(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148076
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20220929BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
B60C11/00 B
B60C1/00 A
B60C11/00 D
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049605
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】石田 拓馬
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA03
3D131AA04
3D131BA01
3D131BA04
3D131BB03
3D131BC02
3D131BC13
3D131BC31
3D131EA02U
3D131EA10U
(57)【要約】
【課題】耐久性および操縦安定性を良好に発揮しながら、低転がり抵抗性能を改善し、これら性能を高度に両立することを可能にした空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】アンダートレッド層12を、ジエン系ゴム100質量部に対して、窒素吸着比表面積N
2 SAが20m
2 /g~85m
2 /gであり、且つ、DBP吸収量が90mL/100g~200mL/100gであるカーボンブラック15質量部~45質量部と、シリカ3質量部~30質量部と、シリカの配合量の5質量%~15質量%のシランカップリング剤とが配合されたゴム組成物で構成し、アンダートレッドゴムの硬度Huとキャップトレッドゴムの弾性率Ecおよび硬度Hcとから算出される割合αを110~140にし、溝下ゴムゲージG1とアンダートレッド層の厚さG2との比G2/G1を0.55以上0.80以下にする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、前記トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、前記一対のサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記トレッド部が、前記トレッド部の踏面を構成するキャップトレッド層と、前記キャップトレッド層のタイヤ径方向内側に配置されたアンダートレッド層との2層で構成された空気入りタイヤにおいて、
前記アンダートレッド層は、ジエン系ゴム100質量部に対して、窒素吸着比表面積N2 SAが20m2 /g~85m2 /gであり、且つ、DBP吸収量が90mL/100g~200mL/100gであるカーボンブラック15質量部~45質量部と、シリカ3質量部~30質量部と、前記シリカの配合量の5質量%~15質量%のシランカップリング剤とが配合されたゴム組成物で構成され、
前記アンダートレッド層を構成するゴム組成物の硬度Huと前記キャップトレッド層を構成するゴム組成物の弾性率Ecおよび硬度Hcとから下記式(1)によって算出される割合αが110~140であり、
前記トレッド部の外表面に形成された溝の下方における前記キャップトレッド層および前記アンダートレッド層の厚さの合計G1とアンダートレッド層の厚さG2との比G2/G1が0.55以上0.80以下であることを特徴とする空気入りタイヤ。
α=Hu/(Ec×Hc)×1000 ・・・(1)
【請求項2】
前記ジエン系ゴムが、天然ゴム80質量%~100質量%と、ブタジエンゴム20質量%~0質量%とからなることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ジエン系ゴムが、天然ゴムのみで構成されていることを特徴とする請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部がキャップトレッド層とアンダートレッド層とからなる積層構造を有する空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
トラックやバス等の車両に使用される空気入りタイヤ(トラック・バス用タイヤ)は、基本性能として、耐久性や操縦安定性に優れることが求められる。一方で、近年、地球環境問題への関心の高まりに伴い、トラック・バス用タイヤにおいても、低燃費性能を改善することが強く求められている。
【0003】
これら性能を両立するために、空気入りタイヤのトレッド部をキャップトレッド層とアンダートレッド層とからなる積層構造にし、路面に当接するキャップトレッド層で基本性能を担保する一方で、キャップトレッド層の内周側に配置されるアンダートレッド層で低発熱化を図ることが検討されている。例えば、特許文献1では、アンダートレッド層を構成するゴムとして低発熱性のゴムを使用することで、タイヤ全体の低燃費化を図っている。しかしながら、低発熱性のゴムは、硬度や弾性率が低い傾向があるため、単に低発熱性のゴムをアンダートレッド層に使用しただけでは、耐久性や操縦安定性に影響が出る虞があった。そのため、トラック・バス用タイヤにおいて、耐久性や操縦安定性を損なうことなく、低燃費性能(低転がり抵抗性能)を改善し、これら性能を高度に両立する対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐久性および操縦安定性を良好に発揮しながら、低転がり抵抗性能を改善し、これら性能を高度に両立することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、前記トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、前記一対のサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記トレッド部が、前記トレッド部の踏面を構成するキャップトレッド層と、前記キャップトレッド層のタイヤ径方向内側に配置されたアンダートレッド層との2層で構成された空気入りタイヤにおいて、前記アンダートレッド層は、ジエン系ゴム100質量部に対して、窒素吸着比表面積N2 SAが20m2 /g~85m2 /gであり、且つ、DBP吸収量が90mL/100g~200mL/100gであるカーボンブラック15質量部~45質量部と、シリカ3質量部~30質量部と、前記シリカの配合量の5質量%~15質量%のシランカップリング剤とが配合されたゴム組成物で構成され、前記アンダートレッド層を構成するゴム組成物の硬度Huと前記キャップトレッド層を構成するゴム組成物の弾性率Ecおよび硬度Hcとから下記式(1)によって算出される割合αが110~140であり、前記トレッド部の外表面に形成された溝の下方における前記キャップトレッド層および前記アンダートレッド層の厚さの合計G1とアンダートレッド層の厚さG2との比G2/G1が0.55以上0.80以下であることを特徴とする。
α=Hu/(Ec×Hc)×1000 ・・・(1)
【発明の効果】
【0007】
本発明の空気入りタイヤは、トレッド部をキャップトレッド層とアンダートレッド層の2層で構成し、アンダートレッド層を上述の配合からなるゴム組成物で構成し、更に、上記式(1)によって算出される割合αと上述の比G2/G1とを適正な範囲に設定しているため、耐久性および操縦安定性を良好に発揮しながら、低転がり抵抗性能を改善し、これら性能を高度に両立することができる。特に、上述の配合であることで、アンダートレッド層を構成するゴムが低発熱性になり、転がり抵抗を効果的に低減することができ、上述の割合αが十分に大きいことで操縦安定性を効果的に向上することができ、上述の比が適度な範囲であることで、耐久性を向上しながら、低発熱化を図ることができ、これらの協働により、優れた耐久性、操縦安定性、および低転がり抵抗性能をバランスよく高度に両立することができる。
【0008】
尚、本発明において、カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2 SAは、JIS K6217‐2に準拠して測定するものとする。カーボンブラックのDBP吸収量は、JIS K6217‐4に準拠して、測定するものとする。弾性率Ecは、キャップトレッド層を構成するゴム組成物の動的貯蔵弾性率〔単位:MPa〕であり、JIS‐K6394に準拠して、粘弾性スペクトロメータを用い、周波数20Hz、初期歪み10%、動歪±2%、温度20℃の条件で測定するものとする。硬度Hu,Hcは、各ゴム層(アンダートレッド層、キャップトレッド層)を構成するゴム組成物のJIS‐A硬度であり、JIS K6253に準拠しデュロメータのタイプAにより温度20℃で測定されたゴムの硬さである。
【0009】
本発明においては、ジエン系ゴムが、天然ゴム80質量%~100質量%と、ブタジエンゴム20質量%~0質量%とからなることが好ましい。特に、ジエン系ゴムが、天然ゴムのみ(即ち、天然ゴム100質量%、且つ、ブタジエンゴム0質量%)で構成されていることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の空気入りタイヤの一例を示す子午線半断面図である。
【
図2】
図1のトレッド部の一部を拡大して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
図1に示すように、本発明の空気入りタイヤは、トレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。
図1において、符号CLはタイヤ赤道を示す。尚、
図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。以下、
図1を用いた説明は基本的に図示の子午線断面形状に基づくが、各タイヤ構成部材はいずれもタイヤ周方向に延在して環状を成すものである。
【0013】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りに車両内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより挟み込まれている。
【0014】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(
図1では4層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は所定の方向に配向された複数本の補強コード(スチールコード)を含む。複数のベルト層7の中には交差ベルト対が必ず含まれる。交差ベルト対とは、タイヤ周方向に対する補強コードの傾斜角度が10°~40°の範囲に設定され、且つ、層間で補強コードの傾斜方向が逆転することで補強コードどうしが互いに交差するように構成された少なくとも2層のベルト層の組み合わせである。交差ベルト対の他には、タイヤ周方向に対する補強コードの傾斜角度が40°~70°の範囲に設定された高角度ベルト層や、最外層に配置されて他のベルト層の85%以下の幅を有する保護ベルト層や、タイヤ周方向に対する補強コードの角度が0°~5°の範囲に設定された周方向補強層などを任意で設けることもできる。例えば、
図1では、最外層に1層の保護ベルト層が配置され、且つ、最内層に1層の高角度ベルト層が配置されており、他の2層が交差ベルト対である。更に、ベルト層7の外周側にはベルト補強層(不図示)を設けることもできる。ベルト補強層は、例えばタイヤ周方向に配向する有機繊維コードで構成することができる。ベルト補強層8を構成する有機繊維コードについては、タイヤ周方向に対する角度を例えば0°~5°に設定することができる。
【0015】
以降の説明では、これらベルト層7およびベルト補強層8を総称して補強層という場合がある。本発明では、補強層として、ベルト層7のみを設けても、ベルト層7およびベルト補強層8の両者を設けてもよい。以降の説明における「補強層の外周側」とは、ベルト層7のみを設ける場合は、ベルト層7(複数のベルト層7のうちタイヤ径方向最外側の層)の外周側を意味し、ベルト層7およびベルト補強層8の両者を設ける場合は、ベルト補強層8(複数のベルト補強層8のうちタイヤ径方向最外側の層)の外周側を意味する。
【0016】
トレッド部1において、上述のカーカス層4および補強層(ベルト層7、ベルト補強層8)の外周側にはトレッドゴム層10が配置される。本発明では、トレッドゴム層10は、物性の異なる2種類のゴム層(キャップトレッド層11およびアンダートレッド層12)がタイヤ径方向に積層した構造を有する。キャップトレッド層11は、アンダートレッド層12の外周側に配置されてトレッド部1の踏面を構成する。アンダートレッド層12は、キャップトレッド層11と前述の補強層との間に挟まれる。尚、サイドウォール部2におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはサイドゴム層20が配置され、ビード部3におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはリムクッションゴム層30が配置されている。
【0017】
トレッド部1の外表面には溝40を任意の本数で形成することができる。溝40とは、タイヤ周方向に延びる周方向溝と、タイヤ幅方向に延びるラグ溝を指す。
図1は子午線断面図であるため、溝40として周方向溝のみが描写されており、ラグ溝は図示されていない。これら溝40によって、トレッド部1には様々な陸部50を形成することができる。陸部50とは、例えば、タイヤ周方向に沿って延在するリブ状の陸部50や、周囲が溝40によって区画されたブロック状の陸部50などである。
図1に示されるように、溝40の下方域および陸部50の下方域の全領域において、トレッドゴム層10は、キャップトレッド層11およびアンダートレッド層12がタイヤ径方向に積層した構造を有している。
【0018】
本発明は、トレッド部1に関するものであるので、他の部位や構成部材については、上述の構造に限定されない。尚、以降の説明では、キャップトレッド層11を構成するゴム組成物をキャップトレッドゴム、アンダートレッド層12を構成するゴム組成物をアンダートレッドゴムという場合がある。
【0019】
アンダートレッド層12を構成するゴム組成物において、ゴム成分は、ジエン系ゴムである。ジエン系ゴムとしては、天然ゴムを必ず使用し、任意でブタジエンゴムを併用することができる。
【0020】
アンダートレッドゴムに用いる天然ゴムとしては、タイヤ用ゴム組成物に一般的に用いられるものを使用することができる。天然ゴムを含むことにより、耐久性をより優れたものにすることができる。天然ゴムの含有量は、ジエン系ゴム100質量%中、好ましくは80質量%~100質量%、より好ましくは100質量%である。天然ゴムの含有量が80質量%未満であると、耐久性を十分に改良することができない。
【0021】
アンダートレッドゴムに用いるブタジエンゴムとしては、タイヤ用ゴム組成物に一般的に用いられるもの、例えば、未変性のブタジエンゴム、変性ブタジエンゴムを使用することができる。ブタジエンゴムを含むことにより低転がり抵抗性をより優れたものにすることができるが、アンダートレッドゴムとして用いることを考慮するとブタジエンゴムの配合量は少ない方が好ましい。ブタジエンゴムの含有量は、ジエン系ゴム100質量%中、好ましくは20質量%~0質量%、より好ましくは0質量%である。ブタジエンゴムの含有量が20質量%を超えると、低転がり抵抗性を十分に改良することができない。また、ブタジエンゴムの含有量が増える分、前述の天然ゴムの含有量が減少するため、耐久性を確保することも難しくなる。
【0022】
アンダートレッドゴムには、シリカおよびカーボンブラックが必ず配合される。カーボンブラックおよびシリカを配合することにより、ゴム組成物の発熱性を小さくしながら、ゴム硬度、引張り破断強度、引張り破断伸び等の機械的物性を改良し、タイヤ耐久性を向上することができる。特に、アンダートレッドゴムでは、後述のように粒子径が大きく、かつ比較的ハイストラクチャーであるカーボンブラックを用いることで、ゴム組成物のtanδ(60℃)を小さくしながら、ゴム硬度、引張り破断強度、引張り破断伸びなどの機械的特性を良好に維持することができる。シリカとしては、タイヤ用ゴム組成物に通常用いられるシリカを配合することができ、例えば湿式法シリカ、乾式法シリカ、或いは表面処理シリカなどを使用することができる。
【0023】
アンダートレッドゴムに使用するカーボンブラックは、窒素吸着比表面積N2 SAが20m2 /g~85m2 /g、好ましくは30m2 /g~85m2 /g、より好ましくは30m2 /g~75m2 /gである。N2 SAが20m2 /g未満であると、ゴム組成物のゴム硬度、引張り破断強度、耐摩耗性などの機械的特性が低下する。N2 SAが85m2 /gを超えると、tanδ(60℃)が大きくなり、発熱性が悪化する。
【0024】
アンダートレッドゴムに使用するカーボンブラックのDBP吸収量は、90mL/100g~200mL/100g、好ましくは105mL/100g~200mL/100g、より好ましくは105mL/100g~160mL/100gである。DBP吸収量が90mL/100g未満であると、カーボンブラックの補強性能が十分に得られず、タイヤ耐久性が低下する。DBP吸収量が200mL/100gを超えると、ゴム組成物の成形加工性が低下し、引張り破断強度、引張り破断伸びなどの機械的特性が低下しタイヤ耐久性が悪化する。またゴム組成物の粘度が上昇して加工性が悪化する。
【0025】
カーボンブラックの配合量は、前述のジエン系ゴム100重量部に対して、15質量部~45質量部、好ましくは20質量部~40質量部、より好ましくは30質量部~40質量部である。カーボンブラックの配合量が15質量部未満であると、ゴム組成物に対する補強性能を十分に得ることができず、ゴム硬度、引張り破断強度が不足する。カーボンブラックの配合量が45質量部を超えるとゴム組成物の発熱性が大きくなると共に、引張り破断伸びが低下する。
【0026】
シリカの配合量は、前述のジエン系ゴム100重量部に対して、3質量部~30質量部、好ましくは5質量部~25質量部、より好ましくは7質量部~23質量部である。シリカの配合量をこのような範囲にすることにより、タイヤにしたときの低転がり抵抗と耐久性とを両立することができる。シリカの配合量が3質量部未満であると、発熱性が大きくなりタイヤにしたときの転がり抵抗を十分に小さくすることができない。また、ゴム組成物の引張り破断強度が低下する。シリカの配合量が30質量部を超えると、引張り破断強度が低下し、タイヤにしたときの耐久性が低下する。
【0027】
シリカおよびカーボンブラックの配合量の合計は、前述のジエン系ゴム100重量部に対して、好ましくは20質量部~75質量部、より好ましくは25質量部~70質量部である。シリカおよびカーボンブラックの合計量をこのような範囲にすることにより、ゴム組成物の低転がり抵抗及び耐久性をより高いレベルでバランスさせることができる。シリカおよびカーボンブラックの合計が20質量部未満であると、タイヤ耐久性を確保することができない。シリカおよびカーボンブラックの合計が75質量部を超えると、発熱性が大きくなり転がり抵抗が悪化する。
【0028】
アンダートレッドゴムには、シリカと共にシランカップリング剤が必ず配合される。これにより、シリカの分散性を向上しゴム成分との補強性をより高くすることができる。シランカップリング剤の配合量は、シリカ量に対して5質量%~15質量%、好ましくは7質量%~13質量%である。シランカップリング剤の配合量がシリカ重量の5質量%未満であると、シリカの分散性を向上する効果が十分に得られない。また、シランカップリング剤の配合量が15質量%を超えると、シランカップリング剤同士が縮合してしまい、所望の効果を得ることができなくなる。
【0029】
シランカップリング剤としては、特に制限されるものではないが、硫黄含有シランカップリング剤を好適に用いることができる。硫黄含有シランカップリング剤としては、例えば、ビス-(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等を例示することができる。
【0030】
本発明の空気入りタイヤにおいて、キャップトレッド層11を構成するゴム組成物における配合は特に限定されず、空気入りタイヤのキャップトレッドに通常用いるゴム組成物を適用することができる。
【0031】
本発明において、キャップトレッド層11を構成するゴム組成物およびアンダートレッド層12を構成するゴム組成物のいずれも、上述の配合剤の他に、加硫または架橋剤、加硫促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲内で配合することができる。またこれら添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫または架橋するのに使用することができる。これら添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。タイヤ用ゴム組成物は、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0032】
本発明の空気入りタイヤのトレッド部1は、キャップトレッド層11とアンダートレッド層12とが積層されるため、アンダートレッドゴムとキャップトレッドゴムとが組み合わせて使用される。その際、アンダートレッド層12を構成するゴム組成物(アンダートレッドゴム)の硬度を硬度Huとし、キャップトレッド層を構成するゴム組成物(キャップトレッドゴム)の弾性率および硬度をそれぞれ弾性率Ecおよび硬度Hcとすると、これら弾性率および硬度を用いて下記式(1)で算出される割合αは110~140、好ましくは115~140、より好ましくは115~135に設定される。このように割合αを適切な範囲に設定することで、操縦安定性を効果的に向上することができる。割合αが式(1)を満たさないと操縦安定性を良好に発揮することが難しくなる。
【0033】
尚、アンダートレッドゴムの硬度Hu、キャップトレッドゴムの弾性率Ecおよび硬度Hcの個々の値は特に限定されないが、アンダートレッドゴムの硬度Huは例えば55~70、キャップトレッドゴム弾性率Ecは例えば5.0MPa~15.0MPa、キャップトレッドゴムの硬度Hcは例えば55~75に設定することができる。また、上述の式(1)には関与しないが、アンダートレッドゴムの弾性率を弾性率Euとすると、弾性率Euは例え2.0MPa~10.0MPaに設定することができる。弾性率Euは、弾性率Ecと同様に、JIS‐K6394に準拠して、粘弾性スペクトロメータを用い、周波数20Hz、初期歪み10%、動歪±2%、温度20℃の条件で測定した値である。
【0034】
更に、本発明の空気入りタイヤのトレッド部1には、上述のように溝40が形成されるが、
図2に示すように、トレッド部1の外表面に形成された溝40の下方域におけるキャップトレッド層11およびアンダートレッド層12の厚さの合計をG1、トレッド部1の外表面に形成された溝40の下方域におけるアンダートレッド層12の厚さをG2とすると、これらの比G2/G1は0.55以上0.80以下、好ましくは0.58以上0.75以下、より好ましくは0.58以上0.72以下に設定される。このようにゴム厚さの関係(比G2/G1)を規定することで、耐久性を向上しながら、低発熱化を図ることができる。比G2/G1が0.55未満であるとアンダートレッドゴムの量が不十分になるため、上述の配合からなる低発熱性のアンダートレッドゴムによって転がり抵抗を低減する効果が十分に見込めなくなる。比G2/G1が0.80を超えると、アンダートレッド層12が厚くなりすぎて十分な耐久性を得ることが難しくなる。
【0035】
アンダートレッド層12の厚みに関して、更に、
図2に示すように、トレッド部1の外表面に形成された陸部50の下方域におけるアンダートレッド層12の厚さをG3とすると、これらの比G3/G1は好ましくは0.45以上0.95以下、より好ましくは0.50以上0.90以下であるとよい。このようにゴム厚さの関係(比G3/G1)を規定することで、耐久性を向上しながら、低発熱化を図るには有利になる。比G3/G1が0.45未満であるとアンダートレッドゴムの量が不十分になるため、上述の配合からなる低発熱性のアンダートレッドゴムによって転がり抵抗を低減する効果が十分に見込めなくなる。比G3/G1が0.95を超えると、アンダートレッド層12が厚くなりすぎて十分な耐久性を得ることが難しくなる。
【0036】
尚、前述のG1は、
図2に示すように、当該タイヤに設けられた補強層(ベルト層7またはベルト補強層8)のうち最外周側に位置する補強層の外表面からトレッド部1に形成された溝40の溝底まで、前述の補強層の外表面の垂線に沿って測定した距離である。前述のG2は、当該タイヤに設けられた補強層(ベルト層7またはベルト補強層8)のうち最外周側に位置する補強層の外表面からキャップトレッド層11とアンダートレッド層12との境界まで、前述のG1と同じ位置で、前述の補強層の外表面の垂線に沿って測定した距離である。前述のG3は、当該タイヤに設けられた補強層(ベルト層7またはベルト補強層8)のうち最外周側に位置する補強層の外表面からキャップトレッド層11とアンダートレッド層12との境界まで、トレッド部1に形成された陸部50の下方域で、前述の補強層の外表面の垂線に沿って測定した距離(最大値)である。G1,G2,G3は、上述の関係を満たしていれば特に限定されないが、G1は例えば1.0mm~10.0mm、G2は例えば1.0mm~10.0mm、G3は例えば1.0mm~10.0mmに設定することができる。
【0037】
本発明の空気入りタイヤは、アンダートレッド層12が上述の配合からなるゴム組成物で構成されることに加えて、上記式(1)によって算出される割合αと上述の比G2/G1等が適正な範囲に設定されるため、これらの協働により、優れた耐久性、操縦安定性、および低転がり抵抗性能をバランスよく高度に両立することができる。
【0038】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0039】
表1に示す配合からなる16種類のタイヤ用ゴム組成物(標準例1、比較例1~4、実施例1~11)をそれぞれアンダートレッド層(アンダートレッドゴム)に使用し、
図1に示す基本構造を有し、タイヤサイズが275/80R22.5 151/148Jである空気入りタイヤ(試験タイヤ)を製造した。尚、これら16種類のタイヤ用ゴム組成物を調製する際には、それぞれ加硫促進剤および硫黄を除く配合成分を秤量し、1.8Lの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、マスターバッチを放出し室温冷却した。その後、このマスターバッチを1.8Lの密閉式バンバリーミキサーに供し、加硫促進剤及び硫黄を加え2分間混合して、16種類のタイヤ用ゴム組成物を得た。
【0040】
各試験タイヤにおいて、キャップトレッド層を構成するキャップトレッドゴムは、表1の「キャップトレッドの種類」の欄に示すものを使用した。具体的には、表2に示す配合からなるキャップトレッドゴムA~Cのいずれかを使用した。
【0041】
表1には、アンダートレッド層を構成するゴムの硬度Huとキャップトレッド層を構成するゴムの弾性率Ecおよび硬度Hcとから下記式(1)によって算出される割合αを併せて示した。これら物性値は、各ゴム組成物を用いて、所定形状の金型を用いて145℃、35分間加硫し、各タイヤ用ゴム組成物からなる加硫ゴム試験片を作成して測定したものである。具体的には、弾性率Ecは、JIS‐K6394に準拠して、粘弾性スペクトロメータを用い、周波数20Hz、初期歪み10%、動歪±2%、温度20℃の条件で測定した。硬度Hu,Hcは、JIS K6253に準拠しデュロメータのタイプAにより温度20℃の条件で測定した。
α=Hu/(Ec×Hc)×1000 ・・・(1)
【0042】
更に、表1には、トレッド部の外表面に形成された溝の下方におけるゴムゲージをG1、トレッド部1の外表面に形成された溝の下方におけるアンダートレッド層の厚さをG2、トレッド部の外表面に形成された陸部の下方におけるアンダートレッド層の厚さをG3とを併せて示した。
【0043】
各試験タイヤについて、下記に示す方法により、操縦安定性、低転がり性能、耐久性の評価を行った。
【0044】
操縦安定性
各試験タイヤをリムサイズ22.5×7.50のホイールに組み付けて、空気圧を900kPaとし、試験車両(20t車)に装着し、舗装路面からなるテストコースにて、半積(13t)における操縦安定性についてテストドライバーによる官能評価を行った。評価結果は、標準例1を100とする指数値にて示した。この指数値が大きいほど操縦安定性が優れていることを意味する。
【0045】
低転がり性能
各試験タイヤをリムサイズ22.5×7.50のホイールに組み付けて、ISO28580に準拠して、ドラム径1707.6mmのドラム試験機を用い、空気圧900kPa、荷重33.8kN、速度80km/hの条件で転がり抵抗を測定した。評価結果は、標準例1を100とする指数にて示した。この指数値が小さいほど転がり抵抗が低く、低転がり性能に優れることを意味する。
【0046】
耐久性
各試験タイヤをリムサイズ22.5×7.50のホイールに組み付けて、ドラム径1707.6mmのドラム試験機に装着し、空気圧900kPa、スリップアングル2deg、初期荷重33.8kN、速度45km/hの条件にて走行試験を開始し、24時間毎に荷重を10%ずつ増加させ、タイヤが故障するまでの走行距離を計測した。評価結果は、標準例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどタイヤが故障するまでの走行距離が大きく、耐久性に優れることを意味する。
【0047】
【0048】
表1において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、TSR20
・BR:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol BR1220
・CB1:カーボンブラック、新日化カーボン社製ニテロン#300IH(種別:ISAF、窒素吸着比表面積N2 SA:120m2 /g、DBP吸収量:126mL/100g)
・CB2:カーボンブラック、東海カーボン社製シーストSO(種別:FEF、窒素吸着比表面積N2 SA:42m2 /g、DBP吸収量:115mL/100g)
・CB3:カーボンブラック、新日化カーボン社製ニテロン#55S(種別:GPF、窒素吸着比表面積N2 SA:28m2 /g、DBP吸収量:88mL/100g)
・CB4:カーボンブラック、東海カーボン社製シースト9(種別:SAF、窒素吸着比表面積N2 SA:142m2 /g、DBP吸収量:115mL/100g)
・シリカ:東ソー社製ニップシールAQ
・シランカップリング剤:EVONIC DEGUSSA社製Si69
・老化防止剤1:大内新興化学工業社製ノクラック6C
・ステアリン酸:日新理化社製工業用ステアリン酸50S
・亜鉛華:正道化同化学工業社製酸化亜鉛3種
・加硫促進剤:三新化学工業社製サンセラーNS‐G
・硫黄:鶴見化学工業社製金華印油入微粉硫黄
【0049】
【0050】
表2において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、TSR20
・BR:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol BR1220
・CB1:カーボンブラック、東海カーボン社製シースト9(種別:SAF、窒素吸着比表面積N2 SA:142m2 /g、DBP吸収量:115mL/100g)
・CB2:カーボンブラック、新日化カーボン社製ニテロン#300IH(種別:ISAF、窒素吸着比表面積N2 SA:120m2 /g、DBP吸収量:126mL/100g)
・シリカ:東ソー社製ニップシールAQ
・シランカップリング剤:EVONIC DEGUSSA社製Si69
・老化防止剤:大内新興化学工業社製ノクラック6C
・ステアリン酸:日新理化社製工業用ステアリン酸50S
・亜鉛華:正道化同化学工業社製酸化亜鉛3種
・加硫促進剤:三新化学工業社製サンセラーNS‐G
・硫黄:鶴見化学工業社製金華印油入微粉硫黄
【0051】
表1から明らかなように、実施例1~11の空気入りタイヤは、標準例1に対して操縦安定性および耐久性を向上しながら、低転がり性能を改善した。一方、比較例1は、ブタジエンゴムが20質量部を超えていることにより、式(1)によって算出される割合αが小さく、且つ、比G2/G1が大きいため、操縦安定性および耐久性が悪化した。比較例2は、比G2/G1が大きすぎるため、操縦安定性および耐久性が悪化した。比較例3は、カーボンブラックの種別がSAFであり、その窒素吸着比表面積N2SAが142m2 /gと大きすぎるため、操縦安定性および低転がり性能が悪化した。比較例4は、カーボンブラックの配合量が多く、且つ、比G2/G1が大きすぎるため、耐久性および低転がり性能が悪化した。
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、前記トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、前記一対のサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記トレッド部が、前記トレッド部の踏面を構成するキャップトレッド層と、前記キャップトレッド層のタイヤ径方向内側に配置されたアンダートレッド層との2層で構成された空気入りタイヤにおいて、
前記アンダートレッド層は、ジエン系ゴム100質量部に対して、窒素吸着比表面積N2 SAが20m2 /g~85m2 /gであり、且つ、DBP吸収量が90mL/100g~200mL/100gであるカーボンブラック15質量部~45質量部と、シリカ3質量部~30質量部と、前記シリカの配合量の5質量%~15質量%のシランカップリング剤とが配合されたゴム組成物で構成され、
前記アンダートレッド層を構成するゴム組成物のJIS K6253に準拠しデュロメータのタイプAにより温度20℃で測定されたJIS‐A硬度を硬度Huとし、前記キャップトレッド層を構成するゴム組成物のJIS‐K6394に準拠して、粘弾性スペクトロメータを用い、周波数20Hz、初期歪み10%、動歪±2%、温度20℃の条件で測定した動的貯蔵弾性率〔単位:MPa〕を弾性率Ecとし、前記キャップトレッド層を構成するゴム組成物のJIS K6253に準拠しデュロメータのタイプAにより温度20℃で測定されたJIS‐A硬度を硬度Hcとしたときに下記式(1)によって算出される割合αが110~140であり、
前記トレッド部の外表面に形成された溝の下方における前記キャップトレッド層および前記アンダートレッド層の厚さの合計G1とアンダートレッド層の厚さG2との比G2/G1が0.55以上0.80以下であることを特徴とする空気入りタイヤ。
α=Hu/(Ec×Hc)×1000 ・・・(1)
上記目的を達成する本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、前記トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、前記一対のサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記トレッド部が、前記トレッド部の踏面を構成するキャップトレッド層と、前記キャップトレッド層のタイヤ径方向内側に配置されたアンダートレッド層との2層で構成された空気入りタイヤにおいて、前記アンダートレッド層は、ジエン系ゴム100質量部に対して、窒素吸着比表面積N2 SAが20m2 /g~85m2 /gであり、且つ、DBP吸収量が90mL/100g~200mL/100gであるカーボンブラック15質量部~45質量部と、シリカ3質量部~30質量部と、前記シリカの配合量の5質量%~15質量%のシランカップリング剤とが配合されたゴム組成物で構成され、前記アンダートレッド層を構成するゴム組成物のJIS K6253に準拠しデュロメータのタイプAにより温度20℃で測定されたJIS‐A硬度を硬度Huとし、前記キャップトレッド層を構成するゴム組成物のJIS‐K6394に準拠して、粘弾性スペクトロメータを用い、周波数20Hz、初期歪み10%、動歪±2%、温度20℃の条件で測定した動的貯蔵弾性率〔単位:MPa〕を弾性率Ecとし、前記キャップトレッド層を構成するゴム組成物のJIS K6253に準拠しデュロメータのタイプAにより温度20℃で測定されたJIS‐A硬度を硬度Hcとしたときに下記式(1)によって算出される割合αが110~140であり、前記トレッド部の外表面に形成された溝の下方における前記キャップトレッド層および前記アンダートレッド層の厚さの合計G1とアンダートレッド層の厚さG2との比G2/G1が0.55以上0.80以下であることを特徴とする。
α=Hu/(Ec×Hc)×1000 ・・・(1)