(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022148212
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20220929BHJP
F16C 33/80 20060101ALI20220929BHJP
F16C 19/08 20060101ALI20220929BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20220929BHJP
F16J 15/3256 20160101ALI20220929BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C33/80
F16C19/08
F16J15/3232 201
F16J15/3256
F16J15/447
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049804
(22)【出願日】2021-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】野田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】ラジーシュ キャヴンクンナス ラヴィンドラン
【テーマコード(参考)】
3J006
3J042
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE12
3J006AE21
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE41
3J006AE46
3J006CA01
3J042AA09
3J042AA12
3J042BA05
3J042CA10
3J042CA20
3J042DA10
3J043AA17
3J043CA02
3J043CA05
3J043CB13
3J043CB20
3J043DA06
3J043HA01
3J043HA04
3J216AA02
3J216AA12
3J216AB02
3J216AB38
3J216BA01
3J216CA02
3J216CB03
3J216CB13
3J216CB18
3J216CC03
3J216CC15
3J216CC35
3J216CC38
3J216CC41
3J216DA01
3J216DA11
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA73
3J701FA31
3J701FA60
3J701GA01
(57)【要約】
【課題】異物が転がり軸受の内部に侵入することを抑制するために、密封性をより向上させる。
【解決手段】転がり軸受1は、内輪2の端部22に固定されるスリンガ5と、外輪3の端部32に固定されるシール部材6とを備える。シール部材6は、芯金61と被覆部62とで構成される。スリンガ5の第2円環部53は、第1円環部52よりも軸方向における内側に位置するので、スリンガ5の第1円筒部を内輪2の小径部24に圧入する際の第2円環部53の変形が抑制され、シール部材6の第2リップ67は、スリンガ5の第2円環部53の内面53bに確実にかつ安定して接触する。スリンガ5の第2円筒部54の外周面54aは、芯金61の第3円筒部64の外周面64bよりも径方向における外側に位置するので、第1隙間91、第2隙間92、及び第3隙間93によってラビリンスが形成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に転動自在に配置される複数の転動体と、
前記内輪軌道面よりも軸方向における外側において前記外周面に固定されるスリンガと、
前記外輪軌道面よりも軸方向における外側において前記内周面に固定されるシール部材と、を備え、
前記スリンガは、
前記外周面に固定される第1円筒部と、
軸方向における外側の前記第1円筒部の端部から径方向における外側に向かって延びる第1円環部と、
前記第1円環部の外周縁から径方向における外側に向かって延びる平板状の第2円環部と、
前記第2円環部の外周縁から軸方向における内側に向かって延びる第2円筒部と、を有し、
前記第2円環部は、前記第1円環部よりも軸方向における内側に位置し、
前記第1円筒部と前記第1円環部と前記第2円環部と前記第2円筒部とは、板状部材によって一体的に形成され、
前記シール部材は、
前記内周面に固定される第3円環部と、
前記第3円環部の内周縁から軸方向における外側に向かって延びる第3円筒部と、
軸方向における外側の前記第3円筒部の端部から径方向における内側に向かって延びる第4円環部と、
前記第4円環部の内周縁に設けられる円環状の第1リップと、
軸方向における外側の前記第4円環部の表面に設けられる円環状の第2リップと、を有し、
前記第3円環部と前記第3円筒部と前記第4円環部とは、板状部材によって一体的に形成され、
前記第4円環部は、前記第2円環部よりも軸方向における内側に位置し、
前記第1リップは、前記内輪に接触し、
前記第2リップは、軸方向における内側の前記第2円環部の表面に接触し、
前記第2円筒部の外周面は、前記第3円筒部の外周面よりも径方向における外側に位置する、
転がり軸受。
【請求項2】
前記内周面のうち前記第3円筒部と径方向において対向する面と、前記第3円筒部との間には、第1隙間があり、
前記内周面のうち前記第2円筒部と径方向において対向する面と、前記第2円筒部との間には、第2隙間があり、
径方向における前記第1隙間の幅は、径方向における前記第2隙間の幅よりも大きい、
請求項1記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記内周面のうち前記第2円筒部と径方向において対向する面は、軸方向における外側に向かって広がるテーパ面である、
請求項1又は2記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記シール部材は、軸方向における外側の前記第4円環部の表面に設けられる円環状の突出部をさらに有し、
前記突出部は、前記第2リップと前記第2円環部の表面とが接触する位置よりも、径方向における外側に位置する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、例えばタイミングベルト、補機駆動用ベルトなどの無端ベルトが使用される。無端ベルトは、プーリに掛け渡されて、例えば自動車のエンジンによって駆動される。無端ベルトが掛け渡されるプーリ(例えば無端ベルトの位置などを調整するアイドラプーリ)は、転がり軸受によって静止部材(例えば支持軸)に対して回転自在に支持される。
【0003】
そのような転がり軸受においては、自動車が走行する際に、例えば雨水、泥水、粉塵などの異物が転がり軸受の内部に侵入するおそれがある。したがって、従来、転がり軸受は、例えば雨水、泥水、粉塵などの異物が転がり軸受の内部に侵入することを抑制する密封構造を有する場合がある。
【0004】
密封構造を有する転がり軸受として、特許文献1には、内輪と、外輪と、内輪と外輪との間に配置される複数の転動体と、内輪に固定されるスリンガと、外輪に固定されるシール部材とを備え、シール部材が、内輪に接触する第1リップと、スリンガに接触する第2リップとを有する転がり軸受が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したような密封構造を有する転がり軸受においては、例えば雨水、泥水、粉塵などの異物が転がり軸受の内部に侵入することを十分に抑制し得るが、密封性をさらに向上するための技術開発が試みられている。
【0007】
本発明は、例えば雨水、泥水、粉塵などの異物が転がり軸受の内部に侵入することを抑制するために、密封性をより向上させることができる転がり軸受の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る転がり軸受は、外周面に内輪軌道面を有する内輪と、内周面に外輪軌道面を有する外輪と、内輪軌道面と外輪軌道面との間に転動自在に配置される複数の転動体と、内輪軌道面よりも軸方向における外側において外周面に固定されるスリンガと、外輪軌道面よりも軸方向における外側において内周面に固定されるシール部材と、を備える。スリンガは、外周面に固定される第1円筒部と、軸方向における外側の第1円筒部の端部から径方向における外側に向かって延びる第1円環部と、第1円環部の外周縁から径方向における外側に向かって延びる平板状の第2円環部と、第2円環部の外周縁から軸方向における内側に向かって延びる第2円筒部と、を有し、第2円環部は、第1円環部よりも軸方向における内側に位置し、第1円筒部と第1円環部と第2円環部と第2円筒部とは、板状部材によって一体的に形成される。シール部材は、内周面に固定される第3円環部と、第3円環部の内周縁から軸方向における外側に向かって延びる第3円筒部と、軸方向における外側の第3円筒部の端部から径方向における内側に向かって延びる第4円環部と、第4円環部の内周縁に設けられる円環状の第1リップと、軸方向における外側の第4円環部の表面に設けられる円環状の第2リップと、を有し、第3円環部と第3円筒部と第4円環部とは、板状部材によって一体的に形成され、第4円環部は、第2円環部よりも軸方向における内側に位置する。第1リップは、内輪に接触し、第2リップは、軸方向における内側の第2円環部の表面に接触する。第2円筒部の外周面は、第3円筒部の外周面よりも径方向における外側に位置する。
【0009】
本発明に係る転がり軸受において、スリンガは、第1円筒部と第1円環部と第2円環部と第2円筒部とを有し、これらは、第2円環部が第1円環部よりも軸方向における内側に位置した状態で、板状部材によって一体的に形成される。これにより、スリンガを内輪の外周面に固定するために第1円筒部を内輪に例えば圧入する際の変形(例えば、スリンガの周縁部が軸方向における外側に開く変形)が抑制される。その結果、平板状の第2円環部の変形も抑制されるので、第2円環部が延びる方向が径方向に維持され、また、軸方向における内側の第2円環部の表面が平坦に保たれる。したがって、第2リップは、軸方向における内側の第2円環部の表面と確実にかつ安定して接触する。また、本発明に係る転がり軸受において、第2円筒部の外周面は、第3円筒部の外周面よりも径方向における外側に位置する。これにより、外輪の内周面と第2円筒部との間の空間、外輪の内周面と第3円筒部との間の空間、及び第2円筒部と第3円筒部との間の空間によってラビリンスが形成される。以上により、例えば雨水、泥水、粉塵などの異物が転がり軸受の内部に侵入することを抑制するために、密封性をより向上させることができる。
【0010】
本発明に係る転がり軸受において、内周面のうち第3円筒部と径方向において対向する面と、第3円筒部との間には、第1隙間があり、内周面のうち第2円筒部と径方向において対向する面と、第2円筒部との間には、第2隙間があり、径方向における第1隙間の幅は、径方向における第2隙間の幅よりも大きくてもよい。
【0011】
この場合、例えば雨水、泥水、粉塵などの異物は、外輪の内周面と第3円筒部との間にある第1隙間に溜まりやすくなる。そして、例えば、内輪が固定されて外輪が回転させられると、外輪の内周面と第3円筒部との間にある第1隙間に溜まった異物に遠心力が作用し、第2隙間から異物が外部に吐き出される。したがって、例えば雨水、泥水、粉塵などの異物が転がり軸受の内部に侵入することをさらに抑制することができる。
【0012】
本発明に係る転がり軸受において、内周面のうち第2円筒部と径方向において対向する面は、軸方向における外側に向かって広がるテーパ面であってもよい。
【0013】
この場合、内輪が固定されて外輪が回転させられると、異物に遠心力が作用する。そして、異物が外輪の内周面のうち第2円筒部と径方向において対向する面に到達すると、その面は軸方向における外側に向かって広がるテーパ面であるので、遠心力の分力として軸方向における外側に向かう力が発生し、この力が異物に作用する。その結果、異物が外部に吐き出されやすくなる。したがって、例えば雨水、泥水、粉塵などの異物が転がり軸受の内部に侵入することをさらに抑制することができる。
【0014】
本発明に係る転がり軸受において、シール部材は、軸方向における外側の第4円環部の表面に設けられる円環状の突出部をさらに有し、突出部は、第2リップと第2円環部の表面とが接触する位置よりも、径方向における外側に位置してもよい。
【0015】
この場合、第2円筒部と第3円筒部との間にある第3隙間が狭められるので、第1隙間に溜まった異物が、第3隙間を通過して転がり軸受の内部に侵入することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る転がり軸受によれば、例えば雨水、泥水、粉塵などの異物が転がり軸受の内部に侵入することを抑制するために、密封性をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【
図2】
図1に示される転がり軸受の一部の断面図である。
【
図3】他の実施形態に係る転がり軸受の一部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る転がり軸受の実施形態を添付の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されない。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められる。図面の説明において、同一の要素には同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0019】
図1に示されるように、転がり軸受1は、自動車のアイドラプーリ100を回転自在に支持する。転がり軸受1は、内輪2と、外輪3と、複数の転動体4と、一対のスリンガ5と、一対のシール部材6とを備える球軸受である。転がり軸受1は、回転部材であるアイドラプーリ100を、図示しない静止部材である支持軸に対して回転自在に支持する。
【0020】
なお、
図1において、矢印L1は、軸方向(支持軸が延びる方向)を表し、矢印L2は、径方向(アイドラプーリ100の半径が延びる方向)を表す。また、一点鎖線は、軸方向に垂直な平面であって、軸方向における転がり軸受1の寸法(転がり軸受1の厚み)を2等分する平面を表す。以下では、この平面を基準面とし、軸方向に沿って基準面に近い方を、軸方向における「内」と表現し、軸方向に沿って基準面から遠い方を、軸方向における「外」と表現する。また、径方向に沿って支持軸に近い方を、径方向における「内」と表現し、径方向に沿って支持軸から遠い方を、径方向における「外」と表現する。
【0021】
内輪2は、固定輪である。内輪2は、その内周面が支持軸の外周面に嵌合されることによって、支持軸に固定される。内輪2の外周面には、内輪軌道面21が設けられる。内輪軌道面21は、内輪2の外周面の周方向に延びる溝である。図示の例では、2つの内輪軌道面21が設けられるが、内輪軌道面21の数は、2つに限定されない。1つ又は3つ以上の内輪軌道面21が設けられてもよい。
【0022】
外輪3は、回転輪である。外輪3は、その外周面が回転部材であるアイドラプーリ100の内周面に嵌合されることによって、アイドラプーリ100に固定される。外輪3の内周面には、外輪軌道面31が設けられる。外輪軌道面31は、外輪3の内周面の周方向に延びる溝であり、内輪軌道面21と同じ数だけ設けられる。
【0023】
内輪軌道面21と外輪軌道面31との間には、複数の転動体4が転動自在に配置される。複数の転動体4は、内輪2と外輪3との間に配置される保持器7によって保持され、内輪軌道面21と外輪軌道面31との間に転動自在に配置される。
【0024】
各スリンガ5は、内輪軌道面21よりも軸方向における外側において、内輪2の外周面に固定される。具体的には、各スリンガ5は、
図1に示されるように、軸方向における内輪2の一方の端部22及び他方の端部22のそれぞれの外周面24a(
図2参照)に固定される。各シール部材6は、外輪軌道面31よりも軸方向における外側において、外輪3の内周面に固定される。具体的には、シール部材6は、
図1に示されるように、軸方向における外輪3の一方の端部32及び他方の端部32のそれぞれの内周面34a(
図2参照)に固定される。スリンガ5及びシール部材6は、例えば雨水、泥水、粉塵などの異物が転がり軸受の内部にある空間8に侵入することを抑制する密封構造を構成する。
【0025】
一対のスリンガ5は、固定される位置が異なるだけで、互いに同じものであり、一対のシール部材6も同様である。したがって、以下では、軸方向における内輪2の一方の端部22に固定されるスリンガ5及び軸方向における外輪3の一方の端部32に固定されるシール部材6について説明し、他方の端部22に固定されるスリンガ5及び他方の端部32に固定されるシール部材6については説明を省略する。
【0026】
図2に示されるように、軸方向における内輪2の一方の端部22には、内輪2の外径が縮小された小径部24が設けられる。内輪2の小径部24以外の部分(大径部25)の端部には、軸方向における外側に面した端面26が形成される。
【0027】
軸方向における外輪3の一方の端部32には、外輪3の内径が拡大された拡径部34が設けられる。外輪3の拡径部34以外の部分(縮径部35)の端部には、軸方向における外側に面した端面36が形成される。
【0028】
スリンガ5は、第1円筒部51と、第1円環部52と、第2円環部53と、第2円筒部54とを有する。第1円筒部51、第1円環部52、第2円環部53、及び第2円筒部54は、板状部材によって一体的に形成される。一例として、第1円筒部51、第1円環部52、第2円環部53、及び第2円筒部54は、金属製の板状部材のプレス加工によって一体的に形成される。スリンガ5は、第1円筒部51が内輪2の小径部24の外周面24aに嵌合されて固定されることによって、内輪2に固定される。第1円環部52は、第1円筒部51の2つの端部のうち、軸方向における外側の端部51aから、径方向における外側に向かって延びる。第2円環部53は、第1円環部52の外周縁52aから径方向における外側に向かって延びる。第2円筒部54は、第2円環部53の外周縁53aから軸方向における内側に向かって延びる。
【0029】
第2円環部53は、第1円環部52よりも軸方向における内側に位置する。第1円環部52と第2円環部53との間には、図示の例では、径方向における外側に向かうにつれて軸方向における内側に向けて連続的に遷移するように傾斜した傾斜円環部55が形成されるが、円環状の段差部が形成されてもよい。第2円環部53は、平板状であり、軸方向における内側の表面である内面53bと、軸方向における外側の表面である外面53cとを有する。
【0030】
シール部材6は、芯金61と、芯金61を部分的に覆うように一体形成される被覆部62とで構成される。芯金61は、第3円環部63と、第3円筒部64と、第4円環部65とを有する。第3円環部63、第3円筒部64、及び第4円環部65は、板状部材によって一体的に形成される。一例として、第3円環部63、第3円筒部64、及び第4円環部65は、金属製の板状部材のプレス加工によって一体的に形成される。被覆部62は、例えばエラストマーなどの弾性部材によって形成され、例えばインサート成形により芯金61と一体化される。
【0031】
シール部材6は、芯金61の第3円環部63が外輪3の拡径部34に固定されることによって、外輪3に固定される。図示の例では、第3円環部63が被覆部62によって覆われているので、第3円環部は、それを覆う被覆部62が拡径部34の内周面34aに嵌合されて固定されることによって、拡径部34に固定される。第3円筒部64は、第3円環部63の内周縁63aから軸方向における外側に向かって延びる。第4円環部65は、第3円筒部64の2つの端部のうち、軸方向における外側の端部64aから、径方向における内側に向かって延びる。ここで、第4円環部65は、スリンガ5の第2円環部53よりも軸方向における内側に位置する。
【0032】
第4円環部65の内周縁65aには、円環状の第1リップ66が設けられる。第1リップ66の先端部は、軸方向における内側に向かって突出し、内輪2の大径部25の端面26に接触する。
【0033】
第4円環部65の2つの表面のうち、軸方向における外側の表面である外面65bには、円環状の第2リップ67が設けられる。第2リップ67は、第4円環部65の外面65bから軸方向における外側かつ径方向における外側に向かって延びる。第2リップ67の先端部は、軸方向における外側に向かって突出し、スリンガ5の第2円環部53の内面53bに接触する。
【0034】
第4円環部65には、円環状の第3リップ68が設けられる。第3リップ68は、第1リップ66よりも径方向において外側に設けられる。第3リップ68の先端部は、軸方向における内側に向かって突出し、内輪2との間でラビリンスを形成する。
【0035】
第1リップ66、第2リップ67、及び第3リップ68は、いずれも、被覆部62を形成する弾性部材によって形成される。
【0036】
スリンガ5の第2円筒部54の外周面54aは、芯金61の第3円筒部64の外周面64bよりも径方向における外側に位置する。
【0037】
スリンガ5の第2円筒部54の外周面54a及び芯金61の第3円筒部64の外周面64bと、外輪3の拡径部34の内周面34aとは、径方向において対向する。内周面34aのうち第3円筒部64の外周面64bと径方向において対向する面と、第3円筒部64の外周面64bとの間には、第1隙間91がある。また、内周面34aのうち第2円筒部54の外周面54aと径方向において対向する面と、第2円筒部54の外周面54aとの間には、第2隙間92がある。径方向における第1隙間91の幅W1は、径方向における第2隙間92の幅W2よりも大きい。さらに、第2円筒部54と第3円筒部64との間には、第3隙間93がある。
【0038】
外輪3の拡径部34の内周面34aのうち、スリンガ5の第2円筒部54の外周面54aと径方向において対向する部分は、軸方向における外側に向かって広がるテーパ面34bとされる。
【0039】
以上説明したように、転がり軸受1においては、スリンガ5は、第1円筒部51と、第1円環部52と、第2円環部53と、第2円筒部54とを有する。そして、第1円筒部51、第1円環部52、第2円環部53、及び第2円筒部54は、第2円環部53が第1円環部52よりも軸方向における内側に位置する状態で、板状部材によって一体的に形成される。これにより、以下に説明するように、スリンガ5を内輪2に固定する際のスリンガ5の変形を抑制することができ、第2リップ67の先端部が第2円環部53の内面53bと確実にかつ安定して接触するようになる。
【0040】
スリンガ5は、第1円筒部51が内輪2の小径部24の外周面24aに嵌合されて固定されることによって、内輪2に固定される。第1円筒部51の外周面24aへの嵌合は、例えば第1円筒部51を小径部24に圧入することによって行われる。圧入の際、スリンガ5には、第1円筒部51を押し開く力、すなわち、第2円筒部54を軸方向における外側に移動させる力が作用するので、スリンガ5の周縁部が軸方向における外側に開く変形が生じる可能性がある。しかし、転がり軸受1においては、スリンガ5が上記の構造を有するので、そのような力が作用しても、第2円筒部54の軸方向における外側への移動が抑制され、したがって、スリンガ5の周縁部が軸方向における外側に開く変形が抑制される。その結果、平板状の第2円環部53の変形も抑制されるので、第2円環部53が延びる方向が径方向に維持され、また、第2円環部53の内面53bが平坦に保たれる。したがって、第2リップ67の先端部は、第2円環部53の内面53bと確実にかつ安定して接触する。
【0041】
また、転がり軸受1においては、第1隙間91、第2隙間92、及び第3隙間93によってラビリンスが形成されるので、例えば雨水、泥水、粉塵などの異物が外部から侵入しにくい。
【0042】
また、転がり軸受1においては、径方向における第1隙間91の幅W1は、径方向における第2隙間92の幅W2よりも大きい。そのため、例えば雨水、泥水、粉塵などの異物は、第2隙間92を通過したしたとしても、第1隙間91に溜まりやすい。そして、外輪3が回転させられると、第1隙間91に溜まった異物には遠心力が作用し、異物が外部に吐き出される。
【0043】
さらに、転がり軸受1においては、外輪3の拡径部34の内周面34aのうち、スリンガ5の第2円筒部54の外周面54aと径方向において対向する部分が軸方向における外側に向かって広がるテーパ面34bとされる。これにより、以下に説明するように、異物が外部に吐き出されやすくなる。
【0044】
外輪3が回転させられると、第1隙間91に侵入した例えば雨水、泥水、粉塵などの異物には遠心力が作用する。遠心力の作用によって、異物が第2隙間92に移動し、テーパ面34bに到達すると、遠心力の分力として軸方向における外側に向かう力が発生し、この力が異物に作用するので、異物が外部に吐き出されやすくなる。
【0045】
以上により、転がり軸受1は、例えば雨水、泥水、粉塵などの異物が転がり軸受1の内部に侵入することを抑制することができる。
【0046】
本発明に係る転がり軸受は、上述した転がり軸受1に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。そのような変形の一例を、他の実施形態として以下に説明する。
図3に示される転がり軸受1Aは、スリンガ5及びシール部材6において、上述した転がり軸受1と相違する。
【0047】
具体的には、転がり軸受1Aのスリンガ5は、径方向の寸法が縮小されている点で、上述した転がり軸受1のスリンガ5と異なる。すなわち、転がり軸受1Aにおいては、スリンガ5の第2円環部53の径方向の寸法が小さいので、スリンガ5の径方向の寸法も小さい。転がり軸受1Aにおいては、スリンガ5の径方向の寸法が小さいので、径方向における第2隙間92の幅W2が大きく確保される。これに加えて、転がり軸受1Aにおいては、スリンガ5の径方向の寸法が小さいので、第3隙間93が狭められる。
【0048】
また、転がり軸受1Aのシール部材6は、円環状の突出部69が設けられている点で、上述した転がり軸受1のシール部材6と相違する。転がり軸受1Aにおいては、シール部材6の第4円環部65の外面65bに、円環状の突出部69が設けられる。突出部69は、第2リップ67よりも径方向における外側に設けられる。突出部69は、第2リップ67の先端部と、スリンガ5の第2円環部53の内面53bとが接触する位置よりも、径方向における外側に設けられる。
【0049】
転がり軸受1Aにおいては、径方向における第2隙間92の幅W2が大きく確保されるので、以下に説明するように、例えば雨水、泥水、塵埃などの異物が外部に吐き出されやすい。
【0050】
すなわち、転がり軸受1Aにおいても、径方向における第1隙間91の幅W1は、径方向における第2隙間92の幅W2よりも大きい。そのため、例えば雨水、泥水、粉塵などの異物は、第2隙間92を通過したしたとしても、第1隙間91に溜まりやすい。そして、外輪3が回転させられると、第1隙間91に溜まった異物には遠心力が作用し、異物が外部に吐き出される。このとき、径方向における第2隙間92の幅W2が大きく確保されているので、異物が外部に吐き出されやすい。
【0051】
また、転がり軸受1Aにおいては、第3隙間93が狭められているので、第1隙間91に溜まった異物が、第3隙間93を通過して転がり軸受1Aの内部に侵入することを抑制することができる。
【0052】
また、転がり軸受1Aにおいては、シール部材6に円環状の突出部69が設けられているので、第3隙間93が狭められている。その結果、第1隙間91に溜まった異物が、第3隙間93を通過して転がり軸受1Aの内部に侵入することを抑制することができる。
【0053】
上述した転がり軸受1及び転がり軸受1Aにおいては、内輪2が固定輪、外輪3が回転輪とされているが、内輪2が回転輪、外輪3が固定輪でもよい。この場合、内輪2は、その内周面が例えば回転部材であるアイドラプーリ100の中心を貫通する回転軸の外周面に嵌合されることによって、アイドラプーリ100に固定され、外輪3は、その外周面が例えば静止部材に設けられた貫通孔の内周面に嵌合されることによって、静止部材に固定される。
【符号の説明】
【0054】
1,1A…転がり軸受、2…内輪、21…内輪軌道面、24a…外周面、3…外輪、31…外輪軌道面、34a…内周面、34b…テーパ面、4…転動体、5…スリンガ、51…第1円筒部、52…第1円環部、53…第2円環部、53b…内面、54…第2円筒部、6…シール部材、63…第3円環部、64…第3円筒部、65…第4円環部、65b…外面、66…第1リップ、67…第2リップ、7…保持器、91…第1隙間、92…第2隙間。