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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148202
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】LGPS型固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20220929BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20220929BHJP
   C01B 25/14 20060101ALI20220929BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALN20220929BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
H01B1/06 A
C01B25/14
H01M10/0562
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049790
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智裕
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5G301CA05
5G301CA16
5G301CA19
5G301CA23
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE02
5H029AJ02
5H029AJ14
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ28
5H029HJ13
5H029HJ14
5H029HJ20
(57)【要約】
【課題】 生産コストを抑えて、且つ、イオン伝導度が高いLGPS型固体電解質の製造方法を提供すること。
【解決手段】 上記課題は、LGPS型固体電解質前駆体を、水分を100ppmより多く300ppm以下の範囲で含んだ窒素ガス雰囲気下で焼成する工程を含むことを特徴とする、LGPS型固体電解質の製造方法によって解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
LGPS型固体電解質前駆体を、水分を100ppmより多く300ppm以下の範囲で含んだ窒素ガス雰囲気下で焼成する工程を含むことを特徴とする、LGPS型固体電解質の製造方法。
【請求項2】
前記LGPS型固体電解質が、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、少なくとも、2θ=20.18°±0.50°、20.44°±0.50°、26.96°±0.50°、及び29.58°±0.50°の位置にピークを有する、請求項1に記載のLGPS型固体電解質の製造方法。
【請求項3】
前記焼成における温度が、200℃~700℃である、請求項1または2に記載のLGPS型固体電解質の製造方法。
【請求項4】
前記LGPS型固体電解質が、Geを含み、かつ、25℃において3.2mS/cm以上のイオン伝導度を有する、請求項1から3のいずれかに記載のLGPS型固体電解質の製造方法。
【請求項5】
前記LGPS型固体電解質が、Snを含み、かつ、25℃において2.8mS/cm以上のイオン伝導度を有する、請求項1から3のいずれかに記載のLGPS型固体電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LGPS型固体電解質の製造方法に関する。なお、LGPS型固体電解質とは、Li、P及びSを含む、特定の結晶構造を有する固体電解質を言うが、例えば、Li、M(MはGe、Si及びSnからなる群より選ばれる一種以上の元素)、P及びSを含む固体電解質が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯情報端末、携帯電子機器、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、更には定置型蓄電システムなどの用途において、リチウムイオン二次電池の需要が増加している。しかしながら、現状のリチウムイオン二次電池は、電解液として可燃性の有機溶剤を使用しており、有機溶剤が漏れないように強固な外装を必要とする。また、携帯型のパソコン等においては、万が一、電解液が漏れ出した時のリスクに備えた構造を取る必要があるなど、機器の構造に対する制約も出ている。
【0003】
更には、自動車や飛行機等の移動体にまでその用途が広がり、定置型のリチウムイオン二次電池においては大きな容量が求められている。このような状況の下、安全性が従来よりも重視される傾向にあり、有機溶剤等の有害な物質を使用しない全固体リチウムイオン二次電池の開発に力が注がれている。
【0004】
例えば、全固体リチウムイオン二次電池における固体電解質として、酸化物、リン酸化合物、有機高分子、硫化物等を使用することが検討されている。
これらの固体電解質の中で、硫化物はイオン伝導度が高く、比較的やわらかく固体-固体間の界面を形成しやすい特徴がある。活物質に対しても安定であり、実用的な固体電解質として開発が進んでいる。
【0005】
硫化物固体電解質の中でも、特定の結晶構造を有するLGPS型固体電解質がある(非特許文献1および特許文献1)。LGPS型固体電解質は硫化物固体電解質の中でも極めてイオン伝導度が高く、-30℃の低温から100℃の高温まで安定に動作することができ、実用化への期待が高い。
【0006】
LGPS型固体電解質は水分や酸素と容易に反応し、水酸化物や酸化物を生成することで、イオン伝導度が低下する原因となってしまうため、製造工程は全て、水分や酸素を含まない環境で行われる。非特許文献2には、アルゴンガスを流通させながら焼成を行うことで、高いイオン伝導度を示すLGPS型固体電解質が製造できることが示されている。しかし、工業的に製造することを考えると、膨大な量のガスを使用するため、アルゴンガスを用いると、生産コストが高くなってしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許3125507号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Nature Energy 1, Article number: 16030 (2016)
【非特許文献2】Journal of Power Source 473 (2020) 228524
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況の下、生産コストを抑えて、且つ、イオン伝導度が高いLGPS型固体電解質の製造方法を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意研究を行ったところ、LGPS型固体電解質を合成する際に、水分を100ppmより多く300ppm以下の範囲で含んだ窒素ガス雰囲気下で焼成することで、高いイオン伝導度を示すLGPS型固体電解質を製造できるという知見を得た。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
<1> LGPS型固体電解質前駆体を、水分を100ppmより多く300ppm以下の範囲で含んだ窒素ガス雰囲気下で焼成する工程を含むことを特徴とする、LGPS型固体電解質の製造方法である。
<2> 前記LGPS型固体電解質が、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、少なくとも、2θ=20.18°±0.50°、20.44°±0.50°、26.96°±0.50°、及び29.58°±0.50°の位置にピークを有する、上記<1>に記載のLGPS型固体電解質の製造方法である。
<3> 前記焼成における温度が、200℃~700℃である、上記<1>または<2>に記載のLGPS型固体電解質の製造方法である。
<4> 前記LGPS型固体電解質が、Geを含み、かつ、25℃において3.2mS/cm以上のイオン伝導度を有する、上記<1>から<3>のいずれかに記載のLGPS型固体電解質の製造方法である。
<5> 前記LGPS型固体電解質が、Snを含み、かつ、25℃において2.8mS/cm以上のイオン伝導度を有する、上記<1>から<3>のいずれかに記載のLGPS型固体電解質の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生産コストを抑えて、且つ、イオン伝導度が高いLGPS型固体電解質の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、該LGPS型固体電解質を加熱成形してなる成形体、該LGPS型固体電解質を含む全固体電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るLGPS型固体電解質の結晶構造を示す概略図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る全固体電池の概略断面図である。
図3図3は、実施例1~4及び比較例1で得られたGe型LGPS固体電解質のイオン伝導度測定の結果を示すグラフである。
図4図4は、実施例5~8及び比較例2で得られたSn型LGPS固体電解質のイオン伝導度測定の結果を示すグラフである。
図5図5は、実施例1~4及び比較例1で得られたGe型LGPS固体電解質のX線回折測定の結果を示すグラフである。
図6図6は、実施例5~8及び比較例2で得られたSn型LGPS固体電解質のX線回折測定の結果を示すグラフである。
図7図7は、本発明の一実施形態に係るLGPS型固体電解質の製造方法における焼成工程を行う加熱容器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、以下に説明する材料及び構成等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
【0015】
本明細書において、LGPS型固体電解質とは、Li、P及びSを含む、特定の結晶構造を有する固体電解質を言うが、例えば、Li、M(MはGe、Si及びSnからなる群より選ばれる一種以上の元素)、P及びSを含む固体電解質が挙げられる。
【0016】
LGPS型固体電解質の結晶構造は、図1に示されるように、Li元素およびS元素から構成される八面体Oと、P、Ge、SiおよびSnからなる群より選ばれる一種以上の元素およびS元素から構成される四面体T1と、P元素およびS元素から構成される四面体T2とを有し、前記四面体T1および前記八面体Oは稜を共有し、前記四面体T2および前記八面体Oは頂点を共有することを特徴とする。
【0017】
LGPS型固体電解質は、X線回折(CuKα:λ=1.5405Å)において、少なくとも、2θ=20.18°±0.50°、20.44°±0.50°、26.96°±0.50°、及び29.58°±0.50°の位置にピークを有する。
【0018】
本発明のLGPS型固体電解質は、原料を所望するモル比となるように混合し、粉砕させながら反応させることでLGPS型固体電解質前駆体を製造し、製造されたLGPS型固体電解質前駆体を焼成することによって製造される。
【0019】
<LGPS型固体電解質前駆体の製造>
本発明のLGPS型固体電解質の製造方法の対象となる、LGPS型固体電解質前駆体は、特許第5527673号公報に記載のメカニカルミリング法、国際公開番号WO2019/044517号公報に記載の液相合成法等の既知の方法で製造することができる。
【0020】
メカニカルミリング法
メカニカルミリング法の一例を挙げると、LiS、P、およびMS(MはGe、Si及びSnからなる群より選ばれる一種以上の元素)の粉末を混ぜ合わせた後、遊星ボールミル等を用いて粉砕・混合処理を行うことにより、LGPS型固体電解質前駆体を得ることができる。メカニカルミリング法の特徴は、強力な機械的エネルギーを加えることによって組成の均一化および非晶質化を行う点にある。
【0021】
液相合成法
液相合成法の一例を挙げると、アセトニトリルやテトラヒドロフラン等の有機溶剤中でLiSとPとを反応させることにより溶解させた溶液に、LiS、およびMS(MはGe、Si及びSnからなる群より選ばれる一種以上の元素)の粉末を加えて懸濁液を得る。次に、有機溶剤を留去することにより、LGPS型固体電解質前駆体を得ることができる。液相合成法の特徴は、原料の一部あるいは全部を有機溶剤中で反応・溶解させることよって、組成の均一化および非晶質化を行う点にある。
【0022】
<焼成>
加熱温度は、種類によって異なり、Ge、SiまたはSnを含有するものは、通常200~700℃の範囲が好ましく、より好ましくは350~650℃の範囲であり、特に好ましくは400~600℃の範囲である。上記範囲よりも温度が低いと所望の結晶が生じにくく、一方、上記範囲よりも温度が高くても、目的とする以外の結晶が生成することがある。
【0023】
加熱時間は、加熱温度との関係で若干変化するものの、通常は0.1~24時間の範囲で十分に結晶化することができる。高い温度で上記範囲を超えて長時間加熱することは、LGPS型固体電解質の変質が懸念されることから、好ましくない。
【0024】
本発明においては、生産コストを抑える観点から、窒素ガス雰囲気下で焼成を行う。工業的に製造することを考えると、膨大な量のガスを使用するため、窒素ガスの代わりに、ヘリウムガスやアルゴンガスなどの不活性ガスを使用すると、生産コストの観点から好ましくなく、安価な窒素ガスを用いることが好ましい。
通常、焼成に用いる不活性ガス中の水分量は、低いほうが好ましいと考えられており、水分含有量が5ppmより下回るような高純度ガスが使用されてきた。また、標準的なグレードの不活性ガスを用いた場合でも、水分量が10ppm未満であることが多かった。
【0025】
本発明者らの検討によれば、使用する窒素ガスに微量の水分が含まれている場合、水分がLGPS型固体電解質表面と反応し、構造中に酸素が取り込まれると推察される。すると、結晶中に存在するLiイオンが通過するトンネルのサイズが、より伝導しやすいサイズに変化し、イオン伝導度が向上すると推察される。
しかし、窒素ガス中に含まれている水分の量が多すぎると、酸素の固溶域を超えてしまい、不純物層が生成してしまうことで、イオン伝導度が低下すると推察される。そのため、窒素ガス中に含まれる水分量は、多すぎても少なすぎてもいけない。
本発明で得られるLGPS型固体電解質は、Geを含む場合、25℃におけるイオン伝導度が3.2mS/cm以上であることが好ましく、3.5mS/cm以上であることがより好ましい。また、本発明で得られるLGPS型固体電解質は、Snを含む場合、25℃におけるイオン伝導度が2.8mS/cm以上であることが好ましく、2.9mS/cm以上であることがより好ましい。本発明において、イオン伝導度の測定方法は、後述する実施例に記載の方法を用いることができる。
【0026】
本発明において、窒素ガス中に含まれる水分量としては、100ppmより多く300ppm以下にすることが必要である。好ましくは、120ppmから295ppmの間である。特に好ましくは、140ppmから290ppmの間である。窒素ガス中に含まれる水分量を100ppmより多く300ppm以下とすることにより、高いイオン伝導度を有するLGPS固体電解質を得ることができる。
窒素ガス中に含まれる水分量を、100ppmより多く300ppm以下に調整する方法としては、例えば、水分含有量が100ppm以下の窒素ガスと、水分含有量が300ppm以上の窒素ガスを用意し、任意の割合で混合することによって調整することができる。
また、窒素ガス中に含まれる水分量を測定する方法としては、露点計を使用することができる。
【0027】
図7は、焼成工程を行う加熱容器の一例の概略図である。加熱容器11は、ガラス内筒12とガラス外筒13とを有する。ガラス内筒12にはLGPS型固体電解質前駆体14を配置する。なお、加熱容器11は、栓(図示せず)によって密封されており、分岐管を通じて窒素ガスの導入と排出が行われる。また、ガラス内筒12内部の温度を測定するため、熱電対15が備えられている。ここで、管状炉16を用いて、加熱容器11を加熱すると、LGPS型固体電解質前駆体14の加熱処理が行われる。
【0028】
上記のようにして得られる本発明のLGPS型固体電解質は、各種手段によって所望の成形体とし、以下に記載する全固体電池をはじめとする各種用途に使用することができる。成形方法は特に限定されない。例えば、後述する<全固体電池>において述べた全固体電池を構成する各層の成形方法と同様の方法を使用することができる。
【0029】
<全固体電池>
本発明のLGPS型固体電解質は、例えば、全固体電池用の固体電解質として使用され得る。また、本発明の更なる実施形態によれば、上述した全固体電池用固体電解質を含む全固体電池が提供される。
【0030】
ここで「全固体電池」とは、全固体リチウムイオン二次電池である。図2は、本発明の一実施形態に係る全固体電池の概略断面図である。全固体電池10は、正極層1と負極層3との間に固体電解質層2が配置された構造を有する。全固体電池10は、携帯電話、パソコン、自動車等をはじめとする各種機器において使用することができる。
【0031】
本発明のLGPS型固体電解質は、正極層1、負極層3および固体電解質層2のいずれか一層以上に、固体電解質として含まれてよい。正極層1または負極層3に本発明のLGPS型固体電解質が含まれる場合、本発明のLGPS型固体電解質と公知のリチウムイオン二次電池用正極活物質または負極活物質とを組み合わせて使用する。正極層1または負極層3に含まれる本発明のLGPS型固体電解質の量比は、特に制限されない。
本発明のLGPS型固体電解質は単独で構成されてもよいし、必要に応じて、酸化物固体電解質(例えば、LiLaZr12)、硫化物系固体電解質(例えば、LiS-P)やその他の錯体水素化物固体電解質(例えば、LiBH、3LiBH-LiI)などを適宜組み合わせて使用してもよい。
【0032】
全固体電池は、上述した各層を成形して積層することによって作製されるが、各層の成形方法および積層方法については、特に制限されない。
【0033】
例えば、固体電解質および/または電極活物質を溶剤に分散させてスラリー状としたものをドクターブレードまたはスピンコート等により塗布し、それを圧延することにより製膜する方法;真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法等を用いて製膜および積層を行う気相法;ホットプレスまたは温度をかけないコールドプレスによって粉末を成形し、それを積層していく加圧成形法等がある。
【0034】
本発明のLGPS型固体電解質は比較的柔らかいことから、加圧成形法によって各層を成形および積層して全固体電池を作製することが特に好ましい。加圧成形法としては、加温して行うホットプレスと加温しないコールドプレスとがあるが、コールドプレスでも十分に成形することができる。
【0035】
なお、本発明には、本発明のLGPS型固体電解質を加熱成形してなる成形体が包含される。該成形体は、全固体電池として好適に用いられる。また、本発明には、本発明のLGPS型固体電解質を加熱成形する工程を含む、全固体電池の製造方法が包含される。
【実施例0036】
以下、実施例により本実施形態を更に詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例で使用した窒素ガス中に含まれる水分量は、露点計(テクネ計測社製TK-100オンライン露点計)を使用して測定した。
【0037】
(実施例1)
<Ge型LGPS前駆体の製造>
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、LiS:P:GeS=5:1:1のモル比となるように、LiS(シグマ・アルドリッチ社製、純度99.8%)、P(シグマ・アルドリッチ社製、純度99%)、およびGeS(シグマ・アルドリッチ社製、純度99%)を量り取り、メノウ乳鉢にて予備混合した。
次に、予備混合した原料を45mLのジルコニア製ポットに投入し、更にジルコニアボール(株式会社ニッカトー製「YTZ」、φ10mm、15個)を投入して、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機(フリッチュ社製「P-7」)に取り付け、回転数500rpmで10時間、メカニカルミリングを行い、Ge型LGPS前駆体を得た。
<Ge型LGPS前駆体の焼成>
得られた前駆体を図7に示す加熱容器11を用いて焼成を行った。アルゴン雰囲気下のグローブボックス内でガラス内筒12に0.5gの前駆体を入れて、前駆体が大気に暴露しないように管状炉16に設置した。加熱容器11中のガスを、アルゴンガスから窒素ガス(水分量145ppm)に置換した後、窒素ガス(水分量145ppm)を吹き込みながら、3時間かけて550℃まで昇温し、その後、8時間550℃で焼成することにより、Ge型LGPS固体電解質を得た。
【0038】
(実施例2)
<Ge型LGPS前駆体の製造>
実施例1と同様の操作を行い、Ge型LGPS前駆体を得た。
<Ge型LGPS前駆体の焼成>
窒素ガスの水分量を203ppmとした以外は、実施例1と同様の操作を行い、Ge型LGPS固体電解質を得た。
【0039】
(実施例3)
<Ge型LGPS前駆体の製造>
実施例1と同様の操作を行い、Ge型LGPS前駆体を得た。
<Ge型LGPS前駆体の焼成>
窒素ガスの水分量を289ppmとした以外は、実施例1と同様の操作を行い、Ge型LGPS固体電解質を得た。
【0040】
(実施例4)
<Ge型LGPS前駆体の製造>
実施例1と同様の操作を行い、Ge型LGPS前駆体を得た。
<Ge型LGPS前駆体の焼成>
窒素ガスの水分量を123ppmとした以外は、実施例1と同様の操作を行い、Ge型LGPS固体電解質を得た。
【0041】
(比較例1)
<Ge型LGPS前駆体の製造>
実施例1と同様の操作を行い、Ge型LGPS前駆体を得た。
<Ge型LGPS前駆体の焼成>
窒素ガスの水分量を23ppmとした以外は、実施例1と同様の操作を行い、Ge型LGPS固体電解質を得た。
【0042】
(実施例5)
<Sn型LGPS前駆体の製造>
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、LiS:P:SnS=5:1:1のモル比となるように、LiS(シグマ・アルドリッチ社製、純度99.8%)、P(シグマ・アルドリッチ社製、純度99%)、およびSnS(高純度化学社製)を量り取り、メノウ乳鉢にて予備混合した。
次に、予備混合した原料を45mLのジルコニア製ポットに投入し、更にジルコニアボール(株式会社ニッカトー製「YTZ」、φ10mm、15個)を投入して、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星型ボールミル機(フリッチュ社製「P-7」)に取り付け、回転数800rpmで10時間、メカニカルミリングを行い、Sn型LGPS前駆体を得た。
<Sn型LGPS前駆体の焼成>
得られた前駆体を図7に示す加熱容器11を用いて焼成を行った。アルゴン雰囲気下のグローブボックス内でガラス内筒12に0.5gの前駆体を入れて、前駆体が大気に暴露しないように管状炉16に設置した。加熱容器11中のガスを、アルゴンガスから窒素ガス(水分量145ppm)に置換した後、窒素ガス(水分量145ppm)を吹き込みながら、3時間かけて550℃まで昇温し、その後、8時間550℃で焼成することにより、Sn型LGPS固体電解質を得た。
【0043】
(実施例6)
<Sn型LGPS前駆体の製造>
実施例5と同様の操作を行い、Sn型LGPS前駆体を得た。
<Sn型LGPS前駆体の焼成>
窒素ガスの水分量を203ppmとした以外は、実施例5と同様の操作を行い、Sn型LGPS固体電解質を得た。
【0044】
(実施例7)
<Sn型LGPS前駆体の製造>
実施例5と同様の操作を行い、Sn型LGPS前駆体を得た。
<Sn型LGPS前駆体の焼成>
窒素ガスの水分量を289ppmとした以外は、実施例5と同様の操作を行い、Sn型LGPS固体電解質を得た。
【0045】
(実施例8)
<Sn型LGPS前駆体の製造>
実施例5と同様の操作を行い、Sn型LGPS前駆体を得た。
<Sn型LGPS前駆体の焼成>
窒素ガスの水分量を123ppmとした以外は、実施例5と同様の操作を行い、Sn型LGPS固体電解質を得た。
【0046】
(比較例2)
<Sn型LGPS前駆体の製造>
実施例5と同様の操作を行い、Sn型LGPS前駆体を得た。
<Sn型LGPS前駆体の焼成>
窒素ガスの水分量を23ppmとした以外は、実施例5と同様の操作を行い、Sn型LGPS固体電解質を得た。
【0047】
<リチウムイオン伝導度の測定>
実施例1~8及び比較例1~2で得られたLGPS型固体電解質を一軸成型(420MPa)に供し、厚さ約1mm、直径10mmのディスクを得た。全固体電池評価セル(宝泉株式会社製)を用い、室温(25℃)において、四端子法による交流インピーダンス測定(Solartron社製「SI1260 IMPEDANCE/GAIN―PHASE ANALYZER」)を行い、リチウムイオン伝導度を算出した。
具体的には、サンプルを25℃に設定した恒温槽に入れて30分間保持した後にリチウムイオン伝導度を測定した。測定周波数範囲は0.1Hz~1MHz、振幅は50mVとした。リチウムイオン伝導度の測定結果を図3(Ge型LGPS固体電解質)、図4(Sn型LGPS固体電解質)に示す。
図3(Ge型LGPS固体電解質)より、窒素ガス中の水分量が少ない比較例1に比べて、窒素ガス中の水分量が多い実施例1~4では高いイオン伝導度を示している。これは、窒素ガス中の水分が固体電解質表面と反応し、構造中に酸素が取り込まれることによって、結晶中に存在するLiイオンが通過するトンネルのサイズが、より伝導しやすいサイズに変化したためであると考えられる。
また、図4(Sn型LGPS固体電解質)においても、図3(Ge型LGPS固体電解質)と同様のイオン伝導度の挙動を示している。
【0048】
<X線回折の測定>
実施例1~8及び比較例1~2で得られたLGPS型固体電解質について、Ar雰囲気下、室温(25℃)にて、X線回折測定(PANalytical社製「X’Pert3 Powder」、CuKα:λ=1.5405Å)を実施した。
図5図6のX線回折測定の結果に示したとおり、実施例1~8、比較例1~2において、少なくとも、2θ=20.18°±0.50°、20.44°±0.50°、26.96°±0.50°、及び29.58°±0.50°に回折ピークが観測され、このパターンはICSDデータベースのLi10GeP12と一致し、LGPS型の結晶構造を持つことが確認できた。
【符号の説明】
【0049】
1 正極層
2 固体電解質層
3 負極層
10 全固体電池
11 加熱容器
12 ガラス内筒
13 ガラス外筒
14 LGPS型固体電解質前駆体
15 熱電対
16 管状炉

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7