(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148178
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】オートテンショナーを有する内燃機関
(51)【国際特許分類】
F16H 7/12 20060101AFI20220929BHJP
F02B 67/06 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F16H7/12 A
F02B67/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049760
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早崎 綱記
【テーマコード(参考)】
3J049
【Fターム(参考)】
3J049AA01
3J049BB05
3J049BB11
3J049BC03
3J049BG10
3J049CA03
3J049CA04
3J049CA06
3J049CA10
(57)【要約】
【課題】ユーザーの判断でベルトの交換をしなくても、不具合が生じない、オートテンショナーを有する内燃機関を提供すること。
【解決手段】オートテンショナーの初期位置からの変化量を検出可能な変化量検出部と、この変化量を閾値判定することによりオートテンショナーに懸架されたベルトの交換の必要性を判定する判定部と、判定部の判定結果を通知する通知部と、を設けた。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オートテンショナーの初期位置からの変化量を検出可能な変化量検出部と、
前記変化量を閾値判定することにより、前記オートテンショナーに懸架されたベルトの交換の必要性を判定する判定部と、
前記判定部の判定結果を通知する通知部と、
を備えるオートテンショナーを有する内燃機関。
【請求項2】
前記変化量検出部は、
前記オートテンショナーに前記ベルトが懸架されたときの前記オートテンショナーの位置を前記初期位置として記憶するとともに、当該初期位置から経時的に変化する前記オートテンショナーの位置を経時的位置履歴として記憶し、
前記経時的位置履歴と前記初期位置との差分を、前記変化量として前記判定部に出力する、
請求項1に記載のオートテンショナーを有する内燃機関。
【請求項3】
前記判定部による判定の間隔は、前記オートテンショナーに前記ベルトが懸架されてからの時間又は使用量が大きくなるにつれて短くなる、
請求項1又は2に記載のオートテンショナーを有する内燃機関。
【請求項4】
前記オートテンショナーには、車両のエンジンの駆動力を伝達するためのベルトが懸架されており、
前記判定部は、前記エンジンの運転時間に応じて判定処理を実行する、
請求項1から3のいずれか一項に記載のオートテンショナーを有する内燃機関。
【請求項5】
前記変化量検出部は、
前記オートテンショナーに内蔵された抵抗式のポジションセンサーを有する、
請求項1から4のいずれか一項に記載のオートテンショナーを有する内燃機関。
【請求項6】
前記判定部は、
前記変化量が前記ベルトの交換の必要性を判定するための閾値より大きい第2の閾値以上となったときに、前記オートテンショナーが異常であると判定する、
請求項1から5のいずれか一項に記載のオートテンショナーを有する内燃機関。
【請求項7】
前記判定部は、
前記変化量に関する正方向への閾値と負方向への閾値とを有し、
前記変化量を前記正方向への閾値を用いて閾値判定することにより前記ベルト交換の必要性を判定する一方、前記変化量を前記負方向への閾値を用いて閾値判定することにより前記オートテンショナーの劣化又は故障を判定する、
請求項1から6のいずれか一項に記載のオートテンショナーを有する内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ベルトの張力を自動調整するオートテンショナーを有する内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
車両では、エンジンの力を利用して、発電機やエアコンコンプレッサー等の補機を駆動させるようになっている。この際、エンジンによってクランクプーリーが駆動され、クランクプーリーの回転がベルトを介して複数のプーリーに伝達され、各プーリーによって補機が駆動される。
【0003】
一般に、ベルトに適切な張力を与えるためのテンショナーが設けられる。経年変化等によりベルトが伸びたときには、テンショナーの位置を調整することで、張力を適切に維持することができる。
【0004】
テンショナーの位置調整は、定期的に手動で行うようにしてもよいが、近年ではメンテナンスフリーの観点から、オートテンショナーを採用することが多い。オートテンショナーは、ベルトが伸びたときに張力を自動で調整できるようになっている。オートテンショナーについては、例えば特許文献1等に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、オートテンショナーは、自動でベルトの張力を調整可能であり基本的に点検及び整備が不要であるといった長所がある。一方で、オートテンショナーは、部品自体に何らかの不良がある場合には、点検及び整備をしないがゆえにそれに気が付かず、適正な張力で調整されているかが分かりにくいといった短所がある。
【0007】
また、オートテンショナーを用いると、点検及び整備が不要のため、ベルトが伸び過ぎて寿命を迎えているにもかかわらずベルトが交換されずにオートテンショナーの調整範囲を超えるおそれがある。その結果、ベルト張力が低くなってベルトが滑り、運転中にベルトが切れるなどの不具合が発生するおそれがある。また、人がベルトの張力変化に基づいてベルトの劣化を判断できないので、逆にベルトに問題がないにもかかわらず早めに交換されてしまうという不経済な事態を招くおそれもある。
【0008】
本開示は、以上の点を考慮してなされたものであり、ユーザーの判断でベルトの交換をしなくても、不具合が生じない、オートテンショナーを有する内燃機関を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のオートテンショナーを有する内燃機関の一つの態様は、
オートテンショナーの初期位置からの変化量を検出可能な変化量検出部と、
前記変化量を閾値判定することにより、前記オートテンショナーに懸架されたベルトの交換の必要性を判定する判定部と、
前記判定部の判定結果を通知する通知部と、
を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、ユーザーの判断でベルトの交換をしなくても、不具合が生じない、オートテンショナーを有する内燃機関を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は、オートテンショナーが用いられる例として、エンジンのサーペンタインベルト(以下、単に「ベルト」と呼ぶ)1の張力を調整するオートテンショナー20を示す。
図1は、車両のエンジンの正面側に設けられた各種のプーリー及びベルト1の様子を示す図である。
【0014】
エンジンのクランクプーリー10の回転力がベルト1を介して複数のプーリー11a、11b、11c、11dに伝達される。プーリー11a、11b、11c、11dには、それぞれ、ウォータポンプ、オルタネーター、パワーステアリングポンプ、エアコンプレッサ等の補機が接続される。また、ベルト1の経路調整などのためにアイドルプーリー12a、12bが設けられている。
【0015】
これにより、エンジンによりクランクプーリー10が回転されると、ベルト1を介して複数のプーリー11a、11b、11c、11dが回転し、複数のプーリー11a、11b、11c、11dによって補機が駆動される。
【0016】
ベルト1の経路にはオートテンショナー20が設けられている。オートテンショナー20は、揺動軸21、アーム22、プーリー23及び付勢部24を有する。アーム22が揺動軸21により揺動自在に支持されている。アーム22にはプーリー23が取り付けられている。付勢バネなどから構成されている付勢部24によってアーム22が付勢されることで、プーリー23が図中の矢印の方向に付勢される。これにより、ベルト1に張力が付与される。なお、オートテンショナー20の構成は、図に示した構成に限らず、要はベルト1に張力を付与できるものであればよい。
【0017】
かかる構成に加えて、本実施の形態の車両は、
図2に示したように、変化量検出部31と、判定部32と、通知部33と、を有する。
【0018】
変化量検出部31は、オートテンショナーの初期位置(ベルト1を交換した直後のベルト1が伸びる前の位置)からの変化量を検出できるようになっている。変化量検出部31は、オートテンショナー20に内蔵された抵抗式のポジションセンサー31aと、記憶部31bと、を有する。ポジションセンサー31aは、経時的に変化するアーム22及びプーリー23の揺動位置を検出する。記憶部31bは、検出された揺動位置の履歴を記憶する。なお、実際には、変化量検出部31は、アナログディジタル変換回路等も有するが、ここではこれらの説明は省略する。
【0019】
判定部32は、オートテンショナー20の初期位置からの変化量を閾値判定することにより、オートテンショナー20に懸架されたベルト1の交換の必要性を判定する。なお、この閾値は、ベルト1の種類等に応じて設定されることが好ましい。具体的には、大きな伸びが許容される種類のベルト1ほど大きな値の閾値を設定しておけばよい。
【0020】
通知部33は、判定部32の判定結果を通知する。通知部33は、例えば運転席のメーターパネルである。また、通知部33は、エンジンルームに設けられたインジケーターランプ等であってもよい。また、通知部33は、車内に設けられた音声出力部であってもよい。要は、通知部33は、ベルト交換が必要であるといったことをユーザーに分かるように通知できるものであればよい。
【0021】
次に、本実施の形態の動作について説明する。
【0022】
先ず、ベルト1を最初に懸架して劣化によるベルト1の伸びがないときのオートテンショナー20の付勢位置が初期位置としてポジションセンサー31aにより検出され、記憶部31bに記憶される。
【0023】
やがて時間の経過とともにベルト1が伸びていくと、それに伴ってオートテンショナー20のアーム22とプーリー23の揺動位置も図中の矢印の方向にシフトしていく。この経時的に変化するオートテンショナー20の位置がポジションセンサー31aにより検出され、記憶部31bに記憶される。
【0024】
つまり、記憶部31bは、オートテンショナー20にベルト1が懸架されたときのオートテンショナー20の位置を初期位置として記憶するとともに、当該初期位置から経時的に変化するオートテンショナー20の位置を経時的位置履歴として記憶する。記憶部31bは、経時的位置履歴と初期位置との差分を、変化量として判定部32に出力する。なお、この差分(変化量)は判定部32によって求めてもよい。
【0025】
判定部32は、変化量が閾値よりも大きくなったときに、ベルト交換が必要であると判定し、通知部33がこの判定結果を受けてベルト交換を促す通知を行う。
【0026】
以上説明したように、本実施の形態によれば、オートテンショナー20の初期位置からの変化量を検出可能な変化量検出部31と、この変化量を閾値判定することによりオートテンショナー20に懸架されたベルト1の交換の必要性を判定する判定部32と、判定部32の判定結果を通知する通知部33と、を設けたことにより、ユーザーの判断でベルト1の交換をしなくても、不具合が生じない、オートテンショナー20を有する車両を実現できる。
【0027】
上述の実施の形態によれば、劣化や寿命を迎えたベルト1を継続使用することに起因するベルト1の切断や、使えるベルト1の不要な交換を減らすことができる。ベルト1が切断すると、エンジン本体の破損(オーバーヒートやハーネスの損傷などによる破損)したり、冷凍機が止まって荷台の荷物が傷んだり、車両がバッテリー上がりで路上で止まるなど、稼働保障の観点からも好ましくない。本実施の形態によれば、このような不具合を防止できる。
【0028】
上述の実施の形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することの無い範囲で、様々な形で実施することができる。
【0029】
上述の実施の形態に加えて、判定部33による判定の間隔は、例えばベルト交換等によってオートテンショナー20にベルトが懸架されてからの時間又は使用量が大きくなるにつれて短くなるように設定することが好ましい。このようにすれば、ベルト交換が必要である可能性が小さいときには判定間隔が長く、ベルト交換が必要である可能性が高いときには判定間隔が短くなるので、無駄な判定を抑制し、理にかなったタイミングで判定を行うことができる。
【0030】
上述の実施の形態に加えて、判定部33は、エンジンの運転時間に応じて判定処理を実行するように設定することが好ましい。このようにすれば、ベルト1の伸びは、ほぼエンジンの運転時間に比例するので、適切なタイミングで判定処理を行うことができるようになる。
【0031】
上述の実施の形態に加えて、判定部32は、オートテンショナー20の初期位置からの変化量がベルト1の交換の必要性を判定するための閾値より大きい第2の閾値以上となったときに、オートテンショナー20が異常であると判定してもよい。つまり、ベルト1の交換の必要性を判定するための閾値は、ベルト1の経年劣化による伸びを想定して設定されるものであり、変化量がその想定している閾値よりも大きい第2の閾値以上であるということは、その変化量はベルト1の伸びが原因となって生じたものでなく、オートテンショナー20の異常が原因となって生じた可能性が高いので、オートテンショナー20の異常と判定する。
【0032】
ここで、上述の実施の形態で説明したように、ベルト1が伸びると、オートテンショナー20の位置は正方向(図中の矢印方向)にシフトしていく。一方、経年劣化や故障などで付勢部24の付勢力が弱くなると、オートテンショナー20の位置は負方向(図中の矢印と逆方向)にシフトしていく。これを考慮して、上述の実施の形態に加えて、判定部32は、変化量に関する正方向(図中の矢印方向)への閾値と負方向(図中の矢印と逆方向)への閾値とを有し、変化量を正方向への閾値を用いて閾値判定することによりベルト交換の必要性を判定する一方、変化量を負方向への閾値を用いて閾値判定することによりオートテンショナー20の劣化又は故障を判定するようにしてもよい。
【0033】
上述の実施の形態では、変化量検出部31を、ポジションセンサー31aと記憶部31bとにより構成した場合について述べたが、変化量検出部31の構成はこれに限らない。例えば、ポジションセンサー31aがそもそもオートテンショナーの初期位置からの変化量に相当する電圧や電流を出力するように調整されているものであった場合には、記憶部31bは不要である。
【0034】
また、上述の実施の形態では、オートテンショナー20に抵抗式のポジションセンサー31を内蔵した場合について述べたが、これに限らず、要は、オートテンショナー20の初期位置(ベルト交換直後の位置)からの変化量を検出可能な種々の構成を採用できる。例えば光センサーを用いてもよい。ただし、エンジンルーム内は非常に部品が密集しているので、センサーは上述の実施の形態のようにオートテンショナー20に内蔵されていることが好ましい。
【0035】
上述の実施の形態では、本発明を車両の内燃機関に適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、車両だけでなく船舶、産業用機械、定置式エンジン等にも適用でき、要は、オートテンショナーを有する内燃機関に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本開示は、オートテンショナーを有する内燃機関に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 ベルト
10 クランクプーリー
11a、11b、11c、11d、23 プーリー
12a、12b アイドルプーリー
20 オートテンショナー
21 揺動軸
22 アーム
24 付勢部
31 変化量検出部
31a ポジションセンサー
31b 記憶部
32 判定部
33 通知部