(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148109
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】出力安定化回路及びDCDCコンバータ回路
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20220929BHJP
H02M 3/28 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
H02M7/48 A
H02M3/28 W
H02M3/28 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049647
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000107804
【氏名又は名称】スミダコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 弘行
【テーマコード(参考)】
5H730
5H770
【Fターム(参考)】
5H730BB25
5H730BB61
5H730BB82
5H730EE04
5H730EE07
5H730EE08
5H730FD01
5H730FG01
5H770CA06
5H770DA01
5H770DA11
5H770DA45
5H770DA48
5H770HA03Y
5H770JA16X
(57)【要約】
【課題】簡素な回路構成で出力電圧を安定化させる回路技術を提供する。
【解決手段】出力安定化回路(1)は、直流電源(BT)に接続される第一及び第二自励発振回路(10、20)を含む一次側回路(2)と二次側回路(3)とを備え、第一及び第二自励発振回路は、送電コイル(N11、N12、N21、N22)、共振コンデンサ(C11、C21)、スイッチング素子ペア(Q11、Q12、Q21、Q22)及び帰還コイル(Nf1、Nf2)をそれぞれ含み、第二自励発振回路(20)は移相フィルタ(F20)を更に含み、移相フィルタ(F20)は、二次側回路(3)に含まれる二次側制御コイル(Lc31)と磁気結合しており二次側制御コイルに流れる電流に応じてインダクタンスが変わる特性を有する一次側制御コイル(Lf21)を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源に接続される第一自励発振回路及び第二自励発振回路を含む一次側回路と、該第一自励発振回路及び該第二自励発振回路の発振により出力電圧を得る二次側回路とを備える出力安定化回路であって、
前記第一自励発振回路は、
第一送電コイルと、
前記第一送電コイルと共に共振回路を構成する第一共振コンデンサと、
前記第一送電コイルに接続される第一スイッチング素子ペアと、
前記第一送電コイルと磁気結合しており前記第一スイッチング素子ペアの各制御電極にそれぞれ接続される第一帰還コイルと、
を有し、
前記第二自励発振回路は、
第二送電コイルと、
前記第二送電コイルと共に共振回路を構成する第二共振コンデンサと、
前記第二送電コイルに接続される第二スイッチング素子ペアと、
前記第一帰還コイルと磁気結合しており前記第二スイッチング素子ペアの各制御電極にそれぞれ接続される第二帰還コイルと、
前記第二帰還コイルと前記第二スイッチング素子ペアの各制御電極との間に接続されている移相フィルタと、
を有し、
前記二次側回路は、前記出力電圧の大きさに応じて流れる電流の大きさが制御される二次側制御コイルを含み、
前記移相フィルタは、前記二次側制御コイルと磁気結合しており前記二次側制御コイルに流れる電流に応じてインダクタンスが変わる特性を有する一次側制御コイルを含む、
出力安定化回路。
【請求項2】
前記二次側回路は、
前記第一送電コイルと共にトランスを構成する第一受電コイルと、
前記第二送電コイルと共にトランスを構成する第二受電コイルと、
を更に有し、
前記第一受電コイルと前記第二受電コイルとは、コイル電圧が逆相になるように接続されており、
前記第一帰還コイルと前記第二帰還コイルとは極性が同じ向きとなるように磁気結合されており、
前記移相フィルタは、前記一次側制御コイル及び前記第二帰還コイルに対して並列接続されたコンデンサを更に含む、
請求項1に記載の出力安定化回路。
【請求項3】
前記二次側回路は、
前記第一送電コイルと共にトランスを構成する第一受電コイルと、
前記第二送電コイルと共にトランスを構成する第二受電コイルと、
を更に有し、
前記第一受電コイルと前記第二受電コイルとは、コイル電圧が同相になるように接続されており、
前記第一帰還コイルと前記第二帰還コイルとは極性が逆向きとなるように磁気結合されており、
前記移相フィルタは、前記一次側制御コイル及び前記第二帰還コイルに対して並列接続されたコンデンサを更に含む、
請求項1に記載の出力安定化回路。
【請求項4】
前記二次側回路は、
前記第一送電コイルと共にトランスを構成する第一受電コイルと、
前記第二送電コイルと共にトランスを構成する第二受電コイルと、
を更に有し、
前記第一受電コイルと前記第二受電コイルとは、コイル電圧が同相になるように接続されており、
前記第一帰還コイルと前記第二帰還コイルとは極性が同じ向きとなるように磁気結合されており、
前記移相フィルタは、コンデンサを更に含み、
前記一次側制御コイルは、前記移相フィルタの前記コンデンサ及び前記第二帰還コイルに対して並列接続されている、
請求項1に記載の出力安定化回路。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の出力安定化回路を含むDCDCコンバータ回路であって、
前記二次側回路は、
前記第一送電コイルと共にトランスを構成する第一受電コイルと、
前記第二送電コイルと共にトランスを構成する第二受電コイルと、
前記第一受電コイル及び前記第二受電コイルで生じる交流電圧を直流電圧に変換するDC変換回路と、
を有するDCDCコンバータ回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自励発振型の回路及びDCDCコンバータ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
他励方式の回路とは異なり制御IC等を使用しない自励発振型の回路を採用することで回路の簡素化を実現するインバータ回路や電源回路等が存在している。
下記特許文献1には、出力電圧に相当する電圧信号と基準信号との偏差に応じた誤差信号を第一及び第二トランジスタの各ゲートに供給することで自励発振周波数を変移させて、出力電圧の制御を行う自励共振型電源が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の回路では、FET(Field Effect Transistor)のゲートバイアスを上下させることによってFETが不飽和動作に陥る可能性があること、自励発振の条件から外れて波形異常が発生すること、並列共振部での無効電流の増加によりFET損失が増大すること等、適用範囲が狭いことが懸念される。
本発明は、自励発振に関わる条件への関与なく簡素な回路構成で出力電圧を安定化させる回路技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、直流電源に接続される第一自励発振回路及び第二自励発振回路を含む一次側回路と、該第一自励発振回路及び該第二自励発振回路の発振により出力電圧を得る二次側回路とを備える出力安定化回路であって、前記第一自励発振回路は、第一送電コイルと、前記第一送電コイルと共に共振回路を構成する第一共振コンデンサと、前記第一送電コイルに接続される第一スイッチング素子ペアと、前記第一送電コイルと磁気結合しており前記第一スイッチング素子ペアの各制御電極にそれぞれ接続される第一帰還コイルと、を有し、前記第二自励発振回路は、第二送電コイルと、前記第二送電コイルと共に共振回路を構成する第二共振コンデンサと、前記第二送電コイルに接続される第二スイッチング素子ペアと、前記第一帰還コイルと磁気結合しており前記第二スイッチング素子ペアの各制御電極にそれぞれ接続される第二帰還コイルと、前記第二帰還コイルと前記第二スイッチング素子ペアの各制御電極との間に接続されている移相フィルタと、を有し、前記二次側回路は、前記出力電圧の大きさに応じて流れる電流の大きさが制御される二次側制御コイルを含み、前記移相フィルタは、前記二次側制御コイルと磁気結合しており前記二次側制御コイルに流れる電流に応じてインダクタンスが変わる特性を有する一次側制御コイルを含む出力安定化回路が提供される。
【発明の効果】
【0006】
上記態様によれば、自励発振に関わる条件への関与なく簡素な回路構成で出力電圧を安定化させる回路技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第一実施形態における電源回路の回路図である。
【
図2】第一実施形態の変形例における二次側回路の回路図である。
【
図3】第二実施形態における電源回路の回路図である。
【
図4】実施例1における電源回路の二次側回路の回路図である。
【
図5】実施例1の電源回路における各ポイントでの電圧変化をシミュレートした結果を示すグラフである。
【
図6】実施例1の電源回路における各ポイントでの電圧変化をシミュレートした結果を示すグラフである。
【
図7】実施例1の電源回路における各ポイントでの電圧変化をシミュレートした結果を示すグラフである。
【
図8】実施例2における電源回路の二次側回路の回路図である。
【
図9】実施例2の電源回路における各ポイントでの電圧変化をシミュレートした結果を示すグラフである。
【
図10】実施例3における電源回路の二次側回路の回路図である。
【
図11】実施例3の電源回路における各ポイントでの電圧変化をシミュレートした結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の好ましい実施形態の例(以降、本実施形態と表記する)について説明する。なお、以下に挙げる各実施形態はそれぞれ例示であり、本発明は以下の実施形態の構成に限定されない。
【0009】
[第一実施形態]
図1は、第一実施形態における電源回路1の回路図である。
電源回路1は、バッテリ装置BTを有する一次側回路2及び一次側回路2から出力電圧を得る二次側回路3を備えており、二次側回路3に接続される負荷に対して安定的に出力を提供する回路である。第一実施形態では、バッテリ装置BTが直流電力を供給するバッテリ装置とされており、二次側回路3はDC変換回路S30を含み、電源回路1が全体としてDCDCコンバータ回路として機能する例が示される。
【0010】
〔一次側回路〕
一次側回路2は、バッテリ装置BTに並列に接続されるマスタ回路10及びスレーブ回路20を更に備えている。
マスタ回路10は、送電コイルN11及びN12、共振コンデンサC11、スイッチング素子ペアとしてのトランジスタQ11及びQ12、バイアス回路B10、帰還コイルNf1等を有しており、これらにより自励発振回路を構成している。
【0011】
送電コイルN11と送電コイルN12とは中間タップを介して直列接続されており、中間タップは、入力コイルL11を介してバッテリ装置BTのプラス端子と接続されている。以降、送電コイルN11の一端又は送電コイルN12の一端と表記した場合には、送電コイルN11及びN12の中間タップ側とは反対側の一端を意味するものとする。
送電コイルN11の一端は、トランジスタQ11を介してバッテリ装置BTのマイナス端子と接続されており、送電コイルN12の一端は、トランジスタQ12を介してバッテリ装置BTのマイナス端子と接続されている。
【0012】
共振コンデンサC11は、送電コイルN11及びN12に並列接続されており、送電コイルN11及びN12と共に共振回路を構成している。
トランジスタQ11及びQ12は、FET(Field Effect Transistor)であり、スイッチング素子ペアと表記できる。トランジスタQ11のドレインは送電コイルN11の一端に接続されており、トランジスタQ12のドレインは送電コイルN12の一端に接続されている。トランジスタQ11及びQ12の各ソースはバッテリ装置BTのマイナス端子に接続されている。また、トランジスタQ11及びQ12のゲートはバイアス回路B10に接続されている。
【0013】
バイアス回路B10は、抵抗素子R11、R12、R13及びR14により構成されている。バイアス回路B10は、バッテリ装置BTに並列接続されており、バイアス電圧をトランジスタQ11及びQ12の各ゲートに印加する。
帰還コイルNf1は、送電コイルN11及びN12と磁気結合するように設けられている。帰還コイルNf1の一端は、トランジスタQ11のゲート(制御電極)に接続されており、帰還コイルNf1の他端は、トランジスタQ12のゲート(制御電極)に接続されている。
【0014】
スレーブ回路20は、移相フィルタF20を除いて、マスタ回路10と同様の構成を含む。具体的には、スレーブ回路20は、送電コイルN21及びN22、共振コンデンサC21、スイッチング素子ペアとしてのトランジスタQ21及びQ22、バイアス回路B20、帰還コイルNf2等を有しており、これらにより自励発振回路を構成している。
送電コイルN21及びN22は上述した送電コイルN11及びN12に対応し、共振コンデンサC21は上述した共振コンデンサC11に対応し、トランジスタQ21及びQ22は上述したトランジスタQ11及びQ12に対応し、バイアス回路B20(抵抗素子R21、R22、R23及びR24)は上述したバイアス回路B10(抵抗素子R11、R12、R13及びR14)に対応し、帰還コイルNf2は上述した帰還コイルNf1に対応する。
スレーブ回路20のこれら各構成要素に関して、マスタ回路10における対応する各構成要素と同じ内容(接続形態等)については説明を適宜省略する。
【0015】
スレーブ回路20の帰還コイルNf2は、マスタ回路10における送電コイルN11及びN12並びに帰還コイルNf1と磁気結合するように設けられている。更に言えば、帰還コイルNf2は、帰還コイルNf1と極性が同じ向きとなるように磁気結合されている。なお、帰還コイルNf2は、スレーブ回路20の送電コイルN21及びN22とは磁気結合していない。
本実施形態では、マスタ回路10における送電コイルN11、送電コイルN12及び帰還コイルNf1、並びにスレーブ回路20の帰還コイルNf2が、二次側回路3の受電コイルN31と共にトランス(第一トランス)を構成しており、スレーブ回路20の送電コイルN21及びN22が、二次側回路3の受電コイルN32とトランス(第二トランス)を構成している。
このように本実施形態では、一次側回路2及び二次側回路3は、互いに電気的に絶縁された状態になっており、第一トランス及び第二トランスの電磁誘導により一次側回路2から二次側回路3へ送電可能に構成されている。
【0016】
移相フィルタF20は、トランジスタQ21及びQ22のゲート(制御電極)と帰還コイルNf2との間に接続されている。移相フィルタF20は、抵抗素子Rf21、一次側制御コイルLf21及びコンデンサCf21から構成されており、RLCフィルタと表記することもできる。抵抗素子Rf21及び一次側制御コイルLf21は帰還コイルNf2に対して直列接続されており、コンデンサCf21は帰還コイルNf2に対して並列接続されている。これにより、移相フィルタF20はローパスフィルタを構成している。
移相フィルタF20は、このような構成により、送電コイルN11又はN12の電流により第一トランスに生じた磁界に伴い帰還コイルNf2に生じる交流電圧の位相を遅らせるよう作用する。
【0017】
また、移相フィルタF20の一次側制御コイルLf21は、二次側回路3の後述する二次側制御コイルLc31と磁気結合しており、二次側制御コイルLc31に流れる電流に応じてインダクタンスが変わる特性を有している。このように一次側制御コイルLf21のインダクタンスが可変とされていることにより、移相フィルタF20による移相の大きさが可変となっている。
【0018】
上述した構成の他、一次側回路2は、ヒューズFU及びコンデンサCを備えている。
ヒューズFUは、一次側回路2の自励発振回路(マスタ回路10及びスレーブ回路20)の異常により過大電流が生じた場合にバッテリ装置BTを一次側回路2から切り離す。これにより、過大電流に伴うバッテリ装置BTの異常な加熱を防ぐことができる。
コンデンサCは、バッテリ装置BTの充放電に伴う電圧の変化を吸収する。
【0019】
〔二次側回路〕
二次側回路3は、受電コイルN31及びN32、整流回路SR30、基準電圧回路RV30等を備えている。
受電コイルN31は、上述したとおり、電源回路1における送電コイルN11及び送電コイルN12を一次側コイルとする二次側コイルとしてトランスを構成しており、送電コイルN11又はN12の電流により誘導起電力を生じる。
受電コイルN32は、上述したとおり、電源回路1における送電コイルN21及び送電コイルN22を一次側コイルとする二次側コイルとしてトランスを構成しており、送電コイルN21又はN22の電流により誘導起電力を生じる。
受電コイルN31と受電コイルN32とは、コイル電圧が逆相になるように直列接続されている。これにより、受電コイルN31で誘起される電圧と受電コイルN32で誘起される電圧とが同期している場合には、理論上では出力がゼロになる。
【0020】
整流回路SR30は、受電コイルN31及びN32と接続されている。整流回路SR30は、ダイオードD31、D32、D33及びD34により構成されるブリッジ整流回路と、コイルL31及びコンデンサC31により構成される平滑フィルタとを有しており、全波整流回路として機能する。つまり、整流回路SR30は、受電コイルN31及びN32で生じた交流電圧を全波整流及び平滑化して直流電圧に変換する。
【0021】
基準電圧回路RV30は、抵抗素子R31及びR32、シャントレギュレータ素子Ic31を含み、二次側回路3からの出力電圧を基準電圧以上に安定化させる回路である。
シャントレギュレータ素子Ic31は、出力電圧を抵抗素子R31及びR32で分圧した電圧の入力をリファレンス端子で受け、リファレンス・アノード間の電圧を基準電圧にするように制御する。
また、基準電圧回路RV30は、更に、二次側制御コイルLc31も有している。
二次側制御コイルLc31には、シャントレギュレータ素子Ic31の電圧制御に応じた電流が流れる。即ち、出力電圧が基準電圧よりも高くなると二次側制御コイルLc31に流れる電流が増加し、出力電圧が基準電圧よりも低くなると二次側制御コイルLc31に流れる電流が減少する。
【0022】
二次側制御コイルLc31は、上述したとおり一次側制御コイルLf21と磁気結合しており、二次側制御コイルLc31に流れる電流量によって一次側制御コイルLf21のインダクタンスが可変とされている。
一次側制御コイルLf21及び二次側制御コイルLc31は、一次巻き線と二次巻き線として共通のコアに施されてなる1磁路のトランスを形成する。そして、このトランスを、例えば、二次側制御コイルLc31に流れる直流電流が大きくなる程、一次側制御コイルLf21のインダクタンス減少率が大きくなるようなインダクタンス直流重畳特性となるように構成する。これにより、移相フィルタF20では、RLCフィルタ特性により、一次側制御コイルLf21のインダクタンス値が大きくなる程、移相量が大きくなる(帰還コイルNf2の出力信号とトランジスタQ21及びQ22のゲートに入力される信号との位相差が大きくなる)。
このような構成により、二次側回路3からの出力電圧に応じて移相フィルタF20の移相量を増減させることができ、ひいては、二次側回路3からの出力電圧の安定化を実現することができる。
【0023】
以下、上述のような構成を有する第一実施形態における電源回路1の動作を説明する。
マスタ回路10では、バッテリ装置BTからバイアス回路B10に直流電力が供給されると、トランジスタQ11のゲートに抵抗素子R11及びR12で分割された電圧がバイアス電圧として印加され、トランジスタQ12のゲートに抵抗素子R13及びR14で分割された電圧がバイアス電圧として印加される。これにより、トランジスタ特性及び抵抗素子R11及びR13の抵抗値等により、トランジスタQ11又はQ12のどちらかが先にオン状態となる。
【0024】
このとき、トランジスタQ11がオン状態となった場合には、送電コイルN11に電流が流れ、トランジスタQ11のドレイン・ソース間に電流が流れる。
一次巻線である送電コイルN11に電流が流れることで第一トランスに磁界が生じ、二次巻線である受電コイルN31に誘導起電力が生じる。受電コイルN31に発生させる誘導起電力は、送電コイルN11と受電コイルN31との巻線比に応じて増幅させることができる。
第一トランスに磁界が生じると、更に、一次巻線である帰還コイルNf1及びNf2にも自己誘導により逆起電力が生じる。
【0025】
帰還コイルNf1に逆起電力が生じると、トランジスタQ11に負の電圧が印加されてトランジスタQ11に印加されるバイアス電圧が閾値電圧以下となり、トランジスタQ11がオフ状態となる。一方で、トランジスタQ12には正の電圧が印加されてトランジスタQ12に印加されるバイアス電圧が閾値電圧を上回り、トランジスタQ12がオン状態となる。
【0026】
トランジスタQ11がオフ状態となりトランジスタQ12がオン状態になると、送電コイルN12に電流が流れ、トランジスタQ12のドレイン・ソース間に電流が流れる。
一次巻線である送電コイルN12に電流が流れることで第一トランスに磁界が生じ、二次巻線である受電コイルN31に誘導起電力が生じる。
このようにマスタ回路10では、トランジスタQ11及びQ12のオン状態及びオフ状態が交互に繰り返されることで、一次巻線である送電コイルN11及びN12に相互に向きが異なる電流が交互に流れる。
【0027】
一方で、スレーブ回路20においても同様に動作する。即ち、バッテリ装置BTからバイアス回路B20に直流電力が供給されると、トランジスタQ21のゲートに抵抗素子R21及びR22で分割された電圧がバイアス電圧として印加され、トランジスタQ22のゲートに抵抗素子R23及びR24で分割された電圧がバイアス電圧として印加される。これにより、トランジスタ特性及び抵抗素子R21及びR23の抵抗値等により、トランジスタQ21又はQ22のどちらかが先にオン状態となる。
【0028】
このとき、トランジスタQ21がオン状態となった場合には、送電コイルN21に電流が流れ、トランジスタQ21のドレイン・ソース間に電流が流れる。
一次巻線である送電コイルN21に電流が流れることで第二トランスに磁界が生じ、二次巻線である受電コイルN32に誘導起電力が生じる。受電コイルN32に発生させる誘導起電力は、送電コイルN21と受電コイルN32との巻線比に応じて増幅させることができる。
【0029】
このとき、上述した通りマスタ回路10でも同様の動作が生じており、マスタ回路10の第一トランスに生じた磁界により、一次巻線である帰還コイルNf2にも自己誘導により逆起電力が生じている。ここで、帰還コイルNf2で生じた電圧は、移相フィルタF20により位相がずらされて、トランジスタQ21及びQ22に印加される。このとき、トランジスタQ21に負の電圧が印加されてトランジスタQ21に印加されるバイアス電圧が閾値電圧以下となり、トランジスタQ21がオフ状態となる。一方で、トランジスタQ22には正の電圧が印加されてトランジスタQ22に印加されるバイアス電圧が閾値電圧を上回り、トランジスタQ22がオン状態となる。
【0030】
トランジスタQ21がオフ状態となりトランジスタQ22がオン状態になると、送電コイルN22に電流が流れ、トランジスタQ22のドレイン・ソース間に電流が流れる。
一次巻線である送電コイルN22に電流が流れることで第二トランスに磁界が生じ、二次巻線である受電コイルN32に誘導起電力が生じる。
このようにスレーブ回路20では、トランジスタQ21及びQ22のオン状態及びオフ状態が交互に繰り返されることで、一次巻線である送電コイルN21及びN22に相互に向きが異なる電流が交互に流れる。
但し、スレーブ回路20では、移相フィルタF20の作用により帰還コイルNf2で生じた電圧の位相がずらされることで、トランジスタQ21及びQ22のオン・オフのタイミングがマスタ回路10のトランジスタQ11及びQ12のオン・オフのタイミングとずれることになる。結果、送電コイルN21及びN22における電流のスイッチングタイミングと送電コイルN11及びN12における電流のスイッチングタイミングとがずれる。
【0031】
このような一次側回路2の動作により、第一トランス及び第二トランスに磁界が発生し、二次側回路3における二次巻線である受電コイルN31及びN32には交互に発生する正負の電圧から成る交流電圧がそれぞれ誘起される。
但し、上述したとおり、送電コイルN21及びN22における電流のスイッチングタイミングと送電コイルN11及びN12における電流のスイッチングタイミングとがずれているため、受電コイルN31で誘起される交流電圧と受電コイルN32で誘起される交流電圧との位相もずれることになる。
【0032】
二次側回路3では、このように受電コイルN31で生じた交流電圧及び受電コイルN32で生じた交流電圧が合成されて整流回路SR30に入力され、全波整流及び平滑化により直流電圧に変換される。
変換された直流電圧が基準電圧回路RV30に入力されると、シャントレギュレータ素子Ic31により出力電圧が基準電圧以上になるように制御されて出力される。
このとき、出力電圧に応じた電流量が二次側制御コイルLc31に流れる。この電流量に応じて二次側制御コイルLc31と磁気結合している一次側制御コイルLf21のインダクタンス値が変わる。一次側制御コイルLf21のインダクタンス値の変化に伴い、移相フィルタF20の移相量が変わることになる。
【0033】
本実施形態では、受電コイルN31と受電コイルN32とがコイル電圧が逆相になるように接続されているため、受電コイルN31に生じる交流電圧と受電コイルN32に生じる交流電圧とが同期されている程(位相が一致している程)、出力電圧は低くなり、位相のずれが90度に近い程、出力電圧は高くなる。
そのため、移相フィルタF20は、上述した一次側制御コイルLf21、抵抗素子Rf21及びコンデンサCf21の作用により、二次側制御コイルLc31に流れる電流量が大きい場合には受電コイルN31及びN32に生じる交流電圧が同期する方向に移相を行い、その電流量が小さい場合には受電コイルN31及びN32に生じる交流電圧の位相がずれる方向に移相を行う。
【0034】
従って、本実施形態によれば、既存のコレクタ共振型の自励発振回路では入力の直流電圧の変動に応じて出力電圧が変動してしまうところ、このような移相動作により簡易な回路構成で出力電圧の安定化を実現することができる。このため、本実施形態における電源回路1は出力安定化回路と表記することができる。
【0035】
[第一実施形態の変形例]
上述した第一実施形態では直流電圧を出力するDCDCコンバータ回路としての電源回路1が例示されたが、二次側回路3を変形させることで正弦波電圧を出力する回路構成とすることもできる。
図2は、第一実施形態の変形例における二次側回路3の回路図である。なお、本変形例において一次側回路2は、
図1に示される第一実施形態と同様の構成でよい。
本変形例において二次側回路3では、ダイオードD31、D32、D33及びD34により構成されるブリッジ整流回路が取り除かれている。また、基準電圧回路RV31は、第一実施形態の基準電圧回路RV30の構成に加えて、ダイオードD35及びコンデンサC32を更に有している。
【0036】
本変形例の二次側回路3では、受電コイルN31で生じた交流電圧(正弦波電圧)及び受電コイルN32で生じた交流電圧(正弦波電圧)が合成されて、ローパスフィルタ(L31及びC31)により高周波ノイズ成分が除去された後、基準電圧回路RV31に入力されることになる。
基準電圧回路RV31では、ダイオードD35及びコンデンサC32で交流を整流平滑して直流としているため、それ以降は第一実施形態の基準電圧回路RV31と同じ作用であり、出力安定化が可能である。
【0037】
従って、本変形例によれば、ローパスフィルタ(L31及びC31)後から出力をとることで「安定化された正弦波出力」とすることができる。
【0038】
[第二実施形態]
図3は、第二実施形態における電源回路1の回路図である。
第二実施形態における電源回路1は、二次側回路3において受電コイルN31と受電コイルN32とがコイル電圧が同相になるように接続されている点及び移相フィルタF20の構成に関して第一実施形態と異なる。以下、第二実施形態における電源回路1について第一実施形態と異なる内容を中心に説明し、第一実施形態と同一内容については適宜省略する。
【0039】
第二実施形態では、受電コイルN31と受電コイルN32とがコイル電圧が同相になるように接続されているため、受電コイルN31に生じる交流電圧と受電コイルN32に生じる交流電圧とが同期されている程(位相が一致している程)、出力電圧は高くなり、位相のずれが90度に近い程、出力電圧は低くなる。
そのため、移相フィルタF20は、二次側制御コイルLc31に流れる電流量が大きい場合には受電コイルN31及びN32に生じる交流電圧の位相がずれる方向に移相を行い、その電流量が小さい場合には受電コイルN31及びN32に生じる交流電圧が同期する方向に移相を行う必要がある。
そこで、第二実施形態の移相フィルタF20では、第二帰還コイルNf22とコンデンサCf21とが直列接続されており、一次側制御コイルLf21が、第二帰還コイルNf2及びコンデンサCf21に対して並列接続されている。即ち、移相フィルタF20は、ハイパスフィルタを構成することで、上述のような移相を可能とする。
【0040】
従って、第二実施形態によれば、二次側回路3において受電コイルN31と受電コイルN32とがコイル電圧が同相になるように接続されている場合であっても、第一実施形態と同様に、簡易な回路構成で出力電圧の安定化を実現することができる。
【0041】
[第二実施形態の変形例]
二次側回路3において受電コイルN31と受電コイルN32とがコイル電圧が同相になるように接続されている場合に、移相フィルタF20の構成を第一実施形態の構成と同一とすることもできる。この場合には、帰還コイルNf1と帰還コイルNf2とを極性が逆向きに磁気結合するように構成すればよい。
このようにすれば、帰還コイルNf1に誘起される電圧と帰還コイルNf2に誘起される電圧とを逆相にすることができるため、二次側回路3において受電コイルN31と受電コイルN32とがコイル電圧が同相になるように接続されている場合でも第一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0042】
以下に実施例を挙げ、上述の内容を更に詳細に説明する。但し、以下の実施例の記載は、上述の内容に何ら限定を加えるものではない。
【実施例0043】
実施例1では、上述の第一実施形態の効果をシミュレーションにより検証した結果を示す。
図4は、実施例1における電源回路1の二次側回路3の回路図である。
実施例1のシミュレーションでは、一次側制御コイルLf21と二次側制御コイルLc31との磁気結合による一次側制御コイルLf21のインダクタンス制御を行わず、一次側制御コイルLf21のインダクタンス値が仮想的に手動で設定された。
このため、二次側回路3には基準電圧回路RV30が設けられておらず、負荷抵抗R0が接続されている。なお、一次側回路2は、
図1に示される第一実施形態と同様の構成である。
【0044】
図5から
図7は、実施例1の電源回路1における各ポイントでの電圧変化をシミュレートした結果を示すグラフである。
図5から
図7において、(a)は一次側制御コイルLf21のインダクタンス値が第一の値に設定されている場合のシミュレーション結果を示し、(b)は一次側制御コイルLf21のインダクタンス値が第一の値よりも大きい第二の値に設定されている場合のシミュレーション結果を示している。
【0045】
図5(a)及び
図5(b)には、帰還コイルNf2に誘起される電圧波形(出力波形)と、帰還コイルNf2に誘起されて移相フィルタF20が適用された後(通過後)の電圧波形と、トランジスタQ22のゲートへ入力される電圧波形とが示されている。
図5(a)によれば、一次側制御コイルLf21のインダクタンス値が第一の値(小)とされている状態では、帰還コイルNf2で生じた電圧の位相が移相フィルタF20で大きくずらされて、トランジスタQ22のゲートへ印加されていることがわかる。
一方、
図5(b)によれば、一次側制御コイルLf21のインダクタンス値が第二の値(大)とされている状態では、移相フィルタF20による移相量が
図4(a)の場合よりも小さくなっており、帰還コイルNf2で生じた電圧の位相が移相フィルタF20でわずかにずらされて、トランジスタQ22のゲートへ印加されていることがわかる。
【0046】
図6(a)及び
図6(b)には、マスタ回路10のトランジスタQ12のドレイン・ソース間の電圧波形(出力波形)と、スレーブ回路20のトランジスタQ22のドレイン・ソース間の電圧波形(出力波形)とが示されている。
図6(a)によれば、一次側制御コイルLf21のインダクタンス値が第一の値(小)とされている状態では、マスタ回路10のトランジスタQ12の電圧波形とスレーブ回路20のトランジスタQ22の電圧波形との位相が大きくずれていることがわかる。これは、帰還コイルNf2に生じた電圧波形の移相量を大きくすることで、マスタ回路10のトランジスタQ11及びQ12のスイッチングタイミングとスレーブ回路20のトランジスタQ21及びQ22のスイッチングタイミングとを大きくずらすことができることを示している。
一方、
図6(b)によれば、一次側制御コイルLf21のインダクタンス値が第二の値(大)とされている状態では、マスタ回路10のトランジスタQ12の電圧波形とスレーブ回路20のトランジスタQ22の電圧波形との位相のずれが小さいことがわかる。これは、帰還コイルNf2に生じた電圧波形の移相量を小さくすることで、マスタ回路10のトランジスタQ11及びQ12のスイッチングタイミングとスレーブ回路20のトランジスタQ21及びQ22のスイッチングタイミングとのずれを小さくすることができることを示している。
【0047】
図7(a)及び
図7(b)には、負荷抵抗にかかる直流電圧レベルと、ダイオードD33のカソード側の全波整流波形とが示されている。
図7(a)によれば、一次側制御コイルLf21のインダクタンス値が第一の値(小)とされている状態では、受電コイルN31に生じる電圧波形と受電コイルN32に生じる電圧波形との位相が大きくずれており、合成された電圧波形の全波整流後の直流電圧レベルが比較的大きくなることがわかる。
一方、
図7(b)によれば、一次側制御コイルLf21のインダクタンス値が第二の値(大)とされている状態では、受電コイルN31に生じる電圧波形と受電コイルN32に生じる電圧波形との位相差が小さいため、合成された電圧波形の全波整流後の直流電圧レベルが
図7(a)の場合に比べて小さくなっていることがわかる。
【0048】
このように実施例1によれば、第一実施形態の電源回路1において、一次側制御コイルLf21のインダクタンス値の大小により移相フィルタF20による移相量を変化させることで出力電圧を制御できること、ひいては出力電圧の安定化を実現できることが実証された。
このように実施例2によれば、二次側回路3が正弦波電圧を出力する構成を採用した場合であっても第一実施形態の電源回路1において、移相フィルタF20による移相動作によって出力電圧の安定化を実現できることが実証された。