(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148052
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】密閉型ロータリ圧縮機及びこれを用いた冷蔵庫
(51)【国際特許分類】
F04C 29/02 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
F04C29/02 351A
F04C29/02 311B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049578
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野崎 務
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 和広
(72)【発明者】
【氏名】永田 修平
(72)【発明者】
【氏名】中村 考作
【テーマコード(参考)】
3H129
【Fターム(参考)】
3H129AA04
3H129AA13
3H129AA32
3H129AB03
3H129BB03
3H129BB05
3H129CC04
3H129CC25
3H129CC28
3H129CC33
3H129CC44
(57)【要約】
【課題】圧縮機構部から吐出された冷媒の全てを密閉容器内に吐出することなく、冷媒からの油分離が可能であり、圧縮機構部の摺動部への給油も差圧給油で行う。
【解決手段】密閉型ロータリ圧縮機は、密閉容器と、シリンダ、ローラ、クランク軸及びクランク軸を支持する軸受部を備える圧縮機構部と、前記シリンダ内に冷媒を吸入する吸入流路を備える。また、軸受部に設けられ、シリンダで圧縮された冷媒を吐出する吐出ポートと、吐出ポートを覆うように軸受部に設けられた吐出カバーと、軸受部と吐出カバーにより形成され、圧縮機構部で圧縮された冷媒が流入して冷媒と油を分離する気液分離室と、気液分離室で油が分離された冷媒を圧縮機外に吐出する吐出管と、気液分離室と密閉容器内を連通し、気液分離室で分離された油を密閉容器内に流出させる連通路を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油を貯留する油溜りを有する密閉容器と、
前記密閉容器内に設けられ、シリンダと、該シリンダ内で偏心回転するローラと、このローラを揺動させるクランク軸と、該クランク軸を支持する軸受部を備える圧縮機構部と、
前記圧縮機構部の前記シリンダ内に冷媒を吸入する吸入流路を備える密閉型ロータリ圧縮機であって、
前記軸受部に設けられ、前記シリンダで圧縮された冷媒を吐出する吐出ポートと、
前記吐出ポートを覆うように前記軸受部に設けられた吐出カバーと、
前記軸受部と前記吐出カバーにより形成され、前記圧縮機構部で圧縮された冷媒が流入して冷媒と油を分離する気液分離室と、
前記気液分離室で油が分離された冷媒を圧縮機外に吐出する吐出管と、
前記気液分離室と前記密閉容器内を連通し、前記気液分離室で分離された油を前記密閉容器内に流出させる連通路と、
を備えることを特徴とする密閉型ロータリ圧縮機。
【請求項2】
請求項1に記載の密閉型ロータリ圧縮機であって、前記軸受部は前記シリンダの上部に設けられた主軸受と前記シリンダの下部に設けられた副軸受を備え、
前記気液分離室は、前記主軸受に形成された前記吐出ポートを覆い且つ前記クランク軸の周囲を囲むように形成されていることを特徴とする密閉型ロータリ圧縮機。
【請求項3】
請求項2に記載の密閉型ロータリ圧縮機であって、前記連通路に設けられ、該連通路内の圧力と前記密閉容器内の圧力との圧力差により前記連通路を開閉する開閉装置を備えることを特徴とする密閉型ロータリ圧縮機。
【請求項4】
請求項3に記載の密閉型ロータリ圧縮機であって、前記開閉装置は、前記連通路内の圧力と前記密閉容器内の圧力との圧力差により前記連通路を開閉し、前記密閉容器内の前記潤滑油が貯留されている油溜りの圧力を、前記気液分離室から吐出される冷媒の吐出圧力と、前記吸入流路から吸入される冷媒の吸入圧力との間の圧力に制御するものであることを特徴とする密閉型ロータリ圧縮機。
【請求項5】
請求項4に記載の密閉型ロータリ圧縮機であって、前記開閉装置は、前記連通路に設けられた弁と、この弁を押圧する弾性体を有する弁機構で構成され、前記弁の上流側と下流側の差圧が一定値以上となった場合に前記弁が開くように前記弾性体の強さが決められていることを特徴とする密閉型ロータリ圧縮機。
【請求項6】
請求項2に記載の密閉型ロータリ圧縮機であって、前記気液分離室の一端側に吐出ポートと該吐出ポートを開閉する吐出弁を設け、前記気液分離室の他端側には密閉容器内と連通する前記連通路の開口部が形成され、前記吐出弁が配置された空間と前記連通路の開口部が形成された空間の間に、気液分離室に吐出された冷媒が衝突する壁面を設けて前記冷媒に混入されている潤滑油を前記冷媒から分離し、油を分離した冷媒を前記吐出管から圧縮機外に吐出させ、前記気液分離室で分離された油は前記連通路を介して密閉容器内に流出させることを特徴とする密閉型ロータリ圧縮機。
【請求項7】
請求項6に記載の密閉型ロータリ圧縮機であって、前記シリンダ、前記主軸受及び前記副軸受を締結する締結ボルトを更に備え、前記吐出ポートから前記気液分離室に吐出された流体は、前記締結ボルトが設けられている部分の前記吐出カバーの壁面に衝突して油が分離され、前記気液分離室における前記吐出ポートから前記締結ボルトを挟んで反対側の空間には前記吐出管の入口部が配置され、油を分離された冷媒は前記入口部から前記吐出管に流入して圧縮機外に吐出されることを特徴とする密閉型ロータリ圧縮機。
【請求項8】
請求項7に記載の密閉型ロータリ圧縮機であって、前記吐出管の入口部は、分離された油の流れ方向から外周側に外れた位置で且つ上方側に設けられていることを特徴とする密閉型ロータリ圧縮機。
【請求項9】
請求項6に記載の密閉型ロータリ圧縮機であって、前記気液分離室の底部を、前記吐出弁側から前記連通路の開口部に向かってステップ状或いはテーパ状に深くなるように構成して、分離された油が前記連通路の開口部に向かう流れが形成されることを特徴とする密閉型ロータリ圧縮機。
【請求項10】
圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器を備え、冷媒としてイソブタン(R600a)を使用して冷凍サイクルを構成し、前記蒸発器で冷気を作り出して庫内に放出する冷蔵庫であって、前記圧縮機として請求項1~9の何れか一項に記載の密閉型ロータリ圧縮機を用い、前記イソブタンの冷凍サイクルへの封入量は100g以下であることを特徴とする密閉型ロータリ圧縮機を用いた冷蔵庫。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷蔵庫や空気調和機等の冷凍サイクル装置に使用される密閉型ロータリ圧縮機及びこれを用いた冷蔵庫に関し、特に、可燃性冷媒を用いる密閉型ロータリ圧縮機に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
冷蔵庫や空気調和機等に使用される密閉型ロータリ圧縮機としては、特許4020622号公報(特許文献1)に記載されているものなどがある。この特許文献1のものは、密閉容器内に電動要素と、電動要素により駆動される第1及び第2の回転圧縮要素を備え、前記第1の回転圧縮要素で圧縮された冷媒ガスを前記密閉容器内に吐出し、更にこの吐出された中間圧力の冷媒ガスを前記第2の回転圧縮要素で圧縮するようにして、密閉容器内の圧力を中間圧力にしている。
【0003】
ところで、近年、冷蔵庫や空気調和機に使用される冷媒として、地球温暖化係数(GWP)の低い冷媒であるイソブタン(R600a)やR32等の可燃性冷媒が使用されている。特に、家庭用の冷蔵庫に使用されているイソブタンは強燃性の冷媒であるため、その使用量には厳しい制限があり、冷蔵庫1台あたりに封入できる冷媒量は非常に少ない量に制限されている。即ち、電気用品安全法により技術基準が定められており、例えば、家庭用冷蔵庫のイソブタンの使用量は100g以下に制限されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、冷蔵庫や空気調和機に使用される冷媒として、可燃性冷媒が使用される場合、冷凍サイクルに封入される冷媒量をできるだけ少なくすることが求められている。
【0006】
上記冷凍サイクルに使用される冷媒圧縮機として密閉型ロータリ圧縮機を採用する場合、密閉型ロータリ圧縮機は、圧縮機構部で圧縮された冷媒(冷媒ガス)が摺動部を潤滑した潤滑油(冷凍機油、以下、油ともいう)と共に密閉容器内に吐出されて油と分離される。前記密閉容器内の底部には圧縮機構部の摺動部を潤滑するための潤滑油を溜める油溜りが設けられており、密閉容器内に吐出されて分離された油は前記油溜りに溜り、油を分離した冷媒は冷凍サイクルへ送られる。
【0007】
このように、密閉型ロータリ圧縮機の密閉容器内には、圧縮機構部で圧縮された冷媒が吐出されるため、密閉容器内は高圧(吐出ガス圧力)の雰囲気となっている。冷媒の冷凍機油に対する溶解量は圧力が高いほど冷凍機油に吸収されるので、冷媒は圧力が高いほど冷凍機油に溶解する量が増加する。このため、冷蔵庫や空気調和機用の冷媒圧縮機として、密閉型ロータリ圧縮機を採用すると、密閉容器内が高圧雰囲気のため、冷凍機油への冷媒溶解量が多くなり、その結果、冷媒封入量が多くなる課題があった。
【0008】
上記特許文献1のものでは、回転圧縮要素(シリンダやピストン等)を2段に設け、1段目の回転圧縮要素で圧縮された冷媒ガスを密閉容器内に吐出し、更にこの吐出された中間圧力の冷媒ガスを2段目の回転圧縮要素で圧縮するようにして、密閉容器内の圧力を中間圧力にしている。このような密閉型ロータリ圧縮機を採用すれば、密閉容器内の圧力を吐出圧力よりも低い中間圧力にできるので、密閉容器内圧力を低下できる分、冷凍機油への冷媒溶解量を低減できるから、冷媒封入量も低減することは可能になる。
【0009】
しかし、特許文献1のものでは、2段目の回転圧縮要素に吸入される冷媒の圧力は中間圧力であり、油溜りの圧力と同じであるため、2段目の回転圧縮要素に圧力差で給油(差圧給油)することはできず、このため充分な給油圧力を得ることのできるギヤポンプ(トロコイドポンプ等)やらせん溝を用いた粘性ポンプ等を設ける必要があり、構造が複雑で高価になる課題がある。
【0010】
本発明の目的は、圧縮機構部から吐出された冷媒の全てを密閉容器内に吐出することなく、前記吐出された冷媒からの油分離が可能であると共に、圧縮機構部の摺動部への給油を差圧給油で行うことのできる密閉型ロータリ圧縮機及びこれを用いた冷蔵庫を得ることにある。
【0011】
本発明の他の目的は、密閉容器内の油溜りの圧力を吐出圧力よりも低減して潤滑油中への冷媒溶解量を低減することのできる密閉型ロータリ圧縮機及びこれを用いた冷蔵庫を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の第1の特徴は、潤滑油を貯留する油溜りを有する密閉容器と、前記密閉容器内に設けられ、シリンダと、該シリンダ内で偏心回転するローラと、このローラを揺動させるクランク軸と、該クランク軸を支持する軸受部を備える圧縮機構部と、前記圧縮機構部の前記シリンダ内に冷媒を吸入する吸入流路を備える密閉型ロータリ圧縮機であって、前記軸受部に設けられ、前記シリンダで圧縮された冷媒を吐出する吐出ポートと、前記吐出ポートを覆うように前記軸受部に設けられた吐出カバーと、前記軸受部と前記吐出カバーにより形成され、前記圧縮機構部で圧縮された冷媒が流入して冷媒と油を分離する気液分離室と、前記気液分離室で油が分離された冷媒を圧縮機外に吐出する吐出管と、前記気液分離室と前記密閉容器内を連通し、前記気液分離室で分離された油を前記密閉容器内に流出させる連通路と、を備えることにある。
【0013】
本発明の第2の特徴は、上記の密閉型ロータリ圧縮機であって、前記軸受部は前記シリンダの上部に設けられた主軸受と前記シリンダの下部に設けられた副軸受を備え、前記気液分離室は、前記主軸受に形成された前記吐出ポートを覆い且つ前記クランク軸の周囲を囲むように形成され、更に、前記連通路に設けられ、該連通路内の圧力と前記密閉容器内の圧力との圧力差により前記連通路を開閉する開閉装置を備え、前記開閉装置は、前記連通路内の圧力と前記密閉容器内の圧力との圧力差により前記連通路を開閉し、前記密閉容器内の前記潤滑油が貯留されている油溜りの圧力を、前記吐出流路から吐出される冷媒の吐出圧力と、前記吸入流路から吸入される冷媒の吸入圧力との間の圧力に制御するものであることを特徴とする。
【0014】
本発明の第3の特徴は、圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器を備え、冷媒としてイソブタン(R600a)を使用して冷凍サイクルを構成し、前記蒸発器で冷気を作り出して庫内に放出する冷蔵庫であって、前記圧縮機として上記の密閉型ロータリ圧縮機を用い、前記イソブタンの冷凍サイクルへの封入量は100g以下である密閉型ロータリ圧縮機を用いた冷蔵庫にある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、圧縮機構部から吐出された冷媒の全てを密閉容器内に吐出することなく、前記吐出された冷媒からの油分離が可能であると共に、圧縮機構部の摺動部への給油を差圧給油で行うことのできる密閉型ロータリ圧縮機及びこれを用いた冷蔵庫を得ることができる効果がある。
【0016】
また、上記第2の特徴を有する本発明によれば、更に、密閉容器内の油溜りの圧力を吐出圧力よりも低減して潤滑油中への冷媒溶解量を低減することのできる密閉型ロータリ圧縮機及びこれを用いた冷蔵庫を得ることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の密閉型ロータリ圧縮機の実施例1を示す縦断面図である。
【
図4】密閉容器内の圧力と圧縮機のCOP(成績係数)との関係を説明する線図である。
【
図5】
図2に示す主軸受のみを斜め上方から見た斜視図である。
【
図6】本発明の実施例2を説明する図で、本発明の密閉型ロータリ圧縮機を搭載した冷蔵庫の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の密閉型ロータリ圧縮機及びこれを用いた冷蔵庫の具体的実施例を、図面に基づいて説明する。各図において、同一符号を付した部分は同一或いは相当する部分である。
【実施例0019】
本発明の密閉型ロータリ圧縮機の実施例1を
図1~
図5を用いて説明する。本実施例の密閉型ロータリ圧縮機は冷蔵庫や空気調和機等の冷凍サイクル装置を構成する冷媒圧縮機として利用されるものである。
【0020】
図1は本発明の密閉型ロータリ圧縮機の実施例1を示す縦断面図、
図2は
図1のII-II線矢視断面図であり、本実施例1の密閉型ロータリ圧縮機100の全体構成を
図1、
図2を用いて説明する。
【0021】
図1において、1は潤滑油(冷凍機油)が封入されている密閉容器、2は前記密閉容器1内に固定して設けられた電動機部で、この電動機部2は固定子2a及び回転子2bを備えている。3は前記電動機部2の回転子2bに一体に固定されたクランク軸である。4は前記密閉容器1内設けられた圧縮機構部で、この圧縮機構部4は前記電動機部2により前記クランク軸3を介して駆動される。
【0022】
前記圧縮機構部4は、前記クランク軸3の前記電動機部2側を支持するボス部5aを有する主軸受(軸受部)5と、前記クランク軸3の下部側を支持するボス部6aを有する副軸受(軸受部)6と、前記主軸受5と前記副軸受6との間に挟持され締結ボルト7で一体に固定されたシリンダ8を備える。
【0023】
また、前記圧縮機構部4は、前記シリンダ8内に収容され前記クランク軸3に形成された偏心ピン3aの偏心回転により公転駆動されるローラ9と、ローラ9の外周側から外径方向に延びローラ9の公転運動(偏心運動)に応じて前記シリンダ8に設けられた収納部に出入りするベーン(図示せず)と、このベーンを前記ローラ9に押し付けるスプリング10(
図2参照)も備えている。
【0024】
更に、前記圧縮機構部4には、シリンダ8、ローラ9、ベーン、主軸受5及び副軸受6により圧縮室(シリンダ室)11が形成される。前記主軸受5は前記圧縮室11の電動機部側の壁面を形成する壁面部5bを備え、前記副軸受6は前記圧縮室11の反電動機部側の壁面を形成する壁面部6bを備えている。
【0025】
また、前記圧縮機構部4には、前記圧縮室11内に冷媒ガスを吸入するための吸入ポート(図示せず)が設けられている。冷凍サイクルの冷媒は吸入管(吸入流路)12(
図2参照)を介して前記吸入ポートに導入される。更に、前記シリンダ8内を前記ローラ9が公転運動することにより、吸入した冷媒を前記圧縮室11で圧縮し、この圧縮室11で圧縮された冷媒(冷媒ガス)を吐出する吐出ポート25(
図5参照)が前記主軸受5に形成されている。また、
図2に示すように、前記吐出ポート25の出口側には該吐出ポートを開閉する吐出弁(本実施例ではリード弁)13が前記主軸受5に設けられている。
【0026】
前記主軸受5はその外周壁部5cで密閉容器1に溶接などで固定されている。この主軸受5に、前記シリンダ8と前記副軸受6が前記締結ボルト7で固定されている。
なお、14は前記電動機部2に電気を供給するための電源端子、15は密閉容器1の底部に形成された油溜りである。
【0027】
前記油溜り15に貯留されている潤滑油(冷凍機油;油)は、クランク軸3下端に設けられた油流入部16から該クランク軸3に形成された給油通路17を経て、クランク軸3と主軸受5及び副軸受6との摺動面、偏心ピン3aとローラ9との摺動面、ローラ9とシリンダ8及びベーンとの摺動面等の圧縮機構部4の各摺動面に差圧により給油される。即ち、本実施例においては、密閉容器1内の圧力を利用して、密閉容器1内の圧力よりも低い圧力の圧縮機構部4の摺動部へ差圧により給油する差圧給油路を形成している。
【0028】
本実施例では、
図1、
図2に示すように、前記吐出ポート及び吐出弁13を覆うように前記主軸受5の外側(反圧縮室側)に吐出カバー18が前記締結ボルト7により前記主軸受5に固定されている。この吐出カバー18と前記主軸受5により気液分離室(吐出流路)19が形成され、この気液分離室19に前記圧縮室11で圧縮された冷媒が前記吐出ポート及び前記吐出弁13を介して吐出される。
【0029】
前記気液分離室19に吐出された冷媒には、前記圧縮機構部4の摺動部を潤滑した潤滑油が混入しており、前記吐出ポート25から前記吐出弁13を押し上げて前記気液分離室19に吐出される。前記気液分離室19に吐出された油を含む冷媒は、気液分離室を形成している吐出カバー18の壁面に衝突することにより、油は冷媒ガスから分離され、前記壁面を伝わって前記気液分離室19の底部に溜まる。一方、油を分離した圧縮冷媒ガスは吐出管20を通って圧縮機の外部、例えば冷蔵庫等の冷凍サイクルに送られる。
【0030】
前記気液分離室19は、
図2に示すように、前記クランク軸3の周囲を囲むように形成されており、この気液分離室19における前記吐出弁13が設けられている一端側の空間から離れた他端側(末端側)には、密閉容器1内と連通する連通路21(
図1参照)の開口部21aが形成されている。また、前記吐出カバー18における前記締結ボルト7が設けられている部分は内径側に突出した凸状部18aに形成されており、この凸状部18aにより、前記気液分離室19の流路幅は狭められている。これにより、吐出ポートから気液分離室19に吐出された油を含む冷媒は、気液分離室19を形成している凸状部18aの壁面に衝突して油分離を効率良く行えるようにしている。
【0031】
前記吐出管20の前記気液分離室19内における入口部20aは、前記凸状部18aを挟んで前記吐出ポート25から反対側の気液分離室19内の空間に開口している。前記入口部20aの径方向位置は、前記凸状部18aの内径端部よりも外径側に位置するように構成しており、吐出ポートから吐出され、油を分離した冷媒ガスは前記入口部20aに向かって曲りながら流れる。従って、油を分離した冷媒ガスに、分離した油を再び混入させることなく、吐出管20に流入するように構成されている。
【0032】
なお、前記吐出管20はその入口部20aの高さ方向の中心位置も、前記気液分離室19の高さ方向の中心よりも上方に配置して、吐出管20の下端が気液分離室19の底部よりも上方に離して配置されるようにすれば、冷媒ガスへの油の再混入防止効果を更に高めることができる。
【0033】
前記気液分離室19の底部は、前記連通路21が配置されている末端側に向かって、ステップ状に或いはテーバ状に深くなるように形成されている。これにより、気液分離室19の吐出弁13側で分離した油を、気液分離室19の底部に沿って前記連通路21側にスムーズに流すことができる。なお、
図2は気液分離室19の底部を末端側に向かってステップ状に形成したものを示しているが、前記底部をテーバ状に形成する場合に比べて容易に製作することができる。
【0034】
なお、
図2において、23は、密閉容器1内の圧縮機構部4上方の空間と、圧縮機構部4下方の油溜り15側の空間とを連通する連通孔であり、
図2に示す例では、前記連通孔23は主軸受5の外周側で且つ周方向に6か所設けられている。
【0035】
次に、本実施例における前記連通路21付近の構成を
図1~
図3を用いて説明する。
図3は
図1のA部の部分拡大図である。
図1~
図3に示すように、気液分離室19の末端側に開口している連通路21は、主軸受5に径方向に形成され、前記気液分離室19と前記密閉容器1内空間を連通するように構成されている。
【0036】
また、前記連通路21の密閉容器1内への開口部側には、前記連通路21内の圧力或いは気液分離室(吐出流路)19内の圧力と、前記密閉容器1内の圧力との圧力差により前記連通路21を開閉する開閉装置22が設けられている。前記開閉装置22により、前記密閉容器1の前記潤滑油が貯留されている油溜り15の圧力を、前記気液分離室19から前記吐出管20を介して冷凍サイクルに吐出される冷媒の吐出圧力と、前記吸入管(吸入流路)12から圧縮機構部4に吸入される冷媒の吸入圧力との間の圧力(以下「中間圧力」とも言う)に制御されるように構成されている。
【0037】
本実施例では、前記開閉装置22は、前記連通路21に設けられた弁体22aと、この弁体22aを押圧する弁ばね(弾性体)22bを有する弁機構で構成され、前記弁体22aの上流側と下流側の差圧(弁体前後の差圧)が一定値以上となった場合に前記弁体22aが開くように前記弁ばね22bの強さが決められている。
【0038】
更に具体的に説明すると、前記弁機構は、前記連通路21の密閉容器側開口端の周囲に設けられた弁座22c、この弁座22cに接して前記連通路21を開閉する前記弁体22a、該弁体22aを前記弁座22c側に押圧する弁ばね22b及び前記弁ばね22bを保持し且つ前記主軸受5に固定されているリテーナ22dにより構成されている。前記弁ばね22bの強さは、潤滑油が貯留されている油溜り15の圧力が、前記連通路21または前記気液分離室19内の圧力である吐出圧力と、圧縮機構部4に吸入される冷媒の吸入圧力との間の圧力(中間圧力)になるように決められている。
【0039】
このように構成することにより、前記連通路21または気液分離室19内の圧力と前記密閉容器1内の圧力との圧力差が、予め決めた一定の圧力差になると、前記弁機構の弁体22aは弁ばね22bの押圧力に打ち勝って弁座22cから離れ、前記連通路21は密閉容器1内と連通する。これにより、前記気液分離室19内で分離された油は、前記連通路21から密閉容器1内に排出され油溜り15に溜まる。また、前記弁体22aが開くことで前記密閉容器1内の圧力は上昇し、弁体22a前後(弁体の上流側と下流側)の圧力差が所定値よりも小さくなると、前記弁ばね22bの押圧力で前記弁体22aは閉じられる。このように、前記弁体22aは該弁体前後の圧力差が予め決められた値になると開閉するので、密閉容器1内の圧力を吐出圧力よりも低く、吸込圧力よりも高い任意の中間圧力の範囲に保持することができる。
【0040】
本実施例によれば、密閉容器1内の圧力を吐出圧力よりも低い圧力、即ち任意の中間圧力に保持することができるから、冷媒の潤滑油への溶解量を低減することができる。また、潤滑油への冷媒の溶解量を低減できる分だけ冷凍サイクル運転をするために必要な冷媒量を増加でき、その分封入冷媒量を低減することも可能になる。従って、イソブタンなどの強燃性冷媒やR32などの可燃性冷媒の封入量を低減できる冷蔵庫や空気調和機等の冷凍サイクル装置を実現できる。
【0041】
特に、家庭用の冷蔵庫には強燃性のイソブタンが使用されることが多いが、その使用量には厳しい制限があり、冷蔵庫1台あたりに封入できる冷媒量は非常に少ない量に制限されている。このため、冷媒封入量が多くなる密閉型ロータリ圧縮機の採用は困難であったが、本発明を採用することにより、効率の良い密閉型ロータリ圧縮機を採用することが可能となる。
【0042】
また、本実施例では、密閉容器1内の油溜り15の圧力を吸入圧力よりも高い任意の中間圧力に保持できるので、油溜り15の油を中間圧力と吸入圧力との差圧で圧縮機構部4の各摺動部に供給することも可能になる。
【0043】
このように、本実施例では、シリンダ8とローラ9が1組の1シリンダ方式、即ち多段圧縮ではなく、単段圧縮タイプの密閉型ロータリ圧縮機で、密閉容器1内の圧力を吸入圧力と吐出圧力との間の任意の中間圧力にすることを実現できる。これにより潤滑油中への冷媒溶解量を低減できると共に圧縮機構部4に差圧給油することが可能となる。従って、圧縮機構部4への給油を、ギヤポンプや粘性ポンプ等の複雑で高価なポンプを採用することなく、簡単な構成で実現することができる。
【0044】
なお、
図1の例では、クランク軸3下端部の給油通路17内に遠心タイプの給油ポンプも内蔵しているが、本実施例では、差圧給油が可能であるので、前記遠心ポンプは必ずしも必要なものではない。本実施例では、より給油を確実に行うための補助として簡単な構成の給油ポンプも設けているものである。
【0045】
本実施例を採用することにより、弁ばね22bの強さを調整すれば、密閉容器1内の圧力を所望の任意の圧力範囲に制御することが可能になる。ここで、密閉容器1内の圧力が高いと潤滑油への冷媒溶解量が増えるため、冷凍サイクルへ送られる冷媒量は減少し、冷凍サイクルの効率が低下する。一方、密閉容器1内の圧力が低いと、圧縮室と密閉容器内との圧力差が大きくなるため、圧縮機構部からの圧縮冷媒の漏れが増加する。また、ベーンをローラ9に押し付けるスプリング10の押付力が増大する構成となるので摩擦損失も増加する。
【0046】
このため、密閉容器1内の圧力と、密閉型ロータリ圧縮機を用いた冷凍サイクル装置の成績係数(COP)との間には、
図4の線図に示す関係があることが分かった。
図4において、Psは密閉型ロータリ圧縮機における吸込圧力、Pdは吐出圧力である。
【0047】
図4から、密閉型ロータリ圧縮機では、密閉容器1内の圧力を吸込圧力Psと吐出圧力Pdの中間点の圧力よりも高く、吐出圧力よりも低い圧力になるように、前記開閉装置(弁機構)22の弁ばね22bの強さを調整することにより、より効率の良い密閉型ロータリ圧縮機が得られることが分かった。これを冷蔵庫や空気調和機等に採用することにより、成績係数のより高い冷凍サイクル装置を実現することも可能となる。
【0048】
なお、本実施例1の説明では、上記開閉装置22として、弁ばね22bの強さを調節して、前記弁体22aの上流側と下流側の差圧が一定値以上となった場合に前記弁体22aが開くようにした弁機構で構成している例について説明したが、本発明はこの構成に限られない。例えば、前記弁体22aの上流側の圧力である気液分離室19側の圧力(吐出圧力)と、前記弁体22aの下流側の圧力である密閉容器1内の圧力を圧力センサで測定し、その圧力差が所定値より大きくなると、前記連通路21を開くように制御装置で弁を開閉するように制御する構成としても良い。
【0049】
更に、上述した実施例では、前記密閉容器1内の圧力を、吸込圧力と吐出圧力の間の中間圧力にするものについて説明したが、本発明はこのような態様には限られず、例えば密閉容器1内の圧力をほぼ吸込圧力にするものにも適用可能である。即ち、上記気液分離室19を備える構成とすることにより、圧縮機構部4から吐出された冷媒の全てを密閉容器内に吐出することなく、吐出された冷媒からの油分離が可能であり、分離した油は密閉容器内に戻し、油を分離した冷媒ガスは冷凍サイクルに送り出す構成とすることができる。また、圧縮機構部4の摺動部への給油も差圧給油で行うことができる密閉型ロータリ圧縮機を得ることができる。
【0050】
図5は
図2に示す主軸受5のみを斜め上方から見た斜視図(鳥観図)である。この図において、24は吐出弁13(
図2参照)を収容する弁収容溝で、この弁収容溝24には圧縮室11で圧縮された冷媒が流入する吐出ポート25が形成されている。また、この吐出ポート25の上部には該吐出ポート25を開閉する前記吐出弁(リード弁)13が
図2に示すように配置される。前記弁収容溝24にはリード弁で構成された前記吐出弁13のばね板部や、前記吐出弁13の上方への移動を制限するリテーナ等も配設される。
【0051】
図2に示す気液分離室(吐出流路)19の底部は、この
図5に示すように、主軸受5のボス部5aの周囲を囲むように形成されており、この気液分離室19の底部の上側は、
図1に示す吐出カバー18で覆われて前記気液分離室19が形成されている。一点鎖線で示す吐出管20は主軸受5の外周壁部5cを貫通し、更に吐出カバー18も貫通(
図1参照)して気液分離室19に開口している。
【0052】
前記気液分離室19の底部は、
図5に示すように、吐出ポート25側(吐出弁13側)が最も高く、その後、前記底部はステップ状に低くなり、連通路21の開口部21aが設けられている部分が最も低くなっている。なお、前記底部をステップ状に深く形成することで、気液分離室19の底部を次第に低くして、気液分離室19の上流側で冷媒から分離された油が、前記連通路21の開口部21aに向かってスムーズに流れるようにしている。即ち、吐出ポート25から気液分離室19に吐出された油を含む冷媒は、気液分離室19における凸状部18a等の壁面に衝突することで、油が分離され、分離された油は気液分離室19の底部に落下し、
図5に白抜き矢印で示すように、気液分離室19の底部をスムーズに流れるので、冷媒ガスと混入するのを抑制できる。
【0053】
ステップ状にする代わりに、前記底部をテーパ状に低くなるようにしても良いが、ステップ状に構成した方が、容易に製作できるため、本実施例では前記底部をステップ状に形成している。なお、
図5において、5dは締結ボルト7(
図1、
図2参照)が貫通するボルト穴である。
【0054】
上述した
図2及び
図5に示すように、本実施例においては、気液分離室19を主軸受のボス部5aの周囲を取り囲むように形成すると共に、締結ボルト7が貫通する部分を利用して、吐出カバー18に複数の凸状部18aを形成しているので、油を含む冷媒ガスは前記凸状部18a等の壁面に衝突して、油を気液分離室19の部分で効率良く分離することができる。なお、前記シリンダ8、前記主軸受5及び副軸受6を締結する前記締結ボルト7は気液分離室19に沿って複数本配置されており、これに伴い前記凸状部18aも複数個(
図2の例では3個)設けて油分離効果を高めている。
【0055】
従って、圧縮機構部4からの吐出ガスのほぼ全てを密閉容器1内に吐出し、密閉容器1内で油を分離して、密閉容器1内の冷媒ガスを冷凍サイクルに送り出す高圧方式の密閉型ロータリ圧縮機とすることなく、前記吐出カバー18内の気液分離室19から直接冷凍サイクルに、圧縮され油を分離した冷媒ガスを送り出すことができる。
【0056】
また、本実施例では、前記圧縮機構部4から吐出された圧縮冷媒ガスのほぼ全てを密閉容器1内に吐出するものではないため、密閉容器1内の圧力を吐出圧力にする必要がなく、前述した開閉装置(弁機構)22(
図1、
図3参照)等を用いて、密閉容器1内を吐出圧力と吸込圧力の間の圧力(中間圧力)にすることもできる。従って、冷媒封入量を低減できると共に圧縮機構部4に差圧給油することも可能となり、圧縮機構部4への給油を簡単な構成で実現することもできる。
【0057】
なお、上述した実施例1では、密閉型ロータリ圧縮機100の圧縮機構部4が、シリンダ8とローラ9が1組の1シリンダ方式(シングルタイプ)の密閉型ロータリ圧縮機に本発明を適用した場合について説明したが、本発明は1シリンダ方式の密閉型ロータリ圧縮機には限られない。即ち、前記圧縮機構部4が、シリンダ8とローラ9を2組備えた2シリンダ方式で単段圧縮の密閉型ロータリ圧縮機にも同様に適用できるものである。この2シリンダ方式の密閉型ロータリ圧縮機に本発明を適用する場合、主軸受5と副軸受6との間に、シリンダ8とローラ9を、中仕切板を挟んで両側にそれぞれ配置する。また、上側のシリンダ(圧縮要素)に対しては、主軸受(上軸受)に、実施例1と同様に、吐出カバー18を設け、下側のシリンダ(圧縮要素)に対しては、副軸受(下軸受)に、実施例1と同様の吐出カバーを設けて気液分離室を形成すれば良い。更に、前記気液分離室19で分離された油を、前記連通路21を介して前記密閉容器1内に導く構成とすれば良い。
冷蔵庫200は断熱箱体201を有している。圧縮機は、上述した実施例1の密閉型ロータリ圧縮機100が採用され、前記断熱箱体201と仕切部203で囲まれた領域であって、冷凍サイクル装置である冷蔵庫200の下方側に設置されている。
前記密閉型ロータリ圧縮機100、放熱パイプ等で構成された凝縮器、キャピラリーチューブや膨張弁で構成された膨張装置、冷却器202等で構成された蒸発器を繋ぐことで、R600a等の強燃性冷媒を用いた冷凍サイクルが形成されている。
冷蔵庫200は、貯蔵室の一例として冷蔵室204、上段冷凍室205、下段冷凍室206、野菜室207を有しており、これら庫内空間は、前記密閉型ロータリ圧縮機100の駆動により、冷凍サイクル(図示せず)が動作することで冷却される。
前述した通り、家庭用の冷蔵庫には強燃性のイソブタンが使用されることが多いが、その使用量には厳しい制限がある。即ち、冷蔵庫1台あたりに封入できるイソブタンの使用量は100g以下に制限されている。このため、レシプロ式の圧縮機に比べ、一般的に冷媒封入量が多くなる密閉型ロータリ圧縮機の採用は困難であったが、本発明を採用することにより、冷媒封入量を低減できるので、効率の良い密閉型ロータリ圧縮機を家庭用冷蔵庫に採用することが可能となる。