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  • 特開-電気鉄道用三相電力変換システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148181
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】電気鉄道用三相電力変換システム
(51)【国際特許分類】
   B60M 3/00 20060101AFI20220929BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20220929BHJP
【FI】
B60M3/00 A
H02M7/48 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049764
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】田中 功太郎
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 正彦
(72)【発明者】
【氏名】清水 俊匡
(72)【発明者】
【氏名】永井 匠
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA13
5H770CA02
5H770CA08
5H770DA03
5H770DA11
5H770HA02Y
5H770JA17Z
5H770LA02Y
5H770LB07
(57)【要約】
【課題】三相鉄道電源と連系して運用される場合にも、一過性の大電流が発生した際に、健全なき電回路への影響を抑制しつつ、システムを適切に保護できる電気鉄道用三相電力変換システムを提供する。
【解決手段】インバータによる直流電力から三相交流電力への変換の動作を制御する制御装置を備え、制御装置は、複数のき電回路に流れる電流が所定値未満と判定した通常時においては、インバータの出力に関する所定の電流指令値を設定することにより、複数のき電回路に対して所定の有効電流及び無効電流を供給するように、インバータの動作を制御し、複数のき電回路のいずれかに流れる電流が所定値以上であると判定した大電流発生時においては、電流指令値を通常時よりも低くすることにより、インバータから出力される電流が低くなるように、インバータの動作を制御する電気鉄道用三相電力変換システムが提供される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流電力を複数の単相交流電力に変換し、前記複数の単相交流電力を複数のき電回路に供給するき電用変電所と、
三相交流電力を別の三相交流電力に変換し、変換後の前記三相交流電力を前記き電用変電所に供給する三相鉄道電源と、
を備えたき電システムに用いられ、前記三相鉄道電源と連系して運用される電気鉄道用三相電力変換システムであって、
三相交流電力を直流電力に変換するコンバータと、
前記コンバータから出力される直流電力を前記コンバータに供給される三相交流電力と異なる別の三相交流電力に変換し、変換後の三相交流電力を前記き電用変電所に供給するインバータと、
前記き電用変電所に供給される前記三相交流電力の電流値、又は前記複数のき電回路に供給される前記複数の単相交流電力のそれぞれの電流値を検出する電流検出器と、
前記電流検出器で検出された前記電流値を基に、前記インバータによる前記直流電力から前記三相交流電力への変換の動作を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記電流検出器で検出された前記電流値を基に、前記複数のき電回路のそれぞれに流れる電流が所定値以上か否かを判定し、
前記複数のき電回路のそれぞれに流れる電流が前記所定値未満と判定した通常時においては、前記インバータの出力に関する所定の電流指令値を設定することにより、前記複数のき電回路のそれぞれに対して所定の有効電流及び無効電流を供給するように、前記インバータの動作を制御し、
前記複数のき電回路のいずれかに流れる電流が前記所定値以上であると判定した大電流発生時においては、前記電流指令値を前記通常時よりも低くすることにより、前記インバータから前記所定値以上と判定した前記き電回路に出力される電流が低くなるように、前記インバータの動作を制御する
電気鉄道用三相電力変換システム。
【請求項2】
前記複数のき電システムの数は、2つであり、
前記き電用変電所は、前記三相鉄道電源及び前記インバータから供給された前記三相交流電力を二組の単相交流電力に変換し、前記二組の単相交流電力を前記2つのき電回路に供給し、
前記制御装置は、前記インバータの出力を前記二組の単相交流電力とみて、前記インバータの動作を制御する請求項1記載の電気鉄道用三相電力変換システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記2つのき電回路のそれぞれに対する有効電流指令値及び無効電流指令値を設定し、前記2つのき電回路の一方に流れる電流が前記所定値以上であると判定した前記大電流発生時においては、前記2つのき電回路の前記一方に対する前記有効電流指令値及び前記無効電流指令値を前記通常時よりも低くすることにより、前記インバータから前記2つのき電回路の前記一方に出力される電流が低くなるように、前記インバータの動作を制御する請求項2記載の電気鉄道用三相電力変換システム。
【請求項4】
前記電流検出器は、前記き電用変電所に供給される前記三相交流電力の電流値を検出し、
前記制御装置は、前記電流検出器によって検出された前記三相交流電力の電流値に対して所定の演算を行うことにより、前記三相交流電力の電流値から前記2つのき電回路の前記二組の単相交流電力の電流値を演算し、前記2つのき電回路のそれぞれに流れる電流が前記所定値以上か否かを判定する請求項2又は3に記載の電気鉄道用三相電力変換システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電気鉄道用三相電力変換システムに関する。
【背景技術】
【0002】
回転機などの三相鉄道電源と連系して運用される電気鉄道用三相電力変換システムが知られている。電気鉄道用三相電力変換システムは、三相鉄道電源とともに、き電用変電所に三相交流電力を供給する。き電用変電所は、三相鉄道電源及び電気鉄道用三相電力変換システムから供給された三相交流電力を複数の単相交流電力に変換し、複数の単相交流電力を複数のき電回路(鉄道負荷)に供給する。これにより、電車に電力を供給し、電車を走行させることができる。
【0003】
電気鉄道用三相電力変換システムは、複数の半導体スイッチング素子を有する。電気鉄道用三相電力変換システムは、複数の半導体スイッチング素子のスイッチングにより、電力会社などの電力系統から供給される三相交流電力をき電回路に対応した三相交流電力に変換し、変換後の三相交流電力をき電用変電所に供給する。
【0004】
こうした電気鉄道用三相電力変換システムにおいて、き電回路の短絡や地絡故障などにより、システムに一過性の大電流が流れてしまう可能性がある。回転機などの三相鉄道電源は、一過性の大電流に対して一定の供給能力を有するため、運転を継続することができる。一方、複数の半導体スイッチング素子で構成される電気鉄道用三相電力変換システムは、一過性の大電流を負担することが難しい。このため、電気鉄道用三相電力変換システムでは、一過性の大電流が発生した際に、動作を停止することにより、複数の半導体スイッチング素子の破損などを抑制することが行われている。
【0005】
しかしながら、一過性の大電流の発生に応じて電気鉄道用三相電力変換システムの動作を停止させてしまうと、き電用変電所から単相交流電力を供給する複数のき電回路のうち、短絡や地絡故障などが発生したき電回路以外の健全なき電回路に対しても、電気鉄道用三相電力変換システムの出力が停止してしまう。このため、健全なき電回路への電力供給が三相鉄道電源のみによるものとなり、電気鉄道のき電システムで求められるき電電圧の安定性を保てなくなってしまう可能性が生じる。
【0006】
また、一過性の大電流が発生した際に、電気鉄道用三相電力変換システムの出力電圧を小さくすることにより、相対的に出力電流を小さくし、電気鉄道用三相電力変換システムの耐量内に収めることも提案されている。しかしながら、この方法は、電気鉄道用三相電力変換システムが単独運転する場合に適用できる制御であり、電気鉄道用三相電力変換システムが三相鉄道電源と連系して運用される場合には、三相交流電力の電圧が三相鉄道電源の出力によって維持されてしまうため、電気鉄道用三相電力変換システムの出力電流を小さくすることが難しい。
【0007】
このため、電気鉄道用三相電力変換システムでは、三相鉄道電源と連系して運用される場合にも、一過性の大電流が発生した際に、健全なき電回路への影響を抑制しつつ、システムを適切に保護できるようにすることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014-80132号公報
【特許文献2】特開2017-175797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の実施形態は、三相鉄道電源と連系して運用される場合にも、一過性の大電流が発生した際に、健全なき電回路への影響を抑制しつつ、システムを適切に保護できる電気鉄道用三相電力変換システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態によれば、三相交流電力を複数の単相交流電力に変換し、前記複数の単相交流電力を複数のき電回路に供給するき電用変電所と、三相交流電力を別の三相交流電力に変換し、変換後の前記三相交流電力を前記き電用変電所に供給する三相鉄道電源と、を備えたき電システムに用いられ、前記三相鉄道電源と連系して運用される電気鉄道用三相電力変換システムであって、三相交流電力を直流電力に変換するコンバータと、前記コンバータから出力される直流電力を前記コンバータに供給される三相交流電力と異なる別の三相交流電力に変換し、変換後の三相交流電力を前記き電用変電所に供給するインバータと、前記き電用変電所に供給される前記三相交流電力の電流値、又は前記複数のき電回路に供給される前記複数の単相交流電力のそれぞれの電流値を検出する電流検出器と、前記電流検出器で検出された前記電流値を基に、前記インバータによる前記直流電力から前記三相交流電力への変換の動作を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記電流検出器で検出された前記電流値を基に、前記複数のき電回路のそれぞれに流れる電流が所定値以上か否かを判定し、前記複数のき電回路のそれぞれに流れる電流が前記所定値未満と判定した通常時においては、前記インバータの出力に関する所定の電流指令値を設定することにより、前記複数のき電回路のそれぞれに対して所定の有効電流及び無効電流を供給するように、前記インバータの動作を制御し、前記複数のき電回路のいずれかに流れる電流が前記所定値以上であると判定した大電流発生時においては、前記電流指令値を前記通常時よりも低くすることにより、前記インバータから前記所定値以上と判定した前記き電回路に出力される電流が低くなるように、前記インバータの動作を制御する電気鉄道用三相電力変換システムが提供される。
【発明の効果】
【0011】
三相鉄道電源と連系して運用される場合にも、一過性の大電流が発生した際に、健全なき電回路への影響を抑制しつつ、システムを適切に保護できる電気鉄道用三相電力変換システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係るき電システムを模式的に表すブロック図である。
図2】実施形態に係る電気鉄道用三相電力変換システムを模式的に表すブロック図である。
図3】実施形態に係る制御装置を模式的に表すブロック図である。
【0013】
以下に、各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0014】
図1は、実施形態に係るき電システムを模式的に表すブロック図である。
図1に表したように、き電システム2は、電気鉄道用三相電力変換システム10と、三相鉄道電源12と、き電用変電所14と、複数のき電回路21、22と、を備える。
【0015】
三相鉄道電源12は、例えば、モータと発電機とを連結した回転機である。電気鉄道用三相電力変換システム10は、三相鉄道電源12と連系して運用される。電気鉄道用三相電力変換システム10及び三相鉄道電源12は、電力会社などの電力系統と接続され、電力系統から供給される三相交流電力をき電回路21、22に対応した別の三相交流電力に変換する。なお、電気鉄道用三相電力変換システム10の接続される電力系統は、三相鉄道電源12の接続される電力系統と同じでもよいし、異なってもよい。
【0016】
電気鉄道用三相電力変換システム10及び三相鉄道電源12は、例えば、周波数変換装置として用いられる。電気鉄道用三相電力変換システム10及び三相鉄道電源12は、例えば、日本の東側地域の50Hzの三相交流電力を、日本の西側地域の60Hzの三相交流電力に変換する。但し、電気鉄道用三相電力変換システム10及び三相鉄道電源12は、周波数変換装置に限定されるものではない。電気鉄道用三相電力変換システム10及び三相鉄道電源12による電力の変換は、周波数の変換に限ることなく、電圧や電流の大きさの変換などでもよい。電気鉄道用三相電力変換システム10及び三相鉄道電源12による電力変換の動作は、三相交流電力を別の三相交流電力に変換する任意の動作でよい。
【0017】
電気鉄道用三相電力変換システム10及び三相鉄道電源12は、変換後の三相交流電力をき電用変電所14に供給する。
【0018】
き電用変電所14は、電気鉄道用三相電力変換システム10及び三相鉄道電源12から供給された三相交流電力を複数の単相交流電力に変換し、複数の単相交流電力を複数のき電回路21、22に供給する。
【0019】
き電用変電所14は、例えば、電気鉄道用三相電力変換システム10及び三相鉄道電源12から供給された三相交流電力を二組の単相交流電力に変換し、二組の単相交流電力の一方をき電回路21に供給し、二組の単相交流電力の他方をき電回路22に供給する。このように、き電用変電所14は、例えば、2つのき電回路21、22と接続され、2つのき電回路21、22のそれぞれに単相交流電力を供給する。
【0020】
き電用変電所14には、例えば、スコット結線変圧器、変形ウッドブリッジ結線変圧器、ルーフデルタ結線変圧器などが用いられる。但し、き電用変電所14に接続されるき電回路の数は、2つに限ることなく、3つ以上でもよい。き電用変電所14は、三相交流電力を三組以上の単相交流電力に変換する構成でもよい。なお、以下では、き電回路の数を2つとし、き電用変電所14は、三相交流電力を二組の単相交流電力に変換するものとして説明を行う。また、以下では、き電回路21を第1き電回路21、き電回路22を第2き電回路22として説明を行う。
【0021】
第1き電回路21及び第2き電回路22は、電車23、24に電力を供給する。これにより、電気鉄道用三相電力変換システム10及び三相鉄道電源12からからの三相交流電力の供給により、電車23、24に電力を供給し、電車23、24を走行させることができる。
【0022】
第1き電回路21及び第2き電回路22は、それぞれ図示を省略した遮断器を介してき電用変電所14と接続される。換言すれば、き電システム2は、き電用変電所14と第1き電回路21との間、及びき電用変電所14と第2き電回路22との間に設けられた複数の遮断器をさらに備える。き電システム2は、第1き電回路21及び第2き電回路22に短絡や地絡故障などの事故が発生した際に、事故が発生したき電回路に対応する遮断器を開放する。
【0023】
き電システム2は、事故が発生したき電回路に対応する遮断器のみを開放することにより、事故が発生したき電回路に対して電力を供給し続けてしまうことを抑制しつつ、健全なき電回路に対しての電力の供給を継続する。これにより、第1き電回路21及び第2き電回路22の一方に事故が発生した際にも、事故の発生した一方のき電回路の電車の運行のみを停止させればよく、他方の健全なき電回路については、電車の運行を継続することができる。
【0024】
図2は、実施形態に係る電気鉄道用三相電力変換システムを模式的に表すブロック図である。
図2に表したように、電気鉄道用三相電力変換システム10は、受電用変圧器40と、コンバータ用変圧器42と、コンバータ44と、直流コンデンサ46と、インバータ48と、インバータ用変圧器50と、送電用変圧器52と、電流検出器54と、制御装置56と、を有する。
【0025】
受電用変圧器40の一次側は、電力系統30と接続されている。受電用変圧器40の二次側は、コンバータ用変圧器42の一次側と接続されている。コンバータ用変圧器42の二次側は、コンバータ44と接続されている。受電用変圧器40及びコンバータ用変圧器42は、電力系統30から供給される三相交流電力をコンバータ44に対応した三相交流電力に変圧する。
【0026】
電力系統30は、例えば、電力会社の電力系統である。電力系統30は、例えば、自家発電機などから供給される三相交流電力を電気鉄道用三相電力変換システム10に供給する電力系統などでもよい。き電システム2は、例えば、三相交流電力を出力する発電機、及び発電機の三相交流電力を電気鉄道用三相電力変換システム10に供給する電力系統30をさらに備えてもよい。
【0027】
なお、この例では、電力系統30とコンバータ44との間に、受電用変圧器40及びコンバータ用変圧器42の2台の変圧器を設けている。電力系統30とコンバータ44との間に設けられる変圧器の台数は、2台に限ることなく、1台でもよいし、3台以上でもよい。
【0028】
コンバータ44は、コンバータ用変圧器42から供給された三相交流電力を直流電力に変換する。コンバータ44は、例えば、三相ブリッジ接続された複数の整流素子を有する三相ブリッジ整流回路である。但し、コンバータ44の構成は、これに限ることなく、三相交流電力を直流電力に変換可能な任意の構成でよい。
【0029】
直流コンデンサ46は、コンバータ44とインバータ48との間に設けられる。直流コンデンサ46は、コンバータ44から出力される直流電力の電圧の変動を抑制する。
【0030】
インバータ48は、コンバータ44から出力される直流電力を三相交流電力に変換する。インバータ48は、コンバータ44に供給される三相交流電力と異なる別の三相交流電力に変換する。例えば、電気鉄道用三相電力変換システム10が周波数変換装置である場合、インバータ48は、コンバータ44に供給される三相交流電力と周波数の異なる別の三相交流電力に変換する。例えば、コンバータ44は、供給された50Hzの三相交流電力を直流電力に変換し、インバータ48は、直流電力を60Hzの三相交流電力に変換する。
【0031】
但し、上述のように、電気鉄道用三相電力変換システム10は、周波数変換装置に限定されるものではない。インバータ48は、例えば、コンバータ44に供給される三相交流電力と電圧や電流の大きさの異なる別の三相交流電力に変換してもよい。
【0032】
インバータ48は、図示を省略した複数の半導体スイッチング素子を有し、複数の半導体スイッチング素子のスイッチングにより、直流電力を三相交流電力に変換する。インバータ48は、例えば、三相ブリッジ接続された複数の半導体スイッチング素子を有する。但し、インバータ48の構成は、上記に限ることなく、複数の半導体スイッチング素子のスイッチングによって直流電力を三相交流電力に変換可能な任意の構成でよい。
【0033】
インバータ用変圧器50の一次側は、インバータ48と接続されている。インバータ用変圧器50の二次側は、送電用変圧器52の一次側と接続されている。送電用変圧器52の二次側は、電力系統32などを介してき電用変電所14と接続される。インバータ用変圧器50及び送電用変圧器52は、インバータ48から出力される三相交流電力をき電用変電所14に対応した三相交流電力に変圧する。
【0034】
これにより、電気鉄道用三相電力変換システム10から出力される三相交流電力が、き電用変電所14に供給される。インバータ48は、換言すれば、直流電力を三相交流電力に変換し、変換後の三相交流電力をインバータ用変圧器50及び送電用変圧器52を介してき電用変電所14に供給する。三相鉄道電源12は、例えば、電力系統32と接続される。これにより、電気鉄道用三相電力変換システム10及び三相鉄道電源12から出力された三相交流電力が、き電用変電所14に供給される。
【0035】
なお、この例では、電力系統32とインバータ48との間に、インバータ用変圧器50及び送電用変圧器52の2台の変圧器を設けている。電力系統32とインバータ48との間に設けられる変圧器の台数は、2台に限ることなく、1台でもよいし、3台以上でもよい。
【0036】
電流検出器54は、き電用変電所14に供給される三相交流電力の電流値を検出する。電流検出器54は、例えば、き電用変電所14に供給される三相交流電力の各相のそれぞれの電流値を検出する。電流検出器54は、例えば、インバータ48とインバータ用変圧器50の一次側との間に設けられる。電流検出器54は、換言すれば、インバータ48から出力される三相交流電力の電流値を検出する。電流検出器54は、検出した電流値を制御装置56に入力する。
【0037】
なお、電流検出器54を設ける位置は、インバータ48とインバータ用変圧器50の一次側との間に限定されるものではない。電流検出器54は、例えば、インバータ用変圧器50の二次側と送電用変圧器52の一次側との間に設けてもよいし、送電用変圧器52の二次側と電力系統32との間に設けてもよいし、電力系統32の経路上に設けてもよい。電流検出器54の検出する電流値は、インバータ48とき電用変電所14との間の任意の位置の三相交流電力の電流値でよい。
【0038】
制御装置56は、インバータ48による直流電力から三相交流電力への変換の動作を制御する。制御装置56は、電流検出器54で検出された電流値を基に、インバータ48の動作を制御する。
【0039】
なお、制御装置56は、必要に応じて、コンバータ44の動作をさらに制御してもよい。例えば、上記のように、コンバータ44を三相ブリッジ整流回路とした場合などには、制御装置56は、コンバータ44の動作を制御する必要がない。例えば、複数の半導体スイッチング素子を用いてコンバータ44を構成した場合などには、制御装置56によってコンバータ44の電力変換の動作を制御する。但し、コンバータ44の動作を制御する制御装置は、インバータ48の動作を制御する制御装置56と別の装置としてもよい。
【0040】
制御装置56は、第1き電回路21及び第2き電回路22が健全な通常時の動作においては、第1き電回路21及び第2き電回路22のそれぞれに対して所定の有効電流及び無効電流を供給するように、インバータ48の動作を制御する。
【0041】
き電システム2においては、前述のように、倒壊した樹木の影響などにより、第1き電回路21及び第2き電回路22に短絡や地絡故障などの事故が発生してしまう可能性がある。き電システム2は、第1き電回路21及び第2き電回路22の事故を検出すると、事故の発生したき電回路に対応する遮断器を開放し、事故の発生したき電回路をき電用変電所14から切り離すことにより、事故の発生したき電回路への電力の供給を停止する。一方で、き電システム2が、第1き電回路21及び第2き電回路22の事故を検出し、事故の発生したき電回路を切り離すまでには、例えば、150ms程度の時間を必要とする。このため、事故の発生からき電システム2によるき電回路の切り離しまでの間に、電気鉄道用三相電力変換システム10及び三相鉄道電源12に一過性の大電流が流れてしまう可能性がある。
【0042】
回転機などによる三相鉄道電源12は、一過性の大電流に対して一定の供給能力を有するため、事故の発生の際にも運転を継続することができる。一方、複数の半導体スイッチング素子からなるインバータ48を有する電気鉄道用三相電力変換システム10は、一過性の大電流を負担することが難しい。
【0043】
このため、制御装置56は、電流検出器54で検出された電流値を基に、第1き電回路21及び第2き電回路22に流れる電流が所定値以上か否かを判定し、第1き電回路21及び第2き電回路22の少なくとも一方の電流を所定値以上と判定したことに応答して、インバータ48を保護する保護動作を行う。制御装置56は、より詳しくは、電流検出器54で検出された電流瞬時値を基に、第1き電回路21及び第2き電回路22に流れる電流が所定値以上か否かを判定する。制御装置56は、例えば、第1き電回路21及び第2き電回路22に流れる有効電流及び無効電流の少なくとも一方が所定値以上か否かを判定してもよい。
【0044】
制御装置56は、第1き電回路21及び第2き電回路22に流れる電流が所定値未満と判定した通常時においては、インバータ48に関する所定の電流指令値を設定することにより、第1き電回路21及び第2き電回路22のそれぞれに対して所定の有効電流及び無効電流を供給するように、インバータ48の動作を制御する。
【0045】
制御装置56は、第1き電回路21及び第2き電回路22の一方に流れる電流が所定値以上であると判定した大電流発生時においては、第1き電回路21及び第2き電回路22の一方に対する電流指令値を通常時よりも低くすることにより、インバータ48から第1き電回路21及び第2き電回路22の一方に出力される電流が低くなるように、インバータ48の動作を制御する。
【0046】
また、この際、制御装置56は、第1き電回路21及び第2き電回路22の他方に対する電流指令値を通常時と同じとする。換言すれば、制御装置56は、第1き電回路21及び第2き電回路22の一方に流れる電流が所定値以上であると判定した場合、第1き電回路21及び第2き電回路22の一方に対する電流指令値のみを通常時よりも低くする。
【0047】
これにより、事故の発生していない健全な第1き電回路21及び第2き電回路22の他方に対する電力の供給を継続しつつ、事故の発生した第1き電回路21及び第2き電回路22の一方に出力される電流が低くなるようにインバータ48を制御し、一過性の大電流からインバータ48を保護することができる。
【0048】
制御装置56は、第1き電回路21及び第2き電回路22の双方に流れる電流が所定値以上であると判定した場合には、例えば、第1き電回路21及び第2き電回路22の双方に対する電流指令値を通常時よりも低くするか、もしくは、インバータ48の動作を停止させる。但し、き電システム2においては、第1き電回路21及び第2き電回路22の双方に実質的に同時に事故が発生してしまう可能性は、低いと考えられる。
【0049】
図3は、実施形態に係る制御装置を模式的に表すブロック図である。
図3に表したように、制御装置56は、指令値生成部60と、電流値演算部62と、運用状態信号入力部64と、第1適用判定部66aと、第2適用判定部66bと、第1低減率演算部68aと、第2低減率演算部68bと、乗算器70a~70dと、制御信号生成部72と、を有する。
【0050】
指令値生成部60には、制御情報が入力される。指令値生成部60は、入力された制御情報を基に、第1き電回路21の第1有効電流指令値と、第1き電回路21の第1無効電流指令値と、第2き電回路22の第2有効電流指令値と、第2き電回路22の第2無効電流指令値と、を生成する。
【0051】
換言すれば、指令値生成部60は、第1有効電流指令値、第1無効電流指令値、第2有効電流指令値、及び第2無効電流指令値を、インバータ48の出力に関する所定の電流指令値として設定する。このように、制御装置56は、インバータ48の出力を二組の単相交流電力とみて、インバータ48の動作を制御する。
【0052】
指令値生成部60は、生成した第1有効電流指令値を乗算器70aに入力し、第1無効電流指令値を乗算器70bに入力し、第2有効電流指令値を乗算器70cに入力し、第2無効電流指令値を乗算器70dに入力する。
【0053】
制御情報は、例えば、上位のコントローラなどから指令値生成部60に入力される。制御情報は、例えば、電気鉄道用三相電力変換システム10から第1き電回路21及び第2き電回路22への電力の供給、及び電力の供給の停止を表す。指令値生成部60は、例えば、電力の供給を指示された際に、各電流指令値を生成する。指令値生成部60は、例えば、電力の供給の停止を指示された際には、各電流指令値の生成を停止するか、あるいは、各電流指令値を出力停止状態(例えば0)に設定する。
【0054】
制御情報は、例えば、電流の大きさを表す情報などを含んでもよい。指令値生成部60は、制御情報で設定された大きさの各電流指令値を生成してもよい。制御情報は、例えば、電気鉄道用三相電力変換システム10(インバータ48)の三相交流電力の電流指令値でもよい。指令値生成部60は、三相交流電力の電流指令値を変換する演算を行うことにより、第1き電回路21及び第2き電回路22の単相交流電力の各電流指令値を生成してもよい。
【0055】
なお、各電流指令値は、制御装置56内で生成することなく、上位のコントローラなどから制御装置56に入力する構成としてもよい。この場合には、入力された各指令値を直接的に各乗算器70a~70dに入力すればよい。従って、この場合には、指令値生成部60は、省略可能である。
【0056】
電流値演算部62には、電流検出器54によって検出された三相交流電力の電流値が入力される。電流値演算部62は、入力された三相交流電力の電流値に対して所定の演算を行うことにより、三相交流電力の電流値から第1き電回路21及び第2き電回路22の二組の単相交流電力の電流値を演算する。電流値演算部62は、例えば、二組の単相交流電力のそれぞれの電流瞬時値を演算する。電流値演算部62は、例えば、二組の単相交流電力のそれぞれの有効電流値及び無効電流値を演算してもよい。電流値演算部62による二組の単相交流電力の電流値の演算方法は、き電用変電所14の結線方法に応じて決定される。
【0057】
電流値演算部62は、二組の単相交流電力の電流値を演算した後、演算した二組の単相交流電力の電流値が、所定値以上か否かを判定する。
【0058】
電流値演算部62は、第1き電回路21の単相交流電力の電流値が所定値以上であると判定した場合に、第1き電回路21の電流が過大であることを表す第1電流過大検出信号を第1適用判定部66aに入力する。換言すれば、電流値演算部62は、第1き電回路21の単相交流電力の電流値が所定値以上であると判定した場合に、第1電流過大検出信号を非検出状態から検出状態に切り替える。電流値演算部62は、より詳しくは、第1き電回路21の単相交流電力の有効電流値及び無効電流値の少なくとも一方が所定値以上であると判定した場合に、第1電流過大検出信号を第1適用判定部66aに入力する。
【0059】
同様に、電流値演算部62は、第2き電回路22の単相交流電力の電流値が所定値以上であると判定した場合に、第2き電回路22の電流が過大であることを表す第2電流過大検出信号を第2適用判定部66bに入力する。
【0060】
運用状態信号入力部64は、制御装置56によるインバータ48の保護動作を行うか否かを表す運用状態信号を第1適用判定部66a及び第2適用判定部66bに入力する。運用状態信号入力部64は、例えば、上位のコントローラから入力される制御信号や、制御装置56の内部の制御状態などを基に、運用状態信号を生成し、生成した運用状態信号を第1適用判定部66a及び第2適用判定部66bに入力する。
【0061】
第1適用判定部66aは、運用状態信号がインバータ48の保護動作を行うことを表す状態で、電流値演算部62から第1電流過大検出信号が入力された際に、第1電流過大検出信号を第1低減率演算部68aに入力する。一方、第1適用判定部66aは、運用状態信号がインバータ48の保護動作を行わないことを表す状態で、電流値演算部62から第1電流過大検出信号が入力された場合には、第1電流過大検出信号を第1低減率演算部68aに入力しない。これにより、運用状態信号がインバータ48の保護動作を行うことを表す状態の時にのみ、制御装置56によるインバータ48の保護動作を行うことができる。
【0062】
同様に、第2適用判定部66bは、運用状態信号がインバータ48の保護動作を行うことを表す状態で、電流値演算部62から第2電流過大検出信号が入力された際に、第2電流過大検出信号を第2低減率演算部68bに入力する。第2適用判定部66bは、運用状態信号がインバータ48の保護動作を行わないことを表す状態で、電流値演算部62から第2電流過大検出信号が入力された場合には、第2電流過大検出信号を第2低減率演算部68bに入力しない。
【0063】
第1低減率演算部68aは、第1適用判定部66aから入力された第1電流過大検出信号を基に、第1有効電流指令値及び第1無効電流指令値の低減率を演算し、演算した低減率を乗算器70a、70bに入力する。
【0064】
第1低減率演算部68aは、第1適用判定部66aから第1電流過大検出信号が入力されていない時に、低減率を1に設定する。第1低減率演算部68aは、換言すれば、第1電流過大検出信号が非検出状態の時に、低減率を1に設定する。そして、第1低減率演算部68aは、第1適用判定部66aから第1電流過大検出信号が入力されている時に、低減率を1よりも低い所定の値に設定する。第1低減率演算部68aは、換言すれば、第1電流過大検出信号が検出状態の時に、低減率を1よりも低い所定の値に設定する。この場合の低減率は、第1き電回路21の事故にともなう一過性の大電流からインバータ48を保護するために必要な1よりも低い任意の値に設定される。
【0065】
なお、第1低減率演算部68aは、1と1よりも低い所定の値との2つの値に低減率を切り替える構成でもよいし、例えば、電流値演算部62において所定値以上であると判定された第1き電回路21の単相交流電力の電流値の大きさに応じて、低減率を変化させる構成としてもよい。第1低減率演算部68aは、第1き電回路21の単相交流電力の電流値の大きさが大きいほど、低減率を小さくする構成としてもよい。例えば、第1き電回路21の単相交流電力の電流値の大きさを表す情報を、第1電流過大検出信号に含めることにより、上記のように、第1き電回路21の単相交流電力の電流値の大きさに応じて、低減率を変化させることができる。
【0066】
第2低減率演算部68bは、第1低減率演算部68aと同様に、第2適用判定部66bから入力された第2電流過大検出信号を基に、第2有効電流指令値及び第2無効電流指令値の低減率を演算し、演算した低減率を乗算器70c、70dに入力する。
【0067】
乗算器70aは、入力された第1有効電流指令値と低減率とを乗算し、乗算後の第1有効電流指令値を制御信号生成部72に入力する。
【0068】
乗算器70bは、入力された第1無効電流指令値と低減率とを乗算し、乗算後の第1無効電流指令値を制御信号生成部72に入力する。
【0069】
乗算器70cは、入力された第2有効電流指令値と低減率とを乗算し、乗算後の第2有効電流指令値を制御信号生成部72に入力する。
【0070】
乗算器70dは、入力された第2無効電流指令値と低減率とを乗算し、乗算後の第2無効電流指令値を制御信号生成部72に入力する。
【0071】
制御信号生成部72は、乗算器70a~70dから入力された各電流指令値を基に、第1有効電流指令値に応じた有効電流及び第1無効電流指令値に応じた無効電流を第1き電回路21に供給し、第2有効電流指令値に応じた有効電流及び第2無効電流指令値に応じた無効電流を第2き電回路22に供給するように、インバータ48の動作を制御するための制御信号を生成し、生成した制御信号をインバータ48に入力する。
【0072】
また、制御信号生成部72には、例えば、三相鉄道電源12からき電用変電所14に供給される三相交流電力の位相の情報などが入力される。制御信号生成部72は、例えば、入力された情報を基に、インバータ48からき電用変電所14に供給される三相交流電力の位相が、三相鉄道電源12からき電用変電所14に供給される三相交流電力の位相と同期するように、インバータ48の動作を制御するための制御信号を生成する。
【0073】
制御信号は、例えば、インバータ48の複数の半導体スイッチング素子のオン状態及びオフ状態を切り替えるためのPWM信号である。制御信号生成部72は、例えば、第1き電回路21及び第2き電回路22の二組の単相交流電力の有効電流指令値及び無効電流指令値を基に、インバータ48の三相交流電力の有効電流指令値及び無効電流指令値、あるいは有効電圧指令値及び無効電圧指令値を生成する。そして、制御信号生成部72は、例えば、インバータ48の三相交流電力の有効電流指令値及び無効電流指令値、あるいは有効電圧指令値及び無効電圧指令値を基に、インバータ48の複数の半導体スイッチング素子のオン状態及びオフ状態を切り替えるための制御信号を生成する。
【0074】
例えば、インバータ48の三相交流電力の有効電流指令値及び無効電流指令値、あるいはインバータ48の三相交流電力の有効電圧指令値及び無効電圧指令値を、制御信号としてインバータ48に入力し、インバータ48内でPWM信号などに変換してもよい。制御信号は、PWM信号に限ることなく、第1き電回路21及び第2き電回路22に対して適切な単相交流電力を供給するようにインバータ48の動作を制御可能な任意の信号でよい。
【0075】
第1き電回路21及び第2き電回路22が健全な状態の時には、第1低減率演算部68a及び第2低減率演算部68bから各乗算器70a~70dに入力される低減率が1であり、指令値生成部60で生成された各指令値が、そのまま制御信号生成部72に入力される。
【0076】
従って、第1き電回路21及び第2き電回路22が健全な状態である通常時には、指令値生成部60で生成された各指令値に応じて、第1き電回路21及び第2き電回路22のそれぞれに対して所定の有効電流及び無効電流を供給するように、インバータ48の動作が制御される。
【0077】
第1き電回路21に事故が発生し、第1き電回路21に一過性の大電流が流れ、第1き電回路21の単相交流電力の電流値が所定値以上になると、第1き電回路21の単相交流電力の電流値が所定値以上であることが、電流値演算部62によって判定され、電流値演算部62から第1適用判定部66aに第1電流過大検出信号が入力される。
【0078】
運用状態信号がインバータ48の保護動作を行うことを表す状態で、電流値演算部62から第1適用判定部66aに第1電流過大検出信号が入力されると、第1電流過大検出信号が、第1適用判定部66aから第1低減率演算部68aに入力される。
【0079】
第1低減率演算部68aは、第1適用判定部66aから第1電流過大検出信号が入力されている時には、低減率を1よりも低い所定の値に設定し、乗算器70a、70bに入力する。
【0080】
これにより、第1き電回路21の単相交流電力の電流値が所定値以上である大電流発生時においては、第1き電回路21に対する電流指令値が通常時よりも低くなり、インバータ48から第1き電回路21に出力される電流が低くなるように、インバータ48の動作が制御される。これにより、一過性の大電流からインバータ48を保護することができる。
【0081】
また、この際、第2き電回路22に事故が発生しておらず、第2き電回路22の単相交流電力の電流値が所定値未満である場合には、第2低減率演算部68bから乗算器70c、70dに入力される低減率が1のままである。すなわち、第2き電回路22に対する第2有効電流指令値及び第2無効電流指令値は、通常時と同じである。これにより、事故の発生していない健全な第2き電回路22に対する電力の供給を継続することができる。事故の発生していない健全な第2き電回路22に対する電力の供給を継続しつつ、事故の発生した第1き電回路21に出力される電流が低くなるようにインバータ48を制御し、一過性の大電流からインバータ48を保護することができる。
【0082】
き電システム2が、第1き電回路21の事故を検出し、事故の発生した第1き電回路21に対応する遮断器を開放し、事故の発生した第1き電回路21をき電用変電所14から切り離すと、第1き電回路21の単相交流電力の電流値が所定値未満に戻る。このため、き電システム2が、第1き電回路21をき電用変電所14から切り離した後には、第1低減率演算部68aから乗算器70a、70bに入力される低減率が1に戻り、第1き電回路21に対する電流指令値も通常時の状態に戻る。
【0083】
第1き電回路21の場合と同様に、第2き電回路22の単相交流電力の電流値が所定値以上である場合には、第2適用判定部66bから第2電流過大検出信号が第2低減率演算部68bに入力されることにより、1よりも低い所定の値の低減率が、第2低減率演算部68bから乗算器70c、70dに入力される。これにより、第2き電回路22の単相交流電力の電流値が所定値以上である場合に、第2き電回路22に対する電流指令値が通常時よりも低くなり、インバータ48から第2き電回路22に出力される電流が低くなるように、インバータ48の動作が制御される。
【0084】
第1き電回路21に事故が発生していない場合には、事故の発生していない健全な第1き電回路21に対する電力の供給を継続しつつ、事故の発生した第2き電回路22に出力される電流が低くなるようにインバータ48を制御し、一過性の大電流からインバータ48を保護することができる。
【0085】
以上、説明したように、本実施形態に係る電気鉄道用三相電力変換システム10では、制御装置56が、第1き電回路21及び第2き電回路22の一方に流れる電流が所定値以上であると判定した大電流発生時においては、第1き電回路21及び第2き電回路22の一方に対する電流指令値を通常時よりも低くすることにより、インバータ48から第1き電回路21及び第2き電回路22の一方に出力される電流が低くなるように、インバータ48の動作を制御する。
【0086】
これにより、事故の発生していない健全な第1き電回路21及び第2き電回路22の他方に対する電力の供給を継続しつつ、事故の発生した第1き電回路21及び第2き電回路22の一方に出力される電流が低くなるようにインバータ48を制御し、一過性の大電流からインバータ48を保護することができる。電気鉄道用三相電力変換システム10が三相鉄道電源12と連系して運用される場合にも、一過性の大電流が発生した際に、健全なき電回路への影響を抑制しつつ、システムを適切に保護することができる。
【0087】
また、本実施形態に係る電気鉄道用三相電力変換システム10では、制御装置56が、インバータ48の出力を二組の単相交流電力とみて、インバータ48の動作を制御する。これにより、事故の発生したき電回路のみの電流指令値を直接的に調整することができる。健全なき電回路への影響をより適切に抑制した制御を実現することができる。
【0088】
但し、制御装置56に設定する電流指令値は、必ずしも二組の単相交流電力に対する電流指令値でなくてもよい。例えば、インバータ48から出力される三相交流電力の有効電流及び無効電流に対する電流指令値を設定し、事故の発生したき電回路に出力される電流が低くなるように、三相交流電力の有効電流及び無効電流に対する電流指令値を低くしてもよい。制御装置56に設定される電流指令値は、インバータ48の出力に関する任意の電流指令値でよい。
【0089】
上記実施形態では、電流検出器54が、き電用変電所14に供給される三相交流電力の電流値を検出している。これに限ることなく、電流検出器54は、例えば、き電用変電所14で変換された後の二組の単相交流電力のそれぞれの電流値を検出する構成としてもよい。これにより、制御装置56において、二組の単相交流電力の電流値を演算する手間を省略することができる。
【0090】
一方、二組の単相交流電力のそれぞれの電流値を電流検出器54で検出する構成とした場合には、電流検出器54と制御装置56との間の距離などが遠くなり、電流検出器54の配置の構成などが複雑になってしまう可能性がある。上記実施形態のように、電流検出器54が、き電用変電所14に供給される三相交流電力の電流値を検出する構成とした場合には、例えば、電流検出器54の配置の構成などを簡単にすることができる。
【0091】
上記実施形態では、き電用変電所14に接続されるき電回路の数を2つとしている。き電用変電所14に接続されるき電回路の数は、2つに限ることなく、3つ以上でもよい。き電回路の数が3つ以上である場合には、制御装置56は、電流検出器54で検出された電流値を基に、複数のき電回路のそれぞれに流れる電流が所定値以上か否かを判定し、複数のき電回路のそれぞれに流れる電流が所定値未満と判定した通常時においては、インバータ48の出力に関する所定の電流指令値を設定することにより、複数のき電回路のそれぞれに対して所定の有効電流及び無効電流を供給するように、インバータ48の動作を制御し、複数のき電回路のいずれかに流れる電流が所定値以上であると判定した大電流発生時においては、電流指令値を通常時よりも低くすることにより、インバータ48から所定値以上と判定したき電回路に出力される電流が低くなるように、インバータ48の動作を制御する構成とすればよい。
【0092】
上記実施形態では、三相鉄道電源12の一例として、回転機を挙げている。三相鉄道電源12は、回転機に限ることなく、き電回路の事故発生時の一過性の大電流に対して一定の供給能力を有し、事故の発生の際にも運転を継続することが可能な任意の電源でよい。
【0093】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0094】
2…き電システム、 10…電気鉄道用三相電力変換システム、 12…三相鉄道電源、 14…き電用変電所、 21、22…き電回路、 23、24…電車、 30、32…電力系統、 40…受電用変圧器、 42…コンバータ用変圧器、 44…コンバータ、 46…直流コンデンサ、 48…インバータ、 50…インバータ用変圧器、 52…送電用変圧器、 54…電流検出器、 56…制御装置、 60…指令値生成部、 62…電流値演算部、 64…運用状態信号入力部、 66a…第1適用判定部、 66b…第2適用判定部、 68a…第1低減率演算部、 68b…第2低減率演算部、 70a~70d…乗算器、 72…制御信号生成部
図1
図2
図3