(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148209
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】光照射装置及び光照射方法
(51)【国際特許分類】
A61B 18/24 20060101AFI20220929BHJP
【FI】
A61B18/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049800
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504300181
【氏名又は名称】国立大学法人浜松医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】高田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】松本 祐直
(72)【発明者】
【氏名】中山 禎司
【テーマコード(参考)】
4C026
【Fターム(参考)】
4C026AA04
4C026BB08
4C026DD10
4C026FF03
4C026FF17
4C026GG02
4C026GG06
4C026HH15
(57)【要約】
【課題】パルス光の照射が不適切な状態で継続されるのを回避することができる光照射装置及び光照射方法を提供する。
【解決手段】光照射装置1は、パルス光L1を出射する第1光源3と、モニタ光L2を出射する第2光源4と、パルス光L1及びモニタ光L2を導光する光ファイバ12を有し、光ファイバ12の光出射端面からパルス光L1及びモニタ光L2を出射するように構成されたカテーテル10と、光ファイバ12によって導光されたモニタ光L2の戻り光L3を検出し、戻り光L3の光量を示すモニタ信号を出力する光検出部5と、情報を報知する報知部6と、第1光源3にパルス光L1を出射させると共に第2光源4にモニタ光L2を出射させた状態でモニタ信号を取得し、パルス光L1のパルス幅に対応する時間範囲におけるモニタ信号の強度が基準値を下回った場合に、報知部6に情報を報知させる制御部7と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス光を出射する第1光源と、
モニタ光を出射する第2光源と、
前記パルス光及び前記モニタ光を導光する光ファイバを有し、前記光ファイバの光出射端面から前記パルス光及び前記モニタ光を出射するように構成されたカテーテルと、
光ファイバによって導光された前記モニタ光の戻り光を検出し、前記戻り光の光量を示すモニタ信号を出力する光検出部と、
情報を報知する報知部と、
前記第1光源に前記パルス光を出射させると共に前記第2光源に前記モニタ光を出射させた状態で前記モニタ信号を取得し、前記パルス光のパルス幅に対応する時間範囲における前記モニタ信号の強度が基準値を下回った場合に、前記報知部に前記情報を報知させる制御部と、を備える、光照射装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記光出射端面が空気中に存在している状態で前記第2光源に前記モニタ光を出射させると共に前記光検出部に前記戻り光を検出させることで取得した前記モニタ信号の強度に基づいて、前記基準値を設定する、請求項1に記載の光照射装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記時間範囲における前記モニタ信号の前記強度が前記基準値を下回った場合に、前記第1光源に前記パルス光の出射を停止させる、請求項1又は2に記載の光照射装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記パルス光の毎回のパルスショットにおいて、前記時間範囲における前記モニタ信号の前記強度を前記基準値と比較する、請求項1~3のいずれか一項に記載の光照射装置。
【請求項5】
前記第2光源は、前記モニタ光として連続波光を出射する、請求項1~4のいずれか一項に記載の光照射装置。
【請求項6】
パルス光を出射する第1光源と、
モニタ光を出射する第2光源と、
前記パルス光及び前記モニタ光を導光する光ファイバを有し、前記光ファイバの光出射端面から前記パルス光及び前記モニタ光を出射するように構成されたカテーテルと、
光ファイバによって導光された前記モニタ光の戻り光を検出し、前記戻り光の光量を示すモニタ信号を出力する光検出部と、を備える光照射装置を用いて実施される光照射方法であって、
前記光出射端面が空気中に存在している状態で前記第2光源に前記モニタ光を出射させると共に前記光検出部に前記戻り光を検出させることで前記モニタ信号を取得し、取得した前記モニタ信号の強度に基づいて基準値を設定するステップと、
前記第1光源に前記パルス光を出射させると共に前記第2光源に前記モニタ光を出射させた状態で前記モニタ信号を取得し、前記パルス光のパルス幅に対応する時間範囲における前記モニタ信号の強度を前記基準値と比較するステップと、を備える、光照射方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば血栓の溶解等に用いられる光照射装置及び光照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、カテーテルが有する光ファイバによって導光されたパルス光を血栓に照射することで血栓を溶解する光照射装置が記載されている。特許文献1に記載の光照射装置では、モニタ光の戻り光が検出され、戻り光の検出信号に基づいて、パルス光の照射に伴う血管内の反応が評価される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、上述したような光照射装置においてパルス光の照射が適切に実施されない原因として、パルス光の照射時における光ファイバの光出射端面の変質という事象があることを突き止めた。ただし、パルス光の照射時に光ファイバの光出射端面が何らかの原因で変質したとしても、オペレータがその変質に気付くことは困難である。
【0005】
本発明は、パルス光の照射が不適切な状態で継続されるのを回避することができる光照射装置及び光照射方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の光照射装置は、パルス光を出射する第1光源と、モニタ光を出射する第2光源と、パルス光及びモニタ光を導光する光ファイバを有し、光ファイバの光出射端面からパルス光及びモニタ光を出射するように構成されたカテーテルと、光ファイバによって導光されたモニタ光の戻り光を検出し、戻り光の光量を示すモニタ信号を出力する光検出部と、情報を報知する報知部と、第1光源にパルス光を出射させると共に第2光源にモニタ光を出射させた状態でモニタ信号を取得し、パルス光のパルス幅に対応する時間範囲におけるモニタ信号の強度が基準値を下回った場合に、報知部に情報を報知させる制御部と、を備える。
【0007】
この光照射装置では、パルス光の照射が実施された状態で、モニタ光の戻り光が検出され、パルス光のパルス幅に対応する時間範囲におけるモニタ信号の強度が基準値を下回った場合に報知が実施される。これは、例えば、カテーテルが血管内に挿入された状態では、(i)パルス光のパルス幅に対応する時間範囲においては気泡が発生し、当該時間範囲においては光ファイバの光出射端面が気泡にさらされるとの知見、及び(ii)パルス光の照射時に光ファイバの光出射端面が変質し且つ光ファイバの光出射端面が気泡にさらされていると、戻り光の光量が低下するとの知見に基づくものである。これにより、オペレータは、パルス光の照射時において光ファイバの光出射端面が変質した際に、その変質に気付くことができる。よって、この光照射装置によれば、パルス光の照射が不適切な状態で継続されるのを回避することができる。
【0008】
本発明の光照射装置では、制御部は、光出射端面が空気中に存在している状態で第2光源にモニタ光を出射させると共に光検出部に戻り光を検出させることで取得したモニタ信号の強度に基づいて、基準値を設定してもよい。これによれば、適切な基準値を容易に得ることができる。
【0009】
本発明の光照射装置では、制御部は、時間範囲におけるモニタ信号の強度が基準値を下回った場合に、第1光源にパルス光の出射を停止させてもよい。これによれば、不適切な状態でのパルス光の照射を確実に終了させることができる。
【0010】
本発明の光照射装置では、制御部は、パルス光の毎回のパルスショットにおいて、時間範囲におけるモニタ信号の強度を基準値と比較してもよい。これによれば、不適切な状態でのパルス光の照射を直ちに終了させることができる。
【0011】
本発明の光照射装置では、第2光源は、モニタ光として連続波光を出射してもよい。これによれば、パルス光のパルス幅に対応する時間範囲におけるモニタ信号の強度を容易に且つ確実に得ることができる。
【0012】
本発明の光照射方法は、パルス光を出射する第1光源と、モニタ光を出射する第2光源と、パルス光及びモニタ光を導光する光ファイバを有し、光ファイバの光出射端面からパルス光及びモニタ光を出射するように構成されたカテーテルと、光ファイバによって導光されたモニタ光の戻り光を検出し、戻り光の光量を示すモニタ信号を出力する光検出部と、を備える光照射装置を用いて実施される光照射方法であって、光出射端面が空気中に存在している状態で第2光源にモニタ光を出射させると共に光検出部に戻り光を検出させることでモニタ信号を取得し、取得したモニタ信号の強度に基づいて基準値を設定するステップと、第1光源にパルス光を出射させると共に第2光源にモニタ光を出射させた状態でモニタ信号を取得し、パルス光のパルス幅に対応する時間範囲におけるモニタ信号の強度を基準値と比較するステップと、を備える。
【0013】
この光照射方法によれば、パルス光のパルス幅に対応する時間範囲におけるモニタ信号の強度を基準値と比較することで、上述したように、パルス光の照射が不適切な状態で継続されるのを回避することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、パルス光の照射が不適切な状態で継続されるのを回避することができる光照射装置及び光照射方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図4】
図2に示されるカテーテルが血管内に挿入された状態を示す模式図である。
【
図5】光ファイバによってモニタ光及び戻り光が導光される様子を示す模式図である。
【
図6】モニタ信号の強度の時間変化を示すグラフである。
【
図7】モニタ信号の強度の平均値を示すグラフである。
【
図8】パルス光の出射状態、モニタ光の出射状態、及び気泡の動態の関係を示すタイミングチャートである。
【
図9】
図1に示される光照射装置を用いて実施される光照射方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1に示されるように、光照射装置1は、光出力ユニット2と、カテーテル10と、を備えている。光出力ユニット2は、第1光源3と、第2光源4と、光検出部5と、報知部6と、制御部7と、を有している。カテーテル10の先端部10aは、血管内に挿入される部分であり、カテーテル10の基端部10bは、光出力ユニット2に対して着脱される部分である。光照射装置1は、カテーテル10が有する光ファイバ12によって導光されたパルス光L1を血栓に照射することで血栓を溶解する用途で用いられる。
【0018】
第1光源3は、パルス光L1を出射する。パルス光L1は、第1光源3によってパルス発振されたレーザ光である。パルス光L1の波長は、血栓及び血液に吸収され易い波長であって、例えば、520nm以上590nm以下である。パルス光L1の繰り返し周波数は、例えば、1Hz以上10Hz以下である。パルス光L1のパルス幅は、例えば、1μs以上100μs以下である。パルス光L1の出力は、例えば、20mW以上100mW以下である。第1光源3は、例えば、レーザダイオード等によって構成されている。
【0019】
第2光源4は、モニタ光L2を出射する。モニタ光L2は、第2光源4によって連続波(CW)発振されたレーザ光である。つまり、モニタ光L2は、連続波光である。モニタ光L2の波長は、血栓及び血液並びに水に吸収され難い波長であって、例えば、600nm以上1300nm以下である。モニタ光L2の出力は、パルス光L1の出力よりも小さい出力であって、例えば、1mW以上である。第2光源4は、例えば、レーザダイオード等によって構成されている。
【0020】
第1光源3から出射されたパルス光L1は、ダイクロイックミラー8を透過し、カテーテル10の基端部10bにおいて光ファイバ12に入射する。光ファイバ12に入射したパルス光L1は、光ファイバ12によって導光され、カテーテル10の先端部10aにおいて光ファイバ12から出射される。第2光源4から出射されたモニタ光L2は、ハーフミラー9及びダイクロイックミラー8で順次に反射され、カテーテル10の基端部10bにおいて光ファイバ12に入射する。光ファイバ12に入射したモニタ光L2は、光ファイバ12によって導光され、カテーテル10の先端部10aにおいて光ファイバ12から出射される。このことき、モニタ光L2の一部は、光ファイバ12の光出射端面12a(
図2参照)で反射され、戻り光L3として、光ファイバ12によって導光される。光ファイバ12によって導光された戻り光L3は、カテーテル10の基端部10bにおいて光ファイバ12から出射される。
【0021】
光検出部5は、戻り光L3を検出し、戻り光L3の光量を示すモニタ信号を出力する。カテーテル10の基端部10bにおいて光ファイバ12から出射された戻り光L3は、ダイクロイックミラー8で反射されてハーフミラー9を透過し、光検出部5に入射する。光検出部5は、例えば、光電子増倍管、アバランシェフォトダイオード、PINフォトダイオード又はSiPM等によって構成されている。
【0022】
報知部6は、所定の情報を報知する。報知部6は、例えば、ディスプレイ、スピーカ又はランプ等によって構成されている。報知部6がディスプレイによって構成されている場合には、報知部6は、例えば、所定の文字列及び/又は所定のアイコンを表示することで、オペレータに所定の情報を報知する。報知部6がスピーカによって構成されている場合には、報知部6は、例えば、所定の音声及び/又は所定のサイレンを発することで、オペレータに所定の情報を報知する。報知部6がランプによって構成されている場合には、報知部6は、例えば、所定の色及び/又は所定のパターンで点灯することで、オペレータに所定の情報を報知する。
【0023】
制御部7は、第1光源3、第2光源4、光検出部5及び報知部6を制御する。制御部7は、光検出部5から出力されたモニタ信号を取得する。制御部7は、例えば、モニタ信号をデジタルデータに変換するAD変換部と、CPU等の演算部と、RAM、ROM等の記憶部と、を含むコンピュータによって構成されている。
【0024】
図2及び
図3に示されるように、カテーテル10は、管体11と、光ファイバ12と、を有している。カテーテル10は、光ファイバ12の光出射端面12aからパルス光L1及びモニタ光L2を出射するように構成されている。
【0025】
管体11には、第1孔11a及び第2孔11bが形成されている。管体11の材料は、例えば、可撓性を有する樹脂である。管体11の外径は、例えば、0.85mm程度である。第1孔11aの内径は、例えば、0.36mm程度である。第2孔11bの内径は、第1孔11aの内径よりも小さい内径であって、例えば、0.2mm程度である。管体11の先端面は、管体11の中心線に垂直な面であってもよいし、或いは、傾斜した面であってもよい。なお、第1孔11aは、ガイドワイヤを通したり、造影剤、生理食塩水等を流したりすることに用いられる。
【0026】
光ファイバ12は、第2孔11b内に配置されている。光ファイバ12は、光出射端面12aが管体11の先端面から突出しないように、第2孔11b内において位置決めされている。光ファイバ12の光出射端面12aは、例えば、管体11の先端面に対して0.1mm以下の範囲内に位置している。光ファイバ12は、カテーテル10の基端部10b(
図1参照)側から先端部10a側にパルス光L1及びモニタ光L2を導光する。光ファイバ12は、カテーテル10の先端部10a側から基端部10b(
図1参照)側に戻り光L3を導光する。光ファイバ12は、例えば、0.1mm程度のコア径を有するマルチモード光ファイバである。光ファイバ12の材料は、例えば、石英である。光ファイバ12の外径は、例えば、0.14mm程度である。
【0027】
以上のように構成された光照射装置1は、血栓の溶解に用いられる。具体的には、
図4に示されるように、カテーテル10の先端部10aが血管BV内に挿入され、カテーテル10の先端部10aが血栓Tの手前に位置させられる。この状態で、第1光源3からパルス光L1が出射されると、光ファイバ12の光出射端面12aからパルス光L1が出射されて、血栓Tにパルス光L1が照射される。血栓Tにパルス光L1が照射されると、パルス光L1のパルスショット(すなわち、パルス光L1の1パルスの照射)ごとに血栓Tの一部が気泡となって、血栓Tが徐々に溶解されていく。なお、血栓Tが徐々に溶解されていく際には、光ファイバ12の光出射端面12aと血栓Tとの間の距離が一定となるように、血管BV内においてカテーテル10の先端部10aが移動させられる。
【0028】
ここで、血栓Tに対するパルス光L1の照射時に光ファイバ12の光出射端面12aが何らかの原因で変質すると、血栓Tに対するパルス光L1の照射が適切に実施されないおそれがある。血栓の溶解は、一刻を争う処置であるため、光ファイバ12の光出射端面12aが変質した場合には、直ちにカテーテル10を交換する必要がある。そのような事情の下、本発明者らは、カテーテル10の先端部10aが血管BV内に挿入された状態では、(i)パルス光L1のパルス幅に対応する時間範囲においては気泡が発生し、当該時間範囲においては光ファイバ12の光出射端面12aが気泡にさらされるとの知見、及び(ii)パルス光L1の照射時に光ファイバ12の光出射端面12aが変質し且つ光ファイバ12の光出射端面12aが気泡にさらされていると、戻り光L3の光量が低下するとの知見を見出した。
【0029】
図5の(a)は、光ファイバ12の光出射端面12aが正常である場合に光ファイバ12によってモニタ光L2及び戻り光L3が導光される様子を示す模式図である。
図5の(b)は、光ファイバ12の光出射端面12aが変質している場合に光ファイバ12によってモニタ光L2及び戻り光L3が導光される様子を示す模式図である。いずれの場合にも、光ファイバ12の光出射端面12aは、気泡にさらされているものとする。
図5の(a)及び(b)に示されるように、光ファイバ12の光出射端面12aが気泡にさらされている状態では、光出射端面12aが正常である場合(
図5の(a))に比べて光出射端面12aが変質している場合(
図5の(b))のほうが、戻り光L3の光量が低下する。
【0030】
図6は、戻り光L3の光量を示すモニタ信号の強度の時間変化を示すグラフである。
図7は、当該モニタ信号の強度の平均値を示すグラフである。ここでは、血管のモデル内にカテーテル10の先端部10aを挿入し、パルス光L1及びモニタ光L2の出射を実施した。パルス光L1の繰り返し周波数は5Hzであり、パルス光L1のパルス幅は100μsである。モニタ光L2は、連続波光である。血管のモデルは、内径2mmのシリコン製の管内に、色素及びゼラチンにて血栓を模したファントムが配置されると共に、当該管内に、色素及び水にて血液を模した液体が充填されたものである。
図6において、「時間(μs)」は、パルス光L1のパルスショットの開始からの経過時間を示す。
図7において、「モニタ信号の強度(V)」は、パルス光L1のパルスショットの開始から100μsまでのモニタ信号の強度の平均値を示す。
【0031】
図6に示されるように、パルス光L1のパルスショットによって気泡が発生し、光ファイバ12の光出射端面12aが気泡にさらされていると想定される100μs以前の時間においては、光出射端面12aが正常である場合に比べて光出射端面12aが変質している場合のほうが、戻り光L3の光量を示すモニタ信号の強度が低下した。このことは、
図7に示される結果からも明らかである。一方、パルス光L1のパルスショットによって発生した気泡が消失し、光ファイバ12の光出射端面12aが液体にされていると想定される2000μs以降の時間においては、光出射端面12aが正常である場合と光出射端面12aが変質している場合とで、戻り光L3の光量を示すモニタ信号の強度に差が出なかった。
【0032】
以上の
図6及び
図7の結果から、上述した(i)及び(ii)の知見が得られ、更に、「パルス光L1のパルス幅に対応する時間範囲」(以下、場合によっては、単に「時間範囲A」という)におけるモニタ信号の強度に基づいて、光ファイバ12の光出射端面12aが正常であるか否かを判断することが可能との知見が得られる。光ファイバ12の光出射端面12aが正常であるか否かを判断するための時間範囲Aとしては、パルス光L1のパルス幅に一致した時間範囲とすることができる。ただし、時間範囲Aは、パルス光L1のパルス幅に必ずしも一致している必要はなく、光ファイバ12の光出射端面12aが気泡にさらされると想定される時間範囲であればよい。
【0033】
図8は、パルス光L1の出射状態、モニタ光L2の出射状態、及び気泡の動態の関係を示すタイミングチャートである。
図8に示される例では、パルス光L1の繰り返し周波数は5Hzであり、パルス光L1のパルス幅は100μsである。モニタ光L2は、連続波光である。血栓Tにパルス光L1が照射されると、パルス光L1のパルスショットごとに血栓Tの一部が気泡となる。気泡は、パルス光L1の毎回のパルスショットの開始から10μs以内に発生する。発生した気泡は、徐々に成長した後、縮小し、消失する。気泡の持続時間(気泡の発生から消失までの時間)は、最大でも2ms程度である。気泡の持続時間は、パルス光L1の入力エネルギー量等の様々な条件に依存する。
図8に示される例では、或る回のパルスショットによって発生した気泡は、その次の回のパルスショットの開始の前に消失する。
【0034】
以上の
図8の例から、光ファイバ12の光出射端面12aが正常であるか否かを判断するための時間範囲Aについては、例えば、パルス光L1のパルスショットの開始から一定時間遅れて開始し且つパルス光L1のパルスショットの終了から一定時間遅れて終了する時間範囲とする等、パルス光L1のパルス幅と一定の関係を有する時間範囲とし得ることが分かる。
【0035】
上述した(i)及び(ii)の知見に基づいて、本実施形態では、以下のような光照射方法が実施される。光照射装置1を用いて実施される光照射方法について、
図9のフローチャートを参照して詳細に説明する。
【0036】
まず、オペレータが、新品のカテーテル10を準備し、カテーテル10の基端部10bを光出力ユニット2に接続する(ステップS01)。続いて、カテーテル10の先端部10aが空気中に存在している状態(すなわち、光ファイバ12の光出射端面12aが空気中に存在している状態)で、制御部7が、第2光源4にモニタ光L2を出射させると共に光検出部5に戻り光L3を検出させることでモニタ信号を取得し、取得したモニタ信号の強度に基づいて基準値を設定する(ステップS02)(設定するステップ)。基準値は、光ファイバ12の光出射端面12aが正常であるか否かを判断するための基準値であって、一例として、取得したモニタ信号の強度の80%以上100%以下の範囲において設定される。
【0037】
続いて、オペレータが、カテーテル10の先端部10aを血管BV内に挿入し、カテーテル10の先端部10aを血栓Tの手前に位置させる(ステップS03)。続いて、制御部7が、第1光源3にパルス光L1の出射を開始させると共に第2光源4にモニタ光L2の出射を開始させる(ステップS04)。これにより、光ファイバ12の光出射端面12aからパルス光L1が出射されて、血栓Tにパルス光L1が照射される。パルス光L1及びモニタ光L2の出射が開始されると、制御部7が、光検出部5に戻り光L3を検出させてモニタ信号を取得する(ステップS05)。本実施形態では、制御部7が、パルス光L1の毎回のパルスショットにおいて、パルス光L1のパルス幅に対応する時間範囲Aにおけるモニタ信号を取得する。なお、光検出部5が、各時間範囲Aのみにおけるモニタ信号を制御部7に出力してもよいし、或いは、制御部7が、全時間範囲におけるモニタ信号から各時間範囲Aのみにおけるモニタ信号を切り出してもよい。
【0038】
制御部7が、パルス光L1の1回目のパルスショットについて、時間範囲Aにおけるモニタ信号を取得すると、制御部7が、パルス光L1の1回目のパルスショットについて、時間範囲Aにおけるモニタ信号の強度を基準値と比較する(ステップS06)。ステップS06の比較の結果、時間範囲Aにおけるモニタ信号の強度が基準値を下回っておらず、制御部7が、パルス光L1及びモニタ光L2の出射の終了指示を受けていない場合には(ステップS07)、ステップS05の処理に戻り、パルス光L1の2回目以降のパルスショットについて、ステップS05~S07の処理が繰り返される。ステップS06の比較の結果、時間範囲Aにおけるモニタ信号の強度が基準値を下回っておらず、制御部7が、パルス光L1及びモニタ光L2の出射の終了指示を受けた場合には(ステップS07)、光照射方法が終了となる。なお、パルス光L1及びモニタ光L2の出射の終了指示は、オペレータによる終了の指示を示す信号の入力、オペレータによる継続の指示を示す信号の終了等がある。
【0039】
ステップS06の比較の結果、時間範囲Aにおけるモニタ信号の強度が基準値を下回った場合には、制御部7が、第1光源3にパルス光L1の出射を停止させると共に第2光源4にモニタ光L2の出射を停止させる(ステップS08)。続いて、制御部7が、報知部6に所定の情報を報知させ(ステップS09)、光照射方法が終了となる。なお、所定の情報としては、光ファイバ12の光出射端面12aが変質していることを示す情報、カテーテル10の交換が必要であることを示す信号、パルス光L1の出射の停止が必要であることを示す信号等がある。
【0040】
上述したように、制御部7は、ステップS05,S06において、第1光源3にパルス光L1を出射させると共に第2光源4にモニタ光L2を出射させた状態でモニタ信号を取得し、時間範囲Aにおけるモニタ信号の強度を基準値と比較する(比較するステップ)。本実施形態では、制御部7は、パルス光L1の毎回のパルスショットにおいて、時間範囲Aにおけるモニタ信号の強度を基準値と比較する。
【0041】
以上説明したように、光照射装置1では、パルス光L1の照射が実施された状態で、モニタ光L2の戻り光L3が検出され、パルス光L1のパルス幅に対応する時間範囲Aにおけるモニタ信号の強度が基準値を下回った場合に報知が実施される。これは、例えば、カテーテル10が血管BV内に挿入された状態では、(i)パルス光L1のパルス幅に対応する時間範囲Aにおいては気泡が発生し、当該時間範囲Aにおいては光ファイバ12の光出射端面12aが気泡にさらされるとの知見、及び(ii)パルス光L1の照射時に光ファイバ12の光出射端面12aが変質し且つ光ファイバ12の光出射端面12aが気泡にさらされていると、戻り光L3の光量が低下するとの知見に基づくものである。これにより、オペレータは、パルス光L1の照射時において光ファイバ12の光出射端面12aが変質した際に、その変質に気付くことができる。よって、光照射装置1によれば、パルス光L1の照射が不適切な状態で継続されるのを回避することができる。
【0042】
光照射装置1では、制御部7が、光ファイバ12の光出射端面12aが空気中に存在している状態で第2光源4にモニタ光L2を出射させると共に光検出部5に戻り光L3を検出させることでモニタ信号を取得し、取得したモニタ信号の強度に基づいて基準値を設定する。これにより、適切な基準値を容易に得ることができる。
【0043】
光照射装置1では、制御部7が、時間範囲Aにおけるモニタ信号の強度が基準値を下回った場合に、第1光源3にパルス光L1の出射を停止させる。これにより、不適切な状態でのパルス光L1の照射を確実に終了させることができる。
【0044】
光照射装置1では、制御部7が、パルス光L1の毎回のパルスショットにおいて、時間範囲Aにおけるモニタ信号の強度を基準値と比較する。これにより、不適切な状態でのパルス光L1の照射を直ちに終了させることができる。
【0045】
光照射装置1では、第2光源4が、モニタ光L2として連続波光を出射する。これにより、パルス光L1のパルス幅に対応する時間範囲Aにおけるモニタ信号の強度を容易に且つ確実に得ることができる。
【0046】
光照射装置1を用いて実施される光照射方法では、光ファイバ12の光出射端面12aが空気中に存在している状態で第2光源4にモニタ光L2を出射させると共に光検出部5に戻り光L3を検出させることでモニタ信号を取得し、取得したモニタ信号の強度に基づいて基準値を設定するステップと、第1光源3にパルス光L1を出射させると共に第2光源4にモニタ光L2を出射させた状態でモニタ信号を取得し、パルス光L1のパルス幅に対応する時間範囲Aにおけるモニタ信号の強度を基準値と比較するステップと、を備える。この光照射方法によれば、パルス光L1のパルス幅に対応する時間範囲Aにおけるモニタ信号の強度を基準値と比較することで、上述したように、パルス光L1の照射が不適切な状態で継続されるのを回避することができる。
【0047】
本発明は、上述した実施形態に限定されない。光照射装置1は、パルス光L1を血栓に照射することで血栓を溶解する用途に限定されず、他の用途で用いられてもよい。モニタ光L2は、連続波光に限定されず、例えば、繰り返し周波数及びパルス幅においてパルス光L1と一定の関係を有するパルス光であってもよい。
【0048】
制御部7は、複数回の1回のパルスショットにおいて、時間範囲Aにおけるモニタ信号の強度を基準値と比較してもよい。或いは、制御部7は、複数回のパルスショットごとに時間範囲Aにおけるモニタ信号の強度の平均値を算出し、当該平均値を基準値と比較してもよい。制御部7は、時間範囲Aにおけるモニタ信号の強度が基準値以下となった場合に報知部6に所定の情報を報知させてもよいし、或いは、時間範囲Aにおけるモニタ信号の強度が基準値未満となった場合に報知部6に所定の情報を報知させてもよい。
【0049】
上述した実施形態における各構成には、上述した材料及び形状に限定されず、様々な材料及び形状を適用することができる。また、上述した一の実施形態又は変形例における各構成は、他の実施形態又は変形例における各構成に任意に適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1…光照射装置、3…第1光源、4…第2光源、5…光検出部、6…報知部、7…制御部、10…カテーテル、12…光ファイバ、12a…光出射端面、L1…パルス光、L2…モニタ光、L3…戻り光。