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特開2022-148113残留農薬除去用洗浄水、その生成方法およびその生成装置
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  • 特開-残留農薬除去用洗浄水、その生成方法およびその生成装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148113
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】残留農薬除去用洗浄水、その生成方法およびその生成装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/461 20060101AFI20220929BHJP
   C02F 1/42 20060101ALI20220929BHJP
   C02F 1/68 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
C02F1/461 A
C02F1/42 B
C02F1/68 520B
C02F1/68 530A
C02F1/68 540C
C02F1/68 540E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049654
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】596164744
【氏名又は名称】▲高▼橋金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣川 載泰
(72)【発明者】
【氏名】速水 あずみ
(72)【発明者】
【氏名】野一色 剛
(72)【発明者】
【氏名】神林 大貴
【テーマコード(参考)】
4D025
4D061
【Fターム(参考)】
4D025AA02
4D025AA03
4D025AB06
4D025AB12
4D025AB19
4D025BA08
4D025BA13
4D025BB08
4D025DA06
4D025DA10
4D061DA03
4D061DB08
4D061EA02
4D061EB01
4D061EB04
4D061EB12
4D061FA08
4D061FA20
(57)【要約】
【課題】電解質等を添加せずに得られ、洗剤等を使用するまでもなく、農産物の残留農薬を効率的に除去できる洗浄水を提供する。
【解決手段】本発明の洗浄水は、電解質を加えずに水道水からなる原水を電気分解して得られたアルカリ性電解水からなる。そのpHは10~12であり、10個/mL以上の微細気泡を含む。微細気泡は、例えば、直径が1μm以下であるウルトラファインバブルからなり、二酸化炭素が除去された空気から生成される。洗浄水中の塩素イオン濃度は、例えば、3mg/L以下であり、硫酸イオン濃度は6mg/L以下である。洗浄対象である残留農薬の有効成分は水溶性でも脂溶性でもよい。本発明の洗浄水は、水道水と比較すると、特に脂溶性の有効成分の除去に有効である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質を加えずに水道水からなる原水を電気分解して得られたアルカリ性電解水からなり、
pHが10~12であると共に10個/mL以上の微細気泡を含み、
農産物に残留する農薬の除去に用いられる洗浄水。
【請求項2】
さらに、塩素イオン濃度が3mg/L以下で硫酸イオン濃度が6mg/L以下である請求項1に記載の洗浄水。
【請求項3】
前記農薬には、脂溶性の成分が含まれる請求項1または2に記載の洗浄水。
【請求項4】
前記微細気泡は、直径が1μm以下であるウルトラファインバブルからなる請求項1~3のいずれかに記載の洗浄水。
【請求項5】
前記微細気泡は、二酸化炭素が除去された空気から生成される請求項1~4のいずれかに記載の洗浄水。
【請求項6】
電解質を加えずに水道水からなる原水を電気分解してアルカリ性電解水を得る電解工程と、
該アルカリ性電解水中に微細気泡を混在させる気泡導入工程とを備え、
請求項1~5のいずれかに記載の洗浄水が得られる生成方法。
【請求項7】
前記アルカリ性電解水に含まれる塩素イオンおよび/または硫酸イオンを除去する陰イオン除去工程を備える請求項6に記載の洗浄水の生成方法。
【請求項8】
前記原水は、前記電解工程前に、前記水道水からマグネシウムイオンおよび/またはカルシウムイオンを除去した軟水である請求項6または7に記載の洗浄水の生成方法。
【請求項9】
電解質を加えずに水道水からなる原水を電気分解してアルカリ性電解水を得る電解手段と、
該アルカリ性電解水中に微細気泡を混在させる気泡導入手段とを備え、
請求項1~5のいずれかに記載の洗浄水が得られる生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農産物(果実、野菜等)に付着している残留農薬を除去するために用いられる洗浄水等に関する。
【背景技術】
【0002】
健康、衛生、環境等への関心の高揚に伴い、薬品を用いた消毒殺菌や洗剤を用いた洗浄等に替えて、水を電気分解して得られた電解水が用いられるようになってきた。例えば、消毒殺菌等には、陽極側から得られる次亜塩素酸を含む酸性電解水が用いられている。
【0003】
また、工業製品(加工品)等の洗浄には、陰極側から得られるアルカリ性電解水が用いられている。アルカリ性電解水については多くの提案がなされており、例えば、下記の文献に関連する記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-96065
【特許文献2】特開2002-96066
【特許文献3】WO2013/175800
【特許文献4】特開2020-62613
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2には、アルカリ性電解水からなる洗浄水またはその製造方法・製造装置に関する記載がある。特許文献3、4は、アルカリ性電解水にウルトラファインバブル(ナノバブル)を混在させた洗浄水の生成装置等に関する記載がある。
【0006】
いずれの特許文献でも、農産物の残留農薬の洗浄については、全く検討や評価がなされていない。なお、特許文献3には、ナノバブルを含む酸性電解水によるレタスの殺菌性について評価されているが([0092]、表12、図8等)、残留農薬の洗浄性については全く想定されていない。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、農産物に付着している残留農薬を効率的に除去できる洗浄水等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、電解質等を添加せずに水道水を電気分解して得たアルカリ性電解水に微細気泡を混在させた特定の洗浄水が、残留農薬の除去性に優れることを新たに見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0009】
《残留農薬除去用洗浄水》
本発明は、電解質を加えずに水道水からなる原水を電気分解して得られたアルカリ性電解水からなり、pHが10~12であると共に10個/mL以上の微細気泡を含み、農産物に残留する農薬の除去に用いられる洗浄水である。
【0010】
本発明の洗浄水によれば、農産物に残留する農薬を効率的に除去できる。また、本発明の洗浄水は、電解質等を加えずに水道水を電気分解して得られるため、食品である農産物の安心・安全な洗浄に適する。
【0011】
《生成方法/生成装置》
本発明は、上述した洗浄水を生成する方法または装置としても把握される。例えば、本発明は、電解質を加えずに水道水からなる原水を電気分解してアルカリ性電解水を得る電解工程と、該アルカリ性電解水中に微細気泡を混在させる気泡導入工程とを備える洗浄水の生成方法でもよい。また本発明は、電解質を加えずに水道水からなる原水を電気分解してアルカリ性電解水を得る電解手段と、該アルカリ性電解水中に微細気泡を混在させる気泡導入手段とを備える洗浄水の生成装置でもよい。
【0012】
本明細書でいう「~工程(ステップ)」と「~手段」は、本発明の対象(物の発明か方法の発明)に応じて相互に読み替えことができる。例えば、「~工程」を読み替えた「~手段」は「物」(装置等)の構成要素となる。また、「~手段」を読み替えた「~工程」は「方法」(方法等)の構成要素となる。
【0013】
《その他》
(1)本明細書でいう「原水」は電気分解される水である。水道水(原料水)が原水となることもあれば、水道水に含まれる物質(例えばMg2+、Ca2+)を除去した水が原水となることもある。
【0014】
本明細書でいう「除去」には、特定の成分や物質(イオン等)の含有量や濃度を低減する場合も含まれる。
【0015】
(2)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は、下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。また特に断らない限り、本明細書でいう「x~ymg/L」はxmg/L~ymg/Lを意味する。他の単位系(nm、μm等)についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】洗浄水の生成過程を例示したフロー図である。
図2】実施例で生成した洗浄水に含まれる気泡の分布(サイズと個数の関係)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、本発明の洗浄水のみならず、その生成方法や生成装置にも適宜該当する。また、方法的な構成要素であっても物に関する構成要素ともなり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0018】
(1)pH
洗浄水のpHは、例えば、10~12、10.3~11.5さらには10.5~11.3である。pHが過小では、残留農薬(特に脂溶性の成分)の洗浄性(除去率)が低下し得る。pHが過大な洗浄水は、洗浄対象である農産物の鮮度や外観に影響を及ぼし得る。なお、電解質を用いた高pHな洗浄水を用いると、その電解質を除去するすすぎ等がさらに必要になる。
【0019】
(2)含有成分
所望のpHや洗浄性が確保される限り、洗浄水に含まれるイオンや物質の種類や濃度は問わない。
【0020】
電解質を添加せずに水道水を電気分解してアルカリ性電解水を得る場合、所望のpHを安定的に確保するために、水酸化物イオン(OH-)以外の陰イオンの一種以上を除去してもよい(陰イオン除去工程/高pH化工程)。例えば、塩素イオン(Cl-)、硫酸イオン(SO 2-)等は除去されてもよい。このとき、洗浄水中の塩素イオン濃度は、例えば、3mg/L以下、2mg/L以下さらには1.5mg/L以下となる。また、洗浄水中の硫酸イオン濃度は、例えば、6mg/L以下、3mg/L以下さらには1mg/L以下となる。
【0021】
逆に、洗浄水中に、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、カルシウムイオン(Ca2+)などの陽イオンは、相当量が含まれてもよい。例えば、電気分解に寄与するナトリウムイオン濃度は、10~60mg/L、20~50mg/L、30~40mg/Lでもよい。
【0022】
但し、マグネシウムイオンやカルシウムイオンは、透過膜(隔膜等)や交換膜を劣化させたり、配管等に不溶な堆積物(スケール)を生成させるため、予め除去されているとよい。そこで、電気分解される原水には、例えば、水道水からマグネシウムイオンおよび/またはカルシウムイオンを除去した軟水が用いられるとよい(軟水化工程)。洗浄水の硬度(炭酸カルシウム換算)でいうなら、例えば、10mg/L以下、5mg/Lさらには1mg/L以下であるとよい。
【0023】
陽イオン(Mg2+、Ca2+等)の除去は、例えば、水道水を陽イオン交換樹脂(例えば軟水器/軟水化手段)を通過させることにより行える。陽イオン交換樹脂により置換される陽イオンは、例えば、ナトリウムイオンや水素イオン(H+)である。ナトリウムイオンで代替されると、原水(軟水)の電気分解が容易になる。
【0024】
陰イオン(Cl-、SO 2-等)の除去は、例えば、アルカリ性電解水を陰イオン交換樹脂(陰イオン除去手段)を通過させることにより行える(陰イオン除去工程)。陰イオン交換樹脂により置換される陰イオンは、例えば、水酸化物イオン(OH-)である。これによりアルカリ性電解水の高pH化が図られるため、陰イオン除去工程(手段)は高pH化工程(手段)と換言されてもよい。
【0025】
なお、本明細書でいうイオン濃度は、例えば、誘導結合プラズマ分析装置(ICP:Inductivity Coupled Plasma)により特定され、本明細書では特に断らない限り、mg/Lで示す。
【0026】
(3)微細気泡
微細気泡は、例えば、サイズ(直径/粒径)が0.1mm(100μm)以下の気泡(ファインバブル)である。微細気泡には、粒径が1μm以下(さらには未満)であるウルトラファインバブル(ナノバブル)が含まれるとよい。ウルトラファインバブル(UFB:Ultra Fine bubble)は、洗浄水中で安定的に滞留すると共に、農産物の表面にある微細孔等へも侵入して洗浄性を向上させ得る。
【0027】
微細気泡は、通常、サイズの異なる無数の気泡からなり、その全部がUFBでも、その一部がUFBでもよい。換言すると、洗浄水中には、ファインバブル(マイクロバブル)が含まれてもよい。このような微細気泡の平均径は、例えば、1~1000nm、10~500nmさらには50~250nmである。特に断らない限り、本明細書でいう「径」は直径を意味し、「平均径」は測定した気泡径の算術平均値である。
【0028】
洗浄水中の微細気泡は、例えば、10個/mL以上、10個/mL以上さらには10個/mL以上あるとよい。微細気泡は、その上限値は問わないが、敢えていうと例えば、1012個/mL以下さらには1011個/mL以下でもよい。
【0029】
洗浄水中の気泡の個数やサイズを測定または定量化する方法や条件は、現状、統一されていない(参考:一般社団法人ファインバブル産業会発行「ファインバブル広告・表示ガイドライン」(2020年11月1日版)/https://fbia.or.jp/wp/wp-content/uploads/2021/01/38491865fa12030f17a5929459d8e566.pdf)。本明細書では、特に断らない限り、粒子軌跡解析法(ナノ粒子トラッキング法)により得られる気泡径の個数密度(分布)に基づいて、洗浄水中に含まれる気泡の個数やサイズを求める(参考:独立行政法人 製品評価技術基盤機構 「ウルトラファインバブルの測定技術」/https://www.nite.go.jp/gcet/fb/ultrafinebubble.html)。
【0030】
微細気泡の生成方式は問わないが、例えば、旋回(液)流方式、スタティックミキサー方式、超音波方式等がある。アルカリ性電解水を微細気泡発生装置(気泡導入手段)へ繰り返し導入して、アルカリ性電解水に混在させる微細気泡の個数密度を増加させてもよい。
【0031】
微細気泡を構成する気体として、空気、不活性ガス(窒素等)の他、電気分解時に発生する塩素や水素を利用し得る。通常、大気中の空気が用いられるが、二酸化炭素が除去された空気を用いるとよい。これにより、微細気泡を含む洗浄水のpH低下を抑制できる。なお、二酸化炭素は、例えば、その吸着剤(二酸化炭素除去手段)に空気を接触させることにより除去される。
【0032】
(4)農薬
洗浄対象となる農薬の種類(成分、特性)や量は問わない。本発明の洗浄水は、水溶性の成分でも脂溶性(疎水性)の成分でも除去できる。水溶性の成分だけなら、水道水でも相応量の除去が可能であるため、本発明の洗浄水は脂溶性(疎水性)の成分が含まれ得る残留農薬の洗浄に適する。
【0033】
なお、「水溶性」または「脂溶性」は、油(1-オクタノール)に溶解する成分濃度と水に溶解する成分濃度の比である油水分配係数(Pow)に基づいて判定される。本明細書では、Pow>1(Log(Pow)>0)なら「脂溶性」、Pow<1(Log(Pow)<0)なら「水溶性」とした。
【0034】
水溶性の有効成分として、例えば、ジノテフラン、チアメトキサム、アセフェート等がある。脂溶性の有効成分として、例えば、イプロジオン、アセタミプリド、プロシミドン、ボスカリド等がある。
【実施例0035】
水道水から生成した洗浄水(試料水)により、農薬を付着させた野菜を洗浄した。各洗浄水について、水質と洗浄性(農薬の有効成分の除去率)を評価した。このような実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。
【0036】
《工程・装置》
図1に示すフローに沿って、UFBが混在したアルカリ性電解水からなる洗浄水を生成した。具体的にいうと、次の通りである。
【0037】
(1)水道水
原料水には、高橋金属株式会社(滋賀県長浜市細江町1197-3)で採水した水道水(市水)を用いた。
【0038】
(2)電解
上記の水道水を、陽イオン交換樹脂からなる軟水器(軟水化手段)を内蔵するアルカリ性電解水生成装置(高橋金属株式会社製TIWS-HM06/電解手段)へ供給した。
【0039】
電解電圧:60V、電解電流:4.1Aとして、軟水化した水道水(原水)を電気分解して、陰極側から約3L/分のアルカリ性電解水を得た(電解工程)。
【0040】
なお、電気分解に際して、原水には電解質(NaCl等)等を一切添加しなかった。但し、軟水化された原水中には、陽イオン交換樹脂により除去される陽イオン(Mg2+、Ca2+等)の代替として放出されるNa+が含まれる。
【0041】
(3)陰イオン除去
アルカリ性電解水を陰イオン交換樹脂へ導き、アルカリ性電解水中に含まれる陰イオン(Cl-、SO 2-等)を除去した(陰イオン除去工程)。なお、陰イオン交換樹脂は、吸着した陰イオンの代替としてOH-を放出する。
【0042】
(4)微細気泡
アルカリ性電解水を入れた循環タンクとウルトラファインバブル発生装置(IDEC株式会社製FZ1N-05S/気泡導入手段/「UFB装置」という。)を配管で接続した。UFB装置には、主成分が水酸化カルシウムである二酸化炭素吸着剤(アコマ医科工業株式会社製アコマライムゼロ)を通過させた空気(「CO除去空気」という。)を導入した(二酸化炭素除去工程)。CO除去空気は、UFB装置内で加圧(ゲージ圧:270~300kPa/溶解圧力)される。
【0043】
なお、二酸化炭素の検知管(ガステック株式会社製2LC)で測定したところ、大気中の空気はCO濃度:400ppm(体積濃度0.04%)であったが、CO除去空気からCOは検出されなかった。
【0044】
UFB装置を稼働させて、循環タンク内のアルカリ性電解水:10Lを、流量:8L/分で30分間循環させた(循環パス数:8×30/10=24)。こうして、CO除去空気からなる微細気泡の混在したアルカリ性電解水からなる洗浄水を得た(気泡導入工程)。
【0045】
[第1実施例]
《試料水》
上述した各工程の全部または一部を実施して、表1に示す複数種の試料水を得た。各試料水を用いて、次のような水質測定と洗浄試験を行った。それらの結果は表1に併せて示した。
【0046】
《水質測定》
(1)pH
試料水のpHは、pH測定器(株式会社堀場製作所製pHメータD-54)により測定した。なお、特に断らない限り、測定は、約10℃の試料水について行った(以下同様)。
【0047】
(2)成分
試料水に含まれるイオン濃度は液体クロマトグラフ装置(株式会社島津製作所社製HIC-10A Super)を用いて測定した。試料水に含まれる物質濃度は誘導結合プラズマ発光分光分析装置(株式会社島津製作所社製ICPE-9000)を用いて測定した。
【0048】
(3)微細気泡
試料水に含まれる微細気泡の分布(サイズ(径)と個数)は粒子軌跡解析法(ナノ粒子トラッキング法)の粒径分布測定装置(スペクトリス株式会社製ナノサイトNS300)を用いて測定した。得られた単位体積(1ml)あたりの気泡数(個数密度)、平均径(気泡数に基づく気泡径の算術平均値)および最頻度径(個数がピークとなるときの気泡径)を表1に併せて示した。
【0049】
参考に、試料水12、13および22の粒径分布を図2に例示した。また、気泡数(頻度)の累積が10%、50%、90%となるときの各粒径D10、D50(メジアン径)、D90も、図2中に併記した。
【0050】
《洗浄試験》
試料水11、21、22を用いて次のような洗浄試験を行った。いずれの試験でも、対象野菜:ミニトマト、洗浄方法:浸漬揺動洗浄、洗浄水温:10℃とした。農薬の塗布は、野菜全体への噴霧後に、大気中で自然乾燥させる操作を3回繰り返して行った。農薬の有効成分の残留量は、ELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)法により測定した。
【0051】
(1)試験11
農薬の噴霧には、ロブラール水和剤(有効成分:イプロジオン)の1000倍希釈液を用いた。洗浄時間は30秒間とした。
【0052】
(2)試験12
農薬の噴霧には、モスピラン顆粒水溶剤(有効成分:アセタミプリド)の2000倍希釈液を用いた。洗浄時間は1分間とした。
【0053】
《評価》
表1から明らかなように、所定数の微細気泡(UFB)と所定のpHとを有する試料水22が最も優れた洗浄性を示した。なお、表1に示した有効成分の除去率は、洗浄前の残留量(p)と洗浄後の残留量(p)から、100×{1-(p/p)}として求めた(以下同様)。
【0054】
また、試料水11と試料水21の比較から、アルカリ性電解水に陰イオン除去を施すことにより、洗浄水のpHが上昇することがわかった。また、試料水12と試料水13の比較から、UFB装置へ導入する空気をCO除去空気とすることにより、洗浄水のpHが上昇することもわかった。
【0055】
さらに、表1および図2から明らかなように、洗浄水中の微細気泡は、最大でも気泡径が500nm(<1μm)以下であり、その殆どは気泡径が200nm以下のウルトラファインバブル(UFB)であることもわかった。
【0056】
[第2実施例]
《試料水》
表1に示した試料水11と試料水C1(水道水)を用いて、3種類の農薬を用いた別な洗浄試験も行った。得られた結果は表2にまとめて示した。
【0057】
《洗浄試験》
いずれの試験でも、洗浄方法:浸漬揺動洗浄、洗浄水温:10℃とした。農薬の塗布は、野菜全体への噴霧後に、大気中で自然乾燥させる操作を3回繰り返して行った。農薬の有効成分の残留量は、液体クロマトグラフ質量分析法により測定した。
【0058】
(1)試験21
農薬の噴霧には、ロブラール水和剤(有効成分:イプロジオン)の1000倍希釈液を用いた。対象野菜:パプリカ、洗浄時間:1分間とした。
【0059】
(2)試験22
農薬の噴霧には、モスピラン顆粒水溶剤(有効成分:アセタミプリド)の2000倍希釈液を用いた。対象野菜:パプリカ、洗浄時間:1分間とした。
【0060】
(3)試験23
農薬の噴霧には、スタークル顆粒水溶剤(有効成分:ジノテフラン)の2000倍希釈液を用いた。対象野菜:ミニトマト、洗浄時間:30秒間とした。
【0061】
《評価》
表2に示した各除去率に基づいて、水道水の除去率に対する洗浄水の除去率の倍率を算出して、表3にまとめて示した。また表3には、各有効成分について、水に対する溶解度と、油(1-オクタノール)と水の分配係数:Log(Pow)も併せて示した。
【0062】
表2、表3から明らかなように、微細気泡を含まないアルカリ性電解水(試料水11)でも、水道水(試料水C1)よりも優れた洗浄性を示すことが確認された。また、Log(Pow)>0(Pow>1)となる脂溶性の有効成分に対して、アルカリ性電解水(試料水11)でも、顕著に優れた洗浄性を示すことが確認された。
【0063】
[考察]
第1実施例と第2実施例から次のことがいえる。先ず、微細気泡を含まないアルカリ性電解水(pH10~10.8程度/試料水11)でも、未処理な水道水よりも、残留農薬に対して十分に高い洗浄性が得られる。次に、pHを高めたアルカリ性電解水(pH10.8~12程度/試料水21)なら、その洗浄性をより高めることができる。そして、微細気泡を含む高pHなアルカリ性電解水(試料水22)なら、より一層、残留農薬(有効成分)を十分に除去できる。
【0064】
こうして本発明の洗浄水によれば、添加物や洗剤等を用いるまでもなく、農産物の残留農薬を確実かつ効率的に除去でき、農産物の安心安全な洗浄を実現できることが確認された。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
図1
図2