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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148051
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】測位装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/43 20100101AFI20220929BHJP
   G01S 19/28 20100101ALI20220929BHJP
   G01C 21/28 20060101ALI20220929BHJP
   G01S 19/22 20100101ALN20220929BHJP
【FI】
G01S19/43
G01S19/28
G01C21/28
G01S19/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049577
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】521124009
【氏名又は名称】ライドマティクステクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【弁理士】
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】田中 孔明
(72)【発明者】
【氏名】木谷 友哉
【テーマコード(参考)】
2F129
5J062
【Fターム(参考)】
2F129AA03
2F129AA08
2F129AA11
2F129BB03
2F129BB10
2F129BB12
2F129BB33
2F129BB64
2F129EE02
2F129GG17
5J062BB01
5J062BB02
5J062BB03
5J062BB05
5J062CC07
5J062DD22
5J062EE00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】周囲の環境に応じて、マルチパス波を適切に除外することで、精度の高いリアルタイムキネマティック測位を行うことが可能な測位装置を提供すること。
【解決手段】位置が既知である固定局10と位置を求めるべき移動局20とで複数の測位用衛星2からの電波をそれぞれ受信して、測位用衛星2から両局の受信点までの位相差に基づいて前記移動局の位置をリアルタイムキネマティック測位する測位装置1である。測位装置1は、測位用衛星2の信号の受信強度を測定する受信強度測定部21と、周囲の環境に応じて、当該環境毎に前記受信強度の受信強度閾値を設定する閾値設定部24と、前記受信強度閾値未満の受信した信号を除外する測位演算部25とを有している。測位装置1は、環境取得部23を有し、周囲の環境を取得することができる。測位装置1は、閾値設定部24において仰角閾値を設定でき、仰角閾値未満の測位用衛星2を除外することができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置が既知である固定局と位置を求めるべき移動局とで複数の測位用衛星からの電波をそれぞれ受信して、複数の前記測位用衛星から両局の受信点までのキャリア位相の二重位相差を求め、当該二重位相差に基づいて前記移動局の位置をリアルタイムキネマティック測位する測位装置であって、
複数の前記測位用衛星から送信された信号の受信強度を測定する受信強度測定部と、
周囲の環境に応じて、当該環境毎に前記受信強度の受信強度閾値を設定する閾値設定部と、
前記受信強度閾値未満の受信した前記信号を除外する測位演算部と、を有しており、
前記移動局が、前記環境を取得する環境取得部を有すること、を特徴とする測位装置。
【請求項2】
前記閾値設定部が、複数の前記測位用衛星の仰角を算出し、当該仰角に基づいて前記周囲の環境毎に複数の仰角閾値を設定することが可能であり、
前記測位演算部が、前記仰角閾値未満の前記仰角を有する前記測位用衛星を除外して、測位演算を行うこと、を特徴とする請求項1に記載の測位装置。
【請求項3】
前記環境取得部が、カメラ、赤外線センサ、ナビゲーションシステムにおけるマップ情報の少なくとも1つ又は複数の組み合わせにより前記環境における材質情報を取得すること、を特徴とする請求項2に記載の測位装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測位用衛星から送信される信号を受信して、測位を行う測位装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、GPS衛星などの測位用衛星から送信される信号を受信して、前記測位用衛星からの距離を測定することで、位置を算出する単独測位(GPSとも称する)が行われている。上述したGPSの技術は、近年、ドローンや自動車の走行など、各種の用途に利用されている。
【0003】
しかしながら、GPSでは、測位誤差が数メートル~数十メートル程度あり、ドローンの飛行や自動車の走行を精度良く行うには問題が生じている。そこで、測位精度を高めるべく、固定局と移動局とに設けた2つの受信機により、測位用衛星(単に衛星とも称する)から送信される信号を受信して測位を行うリアルタイムキネマティック測位(RTK-GNSSとも称する)が利用されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
ところで、GPSを用いる測位では、衛星から送信される信号の直接波以外に、建物などにより反射したマルチパス波が受信機で受信される場合がある。当該マルチパス波が受信された場合、衛星から受信機に受信されるまでの距離が実際の距離とは異なるため、測位誤差が大きくなる問題がある。
【0005】
そのため、特許文献1の発明に係る測位方法は、各衛星の仰角を計算すると共に各衛星から送信された信号の受信強度を測定し、前記衛星毎に、受信強度と仰角が低くなるに応じて高くなる閾値に基づいて、測位演算の対象となる衛星から除外すべき衛星を特定するようにしている。これにより、マルチパス波が除外され、測位精度が向上するものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019―219188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1の発明に係る測位方法は、受信強度が弱い信号をマルチパス波として除外すると共に、一定の仰角以下の衛星を除外するものである。そのため、周囲の環境によっては、減衰せずに届いたマルチパス波が強い信号として受信されることがある。かかる場合は、直接波であるのか、マルチパス波であるのかが、受信強度から判断できない問題がある。従って、測位精度が低下する問題がある。
【0008】
かかる知見に基づき、本発明は、周囲の環境に応じて、マルチパス波を適切に除外することで、精度の高い測位を行うことが可能な測位装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上述した課題を解決すべく提供される本発明の測位装置は、位置が既知である固定局と位置を求めるべき移動局とで複数の測位用衛星からの電波をそれぞれ受信して、複数の前記測位用衛星から両局の受信点までのキャリア位相の二重位相差を求め、当該二重位相差に基づいて前記移動局の位置をリアルタイムキネマティック測位する測位装置であって、複数の前記測位用衛星から送信された信号の受信強度を測定する受信強度測定部と、周囲の環境に応じて、当該環境毎に前記受信強度の受信強度閾値を設定する閾値設定部と、前記受信強度閾値未満の受信した前記信号を除外する測位演算部と、を有すること、を特徴とするものである。
【0010】
上述した測位装置は、位置が既知である固定局における受信点までのキャリア位相と、位置を求めるべき移動局における受信点までのキャリア位相との二重位相差により、リアルタイムキネマティック測位(RTK-GNSSとも称する)を行って、移動局の位置を正確に測位することができる。また、上述した測位装置は、周囲の環境に応じて、受信した信号の受信強度閾値を設定することができ、当該受信強度閾値未満の信号を除外することが可能である。これにより、周囲の環境毎にマルチパス波を適切に除外することができ、精度の良い測位演算をすることができる。
【0011】
ここで、周囲の環境は、例えば、市街地のような鉄筋建てのビルが多い地域では、鉄などの金属系の反射材が多い地域(マルチパス波の多い地域)と設定でき、例えば、街路樹が多い地域や山間地域では、木材が多い地域(信号の吸収による減衰が大きい地域)と設定できる。これらの他、周囲の環境として、例えば、通常地域(周囲に遮蔽物が少ない野原のような地域)などの設定を行うことができる。
【0012】
(2)上述した本発明の測位装置は、前記閾値設定部が、複数の前記測位用衛星の仰角を算出し、当該仰角に基づいて前記周囲の環境毎に複数の仰角閾値を設定することが可能であり、前記測位演算部が、前記仰角閾値未満の前記仰角を有する前記測位用衛星を除外して、測位演算を行うと良い。
【0013】
かかる構成によれば、周囲の環境に応じて、適切な仰角閾値を設定することができる。これにより、周囲の環境に応じて、マルチパス波の多い仰角にある測位用衛星を除外することができる。そのため、精度の良い測位演算を行うことができる。
【0014】
(3)上述した本発明の測位装置は、前記移動局が、前記環境を取得する環境取得部を有すると良い。
【0015】
かかる構成によれば、移動局が、環境取得部により、周囲の環境を取得することができる。そのため、移動局の移動に合わせてリアルタイムに周囲の環境を取得して、当該環境に応じてリアルタイムに測位演算を行うことができる。これにより、経時的に変化していく周囲の環境に合わせて、精度の良い測位演算を行うことが可能である。
【0016】
(4)上述した本発明の測位装置は、前記環境取得部が、カメラ、赤外線センサ、ナビゲーションシステムにおけるマップ情報の少なくとも1つ又は複数の組み合わせにより前記環境における材質情報を取得すると良い。
【0017】
かかる構成によれば、カメラ、赤外線センサ、マップ情報により、周囲の環境の情報を適切に取得することができる。例えば、カメラや赤外線センサにより、周囲が開けた環境にあるかや、市街地でビルなどの建物が多い環境にあるかなどの情報を精度良く取得することが可能である。また、マップ情報を用いることで、周囲の環境が、山間地域や市街地にあるかなどを判断する基準として役立てることが期待できる。これにより、例えば、周囲の環境が山間地域にある場合には、木材のある地域として判断し、周囲の環境が鉄筋建てのビルが多い地域にある場合には、周囲に鉄などの金属系の反射物が多いと判断するといった判断基準として利用することが可能である。
【0018】
(5)上述した本発明の整備点検情報管理システムは、前記閾値設定部において設定された受信強度閾値に基づいて、前記環境における材質情報が特定されると良い。
【0019】
かかる構成によれば、環境情報を取得しない場合であっても、設定された受信強度閾値に基づいて、周囲の環境に応じた精度の良い測位演算を行うことが可能である。
【0020】
(6)上述した本発明の測位装置は、前記閾値設定部において、設定された前記受信強度閾値及び前記仰角閾値のいずれか一方又は双方に基づいて、前記環境における材質情報が特定されると良い。
【0021】
かかる構成によれば、環境情報を取得しない場合であっても、周囲の環境に応じた精度の良い測位演算を行うことが期待できる。また、受信強度閾値及び仰角閾値の双方を用いることにより、周囲の環境における材質情報をより一層正確に特定することができる。これにより、精度の良い測位演算を行うことが可能である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、周囲の環境に応じて、マルチパス波を適切に除外することで、精度の高い測位を行うことが可能な測位装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る測位装置の一実施形態を表す概略イメージ図である。
図2】本発明に係る測位装置の第一実施形態を表す構成図である。
図3】本発明に係る測位装置の第一実施形態における環境取得及び閾値設定に関する動作フロー図である。
図4図3の続きに関するフロー図である。
図5】本発明に係る測位装置の第二実施形態を表す動作フロー図である。
図6】周囲の環境特性を環境毎に表した比較表である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
≪第一実施形態≫
本発明に係る測位装置1の第一実施形態について、図1及び図2を参照しながら以下に詳細を説明する。
【0025】
図1に示すように、測位装置1は、位置が既知である固定局10と、位置を求めるべき移動局20等を備えている。固定局10は、測位用衛星2から送信される電波の信号(キャリア波とも称する)を受信することができる。ここで、測位用衛星2は、複数設けられたGPS衛星から構成されるものである。移動局20は、本実施形態では、自動車に搭載される受信機から構成されている。移動局20は、測位用衛星2から送信される信号を受信することができる。固定局10と移動局20とは、互いに通信して、各種の情報を伝達することができる。移動局20は、自動車だけではなく、鉄道、ドローン、農機具、搬送装置など、各種のものに適用することができる。
【0026】
図2に示すように、固定局10は、測位用衛星2からの信号を受信する受信部11と、前記信号を測位する測位演算部12と、固定局側通信部13等を備えている。受信部11は、受信点の基準となるものであり、例えば、GPSアンテナにより構成されている。受信部11は、測位用衛星2から送信される信号を受信することができる。また、受信部11で受信された信号は、後述する測位演算部12で演算可能なデータ(例えば、デジタルデータ)に変換される。
【0027】
測位演算部12は、CPU等から構成されており、受信した信号の解析や補正データの算出など各種の演算を行うことができる。測位演算部12は、受信した信号を演算し、キャリア位相を求める。また、測位演算部12は、複数の測位用衛星2に対する疑似距離の補正データを求める。
【0028】
固定局側通信部13は、後述する移動局側通信部26と、例えば、無線LANで接続され、移動局側通信部26と情報の伝達を行うことができる。固定局側通信部13は、前記補正位置情報を送信する。
【0029】
移動局20は、測位用衛星2から送信される電波の信号を受信する受信部21と、受信した信号の受信強度を測定する受信強度測定部22等を備えている。また、移動局20は、前記の他、周囲の環境を取得する環境取得部23と、閾値設定部24と、測位演算部25と、移動局側通信部26等を備えている。
【0030】
受信部21は、移動局20における受信点の基準となるものであり、例えば、GPSアンテナにより構成されている。受信部21は、測位用衛星2から送信される電波の信号を受信することができる。受信部21に搭載されるGPSアンテナは、移動や搭載が容易なように、小型のものを用いると良い。受信部21で受信された信号は、後述する測位演算部25で演算が可能なデータ(例えば、デジタルデータ)に変換される。
【0031】
受信強度測定部22は、測位用衛星2から受信した信号の受信強度をSNR値(信号対雑音の比)として求めることができる。
【0032】
環境取得部23は、移動局20における周囲の環境を取得するものである。環境取得部23は、例えば、カメラ、赤外線センサ、ナビゲーションシステムにおけるマップ情報の少なくとも1つ又は複数の組み合わせにより、周囲の環境を取得することができる。取得された周囲の環境は、画像解析やマップ情報などから、例えば、野原などの周囲が開けた地域(通常地域とも称する)、市街地などの鉄筋建ての建物が多い地域、街路樹や森林などの木材が多い地域、樹脂材が多い地域などに分類される。なお、上記分類は、後述する測位演算部25で行っても良い。
【0033】
次に、上述のように分類される環境毎の特性について、図6に基づいて説明する。図6は、本発明の発明者等が事前に行った検証実験に基づく測定結果を比較表としてまとめたものである。
【0034】
比較表における測定は、環境毎に用意された4つの受信機を、同一車両の屋根上に並べて配置し、それぞれの受信機で測位用衛星2からの信号を受信することにより行った。また、周囲の環境は、ノーマル(基準)、樹脂(アクリル)、木材(ベニヤ板)、鉄を設定している。また、それぞれの環境(ノーマルを除く)は、それぞれの素材で形成された20cm×20cmの板材4枚で、それぞれの受信機の周囲(上下面を除く)を囲うことにより形成した。また、測位用衛星2は、低い仰角(20°以下)に位置するものを除外した。これは、水平線に近い測位用衛星2は、信号が山やビルで遮蔽されやすいためである。
【0035】
環境毎の特性としては、FIX率(%)、正しい位置でのFIXの成否、信号のSNR値が35db以下の割合(%)、信号のSNR値が45db以下の割合(%)を求めた。FIX率は、正しい位置(受信機の設置位置)で測位できたものの比率であり、FIXの成否は、正しい位置で測位できたかの成否である。
【0036】
検証結果では、木材であれば、信号が吸収されると考えられ、SNR値において35db以下の信号の割合が増大している。また、木材では、FIX位置にばらつきがあり、正しい位置でのFIXが失敗する場合がある。また、鉄であれば、信号の反射による強いマルチパス波が増大すると考えられ、45db以上の信号の割合が増大している。また、鉄は、直接波と重なる強いマルチパス波の影響により、正しい位置でFIXすることができていない。上述した検証結果のように、受信信号は、周囲の環境に依存して、受信強度が変化する。なお、検証結果の項目は、測位用衛星2の仰角情報を含んでいても良い。
【0037】
図2に示すように、閾値設定部24は、環境取得部23で取得された周囲の環境毎に受信強度閾値を設定することができる。また、閾値設定部24は、周囲の環境毎に、測位用衛星2における仰角閾値を設定することができる。ここで、受信強度閾値や仰角閾値は、例えば、通常地域では、ノーマルのデータに基づいて設定でき、樹脂材が多い地域では、樹脂材のデータに基づいて設定することができる。また、例えば、街路樹の多い地域や山間地域(森林)では、木材のデータに基づいて受信強度閾値や仰角閾値を設定でき、鉄筋建てのビル等が多い市街地では、鉄のデータに基づいて受信強度閾値や仰角閾値を設定できる。
【0038】
ここで、通常地域であれば、信号を反射したり、吸収したりするものが、少なくマルチパス波が少ないと考えられるため、ノイズ(雑音)を除去すべく、受信強度閾値(例えば、SNR値35db)が設定される。また、受信強度が低い仰角(例えば仰角25°)が仰角閾値として設定される。
【0039】
また、鉄筋建てのような鉄が多い地域では、反射による強いマルチパス波が多く発生すると考えられるため、それに応じた受信強度閾値が設定される。また、鉄における環境に応じて、受信強度が低い仰角が仰角閾値として設定される。
【0040】
また、街路樹(木材)が多い地域等であれば、木材により信号が吸収されて弱められたマルチパス波が増大すると考えられるため、それに応じた受信強度閾値が設定される。また、木材における環境に応じて、受信強度が低い仰角が仰角閾値として設定され、仰角閾値未満の測位用衛星2が除外される。
【0041】
また、樹脂が多い地域では、信号が樹脂を透過するためマルチパス波が少ないと考えられる。そのため、樹脂における環境に応じた受信強度閾値が設定される。また、樹脂における環境に応じて、受信強度が低い仰角が仰角閾値として設定される。以上のように、閾値設定部24は、周囲の環境に応じて、環境毎に受信強度閾値や仰角閾値を設定することができる。なお、閾値設定部24による受信強度閾値及び仰角閾値の設定は、双方を行うものだけではなく、いずれか一方を行うものでも良い。また、受信強度閾値を上げ過ぎると必要な信号も除去されるため、適宜、仰角閾値とのバランスにより、それぞれの閾値を決定すれば良い。
【0042】
図2に示すように、測位演算部25(本発明の測位演算部に相当)は、CPU等で構成され、受信した信号の解析など各種の演算を行うことができる。また、測位演算部25は、受信した信号からキャリア位相を求める。また、測位演算部25は、環境毎に閾値設定部24で設定された受信強度閾値に基づいて、受信強度閾値未満の信号を除外して測位演算を行うことができる。また測位演算部25は、環境毎に閾値設定部24で設定された仰角閾値に基づいて、仰角閾値未満の測位用衛星2の信号を除外して測位演算を行うことができる。測位演算部25における測位演算は、受信強度閾値及び仰角閾値のいずれか一方又は双方を用いて行えば良い。
【0043】
測位演算部25は、移動局20の受信部21で受信した信号の一重位相差のデータと、固定局10で受信した信号の一重位相差のデータとから二重位相差を求める。測位演算部25は、求めた二重位相差により、リアルタイムキネマティック測位(RTK-GNSS測位とも称する)を行って、移動局20を測位する。
【0044】
測位演算部25での測位は、具体的には、次のように行われる。移動局20は、各測位用衛星2の固定局10における疑似距離データを後述する移動局側通信部26により取得する。測位演算部25は、固定局10における疑似距離データと、定数として予め設定されている固定局10の既知の位置情報とに基づいて、各測位用衛星2の疑似距離補正量を求める。
【0045】
続いて、移動局20で測定した各測位用衛星2の疑似距離に対して、前記疑似距離補正量分の補正を行って測位演算が行われる。当該測位演算に際して、上述した環境毎の受信強度閾値や仰角閾値による信号の除外や測位用衛星2の除外を反映させる。これにより、周囲の環境毎にマルチパス波を除外することができ、精度の良い測位演算をすることができる。また、仰角閾値を用いることにより、周囲の環境に応じて、マルチパス波の多い仰角にある測位用衛星を除外することができる。そのため、精度の良い測位演算を行うことができる。
【0046】
移動局側通信部26は、例えば、無線LANにより固定局側通信部13に接続され、固定局側通信部13とデータの送受信を行うことができる。移動局側通信部26は、固定局側通信部13から送信される疑似距離補正量を受信する。
【0047】
以上が、本発明の測位装置1の構成であり、次に、本発明の測位装置1における周囲の環境情報の取得と閾値設定部24における閾値の設定についての動作フローを図3及び図4に基づいて説明する。
【0048】
図3に示すように、測位が開始されると、環境取得部23による周囲の環境情報の取得が行われる(ステップS100)。取得された環境情報は、鉄筋が多い地域であるか否かが判断される(ステップS101)。
【0049】
ステップS101において、鉄筋が多い地域ではないと判断された場合は、木材が多い地域か否かが判断される(ステップS102)。ステップS102において、木材が多い地域ではないと判断された場合は、樹脂材が多い地域か否かが判断される(ステップS103)。
【0050】
ステップS103において、樹脂材が多い地域ではないと判断された場合は、通常地域における処理が実行される(ステップS104)。ステップS104では、受信強度閾値がa1dB未満の信号が除外される。また、仰角閾値がb1°未満の仰角を有する測位用衛星2が除外され、測位演算部25による測位演算が実行される。測位演算が実行されると、動作が終了又は、環境の取得に復帰する。
【0051】
ステップS101において、鉄筋が多い地域であると判断された場合は、図4に示す、ステップ105において、受信強度閾値がa2dB未満の信号が除外される。また、仰角閾値がb2°未満の仰角を有する測位用衛星2が除外され、測位演算部25による測位演算が実行される。
【0052】
ステップS102において、木材が多い地域であると判断された場合は、図4に示す、ステップ106において、受信強度閾値がa3dB未満の信号が除外される。また、仰角閾値がb3°未満の仰角を有する測位用衛星2が除外され、測位演算部25による測位演算が実行される。
【0053】
ステップS103において、樹脂材が多い地域であると判断された場合は、図4に示す、ステップ107において、受信強度閾値がa4dB未満の信号が除外される。また、仰角閾値がb4°未満の仰角を有する測位用衛星2が除外され、測位演算部25による測位演算が実行される。なお、上述した受信強度閾値a1~a4や仰角閾値b1~b4の値は、それぞれ異なる場合と同一の場合とがあることに留意されたい。
【0054】
以上が、本発明の測位装置1の第一実施形態であり、続いて、第一実施形態における環境取得部23を廃した第二実施形態について、以下に説明する。なお、第二実施形態では、環境取得部23以外の構成については、第一実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0055】
≪第二実施形態≫
第二実施形態は、測位をリアルタイムに行いながら、閾値設定部24にて設定された受信強度閾値に基づいて、周囲の環境における材質情報を特定することができる。また、同様に閾値設定部24にて設定された仰角閾値に基づいて、周囲の環境における材質情報を特定することができる。従って、環境取得部23を設けなくても、周囲の環境を特定することが可能である。なお、材質情報は、受信強度閾値及び仰角閾値のいずれか一方又は双方に基づいて、特定すれば良い。また、環境取得部23が設けられている場合は、環境取得部23の動作を停止させると良い。
【0056】
第二実施形態における測位装置1の動作フローについて、図5に基づいて以下に説明する。測位動作の計測が開始されると、SNR値及び仰角の制限なしでの計測が実行される(ステップS200)。続いて、FIX(正しい位置の測位)ができたか否かが判断される(ステップS201)。ステップS201において、FIXできた場合は、現状の計測条件を維持する(ステップS213)。
【0057】
ステップS201において、FIXできなかった場合は、SNR値の低いものの割合が多いか否かが判断される(ステップS202)。ステップS202において、SNR値の低いものの割合が少ないと判断された場合は、仰角を制限する(ステップS203)。
【0058】
続いて、FIXできたか否かが判断される(ステップS204)。ステップS204において、FIXできた場合は、ステップ213において、現状の計測条件を維持する。また、ステップS204において、FIXできなかった場合は、SNR値の閾値(受信強度閾値)以下を除去する(ステップS205)。
【0059】
ステップS205が実行されると、FIXできたか否かが判断される(ステップS206)。ステップS206において、FIXできた場合は、計測SNR値に変化があるか否かが判断される(ステップS207)。ステップS206において、FIXできなかった場合は、他のセンサの優位度を上げる(ステップS214)。ステップS214が実行されると、計測処理が終了又はステップS200からの計測処理が繰り返し実行される。
【0060】
ステップS207において、計測SNR値に変化がない場合は、ステップS213にて、現状の計測条件が維持される。また、ステップS213の処理が実行されると、処理がステップS201に戻る。
【0061】
ステップ202において、SNR値の低いものの割合が多い場合は、SNR値の閾値(受信強度閾値)以下を除去する(ステップS208)。続いて、FIXできたか否かが判断される(ステップS209)。ステップS209において、FIXできた場合は、上述のステップS213において、現状の計測条件が維持される。
【0062】
ステップS209において、FIXできなかった場合は、仰角制限が行われる(ステップS210)。続いて、FIXできたか否かが判断される(ステップS211)。ステップS211において、FIXできなかった場合は、上述のステップS214において、他のセンサの優位度を上げる。
【0063】
ステップS211において、FIXできた場合は、計測SNR値に変化があるか否かが判断される(ステップS212)。ステップS212において、計測SNR値に変化がある場合は、ステップS200に処理が戻り、上述の処理が繰り返し行われる。
【0064】
ステップS212において、計測SNR値に変化がない場合は、ステップS213において、現状の計測条件が維持され、ステップS202の処理に戻る。以上が、第二実施形態における測位装置1の動作フローである。上述したように第二実施形態では、環境取得部23により周囲の環境を取得しない場合であっても、受信強度閾値及び仰角閾値のいずれか一方又は双方に基づいて、周囲の環境に応じた測位をすることができる。従って、環境情報をリアルタイムに取得しない場合であっても、周囲の環境に応じた精度の良い測位演算を行うことができる。また、受信強度閾値及び仰角閾値の双方を用いることにより、周囲の環境をより一層正確に判断しながら測位することができる。これにより、正確な測位演算を行うことが可能である。なお、第二実施形態において、受信強度閾値や仰角閾値を用いて、具体的に周囲の環境の材質情報を特定するようにしても良い。
【0065】
以上が、本発明に係る測位装置1の実施形態であるが、本発明の測位装置1は、上述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形を行うことができる。
【0066】
本実施形態では、移動局20に、受信強度測定部22、閾値設定部24、測位演算部25を配置しているが、これらは、固定局10又は移動局20のいずれに配置しても良い。また、固定局10の測位演算部12は、移動局20に配置されていても良い。なお、測位演算部25は、測位演算部12と共用するようにしても良い。また、本実施形態では、リアルタイムキネマティック測位を用いて測位しているが、リアルタイムキネマティック測位に類する各種の測位手段に適用することができる。
【0067】
また、本実施形態では、周囲の環境として、通常地域(ノーマル)、樹脂材の多い地域、木材の多い地域、鉄筋が多い地域を例示したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、各種の環境に応じたものとすることができる。例えば、土砂が多い地域や降雨地域などの各種の環境に応じたものとすることができる。
【0068】
また、測位用衛星の数は、測位が可能な範囲で適宜変更でき、測位する測位用衛星も任意のものとすることができる。また、受信強度測定部には、各種の測定機器を使用することができる。本実施形態では、受信強度の測定にSNR値を用いるようにしたが、受信強度の測定が行えるものであれば、各種のものを用いることができる。
【0069】
また、受信強度閾値は、上述した実施形態のものだけではなく、周囲の環境に応じて、各種の閾値を採用することができる。また、本実施形態では、測位演算部において、受信強度閾値未満の受信した信号を除外するようにしているが、除外する範囲は、受信強度閾値の設定により、変更することが可能である。例えば、受信強度閾値以下のものとしたり、受信強度閾値が範囲を持つものとしたりしても良い。
【0070】
また、前記閾値設定部は、周囲の環境に応じて、各種の閾値を採用することができる。また、本実施形態では、測位演算部において、仰角閾値未満の仰角を有する測位用衛星を除外するようにしているが、除外する範囲は、仰角閾値の設定により、変更することが可能である。例えば、仰角閾値以下のものとしたり、受信強度閾値が範囲を持つものとしたりしても良い。
【0071】
本実施形態では、固定局10と移動局20との双方に測位演算部を設けているが、測位演算部は、固定局10又は移動局20の一方に設けるようにしても良い。また、本実施形態では、測位演算部12,25をそれぞれ機能分けしているが、固定局10又は移動局20の一方側に設ける場合は、それぞれの機能を統合するようにすれば良い。なお、固定局10や移動局20に搭載される測位演算部は、単数のものだけではなく、複数のものであっても良い。測位演算部を複数設ける場合は、各種の機能毎に、測位演算部を分けて配置すれば良い。また、測位演算部は、測位演算以外の各種の演算を行うものであっても良い。
【0072】
本実施形態では、環境取得部23が、カメラ、赤外線センサ、ナビゲーションシステムにおけるマップ情報の少なくとも1つ又は複数の組み合わせにより環境における材質情報を取得するようにしているが、環境取得部23は、上述以外の各種の環境取得手段を採用することができる。
【0073】
以上が、本発明に係る測位装置1の各種の実施形態や変形例であるが、本発明は上述した実施形態や変形例において例示したものに限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲でその教示及び精神から他の実施形態があり得ることは当業者に容易に理解できよう。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の測位装置は、自動車、鉄道等の車両、ドローン、農機具、運送用車両、モバイル端末、ウエアラブル端末、各種のナビゲーションシステム等に搭載して利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 :測位装置
2 :測位用衛星
10 :固定局
11 :受信部
12 :測位演算部
13 :固定局側通信部
20 :移動局
21 :受信部
22 :受信強度測定部
23 :環境取得部
24 :閾値設定部
25 :測位演算部
26 :移動局側通信部
図1
図2
図3
図4
図5
図6