(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148075
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
E02F 9/22 20060101AFI20220929BHJP
E02F 3/43 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
E02F9/22 H
E02F3/43 F
E02F9/22 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049604
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉村 正利
(72)【発明者】
【氏名】小林 啓之
(72)【発明者】
【氏名】金子 悟
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 徳孝
(72)【発明者】
【氏名】関野 聡
【テーマコード(参考)】
2D003
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB04
2D003AC01
2D003BA02
2D003BB03
2D003CA02
2D003CA10
2D003DA04
2D003DB02
2D003DB04
2D003DB05
2D003FA02
(57)【要約】
【課題】積込作業時におけるオペレータによる操作の負担を軽減することができる作業車両を提供する。
【解決手段】作業車両1は、走行駆動力と作業駆動力とを制御するメインコントローラ100を備える。メインコントローラ100は、目標ライズラン距離に到達するまでの残時間を走行残時間t
Cとして計算する走行残時間計算部111、目標アーム角に到達するまでの残時間を作業残時間t
Iとして計算する作業残時間計算部112、ライズランを行っている状態であるか否かを判定するライズラン判定部113、走行残時間t
Cと、作業残時間t
Iと、ライズラン判定フラグとに基づいて、走行駆動トルクを調整する走行補正率η
Cと作業駆動トルクを調整する作業補正率η
Iとを設定する補正率設定部114、及び、走行補正率η
Cと作業補正率η
Iとに基づいて走行駆動トルク指令と作業駆動トルク指令とを計算するエンジントルク配分計算部115を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体を走行させる走行装置と、
前記走行装置に走行駆動力を供給する走行原動機と、
前記車体に設けられて上下方向に回動可能なアームを有する作業装置と、
前記作業装置に作業駆動力を供給する作業原動機と、
車速及び走行距離を含む前記車体の走行状態を検出する走行状態検出装置と、
前記アームの角度を含む前記作業装置の作業状態を検出する作業状態検出装置と、
前記走行原動機と前記作業原動機とを制御する制御装置と、
を備えた作業車両であって、
前記制御装置は、
前記走行状態検出装置で検出した前記車体の走行状態と前記作業状態検出装置で検出した前記作業装置の作業状態とに基づいて、積込作業時に前記車体の前進走行中における前記アームの上昇を特定する特定条件を満たすか否かを判定し、
前記特定条件を満たすと判定した場合、前記走行状態検出装置で検出した前記車速及び前記走行距離と、前記作業状態検出装置で検出した前記アームの角度とに基づいて、前記走行駆動力を調整するための走行補正率と前記作業駆動力を調整するための作業補正率とを設定し、
設定した前記走行補正率と前記作業補正率とに基づいて、前記走行原動機の前記走行駆動力と前記作業原動機の前記作業駆動力とを制御することを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記車速及び前記走行距離に基づいて、予め設定された目標走行距離に到達するまでの残時間を走行残時間として計算し、
前記アームの角度に基づいて、予め設定された目標アーム角に到達するまでの残時間を作業残時間として計算し、
計算した前記走行残時間と前記作業残時間とに基づいて前記走行補正率と前記作業補正率とを設定し、
設定した前記走行補正率と前記作業補正率とに基づいて、前記走行原動機のトルクと前記作業原動機のトルクとを制御する請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記走行残時間よりも前記作業残時間が短いほど、前記アームの上昇速度を制限するように前記作業補正率を大きく設定し、
前記走行残時間よりも前記作業残時間が長いほど、前記車速を制限するように前記走行補正率を大きく設定する請求項2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記作業車両が前記特定条件を満たしてから所定時間経過後の時刻における前記車速及び前記走行距離と前記アームの角度とに基づいて、前記走行補正率と前記作業補正率とを設定し、
設定した前記走行補正率と前記作業補正率とを前記積込作業の終了まで保持した状態で、前記走行原動機のトルクと前記作業原動機のトルクとを制御する請求項1~3のいずれか一項に記載の作業車両。
【請求項5】
前記走行原動機は、走行電動機である請求項1~4のいずれか一項に記載の作業車両。
【請求項6】
前記走行補正率と前記作業補正率との設定を実行する実行モードと、前記走行補正率と前記作業補正率との設定実行を禁止する禁止モードとを切り替えるモード切替装置を更に備える請求項1~5のいずれか一項に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積込作業に用いられるホイールローダ等の作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車両としては、例えば車体を移動させるための走行装置と土砂等を掘削するためのバケット及びアームを有する作業装置とを備えたホイールローダが知られている。このような作業車両が掘削してバケットに入れた土砂等をダンプトラック等の積込対象に積載する際に、車体を積込対象まで前進させながらアームを上昇させるライズランと呼ばれる動作を行う。このライズランに伴う操作は、アーム操作レバー、アクセルペダル、及びブレーキペダルの操作が必要となり、複雑な操作を要求されるため、オペレータの負担が大きい。それに加えて、積込対象の直前まで速く前進しつつ、積込対象の直前でアームが必要な高さまで上がり切るように操作すると、運搬作業の効率と燃費の両方が良くなるため、オペレータは状況に応じて精密な操作が強いられる。
【0003】
例えば特許文献1には、バケットによる掘削後に車体が掘削物を排出する位置まで走行する目標走行距離に対応する値と、前進が開始された後にアームが上昇する目標上昇量に対応する値との比である第1比率と、前進を開始してから実際に走行した距離に対応する値と、前進開始後にアームが実際に上昇した量に対応する値との比である第2比率との差が0になるように、動力発生装置から駆動輪に伝達される伝達トルクを制御する作業車両が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の作業車両では、ライズランに伴う操作を行う場合において、目標走行距離と目標上昇量の比率を維持するように、走行駆動力を制御することになる。このため、ライズランの動作開始時におけるバケットの高さが高い場合や、積込対象までの路面が上り傾斜である場合に、走行装置を制御していないため、目標走行距離に達する前に目標上昇量に達してしまい、運搬作業の効率及び燃費の低下を招くおそれがある。運搬作業の効率及び燃費の低下を抑制するために、オペレータは、ライズランの動作中にアーム操作レバー及びアクセルペダルの操作量を調整し、積込対象の直前でアームが必要な高さまで上がり切るように複雑且つ精密な操作を行う必要がある。従って、オペレータの負担は依然として大きい。
【0006】
本発明は、このような技術課題を解決するためになされたものであって、積込作業時におけるオペレータによる操作の負担を軽減することができる作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る作業車両は、車体を走行させる走行装置と、前記走行装置に走行駆動力を供給する走行原動機と、前記車体に設けられて上下方向に回動可能なアームを有する作業装置と、前記作業装置に作業駆動力を供給する作業原動機と、車速及び走行距離を含む前記車体の走行状態を検出する走行状態検出装置と、前記アームの角度を含む前記作業装置の作業状態を検出する作業状態検出装置と、前記走行原動機と前記作業原動機とを制御する制御装置と、を備えた作業車両であって、前記制御装置は、前記走行状態検出装置で検出した前記車体の走行状態と前記作業状態検出装置で検出した前記作業装置の作業状態とに基づいて、積込作業時に前記車体の前進走行中における前記アームの上昇を特定する特定条件を満たすか否かを判定し、前記特定条件を満たすと判定した場合、前記走行状態検出装置で検出した前記車速及び前記走行距離と、前記作業状態検出装置で検出した前記アームの角度とに基づいて、前記走行駆動力を調整するための走行補正率と前記作業駆動力を調整するための作業補正率とを設定し、設定した前記走行補正率と前記作業補正率とに基づいて、前記走行原動機の前記走行駆動力と前記作業原動機の前記作業駆動力とを制御することを特徴とする作業車両。
【0008】
本発明に係る作業車両では、制御装置は、走行状態検出装置で検出した車速及び走行距離と、作業状態検出装置で検出したアームの角度とに基づいて、走行補正率と作業補正率とを設定し、設定した走行補正率と作業補正率とに基づいて走行原動機の走行駆動力と作業原動機の作業駆動力とを制御する。このようにすることで、走行駆動力と作業駆動力とのバランスを調整しながら前進走行が完了する時刻とアーム上昇が完了する時刻とを揃えることができるので、オペレータの負担を軽減することができる。また、これによって積込作業の時間を短縮することが可能になり、積込作業の作業効率の向上及び燃費の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、積込作業におけるオペレータによる操作の負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る作業車両を示す側面図である。
【
図2】第1実施形態に係る作業車両を示すシステム構成図である。
【
図3】作業車両の基本的な運搬作業を説明するための図である。
【
図4】ライズランに伴う操作を説明するための図である。
【
図5】作業車両のメインコントローラを示すブロック図である。
【
図7】補正率を設定するテーブルの一例を示す図である。
【
図8A】レバー操作量とポンプ要求流量との関係を示す図である。
【
図8B】走行電動機の回転速度と走行要求トルクとの関係を示す図である。
【
図9】メインコントローラの制御処理を示すフローチャートである。
【
図10】第1実施形態に係る作業車両の効果(比較例との比較)を説明するための図である。
【
図11】第2実施形態に係る作業車両の効果(比較例との比較)を説明するための図である。
【
図12】第3実施形態に係る作業車両のメインコントローラを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明に係る作業車両の実施形態について説明する。図面の説明において同一の要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、以下の説明において、作業車両がホイールローダである例を挙げて説明するが、本発明の作業車両はホイールローダに限定されず、フォークリフト、リフトトラック、テレハンドラ等であっても良い。また、以下の説明において、エンジン及び発電電動機を駆動源とするハイブリッドシステムが採用される例を挙げて説明するが、エンジンのみを用いるシステムが採用されても良い。更に、以下の説明では、上下、左右、前後の方向及び位置は、作業車両の通常の使用状態、すなわち車輪が地面に接地する状態を基準とする。
【0012】
[第1実施形態]
図1は第1実施形態に係る作業車両を示す側面図である。
図1に示すように、本実施形態の作業車両1は、例えば電動駆動式のホイールローダであって、電動式の走行装置11が搭載された車体8と、車体8の前部に設けられた多関節型の作業装置6とを備えている。車体8は、アーティキュレート操舵式(車体屈折式)のものであり、前部車体8Aと、後部車体8Bと、前部車体8Aと後部車体8Bを連結するセンタージョイント8Cとを有する。前部車体8Aには、上記作業装置6が取り付けられており、後部車体8Bには、運転室12及びエンジン室16が配置されている。また、運転室12には、オペレータが作業車両1を操作する各種操作部材(51~58)が設けられており、エンジン室16には、エンジン20、油圧ポンプ30A,30B,30C、及びバルブ等の油圧機器が収納されている(
図2参照)。
【0013】
作業装置6は、前部車体8Aに上下方向に回動自在に取り付けられた左右一対のアーム(リフトアームともいう)2と、アーム2の先端部分に連結されて上下方向に回動可能に取り付けられたバケット3とを有する。本実施形態では、バケット3を作動させるためのリンク機構として、Zリンク式(ベルクランク式)のリンク機構が採用されている。
【0014】
図2は第1実施形態に係る作業車両を示すシステム構成図である。
図2に示すように、作業車両1は、エンジン20と、エンジン20と機械的に接続される発電電動機40と、エンジン20及び発電電動機40と機械的に接続される油圧ポンプ30A,30B,30Cと、油圧ポンプ30Aから吐出される作動油によって駆動されるアームシリンダ4及びバケットシリンダ5と、油圧ポンプ30Aから吐出される作動油を制御するフロント制御部31と、油圧ポンプ30Bから吐出される作動油によって駆動されるブレーキシリンダ17及び駐車ブレーキシリンダ18と、油圧ポンプ30Bから吐出される作動油を制御するブレーキ制御部32と、油圧ポンプ30Cから吐出される作動油によって駆動されるステアリングシリンダ15と、油圧ポンプ30Cから吐出される作動油を制御するステアリング制御部33と、発電電動機40で発電した電力によって駆動される上記走行装置11と、を備えている。
【0015】
エンジン20は、一次原動機であり、ディーゼルエンジン等の内燃機関によって構成されている。発電電動機40は、エンジン20から出力されるトルクによって回転する。
【0016】
油圧ポンプ30A,30B,30Cは、エンジン20から出力されるトルクによって駆動されて作動流体としての作動油を吐出する。なお、発電電動機40が電動機として機能する場合には、油圧ポンプ30A,30B,30Cはエンジン20及び発電電動機40が出力するトルクによって駆動されることになる。
【0017】
油圧ポンプ30Aから吐出される作動油は、フロント制御部31を介してアームシリンダ4及びバケットシリンダ5へと供給される。フロント制御部31は、油圧ポンプ30Aから吐出される作動油の圧力、速度及び流れ方向を制御することにより、アームシリンダ4及びバケットシリンダ5の伸縮動作を制御する。
【0018】
アームシリンダ4は、油圧シリンダからなり、油圧ポンプ30Aから供給された作動油によって伸縮し、この伸縮動作でアーム2を上下方向に回動させる。アームシリンダ4は、左右一対のアーム2と対応するように一対となっている。バケットシリンダ5は、油圧シリンダからなり、油圧ポンプ30Aから供給された作動油によって伸縮し、この伸縮動作でバケット3を上下方向に回動させる。本実施形態では、油圧ポンプ30Aは、作業装置6に作業駆動力を供給する作業原動機を構成する。
【0019】
油圧ポンプ30Bから吐出される作動油は、ブレーキ制御部32を介してブレーキシリンダ17及び駐車ブレーキシリンダ18へと供給される。ブレーキ制御部32は、油圧ポンプ30Bから吐出される作動油の圧力、速度及び流れ方向を制御することにより、ブレーキシリンダ17及び駐車ブレーキシリンダ18の伸縮動作を制御する。
【0020】
油圧ポンプ30Cから吐出される作動油は、ステアリング制御部33を介してステアリングシリンダ15へと供給される。ステアリング制御部33は、油圧ポンプ30Cから吐出される作動油の圧力、速度及び流れ方向を制御することにより、ステアリングシリンダ15の伸縮動作を制御する。ステアリングシリンダ15は、油圧シリンダからなり、左右一対となっており、前部車体8Aと後部車体8Bとを連結するように設けられている。
【0021】
走行装置11は、前部車体8Aに取り付けられる前輪7A(車輪7)と、後部車体8Bに取り付けられる後輪7B(車輪7)と、走行電動機43からの動力を車輪7に伝達する動力伝達装置とを有する。車輪7は、走行電動機43の駆動により回転し、作業車両1を前後進させる。動力伝達装置は、例えばアクスル、デファレンシャル装置、プロペラシャフト等を含んで構成されている。
【0022】
走行電動機43は、二次原動機を構成するものであり、発電電動機40で発電した電力を受けて回転する。そして、本実施形態では、発電電動機40及び走行電動機43は、走行装置11に走行駆動力を供給する走行原動機を構成する。
【0023】
また、作業車両1は、車両全体の制御を行うメインコントローラ(制御装置)100と、メインコントローラ100からの発電電圧指令に基づいて発電電動機40を制御する発電電動機用インバータ41と、メインコントローラ100からの走行駆動トルク指令に基づいて走行電動機43のトルクを制御する走行電動機用インバータ42と、運転室12内に設けられる各種操作部材(51~58)と、を更に備えている。
【0024】
運転室12には、車体8の前進(F)と後進(R)を切り替える前後進スイッチ51と、アーム2を操作するためのアーム操作レバー52と、バケット3を操作するためのバケット操作レバー53と、AUTOモードとMANUALモードとを切り替えるモード切替スイッチ(モード切替装置)54と、車体8の左右進行方向を指示するためのステアリングホイール55と、駐車ブレーキを作動させるための駐車ブレーキスイッチ56と、車体8を加速させるためのアクセルペダル58と、車体8を減速させるためのブレーキペダル57と、が設けられている。
【0025】
そして、アーム操作レバー52が操作されると、アームシリンダ4の伸縮動作によりアーム2が上下方向に回動(俯仰動)する。バケット操作レバー53が操作されると、バケットシリンダ5の伸縮動作によりバケット3が上下方向に回動(クラウド動作またはダンプ動作)する。
【0026】
ステアリングホイール55が操作されると、ステアリングシリンダ15の伸縮動作に伴って後部車体8Bに対し前部車体8Aがセンタージョイント8Cを中心にして左右に屈折(転舵)する。
【0027】
前後進スイッチ51が前進(F)側に操作されている状態において、アクセルペダル58が踏み込まれると、車輪7が前進方向に回転し、車体8が前進走行する。一方、前後進スイッチ51が後進(R)側に操作されている状態において、アクセルペダル58が踏み込まれると、車輪7が後進方向に回転し、車体8が後進走行する。
【0028】
モード切替スイッチ54は、AUTOモードとMANUALモードとを手動で切り替え可能なスイッチである。AUTOモードは、後述する走行補正率と作業補正率との設定を実行する実行モードであり、言い換えれば作業車両1の車速とアーム角(アーム2の角度)とに基づいてアクセルペダル58の踏込量とアーム操作レバー52の操作量が制御されるモードである。それに対し、MANUALモードは、走行補正率と作業補正率との設定実行を禁止する禁止モードであり、言い換えれば車速とアーム角とに基づいてアクセルペダル58の踏込量とアーム操作レバー52の操作量が制御されないモードである。
【0029】
すなわち、このモード切替スイッチ54は、AUTOモード位置とMANUALモード位置とを有する。モード切替スイッチ54は、AUTOモード位置に操作されている場合、AUTOモードに設定されることになり、従ってAUTOモードに設定されていることを表す信号をメインコントローラ100に出力する。また、モード切替スイッチ54は、MANUALモード位置に操作されている場合、MANUALモードに設定されることになり、従ってMANUALモードに設定されていることを表す信号をメインコントローラ100に出力する。
【0030】
メインコントローラ100は、動作回路としてのCPU(Central Processing Unit)101、記憶装置としてのROM(Read Only Memory)102及びRAM(Random Access Memory)103、入力インタフェース104、出力インタフェース105、並びに、その他の周辺回路を備えたマイクロコンピュータで構成されている。なお、メインコントローラ100は、1つのマイクロコンピュータで構成しても良いし、複数のマイクロコンピュータで構成しても良い。
【0031】
メインコントローラ100のROM102は、EEPROM等の不揮発性メモリであり、各種演算が実行可能なプログラムが格納されている。すなわち、メインコントローラ100のROM102は、本実施形態の機能を実現するプログラムを読み取り可能な記憶媒体である。RAM103は揮発性メモリであり、CPU101との間で直接的にデータの入出力を行うワークメモリである。RAM103は、CPU101がプログラムを演算実行している間、必要なデータを一時的に記憶する。なお、メインコントローラ100は、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ等の記憶装置を更に備えても良い。
【0032】
CPU101は、ROM102に記憶されたプログラムをRAM103に展開して演算実行する処理装置であって、プログラムに従って入力インタフェース104及びROM102、RAM103から取り入れた信号に対して所定の演算処理を行う。
【0033】
入力インタフェース104には、各種操作部材からの操作信号及び各種センサからのセンサ信号が入力される。入力インタフェース104は、入力された信号をCPU101で演算可能なように変換する。出力インタフェース105は、CPU101での演算結果に応じた出力用の信号を生成し、その信号をフロント制御部31、ブレーキ制御部32、ステアリング制御部33、発電電動機用インバータ41及び走行電動機用インバータ42等に出力する。
【0034】
メインコントローラ100は、オペレータの操作によって入力される操作信号と、各種センサで検出したセンサ信号とに基づいて、フロント制御部31、ブレーキ制御部32、ステアリング制御部33、発電電動機用インバータ41及び走行電動機用インバータ42を統括的に制御する。
【0035】
メインコントローラ100に入力される操作信号としては、アクセルペダル58から出力されるアクセルペダル58の操作量を表すアクセル信号、ブレーキペダル57から出力されるブレーキペダル57の操作量を表すブレーキ信号、アーム操作レバー52から出力されるアーム操作レバー52の操作量を表すアーム信号、バケット操作レバー53から出力されるバケット操作レバー53の操作量を表すバケット信号、ステアリングホイール55から出力されるステアリングホイール55の操作量を表すステアリング信号、及び、前後進スイッチ51から出力される前後進スイッチ51の操作位置を表す進行方向信号等がある。また、メインコントローラ100に入力される操作信号としては、モード切替スイッチ54から出力されるモード切替スイッチ54の操作位置を表すモード切替信号がある。
【0036】
更に、メインコントローラ100に入力されるセンサ信号としては、車体8とアーム2とを連結する連結軸に設けられたアーム相対角センサ62で検出した角度を表す信号、及び、アーム2とバケット3とを連結する連結軸に設けられたバケット相対角センサ63で検出した角度を表す信号がある。アーム相対角センサ(作業状態検出装置)62は、例えば車体8に対するアーム2の相対角(傾斜角)を検出するポテンショメータであり、検出した角度を表す信号をメインコントローラ100に出力する。地面(走行面)に対する車体8の角度は一定であるため、アーム相対角センサ62で検出する角度は、地面に対するアーム2の相対角(傾斜角)に相当する。バケット相対角センサ(作業状態検出装置)63は、例えばアーム2に対するバケット3の相対角(傾斜角)を検出するポテンショメータであり、検出した角度を表す信号をメインコントローラ100に出力する。
【0037】
また、メインコントローラ100に入力されるセンサ信号としては、車速センサ61で検出した車速を表す信号がある。車速センサ(走行状態検出装置)61は、作業車両1の車速を検出し、検出した車速を表す信号をメインコントローラ100に出力する。更に、メインコントローラ100に入力されるセンサ信号としては、複数の回転速度センサによって検出されたエンジン20、発電電動機40、油圧ポンプ30A,30B,30C、及び走行電動機43の回転速度を表す信号、複数の圧力センサによって検出された油圧ポンプ30A,30B,30Cの吐出圧、油圧シリンダの圧力(負荷圧)等を表す信号がある。
【0038】
メインコントローラ100は、アーム操作レバー52の操作方向及び操作量と、バケット操作レバー53の操作方向及び操作量とに基づいて、フロント制御部31にフロント制御指令を出力する。フロント制御部31は、上述したように、メインコントローラ100からのフロント制御指令に基づき、油圧ポンプ30Aから吐出される作動油の圧力、速度及び流れ方向を調整し、アームシリンダ4及びバケットシリンダ5を動作させる。フロント制御部31は、油圧ポンプ30Aから吐出される作動油の流れを制御する方向制御弁、及び、この方向制御弁のパイロット室に入力されるパイロット圧を生成する電磁弁等を有する。
【0039】
メインコントローラ100は、ブレーキペダル57の操作量及び駐車ブレーキスイッチ56の操作位置に基づいて、ブレーキ制御部32にブレーキ制御指令を出力する。ブレーキ制御部32は、メインコントローラ100からのブレーキ制御指令に基づき、油圧ポンプ30Bから吐出される作動油の圧力、速度及び方向を調整し、ブレーキを機能させるためのブレーキシリンダ17と、駐車ブレーキを機能させるための駐車ブレーキシリンダ18とを動作させる。ブレーキ制御部32は、油圧ポンプ30Bから吐出される作動油の流れを制御する方向制御弁、及び、この方向制御弁のパイロット室に入力されるパイロット圧を生成する電磁弁等を有する。
【0040】
メインコントローラ100は、ステアリングホイール55の操作方向及び操作量に基づいて、ステアリング制御部33にステアリング制御指令を出力する。ステアリング制御部33は、メインコントローラ100からのステアリング制御指令に基づき、油圧ポンプ30Cから吐出される作動油の圧力、速度及び方向を調整し、ステアリングシリンダ15を動作させる。ステアリング制御部33は、油圧ポンプ30Cから吐出される作動油の流れを制御する方向制御弁、及び、この方向制御弁のパイロット室に入力されるパイロット圧を生成する電磁弁等を有する。
【0041】
発電電動機用インバータ41及び走行電動機用インバータ42は、直流部(直流母線)44によって接続されている。なお、本実施形態の作業車両1は、直流部44に接続される蓄電装置を備えていない。発電電動機用インバータ41は、メインコントローラ100からの発電電圧指令に基づき、発電電動機40から供給される電力を利用して直流部44のバス電圧を制御する。走行電動機用インバータ42は、メインコントローラ100の走行駆動トルク指令に基づき、直流部44の電力を利用して走行電動機43を駆動させる。
【0042】
ここで、
図3及び4を参照して本発明に至った経緯を説明する。
【0043】
図3は作業車両の基本的な運搬作業を説明するための図であり、
図4はライズランに伴う操作を説明するための図である。運搬作業では、作業車両1は、土砂や鉱物等(運搬物)を掘削してダンプトラック等の積込対象92へ積み込む作業を行う。
図3は、この運搬作業を行う際の方法の1つであるVシェイプローディングを示す。
【0044】
具体的には、作業車両1は、まず
図3の矢印X1で示すように、地山等の掘削対象物91に向かって前進する。次に、作業車両1は、掘削対象物91に突っ込むような形でバケット3を掘削対象物91に貫入し、アーム2及びバケット3を操作してバケット3に土砂や鉱物等の運搬物を入れる。その後、作業車両1はバケット3に入った運搬物をこぼさないようにバケット3を手前に掬い上げる(クラウド動作させる)。これによって、掘削作業が完了する。掘削作業完了後、作業車両1は、
図3の矢印X2で示すように、一旦後進する。次に、作業車両1は、
図3の矢印Y1で示すように、積込対象92に向かって前進する。
【0045】
このとき、
図4に示すように、作業車両1のオペレータは、アーム操作レバー52を操作してアーム2を上昇させつつ、ステアリングホイール55とアクセルペダル58とを操作して積込対象92に向かって車体8(すなわち、作業車両1)を前進させる。そして、積込対象92の手前で車体8を停止させる。
図3では、積込対象92の手前で停止している状態の作業車両1を破線で示す。
【0046】
その後、オペレータは、バケット操作レバー53を操作して、バケット3をダンプ動作させることにより、積込対象92の荷台にバケット3内の運搬物を積み込み(すなわち、バケット3内の運搬物を放土する)。これによって、積込作業が完了する。そして、
図4に示すこの一連の操作を上記「ライズランに伴う操作」といい、ライズラン時にアーム2が放土に必要な高さまで上がり切ったときにおける作業車両1の走行距離を「ライズラン距離」という。ライズランの後、
図3の矢印Y2で示すように、作業車両1は再び後進し、元の位置に戻る。
【0047】
このような掘削作業と積込作業を含む一連の作業は、「Vシェイプローディング」といい、作業車両1の全作業時間の大多数を占める。従って、オペレータの負担を軽減するためには、この一連の作業の負担を低減することが有効である。ここで、負担とは、掘削作業と積込作業を含む一連の作業において、オペレータがアクセルペダル58やアーム操作レバー52等の操作部材の操作量を変更した回数を意味し、これが少ないほどオペレータの負担が少ないことを意味する。
【0048】
積込作業では、オペレータがライズランの動作開始時にアーム操作レバー52をいっぱいまで操作(フルレバー)するとともに、アクセルペダル58をいっぱいまで操作(フルアクセル)し、フルレバー且つフルアクセルの状態のまま、積込対象92の手前でアーム角が放土に必要な高さまで上がり切るのが、オペレータにとって負担が少なく、且つ作業効率と燃費が良い積込作業となる。以降、この操作を「簡易ライズランに伴う操作」と呼ぶ。
【0049】
しかし、上述のように、ライズランの動作開始時におけるバケットの高さが高い場合や積込対象92までの路面が上り傾斜である場合、簡易ライズランに伴う操作をすると、走行装置11の駆動力(走行駆動力)が不足し、作業装置6の駆動力(作業駆動力)が過剰となり、積込対象92のだいぶ手前でアーム2が上がり切ってしまう。すなわち、ライズラン距離が短くなってしまう。このとき、作業装置6の操作が終了した状態で積込対象92の手前に前進するため、走行装置11のみを操作する時間が長くなり、作業効率及び燃費が低下してしまう。これを防ぐためには、オペレータがライズランの動作中にアーム操作レバー52を緩めたりして、積込対象92の手前でアーム2が上がり切るように、走行駆動力と作業駆動力のバランスを取り続ける必要がある。従って、オペレータの負担が増加してしまう。
【0050】
そこで、本願発明者は、鋭意研究を重ねた結果、オペレータが簡易ライズランに伴う操作をするときに、積込対象92の手前でアーム2が上がり切るのに必要な走行駆動力と作業駆動力とのバランスを適切なものとすることにより、オペレータの負担を軽減できることを見出した。
【0051】
なお、走行駆動力と作業駆動力との適切なバランスは、作業車両1の走行距離、アーム角、車速、及びアーム角速度によって変わる。ライズランの動作中のある時刻における走行距離とアーム角において、車速に対してアーム角速度が速いほど、作業駆動力を抑制する必要がある。一方、ライズランの動作中のある時刻における走行距離とアーム角において、アーム角速度に対して車速が速いほど、走行駆動力を抑制する必要がある。本実施形態では、積込作業の際に、作業車両1の走行距離、アーム角、車速、及びアーム角速度に基づいて、走行駆動力と作業駆動力のバランスを調整することにより、オペレータの負担の軽減を実現できる。
【0052】
そのため、
図5に示すように、本実施形態のメインコントローラ100は、車体8(すなわち、作業車両1)が目標ライズラン距離(目標走行距離)に到達するまでの残時間を走行残時間t
Cとして計算する走行残時間計算部111、アーム2が目標アーム角に到達するまでの残時間を作業残時間t
Iとして計算する作業残時間計算部112、作業車両1が積込作業においてライズランを行っている状態であるか否かを判定するライズラン判定部113、走行残時間計算部111で計算した走行残時間t
Cと、作業残時間計算部112で計算した作業残時間t
Iと、ライズラン判定部113で判定したライズラン判定フラグとに基づいて、走行駆動トルクを調整するための走行補正率η
Cと作業駆動トルクを調整するための作業補正率η
Iとを設定する補正率設定部114、及び、補正率設定部114で設定した走行補正率η
Cと作業補正率η
Iとに基づいて、走行駆動トルクを制御するための走行駆動トルク指令と作業駆動トルクを制御するための作業駆動トルク指令とを計算するエンジントルク配分計算部115、を備えている。
【0053】
走行残時間計算部111は、作業車両1の走行距離と車速とに基づき、走行残時間tCを計算する。走行残時間tCは例えば下記式(1)によって計算される。
【0054】
【0055】
式(1)において、dRRは目標ライズラン距離、d1はライズラン開始時刻t0から所定時間経過後の時刻t1における走行距離、v1は時刻t1における作業車両1の車速である。目標ライズラン距離は、経験値等に基づいて予め設定されたものであり、例えばオペレータがこれまでの経験値に基づいて目標ライズラン距離を設定し、設定した目標ライズラン距離をメインコントローラ100に入力する。作業車両1の車速は上記車速センサ61により検出される。なお、作業車両1の車速は、動力伝達装置を構成する軸の回転速度を検出するロータリーエンコーダ(走行状態検出装置)で検出する情報に基づいて計算されるようにしても良い。一方、走行距離は、走行電動機43の回転速度及び回転数に基づいて計算されても良く、車速センサ61により検出された車速と走行時間とに基づいて計算されても良い。
【0056】
作業残時間計算部112は、作業車両1のアーム角とアーム角速度とに基づき、作業残時間tIを計算する。作業残時間tIは例えば下記式(2)によって計算される。
【0057】
【0058】
式(2)において、θRRは目標アーム角、θ1はライズラン開始時刻t0から所定時間経過後の時刻t1におけるアーム角、vθ1は時刻t1における作業車両1のアーム角速度である。目標アーム角は、積込対象92の荷台の高さに基づいて予め設定されたものである。アーム角は、アーム相対角センサ62により検出される。アーム角速度は、アーム相対角センサ62で検出したアーム角を基にメインコントローラ100により計算される。
【0059】
ライズラン判定部113は、センサ等で検出した車体8の走行状態及び作業装置6の作業状態に基づいて、積込作業に車体8の前進走行中におけるアーム2の上昇を特定する特定条件を満たすか否かを判定する。本実施形態では、ライズラン判定部113は、センサ等で検出したアクセルペダル58の操作状態と、センサ等で検出したアーム2及びバケット3の状態とに基づいて、作業車両1がライズラン作業を行っている状態であるか否かを判定する。より具体的には、ライズラン判定部113は、バケット角θ、アクセルペダル58の操作量、及び、アーム操作レバー52の操作量に基づき、作業車両1がライズラン作業を行っている状態であるか否かを判定する。
【0060】
図6はバケット角を説明するための図である。
図6に示すように、バケット角θは、基準面90からのバケット3の傾斜角度である。本実施形態では、基準面90は地面(走行面)と平行に設定される面である。バケット3の刃部39の底面が基準面90に平行な状態では、バケット角θは0°である。クラウド動作によりバケット3が回動すると、その回動に伴ってバケット角θは増加する。換言すれば、ダンプ動作によりバケット3が回動すると、その回動に伴ってバケット角θは減少する。このバケット角θは、上記アーム相対角センサ62により検出された基準面90に対するアーム2の相対角と、上記バケット相対角センサ63により検出されたアーム2に対するバケット3の相対角とに基づいて、メインコントローラ100により計算される。
【0061】
ライズラン判定部113は、バケット角θが予め定められた第1角度閾値θa以上であり、且つ、アクセルペダル58及びアーム操作レバー52の操作量が増加したときに、ライズランが開始されたと判定し、ライズラン判定フラグをオンに設定する。ライズラン判定フラグは、作業車両1がライズランを行っている状態のときにはオンに設定され、ライズランが終了するとオフに設定される。
【0062】
第1角度閾値θaは、ライズラン開始の判定に用いられる閾値であって、作業装置6の掬い込み姿勢に基づいて設定され、メインコントローラ100のROM102に予め記憶されている。作業装置6の掬い込み姿勢は、バケット3の上面が地面に対して略平行となる姿勢である。
【0063】
また、ライズラン判定部113は、ライズランが開始されたと判定された後、バケット角θが第2角度閾値θb(例えば、0°程度)以下となったときにライズランが終了したと判定し、ライズラン判定フラグをオフに設定する。
【0064】
第2角度閾値θbは、ライズランが開始された後において、ライズランが終了したか否かを判定するための閾値であり、例えばバケット3のダンプ動作が完了し、バケット3が放土姿勢となっている状態のバケット角θを採用することができる。すなわち、ライズラン判定部113は、ライズランが開始されたと判定された後、バケット3が放土姿勢になったことが検出された場合に、ライズランが終了されたと判定する。なお、ここでは、アクセルペダル58及びアーム操作レバー52の操作量が0になったとき、ライズランが終了したと判定しても良い。
【0065】
補正率設定部114は、モード切替スイッチ54がAUTOモードに設定されている場合、走行残時間計算部111で計算した走行残時間tCと、作業残時間計算部112で計算した作業残時間tIと、ライズラン判定部113で判定したライズラン判定フラグとに基づいて、走行補正率ηCと作業補正率ηIとを設定する。走行補正率ηCと作業補正率ηIは、それぞれ0~100%の値をとる。
【0066】
具体的には、補正率設定部114は、まず走行残時間計算部111で計算した走行残時間tCと作業残時間計算部112で計算した作業残時間tIとに基づいて、下記式(3)のように残時間差分ΔtC-Iを計算する。
【0067】
【0068】
次に、補正率設定部114は、計算した残時間差分Δt
C-Iと予め作成された補正率テーブルとに基づいて、走行補正率η
Cと作業補正率η
Iとを設定する。
図7は、走行補正率η
Cと作業補正率η
Iを設定するための補正率テーブルの一例である。
図7において、破線で示すのは残時間差分Δt
C-Iと走行補正率η
Cとが対応づけられたテーブルであり、実線で示すのは残時間差分Δt
C-Iと作業補正率η
Iとが対応づけられたテーブルである。
【0069】
図7に示す補正率テーブルは、予め実験データ等に基づいて作成され、メインコントローラ100のROM102に予め記憶されている。
図7に示すように、残時間差分Δt
C-Iが大きくなるほど、作業補正率η
Iが大きくなっており、残時間差分Δt
C-Iが小さくなるほど、走行補正率η
Cが大きくなる。このようにすれば、作業車両1の積込作業時に簡易ライズランに伴う操作をした場合、走行残時間t
Cよりも作業残時間t
Iが短いほど、作業補正率η
Iが大きくなるので、作業駆動トルク(作業駆動力)を速やかに低減することができる。その結果、アーム2の上昇速度は大きく制限される。一方、走行残時間t
Cよりも作業残時間t
Iが長いほど、走行補正率η
Cが大きくなるので、走行駆動トルク(走行駆動力)を速やかに低減することができる。その結果、作業車両1の車速は大きく制限される。
【0070】
そして、ライズランに伴う操作を行っている間には、走行残時間計算部111で計算した走行残時間tCと作業残時間計算部112で計算した作業残時間tIとが変化するため、走行残時間tC及び作業残時間tIに基づいて設定された走行補正率ηC及び作業補正率ηIも変化する。
【0071】
一方、モード切替スイッチ54がMANUALモードに設定されている場合、補正率設定部114は、走行補正率ηC及び作業補正率ηIの設定実行が禁止される。この場合、走行補正率ηC及び作業補正率ηIは一定の値(例えば、0%程度)で保持される。
【0072】
エンジントルク配分計算部115は、補正率設定部114で設定した補正率ηC,ηI、エンジン出力トルクTE、補機要求トルクTAUX_REQ、作業要求トルクTI_REQ、及び走行要求トルクTC_REQに基づき、作業駆動トルク指令TI_COM及び走行駆動トルク指令TC_COMを計算する。
【0073】
エンジン出力トルクTE、補機要求トルクTAUX_REQ、作業要求トルクTI_REQ、及び走行要求トルクTC_REQは、メインコントローラ100によってそれぞれ計算される。エンジン出力トルクTEは、現在のエンジン回転速度において出力可能な最大トルクである。メインコントローラ100は、例えばROM102に記憶されているエンジン出力トルクカーブを参照し、エンジン回転速度センサで検出したエンジン回転速度に基づいてエンジン出力トルクTEを計算する。
【0074】
補機要求トルクTAUX_REQは、発電電動機40で発電した電力によって動作する複数の補機の動作状態に応じて計算される。メインコントローラ100は、エンジン回転速度の目標値(例えば、1800rpm)を設定する。メインコントローラ100で設定されたエンジン回転速度の目標値は、エンジンコントローラ(不図示)に出力される。エンジンコントローラは、エンジン回転速度センサで検出するエンジン回転速度が目標値となるように、燃料噴射装置(不図示)を制御する。
【0075】
また、メインコントローラ100は、アーム操作レバー52の操作量、及び、バケット操作レバー53の操作量に基づいて作業要求トルクT
I_REQを計算する。
図8Aは、レバー操作量とポンプ要求流量との関係を示すポンプ要求マップの一例である。このポンプ要求マップは、メインコントローラ100のROM102に予め記憶されている。メインコントローラ100は、まず、
図8Aに示すポンプ要求流量マップを参照し、レバー操作量(レバー信号)に基づいて、ポンプ要求流量を決定する。ポンプ要求流量マップは、レバー操作量にポンプ要求流量が略比例するように設定され、レバー操作量が大きくなるほど大きくなる。なお、ポンプ要求流量マップは、アーム操作レバー52の操作量に基づくマップと、バケット操作レバー53の操作量に基づくマップとがあり、それぞれのマップにより決定された流量のうち、大きい方がポンプ要求流量として決定される。
【0076】
次に、メインコントローラ100は、上記ポンプ要求流量と圧力センサにより検出された油圧ポンプ30Aの吐出圧とに基づいて油圧要求動力を計算し、計算した油圧要求動力と回転速度センサにより検出されたエンジン20の回転速度とに基づいて作業要求トルクTI_REQを計算する。作業要求トルクTI_REQは、レバー操作量が大きくなるほど大きくなる。
【0077】
また、メインコントローラ100は、走行電動機43の回転速度、及び、アクセルペダル58の操作量(アクセル信号)に基づいて、走行要求トルクT
C_REQを計算する。
図8Bは、走行電動機の回転速度と走行要求トルクとの関係を示す走行電動機43のトルクマップの一例である。このトルクマップは、メインコントローラ100のROM102に予め記憶されている。ROM102には、アクセル信号の増減に応じて走行電動機43のトルクが増減するように、アクセル信号に応じたトルクマップ(トルクカーブ)が複数記憶されている。トルクマップは、アクセル信号が大きくなるほど走行要求トルクT
C_REQが大きくなり、走行電動機43の回転速度が速くなるほど走行要求トルクT
C_REQが小さくなるように設定されている。
【0078】
また、メインコントローラ100は、アクセル信号の大きさ(アクセルペダル58の操作量の大きさ)に対応するトルクマップ(トルクカーブ)を選択し、走行電動機43の回転速度に基づいて走行要求トルクT
C_REQを計算する。例えば、アクセルペダル58がフル操作されたとき(アクセル信号が最大のとき)には、実線のトルクマップ(
図8B参照)が選択される。メインコントローラ100は、選択したトルクマップを参照し、走行電動機43の回転速度に基づいて走行要求トルクT
C_REQを計算する。なお、トランスミッションが設けられる場合、メインコントローラ100は、トランスミッションの変速比も加味して走行要求トルクT
C_REQを計算する。
【0079】
そして、エンジントルク配分計算部115は、まず、メインコントローラ100で計算した作業要求トルクTI_REQと補正率設定部114で設定した作業駆動トルクの補正率ηIとに基づいて、作業目標トルクTI_TGTを計算する。作業目標トルクTI_TGTは、例えば式(4)により計算される。
【0080】
【0081】
また、エンジントルク配分計算部115は、メインコントローラ100で計算した走行要求トルクTC_REQと補正率設定部114で設定した走行駆動トルクの補正率ηCとに基づいて、走行目標トルクTC_TGTを計算する。走行目標トルクTC_TGTは、式(5)により計算される。
【0082】
【0083】
次に、エンジントルク配分計算部115は、作業目標トルクTI_TGTと走行目標トルクTC_TGTと補機要求トルクTAUX_REQとを合計した目標トルク合計値TSUM_TGT(TSUM_TGT=TI_TGT+TC_TGT+TAUX_REQ)を計算する。そして、目標トルク合計値TSUM_TGTがエンジン出力トルクTE以下である場合、エンジントルク配分計算部115は、作業目標トルクTI_TGTを作業駆動トルク指令TI_COMとして決定し、走行目標トルクTC_TGTを走行駆動トルク指令TC_COMとして決定する。
【0084】
一方、目標トルク合計値TSUM_TGTがエンジン出力トルクTEよりも大きい場合、エンジントルク配分計算部115は、作業駆動トルク指令TI_COMと走行駆動トルク指令TC_COMと補機要求トルクTAUX_REQとを合計した指令トルク合計値TSUM_COMがエンジン出力トルクTEを超えないように、作業駆動トルク指令TI_COM及び走行駆動トルク指令TC_COMを決定する。その決定方法の一例を以下に説明する。
【0085】
エンジントルク配分計算部115は、目標トルク合計値TSUM_TGTがエンジン出力トルクTEを超えた分(TSUM_TGT-TE)に対して、所定値Yに作業補正率ηIを乗じた作業駆動トルク補正値CIと、所定値Yに走行補正率ηCを乗じた走行駆動トルク補正値CCとの和(CI+CC)が等しくなるように、所定値Yを決定する。
【0086】
このとき、エンジントルク配分計算部115は、作業駆動トルク補正値CIを作業目標トルクTI_TGTから減じた値を作業駆動トルク指令TI_COMとして決定し、走行駆動トルク補正値CCを走行目標トルクTC_TGTから減じた値を走行駆動トルク指令TC_COMとして決定する。これによって、作業駆動トルク指令TI_COMと走行駆動トルク指令TC_COMとの比率を変えることなく、指令トルク合計値TSUM_COMがエンジン出力トルクTEを超えないように、作業駆動トルク指令TI_COMと走行駆動トルク指令TC_COMが決定される。
【0087】
なお、目標トルク合計値TSUM_TGTがエンジン出力トルクTEよりも大きい場合における、作業駆動トルク指令TI_COMと走行駆動トルク指令TC_COMとの決定方法は、これに限定されない。例えばエンジントルク配分計算部115は、作業目標トルクTI_TGT及び走行目標トルクTC_TGTの一方のみを減じる補正を行うことにより、指令トルク合計値TSUM_COMがエンジン出力トルクTEを超えないように、作業駆動トルク指令TI_COM及び走行駆動トルク指令TC_COMを決定しても良い。
【0088】
以下、
図9を参照してメインコントローラ100の制御処理を説明する。
図9に示すメインコントローラ100の制御処理は、例えばイグニッションスイッチ(エンジンキースイッチ)がオンされることにより開始され、図示しない初期設定が行われた後、所定の制御周期で繰り返し実行される。なお、初期設定において、ライズラン判定フラグはオフに設定される。
【0089】
ステップS110では、走行残時間計算部111は、上述のように走行残時間tCを計算する。
【0090】
ステップS110に続くステップS120では、作業残時間計算部112は、上述のように作業残時間tIを計算する。
【0091】
ステップS120に続くステップS130では、ライズラン判定部113は、ライズラン判定フラグの設定処理を行う。このとき、ライズラン判定部113は、バケット角θが第1角度閾値θa以上でない場合、あるいは、アームシリンダ4のボトム圧が予め定められた圧力閾値未満である場合、ライズランは開始されていないと判定する。この場合、ライズラン判定部113は、ライズラン判定フラグをオフのまま保持する。
【0092】
一方、バケット角θが第1角度閾値θa以上であり、且つ、アームシリンダ4のボトム圧が予め定められた圧力閾値以上である場合、ライズラン判定部113は、ライズランが開始されたと判定する。この場合、ライズラン判定部113は、ライズラン判定フラグをオフからオンに切り替える。
【0093】
ライズラン判定フラグの設定処理が完了すると、制御処理はステップS140へ進む。ステップS140では、メインコントローラ100は、モード切替スイッチ54がAUTOモード及びMANUALモードのいずれに設定されているかを判定する。AUTOモードに設定されていると判定された場合、制御処理はステップS150へ進む。一方、MANUALモードに設定されていると判定された場合、制御処理はステップS170へ進む。
【0094】
ステップS150では、メインコントローラ100は、作業車両1が積込作業中であるか否か(言い換えれば、作業車両1がライズランを行っている状態であるか否か)を判定する。そして、ライズラン判定フラグがオンに設定されている場合、作業車両1が積込作業中である(言い換えれば、作業車両1がライズランを行っている状態である)と判定され、制御処理はステップS160へ進む。一方、ライズラン判定フラグがオフに設定されている場合、作業車両1が積込作業中でない(言い換えれば、作業車両1がライズランを行っている状態でない)と判定され、制御処理はステップS170へ進む。
【0095】
ステップS160では、補正率設定部114は、上述のように、走行残時間tCと作業残時間tIとに基づいて走行補正率ηCと作業補正率ηIとを設定する。
【0096】
ステップS160に続くステップS170では、エンジントルク配分計算部115は、上述のように、補正率ηC,ηI、エンジン出力トルクTE、補機要求トルクTAUX_REQ、作業要求トルクTI_REQ、及び走行要求トルクTC_REQに基づき、作業駆動トルク指令TI_COM及び走行駆動トルク指令TC_COMを計算する。これによって、一連の制御処理が終了する。
【0097】
エンジントルク配分計算部115で計算した作業駆動トルク指令TI_COMは、図示しないポンプコントローラに出力される。ポンプコントローラは、作業駆動トルク指令TI_COM及び油圧ポンプ30Aの吐出圧に基づいて、油圧ポンプ30Aの吐出容量(押しのけ容積)を制御するための制御信号を生成する。ポンプコントローラは、生成した制御信号を図示しないレギュレータに出力することにより、油圧ポンプ30Aの吐出容量が制御される。従って、アーム2はアームシリンダ4で発生する作業駆動力、バケット3はバケットシリンダ5で発生する作業駆動力によってそれぞれ駆動される。このように、本実施形態のメインコントローラ100は、ライズラン時の走行残時間tCと作業残時間tIとに基づいて作業補正率ηIを設定し、設定した作業補正率ηIに基づいて作業駆動トルク指令TI_COMを計算し出力することで、作業駆動トルクを制御する。
【0098】
また、エンジントルク配分計算部115で計算した走行駆動トルク指令TC_COMは、走行電動機用インバータ42に出力される。走行電動機用インバータ42は、走行駆動トルク指令TC_COMに基づいて走行電動機43を駆動させる。走行電動機43で発生したトルクは、走行装置11を構成する動力伝達装置を介して、走行装置11を構成する車輪7へと伝えられる。従って、走行装置11は走行電動機43で発生する走行駆動力によって駆動される。このように、本実施形態に係るメインコントローラ100は、ライズラン時の走行残時間tCと作業残時間tIとに基づいて走行補正率ηCを設定し、設定した走行補正率ηCに基づいて走行駆動トルク指令TC_COMを計算して出力することで、走行駆動トルクを制御する。
【0099】
以下、
図10を参照して本実施形態に係る作業車両1の作用効果を説明する。
図10では、積込対象までの路面が上り傾斜である場合を想定し、本実施形態に係る作業車両1が簡易ライズランに伴う操作を行う例を示す。また、本実施形態の作用効果をより明確にするため、AUTOモードを有していない比較例(すなわち、補正率η
C,η
Iを考慮しない従来例)と比べながら説明する。なお、本実施形態に係る作業車両1及び比較例では、各種操作部材に対するオペレータの操作手順及び操作量は同じであるものとする。
【0100】
図10において、本実施形態に係る作業車両1のメインコントローラ100の動作は実線で示し、比較例に係るメインコントローラの動作は破線で示す。
図10の横軸は、時刻(経過時間)を示す。
図10(a)の縦軸は補正率設定部114により計算された残時間差分Δt
C-Iを示し、
図10(b)の縦軸は補正率設定部114により設定された走行補正率η
Cを示し、
図10(c)の縦軸は補正率設定部114により設定された作業補正率η
Iを示し、
図10(d)の縦軸はエンジントルク配分計算部115により計算された走行駆動トルク指令T
C_COMを示し、
図10(e)の縦軸はエンジントルク配分計算部115により計算された作業駆動トルク指令T
I_COMを示す。
【0101】
また、
図10において、時刻T0は、オペレータが簡易ライズランに伴う操作を開始し、作業車両1がアーム2を上昇させつつ、車体8を前進し始めた時刻である。すなわち、時刻T0はライズラン判定フラグがオンに設定された時刻である。時刻T1は、比較例における、アーム2が放土に必要な高さまで上昇した時刻である。時刻T2は、比較例における、目標ライズラン距離まで前進した時刻である。時刻Taは、本実施形態における、アーム2が放土に必要な高さまで上昇し、且つ目標ライズラン距離まで前進した時刻である。
【0102】
図10(a)に示すように、残時間差分Δt
C-Iは時刻T0までは小さい。これは、時刻T0までは、作業車両1がライズランを開始していないためである。そして、時刻T0では、作業車両1がアーム2の上昇と車体8の前進走行を行うため、残時間差分Δt
C-Iが変動する。ここでは、積込対象までの路面が上り傾斜である場合が想定されるので、走行残時間t
Cが作業残時間t
Iより長くなり、残時間差分Δt
C-Iが急上昇する。
【0103】
図10(b)に示すように、本実施形態では、ライズラン判定フラグがオンに設定されてからオフに設定されるまでの間(時刻T0~時刻Ta)、すなわちメインコントローラ100によってライズランが行われていると判定されている間、残時間差分Δt
C-Iが大きいため、走行補正率η
Cは小さいまま(言い換えれば低いまま)である。これにより、
図10(d)に示すように、全ての期間において、本実施形態の走行駆動トルク指令は、比較例よりも高くなっている。
【0104】
一方、
図10(c)に示すように、本実施形態では、時刻T0以降から残時間差分Δt
C-Iが0になるまでの間、作業補正率η
Iが増加している。従って、
図10(e)に示すように、時刻T0以降から残時間差分Δt
C-Iが0になるまでの間、本実施形態の作業駆動トルク指令は、比較例よりも低くなっている。
【0105】
また、
図10(e)に示すように、本実施形態では、作業駆動トルク指令が比較例よりも低くなっている分、目標トルク合計値T
SUM_TGTが比較例より小さくなる。そのため、走行駆動トルク指令に配分可能なエンジン出力が増加し、
図10(d)に示すように、本実施形態の走行駆動トルク指令は、比較例よりも高くなっている。
【0106】
以上のように、積込対象までの路面の傾斜角の影響で車速が上がり難い状況において、簡易ライズランに伴う操作の場合、比較例の前進走行が完了する時刻T2は、アーム上昇が完了する時刻T1より長くなっている。つまり、アームは早い段階で上がりきっているにも関わらず、走行がもたつき積込対象92(ダンプトラック)にアプローチする時間が無駄にかかっている状態となっているのが比較例である。従って、比較例において、前進走行が完了する時刻とアーム上昇が完了する時刻とを揃えるためには、オペレータが車体の走行距離、車速、アーム角及びアーム角速度に応じて、アーム操作レバーを調整する必要がある。その結果、オペレータの負担が増大してしまう。
【0107】
それに対して、本実施形態に係る作業車両1では、メインコントローラ100が車体の走行距離、車速、アーム角、及びアーム角速度に基づいて、走行補正率ηCとの作業補正率ηIとを設定し、設定した走行補正率ηCと作業補正率ηIとに基づいて作業駆動トルク指令と走行駆動トルク指令とのバランスをとっているため、アーム上昇が完了する時刻は比較例より長くなり、前進走行が完了する時刻は比較例より短くなる。従って、本実施形態に係る作業車両1によれば、簡易ライズランに伴う操作の場合でも、前進走行が完了する時刻とアーム上昇が完了する時刻とを揃えることができるので、オペレータの負担を軽減することができる。
【0108】
また、このように作業駆動トルク指令と走行駆動トルク指令とのバランスをとっているため、比較例と比べて本実施形態の作業車両1のライズランに要する時間が短く(ΔT
P=T2-Ta、
図10参照)なり、作業車両1の積込作業の作業効率を向上することができる。更に、ライズランに要する時間が短縮される分、エンジン、油圧ポンプ、及び発電機等に供給するエンジントルクを節約できるので、比較例と比べて燃費を向上することができる。
【0109】
以上のように、本実施形態の作業車両1によれば、ライズランの際に、作業車両1の走行距離、車速、アーム角、及びアーム角速度に基づいて補正率ηC,ηIが設定されるので、オペレータの熟練度に依らずに、ライズラン時のアーム上昇が完了する時刻と前進走行が完了する時刻とを同等に近づけることができる。その結果、オペレータの負担の軽減、作業効率の向上、及び燃費の向上を図ることができる。
【0110】
また、走行駆動トルクと作業駆動トルクとの両方が補正率ηC,ηIで調整されるので、仮にアーム上昇が完了する時刻が前進走行が完了する時刻より長くなる場合であっても、アーム上昇が完了する時刻と前進走行が完了する時刻とを同等に近づけることができるので、オペレータの負担を軽減することが可能である。更に、走行駆動トルクと作業駆動トルクとの両方が補正率ηC,ηIで逐次調整されるため、仮に途中で傾斜角が異なる路面状況の場合であっても、オペレータの負担の軽減を図ることができる。更に、本実施形態の作業車両1によれば、バケット3に入れた運搬物の量や路面状況が積込サイクルごとに変化する場合、あるいは、ライズランの動作中にリアルタイムで変化する場合であっても、走行駆動トルクと作業駆動トルクとのバランスが適切な値に近づけられるため、オペレータの負担を軽減できる。
【0111】
[第2実施形態]
以下、
図11を参照して第2実施形態に係る作業車両1を説明する。本実施形態の作業車両1は、第1実施形態の作業車両1と同様の構成を有するが、メインコントローラ100の処理が第1実施形態と異なっている。
【0112】
具体的には、
図11に示すように、ライズラン判定フラグがオンに設定された時刻T0から所定時間ΔTq経過後の時刻Tbにおいて、走行残時間計算部111は走行残時間t
C、作業残時間計算部112は作業残時間t
Iをそれぞれ計算する。補正率設定部114は、計算された走行残時間t
Cと作業残時間t
Iとに基づいて、作業補正率η
Iと走行補正率η
Cとを設定する。設定された補正率η
C,η
Iは、ライズラン判定フラグがオンからオフに切り替わるまで保持される。メインコントローラ100は、ライズラン判定フラグがオンからオフに設定されると、補正率η
C,η
Iを基準値η
C0,η
I0に初期化する。
【0113】
所定時間ΔTqは、作業車両1の作業内容、性能、メインコントローラ100の計算能力等に応じて適宜設定することができる。また、計算精度を高めるためには、所定時間ΔTqは長い方が良く、例えば0.1秒程度確保することにより、ある程度の計算精度で走行残時間tCと作業残時間tIとを計算することができる。また、作業車両1がライズランを開始してから終了するまでの時間(時刻T0~時刻Ta)は、おおよそ10秒程度である。このため、所定時間ΔTqは、0.1秒以上10秒以下の値とするのが好ましい。
【0114】
また、オペレータが作業車両1のアーム操作レバー52を操作してから、アーム2が動作し始めるまでの時間は、おおよそ0.5秒であり、アーム2を動作させるための油圧が増加しきるまでの時間は、おおよそ1.5秒である。このため、所定時間ΔTqは0.5秒以上1.5秒以下の範囲で設定するのが更に好ましい。
【0115】
メインコントローラ100は、時刻Tbで計算された走行残時間tCと作業残時間tIとに基づいて設定された補正率ηC,ηIを、ライズラン判定フラグがオンからオフに切り替わるまで保持する。これによって、ライズランの動作中にオペレータがアクセルペダル58を離したりアーム操作レバー52を元の位置に戻したりし、あるいは、ライズランの動作中に一時的に作業車両1の車速が低くなったりアーム角速度が低くなったとしても、補正率ηC,ηIは変わらない。従って、例えば1回の積込作業において、オペレータが作業車両1を複数回前後進させたり、ライズランを中断したりするような場合に、2回目以降の作業時に予め適切な補正率ηC,ηIを設定しておくことができる。
【0116】
本実施形態の作業車両1によれば、第1実施形態と同様の作用効果を得られるほか、上述したように多くの作業パターンで積込作業を行うことができるので、積込作業の自由度を向上することができる。
【0117】
[第3実施形態]
以下、
図12を参照して第3実施形態に係る作業車両1を説明する。本実施形態の作業車両1は、補正率設定部114Aによる走行補正率及び作業補正率の設定方法において、第1実施形態と異なっている。
【0118】
具体的には、
図12に示すように、ライズラン判定フラグがオンに設定されている場合、補正率設定部114Aは、走行残時間計算部111で計算した走行残時間t
Cと作業残時間計算部112で計算した作業残時間t
Iとに基づいて走行補正率及び作業補正率を設定する際に、
図7の補正率テーブルを参照して設定した補正率η
Cにアクセルペダル58の操作量の比率η
accを乗じたものを走行補正率η
C′(η
C′=η
C×η
acc)として設定し、設定した走行補正率η
C′をエンジントルク配分計算部115に出力する。同様に、補正率設定部114Aは、
図7の補正率テーブルを参照して設定した補正率η
Iにアーム操作レバー52の操作量の比率η
armを乗じたものを作業補正率η
I′(η
I′=η
I×η
arm)として設定し、設定した作業補正率η
I′をエンジントルク配分計算部115に出力する。なお、アクセルペダル58の操作量の比率η
acc、及びアーム操作レバー52の操作量の比率η
armは、例えば経験値等に基づいて設定され、メインコントローラ100のROM102に予め記憶されている。
【0119】
このようにすることで、本実施形態のメインコントローラ(制御装置)100Aは、アーム2を駆動させるアーム操作レバー52の操作量が少ないほど作業駆動トルクが小さくなるように、作業駆動トルクを制御し、車輪7を駆動させるアクセルペダル58の操作量が少ないほど走行駆動トルクが小さくなるように、走行駆動トルクを制御する。従って、オペレータが作業車両1を操作したい意思と直結する操作部の操作量と、ライズラン制御における補正率とが比例するようになるので、オペレータの意思をより反映させることができ、オペレータが感じる違和感を低減することができる。
【0120】
なお、本発明は様々な変形例も考えられる。
【0121】
[変形例1]
例えば、エンジントルク配分計算部115による作業駆動トルク指令TI_COM及び走行駆動トルク指令TC_COMの計算方法は、上記実施形態で説明したものに限定されない。エンジントルク配分計算部115は、補正率設定部114で設定した走行補正率ηC及び作業補正率ηI、エンジン出力トルクTE、補機要求トルクTAUX_REQ、作業要求トルクTI_REQ、並びに走行要求トルクTC_REQに基づき、以下のように作業駆動トルク指令TI_COM及び走行駆動トルク指令TC_COMを計算しても良い。
【0122】
具体的には、エンジントルク配分計算部115は、まず作業要求トルクTI_REQ、走行要求トルクTC_REQ及び補機要求トルクTAUX_REQを合計した要求トルク合計値TSUM_REQ(TSUM_REQ=TI_REQ+TC_REQ+TAUX_REQ)を計算する。
【0123】
次に、エンジントルク配分計算部115は、計算した要求トルク合計値TSUM_REQがエンジン出力トルクTE以下である場合、エンジン出力トルクTEと要求トルク合計値TSUM_REQの差分値ΔTEの分だけ、走行補正率ηC及び作業補正率ηIに応じて作業要求トルクTI_REQ及び走行要求トルクTC_REQから所定量を増加させることにより、作業目標トルクTI_TGT及び走行目標トルクTC_TGTを計算する。この場合、エンジントルク配分計算部115は、補機要求トルクTAUX_REQ、作業目標トルクTI_TGT、及び走行目標トルクTC_TGTを合計した目標トルク合計値TSUM_TGTがエンジン出力トルクTEと等しくなるようにする。
【0124】
このようにすれば、ライズランにおいて、前進走行が完了する時刻とアーム上昇が完了する時刻とを揃える効果に加え、ライズランの所要時間を短縮することができるので、作業効率の向上効果を更に高めることができる。
【0125】
[変形例2]
また、上記実施形態では、走行装置11に動力を供給する走行原動機として、走行電動機43を用いた例を説明したが、走行原動機は複数であっても良い。例えば前輪7Aに1対1で直結する走行電動機43を2つ用いた構成としたり、4つの車輪7に1対1で直結する走行電動機43を4つ用いた構成としたり、あるいは前輪7Aや後輪7Bと走行電動機43を一体化した構成としたりすることができる。
【0126】
[変形例3]
また、上記実施形態では、作業装置6を駆動させる駆動システムが、油圧ポンプ30Aから吐出される作動油をアームシリンダ4及びバケットシリンダ5によって機械的なエネルギに変換することで、エンジン20の動力を作業装置6に伝達する油圧駆動システムの例を説明したが、本発明はこれに限定されない。作業装置6を駆動する駆動システムは、電動駆動システムであっても良い。例えば、アームシリンダ4及びバケットシリンダ5は、油圧シリンダではなく、発電電動機40で発生する電力により駆動される電動シリンダとすることができる。
【0127】
[変形例4]
また、上記実施形態では、発電電動機用インバータ41と走行電動機用インバータ42とが直流部44によって接続される例を説明したが、本発明はこれに限定されない。発電電動機用インバータ41と走行電動機用インバータ42とは、マトリクスコンバータに代表される直流部を介さない電力変換装置であっても良い。
【0128】
[変形例5]
また、上記実施形態では、直流部44に接続される蓄電装置を備えない作業車両1の例を説明したが、本発明はこれに限定されない。二次電池、キャパシタ等の蓄電素子を有する蓄電装置を直流部44に接続して、直流部44の電圧を制御したり電力を供給したりする作業車両に本発明を適用することもできる。
【0129】
[変形例6]
また、ライズランが開始されたことを判定する方法、及び、走行残時間と作業残時間とを計算する方法は、上記実施形態で説明した方法に限定されない。例えば、作業車両1の前方を監視するためのカメラ等の撮影装置(作業状態検出装置)で撮影された画像データに基づいて、ライズランが開始されたか否かを判定し、走行残時間と作業残時間とを計算しても良い。また、作業車両1の前方を監視する赤外線センサ(走行状態検出装置)で検出した情報に基づいて、ライズランが開始されたか否かを判定し、走行残時間と作業残時間とを計算しても良い。
【0130】
[変形例7]
また、上記実施形態において、各種判定及び計算に用いる値は、外乱及びノイズの影響を避けるため、移動平均処理やローパスフィルタ処理をしても良い。また、補正率ηC,ηIに移動平均処理やローパスフィルタ処理をすることで、ライズラン開始直後において車速またはアーム角速度が急変することに起因した補正率ηC,ηIの急激な変動を抑制することができるので、操作性の向上を図ることができる。
【0131】
[変形例8]
また、上記実施形態において、電動駆動式のホイールローダに適用する例を説明したが、本発明は油圧駆動式のホイールローダにも適用することができる。例えば、走行用油圧ポンプと走行用油圧モータとが互いに閉回路接続されて構成され、エンジン20の動力を油圧に変換して車輪7に伝達するHST(Hydraulic Static Transmission)式動力伝達装置を走行装置として採用したホイールローダに本発明を適用しても良い。この場合、HST油圧ポンプが二次原動機に相当する。
【0132】
[変形例9]
また、上記実施形態では、補正率設定部114が走行残時間と作業残時間とに基づいて補正率ηC,ηIを設定する例を説明したが、本発明はこれに限定されない。補正率設定部114は、車速とアーム角速度、もしくは、走行距離とアーム角に基づいて、補正率ηC,ηIを設定しても良い。この場合、メインコントローラ100の制御処理の量を減らすことができるので、メインコントローラ100の処理速度を向上することができる。
【0133】
[変形例10]
また、上記実施形態で説明したメインコントローラ100の機能は、それらの一部又は全部をハードウェア(例えば各機能を実行するロジックを集積回路で設計される装置等)で実現するようにしても良い。
【0134】
[変形例11]
更に、上記実施形態では、エンジントルク配分計算部115が、走行要求トルクTC_REQ及び走行補正率ηCに基づいて走行目標トルクTC_TGTを計算し、作業要求トルクTI_REQ及び作業補正率ηIに基づいて作業目標トルクTI_TGTを計算する例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば補正率設定部114で設定した走行補正率ηC及び作業補正率ηIがエンジントルク配分計算部115に出力されずに、メインコントローラ100は、走行補正率ηCをアクセルペダル58の操作量に乗算したものを走行要求トルクTC_REQとして計算し、作業補正率ηIをアーム操作レバー52の操作量に乗算したものを作業要求トルクTI_REQとして計算しても良い。
【0135】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。上述した実施形態及び変形例は本発明を理解し易く説明するために例示したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、ある実施形態、変形例の構成の一部を他の実施形態、変形例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態、変形例の構成に他の実施形態、変形例の構成を加えることも可能である。なお、図中に示した制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上で必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際にはほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えても良い。
【符号の説明】
【0136】
1 作業車両
2 アーム
3 バケット
4 アームシリンダ
5 バケットシリンダ
6 作業装置
7 車輪
8 車体
11 走行装置
15 ステアリングシリンダ
17 ブレーキシリンダ
18 駐車ブレーキシリンダ
20 エンジン
30A 油圧ポンプ(作業原動機)
30B,30C 油圧ポンプ
40 発電電動機(走行原動機)
41 発電電動機用インバータ
42 走行電動機用インバータ
43 走行電動機(走行原動機)
51 前後進スイッチ
52 アーム操作レバー
53 バケット操作レバー
54 モード切替スイッチ(モード切替装置)
58 アクセルペダル
61 車速センサ(走行状態検出装置)
62 アーム相対角センサ(作業状態検出装置)
63 バケット相対角センサ(作業状態検出装置)
100,100A メインコントローラ(制御装置)
111 走行残時間計算部
112 作業残時間計算部
113 ライズラン判定部
114,114A 補正率設定部
115 エンジントルク配分計算部