動部品。
【請求項4】
前記摺動面の端部がR面取り形状である請求項3に記載の回転機械用摺動部品。
【請求項5】
前記端部の面取り寸法の大きさをC、
前記摺動面の幅寸法の大きさをDとした場合に、
C/Dが0.100以上、且つ0.250以下である請求項3又は4に記載の回転機械用摺動部品。
【請求項6】
前記表面処理は、窒化処理である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の回転機械用摺動部品。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の回転機械用摺動部品を備えた回転機械。
【請求項8】
回転機械の固定側または回転側のいずれか一方に形成される摺動部を有する回転機械であって、
前記摺動部は、
前記回転機械の前記固定側または前記回転側のいずれか他方に支持される他方側部品に対向して配置される対向面と、
前記対向面の少なくとも一部に形成され前記他方側部品に対して摺動するように構成された摺動面と、
前記摺動面に対して表面処理が施されることで形成された表面処理層と、を備え、
前記摺動面の端部には、前記表面処理が施されていない母材が露出する母材露出部が形成されている回転機械。
【請求項9】
回転機械の固定側または回転側のいずれか一方に形成される摺動部を有する回転機械であって、
前記摺動部は、
前記回転機械の前記固定側または前記回転側のいずれか他方に支持される他方側部品に対向して配置される対向面と、
前記対向面の少なくとも一部に形成され前記他方側部品に対して摺動するように構成された摺動面と、
前記摺動面の全体に亘って表面処理が施されることで形成された表面処理層と、を備え、
前記摺動面は、面取り処理が施されることで形成された端部を含む回転機械。
【請求項10】
回転機械の固定側または回転側のいずれか一方に支持される回転機械用摺動部品の製造方法であって、
加工前摺動部品の一面に溝を加工する溝加工工程と、
前記加工前摺動部品の前記溝の底面を含む前記一面の所定の領域に対して表面処理を施す表面処理工程と、
前記加工前摺動部品の前記一面を切除して少なくとも1つの凸部を形成する切除工程であって、前記少なくとも1つの凸部の凸面の端部を除いた中央部に前記溝の前記底面に形成された表面処理層が位置するように、前記加工前摺動部品の前記一面を切除する切除工程と、
を備える回転機械用摺動部品の製造方法。
【請求項11】
前記表面処理は、窒化処理である請求項10に記載の回転機械用摺動部品の製造方法。
【請求項12】
前記切除工程の後に、前記表面処理層のうち、硬度1000Hv以上の硬化層を除去する研磨工程をさらに備える、請求項11に記載の回転機械用摺動部品の製造方法。
【請求項13】
回転機械の固定側または回転側のいずれか一方に支持される回転機械用摺動部品の製造方法であって、
一面に凸部が形成された加工前摺動部品に対し、前記凸部の端部を除いた中央部を凹状に加工する加工工程と、
前記凹状に加工された前記凸部の凸面に対して表面処理を施す表面処理工程と、
前記凹状に加工された前記凸部における前記端部を切除する切除工程と、
を備える回転機械用摺動部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転機械用摺動部品、該回転機械用摺動部品を備える回転機械、回転機械及び該回転機械用摺動部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーシングの内部に羽根車などの回転体を内蔵するポンプなどの回転機械において、回転体や該回転体を支持する回転軸等の回転部材とケーシングなどの固定部材との間に摺動部が形成される。該摺動部に形成される摺動面は摩耗や孔食、浸食などが発生するため、その対策として、該摺動面の耐食性及び耐摩耗性を高めるために、溶射、DCL(ダイヤモンドライクカーボン)コーティング、窒化処理、メッキ処理等の表面処理を施すことが提案されている(特許文献1及び特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-184692号公報
【特許文献2】特開2012-166237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
表面処理によって上記摺動面に形成された表面処理層は、硬度は高いが脆い性質を有する。そのため、該摺動面の端部に形成される角部で上記表面処理層が剥離しやすくなり、表面処理層の寿命を低下させる可能性がある。特に角溝を有するネジシールにおいては角部が多く、表面処理の欠けが問題となる可能性がある。
【0005】
本開示は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、回転機械に形成される摺動面の端部で表面処理層が剥離するのを抑制することで、表面処理層の寿命を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械用摺動部品は、回転機械の固定側または回転側のいずれか一方に支持される回転機械用摺動部品であって、
前記回転機械の前記固定側または前記回転側のいずれか他方に支持される他方側部品に対向して配置される対向面と、
前記対向面の少なくとも一部に形成され前記他方側部品に対して摺動するように構成された摺動面と、
前記摺動面に対して表面処理が施されることで形成された表面処理層と、を備え、
前記摺動面の端部には、前記表面処理が施されていない母材が露出する母材露出部が形成されている。
【0007】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械用摺動部品は、
回転機械の固定側または回転側のいずれか一方に支持される回転機械用摺動部品であって、
前記回転機械の前記固定側または前記回転側のいずれか他方に支持される他方側部品に対向して配置される対向面と、
前記対向面の少なくとも一部に形成され前記他方側部品に対して摺動するように構成された摺動面と、
前記摺動面の全体に亘って表面処理が施されることで形成された表面処理層と、を備え、
前記摺動面は、面取り処理が施されることで形成された端部を含む。
【0008】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械は、
回転機械の固定側または回転側のいずれか一方に形成される摺動部を有する回転機械であって、
前記摺動部は、
前記回転機械の前記固定側または前記回転側のいずれか他方に支持される他方側部品に対向して配置される対向面と、
前記対向面の少なくとも一部に形成され前記他方側部品に対して摺動するように構成された摺動面と、
前記摺動面に対して表面処理が施されることで形成された表面処理層と、を備え、
前記摺動面の端部には、前記表面処理が施されていない母材が露出する母材露出部が形成されている。
【0009】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械は、
回転機械の固定側または回転側のいずれか一方に形成される摺動部を有する回転機械であって、
前記摺動部は、
前記回転機械の前記固定側または前記回転側のいずれか他方に支持される他方側部品に対向して配置される対向面と、
前記対向面の少なくとも一部に形成され前記他方側部品に対して摺動するように構成された摺動面と、
前記摺動面の全体に亘って表面処理が施されることで形成された表面処理層と、を備え、
前記摺動面は、面取り処理が施されることで形成された端部を含む。
【0010】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械用摺動部品の製造方法は、
回転機械の固定側または回転側のいずれか一方に支持される回転機械用摺動部品の製造方法であって、
加工前摺動部品を準備する準備工程と、
前記加工前摺動部品の一面に溝を加工する溝加工工程と、
前記加工前摺動部品の前記溝の底面を含む前記一面の所定の領域に対して表面処理を施す表面処理工程と、
前記加工前摺動部品の前記一面を切除して少なくとも1つの凸部を形成する切除工程であって、前記少なくとも1つの凸部の凸面の端部を除いた中央部に前記溝の前記底面に形成された表面処理層が位置するように、前記加工前摺動部品の前記一面を切除する切除工程と、
を備える。
【0011】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械用摺動部品の製造方法は、
回転機械の固定側または回転側のいずれか一方に支持される回転機械用摺動部品の製造方法であって、
一面に凸部が形成された加工前摺動部品を準備する準備工程と、
前記凸部の凸面の端部を除いた中央部を凹状に加工する加工工程と、
前記凹状に加工された前記凸面に対して表面処理を施す表面処理工程と、
前記凹状に加工された前記凸面における前記端部を切除する切除工程と、
を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、回転機械に形成される摺動面の端部で表面処理層が剥離するのを抑制することで、表面処理層の寿命を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態に係る回転機械の縦断面図である。
【
図2A】一実施形態に係る回転機械用摺動部品(羽根車)の拡大図である。
【
図2B】一実施形態に係る回転機械摺動部品(バランススリーブ)の拡大図である。
【
図2C】一実施形態に係る回転機械用摺動部品(ライナリング)の拡大図である。
【
図2D】一実施形態に係る回転機械用摺動部品(リング状部材)の拡大図である。
【
図3】一実施形態に係る回転機械用摺動部品の摺動面を示し、
図2A~
図2C中のA部拡大図に相当する断面図である。
【
図4A】一実施形態に係る回転機械用摺動部品を示し、
図3中のB部拡大図に相当する断面図である。
【
図4B】一実施形態に係る回転機械用摺動部品を示し、
図3中のB部拡大図に相当する断面図である。
【
図5A】一実施形態に係る回転機械用摺動部品を示し、
図3中のB部拡大図に相当する断面図である。
【
図5B】一実施形態に係る回転機械用摺動部品を示し、
図3中のB部拡大図に相当する断面図である。
【
図6】一実施形態に係る回転機械用摺動部品の製造方法を示すフローチャート図である。
【
図7】一実施形態に係る回転機械用摺動部品の製造方法を工程順に示す模式図である。
【
図8】一実施形態に係る回転機械用摺動部品の製造方法を示すフローチャート図である。
【
図9】一実施形態に係る回転機械用摺動部品の製造方法を工程準備示す模式図である。
【
図10】一実施形態に係る回転機械の縦断面図であり、
図1とは異なる実施形態に係る回転機械を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明のいくつかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0015】
<回転機械の構成>
図1は、一実施形態に係る回転機械用摺動部品を備えた回転機械を示す縦断面図である。本実施形態では、回転機械が遠心ポンプ10(10A)である場合を例にして説明する。遠心ポンプ10(回転機械)は横形の多段ポンプであり、外部ケーシング(不図示)の内部に内部ケーシング12が主軸14の軸線X方向に沿って複数配置されている。
図1において、左側が流体(例えばボイラ給水)の流れ方向上流側であり、右側が下流側である。
【0016】
内部ケーシング12の内部には、夫々複数の翼18を有する羽根車16が収容されている。各羽根車16は原動機(不図示)によって回転駆動される主軸14に取り付けられている。各羽根車16において複数の翼18は、主軸14の周方向に沿って配置され、各羽根は主軸14の径方向外側へ向かって放射状に配置されている。各羽根車16は複数の翼18の先端側に連なる環状のシュラウド部16Aと、複数の翼18の基端側に連なる環状のハブ部16Bと、ハブ部16Bの径方向内側端に接続されるとともに主軸14に取り付けられている環状のスリーブ部16Cと、を有している。この羽根車16は、主軸14と共に回転するように構成されている。羽根車16は、遠心ポンプ10(10A)の主軸14(回転側)に支持された、本開示に係る回転機械用摺動部品のいくつかの実施形態を構成するものである。
【0017】
内部ケーシング12には、各羽根車16の間に、不図示の案内羽根と返し羽根とが配置されている。羽根車16の出口から吐出した流体はボリュートによって減速され正圧回復(昇圧)された後、後段の羽根車16に導かれる。羽根車16の入口側には、主軸14とほぼ平行に延在するシュラウド端部16aが形成されている。シュラウド端部16aは、シュラウド部16Aの一部であり、このシュラウド端部16aによって羽根車16の入口が画成される。
【0018】
また、内部ケーシング12の内部には、遠心ポンプの軸方向推力を抑制する為の部材であるバランススリーブ28が収容されている。バランススリーブ28は、円環形状を有しており、主軸14に取り付けられ、主軸14と共に回転するように構成されている。このバランススリーブ28は、遠心ポンプ10(10A)の主軸14(回転側)に支持された、本開示に係る回転機械用摺動部品のいくつかの実施形態を構成するものである。
【0019】
また、内部ケーシング12の内周面12aには、シュラウド端部16aの周囲を囲む円環形状のライナリング24が固定されている。すなわち、ライナリング24の内周面と羽根車16のシュラウド端部16aの外周面とは互いに対向して配置されている。ライナリング24は、シュラウド端部16aと共に羽根車16の出口から流出する流体が内部ケーシング12と羽根車16との間を逆流して羽根車16の入口側に漏洩するのを抑制するために設けられている。
【0020】
また、内部ケーシング12の内周面12aには、羽根車16のスリーブ部16Cの周囲を囲む円環形状の中間ブシュ25が固定されている。すなわち、中間ブシュ25の内周面と羽根車16のスリーブ部16Cの外周面とは互いに対向して配置されている。中間ブシュ25は、内部ケーシング12の内側、且つ隣接する羽根車16の間に固定され、スリーブ部16Cとの間の隙間から流体が漏洩するのを抑制する。
【0021】
また、内部ケーシング12の内周面12aには、主軸14の外周面に固定されたバランススリーブ28の周囲を囲む円環形状のバランスブシュ26が固定されている。すなわち、バランスブシュ26の内周面とバランススリーブ28の外周面とは互いに対向して配置されている。バランスブシュ26は、内部ケーシング12の内側に固定され、バランススリーブ28との間の隙間から流体が漏洩するのを抑制する。
【0022】
これらライナリング24、中間ブシュ25、バランスブシュ26は、遠心ポンプ10(10A)の内部ケーシング12(固定側)に支持された、本開示に係る回転機械用摺動部品のいくつかの実施形態を構成するものである。
【0023】
<回転機械用摺動部品の構成>
図2Aは、一実施形態に係る回転機械用摺動部品(羽根車16)の拡大図である。
図2Bは、一実施形態に係る回転機械摺動部品(バランススリーブ28)の拡大図である。
図2Cは、一実施形態に係る回転機械用摺動部品(ライナリング24)の拡大図である。
図2Dは、一実施形態に係る回転機械用摺動部品(リング状部材27)の拡大図である。
図3は、一実施形態に係る回転機械用摺動部品の摺動面を示し、
図2A~
図2D中のA部拡大図に相当する断面図である。
図4A、
図4Bは、一実施形態に係る回転機械用摺動部品を示し、
図3中のB部拡大図に相当する断面図である。
図5A、
図5Bは、一実施形態に係る回転機械用摺動部品を示し、
図3中のB部拡大図に相当する断面図である。
【0024】
図2Aに示したように、羽根車16のシュラウド端部16aは、その外周面に、上述したライナリング24の内周面に対向して配置される対向面30(外周面16b)を有している。また、羽根車16のスリーブ部16Cは、その外周面に、上述した中間ブシュ25の内周面に対向して配置される対向面30(外周面16c)を有している。
【0025】
図2Bに示したように、バランススリーブ28は、その外周面に、上述したバランスブシュ26の内周面に対向して配置される対向面30(外周面28a)を有している。
【0026】
図2Cに示したように、ライナリング24は、その内周面に、上述した羽根車16のシュラウド端部16aに対向して配置される対向面30(内周面24a)を有している。また、ライナリング24の外周面には凸部24bが形成されている。そして、この凸部24bが内部ケーシング12の内周面12aに形成されている凹部12bに嵌合されることで、ライナリング24が位置決めされている。
【0027】
また、図示しないが、中間ブシュ25は、その内周面に、上述した羽根車16のスリーブ部16Cの外周面に対向して配置される対向面30を有している。また、中間ブシュ25は、上述したライナリング24と同様に、その外周面に位置決め用の凸部を有している。また、図示しないが、バランスブシュ26は、その内周面に、上述したバランススリーブ28の外周面に対向して配置される対向面30を有している。
【0028】
そして、
図3に示したように、上述した羽根車16、バランススリーブ28、ライナリング24、中間ブシュ25、及びバランスブシュ26の各々の対向面30の少なくとも一部には、対向する他方側部品に対して摺動するように構成された摺動面34が形成されている。
【0029】
ここで他方側部品とは、遠心ポンプ10(10A)の内部ケーシング12(固定側)または主軸14(回転側)のいずれか一方に支持される回転機械用摺動部品に対して対向して配置される、内部ケーシング12(固定側)または主軸14(回転側)のいずれか他方に支持される部品である。
羽根車16のシュラウド端部16aが本開示に係る回転機械用摺動部品のいくつかの実施形態を構成する場合には、上述した他方側部品は、それに対向するライナリング24である。羽根車16のスリーブ部16Cが本開示に係る回転機械用摺動部品のいくつかの実施形態を構成する場合には、上述した他方側部品は、それに対向する中間ブシュ25である。バランススリーブ28が本開示に係る回転機械用摺動部品のいくつかの実施形態を構成する場合には、上述した他方側部品は、それに対向するバランスブシュ26である。ライナリング24が本開示に係る回転機械用摺動部品のいくつかの実施形態を構成する場合には、上述した他方側部品は、それに対向する羽根車16のシュラウド端部16aである。中間ブシュ25が本開示に係る回転機械用摺動部品のいくつかの実施形態を構成する場合には、上述した他方側部品は、それに対向する対羽根車16のスリーブ部16Cである。バランスブシュ26が本開示に係る回転機械用摺動部品のいくつかの実施形態を構成する場合には、上述した他方側部品は、それに対向するバランススリーブ28である。また、後述する
図2Dに示したように、リング状部材27が本開示に係る回転機械用摺動部品のいくつかの実施形態を構成する場合には、上述した他方側部品は、それに対向するライナリング24である。
【0030】
【0031】
表面処理層36とは、摺動面34の表面に形成された表面処理を施された層のことである。表面処理層36は、例えば、溶射、DCLコーティング、メッキ処理等によって、母材40の表面に耐食性及び耐摩耗性を有する被膜を形成する方法や、あるいは窒化処理などによって、母材40の表面層に耐食性及び耐摩耗性を付与する方法で形成される。
【0032】
このように構成される本発明の一実施形態に係る回転機械用摺動部品では、
図4A、Bに示すように、摺動面34の軸線X方向の両端部34a(両角溝端部34a1)に、表面処理が施されずに表面処理層36が形成されていない、母材40が露出する母材露出部40aが形成されている。摺動面34の両端部34a(両角溝端部34a1)に母材露出部40aが形成され、表面処理層36が存在しないので、該両端部34a(両角溝端部34a1)での表面処理層36の剥離に起因した剥離部分の広がりを回避でき、これによって、表面処理層36の寿命を向上できる。従って、遠心ポンプ10(10A)の稼働時間を延ばすことができる。なお、本発明の端部34aは、上述した角溝端部34a1に限定されるものではなく、角溝が形成されていない場合の摺動面34の端部34aも含むものである。
【0033】
一実施形態では、母材露出部40aは母材40の一部が切削された切削面であってもよい。母材露出部40a形成方法として切削を用いることで、母材露出部40を形成するのが容易になる。また、摺動面34から所定の深さまで表面処理層36が形成されるような表面処理の場合でも、形成された表面処理層36を切削することで、容易に母材露出部40aを形成できる。
【0034】
一実施形態では、上述した表面処理は窒化処理であってもよい。表面処理層36が摺動面34を構成する母材40の表面層を窒化処理することで形成される場合、溶射、DCLコーティング、メッキ処理等のように、母材40の表面に被膜層を形成する場合よりも、母材40の内部に剥離しにくい表面処理層36を形成できる。加えて、摺動面34の両端部34a(両角溝端部34a1)に母材露出部40aを形成することで、表面処理層36の剥離をさらに抑制できる。
【0035】
一実施形態では、
図2Cに示したように、対向して配置される両方の部品が、上述した対向面30、摺動面34、表面処理層36を備える回転機械用摺動部品として構成されている。
図2Cに示した実施形態では、羽根車16のシュラウド端部16aの外周面16bと、ライナリング24の内周面24aの両方が、上述した対向面30として構成されている。この場合、回転側の部品(羽根車16のシュラウド側端部16a)の表面処理層36の硬度を、固定側の部品(ライナリング24)の表面処理層36の硬度よりも高くすることで、回転側の部品の摩耗を抑制することができる。
【0036】
一実施形態では、
図2Dに示したように、対向して配置される両方の部品のうちの回転側の部品のみが、上述した対向面30、摺動面34、表面処理層36を備える回転機械用摺動部品として構成されていている。
図2Dに示した実施形態では、ライナリング24の内周面24aは、上述した対向面30としては構成されておらず(摺動面34に表面処理層36は形成されておらず)、羽根車16のシュラウド端部16aの外周面に支持されたリング状部材27の内周面27aのみが、上述した対向面30として構成されている。このリング状部材27は、遠心ポンプ10(10A)の羽根車16(回転側)に支持された、本開示に係る回転機械用摺動部品のいくつかの実施形態を構成するものである。このように、対向して配置される両方の部品のうちの回転側の部品のみを回転機械用摺動部品として構成することで、回転側の部品の摩耗を抑制することができる。
【0037】
また、本発明の一実施形態では、
図2A~
図2D、
図3に示したように、対向面30は、軸線X方向に沿って螺旋状に延在するネジ溝44とネジ山46とが形成されたネジ溝領域42を含んでいる。なお、
図2Cに示したように、対向して配置される両方の部品が、上述した対向面30、摺動面34、表面処理層36を備える回転機械用摺動部品として構成されている場合には、ネジ溝領域42は何れか一方側の部品にのみに形成されていればよい。
図3に示すように、ネジ溝領域42では、ネジ山46の頂部は軸線X方向とほぼ平行な平面に形成され、摺動面34は該平面で構成される。このようなネジ溝領域42が対向面30に形成されていれば、ネジ溝44が有するラビリンスシールとしてのシール作用によって、対向面30と他方側部品との間の隙間でシール効果を向上できる。
【0038】
ネジ溝領域42において、摺動面34の軸線X方向の両端部34a(両角溝端部34a1)に母材露出部40aを形成する場合、母材露出部40aは各ネジ山46の軸線X方向の両角溝端部34aに形成される。摺動面34は、
図3に示すように、複数に分割されていてもよく、あるいは図示しない実施形態では、単一の摺動面34で構成されていてもよい。
【0039】
一実施形態では、
図4Bに示したように、表面処理層36は、ねじ溝44やねじ山46の側面には形成されておらず、摺動面34の両端部34a(両角溝端部34a1)を除いた中央部分にだけ形成されている。表面処理層36は、硬度は高いが脆い性質を有するため、このように必要な部分にだけ表面処理層36を形成することが望ましい。ただし、
図4Aに示したように、ねじ溝44やねじ山46の側面にも表面処理層36が形成されていてもよい。
【0040】
また、本発明の一実施形態に係る回転機械用摺動部品では、
図5A、Bに示すように、回転機械用摺動部品は、上述した対向面30及び摺動面34と、摺動面34の全体に亘って表面処理が施されることで形成された表面処理層36とを備えている。そして、摺動面34は、面取り処理が施されることで形成された端部34a(面取り端部34a2)を有している。
【0041】
このような構成によれば、回転機械用摺動部品は、摺動面34の全体に亘って表面処理が施されることで形成された表面処理層36と、面取り処理が施されることで形成された端部34a(面取り端部34a2)を含む。このように、表面処理層36が剥離し易い端部34aに面取り処理を施すことで、端部34aでの表面処理層36の剥離に起因した剥離部分の広がりを回避でき、これによって、表面処理層36の寿命を向上できる。従って、回転機械用摺動部品を備える回転機械の耐久性を向上できる。
【0042】
一実施形態では、
図5Aに示すように、摺動面34の端部34aがC面取り形状であってもよい。摺動面34の端部34aをC面取り形状とすることで、端部34での表面処理層36の剥離をより抑制することができる。
【0043】
一実施形態では、
図5Bに示すように、摺動面34の端部34aがR面取り形状であってもよい。このように、摺動面34の端部34aの形状は、R面取り形状であってもよく、特に限定されない。
【0044】
上記実施形態において、一態様として、端部34aの面取り寸法の大きさをC、摺動面34の幅(軸線X方向)寸法の大きさをDとしたとき、C/Dが0.025~0.250、好ましくはC/Dが0.050~0.250、さらに好ましくはC/Dが0.100~0.250となるように構成されてもよい。特に、C/Dが0.100以上であると、所定以上の大きさを有する面取り処理を施された端部34a(面取り端部34a1)を確保できる。そのため、摺動面34の端部34aでの表面処理層36の剥離を抑制しやすくなる。また、C/Dが0.250以下のため、面取り処理が施されていない摺動面34の大きさを確保できる。そのため、摺動面34のシール性能を維持しやすくなる。
【0045】
<その他の回転機械の構成>
図10は、一実施形態に係る回転機械の縦断面図であり、
図1とは異なる実施形態に係る回転機械(遠心ポンプ)を示した図である。本実施形態に係る遠心ポンプ10(10B)は、上述した実施形態と基本的には同様の構成を有しており、同様の構成には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0046】
図1に示した実施形態では、遠心ポンプ10(10A)の固定側又は回転側のいずれか一方に摺動面34を有する回転機械用摺動部品(羽根車16、バランススリーブ28、ライナリング24、中間ブシュ25、バランスブシュ26)が別体として内部ケーシング12(固定側)や主軸14(回転側)に固定されていた。これに対して、本実施形態では、摺動面34を有する摺動部60(60a、60b、60c)が遠心ポンプ10(10B)の固定側又は回転側の一部となっている。
図10に示した実施形態では、摺動面34を有する摺動部60(60a、60b、60c)が、遠心ポンプ10(10B)の内部ケーシング12(固定側)の一部となっている例を示している。
【0047】
本発明の一実施形態に係る遠心ポンプ10(10B)は、
図10に示したように、遠心ポンプ10(10B)の固定側または回転側のいずれか一方に形成される摺動部60(60a、60b、60c)を有する。
図10に示した実施形態では、内部ケーシング12の内周面12aにおいて、羽根車16のシュラウド端部16aと対向する部分が摺動部60aとなっている。また、内部ケーシング12の内周面12aにおいて、羽根車16のスリーブ部16Cと対向する部分が摺動部60bとなっている。また、内部ケーシング12の内周面12aにおいて、バランススリーブ28と対向する部分が摺動部60cとなっている。
【0048】
そして、摺動部60(60a、60b、60c)は、
図2A~
図2D、
図3、
図4A~
図4Bに示したように、遠心ポンプ10(10B)の固定側または回転側のいずれか他方に支持される他方側部品に対向して配置される対向面30と、対向面30の少なくとも一部に形成され他方側部品に対して摺動するように構成された摺動面34と、摺動面34に対して表面処理が施されることで形成された表面処理層36とを備えている。そして、摺動面34の端部には、表面処理が施されていない母材40が露出する母材露出部40aが形成されている。このような構成によって、
図1、
図2A~
図2D、
図3、
図4A~
図4Bに示した実施形態と同様の作用効果を得ることが出来る。
【0049】
また、本発明の一実施形態に係る遠心ポンプ10(10B)では、
図10に示したように、遠心ポンプ10(10B)の固定側または回転側のいずれか一方に形成される摺動部60(60a、60b、60c)を有する。
そして、摺動部60(60a、60b、60c)は、
図2A~
図2D、
図3、
図5A~
図5Bに示したように、遠心ポンプ10(10B)の固定側または回転側のいずれか他方に支持される他方側部品に対向して配置される対向面30と、対向面30の少なくとも一部に形成され他方側部品に対して摺動するように構成された摺動面34と、摺動面34の全体に亘って表面処理が施されることで形成された表面処理層36とを備えている。そして、摺動面34は、面取り処理が施されることで形成された端部34aを含む。このような構成によって、
図1、
図2A~
図2D、
図3、及び
図5A~
図5Bに示した実施形態と同様の作用効果を得ることが出来る。
【0050】
<第1の製造方法>
図6は、一実施形態に係る回転機械用摺動部品の製造方法を示すフローチャート図であり、
図7は、同じく製造工程順に示す模式図である。
【0051】
一実施形態に係る回転機械用摺動部品の製造方法は、
図6及び
図7に示したように、加工前摺動部品70を準備する準備工程(S10)と、加工前摺動部品70の一面に溝72を加工する溝加工工程(S12)と、加工前摺動部品70の溝72の底面72aを含む一面70aの所定の領域に対して表面処理を施す表面処理工程(S14)と、加工前摺動部品70の一面70aを切除して少なくとも1つの凸部76を形成する切除工程であって、前記少なくとも1つの凸部76の凸面76aの端部76a1を除いた中央部76a2に溝72の底面72aに形成された表面処理層36が位置するように、加工前摺動部品70の前記一面70aを切除する切除工程(S16)と、を備える。
【0052】
準備工程(S10)では、上述した回転機械用摺動部品である羽根車16、バランススリーブ28、ライナリング24、中間ブシュ25、バランスブシュ26、及びリング状部材27の少なくとも1つに対応する加工前摺動部品70を用意する。これらの回転機械用摺動部品は、他方側部品に対向して配置される対向面30を有し、対向面30の少なくとも一部に摺動面34が形成されている。加工前摺動部品70の一面70a(回転機械用摺動部品の対向面30に対応)は平坦面であることが望ましいが、湾曲していてもよく、その形状は特に限定されない。
【0053】
溝加工工程(S12)では、準備工程(S10)で準備した加工前摺動部品70の一面70aに溝72を加工する。溝加工工程(S12)で加工される溝72の幅は、本実施形態にて最終的に形成される凸部76の幅よりも小さい。
【0054】
表面処理工程(S14)では、溝加工工程(S12)で加工された加工前摺動部品70の溝72の底面72aを含む一面70aの所定の領域に対して表面処理を施す。この表面処理は、例えば、溶射、DCLコーティング、メッキ処理等によって、耐食性及び耐摩耗性を有する被膜を形成する方法や、あるいは窒化処理などによって、耐食性及び耐摩耗性を付与する方法で形成される。
【0055】
切除工程(S16)では、表面処理工程(S14)にて表面処理を施した加工前摺動部品70の一面70aを切除して少なくとも1つの凸部76を形成する。そして、少なくとも1つの凸部76の凸面76aの端部76a1を除いた中央部76a2に溝72の底面72aに形成された表面処理層36が位置するように、加工前摺動部品70の一面を切除する。これにより、凸面76aの中央部76a2には表面処理層36が形成され、凸面76aの端部76a1には表面処理が施されていない母材40が露出する母材露出部40aが形成される。すなわち、加工後の凸面76aは、上述した回転機械用摺動部品の摺動面34に該当する。
【0056】
このような構成によれば、上述した回転機械用摺動部品(羽根車16、バランススリーブ28、ライナリング24、中間ブシュ25、バランスブシュ26、及びリング状部材27)を製造することができる。この際、一実施形態に係る回転機械用摺動部品の製造方法は、上述した表面処理工程(S14)及び切除工程(S16)を含むため、摺動面34の端部にマスキングなどを施さずとも、摺動面34の端部に表面処理が施されていない母材露出部40aを形成することが出来る。また、加工前摺動部品70の一面70aに溝72を加工し、溝72の底面72aを含む一面70aの所定の領域に対して表面処理を施した後に、加工前摺動部品70の一面70aを切除して少なくとも1つの凸部76を形成するため、予め凸部76が形成された加工前摺動部品70を準備する必要がなく、回転機械用摺動部品を容易に製造することができる。
【0057】
一実施形態では、溝加工工程(S12)では、準備工程(S10)で準備した加工前摺動部品70の一面70aに螺旋状に溝72を加工する。また、切除工程(S16)では、溝加工工程(S14)において形成された螺旋状の溝72の間を螺旋状に切除することで、螺旋状の凸部76を形成する。
このような構成によれば、螺旋状に延在するネジ溝44とネジ山46とが形成されたネジ溝領域42を含む対向面30を備える回転機械用摺動部品を容易に製造することができる。
【0058】
一実施形態では、表面処理工程(S14)における表面処理は、窒化処理である。
このような構成によれば、溶射、DCLコーティング、メッキ処理等のように、摺動面を形成する母材70の表面に新たに被膜層を形成する場合と違って、母材70の内部に剥離しにくい表面処理層36を形成できる。したがって、表面処理層36の剥離をさらに抑制しやすくなる。
【0059】
また、一実施形態に係る回転機械用摺動部品の製造方法は、切除工程(S16)にて形成された摺動面34の表面処理層36(窒化処理によって形成された表面処理層36)のうち、硬度1000Hv以上の硬化層78を除去する研磨工程S18をさらに備えても良い。研磨工程S18において、硬化層78を除去することで、必要以上に硬い硬化層78を有することで回転機械摺動部品が壊れやすくなることを防止しやすくなる。
【0060】
<第2の製造方法>
図8は、一実施形態に係る回転機械用摺動部品の製造方法を示すフローチャート図である。
図9は、一実施形態に係る回転機械用摺動部品の製造方法を工程準備示す模式図である。
【0061】
一実施形態に係る回転機械用摺動部品の製造方法は、回転機械の固定側または回転側のいずれか一方に支持される回転機械用摺動部品の製造方法であって、一面80aに凸部86が形成された加工前摺動部品80を準備する準備工程(S20)と、凸部86の端部861を除いた中央部862を凹状に加工する加工工程(S22)と、凹状に加工された凸部86の凸面86aに対して表面処理を施す表面処理工程(S24)と、凹状に加工された凸部86における端部861を切除する切除工程(S26)と、を備える。
【0062】
準備工程(S20)では、上述した回転機械用摺動部品である羽根車16、バランススリーブ28、ライナリング24、中間ブシュ25、バランスブシュ26、及びリング状部材27の少なくとも1つに対応する加工前摺動部品80を用意する。これらの回転機械用摺動部品は、他方側部品に対向して配置される対向面30を有し、対向面30の少なくとも一部に摺動面34が形成されている。加工前摺動部品80の一面80a(回転機械用摺動部品の対向面30に対応)には、凸部86が形成されている。
【0063】
加工工程(S22)では、凸部86の軸線X方向の両側の端部861を除いた中央部862を凹状に加工して凹部82を形成する。加工工程(S22)で加工される溝82の深さは、凸部86の高さよりも小さい。
【0064】
表面処理工程(S24)では、凹部82が形成された凸面86aに対して表面処理を施し、表面処理層36を形成する。この表面処理は、例えば、溶射、DCLコーティング、メッキ処理等によって、耐食性及び耐摩耗性を有する被膜を形成する方法や、あるいは窒化処理などによって、耐食性及び耐摩耗性を付与する方法で形成される。
【0065】
切除工程(S26)では、表面処理工程(S24)の後、凹部82の底面と面一となるように、凸部86の軸線X方向の両側の端部861を切除する。これにより、凸部86の中央部862には表面処理層36が形成され、凸部86の端部861には表面処理が施されていない母材40が露出する母材露出部40aが形成される。すなわち、加工後の凸面86aは、上述した回転機械用摺動部品の摺動面34に該当する。そして最後に、必要に応じて、摺動面34のバリ取りや研磨等の仕上げ加工を行う(仕上げ工程S28)。
【0066】
このような構成によれば、上述した回転機械用摺動部品(羽根車16、バランススリーブ28、ライナリング24、中間ブシュ25、バランスブシュ26、及びリング状部材27)を製造することができる。この際、一実施形態に係る回転機械用摺動部品の製造方法は、上述した表面処理工程(S24)及び切除工程(S26)を含んでいるため、摺動面34の端部にマスキングなどを施さずとも、摺動面34の端部に表面処理が施されていない母材露出部40aを形成することが出来る。また、一面に凸部86が形成された加工前摺動部品80の凸部86を凹状に加工し、凸面86aに対して表面処理を施した後に、凸部86における両端部861を切除するため、母材40を切除する量を少なくして回転機械用摺動部品を製造することができる。
【0067】
一実施形態では、表面処理工程(S24)における表面処理は、窒化処理である。
このような構成によれば、溶射、DCLコーティング、メッキ処理等のように、摺動面34を形成する母材70の表面に新たに被膜層を形成する場合と違って、母材70の内部に剥離しにくい表面処理層36を形成できる。したがって、表面処理層36の剥離をさらに抑制しやすくなる。
【0068】
ここで表面処理として窒化処理を行う場合、必要に応じて、窒化防止処理を行う。窒化防止工程(S23)では、凸部86の両側の端部861及び溝82の底面をマスキングテープ90でマスキングし、これら以外の部分(特に端部861近傍の側面)に窒化防止剤92を塗布する。これによって、後工程の表面処理工程(S24)で、窒化処理層36が凸部86の端部861にまで拡散形成されるのを抑制できる。
【0069】
<まとめ>
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0070】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械用摺動部品は、
回転機械の固定側または回転側のいずれか一方に支持される回転機械用摺動部品であって、
前記回転機械の前記固定側または前記回転側のいずれか他方に支持される他方側部品に対向して配置される対向面30と、
前記対向面30の少なくとも一部に形成され前記他方側部品に対して摺動するように構成された摺動面34と、
前記摺動面34に対して表面処理が施されることで形成された表面処理層36と、を備え、
前記摺動面34の端部34aには、前記表面処理が施されていない母材40が露出する母材露出部40aが形成されている。
【0071】
上記(1)の構成によれば、回転機械用摺動部品の摺動面34は表面処理が施されることで形成された表面処理層36を有し、端部34aには、表面処理が施されていない母材40が露出する母材露出部40aが形成されている。このように、表面処理層36が剥離し易い端部に表面処理が施されていない母材露出部40aを形成することで、端部34aでの表面処理層36の剥離に起因した剥離部分の広がりを回避でき、これによって、表面処理層36の寿命を向上できる。従って、回転機械用摺動部品を備える回転機械の耐久性を向上できる。
【0072】
(2)いくつかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記母材露出部40aは、前記母材40の一部が切削された切削面からなる。
【0073】
上記(2)の構成によれば、母材露出部40aは、母材40の一部が切削された切削面からなるので、母材露出部40aを形成するのが容易になる。また、摺動面34から所定の深さまで表面処理層36が形成されるような表面処理の場合でも、形成された表面処理層36を切削することで、容易に母材露出部40aを形成できる。
【0074】
(3)本発明の少なくとも一実施形態に回転機械用摺動部品は、
回転機械の固定側または回転側のいずれか一方に支持される回転機械用摺動部品であって、
前記回転機械の前記固定側または前記回転側のいずれか他方に支持される他方側部品に対向して配置される対向面30と、
前記対向面30の少なくとも一部に形成され前記他方側部品に対して摺動するように構成された摺動面34と、
前記摺動面34の全体に亘って表面処理が施されることで形成された表面処理層36と、を備え、
前記摺動面34は、面取り処理が施されることで形成された端部34aを含む。
【0075】
上記(3)の構成によれば、回転機械用摺動部品は、摺動面の全体に亘って表面処理が施されることで形成された表面処理層36と、面取り処理が施されることで形成された端部34aを含む。このように、表面処理層36が剥離し易い端部34aに面取り処理を施すことで、端部での表面処理層36の剥離に起因した剥離部分の広がりを回避でき、これによって、表面処理層36の寿命を向上できる。従って、回転機械用摺動部品を備える回転機械の耐久性を向上できる。
【0076】
(4)いくつかの実施形態では、上記(3)の構成において、前記摺動面34の端部34aがR面取り形状である。
【0077】
上記(4)の構成によれば、摺動面34の端部34aがR面取り形状であるため、端部34aでの表面処理層36の剥離をより抑制することができる。
【0078】
(5)いくつかの実施形態では、上記(3)乃至(4)の構成において、
前記端部34aの面取り寸法の大きさをC、
前記摺動面34の幅寸法の大きさをDとした場合に、
C/Dが0.100以上、且つ0.250以下である。
【0079】
上記(5)の構成によれば、C/Dが0.100以上のため、所定以上の大きさを有する面取り処理を施された端部34aを確保できる。そのため、摺動面34の端部34aでの表面処理層36の剥離を抑制しやすくなる。また、C/Dが0.250以下のため、面取り処理が施されていない摺動面34の大きさを確保できる。そのため、摺動面34のシール性能を維持しやすくなる。
【0080】
(6)いくつかの実施形態では、上記(1)乃至(5)の構成において、
前記表面処理は、窒化処理である。
【0081】
上記(6)の構成によれば、表面処理は、窒化処理である。そのため、溶射、DCLコーティング、メッキ処理等のように、摺動面34を形成する母材40の表面に新たに被膜層を形成する場合と違って、母材40の表面だけでなくその内部にも剥離しにくい表面処理層36を形成できる。したがって、表面処理層36の剥離をさらに抑制しやすくなる。
【0082】
(7)いくつかの実施形態では、上記(1)乃至(6)の構成において、
前記回転機械用摺動部品を備えた回転機械である。
【0083】
上記(7)の構成によれば、寿命が向上した回転機械用摺動部品を備えるため、回転機械の耐久性が向上し、稼働時間を長くすることができる。
【0084】
(8)本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械は、
回転機械の固定側または回転側のいずれか一方に形成される摺動部を有する回転機械であって、
前記摺動部は、
前記回転機械の前記固定側または前記回転側のいずれか他方に支持される他方側部品に対向して配置される対向面30と、
前記対向面30の少なくとも一部に形成され前記他方側部品に対して摺動するように構成された摺動面34と、
前記摺動面34に対して表面処理が施されることで形成された表面処理層36と、を備え、
前記摺動面34の端部34aには、前記表面処理が施されていない母材40が露出する母材露出部40aが形成されている。
【0085】
上記(8)の構成によれば、摺動面に対して表面処理が施されることで形成された表面処理層36と、摺動面34の端部34aには、表面処理が施されていない母材40が露出する母材露出部40aが形成されている。このように、表面処理層36が剥離し易い端部34aに表面処理が施されていない母材露出部40aを形成することで、端部34aでの表面処理層36の剥離に起因した剥離部分の広がりを回避でき、これによって、表面処理層36の寿命を向上できる。従って、回転機械の耐久性を向上できる。
【0086】
(9)本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械は、
回転機械の固定側または回転側のいずれか一方に形成される摺動部を有する回転機械であって、
前記摺動部は、
前記回転機械の前記固定側または前記回転側のいずれか他方に支持される他方側部品に対向して配置される対向面30と、
前記対向面30の少なくとも一部に形成され前記他方側部品に対して摺動するように構成された摺動面34と、
前記摺動面34の全体に亘って表面処理が施されることで形成された表面処理層36と、を備え、
前記摺動面34は、面取り処理が施されることで形成された端部34aを含む。
【0087】
上記(9)の構成によれば、摺動面34の全体に亘って表面処理が施されることで形成された表面処理層36と、面取り処理が施されることで形成された端部34aを含む。このように、表面処理層36が剥離し易い端部に面取り処理を施すことで、端部34aでの表面処理層36の剥離に起因した剥離部分の広がりを回避でき、これによって、表面処理層36の寿命を向上できる。従って、回転機械の耐久性を向上できる。
【0088】
(10)本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械用摺動部品の製造方法は、
回転機械の固定側または回転側のいずれか一方に支持される回転機械用摺動部品の製造方法であって、
加工前摺動部品70の一面に溝72を加工する溝加工工程(S12)と、
前記加工前摺動部品70の前記溝72の底面72aを含む前記一面の所定の領域に対して表面処理を施す表面処理工程(S14)と、
前記加工前摺動部品70の前記一面を切除して少なくとも1つの凸部76を形成する切除工程S16であって、前記少なくとも1つの凸部76の凸面76aの端部76a1を除いた中央部76a2に前記溝72の前記底面72aに形成された表面処理層36が位置するように、前記加工前摺動部品70の前記一面を切除する切除工程(S16)と、
を備える。
【0089】
上記(10)の構成によれば、上記(1)に記載の回転機械用摺動部品を製造することができる。この際、一実施形態に係る回転機械用摺動部品の製造方法は、上述した表面処理工程(S14)及び切除工程(S16)を含むため、摺動面34の端部34aにマスキングなどを施さずとも、摺動面34の端部34aに表面処理が施されていない母材露出部40aを形成することが出来る。また、加工前摺動部品70の一面に溝72を加工し、溝72の底面72aを含む一面の所定の領域に対して表面処理を施した後に、加工前摺動部品70の一面を切除して少なくとも1つの凸部76を形成するため、予め凸部76が形成された加工前摺動部品70を準備する必要がなく、回転機械用摺動部品を容易に製造することができる。
【0090】
(11)いくつかの実施形態では、上記(10)の構成において、
前記表面処理工程(S14)は、窒化処理である。
【0091】
上記(11)の構成によれば、溶射、DCLコーティング、メッキ処理等のように、摺動面34を形成する母材40の表面に新たに被膜層を形成する場合と違って、母材40の内部に剥離しにくい表面処理層36を形成できる。したがって、表面処理層36の剥離をさらに抑制しやすくなる。
【0092】
(12)いくつかの実施形態では、上記(11)に記載の構成において、
前記切除工程(S16)の後に、前記表面処理層36のうち、硬度1000Hv以上の硬化層78を除去する研磨工程S18をさらに備える。
【0093】
上記(12)の構成によれば、前記表面処理層36のうち、硬度1000Hv以上の硬化層78を除去する研磨工程(S18)を備える。このため、必要以上に硬い硬化層78を有することで回転機械摺動部品が壊れやすくなることを防止しやすくなる。
【0094】
(13)本発明の少なくとも一実施形態に係る回転機械用摺動部品の製造方法は、
回転機械の固定側または回転側のいずれか一方に支持される回転機械用摺動部品の製造方法であって、
一面に凸部86が形成された加工前摺動部品80に対し、前記凸部86の端部861を除いた中央部862を凹状に加工する加工工程(S22)と、
前記凹状に加工された前記凸部86の凸面86aに対して表面処理を施す表面処理工程(S24)と、
前記凹状に加工された前記凸部86における前記端部861を切除する切除工程(S26)と、
を備える。
【0095】
上記(13)の構成によれば、上記(1)に記載の回転機械用摺動部品を製造することができる。この際、一実施形態に係る回転機械用摺動部品の製造方法は、上述した表面処理工程(S24)及び切除工程を含んでいるため、摺動面34の端部34aにマスキングなどを施さずとも、摺動面34の端部34aに表面処理が施されていない母材露出部40aを形成することが出来る。また、一面に凸部76が形成された加工前摺動部品80の凸部76を凹状に加工し、凸面76aに対して表面処理を施した後に、凸面76aにおける両端部76a1を切除するため、母材40を切除する量を少なくして回転機械用摺動部品を製造することができる。
【0096】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0097】
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【符号の説明】
【0098】
10(10A、10B) 遠心ポンプ
12 内部ケーシング
12a 内周面
14 主軸
16 羽根車
16a シュラウド端部
16b 外周面
16c 外周面
16A シュラウド部
16B ハブ部
16C スリーブ部
18 翼
24 ライナリング
24a 対向面
25 中間ブシュ
26 バランスブシュ
27 リング状部材
28 バランススリーブ
28a 外周面
30 対向面
34 摺動面
34a 端部
34a1 角溝端部
34a2 面取り端部
36 表面処理層
40 母材
40a 母材露出部(端部)
42 ネジ溝領域
44 ネジ溝
46 ネジ山
70 加工前摺動部品
72 溝
72a (溝の)底面
76 凸部
76a 凸面
76a1 (凸面の)端部
76a2 (凸面の)中央部
78 硬化層
80 加工前摺動部品
82 凹部
86 凸部
86a 凸面
861 端部
862 中央部
90 マスキングテープ
92 窒化防止剤