(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022014809
(43)【公開日】2022-01-20
(54)【発明の名称】パレコウイルス検出用プライマーセット及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20220113BHJP
C12Q 1/6813 20180101ALI20220113BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12Q1/6813 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020117365
(22)【出願日】2020-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(72)【発明者】
【氏名】横山 忠史
(72)【発明者】
【氏名】田崎 優子
(72)【発明者】
【氏名】井上 なつみ
(72)【発明者】
【氏名】杉本 直俊
(72)【発明者】
【氏名】和田 泰三
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ03
4B063QQ10
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR62
4B063QR66
4B063QS26
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】パレコウイルスを簡便に検出する技術を提供する。
【解決手段】パレコウイルスをLoop-Mediated Isothermal Amplification(LAMP)法で検出するためのプライマーセットであって、特定の塩基配列又はその変異配列からなるプライマーを含み、パレコウイルスRNAを増幅する、プライマーセット。プライマーセットを含む、パレコウイルスをLAMP法で検出するためのキット。プライマーセットを混合してLAMP法による等温増幅反応を行う工程を含み、前記工程後に等温増幅反応が検出されることが、前記生体試料中にパレコウイルスが存在していたことを示す、検出方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パレコウイルスをLoop-Mediated Isothermal Amplification(LAMP)法で検出するためのプライマーセットであって、
配列番号1に記載の塩基配列、又は配列番号1に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
配列番号2に記載の塩基配列、又は配列番号2に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
配列番号4に記載の塩基配列、又は配列番号4に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
配列番号5に記載の塩基配列、又は配列番号5に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
配列番号7に記載の塩基配列、又は配列番号7に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、及び
配列番号9に記載の塩基配列、又は配列番号9に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
を含み、パレコウイルスRNAを増幅する、プライマーセット。
【請求項2】
配列番号1に記載の塩基配列からなるプライマー、
配列番号2に記載の塩基配列からなるプライマー、
配列番号4に記載の塩基配列からなるプライマー、
配列番号5に記載の塩基配列からなるプライマー、
配列番号7に記載の塩基配列からなるプライマー、及び
配列番号9に記載の塩基配列からなるプライマー、
を含む、請求項1に記載のプライマーセット。
【請求項3】
パレコウイルスをLAMP法で検出するためのプライマーセットであって、
配列番号1に記載の塩基配列、又は配列番号1に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
配列番号3に記載の塩基配列、又は配列番号3に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
配列番号4に記載の塩基配列、又は配列番号4に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
配列番号6に記載の塩基配列、又は配列番号6に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
配列番号8に記載の塩基配列、又は配列番号8に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、及び
配列番号9に記載の塩基配列、又は配列番号9に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
を含み、パレコウイルスRNAを増幅する、プライマーセット。
【請求項4】
配列番号1に記載の塩基配列からなるプライマー、
配列番号3に記載の塩基配列からなるプライマー、
配列番号4に記載の塩基配列からなるプライマー、
配列番号6に記載の塩基配列からなるプライマー、
配列番号8に記載の塩基配列からなるプライマー、及び
配列番号9に記載の塩基配列からなるプライマー、
を含む、請求項3に記載のプライマーセット。
【請求項5】
パレコウイルスをLAMP法で検出するためのプライマーセットであって、
配列番号10に記載の塩基配列、又は配列番号10に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
配列番号11に記載の塩基配列、又は配列番号11に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
配列番号4に記載の塩基配列、又は配列番号4に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
配列番号5に記載の塩基配列、又は配列番号5に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
配列番号12に記載の塩基配列、又は配列番号12に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、及び
配列番号9に記載の塩基配列、又は配列番号9に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
を含み、パレコウイルスRNAを増幅する、プライマーセット。
【請求項6】
配列番号10に記載の塩基配列からなるプライマー、
配列番号11に記載の塩基配列からなるプライマー、
配列番号4に記載の塩基配列からなるプライマー、
配列番号5に記載の塩基配列からなるプライマー、
配列番号12に記載の塩基配列からなるプライマー、及び
配列番号9に記載の塩基配列からなるプライマー、
を含む、請求項5に記載のプライマーセット。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のプライマーセットを含む、パレコウイルスをLAMP法で検出するためのキット。
【請求項8】
パレコウイルスの検出方法であって、
生体試料に請求項1~6のいずれか一項に記載のプライマーセットを混合してLAMP法による等温増幅反応を行う工程を含み、
前記工程後に等温増幅反応が検出されることが、前記生体試料中にパレコウイルスが存在していたことを示す、検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パレコウイルス検出用プライマーセット及びその使用に関する。より具体的には、パレコウイルスをLoop-Mediated Isothermal Amplification(LAMP)法で検出するためのプライマーセット、パレコウイルスをLAMP法で検出するためのキット及びパレコウイルスの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パレコウイルス(HPeV)は、主として小児に感染し上気道炎や胃腸炎などを引き起こす、いわゆる“感冒”の原因ウイルスである。HPeVのうち特に3型(HPeV3)では、成人や多くの小児では無症状もしくは軽微な胃腸炎で経過するが、HPeV3は、生後1ヶ月前後の乳児に感染すると、しばしば敗血症様症状・脳炎などを呈し、重症化する。
【0003】
パレコウイルスの検出方法としては、PCR法を用いる検出方法が知られている(非特許文献1)。しかしながら、PCR法は、結果が判明するまでに最短でも16~24時間、通常は2~3日かかる。
【0004】
LAMP法は、4~6種類のプライマーを用いて、等温反応により標的遺伝子を増幅し、反応溶液の濁度によって標的遺伝子の存在を検出する遺伝子増幅法である(例えば、特許文献1を参照)。LAMP法は、等温反応であることから簡単な装置で実施することができ、また、PCR法と比較して迅速に測定することができ、4つ以上のプライマーを設定することから特異性も高い。
【0005】
LAMP法が成功するか否かは、プライマーの設計による。プライマー設計においては、プライマー間距離、各プライマー領域のTm値、各プライマー領域の末端安定性、GC含量、二次構造等が重要であり、これを設計するための設計支援ソフトも存在するものの、ソフトで設計したプライマーが高効率且つ高特異的に標的核酸を増幅するとは限らない。特に、LAMP法をウイルスの検出等に用いる場合には、まず最適な標的配列を特定し、その配列を特異的に増幅できるプライマーを作製しなければならない。
これまで、パレコウイルスを特異的にLAMP法で検出するための標的配列及びプライマーは見出されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Clin.Microbiol.46:3446-3453,2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、パレコウイルスの検出はPCR法により行われてきた。しかしながら、PCR法は、現在どこの施設でも行えるものではない。また、結果が判明するまでに数日かかるため、時間単位で症状が変化する新生児の臨床現場において、このタイムラグは大きな問題である。
【0009】
このような背景のもと、本発明は、パレコウイルスを、LAMP法を用いて簡便に検出する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の通りである。
[1] パレコウイルスをLAMP法で検出するためのプライマーセットであって、
配列番号1に記載の塩基配列、又は配列番号1に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
配列番号2に記載の塩基配列、又は配列番号2に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
配列番号4に記載の塩基配列、又は配列番号4に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
配列番号5に記載の塩基配列、又は配列番号5に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
配列番号7に記載の塩基配列、又は配列番号7に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、及び
配列番号9に記載の塩基配列、又は配列番号9に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
を含み、パレコウイルスRNAを増幅する、プライマーセット。
[2] 配列番号1に記載の塩基配列からなるプライマー、
配列番号2に記載の塩基配列からなるプライマー、
配列番号4に記載の塩基配列からなるプライマー、
配列番号5に記載の塩基配列からなるプライマー、
配列番号7に記載の塩基配列からなるプライマー、及び
配列番号9に記載の塩基配列からなるプライマー、
を含む、[1]に記載のプライマーセット。
[3] パレコウイルスをLAMP法で検出するためのプライマーセットであって、
配列番号1に記載の塩基配列、又は配列番号1に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
配列番号3に記載の塩基配列、又は配列番号3に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
配列番号4に記載の塩基配列、又は配列番号4に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
配列番号6に記載の塩基配列、又は配列番号6に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
配列番号8に記載の塩基配列、又は配列番号8に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、及び
配列番号9に記載の塩基配列、又は配列番号9に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
を含み、パレコウイルスRNAを増幅する、プライマーセット。
[4] 配列番号1に記載の塩基配列からなるプライマー、
配列番号3に記載の塩基配列からなるプライマー、
配列番号4に記載の塩基配列からなるプライマー、
配列番号6に記載の塩基配列からなるプライマー、
配列番号8に記載の塩基配列からなるプライマー、及び
配列番号9に記載の塩基配列からなるプライマー、
を含む、[3]に記載のプライマーセット。
[5] パレコウイルスをLAMP法で検出するためのプライマーセットであって、
配列番号10に記載の塩基配列、又は配列番号10に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
配列番号11に記載の塩基配列、又は配列番号11に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
配列番号4に記載の塩基配列、又は配列番号4に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
配列番号5に記載の塩基配列、又は配列番号5に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
配列番号12に記載の塩基配列、又は配列番号12に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、及び
配列番号9に記載の塩基配列、又は配列番号9に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、
を含み、パレコウイルスRNAを増幅する、プライマーセット。
[6] 配列番号10に記載の塩基配列からなるプライマー、
配列番号11に記載の塩基配列からなるプライマー、
配列番号4に記載の塩基配列からなるプライマー、
配列番号5に記載の塩基配列からなるプライマー、
配列番号12に記載の塩基配列からなるプライマー、及び
配列番号9に記載の塩基配列からなるプライマー、
を含む、[5]に記載のプライマーセット。
[7] [1]~[6]のいずれか一項に記載のプライマーセットを含む、パレコウイルスをLAMP法で検出するためのキット。
[8] パレコウイルスの検出方法であって、
生体試料に[1]~[6]のいずれか一項に記載のプライマーセットを混合してLAMP法による等温増幅反応を行う工程を含み、
前記工程後に等温増幅反応が検出されることが、前記生体試料中にパレコウイルスが存在していたことを示す、検出方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、パレコウイルスを簡便に検出する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実験例1における、P4、P5、P6の各プライマーセットを用いるLAMP法で、試料のRNAを増幅した結果を示す写真である。
【
図2】実験例3における、HPeV3のウイルスRNAをPCR法で増幅した結果を示す写真である。
【
図3】実験例4における、プライマーセットP6を用いるLAMP法で、各ウイルス検体又は細胞株のRNAを増幅した結果を示す写真である。
【
図4】実験例5における、P4、P5、P6の各プライマーセットを用いるLAMP法で、患者検体のRNAを増幅した結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上述したように、LAMP法は、4~6種類のプライマーを用いて、等温反応により標的遺伝子を増幅し、反応溶液の濁度によって標的遺伝子の存在を検出する遺伝子増幅法である。
【0014】
LAMP法は、同じ遺伝子増幅技術であるPCR法に比べて増幅効率が高く、核酸を15分~1時間で109~1010倍に増幅することができる。また、LAMP法は、最低4種類のプライマーを用いる核酸増幅法であるため、2種類のプライマーを用いるPCR法と比較して特異性が極めて高い。また、LAMP法は、等温(約63℃)での遺伝子増幅が可能であることから、従来の機器と比べると小型で安価な反応装置で実施することができる。
【0015】
LAMP法では、2本鎖の鋳型核酸の塩基配列に6つの領域を規定し、これらの領域の塩基配列に基づいてプライマーを設計する。より具体的には、鋳型核酸の一方の鎖の3’末端側から順にF3c、F2c、F1cという領域と、同一鎖の5’末端側から順にB3、B2、B1という領域をそれぞれ規定する。そして、これらの領域の塩基配列に基づいて、FIP、F3、BIP、B3と呼ばれる4種類のプライマーを設計する。
【0016】
FIPは、F2c領域と相補的な塩基配列であるF2領域の塩基配列を3’末端側に持ち、5’末端側にF1c領域の塩基配列と同じ塩基配列を持つように設計する。F3は、F3c領域と相補的な塩基配列であるF3領域の塩基配列を持つように設計する。BIPは、B2領域の塩基配列を3’末端側に持ち、5’末端側にB1領域と相補的な塩基配列であるB1c領域の塩基配列を持つように設計する。B3は、B3領域の塩基配列を持つように設計する。これらのプライマーは、設計支援ソフト(http://primerexplorer.jp/)等を利用して適宜設計することができる。
【0017】
LAMP法においては、上記のFIP、F3、BIP、B3の4種類のプライマーに加えて、LF、LBと呼ばれるプライマー(ループプライマー)を用いることができる。ループプライマーは、ダンベル構造の5’末端側にあるループの1本鎖部分(LF:F1領域とF2領域の間の塩基配列、LB:B1領域とB2領域の間の塩基配列)に相補的な塩基配列を持つように設計する。これらのプライマーを追加で用いることにより、LAMP法による核酸増幅における核酸合成の起点が増加し、反応時間の短縮と検出感度の上昇が可能となる。LF、LBも、上述した設計支援ソフト等を利用して設計することができる。
【0018】
[プライマーセット]
1実施形態において、本発明は、パレコウイルスをLAMP法で検出するためのプライマーセットであって、配列番号1に記載の塩基配列、又は配列番号1に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、配列番号2に記載の塩基配列、又は配列番号2に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、配列番号4に記載の塩基配列、又は配列番号4に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、配列番号5に記載の塩基配列、又は配列番号5に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、配列番号7に記載の塩基配列、又は配列番号7に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、及び配列番号9に記載の塩基配列、又は配列番号9に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、を含み、パレコウイルスRNAを増幅する、プライマーセットを提供する。
【0019】
また、1実施形態において、本発明は、パレコウイルスをLAMP法で検出するためのプライマーセットであって、配列番号1に記載の塩基配列、又は配列番号1に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、配列番号3に記載の塩基配列、又は配列番号3に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、配列番号4に記載の塩基配列、又は配列番号4に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、配列番号6に記載の塩基配列、又は配列番号6に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、配列番号8に記載の塩基配列、又は配列番号8に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、及び配列番号9に記載の塩基配列、又は配列番号9に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、を含み、パレコウイルスRNAを増幅する、プライマーセットを提供する。
【0020】
また、1実施形態において、本発明は、パレコウイルスをLAMP法で検出するためのプライマーセットであって、配列番号10に記載の塩基配列、又は配列番号10に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、配列番号11に記載の塩基配列、又は配列番号11に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、配列番号4に記載の塩基配列、又は配列番号4に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、配列番号5に記載の塩基配列、又は配列番号5に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、配列番号12に記載の塩基配列、又は配列番号12に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、及び配列番号9に記載の塩基配列、又は配列番号9に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなるプライマー、を含み、パレコウイルスRNAを増幅する、プライマーセットを提供する。
【0021】
実施例において後述するように、本実施形態のプライマーセットは、パレコウイルスをLAMP法で検出するために好適に用いることができる。
【0022】
パレコウイルス(HPeV)は、19種類の遺伝子型が存在し、パレコウイルス1型(HPeV1)、パレコウイルス2型(HPeV2)及びパレコウイルス3型(HPeV3)などが存在する。なかでも、HPeV3は、生後1ヶ月前後の乳児ではしばしば敗血症様症状・脳炎などを呈するため重要である。
【0023】
本実施形態のプライマーセットの開発は困難であり、多数のプライマーセットを作製し、パレコウイルスの検出試験を積み重ねた結果得られたものである。パレコウイルス検出用プライマーの設計には、LAMP法用のプライマー設計支援ソフトを用いたが、翻訳領域の塩基配列を基にプライマーセットを設計しても、実用に耐えるプライマーセットは得られなかった。そこで、5’側非翻訳領域(5’untranslated region;5’UTR領域)の塩基配列に着目し、5’UTR領域の塩基配列を基にプライマーセットを網羅的に設計した。候補となったプライマーセットのうち、予備的検討で実用に耐えうるものの選択を行い、パレコウイルスを実用的に検出可能な本実施形態のプライマーセットが得られたものである。
【0024】
また、本実施形態のプライマーセットを用いて、アデノウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルス、エンテロウイルス、ノロウイルス等のパレコウイルス以外のウイルスの検出を試みた結果、本実施形態のプライマーセットは交差反応を示さないことが確認された。
【0025】
また、臨床検体を用いて、従来法であるPCR法と、本実施形態のプライマーセットを用いたLAMP法により、パレコウイルスを検出した結果、両者の結果は完全に一致することが確認された。
【0026】
したがって、本実施形態のプライマーセットを用いたLAMP法により、パレコウイルスを実用的に迅速に検出することができる。
【0027】
本実施形態のプライマーセットにおいて、配列番号1、2、4、5、7及び9に記載の塩基配列からなるプライマーは、HPeVのRNAを増幅することができる。また、本実施形態のプライマーセットにおいて、配列番号1、3、4、6、8及び9に記載の塩基配列からなるプライマーは、HPeVのRNAを増幅することができる。また、配列番号10、11、4、5、12及び9に記載の塩基配列からなるプライマーは、HPeVのRNAを増幅することができる。HPeV3の5’UTR領域の塩基配列を配列番号10に示す。
【0028】
HPeVは、前述のように19種類存在し、HPeV3以外にHPeV1も存在する。実施例において後述するように、本実施形態のプライマーセットを用いることにより、HPeV3の他にHPeV1も検出することができる。HPeV1はHPeV感染の中で最も頻度が多いとされているため、HPeV3の他、HPeV1も検出できることは、HPeV3のみ検出できるものよりも臨床的なニーズという点において有利である。
【0029】
配列番号1に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号10に記載の塩基配列からなるプライマーは、上述したF3プライマーに対応する。また、配列番号2に記載の塩基配列からなるプライマー、配列番号3に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号11に記載の塩基配列からなるプライマーは、上述したFIPプライマーに対応する。また、配列番号4に記載の塩基配列からなるプライマーは、上述したBIPプライマーに対応する。また、配列番号5に記載の塩基配列からなるプライマー及び配列番号6に記載の塩基配列からなるプライマーは、上述したB3プライマーに対応する。また、配列番号7に記載の塩基配列からなるプライマー、配列番号8に記載の塩基配列からなるプライマー、及び配列番号12に記載の塩基配列からなるプライマーは、上述したLFプライマーに対応する。また、配列番号9に記載の塩基配列からなるプライマーは、上述したLBプライマーに対応する。
【0030】
本実施形態のプライマーセットは、配列番号1に記載の塩基配列からなるプライマー、配列番号2に記載の塩基配列からなるプライマー、配列番号4に記載の塩基配列からなるプライマー、配列番号5に記載の塩基配列からなるプライマー、配列番号7に記載の塩基配列からなるプライマー、及び配列番号9に記載の塩基配列からなるプライマーを含んでいてもよい。
【0031】
また、本実施形態のプライマーセットは、配列番号1に記載の塩基配列からなるプライマー、配列番号3に記載の塩基配列からなるプライマー、配列番号4に記載の塩基配列からなるプライマー、配列番号6に記載の塩基配列からなるプライマー、配列番号8に記載の塩基配列からなるプライマー、及び配列番号9に記載の塩基配列からなるプライマーを含んでいてもよい。
【0032】
また、本実施形態のプライマーセットは、配列番号10に記載の塩基配列からなるプライマー、配列番号11に記載の塩基配列からなるプライマー、配列番号4に記載の塩基配列からなるプライマー、配列番号5に記載の塩基配列からなるプライマー、配列番号12に記載の塩基配列からなるプライマー、及び配列番号9に記載の塩基配列からなるプライマーを含んでいてもよい。
【0033】
本実施形態のプライマーセットは、プライマーの塩基配列が多少変異を含んでいても、LAMP法によるパレコウイルスの検出を行うことができる。したがって、本実施形態のプライマーセットは、配列番号1~12に記載の塩基配列において1又は複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を有するプライマーを含んでいてもよい。
【0034】
ここで、複数個とは、プライマーセットを用いたLAMP法によってパレコウイルスRNAを増幅することができる限り特に限定されず、例えば2~4個であってもよく、例えば2~3個であってもよい。
【0035】
[キット]
1実施形態において、本発明は、上述したプライマーセットを含む、パレコウイルスをLAMP法で検出するためのキットを提供する。本実施形態のキットを用いてLAMP法を行うことにより、試料中に存在するパレコウイルスを簡便に検出することができる。
【0036】
本実施形態のキットは、上述したプライマーセットのほか、熱耐性逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、緩衝液、基質であるdNTP、陰性コントロール、陽性コントロール、DNA抽出試薬等を含んでいてもよい。
【0037】
DNAポリメラーゼとしては鎖置換型DNAポリメラーゼを使用することができる。鎖置換型DNAポリメラーゼとは、鋳型DNAに相補的なDNA鎖を合成していく過程で、伸長方向に2本鎖領域があった場合に、その鎖を解離しながら相補鎖合成を継続することができるDNAポリメラーゼである。
【0038】
DNAポリメラーゼとしては、通常LAMP法で用いられているものを使用することができ、例えば、Bst DNAポリメラーゼ、Bca(Exo-)DNAポリメラーゼ、DNAポリメラーゼIのクレノウ・フラグメント、Vent DNAポリメラーゼ、Vent(Exo-)DNAポリメラーゼ、Z-Taq DNAポリメラーゼ、KOD DNAポリメラーゼ等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0039】
[パレコウイルスの検出方法]
1実施形態において、本発明は、パレコウイルスの検出方法であって、生体試料に上述したプライマーセットを混合してLAMP法による等温増幅反応を行う工程を含み、前記工程後に等温増幅反応が検出されることが、前記生体試料中にパレコウイルスが存在していたことを示す、検出方法を提供する。
【0040】
上述したように、従来、パレコウイルスの検出はPCR法により行われてきた。しかしながら、PCR法は、操作が煩雑であり、現在どこの施設でも行えるものではない。また、結果が判明するまでに数日かかるため、時間単位で症状が変化する新生児の臨床現場において使用することが困難である。
【0041】
これに対し、本実施形態の検出方法によれば、従来法であるPCR法と比較して操作が簡便であるため、どこの施設でも使用可能であり、また、数時間で結果が出るため、時間単位で症状が変化する新生児の臨床現場において使用することが可能である。
【0042】
この結果、患者がパレコウイルスに感染しているか否かを迅速に判断し、適切に治療を行うことが容易になる。
【0043】
生体試料としては、血液、尿、便、羊水、臍帯血、膿、髄液これらの試料から抽出したRNA等が挙げられる。試料をそのままLAMP法に適用することもできるが、試料から抽出したRNAをLAMP法に適用することが好ましい。
【0044】
LAMP法による等温増幅反応は、生体試料に、上述したプライマーセット、熱耐性逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、緩衝液、基質であるdNTP等を混合し、DNA増幅温度でインキュベートすることにより実施することができる。DNA増幅温度は、使用するDNAポリメラーゼによって異なるが、約60~70℃である。
【実施例0045】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
[実験例1]
(1)サンプル採取とPCR法によるパレコウイルスの検出
パレコウイルス感染症を疑った患者6人の便(試料)から採取した試料について、アウタープライマーとして、配列番号14に記載のフォワードプライマー及び配列番号15に記載のリバースプライマーを用い、ネステッドプライマーとして、配列番号16に記載のフォワードプライマー及び配列番号17に記載のリバースセンスプライマーを用いたnested-PCR法を行い、検出されたパレコウイルスについて、さらに遺伝子型の判定のためにさらに、アウタープライマーとして、配列番号18に記載のフォワードプライマー及び配列番号19に記載のリバースセンスプライマーを用い、ネステッドプライマーとして、配列番号18に記載のフォワードプライマー及び配列番号20に記載のリバースセンスプライマーを用いたnested-PCR法を行ったところ、6つの試料中4つの試料でHPeV3が検出された。
【0047】
(2)試料からのウイルスRNAの精製
(1)でHPeV3が検出された試料50~100μLを200μLの滅菌蒸留水で希釈し、5分間撹拌した。次に、4℃、15000回転で5分間遠心分離し、上清を、QIAmp Viral RNA Mini Kit(Qiagen社製)を用い、ウイルスRNAを抽出した。
【0048】
(3)LAMP法のためのプライマー設計
HPeV3のゲノム配列はNational Center for Biotechnology Information(NCBI)のウェブサイトからダウンロードした。このゲノム配列を用いて、LAMP法のためのプライマーセットを作成した。その際、プライマーセットを設計する領域として、5’UTR領域に着目し、この領域を基にプライマーセットを設計した。プライマーの設計にはPrimerExplorer V5(栄研化学株式会社製)を利用した。配列番号13に記載の塩基配列からなるHPeV3の5’UTR領域は700塩基の長さがあるが、これを用いてPrimerExplorer V5によるプライマーの設計を試みたが、候補となる配列は作成できなかった。LAMP法に用いるプライマーセットはF2の外側からB2の外側までが120~160塩基、F2とF3の間が0~60塩基になるように設計するのが良いとされている。従って、全プライマー作成に必要な参照配列の塩基数は、F3が、最大160+60×2+約20塩基、B3プライマーが320塩基程度と考えた。
次に、5’UTR領域のうち1~400番目の塩基、11~410番目、21~420番目、…、201~600番目、…、301~700番目というように検索する配列を400塩基とし、5’UTR領域内でその場所を10塩基ずつずらしながら、5’UTR領域でLAMP法のプライマーセット候補となるFIP、BIP、F3、B3のプライマーセットを全て抽出した。抽出結果を表1に示す。
【0049】
【0050】
(4)LAMP法によるパレコウイルスの検出
(3)で抽出されたプライマーセットは、P-a、P-b、P-c、P-d、P-e、P1、P2、P3の8種類存在した。このうち、最も高頻に抽出されたプライマーセットは、表2に示したP1、P2及びP3の3つで、合計12回候補として抽出された。一方、残りの5つのプライマーセットは、P-aが2回候補として、その他のP-b、P-c、P-d、P-eの4つが1回のみ、抽出された。そこで、最も高頻度に抽出されたプライマーセット(P1、P2、およびP3)を用いて、水のみを含む試料(蒸留水)と、HPeV3のウイルスRNAが含まれている試料において、LAMP法により増幅を行い、増幅の有無を確認した。
【0051】
LAMP法による増幅は、Loopamp RNA Amplification Kit(栄研化学株式会社製)を用いて行なった。具体的には、PCR用チューブに、(2)で調製したウイルスRNA5μL、熱耐性逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、緩衝液、dNTPs、プライマーセットを混合して撹拌し、スピンダウンを行なったのちに、63℃で1時間反応させた。その後、80℃、5分間加熱することによりで酵素を失活させた。増幅産物は蛍光色素によって可視化した。
【0052】
【0053】
プライマーセットP1、P2又はP3を用いるLAMP法では、蒸留水を試料として用いた場合は、いずれも増幅が確認されなかった。一方、また、PCR法でHPeV3が検出された試料においては、HPeV3のウイルスRNAが含まれている試料においては、P1では、18回試行して6回陽性、P2では、18回試行して8回陽性、P3では、7回試行して6回陽性となり、P1、P2及びP3を用いるLAMP法では、増幅が確認される場合とされない場合とがあり、再現性が得られなかった。
【0054】
[実験例2]
(HPeV3検出用プライマーの検討)
実験例1で用いたプライマーセットP1、P2及びP3のF3、FIP、BIP、B3に加えて、LF及びLBを含む、表3に記載のプライマーセットP4、P5及びP6を設計した。このうち、P4は、PrimerExplorer V5(栄研化学株式会社製)を利用して設計したが、P5とP6は、PrimerExplorer V5では設計できなかったため、手作業にて設計した。このプライマーセットP4、P5及びP6をそれぞれ用い、実験例1と同様の条件で、LAMP法を行った。
【0055】
【0056】
図1に、プライマーセットP4、P5及びP6を用いた増幅結果を示す。
図1に示したように、蒸留水を試料として用いた場合は、実験例1と同様にいずれも増幅が確認されなかったが、HPeV3のウイルスRNAが含まれている試料においては、P4では、19回試行して19回陽性、P5では、19回試行して19回陽性、P6では、8回試行して、8回陽性と、再現性よく増幅が確認された。
【0057】
[実験例3]
(RT-LAMP法の至適条件の検討)
実験例2で見出したパレコウイルス検出用プライマーセットP4、P5及びP6について、LAMP法の測定条件を変更し、至適なLAMP法の測定条件の検討を行なった。
(1)至適反応温度の確認
LAMP法の反応を63℃以外に、59℃、61℃、65℃、67℃の4つの温度条件で行なった。その結果、59℃と67℃では増幅が確認できず、61℃、65℃で増幅が確認できた。従って、至適な反応温度は63℃であることを確認した。
【0058】
(2)反応時間と、試料のウイルスRNA量の関係
試料のウイルスRNA量を118ng、11.8ng、1.18ng、0.118ngに調整し、反応時間を20分、30分、40分、50分、60分に設定してLAMP法を行なった。結果を表4に示す。その結果、プライマーセットP4及びP5ではどのRNA量でも20分から陽性が目視できるようになった。また、反応時間30分では、P4、P5及びP6の全てのプライマーセットで、どのRNA量でも陽性が確認できた。このことから、P4、P5及びP6を用いるLAMP法では、ウイルスRNA量は118pgまでは増幅可能であることを確認し、また、最短反応時間は30分であることを確認した。
【0059】
【0060】
一方、通常のPCR法では、測定可能な試料のゲノム量は5~200ng程度と言われている。このことからも、本発明のプライマーセットを用いるLAMP法は、通常のPCR法と同等以上の検出感度を持っていることが判明した。
更に、HPeV3のウイルスRNAが含まれている試料を用いて、32.0~58.8ngの範囲でウイルスRNAを持ち込み、通常のPCR法を行なった。PCR法は、検出感度は反応のサイクル数に依存するため、40サイクルの高感度法で行なった。そのPCR産物の電気泳動結果を
図2に示す。
図2で示したように、PCR産物は電気泳動でかろうじて目視でき、検出感度の下限域であった。従って、本発明のプライマーセットを用いるLAMP法は、通常のPCR法と比較しても十分感度が良いことが実証された。
【0061】
[実験例4]
(パレコウイルス検出用プライマーの交差反応の検討)
Basic Local Alignment Search Tool(blast)を用いて、プライマーセットP4、P5及びP6と各種ウイルスのホモロジー検索をin silicoで検討した。その結果、実験例2で見出したパレコウイルス検出用プライマーは、HPeV3以外にHPeV1、HPeV4、HPeV8、HPeV14及びHPeV18に交差反応性を持つ可能性が明らかになった。一方、非パレコウイルス属には交差反応性を認めなかった。このことを確認するために、実験例2で見出したプライマーセットP4、P5、P6の各プライマーセットを用いたLAMP法により、パレコウイルス以外のウイルスのRNA、及びHPeV3以外のパレコウイルスが増幅されるか否かを検討した。
【0062】
まず、アデノウイルス、コクサッキーウイルスB5、エコーウイルス11、エンテロウイルスD68、エンテロウイルスA71、HPeV1及びHPeV3(2株)の各細胞株、及びアデノウイルス感染患者の便1検体とノロウイルス感染患者の便3検体を用いて、実験例1と同様の方法により、プライマーセットP4、P5、P6の各プライマーセットを用いるLAMP法によりそれぞれ増幅し、増幅の有無を確認した。
【0063】
また、上記の各検体について、PCR法を用いたエンテロウイルス遺伝子検査、アデノウイルス遺伝子検査及びパレコウイルス遺伝子検査により、増幅の有無を確認した。その結果を
図3及び表5に示す。なお、
図3はプライマーセットP6用いて増幅した結果を示す。
【0064】
【0065】
その結果、表5及び
図3に示したように、プライマーセットP4、P5、P6のいずれも、アデノウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルス、エンテロウイルス及びノロウイルスのRNAを増幅せず、交差反応しないことが明らかとなった。また、プライマーセットP4、P5、P6のいずれも、HPeV3の他、HPeV1のRNAを増幅することが明らかとなった。この結果から、これらのプライマーセットにより、特異的にパレコウイルスを検出できることが確認された。なお、プライマーセットP4、P5、P6はいずれも、HPeV3の他にHPeV1にも反応性を示し、パレコウイルスの型別判定はできなかったが、HPeV1はHPeV感染の中で最も頻度が多いとされているため、HPeV3の他、HPeV1も検出できることは、HPeV3のみ検出できるものよりも臨床的なニーズという点において有利である。
【0066】
また、プライマーセットP4、P5及びP6で増幅が確認されたHPeV1及びHPeV3の各検体は、PCR法によるパレコウイルス遺伝子検査でも増幅が確認された。プライマーセットP4、P5及びP6を用いた、本発明のLAMP法による簡便なパレコウイルスの検出の結果が、PCR法を用いたパレコウイルスの検出の結果と完全に一致することは、本発明の検出方法が、信頼性が高いことを示している。
【0067】
[実験例5]
(患者検体を用いたLAMP法によるパレコウイルスの検出)
HPeV感染を疑わせる患者6名(患者A、患者B、患者C、患者D、患者E、患者F)から、糞便を採取し、実験例1と同様の方法でウイルスRNAを抽出した。この検体を用いてプライマーセットP4、P5及びP6を用いるLAMP法でパレコウイルスの検出を行った。その結果を
図4に示す。
図4に示したように、プライマーセットP4、P5、P6のいずれにおいても、患者C、患者D、患者E及び患者Fの4人の検体で陽性となった。一方、2つの検体(患者A及び患者B)では陰性であった。
同様にこれらの検体を実験例1に示したnested-PCR法によって確認したところ、LAMP法で陽性になった患者はすべてHPeV3感染症患者であることが確認され、一方、LAMP法で陰性であった検体はPCR法によりHPeV3が検出されなかった。なお、LAMP法の結果は、糞便を採取してから2時間で判明したが、上記のPCR法では、結果判明に2日間を要した。
以上の結果から、プライマーセットP4、P5及びP6を用いる本発明のLAMP法による簡便なパレコウイルスの検出の結果は、PCR法を用いたパレコウイルスの検出の結果と完全に一致しており、本発明のパレコウイルスの検出方法は、信頼性が高くかつ、臨床的にも有用であることを示している。