(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148144
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】酸化銅被覆部材
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
B32B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049712
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優樹
(72)【発明者】
【氏名】石井 博
(72)【発明者】
【氏名】歳森 悠人
(72)【発明者】
【氏名】長友 義幸
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA17B
4F100AA17C
4F100AA19C
4F100AA20C
4F100AA21C
4F100AA25C
4F100AA27C
4F100AA28C
4F100AB17C
4F100AG00A
4F100AK01A
4F100AK42A
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4F100EH66C
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4F100GB81
4F100JC00
4F100JL13D
4F100JN01A
4F100JN28
(57)【要約】
【課題】耐久性に優れ、かつ、抗菌性・抗ウィルス性に優れた酸化銅被覆部材を提供する。
【解決手段】基材と、この基材の少なくとも表面に形成された酸化銅層と、を有し、前記酸化銅層がCu4O3を含むことを特徴とする。前記基材の表面における前記酸化銅層の被覆率が10%以上であることが好ましい。前記酸化銅層の厚さが100nm以下であることが好ましい。前記基材と前記酸化銅層との間に中間層が形成されており、前記中間層が、金属Cu,In酸化物,Sn酸化物,Zn酸化物,Nb酸化物,Ti酸化物,Al酸化物,Ga酸化物,W酸化物,Mo酸化物,Si酸化物,Zr酸化物,Ta酸化物,Y酸化物,Ge酸化物,Cu酸化物,Ag酸化物から選択される一種または二種以上を含むことが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、この基材の少なくとも表面に形成された酸化銅層と、を有し、前記酸化銅層がCu4O3を含むことを特徴とする酸化銅被覆部材。
【請求項2】
前記基材の表面における前記酸化銅層の被覆率が10%以上であることを特徴とする請求項1に記載の酸化銅被覆部材。
【請求項3】
前記酸化銅層の厚さが100nm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の酸化銅被覆部材。
【請求項4】
前記基材と前記酸化銅層との間に中間層が形成されており、前記中間層が、金属Cu,In酸化物,Sn酸化物,Zn酸化物,Nb酸化物,Ti酸化物,Al酸化物,Ga酸化物,W酸化物,Mo酸化物,Si酸化物,Zr酸化物,Ta酸化物,Y酸化物,Ge酸化物,Cu酸化物,Ag酸化物から選択される一種または二種以上を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の酸化銅被覆部材。
【請求項5】
前記基材が、透明ガラス基板又は透明樹脂基板であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の酸化銅被覆部材。
【請求項6】
波長550nmの光の透過率が5%以上であることを特徴とする請求項5に記載の酸化銅被覆部材。
【請求項7】
前記基材に粘着層が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の酸化銅被覆部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に酸化銅膜が形成された酸化銅被覆部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、医療機関、公共施設、衛生管理に厳しい研究施設(例えば食品、化粧品、医薬品等)において使用される机、椅子、棚等の什器や、手すり、ドアノブ等においては、複数の人が触れるおそれがあるため、伝染病の予防、ウィルスや菌の拡散防止の観点からも抗菌性・抗ウィルス性を有していることが望ましい。
【0003】
ここで、銅又は銅合金および酸化銅においては、抗菌・抗ウィルス性を有することが知られている。このため、例えば特許文献1,2には、机、椅子、棚等の什器や、手すり、ドアノブ等の各種製品に抗菌・抗ウィルス性のある銅又は銅合金を使用することで、様々な菌、ウィルスによる感染を予防することが開示されている。
また、既存の製品の表面に抗菌性を付与するものとして、例えば特許文献3,4に示すように、フィルムの表面に、銅又は銅合金の膜を成膜した抗菌フィルム(抗ウィルスフィルム)が提案されている。
さらに、特許文献5,6には、酸化銅等を利用した抗菌・抗ウィルス部材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5245015号公報
【特許文献2】特許第6177441号公報
【特許文献3】特開2010-247450号公報
【特許文献4】特開2018-134753号公報
【特許文献5】特許第5746406号公報
【特許文献6】特許第6660394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、各種菌やウィルスを原因とする感染症が広く蔓延することがあり、抗菌性・抗ウィルス性に優れるとともに、長時間安定して使用できるように耐久性に優れた抗菌・抗ウィルス部材が求められている。
ここで、酸化銅としては、主に、Cu2OとCuOが存在する。ここで、Cu2Oにおいては、抗菌性・抗ウィルス性に優れているが耐久性が低く、長時間安定して抗菌・抗ウィルスの効果を発現することができないおそれがあった。一方、CuOにおいては、耐久性に優れているが抗菌性・抗ウィルス性が不十分であった。
【0006】
本発明は、以上のような事情を背景としてなされたものであって、耐久性に優れ、かつ、抗菌性・抗ウィルス性に優れた酸化銅被覆部材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、所定の条件で作成することにより、Cu4O3含む酸化銅を形成することができることが分かった。そして、このCu4O3含む酸化銅は、耐久性に優れ、かつ、抗菌性・抗ウィルス性に優れていることが分かった。
【0008】
本発明の酸化銅被覆部材は、上述の知見に基づいてなされたものであって、基材と、この基材の少なくとも表面に形成された酸化銅層と、を有し、前記酸化銅層がCu4O3を含むことを特徴としている。
【0009】
この構成酸化銅被覆部材においては、基材の少なくとも表面にCu4O3を含む酸化銅層が形成されているので、耐久性、抗菌性・抗ウィルス性に優れており、抗菌・抗ウィルスの効果を長時間安定して発現することができる。
【0010】
ここで、本発明の酸化銅被覆部材においては、前記基材の表面における前記酸化銅層の被覆率が10%以上であることが好ましい。
この場合、前記基材の表面におけるCu4O3を含む酸化銅層の被覆率が10%以上とされているので、抗菌・抗ウィルスの効果を十分に発現することができる。
【0011】
また、本発明の酸化銅被覆部材においては、前記酸化銅層の厚さが100nm以下であることが好ましい。
この場合、Cu4O3を含む酸化銅層の厚さが100nm以下であることから、光の透過性が高くなり、視認性および意匠性を向上させることができる。
【0012】
さらに、本発明の酸化銅被覆部材においては、前記基材と前記酸化銅層との間に中間層が形成されており、前記中間層が、金属Cu,In酸化物,Sn酸化物,Zn酸化物,Nb酸化物,Ti酸化物,Al酸化物,Ga酸化物,W酸化物,Mo酸化物,Si酸化物,Zr酸化物,Ta酸化物,Y酸化物,Ge酸化物,Cu酸化物,Ag酸化物から選択される一種または二種以上を含むことが好ましい。
この場合、上述の中間層が形成されているので、Cu4O3を含む酸化銅層を安定して形成することができ、ロバスト性を確保でき、厚膜化を図ることができる。また、中間層が露出した場合でも、ある程度の抗菌性・抗ウィルス性を確保することができる。
【0013】
また、本発明の酸化銅被覆部材においては、前記基材が、透明ガラス基板又は透明樹脂基板であることが好ましい。
この場合、基材自体が光の透過性に優れており、酸化銅被覆部材全体で視認性および意匠性を向上させることができる。
【0014】
さらに、本発明の酸化銅被覆部材においては、波長550nmの光の透過率が5%以上であることが好ましい。
この場合、酸化銅被覆部材全体で、光の透過性に優れており、視認性および意匠性を向上させることができる。
【0015】
また、本発明の酸化銅被覆部材においては、前記基材に粘着層が設けられていることが好ましい。
この場合、粘着層を用いて、各種製品の表面に酸化銅被覆部材を比較的容易に配置することができ、各種製品の表面に抗菌性・抗ウィルス性を付与することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐久性に優れ、かつ、抗菌性・抗ウィルス性に優れた酸化銅被覆部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態における酸化銅被覆部材の一例を示す説明図である。
【
図2】XRD法における各種酸化銅のピーク位置を示す。(a)がCu
2O,(b)がCuO,(c)がCu
4O
3である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施形態である酸化銅被覆部材について説明する。
本実施形態である酸化銅被覆部材は、例えば、机、椅子、棚等の什器や、手すり、ドアノブ等の不特定多数の人が接触するような各種製品に適用されるものである。
【0019】
ここで、本実施形態である酸化銅被覆部材10は、グラム陽性菌、グラム陰性菌のいずれに対しても抗菌性を有している。なお、グラム陽性菌としては、たとえば、ブドウ球菌、腸球菌、連鎖球菌、肺炎球菌、炭疽菌、破傷風菌、ウェルシュ菌、ディフィシル菌、リステリア菌、ジフテリア菌、結核菌などが挙げられる。グラム陰性菌としては、たとえば、大腸菌、緑膿菌、百日咳菌、野兎病菌、レジオネラ菌、チフス菌、サルモネラ菌、赤痢菌、肺炎桿菌、セラチア菌、プロテウス菌、エンテロバクター菌、ペスト菌、腸炎ビブリオ、コレラ菌、インフルエンザ菌、淋菌、髄膜炎菌、カタール球菌、アシネトバクター、ピロリ菌などが挙げられる。また、これら菌の中でも特定の抗菌薬に対して耐性を持つ、いわゆる薬剤耐性菌にも効果を発揮する。
また、本実施形態である酸化銅被覆部材10は、各種ウィルスに対して抗ウィルス性を有している。対象となるウィルスは、例えば、エンベロープを持つウィルスとしてインフルエンザウィルス、コロナウィルス、エボラウィルス、ジカウィルス、エンベロープなしのウィルスとしてはネコカリシウィルス、ノロウィルスなどが挙げられる。
【0020】
本実施形態である酸化銅被覆部材10は、
図1に示すように、基材11と、この基材11の少なくとも表面に形成された酸化銅層12と、を有し、酸化銅層12がCu
4O
3を含むものとされている。
ここで、基材11の表面に形成された酸化銅層12にCu
4O
3を含有するか否かは、in-PlaneXRD法によって確認することができる。
図2に、Cu
2O,CuO,Cu
4O
3のピーク位置を示す。
【0021】
なお、本実施形態では、
図1に示すように、基材11と酸化銅層12との間に、中間層13が形成されていてもよい。
さらに、本実施形態においては、
図1に示すように、基板11の酸化銅層12とは反対側の面に粘着層15が形成されていてもよい。
ここで、基材11の材質等は特に制限はなく、例えば金属、ガラス、樹脂などで構成されたものであってもよい。
【0022】
ここで、本実施形態では、基材11の表面における酸化銅層12の被覆率は10%以上であることが好ましい。酸化銅層12の被覆率が高い方が、抗菌・抗ウィルスの効果がさらに発現しやすくなる。
なお、基材11の表面における酸化銅層12の被覆率は、15%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましい。
【0023】
また、本実施形態では、酸化銅層12の厚さは、100nm以下であってもよい。Cu4O3を含む酸化銅層12の厚さが100nm以下であれば、光の透過性に優れ、視認性および意匠性に優れることになる。
なお、酸化銅層12の厚さの上限は、90nm以下であることがさらに好ましく、80nm以下であることがより好ましい。また、酸化銅層12の厚さの下限は、5nm以上であることがさらに好ましく、10nm以上であることがより好ましい。
【0024】
また、本実施形態では、中間層13が、金属Cu,In酸化物,Sn酸化物,Zn酸化物,Nb酸化物,Ti酸化物,Al酸化物,Ga酸化物,W酸化物,Mo酸化物,Si酸化物,Zr酸化物,Ta酸化物,Y酸化物,Ge酸化物,Cu酸化物,Ag酸化物から選択される一種または二種以上を含むものとされていることが好ましい。
これらの中間層13が存在することにより、Cu4O3を含む酸化銅層12を安定して形成することが可能となる。また、これらの中間層13は、一定の抗菌性・抗ウィルス性を有していることから、中間層13が表面に露出した場合でも、抗菌性・抗ウィルス性を発現することができる。
【0025】
なお、本実施形態において、中間層13の厚さに特に制限はないが、製造コストの削減を図る場合には、中間層の厚みを100nm以下とすることが好ましく、50nm以下とすることがより好ましい。中間層13としての作用効果を十分に奏功せしめるためには、中間層13の厚みを5nm以上とすることが好ましく、8nm以上とすることがより好ましく、10nm以上とすることが更に好ましい。
【0026】
さらに、本実施形態においては、基材11が、透明ガラス基板又は透明樹脂基板であってもよい。酸化銅被覆部材10全体として光の透過性に優れることになるため、この酸化銅被覆部材10を各種製品の表面に配設した際に、各種製品の表面を視認することが可能となる。
【0027】
また、本実施形態においては、波長550nmの光の透過率が5%以上であることが好ましい。酸化銅被覆部材10全体として光の透過性に優れることになる。
なお、波長550nmの光の透過率は、15%以上であることがさらに好ましく、25%以上であることがより好ましい。
【0028】
以下に、
図1に示す酸化銅被覆部材10の製造方法について説明する。
【0029】
まず、粘着層15を形成した基材11を準備する。
【0030】
次に、スパッタリング法により、基材11の一方の面(粘着層15とは反対側の面)に、中間層13を成膜する。このとき、中間層13を構成する金属Cu又は金属酸化物に対応した組成のスパッタリングターゲットを用いることが好ましい。
例えば、中間層13を構成する金属酸化物からなる酸化物スパッタリングターゲットを用いてもよいし、中間層13を構成する金属酸化物の金属スパッタリングターゲットを用いて酸素を導入して反応性スパッタ法を適用してもよい。なお、スパッタリングターゲットの導電性等を考慮して、DC(直流)スパッタ、RF(高周波)スパッタ、MF(中周波)スパッタ、AC(交流)スパッタ等を適宜選択して使用することが好ましい。
【0031】
次に、成膜した中間層13の上に、スパッタリング法により、Cu4O3を含む酸化銅層12を形成する。
このとき、酸化銅スパッタリングターゲットを用いて、スパッタ時のArガスと酸素ガスの流量比を調整することで、Cu4O3を含む酸化銅層12を形成する。
【0032】
上述の工程により、本実施形態である酸化銅被覆部材10を製造することが可能となる。
【0033】
以上のような構成とされた本実施形態である酸化銅被覆部材10によれば、基材11の少なくとも表面にCu4O3を含む酸化銅層12が形成されているので、酸化銅層12の抗菌性・抗ウィルス性および耐久性に優れており、抗菌・抗ウィルスの効果を長時間安定して発現することができる。
【0034】
また、本実施形態の酸化銅被覆部材10において、基材11の表面における酸化銅層12の被覆率が10%以上である場合には、基材11の表面に抗菌性・抗ウィルス性および耐久性に優れたCu4O3を含む酸化銅層12が十分に形成されているので、抗菌・抗ウィルスの効果を十分に発現することができる。
【0035】
さらに、本実施形態の酸化銅被覆部材10において、Cu4O3を含む酸化銅層12の厚さが100nm以下である場合には、この酸化銅層12の可視光の透過性が高くなり、視認性および意匠性を向上させることができる。
【0036】
さらに、本実施形態の酸化銅被覆部材10において、基材11と酸化銅層12との間に中間層13が形成されており、この中間層13が、金属Cu,In酸化物,Sn酸化物,Zn酸化物,Nb酸化物,Ti酸化物,Al酸化物,Ga酸化物,W酸化物,Mo酸化物,Si酸化物,Zr酸化物,Ta酸化物,Y酸化物,Ge酸化物,Cu酸化物,Ag酸化物から選択される一種または二種以上を含む場合には、Cu4O3を含む酸化銅層12を安定して形成することができ、ロバスト性を確保でき、厚膜化を図ることができる。また、中間層13が露出した場合でも、ある程度の抗菌性・抗ウィルス性を確保することができる。
【0037】
また、本実施形態の酸化銅被覆部材10において、基材11が、透明ガラス基板又は透明樹脂基板である場合には、基材11自体が光の透過性に優れており、酸化銅被覆部材10を各種製品の表面に配設しても、各種製品の表面を視認することが可能となる。
【0038】
さらに、本実施形態の酸化銅被覆部材10において、波長550nmの光の透過率が5%以上である場合には、酸化銅被覆部材10全体で、光の透過性に優れており、酸化銅被覆部材10を各種製品の表面に配設しても、各種製品の表面を確実に視認することが可能となる。
【0039】
また、本実施形態の酸化銅被覆部材10において、基材11に粘着層15が設けられている場合には、粘着層15を用いて、各種製品の表面に酸化銅被覆部材10を比較的容易に配置することができ、比較的容易に、各種製品に抗菌性・抗ウィルス性を付与することができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、基材の表面に酸化銅層を形成した構造のものを例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、部材全体が、銅又は銅合金、酸化銅で構成されたものであってもよく、少なくともその表面に、Cu4O3を含む酸化銅層を有していればよい。
具体的には、表面にCu4O3を含む酸化銅層を有していれば、銅又は銅合金で構成された線棒材、管材、板条材であってもよいし、これらの銅部材を素材として用いた各種加工品であってもよい。
また、本実施形態では、中間層を形成したものとして説明したが、中間層が形成されていなくてもよい。
【実施例0041】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0042】
まず、表1に示すように、ガラス製の基材(50mm×50mm×厚さ1mm)、および、PET樹脂製の基材(50mm×50mm×厚さ0.05mm)を準備した。
【0043】
次に、表1に記載の中間層を成膜するために、株式会社高純度化学製の各種組成のスパッタリングターゲットを準備した。
また、酸化銅層を成膜するために、三菱マテリアル株式会社製酸化銅スパッタリングターゲットを準備した。
なお、比較例2においては、金属銅スパッタリングターゲットを準備した。
【0044】
これらのスパッタリングターゲットを無酸素銅製のバッキングプレートに半田付けし、これを直流マグネトロンスパッタ装置に装着し、真空排気装置にて直流マグネトロンスパッタ装置内を5×10-5Pa以下まで排気した後、Arガスを導入してターゲットと平行に配置した洗浄済みの表1に示す基板と、上記スパッタリングターゲットとの間にプラズマを発生させることで中間層および酸化銅層(比較例2においては金属銅層)を形成した。中間層の成膜条件、および、酸化銅層の成膜条件を以下に示す。
【0045】
<中間層の成膜条件>
使用ガス:Ar+5体積%酸素
ガス圧:0.40Pa
スパッタリング電力:直流100W
ターゲット/基板間距離:70mm
【0046】
<酸化銅層の成膜条件>
使用ガス:Ar+O2(比率は表1に記載)
ガス圧:0.40Pa
スパッタリング電力:直流100W
ターゲット/基板間距離:70mm
【0047】
<金属銅層の成膜条件>
到達真空度:5×10-5Pa以下
使用ガス:Ar
ガス圧:0.4Pa
スパッタリング電力:直流100W
ターゲット/基板間距離:70mm
【0048】
上述のようにして得られた酸化銅被覆部材について、以下の項目について評価した。
【0049】
(膜厚測定)
中間層、酸化銅層および金属銅層の厚みは、透過電子顕微鏡(TEM)によって下地層および銅層の断面を観察することで確認し、狙い値通りの厚みで成膜されていることを確認した。TEM観察のための試料作製には、例えば、クロスセクションポリッシャー(CP)や、集束イオンビーム(FIB)を用いることができる。
【0050】
(酸化銅層の同定)
上述の条件で成膜した酸化銅層からサンプルを採取し、in-PlaneXRD法を用いて、酸化銅層の同定を行った。酸化銅層の任意の10箇所を測定し、1箇所でもCu4O3が検出された場合は「Cu4O3」とし、Cu4O3が検出されず、主としてCu2OやCuOが検出された場合は、それぞれ「Cu2O」、「CuO」とした。
【0051】
(抗菌活性評価)
JIS Z 2801に準拠し各試験片の表面に一定の黄色ブドウ球菌を接種し、菌数が初期播種菌数の1/10以下になるまでの時間を測定した。1/10以下になるまでの時間が1時間以下の場合を「〇」、1/10以下になるまでの時間が1時間を超える場合を「△」、1/10以下にならなかった場合を「×」とした。
【0052】
(耐久性)
得られた酸化銅被覆部材を、40℃の0.9mol%NaCl水溶液に1時間浸漬し、その後の外観の変化を目視で確認した。
変色部が酸化銅層の全面にわたる場合(90%以上)を「×」、変色部が全面の50%以上90%未満の場合を「△」、変色部が全面の10%以上50%未満の場合を「〇」、変色部が10%未満の場合を「◎」と評価した。
ここでいう外観の変色は、コニカミノルタ製の分光測色計「CM-700d」を使用し、SCI(正反射光込み)方式でJIS 8781-4に従い色差ΔEで示される色差10以上を基準とした。色差は試験前後でのそれぞれの変化を表し、色差が10以上では目視で十分に変色していることが確認できる。
【0053】
【0054】
基材の表面に形成された酸化銅層がCuOであった比較例1においては、耐変色性(耐久性)には優れていたが、抗菌活性が低く、抗菌性・抗ウィルス性に劣っていた。
基材の表面に金属銅層が形成された比較例2においては、抗菌活性が高く、抗菌性・抗ウィルス性に優れていたが、耐変色性(耐久性)に著しく劣っていた。
基材の表面に形成された酸化銅層がCu2Oであった比較例3においては、抗菌活性が高く、抗菌性・抗ウィルス性に優れていたが、耐変色性(耐久性)に劣っていた。
【0055】
これに対して、基材の表面に形成された酸化銅層がCu4O3であった本発明例1-22においては、抗菌活性が高く、抗菌性・抗ウィルス性に優れており、耐変色性(耐久性)にも優れていた。また、本発明例1-22では、波長550nmの光の透過率が5%以上であった。
【0056】
以上の結果から、本発明例によれば、耐久性に優れ、かつ、抗菌性・抗ウィルス性に優れた酸化銅被覆部材を提供可能であることが確認された。